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教育 - 日本財団 図書館

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教育 - 日本財団 図書館
教育
150人のオピニオン ●
249
|教育|
これからの海事教育
原 潔●神戸商船大学長
Ship & Ocean Newsletter No.47
(2002年7月20日)
掲載
1. 海事社会の機能と構成
わが国では、
「海洋国日本」
という言葉だけが一人歩きしていることを多くの海に関係している方々が感じている。
これは海に関わる問題だけでなく、多くの人は自分と直接、関係のないことや危機的状況を想定することなどに
関心や行動を起こさなくなってきている。その理由は、社会的な時間の刻みが早くなって日々の生活が多忙になり、
よそのことまで関心や注意を払えなくなってきたということもあるだろう。しかし、
より大きな理由は、戦前の全体主
義への反省から、戦後、個人主義の考え方が浸透し、個人の価値観、生活、考えが第一の優先権を持つことを
社会全体で当然のこととしているためであろう。
このような状況下で海事教育のこれからを論じるには、海事に関係する者にとっては当然と思っている
「海事社
会」の存在やその機能を改めて再確認し、再定義をすること
図1 海事社会の構成
国際関係
が出発点であると考える。人間活動の主たる舞台が陸上で
あることは、人間の身体的機能から見て当然であるが、人
国際海事系諸機関・団体
類の活動の場として海洋は大きな舞台であり、生命の源で
国際的
海事技術者群
ある。その意味から海事社会は「海洋を舞台とした人間活
動に関わる集団」
と定義できよう。
人間活動の分類は、朝日現代用語「知恵蔵」
(朝日新聞社
刊)
によれば、国際関係、政治、社会、経済・産業、サイエン
生
活
︵
国内に居住する
海事技術者群
ている。これらを海事活動に対応させて筆者なりに集約した
産
業
・
経
済
︵
海事分野における
サイエンス・テクノロジー
および文化
個
人
活
動
︶
ス・テクノロジー、文化・芸術、生活、スポーツの8部門に分け
外航海運・貿易・
造船など
のが図1である。ここでサイエンス・テクノロジーと文化は、人
組
織
活
動
︶
内航海運・港運・
水産など
海事関連業種・行政・諸団体
間活動の基礎であると考えて原点に置き、組織的な活動
政治・経済
(国内)
(経済・産業)
と個人的活動
(生活)
からなる活動形態の軸と
活動の場の軸として国内(政治・社会)
と国際関係からなる
図2 海上輸送技術分野
システム技術
軸が想定できる。このように考えると海事に関する活動とそ
の基盤をなす活動は、規模の大小はあるにしても存在する。
支援機能
航行環境
サイエンス・テクノロジーと文化を基盤に、
これらの活動をする
人材を育成するのが海事教育である。また図2は、
これらの
運航管理
人工環境
航行支援
(港湾、交通方法、交通量)
(情報提供、交通管理)
自然環境
船舶管理
(水深、屈曲、気象・海象)
(乗員管理、船隊管理)
分野における教育内容を考えるために海上輸送技術を技術
の種類別に示した一例である。
2. 海事社会の規模
こうした海洋を舞台にした活動に関わる人たちがどのくら
いなのかは、関わり方の程度によって異なるので、具体的に
ハ
ー
ド
技
術
船舶
運航方法
運動性能
輸送方法
(主要寸法、速力、操縦・推進性能)
(操船、荷役、貨物管理)
機関性能
船舶保守管理
(主機関、発電機、燃料)
(機関監視、保守整備)
自己完結機能
数字をあげることは難しくなってきている。直接的に海上(水
要素技術
250 ●150人のオピニオン
ソ
フ
ト
技
術
情報通信ネットワークと
データベース
上)
輸送業に係わっている日本人の数は、
総務省統計局統計センターによる事業所・企業統計調査
(平成11年度)
によれば、水運業(外航海運業、沿海海運業など)
と港湾運送業従業者数を合計しても14万人程度である。水
運業、港運業以外にも、水産業を始め直接、間接に海と関わる業種があるので、海事に関わる人数は、
この数字
よりは、当然多くなるが、それでも全従業者数から見ればマイナーグループである。しかし、
よく例にひかれるように、
わが国の輸出入量の99.5%は海上輸送に依存していることからも、海上輸送なしにわが国が成り立たないことは
明らかである。特に外航海運は、世界の海上物流の20%弱を担っており、その意味から国際海事社会における
役割はきわめて大きい。このように考えると規模は小さくても、わが国に海事社会は存在し、
これからも重要な国内
外の社会機能として必要であるといえる。
3. これからの海事社会に求められる人材と神戸商船大学における試み
これまで海事社会は、海洋を利用して、利益を生むことを目的にした活動が主であったと考えられる。しかしな
がらこれからは海洋の保全を前提とした活動であることが不可欠になってきており、
この社会的要請は、一層強く
なる。すなわち、海の活用と保全を同時に実現する技術と制度・施策を考える社会機能を構築する必要がある。
そのために海洋の活用だけでなく海洋環境保全への高い意識を持ち、それを実現できる人材が求められる。
このような観点から神戸商船大学では、3年間の調査と検討を重ねて平成12年3月にこれからの教育研究のシ
ナリオを21世紀ビジョンとして策定した。このビジョン21では、
これからの海事社会のニーズに応えるために、神戸
商船大学のミッションは、
「教養豊かな国際海洋人の育成と紺碧の海を守り・活用する研究を通じた社会貢献」
と
位置づけ、
これを実現するために、短期的な内部改革と共に中長期を視野に入れた舞台づくりを進めている。
具体的には、異文化理解を含めた教養教育や基礎教育の充実、海を理解し、体験する教育の強化、国際イ
ンターンシップなどを通じて国際的な視野を持つ海を理解した技術者養成を試みている。中期計画の一つには、
現在の教育研究分野を刷新し、技術マネージメントを含む海事政策を提言のできる教育研究機能を創出すると
共に、海事・海洋分野における世界の中核大学を目指すことである。
こうしたビジョンを実現するためには、中身
(シナリオ)
と同時に、それを効果的に実現する組織
(舞台)
が必要で
ある。具体的には次の二つの舞台である。①神戸大学との統合|海事分野における教育研究と他の学問分野
との連携・総合化するための舞台。②国際海事大学連合|海事分野の国際的標準化の上に立って個性化す
るための舞台。
神戸大学との間で平成15年10月統合、平成16年4月新学部発足を目途に統合協議を進めている。その理念
は、
「国際社会に視野を広げる教育を創出するとともに、海事・海洋を対象とする新しい学際的な教育研究分野
を切り拓き、個性豊かな、海に開かれた総合大学」であり、神戸商船大学は、海事科学部
(仮称)
として他学部と
連携を深め、海事教育の新たな広がりと発展を目指して新たに発足する。また、国際海事大学連合は、世界の
30を越える海事系大学間連合であり、
日本財団の支援を得て、
これからの海事教育のあり方について国際活動
を行っている。
海が世界をつなぐように海事社会は、すでに国の枠組みを越えて進化しており、
こうした神戸商船大学の試み
は、次世代海事教育の新たな第一歩にしたいと考えている。
海事教育は、人間教育として見れば他の分野と共通した普遍的なものである。
しかしながら地球が
「陸」
「海」
、 、
「大気」から成り立っている限り、海を理解し、得意分野にする人達は不可欠である。海に関わる一人として、国を
越えて海に関わることに誇りとやりがいを感じられるような海事社会を構築していきたいと念願している。
(了)
【追記】
神戸商船大学は平成15年10月に神戸大学と統合し、神戸大学海事科学部(www.maritime.kobe-u.ac.jp)
となっている。
150人のオピニオン ●
251
|教育|
情報化時代の海上防災訓練
石田憲治●神戸商船大学教授
Ship & Ocean Newsletter No.13
(2001年2月20日)
掲載
阪神淡路大震災の体験を基に、危機状況への対応研究がはじまった
松林の向こうに水平線が浮かぶ福井県三国町の穏やかな海岸を昨秋訪れ、約100日にわたって何万人もの
人たちが重油除去作業にあたった、あのナホトカ号の「戦記」
ともいうべき記念碑を見ました。かつて戦場と化し
たその海岸を眺めながら、アラスカ州でのエクソン・バルディッツ号
(1989年)
、スコットランド沖、北海でのブレア号
(1993年)
の「戦場」
に思いを馳せました。「油を除去する」この単純な目的で多くの人が集まりうごめいている情景
は、私にとって第2次大戦中の上陸作戦の写真や映画でしか記憶にありません。
油や危険物が無人島のような人間社会にまったく影響ない所に漂着しても、私たちは同じことができるのだろう
か? 私たちは人命や財産、あるいは日常の営みを直接脅かされるいわゆる危機的な状況に至ってはじめて、他
の個人や組織と共同して、遭難救助や事故対応などを進めるにちがいありません。最近の国内の事例では、阪
神淡路大震災、有珠山噴火、JCO放射能漏洩事故、大島噴火、鳥取地震、名古屋の大水害、地下鉄サリン事
件時の対応があげられます。規模や事例は異なりますが、人々のボランティア精神を触発した、類似の危機状況
だったと考えられます。
その原因が何であれ、
これら危機に共通する困難性は、発生を的確に予測できないことにあります。災害の度
に、必ず災害の事前準備と事後対応がどうであったかが調査されます。しかしながら予測シナリオにない災害の
場合は、当然、事前準備が整っておらず、
したがって事後の対応の優劣が被害の規模を決定付け、それがその
まま関係機関への評価ともなります。すなわちきっかけが天変地異であっても、結局は「人災」
と決め付けられる恐
れがあります。
神戸商船大学では、20秒ほどの大地の震撼により一瞬にしてライフラインが寸断され、陸の孤島になってしまっ
た、あの大震災の体験を基に、危機状況に関係者がどう対応すべきかについて研究する分野横断的なグループ
を直後に発足させました。
パソコンを駆使した演習によって、災害の事前準備と事後対応のあり方が見えてくる
ナホトカ号海難事故は、その絶好の研究対象となりました。海象予測、荒天航海、人命救助、油の漂流経路、
油回収方法、被害状況、損害補償、国際法、船級など広範囲にわたって調査・研究をすることにしました。特に、
地震では不可能だった災害の再現性を事前・事後対応を伴わせて再現する方法を検討しました。研究の過程
で米国の商船大学学生チームが、年に1回1週間ほどかけて陸軍、海軍、空軍士官学校の学生チームとインター
ネットにより、戦争ゲーム
「陣地の争奪戦」
に熱中していること、またフィヨルドに面した町オスロには、地元海域に流
出した油を災害モデルを使って拡散防止や回収の訓練を実施するセンターがあることを知りました。
学内に30∼40台ほどパソコンを配置し、それぞれのパソコンに災害対応に関係する行政機関などその職種を
