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E
論文〕
Dec
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9
9
1
弘前大学経済研究第1
4
号
フランスにおける会計監査役制度の
成立過程に関する一考察
蟹
江
ニ
"
"ニ
早
り,会計的任務と 同時に,法律的任務をも帯び
I はじめに
ること になったのである。 6〕
具体的には,会計監査役は,商事会社法の規
フランス の法体系において,会計監査役とい
う職( comm
i
ss
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tauxcomptes)が,会社の
定に基づき年度財務諸表の監査を行う ことと さ
事業内容お よび法的形態に より有効に適合する
社の経営にかかわる各種の書類を調査する権限
形で具体化 されたのは, 1
966
年から 1
9
6
7
年にか
が与えられており
け ての諸法令の刷新 (
r
e
f
o
r
m
e)の過程におい
取締役会等に対して意見書を提出し,所見を示
てである とされ る
。 1) すなわち,商事会社に関
し
, 不都合な点について修正あるいは訂正を促
する 1
9
6
6年 7月2
4日付法律第 6
65
37号。 〈以下
すこと ができる〈第2
3
0条
〉
。 また,会計監査役
「商事会社法」という〉ならびに商事会社に関
は,会社の経営活動の継続を危うくするよ うな
する 1
9
6
7年 3月23日付大統領令第 6
7-23
6号3)に
あらゆる事項について,経営者らに説明言ど求め
おい て
, 会計監査役(commis
s
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ir
ea
ux comp-
3
01
条第 1項〉。さら
ることと されている(第2
t
e
s)が会社の一つ の独立機関 として位置づけら
れたことによる。これによって会計監査役は,
事実を,共和国検事 (
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cu
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u
rdel
aRepub-
会社とは独立の立場で会社を監督することにな
3
3条第
l
i
q
u
e)に通報 しなければならな い (第2
ったのである。 したが って,フランス におけ る
l項〉。
れてい る 〈
第2
28
条第 1項〉。それとともに,会
必要に応じて
に,職務遂行過程において明かとなった違法な
会計監査役制度が今日の体裁を整えたのは, こ
の時からであるといえよう。
(同第 3項
〉
,
これ らの任務を通じて,会計監査役は,会社
の会計および経営の正規性お よび合法性を証明
その後,会計監査役の任務の範囲は質 ・量 と
するとい うことになるのである。 7) こ うした監
もに拡大の道をたど っていく。特に質 という 点
査は, もはや株主の利益のみを保護することを
では,会社を単に会計的 ・算術的な面から監督
目的とするものではなく,会社全体さらには会
するだけではなく ,その経営の正規性 (
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-
社集団の利益に密接なかかわりを持つものであ
めのおよび合法性 (
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e
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e)を監査すること
:
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t
をも ,その任務に加えることになった。 5〕 つま
4)ここに経営の正規性とは,会社が彼る不可避的なリス
クを経営者が細心に評価し,それをコントロ ールしてい
ることとして理解される。そして,軽率さの故に リスク
負担を強いられたことに対しては罰が課される必要があ
るとされている (
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~
28 ~-
フランスにおける会計監査役制度の成立過程に関する一考察
(
Compagnie des
I
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s)にあるとされる。 10)そこでは,国王によ
に再編成 されたインド会社
る
。
フランスで監査に対する 要求が現れて きたの
は,そもそも旧体制(Anc
i
e
nRegime)下にお
って任命されその利益を保護するための検査官
(
i
n
spec
t
e
u
r)と, 株主総会によって選 出され
いて, 会社の財務諸表に対する株主の不安の表
明としてであったとされている 。
の
しかし なが
ら, 1
9
世紀半ばになる と
, 会社の規模および資
y
n
d
i
c)とい
株主の利益を保護す る共益委員(s
う2つの経営監督機闘が設けられた。 1
1)
本の拡大,活動の複雑化等の要因を背景に,監
この うち共益委員は,株主総会に対して独自
査への要求は新たな局面を迎える ことになった。
の会計報告を行うこと とされていたが,それは
という のは,会社の監督において会計の管理を
取締役による一般的な経営状況の報告と明確に
区別されていた。 1
2
)このことは,共益委員が取
重視する必要に迫られたからである。 9)
このため,特に会計についての知識に乏 しい
締役に対する批判的職能を果た していた ことを
株主による ,いわば自衛的な意味での監査では,
意味すると思われるが,会計報告を通じた会社
十分な機能を期待 し得ない こととなった もの と
の経営内容の監督は,よ り一般的な監視任務の
考えられる。 そこで,会計の専門家を選任し,
一部に過ぎなかった。 1
3
)
これに会計監査任務を与える こと によって,会
とこ ろで, 1
9世紀初めには, 株式合資会社
社の財務諸表の内容を検証させることになっ た
(
s
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c
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eencommaditepa
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t
i
o
n)は自 由に
のであろう 。
設立される こと がで、
きたとされている 。1
4)株式
こうし た経緯は,上で、述べた今日の会計監査
合資会社におい ては,無限責任社員(comman-
役制度が,株主主導の会社内部における 監視要
d
i
t
e)のみが経営者となり得る。 しかし,経営
求から出発し,発展したものであることを明ら
者が負う無限責任も,様々な利害関係者の利益
かにする。また,会社の監督が,株主および会
保護に とって 必ず しも十分なものとは考えられ
社自身から独立して機能するようになったの も
ていなかっ たよ うである 。そこで大きな権限を
この時から ということ になろう。 しか しながら,
持つ経営者を監視するために, 監査役会 (
c
on-
旧体制下において現れてきた監査要求が, 一足
s
e
i
ldes
u
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i
l
l
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n
c
e)という 機関を設けている
跳びに今 日の会計監査役制度へと発展 したなど
例がしばしば見られた。 しかしながら ,こ うし
と考える者はいないであろう。事実, 1
8
世紀半
た機関の構成員の選任は全 く任意であ り,また
ばか ら1
9世紀半ばにかけて,さらに 1
9
世紀半ば
何 らの法律的根拠もなかった。実際,その選任
9
6
6年の商事会社法の制定までの聞には,
から 1
の多くは会社の経営者の意に任されており,場
会社の 監督ないし会計監査に関 して の多くの議
合によっ ては,能力的に問題のある者が選任さ
論や試みがなさ れている。つまり, 歴史的に重
れたり, 経営者 との共謀の危険すらあ ったと さ
れる。 1
5)
要な展開があ ったのである。
以下では,そう した歴史的展開のー側面につ
いて の考察を試みる。
そもそも経営者に対する株主の不信感の現れ
として 監査役会 とい う機関が設けられたにもか
かわらず,こ うした現実は,問題 の解決には程
I
I 1
8世紀半ばから 1
9世紀半ばまでにおける
遠かった ことを窺わせる 。それどころか, 経営
会社の監督の展開
者と監査役会の構成員 との共謀が存在する とな
1.株式合資会社の監督機関
会計情報を通じた会社監督の起源は, 1
72
3年
8
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.,p.1
4.
