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草の根外交官:共生と絆のために ~我が国の海外ボランティア事業

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草の根外交官:共生と絆のために ~我が国の海外ボランティア事業
草の根外交官:共生と絆のために
~我が国の海外ボランティア事業~
平成 23 年7月
外 務 省
【ポイント】
1.(なぜ事業のあり方の見直しを行ったのか)
● 事業開始から約半世紀を経た我が国の海外ボランティア事業,特にその中核である青年
海外協力隊事業について,過去 10 年以上にわたる ODA 予算の削減傾向,行政刷新会議の事
業仕分けにおける指摘等の状況を踏まえ,我が国の国家戦略及び外交・開発協力政策の観
点から,我が国の海外ボランティア事業の政策目的を改めて問い直し,国民,NGO,経済界,
地方の方々の意見を聴取し,新政策を策定した(新政策は,青年海外協力隊を中心に検討
した。)。
2.(その結果,何が分かったのか)
● 当初の事業の政策目的(①相手国の社会・経済の発展への寄与,②相手国との友好親善・
相互理解の深化,③国際的視野の涵養)は,次のような今日的意義に鑑み,引き続き維持
していく。特に,従来からの中核である①の意義(開発協力)に加え,②の意義(外交)
が更に強まっており,事業の実施の結果,③(国際的視野の涵養)から導かれる途上国の
視点,新しい視点を持ったグローバル人材を輩出できるという面からも意義がある。
・ 今後重みを増す途上国・新興国で日本ファンを増やし,国際社会における我が国の影
響力を確保していくとの外交戦略を達成する上で,有効な外交手段(ソフトパワー)。そ
の効果は東日本大震災に際しての諸外国からの支援でも明らかとなった。
・ 開発協力への貢献のみならず,民間部門の途上国進出等に貢献できる人材輩出という
効果もあり,他国も将来への投資として海外ボランティアの派遣規模を拡大。
● これまで,本事業における①(開発協力)の側面を重視してきたにもかかわらず,ODA
政策上の位置付けが明確とは言えず,また,海外ボランティアの活動がどのような外交効
果をもたらしたかの把握や,帰国後のボランティア OB・OG の活躍についてのフォローアッ
プが十分ではなかった。
(一方で,特に,青年海外協力隊は,日本人の持つ価値観によって
相手を魅了し,日本ファンを増やすという成果が上がっている事例が多く確認された。)。
3.(その上で今後どうしていくのか)
● 途上国との開発協力が一層効果的に行えるよう,事業の外交・開発協力政策上の位置付
けの一層の明確化及び事業実施体制や運営手法の効率化を促進するとともに,我が国内外
の関係者との連携を強化する。
● 我が国外交の遂行に重要な役割を果たしている海外ボランティア事業について,帰国後
の社会還元支援を含む,国民が安心して参加できるような取組を強化する。
● 事業に対する国民の理解と支持が一層高まるよう,事業にふさわしい評価を実施し,各
海外ボランティアの活動状況・成果・帰国後の活躍状況を「見える化」し,公表していく。
● こうした質の改善に取り組みつつ,我が国の今後の外交・開発協力に係る必要性を踏ま
え,我が国の国力にふさわしい派遣規模を決定していく。
1
1.新政策検討の背景と経緯
我が国政府が実施している海外ボランティア事業(以下「海外ボランティア
事業」という。)
(注1)は,昭和 40 年の日本青年海外協力隊の設立以降,内外
から高い評価を受け,平成3年にはシニア海外ボランティアも加わった。一方,
過去 10 年以上にわたり ODA 予算の削減傾向が続く中で,平成 21 年の秋以降は,
行政刷新会議による事業仕分けにおいてそのあり方について様々な指摘がな
されてきた(注2)。
このような状況を踏まえ,我が国の国家戦略及び外交・開発協力政策の観点
から,我が国ボランティア事業の政策目的を改めて問い直し,新たな政策とし
てまとめることとした(海外ボランティア事業の流れ図:別添4)。
本ペーパーの作成に当たっては,議論のたたき台を3月9日から4月 30 日
まで外務省ホームページに公表し,国民の方々からの意見を受付けるとともに,
NGO・経済界・地方関係者との意見交換を実施した。本ペーパーについては今
後,内外への周知に努め,内容を着実に実施し,4年後を目途に検証・見直し
を行うこととする。
海外ボランティア事業には,日本社会の内向き志向を打破する上で要となる
グローバル人材の育成に資するという効果がある。このことに鑑み,また,事
業仕分けにおける指摘が主に青年海外協力隊(JOCV)事業に焦点を当てたもの
であったことを踏まえ,本ペーパーの施策の検討の主たる対象は青年海外協力
隊とすることとした。
2.海外ボランティア事業の理念
(1)政策目的
我が国は,平和国家として,全世界の諸国民が平和に生きていける社会づく
りに貢献するという憲法理念(「日本国民」の「決意」として規定されている。)
を有する。海外ボランティア事業は,この理念を,我が国と途上国との間の開
発協力とそれに伴う相互交流を旨とする国民参加型の人的国際貢献事業とし
て具体化したものである。このことを確認した上で,海外ボランティア事業が
発足した当時の政策目的を改めて振り返り,それが今日でも妥当するのか否か
検証した。
第 46 回国会における施政方針演説(昭和 39 年1月)において池田総理大臣
は,「技術を身につけた青少年が,東南アジア等の新興国へおもむき,相手国の
青少年と,生活と労働をともにしつつ,互いに理解を深めることを重要と考え,
その準備を進めておるのであります。」と述べた。この構想をめぐり種々議論
が行われた末,技術協力の一環として実施することが途上国の希望にも合致し,
妥当であるとの当時の外務省の見解(注3)に基づき,海外ボランティア事業
2
の原型となる青年海外協力隊事業が昭和 40 年以降,技術協力の一環として実
施されることになった。
青年海外協力隊事業の政策目的については昭和 40 年の閣議に際し,
「開発途
上国からの要請に基づいて,技術を身につけた心身ともに健全な日本青年を派
遣し,相手国の人々と生活と労働をともにしながら,①相手国の社会的及び経
済的開発発展に協力し,かつ,②これら外国との親善と相互理解を深めると
ともに,③日本青年の広い国際的視野の涵養に資することを目的とするもの」
