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「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」 第1報

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「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」 第1報
腐食センターニュース No.064
2013年5月
〔講座〕
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」
第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
*
宮 坂 松 甫
This is the first of 5 parts of a lecture on corrosion and corrosion protection of seawater pumps. Seawater corrosion characteristics,
the mechanism of various types of seawater pump corrosion will be discussed, including an introduction of Ebara’s R&D on corrosion
resistant materials and corrosion engineering. Part 1 will feature basics of corrosion and seawater corrosion characteristics, Part 2 fluid
dynamic effects on seawater corrosion, Part 3 galvanic corrosion and cathodic protection, Part 4 a numerical corrosion analysis technology, and Part 5 corrosion and corrosion protection of stainless steel and Ni-Resist cast iron.
In the following Part 1, corrosion mechanism, seawater properties, and seawater corrosion characteristics are discussed. The relationship between seawater characteristics and seawater corrosion will be explained, in which it is pointed out that seawater is a neutral
aqueous solution which saturates dissolved oxygen, also that it includes a considerable amount of inorganic salt, mainly chlorides, and
is therefore highly conductive.
Keywords: Corrosion, Seawater, Pump, Chloride ion, Dissolved oxygen, Potential, Crevice corrosion, Pitting corrosion, Galvanic corrosion,
Cathodic protection
開発においては,常に過酷な環境を克服する材料側の挑
「腐食防食講座」の開始にあたって
戦が必要とされる。例えば,耐高温腐食材料・コーティン
「腐食(Corrosion)」は,金属がそれを取り囲む環境
グ技術の開発はエンジン・ガスタービン等の高効率化に寄
によって,電気化学的あるいは化学的に侵食される現象
与する。そもそも,金属材料は,金属の酸化状態にある
を指す。腐食は,装置・機器の寿命を縮めるだけでなく,
鉱石を多大なエネルギーを消費して還元することによっ
予期せぬ不具合・破壊とそれに伴う運転停止,爆発,有害
て得られ,腐食によって再び酸化状態に戻る。したがっ
物の飛散などにより甚大な経済的損失及び人的被害をも
て,適切な防食技術によって機器の寿命を延ばすことが
たらすことがある。1997 年の基礎データに基づく調査
1)
できれば,金属素材・製品の生産・製造におけるエネル
では,我が国の「腐食コスト」,つまり,腐食による直
ギー消費(CO2 排出)の削減と,近年高騰の激しい金属
接的な損失と腐食対策費を積算したコストは,年間 3.9 ∼
資源の節約につながる。
5.2 兆円に上り
(積算方式によって変わる)
,GDP(約 500 兆
荏原は長年ポンプを扱っており,1970 ・ 1980 年代の
円/1997 年)の約 1%に相当する膨大な額に達している。
火力・原子力発電,鉄鋼,化学など各種プラントの新設,
「防食技術」はとかく「守り」のイメージがついて回
中東地域での海水淡水化プラントの建設ラッシュ,また,
るが,元来,腐食を未然に防ぎリスク・コストを抑える
近年のオイル&ガス及び電力分野での投資拡大,水需要
「攻め」の技術である。また,今,人類的課題となって
の増加による海水淡水化設備の新設・増設などを受け
いるエネルギー・資源問題の解決にも大きな貢献を果た
て,数多くの海水ポンプを納入してきた。そして,海水
すことも特筆しておきたい。温暖化防止の鍵を握る装
ポンプの事前の防食対策や納入後のメンテナンスに関し
置・機器の省エネルギー化のため,新しい装置・機器の
て多くの経験を蓄積した。
海水は,各種プラントの冷却水(LNG 発電では LNG
*
の気化用熱源として),海水淡水化・製塩プラントの原
㈱荏原総合研究所
工学博士,腐食防食専門士(譖腐食防食協会認定)
料及び冷却水,油・ガス井におけるインジェクションシ
エバラ時報 No. 220(2008-7)
─ 28 ─
1
腐食センターニュース No.064
2013年5月
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
ステムなどに幅広く利用されており,各プロセスにおいて
ポンプを始め様々な機器が使用されている。海水ポンプ
の代表的な用途としては,各種プラントの海水取水ポンプ
(写真 1),海水淡水化プラントのブライン循環ポンプ
(写真 2)
・RO(Reverse Osmosis)高圧ポンプ
(写真 3),
油・ガス井で使用される海水インジェクションポンプなどが
ある。ポンプの他にも,架橋,港湾構造物,船舶,あるい
は水族館で使用される装置・機器など,海水に触れる機
器・構造物は多い。海水は,塩化物を中心とする無機塩
類を多量に含んでいる,このため導電率が高い,などの理
由から腐食性が高く,これを扱う機器・構造物の防食面で
の保守管理は重要な課題である。
08-70 01/220
写真 1 化学プラント用海水(冷却水)取水ポンプ
(2 相ステンレス鋼)
Photo 1 Cooling seawater pump for chemical plant
(duplex stainless steel)
荏原グループの研究開発の中核を担う㈱荏原総合研究
所においては,海水ポンプの腐食・防食に関して精力的
に研究開発を行い,腐食機構の解明,防食対策の立案,
耐食材料,防食技術の開発などによって海水ポンプの信
頼性向上に貢献してきた。
今号から 5 回の予定で「腐食防食講座 −海水ポンプ
の腐食と対策技術−」を連載し,海水腐食の特徴及び海
水腐食の事例・機構を解説すると共に,荏原で行った海
水腐食の研究及び耐食材料・防食技術の開発の主だった
ものを紹介する。
予定:
第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
第 2 報:海水腐食に及ぼす流れの影響
第 3 報:異種金属接触腐食とカソード防食
第 4 報:腐食防食解析技術
第 5 報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と
08-70 02/220
写真 2 多段フラッシュ海水淡水化プラント用ブライン循環ポンプ
(ニレジスト鋳鉄)
Photo 2 Brine recirculation pump for MSF (Multi-Stage Flash)
desalination plant (Ni-Resist cast iron)
対策技術
第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
1.は じ め に
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」の
初回である本稿では,腐食の基礎と海水腐食の特徴につ
いて述べる。まず,腐食の基礎について解説する。腐食
は,水溶液を電解質とする腐食(水溶液腐食。湿食とも
いう)と,水溶液の存在しないドライ環境における腐食
(高温腐食。乾食ともいう)に大別される。海水腐食は
むろん前者の範疇(ちゅう)であるため,ここでは水溶
液腐食の基礎を説明する。次に,海水及び海水腐食の特
08-70 03/220
写真 3 RO(逆浸透)海水淡水化プラント用高圧ポンプ
(2 相ステンレス鋼)
Photo 3 High-pressure pumps for RO (Reverse Osmosis)
desalination plant (duplex stainless steel)
徴について,海水ポンプに見られる各種腐食形態に触れ
ながら述べる。腐食形態ごとの機構,事例及び対策技術
については次号以降で詳しく述べる。
エバラ時報 No. 220(2008-7)
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2
腐食センターニュース No.064
2013年5月
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
り,以下のカソード反応によって水素ガスが発生する。
2.腐食の基礎
2H + + 2e− → H2 ……………………………………(4)
2-1 反応式
2-2 均一腐食と局部腐食
図 1 に示すように,溶存酸素を含む中性の水溶液中に,
金属表面で,アノード反応が起こっている箇所をアノー
金属が置かれた場合の腐食について考える。金属の腐食
ド,カソード反応が起こっている箇所をカソードと呼ぶ。
は,金属原子が結晶格子を離脱して金属イオンとして水中
海水中や,酸性水溶液中の鉄や銅合金の腐食などでは,
に移行する過程である。この溶解反応は一般には次の化
通常アノードとカソードは非常に微小で互いに混在して
学式で表され,アノード反応と呼ばれる。
おり,その位置も経時的に変化する。したがって腐食は
M→M
z+
+ ze
−
……………………………………(1)
ほぼ均一に進行する〔図 2(a)〕。ところが表面状態,
z+
ここで,M は金属原子,M は金属イオン,z は電荷
環境,材料などが均一でない場合にはアノードとカソー
−
の数,e は電子を表す。
ドが偏在し,特定の箇所(アノード)に腐食が集中する
金属 M が鉄の場合には,式(1)は次式のように表さ
ようになる〔図 2(b)〕。前者はミクロセル(セル=電
れる。
Fe → Fe
池)腐食と呼ばれ,腐食形態としては均一腐食(全面腐
2+
−
+ 2e ……………………………………(2)
食)が相当する。後者はマクロセル腐食と呼ばれ,局部
電子は溶液中の酸化剤によって受け取られる。この反
腐食の形態をとる。単一材料で起こるマクロセル腐食の
応をカソード反応と呼び,常にアノード反応と対になっ
形態としては通気差腐食(酸素濃淡電池腐食)がまず挙
て進行する。海水のような溶存酸素を含む中性水溶液中
げられる。流速差に起因する通気差腐食としては流速差
での酸化剤は溶液中に溶け込んだ酸素: O2(溶存酸素)
腐食 2 ∼ 4) がある。ステンレス鋼で問題となるすきま腐
であり,以下の反応によって還元されて水酸イオン OH −
食,孔食,応力腐食割れなどの局部腐食も,アノードと
が生成される。
カソードが明確に区別される意味でマクロセル腐食の範
1
── O2 + H2O + 2 e− → 2OH− ……………………
(3)
2
2+
疇に入れることができる。2 種類以上の異種金属が接触
して起こす異種金属接触腐食もマクロセル腐食の典型例
−
水溶液中に溶け出した Fe は OH と反応して,まず
である。
水酸化第一鉄 Fe(OH)2 になる。これは溶存酸素によっ
2-3 分極曲線と腐食速度
てすぐに酸化されて水酸化第二鉄 Fe(OH)3 になり,最
ここでは,中性水溶液中での腐食を例に,金属の腐食速
終的には FeOOH,Fe2O3 ・ nH2O のような形の錆(赤錆)
度がどう決まるかを,分極曲線の概念を導入して説明する。
となって鉄表面に堆(たい)積する。表面に堆積する錆
鉄の腐食におけるアノード及びカソード反応は,式
(腐食生成物)は,金属表面への溶存酸素の拡散の妨げ
(2)(鉄の溶解反応)及び(3)(溶存酸素の還元反応)
になり,その後の腐食の進行を抑制する働きをもつ。
となるが,両反応は対になって進行するので,両式の進
+
一方,酸性水溶液中では水素イオン H が酸化剤とな
行に伴う電流は必ず釣り合っていなければならない。そ
の釣り合いがどう決まるかを以下に説明する。
図 3 に,式(2)及び(3)の反応に伴う電流と電位の
Fe2++2OH− → Fe( OH)2 → Fe( OH)3 → FeOOH・H2O
↑ 1O 1
4 2,2 H2O
2e−
鉄
Fe
A:アノード
1 O2+H2O
2
(カソード反応)
Anode
A C A C A C A C A C
(Cathodic reaction)
C:カソード
Cathode
C C C C A C C C C
−
2OH
Fe2+
腐食部
Corroded part
(アノード反応)
腐食部
Corroded part
(Anodic reaction)
水溶液
錆(FeOOH・H2O)
Solution
Rust
注:上図は模式的表現であって,特定の位置がアノードとなって局部的に腐食
することは少なく,実際は,アノード・カソードの位置はミクロ的に分散し,
全体が均一に腐食する場合が多い。
(a)均一腐食(ミクロセル腐食)
(b)局部腐食(マクロセル腐食)
Uniform corrosion (Micro-cell corrosion)
Localized corrosion (Macro-cell corrosion)
図 2 均一腐食(ミクロセル腐食)と局部腐食(マクロセル腐食)
Fig. 2 Uniform corrosion (micro-cell corrosion) and localized
corrosion (macro-cell corrosion)
図 1 鉄の腐食機構を示す模式図
Fig. 1 Schematic drawing of Fe corrosion mechanism
エバラ時報 No. 220(2008-7)
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腐食センターニュース No.064
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「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
貴
Noble
↑
E0O
式(3)の反応が活発になり,カソード分極曲線が高電
実線:内部分極曲線
1
O2+H2O+2e−←2OH−
2
1
O2+H2O+2e−→2OH−
2
2
i 0c
Solid line:Internal polarization curve
流側へシフトする。したがって,アノード分極曲線との
破線:外部分極曲線
Dotted line:External polarization curve
E0O
2
交点は高電流側へ移り,腐食速度が増加する。
: O2の還元反応の平衡電位
Potential
電位 E
Equilibrium potential of oxygen
reduction reaction
Fe
ところで,図 3 に実線で描かれた分極曲線は,それぞれ
: Fe/Fe2+系の平衡電位
を区別して直接測定することはできない。しかし,対極を
Ecorr : 腐食電位(自然電位)
用いて外部から鉄の電極に対して電流を流し,その時の電
E0
Equilibrium potential of Fe/Fe2+
Corrosion potential
Ecorr
i corr : 腐食電流密度
位の変化を測定することはできる。これが図 3 に破線で示
Corrosion current density
Fe→Fe2++2e−
Fe
E0
↓
卑
Less
noble
i 0a, i 0c : 交換電流密度
す曲線であり,これらは実線で示す分極曲線が合成され
Exchange current density
Fe←Fe2++2e−
たものである。実線を内部分極曲線,破線を外部分極曲
i 0a
線と呼んで区別するが,通常実験で測定されるものは外
i corr
電流密度 log i
部分極曲線である。実際に海水中で測定された各種材料
Current density
の分極曲線(外部分極曲線)の事例を図 45)に示す。
図 3 中性水溶液中における鉄の腐食を示す分極図
Fig. 3 Polarization diagram showing Fe corrosion mechanism
in a neutral aqueous solution
海水中における実用金属材料の腐食電位は図 56)のよ
うにまとめられている(自然電位列と呼ばれている)。
材料によって,アノード分極曲線の種類が異なると同時
関係を示す。通常分極曲線は電流密度の絶対値の対数と
に,カソード反応である溶存酸素の還元反応速度も変わ
電位の関係として描かれる。両式において,ある電位で
るため,材料毎に腐食電位が異なるのである。この電位
は右側への反応と左側への反応の速度(電流量に相当)
列中で右側に位置するほど電位が卑,左側に位置するほ
が釣り合った状態にあり,この電位を平衡電位 E 0 と呼
ど電位が貴である。電位が異なる材料が導通して使用さ
ぶ。ここで,Fe/Fe
2+
Fe
の平衡電位を E 0 ,溶存酸素の還
れると,海水を介してマクロセルが形成され,卑側の材
O2
元反応の平衡電位を E 0 とする。式(2)の右側への反
料がアノードとなって腐食が助長され,貴側の材料はカ
応(アノード反応)が進む方向での電流(正の電流)が
ソードとなって腐食が抑制される。アノード側で助長さ
大きくなると電位は貴の方向に,逆に左側への反応(カ
れる腐食現象を異種金属接触腐食と呼ぶ。カソード側の
ソード反応)が進む方向での電流(負の電流)が大きくな
腐食抑制現象を利用した防食法がカソード防食である。
ると電位は卑の方向にずれる。このように電流の変化に
最後に,酸化還元反応における標準電極電位について
よって電位が平衡からずれることを分極と呼び,このと
説明しておく。物質 Ox(酸化体)の 1 モルが電子 n モル
きの電流密度と電位の関係を分極曲線と呼ぶ。そして,
と反応して,物質 Red(還元体)が 1 モル生成する反応
アノード反応を示すものをアノード分極曲線(図 3 で右
上がりの曲線 2 本)
,カソード反応を示すものをカソード
−0.1
分極曲線(図 3 で右下がりの曲線 2 本)という。
−0.2
溶存酸素の還元反応の平衡電位 E 0 は,Fe/Fe
2+
−0.3
の平
CAC406
−0.4
電位 V vs. SCE
衡電位 E 0Fe よりも貴であるため,式(2)及び式(3)の
反応が対となる鉄の腐食反応が起こり得るのである。こ
れらの反応が釣り合う電位と電流密度は両反応の分極曲
線の交点の座標値であり,それぞれを鉄の腐食電位 Ecorr
−0.5
Potential
O2
SS400
SUS304
−0.6
FC200
−0.7
−0.8
−0.9
(自然電位とも呼ぶ)及び腐食電流密度 i corr と呼ぶ。鉄
−1.0
の腐食速度は,icorr の値を用いファラデーの法則から計
−1.1
算することができる。
−1.2
10−2
カソード反応あるいはアノード反応の速度が増して分
10−1
100
101
102
電流密度 A/m2
Current density
極曲線がより高電流密度側にシフトすると,腐食電流密
度 icorr が増加し腐食速度が大きくなる。分極曲線は金属
図 4 各種材料の分極曲線(海水,25 ℃,溶存酸素飽和,
0.5 m/s,18 h 浸漬後測定)5)
Fig. 4 Polarization curves of various materials in seawater
with saturated dissolved oxygen at 25 ℃, 0.5 m/s,
measured after 18 h immersion
の種類によって異なり,環境条件によっても大きく変化
する。例えば,海水中における鉄の腐食の場合,流速が
上昇すると溶存酸素が鉄表面に拡散しやすくなるため
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腐食センターニュース No.064
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「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
表 1 各種反応の標準電極電位(25 ℃,V vs. SHE)7)
Table 1 Standard electrode potentials at 25 ℃
電位 (V vs. SCE)
Potential
SCE : Saturated Calomel Electrode
+0.2
0
−0.2
−0.4
−0.6
−0.8
−1.0
−1.2
−1.4
−1.6
マグネシウム
Magnesium
亜鉛
Zinc
ベリリウム
Beryllium
アルミニウム合金
合金
Aluminum alloys
カドミウム
Cadmium
軟鋼,
軟鋼 鋳鉄
Mild steel, Cast irom
低合金鋼
Low alloy steel
オーステナイ
トニッケル鋳鉄
鋳鉄
(ニレジスト鋳鉄)
鋳鉄
Austenitic nickel cast iron (Ni-Resist cast iron)
アルミニウム青銅
青銅
Aluminum bronze
ネーバル黄銅
ネーバル黄銅,
黄銅, 黄銅,
黄銅 丹銅
Naval brass, Yellow brass, Red brass
すず
Tin
銅
Copper
Pb・Snはんだ
Pb-Sn Solder (50/50)
アドミラリティ黄銅
黄銅, アルミニウム黄銅
黄銅
Admiralty brass, Aluminum brass
マンガン青銅
青銅
Manganese bronze
シリコン青銅
青銅
Silicon bronze
すず青銅
青銅
Tin bronze (G&M)
ステンレス鋼“Types 410, 416”
Stainless steel-Types 410, 416
洋銀
Nickel silver
90 Cu-10 Ni
90-10 Copper-Nickel
80 Cu-20 Ni
80-20 Copper-Nickel
ステンレス鋼“Types 430”
Stainless steel-Type 430
鉛
Lead
70 Cu-30 Ni
70-30 Copper-Nickel
ニッケル・アルミニウム青銅
青銅
Nickel-Aluminum bronze
Ni-Cr合金
合金“Alloy 600”
Nickel-Chromium alloy 600
銀ろう
Silver braze alloys
ニッケル
Nickel 200
銀
Silver
ステンレス鋼“Types 302, 304, 321, 347”
Stainless steel-Types 302, 304, 321, 347
Ni-Cr合金
合金“Alloy 400, K-500”
Nickel-Copper alloys 400, K-500
Pt2++ 2e− =Pt
O2+ 2H2O + 4e− =4OH−
Cu2+ 2e− =Cu
2H++ 2e− =H2
+ 1.2
+ 0.401
+ 0.34
+0
Ni2+ + 2e− =Ni
Fe2+ + 2e− =Fe
Zn2++ 2e− =Zn
Ai3+ + 3e− =Al
Ti2+ + 2e− =Ti
− 0.23
− 0.44
− 0.763
− 1.66
− 1.75
種反応の標準電極電位を示す。標準電極電位の序列は,
読者になじみの深いイオン化傾向を表すものであり,電
位が低いほどイオン化傾向が高いという。
Fe2++ 2e−= Fe の標準電極電位は− 0.44 V(水素電
極基準)であるので,平衡電位は式(7)で示すことが
できる
([Fe]
= 1)。
RT
E0 =− 0.44 +── ln[Fe2+]…………………………(7)
2F
ここで,表 1 の標準電極電位と図 5 に示す自然電位
(=腐食電位)とは序列が異なることに注意する必要が
ある。例えば Ti は,標準電極電位は Fe よりも大幅に低
いにもかかわらず,海水中の自然電位は Fe よりも高い
値になっている。Ti は本来イオン化傾向は高いものの,
ステンレス鋼“Types 316, 317”
Stainless steel-Types 316, 317
ステンレス鋼“Alloy 20”
Alloy "20" Stainless steels, cast and wrought
Ni-Fe-Cr合金
合金“Alloy 825”
Nickel-Iron-Chromium alloy 825
Ni-Cr-Mo-Cu-Si合金
Ni-Cr-Mo-Cu-Si
合金“Alloy B”
Ni-Cr-Mo-Cu-Si alloy B
チタン
Titanium
Ni-Cr-Mo合金
Ni-Cr-Mo
合金“Alloy C”
Ni-Cr-Mo alloy C
溶存酸素を含む中性溶液中では強固な不働態皮膜を表面
に形成してアノード反応を抑制し,自然電位を貴側へ大
きく移行させるからである。
白金
Platinum
黒鉛
Graphite
3.海水の性状
測定条件:流速2.4∼4.0 m/s,温度11∼27℃
:活性態の電位
海水の特徴として第一に挙げられるのは,塩化物,硫
Alloys are listed in the order of the potential they exhibit in flowing sea water.
Certain alloys indicated by the symbol :
in low-velocity or poorly aerated water,
and at shielded areas, may become active and exhibit a potential near −0.5 volts.
