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報告書 - IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

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報告書 - IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
技術ロードマップ策定へ向けての調査
調査報告書
平成16年11月
独立行政法人 情報処理推進機構
目 次
1.
2.
3.
4.
5.
6.
背景.............................................................................................................. 1
目的.............................................................................................................. 1
調査指針....................................................................................................... 2
医療分野における情報技術ロードマップ策定の意義................................... 3
ロードマップ策定のプロセス....................................................................... 4
医療分野における情報技術ロードマップのターゲット設定 ........................ 5
6.1. 医療分野における情報技術研究テーマの抽出........................................................ 5
6.1.1.
ターゲット1:電子カルテの操作支援技術 .................................................... 6
6.1.2.
ターゲット2:医療安全性向上のためのソフトウェア技術 ........................... 9
6.1.3.
ターゲット3:医療情報システムの信頼性・生産性向上技術...................... 13
6.1.4.
ターゲット4:医療知識共有支援システムの構築........................................ 15
6.1.5.
ターゲット5:医療画像スクリーニングの実用化........................................ 19
6.1.6.
ターゲット6:在宅ホームドクター ............................................................. 23
6.2. ロードマップターゲットの設定 ........................................................................... 26
7. 医療分野における情報技術ロードマップ................................................... 28
7.1. ターゲットごとのロードマップ策定 .................................................................... 28
7.1.1.
医療安全性向上のためのソフトウェア技術 .................................................. 30
7.1.2.
医療知識共有支援システムの構築................................................................. 39
7.1.3.
在宅ホームドクター ...................................................................................... 49
i
1. 背景
情報処理推進機構(以下、IPA)は、本年 1 月の独立行政法人化にともなって、組織目的を達成す
るために事業方針を一層明確にしている。基本的には「創造」、「安心」、「競争力」をキーワードにしつ
つ、技術・人材の両面から、ソフトウェア及び情報処理システムの健全な発展を支える戦略的
なインフラ機能を提供するプロフェッショナル集団となることが事業方針として謳われてい
る。
このような IPA の事業方針をさらに具体化して中期的な観点でより詳細な事業計画を明確
にすべく「中期計画」が策定されている。中期計画の中では、以下の4つの新生 IPA の機能が
打ち出されている。
・新生 IPA の機能(1) 『創造』への貢献と『競争力』の向上
・新生 IPA の機能(2) 『安心』できる情報化社会を実現
・新生 IPA の機能(3) IT人材の育成を強力に推進
・新生 IPA の機能(4) ユーザの視点の立った効率的で透明な組織・事業運営
第一の「『創造』への貢献と『競争力』の向上」のための IPA の機能の中に「シンクタンク
機能の充実」が打ち出されており、推進すべき事業としておおむね以下の項目が定められてい
る。
1. IT 政策シンクタンク及び情報発信基地
1-1 IT に関連する内外の動向把握と見取り図の作成
1-2「e-Japan 重点計画」等を推進するための優先分野の絞込みと IT ロードマップの策定
1-3 積極的な情報発信
1-4 新規プロジェクトの企画・立上げ
2.産学官交流のIT人材循環拠点
本調査はこうした新生 IPA の中期計画の一部を実現すべく実施されるものである。
2. 目的
本調査は、上に示した IPA 中期計画のうち、「『e-Japan 重点計画』等を推進するための優先分野の
絞込みと IT ロードマップの策定」に対応した調査および検討を行うものである。
e-Japan 重点計画は 2001 年 3 月の発表以来、各年度ごとの進捗状況および e-Japan 戦略などが
勘案されつつ改訂された計画が提出されている。
重点計画
「e-Japan 重点計画」 (2001/3)
戦略
e-Japan 戦略 (2001/1)
主な施策
インフラなどの基盤整備
「e-Japan 重点計画 2002」 (2002/6)
「e-Japan 重点計画 2003」 (2003/8)
e-Japan 戦略Ⅱ (2003/7)
「e-Japan 重点計画 2004」 (2004/2)
戦略Ⅱ加速化パッケージ
1
IT 利活用重視 先導 7 分野
6 つの重点施策
これらを受けて、本調査では「e-Japan 重点計画 2003」で示された IT 利活用重視 先導 7 分野である
医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの中から IPA がターゲットとすべき分
野として医療を選択することを前提とし、当該分野において必要とされる情報技術のロードマップを作
成することを目的とする。
3. 調査指針
(1)本調査では、「医療」分野(高齢化・老齢化を見据えた広義の医療分野)における、社会ニーズから
要請される関連技術の現状と今後の動向の抽出、個別技術分野の開発目標・課題の展開とそれらの
横断的まとめ、全体の整合性の確認および制度的課題をとりまとめる。
(2)調査の実施に際しては、有識者で構成される研究会(情報技術動向研究会)を開催し、当該研究会
において調査内容の検討を行い、成果の客観的妥当性を図るものとする。
2
4. 医療分野における情報技術ロードマップ策定の意義
情報技術と同様に、医療は過去から現在における技術的進展が最も著しい分野の一つと考えら
れ、医療技術の歴史は時代ごとに医療に革命的進歩をもたらす先進技術によって次々に難病を克
服してきた輝かしい成功に彩られている。次表は 1960 年代前後から現代に至る医療技術の進展
をまとめたものであるが、ここに 2 つの大きな傾向を読み取ることができる。第一は、医療の世
界は、大勢の患者に対して均質で高度な治療を施すことから徐々に個々の患者一人一人に適応し
た治療が求められる方向に向かっている点である。たとえばインフォームドコンセントや遺伝子
によるテーラーメード治療などが、こうした観点での近年の代表的話題である。第二に医療技術
の高度化や医療ニーズの多様化の傾向も顕著であり、こうしたことからさまざまな情報の収集や
共有の必要性が一層高まっている点を指摘することができる。
このような医療の高度化・個別化・多様化を支える技術として情報技術は不可欠である。1970
年代から既に医療の電子化の動きが始まっており、当初は電子技術やコンピュータなどハードウ
ェアを主体とした各種システムが医療の高度化に貢献したが、1990 年代以降は主としてソフトウ
ェアを中心とする情報技術が医学の発展に欠くことのできない枢要な地位を占め、また市場とし
ても大きな発展に結びつく傾向が見えている。今後もこの傾向は継続し、さらに拡大することが
予想される。
一方、上述のような技術的進展の速度は極めて速く、同時に技術の応用領域が当初の想像を超
えた広がりを見せている結果、ややもするとこうした技術的成果を医療の現場に生かすための制
度的取り組みが遅れる傾向がある。情報技術の育成を図る上では、このような制度的課題に関す
る認識を持つことも必要である。
表 4-1
∼1960年
医療技術の進展と基盤になる科学技術
1960年代
1970年代
1980年代
1990年代
・微細な手術
(レーザーメ
ス)
・診断技術進歩
(MRI)
・病院設備に関
するJIS規格
・再生医学
・ナノテクノロ
ジー
・在宅医療
・マイクロマシ
・低侵襲治療機
ン
器
・遺伝子情報解
・
析による治療
・在宅医療
・広域遠隔治療
医療技術
・生体情報モニ
タリング(心電
・医療用レント 計、脳波計な
ゲン
ど)
・麻酔による外 ・自動生化学分
科手術発展
析装置(血液、
・顕微鏡による 尿など)
伝染病減少
・使い捨て製品
(カテーテルな
ど)
医学的意義
・治療のハイテ
ク化
・感染症の克服 ・検査の一般化 ・検査の低侵襲
・治療メニュー
・救命技術の進 ・検体の大量処 化
の多様化
歩
理
・精密医療機器
・医療コストの
増大
基盤になる
科学技術
生物学
細菌学
化学
・体内埋入機器
(ペースメーカ
など)
・画像診断(X
線CT、超音波診
断)
・内視鏡
物理学
電子技術
コンピュータ
2000年∼
・患者のQOL重
視
・インフォーム
ドコンセント
・生命倫理の見
直し
・医療のコスト
と質のバランス
・テーラーメー
ド医療
・難治性・希少
性疾患対応
・医療ニーズ多
様化
・医療情報の共
有
情報技術
生命科学
組織工学
日本経済新聞(2004.7.23)および「医療技術の歴史における機器・技術の進歩」より三菱総研作成
以上に述べた状況から、IPA が情報技術を医療分野に適用すべく技術ロードマップを策定する
3
ことは極めて時宜を得た対応と言うことができる。さらに医療は先端科学としての側面の他にも、
人間とのインタフェースの重要性、協調作業としての特質、経営的な観点などさまざまな要素を
含むことから、この分野で開発した情報技術を他の分野へ応用することについても大いに期待で
きると考えられ、e-Japan 計画における重点7分野の中でも、IPA が開発の対象として取り上げ
るに際して最もその意義が大きい分野である。
IPA が医療分野の情報技術ロードマップを策定することの意義は以下の 2 点にある。
・(ニーズ主導的意味合い)
医療分野における具体的な応用システムを前提にし、その研究開発を実現することで医療
分野における実質的に貢献すること
・(シーズ主導的意味合い)
医療分野で用いられる情報技術を要素技術として整理し、これらの研究開発を通じて医療
分野の進展を間接的に促進し、さらに他分野への波及効果を狙うこと
5. ロードマップ策定のプロセス
医療分野における情報技術の技術課題は極めて多岐にわたるため、網羅的にそれらを対象にし
てロードマップを検討することは困難であるだけでなく、正確性に欠ける可能性もある。したが
って本調査では次の手順によりロードマップを策定した。
(1)ロードマップターゲット候補の抽出
ロードマップの策定には、ロードマップが掲げる目標となる医療分野における情報技術テーマ
を抽出する必要がある。抽出は以下のプロセスで行った。
国内外における研究開発施策動向の調査
医療情報関連の国内学会における研究動向の調査
医療情報分野における研究動向、技術的課題をまとめ、
情報技術動向研究会の資料として提出
ロードマップの達成目標となる情報技術テーマ案を作成
医療分野の有識者ヒアリング
情報技術動向研究会に情報技術テーマ修正案を提出し、承認を受ける
(2)ロードマップターゲットの選定
(1)で抽出した医療分野における技術テーマ(ロードマップのターゲット候補)の中から、
技術的イノベーションの有無、情報技術的な新規性、適性、医療サイドからの開発ニーズの強さ、
4
IPA 事業との適性、技術的波及効果の有無などを加味し、ロードマップのターゲットとして選択
する。選択にあたっては、選択案を情報技術動向研究会に提出し、招聘研究員の意見を踏まえ、
最終的に承認を受けて、ターゲットを決定した。
(3)ターゲットごとのロードマップ策定
(2)の各ターゲットに対してロードマップを策定した。ターゲットを実現するための情報技
術を 10 年程度のスパンで検討し、各要素技術の実現時期や相互の関係を明らかにした。本ロー
ドマップについても、ロードマップ案を情報技術動向研究会に提出し、招聘研究員の意見を踏ま
え、最終的に承認を受けて、ロードマップを作成した。
6. 医療分野における情報技術ロードマップのターゲット設定
6.1. 医療分野における情報技術研究テーマの抽出
国内外の研究施策動向の調査及び医療情報関連の国内学会の研究動向調査の結果は以下のよう
に総括できる。
厚生労働省の各種施策および医療関連学会における関連事例は、基本的には医療分野の具体的
な課題の解決あるいは制度・環境整備を本来的な目的としており、情報技術はそのための重要な
ツールとして位置づけられている。したがって、そこで取り上げられている情報技術はスポット
的なテーマが多く、波及効果や情報技術としての重要性は必ずしも考慮されていない。
また、経済産業省の各種施策に掲げられているテーマは医療関連分野の新規事業開拓を目指し
たものが目立つ傾向がある。情報技術研究開発の比重が大きいテーマもあるが、その場合はセキ
ュリティやネットワークなどの基盤的技術分野が主要なターゲットとされるケースが多く、情報
技術的に幅広い観点で検討されているとは必ずしも言えない状況である。
以上のように、日本においては、情報技術的観点からの包括的検討に基づいた医療分野のテー
マ設定が十分になされている状況ではないが、一方、米国では PITAC の議論で、医療システム
の情報化の遅れが認識され、情報化推進の施策の重要性が強調されている。我が国としては国際
的競争力強化の観点からも、この分野における取り組みを活発化させる必要がある。
以上の認識に基づいて、医療有識者ヒアリング及び情報技術動向研究会で議論を行った。
・情報技術分野のテーマとしての重要性やフィージビリティに基づいたターゲット設定が必
要であること
・医療分野で十分なニーズがある課題に適用できる情報技術であること
・他省庁などでは研究開発が行われていないか、進んでいないテーマであること
などをポイントに検討を重ね、以下にあげる6つのターゲット候補となる医療分野における情
報技術研究テーマを抽出した。
5
6.1.1. ターゲット1:電子カルテの操作支援技術
診療時における電子カルテへの入力を支援する技術や疾患や治療方法に関するプレゼンテー
ション支援技術。
(1)目標:
コンピュータに慣れていない医師でも紙のカルテの場合と同等の時間で入力ができる電子カ
ルテ入力インタフェースを目標とする。最終的には全診療科においてこの目標を達成する入力
支援技術を開発する。また、もう一つのターゲットとして、医師の操作負担が少なく、従来の
紙のカルテよりも分かりやすく疾患や治療方法に関する説明を行なえるプレゼンテーション支
援の技術の実現も目標とする。
(2)背景:
電子カルテシステム導入の課題の一つとして、電子カルテへの入力作業の負担が指摘されて
いる。特に耳鼻咽喉科のように患者 1 人あたりにかける時間が短い(1 日あたりに診察する患
者数が多い)診療科においては、入力作業の負担軽減・短時間化が重要となる。また患者への
処置や検査をしながらの診断、患者と顔を合わせながら対話を行い診断する場合、カルテへの
入力作業に集中せずともよいユーザインタフェースが必要となる。
また、電子カルテを導入する目的の一つとして、医者と患者の間での疾患や治療方法に関す
る情報共有をあげている事例が多い。検査データグラフの表示や、画像データの比較表示(治
療前の病状と現在の病状の比較表示)をしながらの治療経過の説明など、患者に対する治療の
プレゼンテーション支援ツールとしての電子カルテに期待するところは大きいと思われる。一
方、コンピュータに不慣れな医師にとっては、従来の電子カルテを使って患者とのコミュニケ
ーション共有を図るには相当の訓練を要することとなる。
(3)関連動向:
現状の電子カルテシステムでは、入力手段として、ワープロ入力、定型文入力、テンプレート
入力が主流とされているが、背景にあげたような入力作業ニーズの実現には未だ課題が多い。こ
れらの課題を解決するために、以下の技術開発が行われている。
●音声による電子カルテ入力システム
●タブレット端末による手書き入力可能なペン入力インタフェース
●診療情報を階層構造で構造化し、複雑な診療構造の記録を可能とする動的テンプレート入力
厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度
厚生労働科学研究費補助金各研究事業)
で本ターゲットに関連すると思われる電子カルテ設計に関する研究テーマを以下にあげる。
●電子カルテの相互運用に向けたHL7メッセージの開発および管理・流通手法に関する研究
●電子診療録の医療連携への応用と実用化における問題点の検討
●標準的電子カルテにおける画像観察液晶モニタ、汎用液晶モニタの標準化と制度管理に関す
る研究
6
●電子カルテのための処方設計支援システムの基礎技術の研究とコンポーネントの開発
●標準的電子カルテのための施設間診療情報交換に関する研究
●標準的電子カルテに要求される基本機能の情報モデルの開発
