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地域包括支援センターを基盤とした地域ネットワークによる

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地域包括支援センターを基盤とした地域ネットワークによる
甲子園短期大学紀要 32:27-35.2014.
地域包括支援センターを基盤とした地域ネットワークによる減災活動の可能性
-高齢者見守り支援事業の調査から-
峯 本 佳世子*
Possibilities of Activities for Disaster Mitigation through Community Networking Based
on Community General Support Centers: A Study on the Survey on the Program of
Watching and Supporting the Elderly
Kayoko MINEMOTO*
Abstract
Some programs of supporting the suffered elderly were created for dealing with problems by Great HanshinAwaji Earthquake in 1995. Those programs have much influence on the way of dealing with natural calamities
now. The purpose of this study is to examine whether community networking through the program of watching
and supporting the elderly by community general support centers and community-based rooms as further
outreach contributes to both preventive long-term care and disaster mitigation. This article shows how the
program of watching and supporting the elderly in a suffered city has changed from a way of dealing with
problems brought about by the earthquake into ones in a daily life. The author analyze results and issues of the
program through a survey on community-based room. By the analysis, the author found that new communitybased places and activities of watching and supporting the elderly have some contribution to community
organization for disaster and preventive long-term care.
要 旨
本研究は、近年の災害対策に大きな影響を与えた1995年の阪神淡路大震災後の高齢者支援対策と、そこから始
まった地域包括支援センターおよび地域拠点ルームの見守り活動による地域ネットワークづくりが、今日どのよう
に介護予防と減災の両方に役立つかを明らかにしていくことを目的とする。ここでは、被災地A市における高齢者
見守り支援事業が被災者支援から日常的な高齢者支援へとつながっていく経緯を整理したうえで、ルームの活動実
態を検証し、課題の分析を試みた。その結果、ルームと見守り推進員の活動が防災と介護予防のコミュニティづく
りに一定の役割を果たしていることが明らかになった。
Key Words : disaster prevention countermeasure, risk-preventive community, community general support center
