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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析

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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
愛知教育大学 幼児教育研究 第17号
育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
―「叱る」「ほめる」に着目して―
石川真由美
Ⅰ 問題の所在と研究目的
現代社会は、育児不安が強いといわれている。2011年の警察庁の調査によると児童虐待摘発件数
は2002年以降の10年間で倍増したとされている1)。2011年には「何かにつけて言うことを聞かないの
で、しつけのためにポリ袋に入れて口をくくり隣の部屋に放置した」(大阪 3 歳児殺害事件)や2012
年「育児に自信がなかった。息子が泣き止まなかったため首を絞めた。」
(福岡乳児殺害事件 10か月)
など育児不安が残虐的な事件に発展してしまったケースもある。長引く不況や身近に相談できる人が
いない、子どもとかかわる体験の不足などから育児の伝承がないため、育児不安は以前より強くなっ
たと言われている2)。育児不安軽減の一手段として、インターネットや育児書、育児雑誌が育児情報
として活用されているが、それらの育児情報は多様であり、選択するのに新たな迷いや不安を生じさ
せているのではと考える。
インターネットの育児相談には、「叩いてしまいました…」「なんか注意してばかり、これでいいの
でしょうか」「子どものしつけでおしりパチンなど、手を出すのはいつ頃から始めるべきですか?」
などしつけ方法についての悩みが多く寄せられ、しつけに不安を抱えている親の姿がうかがえる3)。
ある育児雑誌が読者に対してインターネット調査4)で行った「『しつけ』のどのようなことに悩みま
すか」(複数回答)の問いには、「感情的になってしまう」63.7%が最も多く、「何度言っても同じこ
とをする」50.0%と続き、
「どこまで厳しくしてよいかわからない」37.3%、「叱り方がわからない」
12.7%、「どこまで甘くしてよいかわからない」11.7%、「夫や祖父母と方針が違う」4.0%という結
果が出ている。最近は専門職である保育者の中にも「受容」「子どもの意思の尊重」として子どもの
要求を何でも受け入れ、危険なことやしてはいけないことに対しても叱らない姿がみられる5)。この
ように子どもとの関わりに自信が持てず、肝心なところで「しつける」ことができない大人の現状が
あるのではないかと考える。
その要因に「叱らない子育て」「ほめて育てる」などをキーワードとしたメディアの偏った「…あ
るべき」「…がよい」等の情報の氾濫があり、子どもとの関わり方や子育てへの自信のなさに影響を
与えているのではないだろうか。一例をあげるなら、尾木6)の「叱らない子育て論」は2012年テレビ
や雑誌でも多く取り上げられた。インターネット上で「私も叱らずにほめるお母さんになりたい」と
いうレビューがある一方、「イヤイヤ反抗期の子どもに叱らない子育てって可能?」「叱らない子育て
にかこつけて放任する親が多くなった気がするのは気のせい?」など子育て世代に反響がある。「ほ
めて育てる」イコール「叱ってはいけない」という誤解を生み、
「叱らない親(大人)」
「叱れない親(大
人)」になっているとも考えられる。そこで本論では、「叱る」「ほめる」に着目して「しつけ」を検
討していきたい。
先行研究には、ポーター倫子7)や佐藤8)など国際比較分析からみた日本のしつけに関するものがあ
名古屋学芸大学
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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
る。また、天童9)や高橋10)らによる育児雑誌にみる育児戦略や言説についての研究はあるが、内容
の詳しい比較からの考察はみられない。本論は、育児情報の「叱る」「ほめる」に着目して「しつけ」
に関する内容を比較することで、多様な育児情報の実態を明らかにし、子育て支援の手がかりとした
い。
「しつけ」について柴田11)は「しつけとは、いいらしきふるまいを自動的にできるようにすること
ではなく、自分が育ってくる中で身についた礼儀作法をわが子に伝えていくことではないか」、今
井12)は「しつけとは親の良心を子どもに伝えていくこと」、岩立13)は「しつけとは子ども社会の中で
生きていくために必要な価値やルール、他者とのかかわり方、必要に応じた自己コントロールの仕方