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, p.1
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13
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.• pp.15-16
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1
4
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6.
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d
目
,pp.1
6-1
7.
1
5
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E
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t)の監督下に置かれることになってい
た
。1
8
〕しかし,株式会社に株主による監督機闘
れば,株主の利益に重大な損害を与えることに
なる。
いずれにしても,こうした法律的な裏付けの
ない任意の監督機関には,重大な限界が存在す
が設置されていたのは, 株式合資会社の場合と
同様で、あうた。
1
9
)
監督機関の役割は会社内部の要求に基づくもの
株式会社の監督機関と しては, 検閲官(c
e
ns
e
u
r)あるいは会計監査役がある。 20)
であったにすぎず,その任務も必ずしも十分明
確にされてはいなかったようである 。1
6)特に会
所有する株主の中から 2∼ 3人が選出される。
計監査の面では,それが他の任務とはっきり区
別されておらず,会計に関する専門的知識を有
全般の監視をその任務と し,そのために大きな
する者がその任にあたっていたかどうかも定か
権限が与えられている。この職務は,会計期間
ではない。
全般を通じて遂行されるもので,検閲官は,い
ることは否めない。また,この時点においては,
検閲官は,株主総会において一定数の株式を
そして,定款の遵守ならびに会社の経営活動の
上述のインド会社における共益委員の場合 と
ついかなる 時にでも会社の帳簿ならびに記録を
同様,監査役会設置の一義的目的は,あくまで
閲覧 ・調査する権限を持っている。また,取締
も経営者の行動の監視にあったと見られる。し
役会に出席し,そこで助言を与えることおよび
たがって,この時点での会計監査は,単にその
提案をすることもできる。特に会計の面では,
中のー要素にすぎず,会計情報の適正性ない し
いわゆる事前監査権を持ち,財務諸表が株主総
適法性の監査 という今日的な意味での会計監査
会に提出される前にこれを監査し,そ の結果に
ではなかったと考えなければならないであろう。
ついて報告書を作成しなければならない。さら
に,臨時株主総会の召集権も 与えられている 。
2
1
)
しかしながら,混乱状態あるいは問題を多 く
このように,検閲官は,会社の経営全般にわ
含んだ状態は,時として社会を動かす可能性を
8
3
8
年に議会によって提出された
持っている。 1
たる 監視をその職務 とし,そのために継続的な
法律案は, すべての株式合資会社に対する監査
職務の遂行を求められている。しかし ながら,
役会の設置義務を盛り込んでいた。そしてその
依然としてその職務の遂行にあたって,会計に
中で,監査役会の任務を法律上初めて明確に定
関する専門的知識が求められて いないとい うこ
義し,特に会計的役割をその中心に位置づけよ
とに注意しておかなければならない。
7)この法律案
うと してい ることが注目される。 1
これに対して,会計監査役は,検閲官同様株
は,株式合資会社に内在する多くの問題点を背
主の中から 2∼3人が選出されるが,その持ち
株数に条件が付される ことは希であった。 22〕そ
景とした,株式合資会社の廃止を含む法律案の
対案であった。結局,これら両法律案はいずれ
してその職務は,一時的で限定的なものである。
も廃案となったが,特に議会案によって示され
つまり,会計監査役の職務は,株主総会に提出
8
5
6年以降の監査役会の任務およ
た考え方は, 1
された財務諸表を監査することのみ℃、あり,そ
び会計監査についての立法化の過程において少
れも株主総会の開催中または終了後に行われる
なからぬ影響を与えることになるが,それにつ
にすぎないのである。そして,その結果を報告
するために新たに株主総会を召集する必要はな
いては後に触れる。
く,次の株主総会において報告がなされるのみ
2.株式会社の監督機関
株式会社(s
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eanonyrne)の設立は,株式
合資会社の場合とは異なり,国務院(c
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9
.
