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R r
量子力学講義ノート
平成 25 年度
そ の 結果 は 水素 原子 や He+ な ど につ いて 測 定さ れたス ペ クト ル と非 常に よく 一 致す る 。
R(r ) = c(r )/ r とおくと, r 2R ¢ = rc ¢ - c より (r 2R ¢)¢ = rc ¢¢ となることから式(15.4)は
-
 2 d 2 d æç  2l (l + 1) kZe 2 ö÷
+ç
÷ dd
=E
2m dr 2 çè 2mr 2
r ÷÷ø
(15.5)
となり,より簡単な形となる。これは古典的な取扱いにおける式(13.9b)に類似している。さらに,
無次元量 r と e を,式 r = a 0 r と E = (kZe 2 / 2a 0 )e で導入する。ここで,a 0 = aB / Z ,aB =  2 /(kme 2 )
であり, aB は Bohr 半径である。これにより,式(15.5)は
-
d 2 d(r) æçl (l + 1) 2 ö÷
+ç
- ÷÷ d(r) = ed(r)
çè r 2
d r2
r ø÷
(15.6)
となる。ここで,r は距離,e はエネルギーと考えてよい。l (l + 1)/ r 2 は遠心力ポテンシャル,-2 / r
は核と電子の間の電気的なクーロン引力によるポテンシャルである。両者の和が実効ポテンシャ
ル Veff (r) = l (l + 1)/ r 2 - 2 / r である。この実効ポテンシャルの中を電子が運動するときの定性的
なことについて最初に議論しておく。ただし, e < 0 の場合を考える。 l = 0,1,2,  の場合につい
てのVeff (r) を右図に示す。この図より,古典的には電子の運動はVeff (r) £ f を満足する範囲内に束
縛される。つまり,この不等式の解を r1 , r2 ( r1 £ r2 )とすると,運動は r1 £ r £ r2 の範囲で
起こる。従って,§10 における 1 次元の問題の取り扱いからわ
かったように,ポテンシャルに束縛された状態のエネルギー固有
l(l+1)/ρ2
値はとびとび(離散的)になるという性質を有するので,今の場
合のエネルギー e も離散値となる。
Veff(ρ)
l = 0 のときは,遠心力ポテンシャルがゼロなので r1 = 0 であ
る。このときは,電子は,核の位置( r = 0 )に接近するほどポ
テンシャルエネルギーを得するので, r = 0 でも 0 でない確率密
度を持つ。即ち,R(0) ¹ 0 である。また,r が大きいところでは,
ρ2
ρ1
0
ρ
ε
古典的には r2 より遠くには行けないことになるが,量子論的に
は波動性のため電子は r2 を超えて存在する確率を持つ。
-2/ρ
l ³ 1 のときは,遠心力ポテンシャルがゼロでないので,Veff (r)
は極小を持ち,古典的には,電子は r1 £ r £ r2 の範囲でのみ運動
する。量子論的には,この範囲に電子は大きい存在確率を持つが,
波動性のためにこの外にも存在確率を持つ。しかし,核の近くでは無限に高い遠心力ポテンシャ
ル(§10 における完全剛体の壁に類似)のため確率密度は非常に小さくなり, R(0) = 0 である。
これは l が大きいほど顕著となる。また, r > r2 では, R(r ) は急速(指数関数的)に減衰する。
【Q15-2】 R(r ) = c(r )/ r のとき, r 2R ¢ = rc ¢ - c と (r 2R ¢)¢ = rc ¢¢ を導いて,式(15.4)から(15.5)
を導出せよ。
【Q15-3】式(15.6)を導出せよ。
【Q15-4】実効ポテンシャル Veff (r) = l (l + 1)/ r 2 - 2 / r の極値を求め,rmVeff (rm ) = -1 を証明せよ。
rm はVeff (r) が極値となるときの r の値で, rm = l (l + 1) である。
45
量子力学講義ノート
平成 25 年度
15.3 動径 Schrödinger 方程式の解
c(r) に関する微分方程式(15.6)の解法について述べる前に,この方程式を解いて得られる結論を
先に述べておく。
【結論】
境界条件は,r = 0 において c(r) が発散せず,しかも r ® ¥ のとき c(r) ® 0 となることである。
この条件を満足する解は,エネルギーが en = -1/ n 2 で与えられる離散値をとるときにのみ存在す
る。つまり,
en = -
1
,
n2
En =
kZe 2
mk 2e 4 Z 2
en = 2a 0
2 2 n 2
( n = l ,,
1, l 2,  )
(15.7)
である。ここで, n は正の整数で,不等式 n ³ l + 1 を満足するものだけが許される。この n は
主量子数 (principal quantum number) と呼ばれる。エネルギー固有値 En に属する動径波動関数
Rnl (r ) は次式で与えられる。
Rnl (r ) =
æ
ö