●標準的電子カルテシステムのアーキテクチャ(フレームワーク)に関する研究
●保健・医療・福祉領域の電子カルテに必要な看護用語の標準化と事例整備に関する研究
●病名変遷と病名ー診療行為連関を実現する電子カルテ開発モデルに関する研究
●電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究
●電子カルテネットワーク等の相互接続法の標準化
●電子カルテの相互運用に向けたHL7メッセージの開発および管理・流通手法に関する研究
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
:
z
電子カルテ入力作業の負担軽減・短時間化のためのユーザインタフェース技術や入力作
業に集中せずとも良い入力インタフェース技術。
現状ではペン入力インタフェースが有力候補となるが、入力の反応速度や入力データ
の表示などの点で技術開発の余地がある。また、入力された記録は単なるイメージデー
タではなく、テキスト化され、データベース等の検索や分析などに活用できる必要があ
る。これに必要な文字認識処理の高速化、精度向上は技術的課題となる。たとえば、入
力に不自由さを感じさせないため、入力から表示までの反応速度の高速化(応答時間 100
ミリ秒以下など)、文字認識処理の精度向上(認識率 98%以上など)といったことを実
現する技術が考えられる。
z
各診療科の特性、医師または施設の状況によって、入力項目および入力方法に対するニ
ーズは多種多様であると思われる。こうした多様なニーズに対して極力簡単にカスタマ
イズが可能で最適な入力方法を低コストで構築する開発技術が必要である。たとえば、
短期間でカスタマイズ可能なユーザインタフェースのコンポーネント技術が考えられ
る。
z
疾患・治療方法に関する患者への説明を支援するユーザインタフェース技術。たとえば、
電子カルテに記載されている疾患画像情報を患者に見やすく提示するデータ表示技術、
患者に対して提示する様々な情報やデータを簡単な操作で瞬時に検索し、データ表示す
る技術。
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
本技術により、自らの疾患状況とその治療経過の理解が進み、治療方法に対しての納得を得
られる。
(医師にとって)
入力が容易になることにより、自らが過去に診察した診察情報の電子化が進むことになり、
診療後の検索・参照が非常に容易になる。また、中規模以上の病院では、同じ診療科内で同僚
7
と診察情報を共有管理することで診療知識の共有が促進でき、互いのスキルが向上する。
患者とのコミュニケーション促進により、治療方法に関する患者の理解が得られる(インフォ
ームド・コンセント実践の支援)。
(病院にとって)
上記による患者サービスの向上により、病院の競争力強化に繋がる。
8
6.1.2. ターゲット2:医療安全性向上のためのソフトウェア技術
医療事故やヒヤリハット事例を防止し、医療の安全性を高めるためのソフトウェア技術。
(1)目標:
処方・与薬において、以下のいずれかのヒヤリハット件数を半減する技術の開発を目標とす
る。究極目標としては0件にする技術を開発する。
・
無投薬、与薬時間・日付の間違い、過剰・過小与薬、患者や薬剤間違い、重複与薬等
(2)背景:
医療現場で起きている事故やヒヤリハット事例を防ぐには、機械の誤操作の防止が課題の一
つであるといわれている。たとえば、ソフトウェアシステム関連の機器の例では、処方システ
ムでの入力ミスによる誤薬投与(死亡事故)も発生している。誤入力を防ぐチェック機能が組
み込まれているシステムもあるが、入力の手間が増大したり、頻繁に警告がでるといった使い
にくさが生じ、十分に普及しているとはいえない。こうした課題には、医療機器の使いやすさ
と誤操作の防止を向上させるためのコンピュータ支援技術の開発が望まれる。
医療エラーを防止するもう一つの課題は、安全確認(事故防止)やエラー発見のための機器
の開発である。医療現場では多くの確認作業を医師、薬剤師、看護師の複数人による手作業(人
の目)で行なっており、それが多忙な医療従事者をますます多忙にしている。また、人間の注
意力だけではエラーの発見には限界がある。特に、看護師の患者への与薬は看護師 1 人で確認・
実施されることが多くエラーが発見されにくいため、医療事故が繰り返し発生する原因ともな
っている。一方、複数の医療従事者が分担したり引き継いだりしながら、患者に適切な治療を
行なうためには、適切な情報を必要な人に必要なときに提供するためのシステムの開発が望ま
れる。
次ページに示す厚生労働省が発表しているヒヤリハット事例分析によると、処方・与薬に関
する事例が最も多く、その最大の発生要因は確認に関するものである。したがって、情報技術
の適用が処方・与薬に関する安全性の向上に貢献する余地は大きいと思われる。
9
厚生労働省によるヒヤリハット事例分析(処方・与薬)
※厚生労働省「医療安全対策について」(http://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0110/tp1030-1.html)
ヒヤリハット事例収集・分析
第8回集計結果より引用
(収集期間:平成 15 年 4 月∼6 月、報告施設数:72 施設、事例報告数:12909 件)
図 6-1
図 6-2
発生場面(全事例)
発生要因(処方・与薬)
10
(3)関連動向
医療情報システム分野での投薬事故防止は電子カルテ、ベッドサイド端末、医薬品物流システ
ムの効果の一つとしてあげられる場合がほとんどである。特に、医薬品のバーコード化や RFID
タグの導入による投薬ミス防止への期待も大きい。また、国内における医薬品バーコード化の準
備作業は国・業界団体によって進められており、来年から注射薬などでの導入が予定されている。
このような医薬品、患者、医療従事者へのバーコード認証による投薬ミス防止の動きは今後加速
していくものと思われる。米国の食品医薬品局(FDA)は医薬品バーコード化によって、今後 20
年間で計 41 万件の投与ミスを防ぎ、ミス後の治療にかかる余分な医療費を計 414 億ドル節約でき
ると試算している(2004 年 1 月 16 日、朝日新聞より)。
投薬に限らず、医療事故に対するリスクマネージメントを実践するための研究も盛んになって
きている。医療情報学会・全国大会では、リスクマネージメントのセッションが設けられ、イン
シデント報告システムの構築やインシデントの発生原因の分析支援などの研究が発表されている。
一方、医療分野の様々なリスクマネージメントに関する研究を対象とする学会(日本予防医学
リスクマネージメント学会)も 2002 年に設立されており、2004 年 7 月には「医療事故予防のた
めの医療機器、医薬品および医療情報システム」(第1回)が開催されている。
●日本予防医学リスクマネージメント学会 http://www.jsrmpm.org/
●「医療事故予防のための医療機器、医薬品および医療情報システム」(第1回)
http://www.jsrmpm.org/Workshop/e-work01.htm
厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度
厚生労働科学研究費補助金各研究事業)
で本ターゲットに関連すると思われる主な研究テーマを以下にあげる。
● 医療機器のヒューマンファクターエンジニアリングに関する研究
● 病院からの医療事故関連情報の集積に向けた方法の確立とその分析による効果的な事故
防止策の実施に関する研究
● 外科領域の医療安全対策支援システム開発
● 医療事故の組織要因同定・予防対策のシステム化の開発研究
● 医療現場における意図伝達エラー:認知科学的コミュニケーション分析に基づくエラー
予防に関する研究
● 医療事故防止のためのヒヤリ・ハット事例の分析等に関する研究
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
z
医療機器や医療システムの使いやすさと誤操作防止を向上させるコンピュータ支援技
術。たとえば、処方システムなどでの誤入力を防ぎ、かつ使いやすさを損なわないヒュ
ーマンインタフェース等。
z
医薬品や患者の識別バーコードとモバイル機器を活用した安全確認支援技術。病院内で、
いつでもどこでも必要情報に高速にアクセスでき、患者への投薬・処方などを確認でき
る。たとえば、以下の技術が考えられる(ネットワークやセキュリティ技術は医療分野
のみに限定される技術ではない)。
11
¾
途切れることがなくかつ迅速な情報アクセスを可能とするシームレスでかつ高信
頼・高速なワイヤレスネットワーク技術(スケーラビリティや医療機器への影響も考
慮が必要)
¾
処方等の記録に対する真正性保証技術。手書きでなくなることにより、誰が記した記
録か分からなくなる危険がある。また、患者や処方データの改ざん防止、アクセス制
御も必要だが、医療現場で使えるように操作の手間が少ないインタフェースとなって
いることが求められる。
¾
患者の個人情報の漏洩を防ぐワイヤレスセキュリティ技術
¾
患者や医療従事者を簡単にかつ正確に認証する技術(バイオメトリクス等)。現状の
リストバンドでは、外来患者の正確な認証に限界がある(診察券の取り違え等から間
違いが発生する等の課題がある)。
¾
患者の病状や点滴状況等の監視、無投薬の患者に対する与薬日時の警告、緊急に生じ
る処方の変更を看護師にリアルタイムに通知する情報管理技術。
z
薬品トレーサビリティ実現技術。たとえば、薬品(製造ロット番号)がどのようなプロ
セスを経てどの患者にいつ投与されたかが把握できるシステムの実現技術。上であげた
技術内容と重なる点が多い。
※医療事故防止支援の実現には、医療事故の原因を究明し、防止策検討の中で人間が行なうべき
こととコンピュータでできることの分析・整理が最重要と思われる。上記のものは一般に指摘さ
れているニーズやシーズからまとめたものであるが、こうした分析が進めば、上記以外の技術テ
ーマが出てくる可能性もありえる。
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
医療エラーの防止率向上は患者およびその家族にとって安心を提供することになる。
(医療従事者にとって)
患者への処置に対する安全確認や情報共有の支援は医療エラーの防止を向上させるのみな
らず、医療従事者の肉体的・精神的作業負担を軽減させることに繋がる。
(病院にとって)
病院にとってもっとも重要な要件である患者の信頼を高めることが可能となる。
12
6.1.3. ターゲット3:医療情報システムの信頼性・生産性向上技術
医療情報システムの高信頼性・耐故障性を実現する技術や、医療情報システム導入・運用の
低コスト化のためのソフトウェア生産性向上技術。
(1)目標:
本技術の実用化により、以下の目標を達成する。
・
医療情報システム導入から安定運用までの期間を 50%に削減。
・
運用時のシステムダウン率(30 分以上システムが停止してしまうシステムダウン)を
0.001%以下に抑制(MIL-STD-882D の D レベル(起こりそうにないレベル))
(2)背景:
医療情報システムは航空管制システムや銀行システムと同様に高い信頼性と安定性を要求さ
れる。医療情報システムの停止は病院機能の停止に等しいとされ、システムダウンの影響は深
刻なものとなる。一方、ベンダーが提供するパッケージは医療サイドの様々な要求に応えきれ
るものにはなってないことが多く、カスタマイズの範疇を超えたシステム修正・新規開発が必
要となるケースが多いといわれている。こうしたシステム変更がシステム導入時のトラブル多
発の一因ともなっている。さらにシステム更新時の設定ミスによるシステムダウンやマスター
作成のデータ確認ミスによるトラブルなどヒューマンエラーに起因するトラブルも報告されて
いる。
また、電子カルテシステムの導入には多額の費用がかかり、それが普及の大きな障害となっ
ているといわれている。導入時だけでなく、導入後においても、医療費制度の改訂等により、
システムに対する変更要求が多く発生し、コストの増大に繋がっている。制度の通達から実施
までが一ヶ月程度しかない場合もあり、短期間内のシステム修正を迫られ、システムの質の低
下を招く原因となっている。
(3)関連動向:
背景にあげたシステム開発に係わる課題は電子カルテシステムの医療における役割や守備領域
が明確化できていないことにも大きな要因があるとされている。厚生労働省の標準的電子カルテ
推進委員会においては、電子カルテシステムの果たすべき機能を整理し、システムの単位ごとに
部品化を図ることにより共通利用化する取り組みの必要性が指摘されている。これを解決するひ
とつの研究開発事業(厚生労働省)の取り組みとして、保健医療福祉情報システム工業会による
「電子カルテシステムモデル特別プロジェクト」が平成 13 年から実施されている。本プロジェク
トでは、電子カルテシステムの標準モデルの検討やコンポーネントによるシステム開発方法論の
研究開発(平成 14 年)、モデル駆動型の電子カルテシステム開発方法論の研究開発(平成 15 年)
が行われている。
上記のプロジェクトも含め、厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度
厚生労働
科学研究費補助金各研究事業)で本ターゲットに関連すると思われる主な研究テーマを以下にあ
げる。
●医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する調査研究
13
●電子カルテのための処方設計支援システムの基礎技術の研究とコンポーネントの開発
●標準的電子カルテに要求される基本機能の情報モデルの開発
●標準的電子カルテシステムのアーキテクチャ(フレームワーク)に関する研究
●電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究
●電子カルテシステムの標準化コンポーネントとしての医療効果予測提示システムの開発
●電子カルテネットワーク等の相互接続法の標準化
●電子カルテの相互運用に向けたHL7メッセージの開発および管理・流通手法に関する研究
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
:
z
高信頼な医療分野向けシステム統合技術(検査、医事会計、電子カルテ、入院施設管理、
外来・予約受付、医薬品物流管理等)
z
フォルトトレラント技術(システム2重化、稼働状況監視等)、ヒューマンエラー防止
技術
z
医療情報システムの開発支援技術、保守支援技術
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
高信頼な医療情報システムは IT による様々な患者サービス向上の安定的な基盤となるも
のである。また、低コスト化によるシステム普及は、より高い質の患者サービスを提供する
医療機関の増強に繋がる。
(医療従事者にとって)
医療現場に大きな混乱をもたらすシステムトラブル・ダウンを抑制することにより、医療
従事者は安心して医療業務を遂行できる。低コスト化によるシステム導入・改良の実現は、
業務効率化等の本来のシステム利用の目的を実現するものであり、医療現場の改善につなが
る。
(病院にとって)
患者や医療現場に重大な影響を与えるだけでなく、病院が患者からの信頼を失うことにつ
ながるシステムトラブルのリスクを回避できる。低コスト化によるシステム導入・改良の実
現は、業務効率化等の本来のシステム利用の目的を実現するものであり、経営改善を図るこ
とができる。
14
6.1.4. ターゲット4:医療知識共有支援システムの構築
医師の経験的医療知識を蓄積、共有、活用することにより、医療レベルの向上と均質化を図る
ことを目的とした環境整備。
(1)目標:
医療知識共有コミュニティとして、以下の数値を達成することを目標とする。
z
既存のメーリングリスト等をベースにして、数百人以上の専門医から構成される情報交換コ
ミュニティを構成し、医師のスキル向上を実現(満足度評価等を導入する)。
z
実用上価値があると思われる症例の蓄積
また、医療レベルの向上と均等化を達成するために、以下の数値目標を設定する。
z
医療現場での利用における参考事例検索の的中率評価(医師に対する満足度評価)
あるいは、
z
大学、国立病院等、複数の医療教育現場での導入件数。
など。
(2)背景:
医療従事者にとって、最新の医療動向や医療技術を獲得する機会は、特に遠隔においては限定
的なものとなっている上、扱う症例も必ずしも多くはなく、経験的スキルの向上・均質化が望ま
れている。遠隔医療などによる専門医療機関の連携はそのための1つの方策であるが、本来的に
は、医師のスキル向上が望まれている。
分野によっては、メーリングリストやアーカイブ検索機能などが整備され、その有用性が確認
されているが、未整備の領域も多い。教科書的なデータベースは整備されつつあるものの、経験
的知識の蓄積と活用が望まれている。特に実際の症例が少ない部位や疾病においては、症状や治
療経緯の共有は、医療スキルに直結する。
また、画像データベースや検索システムは一般に高価なものとなっているが、あらゆる診療所
において安価に導入できるよう、パソコン上で動作する環境での構築が望まれている。加えて、
実際の診療現場での活用が行われる必要があることから、電子カルテシステムとの融合なども検
討されなければならない。
(3)関連動向:
●メーリングリスト
メーリングリストはいくつかあるものの、HP 上では更新が止まっているものや新規会員募集
を停止しているものが多い。
・ STUDIO MEDICO
医師限定。最新の医療情報の交換、他科の医師への質問、その他雑談。平成 14 年 8 月現在で
平均数通/日。
15
・ 国際保健メーリングリスト
国際協力、特に国際保健協力に軸足をおいた ML。資格制限は特になし。ただし、国際保健
協力の経験者もしくは興味のある人が対象。参加者
500 人以上。イベントの告知などが多
くなっており、情報の切り分けが必要とされている。新規会員募集はなし。
・ 実地医療研究メーリングリスト
参加者約 50 名。医師限定。医療情報交換が目的。HP 上の更新は止まっている。
・ 小児科メーリングリスト
東北大学根東教授が主催するメーリングリスト。参加者約 2100 人。一日数通以上。診療情報、
経験情報の交換等。アーカイブの整備と検索システムも整備。
・ path mail
病理診断、病理学的研究に従事する医師、歯科医師などの医療資格者を対象。
・ 緊急医療・情報研究会
救急・災害医療に関する情報交換をはじめ、様々な分野におけるメンバ間の交流を目的とし
たメーリングリスト。1200 名強の参加者。消防職員=約 65%、医療従事者=約 25%、その
