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report - TU Delft Repositories
水循環レポート
report
1.普及のためのキャンペーン
建築家向け住宅のためのガイドライン
フランダース地域の環境に関する許可法 の施
iii
フランダース地域環境庁 VMM のキャンペーン
行規則 VLAREM II には、家庭からの汚水と雨水
iv
の排水に関する義務および指導事項が含まれてい
る。にもかかわらず、適応が進んでこなかった理
笠 真希
由として、内容が不明瞭で、実際のプロジェクトで
Maki RYU デルフト工科大学 客員研究員
Delft University of Technology
梵まちつくり研究所 取締役
建築家・施工者がどのように適応して良いか分か
らない、ということが挙げられた。そこで、2000
年に建築家ためのガイドライン が発行されたが
v
進捗がなく、VMM は建築家協会 NAV と協力し、
vi
再度ガイドラインの作成と普及のキャンペーンを行
2010 年、ベルギーのフランダース地域の環
うこととなった。
境庁 VMM は、建築家に向けて住宅の「新築・
VMMがイニシアティブをとり、殆どの出資を行っ
改築のための水(利用)ガイドライン」(Water
ている。ガイドラインの第一の頒布対象は建築家
Guide for Building and Renovation )の普及に乗り出
であり、加えて施工・造園関連、自治体なども対
した。建築協会ほか関連分野と協力し、環境面
象としている。それにより、協力主体として、先に
と安全面の双方の改善を目指している。
挙げた建築家協会のほか、フランダースの下水道
ベルギーの連邦構成主体である 3 つの地域の
設備の協会(VLARIO および INFRAX)、認証や検
うち、北半分のフランダース地域は、ベルギー
査を行う組織 CERTIPRO、そして建設や環境に関
全 体 の 人 口 の 6 割(620 万 人 )
、国土の 4 割
する許可業務をおこなう自治体にも積極的に協力
i
ii
(13,000km )を占め、人口密度約 462 人/km と
2
を求めた。
2
高密な地域を形成している。近年豪雨による水
普及のための媒体として、A5 大の約 85 ペー
害が多発、2010 年 11 月には住宅への浸水被害
ジの冊子を、約 15,000 ユーロをかけて作成・印
だけでなく死者を出す深刻な事態が起きている。
刷(2 万部)し、ほぼ同様の内容をウェブサイ
また河川の下流に位置することもあり、表流水
ト で公開している。加えて案内カード(図
の水質も問題となっている。なお降水量は、約
–1)も用意された。冊子の主な内容は、2000
750 mm/ 年、高地では約 1400 mm/ 年に達する。
年版とかなり重複しているが、新しい 2010 年
vii
図‒1 VMMによる
案内カード
配布:Vlaamse
Milieumaatschappij
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水循環 貯留と浸透
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版のほうが、冊子として構成やレイアウトが読
なければならないとしている。①雨水の集水と
みやすいという違いがある。(更に 2012 年には
活用、②敷地内における浸透、③排水を遅らせ
法制度の改正を受けて一部改編した第二版を発
るバッファー(流出抑制)、④道路の雨水管へ
行している。)2010 年の頒布時、2000 年版の反
の排水であり、特に最初の 3 つの技術が適応で
省をうけてか、VMM は以下のような普及の手
きない場合のみ、④の公共の排水網への流出が
段をとった。まず自治体経由のルートとして、
許されている。また、フランダース地域の都市
自治体のサイトで告知、そこから VMM のガイ
計画規則 8 条に、雨水に関するシステムの最
ドラインのサイトへのリンクを設ける。更に
低基準が記載され、そして、統合水政策法に
VMM が自治体に既に印刷された案内カードを
従って、建設許可・環境許可に際して「ウォー
配り、一般的な頒布に加え建設許可の手続きに
ターテスト」によるチェックが必要であること
あわせて配布を行った。また、州毎に建築家を
を説明している。
対象とした講習会を行い、下水関係のイベント
4 章は雨水に関する解説であり、前半で家庭
で冊子を紹介し、加えて建築の学生に下水管理
からの汚水と雨水の分離、さらに雨水活用・浸
のレクチャーを年に一度行っているそうである。
透・流出抑制の意義を説明し、後半でこの優先
最初の 1ヶ月の成果として、7 千冊の冊子が
順位の順に解説がある。個別技術の部分では、
配布され、講習会は速やかに予約で埋まり、約
まず利点や適応条件が示され、次に設計のため
8000 人いる建築家の 12.5 %は講習を受け、さ
にシステムの種類や部位毎の解説があり、最後
らに講習が企画されているとしている。この初
に計算例を掲載する構成となっている。
x
期の成果により、ヨーロッパの環境ネットワー
クであるグリーンスパイダーネットワークの
2010 年のベストプラクティス・コンペティション
にリストアップされた 。
viii
2.ガイドラインの構成
冊子は、ウェブサイトとほぼ同様に、以下の
ような構成を持っている。第 1 章で「はじめに」
として、建築家向けの普及などの目的や意義と
しての持続可能な水利用を述べている。第 2 章
では「政策的枠組み」として、関連する政策や
法制度を簡潔に説明している。第 3 章は「環境
と調和した建設」として、建設活動の生態的・
経済的影響への責任として、水害防止や地下水
位への配慮などを述べている。その後の章は、