酸塩などの塩類を多量に含んでいることである。表 2 8)
は海水の主要成分を示す。アニオン成分では,Cl −濃度
図 5 海水中における電位列 6)
Fig. 5 Galvanic series in seawater
が約 19 000 ppm で最も高く,SO42−がそれに続く。カチ
オン成分としては Na+が最も多く,以下,Mg2+,Ca2+,
K+の順である。総塩類濃度の海域による差異は少なく,
が平衡にあるとすると〔式(5)
:慣例で,酸化体を左辺,
還元体を右辺に書く〕,
Ox + ne−= Red………………………………………
(5)
表 2 海水の分析例 8)
Table 2 Chemical constituents of seawater
式(5)の反応の平衡電位は式(6)
(ネルンストの式)
となる。
主なアニオン
Anion
RT
[Ox]
E0 = E 0 + ── ln ──……………………………(6)
nF
[Red]
ここで,R は気体定数,T は絶対温度,F はファラデー
濃度(ppm)
Concentration
塩化物
(Cl −)
18 980
2−
2 649
硫酸塩
(SO4 )
−
3
重炭酸塩
(HCO )
定数,
[Ox]及び[Red]
は Ox 及び Red のモル濃度
(mol/L)
である。E は,標準状態,つまり,[Ox]=[Red]= 1
臭化物
(Br−)
における電位であり,標準電極電位と呼ぶ。表 1 7)に各
フッ化物
(F−)
0
140
65
1.3
主なカチオン
Cation
ナトリウム
(Na+)
マグネシウム
(Mg2+)
2+
濃度
(ppm)
Concentration
10 556
1 272
カルシウム
(Ca )
400
カリウム
(K+)
380
ストロンチウム
(Sr2+)
13
エバラ時報 No. 220(2008-7)
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腐食センターニュース No.064
2013年5月
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
表 3 海水の導電率(Cl− 濃度= 1.9%の場合)8)
Table 3 Conductivity of seawater (Cl− =1.9%)
鉄鋼,
鋳鉄
Steel and cast iron
15
20
25
3.74
4.22
4.71
5.21
銅合金
腐食速度
導電率(S/m)
Conductivity1
10
約0.5 m/s
Corrosion rate
温度(℃)
Temperature
Copper alloy
エロージョン・
コロージョン
Erosioncorrosion
およそ 3.2 ∼ 3.6%の範囲に分布している。特殊な事例と
して,湾の入り口が狭く水深が浅いアラビア湾内では,
塩類濃度が極めて高く約 5%という分析事例もある。導
電率は溶け込んでいる塩類濃度の高さを反映して高い値
不働態金属
(ステンレス鋼,
チタン及びニッケル合金)
鉄鋼,
鋳鉄(淡水)
Steel and cast iron (in freshwater)
Passive metals (stainless steel, titanium and nickel alloy)
8)
を示す(表 3 )。pH はやや高く 8.1 ∼ 8.3 である。また,
0
海面近くでは通常空気を飽和しており,溶存酸素濃度は
流速
Flow velocity
温度に依存して 0 ∼ 30 ℃の間でおよそ 11 ∼ 5 ppm の値を
示す(温度が低いほど飽和濃度が高い)。温度は地域と
図 6 海水中における腐食の流速依存性(模式図)9)
Fig. 6 Schematic diagram of corrosion-rate dependency on
flow velocity in seawater
季節によって変化し,例えば,およそ,北海道(苫東)
で 1 ∼ 20 ℃,東京湾で 10 ∼ 25 ℃,沖縄(本島西)で 20 ∼
30 ℃のようである。中東(アラビア湾内)では水温が高
く,およそ 20 ∼ 35 ℃といわれているが 40 ℃前後の測定
での鉄の腐食の流速依存性に違いをもたらす。図 6 9)は,
例もある。
海水中における鉄鋼・鋳鉄,銅合金及び不働態金属類
(ステンレス鋼など)の腐食と流速の関係(実線)を定
4.海水腐食の特徴
性的に示している。
海水性状の特徴を整理すると以下のようであり,それ
鉄鋼・鋳鉄は海水中では流速の増加に伴って腐食速度が
ぞれの特徴は互いに作用しながら腐食に影響を及ぼす。
増す。これは前項で述べた,流速の増加による溶存酸素
(1)溶存酸素を含むほぼ中性の水溶液である。
の拡散促進作用によるものである。更に,一定の流速を
(2)塩化物など塩類を多量に含む。
超えると流れの機械的作用で腐食生成物が破壊され腐食
(3)導電率が高い。
が促進される。この現象はエロージョン・コロージョン
(4)その他(生物,塩素注入,海水汚染など)
と呼ばれる。一方,Cl −濃度の低い水溶液(淡水)中では
4-1 溶存酸素を含む中性水溶液中での腐食
全く異なる流速依存性を示し
(図 6,破線)
,流速約 0.5 m/s
海水は溶存酸素を含むほぼ中性の水溶液であり,溶存
以内では海水中と同様流速の増加に従って腐食が増す
酸素が腐食を促進する酸化剤として作用する〔式(3)〕。
が,それ以上の流速では逆に腐食が低減する 10)。Cl −濃
鉄の腐食速度は溶存酸素が表面に拡散・到達する速さに
度の低い水溶液中では,流速の増加によって,金属表面
支配される。流速ゼロの場合では,鉄の腐食速度はせい
への溶存酸素の供給が増し保護的な酸化膜を形成するた
ぜい 0.1 mm/y 程度であり淡水中と大きな違いはない。
めである。
また,中性水溶液中では,酸性水溶液中と違って腐食反
銅は表面に Cu2O,CuO などの腐食生成物を形成し,こ
応によって生じる生成物(皮膜・錆)が溶解せず安定で
れらが保護膜として作用する。これらの保護膜も海水中
あるので,鉄鋼・銅合金などを含め多くの金属が低流速
では比較的低い流速ではく離し,エロージョン・コロー
の海水中では実用的に使用可能である。中性水溶液は,
ジョンを起こす。淡水中では全体的に腐食速度は小さく
ステンレス鋼,チタン,ニッケル合金などの金属を不働
なるが,鉄鋼・鋳鉄のように高流速側で腐食が低減する
−
態状態に維持する環境であるが,多量の Cl が不働態皮
現象は無い。
また,Cl −はステンレス鋼などの不働態金属に様々な
膜を破壊し,様々な腐食問題を引き起こす。
4-2 塩化物イオン(Cl −)の役割
形態の局部腐食をもたらす。ステンレス鋼などの表面に
−
海水中に含まれる多量の Cl は,腐食生成物の保護性
できる皮膜は,腐食生成物と呼ぶにはふさわしくない非
及び安定性に影響を与え腐食挙動に大きな影響を及ぼ
常に保護性の高いものであり不働態皮膜と呼ばれてい
す。まず,腐食生成物の性状の差異は,海水中と淡水中
る。ステンレス鋼の不働態皮膜は厚さ数 nm 程度の薄い
エバラ時報 No. 220(2008-7)
─ 33 ─
6
腐食センターニュース No.064
2013年5月
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
電位:V vs.SCE
ものである 11)。不働態皮膜は高い流速にも耐え,均一腐
Potential
−1.0
食(全面腐食)は一般の海水用機器では問題とはならな
−0.8
−0.6
−0.2
0
すきま腐食助長
腐食助長
Acceleration of
crevice corrosion
Corrosion protection
Titanium
水素脆化の危険域
Risk of hydrogen absorption
ステンレス鋼と同様高い流速にもよく耐える。しかし,
ステンレス鋼
Stainless steel
(Type 316)
−
海水中では Cl によって不働態皮膜が破壊され,ステン
孔食
すきま腐食
腐食 助長
SCC
活性態 電位
活性態の電位
Potential of active stage
腐食抑制
Corrosion protection
銅合金
腐食抑制
Copper alloy
レス鋼及び一部のニッケル合金は孔食及びすきま腐食を
0.2
腐食抑制
チタン
い。チタン,ニッケル合金なども不働態皮膜を形成し,
−0.4
Corrosion protection
(Sn青銅)
Acceleration
Acceleration of
of pitting,
pitting
crevice
crevice corrosion
corrosion and
and SCC,
SCC
腐食増
Acceleration of general corrosion
(Sn bronze)
発生することがある。チタンは常温では耐食性は極めて
ニレジスト鋳鉄
高いが,高温の海水中ではすきま腐食を発生することが
Ni-Resist
cast iron
ある。また,ステンレス鋼は高温の海水中では応力腐食
鉄鋼・鋳鉄
Steel and
cast iron
割れを起こす危険性がある。
腐食抑制
Zinc
Acceleration of general corrosion and SCC
腐食抑制
腐食増
Corrosion
protection
Acceleration of general corrosion
腐食増
亜鉛
4-3 導電率の役割
腐食増 SCC助長
腐食増,
助長
Corrosion protection
Acceleration of general corrosion
自然電位
然電位
Corrosion potential
多量の無機塩類を含む海水は結果として導電率が高
い。アノードとカソードの距離が大きいマクロセル(異
図 8 各種材料の腐食挙動に及ぼす電位の影響
Fig. 8 Effects of potential on corrosion behavior
of various materials
種金属接触腐食,酸素濃淡電池腐食,電気防食などの電
池系)では,導電率が高いと腐食電池の回路抵抗(溶液
抵抗)が低下し,アノード側では腐食速度が大きくなり,
カソード側では防食効果が高まる。一方,均一腐食のよ
ppm で異種金属接触腐食,単独腐食共に減少するのは
うなミクロセルではアノードとカソードが混在し互いの
高塩濃度のため酸素の溶解量が減少するからである。
ポンプのような機器では複数の材料が同時に使われる
距離が近いので溶液の導電率は腐食速度に大きな影響を
ことが多いため,海水のような導電率の高い環境で使用
及ぼさない。
図7
12)
はその例で,静止水溶液中における鋳鉄(FC
する場合は,材料相互の電気化学的影響を常に考慮する
200)−ステンレス鋼(SUS 316)対の,鋳鉄の腐食に及
ことが必要である。各材料は海水中で固有の自然電位
ぼす NaCl 濃度(導電率)の影響を示している。NaCl 濃
(図 5)を示すが,図 8(文献 6 のデータを使用)のよう
度の増加(導電率の上昇)と共に鋳鉄の異種金属接触腐
に,一般に,アノード側で腐食が加速されカソード側で
食が増加している。一方,鋳鉄単独の腐食の場合はミク
腐食が抑制される(チタンのようにカソード分極すると
ロセル腐食であるため溶液抵抗の影響は小さく,NaCl
水素吸収を起こし脆化する場合もあるので注意が必要で
濃度(導電率)が増しても腐食速度はほとんど変わらな
ある)。複数の材料が同時に使用されると材料相互間に
い(ただし,流速が高い場合には図 6 のように Cl −濃度
電流が流れて電位が変化し,腐食の助長・抑制が起こる。
の影響が出てくるが)。図 7 において,NaCl 濃度 20 万
例えば,鋳鉄,ニレジスト鋳鉄及びステンレス鋼が同時
に使用されたポンプでは,鋳鉄は異種金属接触腐食を起
10
5
100
(mm)
φ15
Ambient temperature,
60 days, aeration
食割れなど)が抑制される。ニレジスト鋳鉄は 3 者の中
8
Corrosion rate of cast iron
鋳鉄(FC200)
の腐食速度 mm/y
こし,ステンレス鋼は腐食(孔食,すきま腐食,応力腐
室温,
60日間,
空気吹き込み
樹脂
Resin
では中間の自然電位をもつため,アノードになるかカソー
鋳鉄(FC200)ステンレス鋼(SUS316)
Cast iron
Stainless steel
ドになるかは,各部品の位置・面積比などに依存する。
6
アノード側に分極されれば腐食及び応力腐食割れが助長
4
2
異種金属接触腐食
され,カソード側であれば腐食が抑制される。このよう
Galvanic corrosion of cast iron,
coupled with stainless steel
に,導電率の高い海水中では,ポンプ自体を巨大な電池
と見なして腐食問題を考察すべきである。筆者らは,異
単独腐食
Corrosion of cast iron
insulated from other materials
種金属接触腐食,カソード防食などマクロな電池系の問
0
1
10
2
10
3
10
4
10
5
10
題を数値解析で解く技術を開発しており,これについて
6
10
は,第 4 報で詳しく述べる 13,14)。
NaCl濃度 mg/L
NaCl concentration
4-4 その他の影響(生物,塩素注入,汚染海水など)
図 7 異種金属接触腐食速度に及ぼす NaCl 濃度
(導電率)
の影響 12)
Fig. 7 Effects of NaCl concentration (conductivity)
on corrosion of cast iron
自然海水中では多種類の生物が棲息しており,これら
の存在は腐食に少なからぬ影響を与える 15,16)。ステンレ
エバラ時報 No. 220(2008-7)
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7
腐食センターニュース No.064
2013年5月
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴
ス鋼表面に微生物が付着すると自然電位が上昇する
(電位
5.あ と が き
が貴化するという)現象は良く知られている 17,18)。微
生物の存在は局部腐食臨界電位を下げる作用もあり 19),
「腐食防食講座 −海水ポンプの腐食と対策技術−」の
自然電位の貴化現象とあいまってステンレス鋼の局部腐食
連載の第 1 回目にあたり,水溶液腐食と海水腐食の基礎
を助長する。また,フジツボ,イガイなどが付着すると管の
について解説した。海水中では,中性水溶液中で起こる
閉塞などを引き起こし,また,ステンレス鋼に付着するとそ
腐食現象が典型的に現われ,海水機器・構造物に様々な
れらの直下ですきま腐食を誘発する。これら大型生物は,
障害をもたらす。海水腐食の特徴は,塩化物イオンを多
流速を約 1 m/s 以上に上げると付着しにくくなる 20)。
く含むこと,及び導電率が高いことが原因であることを
生物付着を防止するために,海水に塩素や次亜塩素酸
述べた。次号からは,海水中で起こる代表的な腐食現象
を注入することがある(0.1 ppm 程度の微量残留塩素の
に関し,発生機構,事例及び対策について詳しく解説し
存在で微生物の活動を抑制すると言われる
これらは強い酸化剤であり,銅合金
22)
21)
)。しかし,
や鉄鋼
23)
ていきたい。
の腐食
参考文献
を助長する。また,塩素注入はステンレス鋼の電位を貴
1) 腐食防食協会・日本防錆技術協会:腐食コスト調査委員会報
告書(2001. 5)
.
2) 宮坂松甫:エバラ時報,No.137,1(1987)
.
3) 岡本剛,永山政一:防食技術,37,633(1988)
.
4) 宮坂松甫,岸本喜久雄,青木 繁:材料と環境,40,401(1991)
.
5) 宮坂松甫:腐食防食協会第 35 回技術セミナー資料,p.13(2004)
.
6) F. L. LaQue : Marine Corrosion, John Wiley & Sons Inc,
p.179 (1975).
7) 田島栄:電気化学通論,共立出版株式会社,p.120(1969)
.
8) 日本学術振興会編:金属防食技術便覧,日刊工業新聞社,p.177
(1972)
.
9) 宮坂松甫:材料と環境,47,164(1998)
.
10)木下和夫,市川克弘,北嶋宣光:防食技術,32,31(1983)
.
11)松田史朗,原信義,杉本克久:腐食防食講演集,腐食防食協
会,p.25(1998)
.
12)宮坂松甫:腐食防食協会 第 68 回腐食防食シンポジウム資料,
p.10(1986)
.
13)宮坂松甫,高山博和,天谷賢治,青木繁:材料と環境,47,
156(1998).
14)青木繁,天谷賢治,宮坂松甫:境界要素法による腐食防食問
題の解析,裳華房(1998).
15)腐食防食協会第 100 回腐食防食シンポジウム資料(1994)
.
16)腐食防食協会第 114 回腐食防食シンポジウム資料(1994)
.
17)M. Akashi, Y. Imamura, T. Kawamoto, Y. Shimozaki :防食
技術,24,31(1975)
.
18)石原靖子,元田慎一,鈴木揚之助,辻川茂男:材料と環境,44,
355(1995).
19)明石正恒,鎌田久美子,中山元,福田敬則:腐食防食講演集,
腐食防食協会,p.453(1996)
.
20)岸川浩史,天谷尚,幸英昭:材料と環境
‘97 講演集,腐食防食
協会: p.371(1997).
21)R. Gundersen, B. Johansen, P. O. Gartland, L. Fiksdal, I. Vintermyr, R. Tunold, G. Hagen : Corrosion, 47, 800 (1991).
22)佐藤史郎:住友軽金属技報,4,48(1968)
.
23)中内博二,大山義一,大里一夫,栂野秀夫:防食技術,26,
629(1977).
24)佃俊雄,川辺允志:火力原子力発電,25,985(1974)
.
25)佐藤史郎:火力発電,21,295(1969)
.
26)重野隼太,海野武人:橋梁,12 月号,16(1973)
.
27)M. M. Kunjapur, W. H. Hartt, S. W. Smith : Corrosion, 43, 674
(1987).
28)S. L. Wolfson, W. H. Hartt : Corrosion, 37, 70 (1981).
側に移行させる効果と,微生物の殺菌によって微生物に
よるカソード反応速度の上昇を抑える効果があるので,
ステンレス鋼の局部腐食に対する功罪は一概には言えな
い(第 5 報で述べる)。
海水に生活排水などが流入して有機物が増加すると,
その分解のために溶存酸素が消費され,また,アンモニア
などの分解生成物が発生する。溶存酸素濃度が低下する
と硫酸塩還元細菌が繁殖し,硫酸イオンが還元されて硫
化物イオン(S2−)が生じる。汚染海水と清浄海水の区
別の目安は表 4 24)のように示されている。硫化物イオン
やアンモニウムイオンを含む汚染海水中では銅合金の腐
食が 10 ∼ 100 倍に増加する場合がある 24,25)。鉄鋼は銅合
金ほど汚染海水に敏感でないが,それでも 2 倍程度に腐
食が助長される 26)。
海水は Ca 及び Mg を多く含んでおり,カソード防食
などによって金属表面で還元反応が優先的に起こると,
OH −の蓄積によって pH が上昇し Ca 及び Mg の炭酸塩あ
るいは水酸化物のスケールが堆積する 27,28)。堆積した
スケールはカソード反応を抑制するので,カソード防食
においては犠牲陽極の消耗を減らし,防食範囲を広げる
効果がある。
表 4 清浄海水と汚染海水の区別の目安 24)
Table 4 Difference between clean and polluted seawater
pH
COD(mg/L)
溶存酸素(mg/L)
Dissolved oxygen
アンモニウムイオン
(mg/L)
NH4+
硫化物イオン(mg/L)
S2−
清浄海水
Clean seawater
汚染海水
Polluted seawater
7.5 ∼ 8.5
6.5 ∼ 7.5
<4
>4
> 4(通常 5 ∼ 7)
Ordinary
<4
< 0.05
>2
検出されず
Not detected
検出される場合有り
Occasionally detected
エバラ時報 No. 220(2008-7)
─ 35 ─
8
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
腐食センター(腐食防食学会)20 周年記念シンポジウムにあたり
腐食センターは 1993 年 1 月に発足し、2013 年設立 20 周年を迎えました。この記念すべき 20 周年に
あたり、シンポジウムを平成 24 年 12 月7日(金) 会場を山の上ホテルにて開催致しました。内容は、
設立からの腐食センターの歩みと、腐食センターに調査依頼のあった外部機関からの報告と共に、今後
の腐食センターの目指す道筋を中心に講演が行われました。シンポジウムには、講演者 7 名、招待者7
名をはじめ 84 名参加されました。参加者には腐食センターニュース(CD-ROM)が配布されました。シ
ンポジウムのあとに開催された交流会には、66 名が参加され大いに盛り上がりました。
プログラム
13:00-13:10 1.20周年にあたり
13:10-14:10 2.最近10年の歩み
遅沢センター長
辻川副委員長
14:20-16:50 3.講演
1) 高エネルギー加速器における水質管理の重要性と腐食にかかわる課題
高エネルギー加速器研究機構 大森 千広
2) 電子部品にみる腐食相談の潮流
腐食センター 石川雄一
3) 原子力分野から見た腐食センターの活用
日本原子力研究開発機構 山本正弘
4) JCCP/腐食センタ-のクウェ-トにおける事業概要と腐食センターへの期待
国際石油交流センター 原 浩昭
16:50-17:10 4.世界の腐食センターを目指して
腐食センター 山本勝美
17:30-19:00
技術交流会
シンポジウムの状況
技術交流会の状況
9
食センターニ
ニュース
腐食
N
No.064
20
013 年 5 月
電子
子部品用銅
銅材料の腐食
食挙動と防
防食技術
Ⅰ、銅の腐食変
変色、腐食
食皮膜形成の
の特徴と影
影響
尾崎敏範
範、石川雄一
一
本主題に関し、腐食
食センターニ
ニュースへ以
以下を継続投
投稿する予定
定である。今
今回は腐食性
性成分を含まな
を報告する。
い湿潤環境中における腐食挙動を
分による腐食
食機構と腐食
食形態、
Ⅱ、銅の腐食性成分
性環境中にお
おける腐食挙
挙動、
Ⅲ、銅の促進腐食性
っきなど表面
面被覆による
る防食法
Ⅳ、銅の貴金属めっ
1.はじめに
食挙動を紹介
介するにあた
たり、まず電
電子部
題記腐食
品用材料と一般機械構
構造部品用材
材料の違いを
を説明
者における大
大きな違いは
は、腐食寿命
命に関
する。両者
する認識の違いである。
寿命の延長に
には、
図 1-1 に示すように腐食損傷寿
合、a)耐食性
性材料の使用
用、あ
一般機械構造物の場合
増大、などが
が有効策にな
なる。
るいは b)部品肉厚の増
子部品の場合
合は必要機能
能が異なると共に、
一方、電子
卑金属の使用が避け
けられないば
ばかりか部品
品サイ
小なので腐食
食損傷発生あ
あるいは僅か
かに腐
ズが微小
食変色した時点で即N
NGである。
。腐食損傷寿
寿命を
電子部品にお
電
おける腐食損傷
傷防止策:
①耐食性材料の
①
の使用は、腐食
食寿命延長とな
ならない。
②腐食発生の潜
②
潜伏期間増大(
(部品構造変更
更)が効果的であ
ある。
延長させるには、腐食
食反応が発生
生するまでの
の潜伏
図 1-1
1
電子部品と大型機械
械構造物の腐
腐食寿命に関す
する違い
件の変更、部
部品構造の変
変更)
期間の増大(環境条件
が特に重要である 1)。
リント基板に実装する際
は
例であり、電子部品をプ
電
際に障害にな
なるはんだ濡
濡れ性に関し
し、
図 1-2 はその具体例
はんだ濡れ面積率と Cu 酸化膜厚
厚の関係であ
ある2)。
濡れ面積率とは切手大の
の銅板を実装
装条件を模擬
擬した溶融は
はんだ中(30
00 ℃、共晶
晶はんだ)に所
所
はんだ濡
定時間浸漬後、取り出
出し目視検査
査する。はん
んだ濡れ面積
積率が 95%以
以上(工業的
的合格レベル
ル)になるには
膜厚さを 8nm
m 以下にする必要がある
る。ちなみに
に、Sn および
び Ag におけ
ける濡れ発生限界酸化膜厚
厚
Cu 酸化膜
はそれぞれ 20nm および 120nm
m と測定され
れている〔両
両金属ははん
んだ浴への溶
溶解性に優れ臨界値が大〕
〕
2)。
伴うこの種の
の障害は、は
はんだ濡れの
の他にダイボ
ボンデイング
グ性、ワイヤボンデイング
銅酸化物の生成に伴
脂密着性、接
接触電気抵抗
抗などにおい
いてもほぼ同
同レベルで発
発生し、僅かな腐食変色が
性、被めっき性、樹脂
品信頼性を大
大きく失うこ
ことに注目す
すべきである
る。
プロセス作業性や製品
膜厚が 8nm と言う値は、後述するよ
ように Cu の腐食反応過
の
過程を考える限りあまりに
上記臨界値・酸化膜
々な加工プロ
ロセス工程で
で短時間に酸
酸化膜形成さ
されても不思
思議ではない
い。
も小さい値である。これでは様々
3)
物膜厚と色相
相に関し、図
図 1-3 を示す
す 。本図は
は大気中で生
生成した Cu 酸化物および