とされ,開発協力,相互理解,青年の視野の涵養という3つの観点からなる政
策目的が明確にされた。
その後半世紀を経て,内外の社会状況が著しい変化を遂げる中で,海外ボラ
ンティア事業は,途上国での協力活動を志望する国民の発意に基づく国民参加
型事業として継続・拡大されてきた。また,この事業を日本社会として官民あ
げて支援してきた。その背景としては,長期にわたり事業を継続してきた結果,
我が国に対する信頼感の向上が各地で顕著に見られ(注4),途上国で開発協
力活動を行うことを通じて途上国に日本のファンを増やしていくことが引き
続き外交上国益にかなうという判断があった (注5)。青年海外協力隊に参加
した多くの青年たちが,途上国の厳しい生活勤務環境の中での任務を全うし,
その後内外で活躍してきたことも背景の一つである(注6)。
なお,他の主要国も海外ボランティア事業を国策として実施してきている
(注7)
。
(2)海外ボランティア事業の今日的意義
途上国に日本のファンを増やしていくことは,近年G8に加えてG20 が誕
生するなど国際社会で中国等の新興国の台頭が進む中,対日信頼感の醸成を通
じ途上国や新興国で将来にわたり一定の影響力を維持するという外交戦略を
達成する上で,ますます重要である(注8)。人と人とのつながりを地道に構築
し,日本と途上国との間の架け橋を作り出す海外ボランティア事業は,そのた
めの有効な外交手段(ソフトパワー)である。東日本大震災では世界各国から
多くの支援が寄せられ,その中にはザンビアやミクロネシアにおける海外ボラ
ンティアの活動現場の住民からの寄付も含まれていた。こうした支援の輪の世
界的な広がりは,これまで日本の海外ボランティアの活動が途上国の住民を対
象に地道に行われてきたことの裏返しでもあり(注9),対日好感度の向上を
含む海外ボランティア事業の外交効果が震災への支援を通じて改めて目に見
える形となったものであると言える。
海外ボランティア事業は,事業発足当時に比べ海外渡航が容易になったこと
によりその使命を終えたとの議論もある。しかしながら,海外ボランティア事
3
業が有する国際的視野の涵養という効果は,国境を越えた人の移動が円滑に行
われ得ることのみをもって得られるわけではない。海外ボランティア事業立ち
上げ当時には,ドルの持ち出し制限等の制約から,有為な若者が海外で活動す
る意思を有していてもその実現が容易ではなかったのに対し,現在はそのよう
な制約はない。それにもかかわらず,最近では若者の内向き志向が指摘され,
企業でも若い社員が海外への駐在を希望しなくなってきていると言われてお
り,こうした中,若者を途上国に送り出し海外に目を向かせる機会を提供する
意義は,引き続き存在する。
海外ボランティア事業の中心的な目的である開発協力の面でも今日的意義
が見られる。海外ボランティア事業はその発足以来,ボランティア本人の創意
工夫に基づいて,現地の人々とともに考え行動することを基本として進められ
てきている。加えて今日では,ボランティアが JICA の技術協力プロジェクト
や専門家と連携して開発課題の解決に向けて活動する例も増えてきている。ま
た,途上国の地域の住民と直接協力する海外ボランティアの活動は,人間の安
全保障の実現に資するものである。
さらに,海外ボランティア事業を実施した結果として,①途上国の実情を体
験し,途上国の人々の考え方,自然,社会,歴史,文化を理解した人材や,②
現地村落の直面する課題に創意工夫能力を発揮して住民とともに汗を流して
解決に向けて働く人材(注 10)が輩出されるという側面もある。彼らの中には,
帰国後も派遣された国のファンとして,国際交流において中心的な役割を果た
す者も多い。また,海外ボランティア OB・OG が NGO の一員として活動してい
る例も多く確認されている。途上国の事情に通じ,途上国の視点を理解し,途
上国の現場に入り込む突破能力を有するグローバル人材(注 11)は,インフラ
の海外展開等を通じ日本経済の成長につなげていく経済外交の観点からも貴
重である。特に最近は,海外ボランティアが獲得した途上国の生活実態に関す
る情報が市場開発戦略にとって貴重であるとして,BOP ビジネス(世界におい
て約 40 億人いると言われる年間 3,000 ドル未満で生活する貧困層(Base of the
Pyramid)が抱える様々な課題を対象とするビジネス。)等のために途上国進出
を考える日本企業から海外ボランティア事業との連携に強い期待が寄せられ
ている(注 12)。
近年,米国,ドイツ,フランス,韓国等の主要各国も,将来への投資として
海外ボランティアの派遣に力を入れている(注 13)。
3.今日的意義を踏まえた新たな政策目的・方向性
以上を踏まえれば,①開発途上国・地域の経済及び社会の発展,復興への寄
与(開発協力),②我が国と途上国・地域の友好親善及び相互理解の深化(外
4
交強化),③国際的視野の涵養と経験の社会還元(人材輩出)という3つの目
的は引き続き維持する必要がある。
こうした3目的を一体として合わせ持つ海外ボランティア事業について外
務省は,これまで ODA 事業の一部としての位置付けを強調し,結果として①の
開発協力の側面を重視する傾向にあった。今後は,人的国際貢献や途上国や新
興国との関係強化への貢献といった②の外交強化の側面や,海外ボランティア
事業に国民が参加することの結果として期待される③の人材輩出の側面も積
極的に評価していく必要がある。
特に青年海外協力隊については,国別援助方針に記載されている重点分野に
必ずしも含まれない案件であっても,日本社会でこれまで培われてきた日本人
の価値観や日本人の良さ(例えば,勤勉さ,時間を守る,チームワークの発揮,
村落単位で「下からの意見」を吸い上げる形での課題解決等)を発揮でき,
「日
本人力」をもってその国や地域社会の経済・社会発展に貢献できるものであっ
て,特にその国との外交関係強化に資するものであれば,積極的に派遣を認め
ていくことが重要である。
さらに,有為な青年が海外ボランティア事業への参加をためらう原因となり
かねない帰国後の再就職問題を緩和し,我が国の外交の遂行に貢献する海外ボ
ランティア事業を今後もしっかりと支えていくため,海外ボランティア OB・
OG が協力隊の経験をいかして社会で活躍できるよう支援を強化していく必要
がある。
再就職を目指す海外ボランティア OB・OG に対する助言・研修等の支援は,