キーワード:防災対策、防災福祉コミュニティ、地域包括支援センター
の犠牲者と家屋被害を出している。そのため、国の災
1.はじめに
害対策も多方面に及び、総務省の防災対策のみなら
わが国では近年、大規模な自然災害が多発し、多数
ず、各省庁ともそれぞれの危機管理や災害時対策に取
*
本学特任教授
論文(原著):2013年12月9日受付 2014年1月17日受理
― 27 ―
り組んでいる。災害の犠牲者の多くは高齢者をはじめ
進む都市の高齢者は、一人暮らし、高齢世帯が多く、
災害弱者といわれる社会的に支援を必要とする者であ
仮設住宅や復興住宅へと生活が移るなかで孤立化や孤
る。社会的に援助が必要な人々に対する災害対策は、
独死が深刻な社会問題となった。このため兵庫県で
厚生労働省を中心として福祉部局が大きく関わってく
は、災害復興上の高齢者問題と支援体制の必要から、
るため、各自治体においても福祉部局と防災部局の連
復興基金による事業の一つとして、1997年に、県内被
携強化が図られているところである。
災自治体の復興住宅や地域における高齢者の生活支
災害時に援助が必要な者を「災害時要援護者」と定
援、孤独死防止などを目的とした、あたらしいコミュ
義して、対象者に災害時対策を立てるようになったの
ニティづくりに取り組み始め、復興地域に高齢者見守
は、平成4年の新潟県豪雨のときからである。平成17
り事業を開始した。A市では4年間の時限事業として
年、総理府は災害時要援護者支援ガイドラインを作成
在宅介護支援センターに見守り推進員を加配して、地
し、各自治体にその対応を求めている。それによると、
域住民への安否確認や見守り、暫定的な生活支援、地
災害時要援護者とは、
「必要な情報を迅速かつ的確に
域コミュニティづくりなどを展開した。A市は人口約
把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難
150万人、高齢者人口約30万人、9行政区、78中学校区
するなどの災害時の一連の行動をとるのに支援を要す
である。高齢化率は現在、約22%で、地域での見守り
る人々である」と定義され、具体的には「一般的に高
や支え合うコミュニティづくりがますます必要となる
齢者、障碍者、外国人、乳幼児、妊婦等」となる 。
背景から時限を過ぎてなおこの事業を継続している。
本研究では、高齢社会が進む現在、災害時要援護者
復興過程での支援体制の変化は図1のとおりである。
の中でも災害後の生活復興が困難な高齢者に焦点を当
高齢者見守り支援事業は、震災直後の仮設住宅にお
てて、平時、災害時および災害後の行政の支援方針と
いて被災者に行政からの支援情報、とくに生活再建情
地域コミュニティづくりの重要性をあきらかにし、具
報を伝達する目的で臨時雇用の生活復興相談員を配置
体的に地域包括支援センターを基盤とした減災に関す
したことから始まる。その後、復興住宅へ転居した被
る地域の取り組みの方法を考える。
災者おもに高齢者の環境変化や生活再建への不安、新
1)
2.阪神淡路大震災後の高齢者見守り支援事業の展開
(1)被災後の高齢者支援対策
しい地域での孤立化や孤独死が問題となったため、健
康状態把握・安否確認さらに新しい地域でのコミュニ
ティづくり支援のため、1997年に高齢世帯支援員を派
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災は被災各
遣するようになった。被災後、市街地で多数建設され
地に甚大かつ深刻な被害を残した後、復興過程におい
たシルバーハウジングには生活援助員(ライフサポー
てもさまざまな問題を浮き彫りにしてきた。高齢化が
トアドバイザー、以下LSA)が54人を数え、現在の見
年
1995年
1997年
2001年 〜2004年
2005年
以後
支援場所
支 援 者 等
避難所
行政、救援隊、災害ボランティア
仮設住宅
ふれあい推進員、生活援助員
復興住宅
高齢世帯支援員、地区社協
シルバーハウジング
LSA(生活援助員)、自治会等
復興住宅・シルバーハウジング
見守り推進員、見守りサポーター、
一般住宅
LSA、自治会、民生委員、地区社協
ルーム、見守り推進員、LSA、ICT
地域全体
民生委員、
自治会等、
ボランティア、地区社協
図1 被災地支援の変遷(筆者作成)
― 28 ―
守り推進員と同様の役割を担っている。2001年には高