フランスにお ける会計監査役制度の成立過程に関する一考察
以上要するに,この当時の株式会社における
であった。 23)
監督の中心は,株式合資会社の場合と同様,経
会計監査役は,会計の監査のみをその職務と
するにもかかわらず,選任の条件として会計に
営者の行動の監視にあっ たということになろう。
関する専門的知識を持つことが求められている
このこと は,裏を返せば会計あるいは会計情報
わけで、はない。したがって, 検閲官と会計監査
の重要性が,今日ほど十分に認識されていなか
役の職務を比較した場合,後者の方が会社の監
ったという こと を意味するのかも しれない。 し
督機関 としての職能が脆弱であることは否めな
かし ながら,会計情報が会社の監督の一つの有
ι
。
、
効な手段であるという認識が,少なく とも 立法
ところが, このこと は会社の経営者に とって
者の中から芽生えてきたのではないかと推測す
はむ しろ好都合なのである。なぜなら,株式会
ることもできる。この推測は, 1
9世紀半ば以降
社において検閲官あるいは会計監査役という監
における会計監査をめぐる展開によって裏付け
督機闘が設置されるのは,株式合資会社の場合
られる。
と同様,経営者に対する株主の不信感がその背
I
I
I 1
9世紀後半における会計監査の展開
景 にあることは明かである。したがって,ここ
でも 監督機関設置の一義的な目的は,経営活動
1 株式合資会社における監査役会制度の展
全般の監視に置かれると考えられる。そうであ
るならば,株主の側からは検閲官を選択する方
開
前節で見たように, 1
9世紀の初めの株式合資
が その利益の保護にはより有用であろう 。
しかし,他方経営者の側からすれば,株主に
会社において
, 監査役会 という 経営活動の監督
よる厳格な経営活動の監視が快いものであるは
機闘が現れた。 しかし,それが有効に機能 して
ずはない。したがって,こう した監視から逃れ
いたかどうかは,はなはだ疑問であった。 監査
るためには,職務内容が会計の事後的監査に限
役会が何らの法的な裏付けも持っていなかった
定される会計監査役制度の選択がより利益にか
こと が,その最大の理由 であることは先に述べ
なうもの となろう。この意味で,一般的な傾向
た通りである。
として,検閲官よりも会計監査役の設置が選好
ところ が,株式合資会社を改革するために制
されたというのは,けだし 当然といわなければ
ならな い。
2
4
)
定された 1
8
5
6年法によって,やや事態に改善が
検閲官の職務の 中に会計情報の監査が明確に
社に対して監査役会の設置を義務づけたのであ
位置づけられてい ること ,また,会計情報の監
る。また,株主の中から株主自身によって選出
見られる。すなわち, この法律は,株式合資会
査を主たる職務 とする会計監査役の出現は注目
される 5人の構成員に 5年の任期を保証してい
に値する。しかしながら,これらはいす.れも ,
る。
均 このように, 監査役会に法律的な裏付け
会計監査とし、う職務を遂行するにあたって会計
を与える とと もに,構成員の選任権を経営者か
に関する専門的知識を求めら れていない。さら
ら株主の手に移す ことによって, 経営者 と監査
に,特に会計監査役については,その職務の内
役会との共謀による不正を防止する効果が期待
容は極めて不十分なものである。 したが って,
でき るようにな ったといえよう。この意味で,
これは,今日の商事会社法における会計監査役
経営者の行動を監視するという面からは,一定
とは似て非なるものであるといわなければなら
の前進があったと評価できる。
ない。
他方会計監査の面では,会計記録に基づく 諸
勘定の調査と株主総会への報告書の作成が,監
2
3
) た だ い 会 計 監 査 役にも検関宮同様,臨時妹主総会を
召集する権限は与えられていた。
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2
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1
.
- 31-
査役会の一つの職務と して 明確化 されている。 2の
するいかなる監視 も受け入れ難いものである こ
さらに,監査役会の職務が会計期間全体を通 じ
とに変わりはなく,いわんや株主ではない第三
て継続的に遂行されることになったため,財務
諸表を株主総会に提出する 前の,いわゆる事前
者に よる監視な ど論外であると い うこと なので
あろ う。
3
0
)
監査の実施が可能となっている。 2
7)この点は,
要するに,この時点、でも ,依然 として経営者
前述の株式会社の会計監査役の職務のように,
に対する不信感を背景 とした経営活動の監視 こ
これまで会計監査が事後監査であったのと大き
そが会社の監督の第一義的目 的であり,そ のた
く異なる点であ り,前進である と評価できる。
めに特別な能力は必要でな いと考えられて いた
ところ が,実際には, もっと大幅な前進をも
のかもしれな い
。 特に,会計専門家の導入の可
たらし得 るよ うな議論がなされていたのである 。
能性を持った案が拒絶されたのは,会計あるい
残念ながら,そうした議論はあまりにも急進的
は会計情報の重要性が十分認識されてい なかっ
すぎて多くの支持を得られず,実現 しなか った
た こと を物語っているのであろうか。それとも,
のである。 しかしながら ,そこ には,注目すべ
ただ単に立法者と 株主 との聞に 「
認識の時差」
き思想が見られるのでこれについてごく 簡単に
があっただけなのであろうか。 この疑問に対す
触れてお きたい
。
る答は, この後の展開の考察の中で明らかにな
それらの議論は,要するに,会社の監督機関
るものと思う。
ところで, 1
8
5
6年法は,会社に対 して毎年財
を会社 とは別個の機関と して設定し,さ らに,
その構成員の 中に知事 (
p
re
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n
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)
産目録 (
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nvent
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r
e)を作成する こと を義務づ
によって任命された者を含めようというもので
あっ た
。 28)こうすることによって, 監督機関の
主総会に提出するという任務を与えている。 31)