これまでは JICA を中心に行ってきたが(注 14),今後は外務省としても,政務
三役を含め,現職参加の促進や帰国後の就職環境の改善等国民が安心して海外
ボランティア事業に参加できる環境づくりへの取組を強化していく必要があ
る(注 15)。
4.新時代にふさわしい海外ボランティア事業にするための施策
(1)新たな政策表明
外務省は現在,自由な貿易体制,資源・エネルギー・食料の長期的な安定供
給の確保,インフラ海外展開,観光立国の推進,ジャパン・ブランドの発信と
いう5本柱からなる経済外交を展開し,東日本大震災発生後は「開かれた復興」
に向け取り組んでいる。海外ボランティア事業は,こうした今日の日本外交に
とって重要な意義を有するものである。
また,外務省は,PKO への要員派遣,ジュニア・プロフェッショナル・オフ
ィサー(JPO)派遣制度,平和構築人材育成事業を推進し,国際機関で勤務す
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る人材や世界の紛争解決に貢献する人材の裾野の拡大に努めている。海外ボラ
ンティア事業は,こうした人的国際貢献強化策の一環と位置付けられる。
以上を踏まえ外務省は,次の施策に取り組んでいく。
① 海外ボランティア事業が経済外交や復興外交の展開や人的国際貢献の強
化においても有益であることを,ODA 広報戦略全体の中で明確に位置付け,
ODA 見える化サイトでの発信等を含めて国民に対しこれまで以上に強く表
明していく。
② 海外ボランティア事業を,途上国・新興国との外交関係強化及び人的国際
貢献の意義も有する事業として更に促進していくため,我が国の国別援助方
針に必ずしも明示されない案件を含め相手国の開発ニーズを幅広く発掘し,
より多くの国民が海外ボランティア事業に参加できるよう努める。また,海
外ボランティアという貴重な海外経験をした参加者が帰国後に適切な活躍
の場を見つけ,社会還元に取り組むことを支援するなど,国民が安心して参
加できる事業とするよう取組を強化する。
③ これまでの事業成果を明らかにするため,東日本大震災発生直後より海外
のボランティア活動現場から日本に対する支援が様々な形で寄せられてい
る事実を含め,海外ボランティア事業の実施が派遣先でどのように評価され,
二国間関係の強化にどの程度貢献しているかといった点についてモニタリ
ングを強化する。また,海外ボランティアが帰国後に社会でどのように活躍
しているかについて把握に努め,国民に対し関連する情報を発信していく
(注 16)。
(2)重点分野・地域・国の明確化
個々の海外ボランティアが活動する分野及び国・地域がどのように決められ,
外交・開発協力政策との整合性がどう確保されているかを国民に示すことが,
活動の評価軸を定め,また,事業の見える化の観点から重要である。
(外交政策との整合性確保,重点分野)
開発協力のニーズと海外ボランティアが提供できる技能がマッチした派遣
を行うためには,途上国の現場のニーズを適切に把握する必要がある。案件の
形成・募集に当たっては,「ODA のあり方に関する検討 最終とりまとめ」,経
済外交・復興外交方針,国別援助方針といった外務省の ODA 方針において重視
すべきものとされている開発援助分野における案件を重視する。外務省の ODA
方針との整合性は,海外ボランティアが実際に活動する現場を単位に厳格に確
保する。
一方,上記3.に記したとおり,国別援助方針の重点分野等に必ずしも明示
6
的に位置付けられていない案件であっても,「日本人力」をもってその国の地
域の経済・社会発展に貢献できるものであって,特にその国との外交関係強化
に資するものであれば,海外ボランティアを派遣していく。
(重点地域・重点国)―「選択と集中」と中進国化が進む国への対応
限られた予算の中で「選択と集中」を図る必要がある一方,できるだけ多く
の国との関係で我が国の影響力を確保したいとの外交上の要請もある。開発協
力の効果があがる国に対して海外ボランティアの集中派遣を検討する一方,各
途上国との外交関係の強化の観点を踏まえ個別具体的な判断も行っていく。
途上国が,資金さえあれば雇用できる技術者が国内にいるにもかかわらず,
無償ボランティアの提案であるが故に我が国からの役務提供を受けるという
問題がある。海外ボランティア事業が途上国への新たな経験や技能の伝達を伴
わない単純な労働代替とならないよう,中進国化が進む国に対しては,今後派
遣する海外ボランティアを基礎技術保持者からより高度の技術保持者に移行
させるなど,個別具体的な状況に応じて適切な策を講じていく。
(3)組織の見直し
途上国との開発協力とそれを通じた途上国との外交強化,さらには海外ボラ
ンティア活動の結果生まれる人材輩出が効率的に行えるよう,海外ボランティ
ア案件の形成,海外ボランティアの募集・選考,派遣前・派遣中のモニタリン
グ,評価,帰国した海外ボランティアのフォローアップを行う実施機関として
の JICA の機能をより高めていく(注 17)。また,現場において最大限の開発効
果を実現するため,外務省は JICA の実施体制,事業運営手法の効率化を促進
する。
外務省も在外公館を含めて,案件形成,評価の段階等で,JICA とより緊密
に協議を行う等,関与の度合いを高めていく(注 18)。
(4)ミスマッチの改善
海外ボランティアの持つ技術や経験と現場ニーズとの不一致が生ずるとい
う,いわゆるミスマッチの問題がある。ミスマッチは,要望調査段階,派遣先
の現場,海外ボランティア個々人の認識上等様々な段階で生ずるものである。
こうした点を改善するために以下の取組を JICA に要請する。
① 要望内容を十分確認し,外交政策や開発課題と派遣職種との整合性を一層
確保(上記(2)前段)するとともに,個々の海外ボランティアに派遣先国
に関する我が国の援助方針の中での位置付けを説明する。
② 訓練期間中の海外ボランティアに対する業務内容の説明を一層強化し,
7
個々の海外ボランティアができる限り訓練の初期段階から前任者と連絡が
とれるようにする。
③ 要望から実際の海外ボランティア派遣までの時間経過により現場での要
望内容が変化している場合に対応するため,海外ボランティアの赴任前に再
度相手側受入機関と活動内容のすり合わせを徹底していく。
④ 受入機関側から要望されたことだけ行うのではなく,派遣後に受入機関と