この新しい被災地高齢者の見守り活動の成果や課題
齢化率が平均50%となる復興住宅と高齢化や一人暮ら
の変化について、峯本らは経年調査を行ってきた。そ
し世帯、高齢世帯が増加する地域全体の高齢者の見守
れらの調査では、見守り推進員の配置により、高齢者
りや地域団体や住民との連携を図ってコミュニティづ
の安否確認のための訪問活動によって高齢者の孤立を
くりを支援するため、在宅介護支援センター77ヶ所に
減らし、地域の集会室を活用したふれあいの場づくり
各1人見守り推進員を配置する事業を新たに開始した。
を育成し、民生委員、自治会、友愛訪問ボランティア
見守り推進員の採用にあたっては、看護師、介護福
など地域支援者間の連携などを促してきた成果を明ら
祉士、社会福祉士、ホームヘルパー等の資格を有す
かにしている。しかし、見守り推進員の職業背景は多
る、または高齢者福祉の実務経験者をその要件として
様でコミュニティ支援に関する経験が少ない者も多
いる。主な業務は、①小地域見守り連絡会議の開催 く、さらに委託法人内における配置転換等で長期的に
②高齢者生活情報 ③必要な見守りが得られない人へ
地域にかかわることができないため地域支援者との連
の一時的な定期訪問 ④見守り活動ボランティアの養
携に課題を抱える実態も浮かび上がった。立木はこの
成・育成である。被災高齢者に必要な生活不安の軽減、
地域活動事業についてA市保健福祉局の本事業の報告
孤独死の防止、福祉コミュニティをつくるための地域
書(2008)のなかで「A市の高齢者見守り活動は災害
支援、地域ネットワークづくりの一端などを担い、こ
時要援護者支援にどのように生かされるか」という標
れらの事業を社会福祉法人等に委託している。
題で平時のコミュニティづくりの重要性と今後の災害
在宅介護支援センターの見守り推進員の他に、直接
時活動への期待を述べている2)。
地域の高齢者を個別訪問する見守りサポーター78人を
その後、介護保険制度発足後、A市は日常の地域の
加えた体制で地域見守りを実施した。当初、復興基金
高齢者見守りの必要性から事業を継続し、介護保険制
による4年間の時限事業であったが、続く高齢者の孤独
度の改正とともに見守り推進員の配置を地域包括支援
死や孤立問題の対応から2005年後も体制を少しずつ変
センター(あんしんすこやかセンター、市内77ヶ所、
えながら高齢者見守りを制度化して今日に至っている。
以下、センター)に転換した。そこでは、根拠法の違
(あんしんすこやかセンター)
社会福祉士/保健師/主任介護支援専門員
見守り推進員
民生委員
地区社協
介護保険事業者
地域支援者
高齢者自立支援拠点
(あんしんすこやかルーム)
見守り推進員
図2 地域見守りシステム(筆者作成)
― 29 ―
い、財源の違い、さらに全センターを民間法人委託し
は自然発生的にできる場合と、他からの働き掛け、あ
ている状況で、2003年以降の個人情報保護の問題等さ
るいは意図的に形成されるものとある。いずれにして
まざまな事情により、センターにおける災害時対策と
も地域社会のネットワーク形成は、プライバシーの課
の協力・統合は難しくなっているとみられる。結果と
題を考慮しつつ、互いに助け合い、支え合うことが求
して、復興基金による復興新規事業「高齢者見守り推
められており、その機能と活用はこれからのまちづく
進事業」が改正介護保険制度の一つ・介護予防対策の
りにおいてもますます必要とされる。
業務に携わることに重点がおかれるようになってい
災害時の場合を取り上げると、高齢者は災害が起き
るのが実態である。A市では2006年に、さらに広範囲
る際の予知情報、避難情報、支援方法を理解すること
にきめ細かい高齢者見守り活動およびコミュニティづ
が困難になる。また、避難行動においては体力や精神
くりを目指して、公営住宅の空室を利用し、センター
力、身体機能の低下から速やかに移動することが難し
全77ヶ所のブランチ機関である高齢者自立支援拠点、
い。さらに、避難先で生命を維持するために何が必要
“あんしんすこやかルーム”(以下、“ルーム”)を設置
か理解し自覚することがうまくできない。そのために
し、地域支援者等とのネットワーク構築と高齢者見守
災害時に一次的に身近に救援する体制を整備するため
りや介護予防等を中心とした地域活動を展開しており、
に災害時要援護者として自ら登録申請をしておき、即