などを子どもに伝え、子ども自身が納得して学べるように仕掛けていくこと」としている。
本論では、しつけを「子ども自身が納得し、即効性はなくとも、自分で自分を律することができる
ような心を育てるための対話」と捉える。親の一方的な思いの押し付けの「しつけられる」でなく、
「し
つかる」という子ども主体の立場で考え、しつけはし続けていくことで身につけていくものと捉えて
いきたい。本論で問題とする「叱る・ほめる」はしつけの一手段であり、親(大人)と子のコミュニ
ケーション、つまり対話であると捉えて論をすすめる。また、親と子の閉じられた子育てでなく、保
育者を含め、子どもをケアする人が子どもとどう向き合うかを考えていきたいので、親だけでなくあ
えて「大人」と表記する。
Ⅱ 研究方法
研究 1 子どもへの親のかかわりの実態
インターネットの子育て相談サイト「赤ちゃん&子育てインフオ」(財団法人母子衛生研究会)よ
り「妊娠&子育て相談室」の「性格・親のかかわり・育て方」に関する2002 ~ 2012年までの相談内
容のバックナンバーを調べ、分析検討する。
また原田の大規模調査「兵庫レポート」14)より親子関係の変化やその要因を検討する。
研究 2 「ほめる」「叱る」をキーワードにした育児書の比較
① 1970年以降における育児関連雑誌や育児書から、乳幼児期の「しかる」「ほめる」をキーワード
に抽出し、年順に比較検討する。
② 各本に書かれた内容を任意に選定した25項目に分類し、内容や相対する意見について比較検討
する。
Ⅲ 結果
1 子どもへの親の関わりの実態
「赤ちゃん&子育てインフオ」インターネット相談に寄せられた「性格・親の関わり・育て方」
(2002年~ 2012年)の相談内容109件をKJ法により頻度の高い語をキーワードとしてカテゴリー分
けした結果、大きく 6 つのカテゴリーに分かれた。①叱り方(叱る)②(母親の)イライラ・怒り③
子どもとの信頼関係が築けているのかといった「親子の関係性の不安」④子どもが親の思うとおりに
ならない(言うことをきかない)⑤子どもが思い通りにならないと起こす行動(たたく・かむ・泣き
わめくなど)⑥その他は子どもの性格などである。なお、複数のキーワードを含み持つ相談は、その
ままキーワードの数としている。
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愛知教育大学 幼児教育研究 第17号
図 1 性格、親の関わり、育て方相談の内訳(件)
図 1 から「叱る」についての相談数にほとんど変化がない。しかし、「子ども」と「関係性」の項
に変化がみられる。2002 ~ 2006年は「子ども」が多く、子どもが思うようにならないときに起こす
行動、特にたたくや泣くことについて突出して困っているが、2007年以降「子ども」より、親子の
関係性不安の相談が 2 倍近く増えていることがわかる。年代別にみると、2008年から増え始め、特
に2011年が多かった。「母親になついていないと感じ、母子の信頼関係が不安」といったものから「幼
稚園の面接で親子の信頼関係ができていないことを指摘された」との内容まである。前述のように子
どもがいうことを聞かないので叱ったことに対し、親子の関係性に不安を抱いたり、「叱る」「イライ
ラする」ことで子どもの心の成長を不安に思い対応を相談する内容などが重複していたり関連したり
している。
以上は特定したインターネット相談の結果であり、データが不足し、偏りがあることが否めない。
そこで原田15)の大規模調査から親と子のかかわりについて検討してみる。
原田は1980年に行った大規模な子育て実態調査「大阪レポート」に続いて、その20年後に「兵庫
レポート」として同様の実態調査を行っている。
「子育てに不安を感じますか」の問いに3人に2人が「は
い」と答えている。他項目とのクロス集計の結果「赤ちゃんとどうかかわったらよいか迷うことがあ
りますか」と「赤ちゃんが何を要求しているかわかりますか」では、子どもが何を要求しているかわ
からないことが、子どもにどうかかわったらいいか迷う原因であり、「育児に自信が持てないと感じ
ることがありますか」と「お子さんを叱るとき、たたく、つねるとかけるなどの体罰を用いますか」
では、育児に自信がもてないと感じることが多い場合に、体罰が用いられているという結果がでてい
る。育児不安は「子どもの要求の理解」と高い相関がみられ、体罰と関係があることを示している。
体罰を用いている母親の特徴として①育児でイライラすることが多い②育児に自信が持てない、と感
じることが多い③子どものしていることを「あれはいけない」「これはいけない」と禁止する④子ど
もと離れたいと思う⑤子どものしていることを黙ってみていられなくて、口出しする⑥子どもが同じ
ことをしているのに、ある時は叱り、ある時は見逃したりする⑦自分の親から厳しい体罰を受けたこ