の話合いの中で創意工夫能力を発揮して活動を行うことに意義があること
を募集段階から周知するとともに,JICA 事務所による個々の海外ボランテ
ィアの活動状況の監理・支援を強化していく。
(5)我が国民間や地方及び新興援助国との協力の拡充
我が国は,これまで培った海外ボランティア派遣に係る知見を,同種事業を
行う新興援助国を始めとする他のアジア諸国等と積極的に共有しながら,途上
国における開発協力の効果を高めていけるよう,この分野でのアジア諸国等の
牽引役となるべきである。このような視点も踏まえつつ,今後あり得る先進国
以外の国々の重みの増加といった国際情勢の変化も見据えた上で,他のアジア
諸国等も巻き込んだ形での海外ボランティアの派遣といった,地域的に視野を
広げた事業(例えば,他のアジアの国との共同派遣等)のあり方も検討してい
く。
海外ボランティア事業において途上国のニーズにより合致した活動を行う
上で,専門性を有する企業,地方自治体,NGO 等との連携を強化していくこと
は意義が大きい。連携のひとつのあり方が,個人として参加するのが原則であ
る海外ボランティア事業において,企業等に籍を置いたまま参加することを可
能にする現職参加制度である。企業等にとっても利点がある制度であり,既に
一部自治体で導入済みの自治体派遣枠に加え,日本企業,NGO からの現職派遣
を推進する策を検討することを JICA に要請する。
海外ボランティア事業を実施した結果,途上国進出,BOP,CSR(企業の社
会的活動)等を検討する日本企業や NGO の現地での展開促進につながる場合
がある。こうした点を含む海外ボランティアに関する情報については,これ
まで企業等において必ずしも十分に認知されていたとは言えないことを踏ま
え,外務省は,連携の実例や手段について,地方を含め積極的に広報・周知
を図る。
(6)帰国後の社会還元支援のあり方
途上国での経験を通じて課題解決力を培った有為な海外ボランティア OB・
OG が,NGO,企業,地方自治体,教育界等で活躍・貢献する余地は大きい。
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海外ボランティア事業は我が国外交の遂行に重要な役割を演じており,これ
を今後とも有効に展開していく上では,事業に参加しようとする国民が帰国後
の就職に関し特別な不安を抱くことなく,また,社会も海外ボランティア OB・
OG の能力を有効に活用できる環境を整備することが重要である。
途上国の現地事情に精通し,途上国の現場に入り込む突破能力を有し,かつ
現地語の能力もある海外ボランティア OB・OG は,途上国でのビジネス展開や
資源・エネルギー等の確保をねらう日本企業にとって即戦力となり得る。そう
した海外ボランティア OB・OG の能力が日本企業で活用されることは,我が国
の経済外交や復興外交推進の観点からも望ましい。しかし,現在海外ボランテ
ィア OB・OG の能力・知見が途上国等における日本企業の活動の中で十分にい
かされているとは言い難く,これは個々の海外ボランティア OB・OG や個別の
企業にとっての機会利益の喪失であるのみならず,日本全体の経済的・社会的
損失となっているとも言える。
一方,本ペーパーを検討するに当たり外務省が JICA とともに複数企業の人
事担当者から直接意見を聴取した際に(注 19),企業が直面する課題として新
しい視点を持つ人材の確保が挙げられ,途上国の奥地の村落で住民とともに課
題解決に取り組んだ海外ボランティア OB・OG の活用に一様に関心が寄せられ
た。
以上を踏まえ,外務省は,JICA と協力しながら,経済界や地方自治体等と
ともに海外ボランティア OB・OG のキャリアパス形成に積極的に取り組み,以
下のような施策を早急に実施していく(青年海外協力隊キャリアパス・イメー
ジ図:別添5)。
① 外務省は,その職員の採用に当たり海外ボランティア OB・OG の中で優秀
な人材について配慮するよう努める(注 20)とともに,民間における採用に
関しても,公平性の確保に十分配慮しながら,企業等による海外ボランティ
ア OB・OG の採用実績が評価され,海外ボランティア OB・OG が採用されるよ
う奨励する。JICA にも外務省と同様の取組を行うよう求める。
② これまで JICA が中心になって行ってきた取組を一層強化し,外務省にお
いても幹部が先頭に立ち,経済界,関係省庁,地方自治体,教育委員会に対
して,現職参加制度への参加を促進するとともに海外ボランティア OB・OG
を積極的に採用するよう働きかける(注 21)。
③ 外務省は,JICA と協力しながら,海外ボランティア OB・OG の適材適所で
の活用が期待できる個別企業への本事業の周知・説明を強化する。
④ 外務省は,JICA とともに海外ボランティア OB・OG と企業とがより容易に
接点をもつことができるように,JICA 国内センターを通じ,経済産業省,
厚生労働省を始めとする関係省庁の協力も得つつ,本事業の周知・説明を強
9
化する(注 22)。
⑤ 海外ボランティアが自らつづった体験談等(活動の概要・成果,苦労話等)
を外務省においてデータベース化し,一般のアクセスが可能となるよう公表
する制度の構築を検討する。
⑥ 外務省は,JICA とともに,途上国の現場の実情を熟知した約4万人の海
外ボランティア OB・OG の知見をいざという時に適時に活用できるよう,そ
のネットワークのデータベース化を進める(注 23)。
(7)海外ボランティア事業にふさわしい評価手法の確立
海外ボランティア事業を国策として実施していく上では,国民の理解と支持
が不可欠である。したがって,政策理念がどのように実現されているのか,す
なわち,開発協力の成果,途上国住民との信頼構築を通じた外交強化や人材輩
出がどのように達成されているか具体的に評価,公表していく必要があるが,
これまでその努力は十分ではなかった。また,そもそも外交効果や人材輩出の
効果については,評価方法も十分明確にしてこなかった。
事業の評価は,事業の複合的な性質にふさわしいものに改める必要があり,
①開発協力,②外交面,③人材輩出,に分けて実施していく(注 24)。
特に,外交面での評価については,海外ボランティア派遣一代で直ちに現れ
るというよりも,当該プロジェクトに数代にわたって派遣され,徐々に任国で
の認知度が高まり,国家元首や閣僚級の政府高官の評価,対日信頼感の向上に