2013年現在、“ルーム”は市内に42ヶ所となっている。
対応できる状況をつくっておく必要があるだろう。復
興過程においても同様に情報不足、生活不安、孤立な
(2)地域ネットワークによる防災福祉コミュニティ
どの問題が続くため、継続的な見守りや生活支援が必
災害時には地域の助け合いが大きな力を発揮するこ
要である。このような高齢者の生活実態から平時に日
とは知られている。阪神淡路大震災においても家屋等
常の見守りや心身の状況を把握し、災害時に地域住民
の生き埋めになった者の83%が「家族・近隣の人」に
同士で避難援助をするため、また必要な医療や保健等
3)
救出されている報告がある 。救出を速やかにするに
の専門家の援助がすぐに提供できるような地域ネット
は平時から近隣の状況を把握していることが必要であ
ワークの構築と支援体制づくりが求められる。
る。そのためには地域におけるネットワークが大きな
一方、介護保険制度下での地域包括ケアにおける
鍵となる。リプナックとスタンプスは、
「ネットワー
ネットワークとは、
「生活圏域において高齢者への
キング」の用語で「われわれを結び付け、活動、希望、
サービスや支援が有機的に連携し合い、個々の高齢者
理想の分かち合いを可能にするリンクで、他人とのつ
に対して協働して支援していく体制」のことで、さま
ながりを形成するプロセス」とネットワークの定義を
ざまな団体や組織が網の目を作り、具体的には介護保
4)
している 。金子は、ネットワークの機能として、①
険による介護サービスや医療サービス、民生委員など
和合機能、②補完機能、③対立機能、④対立の緩衝の
地域住民活動がチームで取り組むことである。在宅高
4つをあげ、和合機能、補完機能、対立の緩衝のよう
齢者の生活を支えるため、また介護保険のケアプラン
な肯定的な側面だけでなく、対立機能というマイナス
作成のために、地域ネットワークは大きな要素となる。
5)
面も存在することを指摘しているが 、災害時には肯
これまでみてきたように、災害対策のためにも高齢
定的な側面が生かされることが多い。また、人が有す
者の地域包括ケアのためにも地域におけるネットワー
る関係網の全体を意味する社会ネットワークと、その
ク構築が重要であることは明らかである。A市の防災
ネットワークを介して交換されるソーシャルサポート
局は2006年に地域防災計画のなかで防災福祉コミュニ
を総称してソーシャルサポートネットワークという概
ティ形成を打ち出している。また、A市の福祉局は「A
念を用いることもある。地域で暮らすには、さまざま
市高齢者保健福祉計画2015」の中で、施策体系として
な人や資源のつながりを作るネットワークは助け合う
「地域見守り活動の充実・新たな担い手の育成」
「緊急時
コミュニティづくりに重要なものである。ここではむ
の要援護者対策の充実」を挙げている。市の防災報告書
しろソーシャルサポートネットワークに近い概念と捉
には市内全小学校区に自主防災組織が作られ、防災福
えることが適切であろう。つまり、日常生活および平
祉コミュニティが形成されていると記述されている6)。
時のサポート体制や災害時の態勢は、行政、専門機関、
防災福祉コミュニティとは阪神淡路大震災後の神戸
事業者、住民団体・組織、近隣住民による相互の助け
市の地域防災と従来の福祉コミュニティの統合を目指
合いが不可欠だということである。このネットワーク
した概念である。防災コミュニティは、自主防災組織
― 30 ―
による防災および災害時、災害後の助け合いを目的と
ティア等の住民活動などのインフォーマルな活動を含
しており、福祉コミュニティは高齢者や障害者など福
めた、地域のさまざまな資源を統合、ネットワーク化
祉サービス対象者と同じ地域に存在する支援者や支援
し、これらにより高齢者を継続的、かつ包括的に支援
機関とによる助け合いを意味している。このように同
するために協働することが必要である8)。
じコミュニティで防災が課題であれば「防災コミュニ
これに先立って設置されていた在宅介護支援セン
ティ」
、課題が福祉であれば「福祉コミュニティ」とな
ター(老人介護支援センター)の存在もある。1990年、
る。つまり、防災福祉コミュニティはどのような課題
老人福祉法に位置づけられた在宅介護支援センター
にも地域の繋がりを生かして支え合い助け合うことが
は、在宅の要援護高齢者もしくは要援護となるおそれ