け,監査役会には,それについての報告書を株
独立性とその構成員についての一定の能力を確
しかし,こ の任務は,財産目録が正確に作成さ
保する ,特に会計に関する専門的知識を持つ者
れていないと思われる場合に,その旨を株主総
を選任する こと ができると考えられたのであ
会に報告する とい うものにすぎなかった。立法
る
。 29)独立性の確保はともかく ,この方法に よ
過程における原案において,財産目録の監督と
って果たして本当 に専門的知識を持つ者が選任
実地棚卸への監査役会の直接的関与が検討され
されるかどうかは疑問な しとし ないが,いずれ
ていたが,こうした行為は経営への干渉につな
がる とし て排除された結果で、ある。 3
2)
にしてもその考え方自体は注目に値しよう 。
しかし,こうした提案は当時の会社の監督に
また当時,株式合資会社においては,経営者
対する認識から す ると,あまりにも急な意識改
が株主との信頼関係を維持するために擬制配当
革を伴うものだったのだろう。会社の経営者の
(
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t
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)を実施することが常態化 し
みならず株主からも支持を得られず,実現する
ていたと される。 33)これは,いわゆる蛸配当で
ことはなかったのである。株主の聞にも,会社
あり ,会社の経営成績を偽 り資本を喰いつぶ し
の監督はあくまでも会社内部の問題であり ,株
て配当を行っ ていたわけである。 こうした事態
主自らが対処すべき問題であるという意識が根
強か ったように思われる。したがって,外部の
を改善するため, 1
8
5
6年法は,監査役会に対 し
第三者が介入することに抵抗があったのであろ
配当案につい ての意見を述べさせることとした
のである 。
3
4
)
う。他方経営者の側からすれば,経営活動に関
て報告書を提出し, 経営者に よって提案される
3
0
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- 32ー
フランスにおける会計監査役制度の成立過程に関する一考察
これらの新たな任務を与えられたことによっ
任会社( s
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esponsabi
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て,監査役会の構成員たちは,同時に刑事責任
J
i
m
i
t
e
e)が導入されたのである。 37)株式有限責
を含む重大な責任を負う こと になった。つまり ,
任会社の仕組みは株式会社のそれに近いが,そ
財産目録の不正確さを報告しなかった場合,あ
の設立は株式会社とは違って自由であった。
るいは,擬制配当であることを知りながらこれ
株式有限責任会社における 監督機関 としては,
を承認 した場合に,株主およびその他の第三者
前述の 1
8
5
6年法の規定とイギリスの 1
85
6年法に
に対して経営者 と連帯して責任を負わなければ
ならな いのである。 35)
よる制度を同時に考慮 したものが設けられた。
拘
しかしなが ら,こうした責任は,監査役会に
(commiss
a
i
r
e
り 株式合資会
des
u
r
v
e
i
l
l
a
n
c
e)と呼ばれてお ,
これは,
一般には「監視委員」
認めら れている権限および手続きの範囲から す
社の 監査役会の構成員 と同様株主総会に よって
ると ,やや重すぎるように思われる。というの
選 出される こと になっ ていた。 しかしな がら ,
も,第ーに,財産目 録を作成するための前提で
一人以上を選出すればよく , また,その任期も
ある実地棚卸に直接関与することなしに,その
一会計期間と短縮されている。さらに,監視委
正確性を的確に判定する とい うのはかなり困難
員は株主であるか否かを問われないこととされ
なことである。第二に,財産の有高を基礎とし
た。このため,監視委員の職務遂行にふさわ し
た配当の合理性あるいは適正性の判定にあたっ
い能力を持つ者を選任する 道が聞かれた という
ては,財産目録の正確性を前提とすることにな
意味で,わずかながら進展があったということ
る。ところが,財産目録の正確性の判定自体が
になろう。明 監 視 委 員 は,会社の経営者によっ
困難である以上,配当について的確な判断を下
て提出される 会社の状況,貸借対照表およ び損
すことは容易なことではない。ましてや会計に
益計算書について報告書を作成し,これを株主
関する専門的な知識を持ちあわせていない者に
とっては, これは過酷な責任追求ということに
総会に提出する任を負っている。 このために監
なろう。
記録や経営活動について調査を行う権限を与え
視委員は,期間中を通じていつでも会社の会計
監査役会にこのような過重な責任が課された
られていた。他方会社には,必要な書類を作成
ことにより,株式合資会社に対する 魅力は急激
し
, 監視委員に提出することが義務づけられる
に薄れ,その設立が激減 したといわれる 。
3
6)し
ことと なった。また,株主総会は必ず監視委員
か し,先にも述べたが, ある種の混乱状態は,
を選出しなければなら ないため,もしそれを怠
場合に よっては社会を変革するためのエネルギ
ったま まで財務諸表の承認にかかわる総会を開
ーとなることもある。実際, 1
8
6
3年には,新た
催した場合,そこでの承認決議は無効となる 。
4
0)
な展開が始まる ことになるのである。
つま,
り 監査を受けていない財務諸表の承認は
認め られないと h うことを意味 しよう。
2.株式有限責任会社における監視委員制度
の展開
この ように,法律上は会計監査の存在意義が
十分認識さ れており,これを行 う藍視委員の職
監査役会の責任に対する法律の柔軟な解釈 ・
’
務,権限ならびに地位も これ までに比べて 明確
適用によ って,薄れかけた株式合資会社の魅力
化されているように思われる 。その一方で, 監
を取り戻そうと 、
し う努力が失敗に終わったこ と
視委員の責任については,1
8
5
6年法の反省に立
から,会社法の改革は新たな方向に向かつて動
って かな り緩和されており, 民事上の責任のみ
き出す ことになった。すなわち,1
8
6
3年法によ
って,イギリスの制度に範をとった株式有限責
3
5
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, pp.23-24.