ççx = 2 r = 2 r ÷÷
çè
n
na 0 ÷ø÷
cnl (r )
= -K nl xle -x / 2L2nl++l1 (x)
r
æ 2
K nl = çç
çè na
3/2
ö÷
÷÷÷
0ø
é (n - l - 1)! ù
ê
ú
ê 2n [(n + 1)!]3 ú
êë
úû
(15.8a)
1/ 2
(15.8b)
ここで, L2nl++l1 (x) はラゲール(Laguerre)の陪多項式である。その定義や性質については Appendix B
を参照されたい。また,この講義ノートにおける陪多項式の定義は,Schiff や Messiah による量子
力学の著書によるもので,
「岩波数学公式Ⅲ」によるものと異なっていることに注意せよ。L2nl++l1 (x)
は, x に関して (n - l - 1) 次の多項式であり,次式で与えられる。
2
L2nl++l1 (x) = -[(n + l )!]
(-1)k x k
n -l -1
å k !(n - l - 1 - k )!(2l + 1 + k )!
(15.8c)
k =0
また次の正規直交関係が成立する。
ò
0
¥
Rn ¢l (r )Rnl (r )r 2dr =
ò
0
¥
dd
n ¢l (r ) nl (r )dr = dn ¢n
(15.9)
【解法】
c(r) に関する微分方程式(15.6)を次のように変形する。
æ l (l + 1) 2
ö
+ + e÷÷÷ c(r) = 0
c ¢¢(r) + ççç(15.10)
2
r
r
è
ø÷
最初に, r  0 のときの解を調べておく。まずは, l = 0 のときを調べる。級数形の解
c(sss
) = s + b1 s +1 + 
(15.11)
を仮定して式(15.10)に代入して s と b1 を決めると,s = 1, b1 = -1 となる。これより,最初の項は,
c(r) = r である。次に, l ³ 1 のときを調べる。このときは,左辺第 2 項の( )内において 2 / r
と e は l (l + 1)/ r 2 に 比 べ て 小 さ い の で無 視 出 来 る 。 こ れによ り , 方 程 式 (15.10) は c ¢¢(r) l (l + 1)c(r) / r 2 = 0 となる。この解として, c(r) = r g を仮定して代入することにより g = l + 1 ,
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量子力学講義ノート
平成 25 年度
-l が求まる。 g = -l のときは, c(r) を規格化するための積分が, r  0 で発散するので採用で
きない。故に, c(r) = rl +1 である。これは l ³ 0 の場合に対して適用できる。
【Q15-5】 r  0 における漸近形 c(r) = rl +1 を実際に導出せよ。
次に, r ® ¥ の場合を考えよう。このときは, l (l + 1)/ r 2 と -2 / r は e(< 0) に比べて無視出来
るので,方程式は
c ¢¢(r) + ec(r) = c ¢¢(r) - a2 c(r) = 0
(15.12)
となる。ここで, a = (-e)1/ 2 > 0 。この解は e ar と e -ar の2つである。 e ar は r ® ¥ のとき発散
するので捨てる。従って, r ® ¥ のときの解は c(r) = e -ar である。
【Q15-6】 r ® ¥ における漸近形 c(r) = e -ar を実際に導出せよ。
r が有限のときの解として, r  0 のときと r ® ¥ のときの解(漸近形)を用いて c(r) =
l +1 -ar
r e
L(r) を仮定する。これを方程式(15.10)に代入して L(r) に関する方程式を求めると
rL ¢¢(r) + 2(l + 1 - ar)L ¢(r) + 2(1 - a - al )L(r) = 0
(15.13)
となる。この式から,エネルギーの小さい方の固有状態を, L(r) に簡単な多項式を仮定すること
により求めることができる。それは, c(r) から, r  0 と r ® ¥ における漸近形を除くことによ
り得られたのが L(r) だからである。直ぐ下の①②③で L(r) の最高巾の係数 c0 はゼロでないと仮定
。
する( c0 ¹ 0 )
① 基底状態:この状態では節(node)が無いので,L(r) は定数である。即ち,L(r) = c0 を仮定して,
式(15.13)に代入すると,[1 - (l + 1)a ]c0 = 0 となる。c0 ¹ 0 なので,a = (-e)1/ 2 = 1/(l + 1) である。
\ e = -1/(l + 1)2 。
② 第一励起状態:この状態では,節は 1 個あるので,
1
r /a 0
L(r) は 1 次関数である。つまり, L(r) = c0 r + c1 。これ
R1s (r ) 
を式(15.13)に代入して, r の巾で整理する。 r1 の係数を
1
1 
1 r  r /2a0
1
R2s (r ) 
e
3/2