望ましく、また可能とする構想を市が震災後に具現化
のある高齢者、またはその家族等からの在宅介護に関
7)
しようとしたものである 。
する相談に、社会福祉士や保健師、看護師や介護福祉
このような背景の中、高齢者見守り活動もまた震災
士、介護支援専門員等の専門職が総合的に応じるとと
後の高齢者の孤独死問題に端を発したコミュニティづ
もに、ニーズに対応した保健・福祉サービスが適宜受
くりである。孤立化防止や安否確認のためにセンター
けられるよう、市町村等関係行政機関、サービス実施
に見守り推進員を配置したことに加えて、2006年から
機関、居宅介護支援事業所等との連絡・調整を実施す
日常的によりきめ細かに見守りができるよう小地域活
る機関である。おおむね中学校区で24時間を通じて、
動の拠点として“ルーム”を展開することとなり、セン
緊急の相談に対しても適切な助言等の対応が図れる
ターのサテライトとして位置づけられている。
ことが設置要件である。つまり、各機関との連携を必
センターは地域住民の日常の安全と安心を守る身近
要とした機関の役割が示されている。介護保険の改正
な拠点、ワンストップサービスの窓口であるから、セ
後、在宅介護支援センターはセンターに転換していっ
ンターの地域ネットワークづくりに地域防災活動との
た自治体も多いが、サブセンター、ブランチ機能を
協働を図ることが効率的、効果的であり、住民そのも
もって地域包括ケアを担っているところもある。
のにとって自然で協働しやすい。また、防災と福祉は、
これら両センターは、地域住民にとって生活支援・
災害弱者といわれる者と福祉サービス利用者が対象者
介護に関する身近な相談機関であり、1か所で相談か
としてほぼ同じである。それらを含めて災害時要援護
らサービスの調整に至る機能を発揮するワンストップ
者の範疇とするならば、センター及びその高齢者地域
サービスの窓口であり、そのために地域各資源と連携
見守り活動は防災機関との連携と地域資源の協働を担
や協働が求められる重要な地域拠点である。要援護、
う一つの基盤になりうるといえる。
要介護者への支援や介護予防を目的としたこれらのセ
3.センターを基盤とする高齢者見守り支援事業
(1)センターを核とする地域ネットワーク
ンターにも災害時の備えが必要となった背景は、高齢
化が進み高齢者を地域で支え合う仕組みやまちづくり
が検討され始めたことにある。高齢化が進む地域にお
地域で生活する高齢者に対して身近な支援を行って
いては、地域の医療機関や保健機関、福祉施設など専
いる専門職の1つはセンターに配置されている見守り
門的な医療・福祉サービス事業者、とくに介護保険制
推進員であるが、その活動が効果をあげるためにはセ
度発足後、居宅介護支援事業所や介護保険施設関係機
ンターそのものの役割が大きいことは言うまでもな
関は、高齢者の実態把握と日常的な要援護高齢者との
い。そこでまず、地域支援の核となるセンターの役割
関わりから身近な存在として緊急時に対応、各地の災
等を確認しておこう。
害時に安否確認等で活動していることが実証されてい
2006年度から設置されたセンターは、地域包括ケ
る9)。また、これらの機関は地域ネットワークにおい
ア「高齢者が住み慣れた地域で継続して生活を送れる
て重要な役割を担っている。
ように支えるためには、個々の高齢者の状況やその変
1995年発生した阪神淡路大震災では、都市の高齢者
化に応じて、適切なサービス、多様な支援を提供」を
問題が顕著であった。一人暮らし、高齢者世帯の増加
実施する介護保険法による中核機関でおおむね生活圏
に加え、近隣や地域で情報が得られず、交流もない実
域を対象として、主任介護支援専門員等、社会福祉士
態があきらかになった。一方、震災による犠牲者に
等、保健師等の3職種で構成されている。地域包括ケア
もっとも活躍し、救出・救援したのは近隣であり、そ
には、保健・福祉・医療の専門的相互の連携、ボラン
の後の助け合いや支え合いに展開していったことも事
― 31 ―
実である。同じく1995年阪神淡路大震災では全国から
な対象者への訪問と“ルーム”に来室する人の相談に応
多くのボランティアが参加協力し、救援・支援にあ
じる、さらに地域支援者つまり民生委員、自治会役員
たった。この年を「ボランティア元年」と呼び、その
等と高齢者の実態把握や情報共有をしながら介護予防
