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消費生活サポーターを育成する

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消費生活サポーターを育成する
相談現場に役立つ情報
第
5
回
消費生活サポーターを育成する
~新潟県で「フォローアップ講座」を開催~
取材協力 ◦ 特定非営利活動(NPO)法人新潟県消費者協会
◦ 公益社団法人全国消費生活相談員協会
取材・文 ◦ 五十嵐 英人(ライター)
新潟県では、地域における消費者問題の取り組みとして、消費生活サポーター制度を推進してい
ます。現在、県内で164名が消費生活サポーター(以下、サポーター)に登録し、消費者を悪質商
法から守るための啓発講座や、苦情や相談への助言などの活動を行っています。同様の制度は各
地にありますが、人材の育成が大変で、サポーターになっても長く続かないことが多く、苦労し
ている地域もあるようです。新潟県では、そうした問題にどう対処しているのでしょうか。そこ
で2013年11月22日に開催された「消費生活サポーターフォローアップ講座」をリポートします。
の堀田伸吾さんが「最近の投資詐欺被害につい
最新情報を身に着け、ノウハウを培う
て」と題して講演を行い、手口が巧妙化してい
ることや被害の回復が難しいことを指摘して、
サポーターとして登録できるのは、NPO法人
新潟県消費者協会が県から委託を受けて行って
被害にあわないためには「自己防衛」と「見守
いるサポーター養成講座の修了者か、消費生活
り」が欠かせないと訴えました。
続いて、三重県消費生活センターが製作した
アドバイザーなどの資格を持つ人たちです。
養成講座は2004年から始まり、昨年度までに
DVD「みえてくる!悪質商法の手口~狙われる
7回行われ、多くのサポーターを送り出してき
*1が上映されました。催眠商法や点検
高齢者」
ました。しかし、消費者問題は年々複雑化して
商法など近年増加している悪質商法の手口とそ
いるため、サポーターとして登録してからも、
の対策をドラマ仕立てで分かりやすく解説して
常に最新の知識を身に着け、ノウハウを培ってい
います。
く必要があります。そこで新潟県消費者協会で
参加型の啓発講座で高齢者を引き込む
は、県からの委託を受けて毎年「フォローアッ
プ講座」を開催しています。
今年度はサポーター
しかし、最新の情報を知識として備えていれ
全員が参加する前期講座と、初心者と経験者に
ばサポーターとしての役目が果たせるわけでは
分けて行う後期講座が実施され、今回取材した
ありません。むしろ難しいのは、それを消費者
経験者向け後期講座では、会場の新潟ユニゾン
にどのように確実に伝えるかという実践的なノ
プラザに51名のサポーターが集まりました。
ウハウです。そこで、午後の部では、サポーター
近年、高齢者の消費者問題が深刻化していま
が啓発講座を行う場合の具体的な手法がテーマ
すが、新潟県も例外ではありません。
サポーター
となりました。
も高齢者を対象に活動することが多いのが実情
まず、消費生活専門相談員を務める公益社団
です。そのため、
今回の「フォローアップ講座」
法人全国消費生活相談員協会の中田秀子さんが、
も、高齢者をターゲットにした悪質商法がテー
「高齢者のための暮らしのご用心」と題した講
マになりました。
義を行いました。サポーターへ向けて実際の啓
ねら
午前中のカリキュラムは、高齢者を狙った悪
発講座を行いながら、講師としてのノウハウや
ポイントを解説する、
「実演講義」です。
質商法についての最新情報の学習です。弁護士
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相談現場に役立つ情報
これは国民生活センターの委託を受けた全国
方的に教えるのではなく、まず最初に数名(今
消費生活相談員協会が講師を派遣して行う「消
回は10名程度)が回答します。そして「時間が
費者問題出前講座」を利用しています*2。
ないので」のようなあいまいな答え方だと、
「で
クイズ、ロールプレーイング、替え歌の合唱
は、何時なら」と切り返されてしまうことを実
など、参加型の手法を多く取り入れている点が、
感してもらい、
その後で「必要ありません」「い
この講義の特徴でした。例えば、
「契約クイズ」
りません」とはっきり断る方法の練習へ移りま
では、次のような短い会話を例に、契約が成立
した。
したのは「いつ」かを受講者に問います。
替え歌でキーワードを印象づける
魚屋:安いよ、安いよ、サンマが1匹100円
啓発講座でたくさんの情報を伝えても、それ
だよ。
が記憶に残らないのでは意味がありません。