び
ここで、この酸化物
物の膜厚と色
色相の関係で
である。これ
れらの酸化物
物膜厚は 15~
~40nm と極
極薄いにも関わらず比較的
的
Ag 化合物
鮮明な色相を有し、そ
その色相は下
下地金属、酸
酸化物の色中
中心、膜干渉
渉色、紫外線
線劣化、時間変化などによ
膜厚判定が比
比較的困難で
で且つ個人差
差が出やすい
い特徴もある。
り様々に変化する。さらにその膜
10
食センターニ
ニュース No.064
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013 年 5 月
腐食
本問題がさらに厄介
介なのは、電
電子部品の場
場合、各製造
造工程は多く
くの専門会社
社で行う為、その都度、中
送し、その間
間の輸送や倉
倉庫保管中に
に腐食変色す
することも少
少なくない。各専門会社に
間部品を各会社に移送
担当者の厳し
しいチェック
クが待ってお
おり、僅かな
な変色(印象
象で判断、実
実質的障害はな
は中間部品の受入れ担
品を受入れて
てもらえない
いと言う操業
業・運営上の
の障害もあり、深刻な問題になってい
い
い?)であっても部品
る。
図 1--2 Cu 酸化物
物厚さとはん
んだ濡れ面積率の関係
はんだ
だ濡れ性を確保
保するには、Cu
u 酸化物厚さを
を 8nm 以下にす
する必要がある
る。
図 1-3 大気
気中で生成した
たCu酸化物
物およびAg化合物の膜厚
厚と色相
〔小泉達也、他:伸銅技
技術研究会誌
誌、15,211(11976)〕
11
食センターニ
ニュース No.064
N
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013 年 5 月
腐食
2.銅材料の基本的耐
耐食性(湿潤
潤環境下にお
おける腐食反
反応)
性について、
、図 2-1 に Cu
C および Ag
A の電位―p
pH 図を示す
す 4)。本図よ
より Cu の腐食
食
まず、一般的耐食性
g の場合と同
同様に直線(b)〔水素発
発生型反応〕上には位置
置せず、それ
れより高電位
位域に位置して
域は、Ag
いる。その結果、酸化
化剤(溶存酸
酸
いて、酸性お
お
素)を含む水中におい
ルカリ性で腐
腐食(溶解反
反
よびアル
応)、中性
性域においては不働態(酸
酸
化物皮膜形成)を生じることが読
読
み取れる。
ここで、上述したように Cu 材
食問題は極薄
薄い酸化物が
が
料の腐食
形成され
れることで重
重大な障害に
に
なる点を考慮すれば、
、不働態を示
示
であってもそ
その腐食性を
を
す環境で
無視する訳には行かな
ない。すなわ
わ
は
食
ち、電子部品用 Cu は特別な腐食
が存在しなく
くても単なる
る
性成分が
湿潤環境
境中で腐食損
損傷が生じる
る
図 2-1 Cu および Ag の pH-電位
位図中におけ
ける腐食域
ことを示唆している。
。
C および Ag
A における腐
腐食生成物の
の標準生成自
自由エネルギ
ギである 5)。Cu は酸化物
物
次に、図 2-2 は Cu
成自由エネル
ルギが硫化物
物(Cu2S,Cu
uS)に比べ際
際立って大き
きく、Ag はその逆の傾向
(Cu2O ,CuO)の生成
すなわち、C
Cu は強腐食
食性環境下で
でない限り酸
酸化物の生成が硫化物の生
生
を示している点が注目される。す
やすいことを
を意味してい
いる。
成を上回って発生しや
データであり
り、様々な汚
汚染腐食環境
境中に曝され
れた Cu に形
形成される腐食生成物であ
表 2-1 はその検証デ
6)
が低い場合(<
<100ppb)における腐食
に
食生成物は Cu
u2O 主体であ
あり、高濃度
度(>1000ppb
b)
る 。H2S ガス濃度が
に至って初めて Cu2S が生成する
ることが分か
かる。すなわ
わち、Cu は特
特殊な強腐食
食性環境でな
ない限り、C
Cu
酸化物の形成を主眼に検討することが実製品の腐食損傷問題を考える上で重要であることを意味して
の
を考える際の
の重要な特徴
徴である。
いる。この点が Cu の腐食損傷を
12
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
一方、Ag は Cu とは逆の傾向を示し、強腐食性環境下でなくても Ag 酸化物に比べ Ag 硫化物の形成
が優先されることに注意すべきである。
このように見ると、電子部品用 Cu 材料が腐食損傷を発生する環境条件は、従来の知見と合わせるこ
とで便宜上表 2-2 に示すように分類することが出来る 7)。すなわち、分類ⅰ)およびⅱ)より、水分・
湿度、ダストが存在すれば腐食変色が発生しやすく、強腐食性環境下でない限り Cu 酸化物の生成を中
心に腐食損傷を議論することが現実的である。
なお、各種腐食性成分を含む強腐食性環境下における腐食損傷、分類ⅲ)およびⅳ)は、次報で報告
する。
表 2-1 様々な汚染腐食環境中に曝された Cu に形成される腐食生成物
〔H.Abbott:Plating and Surface Finishing.11.72(1986),より抜粋〕
主要ガス成分
濃度(ppb)
腐食生成物
<100
Cu2O
>1000
Cu2S
<100
Cu2O
>1000
CuxSOz
NO2
<100
――
Cl2
<10
CuxClyOz
H2S
SO2
>30
H2S+SO2
H2S+NO2
H2S+SO2+NO2
<100
Cu2O
100―1000
Cu2S
<100
Cu2O
100―1000
Cu2S
<100
Cu2S
100―1000
表2-2
電子部品における腐食変色の4大環境条件
分類
腐食成分
内訳・具体例、
ⅰ
水分、
湿度
地下室の高湿度、コンクリートの余剰水、梱包内密封環境、
湿度の季節および室内外変動、
ⅱ
ダスト
SiO2、Al2O3:大気中塵埃、建屋大物搬入口からの塵埃侵入、
Ca(OH)2 、SiO2、Al2O3:建屋工事に伴うコンクリート粉、
MgO、TiO2、ZnO:壁のペイント、
有機物:人間持込み生体、皮膚、化粧品など、
ⅲ
腐食性成分
CN
:めっき建屋雰囲気、水洗不足による残留、
NOx、SO2:めっき建屋雰囲気、ディーゼル排気ガス,
HCl
:めっき建屋雰囲気、樹脂燃焼ガス、
アルカリミスト:めっき建屋雰囲気
NH3、アミン:尿素樹脂、接着剤、有機腐敗物、木箱、
:ダンボール、ゴム、潤滑油、有機腐敗物、温泉、
H 2S
Cl-、Cl2 :指紋・汗、半田フラックス、断熱材、殺虫剤、
有機酸
:ダンボール、ワニス、潤滑油、
:放電雰囲気、スモッグ、
O3
ⅳ
海塩粒子
海塩粒子量は海岸からの距離、地形、風向き、風速などに依存。
工場が海岸に近接して立地する場合には要注意。
13
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
3.電子部品用 Cu 部品の各種製造工程における腐食変色問題
以降では、電子部品用 Cu 線、Cu フープ材、Cu 半製品などの製造工程に経験される腐食変色問題を
述べる。
3.1, 光輝焼鈍に伴う腐食変色
Cu 中間部品加工業者より、
「フープ材毎に腐食変色しやすさが異なる。母材の化学組成が異なるので
はないか?」
、と指摘されたことがある。
そこでフープ材を取寄せ湿潤環境下で腐食試験を行った。その結果を表 3-1 上段に示す 8)。フープ加
工材AおよびBを 40℃、85%RH雰囲気中で 24hr 保持し、その変色状況を評価した。その結果、ロッ
トAはレベル①、Bはレベル③となり、両者の間には明確な違いが見られた。しかし、これらの材料に
おける油分付着量、化学組成、SEM による表面観察結果は、両者間に明確な違いが確認できなかった。
そこで、両材料の表面を軽くエメリ研磨した後、再度腐食試験を行った結果、両材料間に違いが全く
見られなくなったのである。すなわち、上記耐食性の違いは表面皮膜あるいは最外表面金属組織にある
のではないかと推測された。
これらの確認を目的にリン脱酸銅および無酸素銅を用い同様の腐食試験を行った。その結果を表 3-1、
下段に示す 8)。リン脱酸銅および無酸素銅の耐変色性は焼鈍なしの場合、共にレベル①で違いが見られ
ない。しかし、高温還元性雰囲気中において光輝焼鈍すると、レベル①と④に分かれる。さらにこの試
料表面をエメリー研磨すると、共にレベル③となる。
表 3-1 銅材料の耐変色性に及ぼす加工条件の影響
銅材料
表面状態
変色試験結果
備考
フープ加工材
(ロットA)
As received
レベル①、茶色
エメリー研磨
レベル③、青紫色
ⅰ)化学組成はロットA、B間に違いなし、
ⅱ)As received 材はロットAが優れる、
ⅲ)エメリー研磨すれば両者に差がない、
フープ加工材
(ロットB)
As received
レベル③、青紫色
エメリー研磨
レベル③、青紫色
リン脱酸銅
焼鈍なし
レベル①、茶色
表面に加工組織が形成され高耐食性を示す
光輝焼鈍
レベル①、茶色
再結晶組織が形成、表面にP濃化層が形成
光輝焼鈍後
エメリー研磨
レベル③、青紫色
エメリー研磨によりP濃化層が除去され、再結
晶組織が崩れ耐食性が回復する
焼鈍なし
レベル①、茶色
表面に加工金属組織が形成
光輝焼鈍
レベル④、黒紫色
再結晶組織が形成され耐食性が低下する、
光輝焼鈍後
エメリー研磨
レベル③、青紫色
再結晶組織が崩れ、耐食性が回復する、
リン脱酸銅の耐食性と同等になる、
無酸素銅
変色試験法:40℃、85%RH,24hr 試験
耐変色性:腐食酸化膜厚、レベル①(~10nm)>レベル② (~20nm)
>レベル③ (~30nm) >レベル④ (~40nm)
このような変化は上記問題を考える重要なヒントになり、次のように理解すべきである。すなわち、
焼鈍なし(圧延加工状態)では表面に加工金属組織(結晶方位がランダム配向)が存在して一定の耐変
色性を示す。しかし、光輝焼鈍することでリン脱酸銅の場合、表面に耐変色性に富んだP濃化層が形成
される(Auger 分析でわずかにP濃化層を確認)。また、表面に耐食性に劣る再結晶組織(100 面)が
形成され耐食性が低下する 9)。
これらの結果より、上記フープ材加工業者より寄せられた疑問に答えることが出来、少なくとも銅素
材が変色原因ではないと説明し了解を得た。なお、その後の検討では、純銅の場合、合金元素量に多少
14
食センターニ
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013 年 5 月
腐食
の違いがあっても(合
合金元素添加
加量<2wt%
%)耐変色性
性には殆ど影
影響されないことが確認された。素材
材
形態の方が重
重要であると
と認識される
る。
組成よりも表面皮膜形
色
3.2, 加工履歴に伴う腐食変色
間鍛造直後、
、イソプロピ
ピルアルコー
ール水溶液に
に浸漬するこ
ことで表面に付着した熱酸
酸
銅インゴットは熱間
が、酸化物が
が十分取りき
きれないこと
とが多い。ま
また、鍛造品
品や中間加工
工部品を湿潤な
化物を還元除去するが
で表面が強く
く腐食変色す
することもあ
ある。これら
らの変色した
た鍛造品をいきなり圧延加
加
倉庫に保管することで
表面仕上がり
りが悪くなる
るので、光輝
輝焼鈍により酸化物を除
除去し次工程
程に回すことが
工するとフープ材の表
材が変色した
たとして顧客
客から返品さ
されると、そ
その若返り策
策として光輝
輝焼鈍すること
多い。また、フープ材
もある。
履歴を有する
る素材を用い
いてして製作
作した光輝焼
焼鈍フープ材
材は、顧客よりその一部に
このように様々な履
があるとのク
クレームが付
付くことがあ
ある。この場
場合もクレー
ーム品は、3.1 節のケース
ス
変色しやすいロットが
、化学組成、
、表面状況に
にほとんど違
違いが見られ
れない。
と同様、油分付着量、
を答える目的
的で図 3-1
そこで、その疑問を
10)
験方法は、
に示す試験を行った 。腐食試験
銅酸化膜を有
有す試料を使
使用し、図
前もって銅
中に示す腐食試験を行
行った。その
の結果、光
する前段階に
における銅板
板の酸化膜
輝焼鈍す
厚が大きい試料は光輝
輝焼鈍後、変色しやす
変
す
生
生まれが悪
いことがわかった。すなわち、
ある。この原
原因を知る
いと育ちも悪いのであ
色相、高倍率
率 SEM 観 察および
目的で色
Auger 分析を行った
分
たが明確な違
違いは見出
せなかった。唯一原子
子間力顕微鏡
鏡観察によ
れが悪い試料
料は表面皮膜
膜粗さが僅
り、生まれ
かに粗いように(多孔
孔質)観察さ
された。
結果は図中に
に示すよう
以上より、本試験結
図 3-1 光輝
輝焼鈍した銅
銅板の腐食変色
色挙動
熱酸化膜や腐
腐食変色膜が
が付着した
に、厚い熱
銅板を再度光輝焼鈍す
すると表面に
に多孔質還元
元銅が厚く生
生成され、腐
腐食変色し易
易くなると推
推察される。同
面に多孔質還
還元銅を持つ
つ材料が腐食
食し易くなる
る原因は、お
おそらく水膜
膜が結露しやす
す
じ銅板であっても表面
向へ侵入容易
易になる為と
と推測される
る。
く水分子が膜深部方向
3.3, 不揮発性油の付着に伴う腐食変色
部品は、腐食
食変色を防ぐ
ぐ目的で不揮
揮発性油や防
防錆剤 BTA を塗布し保
保管される。イ
イ
一般に、多くの銅部
材への加工で
では、表面積
積が数千倍に
に増大するの
ので、工業レ
レベルでは油や防錆剤の塗
塗
ンゴットからフープ材
不十分となる
る場合が少な
なくない。
布作業とその管理が不
雨時の油塗布、ⅱ)防錆剤
剤の濃度管理
理不良である。前者は、フープ材表面
面
特に問題になるのは、ⅰ)梅雨
水膜が形成さ
された後、後者はアルコ
後
コール・水混合
合溶液に希釈
釈した BTA
A 液(不燃性)
)
に湿潤雰囲気からの水
その上に不揮
揮発油が塗布
布されるケー
ースである。
を塗布した後、共にそ
a)に示す場合
合は結露水上
上に不揮発油
油膜が存在す
するのでその
の後における水の蒸発が抑
抑
その結果、図 3-2a
腐食反応が長
長期間に亘り
り継続するこ
ことで腐食変
変色に発展し
しやすい(油
油焼けと呼ぶ
ぶ)11)。油が付
付
制され、腐
着していなければ雰囲
囲気次第では
は水分が容易
易に蒸発して
て変色問題に
に発展しない
い点を考えれ
れば、逆効果で
ある。
圧延工程の最
最終段階で湿
湿潤大気が入
入らないよう
う装置構成を
を改善する必
必要がある。
本障害を防ぐには圧
液
程においても同様であり、BTA 濃度管理が不十分
分であると(BTA 濃度<
<0.05%)、C
Cu
BTA 液の塗布工程
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腐食
素材上に水分が残り、
、同様な変色
色問題に発展
展することが
がある。
ケースも知ら
られている。この場合は
は油自身が黒
黒変色する現
現象であり、一部の不揮発
発
次に、図 3-2b)のケ
Cu イオン、酸素の4者
者が共存する
ると油の酸化
化劣化が加速
速され容易に変色すること
性油では油、水分、C
の事実は模擬
擬実験により
り明確に確認
認されている
る。何れにし
してもこの場
場合は下地 Cu
C
が知られており、この
はないので、
、油を拭き取
取るか脱脂処
処理すること
とで大事には
は到らない。
が腐食している訳では
a)下地金属
属の油焼け 変色
変
b)油
油自身の変色
色
図 3--2 不揮発性
性油を塗布した電子部品の
の腐食変色機
機構
変色
3.4, 粉塵の付着による腐食変
解くと重なり隙間内全面
面に多数の小
小斑点が見ら
られた。拡大
大観察すると
と、
倉庫保管していたフープ材を解
小な工場ダス
スト(SiO2、Al
、 2O3 など
どの非腐食性
性物)を中心
心にスポット状の腐食変色
色
これらはいずれも微小
である。
実験を行った
た。実験は非
非腐食性の微
微小球(ガラス
ス球、直径:3
3~300μm)
)
本現象を確認する目的で再現実
1 。
上に乗せ、4
40~95%RH
H 雰囲気に 24hr
2
放置した。その試験
験結果を図 3-3 に示す 12)
を Cu 板上
図 3-33 湿潤大気中
中において小
小球を乗せたCu 板の腐
腐食変色状況
保持時間 6hrで、既
既に粒子下の水膜周辺が腐
腐食変色して
ている。
食変色状況は
は保持時間 6hr
6 と言う短
短時間で既に
に付着粒子周辺がわずかに
湿潤大気中における Cu の腐食
で
腐食変色が確
確認できる。
腐食変色し、24hr では明確な腐
hov モデルと
として広く知
知られる水分
分の界面凝縮
縮として説明できる 13)。す
すなわち、C
Cu
本現象は、Tomash
16
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腐食
板上の微小な付着物が
がその隙間内
内で界面凝縮
縮を助長し、外気湿度が
が 100%に達
達しなくても付着物下およ
形成させ、腐
腐食変色を促
促進すること
とを示してい
いる。図 3-4 は、これらの関係のまと
びその周辺に水膜を形
気中において
ては付着粒子
子が大きい程
程(界面凝縮
縮が増大)腐食変色発生率
率
めである 14)。a)図より、湿潤大気
b)図より、そ
その傾向は雰
雰囲気湿度が
が高いほど微
微小粒子径に
において、発生しやすいこ
が増大することが、b
となどが明らかである。
、上述の微小
小な腐食変色
色はダストの
の付着が腐食
食変色発生原
原因であると
と理解される
る。
このように見ると、
Cu 材料表面
面には、不要なものを付着
着させないこ
ことが重要で
である。特に
に付着物が腐
腐食性物質(電
電
従って、C
解質、塩、藻類、汗、
、化粧品など)であれば
ばなおさらで
であろう。ま
また、製品の
の保管環境も
も重要である
る。
なように、湿
湿度環境が悪
悪ければ、腐
腐食変色発生
生の臨界粒子
子径が小さくなり、腐食損
損
図 3-4 から明らかな
増大すること
とを認識すべ
べきである。なお、ダス
スト付着に伴
伴う腐食変色
色問題は Cu 部
傷の発生する機会が増
延、焼鈍、スタンピング、
、めっき、樹
樹脂封止、実
実装、基板組み立て、移送
送、保管など
ど)
品の全加工工程(圧延
毎に的確な対
対応が求めら
られる。
に共通した課題であり、各工程毎
今回のケース
スにおいて得
得られる腐食
食変色防止策
策は、全ての
のダストを完
完全にシャットアウトする
なお、今
必要はなく、湿度条件
件さえ正常に
に管理できれ
れば図 3-4、a)図より明らかなように
に 30μm以上のダストが
置構成(換気
気フィルター
ーメッシュサ
サイズの選定
定)とするこ
ことが実用的対応と言えよ
混入しないような装置
う。
図 3-4 湿潤大
大気中におけ
ける付着粒子と腐食変色の
の関係
粒
粒子下におけ
ける Cu の腐食
食変色は粒子径
径、湿度条件
件に依存する。
食変色-1
3.5, 光輝焼鈍不良に伴う腐食
料の光輝焼鈍
鈍条件に関し
し、酸化変色
色の問題があ
ある。高温還
還元性雰囲気
気に保持されたフープ材が
Cu 材料
光輝焼鈍炉から十分冷
冷却されない
いまま大気中
中に出た際、大重量フー
ープ材が冷え
えるまでの比較的僅かな時
時
合がある。
間に酸化変色する場合
色と同様な色
色相を帯び、肉眼ではそ
その違いが殆
殆ど判別でき
きない。しか
かし、拡大観察
察
酸化変色は腐食変色
者の違いは一
一目瞭然であ
あり、酸化変
変色は結晶粒
粒界が浮き出
出る形態を(
(酸化反応の結晶方位依存
存
すれば両者
性の為)、腐食変色は微小食孔の生
生成とその周
周囲に腐食生
生成物の吹き
き出しが見ら
られるのが特
特徴である 155)。
で、温度と湿
湿度を様々に
に変化させた
た条件におけ
ける銅板の腐
腐食変色は、当
これらの発生原因を知る目的で
強く影響され
れる。40℃以
以下の場合は
は 80%RH 以上の高湿度
以
度雰囲気でのみ著しく変色
色
然温度および湿度に強
低湿度(20%RH)であ
あっても著し
しく変色する。これの発生原因は不明
する。一方、80℃以上であれば低
合、低湿度で
であっても絶
絶対湿度は高
高いため(雰
雰囲気中水分
分量が多い)、熱化学反応
応
であるが、高温の場合
が進むのでは
はないかと推
推測される。
が促進され酸化反応が
17
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013 年 5 月
腐食
何れにしても、本変
変色を防止す
するには、光
光輝輝焼鈍炉
炉出口側温度
度を十分冷す
すことが必要
要である。具体
体
で乾燥冷却空気を吹き付け
ける、b)炉長
長・冷却部を
を長くする、c)フープ材
材単位重量を小
小
的には a))炉出口側で
さくする、などの対策
策が必要とな
なる。これら
らはいずれも
も設備の増強
強や操業能率
率の低下に繋
繋がり現実的で
な課題である
る。
ない場合も少なくなく解決困難な
食変色-2
3.6, 光輝焼鈍不良に伴う腐食
焼鈍炉の出口温度を下げ
げる手法とし
して、フープ
プ材に大量の
の空気(湿潤
潤空気でよい
い)
上述の課題、光輝焼
却する手法が
が考案された
た。すなわち
ち、湿潤空気
気と接触することで腐食変色したとし
を吹き付け、急速冷却
短縮すれば良
良いではない
いか?との発
発想である。
てもその変色時間を短
16)
示す 。ここ
こでは、光
その確認試験結果を図 3-5 に示
出口側におけ
ける雰囲気条
条件と保持時
時間を模擬
輝焼鈍出
し、予備酸化処理条件
件が異なる Cu 板を準備
備した。そ
理銅板を 40
0℃、85%RH
H に数日間保
保持し腐食
の後、処理
変色膜厚さを測定した
た。
気中で 10~
~90 分間予備
備酸化処理
その結果、湿潤空気
色厚さが 50
0nm/5 日間試
試験、とな
した Cu は、腐食変色
った。一方、乾燥空気中で予備酸化処理した場合は、
m/5 日間試験
験、以下とな
なった。こ
腐食変色厚さが 20nm
違いは後者に
における予備
備酸化処理に
により安定
れらの違
な酸化膜が形成された
た為と推測さ
される。
の
挙動は素材表
表面状態や
このように、Cu の腐食変色挙
影響され、そ
その影響が
初期皮膜形態などにより敏感に影
れることが明
明らかであり
り、腐食変
以降の工程に反映され
複雑であることに驚かさ
される 17)。
色現象が複
予
理した銅板の腐
腐食変色挙動
動
何れにしても、光輝
輝焼鈍炉出口
口側における
る改善策は、 図 3-5 予備酸化処理
を吹き付ける
る策とし乾燥
燥空気の使
a)炉出側で冷却空気を
結論される。
。
用が不可欠であると結
乾燥空気中
中で予備酸化処理した銅表面に
には安定な酸化
化膜が形成
され、その
の後湿潤大気中に
において優れた
た耐変色性を示
示す。
3.7, 部品の乾燥工程における腐食変色
よび図 3-719))に Cu の腐食
食変
まず、図 3-618)およ
度の影響を示
示す。清浄表
表面
色に及ぼす温度、湿度
潤環境中に2 4hr 程度保
保持すること
とで
では湿潤
Cu 酸化膜
膜厚が 8nm(はんだ付け可能限界)
)に
達することが読み取れ
れる。また、
、指紋が付着
着す
能状態になる
る点
る場合は一瞬ではんだ濡れ不可能
。このように
に見ると、Cu
u材
に注目すべきである。
性薬剤や環境
境に遭遇しな
なく
料は、特別強い腐食性
時間に問題発
発生
ても日常的な環境中で比較的短時
することに驚
驚かされる。
レベルまで腐食変色す
図 3-6 Cuの腐食変色
色に及ぼす指
指紋付着の影響
響
〔伸銅協会編
編:伸銅品デ
データーブック
ク、p.127(19997)〕
清浄表面では
は湿潤環境に 244hr 保持することでCu酸化膜
膜厚 8nm に
達するが、指
指紋付着後では一
一瞬ではんだ濡
濡れ不可能状態
態になる。
18
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ニュース
腐食
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図 3-77 湿潤環境に
におけるCu
uの腐食挙動
〔伸銅
銅協会編:伸銅品データブ
ブック、p.12
26(1997)〕
湿潤環
環境中における
る腐食量は短期
期間にはんだ付
付け可能限界 Cu 酸化膜厚(<
<8nm)に達する。
の水洗・乾燥
燥工程におけ
ける腐食変色
色について図 3-8 を示す
す。本装置構成は水洗槽、
、
ここで、Cu 部品の
①水洗槽長さ
さ・温度が不
不十分、②空
空気取込みノ
ノズルが低位
位置(ダスト・
送風機、温風乾燥機よりなり、①
すい)、③循
循環式温風乾
乾燥機を採用
用(電気代が
が節約、乾燥
燥ボックス内湿度が下がり
汚染成分を吸込みやす
がある。その
の結果、本装
装置構成では
はリードフレ
レームダストが付着すると共に、十分
分
にくい)などの特徴が
水(~160℃
℃で表面離脱
脱)が付着し
したまま搬送
送され、腐食
食変色へと繋がる可能性が
乾燥されず表面吸着水
大きい。
図 3-88 リードフレームにおけ
ける乾燥工程
程と問題点
①水
水洗槽、②ノズ
ズル位置(ダス
スト・汚染成分
分の吸込み)および
③
③循環式温風乾
乾燥機、にそれ
れぞれ腐食変色
色の発生原因が
がある。
成で乾燥した
た半導体リー
ードフレーム
ムの表面状況
況である。本
本リードフレームでは単に
図 3-9 は本装置構成
表面に水縞模
模様(水分の
の蒸発乾固に
に伴い発生)が見られる
る。この水縞
縞模様は、付着
着
乾燥不良に留まらず表
塵、銅粉など
