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電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化

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電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化
重要課題解決型研究
事後評価
「電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化」
責任機関名:慶應義塾大学
研究代表者名:吉田 博一
研究期間:平成17年度~平成19年度
目次
Ⅰ.研究計画の概要
1.課題設定
2.研究の趣旨
3.研究計画
4.ミッションステートメント
5.研究全体像
6.研究体制
7.研究運営委員会について
Ⅱ.経費
1.所要経費
2.使用区分
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
(1)研究目標と目標に対する結果
(2)ミッションステートメントに対する達成度
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
(4)研究目標の妥当性について
(5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について
(6)研究計画・実施体制について
(7)研究成果の発表状況
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)リチウムイオン電池の標準化に関する研究
1.リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに関する研究
2.リチウムイオン電池の標準セル及び電池システムの試作・開発に関する研究
(2)リチウムイオン電池セルの電力供給分野における標準化に関する研究
(3)リチウムイオン電池セルの住宅分野における標準化に関する研究
(4)リチウムイオン電池セルの建設分野における標準化に関する研究
(5)リチウムイオン電池セルの通信キャリア分野における標準化に関する研究
(6)リチウムイオン電池の電池システムに関する研究
Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
2.情報発信
3.研究計画・実施体制
4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
Ⅰ.研究計画の概要
■プログラム名: 重要課題解決型研究 (事後評価)
■課題名: 電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化
■責任機関名: 慶應義塾大学
■研究代表者名(役職): 吉田 博一 (政策・メディア研究科 教授) 平成 17 年 7 月~平成 20 年 3 月
■研究実施期間: 3 年間
■研究総経費: 総額 694.5 百万円 (間接経費込み)
1.課題設定
電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化
2.研究の趣旨
(研究の背景)
地球温暖化は深刻さを増しており、緊急に対処が迫られている。一方で、近年の天変地異がもたらす
被害も拡大しており、防災用電源システムのニーズが高まっている。
これらの問題解決の一つの手段として、電力貯蔵用リチウムイオン電池の大量普及がある。電力貯蔵
用リチウムイオン電池は、旧通産省工業技術院ニューサンシャイン計画の一環として平成4年度から13年
度に実施された「分散型電池電力貯蔵技術」研究開発により、実用的に使える技術水準に達した。
しかし、利用者側の立場からは高価なため新たな需要が開拓できない問題と、電池製造側の立場からは
まとまった需要がないために低コスト化が図れないという問題を抱えている。現在、電力貯蔵用リチウムイ
オン電池を製品として出荷している企業は1社のみで、価格は鉛蓄電池の数十倍と極めて高価である。
蓄電池を用いた電力貯蔵システムは、鉛蓄電池が独占状態にあたり、電力貯蔵システムの用途に応じ
て数Ah~数千Ahまで多くの商品群を取り揃えている。現在、電力貯蔵用リチウムイオン電池の分野も鉛
電池の慣例のもとに、移動体と定置用が分けられ、更には蓄電装置の規模に応じて電池容量が複数取り
揃えられている。ニューサンシャイン計画においても、同様の手法で研究開発が行われ、電気自動車等
の移動体用と電力貯蔵用の定置用に分け性能要求も異なりセルの共通化という認識はなかった。
しかし、リチウムイオン電池は充放電効率に優れ、比較的高負荷での放電特性下においても電池の定
格容量(Ah)にほぼ等しい放電容量を取り出すことができるため、多用途にまたがって共通の電池を利用
できる可能性がある。また、低価格化を図り、大量普及を促すためには、電池の標準化が不可欠である。
そこで、本研究では、リチウムイオン電池の最小構成単位であるセルを標準化することに着目し、あら
ゆる用途に共通で利用可能なセルの標準仕様を導く。
(研究の必要性)
地球温暖化防止及びエネルギーセキュリティ対策の有効な手段として、電力貯蔵用リチウムイオン電
池が貢献できる。この実現のためには、日本で先行開発された技術が有効であるが、高価格であるため
普及が進まない中で、米国や中国が国をあげて大型リチウムイオン電池の研究開発を進めており、追い
上げが著しい。低価格化のためには、大量生産を行い、材料価格、製造装置価格、及び組み立て費用
1
の低減が重要である。そのためにはセルの標準化が不可欠である。
本研究成果がもたらす影響としては、電力貯蔵用リチウムイオン電池を用いた電力貯蔵システムの普
及によって、夜間の電力需要オフピーク時に電力会社から供給される電力を蓄電池に貯蔵し、昼間のピ
ーク負荷時にそれを電力に変換する、いわゆる負荷平準化が可能となる。これにより、昼間のピーク負荷
用の火力発電における原油の消費量を節約することになり、夜間の原子力発電の需要を高めることで、
電力負荷の平準化や発電設備の安定化を促し、更には、CO2 排出量の削減や石油への依存度低下に
よって、我が国のエネルギーセキュリティ向上にも繋がる。また、太陽光や風力など自然エネルギー発電
による分散型電源の導入にあたり、系統を安定に保つためのバッファとしての役割が期待できる。
(研究の目的、目標)
(目的)
電力貯蔵用リチウムイオン電池の大量普及のためにセルの標準化を行うことを目的とし、多くの
分野にまたがる利用側のニーズと電池製造側のシーズの双方を満足させる標準セルの仕様を確
定する。
(目標)
リチウムイオン電池特性の現状と将来を見通し、分野の異なる各用途での電力貯蔵用電池に対する性
能要求を調査し、あらゆる用途に共通に適用が可能なセルの標準仕様(品質要求仕様)を策定する。ま
た、それにもとづく試作、評価を実施することにより、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化を図れ
る見通しを得る。
3.研究計画
研究内容は、提案書の段階で下記の4つを申請しており、更に①~③の課題は各2つの研究項目に細
分化され、合計7テーマを予定していた。
(提案書)
① 電力貯蔵用リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに関する研究
② 電力貯蔵用リチウムイオン電池の標準セル及び電池システムの試作・開発に関する研究
③ 電力貯蔵用リチウムイオン電池の評価に関する研究
④ 電力貯蔵用リチウムイオン標準セルの標準仕様策定に関する研究
これらすべてのテーマを慶應義塾大学がサブテーマ責任者になり、8社の民間企業が研究に参加する
予定であったが、効率良く研究を遂行するために参加機関の役割分担を整理し、下記の通り変更した。
①と④の課題を⑤1.に統合し、②と③の課題の中、セルに関するものを⑤2.に統合し、電力貯蔵システ
ムの試作を⑩へ、各電力貯蔵システムの評価を⑥~⑨に分けた。
(変更後)
⑤ リチウムイオン電池の標準化に関する研究(慶應義塾大学)
1. リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに関する研究
2. リチウムイオン電池の標準セル及び電池システムの試作・開発に関する研究
⑥ チウムイオン電池セルの電力供給分野における標準化に関する研究(エネサーブ)
2
⑦ リチウムイオン電池セルの住宅分野における標準化に関する研究(大和ハウス工業)
⑧ リチウムイオン電池セルの建設分野における標準化に関する研究(竹中工務店)
⑨ リチウムイオン電池セルの通信キャリア分野における標準化に関する研究(KDDI)
⑩ リチウムイオン電池の電池システムに関する研究(新電元工業)
4.ミッションステートメント
省エネと、エネルギーセキュリティに関する多くの分野に至る利用側のニーズと電池製造側のシーズの
双方を満足させる標準的なリチウムイオン電池セルの仕様を確定することが本研究の目的である。
ここでニーズ、シーズの双方が満足であるということの条件は、
1)価格がシーズ側の利益を確保した上で、ニーズ側で十分な価値に見合うものであること
2)性能がニーズ側の要求に合うものであること
3)製品の信頼性が保証されること
そして、上記のことが実現されるために
4)大量利用というニーズ側の要求に対してシーズ側の生産が応えられることである。
以上のような条件を満たす電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの仕様の標準化を行うことが本研究の
具体的ミッションステートメントとなる。
定量的に上記の目標水準を掲げると、価格については10kWhの電池システムが20万円(20円/Wh)、
性能については重量エネルギー密度120Wh/kg、重量出力密度1,000W/kg、寿命3,000回とする。信頼
性(故障率)については年間1千万個の製造に対して、10年間に1度の不具合が生じる確率となる10ppb
以下とする。量産性に関しては、生産個数年間1千万セルを可能とする。
3
5.研究全体像
4
6.研究体制
ミッションステートメント
〈 標準仕様の策定〉
〈 コ スト の算出〉
〈 量産性検討〉
電力貯蔵用リ チウムイ
オン 電池のニーズ及び
シーズに関する 研究
慶応大学、 エ ネサーブ
大和ハウス工業、 K D D I
竹中工務店
第一次
第二次
第三次
標準仕様
策定用資料
〈 性能評価〉
〈 信頼性評価〉
電力貯蔵用リ チウム
イ オン 電池の標準セ
ル及び電池シ ステ ム
の試作・ 開発に関す
る 研究
慶応大学、 新電元工業
第一次
第二次
試作結果
電力貯蔵用リ チウム
イ オン 電池の評価に
関する 研究
慶応大学、 エ ネサーブ
大和ハウス工業、 KD D I
竹中工務店、 新電元工業
第ニ次
第三次
標準仕様
策定用情報
第一次
第ニ次
試作用指針
第二次
第三次
調査指針
電力貯蔵用リ チウムイ オン 電池セルの
標準仕様策定
赤字: サブ テ ーマ 責任者
電力貯蔵用リ チ ウムイ オン 電池セルの標準化
ミ ッ ショ ン ステ ート メ ン ト 達成に向けた
研究サブ テ ーマ と 役割分担
5
実施体制一覧
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
慶應義塾大学大学院 政策・メ
◎吉田 博一(教
ディア研究科
授)
慶應義塾大学 環境情報学部
清水 浩(教授)
2. リチウムイオン電池セルの電力供給分野に
エネサーブ株式会社
飯山 司郎(課
関する研究
電力サービス事業部
長)
3. リチウムイオン電池セルの住宅分野における
大和ハウス工業株式会社
池田 登志夫(主
標準化に関する研究
総合技術研究所
任研究員)
4. リチウムイオン電池セルの建設分野におけ
株式会社竹中工務店
中村 慎(グルー
る標準化に関する研究
エネルギービジネスプロデュー
プリーダー)
1. リチウムイオン電池の標準化に関する研究
(1) リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに
関する研究
(2) リチウムイオン電池の標準セル及び電池シ
ステムの試作・開発に関する研究
ス本部 エネルギーソリューショ
ングループ
5. リチウムイオン電池セルの標準化に関する
KDDI 株式会社
杉村 雅彦(課
研究
施設建設部
長)
6. リチウムイオン電池の電池システムに関する
新電元工業株式会社
芳賀 浩之(課
研究
パワーシステム事業部
長)
7. 研究運営委員会
慶應義塾大学大学院 政策・メ
吉田 博一(教授)
ディア研究科
◎ 代表者
6
7.研究運営委員会について
研究運営委員会委員一覧
氏名
所属機関
役職
◎吉田 博一
慶應義塾大学
政策・メディア研究科 教授
清水 浩
慶應義塾大学
環境情報学部 教授
木下 賀夫
エネサーブ株式会社
代表取締役社長
樋口 武男
大和ハウス工業株式会社
代表取締役会長・CEO
竹中 統一
竹中工務店
取締役社長・CEO
KDDI 株式会社
代表取締役社長兼会長
小田 孝次郎
新電元工業株式会社
代表取締役社長
北島 義俊
大日本印刷株式会社
代表取締役社長
鹿島建設株式会社
代表取締役社長
中国電力
取締役社長
橋本 政昭
橋本総業株式会社
取締役社長
田島 晃平
株式会社ミツウロコ
代表取締役社長
戸田 和彦
国土交通省
建設課長
佐藤 正典
あずさ監査法人
理事長
奥 正之
株式会社三井住友銀行
頭取兼最高執行役員
山地 正矩
電気化学会・日本知的財産協会
元副会長
小野寺 正
中村 満義
山下 隆
◎研究運営委員長
運営委員会等の開催実績及び議題
(a) 運営委員会
予備会(平成 17 年 9 月 29 日) 於:慶應義塾大学新川崎タウンキャンパス
議題:「電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化」の研究概要について
研究運営委員会について
本年度の研究指針確認
アウトリーチ活動について
第一回(平成 17 年 12 月 14 日) 於:慶應義塾大学三田キャンパス
議題:平成 17 年度の研究進捗について
(第一次ニーズ調査、シーズ調査、第一次電池セル仕様策定・試作)
平成 18 年度の研究指針について
(第一次電池セルの評価、第二次ニーズ調査・シーズ調査)
第二回(平成 18 年 7 月 18 日) 於:慶應義塾大学新川崎タウンキャンパス
議題: 平成 17 年度の研究成果について
(第一次ニーズ調査、シーズ調査結果、第一次電池セル仕様策定・試作)
平成 18 年度の研究指針について
7
(第一次電池セル試作の評価にもとづく第二次ニーズ調査・シーズ調査、
ニーズ調査・シーズ調査にもとづく第二次仕様策定)
第三回(平成 18 年 12 月 13 日) 於:慶應義塾大学三田キャンパス
議題:平成 18 年度の研究進捗について
(第二次ニーズ調査、シーズ調査、第二次電池セル試作)
平成 19 年度の研究指針について
(第二次電池セル試作の評価、第一次電力貯蔵システムの評価、第三次ニーズ・シーズ関連
調査及び電池の最終仕様の策定)
第四回(平成 19 年 10 月 25 日) 於:慶應義塾大学新川崎タウンキャンパス
議題:平成 18 年度の研究成果について
(第二次ニーズ調査、シーズ調査結果、第二次電池セル仕様策定、第一次電力貯蔵システ
ム)
平成 19 年度の研究指針について
(第二次電池セル試作の評価、第二次電力貯蔵システムの試作評価、第三次ニーズ・シーズ
関連調査(調査結果の取り纏めと量産コストを算出)及び電池の最終仕様の策定)
第五回(平成 20 年 3 月 18 日) 於:慶應義塾大学三田キャンパス
議題: 本研究の全体概要及び 3 年間の研究成果について
研究全体のフローと標準化への手法
電池共通要求仕様の策定と評価
電池セル仕様についての詳細仕様について
8
Ⅱ.経費
1.所要経費
(直接経費のみ)
(単位:百万円)
研 究 項 目
1. リチウムイオン電池の標準化
研 究
担当機関等
担当者
吉田 博一
慶應義塾大学
所要経費
H17
H18
H19
年度
年度
年度
139.6
116.1
126.2
381.9
6.2
5.0
5.1
16.3
5.5
7.6
6.7
19.8
13.8
41.1
合計
清水 浩
に関する研究
(1) リチウムイオン電池のニーズ
及びシーズに関する研究
(2) リチウムイオン電池の標準セ
ル及び電池システムの試作・
開発に関する研究
2. リチウムイオン電池セルの電
力供給分野における標準化
エネサーブ株式 飯山 司郎
会社
に関する研究
3. リチウムイオン電池セルの住
宅分野における標準化に関
大和ハウス工業 池田 登志夫
株式会社
する研究
4. リチウムイオン電池セルの建
設分野における標準化に関
株 式 会 社 竹 中 中村 慎
10.5
16.8
工務店
する研究
5. リチウムイオン電池セルの通
杉村 雅彦
13.7
10.0
6.2
29.9
新 電 元 工 業 株 芳賀 浩之
13.4
10.0
27.5
50.9
0
0
0
0
188.9
165.5
185.5
539.9
KDDI 株式会社
信キャリア分野における標準
化に関する研究
6. リチウムイオン電池の電池シ
ステムに関する研究
7. 研究運営委員会
所 要 経 費
式会社
吉田 博一
慶應義塾大学
(合 計)
9
2.使用区分
(単位:百万円)
サブテ
サブテ
サブテ
サブテ
サブテ
サブテ
サブテ
ーマ1
ーマ2
ーマ3
ーマ4
ーマ5
ーマ6
ーマ7
68.8
1.8
1.8
0.2
1.2
5.8
0
79.6
試作品費
203.9
0
0.4
23.4
18.1
0
0
245.8
消耗品費
12.3
0.1
1.7
0
1.5
0
15.6
人件費
77.5
10.0
13.4
15.9
5.3
38.8
0
160.9
その他
19.4
4.4
2.5
1.6
5.3
4.8
0
38.0
間接経費
114.4
4.6
6.0
12.4
4.8
12.4
0
154.6
計
496.3
20.9
25.8
53.5
34.7
63.3
0
694.5
設備備品費
0
計
※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)
【装置名:購入期日、購入金額、購入した備品で実施した研究テーマ名】
①リチウムイオン電池対応 27V 検証用直流電源装置:2006 年 2 月,11 百万円,サブテーマ 5
②蓄電池監視制御ソフトデータ収集費:2007 年 2 月,8 百万円,サブテーマ 5
③建築非常用途(単独運転)実験装置:2007 年 3 月,11 百万円,サブテーマ 4
④第 2 次試作システムの実証評価装置:2007 年 12 月,7 百万円,サブテーマ 4
⑤多チャンネル単セル充放電試験機:2006 年 3 月,39 百万円,サブテーマ 1
⑥バッテリーエミュレータ:2006 年 3 月,6 百万円,サブテーマ 1
⑦リチウムイオン 2 次電池 10.3kWh:2006 年 3 月,53 百万円,サブテーマ 1
⑧電力貯蔵用リチウムイオン電池装置 6kWh 装置×3 セット:2007 年 3 月,16 百万円,サブテーマ 1
⑨リチウムイオン電池装置試作品 6kWh 蓄電システム:2007 年 3 月,49 百万円,サブテーマ 1
⑩リチウムイオン電池装置試作品 6kWh 蓄電システム No.2,3:2007 年 8 月,6 百万円,サブテーマ 1
⑪第 2 次セル実用性評価用 SAE ハーフモジュール:2007 年 11 月,5 百万円,サブテーマ 1
⑫リチウムイオン電池装置試作品 50kWh 蓄電システム(大型蓄電システム)No.1:2007 年 11 月,26 百
万円,サブテーマ 1
⑬リチウムイオン電池装置試作品 50kWh 蓄電システム(大型蓄電システム)No.2:2007 年 11 月,26 百
万円,サブテーマ 1
⑭第 2 次セル実用性評価用 50kWh 蓄電システム(通信用蓄電システム)1 式:2007 年 12 月,26 百万
円,サブテーマ 1
10
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
慶應義塾大学では、ユーザ企業を対象に各用途での電力貯蔵用電池に対する性能要求を調査し、あ
らゆる用途で共通に利用が可能な電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕様(品質要求仕様)を導
いた。電力貯蔵用リチウムイオン電池の技術的な基礎はニューサンシャイン計画にて築かれたが、本要
求仕様(ユーザの要求)を満たし、かつ、ミッションステートメントに掲げた電池性能を満たすためには、新
たな正極材料の開発の取り組みが必要となった。本研究では、高容量・高安全な三元系リチウム酸化物
に着目し、マンガン酸リチウムの混合系正極(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2:LiMn2O4=7:3)を開発し、ユーザによ
る品質要求仕様、及びミッションステートメントを達成できることを評価試験により確認した。この結果をもと
に、品質要求を満足する標準セルの製造仕様を策定した。
大和ハウス工業では、住宅分野にリチウムイオン電池を用いる観点から、顧客にアンケート調査を実施
し、オール電化住宅向けの非常用電源を兼ねた住宅用負荷平準システムの仕様を策定し、フィールドに
て実用性を評価した。システムの構築に際しては、6kWh の蓄電池を一つの最小構成単体とした完備電
池を構成し、それを複数組合せすることにより、戸建て住宅だけでなく、マンションやあらゆる家族構成に
も対応できる工夫を図った。フィールド評価の結果、深夜電力を蓄電し昼間利用することにより、経済的
利点が得られることが確認され、住宅分野における標準セルの有効性が確かめられた。
エネサーブでは、電力供給分野にリチウムイオン電池を用いる観点から、産業用の高圧受電の契約帯
として最小限の 50kVA システムを仕様として策定し、活用方法として、電力負荷平準、電力ピークカット、
カレンダー運転、自立運転などの運転モードが提案された。また、従来、無停電電源装置(UPS)が財政
的な重荷となっていたことを受け、リチウムイオン電池の繰り返し充放電ができる特性を生かし、UPS を兼
ねたハードウェア仕様が提案された。また、組電池の構成方法として、複数のセルを直列に接続した組電
池同士を並列に接続する「直列-並列」接続方式が提案された。フィールド評価の結果、各運転モード
において良好な試験特性が得られ、電力供給分野における標準セルの有効性が確かめられた。
竹中工務店では、建築分野にリチウムイオン電池を用いる観点から、エネサーブと共同で大型電力貯
蔵システムの仕様を考案し、主に電力ピークカット、自立運転機能をフィールドで確認した。自立運転機
能の評価は、ビルなどの防災用電源での利用を想定した試験で、排煙ファンや消火ポンプ、ヒータなど突
入電流の大きな設備の起動試験等を実施した。フィールド評価の結果、システムの安定した動作を確認
することができ、将来、リチウムイオン電池が防災用蓄電池に認可された際は、防災用電源にも標準セル
が活用できることが明らかとなった。
KDDI では、通信キャリア分野にリチウムイオン電池を用いる観点から、携帯電話の無線基地局用非常
用電源に標準セルを組み、フィールド評価を実施した。携帯電話の無線基地局は他の電力貯蔵システム
とは異なり、電池から電源を介さずに直接無線機に接続される。公共サービス事業でもあるため、非常用
電源設備においては、特に信頼性が重視される。通常は、2,000Ah の鉛蓄電池が用いられているが、
50Ah の標準セルで代替するため、35 並列接続が必要となった。ここでも、上述の通り、7 セル直列に接続
した組電池を 35 並列接続する「直列-並列」接続にて対応した。フィールド評価の結果、各組電池から
均等に電流が流れていることが確認され、これにより、2,000Ah 級の鉛蓄電池が用いられていた大規模な
電源システムにも本標準セルが適用できることが明らかとなった。
新電元工業では、エネサーブ及び大和ハウス工業の仕様のもと、大型電力貯蔵システムと住宅用電力
貯蔵システムの 2 機種を開発した。どちらのシステムも、系統連系制御及び双方向インバータの技術が必
11
要とされ、更には、太陽光発電システムとは異なり、系統に逆潮流(電池の電力を系統へ戻すこと)ができ
ないため、各相の負荷に不平衡が生じた際の制御技術などを新たに開発した。また、リチウムイオン電池
特有の充放電管理技術が必要となり、電池管理装置と電源装置の通信による制御技術を確立した。いず
れの機械も住宅分野、電力供給分野及び建築分野において、設計仕様通りの動作が確認された。
これらの結果から、少量多品種による高価格化の弊害を除去することが可能となり、標準セルの大量生
産による低価格化を可能とするもので、本研究のもたらした成果は大きい。
(1)研究目標と目標に対する結果
① 目標: リチウムイオン電池特性の現状と将来を見通し、分野の異なる各用途での電力貯蔵用電池に
対する性能要求を調査し、あらゆる用途に共通に適用が可能なセルの標準仕様(品質要求仕様)を
策定する。
結果: ニーズ調査の結果、あらゆる用途に共通で利用するための電池性能として、放電性能は連続
150A(-20~60℃)、充電性能は 30 分で 80%以上の充電率、寿命性能は 20℃の温度条件の下、3500
サイクル後もしくは 10 年後に初期容量の 70%以上を保持、安全性は 50%過充電(全充電量 150%)
状態、釘刺しによる内部短絡状態において破裂、発火しない、を仕様として策定した。各用途に必要
な蓄電池総容量の最大公約数からセル容量を導き、50Ah とした。形状、寸法の策定に当たっては、
電力貯蔵用リチウムイオン電池の大きな市場として期待できる電気自動車での適用を考慮し、自動
車関連及び航空宇宙関連の標準規格の開発を行っている SAE(Society of Automotive Engineers)が
電気自動車用電池規格として推奨する SAE-J-1797、EV-1 を参考に、116H×175W×194L(mm)をモ
ジュールの外形寸法とし、1 モジュールあたり 4 つのセルで構成することにし、セルの最大寸法を
113H×171W×44L(mm)とした。
一方で、電力貯蔵用リチウムイオン電池の潜在的な需要や汎用性という観点からは、資源の埋蔵量、
安全性、更にはニーズに見合うコストが要求された。従来から、小型セルに用いられているコバルト酸
リチウムは資源の埋蔵量、安全性、コストのいずれも電力貯蔵用途には不的確で、他方、安全性、資
源の埋蔵量に優れるマンガン酸リチウムでは電池性能を満たせず、正極活物質の開発が最大の課
題となった。本研究では、正極活物質として、エネルギー密度と熱安定性に優れた三元系リチウム酸
化物に着目し、マンガン酸リチウムと重量比 7:3 の混合系活物質として用いることで、性能と安全性の
両立が図れることを見極めた。また、量産性や信頼性の観点から、極板群構造は長円巻回式を、セ
ルケースは、ステンレス製もしくはアルミニウム製の金属ケースが適しているとの結論至った。
② 目標: セルの標準仕様(品質要求仕様)にもとづく試作とセル及び電力貯蔵システムによる評価を
実施することにより、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化を図れる見通しを得る。
結果: セルの評価ポイントとしては、三元系リチウム酸化物の安全性と性能を両立させる点であった。
その観点から、まず、三元系リチウム酸化物とマンガン酸リチウムの比較検証を行い、三元系リチウム
酸化物単独によるセル構成は困難であることを明らかとした。それをもとに、三元系リチウム酸化物に
熱安定性及び寿命特性に優れたマンガン酸リチウムを混合させる手法を考案し、最適な重量比を見
極めるための試作を実施し、結果として 7:3 の重量比が最適であるとの結論を導いた。一方で、極板
群構成はスタック式よりも長円巻回式の方が生産性に優れることを明らかし、セルケースに関しては、
ポリプロピレン樹脂より金属製が安全性、信頼性に優れることを明らかとした。その結果、高エネルギ
12
ー密度と高出力密度を兼ね、かつ、寿命特性に優れたセルの基本構成を見出した。
一方で、標準仕様で策定した 50Ah セルは産業用途としては比較的容量の小さなセルであるため、
電力貯蔵システムに適用するための最大の懸念事項はセルの並列接続による大容量化であった。
セルの並列接続方式としては、セル単独を並列に接続した上で、並列接続されたセル同士を直列接
続する「並列-直列」接続方式と、セルを直列に接続した組電池を構成し、組電池同士を並列に接
続する「直列-並列」接続があり、検討の結果、後者を採用した。フィールドでの評価の結果、35 並
列接続された電力貯蔵システムにおいても組電池間が均等に充放電されていることが確認され、標
準仕様で策定した 50Ah セルにて大規模な電力貯蔵システムの構築が出来る見通しが得られた。
これらの評価結果から、セルケースにステンレス、極板群構造に長円巻回式、正極活物質に三元系リ
チウム酸化物とマンガン酸リチウムの重量比 7:3 の混合系活物質を用いたセルが、電気的性能、耐
環境性、安全性試験を通じて、標準セルに求められる品質要求、及び本課題のミッションステートメン
トに掲げた電池性能の目標を満足することが確認され、電力貯蔵システムのフィールド評価において
も良好な成果が得られた。よって、本課題で策定したセルの標準仕様(品質要求仕様)は、電力貯蔵
用リチウムイオン電池の標準セル仕様に適用できるとの結論至った。
(2)ミッションステートメントに対する達成度
ニーズ、シーズの調査結果から、セル容量を 50Ah とし、セル寸法を SAE-J-1797、EV-1 を参考に 113H
×171W×44L(mm)と定め、セルの構成材料に三元系リチウム酸化物とマンガン酸リチウムの重量比 7:3
の混合系正極活物質、長円巻回式極板群構造、ステンレス製セルケースを用いることによって、ニーズ、
シーズの双方が満足する電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕様を策定することができた。
この組合せにより、重量エネルギー密度、重量出力密度、寿命は目標を達成することを確認し、信頼性
(故障率)については本課題で試作した標準セルに類似する性能及び構造を持つ小型セルの過去の事
故による回収率から試算した結果、10ppb を達成できる見通しを得た。また、量産性に関しては、自動ライ
ンの構築により年産 1 千万セルの生産が可能であるとの試算を得た。コストに関しては、目標 20 円/Wh と
したが、残念ながら目標到達に至らなかった。その原因としては、工場原価に占める材料費の割合が 8 割
もあり、材料メーカーを対象に量産時の供給コストを調査したものの、取引関係にない大学での調査であ
ったため、材料費の見積精度が得られなかったのが原因であると推定する。
表: ミッションステートメントに対する具体的目標値と結果
具体的目標
目標
結果
重量エネルギー密度
120Wh/kg
121.9Wh/kg
重量出力密度
1,000kW/kg
カレンダー寿命
3,000 回
信頼性
1 千万セル生産時のコスト
10ppb
(1×10
-12
個/時間)
20 円/Wh
13
1,000kW/kg
@20℃、SOC40%以上
3,500 回時の容量保持率 76.03%
4.6×10-11 個/時間
27.35 円/Wh
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
(4)研究目標の妥当性について
電力貯蔵用リチウムイオン電池の技術的な基礎はニューサンシャイン計画にて築かれたが、当時は電
気自動車等の移動体用と電力貯蔵用の定置用に分け、性能要求も異なりセルの共通化という認識はな
かった。一方で、本研究代表者等は、電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及促進のためには低価格化が
重要であり、そのためにはセルの標準化が不可欠であると考え、本課題を提案した。
リチウムイオン電池が持つ充放電特性、寿命性能を考慮すると、机上では、移動体と定置用は簡単に
共通化できそうな感がするのは否めないが、移動体が重視する重量エネルギー密度及び重量出力密度
と定置用が重視する安全性は相反する関係にあり、従来用いられてきたコバルト酸リチウムやマンガン酸
リチウム正極活物質では両方の要求仕様を満たすセルを実現するのは困難である。また、セル容量を共
通化することによって、大型電力貯蔵システムでは組電池構成手法が問題となるため、単にセル単体で
の評価だけでは、本課題が目的とするあらゆる用途に利用できる標準セルを開発することは困難であり、
本課題で掲げた目標は妥当であったと判断する。
(5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について
本課題採択直後から、展示会、講演、プレゼンテーション、プレス発表、web 等での情報発信を積極的
に行い、研究活動の意義や研究活動がもたらす想定される成果を広く知らしめることが出来た。その結果、
地方公共団体や都道府県の首長、政府関係者など、研究活動の意義を十分に理解していただける方が
増えたことは明らかである。
例えば、神奈川県においては知事を中心として、電力貯蔵用リチウムイオン電池の標準化がもたらす
普及とその成果である環境問題の抜本的解決についての具体的な方策を練る場として、大型リチウムイ
オン電池を利用した自動車の普及を目指す協議会を立ち上げるなど、研究活動が広く理解されたことが
伺える。また、本課題を提案するきっかけでもあり、本研究代表者等が中心となって開発した電気自動車
の啓蒙活動を兼ねて閣僚らに電力貯蔵用リチウムイオン電池の重要性を伝えたことは、話題としてマスコ
ミによって間接的にテレビや新聞という媒体によって一般の視聴者に伝えられたため、一般の方々からの
問い合わせが増える等、実感としてアウトリーチ活動の成果が見られた。
国際性という面においても、電気自動車国際学会・電気自動車国際シンポジウムの開催に合わせる形
で、プレスリリースを発表し、日経新聞や神奈川新聞に取り上げられることにより、標準規格についての提
言をおこなった。また同シンポジウムにおいては、住宅用の電力貯蔵用蓄電システムを一般公開し、一般
来場者への説明をおこなった。
外国からの問い合わせにも積極的に対応した。ノルウェー王国の運輸通信大臣ほか 10 名ほどの訪問
団へのプレゼンテーションを通し、電力貯蔵用チウムイオン電池に関する活動の紹介を行った。その結果、
ノルウェー王国の国会議員の訪問団約 20 名が再度来日し、同プレゼンテーションについて耳を傾けた。
ノルウェー王国は産油国であるが、国会議員団の帰国後、今後自然エネルギーを利用した CO2 を排出し
ない社会を目指すと政府が発表するなど、本研究がきっかけとなった可能性は否定できない。
また、米国のエネルギーエコノミストで、「石油の世紀」でピューリッツァー賞を受賞したダニエル・ヤー
ギン氏が本研究代表者を訪問した際には、「標準化の考えは全くその通りで、エネルギーの解決策の本
命だ」というコメントを頂戴している。
14
(6)研究計画・実施体制について
本研究代表者らは本提案に至る 1 年前より、電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及に向けた取り組み
を開始しており、複数の利用分野と電池及び電池システム製造側の企業 10 社からなる共同研究体を組
織し、基礎調査を行ってきた。
本研究採択後は、これらの企業の中、5 社が本研究のコアメンバーとして参画したため、その基礎調査
を継続させる形で、本共同研究体を母体に本研究を実施した。
平均的に週 2 回程度、実務者レベルでのワーキンググループを開催し、研究の進め方や進捗状況を
確認しながら研究を実施した。本研究が完了するまでに、合計 100 回のワーキンググループを開催した。
また、2 ヶ月に 1 回のペースで各社の役員クラスの会合を開催し、会社単位でプロジェクトの進め方及び
進捗を管理しながら、研究を進めた。そのうち年に 1 回を研究運営委員会とした。更に、年 1 回、各社の
会長もしくは社長による研究運営委員会を開催し、研究方針、進め方、進捗等を確認しながら研究を実
施した。
本研究では、各サブテーマが密接に関係しており、ワーキンググループを開催したことで、各社の進捗や
現状の課題等を共有しながら研究を進めることができ、非常に効果的な成果が得られたと考える。また、
ワーキンググループによって、研究代表者と各参画機関の縦のつながりでなく、横のつながりも生むこと
ができ、参画企業間同士のコミュニケーションも活発であった。更に、会社のトップの方々に認識していた
だいことも研究が円滑に進められた要因である。また、コミュニケーションツールとして、慶應義塾大学が
運営元となり、本研究のメーリングリストを活用した。これにより、フィールド評価でのデータや不具合など
を共有化することでき、活発な意見交換が行われた。
なお、本研究開始後も共同研究体に新たに利用分野側の企業 5 社が加わり、本研究と連携しながら、