他=約 10% の割合。一日当たり、5∼30 通。参加制限はなし。複数のボランティアによる運
営で、アーカイブ(担当者による「まとめ」)もある。
その他、UMIN(University hospital Medical Information Network)にメーリングリストの紹
介(50 程度)がある(http://www.umin.ac.jp/ml.htm)。UMIN のサーバを利用しているものも
ある。リンク切れが多く詳細は不明。
本ターゲット案では、メーリングリスト等から得られる情報の自動アーカイブ、自動分類、検
索支援システムの実現を目指す。
● 医療関連ライブラリ
医学情報提供サイトは多数ある。症例に基づく経験共有を意図したものは少ない。
・ メルクマニュアル
日本語版
http://merckmanual.banyu.co.jp/
臨床医、医学生、インターン、看護者、薬剤師、その他医療従事者に役立つ臨床医学情報を
提 供 。 2655 ペ ー ジ の マ ニ ュ ア ル の オ ン ラ イ ン 版 。 メ ル ク マ ニ ュ ア ル
家庭版
http://mmh.banyu.co.jp/ もある。
・ webMD
http://my.webmd.com
症状で検索が可能。
・ DermIS(独) http://dermis.multimedica.de
皮膚学(dermatology) に関する情報サイト。症状や数千個の写真(症状)による情報閲覧が
可能。英語以外の言語にも対応(日本語話)。症例レポートのほか、レクチャ資料などもある。
・ MEDLINE
医学分野で世界最大の(学術)文献データベース。1966 年から NLM(米国国立医学図書館)
でデータ収集が始まり、毎月 3 万件の文献を追加。米国を中心に約 70 ヵ国から、900 万件を
16
超える文献を収録。
・ EMBASE
MEDLINE とともに有名な医学文献データベース。年間 40 万件のレコードを新規追加。特
に、医薬品に関する情報が充実している。
本ターゲット案では、現場での実際の活用を目的とした症例ライブラリの効率的なデータ蓄積
方法の検討を行う。
● 医療関連検索システム(シソーラス等)
医療情報の検索は、全文一致検索が主体であるが、MEDLINE では、UMLS を用いたシソー
ラス検索にも対応している。
UMLS (Unified Medical Language System) :
NLM のプロジェクト名称で、医学生物学領域のさまざまなデータベースを統合的に活用するこ
とを目指して、医学用語や概念の意味と関連付けの集大成を行おうとしているプロジェクト。170
万用語をカバー。英語以外も 30 万用語あるが日本語は含まれていない。
国内では、厚生科研 21 世紀型医療開拓推進研究「UMLS と連携した日本語医学用語シソーラ
スの作成」(2001 年から 3 年プロジェクト)が実施されている。
http://www.imic.or.jp/aimic/pdfdata/23_2/v23_2p10.pdf
本ターゲット案では、医療情報シソーラス(+必要に応じてその他のシソーラス等)を用いた
効率的な症例検索機能の開発を目指す。また、画像情報検索との融合についても検討する。
上記のプロジェクトも含め、厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度
厚生労働
科学研究費補助金各研究事業)で本ターゲットに関連すると思われる主な研究テーマを以下にあ
げる。
●メディカルコミュニケーション技術教育システム開発に関する研究
●中毒医療における教育の在り方と情報の自動収集・自動提供、公開ネットワークの構築に関
する研究
●UMLSと連携した日本語医学用語シソーラスの作成
●EBMを指向した「診療ガイドライン」と医学データベースに利用される「構造化抄録」作
成の方法論の開発とそれらの受容性に関する研究
●標準データ項目セットを用いた知的データベースによる診療根拠の動的生成に関する研究
●わが国における看護共通言語体系構築に関する研究
●日本におけるEBMのためのデータベース構築及び提供利用に関する調査研究
●医療機器技術の基盤的EBMデータベースの構築に関する調査研究
●糖尿病とその合併症の治療・予防についての最適ストラテジーの探索とそのデータベース化
●根拠に基づく看護技術のデータベース化に関する研究
●三次救急医療施設における医療情報データベースの基盤整備と二次救急医療体制の確立と
17
評価方法の開発に関する研究
●脳卒中診療ガイドライン策定とデータベース化に関する研究
●胃癌診療ガイドラインのデータベース化に関する研究
●喘息診療ガイドラインのデータベース化に関する研究
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
:
z メーリングリスト等医療情報を交換できるコミュニティ環境の整備とアーカイブ化支援機能
医師、看護士、放射線技師などの資格判定機能と情報のレベルに応じたアクセス管理機能、匿
名化処理など。
z 医療ニュース(各新聞社医療情報サイト、厚生労働省新着情報、薬事情報サイト)の自動収
集エージェントの開発。
z 収集された情報の適切な分類を行った上で、
(医療知識に基づく)概念検索、提示を行うシス
テム。重要度や緊急度の自動判定なども含む。
z 患者の生活環境、過去の病歴、経過、症状などの非定型な情報をもとに、診療現場での活用
を容易にするための類似検索技術(類似症例の検索など)
。
z 医学知識を融合した画像検索技術と提示技術(インタフェース技術)
z 医学研究、医療教育に資するインタフェース技術
z 専用端末を必要としない、パソコン上で動作する安価な利用環境
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
医療レベルの向上による適切な治療。希少疾病の早期発見。
(医療従事者・病院にとって)
医療従事者の医療スキル、医療サービスの向上。
OJT を補完するものとしての医療教育の質的向上と効率化。
18
6.1.5. ターゲット5:医療画像スクリーニングの実用化
X 線 CT 画像、MRI 画像等の画像データを効率的にスクリーニングし、異常部位の的確な検出を
行うための技術開発。具体的な臓器/疾患として、肺がん等の肺疾患、心血管疾患、骨疾患、脳
梗塞、胃がん等の CT 画像、MRI 画像からの早期検出を具体的なターゲット(案)とする。
(1)目標:
医療画像スクリーニングの適用により、以下の数値を達成することを目標とする。
・ 集団検診等の大量の画像データのスクリーニングにおいては、検出率(TP:true positive)、
偽陽率(FP: false positive)を軸とした ROC 曲線により評価を行うのが一般的である。
人間のスクリーニングによる ROC 曲線と比較することにより、その優位性が示されること
が目標となる。また、TP、FP の組み合わせに対する数値的評価としては、TP=98%以上、FP=1
∼2 個/枚などの数値が一つの指標となる。
(2)背景:
医用画像の自動診断技術は、CAD(Computer Aided Diagnosis)と呼ばれ、科研費補助金特定
領域研究に採択される(多次元医用画像の知的診断支援 平成 15 年度∼18 年度)など近年研
究が活発化している分野である。特に、マンモグラフィからの乳がん自動スクリーニングシス
テムや胸部 X 線診断システムなどが商用化され、実際に集団検診等で用いられるなど、実用化
に向けた研究開発が活発に行われている。今後は、さらに別の臓器への適用が期待されるが、
医用画像処理においては、各臓器や症状に依存した形でのレンダリング処理、パターン認識、
特徴抽出、特徴量解析が必要になる。このため、臓器や症状をある程度特定した上での目標設
定が適切である。今後、他臓器への適用や実用化に向けた精度向上を行うためには、三次元画
像の処理やモダリティ融合に加え、シンボリックな医学知識との融合が必要になると考えられ
ている。
特定領域研究においても同様な問題意識に基づきプロジェクトがすすめられているが、ここ
では、人体全体の認識、ナビゲーションによる治療支援技術など、幅広くかつ基盤的な研究が
中心となっているため、本ターゲットにおいては、より具体的に、臓器や疾患を特定した上で
の精度向上を図るのが適切と考えられる。
(3)関連動向:
CAD システムの現状技術レベルならびに今後の動向は下図のようにまとめることができる。
19
(IT 医療白書 03「CAD システムの到達点と展望」をもとに作成)
図 6-3
CAD システムの現状技術レベルならびに今後の動向
乳がん、肺がん CT、胸部 X 線診断については、現状実用化レベルもしくはそれに準ずるレベル
にあり、特に乳がんにおいては、スクリーニングにおける効果が確認されている。一方、X 線写
真を基にした診断においては、肺がん、胃がんともに実用化まで 10 年程度はかかると予想されて
いる。
今後の課題については、以下のように考えられている。
・
臓器相互の位置関係、各臓器の内部構造などのきちんとした正常構造を理解した上での診
断技術(現状は特定部位のみの診断となっている)
・
現状の CAD システムが特定疾病のモデルのみを内蔵しているのに対し、種々の疾病のモデ
ルを用意すること(現状は特定の症状の検出のみを目的としている)
厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度 厚生労働科学研究費補助金各研究事業)
で本ターゲットに関連すると思われる主な研究テーマを以下にあげる。
●標準的電子カルテにおける画像観察液晶モニタ、汎用液晶モニタの標準化と制度管理に関す
る研究
●医療効果・経済効果を目的とした遠隔病理診断の実用化とこれに関する次世代機器の調査・
開発
20
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
:
z
肺がん等の肺疾患、心血管疾患、骨疾患、脳梗塞、胃がん等の早期検出に寄与する画像
スクリーニング技術(CT 画像、MRI 画像等)。
z
モダリティ融合技術(超音波画像や機能情報を表す SPECT、PET 等との融合、また、シ
ンボリックな医学的知見との融合による精度向上)
z
臓器のモデル化と正常構造理解、またそれとの比較による異常部分の検出。
z
ニューラルネットワーク、ウェーブレット、フラクタル、GA 等の手法のほか、医学知
識を融合した新しい自動診断技術の開発
z
疾病モデルのデジタル化とデータベース化
z
色彩、色調、明度、色温度等の再現性を保証する技術
21
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
異常部位の早期検出。
(医療従事者にとって)
スクリーニング作業の効率化と検出率の向上。
22
6.1.6. ターゲット6:在宅ホームドクター
自宅にいながらにして、かかりつけのドクターからの医療サポート、看護・介護サポートが受
けられるような環境の構築。高齢者の自立支援。また、家庭医学や保健医療、緊急医療等の情報
を容易にかつ適切に入手できるような環境の構築。
(1)目標:
在宅ホームドクターの普及目標として、特にニーズが高いと思われる特定のモデル地域を設定
し、病院、行政、ボランティア、介護士などによるネットワークを構築する。当該地域における
導入数として数百以上などの数値目標を設定する。また、診断精度の低下、信頼性の保証、コス
トの増加が遠隔医療の問題点として認識されているため、診断精度が低下しないこと、セキュリ
ティ確保、安価な実現、さらには在宅の高齢者や障害者の満足度評価や自立度評価なども達成目
標としてあげられる。
(2)背景:
高齢者の増加ともに、かかりつけのドクターによるモニタリングが医療行為の大きな比重を占
めるようなることが予想される。病院の待ち時間の効率化も一つの解決すべき重要な課題と考え
られるが、一方で、来院せずとも医療行為を受けられるような環境の整備は、サービスを提供す
る病院側、ならびにサービスを受ける患者側の双方にとって今後必要である。e-Japan 戦略Ⅱに
おいても「センサーなどを用いた高齢者の在宅健康管理」が一つの大きな目標となっている。
また、高齢者の増加に伴い、相対的に医療従事者が不足してくる現状から「一次予防」の重要
性が高まってきており、高齢者が安心して暮らしていくための情報提供、メンタルサポート、自
己健康管理の促進が必要になってきている。
遠隔の医療行為は、本来、症状に応じて専門医の診療が受けられる環境整備が将来的には望ま
れているが、現在の日本では、ホームドクターと専門医の役割区分が明確でなく、患者情報の一
元管理においても制度的な課題があるため、短期的なターゲットとしては、かかりつけの医師や
地域行政あるいはボランティアらとのホットラインの構築による医療保健行為の効率化、適切化
を目標とするのが適当であろう。
23
(3)関連動向:
● 遠隔医療
一般に「遠隔医療」と呼ばれているものには、以下の形態がある。
・ 医療機関と専門医
・ 医療機関と医師のいない医療・保健機関
・ 医療機関と家庭
・ コメディカルと家庭
このうち、医療機関を結び画像伝送を行う遠隔医療は、現在までに多くの試みがあり、長崎(五
島列島、対馬列島)、香川、加古川などの地域で実施されている。最近では、ブロードバンドを使
った連携として、国立病院東京医療センター・慶應義塾大学病院などの事例もあるが、全体的に
見て広く普及しているとはいい難い。また、継続的な運用を行うことも大きな課題となっている。
一方、IPA でも「基盤技術応用保健医療情報システム等の構築事業」において「島根県における
離島医療支援システムの構築・運用実験」を実施している。本事例では、隠岐島側の二病院と本
土側の病院を ISDN 回線で接続し、CT や MRI 画像の伝送のほか、TV 電話による遠隔カンファ
レンス機能が実現されている。2000 年 4 月から運用が開始されており、離島の地域医療に貢献
した一つの事例となった。
本ターゲット案の目指すものは、
「医療機関と家庭」間の遠隔医療・福祉サービスの提供である。
特に、高齢者が増加し、医療費の増大、医療従事者の相対的不足が見込まれる近未来においては、
高齢者が自分の健康状態を自己管理でき、
「一次予防」に資するような道具や環境を提供するよう
なインフラが必要である。
医療機関と家庭間遠隔医療サービスの関連事例としては、いずれも実験的な取り組みとなって
いる。具体的には、北海道西興部村における田園マルチメディアモデル整備事業、香川医科大学、
NTT ドコモ四国による在宅ハイリスク妊婦管理システム、釜石市せいてつ記念病院における在宅
健康管理システムなどがある。なお、在宅の健康管理システムとしては、国内では、うらら健康
づくりサポートセンター((株)ナサ・コーポレーションが運営)によるものが有名である。74
箇所の自治体、病院へ導入実績がある。健康管理に加え、介護サポート、指導、メンタルケア、
健康情報教材の提供などが行われている。
以上まとめると、国内においては、小規模ながら、在宅医療に加え、健康管理や意識向上など
行政面からのサポートも含めた環境作りが行われつつある。いずれも数十から数百患者規模のも
のであるが、患者側の自己管理意識向上にまで結びついているものは少ない。情報提供手段やイ
ンタフェースが大きな課題となっている。
厚生労働省の研究開発事業(平成 14 年度及び 15 年度 厚生労働科学研究費補助金各研究事業)
で本ターゲットに関連すると思われる主な研究テーマを以下にあげる。
●患者の視点を重視したネットワークによる在宅がん患者支援システムの開発
●高位頸髄損傷者の在宅生活支援システムの開発
●ユビキタス情報社会に向けた遠隔看護支援システムの開発
●北海道の地域医療における情報通信技術を用いた生涯医療教育及び遠隔医療支援
●へき地・離島医療における診療支援システムの評価に関する研究
24
●遠隔医療実施状況の実態調査
●患者の視点を重視したネットワークによる在宅がん患者支援システムの開発
● 海外の動向
・ 3G 携帯電話の利用(イギリス)
日本同様、高齢化が進むイギリスでは、高齢者が病院のベッドではなく 3G 携帯電話を用い
て、自宅で療養できるようにする方法を検討するため、複数の技術企業に多額の研究開発投
資(約 1 億 6200 万ドル)を行っている。
・ 在宅ヘルスケア支援システム(米国)
健康監視機器とネットワークを介して医師から遠隔診断を受けられるシステムがすでに実用
化されており、一ヶ月 400∼500 ドルで同システムが利用できる。
(4)技術ターゲット(開発すべき技術内容)
:
z
自宅環境における生体情報センサー
z
広帯域ネットワークを用いたコンテキストアウェアな各種サポートの実現
z
伝送時の真正性の保証
z
安全かつ高速なデータ伝送を可能にするセキュリティ確保とネットワークプロトコル。
z
患者側ならびに病院側の操作を容易にするインタフェース。
z
安価かつ汎用な利用環境の整備(自宅パソコン、携帯電話等の端末の利用を想定)
z
患者の自己管理意識を向上させるため、レベルや環境、各個人の状況に応じた適切な情報提
供(インタフェース含む)方法、遠隔コンサルテーションシステム、教材の開発など。
(5)技術開発による期待効果:
(患者にとって)
緊急時の対応、日常的なモニタリングによる異常の早期発見。
その他、地域間格差の解消。通院の負荷軽減などが効果としてあげられる。
(医療従事者にとって)
往診の負荷軽減(対面診療の軽減)。患者の自己管理意識向上による医療負荷の軽減。
(病院にとって)
治療業務の効率化。大きな異常のない患者に対しては、来院してもらう必要もなく、治療行為
を済ませることができる。
25
6.2. ロードマップターゲットの設定
ロードマップのターゲットは前節で抽出した6つの技術テーマから以下の観点で分析し、設定
を行った。
● 技術的イノベーション
技術的進展が著しく、研究開発の実施によって具体的な成果が見込めるテーマであるか?
● 情報技術的な新規性、適性
情報技術として新しいテーマか?または情報技術にとって得意なテーマか?
● 医療サイドからの開発ニーズ
医療現場におけるニーズを満たす技術であるか?
● IPA 事業との適性
IPA においてテーマ設定型の事業として実施するのにふさわしい技術テーマか?
● 技術的波及効果
研究開発の実施によって、技術的な波及効果が期待できるか?
以上の観点から分析した結果を次ページの表にまとめる。この結果から、以下の3つのテーマ
をロードマップターゲットとして設定した。
(1)医療安全性向上のためのソフトウェア技術
(2)医療知識共有支援システムの構築
(3)在宅ホームドクター
26
表 6.2-1
(1)電子カルテの操作支援技術
技術的イノベーション
GUIやペン入力インタフェースは実
用段階。医療分野に特化した改良
が課題となる。
・技術の進歩が著しいか?