「受
お客:本当に、おいしそうね。この大きいの
講者に一番伝えたいことに目標を定めて、それ
2匹ちょうだい。
をキーワードにして印象づけることが大切」
(中
魚屋:あいよ。
田さん)です。そのために効果的なのが、最後に
お客:じゃあ200円。
(お金を渡す)
行う替え歌の合唱と「安心○カ条」の唱和です。
魚屋:まいど。
(サンマを渡す)
替え歌の歌詞は、その日の講座のキーワード
正解は「あいよ」のときで、
「売ります」と「買
を織り込んで作ります(写真2)
。今回紹介され
います」が一致したときに契約の成立となるこ
た「クーリング・オフの歌」
(よく知られた曲を
とを知ってもらいます。啓発講座でよく使われ
使います)では、
「はがきに書いて特定記録/8
るクイズで、普通は講師が会話を朗読します。
日以内に出しましょう」という言葉を入れ、普
しかし、この講義ではサンマと大きな100円玉
通郵便ではだめなこと、クーリング・オフの期
の絵を渡し、魚屋とお客の役をサポーターに演
間を印象づけました。また、頭に残りやすいの
技してもらう参加型にしました(写真1)
。受講
は、リフレインの部分です。この歌では、中田
4
4
4
者にいかにのって演技してもらうかが、講師の
さん自作による
「悪質商法ノーノーノーノー♪」
腕の見せどころです。会場が盛り上がると、難
のリフレインが紹介されました。ノリのいいリ
しい法律的な知識も身近に感じてもらうことが
フレインは、帰り道に自然と口をついて出てき
できます。
ます。
「安心○カ条」も、その日の講座に出てきた
また「断り方教室」では、正しい断り方を一
※悪質商法 ノーノーノーノー
悪質商法 ノーノーノーノー
今だけ ここだけ あなただけ
優しい言葉に誘われて
ついつい契約したけれど
しまった こまった どうしよう
写真1 まずは、参加型の「契約クイズ」
。
後ろに見える「AKB」は、高齢者の消費者トラブ
ルのきっかけとなる3つの不安「3K」
(お金・健康・
孤独)に対応して、講師が考案した若者向け3つの
不安「愛(A)
・お金(K)
・美容(B)
」です。
※くりかえし
いえいえ それなら 大丈夫
クーリング・オフがありますよ
はがきに書いて特定記録
8日以内に出しましょう
※くりかえし
写真2 講師は手話を交えて歌います。サポーターの歌声も
だんだんと大きくなり、会場に響きわたります。
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相談現場に役立つ情報
キーワードを盛り込んで、条文の数や内容を決
座を地域で開催するという想定です。新潟県消
めます。このように1回の啓発講座の中でキー
費者協会が県からの委託を受けて制作した『啓
ワードを何度も繰り返すことによって、より確
発講座の手引き』を参考に、テーマを決め、
「導
実に記憶に残すことができるわけです。
入(5分)⇒展開(20分)⇒まとめ(5分)
」と
中田さんは講義中、一度も台上には立たず、
いう流れで、プランを作ります(写真3)。実
受講者の間を行き来して会場全体を盛り上げま
演講義の成果が早速表れて、参加型を意識した
す。大切な事柄は、伝えるだけでなく「~だと
プランが目立ちました。
1つを紹介しましょう。
思いませんか?」
と問いかけをします。
「
“先生”
テーマ:訪問販売(点検商法)での断り方
になってしまってはいけないと思っています。
導 入:あいさつとメンバーの自己紹介
なるべく同じ目線で。また、後ろの席の方も参
展 開:①寸劇:
「無料点検いかが」という
加できるように心がけています」
。
業者に、ドアを開けてしまい、姑
「目を見て、はっきり、しっかり。聞いてい
さんがうまく断れない。
ここで、
る方のペースに合わせてくださいね」
(中田さ
ナレーターが受講者に「みなさ
ん)。受講者への心づかいもこの講義の重要な
んならどう断る?」と質問し、
ポイントです。
いくつか答えを出してもらい、
演習では参加型を意識した
プランが登場
それを参考にお嫁さんがはっき
り断り、業者を撃退する。
②手品
「フォローアップ講座」の最後に、グループ
③替え歌(断りソング)
に分かれて「啓発講座プランづくり」の演習が
まとめ:安心5カ条の唱和
行われました。高齢者30人を対象にした啓発講
寸劇を途中で止めて受講者に一緒に考えても
らう点がユニークです。また、展開②の手品を
ぜひ見たいというリクエストがあり、急きょ実
演してもらうことになりました。手品をしなが
ら、
「手品も悪いやつも、だますときには、見
られるとまずいところを見せないようにします
ね。他のところに注目させる。ここを見ろと言
写真3 啓発講座のプランをグループごとに作成します。
「体
操をする」