後、市民参加活動が活発になり、1998年特定非営利活
とコミュニティづくり支援をすることが主な業務であ
動促進法(NPO法)制定、NPO法人化とともに民間活
る。
動が盛んになった。これらボランティア団体および
そこで、この項ではこの“ルーム”の活動実態と問題
NPO団体も地域ネットワークの重要な存在である。さ
点、今後の課題を“ルーム”に配置されている見守り推
らに近年、民生委員の役割はますます重要となってい
進員への調査をとおして明らかにしていく。“ルーム”
る。日常の要援護者の把握のみならず、災害時におけ
がセンターだけでは十分にできない高齢者の実態把
る対応が迫られ、2006年、民生委員制度90周年記念事
握、高齢者の生活問題の早期発見、さらに地域特性に
業として「民生委員・児童委員発“災害時一人も見逃さ
あった予防的支援や地域での災害時にどのように活用
ない運動”実践の手引き」を出して、災害時対応に取り
しうるか、
「地域見守り活動の実態調査―“ルーム”の活
10)
組み始めた 。このように民生委員および福祉協力員
動―」から、高齢者地域見守り活動の成果の検証とと
らは地域ネットワークの要とみられている。
もに課題の分析を試みる11)。
地域ネットワークを活用した防災・減災対策につい
“ルーム”の事例調査の結果は以下のとおりである。
て各自治体はその必要性を認識しており、その体制づ
・調査方法:郵送による質問紙調査(選択肢および記述)
くりを図っている。このような地域ネットワークが
・調査対象:A市内“ルーム”30ヶ所の見守り推進員(調
あって防災福祉コミュニティが機能するともいえる。
査当時の開設全数30)
しかし、核となるセンターは、開設から6年余経った今
・調査内容:基本属性・見守り推進員の経験年数およ
も地域防災活動とまだ十分に連携をとる
表1.回答者基本属性とルーム開設年数
に至っていない。先に述べたように“ルー
ム”は、センターに配置された見守り推
進員では担いきれない地域のネットワー
クづくりと見守りや介護予防への活用を
促進するために設置された地域の出先機
関つまりアウトリーチの拠点ともいえる
が、このようなアウトリーチ活動が防災
福祉コミュニティの実現を可能にしてい
くと考えられる。
(2)地域拠点“ルーム”に関する調査
前節で紹介したように、A市は2006年
から高齢者見守りの地域拠点“ルーム”を
センターのブランチとして市内に設置、
現在42ヶ所になっている。“ルーム”は開
設当初、公営住宅の空き室の活用から始
められたが、その後、廃園した幼稚園舎
や住宅地の長屋の一室を活用するなど形
態は多様化し、いかにもその地域のアウ
トリーチにふさわしい拠点が設けられて
いる。センターのブランチである“ルー
ム”は、週3回、午前10時から午後4時ま
でセンターに所属の見守り推進員が勤務
する。担当地域で心身の健康が気がかり
保有資格
社会福祉士
経験年数
ルーム開設時期 設置年数
0.5
平成20年12月
2
介護福祉士、介護支援専門員、
ヘルパー1級
1
平成21年 3月
2
介護福祉士、介護支援専門員、
5
平成19年12月
3
介護支援専門員
5
平成21年 3月
2
介護福祉士、介護支援専門員、
ヘルパー1級
4
平成20年 3月
3
社会福祉士、精神保健福祉士、
介護福祉士
0.6
平成21年 7月
1.5
なし
(元・企業労務管理)
10
平成19年10月
3.5
介護福祉士
4
平成20年12月
2
NA
5
平成18年12月
4
NA
2
平成19年 2月
4
13
平成22年 3月
1
介護福祉士、ヘルパー2級
5
平成22年 3月
1
介護福祉士
3
平成22年 1月
1
0.1
平成22年12月
0
平成18年12月
4
ヘルパー2級
介護福祉士、介護支援専門員
NA
NA
4
平成21年11月
1
介護福祉士
3
平成20年 3月
3
NA
7
平成22年 3月
1
准看護師、介護支援専門員、
調理師
1
平成22年 3月
1
(NA:無回答)
― 32 ―
び保有資格
表2.対象住宅の特徴
(複数回答)
対象住宅の特徴、地域連携の実態、担
特徴
当“ル ー ム”の 活 動、 訪 問 対 象 世 帯 の 特
空室率が高い
徴、来室相談内容、担当地域の住民活
回答数
割合
6
31.5%
1人暮らしが多い
12
63.1%
動、“ルーム”主体の活動と成果、担当地
自治会が高齢化
13
68.4%