情報技術的な新規性、適性
既に研究開発が手がけられてお
り、情報技術的な観点での新規性
は多くはない。
・情報技術的に新しいテーマか?
情報技術が得意な分野か?
開発ニーズ
・医療現場が欲している技術か?
IPA事業との適合
・テーマ設定型の事業に馴染むか?
技術的波及効果
・技術的広がりがあるか?
システムの標準化が進むと、導入
済の病院にとって、特定のベン
ダーへの依存度が軽減し、先端シ
ステムへの乗り換えやシステムの
改良性が向上するとともに、導入し
ていない病院にとっても新規導入
のインセンティブになる。
新規の技術開発が中心的なテーマ
になりにくいためテーマ設定型事
業の主旨に合致しない部分があ
る。制度的課題を含めて厚労省と
連携して実施するのが適当。
技術開発部分としてはインターフェ
イスが中心になり、他の技術開発
要素は少ない。また、標準化やガ
バナンス、業務全体の最適化と
言った制度的な課題が大きい。
△
(2)医療安全性向上のための
ソフトウェア技術
当該分野の要素技術であるユビキ
タスやモバイル関連技術の発展は
著しい。医薬品バーコード化などの
インフラ整備も始まった
○
初歩的な確認ミスを防止すると
言ったITが得意とする技術である。
△
○
医療事故(含むインシデント)の防
止に繋がり、患者の信頼を高める
ことになる。
○
△
△
ロードマップターゲットの選定
(3)医療情報システムの信頼性・
生産性向上技術
研究開発は盛んに行なわれている
ものの、技術の多くは未だ発展途
上である。
信頼性向上とコストは相反し、どこ
まで信頼性を向上させればいいの
か定義が難しい。
開発対象がセキュリティ、メディア
及び知識処理など広範であり、開
発者の母数が大きい。また、プロ
ジェクトの規模も大きくないことから
(提案金額も大きくない)、テーマ設
定型事業に相応しい。
モバイル、ユビキタス、リライアビリ
ティ分野などへの技術的広がりは
大きい。
CSCW(グループウェア)や情報検
索の技術の発展は著しい。
△
△
システムダウンの可能性は低いに
こしたことはないが、現状は銀行シ
ステムほどの信頼性は必要ない。
○
(4)医療知識共有支援システム (5)医療画像のスクリーニングの
実用化
の構築
○
主に医者間の話題を対象にして
おり、直接的に患者と対峙するこ
とがないため、比較的入りやす
い。
医療従事者の医療知識、スキル
が向上し、適切・均質な医療行為
が可能になる。
△
より高い信頼性を要求すればする
ほど、提案金額が高額になる可能
性が高い。
○
△
信頼性の向上は無限の課題であ
り、技術的広がりや難易度も高い。
○
○
27
○
画像処理技術の進歩は速いが、
医療技術として画像診断の発展
が不可欠である。
これまで数多くのプロジェクトが実
施されており、情報技術的な新規
性は少ない。
△
○
○
1件あたりの案件金額も大きくな
く、従来の公募事業には適する
が、比較的狭い範囲の技術開発
であり、成果物のインパクトが小さ
いことや、応募する開発者が限ら
れることから、テーマ設定型事業
には適していない。
△
画像処理に特化しており、技術的
広がりは小さい。
○
ユビキタス、モバイルの進歩は著し
い。ブロードバンド、携帯電話など
のインフラが整ってきている。
○
医療分野以外にも応用できる。
スクリーニング作業の効率化と検
出率の向上により、異常部位の
早期検出が可能になる。
○
開発対象がミドルウェア、メディア
及び知識処理など広範であり、開
発者の母数が大きい。また、DB
システム自体はそれほど高額な
案件になるものではでなく、ノウハ
ウ、アイディアの部分に大きく依
存するためIPA事業として相応し
い。
新しい形のDBシステムに繋がる。
△
(6)在宅ホームドクター
×
○
患者の日常的なモニタリングによ
る異常の早期発見、緊急時対応が
可能になり、医療業務の効率化に
資する。
開発対象がセキュリティ、ミドル
ウェアなど広範であり、開発者の母
数が大きい。また、プロジェクトの
規模も大きくないことから(提案金
額も大きくない)、テーマ設定型事
業に適する。ただし診療報酬や事
故の際の責任の所在が明確でな
いなど制度的課題がある。
キャリア(通信事業者)が入ってくる
ので、新しいネットワークアプリ
ケーションへの展開も期待できる。
○
△
○
7. 医療分野における情報技術ロードマップ
7.1. ターゲットごとのロードマップ策定
本章では、前章で求められた 3 つのターゲットに関して、それぞれ詳細マップを記述する。以
下、各マップの作成方針について説明する。
(1) 全体ロードマップ(10 年)
当該ターゲットを達成するために必要な技術的要件を 5 つに分類し、現状の技術レベル
(技術トピック:左端に表示)、ならびに今後 10 年間における各要素技術の達成目安を
あらわしたもの。マップ中の●は達成目安を表している。各要素技術は、以下のような基
準に基づき、達成目安を推定した。
・ 1∼3 年以内:短期的に達成可能と考えられる技術要素
すでに関連技術開発事例があり、現状の技術開発の延長線上で比較的容易に実現可能と
考えられるもの。たとえば、基盤技術としてはすでに確立しており、医療分野への応用
に向けたデータ整備やカスタマイズ等により実現可能と考えられるもの。
・ 3∼5 年以内:中期的に達成可能と考えられる技術要素
すでに関連技術開発の取り組みがあるが、技術的困難性を抱えており、基盤技術として
の確立が待たれるもの、あるいはプロトタイプに対する実験検証が行われており今後数
年で実用的な開発が行われると期待されるもの。
・ 5 年∼10 年以内:長期的に達成を目指すべき技術要素
現在構想レベルとしてはあるものの、具体的な技術的検討が十分に行われていないもの、
あるいは中期的に達成可能なテーマの統合技術として 10 年以内に達成可能と思われるも
の。
また、
「全体ロードマップ」策定にあたっては、医療分野だけでなく、他分野への技術的
波及効果についてもあわせて検討を行った。ロードマップ下段では、短期、中期、長期
の各段階において、医療分野として達成されるサービスのイメージ(とユーザ、効果な
ど)をまとめ、また、他分野に対する波及効果についても言及した。
(2) 使用イメージ(10 年、3 年)
使用イメージは、全体ロードマップのうち、10 年後(長期)の達成課題に対して、実現
される具体的なサービス内容についてより詳細化を行ったもので、当該システム実現時に
考えられるプレーヤー(ユーザ、情報提供者等)とシステムの関連を図示したものである。
また、3 年後の部分的な達成イメージについて、吹き出しでコメントした。
(3) ロードマップ 3 年後に実現できる利用サービスイメージ
上記使用イメージにおいて、3 年後の実現に焦点をあて、想定されるユーザ分類ごとに主
な利用形態やその効果をまとめたものである。
28
(4) 3 年後の情報技術動向マップ
(1)の全体ロードマップにおける現状∼3 年に焦点をあて、現状医療応用において技術
的な課題とされている点、また現在の技術開発動向、ならびに 3 年後の目標として詳細化
を行ったものである。
29
7.1.1. 医療安全性向上のためのソフトウェア技術
(1)ロードマップ策定の視点
(財)医療情報システム開発センター「平成 13 年度情報技術を用いた医療安全対策のあり方に
関する検討会報告書」によると、医療事故は「計画上の誤り」に起因するものと「実施上の誤
り」に起因するものに大きく大別される。
「計画上の誤り」は治療を計画する医師の知識・判断そのものに問題があることが原因とさ
れる。これに対する防止あるいは削減に情報技術が活用できる場面としては、情報技術による
診断・処方の意思決定支援があげられる。関連するシステムあるいは取り組みとして、医療従
事者間のメーリングリストなどの情報共有、オーダリングシステムの意思決定支援、医療デー
タベースやクリティカルパスの共有など、診療知識共有の取り組みが行われている。このよう
に「計画上の誤り」を防ぐための情報技術は診療知識共有のための技術となるため、7.1.2. の
ロードマップの目標範囲となる。
そこで、本節では、「実施上の誤り」、具体的には処方指示受けから投薬実施までの与薬プロ
セスにおけるヒューマンエラー(指示の誤認、不注意によるミス等)による医療事故、インシ
デント(事故には至らなかったヒヤリハット)を防止するための情報技術をターゲットとする。
同報告書によると、
「実施上の誤り」に対する防止あるいは削減に情報技術が活用できる場面に
は、以下のものがあげられる。
●医療従事者間での正確な情報伝達
●患者・医薬品の識別・管理
●処方チェック
●調剤自動化
●医療行為の記録・保存・分析
現在、これらの活用を実現するシステムとして以下のものが開発されている。
●携帯端末、ベッドサイド端末による確認システム
●バーコード、RFID による識別・確認システム
●オーダリングシステム、警告システム
●調剤の自動化(ピッキングマシン)
●インシデントレポート、退院時サマリー管理システム
●医療行為発生時点管理(POAS: Point of Act System)
「実施上の誤り」の防止を高め、安全性を高めたい医療側のニーズに対して、医療情報シス
テムが持つ開発課題を以下の文献から調査を行い、図にまとめた。
・ (財)医療情報システム開発センター「平成 13 年度情報技術を用いた医療安全対策のあ
り方に関する検討会報告書」
・ (財)医療情報システム開発センター「平成 15 年度医療分野における電子タグなど標準
化調査委員会報告書」
・ 「医療におけるヒューマンエラーの実相」、ヒューマンインタフェース学会誌 2003 年
30
Vol.5,No.1
・ 「看護安全への認知的アプローチ」
、看護研究 2004 年 Vol.37,No.2
・ 秋山昌憲「IT で可能になる患者中心の医療」2003 年
・ 「IT で医療が変わる」、新医療 2003 年 8 月号
・ 「医療事故根絶の方法論」、新医療 2004 年 4 月号
・ 国際モダンホスピタルショウ 2004 年
・ 「高度医療を支える安全 ME 技術」、第三回情報科学技術フォーラム 2004 年 9 月
・ Making Health Care Safer: A Critical Analysis of Patient Safety Practices,Agency
for Healthcare Research and Quality,AHRQ Publication 01-E058 July 20, 2001
・ Computerized Physician Order Entry: Costs, Benefits and Challenges,The Leapfrog
Group,2003
現状の医療情報システムにおける開発課題
システム統合技術
誤操作を防止し、かつユーザフレ
ンドリーなインタフェース設計技術
エラー要因・システム要求
分析技術
オーダリングシステムでは、誤操
作防止のために、薬品選択や使
用量入力のチェックを機能が提
供されているが、入力の手間や
頻繁な警告等の使いにくさが問
題となっている。使いやすくかつ
誤操作を減らすインタフェースの
設計が求められている
エラー要因や対策を検討するため
のインシデントレポートの分析の
支援に、IT活用が期待されている。
さらに防止対策の中でシステムが
支援できるインシデント防止機能
の要求分析技術が必要となる
携帯端末等による安全確認のた
めのシステムが処方入力と連携
するには、既設のオーダリングシ
ステムと確認システムの統合が必
要となる。こうしたシステムと既設
システムを容易に統合するための
技術が求められる。
1日に数多くの患者の診察を行
なわなければならない診療科に
おいては、入力の手間や使いに
くさが診療の大きな障害となりう
る。初心者と熟練者の違いなど
にも配慮する必要がある。また、
各種医療機器に組込みシステム
が搭載され、情報化が進んでい
る。こうした機器に対しても、使い
やすく、誤操作を起こしにくいイ
ンタフェースが求められる。
医療安全対策を検討するには、過
去データからのインシデント発生原
因の分析が重要とされる。人間の
記憶に頼ったレポートだけでなく、
医療機器からのデータも必要とな
る。また検討された防止策の中で、
人が行なうべきこととシステムがで
きることを整理し、システムをどの
ように活用するかを明らかにし、シ
ステムに対する要求分析を行なう
必要がある。
携帯端末等による確認や患者や
薬品の識別のための安全確認
システムと既設のオーダリングシ
ステムや医療情報システムとの
統合はシステム全体の設計見直
しを必要とし、病院にとって大き
な負担となるのが現状である。
高信頼・セキュアなユビキタス基
盤技術
医療従事者間の情報伝達のため
のシステムは耐故障性、可用性な
どの点で高い信頼性を求められる。
また処方指示の変更が各担当者
に直ちに通知されるためのリアル
タイム性も必要となる。伝達される
情報に対するセキュリティ保護技
術も重要(特に無線LAN)となる
医療従事者間の情報伝達・安全
確認のためのシステムでは、関
係者が、適切な権限の下で、い
つでも院内のどこでも必要データ
に直ぐにアクセスできる必要があ
る。データの変更に関しては改ざ
ん防止だけでなく、いつ、誰が、
何を変更したのかをトレースでき
る必要がある。また、個人情報
保護法、患者の安心確保のため
にも情報漏洩対策が必要となる。
医療安全性を実現する観点からのニーズ
図 7-1
ロードマップ策定の視点( 医療安全性向上のためのソフトウェア技術)
31
(2)全体ロードマップ(10 年)
(1)の視点を踏まえ、本ロードマップの中長期テーマを「ヒューマンエラー防止のためのデ
ィペンダブル情報基盤技術」と捉え、以下のサブテーマから全体ロードマップを構成する。
●インシデント要因分析技術
インシデントレポートの収集・利活用に対する IT 活用の期待は大きく、ヒヤリハットデータベ
ースなどの取り組みがすでに始まっている。さらに、テキストデータであるインシデントレポー
トに対するテキストマイニング処理技術等の応用研究(自動分類や類似検索支援など)、他分野で
発展してきたヒューマンエラー分析の医療分野への適用も始まりつつある。インシデント要因分
析は安全対策にとって極めて重要なものとされ、その IT 応用は医療サイドのニーズも高く、国の
施策としての研究開発の意義は大きいと考えられる。また、より的確な分析を行うためには、現
状のインシデントレポートのような人の記憶によるレポートで記録を収集するだけではなく、シ
ステムによって与薬行為や患者の状態を自動的に記録できる仕組みが必要とされている。中長期
的にはそこで集められた膨大なデータからインシデント要因を半自動的に発見できる技術の開発
が期待される。
●システム要求分析技術
医療情報システムを活用した安全対策を実践するためには、安全対策として人・組織がすべき
こととシステムで実現可能なことを整理し、安全対策支援の機能をシステムに反映していく必要
があるとされている。また、医療情報システムに対するセキュリティ機能の重要性が叫ばれてい
るものの、機能要件の具体的な検討は十分とはいえない状況にある。2005 年 4 月から施行される
個人情報保護法への対応も必要とされることから、個人情報保護のための機能も含め、セキュリ
ティ機能要件の抽出と設計・実装の支援が喫緊の課題となりつつある。一方、要求工学分野にお
いて、セキュリティ機能に関する要求分析・設計技術の研究は大きなテーマとなりつつある。し
たがって、医療システムの安全性・セキュリティに係わる要求分析技術の研究開発は医療サイド
の要請に応え、情報技術への波及効果を期待できるテーマとして意義は大きいと考えられる。
●人に優しく、誤動作を減らすユーザインタフェース設計技術
オーダリングシステム等での誤入力防止のための警報機能はすでに開発されているものの、頻
繁な警報による入力の手間の増大の問題を抱えており、使いやすさも考慮したインタフェース開
発が求められている。解決アプローチとして、ユーザのスキルや知識、これまでの入力操作履歴
に基づいたインタフェース技術の応用が期待できる。一方、複数の医療機器が患者を囲む医療環
境においては、各機器から発せられる警報の洪水の中で習熟を要する機器操作と適切な判断・迅
速な作業を求められている。同時・頻繁に発せられる警報は医療従事者や患者にストレスを与え、
それがために警報スイッチをオフにし、事故につながる可能性もあると指摘されている。医療機
器に組み込みシステムが搭載され情報化も進むと見込まれることから、こうした環境において的
確に情報を提示し、使いやすいインタフェースを開発することも一つの研究開発テーマとして期
待できる。各機器をネットワークで接続して警報を統合して通知するシステムの研究開発はすで
に始まっている。各機器をネットワーク接続し、操作自体も一元的に行うインタフェースの研究
開発は、波及効果としてユビキタス分野のユーザインタフェース技術の発展も期待できる。