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,p.24.
4
0
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.24.
3.株式会社における会計監査役制度の展開
が問われるこ ととなった。 41〕
監視委員の職務の範囲拡大および権限の強化
フランスの法体系の中に,今日の会計監査役
がなされ,特に,経営活動の内部にまで踏み込
制度が生まれる土壌を築いた1
86
3
年法は,わず
んだ調査権限が与えられている こと から,当然
か 4年でその使命を終えることになる。すなわ
ながら経営者 との聞に対立が生まれる こと にな
ち
, 1
8
6
7年にこの法律の主旨を継承しながらこ
った。実際,議論の過程においては,監視委員
れを廃止 し
, さらに 1
8
5
6年法を発展させた法律
の存在を過剰な尋問者( i
nq
u
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si
t
e
ur
〕と して振
が制定されたのである。この 1
8
6
7
年法は,株式
る舞う「厄介者」( i
n
t
r
us
)とする見方もあった。
会社の設立を自由化するとともに,株式有限責
しかし,逆に,たとえ監視委員の調査が経営者
任会社における監視委員制度を会計監査役制度
にとって迷惑なものであったと しても,それが
として株式会社に導入 した
。
会社の活動を麻簿させるようなものでなければ
会計監査役の選任,会計監査役による財務諸
特に問題ではないという考え方もあった。結局,
表等に関する株主総会への報告任務,株主総会
監視委員が過失を犯し,あるいは過度の介入を
における財務諸表の承認前の会計監査の義務づ
した場合に,経営者がこれに対抗するあらゆる
け等については, 1
8
6
3年法の規定がほぼそのま
権利を留保するという条件で,この監視委員制
ま引き継がれている。また,会計監査役の責任
度が維持されることとなったのである。 4
3)
についても ,同じく民事責任のみに限定されて
し
、
る
。 46)
以上見てきたように, 1
8
6
3年法によって, フ
ランスの法制度上会計監査を主たる任務とする
ところで, 1
86
3年法において見られる「会社
監督機関が設けられることとなった。しかしこ
の状況」( s
it
ua
t
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o
c
i
e
tめとし、う概念は,
の機関は,今日の商事会社法上の会計監査役と
その内容が必ず しも明確で、はなかった。このた
は徴かな面影を共有 していたにすぎない。 44〕つ
めもあってか,会社の状況の判断にあたっては
まり ,その職務にあたる者に会計に関する専門
経営活動自体に踏み込むことなく ,貸借対照表
的知識や経験を求めていないため,監督機関と
および損益計算書と実際の状況との単なる突き
して有効に機能するかどうか疑問が残るのであ
合わせが行われていたにすぎなかった。 47)こう
る
。
した現状に対 しては, 「
経営活動自体について
とはいえ,監視委員 となる者の資格を株主以
の判断を行わずに,実際の状況,貸借対照表お
外の者にまで、広げたこ とにより ,会社の外部の
よび損益計算書の確認を行う こと は,原因分析
専門家の選任に道を聞くこ とになった。 この時
をぜずに結果を判断するようなものである。し
点では, まだ今日の商事会社法上の会計監査役
たがって,もし このような確認に限定されるの
制度の芽生え とまでいうことはできないかも し
なら,その報告は不十分なもの となろう」48〕と
れない。 しかし,少なく とも,新たな種を蒔く
の批判が当然予想される。
ために土を耕すという 作業は終わった といえる
のではないだろうか。 したがっ て
, 18
6
3年を,
今 日の会計監査役制度の制度的原点と して評価
してもよいのではないだろうか。 45〕
こうした批判は,すなわち,会計監査役の職
務範囲をかなり広く捉え,経営活動の中に踏み
込んで会社の状況を判断すベし, ということを
示唆 しているもの と見ることができょう。 1
8
6
7
年法の立法過程においても このような意見がな
4
1
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d. pp.2
5
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6
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2
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- 34
かったわけではないだろ うが,残念ながらそれ
が具体的な規定と して現れてはいない。 49)わず
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6
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5.