域における災害時対策、災害時対策の必
付き合いが希薄
8
42.1%
要性、業務上の課題、困難な問題、活動
その他
5
26.3%
するうえで必要な知識・技術、担当地域
表3.ルームとの連携・協力
(複数回答)
の課題、行政への要望
連携関係者
回答数
割合
18
94.7%
福祉協力員
0
0.0%
自治会役員
11
57.9%
医療機関
2
10.5%
介護保険事業所
6
31.5%
地域包括支援センター
19
100.0%
友愛訪問ボランティア
11
57.9%
社協コーディネーター
14
73.7%
5
26.3%
・調査期間:平成23年1月〜3月
民生委員
・調査回収:19ヶ所19名から回収、有効回答は18名
(回収率60%)
・倫理配慮:同志社大学「人を対象とする研究」に関
する倫理審査委員会審査を経て実施
・調査結果:対象住宅では、高齢化率が63.9%に及ぶ
ところもあり、
「一人暮らし」
「高齢者世
帯」が多い、自治会の高齢化が進み、付
き合いも希薄になってきている。
その他
活 動 上 連 携 を と っ て い る の は、 セ ン
ター、民生委員、社協コーディネーター、
表4.ルームの活動実態
(複数回答)
自治会、友愛訪問ボランティアである。
活動内容
見守り推進員の主な活動は、
「訪問活動」
「来室者の相談」が最も多く、その他、
「地域住民による喫茶・食事会」
「介護予
防教室」である。
訪 問 世 帯 は、
「一人暮らし」
「介護保険
利用なし認定高齢者」
「精神疾患者等」
「老々介護」で、来室相談は、
「介護保険
について」
「生活の不安・話し相手」であ
割合
実態数
民生委員の訪問活動の
支援
6
31.5%
5〜480件
見守り推進員の暫定的
訪問
18
94.7%
3〜976件
地域住民のふれあい活
動支援
15
79.0%
3〜120件
センター開催の介護予
防教室支援
11
57.9%
1〜30件
ルーム来室者の相談
18
94.7%
6〜633件
7
36.8%
3〜60件
その他
る。住民主体の活動は、
「喫茶」
「カラオ
回答数
ケ」
「健康体操・リハビリ体操」
「食事会」
表5.災害時対策の有無
で、それによって「地域交流が広がった」
災害対策の有無
「楽しみ、励みになった」があげられた。
回答数
割合
10
52.6%
していない
5
26.3%
不明
1
5.3%
無回答
3
15.8%
している
“ルーム”主体つまり地域住民主導の活動
は、
「茶話会」
「歌・音楽」
「手芸・ものづく
り」
「健康体操」
「映画会」で、それにより
「閉じこもり防止」
「体力低下防止」
「仲間
づくり」
「生きがい」
「地域交流」があげら
れた。業務上の問題・課題は、
「“ルーム”の
場所や部屋の広さ」
「開室時間」
「住民・自
プ作成」
「要援護者リスト作成」である。
(3)ルームの高齢者見守り活動の成果と課題
治会との連携」があげられている。災害
以上の調査結果をまとめると、順次開設されている
対策に関する質問については、災害対策
“ルーム”は、場所によって開設間もないため、まだ地
をしている“ルーム”は10ヶ所あり、その内
域住民に周知されていない、活動がまだ十分できるに
容は「地域防災講習会、訓練」
「防災マッ
至っていないなどのばらつきがあり、成果を結論づけ
― 33 ―
ることは難しいが、ある一定年数を経た“ルーム”は見
くことが望まれる。
守り推進員の支援によって住民主体の活動が活発にな
おわりに
りコミュニティづくりや介護予防としての成果をあげ
ていることが明らかになった。他方、困難な問題とし
本研究では、被災地の高齢者問題から始まった地域
て、まず地域団体つまり自治会、町内会等との連携が
見守り活動はその後の介護保険制度下で介護予防活動
難しい地域も多く、本来のセンターのブランチ機能や
が加わり、その目的の住民活動支援に比重がおかれる
地域ネットワークづくりが進まないことがあげられて
傾向がうかがえ、福祉と防災の連携の難しさもみられ
いる。また、住民による催しや活動の場に参加するこ
た。今後さらに自由記述の回答を詳しく読み取り、見
と、また状況把握のための訪問を拒否する高齢者、さ
守り推進員の経験年数、資質と活動上の課題と関連を
まざまな心身の問題を抱えている高齢者にその傾向が
分析する必要がある。
多いことが支援課題となっている。さらに“ルーム”が