電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及に関する取り組みを行った。
一方で、採択時に指摘された電池製造会社をコアメンバーに迎える件に関しては、国内の大手電池メ
ーカー(付録-3 参照)の代表や役員クラスなどの経営陣との面談に努め、積極的に支援をお願いしたが、
電力貯蔵用リチウムイオン電池の事業に関して興味を持たれないか、もしくは他と共同研究することに消
極的であり、実現に至らなかった。このため、本研究の試作セルは、慶應義塾大学にてセル製造仕様書
を策定した上で、ジーエス・ユアサコーポレーションにて組立作業を依頼することで解決した。
電池製造会社が、このような状況であったため、本研究成果が将来的に活用されないことが懸念
されたため、研究代表者らが中心となり、平成 18 年 9 月に大型リチウムイオン電池の試作、製造会社
「エリーパワー株式会社」を設立し、平成 20 年 4 月現在、大日本印刷、大和ハウス工業グループ、大
手家電メーカーの 3 社の支援を受け、社員約 40 名の体制にて電力貯蔵用リチウムイオン電池の大
量生産を目指し、活動を続けている。
本研究では、研究の成果(論文)発表及び特許出願の実績はないが、成果に関してはセルの製
造仕様書としてノウハウの形で取りまとめを行い、特許に関しては、本セルの製造に関して、特許調
査を実施した。リチウムイオン電池に関する特許は、材料及びセル構造の特許などが、1 万件以上出
願されており、既存の特許に触れずに実用化するのは困難な状況である。特許の回避が困難である
項目に関しては、今後、エリーパワー社での実用化検討の過程において、ライセンス取得の交渉や
設計による回避対策などの検討を進める。
15
(7)研究成果の発表状況
1)研究発表件数
原著論文発表(査
左記以外 の 誌面
読付)
発表
口頭発表
合計
国
内
該当なし
該当なし
該当なし
該当なし
国
外
該当なし
該当なし
該当なし
該当なし
合
計
該当なし
該当なし
該当なし
該当なし
2)特許等出願件数:
該当なし
3)受賞等:
該当なし
4)原著論文(査読付)
【国内誌】(国内英文誌を含む)
該当なし
【国外誌】
該当なし
5)その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web等)
①展示会:「東京モーターショー2005」、幕張メッセ、2005 年 10 月 21 日~11 月 6 日
②展示会:「慶應義塾大学オープンリサーチフォーラム」、六本木ヒルズ、2005 年 11 月 22・23 日
③プレス発表:「リチウムイオン電池の統一規格について」、パシフィコ横浜で開催された電気自動車国際
学会、電気自動車国際シンポジウムにて発表、新聞報道された。2006 年 10 月 23 日
④展示会:「電力貯蔵用リチウムイオン電池システム」、パシフィコ横浜で開催された電気自動車国際学
会、電気自動車国際シンポジウムにて電池システムを展示、2006 年 10 月 23~28 日
⑤講演:「日本を救うリチウムイオン電池と太陽光発電」、自民党にて国家戦略本部メンバーの多数の国
会議員向け、2007 年 11 月 21 日
⑥講演:「甦れ!地球」、パシフィコ横浜にて松沢神奈川県知事、アルピニスト野口健氏らとともに、2008
年 3 月 29 日
⑦展示会:「World Future Energy Summit」、アブダビ首長国で開催された展示会にて慶應大学開発の
ELIICA を展示したが車両の説明とともに本課題の説明も行った、2008 年 1 月 21~23 日
⑧ Web : 「 ELIICA BLOG 」 、 研 究 室 が 運 営 す る 情 報 発 信 サ イ ト “ ELIICA BLOG
( http://www.eliica.com/blog/ )”にて、文部科学省科学技術振興調整費の研究活動についても
度々紹介、~2007 年 3 月まで
16
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)リチウムイオン電池の標準化に関する研究
1.リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに関する研究
(分担研究者名:吉田 博一、
所属機関:慶應義塾大学)
1)要旨
ニーズに関する研究では、民生、交通、産業の各分野で共通に利用可能な電力貯蔵用リチウムイオン
単電池(以下、セル)の標準化を確立することを目的とし、各分野を代表とする企業を対象に電力貯蔵用
電池のニーズ調査を実施した。その調査結果をもとに、電池への性能要求仕様を取りまとめ、各分野で
広く汎用的に利用可能なセルの標準仕様を策定した。主な仕様として、セル容量は 50Ah、放電性能は
連続 150A(-20~60℃)、充電性能は 30 分で 80%以上の充電率、寿命性能は 20℃の温度条件の下、
3500 サイクル後もしくは 10 年後に初期容量の 70%以上を保持、安全性は 150%過充電状態、釘刺しによ
る内部短絡状態において破裂、発火しない、を目標性能とした。次に、標準セルの大量普及に必須であ
る低価格化と高安全性達成のため、構成材料や形状、寸法、構造について調査・検討を行い、セルの製
造仕様を決定した。形状、寸法の策定に当たっては、電力貯蔵用リチウムイオン電池の大きな市場として
期待できる電気自動車での適用を考慮し、自動車関連及び航空宇宙関連の標準規格の開発を行ってい
る SAE(Society of Automotive Engineers)が電気自動車用電池規格として推奨する SAE-J-1797、EV-1
を参考に、116H×175W×194L(mm)をモジュールの外形寸法とし、1 モジュールあたり 4 つのセルで構成
することにし、セルの最大寸法を 113H×171W×44L(mm)とした。また、ニーズ調査を進行させる中で、電
力貯蔵用リチウムイオン電池の大量普及を妨げる法規制に関して調査を実施するとともに、各種統計資
料をもとに、本標準仕様で適用可能な国内における電力貯蔵用リチウムイオン電池の市場規模を推計し、
1,626,407 千セルとの結果を得た。
シーズに関する研究では、ニーズに関する研究結果をもとに、セルの製造仕様を策定し、量産時の材
料価格調査及び製造ラインの構想を検討した。量産効果を図るため製造ラインの生産能力は 1,000 万セ
ル/年とし、電極製造工程、セル部品組立工程、検査工程の 3 ブロックより成る完全自動化構想とし、1
日 3 交代 21 時間、年間 330 日稼動を想定した。これをもとに、設備投資計画、人員計画を作成し、工場
原価を算出した。その結果、1,000 万セル/年生産時の Wh あたりの工場原価は 27.4 円と算出された。
また、市場投入後のセルの信頼性(故障率)を試算し、設計構造と性能(エネルギー密度:Wh/kg)が類
似した小型セルについて生産数量と回収事故数を基準として試算し、目標に掲げた 10ppb を達成できる
見通しを得た。
2)目標と目標に対する結果
(目標)
民生、交通、産業の各分野での電力貯蔵用電池に対する性能要求をまとめ、共通利用が可能な電力
貯蔵用リチウムイオンセルの標準仕様(品質要求仕様)を策定する。
また、セル構成材料、構造、製造法について調査検討を行い、性能、価格、安全性、量産性の点から
最適な標準セルの製造仕様や量産手法を策定し、Wh あたりの工場原価 20 円を目標とする。併せて、市
場投入後のセルの信頼性を検討し、10ppb を目標とする。
(結果)
17
各電力貯蔵システムに要求される電気的性能を調査し、システム毎に電池に求められる電圧と容量、
及び生産性の観点から標準セルの容量を 50Ah に決定した。セルの形状は機器へ搭載した際にデッドス
ペースが少ない角形とし、最大寸法を 113H×171W×44L(mm)とした。電気的性能(電池特性)について
は各システムの性能要求から最も厳しい値を共通目標とし、耐環境性、安全性を追加して標準セルの品
質要求仕様を策定し、放電性能は連続 150A(-20~60℃)、充電性能は 30 分で 80%以上の充電率、寿命
性能は 20℃の温度条件の下、3500 サイクル後もしくは 10 年後に初期容量の 70%以上を保持、安全性
は 150%過充電状態、釘刺しによる内部短絡状態において破裂、発火しない、を主な仕様とした。
セルの主要な構成材料である正極活物質、負極活物質、電解質について調査し、性能、価格、資源
量の点から正極活物質には多元系(ニッケル・コバルト・マンガン)リチウム酸化物(以下、
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)とマンガン酸リチウム(以下、LiMn2O4)の重量費 7:3 混合品を、負極活物質には黒
鉛、電解質には複素環式化合物及び鎖状カーボネートの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(以下、
LiPF6)を溶解した有機液とした。極板群は量産性と耐振動・衝撃性の点から長尺状の正負極板を長円形
に巻回した長円巻回構造とした。
量産手法として電極製造工程、セル部品組立工程、検査工程の 3 ブロックより成る生産能力 1,000 万
個/年の全自動量生産ライン構想を構築した。その上で材料費、減価償却費、光熱費、人件費等につ
いて調査・検討を行い、1,000 万セル/年生産時の Wh あたりの工場原価 27.4 円を算出した。
信頼性は、本研究では故障率を意味し、信頼性 10ppb とは 1,000 万個のセルを 10 年間使用した時の
故障数が 1 以下を意味する。即ち、故障率は 1 個/10,000,000 個×10 年×365 日/年×24 時間/日≒
1×10-12 個/時間となる。大型セルは市場での実績がないことから、構造と性能(重量エネルギー密度:
Wh/kg)が類似した小型セルについて生産数量と回収事故数を基準として試算し、4.6×10-11 個/時間と
の計算結果から、目標 10ppb が達成できる見通しを得た。
3)研究方法
3.1 電力貯蔵用リチウムイオン電池のニーズに関する研究
3.1.1 セルの標準仕様(共通品質仕様)の策定
セルを設計する上で必要となる基本諸元は、形状、寸法、容量(Ah)、放電特性、充電特性、温度特性、
寿命特性である。なお、作動電圧は使用する活物質によって決まり、現在実用化されている一般的なリチ
ウムイオン電池の場合は、3.6V~3.8V である。本研究では、目標とするエネルギー密度、出力密度を設
定した後で、3.2.1.で検討する。
まず、セル容量、放電特性、充電特性、温度性能、寿命性能を設定するため、民生、交通、産業の各
分野を代表して、大和ハウス工業(株)、エネサーブ(株)、(株)竹中工務店、KDDI(株)、国内の大手自動車
会社を対象に調査した。民生分野である住宅や小型店舗分野等における負荷平準及びバックアップ電
源、産業分野である電力事業、ビル、大型店舗、通信事業等における負荷平準、ピークカット、防災シス
テム、及び無停電源装置(以下、UPS)、交通分野における電気自動車に関して、電気的要求性能を調
査した。
負荷平準とは電力平準化のため深夜電力を電池に蓄電して昼間の電力に利用するシステムを指す。
また、ピークカットとは、深夜電力を蓄電して、昼間に契約電力を超えた分を電池から補うシステムを指す。
主に後者は負荷変動の激しい設備を有する工場などで利用されることが多い。防災システムは一定規模
以上のビルやマンションなどに義務付けられている消火設備やエレベータ等の非常用電源の代替設備と
18
して検討した。また、UPS は通信事業者や放送局、航空管制塔などで広く利用されており、一般的にはエ
ンジン発電機やガスタービン発電機などが安定的に起動するまでの間のつなぎ役として、停電時に無瞬
断で重要機器に電力を供給する設備である。
セル容量の算出にあたっては、各機器に必要な蓄電池容量(kWh)、及び各機器への供給電圧から各
機器に必要な電池の総容量(Ah)を換算し、各用途別の最大公約数から共通で利用可能なセル容量を導
いた。また、機器の最大出力及び定格出力から、標準セルに要求される放電レート(放電電流を電池容
量との比率で表した数値)を算出し、各種用途の中で最も厳しい値を標準仕様とした。同様に、寿命性能、
温度性能、急速充電性能についても、各種用途の中で最も厳しい値を標準仕様とした。
次に、電池を標準化する上で重要な鍵を握る形状及び寸法を検討した。本課題では、電力貯蔵用リチ
ウムイオン電池セルの標準化を目的としているが、標準化の手法としては、市場における競争の結果とし
て標準化されるデファクトと、業界団体や国際標準化機関等により定められるデジューレがあり、電池分
野の場合は、市場を席巻した製品がデファクトスタンダードとして定着するケースが多い。一方で、電力貯
蔵用リチウムイオン電池の最も大きな市場は自動車分野であり、電気自動車にとっても、電池の形状及び
寸法は大量普及させる上で重要な鍵となるため、形状及び寸法に関しては、電気自動車用の電池規格
を参考に仕様を決定した。
これらの基本諸元に、耐環境性能及び安全性能を加味し、その上で、価格や性能面から過剰な品質
要求とならないよう検討を行い、セルの標準仕様(共通品質仕様)を策定した。耐環境性については、リチ
ウムイオン電池に関する国連の危険物輸送の規制勧告や自動車用機器の環境に対する一般的要求事
項(JASO D-001-94、自動車用機器環境試験法通則)を参考とし、安全性については国連の危険物輸送
の規制勧告や小型リチウムイオン電池の安全性試験を調査・検討し、要求仕様をまとめた。
政府機関に対して、リチウムイオン電池の大量普及に向け法規制の緩和を訴えるとともに、デジューレ
スタンダードに関しての可能性も探索した。
3.1.2 法規制の調査
電力貯蔵用リチウムイオン電池の使用及び設置を巡っては、本研究発足当初、電気事業法、消防法、
建築基準法で規制されていたので、各省令を所管している経済産業省、消防庁、国土交通省を訪問し、
各法規制の現状と規制緩和の可能性について調査した。
3.1.3 市場規模の推計
電力貯蔵用リチウムイオン電池の市場規模を把握するため、3.1.1で策定したセルの標準仕様(共通
品質仕様)をもとに、本標準仕様で適用可能な国内における電力貯蔵用リチウムイオン電池の市場規模
を推計した。本推計にあたっては、3.1.1で取り上げた用途以外に以下の 3 分野を追加した。
まず、自立歩行型ロボットや無人搬送車(AGV)、電動車椅子、ゴルフカー等、動力を蓄電池の電力に
頼る移動体の分野、次に、銀行 ATM、交番、信号機、自動販売機等、従来の蓄電池では容積・重量から
対応困難だが、災害対策の観点からバックアップ電源を導入することが望まれる分野、最後に、太陽光・
風力発電に代表される自然エネルギーを利用した発電との組み合わせ用途である。
上記 3 分野の用途と3.1.1で取り上げた用途の日本国内の生産数もしくは静態件数を各種統計資料
から抽出し、その件数とそれぞれの用途で必要なセル数の積から日本国内における電力貯蔵用リチウム
イオン電池の市場規模を推計した。
19
3.2 電力貯蔵用リチウムイオン電池のシーズに関する研究
3.2.1 セル製造仕様の策定
3.1.1で策定したセルの標準仕様(共通品質仕様)をもとに、仕様を満たすセルの主要構成材料であ
る正極活物質、負極活物質、電解液について検討し、資源量、価格、性能、安全性の観点から最適なセ
ル材料を選定した。
正極材料の調査対象は、現在の携帯電話、モバイル PC 向け電池で主流のコバルト酸リチウム
(LiCoO2)、大型電池で採用実績の高いマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、近年注目が高い三元系(ニッケ
ル・コバルト・マンガン)リチウム酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、多元系複合リ
チウム酸化物(LiNi0.56Mn0.3Co0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)とした。また、負極材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、
易黒鉛化炭素などの黒鉛系炭素、フルフリルアルコールなどの有機物を焼成した難黒鉛化炭素や金属
複合酸化物(SnMxOy、SiO、Li4/3Ti5/3O4)などの金属酸化物を、電解液については、エチレンカーボネー
ト(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ガンマブチルラクトン(GBL)などの複素環式化合物やジエチルカ
ーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などの鎖状カーボネ
ートの有機溶媒や各種のゲル状電解質、固体電解質と六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウ
ム (LiBF4)、イミド塩(Li(CF3SO2)2N)、過塩素酸リチウム (LiClO4)などの溶質を調査対象とした。
その他の材料として、セルケースやセパレータ、バインダーについても材質による特徴等を比較検討し、
3.1.1で策定したセルの標準仕様に最適な材料を選定した。
一方で、電極群の構造として、スタック式と長円巻回式構造について性能、生産性、信頼性の観点から
検討した。
これらの検討結果をもとに、最適なセルの製造仕様を策定した。
3.2.2 工場原価の算定
携帯電話、デジタルカメラ等向けの角形巻回式セルの製造方式、自動生産設備を基準にして3.2.1.
で策定したセルの製造仕様を実現する生産方式、自動生産設備構想を立案した。主な量産設備の機能
や設備能力は小型セルを参考とし、極板群と集電リードの溶接装置、端子とケース蓋の固定設備など大
型セルに特有な設備は、類似の設備を基準として寸法や設備能力を算出した。これをもとに、設備投資
金額と工場スペースを策定し、その上で、工程別作業人員を推定し人件費を算出し、電力費については
設備ごとの電力量を想定して使用電力量を概算した。
材料費は、主要材料について既存の材料メーカーを訪問し生産量と価格について調査を行った結果
をもとに推定した。
設備投資は、法定償却年数を基準にして定額償却方式で償却費を算出し、量産時の収率を仮定して
材料費、人件費、光熱費を求めて工場原価を算出した。
3.2.3 信頼性検討
本研究の信頼性は市場での故障発生確率を意味する。
大型セルの市場実績はほとんど皆無なため、類似の重量エネルギー密度(120Wh/kg)と極板群構造
を有する小型角形セルの故障率を計算し、標準セルの信頼性を算出した。類似のエネルギー密度と構
造を有し異なる容量のセル間の故障発生確率は、内部短絡を想定すると正負極板が対抗する極板表面
積に比例すると考えるのが妥当である。極板単位面積当りの容量は近似していることから、極板表面積比
20
は容量比とほぼ同一と考えることができるので、小型角形セルの故障率から容量比で標準セルの故障率
が算出できる。以上より、1999 年から 2001 年のジーエス・メルコテック(GSMT)社の生産量 13,400 万個に
対する出荷後 3 年間(2000 年から 2002 年)の市場回収事故 0 を基準として小型セルの最大故障率を計
算し、容量を当時の技術到達度から 500mAh と仮定して 100 倍(50Ah/0.5Ah)することにより得られる故障
率から標準セルの信頼性を求めた。
4)研究成果
4.1 電力貯蔵用リチウムイオン電池のニーズに関する研究
4.1.1 セルの標準仕様(品質要求仕様)の策定
セル容量、放電特性、充電特性、温度性能、寿命性能を設定するため、代表的な電力貯蔵システムの
電気的要求性能を表―1に示す。
表-1 代表的な電力貯蔵システムの電気的要求性能
分野
用途
ビル/大型店舗/
住宅/
電力事業者/通信事業
小型店舗
負荷平準/
ピークカット
防災
UPS
交通(自動車)
無線
負荷平準/
軽
乗用車
基地局
非常用
クラス
クラス
機器最大出力(kW)
150
1,500
250
14.5
2
50
125×2
機器定格出力(kW)
50
500
250
14.5
2
24
60×2
充電時間
8~10 時間
1 時間
8~10 時間
目標寿命
10 年、3,500 回
15 年フロート
機器動作温度
-20~60℃
25℃±10
10 年、
3,500 回
-20~60℃
充電率 80%まで
30 分
10 年、1,000 回
-20~60℃
蓄電池容量(kWh)
500
1,500
93
52
18
16
18×2
システム定格電圧(V)
200
200
600
29
200
330
360
電池容量(Ah)
2,500
4,500
155
1,800
90
48
50×2
セル容量(Ah)
上段電池容量(Ah)の最大公約数 ≒ 50Ah
連続放電レート(C・A)
0.10
0.33
2.69
0.28
0.11
1.50
3.33
最大放電レート(C・A)
0.30
1.00
2.69
0.28
0.11
3.13
6.94
蓄電池容量(kWh)から機器定格出力(kW)で除した値が機器 1 回あたりの最大運転時間となる。負荷
平準、ピークカットは昼間の電力需要を削減することが目的であるため、深夜電力を充電し、昼間は商用
と系統連系運転するため 10 時間程度の運転時間が見込まれる。また、機器定格出力を蓄電池容量で除
した値が連続放電レート(C・A)となり、機器最大出力を蓄電池容量で除した値は最大放電レート(C・A)
となる。これらの値とセル容量の積がそれぞれ連続放電電流と最大放電電流となる。
今回検討した用途の中では、連続放電レート及び最大放電レートは乗用車クラスの電気自動車が最も
高い要求仕様となった。但し、自動車が最大出力で運転されることは日常の用途ではごく数秒程度の短
21
時間であり、実際には、定格出力さえも連続使用する機会はほとんどない。従って、実質的には電力貯蔵
用リチウムイオン電池にとって最も過酷な放電レートは UPS 用途となる。なお、筆者らは過去に Eliica とい
う電気自動車を開発し、連続放電レート 3CA を満足するセルであれば、実用的に電気自動車を活用でき
ることを実証している。
表-1から、用途毎に必要な蓄電池容量(kWh)からシステム定格電圧を除して電池容量(Ah)を求め、
各用途の電池容量(Ah)の最大公約数からセル容量を 50Ah とした。連続放電レートは UPS 及び乗用車ク
ラスの中間値から 3CA(-20~60℃)、すなわち連続 150A の放電性能とし、出力性能は 20℃―SOC
(State of Charge:充電率)50%で 1,000W/kg とした。充電性能に関しては、電気自動車用途の要求から
30 分で充電率 80%以上の充電率、寿命性能は 20℃の温度条件の下、3,500 サイクル後もしくは 10 年後
に初期容量の 70%以上を保持とした。
寸法及び形状に関しては、電力貯蔵用リチウムイオン電池の最も大きな市場(表-4 参照)と推定され
る自動車分野へ照準を定め、自動車関連及び航空宇宙関連の標準規格の開発を行っている SAE
(Society of Automotive Engineers)が電気自動車用電池規格として推奨する SAE-J-1797、EV-1 を参考
に、取り扱い性や搭載レイアウトの容易性を加味し、同規格の 1/2 サイズである 116H×175W×194L(mm)
をモジュールの外形寸法とした。セル形状は体積効率を考慮し角形形状とし、寸法は同モジュール内に
セルを 4 個横置き配置とし、セル間空隙 4mm、端子上部空隙 3mm、収納ケース厚み 2mm を想定して
113H(端子含む)×171W×44Lmm とした。重量は電気自動車要求の 1.6kg 以下/セルとした。なお、電
池をセルで取り扱わずにモジュール構成としたのは、リチウムイオン電池は安全性や電池の残存容量(充
電状態)を確認するために、各セルの電圧や温度を監視するための制御装置が必要となるため、コスト削
減には個別に監視制御装置を搭載するよりも複数のセルを一括監視する方が効果的であるためである。
耐環境性については国連の危険物輸送に関する勧告や自動車用機器の環境に対する一般的要求事
項(JASO D-001-94、自動車用機器環境試験法通則)による低温、高温、温度サイクル、熱衝撃、温湿サ
イクルなどの耐環境性に落下衝撃を追加した。更に実用時に想定される安全上の項目を検討して表―2
に示す品質要求仕様を策定した。(詳細は付録資料―1 に添付)
なお、標準化という観点からは、監視制御装置の通信規格も重要であるが、通信規格に関してはデジ
ューレスタンダードで規格化されるのが一般的であり、現状では、具体的な仕様を策定するのは困難であ
るためハードウェア仕様のみを国際標準を考慮し、自動車を中心に広く産業機器にも定着しつつある
CAN(Control Area Network)を選定し、ソフトウェア変更のみで将来的な標準化構築の流れに対応できる
可能性を考慮した。
デジューレスタンダードの可能性を検討するため、政府機関に働きかけを行い、その成果として、経済
産業省では、「次世代自動車の基礎となる次世代電池技術に関する研究会」の発足や、神奈川県では
「かながわ電気自動車普及推進協議会」発足のきっかけとなった。しかし、残念ながら、経産省の研究会
では、本研究が目的とするセル自体の標準化というところまで深く議論ができなかったが、それでも政府
や自治体に電力貯蔵用リチウムイオン電池に対する関心を抱いていただくきっかけは作れたと感じる。
22
表-2 電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕様(品質要求仕様)
項
目
要
求
仕
様
セル容量
50Ah 以上(20~60℃)at1.0CA(50A) 3.0CA(150A)放電時 90%以上
出力特性
1,000W/kg 以上(20℃-充電率 50%時)
充電性能
30 分で充電率 80%以上
20℃の温度条件の下にて、
寿命性能
3,500 サイクル後もしくはフロート 10 年後のセル容量 35Ah 以上
但し、放電レートは 1.0CA(50A)とする
外形寸法及び重量
最大 113H(端子含む)×171W×44Lmm、 1.6kg 以下(120Wh/kg 以上)
ア)温度:-20~60℃ イ)温度サイクル:-40~75℃×6hrs,10 回 ウ)高温高
湿:60℃×95%RH, 94H エ)振動:a) 最大 8G, 7~200Hz/3 軸, 9hrs b)最大
1G, 0.5~10Hz, /3 軸 15min オ)衝撃:最大 150G, 6msec, 3 軸 6 方向 18 回
耐環境性能
カ)コンクリート上落下:1m キ)高度:11.6kPa×6hrs ク)塩水噴霧:5% 食塩
水 35℃240 時間 ケ)JASO D-001-94 自動車用機器環境試験法通則に準じ
た低温、高温、温度サイクル、熱衝撃、温湿サイクル/液漏れ、安全弁作動な
どの異常なし
安全性
下記条件において、いずれも破裂・発火、火炎・爆発なきこと
外部短絡、内部短絡(釘刺し)、過充電 150%、過放電 150%、圧壊 25%
※詳細仕様書は付録資料-1 に添付
4.1.2 法規制の調査
(電気事業法の規制の調査)
電気事業法にもとづく経済産業省令「電気設備に関する技術基準を定める省令」では、対象外と明記
された二次電池以外の二次電池は「発電所」となる。リチウムイオン電池は対象外の二次電池と明記され
ておらず、リチウムイオン電池を利用した蓄電システムは「発電所」に該当する。このためリチウムイオン電
池を利用した蓄電システムを設置する場合は、規模によらず発電所の設置認可を事前に取得する必要
があるため、リチウムイオン電池を用いた電力貯蔵システムを普及させるための阻害要因となっていた。
本研究においても当該法規に対応し、電力貯蔵システムのフィールド評価に際しては、発電所の設置
認可を事前に取得していたが、本研究を通じて、各分担研究機関とともに、規制緩和に向けた要望を経
済産業省に提案してきた。
筆者等の活動も一つのきっかけとなり、当該経済産業省令が改正され 2008 年 5 月 1 日より規制緩和が
実施される見通しである。
(消防法の規制の調査)
リチウムイオン電池は非常用電源として消防庁に認定されていない。このため、現状では防災用途の
電源装置にはリチウムイオン電池を適用することができない。現在、非常用電源に採用できる蓄電池は鉛
蓄電池とニカド電池および、2006 年の 4 月から認定されたナトリウム硫黄電池とレドックスフロー電池であ
る。但し、総務大臣の認定や地方自治体の条例で特別に設置を認めることがある。消防庁からは、非常
用電源として採用されるための条件として、まずはリチウムイオン電池を用いた電源装置の実績を作ること
23
が重要との見解が示されたが、そのためには電気事業法の規制緩和が必須であった。前述の通り、この
度、電気事業法の規制緩和の運びとなったので、今後はリチウムイオン電池も非常用電源として認められ
る可能性が広がった。
また、リチウムイオン電池の電解液には有機溶剤が使用されている。そのため電解液は、消防法が定
める危険物のうち第4類引火性液体のひとつである第二石油類に該当し、この電解液を使用するリチウム
イオン電池そのものも危険物扱いとなる。消防法がそれぞれの危険物に定める指定数量は、リチウムイオ
ン電池の電解液の場合 1,000 リットルになる。危険物の量が指定数量以上の場合は、保安距離の指定、
標識の設置、危険物取扱者の届出などが要求される。また、指定数量以下であっても、市町村条例によ
り制約を受ける場合がある。
(建築基準法の規制の調査)
建築基準法では、上記消防法に定める危険物を製造・運搬・貯蔵する場合、準住居地域、商業地域な
どの用途地域毎に扱える危険物の数量の上限が決められている。そのうち住居地域・住居専用地域など
数量の上限に関する記載が無い地域は危険物の製造・運搬・貯蔵が許されず、電力貯蔵用リチウムイオ
ン電池を利用したシステムが設置できない可能性がある。
現状は電力貯蔵用リチウムイオン電池を利用したシステムが建築基準法の規制対象になるのかどうか
について明確な判断基準がなく、本省令を所管する国土交通省は、省令制定当時はこのような電力貯蔵
システムの設置が想定されていなかったため、現状では判断が難しいとの見解を示している。しかしなが
ら、規制対象になる場合でも、市町村長・知事などの判断で設置は可能であり、また、本研究を通じて、
国土交通省には省令の改正を要望として提案している。
これらの法規制の概要を表-3 に示すが、このようにリチウムイオン電池を取り巻く法規制が複数の省
庁にまたがっているため、本研究では経済産業省を通じて、窓口の一本化に関する要望を提案した。
表-3 電力貯蔵用リチウムイオン電池にかかる法規制の概要
法規
所管
電気事業法
経済産業省
原子力安全・
保安院
普及への影響
法規制の概要(2008.3現在)
戸建住宅用
事業用
「発電所扱い」に該当
2008年4月の省令改正により「発電所扱い」の対象外
事業用電気工作物に該当
電気設備により事業用電気工作物か
一般用電気工作物かが判断される
(電気主任技術者の選任が必要)
解
決
済
一般家庭向けは一般用電気工作物
総務省
消防庁
予防課
非常用電源として使用できない
非常用電源の蓄電池として
の指定がない
該当しない
住宅用蓄電システムは
4800Ah・セル未満
⇒該当しない
消防法
4800Ah・セル以上の蓄電池設備
は所管消防署長へ届出が必要
総務省
消防庁
危険物保安室
建築基準法
国土交通省
住宅局
市街地建築課
電池規程
電力貯蔵用
社団法人
日本電気協会
危険物扱いとなる
※電解液が第2石油類に該当
さらに
蓄電池システムが建築基準法に
より設置規制の対象となる場合
明確な判断基準がないため、設置
する事業者により規制対象となる
か否かの判断が分かれている。
電力貯蔵用電池の認定未済
※「総務大臣の認定」または
「条例による特例」が必要
4800Ah・セル以上の
場合は届出が必要
住宅用蓄電システムは
電解液の量が一定規模
(1,000ℓ)未満
⇒該当しない
一定規模以上の場合は
所定の対応が必要
住居地域・住居専用地域
の設置が許可されない
用途地域によりシステム
の規模が制限される
※以下の対応が必要
・市町村又は県の個別の許可
※以下の対応が必要
・市町村又は県の個別の許可
・保安距離の指定
・標識の指定
・保安管理者の届出
2008年3月に電力貯蔵用電池にリチウムイオン電池を
認定する改定を実施
24
解
決
済
4.1.3 市場規模の推計
表-4 に4.1.1で策定した電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕様(共通品質仕様)をもとに、
当該セルが適用可能なニーズ(市場規模)の推計を示す。本検討に当たっては、1 セルを標準仕様で定
めた 50Ah として換算し、表-1 で検討した用途に加え、各種統計資料をもとに、蓄電池の電力に頼る移
動体、従来の蓄電池では容積・重量から対応困難だが、災害対策の観点からバックアップ電源を導入す
ることが望まれる分野、更には太陽光・風力発電に代表される自然エネルギーを利用した発電との組み
合わせ用途も加味した。
その結果、市場全体の推計としては、約 16 億セルとの結果を得た。特に、需要が多い分野は移動体で、
中でも乗用車が約 10 億セルと圧倒的な数量であるが、電力貯蔵分野の家庭用途でも約 5,000 万セル、
バックアップ電源分野の通信機器用途だけでも約 1,600 万セルの需要があり、電力貯蔵用リチウムイオン
電池の潜在的な市場規模の大きさが確認された。
普及の流れとしては、先ず自立歩行型ロボット、無人搬送車(AGV)、電動自転車、電動車椅子、
電動カート、バッテリーフォークリフトなど、動力を蓄電池の電力に頼る移動体のうち、生産数
量が比較的小規模なものや、ATM向けのバックアップ電源、交番向けのバックアップ電源、信
号機向けのバックアップ電源など、鉛蓄電池では容積・重量から対応未済だが災害対策の観点か
ら導入が想定される分野から導入が始まる。これらの分野は市場規模が小さいが、Wh あたり 100
円の販売価格から市場参入が可能と想定する。
次に、既に鉛蓄電池を使ったバックアップ用電源システムが普及している通信機器用途や産業用機器
での利用が見込まれる。小型・軽量というリチウムイオン電池の付加価値を訴求することにより、鉛蓄電池
の置き換えとして、Wh あたり 80~60 円の販売価格からの市場参入が可能と想定する。これらの
分野はすでに鉛蓄電池で相当規模の市場が形成されており、この市場への参入によりリチウムイ
オン電池の大量生産が本格的に進むと想定する。
最後に、リチウムイオン電池の価格低下が進むことにより実現可能となる、住宅用蓄電システム、
オフィスビル用の大型蓄電システムなどの電力貯蔵の用途や、風力発電の出力安定化用蓄電シス
テム、電気自動車の電源などの市場が立ち上がる。これらに分野は、それぞれ市場規模が大きい
が、Wh あたり 20 円の販売価格になった段階で普及が進むと想定する。
25
表-4 電力貯蔵用リチウムイオン電池の市場規模の推計
対象市場
自動車
乗用車
商用車(小型~普通)
商用車(大型車輌)
移
動
体
民生用
機器
15,392
12,531
14,849
-
棟
棟
棟
136,872 ヶ所
419,605 ヶ所
2,300 ヶ所
-
220,240
棟
1,000
22,024
-
82,390
棟
1,000
8,239
-
台
1,000
-
台
台
台
427,452
-
台
無人搬送車(AGV)
蓄電池式運搬車
バッテリーフォークリフト
613
5,864
53,025
-
台
台
台
電動車椅子
24,187
-
台
ゴルフカー
10,000
-
台
160
-
台
自律型ロボット
家庭分野 戸建住宅
貯電
蔵力
494,094 24,245,400
事務所
産業分野 店舗
工場
携帯電話基地局
通信機器 PHS基地局
航空運輸
延床1,000㎡以上
の工場以外
産業・民 延床1,000㎡以上
生施設 の工場
大型コンピューター
電ク
源ア
官公庁
(含む地方自治体)
ッ
バ
951
ッ
-
信号機
交番
ATM
自然エネルギー 風力発電
発電
太陽光発電
1,874 ヶ所
191,427
-
189,559 台
6,300 ヶ所
28
32
436,222
233,708
871,638
棟
3,000
-
-
自販機
業務用冷蔵庫
戸
H16/3
プ 社会基盤 防災拠点
その他
単位
9,787,234
1,703,483
17,726
建設機械
産業用
機器
セル数
対象市場のデータの出典
市場規模
資料名
/件
計測期間
(千セル)
(掲載元)
100
978,723 H18/4~
自動車統計
100
170,348
(日本自動車工業会)
19/3
200
3,545
H18/4~
建設機械生産実績統計
100
42,745
19/3
(日本建設機械工業会)
60
37 H18/1~ 産業車輌生産実績の推移
60
352
(日本産業車輌協会)
18/12
24
1,273
H18/4~
電動車いす 出荷台数
8
193
19/3
(電動者いす安全普及協会)
H18/4~ YAMAHA FACT BOOK 2007
4
40
19/3
(ヤマハ発動機)
05年版リチウムイオン電池
H16/1~
8
1
市場の徹底研究
16/12
(矢野経済研究所)
H18/4~
住宅着工統計