どを含み腐食
食変色原因と
となる。また
た、
水が蒸発乾固したものであるから、アルカリ成分、粉塵
位置がインナ
ナーリードや
やアウターリ
リードであれ
ればダイボン
ンデイング、ワイヤボン
ンデイング、は
水縞発生位
んだ接合などの重大な
な接続障害に
にもなり、水
水縞模様は完
完璧に防止し
しなければい
いけない。
19
食センターニ
ニュース No.064
N
20
013 年 5 月
腐食
20)
次に、上記乾燥装置
置の改善策を
を図 3-10 に示す
に
。本
本装置構成は
は、①水洗槽
槽の延長・強化(高温水洗
洗
減少)、②温
温風ノズル位
位置・方向の
の変更(付着
着水滴を吹き飛ばす、水縞模様の残留
留
で薬剤成分残留量を減
③一過式乾燥
燥機(乾燥空
空気の吹付け)、④吸気ノ
ノズル位置の
の変更(ダス
スト・汚染成分を吸込み防
防
なし)、③
止)、⑤フ
フィルター&
&除湿機の設
設置(乾燥空
空気の吸入)、などが特徴
徴である。本
本方式を用いれば、リード
フレームは清浄で且つ
つ完全乾燥状
状態で搬送さ
され、その後
後すばやく梱
梱包すれば保
保管中における腐食変色が
防止される。
a
a)ピン先の形
形態、
b)水
水縞模様の拡
拡大
図 3-9 乾燥不良リー
ードフレーム
ム表面上における水縞模様
様
図 3-10 リードフレーム
ムの乾燥工程
程とその対策
腐食対策には
は、①水洗槽の
の強化、②温風
風ノズル位置の
の変更、③一過
過式乾燥機、
④吸気ノズル
ル位置の変更、⑤フィルター
ー&除湿機の設
設置、が有効で
である。
防止
3.8, 防錆剤BTA処理による腐食変色防
料の防錆には
は気化性防錆
錆剤 BTA が広
広く使用され
れ絶大な効果
果を生んでい
いる。
Cu 材料
そこで BTA 処理の
の効果を確認
認する。図 3-11
3
は Cu 材料に対する
材
る BTA 剤処理
理の防錆効果
果である 21)。
度が 0.06 およ
よび 0.11%の
の処理材は、45℃、90%
%RH雰囲気
気において、5日間経過後も酸化膜厚
厚
BTA 濃度
は 5nm 程度を保持し
程
しており、無
無処理材に比
比べ格段の耐
耐久性を有している。
ただし、BTA 処理した Cu 表面
面は肉眼では
は確認されな
ないものの手
手で触って感
感じられる程
程度にすべすべ
べ
に覆われてお
おり、ダイボ
ボンデイング
グ(DB)やワ
ワイヤボンデ
デイング(W
WB)の重大な
した強固な表面皮膜に
用範囲は限定
定される。
障害となり、その適用
20
食センターニ
ニュース
腐食
N
No.064
20
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図 3-11 電子部品用
用 Cu 板に対す
する BTA 剤処
処理の防錆効果
おける腐食変
変色
3.9, 低温移送・倉庫保管にお
様々な工程毎
毎に半製品を
を専門会社に
に移送し継続
続作業してい
いる。この段階で腐食変色
色
多くの電子部品は様
般に部品は簡
簡易梱包され
れ季節に関係
係なく通常ト
トラック輸送
送する。
することがある。一般
2 に示す温度
度―湿度関係
係
その結果、図 3-12
に、梱包物内
内部の湿度条
条
から読み取れるように
する。すなわ
わち、トラッ
ッ
件は温度により変化す
温度は無調節
節なのでトラ
ラック出発時
時
ク積荷温
における梱
梱包内条件が
が 20℃、30%
%RH(図中、
A 地点)と理想的条件
件であったと
としても、雪
雪
包内温度が0
0℃まで下が
が
道を走る ことで梱包
RH(図中、B
B 地点)に達
達
ると梱包内は 100%R
食変色の発生
生が避けられ
れ
することになり、腐食
ない。
における腐食
食変色例を紹
紹
同様に、保管段階に
送した半製品
品
介する。図 3-13 はトラック搬送
倉庫にビニー
ールシートを
を掛けて保管
管
を顧客倉
21)
してもらった際の腐食
食変色問題で
である 。積
内、コンクリ
リート床面に
に
み上げていた製品の内
品に限り腐食
食変色したと
と言うのであ
あ
近い製品
図 3-12 気温、相対
対湿度および
び絶対湿度の関
関係
る。倉庫内
内温度は 25
5℃、70%RH
H であり、特
特
雰囲気温
温度が下がると
と高湿度になり
りやすい。たと
とえば、20℃、30%RH
の乾燥環
環境(A 地点)は、0℃に下が
がると 100%RH(B 地点)の
の腐食性
別な高湿度ではなく、
、梱包状態に
にも問題がな
な
環境に変
変わる。
い。
条件を詳細に
に測定すると
と、
ここで、倉庫温度条
度が室温より
り3℃低かっ
ったのである
る。図中に示
示すようにこ
この僅かな温
温度差が湿度を
コンクリート床面温度
か 90%RH
H まで上昇さ
させ変色を発
発生させたと
と説明される
る。
70%RH から
以上より、本事例に
における腐食
食変色防止策
策は、梱包内
内が高湿度に
にならないよ
よう温度・湿度条件を管理
理
には以下が好
好ましい。
することが必要である。具体的に
の梱包は乾燥
燥剤や防錆剤
剤を同封し、十分密閉する。好ましくは窒素ガス
ス封入する。
対策①:Cu 製品の
21
食センターニ
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013 年 5 月
腐食
対策②:Cu 製品の
の検査・梱包
包室はクリー
ーン・乾燥状
状態とする(
(<60%RH)。ただし、過度な低湿度
度
は梱包作業
業者の健康を
を害すること
ともある。
対策③:梱包後のめ
めっき部品は
は搬送・倉庫
庫保管で過度
度に冷やさな
ない。冬季トラックによる雪道搬送は
要注意であ
ある。
図 3-13
製品の倉庫保
保管に伴う湿
湿度条件の変化
化
コンクリート床上における
る温度は室温よ
より 3℃低く、この僅かな温
温度差が
重大な湿度変
変化をもたらす
す可能性がある
る。
材
変色防止策
4.電子部品用 Cu 材料の腐食変
、Cu 材料の
の腐食変色に
における材料
料および構造因子は、以下
下が関与して
ている。
以上述べたように、
表面形態・表
表面状態:
(ⅰ)Cu 材料の表
履歴、表面形
形態・状態お
および付着物
物、隙間の有
有無などを正
正確に把握す
すべきである
る。
素材の製造加工履
食変色に対し
し母材の化学
学組成依存性
性は小さい。
なお、Cu の腐食
面の温度・湿
湿度状態とそ
その変化:
(ⅱ)Cu 材料表面
材
温度―湿度条
条件を正確に
に把握するこ
ことに尽きる。梱包内部の温度履歴に
具体的には Cu 材料表面の温
ある。現実的
的対応として
ては、部品保
保管温度を部
部品梱包時点
点の温度より僅かに高めて
も注意が必要であ
である。一般
般に、雰囲気
気温度が高い
いと低温に比
比べ腐食反応
応速度が増大するので危険
険
おくことが有効で
、結露さえ回
回避できれば
ばほとんど変
変色が発生し
しない。
に感じられるが、
梱包手法および梱包前後
後の取り扱い
い:
(ⅲ)梱
梱包条件において
ても、基本的
的に上記と同
同様である。半製品の梱
梱包作業室湿
湿度が高く、梱包作業時点
点
に水分を持ち
ち込むことが
が変色原因と
となりやすい
い。梱包条件
件の設定には
は、梱包物内環
環
で梱包シート内に
継続して乾燥
燥状態を保つ
つべく、環境
境条件に細心
心の配慮が必
必要である。
境が継
(ⅳ)乾燥剤や防錆
錆剤の使用:
の
B
BTA
と言う特
特効薬があり、気化性で
である点も使
使い勝手が良
良い。しかし
し、強固な皮膜
膜
Cu の防錆には
を形成するので、
、電子部品の
の製作工程に
においては使
使用困難なケ
ケースも多い
い。
記知見をまと
とめて示す。ここでは、
注意を喚起す
注
する目的で正
正誤表スタイルを採った。
。
最後に表 4-1 に上記
正しいように
に思われるが
が、実は全て
て誤りであり
り、注意して
て参考にして
て頂きたい。
各項目は常識的には正
22
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
表4-1 電子部品用Cu材料の腐食変色に及ぼす影響(正誤表)
分類
質問点
正誤、コメント
材料
①Cuは貴金属なので腐食変色し難い、
Cuは変色が容易である
②Cuの腐食変色しやすさは化学組成で決定される、
最表面形態・性状が関与
③無酸素銅はリン脱酸銅に比べ変色し難い、
光輝焼鈍の場合、差が出る
④希薄銅合金(合金量<2%)は無酸素銅に比べ腐食変色しにくい、 両者に違いはない
環境
構造
⑤圧延加工した無酸素銅は焼鈍することで腐食変色しにくくなる、
焼鈍材の方が変色しやすい
⑥湿潤空気中で予備酸化したCuは腐食変色しにくくなる、
乾燥空気中で処理材が有効
⑦光輝焼鈍したCuは多孔質還元銅が生成し腐食変色し難くなる、
多孔質還元銅は変色を促進
①Cuは雰囲気湿度が100%にならない限り腐食変色しない、
<60%RHでも変色する
②Cuは低湿度である限り、80℃程度の高温でも変色しない
高温であれば酸化変色する
③高温では腐食反応速度が増すので製品の倉庫保管は低温が良い、
低温保管は結露変色する
④腐食変色事故は冬季より夏期に発生しやすい、
冬季に事故数が多い
①Cu表面に工場ダストが付着したが腐食変色には無関係である、
粉塵が変色を加速する
②Cu板の腐食変色は付着ダストのサイズに無関係である、
粉塵<30μmで変色せず
③25℃、30%RHで密封梱包したCu板は決して腐食変色しない、
0℃に冷せば変色する
④BTA処理したCu電子部品は腐食変色しないので万能である、
DB,WBが困難になる
⑤Cuフープ材に層間紙を挟むと結露原因になり腐食変色しやすい、
結露を防止し変色防止する
⑥Cu板に不揮発性油を塗布すると、水分があっても防錆効果がある、逆効果になることがある
5.おわりに
本稿では電子部品用 Cu 材料の腐食変色について、筆者らが経験した半導体リードフレームを中心と
した具体例を記述した。しかし、大型機械構造物には当てはまらない知見も多く、その適用には注意を
お願いしたい。また、電子部品には様々な機種、構造、使用環境条件などがあり、今回の知見が成立し
ないケースもあろうかと思われる。この点については記述内容を十分理解した後、参考にして頂きたい。
参考文献
1) 尾崎敏範、石川雄一:材料と環境、49.11,p.641 (2000).
2) 尾崎敏範、石川雄一:材料と環境、52,4,185 (2003).
3) 小泉達也、他:伸銅技術研究会誌、16,211, (1976).
4) M.Pourbaix:Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions , Pergamon Press ,p.308 (1966).
5) 電気化学会編:電気化学便覧、丸善、p.28, (2000).
6) H.Abbott:Plating and Surface Finishing.11.72 (1986).
7) 石川雄一、尾崎敏範:金属の腐食事例と各種防食対策、テクノシステム、177 (1993).
8) 小平宗男:私信 (2001).
9) 小平宗男、尾崎敏範:材料と環境 2000,p.177 (2000).
10) 尾崎敏範、小平宗男:材料と環 1999、p.143 (1999).
11) 小平宗男:私信 (1999).
12) 尾崎敏範、石川雄一:材料と環境 2001,p.345 (2001).
13) D.Tomashov: Theory of Corrosion and Protection of Metals , McMillan 388 (1966).
14) 小平宗男、尾崎敏範:銅と銅合金、41,163 (2002).
15) 小平宗男、尾崎敏範:伸銅技術研究会誌、38,287 (1999).
16) 小平宗男、尾崎敏範:第46回腐食防食討論会、p.303 (1999).
17) 配島雄樹、小岩一郎、他:表面技術、vol.59,No.12,p.154 (2008).
18) 小泉達也、古谷修一、他:伸銅技術研究会誌、p15,211 (1976).
19) 古谷修一:防食技術、38,485 (1989).
20) 尾崎敏範:失敗例に学ぶ電子部品のめっき技術、工業調査会、p.220 (2006).
21) 小平宗男:私信 (2000).
23
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
Q:海水環境での 304 ステンレス鋼の腐食
河川と海との境界に設置されたフラップゲートが約 30 年間経過して激しく腐食し貫通孔を生じるに至
った。この一因として、
イ) 微生物腐食の可能性を調べ、また、
ロ) 400~500m 上流にある下水処理場から流出した可能性のある塩素との関係資料を
提出してほしい。
ゲートは 有効幅 2.10m・有効高 2.30m、側板に 9mm・たて桁に 6 ㎜厚さの SUS304 鋼板を用いてい
る。なお、
ハ) 最近の水害時に止水のため、同じ 304 鋼板を使用したところ、ごく短期間で深さ
0.8mm 程度の孔あきを認めている。
A
イ) 微生物腐食の可能性
① 腐食した水門部材の写真
水門(フラップゲート)から切り出した腐食材の外観写真を図 1.(a:外面、b:断面)に示した。元板厚 9mm
に対応する板の両外面間の間隔は約 8.5 ㎜で、外面よりも断面の板中心部に著しく大きい腐食が見られ
ている(図 1.b、図 2)。断面のマクロ組織(図 2)において鋭敏化は認めないが、厚板特有の板厚中心部での
偏析組織が激しい侵食に係わったのかもしれない。
図 1.a
腐食材の写真(外面)
図 1.b
図 2 断面のマクロ組織
24
腐食材の写真(断面)
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
② 腐食材に検出された微生物
微生物の分析結果(表 1)によると、海水中では、好中性硫黄酸化細菌(N-SOB)が最も多く、好酸性硫黄酸
化細菌(A-SOB)も多いが、鉄酸化細菌(IOB)はほとんど検出されない。これは静岡県清水市折戸湾での測
定結果 1)(図 3)とよく似ている。
N-SOB と A-SOB が旺盛であったのは、これらの至適 pH が 2.0~3.5 程度 2) であるため、pH が脱不動態
化 pH3) ― pHd ― ( ≃ 2)以下まで低下して成長する局部腐食部を好んで繁殖したためであろう。知られ
てきた 304 鋼の微生物腐食は溶接部を起点として侵食が始まり、母材内部に進展していくのが一つの特
徴で、通常には稀な腐食形態であり、鉄酸化細菌の勢力も大きい。腐食材に溶接組織はなく、鉄酸化細
菌も旺盛とはいえないことから、腐食の主因に微生物はあたらない。
表 1 微生物の分析結果
微生物の種類
海水中(個/mL)
3
泥中(個/mg)
4.6×104
好中性硫黄酸化細菌 N-SOB
7.67×10
好酸性硫黄酸化細菌 A-SOB
8.3×102
1.9×105
<1
9.03
硫酸塩還元菌 SRB
1
9.7×103
鉄細菌
+
+
鉄酸化細菌
ロ) 塩素との関連について
水門は河川と海との境に設置されているため、海水中塩化
物イオン Cl- の存在下でのステンレス鋼の局部腐食を検討
するケースである。腐食材(図 1.a)に見るような海洋生物(貝
Monthly variation of bacteria detectecd on Type 316 steel in
など)が付着して起こるすきま腐食等の局部腐食の危険が、 natural sea water.
304 鋼では通常避けられないというのが一般の認識となっ
図 3 他の海域での微生物分析データ
ている。Q(ロ)の塩素は Cl- ではなく、Cl2 あるいは ClO- で
ある。可能性としてのこのような塩素あるいは海水レベルの濃度を超えての塩化物イオン Cl-を必要と
した局部腐食ではないことを以下に示す。
『腐食を生じていない状態での 304 鋼の自然電位ESP の
「ステンレス鋼の可使用条件」3)4)に基づけば、
とり得る最も貴な電位と、環境中 Cl 濃度におけるすきまの再不動態化電位ER、CREV との関係がER、CREV
<ESP であれば、すきま腐食が起こる可能性がある』ためである。ここでは、既に確立されている海水
中におけるER、CREV およびESP の値を利用して海水中での 304 鋼の可使用条件を検討する。
海水の Cl-濃度は、3%NaCl として考える。
ステンレス鋼が海水中でとるESP5)は、微生物の影響がないとき、図 4
中の①に従い 6)、
ESP = 0.733-0.059pH (V vs SHE)
に pH8.1 を入れて
ESP = 0.255 V vs SHE = 0.014 V vs SCE … (1)
電極電位(V vs SCE)
0.5
ESP (2)
VC.PIT
ESP (1)
微生物の影響下に自然海水中では、図 45) 中の「・」に従い、
ESP = 0.4 V vs SCE
… (2)
まで貴化する。
0
ER、CREV
25
-0.5
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
6)
ER、CREV などの臨界電位と Cl 濃度との関係は、図 5 (a) の 304 鋼に関するデータから知ることができる。
図中には上述の海水中でのESP の値(1)、(2)を 2 本の赤い水平点
線でそれぞれ示してある。海水の Cl-濃度は赤い垂直点線で示
している。これらが交差する 2 点と、検討する臨界値との大
小関係から腐食の生起の可否が決まる。
図 5(a) 6)中の ref.5 および ref.7 のER、CREV よりも交差する 2
点のESP は大きいため、海水中での 304 鋼はすきま腐食を避け
られない(ER、CREV<ESP)。微生物の影響のないESP (1)にいた
る電位の貴化により、ステンレス鋼の海水中でのすきま腐食
は引き起こされる。実海水中では構造上のあるいは海洋生物
等何らかの付着物によるすきまの形成は避けられないためで
ある。
図 4 海水中でのステンレス鋼のESP
図
図55
26
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
ふじつぼが付着した 316 鋼のER、CREV は-0.2~-0.3V vs SCE8)であり、304 鋼のそれはもっと低い値とな
る。このため、海水中では 304 鋼は腐食しておかしくないわけで、304 鋼を海水環境で使用する場合の
通常の認識と合っている。
ロ)に述べたように、304 鋼が海水環境ですきま腐食をおこしうることはいわば一般的認識である。すき
ま腐食の速度は数㎜~数十㎜/y である。これは、図 5(b) 6)の赤い両矢印で示す内壁溶解速度に相当する。
電位貴化に関与する微生物の働きでフラップゲートの電位が貴化すればさらに大きな速度になりうる。
また水門のように大型構造物で海水という導電率の高い環境では小型構造物より加速効果が大きいこ
とも事実である。
水門そのものではないが、1999 年頃 0.8mm 厚の止水用 304 鋼板が同じ環境で短期に孔あきをおこした
例(ハ)があるが、上述のような大きな侵食速度に矛盾しない。
以上のイ)~ハ)からすると、フラップゲートの腐食はすきま腐食であって、微生物により加速されてい
るという可能性が高い。
引用文献
1) 石原靖子、辻川茂男:材料と環境、48、520~527 (1999)
2) 腐食防食協会編:“腐食防食ハンドブック”、丸善、p.80 (2000)
3) 腐食センターニュース No.015 p.2
4) 腐食センターニュース No.060 p.22
5) 石原靖子、ほか:材料と環境、44、355~363 (1995)
6) 中山 元、ほか:腐食防食’93 講演集、p.415 (1993)
7) 辻川茂男、ほか:防食技術、33、454~461 (1984)
8) 腐食防食協会編:“腐食防食ハンドブック”、丸善、p.29 (2000)
27
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
亜硝酸ナトリウム―水溶液腐食抑制剤としての特性†
†
出典
A.Wachter : Sodium Nitrite as Corrosion Inhibitor for Water , Indstr. engng. chem.,
37, 749-751 (1945)
概
要
NaNO2 は水溶液用の優れた抑制剤で、多くの条件下で鋼の腐食をよく抑制できる。抑制に必要な
NO2-濃度は、環境の腐食性、pH と水質によって変る。NaNO2 は NaCl 水溶液および水溶性アル
コール水溶液中での鋼の腐食抑制に有効であり、それはさび層に覆われた鋼にも適用できる。多
くの鉄系・非鉄系汎用金属の腐食を抑制でき、抑制できない場合にも逆作用をもたらすことがな
い。
NaNO2 は高効率な腐食抑制剤で水と酸素による鋼の腐食を防ぐことができる。その抑制機構はま
だ確実には知られていないが、酸化剤としてかなり薄い密着性酸化鉄(Ⅲ)皮膜をアノード領域に
形成し、亜硫酸塩(NaSO3)のように酸素を還元除去することはない(3)。この抑制剤は多くの
特許で引用されているが、科学的文献での議論は驚くほど少ない。初期の文献(3)はこの NaNO2
のガソリンおよび他の石油製品用パイプライン中での水腐食の抑制特性をのべた。この用途(1、2)
は非凡な効果を明らかにしたもので、現在米国の全ガソリンライン総延長の 32 % 以上に採用され
ている。NaNO2 は粘液系被覆剤の成分として(4)、ガソリンラインを含む鋼ドラム中の湿分によ
る腐食防止に役立っている。同様の他の用途にも有効と想われるので、一般的関心をもたれそうな
データを以下に示すことにしたい。
NaCl 水溶液中での腐食抑制
NaCl は一般的な腐食性成分としてよいだろう。少なからぬ実験が腐食抑制挙動の調査に使われて
きたのは鋼については NaCl 水溶液中での NaNO2 においてである(3)。Figure 1 は低 Cl-濃度で
の典型的結果である。これらの条件下に完全抑制に必要な NO2-濃度は特に低く;蒸留水では
0.005 %で、 NaCl 水溶液中では 0.03 % で、そしてガソリンパイプラインからの試水では 0.06 %
で、十分である。
Figure 2 に示すのは、10 % までの NaCl 水溶液を含む溶液による鋼の抑制に必要な NaNO2 の濃
度である。これらの条件下に NO2-無添加の NaCl 水溶液中の腐食速度は、実験上の不確定性の範
囲と同程度で、平均 6.7mils*/year(0.17 mm /y)である。H+濃度は制御していなかったが、実験
前後の pH 値は測定していた。NO2--Cl-溶液の初期 pH は 6.2~7.2 にあり、通例 7 よりやや低
かった。到達 pH は、十分な腐食抑制ができなかった NO2-濃度では 9~11 まで上がったが、腐食
抑制ができたときは 7 を上回る程度であった。これらの実験では腐食速度が 0.1 mils/year 以下の
とき腐食はおきなかったと判定した;試験片には光沢が残り溶液は透明であった。
28
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
NaNO2 の必要量は NaCl 濃度の増大とともに著しく増大した。たとえば、蒸留水と 0.5%NaCl 溶
液に対して、それぞれ 0.005 % と 0.2 %の NaNO2 で十分であったものが、3 %NaCl 中での発錆を
防ぐのに少なくとも 4 % の NaNO2 が必要になった。
* 1 mils = 25.4μm
NO CORROSION
GASOLINE
PIPELINE WATER
CORROSION
0.05 % NaCl
DISTILED
WATER
Concentration of NaNO2 , % by weight
Figure 1
Concentration of NaCl, % by weight
Figure 2
鋼腐食への NaNO2濃度の影響
(蒸留水、0.005 % NaCl、およびガソリンパイプライン水)
NaCl による鋼腐食を防ぐのに
必要な NaNO2 濃度
Figure 1 と 2 との条件:サンドブラストした低炭素鋼片、3/8×51/2 インチ、を 120 ml のびんに容れた。内容液は 20 ml NaNO2
+NaCl 水溶液、70 ml ガソリンと 30 ml の空気相。びんは軸中心に 60r.p.m の速度で回転、14 日間、室温(~25 ℃ )。空気
相へ新鮮空気を 2 日に 1 回導入した。
pH の影響
2
いくつかの機会を経て NaNO2 は酸性水では
腐食抑制に働かないことが判ってきた。たと
えば、0.06 % NaNO2 が特定のガソリンパイ
1
プライン水で有効になるのに低くとも 6 とい
う pH 条件が必要なことがわかった(3)。
Figure 3 が与えるのは、低濃度の緩衝性混合
液からえた、pH を異にする一連の NO2-水溶
0
液中での実験結果である。NO2-を含まない緩
INITIAL pH OF SOLUTIONS
衝液は試験条件にごく低い腐食性を示すのみ
Figure 3
で、pH7 の水中で腐食速度は 1.3 mils/year
NaNO2 による抑制効果における pH の影響
条件:研磨した低炭素鋼片、3/4×3 インチ、を 120 ml のびん
に容れた。びん内容物は 50 ml 水溶液、20 ml ガソリンと 50
ml 空気相。50 ml 水溶液には 0.02 %の緩衝性混合物(H3PO4、
H2BO3、CH3・COOH、NaOH)を含む。びんは軸周りに 6 0 r .p.m.