2
a 0 

2
a0 
1
1 r r /2a0
R2 p (r ) 
e
3/2
2
6 a0
a
ゼ ロ と お く と , [1 - (l + 2)a ]c0 = 0 。 こ れ よ り ,
e = -1/(l + 2)2 を得る。また, r 0 の係数をゼロとおくこ
3/2
a0 
2e
 0
③ 第二励起状態:節は 2 個あるので,L(r) は 2 次関数。
2


1
2 
2 r
2 
r 
  e r /3a0
1
R3s (r ) 

3/2




3
27
a
a

0
0 
a0  3 3 

1
8 r 
1 r  r /3a0
1
R3 p (r ) 
e

3/2

6 a 0 
a0  27 6 a0 
つまり,L(r) = c0 r 2 + c1r + c2 。これを式(15.13)に代入し
R3d (r ) 
とにより, c1 = -(l + 1)(l + 2)c0 を得る。
\ L(r) = c0 [r - (l + 1)(l + 2)] 。
2
r の巾で整理する。 r の係数をゼロとおくことにより,
e = -1/(l + 3)2 を得る。r1 の係数をゼロとおくことによ
り , c1 = -(l + 3)(2l + 3)c0 を 得 る 。 r 0 の 係 数 か ら ,
c2 = 21 (l + 1)(l + 3)2 (2l + 3)c0 を得る。従って,
L(r) = c0 [r 2 - (2l + 3)(l + 3)r + 21 (l + 1)(l + 3)2 (2l + 3)]
である。
①②③より,エネルギー固有値 e は e = -1/(l + k + 1)2
(k ³ 0) で与えられることが予想される。実際に,これが
47
1
2
 r  r /3a0
a  e
81 30 
0
4
3/2
a0 
2
3