96
47,433
19/3
(国土交通省)
5,000
76,960 H18/4~
建築着工統計
5,000
62,655
19/3
(国土交通省)
5,000
74,245
300
4,106
情報通信統計
300
12,588 H19/3
(総務省)
300
69
年間生産量 静態件数
3,000
110,670
台
28
4,274,200
-
台
台
28
40
1,314
基
35,000
kW
40
-
合計(50Ahセル換算推計)
法人建物調査
(国土交通省)
機械統計
(経済産業省)
総務省HP
562 H19/1
合併相談コーナー
(総務省)
防災拠点となる公共施設等の
57,428 H17/4
耐震化推進状況
(消防庁)
警察白書
531
H18/3
(警察庁)
20
全銀協統計
310 H18/9
(全国銀行協会)
12,214 H18/4~
機械統計
(経済産業省)
9,348 19/3
日本における風力発電
4,599 H19/3
導入の推移
(NEDO)
H18/4~
太陽電池総出荷統計
34,866
19/3
(太陽光発電協会)
1,626,407
951
H18/4~
19/3
4.2 電力貯蔵用リチウムイオン電池のシーズに関する研究
4.2.1 セル製造仕様の策定
表-2 に示した電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕様をもとに、仕様を満たすセルの主要構
成材料、及び製造仕様を検討した。
まず、価格と性能面で大きな因子である正極活物質について検討した。表-5 に正極活物質の候補と
特徴を示す。電力貯蔵用リチウムイオン電池の潜在的な需要は、表-4 に示した通り莫大な数量であり、
特に、自動車の電動化が本格的に進むと資源の埋蔵量を考慮する必要がある。また、本研究ではセル
容量を 50Ah に設定したため、安全性を確保する上で熱安定性の高い材料が不可欠である。そのような
観点から、マンガン酸リチウムと三元系リチウム酸化物に着目した。マンガン酸リチウムは資源が豊富で熱
安定性にも優れるが、一方で理論容量が小さく、また、材料にリサイクルの価値がないため、将来的な回
収に懸念がある。三元系リチウム酸化物は採用実績が少ないが、理論容量が高く、コバルト、ニッケル、
マンガンの化合物であるため、リサイクルの価値があり、熱安定性もコバルトやニッケルを単独で使用する
26
表-5 正極活物質の候補と特徴
理論容量
mAh/g
マンガン酸リチウム
LiMn2O4
コバルト酸リチウム
LiCoO2
多元系複合リチウム酸化物
LiNi0.8Co0.15Al0.05O2
三元系リチウム酸化物
LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2
リン酸鉄リチウム
LiFePO4
148
273
279
278
170
特徴
安全性
充電時熱分解温度
安全
優
低コスト
350℃
高エネルギー
劣
希少金属
250℃
高エネルギー
良
希少金属
310℃
安全性と性能の両立
良
実績に乏しい
320℃
極めて安全
優
作動電圧が低い
400℃以上
資源量
○
×
△
●
◎
よりも優れている。本課題では、重量エネルギー密度を 120Wh/kg を目標としており、性能、安全性の両
立のため、三元系リチウム酸化物とマンガン酸リチウムの二種を選定した。試作においては、三度の試作
を実施し、表-6 に示す三元系リチウム酸化物とマンガン酸リチウムを7:3、5:5、2:8、0:1 の割合で混合
させた 4 種のセルを設計試作し、評価の結果 7:3 の混合比が安全性、性能の両立において最適であると
の結論に至った。なお、熱安定性と、資源量の点からは LiFePO4 がベストであるが、安定した材料供給が
実現されていないため除外した。
負極極活物質や電解質は、小型セルで十分な使用実績があり容量が大きく(372mAh/g)資源量に富み
大量生産時には低価格化が見込まれる黒鉛系カーボンや、低温から高温までの広い温度範囲での使用
が可能な有機電解液を採用し、セパレータには化学的に安定で資源量も豊富、且つ量産時の低価格化
が可能なポリエチレンの微多孔膜を選定した。セルケースは重量エネルギー密度、耐腐食性、気密性の
要求からアルムニウム製の仕様としたが、試作設備の都合により第一次試作は樹脂(ポリプロピレン)、第
二次及び第三次試作はステンレスにて実施した。なお、評価結果から品質仕様の重量 1.6 kg 及び安全
性を満足するにはアルミニウム(Al)の使用が必須であるとの結論に至った。
極板群の構造は多数の平板状極板を積層使用するスタック構造と 1 枚のロール電極を長円形に巻き
取る長円巻回構造の二種類を評価し、第一次試作はスタック構造、第二次及び第三次試作は長円巻回
構造とし、最終的に、製造タクト及び耐振動・衝撃性に優れる長円巻回構造を最終仕様とした。
なお、試作したセルの評価の詳細は、(2)「リチウムイオン電池の標準セルおよび電池システムの
試作、評価に関する研究」にて述べる。
4.2.2 工場原価の算定
表-6 のセルの最終製造仕様をもとに、長円巻回式極板群構造の小型角形セル自動量産ラインをベー
スとして、標準セルの製造方式や 1,000 万セル/年生産が可能な自動生産ライン構想を作成した。図―1
に長円巻回構造極板群を用いたセルの製造フローを示す。工程としては、電極製造、セル組立、検査の
3 ブロックに分けられる。品質の安定を考慮し、電極製造工程は正負極を別々のクリーン室に分けた。工
場の稼働日数は 1 日 3 交代、21 時間、年間 330 日を前提とし、歩留まりは小型セルの実績から、電極
27
表-6 セル製作仕様
試作ステップ
第一次試作
正極構成(三元系:マンガン)
1:0
第二次試作(改良含む)
7:3
5:5
2:8
0:1
外形寸法(mm)
110W×46L×143H
設計容量(Ah)
50
53
51
48
46
定格容量 (Ah)
47
50
48
45
43
1.42
1.70
1.71
1.72
1.72
重量 (kg)
ケース及び蓋
樹脂 PP
端子
スタック式
巻回式極板群横巻き収納
4.9/枚
299
219
91
0
0
128
219
364
469
アセチレンブラック
0.4/枚
23.5
24.5
25.5
26
PVDF
0.5/枚
23.5
24.5
25.2
26
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
組 成 ・ 重 量 LiMn2O4
(g)
0.7mm 厚ステンレス
(正極)アルミニウム & (負極)銅
集電構造
正極合剤
112.8(端子除く 100)H×171L×43.8W
正極集電体
20μAl 箔
15μAl 箔 151W×11,520L(mm),
84 枚, 42g
68g
正極板寸法 全寸法
151W×11,520L
(mm)
-
(未塗工部:端部 5mm&全面 100mm)
146W×11,420L
合剤
W×L
-
塗工部
T
-
0.137
0.139
0.145
0.149
529
542
555
574
589
正極板重量(g)
負極合剤
人造黒鉛
2.34
212
204
192
184
組成・重量(g)
PVDF
0.2
13
13
12
12
負極集電体
20μ銅箔
10μ銅箔 151W×11,520L(mm),
85 枚, 136g
152g
負極板寸法 全寸法
151W×11,520L
(mm)
(未塗工部:端部 5mm&全面 100mm)
146W×11,420L
合剤
W×L
-
塗工部
T
-
0.098
0.096
0.090
0.086
352
377
369
356
348
負極板重量(g)
電解液
-
組成(VOL%)
注液量(g)
セパレータ・25μPE 微多孔膜
巻回極板群寸法(mm)
EC:DEC:EMC=1:1:1 1.0% LiPF6 溶液
290
295
295
300
300
85 枚
158W×23,240L(mm), 47g
-
87.4H×158L×39.7W (mm)
製造工程 88%、その他の工程 95%と仮定し、生産タクト及び製造装置能力を算定した。これをもとに、生産
数量に対する設備投資、建屋、土地、必要人員をまとめた。また、セル材料は、数量と価格を調査して量
産時の材料費を算出した。表-7(詳細は付録-2)に生産能力に対する設備投資金額を、表-8 に生産
28
能力に対する作業人員の検討結果を示す。
工程図
▽ 1 ▽ 2 ▽ 3
▽ 10 ▽ 11
○ 4
○ 4
▽ 5
○ 6
○ 6
○ 7
○ 7
○ 8
○ 8
○ 9
▽ 12
○ 9
クリーン室
○ 13
クリーン室
○ 13
真空乾燥炉
▽ 14
○ 15
▽ 17 ▽ 18
○ 16
▽ 20
○ 19
○ 21
▽ 23
工
程
No
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
正極粉体
導電材
正極結着剤ペースト
混練
アルミ箔
塗工
乾燥
プレス
スリット
負極粉体
負極結着剤ペースト
銅箔
真空乾燥
セパレータ
巻回
リード溶接
集電リード
蓋(端子付き)
ケース挿入
ケース
蓋封口(レーザー溶接)
注液
電解液
予備充電
注液口封口
容量確認試験
エージング
外観検査
梱包
出荷
▽
○
◇
部品/材料
作業/工程
検査
工程・部品名称
○ 22
○ 24
○ 25
ドライルーム
◇ 26
◇ 27
○ 29
◇ 28
○ 30
一般空調
※各工程毎の検査は図上では省略
図―1 長円巻回構造極板群を用いたセルの製造フロー
29
表-7 生産能力に対する設備投資金額
収率:総合 83.6% (塗工:88%、巻回:98%、組立:98%、検査:99%)
稼働形態:1日 3 交代 21 時間 年間 330 日稼働
100 万セル
設備投資項目
1,000 万セル
数量
金額(千円)
数量
金額(千円)
一式
6,164,000
一式
40,900,000
1,000kW
15,000
10,000kW
150,000
一式
10,000
一式
70,000
建屋
3,000 坪
2,250,000
24,000 坪
18,000,000
土地
6,000 坪
1,200,000
40,000 坪
8,000,000
機械装置設備類
電源設備
製品保管棚
総投資金額合計
9,639,000
67,120,000
表-8 生産能力に対する人員計画
工程
人員
直接人員
間接人員
100 万セル/年
1,000 万セル/年
正負極原材料混合(混練)
9
45
塗工・乾燥
6
30
極板プレス
3
9
極板スリット
6
36
真空乾燥
3
18
極板電極群;巻回
9
90
組立
9
48
注液・化成充電・封口
9
75
容量検査
3
15
外観検査
8
60
合計
65
426
設計技術
5
30
生産管理
8
30
品質管理
5
30
生産技術
8
30
業務管理
4
20
工務
5
30
研究
5
30
合計
40
200
設備投資金額は 100 万セル/年生産時で約 62 億円、ユーティリティを含まない土地・建屋の総投資金
額は約 96 億円、建屋の建坪は約 3,000 坪、間接人員を含む作業人員は 105 人となり、1,000 万セル/
年生産時では、それぞれ約 410 億円、671 億円、24,000 坪、626 人が試算された。
30
表-9 に 7:3 混合系正極セルの生産数量と材料費のまとめを示す。セル原材料費は調査結果から 100
万セル/年生産時で 5,356 円、1,000 万個/年生産時で 4,261 円が試算された。電池容量は設計容量
53Ah、定格容量 50Ah と仮定した。表内の「投入量」は設計値に収率 0.836 を乗じた値 0.88(極板製造
工程)×0.95(セル組立て・検査工程)=0.836 を示す。N-methylpyrrolidone (以下、NMP と略す)は極板
製造時のペースト溶媒として使用し、80%以上は回収再利用が可能と思われるため、単価を見込み値の
20%と仮定した。リード集電帯、出力端子&周辺部品、接続端子、安全弁、スペーサーの価格は一定の
想定の下に設定した。
これら、設備投資、人員計買う、セル原材料費をもとに、セルの工場原価を試算した。減価償却は定額
償却とした。7:3 混合系正極セルの生産量と工場原価のまとめを表-10 に示す。本品質仕様を満足する
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2:LiMn2O4=7:3 混合系正極セルでは 100 万個/年生産時で 6,640 円(Wh あたり 35.9
円)、1,000 万個/年生産時で 5,080 円(Wh あたり 27.4 円)となった。なお Wh あたり単価は電圧を 3.70V、
容量を 50Ah として算出した値である。
表-9 セル原材料費(7:3 混合系正極セル)
項目
生産量:万セル/年
材料単価
材料費
100
1,000
設計値
投入量
100
1,000
正極:三元系リチウム酸化物
2,500/kg
2,300/kg
299g
358g
895
823
正極:マンガン酸リチウム
2,000/kg
1,500/kg
128g
153g
306
230
300/kg
300/kg
24g
28g
8
8
負極・カーボン
1,600/kg
1,000/kg
212g
254g
406
254
バインダー(PVDF)
2,500/kg
1,500/kg
36.5g
44g
110
66
セパレータ(25μ)
300/m2
200/m2
3.7m2
3.9m2
1,170
780
電解液
2,400/kg
2,000/kg
295g
311g
746
622
アルミ箔(15μ)
25/m2
22/m2
1.7m2
2.1m2
53
46
銅箔(10μ)
270/m2
230/m2
1.7m2
2.1m2
567
483
リード集電体
110/個
100/個
2個
2.1 個
231
210
出力端子&周辺部品一式
80/個
70/個
2個
2.1 個
168
147
接続端子
110/個
100/個
2個
2.1 個
231
210
ケース(SUS t=0.7mm)
200/個
180/個
1個
1.1 個
220
198
ケース蓋 (同上)
40/個
35/個
1個
1.1 個
44
39
安全弁
60/個
50/個
1個
1.1 個
66
55
スペーサー
20/個
10/個
4個
4.4 個
88
44
N-methylpyrrolidone (NMP)
100/kg
100/kg
387g
463g
46
46
5,356
4,261
正極・導電カーボン
合計
31
表-10 7:3 混合系正極セルの生産量と工場原価のまとめ
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2:LiMn2O4 混合比
7:3(標準セル最終仕様)
設計容量(定格容量)・Ah
53 ( 50 )
平均電圧(0.2C 放電)・V
3.70
生産数量:セル/年
100 万
1,000 万
設備投資
機械装置(万円)
617,400
4,097,000
電気設備 (万円)
1,500
15,000
工場建屋(万円)
225,000
1,800,000
843,900
5,912,000
6,000
40,000
120,000
800,000
総投資金額(万円)
963,900
6,712,000
減価償却
51,244
6,712,000
51
510
6,075
21,600
57,370
362,161
セル当り減価償却費(\/セル)
574
362
直接人件費
65
426
金額(万円/年)
32,500
213,000
人件費(\/セル)
325
213
人員(人)
40
200
金額(万円/年)
32,000
160,000
人件費(\/セル)
320
160
6,000
60,000
60
60
127,870
795,161
1,279
795
5,356
4,261
\/セル(四捨五入)
6,640
5,060
\/Wh
35.89
27.35
設備投資金額
土地
(坪)
購入金額(万円)
機械装置(12 年定額 f=0.083)
(万円/年) 電気設備(30 年定額 f=0.034)
工場建屋(38 年定額 f=0.027)
総減価償却費(万円/年)
間接人件費
光熱費
人員(人)
年間合計(万円/年)
光熱費(\/セル)
加工費
年間合計(万円/年)
加工費(\/セル)
材料費 (\/セル)
工場原価
32
4.2.3 信頼性検討
大型電池は未だ十分な市場実績が無いため、既に大量生産が実現され 10 年以上の市場実績を有す
る類似極板群構造を持った小型角形電池の故障率を基準にして本標準セルの信頼性を検討した。図-
2 に「小型リチウムイオン電池、エネルギー密度の向上と不具合、市場クレーム」を示す。図中の棒グラフ
は市場回収事故件数を示しており、電池のエネルギー密度の上昇とともに回収事故数が増加しているが、
2002 年迄は小型角形電池を搭載した機器の回収事故は起きていない。
後述するように、エネルギー密度の上昇がセルの耐久性を低下させ事故数が増加した要因であると考
えられることから、本標準セルの信頼性検討には、ほぼ同一の極板群構造とエネルギー密度を有する小
型角形セルの故障率を基準に検討した。
また、セルの主な故障原因は内部短絡である。即ち、セパレータを介して隔離されている正負極板が
何らかの原因で接触し生じる事象であることから、内部短絡の生じる可能性は対向する正負極板の表面
積に比例すると考えるのが妥当である。容量 500mAh の小型角形セルの故障率を基準とした場合、その
極板表面積は約 350cm2 であり本標準セルの 33,300cm2 の約1/100 であることから、本標準セルの故障率
は小型角形セルの約 100 倍と推定される。
図-2 から 1999~2001年での小型角形セルのエネルギー密度は、本標準セルに近い 130~
150Wh/kg である。また、IT 総研資料「先端二次電池市場調査プログラム 2001 最終報告書 p.67」から、
標準セルと類似構造であるジーエス・メルコテック(GSMT)社の小型角形セルの 1999 年から 2001 年の出
荷量は、1999 年で約 3,500 万個、2000 年で約 4,800 万個、2001 年で約 4,800 万個であった。同時期の
小型角形セルの容量は 500mAh 前後であることから、その故障率は本標準セルの約 100 分の 1 となる。
また、出荷後 2001 年までは回収につながる事故は起きていないことから、本期間中に不具合セル1個
が発生したとして GSMT 社の小型角形セルの使用時最大故障率を求め、その 100 倍により本標準セルの
最大故障率を算出した。
(1 個/(35,000,000 個×3 年+48,000,000 個×2 年+48,000,000 個×1 年)×365 日/年×24 時間/
日)×100=4.6×10-11 個/時間となる。
但し、1 件の不具合が回収事故に発展することはほとんどなく、通常は 10 件ぐらいの不具合が重なって
回収となる。また、2001 年までに回収に至らなくても年間数件の不具合が生じていた可能性があることか
ら、これを上式に当てはめると故障率は 10-10 オーダーとなり、目標の信頼性 10ppb に相当する故障率 1
×10-12 個/時間には至らなかった。市場での不具合発生件数については具体的な数値が未公開である
ため、本検討では目標達成の示唆が得られたとする以上の分析は困難であった。
また、近年多発している小型角形リチウムイオンセルの回収事故は、図-2 に示すように 2003 年以後
に多発しており、セルのエネルギー密度の向上と相関性を有している。エネルギー密度の向上は銅やア
ルミの集電箔やセパレータを薄くしたり、セル内部の空間を少なくして活物質を詰め込んだり、充電電圧
を上げたり、正負活物質の投入量バランスを変えて活物質の利用率を大きくするなどして高容量化を達
成した結果であるが、その分だけセルは不安定となり少しの衝撃や内部短絡などで発火・発煙を生じや
すくなってきたと想定される。
本研究で目標とする重量エネルギー密度は 120Wh/kg であり、小型角形セルの回収問題が発生して
いない 1999 年以前と同一の安全な電池設計と充電法(充電上限電圧)を採用しているので、小型角形電
池で起きたようなエネルギー密度を高くし過ぎた為に生じる安全上の問題はない。また、小型セルは正極
活物質にコバルト酸リチウムが採用されている場合が多いが、本研究では、熱安定性の高い三元系リチ
33
ウム酸化物とマンガン酸リチウムの混合系として、安全性を高めた。更に、内部短絡の原因となる金属粉
の混入に対しては、原材料中の金属粉の除去、製造工程時での機械摺動部のマスキング、極板切断時
の金属粉除去の徹底、溶接封口の採用などにより完全なる対策が可能である。万が一混入があったとし
ても有効なエージング検査を徹底することにより不良品は完全に除去されるので、高信頼性標準セルの
供給は可能であると判断する。
ドコモ、KDDI
松下、SONY、lenovo、DELL、
apple、HP
250
角形セル (体積エネルギー密度)
200
500
角緑色は円筒形回収事故数
角橙色は角形回収事故数
150
400
10
ドコモ、Motorola
DELL、apple、HP、ニコン、
Rio
100
0
300
体積エネルギー密度 〔Wh/l〕
円筒形セル (体積エネルギー密度)
市場回収事故 (件)
重量エネルギー密度 〔Wh/kg〕
角形セル (重量エネルギー密度)
600
50
200
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
compaq、DELL
DELL
KDDI、Nokia
apple
京セラ
西暦 〔年〕
NIKKEI ELECTRONICS 2007 2.26等を参考に作成
図-2 小型リチウムイオン電池、エネルギー密度の向上と不具合、市場クレーム
5)考察・今後の発展等
5.1.考察
本研究は旧通産省工業技術院ニューサンシャイン計画の一環として平成 4 年度から 13 年度に実施さ
れた「分散型電池電力貯蔵技術」研究開発の成果を更に進展し、安価な標準セルを開発し、実用化に結
びつけることを目的としたもので、当時はセルを電気自動車等の移動体用と電力貯蔵用の定置用に分け
性能要求も異なりセルの共通化という認識はなかった。この背景には、電力貯蔵用電池として最も普及し
ている鉛電池がある。鉛電池を用いた電力貯蔵システムでは、用途毎に専用のセルが供給されてきたが、
鉛電池は放電効率が悪く、放電レートによってセル容量が変化する特性であるため、単純にセル容量と
放電時間が等しい関係にならないこと、使用する温度条件や充放電方法に電池の寿命が依存することな
どが原因である。一方で、リチウムイオン電池は放電効率が高く、3CA の放電レートにおいても放電効率
は 95%程度を確保でき、繰り返しの充放電にも強いという特徴がある。本研究では、この特性に着目し、民
34
生、交通、産業の各分野を代表する電力貯蔵システムの電気的要求性能から、各用途で共通に利用可
能な標準セルの可能性を検討し、その解を見出した。
また、本研究は、ニューサンシャイン計画実施時にはなかった高容量・高安全な三元系リチウム酸化物
とマンガン酸リチウムの混合系正極(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2:LiMn2O4=7:3)を開発することにより品質要求
を満足する標準セルの製造仕様を策定し、少量多品種による高価格化の弊害を除去してセルの大量生
産による低価格化を可能とするものでその意義は大きい。
電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及促進の鍵を握るコストに関しては、本研究の結果、残念ながら目
標の Wh あたり 20 円を算出できなかった。製造工程を自動化し、極力省人化を図って加工費は限界付近
まで低減したものの材料費が高く、計算上では工場原価の 80%付近に達している。材料費の算定は、特
に価格構成比の高い主材料について直接材料メーカーを訪問し調査を実施したが、割高感は払拭でき
ない。実際に取引関係にない大学での調査であったため、メーカーの本音を聞き取れなかったのが原因
と思われる。前述の通り、セル価格の構成比では、材料比率が非常に大きいことから、目標到達は一重に
材料価格の動向によると考える。
また、電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及の阻害要因となっていた各省令に関しては、今後も引き続
き関係省庁との協議を重ねていく必要があるが、特に影響の大きかった電気事業法の規制緩和が実現
する見通しとなり、本研究を通じて取り組んだ規制緩和の働きかけも少なからず貢献できたと考える。
信頼性については、大型セルでの市場実績が不明のため類似構造の小型セルの市場実績を基準に
分析し、故障率 10ppb 以下の見通しを得たが、今後は市場実績に応じて見直しの必要があると考える。
5.2.今後の発展等
今後、大型リチウムイオン電池の大量普及には一層の安全性向上が望まれる。安全性には正極活物
質の熱安定性が大きく関与することから、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を正極活物質としたセルの開発と早
期実用化が望まれる。日本では未だリン酸鉄リチウムの製造技術が確立していないため研究対象から除
外したが、今回の研究成果をベースとして正極活物質を変えるだけの僅かな設計変更で対応可能である
ことから、今後はこのような更に高安全な標準セルの実用化へ進展するものと期待される。
また、表-4 に示したとおり、電力貯蔵用リチウムイオン電池の潜在的な需要は大きく、また、近年深刻
さを増す地球温暖化防止対策として電力貯蔵用リチウムイオン電池は有効な解決手段であると考える。
6) 関連特許
該当なし
7) 研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
35
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
36
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)リチウムイオン電池の標準化に関する研究
2.リチウムイオン電池の標準セルおよび電池システムの試作、評価に関する研究
(分担研究者名:清水 浩、 所属機関:慶應義塾大学)
1) 要旨
サブテーマ(1)1.の「リチウムイオン電池のニーズ及びシーズに関する研究」にて策定したセル製作仕
様に基づき、最初のステップとして、正極活物質、極板群構造、ケース材質を変えたセルを試作し、角形
セルの基本構成を検証した。その上で、最適な正極活物質、極板群構造、ケース材質を選定し、セル製
作仕様を再策定し、改良試作及び評価を行った。
評価に際しては、同サブテーマにて策定されたセル共通品質仕様(標準セル仕様)、及び本課題のミ
ッションステートメントにもとづく性能評価試験を実施した。その結果から、最終的に正極活物質に三元系
リチウム酸化物とマンガン酸リチウムの混合系(重量比 7:3)を用い、長円巻回式極板群構造に金属製ケ
ースが同品質仕様、及び本課題のミッションステートメントを満足することを確認し、最終的な電力貯蔵用
リチウムイオン標準セルの製造仕様策定に供した。
また、その結果から、同セル 4 個を直列に接続した SAE-J-1797 EV-1 に準じたモジュールを試作し、
基本的電気性能とモジュールに特有な安全性試験を実施し、良好な結果を得た。
2) 目標と目標に対する結果
(目標)
サブテーマ(1)1.にて策定されたセル製作仕様にもとづく試作及び評価を実施し、セル性能がミッショ
ンステートメントに掲げた性能を満足することを確認するとともに、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの
標準仕様策定に供する。
また、セルを複数接続した電池システム(以下、モジュール)を試作し、セルと同様の電気的性能を示
すことを確認するとともに、モジュール特有の連鎖異常試験(セルに異常が生じた場合、隣接セルに異常
が伝播しないことの確認)を実施する。
(結果)
極板群構造としてスタック式及び長円巻回式、正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(三元系リチウム
酸化物、以下、三元系と略す)と LiMn2O4(マンガン酸リチウム、以下、マンガンと略す)の混合系(重量比
1:0、7:3、5:5、2:8、0:1)、セルケースとしてポリプロピレン(以下、PP)樹脂及びステンレス(以下、SUS)を
用い、これらを組合せたセルの試作と評価を繰り返した。その結果、セルケースに SUS、極板群構造に長
円巻回式、正極活物質に三元系とマンガンの重量比 7:3 の混合系セルが、電気的性能、耐環境性、安
全性試験を通じて、標準セルに求められる品質要求、及び本課題のミッションステートメントに掲げたエネ
ルギー密度 120Wh/kg、出力密度 1,000W/kg、寿命 3,000 回を満足することを確認した。
モジュールに関しては、同セルを 4 個直列に接続した SAE-J-1797 EV-1 に準じたモジュールを試作し、
セルと同等の電気的性能が得られることを確認し、連鎖異常試験でも問題がないことを確認した。
37
3) 研究方法
3.1 角形セル基本構成検討のための基本試作及び評価(第一次試作及び評価)
本課題のミッションステートメントで掲げた高エネルギー密度(120Wh/kg)と高出力密度(1,000W/kg)
を実現するため、三元系を正極活物質に使用することを検討した。三元系は、高容量(実用量約
145mAh/g)と良好な熱安定性(熱分解温度約 320℃)が特徴であるが、実績が浅く、文献等でも情報が少
ない。このため、本研究では、電力貯蔵用リチウムイオン電池として実績のあるマンガンと比較検証を行う
ところから研究を開始した。
サブテーマ(1)1.にて策定されたセル製作仕様に基づき、第一次仕様のセルを試作し、ベンチマーク
として、比較的形状、容量、寸法が類似しているジーエス・ユアサコーポレーション(以下、GYC と略す)製
のマンガンリチウムイオンセル LIM40(以後 LIM40 とする)を用いて、評価試験を実施した。
第一次試作セルでは、セルケースの材質及び極板群構造に関しても比較検討を行うため、セルケース
材料に PP 樹脂、極板群構造にスタック式を選択した。なお、LIM40 は SUS ケースに長円巻回式極板群
構造である。
三元系セルは以下の手順により製作した。正極活物質の三元系と導電助剤であるカーボンの混合物
に、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(以下、PVDF と略す)の NMP 溶液を混合・攪拌して正極ペー
ストとし、これを正極集電体アルミニウム箔の両面に塗布・乾燥後プレスして正極板ロールとした。
負極活物質の黒鉛粉末に PVDF の NMP 溶液を混合・攪拌して負極ペーストとしたものを銅箔負極集
電体の両面に塗布・乾燥後プレスして負極板ロールとした。
次に、正極板ロール、負極板ロールを打抜いて所定寸法の正極板、負極板とし、正極板を予め封筒状
に形成したポリエチレン微多孔膜セパレータの中に挿入して正極板 84 枚、負極板 85 枚を交互に積層し、
スタック式極板群とした。極板群の正負出力リード部にアルミニウムおよび銅製の端子金具を溶接して PP
樹脂ケース中に挿入した後、ケース蓋を嵌合してケースと蓋を超音波溶接した。次に、正負端子を蓋に
ガスケットを介してナットで固定し、気密構造とした。その後、蓋に設けられている注液孔より電解液を注
液し、化成充放電後に PP 樹脂を用いて注液孔を超音波溶接封口した。最後に、水蒸気浸入防止用のア
ルミニウム箔をケースの外側に接着してセルとした。
一方で、LIM40 の製作は以下の手順によると想定される。正極板ロールや負極板ロールの製作までは
正極材料にマンガンを用いた以外は上記と同一である。その後、スリッターにより所定寸法に切断した正
負極板を、巻機を用いてセパレータと共に長円状に巻回して長円巻回式極板群とし、正負極板群両端の
活物質未塗工部にアルミニウムおよび銅製の集電リードを超音波溶接して SUS ケース中に挿入する。正
負極端子付ケース蓋の各端子部と集電リードを溶接した後、ケースと蓋を嵌合しレーザ溶接する。最期に
蓋に設けられている注液孔より電解液を注液し、化成充放電後に SUS を用いて注液孔をレーザ溶接封
口してセルとする。
性能評価は、各温度での各率充電試験(充電電流と充電性能試験)、各率放電試験(放電電流と放電
性能試験)、貯蔵性能試験(充電放置期間と容量劣化試験)などの電気的性能試験、温度サイクル試験
(高温と低温の繰返し試験)や高温高湿試験(60℃相対湿度 95%中貯蔵試験)などの環境試験、外部短
絡、釘刺し(内部短絡)、過充電、圧壊などの安全性試験により行なった。
38
3.2 標準セル製造仕様によるセルの試作及び評価(第二次試作及び評価)
3.1にて三元系正極の基本特徴を把握した後、標準セルの製造仕様に反映させ、同仕様にもとづく、
試作を実施した。3.1の試作及び評価では、三元系単独の使用は安全性に課題があることがわかり、第
二次試作では、500mAh セルによる三元系とマンガンの混合系の基礎評価を実施した上で、50Ah セルの
試作及び評価を実施した。
LIM40 と同一の製法により混合系セルを試作し、サブテーマ(1)1.にて策定した「電力貯蔵用リチウ
ムイオン標準セル品質要求仕様書」に記載された全項目について試験を行った。なお、環境試験につ
いては、類似の試験により判断が可能な一部の試験は省略した。
また、サイクル試験等の長期に亘る試験が必要な項目については、既存の解析手法を用いて性能予
測を行なった。
第二次試作及び評価の上、最終的な電力貯蔵用リチウムイオン標準セルの製造仕様策定に供した。
3.3 モジュールの試作及び性能評価
SAE-J-1797 EV-1 に準じた形状と寸法を有する、三元系とマンガンの重量比 7:3 の混合系セルを4セ
ル直列に接続したモジュールを試作した。モジュールケースの材質は SUS とし、ケース内部には 4 セルと
各セル電圧及び温度を監視するセル・モニタリング・ユニット(以下、CMU と略す)を搭載した。
評価試験は、モジュールに特有な落下による強度試験と、釘刺し(内部短絡)による連鎖異常試験を実
施し、電気的性能評価に関しては、ほとんどがセルにて実施されるため、モジュールではセルと比較検討
するために代表的な 20℃での充放電特性のみを評価した。
4) 研究結果
4.1 角形セル基本構成検討のための試作及び評価(第一次試作セル)
4.1.1 極板群構造
試作過程において、スタック式は長円巻回式に比べ、特殊な製造装置なしで組立ができることから試
作という観点からは優れるが、一方で、多数の正負極板の位置がズレないよう慎重に根気よく極板を積層
する必要がありことが明確となった。対する長円巻回式は専用装置でフープ状のロール電極をセパレー
タを介して長円形に高速で巻回することができ、生産性に優れることと電極の位置ズレが起きない利点が
あり、長円巻回式極板群構造が標準セルの構造には最適であると判断した。
4.1.2 第一次試作セルの一般的性能
表―1 に第一次試作セルと比較検証用のマンガンセル LIM40 の一般的性能を示す。また、それぞれ
の外観を図-1 及び 2 に示す。
表-1 より、LIM40 のエネルギー密度は三元系正極セルに比べて著しく小さな値であったため、共通セ
ル品質要求の 120Wh/kg 達成には正極材料として三元系単独か、三元系とマンガンの混合使用が必要
と判断された。なお、放電電圧の差は正極材料の違いによるものであり、内部抵抗の差は極板表面積の
違い(LIM40 が約 2 倍の表面積と推測)によるものと思われる。
39
表-1 第一次試作セルとマンガンセル LIM40 の一般性能
項目
三元系セル
マンガンセル(LIM 40)
143(W)×110(H)×46(L)
170(W)×132.5(H)×47(L)
1,380
2,130
50
40
0.2C・A 放電容量 (Ah)
44.7
43.3
0.2C・A 放電電圧 (V)
3.78
3.85
20℃交流法内部抵抗 (mΩ)
1.20
0.63
エネルギー密度
(Wh/kg)
122.4
78.3
(Wh/L)
233.5
157.5
最大外形寸法 (mm)
重量 (g)
定格容量 (Ah)
図-1 第一次試作セル
図-2 LIM40
(三元系 1:0 混合系)の外観
(マンガン)の外観
4.1.3 各率放電性能
表―2 に第一次試作セルの各率放電性能を示す。各率放電特性とは、放電負荷の大きさによるセル
放電容量を評価するための試験である。
表中、放電レートの単位 C・A は放電負荷の大きさを示し、セルの定格容量(C)を基準とした放電電流
値に換算するための係数で、放電レート 3.0C・A はセル定格容量 50Ah であれば 3.0×50=150.0A の放
電電流となる。電池の放電容量は放電レートと温度に依存するため、電池分野では放電容量特性を評価
するに際し、しばしば放電レートが用いられる。
60℃における三元系セルの放電試験は、4.1.5の貯蔵性能試験において漏液が生じたため、PP 樹