つながった事例が確認されている(注 25)。こうした事例に鑑み,外交面での
評価期間をより長期とし,在外公館と JICA 事務所による合同評価を行うなど
工夫していく。
人材輩出面の評価については,JICA が行う海外ボランティア OB・OG の一定
期間にわたる活躍状況についての追跡調査の結果を外務省として広く広報し
ていく。こうした取組は,参加者が応募する段階から将来のキャリアパスを検
討する上での一助となると考えられる。
(8)目標とすべき派遣規模
我が国の国際貢献手段として,資金協力,自由貿易体制等の国際規範形成等
の知的貢献,PKO への要員派遣等の人的貢献があるが,その中でも海外ボラン
ティア派遣は,我が国に強みのある経験・技術の共有を図るものであり,我が
国外交政策遂行上,人的国際貢献の中核事業のひとつとして引き続き重要であ
る。
我が国 NGO の存在感も高まっているが,各団体の理念に基づいて自発的に活
動しており,外交判断に基づき,国際貢献のための海外ボランティアを,毎年
10
計画的,組織的に派遣していく活動とはおのずから異なる。
先に述べたとおり,他の主要国が将来の人材への投資として海外ボランティ
アの派遣規模を国策として拡大する中で,我が国としても,質の改善に努めな
がら,我が国の今後の外交・開発協力に係る必要性を踏まえ,我が国の国力に
ふさわしい派遣規模を決定していく。
(以上)
11
(参考資料)
別添1.海外ボランティア派遣現況
別添2.海外ボランティア事業の位置付けのイメージ図
別添3.主要国・機関による海外ボランティア事業の概要
別添4. 海外ボランティア事業の流れ図
別添5.青年海外協力隊キャリアパス・イメージ図
本文
注
(注1)
JICA の実施する海外ボランティア事業にはシニア海外ボランティア等も含まれるが,
本ペーパーでは主に青年海外協力隊を念頭においている。なお,日本語の「ボランティ
ア」の定義には様々な考え方があり,自発性,無償性,利他性等をあげる意見もあるが,
JICA の海外ボランティア事業は,主要国が国の事業として行う海外ボランティア派遣と
同様,いわば有償ボランティアに近いものと考えられ,参加者の自発的意志に基づきつ
つ,国が一定の資金的支援を行っているものである。
(注2)
平成 22 年 11 月に開催された事業仕分け第3弾において,青年海外協力隊がとりあ
げられ,とりまとめコメントとして,「ミスマッチの解消に向け,派遣の規模・体制の
抜本的な見直しをしていただきたい。JOCA との契約関係の見直しについてはさらに進
めていただきたい。国内積立金については,名称,位置づけを抜本的に検討していた
だきたいということを結論とさせていただきたい」旨指摘された。
(注3)
「日本青年海外協力隊について(昭和 40 年度派遣計画)」
(経済協力局技術協力課)と
題するペーパーの中にこうした記述がある。
(注4)
平成 23 年3月に英国 BBC が発表した 27 ヶ国を対象とする好感度調査の結果によれば,
日本は,インドネシア,ブラジル,ペルーにおいて好感度第1位の国とされ,フィリピ
ン,エジプト,チリにおいて第2位の国とされている。
(注5)
青年海外協力隊事務局による平成 17 年度ボランティア事業評価報告書によれば,海外
12
ボランティア派遣先国の受益者(学生や農民等の現地住民)にアンケートを行った結果,
ボランティア赴任前,赴任後の日本や日本人についての印象は,
「非常にポジティブ」と
の回答が赴任前の 36%から 73%へ倍増している。また,
「非常にポジティブ」と「ある
程度ポジティブ」を合わせると,73%から 97%へと伸びている。
日本のファンを増やした事例:①中国の地方部に派遣された看護師隊員は,活動開始
当初,戦時中日本軍の被害を受けた中国人高齢者から,あの日本人かと度々批判を受け
たが,後任隊員が派遣されるころから,ボランティアであるあなたたちは悪くないと日
本人への見方を好意的に転換することができた。②フィリピン,インドネシアといった
戦後,反日感情が残った国々が世界で最も対日好感度の高い国となった背景に,海外ボ
ランティアの活動を通じた草の根レベルの対日信頼感の向上を上げる意見がある(フィ
リピン地方部で隊員が住民と行い,3代の後,住民に引き継がれたマンゴの植林事業が
30 年後,実を結び,地元で愛される植物園となり,日本人に対する感謝の気持ちが大き
く広がったなど)。
(注6)
海外ボランティア OB・OG の帰国後の活躍ぶり
これまでの海外ボランティア事業参加者は約4万人(昭和 40 年の青年海外協力隊事業
発足以来,平成 22 年度までで累計 41,977 名を派遣(内訳:青年海外協力隊 35,905 名,
シニア海外ボランティア 4,628 名,日系社会青年ボランティア 1,053 名,日系社会シニ
ア・ボランティア 391 名)
)。この中から,政界,官界,教育,民間,国際機関,NGO と多
岐にわたる分野で多くの人材を輩出してきた。
少なくとも平成 23 年6月1日時点で把握されているだけでも,地方議員として 22 名。
官界では,外務省が 28 名以上,JICA は 200 名以上の海外ボランティア OB を採用。現職
派遣教員数 800 名(年平均 80 名の教職員が参加)
。帰国後 NGO の創設に携わった海外ボ
ランティア OB が 40 名。国際協力の分野では,民間に加え地域事務所長を含む国際機関
職員を輩出。国内の民間部門でも多くの参加者が活躍中。
近々,JICA において,帰国ボランティアの進路・社会還元活動状況調査を行い,結果
を公表する予定であるが,直近に行った帰国後 1 年後の進路調べに対し約 80%から回答が
あり,進路として,再就職6割,復職2割,復学・入学1割,その他(家事手伝い・結
婚,非常勤・アルバイト等)1割であった。就職先は,民間企業(32.7%),公益法人(27.3%),
地方公務員(21.6%),JICA 関係(7.8%),政府関係団体(4.7%),NPO/NGO(3.5%),国家公務
員(1.8%),地方自治体関係団体(0.2%),その他(0.4%)(平成 20 年度帰国隊員進路調査)
である。
ハイチの復興支援では 14 名の海外ボランティア OB・OG が活躍し,アフリカ(27 カ国)
では在留邦人の約3割が JICA ボランティア OB である。また,東日本大震災ではこれま