で回転させ、これは 16 日間、室温で持続させた。新鮮空気は 2
日に 1 回空気相に導入した。
である。NO2-が不十分なとき 6~10 の範囲で
の pH の影響は著しく大きく、6~8 での抑制
はごく小さいのが 9 と 10 とでのそれは極め
29
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
-
て大きい。十分な NO2 量があるとき(この水溶液では 0.036 % )、6~10 範囲での pH 変化 は
ほとんど影響を現わさず腐食速度は実質的にゼロである。一般的にいって、NaNO2 の最大効果は
はっきりアルカリ性といえる溶液において発揮される。
その他金属への効果
抑制剤はすでに発錆した装置類にも適用される。Table Ⅰには、発錆した鋼に対する NaNO2 の試
験結果をまとめた;顕著な腐食抑制-Na2CrO4 より優れる-がえられている。NO2-が発錆した鋼
にも有効であるのは、おそらくカソード反応への影響がほとんどないためであろう。
Tabel I 発錆した鋼に対する抑制剤の効果
発錆処理期間 A:SAE 1015 丸棒 (1/4×5 インチ、サンドブラスト処理)。発錆処理サイクル(0.05 % NaCl 水溶液中に浸漬→ガ
ソリン中で約 20 時間浸漬→空気中で 8 時間保持)を 5 日間で数サイクル繰り返す。
腐食試験期間 B:A で発錆処理した丸棒をびんに容れた。内容物は 70 ml のガソリンに、20 ml の抑制剤あるいは水を加えた
もので、空気相を 30 ml もつ。室温、60 r.p.m.で回転させ、新鮮空気を一日置きに導入した。清掃後の重量減から腐食速度を
求めた。
4
4
2
a
試験期間 B の(腐食速度の平均値)±(平均値からの平均分散)
b
各溶液中での繰り返し数 3 回。期間 A で丸棒 3 本からえた平均発錆重量は 161±18 mg、またそれの鋼の平均重
量減は 110±12 mg で、腐食速度 15 mils/year に相当する。
c
d
各溶液中での繰り返し数 4 回。期間 A で丸棒 4 本からえた平均重量減は 128±11 mg。
1.0 % Na2CrO4 を使用。
その他金属での予備的実験は NaNO2 がいくつかの金属種の水腐食を抑制することを示す。これら
の結果を Table Ⅱ、ⅢとⅣに、またイソプロパノール溶液での結果を Table Ⅴに示した。NO2-は
多種の黄銅類に常温では明瞭な効果を示さないが、高温では有意な抑制効果を示す。同様の結果は
モネルに対しても観察される。NaNO2 は Al 腐食をも大きく抑制した。亜鉛または亜鉛めっき鋼で
の測定 はなされていないが、他の実験結果によると亜鉛は NaNO2 によっては抑制されず、むしろ
加速されることもある。
30
腐食センターニュース No.064
アルコール溶液での抑制
2013 年 5 月
NaNO2 はかなり強い酸化剤であるが、水中に多種類の有機化合物が共存する条件下に安全に使わ
れているようだ。たとえば NaNO2 の水溶液はガソリンパイプライン中において容量比 20 万倍の
ガソリンと接触して成功裏に使用されている。アルコールおよびグリコール不凍液組成における腐
食抑制剤としての利用は多数の特許書類に見られる。TableⅤとⅥはイソプロピルおよびメチルア
ルコール水溶液における NaNO2 の実験結果をまとめている。Figure 4 はイソプロパノール溶液で
の実験終了時点における金属試片の外観である。NaNO2 は鋼腐食を効果的に抑制し、またこれら
溶液中での地金属の腐食を抑制している。
Tabel Ⅱ
各種金属/0.05 % NaCl-系での抑制剤の効果
条件:金属片 3/8×51/2 インチを 25 ml 水溶液の入った 120 ml びんに容れた。約 23 ℃ で 14 日間、60r.p.m.で回転。1日置き
にびん内の空気を入れ換え、清掃後の試片の重量減から腐食速度速度をえた。
a
露出端部に主な腐食
b
板面に軽微な腐食
Tabel Ⅲ
c
わずかに変色
d
光沢、腐食なし
その他の金属/水道水、50 ℃-系での抑制剤の効果
条件: 研磨試片、3/4×3 インチ、を曝気した 50 ℃ の水道水ベースの水溶液に 7 日間浸漬・攪拌し、清掃後の重量減から腐食
速度をえた。
Tabel Ⅳ
その他の金属/1.0 % NaCl、室温・80 ℃-系での抑制剤の効果
条件:研磨片、3/4×3 インチ、を 1500 ml の食塩水に浸漬・攪拌・48hr 曝気。NaOH で pH8.1 に調節。各溶液中で鋼は 4 片、
その他金属はそれぞれ 2 片を用い、清掃後の重量減から腐食速度をえた。
31
腐食センターニュース No.064
Tabel Ⅴ
2013 年 5 月
イソプロパノール溶液中での腐食抑制
金属片、3/4×3 インチ(半田をのぞく)、を 750 ml の溶液に浸漬。室温で 112 hr 空気を吹き込む。清掃後の重量減から腐食速
度をえた。
Tabel Ⅵ メタノール溶液中での亜硝酸ナトリウムの腐食抑制
条件: 研磨した SAE 1015 鋼丸棒、1/4×6 インチ、を 120 ml のびんに容れた。内容物は 67 重量%メタノール溶液 20 ml 、
ガソリン 70 ml であり、30 ml の空気相がある。室温で 60r.p.m.で 15 日間回転させた。
Isopropanol Solution
抑制下の Isopropanol
Steel
Brass
Al
Solder
Figure 4 Isopropanol 溶液中の金属の腐食抑制(Table Ⅴ)
引用文献
32
腐食センターニュース No.064
NaNO2 濃度の低下――共浸鋼板・温度・酸素の影響
2013 年 5 月
PYKE と COHEN(1)は、NaNO2 濃度の低下(breakdown)を調べた。16 L の Ottawa tap water
に NaNO2 を溶かした蒸留水を加えて所定の NaNO2 濃度とし、10cm×2.5cm の鋼板 4 枚を同じ液中に
共浸したもの(4 panels)としないもの(alone)との 2 系列について、NaNO2 濃度は毎日、pH は週
一回、分析してゆき、NO2-濃度がゼロにならない限り 21 日続け、最後に溶存酸素濃度(DO)と鋼板
の重量減少量とを測った。この間 pH は 7.0~8.0 付近にとどまり、DO は鋼板を共浸しないものでやや
高く飽和濃度近くであった。一例を Fig. 1 に示す。鋼板を共浸しない(alone、#25、#23)あるいは十
分な抑制濃度の#26 では NaNO2 濃度低下はなく、#24 ではゆっくりな低下がある。
alone
4 panels
#25 70 ppm NaNO2
#26 70 ppm NaNO2
alone
#23
20 ppm
4 panels #24 20 ppm NaNO2
TIME IN DAYS
Fig. 1
全結果を図 1 にまとめた。「alone」では NaNO2 濃度の低下は見られないのに対し、「4 panels」では
NaNO2 濃度と温度との条件によって低下しないもの(〇)、低下するもの(×)、がある。データポイ
ントに付した数字は鋼板の腐食速度(単位 mdd、25 mdd は約 0.1 mm/y)である。温度の影響はとく
に低濃度 NaNO2 域において厳しく抑制にとどまらず加速に働く条件も現れている。こうして、循環系
の実用的見地においては完全な抑制を期せる十分高い NO2-濃度を維持することが最も経済的であると
結論される。
NaNO2 の濃度低下に対する溶存酸素濃度(DO)の影響をより明瞭にする実験を実施した(2)。DO は
実験開始時と終了時とで分析し、両者の平均値で整理している。
20 ℃(Fig. 2)の場合 NaNO2 40 ppm では濃度低下も少なく、21 日後の腐食速度もおおむね抑制結
果を示している。しかし 20 ppm では DO 34.2 ppm を除いて、DO 7.44 ppm で 20 mdd と抑制効果は
なくなる寸前で、DO 2.01 ppm では加速(47 mdd)に転じている。
40 ℃(Fig. 3)の場合、NaNO2 100 ppm では DO 26.2、6.2 と 0.8 ppm のいずれでも NaNO2 の濃度
低下も少なく腐食速度も抑制効果を示している。しかし NaNO2 50 と 20 ppm では実験したすべての
DO 濃度で腐食速度は加速に転じた。NaNO2 濃度の低下が DO の中間濃度 4.3 ppm で最も早いという
逆転現象がみられる。
33
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
このような逆転現象は 50 ℃(Fig. 4)の NaNO2 50 と 20 ppm でも現れている。この温度では NaNO2
100 ppm でも DO が 0.8 ppm では低下が早く腐食速度も加速に転じている。
以上の結果を図 2 にまとめた。DO は高濃度側で NaNO2 の抑制効果を補強するが、高温ほど減殺され
る。
( 1 ) RATE OF BREAKDOWN AND MECHANISM OF NITRITE INHIBITION OF STEEL
CORROSION
R.PYKE and M.COHEN : Trans. Electrochem. Soc., 93, 63~78 (1948).
(2)THE EFFECT OF OXYGEN ON INHIBITION OF CORROSION BY NITRITE
M. COHEN, R. PYKE and P. MARIER : Trans. Electrochem. Soc., 96, 254~261 (1949).
図1
NaNO2 濃度低下の 有(×)/ 無(〇) に対する共浸鋼板(表面積 0.5 dm2)の有(4 panels)/無(alone)の影響
図中の数字は共浸鋼板の腐食速度(mdd 単位)
34
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
FIG. 2
FIG. 3
FIG. 4
35
腐食センターニュース No.064
図2
2013 年 5 月
NaNO2 濃度低下の 有(×)/ 無(〇) に対するDO濃度の影響
すべての試験において 4 枚の鋼板有、データ点に付した数字は鋼板の腐食速度(mdd 単位)
36
腐食センターニュース No.064
亜硝酸による腐食抑制:いくつかの使用経験†
†
出典
2013 年 5 月
Nitrite Inhibition of Corrosion : Some Practical Cases
T.P. Hoar : Corrosion, 14, 103t~104t (1958).
Introduction
NO2-による腐食抑制に大きな進歩がもたらされたのは、Wachter と Smith (1) による 1943 年の開
拓的論文で、NaNO2 溶液の注入によりガソリンパイプライン中の腐食を防止した。このことは鉄系金
属にとって格別な事実である。NO2-の作用機構への寄与は認めるが、理論が完璧であるとはいえない。
この論文では連合王国における数多くの実用的適用を概観し、方法の適用拡大を激励し、基本的詳細の
さらなる研究を惹起したい。
Chromates との比較
NO2-はほぼ中性の塩化物水溶液における鉄鋼の腐食を抑制するアノード型インヒビターで、これは十
分量の NO2-を加えたときの腐食電位の貴化と腐食面積の減少とによって示される(2、3)。これらはそ
の作用において Chromates に類似しており、類似の錫の腐食においてアノード型インヒビターである
ことにさらなる類似性を示している。Chromates と同様に、NO2-は Fe2+を Fe3+へ、Sn2+を Sn4+へ酸
化する。両金属の高原子価態は低原子価態のそれよりさらに難溶性の水酸化物を形成するので、これに
よって NO2 - に酸化-析出理論を適用するのも真実らしく想える。この理論は Hoar と Evans
(3,4,5,6,7)によるもので元々Chromates(5)に展開したものである。可溶性の NO2-溶液を Fe(Ⅱ)
または Sn(Ⅱ)塩に加えると、Fe3+と Sn4+を含む析出物が実際に生成する:もしここでこれら抑制剤
が同様の析出物を腐食アノードに形成でき金属に十分接触して密着性と(格子)整合性とに優れた固相
障壁をつくるなら、アノード抑制が説明できよう。別の提案によると、アノードでの障壁作用は一般に
還元されていない NO2- (8)または Chromates(9、10)イオンがアノード金属表面上に単層で吸着し
て成される。この仮説は直ちに否定すべきものではないが、多くの証拠-化学的および放射性同位元素
分析(7)-には合わないようであり、この説を一般的な静電気的および電極反応理論に適合させるの
はむつかしい。
NO2- の抑制機構の詳細はともあれ、NO2-と Chromates とは実用的長所と短所とを共有している。
NO2- は共存する Cl-のかなりの濃度に対処することができる(2,3,11,12,13)が、必要な NO2- 濃度
は Cl-濃度の増加とともに当然増加する(2,3)。Chromates についてはこの場合の抑制は完璧にしうる。
しかしながら、NO2- 濃度が低すぎるとき腐食の局所化は侵食深さを強めることがあり、薄肉の金属部
材には危険になる。鋳鉄・鋼の Cl-腐食において完全抑制に必要な NO2- 濃度は、Chromates のそれ
と同オーダーである(3)が ― 時には逆転することもある ― そして完璧な抑制に必要な量は炭酸塩、
りん酸塩、などよりは はるかに少ない。
NO2-は Chromates にはない長所・短所をもつ。NO2-は有機物質に対してかなり少ない作用しかもた
ない。同じ証拠により、NO2-は毒性が少なく、(人間の)皮膚に対して重い影響をもたない。NO2-は
通例同レベルの Na-Chromates より安価である。小さな長所ではあるが、重要な用途もある(後述)の
は、nitrites が無色であることである。
他方で NO2-は、6.5 より低い pH、あるいは pH が局所的に低くなりそうな場合に使えない、これは非
常に気化しやすく不安定な亜硝酸(HNO2)を生成するためである。さらに、NO2-は微生物的反応に関
与して分解されてしまうという多くの証拠がある。これらの理由から微生物を含む大規模冷却水系での
37
腐食センターニュース No.064
利用は禁止された。
2013 年 5 月
NO2-による実地的抑制例
Examples of Practical Nitrite Inhibition
以下の実際使用例は最近の連合王国における NO2-の使用経験である。
水圧機流体
水圧機用作動流体として油よりも水を使う必要があるとき、これは大規模装置での経済性や火災・危険
の回避のためである。しかしながら、水が最低限度を超える溶存塩を含んだり、とくに海域でよくおこ
る Cl-による汚染にさらされると、鋼製部品の局部腐食-油の脱エマルジョン化によりさらに悪化する
-がおこる。これはとくにすきまにおいて事実であり異種金属接触により防止されるが、必要量は Cl-
濃度に依存する(14)。筆者の経験によれば NO2-は Chromates よりうまくいくことが多く、これは
NO2-が脱エマルジョン化をおこさず油を傷めないばかりか、有機材製ワッシャーを劣化させず、どの
white metal 製軸受(2)の腐食にも優れた抑制効果をもつからである。NO2-自身はどの銅または黄銅
製部品に悪作用をもたない(2,14);条件によってはアンモニアをつくるという観点から、これら金属
を含む系に NO2- を導入する前に、銅・黄銅に有害なまでのアンモニアが出るのかを確かめるのが賢明
であろう。
切削液
水溶性切削液は 5~20 % のエマルジョン化油を加えて使われる。これは潤滑性を高め、腐食を抑制す
るためである。機械系を通過すると液はいくぶん脱エマルジョン化する。この段階で、とくに Cl-や SO42を含む場合 液は 鋳鉄製機台や 鉄系 の切削屑に対して腐食性を強める。もし少量-約 0.1~0.2 % w/v
(14)の NO2-があればこの腐食は完全に抑制され、かつ(Chromates とは異なり)健康への危険度は
まったく生じない。切削油の濃縮液を water(‘石鹸’と混和剤)- in - oil(切削油)型エマルジョ
ンとし、これに十分量の NaNO2 を溶かした水溶液を合わせることによって低濃度切削液での優れた抑
制系をつくることができる。
鉄製品の貯蔵
鉄製品の貯蔵に NO2-による抑制が適用されている。とくに小物の溶接構造の製造工程において、有機
性の防錆剤を使わずに鋼管、条鋼また鋼板を脱スケールあるいは酸洗状態で保存する必要が出てくる。
このような場合 0.5~1.0 % w/v の NaNO2 水溶液に弱アルカリ性の維持のため少量の Na2CO3 または
NaHPO4 を添加するのが有効で便利でもある。もし鋳鉄製部材も貯蔵するときは低くとも 10 の pH を
維持すべきである。
小さな鋼製部品の包装品を長期にわたって貯蔵するとき、再び有機性防錆剤が望ましくない場合である
が、安息香酸ナトリウム(C6H5COONa)含浸紙の利用が大いに役立つ。とくに腐食性の強い塩環境(た
とえば高湿高温海洋環境)では NO2-も含浸させることが推奨されてきた。
消火用途
ターン(溶融 Pb-Sn 合金めっき)あるいは はんだ被覆-軟鋼で組立てられた消火器は、連合王国に
おいて、水道本管を長期にわたって漏らさず、かついつでもすぐに作動するように求められることが多
い。消火用水は、通例 CO2 圧力によって排出されるが、清浄かつ錆なし、でなければ着色されていなけ
ればならない。最上の被覆にも 1~2 個の欠陥があって錆あり水を排出、まれには孔あきに至ることも
ある。多くの使用者は Chromates の黄色に反対するので Chromates による抑制は不適当である。
しかしながら、0.25~1 % w/v の NaNO2 にごく少量の Na2CO3 を加えて弱アルカリ性をねらった液は
38
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
永年優れた実績を示してきた。被覆はんだのごく低い腐食速度は実際に不利に働くことはない;鉛の腐
食生成物はその場にとどまり、十分量の NO2-はひきつづき露出した鋼表面を保護してくれる。
消火用圧力容器の水圧試験において、循環試験液中の低濃度 NaNO2 と炭酸塩は均一腐食を避けうる長
所をもつ。これは水抜きしない試験済み容器の発銹を防止するのに特に有利である。熟練度の浅い管理
者にとってもフェノールフタレインを試験液に加えてみればよい;紅色が消えれば 少し余分の NaNO2
を加えさえすればすむというわけである。
缶詰製品
錫めっきに詰められた肉製品の中にまさに飛び入りともいうべき、少量の NaNO2 が、露出鋼および錫
めっきの塩腐食の抑制にまちがいなく寄与することになった。まるで異なったしろもの(代物)-塩素
化された有機化合物であり、弱アルカリ性下にカゼインでエマルジョン化された殺虫剤水溶液-が裸の
軟鋼缶に異常に高濃度の可溶性塩分条件は例外として、成功裏に詰められる。これらは缶内面に大面積
のアノード領域をつくり析出したカゼインの盛り土に覆われる。0.5 % w/v の NaNO2 の添加により不具
合は完全に矯正された(14)。
自動車用冷却系
自動車のラジエータ系はいくつかの金属種が同時に冷却水に接するよう構成されている。主な腐食問題
は 鋳鉄製シリンダーブロックにあり、とくにグリコールを不凍性付与に含む水中でのそれである。こ
の発錆は熱伝導(排気弁周りで重大)と干渉するだけでなく、ラジエータ管の狭い断面でのつまり(閉
塞)をおこす恐れがある。
よりよい腐食抑制剤の概案の一つは、Wormwell、Mercer と Ison(15,16)の創案で、0.1% w/v の NaNO2
と 1.5% w/v の安息香酸ナトリウムを冷却水に加える。NO2-は鉄系部材への攻撃を防ぎ 安息香酸は
NO2-によるはんだの腐食-高温時に厳しい-を止める。りん酸塩、炭酸塩あるいは ほう酸塩によるア
ルカリ条件の維持もまた大いに望ましい。
海洋潤滑系
第2次世界大戦時 老朽駆逐艦に冷却水系での漏れが拡がり、タービンの潤滑系の深刻な Cl-汚染に至
ったことがある。主な腐食形態はタービンのジャーナル軸受の孔食であった。これ自体はとくに重大で
はなかったが大量の Fe(OH)3 を潤滑系のエマルジョン化油中と水中につくって、両者の適切な分離を妨
げた。この不具合は研究室(2,3,11,12)で調べられ 系への NaNO2 の添加によって解決された(13)。
NO2-の添加は有害でないどころか系中の White metal ベアリングに有効であった。
結 論
ここで取り上げた NO2-の実地使用例は広い分野から抽出したもので多様な使用方法の象徴である。
Chromate に比べての NO2-の 長所のいくつかを実例をもって説明したのは注目していただけようか。
重大な短所、上に引用した NO2-の微生物による分解は 開放・再循環式冷却水系での NO2-の大規模使
用の失敗原因になった。もしこの問題が、たとえば殺菌剤との併用により、克服されれば、NO2-によ
る抑制方式の新たな大分野が開かれよう。
NO2-による抑制機構の詳細が 2~3 のケースにおいて確立されるだけでも NO2-抑制への信頼感はおお
きくなろう。このことは物理化学と冶金学の一分野として腐食反応に関心をもつ諸兄への課題である。
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腐食センターニュース No.064
About the Author
2013 年 5 月
T.P. Hoar は 1930 年 Cambridge 大学、England、を卒業、まもなく腐食の基本的機構の研究を Dr. Ulick
Evans、と共にはじめ、1933 年に Ph D 学位をうけた。その後 International Tin Research and
Development Council にて鋼、錫と錫合金の腐食研究に、第 2 次世界大戦中は Service Departments
に所属した。1946 年 Cambridge 大学 金属系学科 講師。
Reference
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
水及び水溶液中における腐食抑制剤としての安息香酸ナトリウム及びその他の金属ベンゾエート†
†
SODIUM BENZOATE AND OTHER METAL BENZOATE AS CORROSION-INHIBITORS IN
WATER AND IN AQUEOUS SOLUTIONS
F.WORMWELL and A.D.MERCER: J.appl.Chem.,2,150~160 (1952)
概要
Na-benzoate は、蒸留水、通常硬度の本管水道水および低濃度(たとえば 0.03%の)NaCl 溶液での軟
鋼の腐食に対する効率的なインヒビターであることが示されてきた。腐食抑制に必要な benzoate 濃度
はエメリー研磨表面(好都合の条件下では 0.1 % )より機械加工面(0.5%)で高く、本管水道水ある
いは Cl-溶液(1.0 または 1.5 % )は蒸留水(0.5%)に比べて高い。
液の流動あるいは酸素飽和は腐食抑制を助けるが、6 以下の pH は分解をもたらす。Na-クロメートに
比べて、Na-benzoate は効率が低いが;防食のための最少量を切る濃度においても激しい局部腐食を起
こさないという意味では‘安全な’インヒビターである。次の benzoate も抑制力をもっている:K-、
Li-、Zn- および Mg- 。室温の 0.05 % C6H5COONa 溶液は Zn を部分的に、Cu と Al を完全に防食で
きる。
完全防食に不十分な C6H5COONa しか含まない低濃度 NaCl 溶液中では非常に激しい H2 ガス発生が起
こる。仮の説明は提出している。すなわち Na-benzoate の防食作用のくわしいメカニズムはまだ確立さ
れていないが、電極電位の測定と皮膜剥離実験とがアノード防食が連続的皮膜を作り維持するとの見解
の証拠を提供している。
序文( W.H.J. VERNON, Head of Corrosion Research Group )
当機関*での研究がはじまる前は、Na-benzoate の防食性能は、文献情報のなかったせいから、一般に
見過ごされてきたようだ。この Teddington での研究そのもの ― 腐食グループの多くの研究者が参画
した典型的チームワーク ― はこれまで未出版のままであった。年例の報告に含まれる講演と梗概は別
にして、この間本研究は多様な方面に適用され、特に Na-benzoate は熱交換系と不凍液に使われてきた。
Na-benzoate は紙やその他の繊維中にしみ込まれて防錆用包装材に広く採用され、ゴムラテックスに組
み込まれて‘一時的防錆剤’になった。これらの応用は他の論文で取り扱われる。
この論文は、浸漬状態下の Na-benzoate インヒビターのより重要な特性を述べるが、最近の研究の大部
分を網羅し、それゆえ著者も限られる。この導入的ノートを世に出すのは、著者達自身の希望により事
の展望を明らかにし、彼らの発信が必ずしも年代順ではない一連の論文の一番バッターとみなされるの
を強調するためである。
*
Chemical Research Laboratory
Introduction
戦時中 the chemical Research Laboratory で進められた不凍液の研究において、Na-benzoate は水溶液
中の軟鋼のための有益なインヒビターであることが見出された。初期の研究の短い説明は公表されてい
る(Vernon、1947)。この論文は水と低濃度 Cl-溶液における軟鋼の腐食抑制剤としての Na-benzoate
の相対的効率の研究をのべる。いくつかの他の金属-benzoate と、Na-クロメートおよび Na-NO2 につ
41
腐食センターニュース No.064
いての比較試験も実施してきた。
2013 年 5 月
Cu、Al と Zn の腐食抑制剤として Na-benzoate と Na-クロメートを使った二、三の試験ものべる。結果
は以下の項目について議論される:
Ⅰ 軟鋼用インヒビターとしての Na-benzoate。