図のように割り振りました。演習は1日6時間1週間にわたって、学生・教官約40名が災害の対応にあたって何をす
べきかを考えていきます。役割には海難の原因者(船長)
、船主、海上保安部、現場で救助・災害に対応する巡
視船・航空機・サルベージ船、実質の回収作業を担当する災害防止センター、港長、市長、消防署、漁協、ボラン
ティア、マスコミ、海難保険会社、環境保護グループ、物資供給業者、病院等です。
昨秋行った演習シナリオは、人口が密集する港湾都市海域で、内航タンカーとプッシャーバージが衝突し、
タン
252 ●150人のオピニオン
カーは沈没、その引き揚げ中に積み油が流出して風に押されて港内深部まで到達、
日常生活や地域産業の操業
に影響を与える筋立てとしました。同演習にはナホトカ号海難時の関係者
(海上保安庁、石川県庁職員)
や船首
から残油を抜いたサルベージ会社の人、回収・処理作業に携わった人、被害を克明に記録した人等多くの関係
者が、学生たちのシミュレーションを長時間視察されました。いただいた評価は、
この演習方法でも臨場感は充分
あるというものでした。パソコンを利用することで、机上演習ではあっても、相当レベルの訓練ができることをわれわ
れの研究を通じて確信しております。
例年9月の防災の日を中心に展開される国や自治体が実施している防災訓練は、訓練前にすべてが準備され、
参加者の役割も言動もマニュアルに従って実施されます。ここで紹介した演習は、パソコンという擬似空間上では
ありますが、各々の役割を担う訓練参加者がどのようなタイミングで誰から情報を入手できるのか、
またそれによっ
てどのように行動すればよいのか、あるいは、誰にどのような情報を自ら発信しなければならないのかが訓練され
ることになります。災害対応のシナリオは一つではなく、細胞がどんどんと分裂するようにシナリオがリアリティを持っ
て展開してゆきます。
最近のIT技術は今後さらに進歩するでしょうから、そのうち相手が見え、また、音声が出るパソコンや携帯電話
などの出現で、シミュレーションシステムも多種多様かつ汎用性も持つものに進化することが期待できます。演習の
場所や時間が限定されず、シナリオは些細な事象から大規模なものまで設定可能です。
ほぼ実用化の域に達したわれわれのモデルを利用し、
このような新しい形式の海上防災訓練を実施してくれる
チャレンジあふれた市町村の出現を期待するものであります(了)
。
【追記】
神戸商船大学は平成15年10月に神戸大学と統合し、神戸大学海事科学部となっている。
海難事故を想定した演習におけるネットワーク構成
ボランティア1
マスコミ1
ボランティア2
統轄本部
マスコミ2
船主代理人
グループ6
環境庁担当官
船長
海難事故データベース
保険サーベイヤー
自治体首長
船主
グループ5
アドバイザー
P&I保険
グループ1
LAN
アドバイザー
防災マニュアル
・データベース
自治体首長
海上保安管区本部長
港湾管理者
発電所所長
グループ4
アドバイザー
自治体職員
サルベージ会社重役
漁業組合
サルベージ現地技師
災害防災センター
グループ3
アドバイザー
油回収船船長
海上保安管区本部員
巡視船乗組員
グループ2
巡視船船長
アドバイザー
150人のオピニオン ●
253
|教育|
海と船が、
人を育てる
よ し の り
三原伊文●大島商船高等専門学校商船学科教授
Ship & Ocean Newsletter No.7
(2000年11月20日)
掲載
大島商船高等専門学校には卒業式が二度ある。一度目は3月。二度目がこの9月、終わったばかりである。4年
半の席上課程と1年の練習船実習があり、修業年限が他の学科より半年長い。
型通りの式が終わると、卒業生が帽子を被って一列に並ぶ。今年のリーダー、M君が挨拶をする。
「本日の卒業式、本当にありがとうございました。各教官方、両親には、大変心配をかけたと思いますが、ひとり
の脱落者も出すことなく、無事帰って来ることができました。この一年は今まで生きてきた中で、一番辛く、一番過
酷なものでした。しかし、一番充実し、一番成長できた一年でもありました。在校生の皆さん、5年あるいは5年半
というのは長いようで短いです。吸収できることは吸収し、自分のものとして、充実した学生生活を送ってください。
私たちはこれから、進学、就職と、それぞれ違う人生の海へと船出するわけですが、
この学校で学んだこと、実習
で身につけた技術と精神力で荒波を乗り越え、
しっかりと走っていきます。本日まで本当にお世話になりました」
その後、
「脱帽!」
という号令で、全員、帽子を脱いで手に持つ。リーダーが「ごきげんよう!」
と大声で叫び、帽子
を斜め上に振り上げる。続いて他の卒業生も一斉に「ごきげんよう!」
と、唱和して帽子を振り上げる。これを三度
繰り返す。最後に一斉に帽子を放り投げる。この登しょう礼と商船祭りの手旗踊りは、いつ見てもジンと来て、涙
腺のもろい私は目が潤む。
かつて、遠洋航海から帰ってきた学生がこんなことを言った。
「僕らが練習船で学ぶのは、船をコントロールする
こと、機関をコントロールすること、そして自分をコントロールすることなんですね」
本校入学時、15歳という、まだあどけなさの残っていた少年が、
こうしてひと回りもふた回りも大きくなって、20歳
の青年として巣立っていく。その夜は晴れて彼らと酒を酌み交わす。こんな美酒があろうか。実はこの感慨は私
だけのものではない。全国5つの商船高等専門学校で働く誰もが感じる喜びなのである。
寮生活の厳しさを愚痴っていた彼らが、遠洋航海から帰ってくると、
「教官、寮生活なんて、練習船からみると、
天国ですね。帆船に乗っていると、特にそれを感じますよ」
と、異口同音に言う。
来年4月から、航海訓練所は独立行政法人になる。100年以上の教育訓練の歴史と動く教室ともいえる練習船
隊を有するこのシステムを、
日本という国はもっと有効に使うことができなかったものだろうかと、歯ぎしりする思いで
ある。異常な少年犯罪が世の中を震撼させるたびに、子供たちをもっと船に乗せればいいと思う。海と船という舞
台で、プロの集団が寝食を共にして、本気で子供たちをしつけてくれる。教える方も教えられる方も、本気にならね
ば命に関わるからだ。いかに突っ張っていた学生も、海が荒れ、船酔いが始まると、本性が出てくる。酔って、食
べた物が出てくるうちはまだいい。真黄色の胃液が出てくると、
この世の地獄かとさえ思うはずだ。しかし、逃れよ
うがない。ただ、耐えるしかないのである。
最近、すべての子供たちに社会奉仕を言う声が聞かれるようになった。それもいい。もうひとつの選択肢として、
練習船に乗せて荒海に放り出すのはどうであろう。学校の小さな練習船で2日がかりで沖縄まで行ったことがあ
る。台風の余波を受けた航海は船酔いで苦しかったが、沖縄に着いたときは、たった2日間の航海ながら、はるば
る来たぜという思いで、沖縄がことのほかきれいに見えた。飛行機では味わえない喜びである。水平線という言
葉に今も胸のときめきを感じる私は、
日本中の子供たちすべてを、数カ月船に乗せて地球を巡らせ、世界中の子供
たちと交流させたいと思う。
飛行機の旅はレストランで食べる料理でしかないが、練習船で行く旅はキャンプ場で自分たちが作ったカレー
ライスのような味わいがある。
(了)
254 ●150人のオピニオン
イ ン フ ォ メ ー シ ョ ン
Ship & Ocean Newsletter No.23
(2001年7月20日)
より
世界の「海の日」
国名
日本
名称と日付
海の日
7月20日
(2003年より7月第3月曜日)
由来、起源、主な行事
明治9年、明治天皇が東北巡行の帰途、灯台視察船「明治丸」で青森から函館を経て横浜
にご安着された日にちなみ昭和16年に制定された「海の記念日」が、平成8年より祝日化され
「海の日」に。7月20日より31日までを
「海の旬間」
とし、国土交通省が中心となり海事関係団
体、地方公共団体等の協力のもと、各地で様々なイベントが行われる。
●詳細:http://www.kaijipr.or.jp/
アメリカ
National Maritime Day
5月22日
1819年5月22日、ジョージア州で
「サバンナ(Savannah)号」
が蒸気推進による初の大西洋横
断に成功したことに由来。1933年5月20日上下両院合同決議で制定され、同年5月22日が
最初のNational Maritime Day となった。決議では、大統領が国民に対する声明を発表する
ほか、官公庁等での国旗掲揚も求めている。当日ワシントンDCでは、大統領による海の日の
宣言と声明の発表/殉職船員等の慰霊祭/海軍、海事局、プロペラクラブ等がスポンサーとな
る各種の行事があり、各港湾都市では、殉職船員等の慰霊祭、花輪献花式等が行われる。
●詳細:http://www.usmm.org/md/maritprocs.html
カナダ
Ocean Day
6月8日
1992年、リオデジャネイロで開催された地球サミットにおいて、海洋の復興及び保護促進
のために6月8日をOcean Dayとすることが発表されたことを受け設けられた。毎年違うテー
マを取り上げて各地で講演会、ダイビングイベント、ビーチクリーンアップ、ボート乗船体験な
ど様々な活動が行われる。
●詳細:http://cwf-fcf.org/pages/oceans/coceans/co_oday.htm
イギリス
Ocean Day
6月8日
カナダと同じ経緯でOcean Dayが設けられた。Ocean Dayの目的である、①海に関する見
方を変えること、②海に関する学習の機会を与えること、③海に関する考え方を変えること、
④海の存在を祝う機会をつくること、
をコンセプトに各地で様々なイベントが開催される。
●詳細:http://www.mcsuk.org/action/wod.html
スペイン
トルコ
チリ
海の守護聖母聖カルメンの日
7月16日
1251年、聖カルメンが現れた日。特に大きな行事はないが、地方によっては宗教的な行事
を行うこところもある。
漁業の日
9月1日
由来については不明。海洋に関するテレビ番組放映、パレードや参加者に漁期最初の漁を
してもらうなど、漁師、科学者、政府関係者、一般市民などを対象にした行事が開催される。
海の月
5月
チリ、ペルー、ボリビアが戦争した1879年のイキケ戦闘の記念として、5月21日が「海軍記
念日」
となっている。特定の「海の日」はないが、この期間中に小中学校では海洋環境に関
する絵や詩を書いたり、海洋の勉強をしたりする。また、海軍、海洋関係の官庁、大学等は、
この時期に海に関する方針や政策を発表することが多い。
●詳細:http://www.directemar.cl
オーストラリア
Ocean Care Day
12月第1日曜日
Sea Week
ニュージーランド 3月
Ocean Care Dayとは
「海を愛する者が、一年に一度、一緒に海洋環境の保存に協力する日」
として、1993年12月に初めて開催。Marine and Coastal Community Networkが全国の地