脂ケースの耐熱性が原因であると判断し、中止した。
両セルとも、-20~60℃の範囲で概ね良好な放電特性を得られたが、-20℃での 3.0C・A の高率放電
時に容量の著しい低下が認められた。なお、全体的に三元系セルの 3.0C・A での放電容量は小さくなっ
40
ているが、これは LIM40 に比べて極板表面積が約 1/2 と小さく、極板単位面積当たりの放電電流が 2 倍
となり電圧降下が大きく出たためと推定される。
この結果から、極板群の構造としては、製造時の取扱性から一定の極板厚みが求められセル寸法内に
収納できる極板枚数に制約を生じて極板表面積が小さくならざるを得ないスタック式よりも、薄形・大表面
積極板が利用できる長円巻回式が放電性能面からも必要であると判断された。
表-2 各率放電試験結果
温度
セルの種類
放電容量(Ah)
放電レート(C・A)
0.1
0.2
0.5
1.0
3.0
三元系セル
―
―
―
―
―
LIM40
44.2
43.7
43.1
42.6
41.9
三元系セル
44.9
44.6
44.3
44
41.4
LIM40
44.5
44.5
44.4
44.4
44
三元系セル
44.9
44.7
44.3
43.8
8
LIM40
43.3
43.3
43.3
43.2
42.9
三元系セル
43.4
42.9
42.2
40.9
4.3
LIM40
40.6
40.6
40.4
40.2
39.8
-20
三元系セル
40.1
39
37.4
36.5
1.5
℃
LIM40
30.8
30.5
30
30
0.3
60℃
40℃
20℃
0℃
4.1.4 各率充電性能
表-3 に第一次試作セルの各率充電性能を示す。各率充電特性とは、充電負荷の大きさによるセル
充電容量を評価するための試験である。
充電電流による充電受入性への影響を知るため、定電流充電領域での充電電気量をまとめた。
LIM40 に比べて三成分正極セルは良好な充電受け入れ性を示したが、それでも 0℃以下の低温領域で
は 2.0C・A の急速充電は全く出来なかった。
41
表-3 各率充電試験結果(定電流・4.10V 定電圧充電時の定電流領域での充電電気量)
温度
セルの種類
充電電気量(Ah)
充電レート(C・A)
0.1
0.2
0.5
1.0
2.0
三元系正極セル
45.5
45
42.4
37.5
25
LIM40
43
40.8
36
30
20
三元系正極セル
46
45
41.2
35
20
LIM40
39.6
36
30
22
8
三元系正極セル
42.5
40.5
35
27.5
0
LIM40
32.6
27.2
19
10
0
-10
三元系正極セル
38.7
36
28.7
17.5
0
℃
LIM40
28
22.8
13
4
0
40℃
20℃
0℃
4.1.5 貯蔵性能
表―4に第一次試作セルの貯蔵性能を示す。貯蔵性能は、セルの自己放電特性を評価することと、高
温での劣化特性を評価するための試験である。
試験の結果から、どちらも高温時ほど貯蔵後の容量保持率は小さくなり、高温での容量劣化が大きい
ことが判明した。マンガンセル(LIM40)の 100%充電状態(SOC100%、SOC は充電率を示し、満充電時を
SOC100%で表す)では三元系セルに比べて劣化が少ない傾向にあったが、SOC50%時は劣化が著しく
大きく特異的な傾向を示した。三元系セルでは SOC50%時の異常な容量劣化はなく、マンガンセルでは
SOC100%時の貯蔵劣化が小さいことから、三元系とマンガンの混合正極を使用することにより貯蔵劣化は
改善できる見通しが得られた。
表-4 貯蔵劣化試験結果
貯蔵温度
セルの種類
(℃)
20
三元系セル
LIM40
40
三元系セル
LIM40
60
三元系セル
LIM40
充電状態
容量保持率 (%)
(SOC)
4 週間貯蔵後
12 週間貯蔵後
50% 充電
100
―
100%充電
99.0
―
50% 充電
99.5
97.6
100%充電
99.8
99.8
50% 充電
96.0
90.2
100%充電
94.9
89.0
50% 充電
99.0
88.6
100%充電
100
95.5
50% 充電
65.6
―
100%充電
71.3
―
50% 充電
78.4
69.9
100%充電
86.0
76.7
注:―は PP 樹脂ケースから液漏れのため中止した。
42
4.1.6 環境試験&安全性試験
第一次試作セルの環境試験および安全性試験結果を表-5 に示す。
三元系セルでは PP ケースの耐熱性が低いため高温で液漏れを生じた。また安全性試験で破裂・発火
を生じ安全上の問題があると判断された。LIM40 は SUS ケースのため温度、湿度に対して良好な耐久性
を有するとともに、マンガンの熱安定性に起因する良好な安全性を示した。
表-5 環境試験、安全性試験結果
試験項目
試験内容
結果
三元系セル
LIM40
75℃⇔-40℃各 6 時間放置 10 回
液漏れ
異常なし
高温高湿
60℃・95%RH 60 日貯蔵
―
異常なし
外部短絡
100%充電品、0.5mΩ銅線短絡
発煙、破裂
端子部液漏れ
内部短絡
100%充電品 5φSUS 釘貫通
破裂・発火
液漏れ
セル平面中央 10φ丸棒 10t加圧
異常なし
異常なし
温度サイクル
圧壊
過充電
100%充電後 1C・A 電流過充電
50%過充電(全充電量 150%)異常なし
65%過充電破裂・発火
100%過充電・発煙
注:-は PP ケースから液漏れのため中止した。
4.2 標準セル製造仕様によるセルの試作及び評価(第二次試作及び評価)
4.1で示した第一次試作セルの評価結果から、容量と耐環境性、安全性を満足し、且つ安価な共通
セルを得るには、ケースは SUS などの金属製とし、三元系とマンガンの混合正極活物質を用いた巻回式
極板群構造が必要と判断された。
三元系とマンガンの最適混合比を決定するため、まず安全性を確認する目的で混合比が 1:0、8:2、
7:3 の 3 種の正極活物質を用いて容量 500mAh の小形角形セルを試作し内部短絡と過充電試験を実施
した。試験の結果、全てのセルが異常なく良好な安全性を示した。このため、安全性は実容量が 50Ah ク
ラスの大型セルでの評価が必要と判断し、サブテーマ(1)の4.2.1項記載の混合比が 7:3、5:5、2:8 の
3 種のセルを試作し、表-5 に示されるように安全上最も厳しいと思われる過充電試験を行なった。この結
果、混合比が 2:8 のセルは付録資料-1、「標準セル目標品質要求仕様書」に記載の過充電耐久性 50%
(全充電量 150%)を満足できず、47%付近で安全弁作動と液漏れを生じた。また、混合比が 5:5&7:3 の
セルは、共に過充電耐久性の 50%を満足したが、更に過充電を継続するとそれぞれ 70%&80%過充電
時に安全弁作動と大量の白煙を生じた。
以上から、混合比 7:3 のセルが、安全性上もっとも過酷な過充電試験においても良好な耐久性を示し
たことから標準セルに最適であると判断し、サブテーマ(1)の4.2.1項記載の 7:3 混合系セルを試作し、
標準セル品質要求性能に対する下記の適合性確認を行なった。
43
4.2.1 一般性能
表-6 に一般性能のまとめを、図-3 にセルの外観を示す。第二次試作では、封口の溶接性や漏液時
の安全性を考慮し、ケース材質に 0.7mm 厚の SUS を用いたが、重量エネルギー密度の比較として 1.0mm
厚のアルミニウム(Al)も机上検討した。
試験の結果、重量を除いて 7:3 混合系セルは品質要求を満足した。但し、ケース材質に Al を用いれ
ば重量も要求仕様を達成できることが判る。なお、ミッションステートメントに掲げた重量エネルギー密度
の目標 120Wh/kg に関しては、SUS ケースでも満足した。
表-6 一般性能
項目
最大外形寸法 (mm)
重量 (kg)
標準セル品質要求
試験結果
171(W)×113(H)×44(L)
171(W)×112.8(H)×43.8(L)
1.60 以下
定格容量 (Ah)
SUS ケース
1.65
Alケース
1.46
50
50
0.2C・A 放電容量 (20℃ Ah)
50Ah 以上
54.2
0.2C・A 放電電圧 (20℃ V)
3.60V 以上
3.71
交流法内部抵抗(20℃ mΩ)
0.5~1.0
0.65
エネルギー
113 以上
(Wh/kg)
密度
(Wh/L)
212 以上
SUS ケース
121.9
Alケース
137.7
238.0
図-3 7:3 混合系セルの外観
4.2.2 各率放電性能
表-7 に各温度での各率放電特性のまとめを、図-4、5 に代表特性曲線として 20℃での各率放電曲
線と 1C・A (50A)放電時の温度依存性曲線を示す。
7:3 混合系セルは品質要求にある各率放電性能を全て満足した。
44
表-7 各率放電性能
項目
温度
60℃
40℃
20℃
品質要求
放電電流 (A)
50
150
5
10
25
50
150
250
容量 (Ah)
50
45
54.8
54.5
54.0
53.5
52.5
49.6
平均電圧 (V)
―
―
3.72
3.71
3.70
3.67
3.56
3.44
容量 (Ah)
50
45
55.0
54.8
54.5
54.0
53.3
52.8
平均電圧 (V)
―
―
3.72
3.72
3.69
3.66
3.54
3.43
容量 (Ah)
50
45
54.7
54.2
53.0
52.0
51.7
52.0
3.60
―
3.72
3.71
3.68
3.63
3.48
3.34
容量 (Ah)
45
40.5
51.5
50.1
48.4
47.7
48.8
13.6
平均電圧 (V)
―
―
3.70
3.68
3.62
3.56
3.36
3.19
容量 (Ah)
25
22.5
41.9
40.4
39.7
40.1
43.5
3.6
平均電圧 (V)
―
―
3.63
3.56
3.47
3.38
3.11
2.89
平均電圧 (V)
0℃
-20℃
放電容量(Ah)
4.1
温度 : 2 0 ℃
放電電圧 〔 V〕
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
2.9
0 .1 C : 5 〔 A〕
0 .2 C : 1 0 〔 A〕
0 .5 C : 2 5 〔 A〕
1 C : 5 0 〔 A〕
3 C : 1 5 0 〔 A〕
5 C : 2 5 0 〔 A〕
2.7
0
10
20
30
放電容量 〔 Ah 〕
図-4 各率放電特性(20℃)
45
40
50
60
4.1
-2 0 ℃
放電電流1 C = 5 0 〔 A〕
0℃
放電電圧 〔 V〕
3.9
20℃
40℃
3.7
60℃
3.5
3.3
3.1
2.9
2.7
0
10
20
30
40
50
60
放電容量 〔 Ah 〕
図-5 1C・A 放電温度依存性特性
4.2.3 各率充電性能
表-8 に各温度での各率充電性能のまとめを、図-6 に 100A-4.10V 定電流定電圧(CCCV)充電時の
充電時間と充電電気量を示す。
-10℃から 40℃の範囲で充電可能であるが、低温時には大電流での充電受入れ性が悪くなる傾向に
ある。急速充電性能は、20℃以上では品質要求を満足したものの 0℃では1時間目の充電量が 47Ah と
僅かに及ばなかった。
表-8 各率充電特性/充電電気量(定電流・4.10V-CCCV 充電時の定電流領域での充電電気量)
品質要求
定電流領域充電電流(A)
100
40℃
充電電気量(Ah)
5
10
25
50
100
30 分で 40Ah
54.0
53.0
51.0
47.4
44.5
20℃
1時間で 49Ah
52.2
50.4
47.3
44.8
39.7
0℃
以上
45.7
43.4
38.6
34.9
29.9
42.0
36.0
31.1
27.5
24.7
-10℃
46
60
7 : 3 混合系 0 ℃
50
充電電気量 〔 Ah 〕
7 : 3 混合系 2 0 ℃
40
7 : 3 混合系 4 0 ℃
30
20
10
0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
経過時間 〔 h r 〕
図-6 2C・A(100A) ― 4.10VCCCV 充電時の充電時間と充電電気量
4.2.4 貯蔵性能
図-7 に貯蔵期間と貯蔵後容量保持率の関係を示す。
7:3 混合系セルの貯蔵劣化は、表-4 に示した三元系単独セルやマンガンセルに比べて特に 40℃な
どの高温劣化に改善が得られた。また、SOC50%セルの劣化量は 100%セルの約半分であった。
110
容量確認条件
充電: 1 0 A 4 .1 V (CC/CV) 1 0 h r
105
放電: 1 0 A (CC) 2 .7 5 V cu t-o ff
貯蔵後容量保持率 〔 %〕
温度 : 2 0 ℃
100
95
90
85
80
75
2 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
4 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
6 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
2 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
4 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
6 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
70
0
10
20
30
40
50
貯蔵期間 〔 日〕
図-7 貯蔵期間と容量保持率
47
60
70
80
90
4.2.5 サイクル寿命
図-8 に 0℃、20℃、40℃にて 1C・A(50A)充放電サイクルを 900 サイクルまで実施した時のサイクル数
と容量保持率の関係を示す。なお、容量確認は 0.2C・A(10A)電流で行なった。高温時ほど容量劣化は
大きな傾向を示したが、900 サイクル時点での容量保持率は 40℃で約 85%、20℃で約 95%と良好な値を
示した。
充放電サイクル時の電池の容量劣化のメカニズムは旧日本電池株式会社(現ジーエス・ユアサコーポ
レーション)から発表され(Hiroaki Yoshida et al. Electrochemistry 71, No.12, 1018-1024(2003))、充放電
時の正極活物質の膨張収縮による正極板中の導電マトリックスの切断に伴う正極活物質の不活性化と、
サイクル期間中に負極表面で生じる負極カーボン中のリチウムと電解液の反応によるリチウムの消耗によ
り生じ、それぞれに起因する容量劣化は Kc√C および Ks√t で表されることが判っている。
即ち、充放電サイクル時の容量劣化は Kc√C+ Ks√t で表される。なお、Kc、Ks は電池により決まる
定数であり C はサイクル数、t は期間である。
なお、リチウムイオン電池では正極活物質にコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム、三元系リチウム
酸化物などの電子伝導性に乏しい複合金属酸化物を用いているため、アセチレンブラックなどの導電助
剤を混合して正極板の導電マトリックスを構築している。これらの複合金属酸化物は充放電時にはリチウ
ムイオンの脱着に伴い膨張・収縮などの体積変化を生じる。このため充放電サイクル時には、その膨張収
縮により複合金属酸化物粒子が導電助剤と切断され電気的に孤立し不活性化が生じる。なお、その大き
さは複合金属酸化物の種類によって異なる。また、負極活物質や電解液にはカーボンや有機電解液が
用いられているので、充放電サイクルや貯蔵中に負極表面で生じるリチウムの消耗反応は、カーボンや
電解液の組成により多少の差はあるものの正極活物質に関係なく同一のメカニズムで生じる。このため、
上記発表は正極にコバルト酸リチウム、負極にカーボンを用いたコバルト系電池の劣化メカニズムに関す
るものであるが、本研究の 7:3 混合系正極セルについても適用が可能と判断した。
図-9 に各温度での Ks を示す。また、100%充放電サイクル試験中の平均 SOC を 50%と仮定し、900
サイクル中の貯蔵劣化(1 サイクル 3 時間より 112.5 日相当)に相当する経時劣化率を Ks√112.5 より求
め、サイクル劣化率からこの分を除去して得られた純サイクル劣化率と Kc の関係を図-10 に示す。なお、
0℃での経時劣化率算出時の Ks はアレニウスプロットより外挿して求めた。
この Kc と Ks を用いて 1C・A 充放電サイクル時(1 サイクル 3 時間)での 20℃―3,500 サイクル(試験期
間 438 日相当)容量劣化率を計算した。なお、Ks は SOC50%の値を用いた。
試験期間中の経時劣化率は 0.05√438=1.05%、純サイクル劣化率は 0.16√3,500=9.47%となり、
3,500 サイクル後の容量劣化率 10.52%(容量保持率 89.48%)が得られた。なお、40℃での容量劣化率
は約 25.2%(容量保持率 74.8%)となった。
48
110
容量保持率 〔 % 〕
100
90
80
サイ ク ル試験条件
0℃
充電: -5 0 A 4 .1 V( CC/CV) 2 h r
70
20℃
放電: -5 0 A( CC) 2 .7 5 V cu t-o ff
容量確認条件
40℃
充電: -1 0 A 4 .1 V( CC/CV) 1 0 h r
60
放電: -1 0 A( CC) 2 .7 5 V cu t-o ff
50
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
1100
サイ ク ル数 〔 回〕
図-8 サイクル数と容量保持率
110
105
貯蔵後容量保持率 〔 %〕
K s= 0 .0 5
100
K s= 0 .2 4
95
K s= 0 .5 9
2 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
90
K s= 0 .2 4
4 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
K s=1 .1 4
85
6 0 ℃ SO C5 0 %貯蔵
2 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
80
75
70
0.0
4 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
K s=2 .1 7
6 0 ℃ SO C1 0 0 %貯蔵
2.0
4.0
6.0
貯蔵期間〔 日〕 の平方根
図-9 貯蔵温度と Ks
49
8.0
10.0
純サイ ク ル容量保持率 〔 %〕
110
100
K c= 0 .1 6
K c= 0 .2 7
90
K c= 0 .3 4
80
容量確認条件
70
充電: -1 0 A 4 .1 V( CC/CV) 1 0 h r
0 ℃ 1 C
放電: -1 0 A( CC) 2 .7 5 V cu t-o ff
サイ ク ル充放電条件
60
2 0 ℃ 1 C
充電: -5 0 A 4 .1 V( CC/CV) 2 h r
放電: -5 0 A( CC) 2 .7 5 V cu t-o ff
4 0 ℃ 1 C
50
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
サイ ク ル数の平方根
図-10 サイクル条件と Kc
50
30.0
35.0
40.0
4.2.6 カレンダー寿命
1C・A 充放電を 10 年間に亘り1日1回実施した場合の容量劣化をカレンダー寿命として、Kc と Ks を用
いて 20℃・10 年・3,500 サイクル後の容量劣化率を計算した。なお、Ks は SOC100%の値を用いた。
10 年間の経年劣化率は 0.24√3,650=14.50%であり、3,500 サイクル後の純サイクル劣化率は 0.16√
3,500=9.47%となることから、10 年 3,500 サイクル後の容量劣化率 23.97%(容量保持率 76.03%)が得ら
れた。なお、40℃での容量劣化率は 55.75%(容量保持率 44.25%)となった。7:3 混合系セルは品質要
求の 20℃での容量保持率 70%以上を満足すると推測される。図-11 にカレンダー寿命性能を示す。
95
7 : 3 混合系 2 0 ℃
回復容量 〔 %〕
90
85
80
75
70
0
2
4
6
試験期間 〔 年〕
8
10
12
図-11 カレンダー寿命性能
4.2.7 フロート寿命
フロート寿命は主に非常用電源設備などスタンバイ状態で保持される電力貯蔵システムでの利用を想
定した寿命評価法である。
1C・A 充放電を 10 年間に亘り月に1回実施し、通常はセル当り 4.10V の電圧で満充電状態を保持した
場合の容量劣化をフロート寿命として、Ks と Kc を用いて 20℃・2 年および 10 年後の容量劣化率を計算
した。2 年間の経年劣化率は 0.24√730=6.48%、24 サイクル後の純サイクル劣化率は 0.16√24=
0.78%となり、フロート2年後の容量劣化率 7.26%(容量保持率 92.74%)が得られた。
10 年間の経年劣化率は 0.24√3,650=14.50%、120 サイクル後の純サイクル劣化率は 0.16√120=
1.75%となり、フロート 10 年後の容量劣化率 16.25%(容量保持率 83.75%)が得られた。
なお、0℃での容量劣化率は 2 年後で約 2.9%(容量保持率 97.1%)、10 年後で約 6.6%(容量保持率
93.4%)となった。7:3 混合系セルは品質要求にある各フロート寿命を満足すると推測される。
図-12 にフロート寿命性能を示す。
51
105
フ ロ ート 充電 : 4 .1 V
放電 : 1 C / 2 .7 5 Vま で1 回/1 ヵ 月
回復容量 〔 %〕
100
95
90
85
7 : 3 混合系 0 ℃
80
7 : 3 混合系 2 0 ℃
75
0
2
4
6
試験期間 〔 年〕
8
10
12
図-12 フロート寿命性能
4.2.8 出力性能
SOC と最大出力密度(W/kg)の関係を図-13 に示す。
最大出力は温度と SOC の影響を大きく受け、低温、低 SOC 時ほど小さくなった。
20℃では SOC40%以上で品質要求の 1,000W/kg をほぼ満足した。
2000
SO Cは0 .2 C放電容量を 基準と し た
最大出力密度 〔 W /k g 〕
0℃
1500
20℃
1000
500
0
0
10
20
30
40
50
60
70
SO C 〔 %〕
図-13 0℃および 20℃出力特性
52
80
90
100
110
4.2.9 耐環境性能
環境試験項目、内容、品質要求、結果のまとめを表-9 に示す。
試験結果の「異常なし」は、液漏れや著しい変形、破裂、発火の無いことを意味する。
7:3 混合系セルは全ての耐環境性要求を満足すると推測される。
なお、類似試験で代用が可能と判断された一部の試験は実施せず推定結果のみ記載した。
表-9 耐環境性試験結果
項目
試験概要(目標品質要求仕様書記載)
使用温度範囲
充放電温度性能試験実施。
品質要求
試験結果
放電:-20~60℃
使用可能
充電:-10~40℃
温度サイクル
75℃-6h⇔-45℃-6h、10 回
異常なし
異常なし
高温高湿
60℃ 95%RH- 94h 放置
同上
同上
低温放置
-40℃-70h 放置
同上
同上(類推)
高温放置
60℃-94h 放置
同上
同上(類推)
温湿サイクル
55℃98%RH10h⇔-40℃2h、10 回
同上
同上(類推)
振動Ⅰ(X,Y,Z3軸)
7~200Hz、max8G,15min/回-12 回/軸
同上
異常なし
振動Ⅱ(同上)
0.5~10Hz, 2G, 5min/回-3 回/軸
同上
同上(類推)
衝撃(XYZ3軸 6 方向) max150G 正弦半波、6msec,3 回/軸、
同上
異常なし
コンクリート落下
1m 自由落下 1回
同上
同上
高度
25℃-11kPa-6h 放置
同上
同上(類推)
4.2.10 安全性
安全性試験項目、内容、品質要求、結果のまとめを表-10 に示す。
いずれの項目も全て品質要求を満足した。但し、圧壊試験に関しては、装置能力(10 トン)以上の強度
を保持していたため、圧壊に至らなかった。
表―10 安全性試験結果
項目
試験概要
品質要求
試験結果
外部短絡
100%充電品 15~25℃ 5mΩ銅線外部短絡
破裂・発火なし
端子部漏液
内部短絡
100%充電品 15~25℃ 5mφSUS 釘貫通
破裂・発火なし
発煙
過充電
100%充電品 15~25℃ 10A-50% (25Ah)過充電
破裂・発火なし
発煙(注 1)
圧壊
100%充電品 15~25℃セル平面 25% 押潰し
破裂・発火なし
異常なし(注 2)
注 1:50%以上継続過充電時、約 80%過充電で(計 180%充電、40Ah 相当過充電)に破裂・発火。
注 2:装置の関係上、直径 10mmφの丸棒を介して総圧力 10t でプレスするも潰れず。
53
4.2.1 7:3 混合系セルの性能まとめ
一連の性能評価試験から、ミッションステートメントに掲げた高エネルギー密度(120Wh/kg)、高出力密
度(1,000W/kg)、寿命 3,000 回を達成できる見通しを得た。
サブテーマ(1)1.にて実施したニーズ調査では、電気自動車用途にて、-10℃~40℃の範囲におい
て 30 分で 80%以上、1 時間以内で 98%以上の急速充電性能を目標として要求されたが、今回の実験結果
では 0℃の評価において未達となった。一般的な電力貯蔵システムにおいては、低温での急速充電性能
は要求されないことから、7:3 混合系セルは本課題が目的とするあらゆる用途に共通で利用できる標準セ
ルとして位置付けることが出来ると判断した。なお、低温での充電方法として、セル自身の自己発熱によ
って低温時の充電特性の向上が図れるため、充電器の制御によって、セル温度を監視しながら多段定電
流充電を行えば、急速充電性能を改善できると考える。
4.3 モジュールの試作及び性能評価
モジュールの一般性能と評価試験結果を表―11 に、モジュールの外観を図-14 に、0.2C・A(10A)充
放電曲線を図-15 に示す。
モジュールはセルと等価の電気的性能を示すことが示唆された。また、CMU や温度検知装置も正常に
作動し、落下衝撃にも耐え、モジュール独自の連鎖異常試験にも異常を生じることなく良好な安全性を示
した。
表―11 モジュールの性能一覧
項目
試験方法
品質要求
試験結果
寸法 (mm)
ノギス、
116x175Wx194L(±2)
117.9x175.0x194.0
重量 (kg)
秤計測
―
8.10
内部抵抗 (mΩ)
AC1,000Hz 20±5℃
―
2.65
放電容量 (Ah)
0.2C・A(10A)放電 20±5℃
50Ah 以上
54.9
電圧誤差 (mV)
CMU 出力と実測値対比
―
max17mV/3.65-4.05V
温度検知誤差 (℃)
出力信号と実測値対比
―
Max0.1℃/21.5℃
落下試験
コンクリート上 1m 落下
異常なし
異常なし。微小打刻跡
連鎖異常試験
100%充電 1 セル釘刺し
隣接セル異常伝播なし
隣接セル異常伝播なし
54
図―14 モジュール外観
休止
放電
20
60
15
50
10
40
5
30
0
20
-5
10
モジ ュ ール電圧 〔 V〕
充放電電流 〔 A〕
-10
モジ ュ ール容量 〔 Ah 〕
充放電電流 〔 A〕
モ ジ ュ ール電圧 〔 V〕
充電
0
モジ ュ ール容量 〔 Ah 〕
-15
-10
0
2
4
6
8
10
経過時間 〔 h r 〕
12
14
16
図-15 モジュール充放電特性
5) 考察・今後の発展等
5.1考察
本研究では、あらゆる電力貯蔵用途に共通で利用可能な標準セルを実現するため、電池性能として、
エネルギー密度 120Wh/kg、出力密度 1,000W/kg、寿命 3,000 回と、高い目標をミッションステートメント
に掲げた。一方で、電力貯蔵用リチウムイオン電池の潜在的な需要や汎用性という観点からは、資源の
埋蔵量、安全性、更にはニーズに見合うコストが要求された。従来から、小型セルに用いられているコバ
ルト酸リチウムは資源の埋蔵量、安全性、コストのいずれも電力貯蔵用途には不的確で、他方、安全性、
資源の埋蔵量に優れるマンガン酸リチウムでは電池性能を満たせず、本サブテーマでは、正極活物質の
開発が最大の課題であった。
55
本研究では、正極活物質として、エネルギー密度と熱安定性に優れた三元系に着目し、マンガンと重
量比 7:3 の混合系活物質とすることで、性能と安全性の両立が図れること実証した。また、量産性や信頼
性の観点から、極板群構造としては、長円巻回式が最適であるとの結論に至り、更にセルケースに関して
は、ステンレス製もしくはアルミニウム製の金属ケースが安全性、信頼性の点で優れることを確認した。
寿命性能に関しては、旧日本電池株式会社から発表されたリチウムイオン電池の容量劣化に関する解
析結果を基準に寿命予測を行ない 3,500 サイクル後の容量保持率は約 89%と推定され、目標である
3,000 サイクル後の容量保持率 70%以上を確認した。理想的には 2 年程度の試験データから推定すべき
ところを、本研究では短期の試験結果をベースに寿命予測を行なったため、多少の誤差を生じる可能性
はあるものの、十分に信頼できる範囲であると考える。
これらの評価の結果、セルケースにステンレス、極板群構造に長円巻回式、正極活物質に三元系とマ
ンガンの重量比 7:3 の混合系活物質を用いたセルが、電気的性能、耐環境性、安全性試験を通じて、標
準セルに求められる品質要求、及び本課題のミッションステートメントに掲げた電池性能の目標を満足す
ることが確認され、それら材料の 3 大要素が、あらゆる用途に共通で利用可能な電力貯蔵用リチウムイオ
ン電池の基本材料構成に最適であるとの結論に至った。
5.2今後の発展等
本研究では三元系リチウム酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を正極活物質に用いたが、希少金属である
コバルトやニッケルが含まれていることから、大量普及やコスト低減のためには、これらの回収リサイクルが
必須であり、安価で効率的なリサイクル技術の確立が必須となる。
三元系リチウム酸化物の代替となり得る正極材料としては、近年、資源的にも豊富で熱安定性に富むリ
ン酸鉄リチウム(LIFePO4)が注目されているが、材料の量産技術が確立されておらず、国内では基礎研
究の段階である。しかしながら、米国では積極的な開発を行っていることから、国内においてもリン酸鉄リ
チウムの可能性を早期に見極めることが重要であると考える。
6) 関連特許
該当なし
7) 研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
56
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
57
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(2)リチウムイオン電池セルの電力供給分野における標準化に関する研究
(分担研究者名:飯山 司郎、 所属機関名:エネサーブ株式会社)
1)要旨
本サブテーマの目的は、リチウムイオン電池を利用した電力貯蔵システムが、実際の商用電力系統と
の系統連系状態において、システムの制御等に異常を来たすこと無く、基本的な充放電性能を発揮し
得ることを検証する事により、その結果として、リチウムイオン電池が、電力供給分野に適用可能である
事を確認する事とともに、本課題(サブテーマ(1))により仕様が策定され、試作された標準セルの実用
性を検証することである。
当社がこれまで実施してきたオンサイト発電事業での経験を踏まえ、電力貯蔵用リチウムイオン電池
を用いた電力貯蔵システムを検討し、電力負荷平準化の用途に無停電電源装置(UPS)機能を備えた
大型電力貯蔵システムの仕様を策定した。
本研究では、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準化という観点から、標準セルが電力供給分
野で共通に利用できることを実証することを目的に、電力貯蔵システムの規模としては、産業用の高圧
受電の契約帯として最小限の50kVAシステムを仕様として提案した。電池は、慶應義塾大学が電力貯
蔵用リチウムイオン電池セルのニーズ調査から標準化を図った50Ahセルを使用することを前提とした。
本仕様をもとにサブテーマ(6)にて試作された大型電力貯蔵システムの試作機を社内の研究機関で
ある大津エネルギーセンター内に設置し、実際の商用電力系統と連系させ、フィールド評価を行った。
各評価項目において良好な特性が得られことから、電力貯蔵システムの機能、実用性を確認すること
ができ、その結果、本課題で試作された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルの有用性も実証できたと結
論付けられる。
2)目標と目標に対する結果
(目標)
電力貯蔵用リチウムイオン電池を電力供給分野に用いる観点から、以下の項目を目標とした。
・
電力貯蔵用リチウムイオン電池とパワーコンディショナー(電池の直流電力と系統の交流電力の双
方向変換を行う電源装置、以下 PCS)を組み合わせた電力貯蔵システムの仕様を策定し、そのシ
ステムを実際の商用電力系統に接続し、フィールド評価を実施する。
・
電力貯蔵システムの運転状況に関するデータを収集解析し、同システムが設計仕様通りに実現さ
れている事を検証する事によって、リチウムイオン電池を電力貯蔵用途に適用可能である事を確認
する。
(結果)
まず、電力貯蔵システムの仕様を策定するため、電力制御モード及び PCS の電気的要求仕様を検討
した。この仕様をもとに(6)のサブテーマによって試作された検証機を、経済産業省に設置承認を得た上
で、当社の大津エネルギーセンターに設置し、商用の電力系統と系統連系評価を実施した。なお、経済
産業省へ設置承認が必要となるのは、同省が所管する電気事業法の中で、リチウムイオン電池を用いた
電力貯蔵システムが発電所扱いとなるためである。(詳細は、サブテーマ(1)の報告に記載。)
大津エネルギーセンターへの試作機導入後、運転状況に関するデータの収集及び解析を行った結果、
58
電力貯蔵システムが、各電力制御モードにおいて、設計仕様通りに運転されている事が実証され、良好
な特性が得られた。
これらの結果から、電力貯蔵システムの機能、実用性を確認することができ、その結果、本課題で試作
された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルが電力供給分野に適用可能である事が確認できた。
3)研究方法
当社がこれまで実施してきたオンサイト発電事業での経験を踏まえ、電力貯蔵用リチウムイオン電池を
用いた電力貯蔵システムを検討し、電力負荷平準化の用途に無停電電源装置(以下、UPS)機能を備え
た大型電力貯蔵システムの仕様を策定した。
この仕様をもとに(6)のサブテーマによって試作された大型電力貯蔵システムと(1)のサブテーマによ
って試作された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルが組み合わさった試作機を大津エネルギーセンター
へ設置し、主に機能検証とリチウムイオン電池を利用した電力貯蔵システムとしての基本的な特性評価に
主眼を置き、電力計測器を用いて、充放電電力データ等を収集解析した。設置にあたっては、経済産業
省へ発電所の登録申請を実施した。
4)研究結果
4.1 パワーコンディショナー(PCS)の仕様
表-1
電力供給分野の立場からは、リチウムイオン電池を
用いた電力貯蔵システムのニーズとしては、高圧受電
大型電力貯蔵システムの電気的要求仕様
の契約電力帯である50kVA~2000kVAまでが想定され
項目
単位
仕様
定格電力
kVA
50
NAS(ナトリウム硫黄)電池が得意とする領域であり、当
相数
-
3相3線式
社では、リチウムイオン電池の小型、軽量、かつ常温動
定格電圧
V
200
電力制御追従
V
202±20以内
出力電流歪率
%
総合5%以下
る。しかし、実質、500~1000kVA以上は東京電力の
ゲットとすることにした。本研究では、電力貯蔵用リチウ
系統連系
交流出力
作が可能な特性を生かし、50~500kVAの用途をター
ムイオン電池セルの標準化という観点から、標準セル
各次3%以下
周波数範囲
Hz
50/60±2
出力力率
-
進み0.95以上
定格電圧
定電圧制度
V
%
200
2%以内
出力電圧歪率
%
総合5%以内
定格出力周波
Hz
50/60±1
表-1に電力貯蔵システムの電気的要求仕様を示す。
出力力率
-
遅れ0.8~1.0
PCSの機能としては、当社がこれまで実施してきたオ
最大電力
kVA
50
定格電圧
V
200
電圧範囲
V
200±20
周波数範囲
Hz
50/60±2
力率
-
0.98以上
が電力供給分野で共通に利用できることを実証するこ
の高圧受電の契約帯として最小限の50kVAを単一の