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7
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フランスにおける会計監査役制度の成立過程に関する一考察
かに株主以外の者を会計監査役に選任する こと
いて会計の経営管理用具 として の重要性に対す
を認めていることが,会社の状況をより的確に
る認識が芽生えてきたことの現れであるといえ
判断するのにふさわ しい能力を持った者をその
ないて、あろうか。つまり ,会計監査役による会
職務にあたらせる可能性を残しているにすぎな
計の厳格な監督が,そのまま経営活動そのもの
し
、
。
に対する監督につながる こと への危機感の大き
先に, 1
8
6
7
年法は 1
8
6
3年法の主旨を継承 し
,
さがこうした抵抗となって現れた,と考えるの
1
8
5
6年法を発展させたものであると述べたが,
はあまりにも穿ち過ぎであろうか。
実は,会計監査役の職務遂行条件に関 して, か
また他方で,会社の監督を会社内部の問題で
なり大幅な後退が盛り込まれていることを指摘
あるとする旧来の考え方を打ち破ることはでき
しておかなければならない。第一に,会計監査
ず,会計監査役制度を株主による経営者の監視
役の職務が一時的なものに制限されていること
活動か ら切り離すには至っていないといわなけ
8
5
6年法および 1
8
6
3年法にお
である。つまり , 1
ればならないであろう。このことは,会計監査
いては,監査役会および監視委員は,会計期間
役の選任にあたって,会計専門家の導入を義務
中を通じていつでも会社の会計記録や経営活動
づける規定を欠いていたことから明かである。
についての調査を実施する権限を与えられてい
8
6
7年法はいくつかの問題点を
このように, 1
た。これが 1
8
6
7年法における会計監査役につい
8
5
6年法ならびに 1
8
7
3年法
内包してはいたが, 1
ては,株主総会の召集に先立つ 3ヶ月間に限定
の規定を整理 し,その後幾度かの改正を経なが
されているのである。 50
)
ら, 1
9
6
6年の商事会社法制定までの l世紀にわ
第二に,会計監査役に財産目録,貸借対照表
たって株式会社についての基本法としての地位
および損益計算書が渡されるのは,株主総会開
を維持し続けていくのである。そしてそれは,
0目前であるのに,監査報告書は株
催のわずか4
必ずしも 十分でなかったとはいえ,今 日の株式
主総会の 1
5日前に提出されなければならない。
会社における会計監査役制度の基礎を形成した
したがって,実際に監査を実施する時聞は極め
という意味で,一応の評価を与えられるべきも
て限定される こと になり ,監査の実効に疑義が
のであろう 。
生じるような状況になっ ている。 51)
これらの会計監査役の職務遂行条件の悪化は
,
I
V 20
世紀前半における会計監査役制度の
主に会社の経営者によるあらゆる監視に対する
展開
抵抗の結果であると考えられる。経営者が,会
86
7
年法
い くつかの間題点を残しながらも , 1
計監査役に大きな権限を無条件で与える こと は,
会計記録や経営活動の調査を通じて経営活動自
によって一応の基礎が築かれた会計監査役制度
体への過度の介入を許す こと になる , という危
をめぐる議論は,それらの問題点の解消へ向け
俣の念を抱 くこと は当然のことである 。むしろ,
た新たな局面へと移ってい く。そこ での議論は,
こうした圧力に屈 してしまった立法者の側に責
おおよそ次の 2点、に集約されると考えてよいで
怪がある と言うべきかも しれな い
。
あろう。 すなわち,会計監査役の( 1)資格要件 と
1
8
6
7年法は株式会社の監督という点において,
一方で経営者側からの抵抗に遭い必ずしも 十分
独立性の確保および(2)職務の内容とその範囲で
な成果を上げているとはいえない。しか しこの
以下, これらの問題に関する議論の展開につ
ことは,少 し見方を変えれば,経営者の側にお
ある 。
いて見て い くことにする。
49) I
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i
d.
,p.27.
b
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d
.
, p.2
8
.
5
0
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d.
,p.2
8
.
51
)I
1.会計監査役の資格要件と 独立性の確保
ここまでの考察で明らかなように,会社の監
- 3
5ー
督の必要性は以前から十分に認識されていたよ
関心事となり ,これをめぐって の議論が盛んに
うに思われるが,それはあくまでも会社内部の
行われるようになる。また,独立性の確保の前
問題 として捉えられていたに過ぎなし、。そこで
提の一つである会計監査役の能力お よび資質の
は,経営者の行動をいかに監視するかという点
向上という点では,会計監査役の職務を遂行す
に最大の関心があった。こうした状況にあって
るのに必要な能力を備えた会計専門家が出現し
てきた。 53)
は,会計監査は経営活動自体を監視するための
しかしながら,その後の立法過程において,
1
9
12
年には, パリ公認会計士協会(Compag
n
i
ed
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s)が設
会社の監督の中心課題が経営者行動の監視から,
9
2
2年 5月2
2日付大統領令は,
立された。また, 1
会社の財産や経営成績の監視に移ってきたとい
国家公認会計士免許(b
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lE
t
a
t)を創設することにな
ー要素に過ぎなかったのである。
うことが窺われる。特に株式会社の会計監査役
に見られるように,会計事項の監査がその職務
る
。 54〕こうして法的にその地位を保証された公
の中心と なり ,むしろ会計の監督を通じた経営
認会計士は,自ら の活動領域を拡大するために
活動の監督といった趣が感じられるようになっ
積極的に会計監査役業務への接近を試みる。こ
た。こうした傾向そのものは注目すべきもので
のような動きは,会計監査役による会社の監督
ある。また,株式会社の発達に伴い,必然的に
がもはや会社内部の問題にとどまることを許さ
こうした傾向が強まることにもなろう。
ず,またその内容についても会計監査を中心的
ただ一つ問題なのは,上でも何度か触れたが,
な位置へと導いたといえよう。実際,会計監査
会計監査役として会計専門家を選任することが
役の真の独立性を確保するために,その選任権
法律上義務づけられていないということである。
を株主の権利から分離し,株主とは別の独立し
つまり ,会計に関する専門知識を持たない者が,
本当に実効のある会計監査を行い得るのかとい
た監視機闘を設置するという提案がなされてい
5)こう した考え方はさらに,会計監査役。
る
。5
う疑問が残る のである。そればかりか,いわゆ
中に公認会計士あるいは裁判所の作成したリス
るプロフェショナリズムの欠如は,特に精神面
トに掲載されてい る者を含めるべきである,と
いう提案へ と進展していく。 56)
において,会計監査役の経営者に対する立場を
しかし その一方で,会計監査役 と公認会計士
弱める恐れがある。会計監査役の精神的独立性
の欠如の問題を生じせしめるのである。これは,
のような会計専門家 とを 明確に区別すベ し,と
単に会計監査の実効性を失わせるばかりか,延
の主張が見られるようになる。会計監査役は,
いては会社に対する監督そのものをも損なうこ
単に会社から会計の管理を受託してこれを行う
とになる。実際,経営者たちはこうした会計監
者ではなく ,いわば公共的な責務を担って社会
査役の資格要件の欠如を利用して自らに有利な
的利益の保護 という 観点からその職務を遂行す
人選を行うことぬおろか,会計監査役の報告書
べき者である。 このような意味から,会計監査
を自らの手で作成することさえ可能であったと
いわれる。 52)このよ うな会計的基礎のない会計
役をいわゆる会計専門家 という 概念よりも高次
監査役を選任することに起因する独立性の欠如
の概念として位置づけ,その職務により高い権
威を与え ようとの意図が窺われる。 57)会計監査
が,批判と危倶の念を引き起こしたのは当然の
役の職業組織の設立や会計監査人名簿への登録
ことである。
こうした事情を背景として, 2
0
世紀の初め頃
から会計監査役の独立性の確保が一つの大きな
5
2
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'pp.33-34.