この“ルーム”の調査から全体をみるには十分ではな
週3回、短時間という勤務体制で、場所が立ち寄りにく
く、その後に開設した“ルーム”、開設から5年を経過し
いなどの問題も挙がっている。
た“ルーム”の活動を時系列で追うなどあらためて詳し
以上の調査から、住民の近くに見守りの拠点がある
く定点調査し、またその基幹であるセンターの果たす
ことでルーム利用につながり、訪問・来室によって安
べき役割にも注視しながら、地域見守りと地域ネット
否確認、閉じこもり防止、介護保険サービス利用、体
ワークづくり、防災福祉コミュニティのありようを検
力低下防止などに役立っている一方で、高齢化が進
証していかなければならない。そのような中で、東日
み、住民間での見守りの担い手がないことが問題と
本大震災による大規模災害が起こり、いよいよ福祉対
なっている。そのためセンターは地域ネットワークづ
策は防災対策のために何ができるのかが問い直される
くりが十分できない現状もある。
機会となっている。
災害時対策については、災害時対策は10ヶ所がある
引用文献
ことは調査結果で述べたが、その内容は年に一度の防
災訓練が実態で、災害時要援護者リスト作成をして
1)
内閣府防災担当、総務省消防庁、厚生労働省社
いるのは1か所であった。センター所属の見守り推進
会援護局「災害時要援護者の避難支援ガイドライ
員として災害対策の必要性を感じているかという質
ン」2006年
問に、18ヶ所が必要と回答している。そのために「行
2)
立木茂雄「地域減災しくみづくり検討会報告書」
政の協力が必要」と答えたのが4か所、
「必要と思うが
自治会のあり方が問題」と答えたところが1か所あっ
神戸市 2011年
3)
高梨成子「災害による生と死」大矢根淳、他編著
た。
「災害時要援護者リストの作成が必要」だと考えて
『災害社会学入門』弘文堂 2007年
いるところが3か所ある。その他の具体的な災害対策
4)
種村理太郎「災害とネットワーク」西尾祐吾、他
では「防災マップ作成」をあげているところが5か所あ
編著『災害福祉とは何か』ミネルヴァ書房 2010年
る。災害対策の必要を感じているが個人情報保護問題
5)
金子郁容『ネットワーキングへの招待』中公新書 や地域住民の意識の低さから進まないのが現状であ
1986年
る。また、見守り推進員やセンターがこの時点で災害
6)
神戸市高齢者保健福祉計画 2015年
時対応についての意識がまだ十分ではない実態がうか
7)
倉田和四生「防災福祉コミュニティ」ミネルヴァ
がえる。しかしながら、アウトリーチを目指した“ルー
書房 1999年
ム”の存在と見守り推進員の活動により介護予防と防
8)
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会「地
災の取り組みが少しずつ形となっていることが明らか
域包括支援センター等による地域包括ケアを実践
になった。
するネットワーク構築の進め方に関する調査研究
まだ拠点ができて年数が経たないこともあるが、見
事業報告書」2011年
守り推進員が地域支援者や住民とのネットワークを構
9)
白澤政和、他「東日本大震災における介護支援専
築する役割を担うには時間と専門的知識・技術を要す
門員および地域包括支援センター・在宅介護支援
る。また、行政が介護保険上の見守りだけでなく災害
センターの活動に関する調査報告書」2012年
時も視野に入れた見守り、柔軟な連携体制を図ってい
10)全国民生・児童委員協議会「民生委員・児童委員
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発“災害時一人も見逃さない運動”実践の手引き」
2006年
11)
峯本佳世子「あんしんすこやかルームの活動に関
する調査報告」2012年
参考文献
1)峯本佳世子「被災地における高齢者の孤独死防止
と生活支援」大阪人間科学大学紀要 第9号
2)
岡田直人、白澤政和、他「新潟県中越地震におけ
る要支援・要介護高齢者に対する危機管理の実態
と課題」
3)
岡田直人、白澤政和、峯本佳世子「東日本大震災
における居宅介護支援事業所と地域包括支援セン
ターによる利用者の安否確認の実態の比較と課
題」
『厚生の指標』第60巻第11号 2013年
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