域グループ、政府関係団体、企業などと一緒になって様々なイベントをコーディネイトしている。
1987年に始まった「海洋美術コンクール」から発展。地方によって活動は異なるが、Sea
Week期間中には、海洋に関する講演会・セミナー、水族館・海岸などのツアー、釣り大会
など様々な活動が行われる。また、小中高学校ではこの期間中に海洋に関する授業を取り
入れることが多い。
●詳細:http://www.nzaee.org.nz/seaweek/resource.html
韓国
海の日
5月31日
828年、新羅の武将、張保皐(Jang Bo Go)
が清海鎮(海上貿易の拠点)
を設置した日。
1996年5月28日、国務会議で初めて法定記念日として制定された。第1回「海の日」記念式
典は1996年に釜山港で実施され、海洋博覧会、水産科学博物館の創立式典、海難防止
に関するセミナーなどが開催されている。
●詳細:http://www.momaf.go.kr
フィリピン
タイ
Maritime Day
9月最終木曜日
IMO(国際海事機関)
のInternational Maritime Dayを各国で祝おうとの呼びかけで制定。
各地でパレード、シンポジウムなど各種行事が開催される。また、9月最終週をMaritime
Weekと定めている。
漁業の日
4月13日
由来については不明。
「Songkran Day
(タイの新年)
」
と同じ日のため、休日となっている。こ
の日には魚を自然に戻したり川に流したりするなど、いろいろなイベントが行われる。
これら情報は事務局による独自の調査にもとづくもので、すべてを網羅したわけではありません。フランス、ノルウェー、メキシコ、ブラジル、中国、シンガポール、マレーシア、インドネシア、
クック諸島について調べましたが、
「海の日」に相当する日はありませんでした。なお、祝日なのは調査内では日本だけとなっております。
(データ:シップ・アンド・オーシャン財団及び(社)海洋産業研究会調べ)
150人のオピニオン ●
255
|教育|
海上自衛隊の指導者育成と
“海”
古澤忠彦●三井造船(株)顧問、元海上自衛官
Ship & Ocean Newsletter No.44
(2002年6月5日)
掲載
遠洋航海の概要
「海」から人間が得られる教育的恩恵の一つに「シーマンシップ」がある。海と人とが関わりあって、決断力、実
行力と共に自主性・積極性と謙虚さが培われる。
海上自衛隊は、毎年、新しく任官した幹部自衛官に対して、昭和32年以来、途切れることなく遠洋航海を実施
しており、今年で45年目を迎える。遠洋航海の目的は、海の「場」
において、海と船を
「手段」
として、海と人との関
わりを
「理解、実践」することによって、船上の実務を体得し、シーマンシップを涵養することで、自主性に富む責任
感旺盛な指揮官・指導者を育てることである。海は、使命感に満ちた指導者を育てるに絶好の場と教材を提供
してくれる。
遠洋練習航海は、行き先別には、概ね①北米コース②南米コース③アジア・オセアニアコース④欧州・世界一
周コースの4コースに分けられる。跨ぐ大洋は、北太平洋、南太平洋、インド洋、大西洋であり、訪問先は5大陸の
各国に及んでおり、艦隊が入港可能な世界の主要港のほとんどを網羅している。艦隊は、練習艦「かしま」
を含
む2∼3隻で編成され、約150人の若い実習の初任幹部自衛官に対して、約400人の司令官以下のベテラン乗組
員兼指導官・隊員が、約140日間を付きっ切りで指導する。彼らは、その前に、瀬戸内江田島の幹部候補生学校
で、1年間にわたり
「海」
に馴染む時間がとられ、ゆっくりと、
しかし確実に自信を付けていく機会が与えられる。
専用の練習艦を持ち、艦隊を編成して若者のために練習航海をする国は少ない。まして毎年、いずれかの大
洋にその姿を浮かべている国は、
さらに限定される。
海を知り、船を知り、己を知る
幹部候補生学校の教育を終えると、幹部自衛官として任官し、練習艦隊に配属される。近海練習航海9週間
と遠洋練習航海20週間であり、学校で得た知識の実践の場である。
「見る、知る、慣れる、行う」
ことを段階的に
積み上げながらの教育としつけの場であり、①基礎知識と正確な手順を実体験し、②健全な思考とプロセスを
重視することによって、海上における現場指揮官としての立場の認識を深め、③その認識を実践することによって、
リーダーとしての素養を深めていく。
練習航海は、体系的で具体的な現場の「指揮官」
としての実務を体得することを繰り返す。航海、機関等の実
務を体験し、部署訓練等のプロセスをこなす。常に、気象海象に気を働かせ、目先を効かせて荒天準備のタイミ
ングを図る。満天の星空から目指す星座を六分儀で水平線に下ろす。等々、単調な海上生活の中に、始終周囲
に関心を示し、旺盛な好奇心で、スマートに動くことを要求され、それ
を習い性とする。
長い航海も佳境に入った頃、
「この頃、自分の中で何かが変わった。
洋上に居ることが常となり、岸壁に着いているよりも、航海に出ている方
が落ち着いているのだ。青い海と心地よい揺れに心が休まる。同じ艦
に仲間たちが居る。まさに男のロマンだ。曜日感覚がなくなり、文字通り
「月月火水木金金」
。休みがなくても心に余裕。早朝の天文航法も、有
256 ●150人のオピニオン
■平成14年度遠洋練習航海航路計画
アンカレッジ
(アメリカ)
5月5∼9日
ハリファックス
(カナダ)
7月3∼7日
エスカイモルト
(カナダ)
5月15∼19日
東京
(日本)
4月22日 出港
9月9日 入港
ノーフォーク
(アメリカ)
7月11∼16日
ニューオリンズ
(アメリカ)
6月19∼24日
パールハーバー
(アメリカ)
8月21∼26日
マンサニーヨ
(メキシコ)
8月5∼9日
ケツァル
(グアテマラ)
6月1∼5日
バルボア
(パナマ)
6月10∼13日
期間:平成14年4月22日∼9月9日
所要日数:141日
(航海98日、停泊43日)
総行程:24,160マイル
訪問国:6カ国
(10寄港地)
サントドミンゴ
(ドミニカ共和国)
7月22∼26日
史以来人類を正しい道に導いてきた夏の大三角形を見上げれば、
この大宇宙の偉大さを感じずにはいられない。
大航海時代、勇気ある船乗りたちは、同じように大洋を駆けめぐった。今、われわれは同じ海の男となり、遙か祖
国を東方に拝し、大洋のロマンの中にいる。大いなる航海を楽しもう」
と、某初任幹部は、高揚する気持ちを押さ
えながら吐露する。この様に、海や船を通じて、己の位置づけを理解する。
海は国際的視野に立った自衛官を育てる
海からは、共同共存と自立・自助努力の精神を合わせ学ぶことができる。また、ロゴスとパトスの両輪の世界が
拡がり、
「知行合一」の行動力が自ずと身に付いてくる場でもある。21世紀は、多くの国が、海洋国家を目指す。有
形無形の海からの恵みをいかに効果的に活用できるかが、国際的な位置を占め、国家を発展に導く指導者の
力量となる。加えて、わが国も、世界の人々と価値観を共有できるとともに、
日本人としてのアイデンティティを持つこ
とが求められる。したがって、10年後、20年後に国際性豊かな指揮官・指導者となることを見通した幅広い見識
とマナーの養成にも重点を置き、即戦力になる人材を目指すのではなく、長期的に有用な人材をじっくり醸成しよ
うとすることも重要である。
昔、船乗りの教育は実務現場で先輩が後輩を鍛えるOJT(on-the-job-training)に重点が置かれてきた。今日で
は、体系的合理的な生涯教育の過程として位置づけられている。優れたリーダーシップを持った指揮官・指導者
を育てるに王道はない。しかし、海の関係者なら、優れたシーマンシップを身につけ「スマートで目先が利いて几
帳面、負けじ魂、
これぞ船乗り」が、同時に、卓越したリーダーシップの具現者であることを、経験的に知っている。
海洋を活かすことが立国の条件となっているわが国にとって、育成される人材とともに、
もたらされる国益と国際的
信頼の成果は、投資をはるかに越えるものがある。
シーマンシップは世界に共通する
「国際性」であると海上自衛隊は認識している。そして、海は国際人を育てる
自然塾である。
(了)
150人のオピニオン ●
257
|教育|
わが国の海洋・環境教育の
現状と今後のあり方
近藤健雄●日本大学理工学部海洋建築工学科教授
Ship & Ocean Newsletter No.47
(2002年7月20日)
掲載
1.海洋教育とは
海洋学
(oceanography、ocean science)
は、一般には、海上
(大気を含む)
・海面・海中・海底・海底地下の全般
にわたる自然科学系の分野を指す。また、
これらの研究や学問を支援する機械、電気・電子、土木・建築、環境
的な技術や手法等の研究を行う海洋工学(ocean engineering)
と呼ばれる分野もある。さらに、海洋と人類社会
の政治・法制・経済・文化(marine policy, law, economics,culture)
とのかかわりを重点にした人文社会科学系
(marine affairs)
の分野も、今やその重要性が理解されるようになってきた。なお、自然科学の面では、最近では、
宇宙の中の惑星としての地球の成り立ちから海を捉えなおすという地球科学(earth science)
的位置付けに変貌
しつつある。
ところで、海洋教育に関しては古くは海事(商船、海運)
教育、水産教育のほか、造船関係の教育を海洋教育
と捉えていた時代が国内外で長く続いた。しかし、1970年代から本格的に始まる海洋開発が契機となって、米
国では、シーグラント法によりNOAA(海洋大気局)
が海に関わる大学へ補助金を供与する政策を積極的に推進
するようになり、優秀な人材の育成と海事思想の普及・振興を目的に幅広い教育制度が確立されていった。この
シーグラント制度は今日においても継続、発展してきており、大学外の市民社会教育を実施するSea Grant
Extension Programも各地で展開されている。
わが国では、70年代から始まる海洋開発ブームに対応して、海洋開発に関わる学科や学部が新設され、今日
では、造船業の不況と構造改革の中で従来の造船工学科が名称変更により海洋○○学科という呼称が生まれ
てきた。現在では、海洋・沿岸域の開発・利用・保全に係る様々な学問分野を含めて広義の海洋教育として捉
えることができる。
2.環境教育とは
他方、わが国における環境教育は、1960年代に顕在化した公害問題に端を発し、その後、1970年代以降に地
球規模での環境問題が国際社会の中で取り上げられたことに伴い、その内容も地域的な問題から地球規模の
環境問題まで含む総合的なものへと変化してきた。
1988年3月の環境庁環境教育懇談会の報告では、環境教育は「人間と環境との関わりについて理解と認識を
深め、責任ある行動が取れるよう国民の学習を促進すること」
とされている。また、文部省は「環境教育指導資料
(小学校編、中学校・高等学校編)
」の中で、環境教育とは「環境や環境問題に関心を持ち、人間活動と環境との
関わりについての総合的な理解と認識の上に立って、環境の保全に配慮した望ましい働き掛けのできる技能や