とがある⑧子どもが何を要求しているかがわかりにくいなどの親子関係パターンをあげている。
原田は「兵庫レポート」から、体罰指向は変化していないが親子関係のパターンに変化があり、
「子
どもを親の思い通りに支配しようとする親」を特徴としてあげている。
以上のことから、現在、親子の関係性や育児への自信のなさなどの不安が増加していることが明ら
かになった。その要因には親が子どもの要求や気持ちを理解できないこと、親が子どもを支配し、所
有するものという縦関係の傾向が強くなっている実態が明らかになった。
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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
2 「ほめる」「叱る」をキーワードにした育児書の比較
「しつけ」「しかる」「ほめる」「子育て」をキーワードに国立国会図書館やCiNiiで戦後に出版され
た育児書の中から検索し、さらに子育ての「叱る」「ほめる」に条件を絞り表 1 の図書を選出した。
選出した図書は、「叱り方、ほめ方」のコツやヒントから「ほめない子育て」、「叱らない子育て」
など対立する見出しがある一方、「…すれば伸びる」「…力を育てる」など「…すれば…な子どもにな
る」など親の理想の子どもに近づけるための方法を述べた本もある。年別の比較から「ほめる・叱る」
への関心は時代に関わらず、高いようで、対立させた見出しの本がいつの時代にも出版されている。
しかし、急激に増えたのは2000年代に入ってからで、2003年、2007年、2010年、2011年は多く出版
されている。2006、7 年に見られた「叱らない…」より、近年は「上手に叱る」「叱り方…」など「叱
る」ことを前提にした表題がみられる。著者は心理学者やカウンセラー、幼児教育教員養成校の教員、
子育て支援に携わっている人などさまざまな立場の専門家である。
さらに表 1 の中から表 2 の本15冊を選択し、各内容を比較し分類整理した。これらの本は、育児
雑誌で紹介されていた本や地域の図書館、書店の育児書コーナーに並んでいる本であり、親世代読者
のニーズに応えていると捉え、その内容を比較検討する対象とした。
表 1 「叱る」「ほめる」をキーワードに抽出した育児書
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愛知教育大学 幼児教育研究 第17号
育児雑誌については、2007年から2012年発売の育児雑誌(Baby-mo、ひよこクラブ、AERA with
Baby以上 3 誌)の見出しタイトルを調べ、13項目にカテゴリー分類した。見出しタイトルで一番多かっ
たのは、卒乳・離乳食・食事などの食育に関するもので、続いてしつけに関する見出しが多かった。
しつけは、「生活リズムなどの生活習慣の内容」と「子どもの言動に対する親の対応の内容」とに分
かれた。さらに「子どもの言動に関する親の対応」の中から「しつけ」「叱る」「ほめる」などをキー
ワードに内容比較対象雑誌記事10本を抽出した(表 3 )。AERAは2007年の創刊で、親のかかわりに
ついての中でも「叱る・ほめる」を特集記事として何度も取り上げている。
表 2 と表 3 の育児雑誌・育児書の内容を25項目に分類した(表 5 )。その結果、育児雑誌では「1
しつけの基本には親子の信頼関係が必要である」という内容が最も多かった。ついで「 2『叱る』
『ほ
める』より『共感』が大切である」
「『ほめる』
『叱る』のコツ」が続いている。育児書では「5叱るこ
とも時と場合により必要である」との内容が最も多い。育児雑誌、育児書共に「 6『ダメ』という短
い言葉で制してもよい」が「 7『ダメ』と言って叱ってはいけない」よりも多い。
内容の比較から注目すべき点は、「 3 子育てのポイントは『ほめる』こと」と極端にほめることを
奨励する内容が育児雑誌にはなく、育児雑誌、育児書共に「ほめる」ことに対し「ほめすぎは子ども
の心に負担がかかり、プレッシャーになる」「ほめるのは取引ではない」などほめることの誤解と危
険性を指摘していることがあげられる。2 つ目の注目点として「叱る」ことに関して「叱らない」子
育てではなく「叱らなくても済む環境を整える」のように「叱らないでいい」子育ての方法を強調し
ている点である。3 つ目として「叱る」「叱られる」ことによって「親子の絆や信頼関係が深まる」
や「がまん力」との関係について述べている点である。
以上の 3 つの注目点について、対立する意見を比較分析していく。表 6「ほめる」については「ほ
める事の危険性」と「ほめる事と自己肯定感の育ちを論じて全面肯定する」の 2 つの意見に分類した。
汐見16)は、「叱る・ほめるは子どものやる事を上から評価する点で同じであり、親という権力を使っ
て子どもをコントロールしようとしていることだ」と述べている。「ほめることの危険性」については、