システムとし、これを最大5台並列運転させることで
自立運転
交流出力
とを目的に、電力貯蔵システムの規模としては、産業用
250kVAのシステムまで構築可能な仕様として策定した。
の用途にUPS(無停電電源装置)機能を備えた仕様を
策定した。国内においては電力供給が安定しており、
UPSの稼働実績は極めて低い。しかし、公共サービス
を提供する企業においては、社会的な役割からUPS
59
充電運転
ンサイト発電事業での経験を踏まえ、電力負荷平準化
の導入を見送ることが出来ず、金銭的な重荷となってきた。リチウムイオン電池は、繰り返しの充放電に優
れた寿命性能を誇り、従来の鉛電池とは異なる使い方が期待できる。そこで、本研究では負荷平準化の
機能に、UPSとしても活用できることを視野に入れ、設備の有効活用が可能な電力供給分野向けの大型
電力貯蔵システムを考案した。図-1にシステム構成図を示す。
6600V
電力線
信号線
受電電力検出器
系統連系
保護装置
変圧器
6600V/210V
[50kVA~250kVA]
ACSW部
SW3
構
内
高
圧
負
荷
システム
コントローラ
一
般
負
荷
SW2
SW4
SW1
非
常
用
負
荷
重
要
負
荷
PCS1
パワーコンディショナー
NO.1
[50kVA]
PCS5
パワーコンディショナー
NO.5
[50kVA]
電池接続盤
電池接続盤
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
BMU
BMU
BMU
BMU
図-1 大型電力貯蔵システム構成図
図-1のACSW(交流スイッチ)部はUPS機能を実現するための回路で、システムコントロー
ラが系統連系保護装置から停電を検出するとSW1を開放し、商用系統から高速でPCSを切り離し、
重要負荷と非常用負荷に自立運転にて電力を供給する。
60
電力制御の動作モードとしては、電力負荷平準化、電力ピークカット、カレンダー運転、強制充電、強
制放電、自立運転の動作モードがある。以下に各動作モードの目的と効果を説明する。
(電力負荷平準化運転モード)
この動作モードの利点は、夜間と昼間の電気料金の差による経済効果を得られる点である。
電力負荷平準化の充放電パターンを図-2 に示す。基本動作は、夜間電力を電池に蓄えて、昼間に
その貯蓄したエネルギーを構内に供給する。
電池放電時間帯
負荷電力
電池充電時間帯
放電電力
50kW
50kW
最小受電電力ライン
t1
0
50kW
1
2
3
4
5
6
7
8
t2
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
充電電力
充電電力
時間
50kW
図-2 電力負荷平準化の充放電パターン
逆潮流防止とシステム全体の効率を考慮し、放電時間帯(8 時~23 時)は最小受電電力のリミットを設
けており、監視した受電電力がこのリミットを越えた時点から電池電力を負荷に供給する。負荷電力が
50kW 以下の場合(図-2 の t1 区間)、PCS は負荷電力の追従制御を行い、50kW 以上の場合(t2 区間)、
PCS の最大出力である 50kW で運転される。充電は、受電電力が契約電力を超えないよう監視され(最大
契約電力追従制御)、最大 50kW で充電される。
(電力ピークカット運転モード)
電力ピークカットの充放電パターンを図-3 に示す。PCS は夜間の充電時間帯にリチウムイオン電池に
電力を貯蓄し、昼間の放電時間帯に契約電力(最大受電電力ライン)を超えた瞬間に PCS の負荷追従制
御を開始し、PCS の最大出力である 50kW の契約電力の底上げを行う。充電時の制御は電力負荷平準
化モードと同じである。
この動作モードの利点は、契約電力を下げることで経済的効果をもたらし、電力会社の負荷平準化に
も貢献することにより CO2 の削減にもつながる。
電池放電時間帯
負荷電力
電池充電時間帯
放電電力
最大受電電力ライン
50kW
t2
50kW
0
1
2
3
充電電力
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
図-3 電力ピークカットの充放電パターン
61
充電電力
50kW
(カレンダー運転モード)
本動作モードは、ユーザが予め把握している構内負荷の変動に応じて任意の放電パターンを設定する
ことにより、電力負荷平準化運転モード及び電力ピークカット運転モードでは負荷追従制御で行っていた
放電動作を、マニュアルで最適活用することができる。
カレンダー運転モードのイメージを図-4 に示す。月曜日から日曜日の七つのパターンを設定すること
ができ、ユーザは構内負荷の稼動状況に応じて、稼働日と非稼働日の設定により電池の最適使用パタ
ーンを構築することができる。
n=運転台数
電池放電時間帯
負荷電力
電池充電時間帯
n×50kW
放電電力
n×50kW
0
1
2
3
4
充電電力
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
充電電力
n×50kW
図-4 一日のスケジュール放電モード
本動作モードでは、1 時間毎の放電電力の設定が可能であり、最大設定電力は 50kW である。本動作
モードで運転中に停電した場合は、自動的に系統連系を解列し、自立運転に切り替え重要負荷に電力
を供給する。
(強制充電)
強制充電モードは、時間帯に依らず、充電動作をマニュアルで行う動作モードである。充電時は、他の
動作モード同様に、受電電力が契約電力を超えないよう監視され(最大契約電力追従制御)、最大 50kW
で充電される。
(強制放電)
強制放電モードは、時間帯に依らず、放電動作をマニュアルで行う動作モードである。強制放電時の
放電制御は電力負荷平準化運転モードと同じである。
(自立運転)
上記のいずれかの動作モードで運転中に停電が発生した場合、PCS を停止するとともに系統連
系用継電器(図-1 の SW1)を開放し、系統から PCS を解列させ、停電前の出力周波数により、
自立運転を定電圧定周波数(CVCF)制御で開始する。
4.2 リチウムイオン電池の仕様
表-1 に示す通り、PCS の定格電力は 50kVA に設定したが、PCS に組み合わせる電池の定格容量
(kWh)は、設置する環境によって異なる。電力負荷平準化を目的とする用途では約 10 時間、電力ピーク
カット用途では構内の設備稼働に依存し、真夏の 14 時をピークに前後 1~3 時間程度と予想される。そこ
で、本研究では、あらゆる用途に対応するために、50kWh の完備電池(セルを複数接続した組電池に保
護装置が接続された蓄電池装置)を最小構成単位とし、これを複数並列接続することでシステムの運転
時間を設定できることにした。なお、50kWh の完備電池 1 台で最大 1 時間の運転が可能である。
62
本研究のサブテーマ(1)によって試作された標準セルは表-2 に示すように 3.7V、50Ah であり、セルあた
りの容量は 185Wh である。50kWh を構成するためには約 280 セル必要となり、セルの試作を手掛ける慶
應義塾大学及び表-1 の仕様をもとに大型電力貯蔵システムの試作を手掛ける新電元工業(株)と協議の
上、PCS の交流出力や半導体素子の耐圧やシステム総合効率等を考慮し、電池から PCS へ供給する定
格電圧を 266.4V に決定し、72 セルを直列接続した組電池を 4 並列接続することにより 50kWh を構成す
ることにした。
表-3 に完備電池の仕様を示す。
表-3 完備電池仕様
表-2 標準セル仕様
項目
項目
単位
仕様
直列接続数
セル
72
並列接続数
組
4
回路構成
接続
直列-並列
公称電圧
V
3.7
公称容量
Ah
50
蓄電池容量
Wh
185
遮断能力
A
250
最大高さ
mm
112.8
組電池容量
kWh
12.95
高さ
mm
100
定格電圧
V
266.4
長さ
mm
171
最大電圧
V
295.2
幅
mm
43.8
最低電圧
V
201.6
最大充電電流
A
280
最大放電電流
A
420
成の手法としては、セルの段階で並列接続した上で
遮断能力
A
600
直列に接続する「並列-直列」接続と、直列接続した
電池総容量
kWh
51.8
高さ
mm
1800
幅
mm
1800
奥行
mm
500
組電池
仕様
外形寸法
単位
完備電池
並列接続を用いてセルの大容量化を図る回路構
は鉛電池で多く用いられる手法であるが、一つのセ
ルが内部短絡などの不具合を起こすと、並列接続さ
外形寸法
上で並列に接続する「直列-並列」接続がある。前者
れた隣のセルから電流が流れ込む状態となり、エネ
ルギー密度が高く、内部抵抗の小さなリチウムイオン電池では、発熱、発火等を引き起こす可能性がある。
このため、本研究では、後者の「直列-並列」接続(図-5 参照)を採用し、72 セルを直列接続した組電
池を 4 組構成し、組電池同士を並列接続する方式とした。
図-5 に示すように、組電池毎に回路遮断器を設置し、万一、一つの組電池に不具合が生じても、他
の組電池から解列できる回路構成とし、安全性を高めた。この方式の懸念は、組電池間の容量ばらつき
によって、組電池間の充放電電流にばらつきが生じることであるが、実用上問題ないことを本フィールド評
価にて検証する。図中の BMU は電池管理装置を示し、全セル電圧とセルの代表温度の検出及び監視を
行っている。CAN は Controller Area Network の略語で、自動車をはじめ、産業用機器で標準化が進ん
でいる通信の規格であり、セル電圧の情報伝達を CAN で行っている。
表-1及び表-3の仕様をもとに試作されたフィールド検証機の外観図を図-6~図-8に示す。
63
P
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
CMU
N
CAN
BMU
CAN
CAN
CAN
BMU
CAN
図-5 リチウムイオンセルの完備電池構成
64
図-6 大型電力貯蔵システムの外観
右:PCS 左:ACSW 部
標準セルの外観
図-8 完備電池の外観(上)
及び
完備電池の内部(下)
図-7 システム全景
左:PCS 及び ACSW 部
右:完備電池
65
4.3 評価試験の方法
4.3.1 計測個所
図-9に計測箇所を示す。
計測箇所1は、ACSW部の一次側低圧200Vの系統である。計測箇所2は、高圧6600V系統の受電断路
器の二次側近傍で、受電点の電力データを計測した。高圧の電圧電流要素は計器用変成器を介して計
測器に取り込まれている。
図-9 計測箇所
評価試験に使用した計測器は下記の通りである。
・計測器・・・・・・・・・・・・・YOKOGAWA CW240
・電圧プローブ・・・・・・・・91007
・電流クランプ・・・・・・・・・96030
4.3.2 運転パターン
① システムの「カレンダー運転モード」による、放電電力及び放電時間帯制御運転
② システムの「電力ピークカットモード」による、ピークカット運転
「カレンダー運転モード」においては、設定した時間帯及び電力に従い、システムの運転制御が行わ
れる事を確認するため、一週間の設定電力及び放電時間帯を表-4のように設定し、運転を行った。同モ
ードの設定画面の一例を図-10に示す。
「電力ピークカットモード」では、受電点における最大受電電力を50kW、充電時間帯を23時~7時、放
電時間帯を10時~23時に設定し、夜間のシステムへの充電時に、受電点の最大受電電力が50kWを超
えないよう充電制御を行った。又、昼間の放電時には、受電電力が50kWを超える部分をシステムから供
給し、ピークカット運転を行った。ピークカット運転時の最大受電電力等の設定画面を図-11示す。
66
表-4 カレンダー運転モード時の出力電力設定値の一例
日
月
火
水
木
金
8:00~
9:00
9:00~
10:00
10:00~
11:00
11:00~
12:00
12:00~
13:00
5
0
0
0
0
0
5
0
0
0
0
0
5
0
0
0
0
0
5
0
0
0
0
0
5
10
0
0
5
0
放電出力設定(kW)
13:00~ 14:00~
14:00
15:00
5
10
10
0
10
0
5
10
10
10
20
5
15:00~
16:00
16:00~
17:00
17:00~
18:00
18:00~
19:00
19:00~
20:00
5
10
10
10
10
10
5
5
10
10
5
20
5
5
5
10
0
10
0
0
5
5
0
5
0
0
0
5
0
0
図-11 最大受電電力等設定画面
図-10 カレンダー運転モード設定画面
4.4 データの解析
4.4.1 「カレンダー運転モード」における運転状況
計測箇所 1 にて、
「カレンダー運転モード」時にサンプリングしたデータに基づき、日曜日から
水曜日までの運転状況の一例を図-12 に示す。この図の運転状況は、表-4 の設定値に対応している
が、木曜~土曜のデータについては図の見やすさを考慮して省略している。
図-12 は、横軸に時間、縦軸にシステムの平均放電出力を取り、「カレンダー運転モード」の設定値に
従い実際の運転が行われている事を確認した。図に示すように、いずれの曜日においても放電開始時間
及び放電開始後 20kWh 程度分までの平均放電出力は、ほぼ設定したプログラム通りの数値を示している
事が確認できた。但し、後半の放電部分においては、一部プログラム通りに出力を出し切れずに放電を終
了している部分が見受けられるが、これは、試験開始時の充電電力量が不足していた事が原因であり、
特に制御上の問題では無い。
67
平均放電出力の推移
14
日曜放電出力
12
月曜放電出力
火曜放電出力
10
水曜放電出力
kW
8
6
4
2
7:00
7:30
8:00
8:30
9:00
9:30
10:0
0
10:3
0
11:0
0
11:3
0
12:0
0
12:3
0
13:0
0
13:3
0
14:0
0
14:3
0
15:0
0
15:3
0
16:0
0
16:3
0
17:0
0
17:3
0
18:0
0
0
時間
図-12 カレンダー運転モード時の運転状況
4.4.2 「電力ピークカットモード」時における運転状況
計測箇所1及び2にて、
「電力ピークカットモード」時にサンプリングしたデータに基づき、昼夜
間のシステム充放電時における受電点とシステムの平均電力をまとめた一例を表-5に、表中の月
曜日の充電から火曜日の放電までのデータをグラフ化したものをそれぞれ図-13、図-14に示す。なお、
表-5の充電時の曜日については、23:00時点の曜日を示している。
表-5及び図-13に示すように、夜間のシステムの充電時における受電点の平均電力は、構内の一般
負荷の需要電力が元々50kWを超えている場合を除き、システムの制御により、最大受電電力設定値で
ある50kW前後を維持している。また、充電についても設定通りの時間に制御が開始されている事が確認
できた。
昼間の放電時においては、表-5及び図-14に示すように、夜間に蓄電した電力量に余力がある範囲
では、受電電力のピークカット指示値である50kWを超える部分が、昼間にシステムから給電され、受電電
力がほぼ50kWに維持されている事が判る。また、放電開始時間についても設定通りである事から、ピーク
カット運転が正常に行われている事が確認できた。
表-5 充放電データの一例
項目
平シ
均ス
電テ
力ム
kW
平
受
均
電
電
点
力
kW
日
月
火
水
木
金
日
月
火
水
木
金
充電時
時間
23:00~ 23:30~ 0:00~
23:30
0:00
0:30
17.9
3.0
7.9
7.1
9.2
50.0
51.0
51.0
51.0
50.0
-
14.9
6.1
8.4
10.1
11.7
46.0
51.0
51.0
51.0
50.0
-
2.4
8.7
10.7
12.0
12.6
35.0
51.0
51.0
51.0
50.0
-
放電時
時間
0:30~
1:00
1:00~
1:30
1:30~
2:00
2:00~ 2:30~
2:30
3:00
3:00~ 10:00~ 10:30~ 11:00~ 11:30~ 12:00~
3:30
10:30
11:00
11:30
12:00
12:30
0
9.2
9.9
9.0
12.1
33.0
51.0
51.0
51.0
50.0
-
0
9.6
7.0
8.8
11.4
33.0
51.0
52.0
51.0
50.0
-
0
12.3
6.3
11.4
9.0
34.0
50.0
54.0
51.0
50.0
-
0
11.6
9.4
11.1
3.6
33.0
50.0
51.0
51.0
44.0
-
0
2.7
5.6
0
0
32.0
41.0
47.0
38.0
40.0
-
68
0
10.1
9.9
6.0
0
32.0
48.0
51.0
44.0
41.0
-
21.2
13.5
23.7
15.0
20.6
51.0
50.0
51.0
51.0
50.0
20.2
12.5
17.2
15.1
18.2
53.0
51.0
51.0
51.0
51.0
0
10.3
13.0
16.1
6.9
70.0
51.0
54.0
51.0
61.0
0
6.4
0.0
5.1
0
68.0
51.0
69.0
62.0
69.0
0
0
0
0
0
72.0
57.0
68.0
68.0
68.0
システム充電
電力
受電点電力
充電時平均電力
60
80
70
50
kW
20
60
50
40
30
13:30
13:00
12:30
12:00
11:30
11:00
22:00
22:30
23:00
23:30
0:00
0:30
1:00
1:30
2:00
2:30
3:00
3:30
4:00
4:30
9:00
0
10:30
10
10:00
20
10
0
9:30
kW
40
30
システム放電
電力
受電点電力
放電時平均電力
時間
時間
図-13 充電時平均電力の推移
図-14 放電時平均電力の推移
4.4.3 システムの充放電効率
「カレンダー運転モード」及び「電力ピークカットモード」時における積算充放電電力量と充
放電効率の平日の推移を表-6 に、それらをグラフ化したものを図-15 に示す。
表-6 に示すように、システムの充放電効率は、およそ 50%台後半から 70%台後半の間で推移しており、
「電力ピークカットモード」時の方が「カレンダー運転モード」時より、全体的に高い効率を示している。これ
は、「電力ピークカットモード」時の放電の方が、「カレンダー運転モード」における放電に比べ、より PCS
の定格電力に近い電力で放電されている為、パワーコンディショナー部における損失が少なくなっている
事が要因の一つであると考えられる。
一例として、図-16 及び図-17 に、1 月 15 日(火)の「ピークカットモード」時における積算充放電電
力の特性図を示す。充放電中に、同一系統に接続されている一般負荷の変動の影響を受ける為、上昇
度合いに若干一定でない部分が見られるが、通常の充放電特性を示している。
表-6 各モード時の積算電力量の一例
積算電力量(kWh)
充電
1/8(火)
33.5
19.6
1/9(水)
38
22.9
90%
40
80%
58.5%
35
70%
60.3%
30
60%
25
50%
20
40%
15
30%
10
20%
1/10(木)
37.7
22.6
59.9%
1/11(金)
37.1
21.3
57.4%
5
10%
1/16(水)
37.4
26.5
70.9%
0
0%
1/17(木)
39.2
26
66.3%
1/18(金)
34.5
26.3
76.2%
1/18
1/17
1/16
1/15
1/14
1/11
1/10
( 金)
70.3%
( 木)
27.2
( 水)
38.7
( 火)
1/15(火)
( 月)
57.8%
( 金)
22.2
( 木)
38.4
)
1/14(月)
)
ッ
ト
60.7%
1/9(水
ー
ド
ク
カ
23.2
)
ー
モ
38.2
充放電電力量と充放電効率
1/8(火
ー
ピ
1/7(月)
充電
放電
充放電効率
45
1/7(月
ー
カ
レ
モン
ダ
ド
放
電
放電
システム充放
電効率(%)
kWh
項目
図-15 積算充放電電力量及び充放電効率
69
積算放電電力特性
積算充電電力特性
45
30
40
27.2
38.7
25
35
20
kWh
25
20
15
10
12:00
11:30
11:00
10:00
3:30
3:00
2:30
2:00
1:30
1:00
0:30
0:00
時間
0
10:30
0
0
23:30
放電電力量
5
充電電力量
5
13:00
10
12:30
15
23:00
kWh
30
時間
図-16 積算充電電力特性
図-17 積算放電電力特性
5)考察・今後の発展等
本研究におけるフィールド評価では、50kVAの定格出力を持つPCSに50kWhの完備電池を組み合わせ
た検証機にて各種試験を実施した。その結果、良好な特性が得られた、電力供給分野におけるリチウム
イオン電池を用いた大型電力貯蔵システムが実用的に活用できることが確認できた。
本課題全体の目的は、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルを標準化することにあるが、電力供給分野
の用途からは標準セルの仕様で定められた定格容量50Ahは、従来、電力供給分野で利用されてきた鉛
電池の定格容量に比べ数~1/10程度の規模であった。しかしながら、検証機では、標準セルを「直列-
並列接続」によって大容量化を図り、実用上、全く問題なく使用できることが確認できた。逆に、小容量の
セルを組み合わせることで多用途化を図れることが実証でき、従来、鉛電池では機器毎(用途毎)に完備
電池の設計を行ってきたが、リチウムイオン電池によって、システムも標準的な設計思想で構築できる可
能性が示された。
一方で、今回の研究においては、限られた研究期間の中で、ニーズ調査をもとに電力貯蔵システムの
仕様を策定し、更には電力貯蔵システム検証機の試作、フィールド評価の実施と密度の高い研究で、最
終的なフィールド評価は、比較的短期での評価となってしまった為、今後も試験を継続し、本来、リチウム
イオン電池が期待されている長寿命性能や経年劣化時の電池特性などにも注目し、電力貯蔵用リチウム
イオン電池を利用した電力貯蔵システムとしての完成度を、より一層高めていきたい。
6)関連特許
該当なし
70
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
71
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(3)リチウムイオン電池セルの住宅分野における標準化に関する研究
(分担研究者名:池田 登志夫、所属機関名:大和ハウス工業株式会社)
1)要旨
電力貯蔵用リチウムイオン電池を住宅分野で活用するためのニーズ調査を目的に、戸建住宅の住人
の方々を対象にアンケート調査を実施し、住宅用電力貯蔵システムの導入に関連する項目について調
査を行った。その結果から、近年、新築住戸で普及が進んでいるオール電化住宅での設置を想定した住
宅用負荷平準システム兼非常用電源の仕様を策定し、フィールドにて、その実用性を検証した。
オール電化住宅では、各電力会社がそれぞれ特別な契約電力形態を商品化しており、深夜は昼間よ
りも 1kWh あたりの電気料金が 15 円前後割安となる。本研究では、深夜に割安な電気をリチウムイオン電
池に蓄電し、昼間に電池に蓄えた電力を使用することにより、電気代の節約と二酸化炭素の排出量削減
(深夜と昼間の電力消費量を平滑化することによる)にも貢献できる住宅用電力貯蔵システムを考案した。
アンケート調査の結果や社内の顧客データから、一般家庭が一日に消費する電力量を算出し、更にリチ
ウムイオンセルの劣化特性を考慮して、システムの蓄電池容量は最大 18kWh との結論に至った。家族構
成によって消費電力量は異なるため、蓄電池容量は 18kWh を 6kWh の組電池に 3 分割し、幅広いニー
ズに応えられる工夫をした。
本研究にて策定した住宅用電力貯蔵システムの仕様をもとに試作された住宅用電力貯蔵システムのフ
ィールド評価を弊社セミナーハウス内の管理人室にて実施し、サブテーマ(1)にて策定された電力貯蔵
用リチウムイオン標準セルが住宅用途に適合できることを確認した。
なお、住宅用電力貯蔵システムの試作機は、サブテーマ(1)と(6)の成果を組合せたものである。
2)目標と目標に対する結果
(目標)
電力貯蔵用リチウムイオン電池を住宅分野で活用するためのニーズを発掘し、課題の(1)のサブテー
マにもとづいて開発された標準セルと組み合わせた住宅用電力貯蔵システムの仕様を策定する。
本仕様をもとに試作された住宅用電力貯蔵システムのフィールド評価を実施し、本システムの実用性を
評価するとともに、電力貯蔵用リチウムイオン標準セルの住宅分野における適合性を確認する。
(結果)
ニーズ発掘のため、アンケート調査を実施し、深夜に割安な電気をリチウムイオン電池に蓄電し、昼間
に電池に蓄えた電力を使用することにより、電気代の節約と二酸化炭素の排出量削減(深夜と昼間の電
力消費量を平滑化することによる)にも貢献できるオール電化住宅向けの住宅用電力貯蔵システムを考
案した。蓄電池の容量については、昼間の割高料金時間帯となる7時から 23 時に必要な電力量は
10kWh と算出され、非常用として 1.5kWh の電力量が必要になると想定した。よって必要な電力量を
12kWh とした。ここでは 10 年間の使用を目標とし、電池における 10 年後の電池容量を 70%(10 年間の劣
化分を 30%と見積もった)とした結果、初期のシステム容量としては 18kWh とした。昼間は可能な限り夜間
に蓄えた電力を使用することを前提とするが、家庭のピーク電力に合わせてパワーコンディショナー(電
池の直流を家庭用の機器の交流に変換する装置を備えた電源システム、以下 PCS と記述)を設計すると
大型化、さらにはコストアップの要因となるため、本研究では非常時(停電時)にインバータ単独で運転す
72
るために必要となる最大出力を 2kVA と算出し、平常時に 2kVA を超える際は、系統から電力を取り入れ
る系統連系運転によって対応することにした。
フィールド評価の結果、本研究で試作した電力貯蔵用リチウムイオン標準セルは全く問題なく住宅用
電力貯蔵システムに利用することができ、家庭内のあらゆる電力負荷に追従制御できることを確認した。
また、標準セルの充電電力量と放電電力量の比(以下、電池充放電効率という)は約 87%を確認し、リチ
ウムイオン電池の特徴である充放電効率の高さを確認した。
また、電力貯蔵の普及と関連の深い「太陽光発電システム」の普及状況や今後の市場の可能性につい
て調査した。太陽光発電システムは、新たな技術開発などにより、世界的に需要が伸びる可能性があり、
それに付随するであろう住宅用電力貯蔵システムも普及が期待される。これまでは、深夜時間帯に充電
し昼間に放電を行う「負荷平準化方式」としての開発であったが、容量 18kWh のシステムは太陽光発電と
の組み合わせにも十分満足できるシステムであることを確認した。
3)研究方法
3.1 ニーズ調査
住宅用電力貯蔵システムの必要性やシステムに対する要求などを、戸建住宅の住人の方々を対象に
アンケート調査を実施し、ニーズをまとめる。アンケート方法としては、WEB 上で質問を行い、選択方式
(一部自由記載)にて回答してもらう。住宅用電力貯蔵システムの導入に関連する項目(非常用電源の有
用性、自然災害などの調査、住設機器の導入状況、電力会社との契約形態、住宅用電力貯蔵システム
に要求される機能、導入コスト等)について調査を行った。また、住宅用電力貯蔵システムは、非常用電
源としての利用だけではなく、自然エネルギーによる電力貯蔵にも利用される可能性が高い。住宅で使
用される自然エネルギーの今後の可能性や市場動向などについても調査を実施した。
3.2 仕様策定
アンケート調査から、住宅分野で電力貯蔵用リチウムイオン電池が活用可能な用途をまとめ、それらの
中から最適な住宅用電力貯蔵システムの基本概念を考案する。さらに、システムに求められる電気的特
性や機能を決定し、標準セルやシステムを搬送する際に求められる機械的性能や、設置する際に求めら
れる耐環境性についても特定する。
3.3 フィールド試験
仕様をもとに、試験計画案を策定し、住宅用電力貯蔵システムの評価を実施する。なお、研究実施期
間中は、リチウムイオン電池を用いた電力貯蔵システムは、経済産業省が所管する電気事業法の中で発
電所扱いと定義されている関係で、一般住戸でのフィールド評価が困難であったため、弊社研究所内の
管理人室にて実施することとし、省令の規制緩和に関しては、慶應義塾大学とともに活動を行った。(詳
細は、サブテーマ(1)の報告に記載。)
4)研究結果
4.1 ニ-ズ調査
住宅用電力貯蔵システムを開発するに当たり、非常用電源としての可能性について調査を行った。調
査は大和ハウス工業の戸建住宅をご購入された方で構成される会員サイトで、WEBを利用してアンケ-ト
73
を行った。有効回答数は、第1回目が3222件、第2回目が2578件であった。
停電に直結する災害については、過去5年間で20%の方が台風による被害を受けていることが確認で
きた。また10%の方が地震の被害を受け、9%の方が落雷による被害を受けている。これらの災害を受け
た結果、44%の方が停電の被害を受けていることがわかった。次に、過去5年間に計画停止も含む停電
を経験された方は55%に達し、1年に2回以上停電を経験される方はそのうち15%を占めた。電気事業連
合会の調べでは、1軒当たりの停電回数は0.13回/年(2001年度)としているが、近年の異常気象による自
然災害の増加などの影響により、停電の発生頻度は増加していると言える。停電の原因については、落
雷の影響によるものが49%と非常に多く、その次に台風の影響によるものが25%と続いている。地震が原
因であるものは2%と意外と少ない結果であった。停電の時間は数秒程度が6%、1分以内が20%、1時間
以内が50%と短時間のもので約3/4を占めている。一方で半日以内の経験者が17%おり、台風などの被
害においては比較的長めの停電時間となっている。また、停電時に必要な家電製品は冷蔵庫と照明が
重要視されており、停電時には「食」や「安全・安心」に対する不安を抱えられている方が多いと考えられ
る。
以上の結果により、「落雷・台風による1時間程度の停電が多く、その際に必要な家電製品は冷蔵庫・
照明が必要である」と結論付けた。
次に、停電に対する備えについて調査を行った結果、乾電池の準備や手動式発電ラジオ兼ライト程度
の備えを検討されている方が大半であった。ポ-タブル発電機や太陽光発電などを導入検討されている
方は20%程度であったが、初期導入コストを低く抑えることが重要であると言える。
深夜に割安な電気をリチウムイオン電池に蓄電し、昼間に電池に蓄えた電力を使用することによる電
気代の削減策に関しては、80%の方が関心を持っていることがわかった。更に、実際の導入に関しては、
イニシャルコスト次第で購入したい方が40%で、購入を検討してみたいという方が25%となっており、半数
以上の方がシステムの内容・コスト次第で購入に前向きであることがわかった。イニシャルコストとしては、
10年間で50万円の電力料金が低減されることを前提とした場合、イニシャルコストが40万円以下であれば
83%の方が、50万円以下であれば46%の方が「買っても良い」と回答した。一方で100万円を超えても「買
っても良い」と回答される方が1%おり、停電時の備えとしての位置づけであると考察できる。
4.2 仕様策定
アンケート結果を踏まえ、深夜に割安な電気をリチウムイオン電池に蓄電し、昼間に電池に蓄えた電力
を使用することにより、電気代の節約と二酸化炭素の排出量削減にも貢献できる住宅用電力貯蔵システ
ムを考案した。オール電化住宅では、各電力会社がそれぞれ特別な契約電力形態を商品化しており、深
夜は昼間よりも 1kWh あたりの電気料金が 15 円前後割安となる。
アンケート調査の結果や社内の顧客データから、オール電化住宅における7時から23時の平均消費電
力量は12.8kWhであるが、システムから電力系統(電力会社の送電線)へ電気を回生(以下、逆潮流とい
う)してしまうのを防ぐために、常時電力系統から僅かな電力を買電する必要があるため充放電容量を
10kWhと設定した。さらに非常用電源としての容量はアンケ-ト結果より、停電時における非常用電力供
給時間を全体の7割を占めた24時間以内と設定し、必要な家電製品を冷蔵庫・リビングの照明・テレビと
設定すると、24時間での必要電力量は1.5kWhと算出した。よって、必要な充放電容量を12kWhとした。た
だし、リチウムイオン電池は充放電回数や使用年数によって劣化が生じるため、寿命性能を10年後に初
期容量の70%以上を保持することを前提にシステムの初期容量としては18kWh必要であると策定した。
74
これまでのアンケ-ト結果及び従来の住宅設備機器の仕様調査により、住宅用電力貯蔵システムに関
する要求項目を表-1に示す。また、表-2に表-1の要求項目をもとに策定した住宅用電力貯蔵システ
ムの仕様を示し、図-1にそのシステム構成図を示す。
本機器は、単相三線式とし、各相1kVAのインバータ定格容量とし、100V機器と200V機器の両対応仕
様とした。また、負荷設備を一般負荷と重要負荷に分け、停電時は、自動的に重要負荷へ電力が供給さ
れる。
表-1 住宅用電力貯蔵システムの要求項目
項目
性能
寸法・重量
内容
蓄電池容量
18kWh
用法
繰り返し充放電(サイクル)
外観形状
箱型
寸法(mm)
扁平タイプ
重量(kg)
500kg以下
交流入力電圧
単相3線式(100/200V)
入力周波数
電気的性能
50/60Hz
インバータ出力電圧
単相3線式(100/200V)
インバータ定格容量
2.0kVA
出力周波数
機械的性能
耐環境性
系統の周波数に自動適合
充電時間
8時間
冷却方式
自然冷却/強制空冷
耐振動
輸送(陸送)、及び設置時の振動に耐えること
衝撃性
同上
耐落下
同上
設置場所
屋外
周囲温度
-10~50℃
湿度
通常の湿度に耐えること
光耐候性
不要
耐水性
屋外設置が可能なこと
耐熱性
引火時に爆発なきこと
蓄電池容量は18kWhとし、6kWhのシステムを3台切り替える分離型のシステムとした。これは将来的に
戸建住宅だけでなく、マンションや集合住宅などの比較的電力消費量が少ない住宅への適用や、非常
用電源単独としても活用できるように考慮したものである。電力需要にあわせて、1システム(6kWh)または
2システム(12kWh)も選択できるようにした。また、この方式は、組電池内のセルの異常により一つの組電
池が使用不可能になった場合にでも、残りの二つの組電池によって運転を継続できる利点がある。
システムの設置場所については、屋外型を要求仕様としたが、研究段階であるとして、試作仕様では
キュ-ビクル内へ設置する仕様とした。
75
試作1号機は、まずPCSの先行開発の位置づけにより、セルに関しては、標準セルに比較的近い性能
を有するジーエス・ユアサコーポレーション製のLIM40(40Ah)を採用し、126セル使用した。
試作1号機による基本動作の検証後、標準セルを用いた試作2号機を完成させた。標準セルによりセル
容量が25%アップしたため、126セルから93セルへ削減した。
表-2 住宅用電力貯蔵システムの仕様
試作1号機
試作2号機
18kWh
→
LIM40(40Ah)
標準セル(50Ah)
126セル
93セル
分離型(6kWh×3
→
蓄電池容量
セル型式(容量)
セル数
システム形態
台)
システム設置場所
屋内
→
PCS定格
2kVA
→
PCS形態
分離型、屋内型
→
自動切換式
→
非常用電源
4.3 フィ-ルド試験
4.3.1 試験体
試験で使用する共試体を表-3 に示す。前述の通り「試作 1 号機」と「試作 2 号機」は、PCS は同一機
器で、完備電池は異なる。なお、完備電池とは、セルを複数接続した組電池に保護装置が接続された蓄
電池装置を指す。
図-2 に完備電池と PCS の配置図を示す。完備電池と PCS は分離して設置しており、完備電池は専
用キュービクル、PCS は建物内部に設置しており、その間を銅線で結線している。
表-3 共試体一覧
供給先
完備電池
PCS
型式
個数
試作 1 号機
慶應義塾大学
6kWh(LIM40/42 セル)
3
試作 2 号機
慶應義塾大学
6kWh(標準セル/31 セル)
3
SD-BINV-2000
1
新電元工業(株)
76
キュービクル
管理人室
廊下
完備電池
ボイラー室
パワーコンディショナー
図―2 電池システム、パワーコンディショナーシステム配置図
4.3.2 試験システム
フィ-ルド試験の構成図を図-3、フィ-ルド試験の試験風景を図-4~6 に示す。試験では、住宅用
蓄完備電池の充放電効率、電池セルの充放電効率を確認するためにシステム内に計測点を設け、電流、
電圧、温度等を測定し、記録ロガ-にてデ-タ保存を行っている。
系統
T5
P1
T6
計測器
ELB
切替BOX
P3 P4 T1
P2
A1
P5
P6
A2
V1
P7
PCS
管理人室
コンセント
V2
V3
V4
電池1
電池2
電池3
T2
T3
キュービクル
ボイラー室
図―3 フィールド試験構成図
No.