思考力、判断力を身に付け、
より良い環境の創造活動に主体的に参加し環境への責任ある行動が取れる態度
を育成する」
ことと述べている。
3.わが国の海洋・環境教育の現状
まず、大学教育についてであるが、3つの図に示すように大学及び研究施設等が数多く存在する。このうち、理
学系中心の東京大学海洋研究所は有名だが、国公私立を問わず工学部の造船系学科および土木系学科も多
く存在している。また、わが国で唯一海洋学部(7学科)
を持つ東海大学や、同じくわが国唯一の建築系学科で
258 ●150人のオピニオン
■図1 主な水産系大学の分布
東京農業大学 生物産業学部■
【凡例】
「水産」学部のある大学
「水産」関連学科のある大学
「生物○○」学部・学科のある大学
農学、水産学部附属研究施設
●国公立大学
▲国公立大学
■国公立大学
★国公立大学
●私立大学
▲私立大学
■私立大学
★私立大学
出典:相模湾沿岸域課題調査 海洋教育・環境教育の視点から
(平成7年3月)
原典:社団法人海洋産業研究会 資料
改訂:SOF海洋政策研究所
(平成14年7月)
●北海道大学大学院水産科学研究科
環境生物資源科学専攻
★近畿大学 水産研究所
富山実験場
●北里大学 水産学部
■東北大学 大学院農学研究科・
農学部資源生物科学専攻
★農学部附属海洋生物資源教育研究センター
福井県立大学生物資源学部■
京都大学大学院農学研究科▲
附属水産実験所★
●東京水産大学 水産学部
■東京大学 農学生命科学研究科・農学部
▲日本大学 農獣医学部水産学科
●水産大学校
佐賀大学海浜台地生物生産研究センター★
▲東海大学 海洋学部水産学科
★東京大学 農学生命科学研究科・農学部 附属水産実験所
★静岡大学 農学部附属魚類飼料実験実習施設
■三重大学 生物資源学部
★附属水産実験所
長崎大学 水産学部●
海洋資源教育研究センター★
▲近畿大学 農学部水産学科
★近畿大学 水産研究所
▲高知大学 農学部栽培漁業学科
■広島大学 生物生産学部
★広島大学 生物生産学部附属水産実験所
■九州大学 大学院農学研究院・
大学院生物資源環境科学府・農学部
★附属水産実験所
●鹿児島大学 水産学部
★附属海洋資源環境教育研究センター
ある日本大学理工学部海洋建築工学科などユニークな大学も存在する。また、
東京水産大学や、
東京商船大学、
神戸商船大学等もある
(前二者は統合予定)
。このほか、水産大学校、海上保安大学校もある。
次に高等学校教育であるが、特に水産系高等学校が海洋・環境教育とのかかわりが深い。水産高校は全国
の沿岸都道府県にほぼ1校ずつの割合で分布しており、そのうち、北海道、岩手県、千葉県の自治体には3校の
水産系高等学校が存在する。しかし、水産系高等学校も、時代の流れを反映し、近年では、海洋・沿岸域の開
発・利用・保全分野に関連したコースを設置する例が多く、その名称も
「○○水産高校」から
「○○海洋高校」等
へと改称している事例も見受けられる。
他方、全国に8校存在していた海員学校は平成13年4月より独立行政法人となり、その名称も海上技術学校お
よび海上技術短期大学校へと変更となった。
第三に、小中学校教育についてだが、2002年4月から、小学校から高校にいたるあらゆる学年で新たに「総合
学習の時間」が設けられる。その設置理由は、自然体験、生活体験を含む子どもたちの体験不足に対する危惧
であるが、自ら考え、判断し、行動する力や健康、生活体験や自然体験は欠かせないとしている。その重要な対
象分野に海洋・環境教育が該当するはずのものである。
試験研究機関、
水族館・博物館、
各種団体、
NPO・NGO関係の海洋環境教育活動については紙幅の制約上、
割愛する。
4.海洋・環境教育に関する各種の提言や意見 第一は、文部科学・学術審議会海洋開発分科会の答申案(7、8月最終答申)
があげられる。その中で海洋教
150人のオピニオン ●
259
わが国の海洋・環境教育の現状と今後のあり方
育および環境教育は、基盤整備の重要課題の一つとして位置付けられており、高等学校や大学、大学院におけ
る海洋に関する教育の充実から、小中高等学校における体験的な学習の対象としての海洋の活用、海とのふれ
あいなどが謳われている。
第二には、
日本学術会議海洋科学研究連絡委員会の報告「海洋科学の教育と研究のための船舶不足と水
産系大学練習船の活用について」
(平成13年5月)
、第三には「日本沿岸域学会2000年アピール」があげられる。
後者では、沿岸域管理を実行する基盤的な手段の一つに環境教育・社会教育を取り上げている。第四には、41
カ国、延べ2,000人が参加した第5回世界閉鎖性海域環境保全会議(EMECS2001:平成13年11月19日∼22日、
神戸)
の、
「沿岸域の環境保全と環境教育・実践活動」分科会では8カ国の現状報告とわが国の研究・活動報告
がなされた。世界中でこうした実践活動が推進されているわけである。
5.海洋・環境教育の今後のあり方
まず、学校教育における海洋・環境教育のあり方については、次のことが言えよう。
−地域の教材や学習環境を取り入れた教員と非教員の協働体制の確立が急務
−海洋・環境問題に対応した教材とプログラムの開発
■図2 主な海洋開発系大学の分布
北海道大学低温科学研究所附属流氷研究施設★
道都大学海洋生物研究所★
【凡例】
海洋系大学院
●国立
海洋学部
●私立
海洋学科
◆国立
海洋工学関連学科
造船・船舶・航海関連学部
大学設置海洋関連研究施設
▲国公立 ▲私立
■国公立 ■私立
★国公立 ★私立
★北海道大学低温科学研究所
▲北海道東海大学
工学部海洋環境学科
出典:相模湾沿岸域課題調査 海洋教育・環境教育の視点から
(平成7年3月)
原典:社団法人海洋産業研究会 資料
改訂:SOF海洋政策研究所
(平成14年7月)
大阪大学大学院工学研究科船舶海洋工学専攻■
★東京大学海洋研究所大槌臨海研究センター
★京都大学防災研究所
大阪府立大学 大学院工学研究科機械系専攻海洋システム工学分野■
神戸商船大学 商船学部■
★東北大学流体科学研究所
★東京大学地震研究所
★東京大学生産技術研究所
★東京大学海洋研究所
■東京大学 大学院工学系研究科環境海洋工学専攻
■東京商船大学 商船学部
▲日本大学 理工学部海洋建築工学科
■広島大学 大学院
工学研究科社会環境システム専攻 (エンジニアリング システム教室)
▲横浜国立大学
大学院海洋空間のシステムデザイン教室
水産大学校 ■
★名古屋大学
大気水圏科学研究所
●東海大学 海洋学部マリンデザイン工学科
★東海大学海洋研究所
★高知大学海洋生物研究センター
▲愛媛大学工学部環境建設工学科海洋環境工学講座
▲長崎総合科学大学
工学部船舶工学科
●長崎大学大学院
生産科学研究科
海洋生産科学専攻
■九州大学 大学院工学研究院海洋システム工学部門
★九州大学応用力学研究所
★佐賀大学海浜台地生物生産研究センター
▲鹿児島大学 工学部海洋土木工学科
◆琉球大学 理学部海洋自然科学科
★佐賀大学海洋エネルギー研究センター
★東海大学沖縄地域研究センター
260 ●150人のオピニオン
■図3 主な大学校、海員学校、水産系高校の分布
【凡例】
大学校 ●
大学校設置研究施設 ★
海員学校 ●
水産系高校 ●
小樽海上技術学校●
小樽水産高校●
出典:相模湾沿岸域課題調査 海洋教育・環境教育の視点から
(平成7年3月)
原典:社団法人海洋産業研究会 資料
改訂:SOF海洋政策研究所
(平成14年7月)
●厚岸水産高校
函館水産高校●
●戸井高校
●青森県立八戸水産高校
●岩手県立久慈水産高校
●宮古海上技術学校
●岩手県立宮古水産高校
●岩手県立広田水産高校
●宮城県気仙沼向洋高校
●宮城県水産高校
秋田県立海洋技術高校●
山形県立加茂水産高校●
石川県立能都北辰高校●
富山県立海洋高校●
富山県立有磯高校●
福井県立小浜水産高校●
京都府立海洋高校●
海上保安学校●
兵庫県立香住高校●
新潟県立海洋高校●
●福島県立いわき海星高校
●栃木県立馬頭高校
●茨城県立海洋高校
●千葉県立銚子水産高校
●千葉県立勝浦高校
●館山海上技術学校
島根県立隠岐水産高校●
鳥取県立境水産高校●
島根県立浜田水産高校●
海上保安大学校●
海上保安大学校国際海洋政策研究センター★
山口県立水産高校●
水産大学校●
福岡県立水産高校●
唐津海上技術学校●
長崎県立長崎水産高校●
口之津海上技術学校●
熊本県立苓洋高校●
鹿児島県立鹿児島水産高校●
●海技大学校
●徳島県立水産高校
●香川県立多度津水産高校
●千葉県立安房水産高校
●神奈川県立三崎水産高校
●東京都立大島南高校
●清水海上技術短期大学校
●静岡県立焼津水産高校
●愛知県立三谷水産高校
●愛知県立内海高校
●三重県立水産高校
●高知県立高知海洋高校
●波方海上技術短期大学校
●沖縄海上技術大学校
●愛媛県立宇和島水産高校
●大分県立海洋科学高校
●宮崎県立宮崎海洋高校
●沖縄県立沖縄水産高校
●沖縄県立翔南高校
−小中高校教員の海洋・沿岸域に関する基礎知識の向上
−自治体、市民、NGO・NPO、漁業協同組合など地域社会との連携
−環境教育ビジネスモデルの構築
(教育ツールの紹介・販売、
プログラム提供とシステム構築、
フィールド案内・手続
の仲介・代行、教員に代わる専門家などの人材派遣・紹介、船舶などの手配、安全管理のシステム構築など)
次に、社会教育・生涯教育としてのあり方としては、次のことが言える。
−沿岸域管理における海洋・環境教育の位置付けの明確化
−地域特性を活かした海洋・環境市民講座等の開催
−交流、体験プログラムを通じたエコツーリズム・ブルーツーリズムの推進
−まちづくり・地域振興としての海洋・環境教育
−海洋・環境教育関連情報データベースと教材・資源マップの作成
−地域に根ざした海洋・環境教育ネットワークの構築
海洋国家日本を支えるのは国民の海に対する関心と知識、海洋及び沿岸域の開発・利用・保全に関する諸
活動への理解と支援であり、教育はその基盤を支えるものであるので、国家的課題として強化、拡充の必要性が
極めて高いことを指摘して結びとしたい。
(了)
本稿は、シップ・アンド・オーシャン財団発行の「21世紀におけるわが国の海洋ビジョンに関する調査研究報告書」
(平成14年3月)
のなかから表題と同一の報告内容を、当財団海洋政策研究所の
責任において大幅に圧縮、要約したうえ若干補筆したもので、原執筆者の校閲を経て掲載するものである。
150人のオピニオン ●
261
|教育|
韓国における海洋環境教育の現状と課題
諸 淙吉Je, Jong-Geel●韓国海洋研究院(KORDI)海洋環境・気候研究本部 責任研究員
Ship & Ocean Newsletter No.30
(2001年11月5日)
掲載
1.干拓事業による環境危機から始まった海洋環境教育
1990年代、3方を海に囲まれた韓国においては、新しい海洋時代が開いたといっても過言ではない。過去、10数
年の間には多くの大学で、海洋学科や水産資源学科などが開設され、海洋研究の基盤整備も大きく発展し、1996
年には海洋環境、港湾、水産、海洋警察等、国のすべての海洋業務を総括する