「寸劇、
ロールプレーイングを行う」
「ユー
モアを交える」など、工夫がみられます。
われたら、そうじゃないところを見たほうがい
いのです」というせりふが入ります。ちゃんと
啓発になっている手品に、拍手喝采でした(写
真4)
。
サポーターが参加して
テキストを作成中
演習のテキストとして使われた『啓発講座の
手引き』は、元新潟県消費生活センター消費生
活専門相談員の角谷ヒロ子さんを委員長に、4
名の消費生活サポーターが編集委員として、作
写真4 啓発を交えた手品に、大きな拍手が上がります。
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成に当たったものです。多くのサポーターの意
ランづくり」で実際にテキストとして使っても
見をすくいあげて、まとめていきました。
らったことを踏まえて、もう一度サポーターか
これは、自己紹介から最後のまとめまで、各
ら意見を出してもらい、見直し作業を行ってい
場面でのせりふの例や何種類もの寸劇のシナリ
ます。発行は2014年3月中旬の予定です。
オが掲載されている、内容豊富な資料集です。
このようにサポーターが積極的に参加し、少
「土地の方言や分かりやすい言葉を使う」
「1項目
しずつ作り上げていくことで、個々のサポーター
20分程度にして飽きさせない工夫をする」
「自
の意識を高め、ひいては人材育成につながって
分自身の失敗談など共感を呼ぶ事柄を挿入する」
いるようです。
など、まさに現場で培われた実践的なノウハウ
が集められています。
*1 http://www.pref.mie.lg.jp/movie/detail.asp?con=4610
ほぼ完成していますが、今回、
「啓発講座プ
*2 http://www.zenso.or.jp/kyouiku/demae.html
消費生活サポーターの声
「実演講義」や日頃のサポーター活動について、長年サポーターをされている
『啓発講座の手引き』編集委員の4名にお話を伺いました。
◦新潟市 奥山浅治さん
◦柏崎市 中村文子さん
中田先生のお話は非常に参考になりました。魚
屋さんとお客さんの契約クイズでは、会話を受
講者に言ってもらっていましたが、私たちの啓
発講座でも、このような参加型にしようと思い
ます。断り方についても、ただこうやってくだ
さいと言うのではなく、今日教えていただいた
ように、参加者に一緒に言ってもらうというこ
とを、実践してみようと思いました。今日は最
後にみんなで考えて発表するという機会があ
り、やはり聞くだけではなくて、自分たちが参
加して何かをやるというかたちだったのが、大
変よかったと感じます。
サポーターの仕事は結構難しいのですが、楽し
んでやることが大切だと思っています。中田先
生の講義も、午後の眠くなる時間なのに、あれ
だけ聞いている人を眠くさせないで楽しく講義
されていたことには、感嘆しました。こういう
ふうに人を引きつければいいんだなと、とても
勉強になりました。
また、日頃の啓発活動では、上から目線はだめ
だと感じています。ちょっとでも上から目線を
すると、受講者から拒否されてしまいます。相
手と同じ目線で接するということに一番気を
使っています。
し
ば
た
◦新発田市 大倉眞弓さん
◦長岡市 住川耕二郎さん
2005年から消費生活サポーターとして活動し
ています。初めの頃は上手とはいえませんでし
たが、だんだん慣れてきました。過疎地帯の村
部のお茶の間で、高齢者のお話を身近に聞くと
いう感じの活動が多いですね。高齢者には、お
話をしたくて、聞いてもらえることを楽しみに
待っていられる方がたくさんいらっしゃいま
す。サポーターの経験を重ねるうちに「高齢者
はすぐにだまされるから気をつけて」という教
え方は失礼ではないか、と思うようになりまし
た。高齢者に対して「こういう被害があるんだ
よ。だから、家族や若い人に教えてあげてね」
と説明するようなかたちに変えていければと
思っています。
「あぜりあネット」というグループを作って活
動しています。1人でやるよりもグループのほ
うが訴える力があるし、面白く理解してもらえ
ます。
高齢者に対しては、身近に起きている題材を取
り上げて「ひょっとすると自分も被害者になっ
ているのに気づいていないだけかもしれない
よ」という話し方で接していきます。そして、
自分にも起こる問題なんだということを理解し
てもらいます。私たちも、受講者にどうやって
講座に参加してもらえるかというところで苦労
しています。今日の講義のような手法であれば、
気構えなしに参加してもらえるのかな、と思い
ました。
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