1 1 
3 r
1 
1 r  r /4a0
r 


1
R4s (r ) 
e




3/2


192 a 0 
a 0 
a0  4  4 a0 8 

2


1
5 r 
1 r
1 
r 
  e r /4a0
R4 p (r ) 
1

3/2

a 0  
a0  16 3 a0  4 a0 80 

2

1
1 
1 r r /4a0
r 


1
R4d (r ) 
e


3/2


12 a 0
a 0 
a  64 5 
0
R4 f (r ) 
1
3
 r  e r /4a0
a 
768 35 
0
1
3/2
a0 
量子力学講義ノート
平成 25 年度
正しいことが証明されている。証明は Appendix B に述べた。 n = l + k + 1 とおくと, en = -1/ n 2
である。 n - l - 1 = k ³ 0 なので, n ³ l + 1 である。ここまでで,
【結論】の前半がわかった。ま
た,このとき,固有関数 L(r) は r の k 次多項式,つまり, (n - l - 1) 次多項式である。従って,節
は (n – l – 1) 個存在する。式(15.13)で a = (-en )1/ 2 = 1/ n とおいて,式 r = n x / 2 により r から x へ
変数変換すると,この方程式は次のようになる。
xL ¢¢(x) + (2l + 2 - x)L ¢(x) + (n - l - 1)L(x) = 0
(15.14)
この微分方程式はラゲール(Laguerre)の微分方程式と呼ばれるもので,解はラゲールの陪多項式
L2nl++l1 (x) である。Laguerre の陪多項式などについては,Appendix B を参照されたい。従って,Rnl (r )
は式(15.8a)で与えられることがわかる。前ページ右下に良く使われる Rnl (r ) をまとめておいた。
式(15.8b)の K nl は規格化定数であり,これと(15.9)の導出については,Appendix B を参照されたい。
式(15.8c)については,
「岩波数学公式Ⅲ」を参照されたい。
【Q15-7】式(15.13)を導出せよ。
【Q15-8】①②③の解 L(r) は c0 を適当に選ぶことにより,式(15.8c)で定義された L2nl++l1 (x) で表すこ
とができることを示せ。ただし, r = n x / 2 である。
【Q15-9】①②③と同様にして,第三励起状態のエネルギー固有値と L(r) を求めよ。
15.4 エネルギー固有値の縮退と状態数
水素型原子のエネルギー固有値が En = -mk 2Z 2e 4 /(2 2n 2 ) で与えられることはこれまでに述べ
た。主量子数 n は正整数で n = 1,2, 3,  であった。 n が大きいほどエネルギーは高い。1 つの n に
対して,方位量子数 l は 0,1,2, , n - 1 の n 個の値をとる。さらに, -l £ m £ l より,これらの l
の 1 つ 1 つに対して磁気量子数 m は -l, - l , 1, , l の 2l + 1 個の値をとる。この状況を
。
n = 1,2, 3, 4 の場合について表にまとめておく(下表参照)
3 個の量子数 n , l , m の組 (n, l, m ) で電子の 1 つの固有状態が指定される。この状態の波動関数は
ynlm (r ) = Rnl (r )Ylm (r, f) で与えられる。n = 1 のときのエネルギー E1 を持つ固有状態は (1, 0, 0) で指
定される 1 個だけで,これに対しては l = 0 なのでこれを 1s 状態という。エネルギー E2 を持つ固
有状態は (2, 0, 0) ,(2,1, 0) ,(2,1,1) ,(2,1, -1) の 4 個で,最初の 1 つは 2s 状態,残りの 3 個は l = 1 な
ので 2p 状態という。記号 s, p については p.39 に示した最下表を参照されたい。
s(l = 0)
n =1
n =2
n=3
n=4
p(l = 1)
d (l = 2)
f (l = 3)
1s
状態数(縮退度)
1
m=0
2s
2p
m=0
m = 0, ±1
3s
3p
3d
m=0
m = 0, ±1
m = 0, ±1, ±2
4s
4p
4d
4f
m=0
m = 0, ±1
m = 0, ±1, ±2
m = 0, ±1, ±2, ±3
4 = 22
48
9 = 32
16 = 42
量子力学講義ノート
平成 25 年度
この 4 個の状態は等しいエネルギーを持ち 4 重に縮退しているという。一般に,2 個以上の状態
が同じエネルギーを持つときこれらの状態は縮退(degenerate)しているといい,そのときの状態
数を縮退度(degree of degeneracy)という。エネルギー E 3 を持つ状態は 9 重に縮退(nine-fold
degenerate)していて, 3s, 3p, 3d からなる。表から予想されるように,主量子数 n を持つ状態の
縮退度は n 2 である。これは式(15.15)のように証明出来る。
1 + 3 +  + {2(n - 1) + 1} =
n -1
å (2l + 1) = 2
l =0
(n - 1)n
+ n = n2
2
(15.15)
これまでにわかったように,水素原子については,エネルギー固有値 En は主量子数 n だけに依
存する。これは実は -1/r に比例するクーロンポテンシャルの特性であって,中心力ポテンシャ
ルがこの形からずれた場合は,エネルギー固有値は n の他に方位量子数 l にも依存し,エネルギー
の縮退は除かれる。ただし, 0 £ l £ n - 1 を満足する l だけが許されるということはクーロンポテ
ンシャルのときと同じである。このときは,l が小さい程エネルギーは低い。つまり, n = 3 につ
いて言えば E 3s £ E 3 p £ E 3d である。これは遠心力ポテンシャルの効果であり, l が小さい程電子
は核に接近することが出来るので,ポテンシャルエネルギーを得することができ,その分だけエ
ネルギーが下がるからである。
【Q15-10】水素原子 (Z = 1) について E1s = .13.6eV を確かめよ。この値を 1Ryd (Rydberg)と言っ