「海洋水産部」
(日本の省に相当)
が創設されたからである。しかし、不幸なことにこの時期は、その間潜在的に進行していた海洋環境や水産資源管
理に関する問題点がいっきに露出した時期でもある。その中で一番大きな問題となり、長い間に社会問題化とされ
たものは干拓による問題であった。
1980年代まではそれ程大きな干拓がなかったが、1980年代の後半から1990年には、韓国全体の干潟の約25%
が消失し、被害が大きくなるとともに、始華地区やSaemankum地区などの超大型干拓事業などが進められた。
国際的には、1992年のリオ会議以後、持続可能な利用とバランスある保全と開発に対する認識が広まった時期
であり、韓国は1990年代に、海洋と環境に関連した多くの国際条約に加入した。そういう時期に1994年には防潮
堤と干拓湖
(始華湖)
が完成された。ところが、始華干拓事業は2年も経たないうち
に湖は汚染され、深刻な社会問題として発展した。このような干拓に伴う問題点は、
国内外の動向を含めてさまざまなメディアを通じて国民に紹介されるところとなり、海
洋と海洋生態系についての重要性が認識され始めた。
“干潟は生きている”
と幾つ
かの有名なTVドキュメンタリーなどが、
このような認識を広めたのに大きく寄与したこ
とは言うまでもない。
このような雰囲気に、1998年に国連が決めた国際海洋年と1999年のラムサ−ル
条約の締約国協議、そして1999年以後今まで、全国的に激烈な論争が続いてい
るSaemankum干拓事業問題などが背景となって、海洋教育の必要性が認識され、
社会的にもそういう傾向となった。これをきっかけに韓国では、1990年代にやっと海
洋教育に対する必要性が自然な流れのように提起され、
さらに市民団体が独自に
海洋環境教育の必要性が提起され始め
た頃の1997年、韓国海洋研究院の研究
員はじめ一部の専門家らが国際海洋教
育ワークショップを開催した。
海洋環境教育を始めるようになり、政府が沿岸域管理法と湿地保全法を制定する
機運が醸成され、それが実現したわけである。
2.韓国の海洋環境教育の概括:環境部、海洋水産部、教育部の取り組み状況
韓国では、専門教育として海洋を教えている大学と一部の海洋水産関連の高校を除いては、今まで体系的な
海洋についての学校教育はなかった。1990年代半ばまでの社会教育及び環境教育の分野では、海洋は除外さ
れた分野だということができる。一部の団体では海洋の教育を行ったが、科学的探検と開拓を強調することが多
く、体系的な海洋環境教育というには不足だった。
始華湖の問題が社会的な問題となり、湿地の重要性が知られるようになってから民間環境団体によって、海洋
(主に干潟)
で体験教育または、生態系の体験ができる現場の訪問ということで教育が自然に広がり、一部の学
校と社会団体に拡大していった。
この時期に韓国海洋研究院では、沿岸統合管理に必要な関連当事者の環境教育を試験的に実施したこと
262 ●150人のオピニオン
があった。そして、1997年には海洋環境教育の国際ワークショップが韓国海洋研究院と梨花女子大学、自然史
博物館などの共同主催で開催された。さらに、1998年には緑色連合により、干潟の環境教育者養成のための訓
練課程が設けられ、
そして、
1999年に韓国海洋研究院に海洋環境教育者の養成のための訓練課程が開設され、
現在もこれは続いている。今までの3年間に、韓国海洋研究院の訓練課程を終了、または終了する予定者の民
間団体の教育指導者、一般学校の教師、大学の教授、大学生と大学院生、そして主婦などは、あわせて約140
数名になる。
1990年代半ばには、海岸を訪問した人々は大きく増え、それに海洋教育のために訪問したケースも毎年急激
に増加した。江華島南端の干潟の場合、1990年代始め頃にはほとんどなかった環境教育の現地視察者ともい
うべき訪問者が、2000年には約7,000名以上にもなった。
環境教育を一番積極的に支援する
「環境部」
はこのような民間団
体が主導する海洋環境教育を部分的に支援し、1998年に環境教
海洋環境教育
育の広報及び教育の国家戦略を策定した。翌年、
「海洋水産部」
海洋環境教育は生態観光、保
護区域管理と密接な関係があ
り、これらの有機的な関係は海
洋環境を保存するのに大きく寄
与することができる
は国家海洋環境保全の戦略のなかに海洋環境教育の分野
も含めた。そして、
「教育部」が主導する第7次教科課程の
プログラム
持続可能な管理
教育機会
改編内容中には、水産、海洋系高等学校だけを対象と
教育場所
する科目ではあるが初めて“海洋環境”
と
“海洋汚染”
観光地
という海洋環境教育関連の二つの科目が開設さ
れ、2002年より実施される計画である。
海洋生態観光
海洋保護地域
(MPA)
責任ある観光
3.今後の課題:海洋環境教育の質的な発展を
これまでに詳細に述べたような発展にもかかわらず、韓国の海洋環境教育分野では至急に解決しなければな
らない課題が多く残されている。まず、社会教育の比重が量的にも急速に大きくなったのに比べ、学校教育の正
規教科の課程では体系的な海洋に関する教科内容がかなり不足している。これは教材開発の努力と資格を整
えた教師の養成が不足していることであり、教育にたずさわる人でも海洋を理解する専門家が少ないこともその
原因である。このような問題は社会教育にも大きな違いはない。民間による環境及び社会団体の教育活動にも
かかわらず、海洋に対する理解が間違っていたり、教育内容を体系化することができず、現場の体験教育に偏っ
た傾向を見せている。
このことから、学習者のレベルに応じた教育内容を細分化して適切な教材を開発し、教師を養成し学校教育
と相互的な補完を追求すれば、比較的に短い時間内で多くの問題点を解決できると考えられる。体系的な海洋
環境教育は、生態観光(エコツーリズム)
、保護地域の管理、生態系の復元、沿岸管理などにおいて関連当事者
間のトラブルを解消し、事業の目標を理解するのに非常に有用であり、活用されるに違いない。
今まで韓国の海洋環境教育は、基礎よりも量的に発展したことから一部問題が生じたが、
“海洋とその環境が
私たちにとっても重要だ”
という認識を与え、政府が海洋環境保全に関して、
より積極的な関心を持たせることに
大きく寄与してきた。海洋に対する関心の増大は、政府が湿地保全法を策定することに大きな役割を果したことは
もちろんである。今後は、海洋環境教育の質的な発展を目指し、海洋環境保全がこれからも着実に行われ、
うま
く機能させるようにするという課題が残っている。
(了)
150人のオピニオン ●
263
|教育|
体験学習の宝庫
『海』
丸山一郎●日本海洋少年団関東地区連盟会長
Ship & Ocean Newsletter No.47
(2002年7月20日)
掲載
海は偉大な指導者である
子どもたちが色々な
「体験学習」
ができるようにとの配慮から、本年度より
『完全学校週5日制』
が実施されました。
私たち、
『海』
を活動の場とし、青少年の社会教育の一端に携わる者として非常にありがたいことだと思います。し
かしながら、宝の山「海」
は敬遠されているようです。
私が小学生の頃「臨海学校」が楽しみで、夏休みの宿題そっちのけで出発の日を心待ちしたように思います。
私の3人の子どもは皆成人しましたが、臨海学校の体験はなく、3人とも
「林間学校」でした。いつの頃からか、臨
海から林間に切り換わってしまい、最近の小学生は臨海学校を経験することがほとんどないようです。
臨海学校では海水浴はもちろんですが、波打ち際での探索、小さな魚を捉まえようとして、そのすばしっこい動
きに驚き、カニに手をはさまれべそをかき、イソギンチャクに触ってビックリした思い出が今でも鮮明に残っています。
う に
中学生の頃にはマテ貝の取り方を漁師さんに教わり、海胆の取り方を海女さんに教わって、一人で取り、皆に自
慢したことを思い出します。
小学校4年生の時、海洋少年団の団員募集の張り紙を見て、海洋少年団に入団しました。
夏の海辺でのキャンプ、体験航海、カッターでの帆走、手旗訓練、結索等色々楽しい体験ができることで、毎日
の宿題は忘れても訓練の準備は欠かしたことがありませんでした。
はんごう
中学生の頃は飯盒炊飯ができるようになり、火の管理を任され、小学生に火の起し方を伝授しました。高校生
のときは仲間と一緒に天気予報の短波放送を聞き、天気図を作りました。もちろん初めは聞くだけが精一杯で、
図表に書き込めず、テープに録音し何度も聞きながら苦労して1週間掛かりでやっと作り上げた、その時の満足感
は今でも忘れません。以来天気を気にするようになり、風、波、潮の流れ等、海を通しての体験、知識から、自然の
偉大さ、怖さを知りました。団員を卒業し、準指導者、指導者と活動を続けるうちに、
「海」
という大自然が、私にと
って非常に大きな指導者になりました。偉大な指導者「海」
に逆らうことはできませんが、魅力一杯の海を青少年
指導の手段として協力して貰っています。
体験しなければ判らない。そこに体験学習の価値がある
海洋少年団活動の中に
「カッター訓練」
があります。6人のクルーと艇長、艇指揮の8人が1チームとなり、長さ6m、
幅2mの手漕ぎ大型ボートを漕ぎます。小学生団員にとっては大きなボートに乗れる楽しい訓練、
しかし中学生、高
校生団員にとっては苦しく疲れ、その上厳しい訓練となります。手に豆ができ、破れても漕ぎ続けなければなりませ
かい
ん。艇長の「櫂上げ」の号令が天の声のように思える瞬間です。
カッターは今の世の中に時代遅れの代物かもしれません。カッターは右舷、左舷の3人のクルーが呼吸を合せ、
力を合わせて漕がぬと真直ぐ進みません。団員1人1人の力は皆違います。弱い者の分は他のクルーがカバーし
なければなりません。一旦カッターで海に出たら、時々休みは取っても、手の豆が破れても、帰港するまで漕ぎ続
けなければなりません。陸上と違い水の上です。潮に流され、風に押され、同じ所に留まっていることはありませ
ん。そのため、
どんなに疲れても、手が痛くても漕がねば帰れません。全員が最後まで力を合わせ、頑張り抜くこ
264 ●150人のオピニオン
とが協調性を養い、自分が疲れたと言って休めば他の人にその
分迷惑が掛かることを学びます。
また艇指揮、艇長にあたった者は目標の決定、障害物や周囲
の状況を見極め、安全を確保しなければなりません。それぞれ
が与えられた役目、仕事を全うすること、義務・責任感を学びます。
ここに言葉ではなく、体験しなければ判らない教育的価値がある
のです。グループ、集団の中で何をしなければいけないか、何を
すべきかを考えることで、社会生活をする上での必要なことを学
びます。これが青少年に対する社会教育ではないでしょうか。
海洋少年団の「カッター訓練」
。クルー全員が呼吸をあわせて漕がな
いと真っ直ぐ進まない。最後まで力をあわせて頑張ることは、子ども
たちにとってかけがえのない体験となる。
「危険だからダメ」
という教育の危険性
今、私たち大人に与えられた課題は、
『完全学校週5日制』で増えた休みに、子どもを塾へ行かせることだけで