で 200 名以上の隊員 OB が支援活動に従事しているほか(7月8日現在)
,隊員 OB からな
13
る(社)青年海外協力協会(JOCA)も,今後数年間にわたる地元コミュニティ支援事業
に取り組んでいる。
自動車産業や通信事業分野等における民間企業は海外展開を拡大する上で,途上国を
熟知した人材として,多くの海外ボランティア OB・OG を採用した。元気な日本の若者が
少なくなったと言われ,外国人を雇用する企業も出始める中,現在も海外ボランティア
事業のグローバル人材育成機能に期待する声が大きい。
教育界もグローバルな視点を持った教員が増えれば,それだけ教わる児童も国際的視
野を広げられるとして,海外ボランティア事業を高く評価している。海外ボランティア
OB・OG は,年間 18 万人の学生,生徒,児童等に開発教育の講義を実施している。
自治体も地方の国際化やコミュニティの活性化に彼らを即戦力として歓迎している。
少子高齢化,都市集中化や産業構造の変化により,過疎化が進む地方の国際化や村おこ
しを担う人材が不足する中,途上国の奥地社会で住民とともに身近な課題に取り組む中
で,創意工夫能力を発揮して取り組んできた経験を持つ海外ボランティア OB・OG は,こ
れらの課題取組への即戦力となる。
(注7)
各国も国策として海外ボランティア事業を実施している。欧州は,旧宗主国としての
慈善的立場から海外ボランティア派遣を始めたとされる。中国は自国の国益達成に貢献
できる国を中心に海外ボランティア派遣を開始したとされる。我が国に先立ち海外ボラ
ンティア事業を開始した米国の平和部隊は,途上国を変え,自分が変わり,祖国を変え
るとのモットーで実施している(主要国・機関による海外ボランティア事業の概要:別
添3)
。
(注8)
現在,世界の人口約 64 億人。そのうち援助を必要としない先進国と中進国の人口が 16
億人で 4 分の 1。残り 4 分の 3 の 48 億人が(無償)援助を必要とする途上国の人口。こ
のうちの半分の 24 億人が中国とインドの2か国。
この両国の経済成長は近年目覚ましく,
もしこの成長が今後も継続して両国が中進国となれば,今後 30 年程度で援助を必要とし
ない国の人口は 16+24=40 億人(先進国と中進国),援助を必要とする国の人口は 48-
24=24 億人となり,援助を必要としない国々の人口が,援助を必要とする国々の人口を
上回るとの予測がある。しかし,これにより援助需要が単に減じると見るのは誤り(開
発金融研究所報平成 18 年 11 月第 32 号等)で,中進国化が進む国々での環境コスト増大
等の地球規模課題への取組に先進国が協力していく必要性が益々高まり,途上国に加え
中進国化が進む国々との協力関係の構築が一層重要となる。
(注9)
14
例えば,東日本大震災を受けて,ザンビアでは協力隊員有志が現地の人々とジャム等
を作って販売し,売上金を被災地へ送付。ミクロネシアでは,協力隊員(日本語教師)
が派遣されている高校において,生徒たちが日本にエールを送るためとして,2日間で
1,000 羽を超える千羽鶴を折った。
(注 10)
途上国の実情を体験し,途上国の人々の考え方,自然,社会,歴史,文化を理解した
人材の輩出については,例えば,中米ホンジュラス等を襲ったハリケーンミッチの後,
国際緊急援助隊として派遣された自衛隊医療部隊を引率した通訳は海外ボランティア OB
であり,インドネシア・アチェ州沖の地震後の復旧作業に国際緊急援助隊員として真っ
先に駆けつけたのも海外ボランティア OB であったなどの事例がある。また,現地コミュ
ニティの直面する課題に創意工夫能力を発揮して住民とともに汗を流して解決に向けて
働く人材の輩出については,例えば,毎年数万人規模の人命を救うことになるバングラ
デシュのサイクロンシェルターの発案に協力隊員 OB がかかわった等の事例がある。
(注11)
「グローバル人材」の意味するところは様々であるが,平成22年12月,有志懇談会よ
り出された「グローバル人材育成に関する提言―オールジャパンで戦略的に対応せよ-」
では,
『「グローバル人材」の定義,求められる能力や資質が何であるかについては,い
ろいろな見方があるが,政府有識者会議の報告(「産官学でグローバル人材の育成を」,
経済産業省・文部科学省,平成22年4月)が参考になろう。そこでは,「社会人基礎力」,
「外国語でのコミュニケーション能力」,「異文化理解・活用力」に注目している。こ
れらに加え,「論理的思考」,「強い個人」,「教養」,「柔軟な対人能力,判断力」
といった資質・能力も重要な要素であると考える。』としている。
(注12)
既にアフリカのマラリア撲滅のための蚊帳の応用,アフリカ農村部でのソーラー・ラ
ンタンの普及等の実績がある。
(注13)
米国は平成 22 年度の予算を対前年度比で 20%増加(平成 21 年度 3,694 名)
,ドイツは
平成 20 年の 3,000 名から今後 1 万名へ,
フランスは 5,000 名程度から平成 24 年に 15,000
名へ,韓国は 1,500 名から今後 5 年間で 2 万名へ拡大するとしており,また,中国も平
成 18 年から本格的に派遣を開始。英国は平成 22 年から約 1,000 名を新たに派遣する事
業を開始。これらの国々と比較して我が国の人的貢献は多いとは言えない(人的貢献活
動規模の各国比較(人口 10 万人あたりの人的貢献活動(海外ボランティア,PKO)の人
15
数(平成 22 年 9 月末現在))
:日本 4.3,米国 16.0,ドイツ 7.7,フランス 10.0,韓国 10.3,
中国 0.2)
。
(注 14)
帰国隊員の再就職支援及びその強化は,国際協力機構法で規定する国民等参加活動の
助長,促進(同法 13 条4項)に該当する。
JICA が実施中の青年海外協力隊帰国隊員への帰国後の支援の取組は以下のとおり。
(1)現職参加の促進に向けた取組
・現職教員特別参加制度の拡充
・公務員行政職参加のための派遣条例制定の促進
・民間企業における現職参加制度の促進
(2)帰国後の就職・進学支援に向けた取組
・帰国時の就職・進学相談(進路相談カウンセラーによる対応)
,キャリアパス研
修,進路開拓支援セミナーの実施
・大学院入学優遇措置設置大学の拡大(現在 10 大学)
・地方自治体(教員・公務員)の帰国隊員採用優遇制度の拡大
・NGO インターン制度,国連ボランティア推薦制度等