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
名称
受電電力量
住戸消費電力量
システム入力電力量
システム出力電力量
電池充電電力量
電池放電電力量
自立電源消費量
種別
積算値
演算値
積算値
積算値
演算値
演算値
積算値
数量
1
1
1
1
1
1
1
電圧
V1
V2
V3
V4
電池電圧
システム1電圧
システム2電圧
システム3電圧
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
1
1
1
1
電流
A1
A2
T1
T2
T3
T4
T5
T6
電池充電電流
電池放電電流
インバータ内部温度
システム1内部温度
システム2内部温度
システム3内部温度
外気温度
キュービクル内温度
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
瞬時値
1
1
1
1
1
1
1
1
項目
電力
温度
77
演算
P1+P4-P3
V1×A1
V1×A2
T4
図―4 完備電池
図―5 完備電池
(1 号試作機)
(2 号試作機)
図―6 PCS 及び計測装置
4.3.3 試験スケジュ-ル
一次試作機と二次試作機ではシステム開発・製作期間に伴って試験期間が異なっている。表-4 に試
験スケジュ-ルを示す。一次試作機は 2007 年 4 月~8 月、二次試作機は 2007 年 11 月~2008 年 3 月
まで試験を行った。
表-4 各試作機の試験スケジュ-ル
システム名称
2007 年
4月
2008 年
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
1月
2月
1 号試作機
システム移行準
実
2 号機試作機
設
4.3.4 試験内容
上記スケジュ-ル内で実施した試験項目を以下に示す。
● 一般の住戸の電力負荷に対する PCS の追従特性。また、完備電池の出力追従性。
● 任意で設定した時間に対する完備電池の充電及び放電特性。
● 非常用電源の起動特性。家電負荷による起動特性の確認。
78
実
3月
4.3.5 試験結果
(1 号試作機:春季試験結果)
1 号試作機の春季における代表例として、2007 年 4 月 15 日(日)から 4 月 21 日(土)までの運転デ-
タを図-7 に示す。
システム電圧[V]
電池電圧
システム1電圧
システム3電圧
170
165
160
155
150
0:00
12:00
0:00
4月15日(日)
12:00
0:00
4月16日(月)
12:00
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0:00
0:00
4月17日(火)
インバータ内部温度
システム3内部温度
温度[℃]
システム2電圧
180
175
12:00
0:00
4月18日(水)
12:00
0:00
4月19日(木)
システム1内部温度
外気温度
12:00
0:00
4月20日(金)
住戸消費電力
0:00
4月21日(土)
システム2内部温度
キュービクル内温度
12:00
0:00
12:00 0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00 12:00
0:00
4月15日(日)
4月16日(月)
4月17日(火) 4月18日(水)
4月19日(木) 4月20日(金)
受電電力
12:00
12:00
0:00
4月21日(土)
システム出力電力
消費電力[W]
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
4月15日(日)
12:00
0:00
4月16日(月)
12:00
0:00
4月17日(火)
12:00
0:00
4月18日(水)
電池充電電力
12:00
0:00
4月19日(木)
12:00
0:00
4月20日(金)
12:00
0:00
4月21日(土)
電池放電電力
消費電力[W]
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00 12:00
0:00
12:00
0:00
12:00 0:00
12:00
0:00
12:00 0:00
12:00
0:00
4月15日(日)
4月16日(月)
4月17日(火) 4月18日(水)
4月19日(木) 4月20日(金)
4月21日(土)
図-7 2007 年 4 月 15 日(日)~4 月 21 日(土)の運転データ
79
図中の「システム 1 電圧~システム 3 電圧」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の総電圧を意味し、
「電池電圧」は、図-3 に示す「切替 BOX」で計測された電池の総電圧を示す。また、「システム 1 内部温
度~システム内部 3 温度」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の内部温度を意味し、「インバータ内部
温度」は PCS 内部の温度を示す。
図-7 より、各完備電池の総電圧は充電時に 173V まで上昇し、その後充電完了になると次の完備電
池に充電が切り替わっていることが確認できた。完備電池の放電順序に関しては、一つの完備電池に充
放電利用が集中すると劣化が進んでしまうので、「切替 BOX」によって完備電池の充放電の順番を切り替
え、使用頻度を分散するようにした。
温湿度に関しては、10 時~12 時あたりで図-3 の T6 に示すキュ-ビクル内温度が一気に上昇してい
る。これは直射日光がキュ-ビクルに当たるためである。しかし、システム温度はセルの最高温度を示す
が 20℃前後を保っており、室内温度の影響はほとんど受けていないことがわかった。
住宅電力負荷の追従性については、昼間の放電時におおむね対応できていることが確認できる。充
放電制御に関しては、[充電:19 時~翌 7 時、放電 7 時~19 時]において正常に行われていることが確認
できた。
住宅用蓄完備電池の性能評価として、「電池充放電効率」を定義する。
電池放電電力量[kWh ]
電池充放電効率[%] = × 100
電池充電電力量[kWh ]
春季(4 月~5 月)における住宅用電力貯蔵システムの電池充放電効率は平均 92%であった。
80
(1 号試作機:夏季試験結果)
2007 年 7 月 29 日(日)から 8 月 4 日(土)までの運転デ-タを図-8 に示す。
電池電圧
システム1電圧
システム2電圧
システム3電圧
180
システム電圧[V]
175
170
165
160
155
150
0:00
12:00
0:00
温度[℃]
7月29日(日)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0:00
12:00
0:00
7月30日(月)
12:00
0:00
インバータ内部温度
システム3内部温度
12:00
0:00
7月29日(日)
12:00
12:00
7月31日(火)
0:00
7月30日(月)
12:00
0:00
8月1日(水)
12:00
システム1内部温度
外気温度
0:00
7月31日(火)
12:00
0:00
8月1日(水)
受電電力
0:00
8月2日(木)
0:00
12:00
0:00
8月4日(土)
システム2内部温度
キュービクル内温度
12:00
0:00
8月2日(木)
住戸消費電力
12:00
8月3日(金)
12:00
0:00
8月3日(金)
12:00
0:00
8月4日(土)
システム出力電力
6,000
消費電力[W]
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
7月29日(日)
12:00
0:00
7月30日(月)
12:00
0:00
7月31日(火)
12:00
8月1日(水)
電池充電電力
0:00
12:00
0:00
8月2日(木)
12:00
0:00
8月3日(金)
12:00
0:00
8月4日(土)
電池放電電力
6,000
消費電力[W]
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
7月29日(日)
12:00
0:00
7月30日(月)
12:00
0:00
7月31日(火)
12:00
8月1日(水)
0:00
12:00
0:00
8月2日(木)
12:00
0:00
8月3日(金)
12:00
0:00
8月4日(土)
図―8 2007 年 7 月 21 日(日)~8 月 4 日(土)の運転データ
図中の「システム 1 電圧~システム 3 電圧」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の総電圧を意味し、
「電池電圧」は、図-3 に示す「切替 BOX」で計測された電池の総電圧を示す。また、「システム 1 内部温
度~システム内部 3 温度」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の内部温度を意味し、「インバータ内部
温度」は PCS 内部の温度を示す。
図-8 より、各完備電池の総電圧は春季試験時とほぼ同様で、充電時に 173V まで上昇し、その後充
81
電完了になると次の完備電池に充電が切り替わっていることが確認できた。「切替 BOX」によってシステム
の充放電の順番も上手く切り替わっていることが確認できる。
温湿度に関しては、キュ-ビクル内温度が終日 25℃を下回らない高温の日が存在している。各システ
ム内温度もキュ-ビクル内温度に追従して高温で変動しているが、正常稼動が確認できた。
また、住宅電力負荷の追従性、および充放電制御に関しても、春季同様に正常に行われていることが
確認できた。
夏季(6 月~8 月)における住宅用電力貯蔵システムの電池充放電効率は、春季同様平均 92%であっ
た。
(2 号試作機:秋季試験結果)
2007 年 11 月 25 日(日)から 12 月 1 日(土)までの運転デ-タを図-9 に示す。
電池電圧
システム1電圧
システム2電圧
システム3電圧
システム電圧[V]
150
140
130
120
110
100
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
11月25日(日) 11月26日(月) 11月27日(火) 11月28日(水) 11月29日(木) 11月30日(金)
12月1日(土)
温度[℃]
インバータ内部温度
システム3内部温度
システム1内部温度
外気温度
システム2内部温度
キュービクル内温度
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
11月25日(日) 11月26日(月) 11月27日(火) 11月28日(水) 11月29日(木) 11月30日(金)
12月1日(土)
受電電力
住戸消費電力
システム出力電力
消費電力[W]
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
11月25日(日) 11月26日(月) 11月27日(火) 11月28日(水) 11月29日(木) 11月30日(金)
12月1日(土)
電池充電電力
電池放電電力
消費電力[W]
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
11月25日(日) 11月26日(月) 11月27日(火) 11月28日(水) 11月29日(木) 11月30日(金)
12月1日(土)
図―9 2007 年 11 月 25 日(日)~12 月 1 日(土)の運転データ
図中の「システム 1 電圧~システム 3 電圧」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の総電圧を意味し、
「電池電圧」は、図-3 に示す「切替 BOX」で計測された電池の総電圧を示す。また、「システム 1 内部温
82
度~システム内部 3 温度」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の内部温度を意味し、「インバータ内部
温度」は PCS 内部の温度を示す。
2 号試作機では、セルの仕様が変更になったことで、完備電池の総電圧が低下し、充電時の最大電圧
は 130V となっている。
温湿度に関しては、キュ-ビクル内温度は 10~15℃を推移している時間帯が多く、外気温度とほぼ同
じ推移を示している。充電時にインバータ内部温度が上昇傾向にあることが確認された。これは PCS 内部
で電力変換を行っている時の損失が熱となっていることが分かる。温度上昇度はおよそ 5℃であった。
住宅電力負荷の追従性については、1 号試作機と同様に昼間の放電時におおむね対応できているこ
とが確認できた。充放電制御に関しても、[充電:21 時~翌 7 時、放電 7 時~21 時]において正常に行わ
れていることが確認できた。
秋季(11 月 14 日~12 月 25 日)における住宅用電力貯蔵システムの電池充放電効率は平均 87%であ
った。
(二次試作機:冬季試験結果)
2008 年 2 月 17 日(日)から 2 月 23 日(土)までの運転デ-タを図-10 に示す。
電池電圧
システム1電圧
システム2電圧
システム3電圧
システム電圧[V]
150
140
130
120
110
100
0:00
12:00
0:00
温度[℃]
2月17日(日)
25
20
15
10
5
0
-5
-10
0:00
12:00
0:00
2月18日(月)
12:00
0:00
2月19日(火)
インバータ内部温度
システム3内部温度
12:00
0:00
2月17日(日)
12:00
0:00
2月18日(月)
12:00
12:00
0:00
2月20日(水)
12:00
システム1内部温度
外気温度
0:00
2月19日(火)
12:00
0:00
2月20日(水)
0:00
2月21日(木)
12:00
12:00
0:00
2月23日(土)
システム2内部温度
キュービクル内温度
12:00
0:00
2月21日(木)
12:00
2月22日(金)
図-10(a) 2008 年 2 月 17 日(日)~2 月 23 日(土)の運転データ
83
0:00
2月22日(金)
0:00
12:00
0:00
2月23日(土)
消費電力[W]
受電電力
住戸消費電力
システム出力電力
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
2月17日(日)
2月18日(月)
2月19日(火) 2月20日(水)
2月21日(木) 2月22日(金)
2月23日(土)
電池充電電力
電池放電電力
消費電力[W]
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
2月17日(日)
2月18日(月)
2月19日(火) 2月20日(水)
2月21日(木) 2月22日(金)
2月23日(土)
図-10(b) 2008 年 2 月 17 日(日)~2 月 23 日(土)の運転データ
図中の「システム 1 電圧~システム 3 電圧」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の総電圧を意味し、
「電池電圧」は、図-3 に示す「切替 BOX」で計測された電池の総電圧を示す。また、「システム 1 内部温
度~システム内部 3 温度」は、それぞれ完備電池 1~完備電池 3 の内部温度を意味し、「インバータ内部
温度」は PCS 内部の温度を示す。
各完備電池の総電圧は外気温度が低下しているが秋季と変わらず、充電時の最大電圧は 130V となっ
た。システムの充放電制御に関しても秋季同様、問題なく作動している。
温湿度に関しては、キュ-ビクル内温度は 0~15℃を推移しており、時間帯によっては 0℃を下回っ
た。
住宅電力負荷の追従性については、1 号試作機と同様に昼間の放電時におおむね対応できていること
が確認できた。充放電制御に関しても、[充電:21 時~翌 7 時、放電 7 時~21 時]において正常に行われ
ていることが確認できた。
冬季(12 月 16 日~3 月 25 日)における住宅用電力貯蔵システムの電池充放電効率は秋季同様平均
87%であった。
(住宅用電力貯蔵システムの重要負荷稼動テスト)
住宅用電力貯蔵システムでは、住宅の「環境負荷削減」「光熱費削減」を行うシステムであると同時に、
災害時の「非常用電源」としての利用も期待される。
災害時の非常用電源として設けられている「重要負荷電源」に関して、系統電力を切断した状態で家
電機器を稼動させてシステムが正常に稼動するかどうかを試験した。図-11 に重要負荷電源のシステム
図を示す。
84
重要負荷電源
図―11 重要負荷電源のシステム図
試験に使用した家電製品の一覧とその結果を表-4 に示す。稼動判定は、
「○」:試験開始後、1 分間以上家電製品が稼動する
「-」:
〃
10s で「重要負荷過負荷警告」が出てシステムが設計通り停止する
「×」:過放電により、焼損・故障などの不具合が発生する
と設定する。
試験結果から、現在のシステムでは 1kVA 以上の電力負荷が重要負荷電源で発生した場合、PCS の保
護機能が作動して正常にシステム停止になることが分かった。要因は PCS の出力が各相 1kVA までの設
計になっているためであると考えられる。
表-4 重要負荷実験機器一覧とその結果
メ-カ-
型式
稼動モ-ド
消費電力
稼動判定
[kVA]
ドライヤ-
掃除機
洗濯機
National
SANYO
EH-5421
SC-R54
LOW
290
○
HIGH
1,156
-
TURBO
1,156
-
弱
105
○
中
320
○
強
548
○
洗い
15
○
脱水
135~250
○
National
NA-F50A2
乾燥機
National
NH-D45A2
弱
360
○
電子レンジ
三菱
RO-DS5
電熱装置
1,110
-
85
(まとめ)
住宅用電力貯蔵システムの試験結果を以下にまとめる。
„
本研究で試作した電力貯蔵用リチウムイオン標準セルは全く問題なく住宅用電力貯蔵システム
に利用することができ、高い充放電効率も得られた。
„
1 号試作機、2 号試作機ともに実負荷環境(温湿度、電力負荷)において、系統連系制御を行う
ことができ、時々刻々変動する電力負荷に対して追従制御を実現した。
„
電池容量 6kWh を 3 システムに分割して計 18kWh としたが、充電時、放電時ともに図-3 に示
す「切替 BOX」によって正常動作を確認した。
„
PCS 内温度が充放電時に上昇していることから、PCS においてシステム損失が熱に変換されて
いることから、今後完備電池との一体化を図る際に電池への輻射熱を考慮する必要がある。
„
重要負荷を設定し、系統が停電した際に、正常に重要負荷機器に電力を供給できることを確認
した。おおむねの家電機器は正常に稼動したが、1kVA を超える家電機器は作動しなかった。
これは PCS の設計仕様に起因するものである。
5. 考察・今後の発展等
5.1 考察
本研究により、住宅用電力貯蔵システムは非常用電源としての利用だけでなく、光熱費削減や温室効
果ガス削減を達成できるシステムとしてニ-ズがあることが確認できた。要求コストは非常に低く、住宅用
だけでなく様々な分野で共通化したセルを大量生産することによって、住宅用途も市場拡大することが考
えられる。
また、あらゆる業種で利用できる電力貯蔵用リチウムイオン標準セルとして策定された50Ahセルは、住
宅用電力貯蔵システムに十分適応することを確認した。電池の充放電効率は90%前後であったが、これ
はPCSと完備電池の設置距離が離れていた損失を考慮しても良い結果が得られた。また定格時における
システム全体の総合効率は約80%であった。今回フィ-ルド試験を行った場所が①土日不在 ②在宅者
が1人ということで、電力負荷が小さかったため、総合効率は低い結果となった。
5.2 今後の発展
電力貯蔵用リチウムイオン電池は、住宅への用途として、温室効果ガス排出の削減のために深夜電力
を昼間に使用することによる負荷平準化と停電時の非常用電源として考えられる。現状の昼夜間の電力
料金格差の利点を生かし、当面は両方を兼ねた住宅用電力貯蔵システムの評価を今後も継続する。
しかし、単純に深夜電力を昼間に使うだけでは、省エネルギーや大幅な温室効果ガスの削減は見込
めず、更なる発展が必要である。温室効果ガスの削減に大きな効果を発揮するのが自然エネルギーを利
用した太陽光発電システムを住宅で利用することである。現状は、余剰電力を電力会社に売ることが出来
るため蓄電する必要はないが、今後も継続して電力を購入してくれる保障もなく、年々昼夜間の電力料
金差は縮まってきている。
当社の販売する戸建て住宅には太陽光発電システムが標準装備されており、今後は、太陽光発電シ
ステムと電力貯蔵用リチウムイオン電池を組み合わせた住宅用電力貯蔵システムに関しても基礎開発を
進めていきたい。その結果、余剰電力を電池に貯めることにより、昼間だけでなく夜間も自然エネルギー
によって住宅の電力を賄うことが出来るようになり、自然エネルギーだけで住生活を満足することが可能と
86
なる。これを実現するためには、大容量の電力貯蔵用電池が必要となってくるが、本研究成果で得られた
50Ah標準セルは、十分に期待できる存在である。
今後は自然エネルギーとともに、住宅分やにおける電力貯蔵用リチウムイオン電池の活用の幅も発展
していくものと考えられる。
6. 関連特許
基本特許(当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)について
なし
7. 研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
7.1 原著論文(査読付き)
該当なし
7.2 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
7.3 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
該当なし
7.4 特許出願
該当なし
7.5 受賞件数
該当なし
87
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(4)リチウムイオン電池セルの建築分野における標準化に関する研究
(分担研究者名:中村 慎、 所属機関名:株式会社 竹中工務店)
1)要旨
建築分野におけるリチウムイオン電池システムの利用用途を想定し、ニーズをまとめた。
参加各社からのニーズ、シーズをもとに、慶應義塾大学がまとめた共通セル品質要求仕様(標準セル仕
様)にもとづいた電力貯蔵用リチウムイオン標準セルを用いて大型電力貯蔵システムの実証試験を行い、
システムの評価を行った。大型電力貯蔵システムの仕様策定にあたっては、慶應義塾大学、エネサーブ、
新電元工業と共同で実施した。
実証試験は建築分野での用途を想定した単独運転及び電力ピークカット運転を行い、システムの挙動、
信頼性を確認し、当該用途での利用に充分な機能を有することが確認された。
2)目標と目標に対する結果
(目標)
建築分野におけるニーズ調査を行う。
また、サブテーマ(1)及び(6)の成果により開発された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルを有する大
型電力貯蔵システムを用いて、建築用途(単独運転、電力ピークカット運転モード)の実証評価試験を行
い、システムの運転挙動の検証、評価、課題の抽出を行う。
(結果)
建築分野におけるニーズ調査を行った。主な用途である「非常用・防災」「負荷平準化」「建設機械」
「風力発電における周期変動抑制」に関してニーズをまとめ、大型電力貯蔵システムの仕様策定に導い
た。
実証評価試験により、標準セル及び大型電力貯蔵システムの検証、評価を行った。その結果、本研究
で開発された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルは、建築用途での利用が可能であるとの結論を得た。
3) 研究方法
3.1 建築分野におけるニーズ調査
建築分野において現在他の蓄電池の導入がなされている用途及び今後蓄電池の導入が予定されて
いる用途に関して、文献調査や社内外のヒアリングを行うことでニーズ調査を行う。
3.2 試作システムの実証評価
建築分野のニーズでまとめた電池の仕様は、容量であれば 50kWh~数 MWh と多岐に亘るため、全て
のニーズに合せて個別に試作システムを作るのは困難である。本研究の成果として、セルを複数接続し
た組電池に保護装置を備えた電池システムのユニット化(以下、完備電池)を実現し、必要充放電容量に
応じた完備電池の並列接続方式を用いることで大型電池システムの各用途の対応をはかる。
今回の実証試験ではサブテーマ(1)の成果である共通セル品質要求仕様(標準セル仕様)にもとづい
た試作セルを用いて、大型電力貯蔵システム用完備電池の最小構成単位である 50kWh の大型電力貯
88
蔵システムを試作し、実証評価を行う。なお、本試作機は、サブテーマ(2)のエネサーブと共通仕様であ
るため、本報告では、その試作機の仕様策定に至る経緯や機能の詳細報告は省略する。
建築分野における実証評価試験項目としては、
「充放電効率試験」、
「非常用負荷の起動耐力試験」
、
「電力ピークカット運転実証評価試験」の 3 つの試験を行って、建築分野での実証評価とする。
各々の実験方法は以下の通りである。
3.2.1 充放電効率試験
(目的)
建築用途で用いられる負荷を用いて、電力ピークカット用途での「電力ピークカット運転モード」及び非
常用・防災用途での単独運転を実現する「自立運転」を行うことで、試作システムの信頼性を確認する。ま
た、充電時と放電時の交流側の電流・電圧を計測することで、試作機の充放電効率及び基本特性を把握
する。なお、「電力ピークカット運転モード」及び「自立運転」機能の詳細は、サブテーマ(2)の4.1に述
べる。
(負荷条件)
建築の防災用途で用いられる、排煙ファン、消火ポンプを電力負荷として用いる。また、負荷条件を調
整するためにヒーターを用いる。
表-1 負荷の仕様
負荷
出力
相 電圧
排煙ファン
5.5kW
3φ 200V
消火ポンプ
7.5kW
3φ 200V
ヒーター
10KW×3 台 = 30kW
3φ 200V
放電率として1C、0.1C、0.4C について試験を行う。
・1C 放電運転・・・排煙ファン、消火ポンプおよびヒーター(合計出力 43kW)を同時に運転させることで1C
の放電運転を再現する。
・0.1C 放電運転・・・排煙ファン(5.5kW)を運転することで、0.1C の放電運転を再現する。
・0.4C 放電運転・・・ヒーター20kW(出力 67%)を運転することで、0.4C の放電運転を再現する。
89
(計測装置)
計測装置の系統図を図-1に示す。電池に入出力される電流、電圧を交流側で計測した。
図-1 計測装置系統図
負荷装置、計測装置の写真を図 2~8 に示す。
図-2 排煙ファン
図-3 消化ポンプ
90
図-4 消火ポンプ用水槽
図-5 ヒーター
図-6 動力制御盤
図-7 計測システム
図-8 ヒーター制御サイリスタ盤
91
3.2.2 非常用負荷の起動耐力試験
(目的)
防災用途の非常用負荷への活用を想定し、実際の排煙ファンや消火ポンプを用いて、系統から切り離
した単独運転時における、動力負荷の起動時に発生するラッシュ電流に対して、試作システムが正常に
起動するか実証評価試験を行う。
(負荷条件)
以下の 5 つの負荷条件で起動試験を行う。
・排煙ファン単独起動
・消火ポンプ単独起動
・排煙ファンと消火ポンプの同時起動
・排煙ファン、消火ポンプ、ヒーターの同時起動
・ヒーター単独起動
(計測装置)
基本的な機器の構成は3.2.1 充放電効率試験と同様である。計測にはパワーアナライザ PZ4000
(横河電機)を用い、3 電圧 3 電流計法により実効値を求める。
3.2.3 電力ピークカット運転実証評価試験
(目的)
温暖化ガスの排出量が少ない原子力発電によるベース電力の有効利用方法として、夜間に蓄電を行
い、電力負荷の多い昼間に放電を行い契約電力量の削減を図ることを電力ピークカットと呼ぶ。この電力
ピークカットを行うことで契約電量の据え置きや電力各社割引料金メニューの活用の可能性があるため、
建築用途でのニーズとしては大きいものである。
本試験ではこの電力ピークカット運転を行い、予め設定された契約電力上限値に対する負荷追随性を始
めとする実証評価試験を行う。
(負荷条件)
試験体設置場所に隣接する事務所の電力負荷に、出力制御した試験体ヒーター負荷を加えて、
擬似的に年間で最も電力負荷の大きくなる夏季の事務所の負荷パターンを再現した。設定最大受電電
力は 80kW とする。1 日間の充放電サイクルを数回実施する。夏期事務所の負荷パターンは以下の通り。
・冷房による電力消費が増えるため、外気温が高くなる 13~14 時で負荷が最大化する。
・12~13 時は、照明の一斉消灯により一時的に負荷が減少する。
・充電時間:22:00-6:00
・放電時間:6:00-22:00
(計測装置)
計測装置は、3.2.1の充放電効率試験と同様である。
92
4) 研究結果
4.1 建築分野におけるニーズ調査
建設分野における現在の蓄電池導入事例ならびに今後蓄電池導入が予定されている事例に関して調
査し、建設分野でのリチウムイオン電池展開を想定したときの電池セルに要求される仕様、電池システム
に要求される仕様を把握することを実施した。
調査結果を以下に示す。
4.1.1 非常用・防災
オフィスビルやデータセンターでは非常用、防災用に非常用発電機や鉛蓄電池が導入されており、費
用、メンテナンス、設置場所の面からリチウムイオン電池システムのメリットが多く展開が比較的容易である
ことが予想される。また、製造分野への瞬低対策への対応も商品化価値を高めるには有効である。
4.1.2 電力ピークカット
安価な深夜電力を蓄えて昼間に活用する負荷平準化は、既に他の競合技術であるNaS電池(ナトリウ
ム硫黄電池)や蓄熱技術などが導入されており、競合製品価格や電力料金単価からコスト競争力が大き
く求められる。
4.1.3 建設機械
建設機械分野では、環境負荷低減やガソリン価格の高騰などの要因を受け、自走系建設機械の電動
化やハイブリッド化、あるいはタワークレーンの回生エネルギーの有効利用といった開発がメーカーによ
って行われている。求められるニーズはコストや耐久性、安全性の面が大きく、リチウムイオン電池導入に
向けて解決すべき課題は多いと考えられる。
4.1.4 風力発電の周期変動抑制
自然任せになる風力発電の発電量の平準化を蓄電池で行なう事で、系統への影響を減らすことと、利
用価値の向上が可能となる。将来性の高い市場であり、電力会社や経済産業省を中心に検討・試算が
行われている。短周期、長周期の変動抑制、補助金の有無などで条件が変わってくるが、原則的には大
容量でなおかつ安価なコストが求められている。
建築分野におけるリチウムイオン電池に求められる仕様、ニーズを表-2 に示す。
表-2 建築分野での仕様、ニーズ
用途
非常用・防災
負荷平準化
建設機械
風力発電併設※
出力
50kW~5000kW
50kW~500kW
48~600V
1MW~30MW
容量
500kWh~5000kWh
500kWh~5000kWh
1kWh~20kWh
7MWh~210MWh
寿命
10 年
10 年 3500 サイクル
5~10 年
20 年
価格
100 円/Wh
20 円/Wh
100 円/Wh
15 円/Wh
その他
瞬低対策
耐環境性、回生利用
(※ NEDO 二次電池等技術開発シンポジウム資料より)
93
4.2 試作システムの実証評価
4.2.1 充放電効率試験
1C、0.1C、0.4C での充放電運転試験を行った。
充放電効率は環境や状況によって変動はあるが、概ね 85%前後であった。
1C 充放電効率試験の結果を図-9 に示す。
図-9 1C 充放電効率試験
4.2.2 非常用負荷の起動耐力試験
起動の可否について表-3 に示す。いずれのケースも電池システムからの起動が確認できた。
表-3 起動可否結果
負荷パターン
定格出力
系統
電池
1. 排煙ファン単独起動
5.5kW
○
○
2. 消火ポンプ単独起動
7.5kW
○
○
3. 排煙ファンと消火ポンプの同時起動
13kW
○
○
43kW
○
○
30kW
○
○
4. 排煙ファン、消火ポンプ、
ヒーターの同時起動
5. ヒーター単独起動
4.2.3 電力ピークカット運転実証評価試験
10 時から負荷が設定最大受電電力 80kW を超えるため、放電が開始する。12 時から 13 時までの一斉
消灯時は設定最大受電電力を下回るため、放電が減少する。その後、13 時から 15 時ごろまで放電運転
94
により電力ピークカットが行われるが、15 時以降は蓄電容量が無くなり放電終了したため、負荷が設定最
大受電電力を上回っていても、放電がなされなかった。
充電は夜間の 22 時から 1 時の負荷の小さい時間帯に行われていた。充電電力と事務所の負荷を加え
ても、受電電力が設定最大受電電力を超えることはなかった。
負荷平準化運転試験の状況を図-10 に示す。
系統受電点電力, kW
放電電力, kW
充電電力, kW
設定最大受電電力, kW
SOCが設定以下になり
設定受電電力を超える。
120
120
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
6:00
6:30
7:00
7:30
8:00
8:30
9:00
9:30
10:00
10:30
11:00
11:30
12:00
12:30
13:00
13:30
14:00
14:30
15:00
15:30
16:00
16:30
17:00
17:30
18:00
18:30
19:00
19:30
20:00
20:30
21:00
21:30
22:00
22:30
23:00
23:30
0:00
0:30
1:00
1:30
2:00
2:30
3:00
3:30
4:00
4:30
5:00
5:30
100
2008/2/6
系統受電点電力, kW
放電電力, kW
2008/2/7
充電電力, kW
設定最大受電電力, kW
SOCが設定以下になり
設定受電電力を超える。
120
120
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
6:00
6:30
7:00
7:30
8:00
8:30
9:00
9:30
10:00
10:30
11:00
11:30
12:00
12:30
13:00
13:30
14:00
14:30
15:00
15:30
16:00
16:30
17:00
17:30
18:00
18:30
19:00
19:30
20:00
20:30
21:00
21:30
22:00
22:30
23:00
23:30
0:00
0:30
1:00
1:30
2:00
2:30
3:00
3:30
4:00
4:30
5:00
5:30
100
2008/2/7
2008/2/8
※後方30分平均電力
図-10 電力ピークカット運転試験
5) 考察・今後の発展等
5.1 考察
今回、本課題で試作した大型電力貯蔵システムは非常用・防災と負荷平準化(電力ピークカット含む)
の両用途での利用を想定した試作システムとなっており、単独運転での非常用動力負荷の起動時の挙
動と電力ピークカット運転に関しては、求められる性能を十分に満たす結果となった。このフィールドでの
評価の結果、非常用・防災と電力ピークカットの用途に関しては、リチウムイオン電池に求められている仕
様が似通っており、本研究で開発された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルは、建築用途での利用が可
能であるとの結論を得た。
建築分野全体に言えることとして、コストに対する要求が非常に厳しいため、標準化によるセルの大量
生産とそれに伴うコストダウンは建築分野向けの普及においては不可欠であると考える。
5.2 今後の発展等
建設機械分野については、自走式建設機械は自動車等の移動体分野の要求にプラスして、作業時の
出力も求められる仕様となっており、標準化に当たってはこれらの仕様をカバーする必要がある。また運
用環境や振動により電池に悪影響を与えることが予想されるため、高い耐久性が必要とされる。タワーク
95
レーンや揚重機器については一部キャパシタなどによる回生エネルギーの有効活用が始まっており、こ