はなく、将来社会生活に必要となる責任感、協調性を体験的に学ぶ機会を与えることではないでしょうか。それ
には海、山で自然を相手の体験、冒険にチャレンジする機会を提供することだと思います。自然、特に海は危険が
多いと思われがちですが、何が危険かを知り、対策を立てておけば何も恐れることはないのです。
様々な体験プログラムの実施場所による危険度の違いは、確かにあります。実施する場合の危険度は、陸上と
海上では非常に大きな差があります。海上の事故は即「生命の問題」
につながるからです。プログラムの企画に
際しては実施する場所、海辺や海上の状況を熟知している人、知識を持っている人から情報を入手し、十分に安
ライフジャケット、
レスキューボート、見張り等必要な準備・手配
全対策を立てる必要があります。バディーシステム※、
をすれば、たいていの事故は未然に防げるものです。
体験、発見の宝庫『海』が目の前にあるのです。手間を惜しまず、子どもたちに体験、経験する場を用意してあ
げませんか。自分自身が子どもの頃経験した、楽しい出来事を
「未来の大人」
に教えてあげようではありませんか。
新しい経験や発見をした子どもたちの眼が輝いた時、喜びを体一杯で表現した時、一緒に喜びましょう。
十分に対策を立て、失敗を恐れず、新しいことに果敢にチャレンジする勇気を持った子どもをたくさん世の中に
送り出すことこそ、大人が忘れてはならないことだと思います。自然の中でも一番の厳しさと優しさを持った海、体
験学習に最適な海、
もっともっと活用しませんか。大人と子どもが同じ事を経験・体験することで共通の話題がで
き、
コミュニケーションが弾む。普段の生活の中で「あれはダメ、
これもダメ」から
「あれをやってみたら、
これをやって
みないか」
に切り替えて行こうではありませんか。自己中心の行動の多いといわれる現在の子どもたちに「問いか
けながら、余裕を持って」体験の場を提供することが、大人に与えられた課題ではないでしょうか。
(了)
※ バディーシステム=スクーバダイビングなどの水中プログラムにおいて、安全確保のために、2人がペアー
(3人1チームの場合もある)
になり、プログラムが終了するまで行動を共にすることを条件
(義務)
とする方式。
150人のオピニオン ●
265
|教育|
無知が海を壊す!
∼海の現状と
「海の環境教育」
の必要性∼
ジャックT.モイヤー●海洋生物学者
Ship & Ocean Newsletter No.38
(2002年3月5日)
掲載
なぜサンゴ礁の破壊は止まないのか
私たちの大切な海が今、死にかけている。このことは確かな事実でありながら、政府や企業に関わる人ですら
正しく理解していない。もっとも、多くは、そのことすら認識できずにいる。
海は、
この地球の表面の70%以上を覆っている。そして、
この地球に暮らす生命の多様性の大部分を担っている。
「海の熱帯雨林」
とも呼ばれるサンゴ礁一つを取っても、少なくとも100万種以上もの生物の命を支えていると、英
国・ケンブリッジにある国連環境計画のモニタリング・センター所属の科学者は指摘している。そして、それほど多くの
生命のみなもとになっているサンゴ礁が、いま、世界中で死滅の危機に瀕している。あと8年で、現在残っているサン
ゴ礁の40%が失われるとの予測もある。さらに2050年までに、サンゴ礁は絶滅してしまうかもしれないというのだ。
海岸線の破壊にかけては、
日本は世界のリーダーといえる。日本ではサンゴ礁のおよそ70%が、特に1975年か
ら85年の間にかけて、開発によって破壊されてしまった。水揚げのための巨大な港、マリーナ、湾岸道路、小さな
離島の飛行場などの建設によって、
これまでに膨大な広さの浅瀬の海が失われてきた。このほかにも、人間による
誤った使い方によって海の環境が破壊されている例はたくさんある。水産資源の乱獲や、海の生物を痛めつけ
る違法な漁法、資源管理のためのルールの欠如などがそうである。
このようなことが起こる背景には、大まかに言うと次の二つの原因がある。まず一つには、建設・土木工事は
「お金」
になるということ。そして二つ目は、
「無知」
ということ。海という環境の繊細な構造について、理解している
人はあまりに少ない。では、一体どうすればこの方向を転換し、海を元の健康な状態へと向かわせることができる
のだろうか。その答えは、
まず現状に
「気付く」
ということ、そして海の教育活動にある。
自然環境に脅威を与えてしまうような政治的決断を行っている私たちのリーダーも、すべてが「悪い人」
という訳
ではない。彼らはただ、自然、特に海に関する正しい知識がないだけに過ぎない。アメリカの上院議員・マッケイン
氏は、現在のジョージ・ブッシュ大統領に対抗する大統領予備選挙の際に、
「私は地球温暖化を信じない」
と発言
した。少しでも環境に対する関心や知識がある人であれば、その発言が「私はスギ花粉がアレルギーを起こして
いるとは思えない」
というのと同じくらい無知で、ばかげた発言であることはおわかりだろう。
とにかく、何らかの形での教育活動が必要である。私は44年前にこの考えにたどり着き、以来、海の教育活動
に関わり続けている。大人は上記の議員のように事実を認めず、一つの考えに固執しがちであるため、
より若い
世代へ向けた教育活動が大切だということがわかってきた。21世紀は彼らの時代でもある。現在私が関わってい
る教育プログラムは、小学校高学年から高校生の子どもたちを対象にしているものがほとんどである。
環境教育という考えをとりいれたスクール
私は、子どもたちを対象にした教育プログラムにおいて、人間が海を乱用している現状や、自然破壊の様子に
焦点を当てるべきではないと考えている。社会が本当に必要としているものが何か、またそれが経済や流通、軍
事などと、
どのように関わっているのか。さらに、自然にストレスを与えている様々な物事が、実は何らかの形で必
要とされている、
という現実について、大学以前の教育課程にある子どもたちには充分に理解することはできない。
その代わりに、私たちのプログラムでは次の三つのメッセージを伝えることを大切にしている。
「1. 海は楽しい!」
「
、2. 海は素晴らしい!」
「
、3. 海は大切だ!」
。私たちのプログラムでは、以上三つのメッセージ
を中心に置いた枠組みの中で、生物の識別や生態、海洋学全般に関するたくさんの科学的知識が、楽しく学べ
266 ●150人のオピニオン
モイヤー氏たちのスクールでは、実際に海の中に潜り、海に暮らす様々な生物
との関わりを持ちながら、かれらの行動や生態などについて学ぶ。しかしながら、
参加者には、
どんな生物に対しても触れたり手にとったりすることは禁じている。
自然に対する
「ローインパクト」の姿勢が、スクールでは堅く守られている。スク
ールを支えるボランティア・スタッフの数は不足気味であるとのこと。また
「参加
者の安全を確保することに最善を尽くす」
という趣旨から、厳格なトレーニング・
プログラムを用意し、それを習得した人のみ、スタッフとして迎え入れられるとい
う。ボランティア情報に関しては、以下のサイトを参考にして欲しい。
(http://www5.ocn.ne.jp/∼ocean-f/)
るように構成されている。結果として、参加した子どもたちは成長すると、それぞれ何らかの形で海の環境を守ろ
うという気持ちを抱くようになっている。
世の中にはいくつもの「海の自然教育」
と名の付くプログラムがあるが、それらはすべて、上記の「海は楽しい」
と
いう要素にまずポイントを置いている。とにかくプログラムが楽しくなければ参加者も集まらないからだ。そして、そ
れらの中には魚釣りやボート漕ぎ、サーフィン、シーカヤックなど、いわゆる
「マリン・スポーツ」
を中心に行っているもの
が少なくない。もちろん、それが環境に配慮した形で行っているものである以上、反対する気持ちはない
(実際に
はそうでない場合が多い)
。しかし、マリン・スポーツを中心にしたプログラムであっても、環境教育的な要素がど
こかに含まれるべきだと思う。
私たちの行うプログラムの「楽しい」部分は、
まず実際に海の中に潜り、クマノミやイソギンチャクからイルカまで、
海に暮らす様々な生物との関わりを持つこと、そしてそれらの生物の行動や生態、
また彼らが暮らす世界について
学ぶことにある。しかしながら、参加者には、
どんな生物に対しても触れたり手にとったりすることは禁じている。例
えばナマコのお腹の下に共生しているエビを観察したい時などは、インストラクターのみがそれを手に取って生徒
たちに見せ、説明を終えたところですぐに元の場所に返すことが原則である。さらに、
「触らない」
というルールをよ
り確実に守るため、参加者は手袋をはめてはいけないことになっている。何にも触らなければ、
トゲが刺さったり、
何かに噛み付かれることもない。そして海の自然に対して圧力をかけてしまう心配もない訳だ。
これまでの私の経験では、私たちが行っているようなプログラムに対し、多くの親は反対する。なぜなら本物の
「ウツボ」や「オニダルマオコゼ」がいる海で、実際に泳ぐからだ。そして、次のような意見を述べるのが普通だ。
「泳
ぎたいのなら、プールへ行けばいいのです。魚を観たければ、水族館があるではないですか」
もちろん数ある水族館の中には、教育的価値のある素晴らしいものも幾つかはある。しかし残念ながら、それら
は決して本物の海と同じではない。海を、将来の世代が必要とする形で残すためには、少なくともある程度、その
本物の姿を知ることが必要だ。そのために私たちのプログラムが選んだ場所は、2000年の噴火以前の三宅島、
御蔵島、そして2001年に加わった八丈島と伊是名島(サンゴ礁の広がる南西諸島の島)
だ。今年、私たちは伊
豆大島、式根島、御蔵島、慶良間諸島、佐渡島でプログラムを行うことにしている。
安全管理とローインパクト
さて、私たちがプログラムを行う上で一番に気を配るのは「安全管理」である。とにかく、事故が起きてはならな
い。そのためにも、初日の午前中にはまず自らの安全を確保するためのトレーニングが組まれている。その際、良い
トレーニングに必要とされるのが、良いスタッフ陣である。スタッフはダイブ・マスター以上のレベルのトレーニングを
受けていることが要求される。特にライフ・セービング、
レスキューの技術は不可欠である。ボランティア・スタッフの
数は、
どの自然教育に関してもまだ不足気味であるし、海の教育活動では特にそうだと言える。私たちはスタッフ
のトレーニング・プログラムを用意し、それを習得した人のみ、スタッフとして迎え入れるようにしている。
このプログラムでは、参加者の上限は20名。そして海に入る時には、参加者はさらに小さなグループに分けられ
る。さらに一人一人が「バディー」
と呼ばれる相手と組んでいる。つまり、お互いに相手の安全を確認する責任が
あるという仕組みだ。もちろん、スタッフは最終的な責任を負う立場にあるわけだが、バディーシステムはそこにさら
なる安全性を追加することになる。複数のスタッフは、参加者の様子を見ることに集中する。ともかく、参加者の安
150人のオピニオン ●
267
無知が海を壊す!