(3)帰国隊員が行う社会還元活動・帰国後の活動への支援促進
・協力隊 OB3.6 万人の組織力活用,国際協力の担い手の供給源(過去 10 年間で 150
名以上が NGO に就職。40 名は幹部職員として活躍)
・地域興しや在日外国人への支援等で活躍する隊員 OB の取組を広報する「日本も
元気にする青年海外協力隊」プロジェクトを展開中
(注 15)
岡田外務大臣(当時)より,書簡をもって,全国の首長宛に青年海外協力隊事業への
現職参加の拡大および帰国隊員の採用を要請。
文部科学省は,全国の教育委員会に対して,青年海外協力隊事業への積極的参加や経
験者の有効活用の要請を検討中。
(注 16)
平成 22 年秋以降に海外ボランティア事業実施在外公館に対して,海外ボランティア
事業の外交効果及び開発効果について調査を行った。この調査結果について,分かり
やすい広報資料を作成して対外的に広報するとともに,これまでの帰国隊員による社
会還元活動について各地方の OB 会等を通じて,同種の資料を作成し,広報に活用する
ことを検討中。
16
(注 17)
海外ボランティア事業の成果と他の手段による非代替性
途上国住民の視点をもったグローバル人材の育成という効果は,本来別の目的をもっ
て行われる民間企業の人材育成,学生の海外留学によっては,効率的には達成できない。
民間企業などでも,新人職員を育てる中で,海外で仕事ができる人材は育成され,そ
の成果は企業内で還元され,企業活動の枠中で発揮されるが,派遣先国において「親日
感情」なる国民的利益として根付くには社会貢献活動などの更なる企業努力に負うこと
となる。
途上国の実態について草の根レベルでの学びの場を提供する海外ボランティア事業の
効果は,座学中心の海外大学留学や都市近郊等での仕事が中心となる企業の海外勤務で
は得にくい。また,国の将来を担う人材の育成がその時々の経済状況に左右されること
は望ましくなく,海外ボランティア事業を国策として維持していく必要がある。
海外ボランティア事業は,NGO が行う方が効率的という議論もあり得る。海外ボランテ
ィア事業の目的となっている途上国との外交関係,信頼関係の強化は,国策として行う
必要がある。NGO は,市民による国際貢献として各団体の理念や価値判断に基づき自発的
に活動しており,外交判断に基づき派遣される海外ボランティア事業とは性格を異にす
る。また,現在 JICA が行っているような年間数千人規模の派遣を計画的,組織的に行い,
派遣中の隊員の健康・安全の確保などきめ細やかなフォローができるような受け皿とな
り得る団体が常に存在するとは限らない。
政府が行う人的国際貢献に関する事業としては,海外ボランティア事業の他に,人事
院による官費留学生制度,内閣府による東南アジア「青年の船」事業,外務省の平和構
築人材育成事業や国際機関における邦人職員を増強するためのジュニア・プロフェッシ
ョナル・オフィサー(JPO)派遣制度等がある。その中でも途上国の現場に入り込み,その
国のことに精通した人材を育てる海外ボランティア事業は,途上国との外交強化の観点
から効果的と考えられる(海外ボランティア事業の位置付けのイメージ図:別添2)
。
ODA 実施手段の中で比較を試みると,①有償,無償資金協力ではいわば既にグローバル
な視点をもった援助のプロが案件の実施を支援するもので,外交手段としてそれ自体重
要であるが,人材輩出機能は副次的である。②技術協力のうち研修員の国内受入れは,
相手国の将来の人材への投資として重要だが,我が国の将来の人材育成ではない。③専
門家やコンサルタントの派遣も,既に技術をもった人材を派遣するものであり,人材育
成機能は副次的である。
海外ボランティアを一人派遣するために2年間で 700 万円以上も国費を投入するの
はコスト高であるとの議論もあるが,例えば,企業が社員を米国に留学させるには,
通常1年間で 550 万円から 750 万円程度(学費,生活費,航空賃)必要となるが,協
力隊員の場合,2年間派遣で,700 万円程度(募集・選考経費,航空賃を含む)であり,
海外ボランティア事業が高コストとは言えない。
17
(注 18)
JICA によるボランティア事業の実施,外務省による同事業の所管
途上国との外交関係強化という意義があるのであれば,外務省直轄で実施するべきで
はないかとの主張があり得る。これに対しては,海外ボランティア活動の出発点は,開
発協力であり,相手国のニーズに合致した活動が行われ,正当に評価されること,地域
住民との社会・経済の発展のための協力活動で成果が上がっていることが肝心であり,
さらには,ボランティア単独だけではなく,可能な場合,例えば,首都レベルでの専門
家の技術指導の内容を村落レベルで普及するといったように ODA の様々な援助手法を組
み合わせて相手国の発展を促すメニューを検討できなければいけない。そうした事業全
体を在外事務所のネットワークを活用しつつ実施できる主要な実施主体が JICA であるの
で,JICA が実施するのが適当である。
グローバルな視点を持った人材を育成するということであれば,所管官庁として,外
務省ではなく,青少年育成を所掌する内閣府等が所管すべきではないかとの議論もあり
得る。これらの省庁では,青少年育成事業全般を横断的にとりまとめ,調整を行ってい
るが,個別事業は原則としてそれぞれ担当省庁が所管しており,海外ボランティア事業
も,その事業の中核となる途上国の社会・経済の発展への協力及びそれを通じた外交を
所管し,在外公館のネットワークを有する外務省が所管することが適切である。
(注 19)
平成 23 年6月,外務省が複数の個別企業の人事担当者から直接意見を聴取した結果,
企業が求める人材像として,複合的な能力を持った人材,経験から成長していく人材,
他人の協力を得ながら,チームとして仕事のできる人材,現地の文化や習慣や考え方に
適応しつつも日本人の美点を失わない人材,語学力・現地でのマネジメント能力のある
人材等があげられた。また,企業としては,協力隊経験者の活用について,他の社員と
同様に国内外の様々な業務に適正に応じて配置したい,海外を見据えた人材として活用
していきたい,海外で原材料の調達や商品生産を行ってもらいたいといった意見が出さ
れた。
(注 20)
外務省の職員採用に当たって,海外ボランティア経験を有するか否かをエントリーシ
ート等への記載欄を設けることで把握するとともに,同様の取組の他省庁にも要請し,