れらへの対応は今後の課題である。
風力発電の周期変動抑制は、今後の新エネルギー発電の普及を視野に入れた場合、将来大きく発展
する市場であるが、規模、コスト要求は現状のレベルでは対応は難しく、5 年後 10 年後の市場であると考
える。同じ新エネルギー発電である太陽電池の活用方法として電力貯蔵が考えられるが、建築分野では
上記電力ピークカット用途と同一の仕様で対応が可能である。
今後は、今回試作した大型蓄電システムを複数台並列接続し、長時間放電への対応や大出力への対
応といった、より実用化へ向けた実証試験の機会が期待される。
6)関連特許
特になし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
7.1 原著論文(査読付き)
該当なし
7.2 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
7.3 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
該当なし
7.4. 特許出願
96
該当なし
7.5. 受賞件数
該当なし
97
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(5)リチウムイオン電池セルの通信キャリア分野における標準化に関する研究
(分担研究者名:杉村 雅彦、 所属機関名:KDDI 株式会社)
1)要旨
現在、携帯電話の基地局は電話機性能向上に伴う高機能化、加入者の増加及び災害時の信頼性確
保などの観点から、将来も増加が見込まれる。また、これら基地局が停電になった場合の非常用バックア
ップ電池についても同様である。
しかしながら、通信分野での電池需要は、自動車などの分野と比較すると小さいことから、初期におい
ては自動車等汎用用途に製造された電池を使うことでコストが抑えられるため、独自の仕様を決めるので
はなく、大量生産される電池の適応性検証を行う。また、携帯電話基地局の通信分野におけるリチウムイ
オン電池の利用実績と技術的な蓄積が少ないことからも、独自の仕様を定めず他の分野で大量に生産さ
れる電池を検証することが得策である。
以上から、本研究においてはサブテーマ(1)にて開発された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルを用
い、携帯電話基地局に適応する非常用バックアップ電源システムの構築と評価を実施した。
その結果、携帯電話基地局の非常時バックアップ電源用途として、鉛蓄電池からリチウムイオン電池へ
の置換が可能なことが確認された。
2)目標と目標に対する結果
2.1 鉛電池の置換と安全性に配慮したシステム設計
(目標)
従来から携帯電話基地局の非常用バックアップ電源に用いられてきた鉛電池からの置換として、リチウ
ムイオン電池を利用するための研究を行う。また、安全性については鉛電池と同等以上の信頼性を確保
することとする。
更に、従来の鉛蓄電池用の整流装置(充電器)の流用等、現在使用している電源機器に大幅な変更
を加えることなくリチウムイオン電池への置換を可能にすることも重要である。
(結果)
電池モジュールを表-1 の通り構成することで鉛蓄電池と同等の性能が確保でき、リチウムイオン電池
への置換が可能となった。
過電圧、不足電圧及び、異常高温状態で回路を遮断する保護回路を複数設けることで、十分な安全
性を確保した。
鉛蓄電池の充電電圧と、リチウムイオン電池の充電電圧の差を小さくすることで、充電器は電圧調整範
囲内の設定変更のみで対応が可能となった。
表-1 電池モジュールの構成
充電電圧
鉛蓄電池
リチウムイオン電池
28.99V (13 セル直列)
28.7V (7 セル直列)
98
2.2 小型軽量化と保守性の向上
(目標)
一般的に、リチウムイオン電池の鉛蓄電池に対する特徴としては、同容量で比較した場合に小型・軽
量化が図れることである。これを携帯電話基地局向けにシステム設計を行った時に、その効果を最大とす
る研究を行う。
(結果)
完成したリチウムイオン電池システムの質量と大きさは、既存の鉛蓄電システムと比較して表-2 の通り
となり、質量についてはその効果が確認できた。大きさについては鉛蓄電システムよりも大きくなったが、
これは評価用システムで各種測定器類を取り付ける場所が必要なためである。量産設計時には鉛蓄電シ
ステムと同等の大きさまで小型化が可能なことを確認した。
表-2 鉛蓄電システムとリチウムイオン電池システムの比較
鉛蓄電システム
リチウムイオン電池
(2000Ah)
システム (1750Ah)
質量
1860kg
885kg
大きさ
1300×550×1600mm
1200×700×1750mm
3
1.14m
鉛蓄電システム比
47.6%
3
1.47m
129%
但し、量産設計時には
113%程度まで小型設計
可能
2.3 電気的特性評価
(目標)
携帯電話基地局で現在使用している鉛蓄電池の置換を検討する場合、リチウムイオン電池は下記電
気的特性について同等以上の特性をフィールド上で確認出来ることが必要である。このため、評価は実
際の携帯電話基地局を模した設備を構築した上で、必要な電気的特性の研究を行う。
【要求される電気的特性】
多並列で充放電する場合に、各電池モジュールが均等に充放電行われること。
電池放電後の充電(回復充電)は、次回放電に備え 48 時間以内に満充電が可能なこと。
負荷設備の消費電流の変動に対し、安定した電力を供給できること。
(結果)
最大 35 並列の電池モジュールに対し、各モジュールが均等に充放電されることが確認された。
充電時間は約 17 時間となった。
負荷電流の変動に対し、安定した電圧を保ち負荷設備に電力を供給することが確認された。
充電器のシステム電圧(充電電圧)を鉛電池システムの電圧より約 0.2V 下げることにより、充電器をリチ
ウムイオン電池システムに対応させることが可能であった。また、安全装置についても電池システム側で
構成することで、既存電源設備への改造を不要とすることができた。
99
3)研究方法
3.1 鉛蓄電池の置換と安全性に配慮したシステム設計
現在使用している鉛電池システムの設計基準から、鉛電池同等の安全性を確保した上でリチウムイオ
ン電池に求められる電池システムを検討する。また、これに基づいた設備を製作し、実機にて確認を行
う。
3.2 小型軽量化と保守性の向上
上記「3.1」項で策定したリチウムイオン電池システムの仕様をもとに、電池を収容するラックの設計を
行う。また、これらの製作を行い、質量及び大きさについて確認し評価を行う。
製作した設備について実際の環境に近い状態の下に設置し、その過程で施工性や保守性について
鉛電池と比較し評価を行う。
3.3 電気的特性評価
3.3.1 評価設備
携帯電話基地局と同一仕様の収容箱(シェルター)に、研究対象のリチウムイオン電池システムを収容
し、無線機などの実負荷による充放電実験を実施し電池容量を測定する。
既に収容箱には、直流電源装置(1台)、無線機(4台)が設置されており、研究対象のリチウムイオン電
池システムを設置することで、充放電試験が実施できる環境となっている。
整流装置(充電器)は、商用 AC200V から無線機の動作電源 DC29V を給電する。電源容量は 600A
で 100A ユニットを 6 台実装し1台は予備としている。負荷設備としては、無線機 4 台(合計負荷電流約
380A)、収容箱の温度上昇時に間欠動作する冷却用のファン(負荷電流約 20A)がある。
3.3.2 電源構成と停電時の動作
整流装置(充電器)は、商用 AC200V で給電され、無線機とリチウムイオン電池に直流電源を供給する。
商用電源の停電が発生すると充電器が停止し、リチウムイオン電池から無線機に給電される。商用電源
から再び給電されると、整流装置は無線機への給電と、放電したリチウムイオン電池を充電する。
電池容量の測定方法は、模擬停電を発生させリチウムイオン電池から無線機に給電する電流値や電
圧値を測定した。電流値が一定であれば、電流値と時間の積を計算することで電池容量が求められるが、
冷却用ファンの動作停止が繰り返され、電流値が不定期に変化するので電流値を1秒間隔で測定し、
1/3600 で除算した積算値を求める方法とした。
100
4)研究結果
冷却ファン
無線機
1
無線機
2
無線機
4
無線機
3
VT:電圧センサー
CT:電流センサー
VT CT
整流装置
(充電器)
商用AC200V
DC29V
リチウム
イオン電池
図-1 携帯電話基地局と同一仕様の収容箱(シ ェルター)
リチウムイオン電池は、鉛蓄電池からの置き換えの観点で、設置スペース制約回避と電気的互換性を
保つ必要がある。設置スペースは、小型軽量に期待できるので制約を受け難いが、選定したリチウムイオ
ン電池は横置きに設置することが出来ない構造となっている。これは、安全弁を上向きに設置する制約か
らである。電気的特性も、置き換えを条件とすると、現在の基地局の電源構成や、無線機の許容電圧範
囲から電圧値を大幅に変更することが出来ない。よって、現在のシステム電圧 28.99V に近い設計が必要
である。
4.1 鉛蓄電池の置換と安全性に配慮したシステム設計
4.1.1 電池容量
鉛蓄電池においては一般に、一定の負荷電流を必要な時間取り出すために要求される電池の容量は、
下記の計算式により求められる。
電池容量(Ah)=負荷電流(A)×K 値/保守率
K 値は容量換算時間を係数で表したものであり、環境温度、放電終止電圧、放電時間により決定。
環境温度 25℃、放電終止電圧 1.8V、放電時間 3 時間の場合、K=4.1 である。
保守率は経年による電池容量の低下を考慮し決定される。
携帯電話基地局に使用される鉛電池の容量算出式の一例を下記に示す。無線機等負荷電流を 370A
とすると、3 時間分の商用停電バックアップに必要な電池容量は以下の通りである。
電池容量(Ah)=370(A)×4.1/0.8=1896(Ah)
と求まり、これを満たす最小の電池単位は、1000Ah×2 並列=2000Ah となる。
これをリチウムイオン電池に置換する場合、常温で大電流放電による容量低下が小さいことから、K 値
はほぼ放電時間と同じと仮定し、下記計算により電池容量を求めた。
101
必要電池容量(Ah)=負荷電流(A)×K 値(=保持時間(H))/保守率=370A×3/0.8=1387Ah
これを満たす最小の電池構成は、単セルあたりの容量が 50Ah の電池を使用するため、
50Ah×28 並列=1400Ah となる。
4.1.2 電池モジュールの設計
現在、主な負荷設備である無線機に必要な直流電圧 29V は、鉛電池 13 セルを直列にし、その充電電
圧 28.99V で供給している。これをリチウムイオン電池で同等の電圧にするには、7 セルを直列にしたモジ
ュールを構成し、浮動充電電圧 28.7V とするのが最も近く、充電器の充電電圧変更で容易に対応可能な
差である。(表-3 参照)
表-3 電池セル電圧諸元比較
項目
鉛電池
リチウムイオン電池
定格電圧(V)
2.0
3.8
充電電圧(V)
2.23
4.1
システム電圧(V)
28.99(13 直列)
28.7(7 直列)
6 セルの直列の検討も実施したが、放電時に電池残量を多く残したまま無線機などの最低動作電圧に早
く達するため、7 直列とした。
これをケースに納めたモジュールを製作した。(図-2 参照)
電池モジュール前面
側面
背面
図-2 電池モジュール外観
電池モジュールは安全回路を装備している。安全回路は、電圧センサー、温度センサーがあり、電圧セ
ンサーは異常値を検出するとMCCBで電流を遮断し、外部との接続を断つ機能がある。温度センサーは
-10℃~+65℃、電圧は 7 個のセル電圧を個々にセンシングし 2.75V~4.3V の範囲を逸脱した場合に動
作する。
4.1.3 電池ラックの設計
電池モジュールを収容する棚を電池ラックと呼ぶ。
ラック内には、電池モジュールを並列に接続するための Bus バー(導体)があり、電池モジュールの放
電が均一となるよう等長配線を考慮し配置されている。
また、主回路に MC(electroMagnetic Contact:電磁接触器)を設置し、外部との接続を断つ機能を有し
102
た。
MC は電池安全回路の一つであり、リチウムイオン電池の過充電と過放電を防ぐために具備している。
過放電に陥ると充電しても性能の維持は保てなくなり、過充電は電池内部の電解液が電気分解し、ガス
が発生し電池セルの内部圧力が上昇し安全弁から電解液を放出する。これらを防ぐため、電圧が 24V か
ら 29V の範囲を逸脱した場合に異常と判断し、外部との接続を断つ機能を有した。また電圧範囲が正常
に戻ると外部との接続を元に戻す機能も持たせた。MCCB は一般的にはヒューズの役割を果たし、過電
流や電池内部の安全回路において異常を検出するとトリップ(断)することでモジュールを切り離す。
4.2 小型軽量化と保守性の向上
4.2.1 質量・大きさ
「4.1」項により求められた電池を収容する電池モジュール及び収納ラックの設計を行った。
電池は 7 セル直列をひとつのモジュールとし、これを収容するラックを製作した。 (図-3 参照)
設計上、ラックは 28 組の電池モジュールを並列接続し収容可能であれば十分だが、今回は電気的特
性評価の研究上、余裕を持たせ 35 並列まで収容可能な構造とした。
計測端子
-
+
MC
電池
モジ ュール
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
電池ラック前面写真
電池ラック実装図
図-3 電池ラック外観
同等の電気エネルギーを蓄える鉛蓄電池とリチウムイオン電池の大きさ、重さを比較すると、理論的に
質量で 1/3、大きさで 1/2 となり小型軽量化に期待できる。これはセル単体の比較であり、リチウムイオン
電池には、収容するラックや、リチウムイオン電池の安全性を担保する安全回路の質量や大きさを加える
必要がある。
本件研究では鉛蓄電池と比較し半減を目指した。完成した 1750Ah リチウムイオン電池システムは、
830kg であり、ラック取り付けベース約 55kg を含め 885kg、電池ラックの大きさは 1200×700×1750mm、
1.47m3 となった。
103
4.2.2 鉛蓄電システムとの比較
基地局に設置している鉛蓄電システムは、2 つのラックから構成され、並列接続し規定の容量を満たし
ている。ラック内には、1 個 60kg の電池セルを 13 個収容し、各電池セルの電気的接続は bus バーを用い
て直列に接続されている。1 個あたりの電池容量は、1000Ah であり、これを 2 並列に接続しているため、
全体では 2000Ah となる。
(参考)2000Ah 鉛蓄電システム
鉛蓄電池セル
図-4 鉛蓄電システムおよびセルの外観
全体質量の内訳は、電池セル 60kg×26 個、全体では 1560kg、bus バーと収容ラックで約 300kg であり
合計質量は 1860kgである。電池ラックの大きさは 1300×550×1600mm、1.14m3。
今回製作したリチウムイオン電池システムと鉛電池システムと比較すると、質量で 47.6%、体積で 129%で
あった。
質量低減の目標は達成したが、体積については増加した。これは評価のために各種測定器の設置ス
ペース、頻繁な電池交換のための十分な作業スペース等を考慮したためである。電池モジュール 35 個
分の体積は 0.51m3 程度であることから、MC 等の安全回路を考慮しても 1200×650×1650mm、1.29m3 程
度まで小型化することは十分可能であることが今回の製作で確認された。その場合の鉛蓄電池に対する
体積比は約 113%となる。
4.2.3 工事施工・保守性
本設備の設置工事に立会い、工事業者から設置工事の施工性のヒアリングを行った。鉛蓄電池セルの
設置には 3 名の工事要員を必要としたが、リチウムイオン電池の場合は 1 名で取り扱えるので大幅に作業
効率が上がったとのコメントであった。
保守については、研究者が電池モジュール交換などを実施した。従来の鉛蓄電池のセル交換は質量
の問題から、工事業者に依頼していたが、本リチウムイオン電池はモジュールあたりの質量が 17kg と軽く、
電池モジュールの交換は容易であった。
交換操作は、MCCB を OFF に倒し前面の 2 つのボルトを緩め、電池モジュールを引き抜く。取り付け
は、電池モジュールを差込み、ボルトを締めて、MCCB を ON とする。回路端子はプラグイン構造とし、
104
モジュール差込みと同時に電池ラックに接続される。
また、並列構造であるので、代替電池の用意も不要である。
4.3 電気的特性評価
4.3.1 実験① 電池容量の測定(35 並列接続、放電終止電圧 24V)
電池容量の測定結果は 1625Ah であり、定格 1750Ah(50Ah×35)に対して 125Ah 不足した。
これは、電池ラックの放電終止電圧(MC 設定値)を 24V に設定してあり、7 直列の単セル電圧にすると
約 3.4V となり、セルの放電終止電圧 2.75V まで 0.65V の余裕があり電池内部にエネルギーが残されてい
ると考えられる。
35並列放電(MC24V)
積算電流
電圧
30.00
1800
1625Ah
29.00
1600
28.00
1400
27.00
26.00
1000
25.00
800
24.00
600
23.00
400
22.00
200
0
0:00
21.00
0:20
0:40
1:00
1:20
1:40
2:00
2:20
時間(時:分)
2:40
3:00
図-5 電池容量の測定
4.3.2 実験② 並列放電特性の確認
実験①について、各モジュールの放電電流を測定した。
105
3:20
3:40
4:00
20.00
4:20
放電終了4:34
電圧(V)
積算電流(Ah)
1200
総電流
総電圧
モジュール電流
(ほぼ均等に放電されている)
図-6 各モジュールの放電電流
グラフより、各モジュールがほぼ均等に放電されており、多並列接続での放電に問題のないことが確認
された。放電電流が鋸状であるのは、収容箱内の温度上昇により、冷却用ファンが間欠動作したためで
あるが、電流の変動に対して安定した電圧を保っていることも同時に確認された。
4.3.3 実験③ 充電時間の測定
実験①の放電後の充電時間を測定した。充電開始後約 17 時間で電池に流れ込む電流値が約 5Aに
安定したため充電完了と判断した。満充電には、放電量の約 105%の充電量が必要であった。
①実験の充電
充電電流
充電量
電圧
32.00
100% 8:41
105% 16:49
充電量=積算充電量/放電量 ×100
(%)
100.00
30.00
50.00
28.65V -32A
28.7V -5A
28.00
-50.00
26.00
-100.00
24.00
-150.00
-200.00
22.00
-250.00
20.00
-300.00
0:0
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10 0
:
11 00
:
12 00
:
13 00
:
14 00
:
15 00
:
16 00
:
17 00
:
18 00
:
19 00
:
20 00
:
21 00
:
22 00
:
23 00
:
24 00
:
25 00
:
26 00
:00
27
:
28 00
:
29 00
:
30 00
:
31 00
:
32 00
:
33 00
:
34 00
:
35 00
:
36 00
:
37 00
:
38 00
:
39 00
:
40 00
:00
充電電流(A)
0.00
時間(時:分)
図-7 充電時間の測定
106
電圧(V)
充電量(%)
150.00
4.3.4 実験④ 電池容量の測定(35 並列接続、放電終止電圧 22V)
電池容量の測定結果は 1817Ah であった。電池定格 1750Ah(50Ah×35)に対して 117Ah 増の結果と
なった。
しかし放電試験中、24V を下回った時に No.32 及び No3 電池モジュールの前面 MCCB がトリップした。
放電終止電圧(MC 設定値)を低くすると電池容量は増加するが、セル電圧が不揃いなモジュールが
存在した場合、モジュールの MCCB が先にトリップしてしまうことが判明した。
35並列放電(MC22V)
積算電流
電圧
30.00
2000
1817Ah
29.00
1600
28.00
1400
27.00
1200
26.00
1000
25.00
800
24.00
600
23.00
400
22.00
200
21.00
0
0:00
電圧(V)
積算電流(Ah)
1800
20.00
0:20
0:40
1:00
1:20
1:40
2:00
2:20
2:40
時間(時:分)
3:00
3:20
3:40
4:00
4:20
4:40
5:00
放電終了5:06
図-8 35 並列モジュールの放電試験
4.3.5 実験⑤ 必要電池容量の確認
実験④により MC 設定値の最低値は 24V と決定された。この場合に鉛蓄電池からの置換に必要なリチ
ウムイオン電池の容量を求める。負荷 370A、50Ah モジュール×26 並列(1300Ah)の放電試験を実施し
た。
35並列放電(MC22V)
積算電流
電圧
30.00
2000
1817Ah
29.00
1600
28.00
1400
27.00
1200
26.00
1000
25.00
800
24.00
600
23.00
400
22.00
200
21.00
0
0:00
電圧(V)
積算電流(Ah)
1800
20.00
0:20
0:40
1:00
1:20
1:40
2:00
2:20
2:40
時間(時:分)
3:00
3:20
3:40
4:00
図-9 26 並列モジュールの放電試験
107
4:20
4:40
5:00
放電終了5:06
グラフから、電池容量を 1300Ah(26 並列)にすれば MC 動作電圧を 24V としても 3 時間の放電が確保
できることが確認できた。
これより必要電池容量は下記計算により求められる。
運用時電池容量(Ah)=1300(Ah)/0.8(保守率)=1625(Ah)
これを満たす最小の電池構成は、50Ah×33 並列=1650Ah となり、鉛蓄電システム 2000Ah と同等の能
力を持つリチウムイオン電池システムは 1650Ah(33 並列)であることが求められた。
5)考察・今後の発展等
5.1 考察
本研究により、携帯電話基地局の非常時バックアップ電源用途として、鉛蓄電システムからリチウムイ
オン電池システムへの置換が可能なことが確認された。
今後は下記に示す、運用面を中心とする鉛電池システムとの比較を継続して行い、リチウムイオン電池
システムが普及段階となる時にその特徴を最大限に活用できるよう研究を続ける必要がある。
5.2 今後の発展等
今後、以下の点を検討する必要がある。
電池モジュールの障害・増設時の着脱手法
他モジュールからの電流の回り込みを調節する。
電池劣化診断手法
取り外しを行わず、運用状態にて劣化を診断する。
多並列・多直列接続
さらに大容量・高電圧電源を構成する場合に必要。
電池設置、増設時の安全・確実な工事手法
より安全な電気工事を実現するために、電池モジュール、電池ラックの設計見直し。
6) 関連特許
該当なし
108
7) 研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
109
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(6)リチウムイオン電池の電池システムに関する研究
(分担研究者名: 芳賀 浩之、 所属機関名: 新電元工業株式会社)
1)要旨
本研究では、サブテーマ(1)で開発された電力貯蔵用リチウムイオン標準セルの実用性検証のため、
大和ハウス工業、エネサーブ、竹中工務店にて実施されるフィールド評価用の電力貯蔵システムを開発
することが目的である。
フィールド評価の参画機関とともに、各用途から電力貯蔵システムの製作仕様を策定し、その仕様をも
とに、住宅用電力貯蔵システムと大型電力貯蔵システムの開発を行った。
大和ハウス工業向けには、住宅用電力貯蔵システムとして、2kVAの単相3線式負荷平準兼非常用電
力貯蔵システムを開発した。
エネサーブ、竹中工務店向けには、電力供給分野及び建築分野に共通で利用可能なUPS機能を有
する50kVA三相3線式の負荷平準兼非常用電力貯蔵システムを開発した。
各社での、フィールド試験の結果、設計仕様通りの動作が確認され、電力貯蔵用リチウムイオン標準セ
ルに適した電力システムの開発を実現し、所期の目的を達した。
2)目標と目標に対する結果
(目標)
フィールド評価の参画機関とともに、各用途から電力貯蔵システムの製作仕様を策定し、その仕様をも
とに、電力貯蔵用リチウムイオン標準セルを用いた電力貯蔵システムを開発する。
(結果)
各参画機関の仕様をもとに、単相 3 線式 2kVA の住宅用負荷平準兼非常用電力貯蔵システムと UPS
機能を有する三相 3 線式 50kVA の負荷平準兼非常用電力貯蔵システムの 2 機種を開発した。
本開発過程において、これらのシステム構築に必要とされる系統連系制御技術、双方向電力変換技術、
リチウムイオン電池の充放電制御技術、リチウムイオン電池の保護技術及び、電力貯蔵の目的とされる電
力負荷平準化、電力ピークカット、カレンダー運転、非常用電源機能など実現するための制御技術を開
発した。
フィールド試験の結果、設計仕様通りの動作が確認され、電力貯蔵用リチウムイオン標準セルに適した
電力システムの開発を実現した。
3) 研究方法
本研究は住宅分野と電力供給分野及び建築分野のニーズを満足するための電力貯蔵システムを開発
することを目的に、ニーズ調査、仕様策定、技術課題抽出、課題研究、詳細設計、試作機製造、性能検
証、フィールド試験、性能改善のステップを踏んで研究開発を行った。
3.1 リチウムイオン電池を電力貯蔵システムに適用するための技術的課題の検証
リチウムイオン電池を電力貯蔵システムに適用するためのリチウムイオン電池固有の技術的課題を調査
し、電力貯蔵システムに適用するための手法を検討した。
110
3.2 住宅用電力貯蔵システムの開発
大和ハウス工業によるアンケート調査等の結果をもとにした住宅用電力貯蔵システムの要求項目(サブ
テーマ(X)の表-1)から、系統連系の制御、双方向電力変換技術、リチウムイオン電池の充放電制御技
術、リチウムイオン電池の保護技術及び、電力貯蔵の目的とされる電力負荷平準化、非常用電源機能な
ど実現するための電力制御技術等の技術課題を抽出し、シミュレーション技術を利用して、技術課題を
研究し、解決方策を立てた。
それをもとに製作仕様書を策定し、電気、機構、ソフトウェアの設計を行い、試作機の製作を行った。
試作機を用いて不具合と問題点を洗い出し、ハードウェアとソフトウェアの修正をしながら、電力貯蔵シ
ステムの基本性能を検証した。実使用上の検証のため、大和ハウス工業にてフィールド試験を行い、フィ
ールド試験で発生した問題点、新たな要望をフィードバックし、電力貯蔵システムの改善を行った。
3.3 大型電力貯蔵システムの開発
エネサーブ及び竹中工務店とともに、電力供給分野及び建築分野の用途や電気的要求項目を確認し、
製作仕様書を策定した。
それをもとに、住宅用電力貯蔵システムと同様に各技術課題を抽出し、シミュレーション技術を利用し
て、技術課題を研究し、解決方策を立てた。
仕様書にもとづき、電気、機構、ソフトウェアの設計を行い、試作機の製作を行った。
試作機を用いて不具合と問題点を洗い出し、ハードウェアとソフトウェアの修正をしながら、電力貯蔵シ
ステムの基本性能を検証した。実使用上の検証のため、エネサーブにてフィールド試験を行い、フィール
ド試験で発生した問題点、新たな要望をフィードバックし、電力貯蔵システムの改善を行った。
4)研究結果
4.1 リチウムイオン電池を電力貯蔵システムに適用するための技術的課題の検証
リチウムイオン電池は他の二次蓄電池と比べてエネルギー密度が高い、大電流充放電可能、長寿命
などの特徴があるが、安定的に安全に使うためにはセル電圧や温度の監視が必須となる。このため、電
力貯蔵システムの構築にあたっては、電源機器を制御する上位制御装置がリチウムイオン電池の状態を
監視しながら使用する必要がある。
リチウムイオン電池の最小単位である単電池はセルと呼ばれ、セルは 4.1V~2.75V 程度の範囲で動作
する。セル電圧がある閾値を超えると(一般的に 4.3V 程度)、電解液が分解されリチウムが析出し、一方
で、過放電(1V 以下)になると負極の銅が析出し、破裂、発火につながる危険性がある。また、高温になる
とセパレータが収縮し、それによって活物質が熱分解され、破裂、発火につながる危険性がある。このた
め、リチウムイオン電池には、セルの電圧と温度を監視する計測装置(セルモニタリングユニット、以下、
CMU)の搭載が必須となる。実使用では、各 CMU を統括し、データを上位制御装置とやりとりするための
電池管理装置(バッテリーマネジメントユニット、以下、BMU)によって電池は管理され、電池の充電及び直
流を交流に変換するための双方向インバータ(パワーコンディショナー(以下、PCS))によって、リチウムイ
オン電池は最適な状態に保たれる。
本研究においても、BMU と PCS 間を自動車用通信規格として標準化されている CAN(Controller Area
Network) により接続し、本研究に開発した電力貯蔵用リチウムイオン標準セルを管理する方式とした。
111
4.2 住宅用電力貯蔵システムの開発
本システムの基本的動作は、夜間の軽負荷時に比較的割安な電力をリチウムイオン電池に貯蔵し、そ
の貯蔵した電力を、昼間の需用電力のピーク時間帯付近に放電することで負荷電力の平準化及び最大
需用電力の低減を実現した。また、電力系統に停電が発生した場合には、自動的に系統連系を解列し、
自立運転に切替え、あらかじめ設定した重要負荷に電力を供給する緊急用電源としても機能する。
4.2.1 住宅用電力貯蔵システムの構成と基本動作
分電盤
電力線
信号線
双方向インバータ
受電電流信号
電池切替装置
RL1
MCCB
1Φ3W
100V/200V
ELB
DC/AC
変換部
CT
a
b
RL2
通信信号
Li-ion
電池
BMU
BMU
BMU
システム
コントローラ
一般負荷
Li-ion
電池
重要負荷
Li-ion
電池
制御部
図- 1 住宅用電力システムの構成図
住宅用電力貯蔵システムの構成を図-1 に示す。本システムは系統に接続する機能と宅内負荷へ分岐
させる機能を有する宅内分電盤、双方向電力変換と系統連系制御系統保護機能を有する双方向インバ
ータ、システム制御するシステムコントローラ、電池を切り替えるための切り替え装置と 3 台のリチウムイオ
ン完備電池で構成した。
双方向インバータは、昼間の電力消費ピーク時には蓄電池の直流電力を交流電力に変換して、系統
に連系し負荷に供給するように動作し、系統電源から摂取する電力量を抑制する。夜間には系統電源の
交流電力を直流電力に変換する充電器として動作し、リチウムイオン電池に充電を行う。本システムは単
相 3 線式 100V/200V の低圧の配電線に連系し、受電点(分電盤内)に漏電遮断機(以下、ELB)を具備し、
それと直列に過電流保護機能付きの配線用遮断機(以下、MCCB)と機械的な開閉箇所(RL1)を接続し
た。RL2 は系統が停電した際に重要負荷に電力を供給するためのバイパス用開閉器で、停電の際は、
RL1 が開放し、RL2 の接点が a 側から b 側に切り替わり、双方向インバータが自立運転に切り替わる。自
立運転時は停電前の系統周波数で CVCF(定電圧定周波数)電源として動作する。
RL1 は「電力品質確保に係る系統連系技術用件ガイドライン」に準拠した機能を具備しており、系統事
故や単独運転検出時に検出して制御機能により開放される。これらによって、あらゆる系統電源の事故か
らシステムを安全に切り離すことができる。
4.2.2 電力制御モード
住宅用電力貯蔵システムは、電力負荷平準化、手動充電、自立運転の 3 種類の動作モードがある。各
モードはシステムコントローラにて設定される。ここでそれぞれの動作モードを説明する。
112
(電力負荷平準化(自動運転))
電力負荷平準化の充放電パターンを図-2 に示す。双方向インバータは設定された充電時間帯と放
電時間帯でリチウムイオン電池への充放電を繰り返し、夜間の電力を電池に蓄えて、昼間にその貯蓄し
たエネルギーを消費する。
電池放電時間帯
負荷電力
電池充電時間帯
放電電力
t1
t2
2kW
2kW
2kW
0
1
2
3
充電電力
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
充電電力
2kW
図-2 住宅用電力負荷平準化の充放電パターン
「電力品質確保に係る系統連系技術用件ガイドライン」では、発電設備から系統側に逆潮流が流れな
いように制御しなければならないと定められている。そのため、負荷電力が PCS の最大容量 2kW 以下の
場合(図 2 の t1 期間)、インバータが負荷電力を追従して放電電力を制御する。また、負荷電力が 2kW
以上の場合(図 2 の t2 期間)、インバータが最大 2kW で電池の放電を行う。
充電時間帯は、最大 2kW で電池に充電する。但し、監視された受電電力が契約電力を上回った場合
は充電電力を減らし、分電盤内の保護ブレーカが作動しないように最大契約電力追従制御を行う。
(手動充電)
手動充電モードは電力負荷平準化の自動充放電動作モードで決めた充電時間帯以外でもユーザの
設定により強制的に電池に充電できるように設けた動作モードである。それは計画的な停電などに対し予
め時間帯の制約を受けずに電力を蓄電池に貯めておく目的である。
(自立運転)
系統の停電が発生した場合、インバータを停止するとともに系統連系用継電器(図 1 の RL1)を開放し
系統から解列して、バイパス用継電器(図 1 の RL2)を重要負荷側に切り替わる。「電力品質確保に係る
系統連系技術用件ガイドライン」で定められた投入阻止遅延時間後にインバータが自立運転動作する。
出力周波数は停電する前の系統周波数と同じである。
災害などによる停電においても、本システムが停止状態から蓄電池の投入により自立運転を開始する
こともできる。その場合も図 2 の RL2 が重要負荷側に切り替え、インバータが重要負荷に電力を供給する。
出力周波数は前回連系した系統の周波数と同じである。
113
4.2.3 電池充放電の電力双方向変換制御と系統保護制御
インバータの制御は、DSP マイコンを採用し、実行プログラムを変えることによって、放電及び充電の制
御及び系統連系、系統保護制御など全ての制御を 1 つのマイコンで行っている。インバータの系統連系
制御ブロック図を図-3 に示す。インバータ電流指令は系統電圧と同じ位相の有効電流と 90°進む無効
電流の合成で生成する。系統連系充放電時、住宅内の受電電力及び電池の充放電電流を検出し、充
放電電流の有効成分の振幅制御することより電力の双方向制御を実現する。系統連系放電時、宅内負
荷が軽い場合系統の受電電力が逆潮流にならないように有効電流振幅制御し、インバータの出力有効
電力を負荷電力に追従させる。宅内負荷が多い場合インバータ出力電力は 2kVA で制限し、足りない電
力が系統から供給を受ける。系統連系充電時、電流の流れる方向が放電時と逆なので、有効電流の符
号を逆にすることで充電動作になる。宅内負荷が軽い場合充電電力が最大 2kVA で電池に充電するが、
宅内負荷が多い場合、充電電力が予め設定した契約電力を超えないように充電電流振幅を減らし、受電
電力が契約電力ラインに維持するように動作する。
系統電圧の上昇抑制及び能動的単独運転検出機能の制御はインバータの無効電流振幅の調整で制
御を行う。前述のように、本システムは逆潮流禁止のため、逆潮流による系統電圧の上昇抑制制御をしな
くても良い。しかし、近い将来系統連系分散型電源の普及により多様多種の住宅用分散型電源の集中
給電により系統電圧が上昇することが予想されるため、技術検証の位置づけとして本システムに系統電
圧上昇抑制制御機能を標準仕様とした。系統電圧上昇抑制は系統に流れる進み無効電力を増やすこと
で行う。無効電流が増やすことより力率が悪化する。力率が 0.85 まで系統電圧が更に上昇した場合、有
効電力出力も低減させ系統電圧上昇を抑制する。
単相3線
100V/200V
CT2
MCCB
RL1
CT3
CT1
リチウム
イオン電池
+
一
般
負
荷
重
要
負
荷
PT
PWM変調
PWM変調