∼海の現状と
「海の環境教育」
の必要性∼
全を確保することに最善を尽くしているのだ。
参加者は、最初のステップとして、観察エリアの中で頻繁に見られる種を識別できるようになる。主に魚だが、無脊
椎動物の仲間、サンゴについても学ぶ。例えば魚について、
まずその種類がわかり、成長段階や性別がわかるよう
になると、今度は餌を食べるときの様子、繁殖行動、なわばりを守る行動、捕食関係、
さらにはコミュニケーションのた
めのディスプレイ
(相手に自分の姿を誇示する様子)
などに注目して観察を行う。また御蔵島で野生のイルカと一緒に
泳ぐ時には、人間とイルカの関係に注目するのではなく、イルカを、群れで暮らす野生動物
(海生哺乳類)
として理解
するようにする。イルカの社会システムや餌の捕り方、母子関係、そしてコミュニケーションに関するまでを、できる限り
学んで行く。私たちはイルカに近寄り、互いに関わり合うことによって彼らの生態を学んでいる。しかし、そういった関
わり合いも、
「ローインパクト」
という原則の下に行うことが大切である。私たちは陸上であれ海の中であれ、野生生物
との出会いの場において、相手側に与えるインパクトをできる限り少なくすることに力を注いでいる。
スクール最後の夜はバーベキューだ。この時は、できるだけ地元の素材を使うようにしている。自分たちで海か
ら捕ってきたものはない。その後は最後のまとめの時間となり、参加者一人一人がそれぞれの感想を述べる。新
しい友達との別れが近付き、涙を見せる参加者もいる。感情が深まる。学ぶことも、仲間との付き合いも、密度の
濃い5日間を過ごしてきたからだ。
誤った教育が、自然破壊を生む
以前、南西諸島の無人島で行われていた「海の環境教育プログラム」
を見たことがある。そこでは子どもたち
が毎日ほとんどの時間を、
「何かを捕る」
ことに費やしていた。それもただ楽しむために捕るのであって、捕ったもの
のほとんどは後で捨ててしまうのだった。最終日、近くの島の漁師が、
「追い込み網」の方法を子どもたちに教えて
いた。それは、サンゴを壊し、食べられる魚もそうでない魚も区別することなく捕まえてしまう方法でもある。子ども
たちはプログラムの期間中、マスクを通して毎日のように眺めていたリーフの魚を、いとも簡単に捕まえていた。その
魚が、
リーフの社会を作っている大切な一員であるということにまったく気付かない様子だった。これでは環境教
育とは言えない。それどころか、不必要な自然破壊である。
私たちがバーベキューに必要とする魚や野菜は、すでに地元の方々が自然から手に入れているものだ。それ以
上に、
自然に対して負荷をかける必要があるだろうか。もう一度繰り返すが、
自然教育のプログラムは、
自然に対し
て「ローインパクト」の姿勢を守るべきだ。持ち帰って良いのはゴミだけである。海に棲む生物を捕まえたり、一晩
バケツに入れてみたり、お土産として持ち帰ったりしてはならない。そして、海を泳ぐ時には手袋をはめないようにし、
海の中を傷つけることのないようにしたい。
私たちの大切な海が今、死にかけている。海の教育プログラムはこの事実をしっかりと認識し、あらゆる破壊行
為をなくすよう努力しなくてはならない。
(了)
自分たちが見たり学んだりしたことに夢中になる子供た
ち。食事の時間前後の自由時間は、ほとんどが海の生
物の図鑑を調べたり、観察した生物のリストを作ること
に費やされる。食事中の会話も、その日に体験したこと
がまず話題になる。
「あの大きなエイを見た?」
「あのクマ
ノミは、卵を抱いていたね!」
「砂浜のゴミが、ひどかった
なあ」
。夕食後には講義の時間が組まれて、図鑑を使っ
てその日に見た生物を識別し、観察した様々な生物の
行動についての説明が加えられる。
268 ●150人のオピニオン
|教育|
干潟の生きものと遊ぶ
綿末しのぶ●であいねっとわーくともだち
Ship & Ocean Newsletter No.20
(2001年6月5日)
掲載
杵築城より望む八坂川河口干潟
私の住む大分県杵築市は九州の国東半島の付け根にあり、市の南東には八坂川、高山川が流れ込む守江
湾があり、カブトガニが棲息する広大な干潟が広がっています。
私たちの「であいねっとわーくともだち」では、杵築の自然、歴史、文化を見なおし、親子で遊び、感動しよう! を
モットーに活動していますが、なかでも守江湾の干潟は私たちの絶好の遊び場になっています。
春は潮干狩り。97年にあった大洪水以来、ハマグリがたくさん湧き、ハマグリの潮干狩りということで、市民だけ
でなく大分県下からも大勢の人が来るようになりました。貝が専門の先生に、
ここのハマグリはほとんど絶滅した
貝合わせに使われていた日本の在来種と教えていただき、一同びっくり。その時は、ハマグリを始め、オキシジミ、
カガミガイ、
ソトオリ、イチョウシラトリなど20種を超える貝を見つけました。
夏はカブトガニの産卵観察。産卵は7月から9月の大潮の満潮の前後2時間で、杵築でもカブトガニはめっきり少
なくなり、来ないときも多いのですが、そんなとき子どもたちは、アカテガニやベンケイガニの産卵を見つけたり、星座
や流星観測をしたり、カブトガニの折り紙を折ったり、カブトガニを招く歌や踊りを創って遊んでいます。産卵に来た
カブトガニを見つけたときは大騒ぎです。写真を撮ったり、岸の上からエールを送ったり、つがいが移動するたび
に右に左に……、来年も来てねと見送ります。
夏にはカニの観察と磯遊びもあります。カニの観察は、八坂川の河口干潟でハクセンシオマネキ、
コメツキガニ、
チゴガニ、ヤマトオサガニなどいつでも観察できます。ハクセンの名前の由来とか、なぜ右が大きいのと左が大き
いのがいるのとか、横でなく縦にも走るマメコブシがいるとか、子どもたちの興味は尽きません。磯遊びは守江湾
の美濃崎漁港に隣接している浜が最適で、
ヒザラガイ、アメフラシ、カイメン、マツカサガイ、
タマキビ、イシダタミ、ムラ
サキイガイなど、たくさんの海の生き物たちに出会いました。カニばかり追いかけている子や石をひっくり返して潮
溜まりの魚を採る子、岩についたヒザラガイやマツカサガイを採ろうと格闘する子などなど、潮が満ちてくると又違っ
た磯の姿がみえてつい時間を忘れてしまいます。
秋はカブトガニの1齢幼生の観察会。満潮の夜、海面を浮いたり沈んだり漂う1cmに満たないかわいいカブトガ
ニの赤ちゃんに出会えます。すくってサンプル瓶に入れると、
くるくるとまわりながら浮き沈みする半透明の身体に歓
声があがります。
毎年、干潟で遊んでいると、大水が出る度に干潟の砂質が変わり、そこに棲んでい
る生き物たちが替わるのがわかります。昨年はまったくいなかったイボキサゴがたくさん
見つかったり、カブトガニの幼生がほとんどいなくなったり、思いがけないところで元気
に棲息している幼生に逢えたりと変化に富んで、飽きることはありません。
守江湾の中には堤防ができたり、漁港が整備されたりと構造物ができ、アマモなど
湾内の海藻類が激減してしまいました。それに呼応するようにカブトガニが減り、エビや
アサリが採れなくなりました。今では沖の刺し網にも魚が掛からなくなったと漁師が嘆
いています。私たちが活動を始めて5年の間にもいつとは知らされず、遊び場にしてい
た3カ所の海岸がなくなってしまいました。しかし、干潟の生き物たちが減ってきている
とはいえ干潟で冬を越す鳥の大群をみると、杵築もまだまだ捨てたものではないなと思
います。今年も杵築の素敵な干潟や海がなくなってしまう前に、親子でしっかり遊んで
おきます。杵築をお通りの節はぜひご連絡ください。楽しい干潟をご案内します(了)
。
かつては磯遊びでにぎわった美濃崎の
海岸。現在はごらんのような風景となっ
ており、もう磯遊びはできなくなった。
150人のオピニオン ●
269
|教育|
「イルカの学校」
の活動を通じて
∼メコン川のイルカと環境保護への提言∼
岩重慶一●HAB研究所所長、東京水産大学地域共同研究センター客員教授、東京大学大学院農学生命科学研究科研究員
Ship & Ocean Newsletter No.35
(2002年1月20日)
掲載
なぜ私たちが、カンボジアでイルカ保護センターを設立したか
1991年の春、私は信託銀行に務めながら、少年時代に鹿児島の錦江湾で一緒に遊んだイルカを思い、今の
子どもたちにも見せたいと、志を同じくする高校の同窓生たちと
「HAB21イルカ研究会」
を設立(HABは、Human
Animal Bond∼人と動物の絆∼の略、21は二一世紀へ向けての意味)
した。
私たちは横浜や鹿児島や御蔵島で「イルカの学校」
を開き、イルカの研究者や水族館の専門家に学び、子ど
もたちと御蔵島のイルカと泳ぎ楽しみながら、人とイルカの関わりを勉強してきた。そして、イルカの棲む自然を守り
ながらの村づくりと観光を訴え続けてきた。こうして、少しずつ
「HAB21」の活動範囲を広げるうち、私たちはカンボ
ジアのメコン川に棲息する
「イラワジイルカ」の存在を知った。このイルカは長引く内戦でまさに絶滅の危機に瀕し
ていた。しかも研究どころか保護活動などだれも手をつけていなかった。私は、内戦でプノンペンの町でも銃撃戦
がまだある1996年から現地調査を開始した。
私たちは、集会を開き、イルカ保護の大切さを現地の人に伝えた。海外の人にイルカを見せて観光につなげて
いけば収入に繋がり、御蔵島と同様に、メコンの村おこしに役立ち、メコン川の自然環境保存のシンボルになるこ
となどを訴えたのだ。
97年末には、現地で国際イルカ会議を開きカンピー地区を保護区に設定することに成功。その後、航行する船
の交通整理や密漁を取り締るためパトロールボートを提供。ポスター看板の製作から設置まで現地の人とともに
働いた。私は、
ダイナマイト漁法禁止や密漁防止のキャンペーンとして絵本「おでこちゃんとイルカの願い」
を出版、
40才を過ぎて初めてイルカと泳いで感じたことや、毎年汚くなる海を見て悲しくなったことなどを好きなイラストで表