32
●システム統合技術
投薬時の患者認証システム等、開発が進んでいる安全確認のためのシステムがより効果的に活
用され、普及していくためには、既設の院内情報システムとの統合を支援する技術が必要となる。
また新たに求められるインシデント対策やセキュリティ対策から、運用中に機能(もしくはサブ
システム)の追加や拡張を求められることも想定される。現在、電子カルテの標準化への動きと
も連動して、医療情報システムへの Enterprise Architecture の導入、コンポーネントによる開
発方法論、モデル駆動型開発方法論の研究開発が厚生労働省のプロジェクトとして始まっている。
このような研究開発成果は安全確認システムを既設システムに統合するコストの低減化にもつな
がることが期待できる。これらの研究開発をベースとして、さらに医療システムに発展的ソフト
ウェア技術(運用時のシステム変更が可能な高信頼システムを実現する技術)を適用する研究も
中長期的テーマとして考えられる。
●高信頼・セキュアなユビキタス基盤技術
医療従事者間の情報伝達や安全確認を支援するシステムの実現には、いつでも院内のどこでも
データに高速にアクセスでき、耐故障性、可用性を具備した高信頼のネットワーク基盤が重要と
なる。災害時医療の機能を持つ大規模病院ではネットワーク基盤の高信頼性が特に求められる。
現在研究開発が進んでいるリソース仮想化やディザスタリカバリ技術はこうした局面への適用が
期待できる。また、データアクセスに対するセキュリティも重要である。患者のプライバシー保
護に配慮し、患者の安心を確保するための情報漏えい防止技術やデータの変更に関していつ誰が
何を変更したかをトレースでき、不正な変更の検知もしくは防止を実現できる技術の開発が求め
られる。さらに無線 LAN セキュリティ等、ユビキタス環境におけるネットワークレベルでのセキ
ュリティ技術の活用も重要な課題となる。
以上のテーマをまとめた全体ロードマップを次ページに示す。
なお、本ロードマップ及び(3)の詳細ロードマップの作成にあたっては、
(1)であげた文献
に加え、各テーマを扱った研究事例、国内外の学会、各省庁における審議会資料などから、その
内容を構成した。
33
ヒューマンエラー防止のためのディペンダブル情報基盤技術
−技術開発と波及効果に関する全体ロードマップ −
3年後
現在の技術レベル
●厚労省「ヒヤリ・ハット
事例情報データベース」
(200件弱)
●厚労省科研費プロ
ジェクト「ヒヤリハット・
事例の要因分析・デー
タ評価手法に関する研
究」(約1100件)
●事故防止のための
医薬品基本データベ
ースの整備
●UML、MDA等オブジェ
クト指向による医療システ
ム設計
●HPKI(ヘルスケアPKI)
● は実現に最低限必要と思われる期間の目安
青字はベースになると思われる情報技術または分野
5年後
10年後
インシデント要因分析技術
●インシデント事例自動分類、
類似事例検索技術
●インシデント事例(テキスト)収集技術
●投与記録・生体データ
自動収集技術
インシデント要因自動発見技術●
●インシデント報告、投与記録、生体データ
に基づいた要因分析・評価手法
●インシデント要因分析・評価手法
ヒューマンファクター・失敗学
インシデント事例の管理・データ収集支援技術
インシデント要因の自動発見技術の確立
システム要求分析技術
●医療システム及びセキュリティ
ポリシーの統合設計手法
●セキュリティのための形式
的仕様技術・検証技術
●電子カルテにおける個人
情報保護機能設計技術
セキュアな医療システムのための要求分析技術
医療エラーを軽減するシステム機能の要求分析技術
人に優しく、誤動作を減らす
ユーザインタフェース設計技術
●医療機器・通信接続技術
医療知識・スキル・状況に応じた適応型インタフェース技術
情報医療機器における誤操作軽減インタフェース技術
システム統合技術
●医療用CORBA
(CORBAmed)
●医療情報システムへの
Enterprise Architecture
導入
●電子カルテ標準(HL7拡
張:米国中心,GEHR/Open
EHR:欧州中心)
●医療機器操作
半自動化技術
●医療機器のためのユビキ
タスインタフェース設計技術
医療向けのウェアラブルイン
タフェース技術
●医療知識や操作履歴、コンテキスト
に基づいた入力予測技術
●オーダリングシステム
での入力警報機能
●ユーザビリティ評価
●医療機器警報方式や
通信方式が不統一
●セキュリティポリシーや
医療エラー対策の進展に
適応する柔軟なシステム
設計技術
●医療エラー防止のための
医療システム設計手法
●医療システムにおける
形式的手法によるソフト
ウェア開発技術
●医療情報システムのモデ
リング技術、コンポーネント技術
●医療システムにおける
発展的ソフトウェア開発技術
●電子カルテ標準統合(EHRモデル
標準)に基づくシステム間連携
医療情報システムの統合化技術
医療システムにおけるソフトウェア再編・発展技術
高信頼・セキュアなユビキタス基盤技術
●ディザスタリカバリー技術、
リソース管理仮想化技術
●OGSA,ビジネスグリッド
●IPv6、モバイルIP
●無線LAN高速化技術
(約20Mbps)
●IPv6モバイル
セキュリティ技術
●大規模病院向け
データグリッド(数百テラバ
イト∼1ペタバイト)
医療個人情報アクセス管
理、不正利用追跡技術●
サーバ耐故障性・可用性技術
医療分野 (サービス)
において
想定され
るサービ
(ユーザ)
ス
医用向けユビキタスセキュリティ技術
図 7-2
●セキュアかつ高信
頼・高速なユビキタス
環境における医療デー
タアクセス技術
●無線LAN(数百Mbps
∼1Gbps)による大容
量ファイル共有技術
高信頼・高品質な大規模ユビキタスシステム基盤技術
院内のインシデント事例要因分析
作業の効率化を実現。処方時の
入力ミスの軽減化。
院内のインシデント事例要因分析
作業の効率化に加え、より正確な
分析が可能となる。
医療情報システム構築支援ツー
ルの高度化
進展するインシデント対策やセ
キュリティポリシーに適応する柔
軟な医療情報システム、人に優し
くミスを減らす医療情報システム
の実現。
リスクマネージメント担当の医療
スタッフ。処方を行う医師。
リスクマネージメント担当の医療
スタッフ。医療情報システム構築
従事者。
リスクマネージメント担当者、情報
システム構築従事者、処方・予薬
にかかわる医療スタッフ全般
インシデント分析と対策検討作業
の負担や処方時の入力ミスの数
が軽減される。
より的確なインシデント分析と対策
の策定が可能となる。
システム構築コストの低減化が図れる。
安全確認が容易かつ機動的に可
能となり、安全性を向上できるとと
もに、医療スタッフの肉体的・精
神的ストレスを軽減できる。
セキュリティポリシーを反映した情
報システムの設計手法の確立
につながる。
他分野でのインシデント(失敗)事例
の分析支援に展開が期待できる
システムが提供するセキュリティ機
能に対する検証技術につながり、高
信頼・セキュアなシステム開発支援
技術が進展する。
(効果)
他分野における
波及効果
●大規模IPv6ネット
ワーク運用技術
全体ロードマップ 10 年( 医療安全性向上のためのソフトウェア技術)
34
セキュリティポリシーやシステム構
成、機能追加など様々な要求変化
に対する柔軟かつ高信頼なシステ
ム(アシュアランスシステム)開発技
術が進展する。
(3)詳細ロードマップ(3 年)
(2)であげた各サブテーマにおける現状の技術動向を踏まえた 3 年後レベルでの詳細ロードマップを以下に記す。
表 7.1-1
詳細ロードマップ( 医療安全性向上のためのソフトウェア技術)
課題
現在の技術動向(研究開発が行なわれている関連要素技術)
3年後の目標
●インシデントレポートデータに対する要因分析・評価支援機能
●インシデントレポートデータの自動分類・類似検索などの管理・利活用機能
●多観点からの分析が可能なインシデントレポートデータベースの開発
●退院サマリ(入院から退院までの患者記録等)に対するテキストマイニング
●テキストデータの要素分解とユーザプロファイルに基づく知識合成(ダイナ
ミックドキュメント)
●自己組織化マップによる情報可視化・分類技術
●インシデント要因・分析を可能とするインシデントレポート・退院サマリ
データベース
インシデント要因
分析技術
システム要求分
析技術
●UML-Based Framework for Security Requirements Engineering
●セキュリティポリシー策定と医療情報システムの設計を統合して扱う開発支
●ISO/TC215 WG4(保健医療情報のセキュリティに関する標準化)
援機能
●電子カルテシステムの個人情報保護対応要件の検討
●電子カルテに埋め込む個人情報保護機能
誤操作を防止し、
かつユーザフレ ●入力の負担・手間を増幅させない警報インタフェース
ンドリーなインタ ●医療機器からの生体データ通信方式の統一
フェース設計技術
システム統合技
術
●警報インタフェースの評価
●操作履歴等に基づいた予測入力インタフェース
●医療機器警報支援システム
●レポートに対する半自動分類機能やメタデータ(RSS等)の半自動付与
機能、類似検索技術の実現
●UML等による医療システム設計技術とセキュリティ設計技術との統合
●電子カルテ向けセキュリティのためのデザインパターン(設計支援技
術)
●医療知識や操作履歴・コンテキストに基づき、誤った薬品名等、誤入力
候補をより削減する入力支援技術
●医療機器からのデータ(警報データ、生体データ)の通信プロトコル変
換と無線接続技術
●電子カルテシステムモデル特別プロジェクト(保健医療福祉情報システム工
●MDA(Model Driven Architecture)、EA(Enterprise Architecture)に基づ
●マルチベンダーが提供する各種コンポーネントによる医療情報システムの設 業会)
●EHR標準モデル開発(HL7拡張:米国中心、GEHR/OpenEHRプロジェクト:欧 く医療情報システム設計支援技術
計・インテグレーション支援技術
州中心)
●医療データ不正利用追跡技術
高信頼・セキュア ●データ内容や利用のコンテキストに応じた細粒度かつ柔軟なアクセス管理
なユビキタス基盤 ●モバイル医療情報アクセス技術
●医療情報システムにおけるサーバサイドの耐故障性・可用性保障、災害対
技術
策
●異種分散ネットワーク連携
●シンクライアント端末によるネットワーク構築
●情報の分散保存管理
●認証VLAN (個人認証機能を持ったVLAN)
●生体認証
●ビジネスグリッド、ストレージ仮想化、ディザスタリカバリー技術
35
●ロールベースのポリシー管理機能に基づくアクセス管理技術
●多様なレベルの詳細度に応じた(マルチメディア)コンテンツアクセス権
管理技術
●ビジネスグリッドによる医療情報向けリソース仮想化、ディザスタリカバ
リーの実現
(4)利用サービスイメージ
(2)、(3)のロードマップに基づいた研究開発による成果の利用サービスイメージ(3 年後及び 10 年後)を以下の図に示す。
− ターゲット達成時に実現できる利用サービスイメージ−
処方医
3年後:誤入力防止技術
による入力ミスの低減
10年後:患者のリアルタ
イムモニタと緊急の処方
変更指示の支援
看護
調剤
3年後:指示受け確認、患者識別・
薬品確認支援によるインシデント
発生の低減
10年後:医療機器誤操作や操作
負担の軽減、緊急の処方変更対
応支援
臨床・薬品情報
医療スタッフ報告、
患者生体情報
患者・薬品確認
投薬報告
処方オーダー、
医療スタッフ指示
指示受け、
患者識別・薬品情報、
医療機器警報
疑義照会
調剤・交付
記録
3年後:処方監査・疑義照会作
業の負担軽減
10年後:緊急の処方変更対
応支援
処方受付
ヒューマンエラー防止のためのディペンダブル情報基盤
技術的要件
3年後:
人に優しく操作ミスを軽減するユーザインタフェース
・インシデントレポートテキストマイ
ニング
・セキュアな医療情報システム設計
・医学背景知識に基づく誤入力防止
インタフェース
・リソース管理技術
情報医療機器から
の警報・生体情報
インシデントレポート
投薬記録等
患者識別・投薬確認
どこでもアクセス可能
10年後:
・インシデント要因分析の高度化・
半自動化
・医療分野における発展的ソフト
ウェア技術
・ユビキタス環境におけるセキュア
かつ高信頼・高速な医療データアク
セス技術
自律的体系化・再構成・知識化・
マイニング処理
処方オーダリング
インシデント要因分析データ
セキュア、ディペンダブルなサーバ
やユビキタス環境のための基盤技術
対策をシステムに反映
医療情報システム、治療計画、投薬記録、患者生体情報、 要求追加・変更に柔軟に
インシデントレポート等の情報を統合した医療安全確認の 適応するシステム構成技術
ための情報基盤
システム統合・拡張・保守
システム・ベンダー
3年後:医療情報分野における新規システ
ム開発・インテグレーションの生産性向上
10年後:医療情報分野におけるシステム統
合・変更・拡張の生産性及び信頼性向上
図 7-3
システム・ネットワーク・
セキュリティ管理
システム部門
3年後:サーバモニタリング、故障対応などの
維持管理作業の負担軽減
10年後:ネットワーク管理、セキュリティ管理
業務の効率化
インシデント要因分析
リスク管理部門
3年後:インシデントレポート
管理、分析作業の効率化
10年後:インシデント要因分析
の高度化・半自動化
利用サービスイメージ(医療安全性向上のためのソフトウェア技術
36
こでは、本ロードマップによる技術開発の適用局面として、以下の 6 つの局面を想定した。
・ 処方医
処方の入力ミスの軽減や患者のリアルタイムモニタと緊急指示の支援により、患者に対して
ミスのない適切な医療行為を支援する。
・ 看護
指示受け内容、患者識別や薬品識別支援による投薬エラーの防止。高度な医療機器の誤操作の
防止や操作負担の軽減を目的とする。
・ 調剤
処方医の入力ミス軽減により処方監査・疑義照会作業自体が減り、その負荷が軽減される。
・ システム・ベンダー
医療情報システムにおけるシステム開発・インテグレーションの生産性が向上し、導入コス
トの軽減に繋がる。また医療事故防止対策の進展等による要求変更や拡張に関してもコスト
が軽減される。
・ システム部門
障害に強いサーバ基盤の確立により、システムの維持管理コストが軽減される。
・ リスク管理部門
インシデントレポートの管理や分析作業の効率化が進み、迅速な要因分析と防止対策の策定
が実現できる。
また、システム利用機関別に見た 3 年後の利用サービスイメージ(想定利用形態ならびに期待
される効果)を図 7-4に示す。
37
黒字は想定利用形態、紫字は期待される効果
高度医療機関(研究、高度先進医療、災害時医療など
民間で困難な機能を持つ大学や公的医療機関)
総合病院等の大規模病院(400床以上の医療機関)
●高度医療において利用する複雑な医療機器の誤操作
の軽減、患者のリアルタイムモニタリング
→医療レベル・信頼性の向上
●災害時にも対応できる医療情報システム基盤
→高度医療機関としての評価向上
●膨大な量のインシデントレポートや患者情報からのインシ
デント要因分析支援
→エラー防止・信頼性の向上
●インシデント防止、セキュリティ対策などの追加要件に
対応できる大規模な医療情報システム
→システムによるインシデント防止、セキュリティ対策支援
すべての医療機関
・指示受けから投薬実施までの患者・薬品確認、情報伝達システム
→エラー防止、医療スタッフの負担の軽減
・入力ミスを軽減する処方オーダリングや誤操作を防ぐ医療機器インタフェースの導入
→エラー防止、医療スタッフの負担の軽減
・ 個人情報保護やセキュリティポリシー支援のための機能を具備した情報伝達システム
→信頼性の向上
・セキュアかつ高信頼・高速なユビキタス環境における医療データアクセス基盤
→安全確認・情報伝達システムの高信頼性・可用性の確保
教育・研修機能を持つ医療機関
(大学病院、臨床研修病院等)
●高度医療において利用する複雑な医療機器の誤操作
の軽減、患者のリアルタイムモニタリング
→医療レベル・信頼性の向上
図 7-4
その他の病院・診療所
利用サービスイメージ(医療機関別)
( 医療安全性向上のためのソフトウェア技術)
38
7.1.2. 医療知識共有支援システムの構築
(1) ロードマップ策定の視点
「自律的再構成機能を持ったマルチモーダルナレッジ共有プラットフォーム」は、医療におけ
る現状の知識共有支援ニーズを満たし、医療自体のレベルアップを目的とするが、同時に現状の
ナレッジ共有システムにおける下記のような問題点を解決することが期待される。
・ 知識獲得ボトルネックの解消と暗黙知の抽出・利用技術
・ マルチモーダル情報の融合
・ 知識の自動と再構成と自動生成
・ 作業環境とコンピューティング環境の融合