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4
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d
. pp.39-40.
5
7
)I
フランスにおける会計監査役制度の成立過程に関すろ一考察
とで、ある。 じか しこ の職務を遂行するにあた っ
制度な どは, こめ考え方の延長線上にあるも の
とい元 ょ う
。 58)
て
, 会計監査役に必ず しも
ァ十分な調査権限が付
会計監査役の能力 や資質を高める こと に よっ
与 されてい なかっ た
。 つま ,
り 会計監査役は,
て,特に精神面で の独立性を確保する こと はあ
会社が作成 した財務諸表について いわば表面的
t
t
る程度可能であ ろう。し かし
, 会計監査役が公
な数値合わ vせを行い
, その結果を株主総会に報
共的機能(f
o
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np
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b
l
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u
e
〕を果たす?こと を
告寸るに過ぎなかっ たとい うのが実状であろう 。
このような状況は当然ながら批判の対象 とな
期待されてい るならば,第三者から見た外見的
な独立性が保証される こと もまた必要で、あろう 。
;
り,会計監査役に会社の経営活動についての価
こうしたいわゆる形式的独立性は,会計監査役
値判断をさせるべきである という主張がなされ
と彼が実際に職務を行 う会社 との関係に依存す
るようになる。例えば, 1
9
07
年のナンシ ー控訴
る。すなわち,会計監査役が会社と特別な利害
院 (
Co
u
rd
'app巴ldeNa
nc
y)の一つの判決は,
関係を持つ場公には,仮にその職務が全く公正
会社の監督を行う者の役割を広く捉えて,経営
!
こ行われていた として も,第三者の自にはある
者の不正行為を株主総会に報告することをもそ
の範囲に含めるべきである とし た。このために
種の疑惑が生 じてもやむを得ない面がある。
は,経営活動そのものについての判断を行う こ
したがって, こうした疑惑が生じないように,
会計監査役の選任にあた っての失格事由(c
om-
とが,当然に求めら れる こと になる。附
めを設けておく必要がある。 1
9
3
5年 8
p
a
t
ib
i
l
i
t
これとは逆に,株式会社における会計監査役
月 8日付大統領令は,ほぼ今日の商事会社法に
の介入(i
n
t
er
ven
ti
on)を,主に会計的な側面だ
規定されている ものに近い欠格事由を定めてい
る
。 59)
けに限定 しよう という考え方 も見られた。例え
以上の よ うな議論および経過を経て,会計監
;
c
omme
r
c
ede'
Lyon
)の決定は,会計監査役の
査役の独立性の確保を念頭に置いた資格要件の
ば, 1
9
1
4年のリ ヨン商事裁判所 (t
r
i
b
u
n
a
lde
役割を,記録 とそれを裏付け る証患 との一致の
!
検証にあると した
。 61)つま り,会計監査役に経
大枠が定められてきたのである 。
営活動に踏み込んだ判断を求めず,結果の形式
τ
2.会計監査役の職務の内容と範囲
すでに見た ように,株式合資会社に初めて法
的な一致の検証だけにその職務範囲を限定じ
いるのである。
また, 1
9
3
2年のパリ裁判所の判決は,こ れら
律的裏付けを持.
つ監督機関が設けられて以来,
ほぼ一貫 して会計監査がその職務の一部と して
2つの主張の中聞に位置するものと して注目さ
含まれている。 しか し
, その実施時期,内容,
れ る。それに よれば,会計監査役は記録の実在
範囲ある いは職務権限に厳 しい制限が設けられ
性を検証しなければならず,会社の!
実態を隠置
ていたため,その実効性に疑問が残るものであ
するような会計的操作が存在すれば, それを株
った。こう した状、況の改善に 向けた議論は,2
0
主総会に報告しなければならないと している 。
世紀に入ると特に株式会社の会計監査役につい
これを文字通り解釈すれば,経営活動とその結
て盛んになる。
果と しての会計記録を突き合わせて,その真実
1
8
6
7年法によれば,会計監査役の主たる職務
土,会社の状況について株主総会に報告する こ
‘
性を検証する ことになる 。 したがって,こ のた
めには,経営活動そのョ
ものにある程度踏み込ん
5
8
)これらの点については,拙稿 f
フランスにおける会計
監査役の職業組繊の意義」『文経論議』 (
弘前大学)第2
5
‘
巻 1 2合併号を参照さ土しだい。 ’
59)この点については,相稿「フランスにおける会計監査
役と独立性J『弘前大学経済研究』第 13号を参照された
で判断することが必要となるものと思われる 。
J
ただし 同判決は同時に,企業の経営自体に不当
に介入したり , また,会計記録にみら れ る資金
ν
。
、
6
0
)I
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.,
.
・
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.31-3
2
.
6
1
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.,
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.3
2
.