ている。また,Bohr 半径 aB は aB = 0.529 A となることを確かめよ。
【Q15-11】水素型原子(H-like atom)において,1s 軌道を占有する電子( 1s 電子)の r の期待値が 23 a 0
に等しいことを証明せよ。ここで, a 0 = aB / Z である。
【Q15-12】水素型原子において, 2p 電子の r の期待値を求めよ。
【Q15-13】H-like atom で 1s 電子の運動エネルギー p 2 / 2m の期待値を求めよ。次に,これを mv 2 / 2
に等しいとして v の値を求め, v / c = Z /137 となることを示せ。 c は光速である。
【Q15-14】1s 電子のポテンシャルエネルギーV (r ) = -kZe 2 / r の期待値を計算せよ。そして,これ
が前問の p 2 / 2m の期待値の-2 倍に等しいことを確かめよ(Virial 定理)。
rRnl(r)
15.5 動径波動関数 Rnl (r ) の分布
1s
水素原子 (Z = 1) の動径波動関数 Rnl (r ) をいくつ
2p
かの n , l について図に示した。ここでは, Rnl (r ) が
3d
右図に示したようになることを定性的に考察する。
方位量子数の値が l に固定されているとしよう。
このとき Rnl (r ) が主量子数 n を変化させたときどう
なるかを考える。まずは Rnl (r ) の節の個数について
考えよう。ここで,節(node)とは波動関数が 0 の
ところを言い,その値が 0 となる位置を節の位置と
3p
0
5
3s
10
4p
15
r
2s
水素原子(Z=1)におけるrRnl(r)とrの関係.
横軸rの目盛の単位はボーア半径aB.
いう。実効ポテンシャルはVeff (r ) =  2l (l + 1)/(2mr 2 ) - kZe 2 / r で与えられる。今の場合 l を固定し
ているので, n は n ³ l + 1 を満足するもの,即ち, n = l ,,
1, l 2,  だけが許される。エネルギ
ーが最低のものは n = l + 1 のとき起こりその値は El +1 である。一般に,あるポテンシャルに束縛
49
量子力学講義ノート
平成 25 年度
された粒子の運動において,粒子が最低エネルギーの状態にあるときその波動関数は節を持たず,
エネルギーの準位が 1 つ上がるごとに波動関数の節も 1 つずつ増えていくことが知られている
(§
10 で述べた井戸型ポテンシャルに対する結果を参照)。従って, n = l + 1 のときの Rnl (r ) は節を
持たない。 Rnl (r ) の節の個数は n が 1 増加するごとに 1 個ずつ増えるので主量子数が n のときの
節の個数は n - l - 1 である。実際,図よりこのことが確認出来る。当然のことであるが,これは
L2nl++l1 (x) の次数に一致している。Veff (r ) £ En を満足する r を r1 £ r £ r2 とすると,節はこの範囲内
にある。ただし,l = 0 のときは r1 = 0 であることに注意しよう。従って,l ³ 1 については,r = 0
において Rnl (r ) = 0 であるが,この r = 0 は節には含めない。範囲 r1 £ r £ r2 の外において,Rnl (r )
が 0 でない値をもつのは電子の波動性のためであり,量子論的効果である。
【Q15-15】 1s, 2s, 3s 軌道の節の個数を求めよ。 n = 4 の軌道の中で節の個数が 0,1,2 個のものをそ
れぞれ求めよ。