(1) 鋼の表面仕上げの影響
(2) pH の影響
(3) 液流動の影響
(4) Na-benzoate 溶液中での鋼の電極電位
(5) 水中および低濃度 NaCl 溶液中での Na-クロメートとの比較
(6) 他の金属-benzoate との比較
Ⅱ 軟鋼以外の金属用の抑制剤としての Na-benzoate:
K-クロメートとの比較
Experimental
試片
ほとんどの実験で使った二形式の軟鋼は、エメリー研磨板と旋盤加工円板である。
軟鋼板、厚さ 22 S.W.G.(standard wire gauge)、は次の組成( % )をもっている:
C 0.09、Si 0.019、 S 0.016、P 0.024、 Mn 0.33、 Ni 0.048、 Cr 0.038、 Cu 0.10
軟鋼円板。- 円板試片、2.5 cm 直径×0.6 cm 厚さ、は異なった鋼からつくられ次の組成( % )をもつ:
C 0.13、Si 0.012、 S 0.024、P 0.04、 Mn 0.4、 Ni 0.23、 Cr 0.053、 Cu 0.057
軟鋼板。-
溶液
溶液の調整に用いたのは、蒸留水(導電率 約 5×10-6 ohm-1 cm-1)あるいは Teddington 水道水(典
型的分析値:Ca 85 、Mg 2 、Na 23 、CO3 120 、SO4 51 、Cl 19 、NO3 12 、SiO2 7 ppm;pH 7.5;
全固形物 330 ppm)。特記しない限り使った塩類は B.P. 級である。
試験方法と結果
Ⅰ. 軟鋼用インヒビターとしての Na-benzoate
(1) 表面仕上げの影響
最初の実験で使った試片は軟鋼板、6.1×3.2 cm、で上端近くに穴をあけた。試片は約 125 ml の溶液を
含む 150ml ビーカー(6.0 cm 直径)中に、全体または 2/3 を浸してつり下げた。その後の実験では試
片、8.3×3.2 cm、を 8 oz の竪型ガラス容器‘honey jars’
(3.5 cm 直径)内の約 145 ml の溶液中に全
体を浸した(容器の底と側面に立てかけて)。
エメリー研磨板-水道水中。- 腐食抑制に必要な最低濃度を確かめるため、0.1~1.5 % の B.P.
C6H5COONa を含む水道水中に試片を全浸漬型でつるして 50 日間保った。0.1 と 0.25 % 濃度では均一
腐食がおこり重量減は‘control’すなわち水道水中試片(Table I )と同程度であった。同様の結果を
水没部を 2/3 にした試片でもえた(Table Ⅱ)。C6H5COONa を 0.3 % から 0.05 % づつ 0.6 % まで高
めた溶液を容れた honey jars につり下げた試片においては 0.5 % 以上で腐食を防止した。腐食試片の
重量減は再び‘control’(Table Ⅲ)と同程度であった。
42
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
Table Ⅰ
水道水中におけるC6H5COONa による軟鋼の防食:全浸漬
試片:エメリー研磨した軟鋼、6.1cm×3.2 cm、ガラスフックにつり下げる。
容器:150 ml ビーカー、6.0 cm 直径。
溶液:約125 ml 、水道水で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下1 cm。
期間:50 日間、室温。
Table Ⅱ
水道水中におけるC6H5COONa による軟鋼の防食:部分浸漬
試片:エメリー研磨した軟鋼、6.1cm×3.2 cm、ガラスフックにつり下げる。
容器:150 ml ビーカー、6.0 cm 直径。
溶液:約125 ml 、水道水で調合。
浸漬:2/3。
期間:50 日間、室温。
Table Ⅲ
防食に必要なC6H5COONa の最少濃度を求める実験:
水道水中でのエメリー研磨した軟鋼
試片:エメリー研磨した軟鋼、6.1cm×3.2 cm、ガラスフックにつり下げる。
容器:8 oz (227ml) ガラス製honey jars。
溶液:約145 ml 、水道水で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下1 cm。
期間:50 日間、室温。
Table Ⅳ
防食に必要なC6H5COONa の最少濃度に関する実験:
蒸留水中におけるエメリー研磨した軟鋼
試片:エメリー研磨した軟鋼、8.3 cm×3.2 cm。
容器:8 oz (227ml) ガラス製honey jars、3.5 cm 直径。
溶液:約145 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下1 cm。
期間:400 日間、室温。
Table Ⅴ
防食に必要なC6H5COONa の最少濃度に関する実験:蒸留水中での旋盤加工
した軟鋼
試片:旋盤加工した軟鋼円板、2.5 cm 直径0.6 cm 厚、ガラス製支持具上に
保持。
容器:標準腐食容器、4.4 cm 直径。
溶液:約110 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、試片上面を水面下2 cm。
期間:84 日間、室温。
Table Ⅵ
防食に必要なC6H5COONa の最少濃度に関する実験:蒸留水中での旋盤加工・
エメリー研磨した軟鋼
試片:旋盤加工した軟鋼円板、2.5 cm 直径0.6 cm 厚、旋盤痕除去のためエ
メリー研磨、ガラス製支持具上に保持。
容器:標準腐食容器、4.4 cm 直径。
溶液:約110 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、試片上面を水面下2 cm。
期間:84 日間、室温。
エメリー研磨板―蒸留水中。― Na-benzoate サンプルは三つの出所、呼称 A(B.P.)、B(B.P.)と C
(工業用)、からえた。0.05~0.75 % の C6H5COONa 条件下で約 8 ヶ月間防食できた(Table Ⅳ)が、
この 8 ヶ月時点で上記 A、B と C の 0.05 % 溶液のすべてで腐食防止はできなかった。その他濃度では
鋼は 13 ヶ月間防食できたが、この時点で試験終了した。Na-benzoate を用いての水道水中併行実験に
おいて、0.75 % という高い濃度では腐食は結局起こってしまった。防食の失敗は、試片を覆っていた
一種のかびが長い期間後に水道水中で成長したせいであった。
旋盤加工円板―蒸留水中。―この円板は蒸留水溶液中 2.0 cm 深さで水平に保った。これを支えたのは
特別の標準寸法容器、4.4 cm 直径、に収めたガラス製三尖点である。
43
腐食センターニュース No.064
腐食は B.P. C6H5COONa の 0.5 % 溶液
中では抑制された(Table Ⅴ、実験期間
84 日)が、0.1 あるいは 0.03 % 溶液中
では抑制されなかった。実験を繰り返し
たが類似の結果(Table Ⅵ)であった。
用いた試片は旋盤すじをとり除くためエ
メリー紙で研磨したものである。
2013 年 5 月
Table Ⅶ
C6H5COONa、Na2CrO4 およびNaNO2 の抑制効果の比較
試片:旋盤加工した軟鋼円板、2.5 cm 直径0.6 cm 厚、ガラス製支持具上に保持。
容器:標準腐食容器、4.4 cm 直径。
溶液:約110 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、試片上面を水面下2 cm。
期間:450 日間、室温。
さらなる試験を 450 日続けたところ、
C6H5COONa 1.5 %溶液で完全防食、
1.0 と 0.5 % 溶液で軽微の腐食であった。
結果(Table Ⅶ)にはクロメートおよび
NO2-との比較を蒸留水-水道水中につ
いて示す。これらの表 に重量減データを
加えていないのは、試片が完全防食され
ているだけでなく、腐食が軽微で重量減
はゼロか無視できるほど少ないからであ
る。試験(28 日間で停止)の当初から均
一腐食をおこした実験での重量減は
control test(インヒビターなし)と同程度であった。蒸留水では旋盤加工軟鋼の防食は 1.0 %
C6H5COONa (ときには 0.5 % )によって少なくとも 450 日間維持された。水道水中では 1.5 % が
450 日間有効であったが、0.5 % で 28 日間で無効になった(エメリー研磨試片は前述)。NaNO2 は
C6H5COONa より効果的であった。しかし、中間濃度では局所的孔食の大きな危険があり、これは
benzoate よりクロメートでより大きかった。
Na-benzoate の三出所 A、B および C の比較は 4.4 cm 直径の容器に入れた蒸留水中の旋盤加工円板で
えた。27 週間の試験で試片 A と B は 0.1 % 濃度で防食に失敗したが 0.5 % では防食した。これに対し
試験 C は 0.5 % と 0.1 % との両者で失敗し、この場合の腐食は開始一日目からはじまっていた。
Table Ⅷ
C6H5COONa による抑制に及ぼす溶液pH の影響
試片:エメリー研磨した軟鋼、8.3 cm×3.2 cm。
容器:8 oz (227ml) ガラス製honey jars、3.5 cm 直径。
溶液:約145 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下1 cm。
期間:66 日間、室温。
(2) pH の影響
この関係の研究はこれまでのところ 1 % の B.P. C6H5COONa を含む蒸留水および水道水中のエメリー
研磨板に限られている。溶液の初期 pH は 1N NaOH あるいは C6H5COONa によって 5~12 に調整し
44
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
た。結果(Table Ⅷ)によると、蒸留水中での防食に 6 以上の pH が要る。水道水中においても類似の
結果をえた。
(3) 流動の影響
(a) 攪拌方法。- いくつかの表面処理を代表する試片は、円周状ガラス容器、1 ft 直径、の側面
に近接してつり下げた。溶液の攪拌はガラス製の水かきを 76 r.p.m., 試片周りの流速 60 ft / min., で回
転することに依った。エメリー研磨、旋盤加工、研削あるいは平削り(プレーナ)による表面仕上げに
おいては、1.5 % B.P. C6H5COONa を含む攪拌蒸留水中で 12 日間の試験で防食された。
0.1 % B.P. C6H5COONa を用いてエメリー研磨試片 3 ヶと旋盤加工試片 2 ヶの試験を繰り返した。攪拌
速度 84 r.p.m. 試片周りの流速 72 ft / min である。攪拌をしつづけて 6 ヶ月の間腐食はおこならなかっ
た。攪拌を停止後すべての試片は約 19 ヶ月防食されたが、ここで旋盤加工試片に腐食がおこった。エ
メリー研磨試片は少なくとも 21 ヶ月防食された。
この挙動は先に述べたことと対照的である。旋盤加工試片は静置条件下では 0.1 % C6H5COONa で腐食
しなかったからである。
(b) 低速回転法。- 初期(Wormwell、1946)に開発された低速回転法に改良を加えて さらなる
試験を進めた。二つの試片(いずれも 2.0×1.5 cm)を用いた:
(i) 前述のエメリー研磨軟鋼;(ii) 0.3 cm 厚の軟鋼板を平削り加工した試片。試片には上端近く
に小穴をあけ、回転する心棒へかけた半径方向腕につけたガラス製留め金によってつり下げた;試片縁
沿いの対液線速度は 35.6 ft / min である。試片の上端は円周状のガラス容器内 500 ml 溶液中で液面
下 2.5 cm 深さにおき、どの容器にも類似の 4 試片を入れた。実験は 25±1°の室内で 21 日間続けた。
エメリー研磨鋼では 0.08 % C6H5COONa を含む蒸留水中で完全防食をえた。残りの試験は平削り試片
で実施した。この試片は機械加工仕上げ表面での実験(Table Ⅴ)からもっと容易に防食を期待してい
た。目的は攪拌条件下の蒸留水と 0.03 % NaCl 溶液とにおいて機械加工仕上げ鋼を防食するのに必要な
C6H5COONa の最低濃度を測ることであった。結果(Table Ⅸ)から提案されるのは、蒸留水中では
1.0 % 、0.03 % NaCl 溶液中では 2.0 % 、であ
Table Ⅸ
溶液扇動の影響:辺縁速度36 ft/min で液を扇動、軟鋼、25°
る。
試片:平削り(プラナー)加工した軟鋼、2.0 cm×1.5 cm×0.3 cm。
容器:8 oz (227ml) ガラス製蜂蜜瓶、9.4 cm 直径。
溶液:500 ml 、蒸留水あるいは0.03 % NaCl 溶液で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下2.5 cm。
温度:25±1°。
期間:21 日間。
腐食と防食との境界条件のように時折誤った
結果が出ることを考慮すると、最低限の安全濃
度を確立するにはもっと多くの証拠が必要で
あろう。
腐食が起こる場合には、いつもつり下げ用穴ま
わりに始まり試片の全表面へかなり均等に広
がって行く。Na-benzoate による防食は金属の
表面仕上げに大きく影響されるようである。
(4) 電極電位
抑制機構に光をあてるため、benzoate 溶液中の軟鋼の電極電位をいくつか測定した。エメリー研磨試片
を、導線とエボナイト被覆したばねつかみとによって 2ℓビーカー(10.7 cm 直径)中の B.P. C6H5COONa
溶液中につり下げた。旋盤加工試片は、
(ねじを切った)試片にねじ込んだ鋼棒を用いて 1ℓビーカー(10.0
45
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
cm 直径)中につり下げた。いずれの実験でも つり下げ用導線、棒、試片との接合部はグタベルカ/パラ
フィンワックス混合物で被覆した。溶液はガラス細管を通じて同じ液を入れた小さなビーカーにつなぎ、
ここに飽和 KCl カロメル電極を入れた。真空管式電位計を用いて 1 日に 2 回 2 週間電位を読み、その
後は 1 日 1 回 6 週間、以降はさらに頻度を落とした。
旋盤加工試片は摩擦仕上げ試片より常により高い(貴な)初期電位を示したが、後者の電位にかなり急
速に貴化した。結果的に両者の電位は 0.3~0.4V に達した(Fig. 1)。この貴な電位は C6H5COONa が
アノードインヒビターとして働くことを示す。
NaCl を加えて腐食がおこると、電位は大きく下が
り、保護皮膜の破壊を示した。
(5) 水中と低濃度 NaCl 溶液中とにおける、ク
ロメートとの比較
蒸留水に 0.005N-(0.03 %)NaCl を加えた溶液
中でのエメリー研磨板での予備的実験によると、
0.1 % C6H5COONa は(均一)腐食の防止には不
十分であったが、0.5 % 濃度液は 6 ヶ月後に若干
の局部腐食を許した。1 % 濃度液は 0.005NNaCl
溶液中で 1 年の試験期間を通じて防食した。
Fig. 1 電極電位の測定:1.5 % C6H5COONa 中の軟鋼
旋盤加工試片は主系列の比較試験に用いた。NaCl 0.03 % の場合、1 % の C6H5COONa によって 49
日試験で防食がえられ;一方 0.05 と 0.1 % Na2CrO4 は 0.01、0.02 と 0.03 % NaCl 溶液中で局部腐食
を許した。ただ重量減は非常に少なかった。
50 日試験において、0.5 % C6H5COONa は 0.03 % NaCl の共存下に防食を示したが、0.5 % Na2CrO4
は軽微な局部腐食を許した。0.1 % C6H5COONa は 0.03 % NaCl 溶液中では防食せず、腐食形態は均一
腐食であった。この結果は予想とおりである、というのはこの 0.1 % 濃度は蒸留水中での旋盤加工試片
の防食には不十分であったからである。結果は Table Ⅹにまとめた。
Table Ⅹ
C6H5COONa 及びNa2CrO4 の希薄NaCl 溶液中における抑制効果の比較
試片:旋盤加工した軟鋼円板、2.5 cm 直径0.6 cm 厚、ガラス製支持具上に保持。
容器:標準腐食容器、4.4 cm 直径。
溶液:約110 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、試片上面を水面下2 cm。
期間:50 日間、室温。
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
軟鋼試片は C6H5COONa 溶液中では希にしか局部腐食をおこさないが、NaCl に対する‘安全’限界を
超えては、この限りではない。電極電位測定の過程で観察できたのは、1.5 % C6H5COONa 溶液に 0.01 %
NaCl を一度に加えたとき孤立的腐食斑点が現われたことである。しかし、Cl-濃度の臨界範囲において
も激しい孔食は認めなかった。Na2CrO4 の場合 かなりの Cl-濃度の共存下におきうるのは局部腐食で
あるが、C6H5COONa の場合対照的に均一腐食である。
25°酸素飽和溶液中での実験
防食が維持されない場合の腐食速度についてより詳細な情報をうるため、25°静止液中で酸素吸収計
(Bengough & Wormwell、1935)を用いる実験を行った。溶液を酸素飽和したあと旋盤加工軟鋼円板
に接触させた。蒸留水(導電率 0.1×10 - 6 ohm - 1 ・cm - 1 )中での比較試験に供したのは、0.1 %
C6H5COONa または 0.005 % Na2CrO4、あるいはこれらに 0.03 % NaCl を加えた溶液である。目視結
果(Table Ⅺ)が示すのは、0.1 % C6H5COONa+0.03 % NaCl を除くすべての溶液中で完全防食がえ
られた。これらを裏付けるのは酸素吸収または水素発生が 188 日間にわたって起こらない事実である。
この期間酸素気相下の酸素飽和溶液に暴露されたあと腐食槽は大気に開放され、放置されたが、保護皮
膜の破壊された形跡はなかった。
Table Ⅺ
C6H5COONa 及びNa2CrO4 の希薄NaCl 溶液中における抑制効果の比較:酸素飽和溶液
試片:エメリー研磨した軟鋼、6.1cm×3.2 cm、各溶液中に 2 試片、ガラスフックで別々につり下
げる。
容器:沸騰管3.5 cm 直径、水槽内保持。
溶液:約115(±15) ml 、水道水で調合。
浸漬:上置き試片は2/3 を浸漬:
(上置き試片からつり下げた)下置き試片は全浸漬。
期間:16 日間(内100 時間は80°、すなわち1 日に8 時間加熱)
。
腐食を示した試片での腐食/時間-曲線を Fig. 2 に示す。
腐食がはじまると酸素吸収速度はゆっくり上昇してゆ
き初期研究で単味 Cl-溶液中よりはかなり大きい。こ
れは予想外で理由も明らかでない。おそらく初期の腐
食生成物は benzoate イオンの共存下に不安定な塩基
性 benzoate になり、これは水和して不溶性の水和 Fe
(Ⅲ)酸化物と可溶性に乏しい benzoic acid になる。
結果としてのアノード領域での pH 低下は水素ガス発
生を刺激し保護性皮膜の維持を妨害して腐食域を周辺
へ拡大したのであろう。C6H5COONa 濃度が不十分な
とき腐食が当然の結果として孔食を伴う局所性を保ち
えない理由はこの考えで説明できよう。
47
Fig. 2 0.03 % NaCl 中の軟鋼:0.1 % C6H5COONa 添加の影響
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
(6) 他の金属 benzoates との比較
Na-benzoate の効率を他の金属 benzoates と比較すべく「蒸発-管法」を用いた。軟鋼板試片、6.1 cm
×3.2 cm、を通常の研磨法で準備し、一管ごとに二試片を溶液を含む蒸発管内にガラス製つかみで次か
ら次へとつり下げていった。試片上部の 2/3 を浸し蒸発管は水浴中に支えた。浴は 80°に 8 h /日保っ
たが夜間は放冷した。
水道水中で以下の benzoate の 1 % 液を調べた:Na-、K-、Li-、Mg-と Mn- である。溶解度の低い Alと Zn- の benzoate は飽和(< 1%)溶液を用いた。結果(Table Ⅻ)によれば、Na-benzoate に加え
て、K-、Li-と Mg-benzoate は、80°での 16 日試験で少なくとも 100 h の間全浸漬試片の腐食抑制に
効果的であった。2/3 浸漬試片での腐食は水線の上方でおこった。これらインヒビターは室温に保たれ
た類似の 2/3 浸漬試片でも調べ、51 日後に類似の結果を得ている(Table ⅩⅢ)。
Table Ⅻ
Na-benzoate 及び他金属-benzoate の抑制効果の比較:断続的加熱条件下
試片:旋盤加工した軟鋼円板、2.5 cm 直径0.6 cm 厚、ガラス製支持具上に
保持。
容器:標準腐食容器、4.4 cm 直径。
溶液:約110 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、試片上面を水面下2 cm。
期間:50 日間、室温。
Table ⅩⅢ
Na-benzoate 及び他金属-benzoate の抑制効果の比較
試片:エメリー研磨した軟鋼板、5.1 cm×3.8 cm 厚、ガラスフックでつり
下げる。
容器:150 ml ビーカー、6.0 cm 直径。
溶液:約125 ml 、水道水で調合。
浸漬:
(部分浸漬)2/3。
期間:51 日間、室温。
Table ⅩⅣ
亜鉛、銅およびアルミニウムの抑制剤としてのC6H5COONa とK2CrO4 の比較
試片:エメリー研磨した軟鋼板、8.3 cm×3.2 cm。
容器:8 oz (227ml) ガラス製蜂蜜瓶、3.5 cm 直径。
溶液:約145 ml 、蒸留水で調合。
浸漬:全浸漬、上端を水面下1cm。
期間:50 日間、室温。
Ⅱ 軟鋼以外の金属のインヒビターとしての Na-benzoate
予備試験では室温蒸留水中の Zn、Cu と Al を調べた。試片はエメリー研磨板から切り出し、液中に全
浸漬した。K2CrO4 との比較(Table ⅩⅣ)によればクロメートの方が効率高く、とくに Zn に優れた。
Cu では著しい差はなく、Al では差はなかった。
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
結論
C6H5COONa は、蒸留水、通常硬度の本管水道水、および低濃度(たとえば 0.03 % )の NaCl
溶液中で効果的なインヒビターである。
(2) 腐食防止に必要な C6H5COONa の濃度は、鋼表面仕上げ、溶液中の Cl-および他イオンの濃度に
より変わる。蒸留水中のエメリー研磨試片のように好都合な環境では、0.1 % 濃度で鋼の完全防
食を達成できる。機械加工した(たとえば平削り加工あるいは旋盤加工した)表面仕上げ試片の
本管水道水 あるいは 0.03 % NaCl 溶液中での防食には 1.0 % または 1.5 % の C6H5COONa が要
求される。
(1)
(3) 金属周りの液流動は通例 C6H5COONa の防食作用を助ける、がこれは金属表面でのインヒビター
濃度を維持するであろう。付加的な好都合因子は溶存酸素を含む水から補給される。
(4) 軟鋼の腐食防止を 1 % C6H5COONa によるのは pH 6 未満では効率的ではなく、6~12 の初期 pH
の溶液中で完全防食が達成される。
(5)
C6H5COONa と Na2〔または K2〕CrO4 との比較では、通例高濃度が必要とされる benzoate は
インヒビターとしてさほど効率的でないことを示した。しかし、benzoate が‘安全な’インヒビ
ターとして現われるのは、濃度が不十分なときに現われる腐食が通例均一腐食であるからである。
腐食が局所化する場合でさえ調べた状態で孔食は起こらなかった。
(6)
酸素雰囲気下酸素飽和溶液中での実験は、旋盤加工軟鋼の腐食防止が大気にさらされたときに要
求されるより低濃度の C6H5COONa でえられることを示した。C6H5COONa の抑制作用が溶存酸
素の増加と大気中に通常存在する微量の酸性気体の消滅とに疑いなく助けられていることを示し
た。
(7)
予備的試験によれば以下の金属 benzoate は軟鋼の腐食インヒビターであることを示した:
K-、 Li- 、Zn- と Mg-、Al-benzoate。 Al- と Mn-benzoate は鋼の腐食を増大させた。
(8)
Zn の腐食は Na-benzoate により低減されたが、腐食を完全防止するには至らなかった。Cu と
Al は現状の試験条件では防止された。
(9)
通常になく高速の水素発生速度が、軟鋼の腐食防止に不十分な Na-benzoate を含む低濃度 NaCl
溶液中で観測された。暫定的な解釈であるが、アノード領域で形成される Fe-benzoate の水和に
より、benzoic acid が生成し、これが水素ガスの発生を伴って鉄を腐食させるのであろう。
(10) Na-benzoate の防食作用の詳細メカニズムはいまだ解明されていない。電極電位測定は benzoate
がクロメートに似てアノードインヒビターであることを支持する。Na-benzoate により防食され
る軟鋼は輝きを保っており、不可視の保護皮膜を形成している。皮膜の一部はアルコール/沃化物
法を使って適切な試片から剥離された。予備的な電子線回折実験は立方晶 Fe 酸化物の存在を示す
積極的証拠を提出した。
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
Reference
50
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
エチレングリコール不凍液中腐食抑制剤としての安息香酸ナトリウムと亜硝酸ナトリウム†
†
出典:SODIUM BENZOATE AND SODIUM NITRITE AS CORROSION INHIBITORS IN ETHYLENE
GLYCOL ANTI-FREEZE SOLUTIONS
I. LABORATORY INVESTIGATIONS
F.WORMWELL and A.D. MERCER ; J. appl. Chem., 3, 22~27 (1953).