RL2
コンバータ制御
+
電圧検出
電流検出
PLL
+90°
有効電力制御演算
・逆潮流制御
・充電電流制御
・系統電圧上昇抑制
Φ
∑
基準正弦波電流指令
Φ+90°
無効電力制御演算
・力率補正
・系統電圧上昇抑制
・単独運転能動検出制御
注:U相、V相独立した制御を行う。
図-3 系統連系時の充放電制御と系統連系制御ブロック図
一方、逆潮流しないシステムにおいては、停電による発電電力が負荷電力と平衡になる状態が起きな
いと考えられる。但し、太陽光発電、コージェネレーション発電などに組み合わせるシステムにおいて逆
潮流がなくても、平衡状態が発生することが考えられる。技術検証のため、本システムに能動的単独運転
検出機能を標準仕様とし、無効電力変動方式を採用した。インバータ出力の無効電流の振幅指令に出
力電力の数パーセントの変動を与えておき、単独に移行した時現れる周期的な電圧変動、電流変動また
は周波数変動を検出し、発電を停止しインバータを系統から切り離す制御とした。
114
4.2.4 単相 3 線式系統連系と個別制御の単相 3 線式インバータ
一般住宅用電力系統は単相 3 線式 100V/200V となっているため、住宅用電力貯蔵用インバータは単
相 3 線式 100V/200V 系統に連系することになる。本システムは夜間の電力を蓄えて昼間に系統に放電し、
売電することができないため、電力貯蔵システムは逆潮流なしとして系統連系される。
市販の太陽光発電システムでは、系統との結線は単相 3 線式であるが、中性線がなく実質的に単相
200V を用いて連系動作している。このようなインバータを用いた場合は住宅内の負荷の不平衡により充
放電利用率が悪化してしまうことがある。図-4(a)に放電時、図-4(b)に充電時の例を示す。充電時にお
いて、インバータは系統へ逆電力を流さないように CT_u と CT_v で U 相と V 相の電流を検出し、電流の
小さい相の電流に追従制御を行う。しかし、図-4(a)に示したように負荷が不平衡の状態で、インバータ
の発電量が負荷電流の小さいほうに制限され、負荷の総合容量は 3kW に対し、インバータの発電が 1kW
しかない。一方、充電動作において、充電電力と負荷を合わせて契約電力を超えてはならない。図-
4(b)は ELB の各相の保護電流が 30A であるブレーカの例である。インバータは受電電力を監視し、各相
の電流が最大 30A を超えないように制御する。しかし、充電電流は負荷電流が大きいほうの電流に制限
されるため、総合受電可能な 6kW に対し、充電電力は 1kW、総合受電電力は 4kW しかない。
30A
5A
20A
5A
U相
U相
CT_u
CT_u
L
5A
100V
L
25A
単相200V
INV
2kVA
N相
A
0
3
B
L
E
100V
20A
20A
L
5A
100V
電池
L
25A
単相200V
INV
2kVA
V相
N相
100V
V相
CT_v
0A
5A
10A
5A
(a) 放電時動作
CT_v
(b) 充電時動作
図-4 市販のインバータを用いた電力貯蔵システムの充放電例
15A
30A
5A
U相
U相
CT_u
CT_u
25A
L
15A
単相3線
100V
INV
2kVA
100V
N相
5A
5A
L
100V
25A
L
15A
5A
5A
L
V相
CT_v
5A
100V
電池
単相3線
100V
INV
2kVA
A
0
3
B
L
E
10A
N相
100V
V相
0A
10A
(a) 放電時動作
15A
CT_v
(b) 充電時動作
図-5 単相 3 線式インバータを用いた電力貯蔵システムの充放電動作例
また、市販の太陽光発電システムのインバータは単相 200V なので、停電による自立運転は単相 200V
または単相 100V の出力であり、自立運転出力の専用コンセントを設けているものが多い。停電時に使い
たい負荷を自立コンセントに差し替えなければならなく、使用上では不便であると大和ハウス工業より指
摘された。そのような問題点に対し、本研究では単相 3 線式 100V/200V のインバータを開発し、系統連
系時に各相の電流を個別に制御し、各相の負荷電力に追従制御が可能であり、不平衡負荷時でも電池
を最大限に利用することができる。また、停電による自立運転時に単相 3 線式交流を供給し、各相の電圧
を個別に制御を行い、各相の不平衡負荷の追従制御ができる。
115
図-5 に系統連系放電の例を示す。負荷の不平衡状況は図-4 の例と同じである。放電電流と充電電
流が個別制御により、インバータは各相の負荷電流を追従制御できる。この例ではインバータの放電電
力または充電電力は 1.5kW で、従来のインバータより大電流の充放電ができ、電池の利用率が高い結果
を得た。
4.2.5 リチウムイオン電池の運用方法
大和ハウス工業及び慶應義塾大学との協議の結果、電池の初期容量を 18kWh とし、完備電池を 3 台
で構成することにした。(サブテーマ(X)4.2参照)
図-1 に示したように 3 組の電池を切り替えて使用する方式とし、電池容量が設定された容量まで放電
されると無瞬断で次の組電池に切り替わる。インバータの動作電圧範囲は、リチウムイオン電池の電圧変
動を考慮し、86V~173V とした。
放電2KVA
電池箱
電池切替装置
C
M
U
7セル
1
7セル
2
C
M
U
6
C
M
U
7セル
BM
CAN
MC
IGN
C
M
U
7セル
2
C
M
U
7セル
6
C
M
U
BM
CAN
IGN
C
M
U
7セル
1
7セル
2
C
M
U
7セル
6
C
M
U
PCS
(プロト2)
CAN&電源
2kVA
BM
CAN&電源
IGNx3
動作電源
IGN:電池管理装置起動信号
(24V/3.5mA*3装置)
PIF
系統
CAN&電源
CANx3
PIF
1
η=0.9
MC
ATC
7セル
充電2KVA
MC
PIF
保守PC
CAN
ATC:
Automatic
Transfer
Controller
CAN
Controller
コントローラ
CAN
IGN
図-6 住宅用電力貯蔵システム監視・通信ブロック図
電池へ充放電、電池の切替え、PCS の動作モード切り替えの制御を行うため、システムの情報を集中
管理する必要がある。本システムの情報のやり取りは全て CAN 通信にて行っている。図-6 に本システム
の監視・通信のブロック図を示す。各電池モジュールにセル電圧、温度、セル電圧バランスの管理機能を
有する CMU が計測したセル情報を、組電池を管理する BMU に送信する。BMU が統括するセルの情報
を集約し、制御に必要なセル電圧、温度、電池状態ステータスなど情報をその上位のシステムコントロー
ラへ送信する。また、電池切り替え装置が電池の搭載状況及び切り替え装置の状態監視し、その上位の
システムコントローラへ送信する。PCS は運転状態や系統電圧、電流情報及び直流側に電圧と電流情報
を計測し、システムコントローラへ送信する。一方、システムコントローラは配下の電池切り替え装置とパワ
ーコンディショナーに動作指令を送信し、充放電の動作モードの切り替えや電池切り替え装置に動作を
制御する。PCS が BMU から送信された電池電圧などの情報をもとづき電池への充放電を行う。
116
リチウムイオン電池への充電は、電流多段式定電流定電圧制御を採用した。充電時の電池端子電圧と
充電電流のタイムチャートを図-7に示す。充電開始時は、系統からの急激な電流増加を防ぐため、充電
電流を最大値まで徐々に増加させるソフトスタート機能を持たせた。通常充電時に最大電流で充電を行
うとともに通信で得られた充電された組電池に中の最大セル電圧を監視し、最大セル電圧は所定の電圧
に達した時、充電電流をステップ状に下げる。充電電流は所定の最小充電電流数に達した後、電池への
充電を停止する。
定電圧
電池の電圧&充電電流
電池の電圧
多段式定電流
ソフトスタート
充電電流
時間
図-7 リチウムイオン電池充電時の電圧・電流チャート
4.2.6 システム保護機能
本システムは系統連系機能とリチウムイオン電池を使用することが特徴であるため、系統連系の保護や
リチウムイオン電池の保護、インバータの保護などは重要である。図-8 にシステム保護制御ブロック図を
示す。
(双方向インバータの系統保護機能)
双方向インバータには、「電力品質に係る系統連系技術要件ガイドライン」に定められた系統連系保護
機能を内蔵した。系統連系保護リレーの設定レベルと制定時間を表1に示す。検出レベル及び制定時間
の設定はインバータの操作パネルにて行う。
117
RL2
双方向インバータ装置
DC/AC
変換部
RL1
蓄電池
PWM制御
電池異常信号
MCCB
系統保護制御
・OVR
・UVR
・OFR
・UFR
・短絡
・過電流
電池の保護制御
・電池過電圧
・電池低電圧
・電池過電流
単独運転検出機能
・受動的(位相跳躍)
・能動的(無効電力変動)
単相3線
100V/200V
CT
ELB
一
般
負
荷
RL制御
ゲートブロック
BMU
重
要
負
荷
系統電流異常
・CT異常
インバータ制御回路
受電電流信号
図-8 システム保護回路図
表-1 系統連系保護装置の設定レベルと制定時間
項
目
周波数上昇
(OFR)
周波数低下
(UFR)
系統電圧上昇
(OVR)
系統電圧低下
(UVR)
逆電力
(RPR)
単独運転検出
(能動的方式)
単独運転検出
(受動的方式)
連系リレー
投入遅延時間
直流分検出
仕
様
検 出 時 間
50.5~51.0~51.5Hz
60.6~61.2~61.8Hz
復帰周波数 設定値の±0.1Hz
以内
(設定値の 0.1Hz step)
48.5~49.0~49.5Hz
58.4~58.8~59.4Hz
復帰周波数 設定値の±0.1Hz
以内
(設定値の 0.1Hz step)
110~115~120V
(設定値 1V step)
80~85~90V
(設定値 1V step)
定格出力 5%(100W)
(各相の合計が 100W 以内、且つ
各相 100W 以内)
無効電力変動方式:±5%
(出力有効電圧に対する%)
電圧位相跳躍:±3~8~10°
5~150~300sec
(設定値 1sec step)
0.1A
解列
0.5~1.0~2.0sec±0.1sec
○
○
0.5~1.0~2.0sec±0.1sec
○
○
0.5~1.0~2.0sec±0.1sec
○
○
0.5~1.0~2.0sec±0.1sec
○
○
0.5sec 以内
○
○
0.5sec 以上 1.0sec 以内
○
○
0.5sec 以内
○
×
0.5sec 以内
118
作
GB
―
注)GB:ゲートブロック。インバータの動作を停止させる。
動
設定時間経過
後、自動復帰
○
○
(リチウムイオン電池の保護機能)
リチウムイオン電池の組電池を管理する BMU より双方向インバータとシステムコントローラに電池の監
視情報を転送する。リチウムイオン電池のセル電圧や温度や BMU などに異常が検出される場合、その異
常信号を双方向インバータとシステムコントローラへ転送し、双方向インバータはその異常を検出しインバ
ータ動作を停止する。表-2 にリチウムイオン電池の BMU からの転送する信号及び保護動作を示す。
表-2 リチウムイオン電池の BMU の転送信号
信号形態
異常状態
条
件
保護動作
・セル過充電(4.3V 以上)
蓄電池内部信号
蓄電池異常
・セル過放電(2.5V 以下)
電池内部 MCCB トリップ
・セル温度異常(65℃以上-20℃以下)
・電池過充電異常(4.3V 以上)
蓄電池異常
通信出力
・電池過放電異常(2.5V 以下)
・電池高温異常(65℃以上)
・電池低温異常(-20℃以下)
PCS 動作停止
・電池使用禁止
監視装置異常 ・電池監視装置異常
・電池通信異常
その他、本システムでは、安全保護のため、直流配線の逆接続防止機能、温度保護機能、負荷短絡
保護機能、過負荷保護機能を設けた。
自立運転時の過負荷耐量は定格負荷の 150%とした。負荷のラッシュ電流に対し電流の垂下制御を
行い、最大電流は定格電流の 150%以下に制御される。
4.2.7 試作機の外観
図-9 に住宅用電力貯蔵システムの試作機の外観を示す。
図-9 住宅用電力貯蔵システム完成品写真
119
4.3 大型電力貯蔵システムの開発
本システムの基本機能は、住宅用電力貯蔵システムに準じているが、「電力ピークカット運転モード」、
「カレンダー運転モード」が追加されている。各動作モードの詳細を含め、仕様策定の経緯や機能の詳細
はサブテーマ(X)のエネサーブの報告に示す。
また、技術的な観点からは、インバータの定格容量は 50kVA あり、系統に連系する場合は 6600V の高
圧配電線に連系することになり、住宅用電力貯蔵システムとは大きな違うポイントである。そのため、三相
3 線式高圧系統連系大容量インバータの双方向電力変換技術、大型リチウムイオン電池の応用技術等
の開発が必要となった。
4.3.1 大型電力貯蔵システムの基本構成
本システムはリチウムイオン完備電池、CMU、BMU、電池接続盤、PCS、系統連系保護装置、受電電力
検出機、システムコントローラ、ACSW(交流スイッチ)部、変圧器で構成される。システム容量を拡張でき
るように 50kVA の PCS が最大 5 台並列接続可能である。図-10 にシステム構成図を示す。
(系統連系について)
本システムは 50kVA~250kVA の電力貯蔵システムであり、高圧 6600V の系統と連系する。系統連系
保護については「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」に準拠する。本システムは蓄電の
目的であるため逆潮流は認められない。逆潮流の検出点は受電点とした。
(系統連系保護装置)
本保護装置は「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」に定められた高圧配電線との連
系要件を満足し、逆変換装置を用いた場合の高圧連系で要求される下記保護機能を具備した。
・過電流継電器(OCR-H)
・地絡過電流継電器(OCGR)
・地絡過電圧継電器(OVGR)
・過電圧継電器(OVR)
・不足電圧継電器(UVR)
・周波数低下継電器(UFR)
・逆電力継電器(RPR)
・不足電力継電器(UPR)
(変圧器)
変圧器は高圧連系用 6600V/210V 変圧比のものを用い、システム容量(50kVA~250kVA)に合わせて
変圧器を選定した。
(負荷装置)
一般負荷は通常時給電され、停電時に給電されない負荷装置である。
重要負荷・非常用負荷は停電時に PCS の自立運転により給電される非常灯やデータサーバー、消火設
備等の負荷設備である。一般負荷の容量は変圧器の最大容量まで可能であり、重要負荷と非常用負荷
をあわせて電力貯蔵システムの最大容量(PCS 容量の合計)までとした。
120
6600V
電力線
信号線
受電電力検出器
系統連系
保護装置
変圧器
6600V/210V
[50kVA~250kVA]
大型蓄電システム
ACSW部
一 般 負荷
SW3
システム
コントローラ
SW2
SW4
SW1
重要負荷
非常 用負 荷
PCS1
パワーコンディショナー
NO.1
[50kVA]
PCS5
パワーコンディショナー
NO.5
[50kVA]
電池接続盤
電池接続盤
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
リチウム
イオン電池
BMU
BMU
BMU
BMU
図-10 大型電力貯蔵システムの構成図
(受電点の電力検出器)
本信号を用いて電力貯蔵システムの逆潮流なし制御及び電力ピークカット制御を行う。電力検出器の
検出レンジは構内の受電電力による。
(ACSW 部)
系統連系保護装置の解列信号により、系統から PCS を切り離す機能を有する。また、停電検出機能に
より高速切り替え機能も実現する。但し、「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」では、系
統連系機能を有する機器の無瞬断切り替えは認められておらず、設置に際しては個別の協議が必要と
なるため、本研究では、系統連系保護機能の検証を優先した。
121
(システムコントローラ)
本コントローラは電力貯蔵システムの制御、監視、設定、ヒューマンインタフェイス機能を有する。電力
負荷平準化機能、電力ピークカット機能などの運転モード制御や系統保護機能、単独運転検出機能な
どは本コントローラにて実現する。本コントローラは ACSW 部の架の内部に実装した。以下にシステムコン
トローラの概略仕様を説明する。
z カレンダー機能
地域電力会社の料金体系に応じて、充電時間帯、放電時間帯及び待機時間帯を設定することが可能
となる。
z 運転モードの設定機能
下記、運転モードの設定と制御を行う。モード設定の切替は外部パソコンまたは操作パネルにて行う。
△電力平準化放電モード
△電力ピークカット放電モード
△カレンダー放電モード
△強制充電モード
△強制放電モード
△強制自立運転モード(非常用電源)
z 系統連系制御機能
OVR、UVR、OFR、UFR、受動的単独運転検出、能動的単独運転検出の系統保護機能及び「電力品
質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」に定められた系統解列制御機能を内蔵している。
z リチウムイオン電池の残存容量設定機能
本機能は停電時に非常用または重要負荷に電力を供給できるように、電池を完全に放電させずに残し
ておく量電池残存容量(SOC)を設定する機能である。
(PCS)
系統連系における電池の充放電、停電時における自立運転機能を有する双方向電力変換装置である。
本システムは 50kVA の PCS を最大 5 台並列接続して 250kVA のシステム構成を可能とした。
(リチウムイオン電池)
本研究にて開発された標準セルを 72 セル直列した組電池を 4 並列にて 50kWh の完備電池を構成す
る。(詳細はサブテーマ(X)の表-3 参照)
PCS1 台あたりに最大 12 台の完備電池を並列接続可能である。
(電池接続盤)
本接続盤は最大 12 台の 50kWh 完備電池と 1 台の PCS を接続することが可能な分岐盤である。
(電力負荷平準化、電力ピークカット、カレンダー運転機能の検証結果)
図-11 に電力負荷平準化特性の検証データを示す。放電制御時において、負荷電力が設定された
系統からの最小受電電力(図-11 の場合は 10kW)を超えた時点から放電制御が開始されていることが
わかる。更に、負荷電力が PCS の最大出力電力と最小受電電力(52kW+10kW)を超えた場合、系統か
ら更に電力が供給されているのがわかる。
充電制御は、最大受電電力(図-11 の場合は 60kW)を超えないように、負荷が増えた場合、充電電
力を減らし、最大受電電力の追従制御が行われていることがわかる。
122
220
待機
放電
210
充電
190
52kW
PCS最大
出力制限
最小受電電力ライン追従制御
180
170
出力電力・負荷電力・受電電力(kW)
系統の最大受電電力ライン
60kW
200
系統の受電電力
160
18kW
系統の最小受電電力ライン
10kW
150
140
52kW
130
120
PCS出力電力
110
20kW
100
20kW
10kW
90
80
0kW
70kW
70
60
50
負荷電力
40
30kW
30
50kW
52kW
20kW
20
10kW
10kW
10
0kW
0
0:00
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
経過時間(H)
図-11 電力平準化特性
図-12 に電力ピークカット特性の検証データを示す。負荷電力が予め設定された最大受電電力ライ
ン(図-12 の場合は 10kW)を超えた時点から放電制御が開始し、最大受電電力ラインを超えた電力だ
け供給されていることがわかる。充電時の動作特性は図-11 に同じであるため、ここでは省略する。
130
50kW
120
出力電力・負荷電力・受電電力(kW)
110
100
20kW
PCS出力電力
90
80
0kW
70
60kW
60
50
40
負荷電力
30kW
最大受電
電力ライン
30
20
系統の受電電力
10kW
10
0
0:00
0:28
0:57
1:26
1:55
2:24
2:52
3:21
3:50
4:19
4:48
経過時間(H)
図-12 電力ピークカット特性検証データ
カレンダー運転機能の特性の検証データを図-13 に示す。これは 1 時間毎の放電スケジュールを
1.3kW→20kW →1.3kW→40kW→30kW に設定した検証データである。また、放電中に負荷電力が最
小受電電力とスケジュール放電電力設定電力の合計電力値より小さい場合は、スケジュールの設定値
に依らず最小受電電力に追従して、PCS の放電電力を減らす。
123
60
50
出力電力(kW)
40
負荷電力
30
PCS出力電力
20
10
0
0:00
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
経過時間
図-13 スケジュール放電検証データ
4.3.3 リチウムイオン電池管理システムの構築
各 PCS は接続された完備電池の情報にもとづき電池の充放電制御を行うため、全てのセルを集中管
理する必要がある。本システムではピラミッド型の管理システムを構築した。図-14 に示すように最下位か
ら順に CMU、完備電池に実装した BMU、PCS、ACSW 盤に実装したシステムコントローラとなっている。
情報のやり取りは CAN 通信にて行っている。
CMU は 8 セル毎に実装され、8 セルの電圧、温度を計測し、BMU へ情報送信すると共に、セル間の電
圧バランス制御機能を有する。
BMU は CAN 通信にての配下の全ての CMU で計測した全セルの電圧とモジュール温度など情報の収
集、組電池の充放電総合電流の計測、組電池の総合 SOC の計算、組電池の過放電保護など機能を具
備する。また、PCS に対し CAN 通信にて配下の全セルの最大セル電圧、最小セル電圧、総セル電圧、蓄
電池電流、最大モジュール温度、最小モジュール温度、平均モジュール温度、SOC、放電要求信号、充
電要求信号、管理装置故障など異常信号を送信する。
PCS は BMU から送信されたセル電池の情報などにもとづき電池への充放電制御、電池の保護制御を
行う。また、PCS が上位のシステムコントローラに収集したセル情報、自機の制御情報、PCS の内部計測
情報、保護情報を送信する。
システムコントローラはヒューマンインタフェイス機能を有し、設定された運転モードで各 PCS に運転指
令を送信する。システムコントローラに保守、監視、メンテナンスを目的とする監視用パソコンを接続するこ
とができる。電池セル情報を集中管理する一例の画面は図-15 に示す。
124
RS232C
システムコントローラ
監視・メンテナンス
CAN
PCS
PCS
50kVAパワーコンディショナー
BMU
CMU ・・・ CMU
50kWh完備電池
BMU
BMU
・・・
・・・
CMU
50kVAパワーコンディショナー
CAN
CAN
CMU
・・・
CMU
CMU ・・・ CMU
BMU
CMU ・・・ CMU
CMU
50kWh完備電池
50kWh完備電池
CMU ・・・ CMU
50kWh完備電池
図-14 リチウムイオン電池管理システムの構成図
図-15 電池、PCS 集中管理画面(保守メンテナンス PC)
4.3.4 電池管理装置(BMU)の情報にもとづく充電制御
リチウムイオン電池への充電は多段式定電流定電圧制御方式を採用しており、制御ブロックを図-16
に示す。リチウムイオン電池への充電初期時の充電電流が系統からの最大受電電力(契約電力)、PCS
の最大充電能力(50kVA)及び外部設定可能な充電電流指令のうちの小さい指令に制限される。この充
電動作は電池の最大セル電圧が 4.1V に上昇するまで継続し、その後最大セル電圧が 4.1V に一定とな
るよう充電電流をステップ状に減らし、定電圧充電モードを継続する。充電電流が所定の電流値以下に
125
なった時、または電池の SOC が 100%になった時充電を終了する。
50kWh のリチウムイオン組電池を用いて、50kW の PCS で充電を行った時の充電電流と電池端子電圧
特性の試験データを図-17 に示す。
DC/AC
変換部
3φ3W
200V
DC 201.6V~295.2V
一般負荷
3φ3W
6600V
系統電源
CT
PT
ゲートドライブ
電力トランスデューサー
PWM制御
直流電流検出
BMU
フィルタ電流検出
蓄電池
基準正弦波
力率制御
φ
電流検出
∑
|V|
電圧検出
同期制御
電力検出
電池
セル
情報
最大セ
ル電圧
∑
充電電
流計算
50kW
リミット
∑
受電電力信号
最大受電
電力制御
充電電力制限による
充電電流指令
最大セル電圧指令
(4.1V)
パワーコンディショナー
定電流充電
電流指令
図-16 リチウムイオン電池充電制御ブロック図
295
290
200
280
150
275
270
100
充電電流(A)
リチウムイオン電池端子電圧(V)
285
265
組電池端子電圧
260
50
組電池充電電流
255
250
0
200
400
600
800
時間
1000
1200
1400
0
1600
図-17 リチウムイオン電池への充電特性(PCS の最大能力 50kW に制限される)
4.3.5 システム充放電効率
電力料金の夜間電力をリチウムイオン電池に蓄えて、電力料金の高い昼間に放電して利用する目的
であるため、エネルギーの充放電効率は電力貯蔵システムの電力貯蔵の有効性を評価する最も重要な
126
パラメータである。システムの充放電効率は下記式示したように PCS の系統側の電池放電した電力量が
前回充電した電力量の割合にて定義する。
システム充放電効率=
電池の SOC が今回満充電から放電 終始までの交流側放電 電力量
電池の SOC が前回放電終始レベル から満充電した交流側 電力量
図-18 に上記式に基づいたシステム充放電効率検証のための充放電データを示す。PCS の交流側
電力が 50kW にて、電池の SOC が 12%から 100%まで充電し、その後 PCS の交流側 40kW にて電池を 100%
充電状態から 12%まで放電させた。その結果、システム充放電効率は約 83.4%を得た。
60000
60
50000
55
充放電電力(W)
30000
50
充電電力量
45
20000
40
10000
0
-10000
放電電力量
充放電電力
35
30
25
-20000
20
-30000
15
-40000
10
-50000
5
-60000
0
充放電電力量(kWh)
40000
16:19:12 16:48:00 17:16:48 17:45:36 18:14:24 18:43:12 19:12:00 19:40:48 20:09:36
経過時間
図-18 システム充放電量の検証データ
4.3.6 システム保護機能
大型電力貯蔵システムは、高圧で系統連系することと、リチウムイオン電池を使用することが特徴である
ため、系統連系の保護やリチウムイオン電池の保護、インバータの保護などは重要である。系統連系に
ついて住宅用電力貯蔵システムに比べ系統連系の区分が違うが、系統に対する保護の考え方が同じで
ある。また、標準セルも用いて構成したリチウムイオン電池モジュール及び組電池管理する BMU が同じ
であるため、電池及びパワーコンディショナーの保護についての考え方であり、詳細は省略する。
127
4.3.7 大型電力貯蔵システム概観
図-19 に大型電力貯蔵システムの試作機の外観を示す。
図-19 大型電力貯蔵システムの外観
5)考察・今後の発展等
本研究では開発した住宅用電力システム、及び大型電力貯蔵システムは、電力需要のオフピーク時に
電力を貯蔵し、昼間のピーク負荷時にそれを電気に変換する。いわゆる負荷の移行によって平準化を行
うものである。それにより、燃料コストが安価な原子力発電の夜間稼働率を高めることになり、連続運転に
よる発電設備の信頼性が向上するだけではなく、昼間のピーク負荷用の火力発電による石油の消費量を
節約することになる。夜間の原子力発電の需要を高めることで、電力負荷の平準化や発電設備の安定化
を促し、更には、CO2 排出量の削減や石油への依存度低下によって、我が国のエネルギーセキュリティ
向上にも繋がるため、電力貯蔵用リチウムイオン電池を用いた電力貯蔵装置の需要は今後急速に高まる
と考えられる。
経済的効果を式で表すと下式のようになり、システムの充放電効率が直接経済効果に影響する最も重
要な要因であることが分かる。
経済効果=昼間の放電電力量×昼間の電力料金単価-夜間の充電電力量×夜間電力料金単価
昼間の放電電力量=充放電効率×夜間の充電電力量
今回の研究を通じて、リチウムイオン電池の充放電特性や寿命性能が従来の鉛電池に比べ優れてい
ることを実感したが、この利点を生かすためには、電源メーカーとして、電力貯蔵システムの電力変換効
率の向上、高効率の運用方法などの研究を更に進める必要があることを認識した。今後も、引き続き、今
回の試作機の検証を進め、電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及に貢献したい。また、今回、実証できな
かった UPS 機能についても今後、各社と連携し、検証を行う予定である。
128
6)関連特許
基本特許(当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)について
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
7.1 原著論文(査読付き)
該当なし
7.2 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
7.3 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
該当なし
7.4 特許出願
該当なし
7.5 受賞件数
該当なし
129
Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
本研究開始時に比べ、地球温暖化に問題に対する認識は深まっており、緊急に対処が迫られている。
また、昨年末から続いている急激な原油高に対抗するための手段も見つかっていない。一方で、近年の
天変地異がもたらす被害も拡大しており、防災用電源システムのニーズが高まっている。
研究代表者らは、これらの問題解決の有効な手段に、電力貯蔵用リチウムイオン電池の大量普及があ
ると確信しており、今回の研究によって策定された標準セル仕様により、あらゆる用途で利用可能である
ことが実証できたことは大変価値のある成果であった。
電力貯蔵用リチウムイオン電池は、旧通産省工業技術院ニューサンシャイン計画の一環として平成 4
年度から 13 年度に実施された「分散型電池電力貯蔵技術」研究開発により、実用的に使える技術水準に
達したが、未だに普及の道は開かれていない。各電池製造会社を見渡しても、自動車用途の電池開発
には翻弄されており、電力貯蔵用リチウムイオン電池の開発例はほとんど見られないのが現状である。
一方で、我が国が力を注ぎ、他国を寄せ付けない技術を誇ってきたリチウムイオン電池は、米国や中
国に猛烈に追い上げられている。
研究代表者らは、こうした現状を踏まえ、電力貯蔵用リチウムイオン電池の早期普及に向けて、本課題
の実施期間中である平成 18 年 9 月に電力貯蔵用リチウムイオン電池の試作、開発会社「エリーパワー株
式会社」を設立した。株主は、本研究の共同研究機関である大和ハウス工業(株)グループと大日本印刷
(株)の 2 社に大手家電メーカーを加えた 3 社で構成され、2009 年に年産 100 万セル規模の工場稼働を
目指して、現在、社員 40 名体制で商品化開発を行っている。
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Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
短期間での試作及び評価となったが、所期の目的通り、電力貯蔵用リチウムイオン電池セルの標準仕
様を策定し、単にセルのみの評価だけでなく、実際の電力貯蔵システムにおいて、フィールド評価を行い、
多用途他分野に適用できることを実証できたことは大きな成果であった。
限られた予算の中での試作となったため、数百kWh 規模の大規模な電力貯蔵システムの構築はできな
かったが、本研究により、50Ah セルを 35 並列接続で運転できたことにより、小容量セルにて大容量蓄電
池を構築する手法を見極めすることができ、リチウムイオン電池セルの標準化を図る上で、この成果は非
常に大きな価値であり、武器となる。
2.情報発信
本研究では、本研究代表者等が中心となって、研究当初より、政府機関や東京モーターショー、国際
電気自動車会議などの大型イベントやマスメディアを通じて、電力貯蔵用リチウムイオン電池の普及を促
してきた。その成果として、経済産業省では、「次世代自動車の基礎となる次世代電池技術に関する研究
会」の発足や、神奈川県の「かながわ電気自動車普及推進協議会」発足のきっかけとなった。
残念ながら、経産省の研究会では、本研究が目的とするセル自体の標準化というところまで深く議論が
できなかったが、それでも政府や自治体に電力貯蔵用リチウムイオン電池に対する関心を抱いていただ
くきっかけは作れたと感じる。本研究活動は、海外からも注目を集めるようになり、ノルウェーの政府団な
どが本研究代表者等のもとを訪れている。
また、リチウムイオン電池は、研究当初、経済産業省が所管する電気事業法による規制により、リチウム
イオン電池を用いた電力貯蔵システムは発電所扱いとされてきた。しかし、これも本研究活動も一つのき
っかけとなり、当該経済産業省令が改正され 2008 年 5 月 1 日より規制緩和が実施される見通しとなった。
3.研究計画・実施体制
研究計画は、新たな正極活物質の開発が加わったため、試作及び評価が非常に慌ただしい結果
となったが、最終的にはニューサンシャイン計画時には研究されなかった三元系リチウム酸化物によ
る実用的セルを開発することができ、本研究がもたらす成果は意義が大きかったと考える。
また、電力貯蔵システムのフィールド評価においても、バランス良く性質の異なる複数の実証試験
が行えた。住宅用電力貯蔵システムでは電力負荷平準用途を評価し、大型電力貯蔵システムでは
電力ピークカット及び防災用負荷への自立運転を評価した。更には、携帯電話用無線基地局では
2,000Ah 級の鉛電池の置き換えを実証することができ、幅広く他分野多用途に亘り実証試験を行うこ
とができ、フィールド評価の価値は大きかった。
実施体制に関しては、複数の利用分野と電池及び電池システム製造側の企業からなる共同研究
体を組織し、本研究を実施してきた。共同研究体の中には、本研究のコアメンバー以外が約 10 社含
まれており、ニーズやシーズ調査、あるいは電力貯蔵システムのフィールド評価においては、非常に
有意義な情報収集ができた。
本研究では、本研究に参加する企業も含め、共同研究体に参加する企業の会長もしくは社長が研
究運営委員を兼ねており、研究を円滑に進められる要因となった。
また、実務者レベルのワーキンググループも平均的に週 2 回程度実施でき、合計 100 回開催した。
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これにより、研究の進め方や進捗状況を頻繁に確認しながら研究を進められただけでなく、研究代表
者と各参画機関の縦のつながりでなく、横のつながりも生むことができ、参画企業間同士のコミュニケ
ーションも活発であった。また、コミュニケーションツールとして、慶應義塾大学が運営元となったメー
リングリストもフィールド評価でのデータや不具合などの共有化、あるいはアンケート調査などに活用
することができた。
更に、オブザーバーではあったが、国土交通省、経済産業省も 2 ヶ月に一度開催されるエグゼクテ
ィブコミティに出席され、当方の活動にご支援をいただいた。
上記のように、実施体制としては、非常に恵まれた組織によって体制を整えることができ、運営も上
手くできたと評価する。
4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
Ⅳ.に記述の通りである。
5.中間評価の反映
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