医療分野における知識共有ニーズと現状のナレッジ共有システムにおける開発課題との関連を図
7-5
に示す。
現状のナレッジ共有システムにおける開発課題
知識獲得ボトルネックの解消と
暗黙知の抽出・利用技術
マルチモーダル情報の融合
知識の自動再構成と自動生成
作業環境とコンピューティング環境
の融合
80年代のいわゆるエキスパートシステ
ムにおいては、いわゆる「知識獲得ボ
トルネック」の問題が指摘されていた。
近年のナレッジマネジメントにおいて
は、教科書的なルールに加え、暗黙
知の共有の重要性が認識されている
が、いまだその抽出技法、表現方法、
活用方法に関して有用な方法論が確
立していない。
経験や知識と呼ばれるものの中で、テ
キスト情報やルールとして表現される
ものはごく一部であり、その多くは、画
像や音声、映像など、さまざまなマル
チモーダル情報を伴っている。現状の
知識管理においては、主に現場作業
を伴わないデスクワークが対象とされ
てきたが、今後実際の現場作業を伴う
領域へ拡張していく際には、こうしたマ
ルチモーダル情報をベースにした知
識の捉え方が求められている。
コンピュータの処理能力とデータ蓄
積能力の向上に伴い、知識処理に
対する考え方が大きく転換しつつ
ある。すなわち、明示的に知識を形
式化していくアプローチはおのずと
限界があり、今後は、蓄積された情
報の断片から、オペレーショナルな
知識を自動的に抽出していく技術
が求められている。
現状の知識活用のためのインタ
フェースはデスクワークを対象とし
たものであり、現場作業を伴う分野
における実用的な利用環境が整備
されていない。実際の現場業務と
知識活用する環境の融合、そのた
めのインタフェースが強く求められ
ている。
医療現場においては、テキストで記
述されるような知識だけでなく、画
像や映像、音声など、さまざまなモ
ダリティを融合して判断する必要が
ある。
現場医療において蓄積される知識
は、症例や成功事例、失敗事例な
どいわば情報の断片である。一定
の段階で、これらを体系的に整理
する必要があるが、これを人手だ
けで行うのは困難である。
患者と接する医療現場においては、
従来のデスクワークを前提とした知
識活用インタフェースでは作業形態
を人間がコンピュータに合わせざる
を得ない。従来通り患者と接してい
く中で、コンピュータが人間の作業
形態に合わせて無理なく知識共有
を支援する次世代のインタフェース
が必要とされている。
医療においては、膨大な量に及ぶ
基礎的な医学知識に加え、経験学
が重要であるとされ、教科書的な
知識と経験的な暗黙知や技能をい
かに連携させてスキル向上を図っ
ていくかという点が重要である。特
に、こうした教科書に書かれない経
験的なスキルの差によって医師間
のスキルに差が生じていることが
大きな問題点として指摘されている。
医療における知識共有支援のニーズ
図 7-5
技術開発の意義(医療知識共有)
(2) 全体ロードマップ(10 年)
医療知識共有に関する全体ロードマップを図 7-6 に示す。
「自律的再構成機能を持ったマルチモーダルナレッジ共有プラットフォーム」の実現に係る技
術領域として以下の 5 分野を設定した。
・ 医療知識の表現方法と提示に関する技術
共有すべき医療知識として、テキスト情報のほか、画像情報、動画情報、音声等のマルチ
モーダル情報を考慮し、これらの表現技術、ならびに知識抽出技術を対象とする。現状、画
像情報に関しては DICOM がほぼ標準的な形式を提供しつつあるが、色彩情報の再現性につ
39
いては、診療上必須課題とされている(直接対面診療を行う際と同様なレベルを実現するた
めには、コンピュータディスプレイ上で見る色彩情報の再現性が必須要件とされている)。ま
た、画像以外の形式(テキスト情報など)については、共通の知識表現形式も十分に定義さ
れていない。医療用語においても、統一的な辞書が存在せず、こうしたことが実際の医療情
報検索における障壁として認識されている。したがって、これらに関する技術の確立は喫緊
の課題であり、3 年以内のターゲットと考えた。
また、5 年以降のターゲットとして、音声情報を含めたマルチモーダル情報、またこれら
の時系列的情報の表現方法の確立を設定した。10 年後程度のターゲットとしては、医療行為
全体のマルチモーダルアーカイブ情報をもとにしたビヘイビアマイニングによるあらたな知
識抽出技術、さらにはこれをもとにした(可能世界)シミュレーション機能を設定した。こ
の段階においては、すべての医療行為全体が記録としてアーカイブ化され、必要な知識断片
を適切に取り出すとともに、これらを医療行為において活用することが可能になる。
・ 医療データベースの構築と整備・拡充
医療知識データベースは、個々の分野においては、それぞれ整備が進められているものの、
全体として統合化されたインタフェースが存在しないことが第一の課題である。ここでは、
基本的な医療知識データベースとして、既存の海外データベース(EMBASE、MEDLINE 等)
や国内で整備されつつある医療知識データベースの統合活用インタフェースを構築すること
を当面の課題として設定した。
また、このような教科書的な知識に加え、いわゆる失敗事例データベース、すなわち、医
療過誤や診断ミスに関する事例を活用することが重要であり、現状でもローカルな局面では
医療レベルの向上に果たす役割は大きい。失敗事例に関しては、ヒヤリハット事例データベ
ースが厚生労働省主導で進められているとともに、科学技術分野における失敗事例データベ
ースの試験公開が始められている。医療分野における失敗事例の収集は、さまざまな制度的
課題があるものの、過去の経験を活用するという観点から失敗事例の有用性は十分に認識さ
れており、今後重点的に取り組むべき課題であると考えられる。また 5 年∼10 年以降の将来
的な課題として、リアルタイムセンシング技術などを応用した臨床経験アーカイブをターゲ
ットとして設定した。これは事例としての臨床経験を時系列的かつ網羅的に記録するもので、
ここから有意な知識を抽出するとともに、シミュレーション等へ活用することを目的として
いる。
・ 医療情報の検索技術
蓄積された情報の検索技術として、テキスト情報に関する検索技術は、近年研究が活発化し
ているテキスト情報検索の医療分野適用として考えられる。すなわち、医療用語シソーラス
に基づく概念検索機能、類似検索機能、また、多言語対応シソーラスを用いた多言語横断検
索や検索ガイダンス機能が実現される必要がある。これらについては、技術的にはほぼ確立
されつつある(ただし、精度的な問題点は指摘されており、今後目的に応じた精度向上のた
めの技術開発が必須である)ため、シソーラスや辞書の構築、ならびに検索インタフェース
40
等が主たる開発課題となる。また、構造化されたテキスト情報をもとにした症例マッチング
機能(単なるキーワードの出現による類似性だけでなく、検索の意味的情報と症例内容のマ
ッチングに基づく検索)を 5 年後のターゲットとして設定した。
テキスト以外の情報に関しては、画像情報の適切な特徴抽出に基づく画像検索機能を 5 年
後の達成課題として設定した。一般に画像情報検索は領域独自の特徴量抽出に基づき検索が
行われるが、医療においては、変異が生じている箇所の特徴抽出が必ずしも明確でないこと
や、色彩情報がクリティカルなケースがあり、技術的な困難性を有している。
また、5 年後以降の長期的課題としては、動画情報、音声情報等の融合化されたマルチモー
ダル情報の検索技術を設定した。画像検索同様、医療分野固有の高い特徴抽出レベルが求め
られるとともに、ユーザが求める検索の意味的な目的とのマッチングなど、技術的難易度は
高いと考えられる。
・ 医療情報の自律的再構成技術
医療情報が膨大に蓄積されてくるようになると、これらの整理(分類や分類軸の再構成、
類似データの削除やまとめ、時系列的な整理)を人手で行うのは困難になってくる。このた
め、何らかの機械的なサポート、理想的には自動的な再構成技術が求められている。
テキスト情報の分類に関しては、近年テキストマイニング分野においてさまざまな研究が
進められている。たとえば、ベイズ推定を用いたメールフィルタリング技術、ベクトル空間
法に基づく電子メールや既存ドキュメントのクラス分類技術等である。医療知識の各断片は、
症状、治療法、経過、薬投与などさまざまな側面があるため、これらの目的に応じた多相の
分類ならびに必要に応じたデータの分解、メタデータの付与が必要になるが、基本的にはこ
れらは既存技術の延長線上で実現可能なものと考えられる。本ロードマップでは、こうした
テキスト情報をベースにした半自動分類機能を 3 年後のターゲットとして設定した。
また、インターネット上で公開されている医療情報、たとえば、薬の許認可情報、先端的
医療事例等に関し、知的情報収集ロボットを使った自動情報収集機能を 4 年後のターゲット
として設定した。インターネット上の知的クローラは、近年、WWW 関連の国際会議でも研
究発表件数が増加傾向にあり、ドメインを特定した目的別の情報収集エンジンの実現はここ
数年のうちに実現可能であると考えられる。
5 年後のターゲットとしては、情報の再構成機能を、また、さらに長期的なターゲットと
してはマルチモーダルな経験的知識の自動再構成機能を設定した。テキスト情報の自動再構
成としては、情報を断片に分割し、目的に応じて、これらを再構成するといった研究が進め
られている。ただし、日本語テキストの意味理解が十分ではないため、現状では、精度的な
課題がある上、ユーザの求めるものとどのようにマッチングをとるかという問題もあり、や
や長期的なターゲットとなると考えられる。マルチモーダル情報に関しては、さらに、どの
ように特徴を抽出するのかといった課題があり、技術的難易度は高い。
・ 情報アクセスのための基盤技術
情報アクセスのための基盤技術として、ネットワーク上のアクセス管理技術ならびに情報
入力ならびに情報提示のためのインタフェースをターゲットとして設定した。
41
アクセス管理に関しては、現状の医療システムでは、役職に応じた一律のアクセス権限付
与が一般的である。一方、今後、医師、看護師に加え、各種コメディカル、患者本人、また
その家族等、ユーザが多様化してくると、データの内容や利用のコンテキスト(状況)に応
じた柔軟なコンテンツレベルでのアクセス管理が必要であると考えられている。また、医療
現場(病室等)での情報アクセスを可能にするために、モバイル機器による情報アクセス機
能(アクセス管理とインタフェース)の開発が喫緊の課題として認識されている。これらは
ともに 2 年後のターゲットとして設定した。
また、診療記録等、さまざまな個人情報が管理されるようになると、情報管理に対する信
頼性が他分野以上に強く求められるようになってくる。このため、個人情報アクセス管理や
不正利用追跡技術については、他分野にさきがけて、より信頼性の高い技術開発が行われる
必要がある。
長期的なターゲットとして、高臨場感インタフェース(よりリアルな感覚を持つ情報提示
機能)や人間中心コンピューティング環境を設定した。現在のコンピューティング環境が基
本的にデスクワークを対象としたものであるのに対し、医療のような現場作業を伴う分野に
おいては、より作業環境と一体化したまったく新しいインタフェースが考えられる必要があ
る。すなわち、コンピュータにおける仮想世界と現実の医療環境がシームレスに統合された
作業環境が構築されなければならない。
3 年後、5 年後、10 年後において実現されるサービス内容とその効果は、図 7-6 に示した通り
である。また、他分野への波及効果として以下のような点が考えられる。
・ ナレッジマネジメントへの適用(主に 3 年後の技術開発の成果として)
既存のナレッジマネジメントシステムにおいてはそのほとんどがテキスト情報が対象となっ
ているが、経験的知識の表現として、テキスト情報はきわめて限定された形態であり、今後
は、動画、音声、あるいは場合によっては触感や匂いなど情報のマルチモーダル化が必須で
ある。ここで開発されたマルチモーダルナレッジ管理は、医療分野だけでなく、さまざまな
専門領域における知識共有に寄与する技術となりうる。また、コンテキストや状況に応じた
柔軟なアクセス管理や、収集された情報の自律的再構成といった部分も既存ナレッジマネジ
メントシステムにおける重要な課題である。
・ 法律分野、教育分野への適用(主に 5 年後の技術開発の成果として)
法律分野、教育分野は、医療分野同様、電子化が遅れている分野であるといわれている。こ
れらの分野に共通していえることは、人間の専門家が持つ暗黙知的なスキルや経験が大きな
意味を持っており、これらを容易に継承させることが困難であるということである。本ロー
ドマップで対象とする技術開発は、こうした分野における知識共有に寄与すると考えられる。
・ トータルアーカイブ・未来予測機能の実現(主に 10 年後以降の技術開発の成果として)
マルチモーダル情報のアーカイブ化とこれに基づくシミュレーション機能は、医療分野だけ
でなくさまざまな分野における利用が想定されている。たとえば、災害や危険の事前予知、
経済的なリスク解析、気象変動予測などが考えられている。記憶容量の低価格化により、ア
ーカイブ情報を取ること自体は容易になりつつあるが、必要な時に如何に必要な情報を抽出
42
するか、また、未来シミュレーションを行う際に、どのようにして適切な特徴を抽出し、ト
ラクタブルな計算量に抑えるか、など、技術的課題も多い。
43
自律的再構成機能を持ったマルチモーダルナレッジ共有プラットフォーム
−技術開発と波及効果に関する全体ロードマップ −
3年後
現在の技術レベル
病理形態画像の色彩情報
再現技術●
生体/病態過程理解や治療判断等、
高度な医療知識表現技術(シンボル情報)●
●症例→病名等の教
科書的医療知識支援
システム
●医学情報DBの
整備(欧米中心)
●キーワード高速検索や
自然言語処理による概
念検索
10年後
生体/病態過程のマルチ
モーダル表現・提示技術●
暗黙知抽出支援技術●
習熟度、専門性、状況(緊急時、手術中
など)を加味した情報提示技術 ●
バーチャルタイムマシン●
デジタルヒューマン●
可能世界シミュレーション●
ビヘイビアマイニングの医療応用●
医療知識の表現と利用技術の確立
医療アーカイブ化とシミュレーション機能
医療データベースの構築と整備・拡充
臨床経験アーカイブ
(例:4次元手術記録)●
リアルタイムセンシング技術
各DBとの統合●
(EMBASE、MEDLINE等連携)
マルチモーダル情報圧縮技術
医療情報向け時制DB●
医療向けマルチモーダル時制DB●
失敗知識データベース
大規模失敗事例DBの整備●
●ヒヤリハットDB
(厚労省)
●多言語横断検索
5年後
医療知識の表現方法と提示に関する技術
●医用画像(濃淡
情報が中心)
●統合医学用語シス
テム(米国NIH)
● は実現に最低限必要と思われる期間の目安
青字はベースになると思われる情報技術または分野
医療データベースの整備と連携機能
マルチモーダルDBの構築と利用技術の確立
医療情報に適したデータベース機能
医療分野における多言語
検索インタフェース
●
医療情報の検索技術
セマンティックWeb
高精度・高速画像検索
医療分野における背景知識
を兼ね備えた概念検索、類●
似検索の開発
症例マッチング技術●
医療知識向けマルチモーダル情報検索●
医療知識と連携した画像データ検索技術●
医療知識に基づく
検索ナビゲーション技術 ●
●Health Cyber Map(英国)
習熟度、専門性、状況に応じた検索技術 ●
医療知識に基づいた検索機能
検索機能の高度化
様々なモダリティを持つ情報からの知識検索機能
医療情報の自律的再構成技術
●人手による医療DB
管理、専門ML管理
医療情報分類半自動化技術、
メタ情報付与技術●
Web上での医療情報
自動収集・統合技術●
セマンティックWeb,異種情報源統合技術、エージェント技術
データマイニング、帰納推論、学習
●電子カルテによる
患者病歴データアー
カイブ
マルチモーダル医療情報分類の半自動化技
術、メタ情報付与技術●
医療情報の分類支援●
メタデータ技術
ベイズ推定
医療知識の分類支援機能
医療知識・経験知の
再構成支援●
医療知識の自律的構成技術の確立
情報アクセスのための基盤技術
●既存のアクセス管
理技術適用
データ内容や利用のコンテキストに応じた
細粒度かつ柔軟なアクセス管理 ●
携帯電話+
●電子カルテペン入 2次元バーコード技術
力、携帯端末による
アクセス
医療分野 (サービス)
において
想定され
るサービ
(ユーザ)
ス
(効果)
他分野における
波及効果
医療知識・経験知の再構成半自動化●
医療情報の自動収集支援
医療用高臨場感インタフェース●
医療個人情報アクセス管
理、不正利用追跡技術●
Everyday Computing/Invisible Computer
モバイル医療情報
アクセス技術●
医療向けユビキタス・マルチモーダル