かつ協力隊経験を不利に評価しないことを申し合わせることを検討中。
(注 21)
(1)文部科学省は,広島大学大学院のザンビア・プログラム(院生を理数科隊員として
18
派遣し,現地活動を単位として認定)を積極的に紹介し,こうした取組の拡大を図っ
ている。また,同省の有識者会議「国際交流政策懇談会」の最終報告は,海外でのボ
ランティア活動やギャップイヤーの推進を呼びかけている。
(2)総務省は地域おこし協力隊と青年海外協力隊の連携を検討中。
(3)JICA による経済界等への働きかけ
現職参加制度の推進のため,中央・地方の経済団体等を訪問し,説明を行ってい
る。日本経団連には平成 19 年から毎年1回ベースで訪問。また,地方の経済同友会,
商工会議所,経営者協会の訪問・説明を継続的に実施(平成 18 年7月から平成 22
年9月までに 14 回実施)
。その他,連合や日産労連等の労働組合団体に対しても啓
発活動を平成 21 年度に 19 回実施。
(職員の現職参加の支援が決定した例:YMCA 同盟)
。
(4)外務省による経済界等への働きかけ(事業仕分け以降)
ア 経済界
①経団連(平成 23 年2月3日)
(事務レベル)
②経済同友会(平成 23 年2月7日)
(同上)
③日本商工会議所(平成 23 年2月8日)
(同上)
④6商社懇談会(平成 23 年2月 22 日)(同上)
⑤北海道経済団体(平成 23 年2月 24 日,札幌商工会議所,北海道商工会議所,
北海道経営者協会,北海道経済団体連合会,北海道経済同友会幹部他)
(同上)
⑥福岡経済団体(平成 23 年6月 26 日,九州経済連合会,福岡商工会議所幹部他)
(政務レベル)
イ NGO
①外務省・NGO 合同協議,NGO 連携推進委員会事前説明(平成 23 年2月 15 日)
(政務レベル・事務レベル)
②ODA 政策協議会事前打ち合わせ(平成 23 年2月 16 日)(事務レベル)
③NGO・外務省定期協議会(平成 23 年2月 28 日)
(政務レベル・事務レベル)
④ODA 政策協議会(平成 23 年3月 10 日)
(事務レベル)
⑤外務省・NGO 協議(平成 23 年6月 13 日)
(事務レベル)
⑥NGO・外務省定期協議会(平成 23 年7月4日)(政務レベル・事務レベル)
(注 22)
帰国隊員の再就職の支援を行う主たる舞台は地方であり,現在存在する各地方のリ
ソースを最大限活用する方向で検討中。具体的には以下のとおり。
(1)外務省は,JICA,特にその各国内施設と協力しつつ,地元経済界,関係省庁,重点
ハローワーク,OB・OG 会,協力隊を育てる会と連携しながら,帰国隊員の再就職支
援に努める。
(2)JICA は,帰国隊員の求職情報及び企業等の求人情報を登録する制度を構築し,マ
19
ッチング・就職支援の強化を図る。さらに,これを通じ,企業等より,個別の情報
提供依頼や採用を検討している帰国隊員の活動実績について照会があった場合に
は,積極的に情報提供を行う。
(3)JICA は,厚生労働省の協力を得ながら,各都道府県の重点ハローワークと協力し
て,帰国隊員の就職支援・マッチング強化を図る。また,重点ハローワーク等の協
力を得つつ,上記帰国隊員の求職情報及び企業の求人情報の登録制度の有効活用の
促進を図る。なお,厚生労働者は,重点ハローワークの担当者リストを更新し,JICA
と連携し就職支援を行うよう全国に改めて周知を図る。
(4)海外ボランティア事業に関する本政策ペーパーの提言に沿って,外務省は JICA と
協力しながら,経済産業省の協力を得つつ,海外ボランティア事業に関する新政策
及びそれに基づく JICA ボランティア事業の実施見直し結果,海外ボランティア事
業参加者の企業にとっての魅力等について地域の経済団体に対し説明する機会を
設ける。
(5)JICA は,地元経済界と連携して定期的に帰国隊員向けの企業説明会を開催する。
(注 23)
現在,青年海外協力協会(JOCA)がその HP(「協力隊ナビ」
)において,協力隊事業
についての広報を行っている。
潜在的な応募者が協力隊 OB にアクセスする手段として,
こうした HP を更に活用したり,JICA(含む国内施設)が紹介受付窓口となったり,さ
らには活動中あるいは帰国後の隊員・OB・OG による活動アピールをサポートすること等
が考えられる。
(注 24)
海外ボランティアの行う開発協力は,中央政府レベルのカウンターパートに対する
専門家による「技術移転」ではなく,地方拠点や奥地前線の地方住民に対して隊員が
保持する技術を一緒に用いて普及する「経験共有型」協力である。
専門家は主に中央政府でカウンターパートに対し技術を示すが,海外ボランティア
は地方拠点や奥地で現地住民と共に働きながら,技術を普及するという役割分担があ
る。普及される技術は専門家が移転した場合もあるが,それとはかかわりなく日本で
一般的に普及している経験や技術であることもある。
海外ボランティアが普及する経験や技術とは,専門家が移転する高度な技術と言うよ
りは,今日の日本人であればあたりまえの生活の基本的な部分,時間を守る,安全確認,
あいさつの励行,ラジオ体操から始まり,理算科教授法,日本語,手洗い励行,予防接
種,地震の際に机の下に隠れるといった防災の知恵,熱効率の良いかまど,保健所へ現
地住民を通わせるための働きかけ,といった地域社会の社会・経済発展に資する日本人
の価値観,知恵等が含まれている。
「経験共有型」技術協力は,主として2つに分類でき
20
る。①特定の資格等を有しなくも健康で,創意工夫能力があって語学力とやる気さえあ
れば,十分活躍できる「住民直接裨益型」
(HIV/AIDS の予防啓発をアフリカの田舎の村人
に行う活動等)案件と,②更に一定の資格技術が必要となる「草の根指導者養成型」案
件(道路整備測量技師等)
。
(注 25)
日本人の海外ボランティアが自分たちと一緒にがんばってくれたという記憶は住民,
政府高官を問わず一生残る。海外ボランティア一人ひとりの活動成果は小さくても,こ
れら積み重ねが間違いなく様々な階層での親日家を増やし,結果として日本の影響力拡
大に貢献している。例えば,マラウィやエルサルバドルでは,協力隊員の離任時に派遣先
国の大臣から感謝状を授与されることが定例化している。
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