−恒一
の変動の原因事実およびその妥当性について調
実性(s
inc
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it
e
)
, さらに取締役会の報告書に
査あるいは評価すべきではないとしている。問
記載されている財務諸表に関する情報の正確性
(
e
x
a
c
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i
t
u
d
e)を監査するものとされている。的
この判決には一見矛盾が存在するようにも思
われるが,会計監査役が経営活動自体に接近す
同じくこの大統領令によって,取締役会に対
る入口を,会計上の疑義の解明という点だけに
して財産自 録,貸借対照表および損益計算書に
限定してい るものと解釈することができる。会
加えて, 会社の経営活動に関する株主向け報告
計監査役の職務と会社の経営との聞に明確な一
書の作成が義務づけられた。これにともなって,
線を画することは,会計監査役の独立性を確保
会計監査役は会社の状況に関する報告書を株主
するためにも望ましいことである。また,会計
総会に提出する義務を解かれている。その代わ
監査上の必要性に基づく権限行使が正当化され
たということは,会社の経営管理における会計
りに,会計監査役は自らに与えられている任務
の遂行状況を株主総会に報告すること,ならぴ
の果たす役割の大きさが認識さ れてきたことを
にその職務遂行上において発見した規則違反お
意味する。会社の監督が,経営者行動の直接的
監視から会計情報主導の監視へとその焦点が移
よび不正確な事実を明らかにする義務を課され
7)
ることになった。 6
ったことを示していると考えられるのである。
こうした状、
況 を反映して,会計監査役の職務
報告という取締役会の責任と,独立の立場から
株主から付託された経営の遂行とその結果の
内容の充実と範囲の拡大によって,会計監査役
取締役会の職務遂行状況ならびに報告内容を批
による監督機能を強化しようという議論が盛ん
判的に検証し,それを株主総会に報告する会計
になる。最も重要なのは, 1
8
6
7
年法によって実
監査役の職務が明確に区別された。これは,一
施期聞が限定されてしまった職務を,再び会計
見会計監査役の職務範囲を限定 してい るように
期間全体を通じた継続的職務として確立しよう
見える が,職務の専門化を 図ることによって,
という ものである。 6
3
〕これは,会計監査役の権
むしろその内容の充実と権限の強化が達成され
限を強化するために重大な意味を持つと思われ,
現行の商事会社法にも引き継がれている 。
6
4)た
ているといえよう。
だし一つ注意すべきは,先にも触れたが,会計
v むすびにかえて
監査役による経営調査権限の行使は,常に経営
への不当な介入につながる恐れのある極めて微
フランスにおける会社の監督は,そもそも株
妙な問題である。したがって,いわゆる経営へ
の非干渉(n
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主等の経営者に対する不信感を背景として始ま
原則を確認しておかなければならない。現行の
6
5
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商事会社法もこの点を明示している 。
者が株主等の利益を損なう行為を行っていない
さて,以上のような経過を経て,前掲 1
9
3
5年
そのものの監視に主眼を置いて展開されて来た
8月 8日付大統領令によって 1
8
6
7
年法が改正さ
れ,会計監査役の職務内容が法律上明確に規定
のである。そして,こうした監督のー要素とし
されることになる。それによれば,会計監査役
と考えられる。
った。つまり,監督の第一義的な目的は,経営
かを監視することであり,それは経営者の行為
て
, 会計情報の監査が行われて いたに過 ぎない
は会社の帳簿や財産などを検証するとともに
したがって,会計監査という面においては,
財産目録および貸借対照表の正規性ならびに誠
いわゆる会計監査人に会計に関する専門的な能
力が求められて いなかったり,あるいは職務権
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- 38ー
フランスにおける会計監査役制度の成立過程に関する一考察
を指摘しなければならなし、。このため,会計監
査が有効に実施されていたかどうかは疑問であ
る。このことは,会社の監督における会計監査
の役割が二次的にしか認識されて いなかったと
いうことを示している。
こうした状況は,特に株式会社の発達にとも
なう監督および利害関係の複雑化によって変化
せざるを得なかった。実際, 2
0世紀に入ると ,
法律によって会計監査役と しての地位を与えら
れるべき会計監査人の資格要件,独立性,そ し
て会計監査役の職務内容等についての議論が行
われるようになった。そ して,ここで初めて現
行の商事会社法等に見られる諸規定の基礎が築
かれることとなったのである。
そして, 1
9
6
6年の商事会社法および 1
9
67
年の
同法律適用令等の制定により,フランスにおけ
る会計監査役制度はその大枠を完成させた。そ
の後,会社の会計を取り巻く経済的,社会的あ
るいは国際的な環境の変化に応じて,幾度かの
見直しを経て今日に至っているのである。
その内容は,会計情報の正規性や誠実性の検
証を目的としている。 したがって,その職務は,
会計に関する専門的な知識と経験を有する者に
よって行われなければならなし、。さらに,会計
監査役は,会計監査を通じて会社の経営状態の
健全性に注意を払い,経営難や倒産を予防する
という任務をも負うようになっている。
こうした内容を持つ会計監査役監査は, 1
9世
紀頃の経営者の行為を監視するというものとは
明らかに性格を異に してい る。すなわち,会計
監査と経営者の監視とが区別されることによっ
て,より専門的で高度な会計監査が実施され得
るようになったといえよう。
会社が社会的存在として社外に多くの利害関
係者を持つようになれば,単に社内的な要求に
基づいて経営者を監視するだけではなく ,会社
の経営内容を適正に公表するということが重要
になる。そのためには会計情報が極めて重要な
役割を演じ,会計監査が不可分の存在 としてそ
の地位を確保するこ とになるのである。
- 39ー
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