入力インタフェース技術●
医療現場の状況に即した情報アクセス技術
人間中心コンピューティング環境 ●
(仮想・現実世界をシームレスに融合
した医療作業環境)
患者と医療従事者中心のコンピューティング環境の確立
医療共有知識(テキストまたは画像)
の電子カルテ内からのシームレスな利
用による診察時の診断支援
(数十秒∼1分で適切な診療情報を把
握できる)
救急医療現場におけるテキスト・画像
型診断・治療知識の利用支援
(数秒で適した治療候補の一覧を提示し、
迅速な診断と治療を支援)
3次元動画像、音声、触覚情報などマルチモーダル情報
による診断・処方の知識共有、シミュレーションによる病
態進行予測や治療計画支援
(救急時や術中においては数秒でマルチモーダル検索・
シミュレーションを行い、リアルタイムに治療方法を決定)
モデルケースとした診療
科の医師
複数の診療科の医師、
看護士、救急医療士
入院を要する治療を実施する中規模病院・救急病院
における各診療科の医師・研修医
医師の診断レベルの質的向上
インフォームドコンセント支援
救急時における医療行為の質の向上
・均質化、医療過誤の防止
医療行為全体の質の均質化や医療過誤の防止、
医療技術の向上、治療方法に関する患者の理解促進
(医者と患者の知識共有)
企業内のナレッジ検索、
ナレッジ分類・整理、
ナレッジアクセス管理
への適用
ADR等法律分野へ
の適用により、法的
サービスの向上、教
育分野における事例
共有とスキル向上等。
協調作業環境による分野発展に寄与。
卓越した技能の継承。トータルなアーカ
イブからのシミュレーションによる未来予
測、シミュレーション機能等。
図 7-6
全体ロードマップ 10 年(医療知識共有)
44
(3)詳細ロードマップ(3 年)
医療知識共有に関するロードマップを実現する上で、主に技術的側面に着目し、現状の技術開発動向、課題、ならびに 3 年後の技術開発課題を整
理したものを図 7-7 に示す。
課題
●病理形態画像の正確な色情報記録・再現技術
●生体/病態過程理解や治療判断等、高度な医療知識表現技術(シンボル情
医療知識の表現 報)
方法と提示に関す ●医学知識表現の標準化
る技術
現在の技術動向(研究開発が行なわれている技術)
3年後の目標
●多原色(マルチスペクトル)映像技術
●既存装置によるマルチスペクトル映像処理技術
●オブジェクト指向モデリング技術
●因果ネットワークによる生体/病態過程表現技術
●臨床決定支援のための臨床指針表現技術
●MML等XMLベースの医療情報表現技術
●既存の撮像・表示装置で皮膚や粘膜の病理形態の色や質感などを忠
実に記録・再現する高画質映像入力・表示技術と高画質画像データの圧
縮・伝送技術
●XMLによる生体/病態過程理解や治療判断等の医療知識表現技術と
その標準化
医療データベース
●各DBとの統合(メルクマニュアル、EMBASE、MEDLINE等連携)
の構築と整備・拡
●現場医療での活用を想定したライブラリ化
充
●失敗事例大規模DBの整備
●オブジェクト指向データベース
●失敗に至る原因、行動、結果の分析(フレーム)に基づく失敗事例の分類・体 ●既存DBの融合による現場での活用を想定したライブラリ整備
系化
●医療失敗事例のフレーム策定と事例収集
●科学技術分野における失敗知識データベースの試験公開
●医療分野における背景知識を兼ね備えた概念検索
医療情報の検索
●医療知識に基づく検索ナビゲーション技術
技術
●ターミノロジーの統一化、標準化
●医学ターミノロジーの自動生成
●テキスト情報に基づくオントロジーの自動生成
●概念辞書に基づく類似検索機能
●重要度の自動判定とキーワードの自動抽出
●多言語横断検索技術
医療情報の自律
●医療情報の分類支援・自動分類
的再構成技術
●医療情報に対するメタ情報付与技術
●セマンティックWEB
●メタデータの自動付与
●テキストマイニング(テキストデータの特徴ベクトルに基づくクラスタリング、
自動分類)
●テキストデータの要素分解とユーザプロファイルに基づく知識合成(ダイナ
ミックドキュメント)
●自己組織化マップ
●医療個人情報アクセス管理
情報アクセスのた ●不正利用追跡技術
●データ内容や利用のコンテキストに応じた細粒度かつ柔軟なアクセス管理
めの基盤技術
●モバイル医療情報アクセス技術
図 7-7
●異種分散ネットワーク連携
●シンクライアント端末によるネットワーク構築
●情報の分散保存管理
●認証VLAN (個人認証機能を持ったVLAN)
●生体認証
詳細ロードマップ(医療知識共有)
45
●医学用語オントロジーに基づく概念検索、類似検索システム
●医学的背景知識に基づく質問拡張機能、検索ガイダンス機能の実現
●医学用語辞書、オントロジーを用いた多言語横断検索機能(日英)の
実現
●電子カルテからのシームレスな医療知識の検索機能
●医学背景知識に基づく自動メタデータ付与技術と半自動分類機能
●医学情報の適切な単位での分解と特徴付け・保存
●ユーザプロファイル(専門領域、個人ニーズ)に基づく情報再構成機能
●ロールベースのポリシー管理機能に基づくアクセス管理技術
●多様なレベルの詳細度に応じた(マルチメディア)コンテンツアクセス権
管理技術
(4)使用イメージ(10 年後、3 年後)
(2)(3)のロードマップに基づいた研究開発による成果の利用サービスイメージ(10 年後、3 年後)を図 7-8 に示す。
− ターゲット達成時に実現できる利用サービスイメージ−
救急医療
往診
3年後:専門医による最適な
治療法の支援、関連事例抽出
10年後:緊急時の的確
な対応を支援
手術
3年後: 関連知識・事例抽出に
よる手術計画策定支援
10年後:不測の事態への対応
原因分析、予測シミュレーション
3年後:事例(症例、対
処法)研究によるスキ
ル向上
10年後:緊急時におけ
る応急措置の支援
手術状況の公開・記録・
救急医療における関連事例の抽出
対処法の指示 機器操作指示
症状に対して最適な病院の紹介
緊急時における難度の高い処置の支援
技術的要件
3年後:
症例データの蓄積
治療の記録
臨床データの蓄積
保管により信頼性の高
関連事例、関連ノウハウ、
い医療実現
関連医学知識の検索
介護施設との連携による適切な処置
医薬連携による患者の利便性向上
マルチモーダルナレッジ共有プラットフォーム
・医療知識の標準化
・データベースのフレーム策定と
インタフェース整備
・医学背景知識に基づく情報提示
・ダイナミックなアクセス管理技術
医療画像情報、音声、映像、臨床データ、
電子カルテ、医学知識、診断ノウハウ等を
含めたマルチモーダルデータベース
シミュレーション
関連手術事例の抽出・参照
対処法の指示
機器操作マニュアル
自律的体系化・再構成・知識化・マイニング処理
マルチモーダル情報の高速検索処理
電子カルテ
各種臨床データ
10年後:
手術映像
・マルチモーダルな情報の自律的
管理
・経験的ノウハウの表現と利用
・予測シミュレーションと原因分析
・医療現場での利用を可能にする
コンピューティング環境
3次元医療画像
3年後:集団検診の効率化、早期異常検出
10年後:大部分のがん、重大疾病の早期異常
検出、集団検診効率化
医学知識、経験的ノウハウ
集団検診
医療画像データの蓄積
検診結果の電子化
とその有効活用
共同研究
専門医との議論
症例データの蓄積
関連事例、関連ノウハウ、関連医学知識の抽出
各種臨床データ
の蓄積
関連知識の学習
検診データの自動
スクリーニング結果
3年後:教科書的医学知識、関連事例研究による
よる医学教育の高度化
10年後:臨床現場スキル向上(手技の向上など)
や医学研究の発展に資するプラットフォーム。
マルチモーダルな教育・研究用コンテンツ
図 7-8
関連事例に経験のある
専門医への照会
医学教育・研究
電子カルテシステムと連携
利用イメージ(10 年後、3 年後)(医療知識共有)
46
診療
3年後:事例研究によるス
キル向上、大規模病院で
の診察支援、診療技術の
均質化、インフォームドコ
ンセント
10年後:診療所も含めた
診察支援、専門医による
連携機能
ここでは、本ロードマップによる技術開発の適用局面として、以下の 6 つの局面を想定した。
・ 救急医療
緊急医療における高度な医療知識の活用、適切な処置に関するリアルタイムサポートを目的
とする。
・ 往診
往診時における高度な医療知識の活用、適切な処置に関するリアルタイムサポートを目的と
する。また、症例データとしての蓄積を行い、他事例での活用を想定する。
・ 手術
術前における手術計画策定支援、また術中における不測の事態への対応、原因分析、予測シ
ミュレーションなどに活用する。
・ 集団検診
画像データや検診データのスクリーニングによる検診の効率化と重大疾病の早期検出を行う。
・ 医学教育・研究
医学教育、研究のプラットフォームとして最新医療研究情報の交換場所として活用する。
・ 診療
事例研究によるスキル向上、専門医との連携を実現。また、インフォームドコンセント、EBM
にも対応。
また、システム利用機関別に見た 3 年後の利用サービスイメージ(想定利用形態ならびに期待
される効果)を図 7-9 に示す。
47
− ロードマップ3年後に実現できる利用サービスイメージ(フレーム案)−
黒字は想定利用形態、紫字は期待される効果
高度医療機関(研究、高度先進医療、災害時医療など
民間で困難な機能を持つ大学や公的医療機関)
総合病院等の大規模病院(400床以上の医療機
関)
●院内情報共有により診療科間の診断・治療連携を促進する
→ 診療の効率化、医療レベルの均質化
●医療現場における症例・対処法知識を活用する
→ 医療レベル・信頼性の向上
●高度医療事例の蓄積により、国内医療機関への
積極的な情報提供を行う。
→高度医療機関としての評価向上、パブリシティ効果
●教育用コンテンツ、先進研究事例を共有し、医学教育、
医学研究の現場で使用する。
→ 医学教育、研究の高度化に寄与
●医療現場における症例・対処法知識を活用する
→ 医療レベル・信頼性の向上
すべての医療機関
・ソーシャルネットワーク構築支援
→ 医療従事者間におけるコミュニケーションを促進
・ 関連医学知識・事例の共有・参照
→ 医療従事者のスキル向上
・ 診療方針の比較検討
→ インフォームドコンセントの実践
教育・研修機能を持つ医療機関
(大学病院、臨床研修病院等)
その他の病院・診療所
●医療現場における症例・対処法知識を活用する
→ 医療レベル・信頼性の向上
●適切な医療機関やセカンドオピニオンの紹介
→ 医療連携の促進による全体医療レベルの向上
●集団検診、臨床データの蓄積と活用
→ 検診の効率化、早期異常検出
●高度医療事例の蓄積により、国内医療機関への
積極的な情報提供を行う。
→高度医療機関としての評価向上、パブリシティ効果
●教育用コンテンツ、先進研究事例を共有し、医学教育、
医学研究の現場で使用する。
→ 医学教育、研究の高度化に寄与
図 7-9
ロードマップ 3 年後に実現できる利用サービスイメージ(医療知識共有)
48
7.1.3. 在宅ホームドクター
(1)技術開発の意義
「次世代知的コミュニケーションネットワークの構築」は、医療における現状の在宅医療、遠
隔健康管理に関するニーズを満たすとともに、同時に現状のコミュニケーションネットワークに
おける下記のような問題点を解決することが期待される。
・ 長期的なネットワークインフラの活用
・ センサの小型化とインタフェースの整備
・ 伝送情報の高精度化と自動診断
・ 異種分散広域ネットワーク連携
医療分野における在宅医療・健康管理に関するニーズと現状のコミュニケーションネットワー
クおける開発課題との関連を図 7-10
に示す。
現状のコミュニケーションネットワークにおける課題
長期的なネットワークインフラ活用
センサの小型化とインタフェースの
整備
伝送情報の高精度化と自動診断
異種分散広域ネットワーク連携
長期的かつ継続的なコミュニケーショ
ンネットトワークを構築するためには、
十分に普及が進んだインフラ、すな
わち、携帯電話やADSL,光などの家
庭内ブロードバンド、無線LANを活
用したシームレスなコミュニケーショ
ンネットワークの構築が必須である。
また、資格や業務に応じたきめの細
かいアクセス管理が必要となってい
る。
バイタルセンサ、環境センサ等の小
型化、高精度化により社会的インフ
ラとしての監視ネットワークの構築が
進められている。
自動化処理を行うために必要なマル
チメディア情報の精度向上が求めら
れている。特に情報を適確に伝達す
るためには、文字情報、画像情報だ
けでなく、五感通信が必要なことが
指摘されている。また伝送された情
報の自動診断技術として、不確実な
状況下における知的診断技術が必
要であり、ファジイシステム、ニュー
ラルネットワークなどを用いた研究
開発が進められている。
1つのコミュニティに閉じた連携でなく、
関連する組織、ネットワークを含めた
異種分散型ネットワークの広域連携
が求められている。
ISDNなど従来型のネットワークイン
フラを活用した例が多く、今後普及
が想定される家庭内ブロードバンド
など長期的かつ汎用的なインフラが
活用されていないため、プロジェクト
完了後も継続的に運用することが困
難になっている。また、外出時のセン
シングを可能にするために、無線対
応のインフラ活用が必要である。
高齢者や障害者にとって使いやすい
バイタル機器、コミュニケーション手
段が求められている。特に、外出時
の持ち歩きのためには指輪型、腕時
計型等の小型化が必須となっている。
在宅リハビリテーションにおいては、
テレビカメラによる連続動作認識、
音声認識精度等において不十分で
実用に供さない。また、伝送された
情報の自動化処理がある程度進ま
ないと、在宅医療、健康管理自体を
効率的に進めることができない。現
状では、遠隔で行ってはいるものの、
医師、看護婦の負担が重い
現状は、ネットワークインフラの問題、
電子データ共有の問題により、特定
の地域内連携にとどまっている。こ
のため、主に内科診療が中心であり、
外科診療、リハビリ、精神科等のニー
ズが高い分野まではサポートされて
いない。診療電子データの共有、ネッ
トワークの拡大が必要である。
在宅医療・健康管理のニーズ
図 7-10
技術開発の意義(在宅ホームドクター)
(2) 全体ロードマップ(10 年)
在宅ホームドクターに関する全体ロードマップを図 7-11 に示す。
「次世代知的コミュニケーションネットワークの構築」の実現に係る技術領域として以下の 5
分野を設定した。
・ 診断データ解析技術
現状の在宅医療、健康管理システムにおいては、医師が実際にテレビ会議システム等の画
49
面に向かい診療行為を行わなければならず、効率上の問題が指摘されている。伝送される診
断データに対する自動化処理、スクリーニング処理が必要とされる。3 年以内の実現ターゲ
ットとしては、現状研究開発が進められている二次元パターン識別技術の医療画像応用、自
動音声認識による異常検出、診断数値データからの診断支援技術(異常検地、自動診断)を
設定した。これらは、日本医療情報学会 、日本医用画像工学会において、多くの研究発表が
継続的に行われている分野であり、現状技術の延長線上にあると考えられる。特に医療応用
の観点からは、実物色画像システム(色情報の再現性の保証)、連続動作の認識(リハビリテ
ーションなどでの活用)の必要性が指摘されており、マルチスペクトルイメージング技術、
動画像解析技術などの研究開発が近年進められており、3年以内のターゲットとして設定し
た。
一方、5 年以降のターゲットとしては、3 次元形状理解・認識のほか、さらに将来的なテー
マとして、人体に関する精緻なモデリングとこれに基づく診断支援をテーマとして設定した。
人体モデルの表現方法、データの表現方法、シミュレーション方法等困難な技術的課題があ
り、現状では構想レベルの研究となっている。
・ 生体情報センシング技術
在宅医療、在宅健康管理においてもっともユーザに近い部分が、バイタルセンシングであ
る。現状では、体温、血圧、脈拍、心拍、心電図などのバイタルセンサが開発されているが、
物理的な大きさ、使い勝手の面で問題があり、今後はより日常生活に融和したセンシング技
術が求められている。現在の技術開発の延長線上として、指輪型あるいは腕時計型のバイタ
ルセンサーの開発、マイクロセンシング技術の発展を 3 年以内の短期に望むことができる。3
年以降の中長期的課題としては、時間、場所を問わないセンシング(ユビキタスセンシング
技術)や分散化されたセンサの協調技術のほか、環境に組み込まれたセンサ(温度・湿度セ
ンサ、赤外線センサなど)を用いたコンテキストアウェアなサポート機能の実現などをあげ
ることができる。将来的には、単なる人体のセンシングにとどまらず、環境のセンシングと
融合することにより、患者の置かれているリアルな状況の把握が望まれている。
・ 協調作業支援技術
在宅医療、在宅健康管理は、医師や看護師だけでなく、コメディカル、ケアマネージャ、