概要:1.5 % C6H5COONa(安息香酸ナトリウム)と 0.1%NaNO2 との 20%エチレン(以下で省かれるこ
とが多い)グリコール不凍液への添加は、断続的な加熱条件における鋳鉄と はんだ接合の腐食を効果
的に防ぐ。C6H5COONa なしでは、NaNO2 は鋳鉄を防食するが はんだ接合の腐食は加速してしまい、そ
の程度は 0.1~1.5 % NaNO2 範囲超ではさらに大きい。短い初期の加熱は 1.5% C6H5COONa+0.1% NaNO2
を含む 20%グリコール溶液中での鋳鉄を十分防食するのに必要である。初期加熱が不要な常温では、1.0
または 1.5%の C6H5COONa を含む 20%グリコール溶液において機械加工をした鋳鉄の防食に 0.3%
NaNO2 が必要であるが、1.0 または 1.5% C6H5COONa を含む 30%グリコール溶液では 0.1%の NaNO2 で
十分である。鋳造ままの表面をもつ鋳鉄では防錆のためより高濃度の NaNO2 が要る。
C6H5COONa の腐食抑制効果の発見は他所(1~4)に報告されている。初期の研究室研究につづいて、
勇気づける結果がエチレングリコール不凍液に C6H5COONa を用いる実走行車両を用いた路上試験にて
得られた(2、3、5)が、鋳鉄の腐食は軟鋼の防食に適当だった 1.5%の C6H5COONa によっては防止でき
ないことがわかった(6)。それゆえエンジン冷却系で鋳鉄と はんだ接合との両者を合理的低濃度で防
食できる代替防錆剤を調査することにした。
Experimental
試験片
Cu を含む一連の試験のほかは、試験片は灰鋳鉄または はんだ接合の黄銅である。
Table
Total
C
I 鋳鉄の組成( % )
Si
S
P
Mn
鋳鉄 A
3.16
2.50
0.13
0.56
0.79
鋳鉄 B
3.28
1.93
0.09
0.35
0.84
鋳鉄。 - 初期の試験には鋳鉄 A を使い、後には実走行用途(Part Ⅱ)に特別に準備した鋳鉄 B を用
いた。
二つの鋳鉄は化学組成 (Table I) は同様で、自動車の冷却系のシリンダーブロックとヘッドを構成
する典型的鋳鉄である。鋳造ままの表面を用いる試験を除き、試験片は(本文と図に示す)所定寸法に
切り出し、フライスあるいは旋盤で仕上げた。
はんだ接合の黄銅。- 13.1×2.5 cm の板試料を、6.7×2.5 cm の黄銅板二枚を 0.3 cm 重ねて はんだづけ
(tinman’s solder、ZnCl2 フラックス)してつくった。
溶液
すべての溶液は適度の硬度をもつ本管水道水で調合した。
試験方法
ほとんどの試験は自動車の冷却系を模擬する温度条件での断続的加熱条件下で実施した。いわゆる沸騰
51
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
-管法では、試験片の上端を沸騰管、直径 20.3×3.8 cm 、中の 110 ml の溶液中水面下 2.5 cm に浸した。
温浴は 1 日に 8 h 80°に保ち、夜間と週末は放冷した。
Results
予備実験
沸騰法では、1.5% C6H5COONa は本管水道水または 20%エチレングリコール中で鋳鉄を防食しないこと
を確かめた。その次の結果がえられたのは他の有名な抑制剤を含む 20%グリコ-ル溶液である。1.0%で
NaNO2 は機械加工鋳鉄を防食した(非常に薄い錆皮膜は別として)が、triethanolamine phosphate、disodium
orthophosphate Na2HPO4 および trisodium orthophosphate Na3PO4、のそれぞれは防食はほんの一部にとどま
り、孔食をおこした。
Sodium mercaptobenzothiazole(0.1 %)単独か 1.5% C6H5COONa 添加液による防食は部分的にとどまり、
残りは均一腐食であった。室温試験において、1.0 % NaNO2+本管水道水 は はじめ軽微な腐食をおこ
したが、それは続かなかった。Sodium mercaptobenzothiazole(0.1 %)単独か 1.5 % C6H5COONa 添加溶液
は室温の本管水道水中の鋳鉄の腐食に有効ではなかった。
機械加工試片と鋳造まま試片との表面仕上げの比較
20 % エチレングリコール中での定性的実験を実施した。古いシリンダーブロックから切り出した金属
片を用い、別個の溶液に入れる二試料の、一つは機械加工面、他方は鋳造まま面とした。室温で抑制剤
を加えない溶液、1.5 % C6H5COONa 添加溶液の両方とも腐食した。
1.5 % triethanolamine phosphate を加えると、機械加工面のみに緑色の腐食生成物ができたが測定にかか
るような発錆は起こらなかった。1、1.5、2 または 4 % の NaNO2 によって いずれの表面仕上試片も防
食された。
本管水道水と 20 % エチレングリコール溶液においてはいずれの表面仕上鋳鉄に対しても NaNO2 は最も
有望な抑制剤と結論した。
鋳鉄とはんだ接合品とのための混合抑制剤
初期の(未発表)研究 (7) によると、NaNO2 単独ではエンジン冷却系の抑制剤として使えない、こ
れは はんだ接合品を NaNO2 がひどく侵食するためであった。実験室試験において 20 % エチレングリ
コール中に 0.1 % を加えただけでもかなりの腐食がおこり、NaNO2 濃度の増大とともにますます激しく
なった(Fig. 1)。これらの試験には沸騰-管法を用いた。
C6H5COONa が はんだ接合品の防食に効くことがわか
り、20 % エチレングリコール溶液に C6H5COO-と NO2
-
との混合添加を沸騰-管法で調べることにした。
C6H5COO-濃度を増やすと はんだ接合品の防食にはよ
いが、鋳鉄にはよくなかった、しかし NO2-濃度を増や
すと逆に鋳鉄にはよく、はんだ接合品にはよくなかった。
まとめた結果を Fig. 2 に示すが、ここでゼロ以下のプロ
ットは重量減が重量の増加を示し、1.5 % C6H5COONa+
0.1 % NaNO2 の使用により 20 % エチレングリコール中
で両部材の防食が十分になることを意味する。Cu 試料を
52
Fig. 1 はんだ接合品(黄銅に黄銅をはんだ付
け)の腐食に及ぼす NaNO2 の影響:20 % エ
チレングリコール溶液中、断続的加熱・冷却試
験、28 日間 (140 h at 80°)
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
この液に入れると腐食はグリコール単独液中に比べても増加せず、抑制剤を加えなくても腐食は軽微で
あることがわかった。
断続的加熱と冷却を要するすべての試験
は、80°の溶液、あるいは試料の挿入後
上昇させた温度が 80°に達して直ちに、
開始した。液温を室温に保つ限り鋳鉄の
防食は達成されないことがわかった。実
際にはこの困難は起こらない、というの
は車両のエンジンは通例冷却系を不凍
(液)で満たして後直ちに始動し、これ
は液を加熱する効果をもつ。このあとの
室温時は鋳鉄の腐食はおこらないことが
わかっている。
Fig. 2
鋳鉄及びはんだ接合品の腐食に及ぼす C6H5COONa と
NaNO2 との混合の影響;20 % エチレングリコール中、沸騰-管
法、28 日間(140 h at 80°)、鋳鉄 A 平板:11.5×2.5×0.6 cm、は
んだ接合黄銅:(本文参照)
扇動液中試験
20 % エチレングリコール+1.5 %
C6H5COONa+0.1 % NaNO2 溶液をさらな
る試験にかけた。これは 80°に保っている
期間内に液に扇動を加えるものである。平
板にした鋳鉄、エメリー研磨した Cu 板と
はんだ接合した黄銅の二枚の試片はそれ
ぞれのビーカーにつり下げた。別々の試験
が 20 % エチレングリコール中で、抑制剤
添加なし および 以下を添加して実施し
た:1.5 % C6H5COONa、0.1 % NaNO2 (一
回試験)および 1.5 % C6H5COONa+0.1 %
Fig. 3 鋳鉄及びはんだ接合品の腐食に及ぼす C6H5COONa と
NaNO2。すべての試験において Cu の腐食
NaNO2 との影響;20 % エチレングリコール中、扇動液中試験、
12 日間(50 h at 80°)、鋳鉄 A 平板:11.5×2.5×0.6 cm、はんだ接
は微量で重量減は抑制剤の有無にかかわ
合黄銅:(本文参照)
らず 5~20 mg / 12.7×2.5 cm の S.W.G.板、
であった。Fig. 3 にまとめた結果からわか
るように、1.5 % C6H5COONa 単独は はんだ接合黄銅と多分鋳鉄の、腐食を減らす。0.1 % NaNO2 単独は
事実上鋳鉄を十分防食するが、はんだ接合黄銅の甚大な腐食をひき起こす。目視によれば腐食は はん
だ接合部に集中し、黄銅の腐食は軽微であった。鋳鉄とはんだ接合黄銅との両者を十分防食したのは、
1.5 % C6H5COONa+0.1 % NaNO2 であった。早期試験(Fig. 2)結果を確かにするこれらの結論は 1.5 %
C6H5COONa の添加有無のグリコール中での鋳鉄の複製試験での重量減のかなりのばらつきの影響は受
けていない。
ばらつきが予期できなかったのではないが、ただ異なる試験間で通気の程度と液の動き量とを再現する
ことが難しかった。
53
腐食センターニュース No.064
初期の室温期間の影響
鋳鉄でよい結果がえられたのは混合抑制剤を加えた溶液が
初期に加熱されたときだけだった、といわれてきた。初期
の室温浸漬の鋳鉄の最終的腐食に対する影響を、1.5 %
C6H5COONa+0.1 % NaNO2 を添加あるいは添加しない 20 %
エチレングリコール中で調べた。試料の鋳鉄 B (Table 1)、
2.5 cm×1.6 cm 口径で 0.36 cm の穴をもつ、は沸騰-管、20.3
cm 長さ×3.8 cm 口径、中にガラスフックによりつり下げた。
溶液は室温に、1 h 、1、3、7 および 14 日間保ったあと、
80°の湯浴中に移し 1 日 8 h 保ち夜間は徐冷し、どの試験
でも 14 日間つづけた。平均的結果を Fig. 4 に示した。抑制
剤を加えないグリコール液では、初期の室温に長く保った
ものほど腐食が少なかったのは、この液中では腐食速度が
高温ほど大きいためである。
抑制剤を加えたグリコール液では 1 h の室温保持後加熱し
たものの腐食は軽微であったが、全試験時間の 14 日間室温
に保持したものの腐食が最大であった。加熱の有効性を確
かめることができた。
2013 年 5 月
Fig. 4 鋳鉄の腐食に及ぼす室温浸漬保持
時間(断続的加熱・冷却試験のために 80°
まで温度を上げるまでの保持時間)の影響。
試験期間は 14 日間、鋳鉄 B (長さ 2.5 cm、
直径 1.6 cm)。
I
20 % エチレングリコール
Ⅱ 20 % エチレングリコール+1.5 % C6H5COONa
+0.1 % NaNO2
室温での腐食抑制
研究は別々の二系列で進めた。20 % エチレングリコール+1.5 % C6H5COONa+0.1 % NaNO2 の次の試験
は車輌冷却系の走行条件下に実施した。この試験のかんたんな予備試験結果はほか(8、9)に出してい
るが、全体のそれは PartⅡ(印刷中)とする予定である。実験室試験は鋳鉄と はんだ接合品との双方の
室温での防食をはかる混合抑制剤の開発をめざしている。
鋳鉄。― 1.0 と 1.5 % C6H5COONa 有無の 20 % エチレングリコール液中の NaNO2 の濃度効果をまず鋳
鉄について調べた。0.95 cm 長さ×1.6 cm 口径の鋳鉄 B を用いた。0.36 cm の穴を中央にあけ ガラスフ
ックにかけ、3.2 cm 口径のガラス容器内の 40 ml 液中につり下げた。C6H5COONa 添加下に鋳鉄を防食す
るのに必要な NaNO2 濃度は 0.3 % であった(Fig. 5)。30 % グリコール液中でも同様の試片で実験を進
めた。NaNO2 を 0.1 % 以上含む液中ですべての試片が防食された(Fig. 6)のは、明らかにグリコール
濃度を増した効果によろう。
次の試片(2.5 cm 長さ×2.2 cm 口径)では鋳肌を損なわないように、鋳鉄 B の棒材を切断した。切断端
面にはワックスを塗り、鋳造まま面のみが液にさらされ腐食が目視でわかるようにした。試験結果(Table
Ⅱ)によれば、鋳肌面の防食には、より高濃度の NaNO2―20 % グリコール液では 0.5 % 、30 % グリ
コ-ル液では 0.3 %― 、C6H5COONa は 1.5 % に一定、が必要である。
はんだ接合品。- 鋳鉄は加熱液中で容易に防食されるが、はんだ接合品は、そうでない。室温(およ
び高温)で鋳鉄を防食するだけではなく、室温および断続的加熱条件下にはんだ接合品をも防食するに
は 混合抑制剤の発見が望まれる。沸騰-管を用いての 53 日(250 h は 80°)試験で、はんだ接合品は 30 %
グリコール+1.5 % C6H5COONa+0.3% NaNO2 液中で若干の腐食兆候を示した。C6H5COONa を 2.0 % に
増やしても変わらなかった。
54
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
Fig. 5 鋳鉄の腐食に及ぼす NaNO2 濃度の影響。
試験期間は 222 日間(室温)、鋳鉄 B (長さ 0.95 cm、
直径 1.6 cm)。
● 20% エチレングリコール
□ 20% エチレングリコール+ 1%C6H5COONa
△ 20% エチレングリコール+1.5%C6H5COONa
Fig. 6 鋳鉄の腐食に及ぼす NaNO2 濃度の影響。
試験期間は 222 日間(室温)、鋳鉄 B (長さ 0.95
cm、直径 1.6 cm)。
● 30% エチレングリコール
□ 30% エチレングリコール+ 1%C6H5COONa
△ 30% エチレングリコール+1.5%C6H5COONa
次には C6H5COONa は 5 % に増やし、NaNO2 は 0.3%のまま、しかしグリコールは 30 % から 25 % に減
らした。これができるのは C6H5COONa は不凍効率を落とすことなく グリコールの一部におきかえうる
ためである。この液中で鋳鉄は 100 日間室温に耐えた。はんだ接合品は侵食されず以下の液中で 2 年間
以上防食された:
25 % エチレングリコール + 5 % C6H5COONa
25 % エチレングリコール + 5 % C6H5COONa + 0.3 % NaNO2
25 % エチレングリコール + 5 % C6H5COONa + 0.4 % NaNO2
25 % エチレングリコール + 5 % C6H5COONa + 0.5 % NaNO2
この期間中 25 % グリコール単独液中では試片は はんだ接合部で折損してしまった。その後の研究(進
行中)によると、5%C6H5COONa を用いると、鋳鉄とはんだ接合品とに関する限り NaNO2 を不要とし
うるかもしれない、ただしこれにはさらなる研究が要る。
結論
(1) C6H5COONa が鋳鉄を防食する効率は軟鋼の防食のそれよりかなり低い。
(2) 実験したいくつかの物質のうちでは、NaNO2 は鋳鉄の腐食抑制に最も効果的である。
(3) NaNO2 (0.1 % 以上)は、とくに断続的加熱・冷却条件下に 20 % エチレングリコール中での
はんだ接合品の腐食を激しくする。
(4) 1.5 % C6H5COONa+0.1 % NaNO2 の添加は、断続的加熱・冷却条件下の 20 % エチレングリコー
ル液中で鋳鉄、はんだ接合品、黄銅および Cu の腐食を抑制する。鋳鉄の防食には初期の短時間加
熱が必要である。
(5) 室温において 1.0 または 1.5 % C6H5COONa を含む 20 % エチレングリコール中で機械加工鋳鉄
を防食するのに 0.3 % NaNO2 が要る;30 % グリコール中では 0.1 % NaNO2 で十分である。鋳造ま
まの鋳肌面をもつ鋳鉄の防食にはさらに高濃度の NaNO2 が要る。
文献
55
腐食センターニュース No.064
アルミニウムの水腐食
†
出典
2013 年 5 月
Part 2-200 C 以上で耐性を得る方法
†
Aqueous Corrosion of Aluminum, Part 2 - Method of Protection Above 200 C
J.E. DRALEY and W.E. RUTHER : Corrosion,12, 480t~490t (1956).