多くの著者が親(大人)の都合で子どもの育ちの視点に欠けることが問題だとしている。植松17)も「『叱
るよりほめろ』というけれど『叱らない子育て論』は理想だとし、いくらたくさん褒めてあげても、
表 2 内容比較する育児書
表 3 内容比較する育児雑誌
2007年~ 2012年発売のAB、Bm、ひよこより
※AB…AERA with Baby Bm…Baby-mo
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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
その言葉がオーバーになってしまったら子どもの心に届かない」と述べ「ほめる」ことについての誤
解を指摘している。「ほめる事の危険性」の論者は、「叱る」「ほめる」を極端に偏って行うのでなく、
バランスよく効果的に行うべきだとしている。 2 つ目の「叱らないでいい子育ての強調」については、多くの著者が共通して「叱る必要のあるシー
ン」について述べている。それは①自分や他人の命に関わること、危険なこと②他人に危害や迷惑を
加えることは叱る必要があるが、大人は叱らないで済む環境を整えることも必要であるとしている。
また多くの「叱る」は、大人と子どもの違いを忘れて「子どもが思う通りに動かない」を基準に叱っ
ているとしている。「 3 歳前の子どもは、記憶力の発達途上にあるため、『ダメ』『危ない』『やめて』
と顔や声に感情をこめてハッキリと伝えることが必要」「どんな小さな赤ちゃんでも、危険なこと命
表 5 育児雑誌・育児書の内容比較
表 6 ほめる
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に関わることは『ダメ』と制止することが必要」など、乳幼児の理解力や記憶力、見通す力、判断力
が未発達な状況を理解して「叱ってはいけない」でなく「叱らないでいい」かかわりを工夫する子育
てを提唱している。
3 つ目の「叱る」「叱られる」と親子の絆、信頼関係について、「叱ることも必要」と「叱らない」
の意見を比較した。「叱ることも必要」の意見は予想外に多く、三宮18)の「愛されている実感や親子
の信頼関係があれば、叱られても平気である」、植松19)の「子どもはいけないことをしたとき、しっ
かり叱らず甘やかす親より、真剣に叱ってくれる親を信頼する」など、親(大人)と子どもの信頼関
係が「叱る」「叱られる」ことにより築かれ、子どもと向き合うことが必要であることが述べられて
いる。諸富20)も、「叱ることが本当にこの子のためになるか、それをされたことで自分がイライラし
ているだけなのか、自分の心をのぞいてみて本当に子どものためになると思えるなら叱ってもいい」
とし、
「子どもときちんと向き合い粘り強く根気よく言葉で伝えていってほしい」と述べている。一方、
叱ってはダメという意見もある。(表 7 )
表 7 叱る
Ⅳ 考察
育児不安の実態は、子どもを理解することが困難で、どうかかわっていいかわからないことであっ
た。しかし、不安を軽減するためのしつけに関する育児情報は、多様であり、一部には偏った内容が
ある実情がわかった。それらの多くは、大人側の方法論に終始し、「叱らない子育て」や「ほめて育
てて…できる子に」など「子どもの心を育む」視点を欠いていた。また、育児情報には、「ほめて育
てる」イコール「叱ってはいけない」という誤解を生みかねないものもあった。研究 1 で示した「子
どもを親の思い通りに支配しようとする親」など近年みられる親子関係パターンの変化は、「子ども
の心を育む」視点を欠き、親(大人)からの一方向の視点に陥ってしまう。そして親(大人)側の都
合のいい解釈になることが、肝心なところでしつけることのできない親(大人)の姿につながってい
るといえるのではないか。
そして、育児雑誌・育児書の育児情報の内容比較は、「ほめる」ことに潜む危険性や叱られること
の効果など、育児方法がただ是か非かの画一的なものでないことを示し、どの情報を選択し、どう理
解し受け止めるかの難しさを浮き彫りにした。中でも2007年以降発売の育児雑誌や育児書が「親子
の信頼関係の必要性」を多く論じているのと、研究 1 で親子の関係性不安に関する相談が増加してい
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育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析
る結果と関係がないとは言えないのではないか。「しつけ」「叱る」「ほめる」は相手の心に届かなけ
れば意味がなく、親子(大人)の信頼関係は重要であることは確かであるが、読者の解釈により育児
情報が育児に対してますます自信をなくし、子育てに対して不安を感じることに少なからず影響を与