雨水・汚水・飲用水に分け、それぞれの意義と
実際的な適応に関する解説を盛り込んでいる。
図‒2 ガイドラインでの雨水活用システムの説明図
① 沈殿装置②雨水タンク+オーバーフロー③浸透施設
出典:Waterwegwijzer Bouwen en Verbouwen
以下に雨水に関わる部分のみ、更に詳しく見て
いくこととする。
2 章の政策・法制度では、まず EU の水政策
3.雨水活用システムに関する記述
枠組み指令、フランダース地域の統合水政策法 、
4 章の後半での雨水貯留、浸透、流出抑制施
次に、前ページ記載の VLAREM II の条項 6.2.2.1.2
設に関しての記述を以下に整理する。
§ 3 に基づき雨水と汚水の分離が規定され、§4
1)雨水貯留
において住宅は以下の順序で雨水排水に対応し
都市計画規則は、敷地面積 300m 以上・屋根
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水循環レポート
面積 75m 以上の新築・改築、または屋根面積
洪水の要因でもあり、環境面から考える住宅の
50m 以上の増築で雨水タンクの設置を義務づ
水管理が、安全面にも広がってくる。本稿では
けている。室内において利用する雨水は屋根か
割愛したが下水処理に関しても多くの情報が掲
らの流出に限り、車のアプローチや他からの排
載され、環境面の改善を視野に、排水経路を司
水はタンクに流さず浸透・流出抑制施設へ排水
る下水関連分野との協働だけでなく、流出源で
することを推奨している。個別部位の解説とし
あり、かつ雨水の流出抑制が可能な建築分野と
ては、フィルター・タンク・オーバーフロー・
共に取り組む必要にいたったと考えられる。
ポンプ・乾期の(水道水)補給などに分けられ、
第二に、2000 年版のガイドラインが普及し
最後に屋根面積に対するタンク容量の計算方法
なかったことを鑑み、上記の協力体制を進める
が挙げられている。
と共に、冊子の作成だけでなく積極的な頒布活
2)浸透施設
動を展開したことが特筆される。建築家の講習
まず浸透施設が適応可能かの検討が必要だが、
会などで実質的な周知に努めるだけでなく、自
そのために必要な地下水位・土壌の情報サイト
治体の窓口を最大限効果的に使うための工夫を
が 2010 年版には掲載されていたが、2012 年版
行っている。特に印刷費用は VMM が負担し、
では削除され、前述のウォーターテストのサイ
配布だけを他の機関に依頼したことが円滑に進
トが参照先となった。地下水保護のための浸透
んだポイントであると捉えられている。
禁止区域の情報サイトは掲載されている。次に、
最後に、媒体の総合的な企画も重要である。
浸透エリアの種類として、窪地・透水性および
冊子は 2000 年版に比べて読みやすさや魅力が
浸透性舗装・地下浸透施設が紹介され、それぞ
向上している。加えて冊子・案内カード・ウェ
れの特徴と適応の注意点、最後に許容浸透量の
ブサイトの役割分担もなされており、情報の
計算方法が載せられている。
アップデートに関しては、例えば講習会におい
3)流出抑制施設
て建築側からでたフィードバックはサイトにて
浸透施設が適応できない場合の手段として、
随時反映し、加えて 2012 年版の冊子からは一
流出抑制施設を紹介している。また、都市計画
部の数値が削除され、将来変化するものはイン
規則では 1000m 以上の新規舗装化に関しては、
ターネットでの対応を基本としているようである。
流出抑制機能を備えることとし、計算方法も都
ここから学べることは、ただ冊子を作るだけ
市計画規則を参照することとしている。
では普及の効果が限られ、本格的な普及のため
4)屋上緑化
には環境・建設・下水分野の協働はもちろん、
屋上緑化の意義と、2 つのタイプの屋上庭園
情報伝達の仕組みや媒体の視覚デザインなど、
と緑化屋根の特徴・注意点を解説している。更
広い視野で戦略を立てることが重要だというこ
に、計算方法を示すとともに、長期の降雨に備
とであろう。
2
2
2
えて屋上からの排水は浸透および流出抑制施設
i Vlaamse Milieumaatschappij
ii Waterwegwijzer Bouwen en Verbouwen, VMM
iii Vlaamse milieuvergunning decreet
に流すよう推奨している。
iv Vlaams Reglement betreffende de Milieuvergunning
v Waterwegwijzer voor architecten - een handleiding voor
duurzaam watergebruik om particuliere woning
4.まとめ
第一に、このガイドラインの特徴として、環
境庁発意ではあるものの、そこを拠点として、
vi NAV - Vlaamse Architectenorganisatie www.nav.be
vii www.vmm.be/water/waterwegwijzerbouwen
viii http://ec.europa.eu/environment/networks/greenspider/bp_
建築・下水分野との協力を広げたことが挙げら
れる。環境庁としては表流水と地下水の水質が
comp-2010.html
ix Het decreet integraal waterbeleid, artikel 8
x Gewestelijke Stedenbouwkundige Verordening
関心事であり、その原因の一部は合流式下水に
よるオーバーフローにあることで、宅地からの
雨水流出は水質管理に関連する。同時に流出は
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