概要
高温になるとほとんどの Al 合金は水溶液中で激しい侵食をうけ、比較的急速な破壊に至る。この侵食
は腐食生成物としての水素が金属中へ侵入する結果としておこる損傷である。これを防止する方法の一
つは、Al 上で還元されて水素過電圧の低い金属析出物を形成する正イオンを水溶液中に加えることであ
る。また水溶液にではなく同様の金属を Al に合金してもよい。有効と判明した合金元素は Ni、Cu、Co、
Fe および Pt で、Ni との合金が最も有効である。開発された合金の一つは、1100 Al に約 1 % の Ni を
含むもので、350 ℃までの侵食に対して十分安定とみられる。製造と加工も容易である。静置の蒸留水
中の侵食速度は 150 ℃で約 0.5 mdd、350 ℃で 18 mdd である*。これらの値は流速が上がると大きく
なる。
*
常温の密度を仮定したとき Al では 1 mdd=13.5 μm/y である。
CP(商用純)Al 1100 は 100 ℃未満の水冷原子炉の燃料被覆材として使われている(1)。温度がこれ
より上昇する場合の水中腐食速度データは 200 ℃が限度としている。いくつかのその他標準的商用合
金も本質的には同様の挙動を示している(2)。
上記温度を超えると、試験期間にもよるが、腐食挙動に急速な変化がおこる。Al 酸化物の単一水酸化物
皮膜はもはや平滑・均一ではなくなる。金属上に酸化物-金属混合物から成るブリスターの形成が加速さ
れ金属中に侵入してゆき、急速に使用に耐えなくなる。このような損傷が始まる試験期間は、温度(1)・
合金組成(2)と機械的・熱処理条件(3、4)に依存する。
この観点から最悪と想われるのは高純度金属である。あの最低温度から損傷が始まり(5) 機械的条件
にも敏感である(6)。より長時間実施された Strom、Litz と Boyer (7)の試験で認められた腐食量再
現性の欠如は上記項目によって説明されよう。
温度 200~350 ℃の水中使用において、もし Al がより高価な構造材料と競合しようとするなら、これ
らの破局的腐食を解消せねばならず、適切な抑制剤の水中添加あるいは Al の合金化が要請される。本
研究ではこれら二つの目標がともに達成された。ここに報告する結果のいくつかはすでに報告されてい
るが、対象は限られていた。それらの機会・文献は以下の二つである。
・International Conference on the Peaceful Uses of Atomic Energy in Geneva, Switzerland, August
8-20, 1955 (Volume 9)
・Argonne National Laboratory Report ANL-5430, July 15, 1955.
それらをここで繰り返すことになるが、最近の知見による補充を含めて、より広い方々へ情報を送るこ
とにしたい。
本研究が Huddle と Wilkins (4) とは独立に、かつほとんど同時期に進められたことは興味深い。こ
れら研究者も現象を説明し、我々と同様の合金製造にさしかかられたこのときに、これら結果を公表す
るのである。両者の一致はことのほか良好に想える。
56
腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
Results
1100 Al は 200 ℃以上の純水中で腐食して、はじめに平滑で密着性のよい α-Al2O3-H2O(X 線回折)の
皮膜を形成する。試験時間と温度との上昇につれて表面酸化物は粗化しはじめる。この粗化は顕微鏡下
に数多くの小さな突起物が表面から外方へ伸びた結果である。これら突起物は盛り土状に成長し裸眼に
もはっきり見える。盛り土状物は酸化物と金属との混合物で、粒界のごとき金属格子欠陥部に発生し惜
しみなく成長する。細粒材や変形の少ない構造は通例この攻撃には耐性があり、薄い冷延板はよくなく、
粒粗大化焼鈍材はさらによくない。これらは粒界幅の増大によると想われる。押出し棒材は一般によい。
Lavigne (6) が工夫した注意深い圧延による改良は表面での粒方向と細径調整によるのであろう。
250 ℃で数週間、315 ℃で数時間経つ(1)と、腐食速度は急速に立ち上がり、
“ブリスター”型の侵食
がおこる。金属中への侵食はほとんどの活性位置でおこる。
予備的試験(1)でわかっていたように、この破局的変化をなくさない限り意味のある腐食速度の測定
は試みても無効であった。したがってこの現象にかかわる情報は注意深い実験によってもごくわずかし
かえられなかった。
1100 Al をステンレス鋼または Zr に電気的につなぐと、315 ℃の水中でのブリスター腐食の開始を遅
らせ寿命を大幅に延ばせることがわかった。特殊オートクレーブ中での電気的測定によって、これら他
金属は cathodic(貴電位を示す)であることがわかりアノード防食の一ケースになった。アノード防食
は Al 上の皮膜をたえず補修し、あるいはアノード領域の pH を低下させると当初は推定した。
そこでこの機能を実行するため酸化剤を加え液の pH を下げることにした。選んだのは K2Cr2O7 (低温
で有名な腐食抑制剤)で pH3.5 の硫酸に加えた。もう一つ可溶性シリカ (Na2SiO3 として添加) も選
んだ。はじめの小オートクレーブでの試験ではオートクレーブ自体が抑制剤の急速な欠乏をまねくこと
がわかり、循環式の試験に切り替えた。
これら実験の結果を Table 1 に示す。pH と酸化剤との どの組合わせにおいてもブリスター腐食の抑制
はみられない。ただ、pH 低減は蒸留水に比較して 250 ℃での前ブリスター腐食速度を下げる、しかし
酸液への酸化剤添加は実際には前ブリスター腐食を増大させた。
もともとは多種の添加物も計画していたが、上記ステンレス鋼との電気的接続効果の別の解釈を検討し
た。ここで仮定したのは、アノード防食の重要な効果はカソード反応 (水素発生) を Al から遠ざけ
るのではないかと。ブリスター腐食を大きく抑制するのはカソード反応の抑制そのものではないかと考
えた。
この基本的な考えをもとに、他の手がかり、他の金属での腐食での諸因子のかかわり-たとえば鋼の脆
化-、をあわせて入念に検討し到達した指導仮説は;液からプロトン H+が Al 酸化物の障壁層を通過し
て金属/酸化物界面で原子状水素 H に還元される、この水素原子は結合して分子になったり金属中へ拡
散侵入したりする。原子・分子ともすぐにも酸化物層を通って、来た道を戻るものではない。高温でも
あるから金属中へ拡散侵入するのものや割れ目・空隙に集まって非拡散性の分子水素になるものがあろ
う。これらの割れ目内で圧力が高まり、き裂または膨れが軟質金属をブリスターに導く。これらブリス
ターが破裂するとき新生金属面に水がとりこまれ通常表面よりはかなり内部に多量の水素を生む。この
ような反応過程は実験の示すとおり自己触媒的に進むとおもわれる。
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腐食センターニュース No.064
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上記の指導仮説によって提示された、腐食課題への取組み方法は:
1.空隙や転位をもたない Al を準備し、原子状水素が、第一に低い拡散速度をもち、第二に蓄積して
ブリスターを作らない、ようにする。
2.つくるカソードは水素過電圧の低いものにし、腐食反応で発生する水素が分子状という状態に限ら
れ、Al 金属中へ拡散侵入できない場所にとどまるようにする。
3.原子状水素の拡散侵入を不能にする新たな機能を Al 金属に備える。
Vacuum Casting
金属中の空隙を最少にする方法の一つは注
意深い真空溶解-鋳造である。これを 1100 Al
で試みた。この材料(alundum 坩堝中で溶
解し再凝固)でつくった試料は 300 ℃の水
中で試験期間 30 日までブリスター腐食に耐
えた。通常の 1100 板との外見比較を Figs. 3
と 4 に示す。
凝固まま材に種々の加工・焼鈍を加えた。こ
Surface of “normal”1100 Al sample
Surface of vacuum-cast 1100 Al
れらの結果を Table 2 に示す。凝固まま材
after 66h in dist. water at 300 C.
after 66h in dist. water at 300 C.
(ケース 1) に比べて、ほぼ同等のケース 2
Fig.4
vacuum-cast 1100
Fig.3 “normal” 1100 Al
を除いて、ケース 3~6 はいずれも早くブリ
スター腐食をおこした。凝固材に加えた加工は 550 ℃-4.5 h の焼鈍によっても追い出せない空隙や転
位をつくり、これらは水素の拡散侵入とブ
Table 2
リスター形成をもたらす。
高純度 Al (99.99+%)も真空溶解-凝固に
かけた。真空処理を加えない比較材を含め
て 290 ℃-24 h で酸化物になってしまい
有意な改良効果は見出せなかった。
実用製品の製作に不可欠な加工が“凝固ま
ま”材の優れた耐食性を損なってしまうと
の結果は 1100 Al による実用製品の製作不
能を物語り、別方法の探索が求められるよ
うになった。
Electrical Protection
二つの簡単な実験を工夫して第二の、ある
いは“remote カソード”法の可能性を調べた。第一の実験では 1100 Al とステンレス鋼との両電極間
に電流を流した。極性を逆にした実験、電流を流さない実験も行った。325 ℃の蒸留水中で 20 μA/cm2
-4 h の電流を流した。
58
腐食センターニュース No.064
Fig.5 に示すように結果は予想どおりであった。アノード試料
上には基本的にブリスターは見られず、最も高いもので 76 μm
の、数個だけであった。このケースではカソード反応(2H+ →
H2)のほとんどはステンレス鋼電極上で進んだと想われる。
極性を逆にしたケースでは、Al カソード上に最高約 1.5 mm
のいくつかの大きい突起と同寸法の孤立的ブリスターが形成
された。電流を流さない比較試料には 5 つの大きいブリスタ
ーができ、これは上記アノード/カソード-両試料の中間ほど
である。水蒸気相(電流は流れていない)ではすべての試料
にブリスターが同程度できていた。
同じ方式の実験を高純度 Al で実施した。250 ℃で電流は約
1.2 mA/cm2(没水部の面積あたり)に増やし、時間は 2 h に
減らした。これは高純度 Al のより大きい腐食性にあわせたも
のである。両電極の上方に見える かさ高い白色被覆は水蒸気
相中での腐食生成物である。アノード試料の水線下方には小
ブリスターが数個生じているが他所ではごく軽く腐食してい
るだけであり、カソード試料では水相中での腐食が水蒸気相
中より少し速い。この実験ではアノード防食がとくに注目さ
れた。
2013 年 5 月
anode
Fig. 5
control
cathode
“ブリスター”腐食と電流
Solution Protection
第二の実験では試験液に還元性の金属イオンを加えて、“remote カソード”法の可能性を調べた。50
ppm のカチオンを含んで pH を H2SO4 と NaOH で調整した。1100 Al 板を脱気した 300℃の水中で 48
h 腐食させた。
試料の外観と重量変化との関連をみる。重量変化の小さい試料は平滑で、密着性のよい皮膜を表面の大
部分にもち、また金属のようにきらきら輝く物質-孤立的に樹枝状に成長した-を顕微鏡下に見ること
ができる。
硫酸ニッケル中で成長した例を Fig. 7 に示す。Co2+、Cd2+と Ni2+
溶液ではブリスターは見られない。この防食は 48 h という短時
間効果によるのではない。50 ppm Co2+ 溶液(300℃、pH3.0、
24 日)中の試験の終了時において生成していたブリスターは焼
鈍後に穿孔された試料支持孔周辺に限られていた。
原子炉で使われる可能性があるため、試験は Co2+、Cd2+ではな
く Ni2+を用いて開始した。試験は 1100 Al 板、温度は 275℃で
ある。試料と温度との組合わせは、蒸留水中でブリスターが一
週間以内に検知されるよう設定した。データを Table 4 に示す。
Dendritic nickel deposited on 1100 Al from NiSO4
solution (50 ppm Ni++)
Fig.
7
1 ppm、5 ppm Ni2+ (pH 非制御)の結果は芳しくない。液中成分の欠乏が 10 ml/min の流速下では著
しくブリスター腐食はそれほど抑制されなかった。Table 4 に示すように、Ni2+ 濃度を 20 ppm に高め
てはじめて防食性が著しく増強された。同時に上記欠乏問題も強調された。試験液から失われた Ni2+
はスライム形成に使われ試料上やオートクレーブ内壁に沈着した。
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腐食センターニュース No.064
(以下略)
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“remoto カソード”を与えてのもう一つの防食法では 1100 Al に Ni 皮膜をめっきした。“Kanigen”
浸漬方式を使った。最初の試料は Ni めっきした 1100 Al 管であった。この管を注意深く曲げてゆき、
Ni めっき層に割れを入れ、1/32 インチ(0.79 mm)厚さの断面上のめっきを除去するまで研磨する。
これは完璧なめっきが必要かどうかの検証に使
Table 4
った。300℃-25 日間の腐食試験は露出した
1100 Al にブリスターが発生しないこと、すなわ
ち完璧な被覆でなくても防食が可能であること
を示した。
(Kanigen 方式と電析法との両者によ
り)めっきした 1100 Al のさらなる試験が the
Reactor Engineering Division の高温グループ
で実施された。試料は 315℃の循環式(流速は
約 16 ft/s、4.88 m/s)で数ヶ月持ちこたえた。
Alloys
この計画で最も興味ある段階の一つは最低でも
350℃までの蒸留水中でブリスター耐性のある
合金を開発することであった。同様の水素侵入
の基礎的理論によると、水素過電圧の低い第二
相を析出するような合金元素を選び周囲の Al 粒
に対してカソードとして働かせる。Ni は明らか
な選択対象であった。
予備的試験で、0.01、 0.1 と 0.3 w/o Ni を含む 1100 合金を鋳造し冷間加工の後 290℃の蒸留水に暴露し
た。0.01 w/o 試料でさえもいくぶんの改善効果を示した。0.3 w/o Ni 試料は 17 日間で片隅(角)にた
った 2 つのブリスター群をつくっただけで、その他表面は良好な状態を保っていた。この暴露条件下で
通常の 1100 合金は大部分が酸化物に変っていた。
予備的鋳造に基づいて多数の小融体を
Argonne で 作 り 、 実 験 合 金 の 入 手 に は
Kaiser、Aluminum Company of America
および the Sonken-Galaby Company など
の会社の好意をえた。Fig. 8 のデータが腐
食速度の低下にほとんど効果を示さない
のは Ni 量だけを変え その他の変数は極力
一定に保ったためである。これら一連の合
金は Kaiser 社から用意された。重量増曲
線が実際の腐食速度の信頼できる測定値
でないのは酸化物の構成と試験中に失わ
Effect of varying nickel content on the corrosion
of 1100 aluminum-nickel alloys.
れた酸化物量の不確かさのせいである。し
Fig. 8
かし重量増データは暴露試験結果終了時
点での喪失金属量と組み合わせることで予備的な推算に役立つ。暴露時間をかえて(酸化物を)stripping
してえられた推算値は 315℃で 3 mdd(0.08 mm/y)、350℃で 18 mdd (0.23 mm/y)である(Table 5)。
さらに精確な連続的更新オートクレーブ系での腐食速度測定は低温域では完成していた。腐食の経時曲
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
線は 200℃以下での 1100 Al のそれ(初期に急速で、その後は遅い一定値につづく)に似ている。結果
は Table 5 に示した。より高い温度での腐食速度は低温データの外挿値より明らかに低い。引用文献 1
では、たとえば、275℃の蒸留水中での 24 mdd という短期データがえられている。290℃での腐食速度
における低 pH の、歓迎すべき効果は、低温での 1100 Al 挙動との類似性から期待されるそれより小さ
い。
Table 5
蒸留水中では流速(試料を通過して
ゆく)の効果は合金の腐食速度をよ
り大きくする。C.R. Breden によっ
て 260 と 315℃、16~20 ft/s で実施
された試験では腐食速度は静的条件
下速度の 2 倍を少し上まわる。加え
てエロージョン効果が、乱流が最大
になる位置で指摘されるようになっ
た。硫酸-再生カチオン樹脂により維
持される pH 5 では、流れにともな
う類似の腐食速度の増大が注目されている。しかしこれらの試験ではエロージョンは観察されなかった。
水中溶存水素量への明らかな感受性は高流速下の腐食速度に観察されている。これらの研究は未完成で
あるが、溶存水素量の維持 は高流速への感受性をかなり低減する。水素の役割はもっぱら酸素濃度を
低く保つことにありそうだ(が確かとはいえない)。
すべての腐食試験において合金試料は共通して平滑で暗灰色の腐食生成物層に覆われていた。網状のよ
り黒い線が表面に見える。同じ型の網線は NaOH 液で金属をエッチしたときに現われ、これは Fig. 9
に示す。敢えて言えば、これら暗線は Ni を濃化した粒界であって、耐食性の低い局部腐食カソードと
なっていよう。
Melting and Casting Techniques
この一連の研究ではかなりの数量の合金鋳物を準備して
腐食試験にかけてきた。この間によく気づいたのは、試
験前に多孔性を示した試料は暴露すると“ブリスター”
を発生したことである。通例ブリスターはそう急速には
成長しなかったが、表面損傷を残したものはいくつもあ
る。これら孔の大半はトラップされた水素によるもので
あろう。
実験的に準備した鋳物の公称組成は、1 w/o Ni を加えた
1100 Al というように一定であった。1つは真空溶解-鋳
Fig. 9 ―1100 Al の組織― 0.3 % Ni 合金
造、3つは溶湯に乾燥塩素、乾燥 Ar および空気をそれぞ
れ吹き込んだあと大気下に鋳込んだ。これら 4 つの複製試料は 350℃の水中 6.3 日間試験で良好な耐食
性を示した。みなほぼ同等の腐食量 2.2~2.7 mg/cm2 を示したが、外観は同じではなかった。微視的ブ
リスターが吹き込み-大気下鋳込み品のいずれにも少なくとも1つに認められ;真空鋳造品にのみブリ
スターは発生しなかった。
その後気体吹き込み溶湯の鋳造サイズを小さくすると有孔度が下がることがわかり、通例腐食試験試料
にブリスターは発生しなくなった、こうした方法の手順によって以降の実験に用いる鋳造品を準備する
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腐食センターニュース No.064
ことにした。
2013 年 5 月
Effects of Iron and Silicon in Al-Ni Alloy
とくに Fe の共存しない場合 Si は
有害であるが、坩堝からの侵入が
避けられないことを考慮してこの
Si の逆効果を抑制するのに必要な
Fe は 0.3 w/o と求められた(Table
7)。以上の現象の解釈に用いた仮
説は、水素侵入と引き続くブリス
ター形成がおこるカソード場とし
て、Al 基地と Ni・Fe を合金して
つくる化合物(あるいは第 2 相)
とが競合するとするものである。
第 2 相の代表として選んだ共析組
成化合物で測定した開路電位 (Table 8)
が最も貴な Ni は最も優れたカソードに
なりうるが、主に粒界に現われ面積が十
分でない。主に粒内に分散する Fe も面
積が十分でなく、Al 基地と同等の固溶体
内に入る Si は固溶濃度が過多のため希
釈されすぎて独自の性能の発揮は無理で
あろう。(訳者によるまとめ)
Table 7
Table 8
Discussion
Validity of the Hydrogen Penetration
Theory
高温の水中に暴露された結果としておこった Al 合金への損傷の解釈は、水溶液腐食における水素の役
割に関する一般的理論の一部に属する。これをもっと完全に提出するのは将来のことになるが、この場
合の腐食反応中に水素が Al 中へ拡散侵入したことの十分な直接的証拠は入手できる。腐食金属中の水
素量の測定は実験的困難に妨げられているが、現時点においても熱水中での腐食の結果として 1100 Al
中の水素量が確かに増加し、また優れた Ni 合金中へはほとんどあるいはまったく入らないと言明する
ことができる。
ある試料が図的に教示しているのは金属形状のひどいゆがみが固体腐食生成物の形成とは異なる原因
で実際におこっていることである。この場合比較的大きな空隙が試料内部に見られ、結果としてのふく
れをともなっている。腐食によりもっとこまかいブリスターを現している多数の試料を調べた。ほとん
どの“ブリスター”は金属と酸化物(腐食生成物)との混合物で満たされている。しかしながら、偶然
的な空のブリスターを発見することがあり、これは金属に生じた損傷をすぐさま観察できたのであり、
その後腐食が十二分に進むと腐食生成物がブリスター内部に取り込まれてゆくのだと確信した。上記理
論は金属組織とゆがみとの観察によく適合している。構造の一部を押し開き、より急速な水素拡散を許
すものが破壊速度を早めるのである。
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腐食センターニュース No.064
2013 年 5 月
熱水中(腐食)でのカソード概念の有効性を明らかにした電気化学的測定もブリスター腐食の抑制(実
現)とよく関連づけられている。
上記理論の最上の論拠は Al と他金属とに生じた多くの異常な腐食現象を十分に説明しえたことである。
腐食速度に影響する損傷因子がどんなに変ってもアノード防食の適用が可能であることが予測できた
のはその一例である。本件は電気化学的腐食機構のありきたり例の正反対であるがために、すでに経験
ずみの稀有例も異常例とみなされてきたのであろう。そんな効果を上記理論が描く明解さは印象的であ
る。その公式化にあたって、ほとんどの商用合金にはあたりまえであった急速崩壊から Al を守る方法
を提出できたのも印象的であった。
Alloy Composition
“最適な”合金組成を示すことは(現時点では)できない。約 0.5 w/o あるいはそれ以上の Ni を 1100 Al
に加えて加速的ブリスター腐食を抑制することはすぐにでも再現性よくできる。合金量を最少にとどめ
る観点からこの合金は望ましい組成に近いとも想われる。中性子吸収を最少にするのが望まれる原子炉
への適用にもよいであろう。そのような合金では Fe+Ni 量が 0.8 w/o 未満であってはならず、Ni 量は
0.5 w/o 超でなければならない。もし 1100 Al 中の Si が通常より多いときは、その悪影響を減殺するた
めにより多くの Ni を加える必要があるだろう。通常の 1100 Al 中の Cu が、適切な合金の製造上有意な
利点をもつかどうかは知られていない。従来知見によれば適切な合金は高純度 Al に Ni と Fe を加えて
作ることができるが、Cu は必要とされていない。
他に考慮すべきは高温における合金強度の問題である。この報告で議論してきた合金は、この特性にお
いて商用純 Al を超える優位性はもっていない。Cu または Fe をかなり高めに含ませた合金はこの目的
を達成する望みがあるようであり、腐食による金属の急速劣化も防ぐ望みもあるかもしれない。
以下略
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腐食センターニュース No. 064
2013 年 5 月
目 次
「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」
第 1 報:腐食の基礎と海水腐食の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
腐食センターニュース No.064
腐食センター(腐食防食学会)20 周年記念シンポジウム
にあたり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
( 2 0 13年 5月 )
発行者:(公社)腐食防食学会 腐食センター
電子部品用銅材料の腐食挙動と防食技術
Ⅰ、銅の腐食変色、腐食皮膜形成の特徴と影響・・・・・・・・・ 10
Q&A 海水環境での 304 ステンレス鋼の腐食・・・・・・・・・・・・ 24
亜硝酸ナトリウム―水溶液腐食抑制剤としての特性・・・ 28
〒113-0033
東京都文京区本郷2-13-10 湯淺ビル5階
Tel:03-3815-1302,Fax:03-3815-1303
E-mail : [email protected]
URL
: http://www.corrosion-center.jp/
NaNO2 濃度の低下――共浸鋼板・温度・酸素の影響・・・・・・ 33
亜硝酸による腐食抑制:いくつかの使用経験・・・・・・・・・・ 37
水及び水溶液中における腐食抑制剤としての安息香酸
ナトリウム及びその他の金属ベンゾエート・・・・・・・・・・・ 41
エチレングリコール不凍液中腐食抑制剤としての安息
香酸ナトリウムと亜硝酸ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
「腐食センターニュース」の 創刊号以来の
バ ッ ク ナ ン バ ー は 腐食センターの
上記ホームページで閲覧できます
本センターニュースに掲載されている記事は、
著者の意見を表すものであり、必ずしも腐食セ
ンター及び腐食防食学会の意見を表すものとは
限らない。
アルミニウムの水腐食 Part 2-200 C 以上で耐性を得
る方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
ここに掲載された文章および図表の無断使用,転載を禁じます.©腐食防食学会
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