次に電子の存在確率の r 依存性について,これまでと同様,l を固定して考える。r から r + dr
の間に電子が存在する確率は Rnl (r )2 r 2dr で与えられる。従って, Rnl (r )2 r 2 の値が大きいところで
電子の存在確率が大きい。この値が範囲 r1 £ r £ r2 で大きいことは古典的考察から明らかであろう。
エネルギーが上の準位になると,r1 は僅かに小さくなるが殆ど変わらないと言ってよい。しかし,
r2 はかなり大きくなる。これは実効ポテンシャルが r @ r1 において大きい変化率を持っているが,
r @ r2 のところでは平らで変化率が小さいためである。このため,エネルギー準位が高くなるほ
ど,存在確率が大きい範囲は r の大きい側に移動する。従って, n が大きいほど Rnl (r )2 r 2 の最大
値は r の大きい側にある。具体的にこのことを l = 1( p 状
態)について言えば, 2p 状態より 3p 状態が, 3p 状態よ
r2Rnl(r)2
1s
り 4p 状態が核から離れた位置に大きい存在確率を持つ。
逆にいえば,l が同じであれば電子は n が小さい状態にい
るほど核に近い位置に存在することになる。
2s
今度は主量子数 n を固定して,つまりエネルギー En を
固定して l を 0 から n - 1 まで変えたとき Rnl (r )2 r 2 がどう
3s
4s
0
なるかを考えてみよう。l を大きくすると遠心力ポテンシ
2p
ャルが大きくなるので実効ポテンシャルは正の方へシフ
トして浅くなる。このとき, r1 は大きくなり r2 は小さく
3p
4p
なる。これより電子の存在確率が大きい範囲 r1 £ r £ r2 は
狭くなる。従って,l が大きくなるほど Rnl (r )2 r 2 が大きい
値をもつ範囲は狭くなってその最大値は大きくなる。つ
0
3d
まり,電子は局在化してくる。これは右図に示したこと
4f
と一致している。
4d
2 2
最後に,n と l を固定して Rnl (r ) r の Z 依存性について
述べる。 Z が大きくなると核と電子の間のクーロン引力
は大きくなり,電子はそれだけ核に引き付けられて核に
近い側に存在するようになる。従って, Rnl (r )2 r 2 の最大
値は r の小さい側に移る。実際に,計算からわかってい
50
0
0
10
20
水素原子(Z=1)におけるr2R
40
30
2
nl(r) とr
の関係.
横軸 r の目盛の単位はボーア半径 aB
量子力学講義ノート
平成 25 年度
るように Rnl (r ) µ exp (-2Zr / naB ) であり, Z が大きいほど Rnl (r ) は r に関して速く減衰すること
がこれを裏付けている。
【Q15-16】水素原子における 2p, 3p, 4p 軌道のそれぞれについて,Rnl (r )2 r 2 のグラフを描き右上の
図のようになることを確かめよ。
【Q15-17】水素原子における 2p, 3p, 4p 軌道のそれぞれについて,r1, r2 を求めこれらの軌道の節が
範囲 r1 £ r £ r2 に存在し,そこで波動関数が振動型になっていることを確認せよ。また,その範囲
で振動型になる理由を,井戸型ポテンシャルで学んだことを基礎に解釈せよ。
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量子力学講義ノート
平成 25 年度
§16.多 電 子 原 子 の 電 子 配 置
He,C,Fe などのように 2 個以上の電子を持つ原子を多電子原子という。この節では多電子原