えてしまっているといえるかもしれない。
しつけは子どもの心に「ルール」を作るための援助ということができ、その方法は 1 つではない。
「叱る」「叱られる」ことは、親(大人)と子どもの価値観が衝突し、互いに葛藤しあうことであり、
楽しい時間とは言えないかもしれない。しかし、取り上げた育児雑誌・育児書に述べられているよう
に、葛藤体験を通して我慢することや相手との折り合いのつけ方などの心を育てる機会になる。叱る
ことも叱られる体験も必要であり、互いに意見のぶつかり合いを避けてはいけないと考える。親(大
人)の真剣な思いを子どもの心に届くように伝え、子どもが欲求をコントロールして自分を律するこ
とができるような「心」を育てることが必要だと考える。「叱ってはいけない」のでなく、「叱らない
でいいかかわり方」にするべきであり、子どもと相対することを恐れなくてもよいのではないだろう
か。したがって「叱る」「ほめる」を極端に「…ない」と否定するのでなく、しつけにはいろいろな
かかわり方のバリエーションがあり、バランスが大切であることを育児情報は強調して主張するべき
だと考える。
現代社会は、子どもが天からの授かりものでなく、自分の意思で「作る」という意識のものになっ
ていると感じる。そのため、子どもを自分たちの思い通りになる「物」と勘違いし、親子関係の様々
な不安やトラブルを生じさせているのではと考える。本研究で取り上げた育児雑誌・育児書にも、親
(大人)の視点で「子どもをどうしたいか」と論じられたものがあった。鳥光21)は「教育という行
為を、教育主体である大人が客体である子どもに対して行う行為として考えるのでなく、行為の主体
である大人と子どもとが、子どもの学習という共通のテーマのもとに相互に意思疎通しあうことであ
ると考えるべきである。」と述べている。しつけに関する考え方も、「叱る・ほめる」の方法論ではな
く、子どもと親(大人)がどれくらい一緒に考えるかが大切であり、子どもより少し先の人生を生き
ている先輩として「ともに育ちあう」という視点を持つことが大切であると考える。現代の子育ては、
携帯電話やパソコンなどの様々な情報機器の普及により親(大人)が子どもと向き合う機会が少なく
なっていると感じる。だからこそ、親(大人)と子どもが真摯に向き合い、一緒に考え、対話してい
くことが今まで以上に求められているといえるのではないか。
注・引用文献
1 2012年 2 月16日付け読売新聞「児童虐待の摘発や被害児童数が過去最高」より(2013/3/7発表※被害者数476人死亡児童
数 7 人減)
2 原田正文(2006)子育ての変貌と次世代育成支援 名古屋大学出版会
3 2013年1月23日~ 30日 インターネット相談検索より
4 2012年7/26か ら7/30の5日 間5歳 ま で の 子 ど も を 持 つ 母 親 へ の イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査( 有 効 回 答300件 )AERA with baby2012/10 「しつけの悩みその正体」p14 ~ 16より
5 石川真由美(2012)幼児期のアサーションを育てる保育援助方法 2011年度愛知教育大学修士論文
6 尾木直樹(2011)尾木ママの「叱らない」子育て論 主婦と生活社
7 ポーター倫子(2012)育児雑誌の国際比較を通して見えてきたこと 日本保育学会会報第157号
8 佐藤淑子(2003)考えるモノサシを教わるイギリスの子ども、物の豊かさを教わる日本の子ども 青春出版社
9 天童睦子(2005)育児戦略と現代のしつけ 日本教育社会学大会発表要旨録
10 高橋均(2004)差異化・配分装置としての育児雑誌 教育社会学研究第74集
11 柴田愛子(2005)子どもを叱りたくなったら読む本 学陽書房
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愛知教育大学 幼児教育研究 第17号
12 今井和子(2012/10/6)講演「子どもの心とことばの育ち」より
13 岩立京子(2008)子どものしつけがわかる本 主婦の友社
14 前掲著 2
15 前掲著 2
16 汐見稔幸(1997)
ほめない子育て 光学教育文化研究所
17 植松紀子(2012)
6 歳までの子どものほめ方、叱り方 すばる舎
18 三宮真智子 AERA with Baby2009冬号ママに叱られた記憶は残る?より
19 前掲著17
20 諸富祥彦 como出版編集(2011)子どもの叱り方がわかる本 主婦の友社 より
21 鳥光美緒子(2002)第 1 章子どもの権利と幼児教育 小田豊 榎沢良彦編 新しい時代の幼児教育 有斐閣アルマより18
− 37 −
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