ヘルパー、さらには地域行政、介護ボランティア、家族などを含めた関係者において適切な
レベルで情報が共有され、協調した作業環境が提供されなければならない。また、地域にお
ける連携を達成するためには、複数の医療機関での情報共有も必須である。このためには、
まず短期的な課題として、医療情報(経過情報、処置情報、ユーザ側のコメント、質問形式
等)の共有化が進められなければならない(ヘルスケア情報共有システム)。また、別テーマ
としてロードマップ策定検討を行っている医療知識共有支援システムも同時にこうした地域
コミュニティにおいて共有されなければならない。
中長期的には、地域の枠を超え、より広域での連携、また、家庭内に設定される健康管理
システムとの連携が大きなテーマとなる。
50
・ ユーザインタフェース技術
既存の在宅医療、在宅健康管理においては、特に高齢者、障害者のユーザが多いことから、
バイタルセンサの利用インタフェース、在宅医療システムの端末操作インタフェースなどに
関する問題点が指摘されている。主に家庭内での利用を想定したインタフェース技術の確立
を 3 年以内のターゲットとして設定した。また、中長期的なインタフェースとして、外出時
での対応(ユビキタスインタフェース)、高臨場感インタフェースを設定し、10 年後のター
ゲットとして、人間中心コンピューティング環境、すなわち、仮想世界と現実世界のシーム
レスな融合技術を目標として設定した。
・ ネットワーク基盤技術
(以下、アクセス管理技術に関しては、
「医療知識共有」の情報アクセスのための基盤技術と
同一)
情報アクセスのための基盤技術として、ネットワーク上のアクセス管理技術ならびに情報
入力ならびに情報提示のためのインタフェースをターゲットとして設定した。
アクセス管理に関しては、既存のアクセス管理のように、役職に応じた一律のアクセス管
理ではなく、データの内容や利用のコンテキスト(状況)に応じた柔軟なコンテンツレベル
でのアクセス管理が望まれる。また、医療現場(病室等)での情報アクセスを可能にするた
めに、モバイル機器による情報アクセス機能(アクセス管理とインタフェース)の開発が喫
緊の課題として認識されている。これらはともに 2 年後のターゲットとして設定した。
また、診療記録等、さまざまな個人情報が管理されるようになると、情報管理に対する信
頼性が他分野以上に強く求められるようになってくる。このため、個人情報アクセス管理や
不正利用追跡技術については、他分野にさきがけて、より信頼性の高い技術開発が行われる
必要がある。
画像伝送基盤としては、遠隔診断においては、現状 NTSC レベルの画質伝送が必須要件と
されており、伝送時の真正性の保証、診断に必要な色彩情報の保証なども含め、5 年以内の
インフラ確立をターゲットとして設定した。
3 年後、5 年後、10 年後において実現されるサービス内容とその効果は、図に示した通りであ
る。また、他分野への波及効果として以下のような点が考えられる。
・ 地域内連携強化のための情報通信インフラ整備 (主に 3 年後の技術開発成果として)
地域自治体における情報共有インフラ、防犯設備などへの適用。
・ 高次センシング技術の他分野への適用 (主に 5 年後の技術開発成果として)
三次元動画像や音声、温度などの環境センサの設置によるリスク監視システムへの適用が考
えられる。
・ 広域情報共有・サポート支援サービスへの適用 (主に 10 年後の技術開発成果として)
各種環境センサやユビキタスセンサの融合によるより広範なサポートサービス(防犯、リス
ク管理など)の実現。
51
在宅ホームドクター/次世代知的コミュニケーションネットワークの構築
−技術開発と波及効果に関する全体ロードマップ −
3年後
現在の技術レベル
診断データ解析技術
5年後
●実物色画像システム
二次元パタン識別技術●
●主に文字レベルで
の診断
●動画像(連続画像)
認識は実用レベルに
ない
10年後
●遠隔リハビリテーション支援
遺伝子解析技術
●連続動作の認識
三次元形状計測・
検出・識別技術●
動画像解析技術
数値データに対する
診断支援技術●
自動音声認識による●
異常検出
●カメラ、パソコン、
体温、血圧、脈拍、
心拍、心電図など
のバイタルセンサー
人体モデルの構築とシミュレーション機能
五感通信●
皮膚感覚ディスプレイ
超小型・情報解析型健康データ測定機器●
(指輪型、腕時計型)
人間の機能モデル予測・ ●
機能変化予測
●人体機能モデルの構築
マルチメディア情報解析・診断支援技術
生体情報センシング技術
● は実現に最低限必要と思われる期間の目安
青字はベースになると思われる情報技術または分野
ユビキタスセンシング技術●
●マイクロ生体情報分析技術
コンテキストアウェアな各種サポート●
環境融合型人体センシング●
分散型センサ協調技術●
家庭内センシング技術とデータ連携
協調作業支援技術
●医師、看護婦のほ
か、コメディカル、ケア
マネージャ、ヘルパー、
家族を含めた協調環
境は整備されていない
コンテキストアウェアなユビキタスセンシング技術
医療知識検索支援システム
地域内データ共有環境の整備
●高齢者、障害者が
対象となることが多く
システムの煩雑さが
利用の妨げになって
いる
医療関連知識の広域連携●
(患者情報、診療情報)
医療データ表現の標準化●
医療・ヘルスケア従事者
間での医療情報・経過共有 ●
(ヘルスケア情報共有システム)
ユーザインタフェース技術
家庭内健康管理システムと遠隔医療
システムの融合 ●
家庭内健康管理システム●
作業環境の広域共有化
医療機関における患者データ
との連携インタフェース ●
高齢者・障害者を考慮したバイタル
センサ利用インタフェース ●
●センシングデータの
伝送インタフェース
医療作業環境と家庭環境のシームレスな情報共有
医療用高臨場感インタフェース●
高齢者・障害者に使いやすいインタフェース
仮想世界と現実世界の融合
●テレビ会議システム
(15フレーム/秒
ネットワーク基盤技術
640×480程度)
医療個人情報アクセス管
HPKI
●VPN
理、不正利用追跡技術●
データ内容や利用のコンテキストに応じた
●既存のアクセス管
細粒度かつ柔軟なアクセス管理 ●
●動画像高精度伝送
理技術適用
携帯電話+
(NTSCレベルの画質伝送の保証)
モバイル医療情報
プライバシ情報保護●
●電子カルテペン入 2次元バーコード技術
アクセス技術●
力、携帯端末による
アクセス
医療現場の状況に即した情報アクセス技術
医療分野 (サービス)
において
想定され
るサービ
(ユーザ)
ス
(効果)
他分野における
波及効果
小型センサによる健康管理
システムの普及による地域
内ヘルスケアシステム
(内科診療、経過観察)
人間中心コンピューティング環境 ●
(仮想・現実世界をシームレスに融合
した医療作業環境)
医療向けユビキタス・マルチモーダル
入出力インタフェース技術●
Everyday Computing/Invisible Computer
●伝送時の真正性の保証
●セキュアかつ高信頼・
高速なユビキタス
環境における医療デー
タアクセス技術
●セキュアな大規模無線
ネットワーク運用技術
患者と医療従事者中心のコンピューティング環境の確立
高信頼・高品質な大規模ユビキタスシステム基盤技術
在宅医療における広域連携、
在宅サポートの高度化(動画像、
音声を含めた診断システム)
(皮膚科、眼科、外科診療
(リハビリテーション)、精神科 など)
日常生活と医療システムの融合
による健康管理システムの構築
地域内の遠隔医療を要する
患者、老人ホーム、介護施設、
医師、看護婦、ホームヘルパー
地域内の医療従事者のほか、
専門医師、専門ヘルパー等。
健康管理を必要とするすべての
ユーザと医療従事者、行政
既存インフラを用いた効率的な
在宅医療、健康管理が可能になる
質的に高度な医療を享受できる。
地域内では困難な内科以外の
遠隔診療が可能になる。
往診とほぼ同等の医療サポート、
健康管理、行政との連携が可能に
なる
地域内の連携強化のための
情報通信インフラ(センサー、
データ伝送、インタフェース)
を提供する。
三次元動画像、音声等、高度
センシング技術の他分野(監視
等)への適用
家庭内、地域行政、その他連携
機関とのシームレスな情報共有
とサポート支援サービスが可能に
なる(例:セキュリティサービスなど)
図 7-11
全体ロードマップ 10 年(在宅ホームドクター)
52
(3)詳細ロードマップ(3年)
在宅ホームドクターに関するロードマップを実現する上で、主に技術的側面に着目し、現状の技術開発動向、課題、ならびに 3 年後の技術開発課題
を整理したものを図 7-12 に示す。
診断データ解析
技術
課題
現在の技術動向(研究開発が行なわれている技術)
●データをもとにした自動的な診断は実用化されていない。
●動画像認識における診療に必要な精度保証
●連続動作、動画像の三次元識別。(遠隔リハビリテーションへ
の適用など)
●色情報、触覚等の情報伝達
●二次元動画像解析 (異常検知技術)
●各種バイタルセンサからの数値データ、動画像データ、音
●三次元形状計測・検出・識別技術
声データ等からの自動診断サポート機能の構築
●連続動作認識技術
●自動音声認識技術・高精度音声識別技術
●診断データ解釈に対する推論技術(ファジイシステム、
ニューロ等の適用)
●マルチスペクトルイメージング技術
●高齢者、障害者が不便なく使用できるデバイスの開発
生体情報センシン
●マイクロレベルのセンシング
グ技術
●場所によらないセンシングデバイス
●健康データ測定機器の小型化(指輪型、腕時計型な ●超小型・情報解析型健康データ測定機器(指輪型、腕時計
ど)
型)
●マイクロセンシング
●マイクロ生体情報分析技術
●環境状態(室温、湿度、明度、人の動きなど)のセンシ
ング
●医師、看護婦だけでなく、コメディカル、ケアマネージャ、ヘル
●医療情報記述言語の研究開発(Medical Markup
パー、家族を含めた協調環境
協調作業支援技
Language などのXML記述言語仕様)
●電子カルテデータ等医療データの標準化 (広域データ連携
術
●電子カルテデータの特定病院間連携
ができない)
●家庭内健康管理システムとの連携
ユーザインタ
フェース技術
3年後の目標
●医療データの標準化
●電子カルテデータ、診療記録などをもとにした地域内医
療、健康サポート連携
●医師、看護婦のほか、コメディカル、ケアマネージャ、ヘル
パーを含めた情報共有機能
●センシングされたデータを病院に伝送する際のインタフェース
の使い勝手。容易なデータ伝送を可能にするインタフェース、も
●医療機関とその他の施設との情報共有・連絡を支援するコ
●センシングデータの伝送インタフェース(携帯電話への
しくは自動的なデータ伝送の仕組みが必要である。
ミュニケーションインタフェース
伝送、等)
●高齢者、障害者でも容易に使える機器インタフェース(ユニ
●バイタルセンサと健康管理システム、遠隔医療システムと
●テレビ会議システムの利用
バーサルインタフェース)
の自動連携
●日常生活とシームレスな利用環境の構築
●家庭におけるブロードバンドインフラを活用した遠隔医療シス
テム
ネットワーク基盤
●伝送時の真正性の保証
技術
●医療従事者、患者、行政サポート、家族を含めた情報アクセ
ス管理とプライバシ情報保護技術
図 7-12
●異種システム分散ネットワーク連携
●シンクライアント端末によるネットワーク構築
●情報の分散保存管理
●認証VLAN (個人認証機能を持ったVLAN)
●生体認証
●既存インフラ(家庭内ケーブルテレビ、ADSLなど)を活用し
た連携ネットワークの構築
●医師、看護婦、ヘルパー、患者、家族など、役割と状況に
応じたアクセス管理技術
3年後の情報技術動向マップ(在宅ホームドクター)
53
(3) 利用サービスイメージ
在宅ホームドクターに関する使用イメージ(10 年後、3 年後)を図 7-13 に示す。
− ターゲット達成時に実現できる利用サービスイメージ−
家族
10年後:日常的な状況
監視、診断データ参照、
遠隔サポート
3年後:小型化されたバイタル
センサーにより外出先での緊急
状況に対処。
10年後:環境と融合したセンシ
ングにより、人体の変化を事前
に予測
外出時
家庭・老人ホーム・介護施設
診療に関する
質問・コメント
リアルタイムの
バイタルデータ
(心拍数、血圧、
体温等)
遠隔監視、
病状把握、
診断データ参照
リアルタイムのバイ
タルデータ(心拍数、
血圧、 体温等)
環境センサー(家庭
内)からの状況
緊急時のサポート
介護施設との連携
による適切な処置
3年後: 地域医療機関、行政、ヘル
スサポートと連携した健康管理
10年後:環境と融合したセンシ
ングにより、人体の変化を事前
に予測。日常生活と医療サポート
が融合。
緊急時のサポート
介護施設との連携による適切な処置
定期的診断に基づく健康アドバイス
在宅ホームドクター/次世代知的コミュニケーションネットワークの構築
技術的要件
3年後:
地域医師、広域専門医、看護婦、ホームヘルパー、
患者、家族、行政、ケアマネージャ、コメディカル(検査
技師、薬剤師、栄養士、リバビリ士等)を含めた健康管理
のための広域ネットワークインフラストラクチャー
・バイタルセンサの小型化
・家庭内環境でのインタフェース
整備
・医療関係者、行政、患者のロール
に応じたアクセス管理技術
診断データ解析技術
(人体モデルとシミュレーション)
高精度リアルタイムセンシング技術
10年後:
・人間の機能予測モデルとシミュレ
ーション
・環境融合型人体センシング
・家庭内健康管理システムと医療
システムの融合
各種臨床記録データ
電子カルテ
3年後:行政、医療サポートの連携。ヘルパー
派遣、ヘルパーの作業の効率化。その他、健
康管理に関する行政サポートの充実。
10年後: 広域連携
広域医療関係者による協調作業支援
医療(健康)監視システムと日常生活のシームレスな融合
ヘルパーからのアドバイス
ヘルパーの派遣
サポート情報
定期的な検診データ
監視すべき患者のリスト
関連事例に経験のある
専門医への照会
ヘルパーへのサポート
情報、診断結果、
医療機関の紹介
バイタルデータ
問い合わせ
専門医療機関
地域医療機関
3年後:在宅医療の効率化。
診療負担の軽減。
10年後:広域連携による医
療の質的向上。
行政・ヘルスサポート
電子カルテシステムと連携
図 7-13
利用イメージ(10 年後、3 年後)(在宅ホームドクター)
54
ここでは、本ロードマップによる技術開発の適用局面として、以下の 6 つの局面を想定した。
・ 家庭・老人ホーム・介護施設
医療機関以外での病人、老人、障害者のリアルタイムサポートを目的とする。
・ 外出時
病人、障害者の外出時における緊急時のサポートを目的とする。
・ 家族
遠隔の家族が医療システム、健康管理システムに参加することにより、医療以外のサポート
や緊急時の連絡体制、医療処置に関する質問やコメントなどを行う。
・ 行政・ヘルスサポート
介護や公的機関からのサポートとの連携を目的とする。
・ 専門医療機関
医療広域連携として、専門的な医療処置に関するサジェッションを行う。
・ 地域医療機関
在宅での診療により、診療の効率化を図る。また、異常の早期発見や広域連携により、医療
行為の質的向上を目的とする。
また、システム利用機関別に見た 3 年後の利用サービスイメージ(想定利用形態ならびに期待さ
れる効果)を図 7-14 に示す。
55
− ロードマップ3年後に実現できる利用サービスイメージ(フレーム案)−
黒字は想定利用形態、紫字は期待される効果
高度医療機関または400床以上の大規模総合病院
地域医療機関
●患者のバイタルデータの定期的な監視、既存電子カルテ
システムとの連携
→ 在宅医療の効率化、診療の効率化
●行政、ヘルスサポート、介護との連携
→ 適切な医療・対処レベルの選択
●地域医療機関との連携
→ 全体医療レベル・信頼性の向上
● 緊急医療や難度の高い治療への適切な対応
→ 医療レベルの均質化、高度化に寄与
すべての医療・福祉関連機関
・ソーシャルネットワーク構築支援
→ 医療従事者間、福祉関係者、患者間コミュニケーションを促進
・診断データ、ヘルスサポートの(経緯)情報の共有
→ 医療、福祉サービスの効率化
→ インフォームドコンセントの実践
行政・ヘルスサポート
家庭・老人ホーム・介護施設(または外出時)
●医療機関や各家庭と連携した行政サポート、ヘルスサポ
ートを実施する。
→ 行政サポートの効率化
図 7-14
●日常的なバイタル情報の送信
→ 医療レベルの向上
●ヘルスケア情報、心療情報の共有
→ 適切な医療、サポートの選択
●外出時のリアルタイムセンシング
→ 安心感、緊急時における適切な対応
ロードマップ 3 年後に実現できる利用サービスイメージ(在宅ホームドクター)
56
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