子の基底状態(エネルギー最低の状態)について考える。この節での考察から,原子が規則的に
並べられて表ができることが理解できる。それが周期表である。また,電子間クーロン相互作用が
重要な役割をすることもわかる。
16.1 電子のスピン
水素型原子の章では,電子の状態は 3 個の量子数の組 n , l , m で指定されることがわかった。こ
れらは中心力ポテンシャルとして電気的クーロン引力ポテンシャルを採用し,その中を電子が運
動するときの軌道運動における状態を指定する量子数であった。電子の運動としては,この軌道
運動の他に自転運動に相当するものがあり,これをスピンと呼んでいる。スピンについても量子力
学は既に答を与えているのであるが,授業時数の関係で今回は講義することが出来ない。スピン
に関する結論は次の通りである。スピンも角運動量で,スピン角運動量演算子 s で記述される。
軌道角運動量 l のときと同様,その大きさを s , z 成分を ms として固有状態を sms と表すことに
すれば,この状態についての s 2 の固有値は  2s(s + 1) , sz の固有値は ms である。ここで,
-s £ ms £ s なので,ms は -s, -(s - 1), , s の 2s + 1 個の値をとる。電子については s = 1/ 2 なの
で ms = ±1/ 2 である。ms = 1/ 2 の状態 1/ 2,1/ 2 を a で表し,上向きスピン状態(up spin state),
ms = -1/ 2 の状態 1/ 2, -1/ 2 を b で表し,下向きスピン状態(down spin state)という。
s2 a =
3 2
 a ,
4
1
sz a =  a
2
(16.1a)
s2 b =
3 2
 b ,
4
1
sz b = -  b
2
(16.1b)
スピンを考慮すると水素型原子内の電子の状態は n , l , m , ms の組で与えられる。これまで§15
の水素型原子で述べて来た状態 (n, l, m ) は,スピンについて 2 重に縮退していて,状態 (n, l, m,1/ 2)
と (n, l, m, -1/ 2) は等しいエネルギー固有値を持っている。これは,これまでに扱って来た
Hamiltonian がスピンに依らないからである。従って, 1s には (1, 0, 0, 1/ 2) と (1, 0, 0, -1/ 2) の 2 つの
状態が属している。n = 2 については,スピンの分を 2 倍して,縮退した 8 個の状態( 2s が 2 個,
2p が 6 個)が属している。 n = 3 については縮退した 18 個の状態( 3s, 3p, 3d がそれぞれ 2, 6, 10
個)が属している。一般に,主量子数が n については 2n 2 個の状態が属している。
16.2 パウリの排他原理
「1つの状態に入ることができる電子の個数は最大1個である」。これをパウリの排他原理(Pauli
exclusion principle)という。これは電子が従う規則である。パウリの排他原理に従わない粒子もあ
る。その例は,中性子,光子,音子(phonon)などである。パウリの排他原理に従う粒子をフェル
ミ粒子(Fermion)
,従わない粒子をボーズ粒子(Boson)という。フェルミ粒子かボーズ粒子かの
区別は,スピンの大きさ s で決まる。s が整数のときはボーズ粒子,半整数のときはフェルミ粒子
である。電子は s = 1/ 2 で,半整数なのでフェルミ粒子である。ボーズ粒子は1つの状態に何個で
も入ることが出来る。
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