現して描いた
(なお、
この本を出版した後、
「人とイルカの関わり」
について科学的に勉強するため、私は東京水産
大学大学院に社会人入学し、資源管理学の修士号を取得した。現在も、東京大学大学院農学生命科学研究
科の研究員としても研究を続けている)
。
そして、2001年6月30日、メコン川に面するクラチェに、イルカの学校「HAB21センター」
を設立した。センターの完
成でいよいよ具体的な行動プログラム
「2002モイモイ
(カンボジア語で「ゆっくり」の意)
プロジェクト」が始まる。
これからの環境保護には、経済活動、地域活性化とのリンクが必要
わが国は高度経済成長下、生産性の向上と拡大再生産によって経済発展をしたが、バブル崩壊後は株も低
迷、
「失われた10年」
といわれるように、金融改革と不良債権の問題はいまだにその処理が停滞し、経済は最悪
のデフレ状況を呈している。一方、環境を見渡すと、ゴミ戦争、複合汚染、内分泌撹乱物質、狂牛病、酸性雨、
温暖化、有機スズ化合物、ホルマリン、抗生物質、有機塩素化合物などによる様々な難問が山積している。
絶滅した「トキ」や「イルカ」
を例にあげるまでもなく、野生動物の累代繁殖は動物園や水族館での飼育だけで
は限界があり難しい。野外での飼育であっても、飼育場所だけの環境保全を論じても足りない。その地域全体
環境を対象にしなければならない。私は、イルカを守るためにも各自が所属しているフィールドから出て行って地域
の人たちと力を合わせて、皆が良かったと喜ぶことを考え出し、
しかも実践しなければならないと考える。
その実践として、私は自ら銀行に勤めながら仲間たちと行動しHAB21市民グループを設立、地域活性化の市
民提言者の一人として動いてきた。その活動の内容は、一言でいえば、子どもたちの教育をベースとした「人と生
270 ●150人のオピニオン
左)
カンボジアの「イルカ学校」の前で。左から4人目が筆者
中)
カンピー地区保護区のモニュメント
右)
カンボジアで保護されているイラワジイルカ
きものとの共存共栄」
だ。
多くの場合、生産者側からみて経済価値が高いものは、自然環境保全に反することがほとんど。イルカも水質
汚染問題も利害が相反する漁業者との対立がある。しかし、自然を守ることが経済的な利益をもたらすことを実
証してみせれば、自然を壊している人たち、つまり開発側を説得することは十分可能である。私が大学院で書い
た論文は、私の考えと活動を理論的に証明することを目的に、信託銀行員として公益信託の考え方もイルカと自
然保護に取り入れて、地域振興モデルをつくり地域の経済活動に役立てるというものだ。イルカの保護には、地域
の活性化と経済的利益への取り組みが必要なのである。
自然保護の根底に必要なのは「他の生命への思いやり」
「がむしゃらな生産性向上の前には
『いたわりの気持』
など邪魔なもので、その結果が環境破壊、自然環境の悪
化につながった」
と指摘されている。確かにその通りで、
メコン川イルカや自然の保護の前に、人間に対しても自然に
対しても
「お互い様」
という思いやりの心が必要だと思う。自然保護の根底には、
「他の生命への思いやり」がなけれ
ばならない。そして、
このような考えを実践したからこそ、今回クラチェに長年の夢が実現できたのだと思っている。
なお、HAB21の活動に対して、横浜市から国際環境市民活動賞、神奈川県から地球環境賞が贈られている。
さらに今回、カンボジア政府から国際環境貢献賞とフンセン首相から感謝状も贈られた。センターの設立には私
も資金提供しているが、活動を支えてくれた日本とカンボジアのイルカ大好き仲間の情熱と、イルカの専門家たち
が指針を示してくれたからと感謝している。
カンボジアでこれから取り組みたいのは、メコン川を丸ごと
「水族博物館」のように活用し、その魅力を世界の
人に再発見してもらおうという
「イルカ保護区リバーミュージアム計画」だ。HABセンターを最初の現地情報拠点と
して充実させ、クラチェ流域を対象に、メコン川の持つ価値を共有し、
ともに学べるシステムづくりを目指し、地区ご
とに情報収集・提供を行うITを駆使した現地情報拠点を順次整備していきたい。道は長いが、
「モイモイ」
と歩き
続けていきたいと思っている。私は昨春、銀行を辞めている。これまで以上に自然保護のボランティアに専念する
ためだ。環境・イルカのアセス作りやエコツーリズム興しの戦略をより具体的に練りメコン川の人々と教育という原
点を忘れず、私たちが作った
「イルカの学校」でカンボジアと日本の子どもたちの人間づくりに専念したいと思う。
なお、1月末には、私の執筆した「ぼくたちは、イルカの学校を作った」
という本が出版される。この本はこれまで
多くの仲間たちとともに多くを学び実践してきた小さな市民の環境とイルカへの提言書だが、私は「心の豊かさは
お金で買えない」
と
「人の健康のためには自然が必要」
を念頭にこれからも、
「人とイルカの共存共栄」
を目指して
活動を続けていきたい。
(了)
●HAB21「イルカの学校」ホームページ:http://www.dab.hi-ho.ne.jp/hab21/
【追記】
東京水産大学は平成15年10月に東京商船大学と統合し、東京海洋大学となっている。
150人のオピニオン ●
271
|教育|
海の大切さを子供たちに伝える
∼ペットボトルの潜水艇が教えてくれた、
海洋教育の可能性∼
中西理香子●(財)神戸国際観光コンベンション協会見本市事業部推進課長
Ship & Ocean Newsletter No.11
(2001年1月20日)
掲載
海の大切さをどのように子供たちに伝えていくべきか
昨年11月に開催した国際コンベンション
「テクノ・オーシャン」では、初の試みとして青少年向け事業に取り組ん
だ。企画を進める中で海の教育について考えたことを述べたい。
当初、教育現場の先生方とタイアップして事業ができればと思い、協力をお願いにあがった。事業の趣旨は理
解いただいたのだが、そこで話が止まってしまった。理由は、
「授業の中で海を総合的に教えるカリキュラムや機会
がない」
「
、自分も海のことをほとんど知らないので、中途半端な知識で子供に教えられない」等。
わが身を振り返っても、子供時代、海について、学校でも家庭でも学んだ記憶がなく、
日常的に海と遊び、慣れ
親しんだ経験もない。海はどんどん私たちから遠い存在になっていて、海の大切さを日常的に伝える文化やシス
テムが、今の日本では失われているのでないか、
と思いをめぐらせた。
確かに海の教育は難しい。
「海」
と一言でいっても関連分野は幅広く、オールラウンドに理解することは至難の業
だ。先生が個々奮闘して情報を集め、知識を深め、子供たちに教えるテーマとしては、かなりやっかいなものだろ
う。では、学校教育にすべてを委ねるのではなく、社会教育と両輪で、今後どのように教育システムをつくっていけ
ばいいのだろうか。
まずは、学校の先生に海への関心を持ってもらい、情報収集や教材づくりがスムーズに進むようサポートするこ
と。子供たちには、感動を覚える体験の場を提供し、素朴な疑問に答えていくこと。これら両面に、まずは取り組
む必要があるのではないか。そのためには、海の専門家と教育の専門家とのパートナーシップが大切であるが、
海の教育においてはやはり、海の専門家の側における理解と参画がどうしても必要不可欠であろう。
夢と感動を、わかりやすく、温かく、身近なところから
さて、今回の「テクノ・オーシャン」青少年向け事業から、二つの出来事をご紹介したい。
第一に、高校生向け海洋科学技術セミナー。工業高校の生徒約500名に、海洋科学技術センターの「しんか
い6500」の元パイロット・田代省三氏からお話をいただいた。田代氏が地元の神戸商船大卒ということもあり「
、身
近な先輩の話」
として耳を傾けたことだろう。未知の世界である深海の映像や、データに基づいたわかりやすく熱
心な話ぶりに、最初はざわついていた高校生たちもいつしか引き込まれ、皆、真剣に聞き入っていた。中身と伝え
方次第で、若い世代の興味や感動を引き出す可能性は十二分にあると感動を覚えながら確信した。
もうひとつは、科学実験教室終了後に、小2の女の子から当日の指導教官宛てに届いたeメール。この科学実
験教室は、大阪府立大の協力で先生や学生さんが指導にあたり、ペットボトルを使って潜水艇を工作し船の浮き
沈みの原理をわかりやすく教える、
というものであった。そのメールの中で、実験装置に関する素朴な質問のあと、
「はかせがせつめいしているいみはわからなかったけど、
じっけんをやってみたらだいたいわ
かりました」
と頼もしい一文。科学者の卵は、
こうして温かく育てていく環境づくりから生まれ
るのだ、
と実感した。
こういうやりとりに触れていると、海の教育について体系的なシステム構築が必要とされる一方
で、
まずは手近なこと、簡単なことから、すぐにでも取り組んでいくことの大切さをひしひしと感じさ
「テクノ・オーシャン」の中で開催された科学
実験教室。ペットボトルの潜水艇を工作す
る子供たち。この中に、将来の海洋学者
がいるのかもしれない。
272 ●150人のオピニオン
せられた。われわれも今後、
イベントを通して海の教育に取り組みたいが、その際に、温かい視
点、幅広い視点からのアプローチ、そしてなによりも地道な努力を忘れないようにしたい。
(了)
|教育|
海岸での体験学習に向けて
堀口瑞穂●edutainments.net 代表、東海大学海洋学部研修員
Ship & Ocean Newsletter No.25
(2001年8月20日)
掲載
近年、体感する<体験学習>が盛んに行われています。しかし海岸での体験学習の事例は他のフィールドで
のそれに比べあまり聞きません。具体的なプログラムが少ないこと、
コーディネートする人材が絶対的に足りないこ
と、また海岸での体験学習は危険というイメージが強いことなどが普及しにくい原因として聞かれます。それでは
具体的なプログラムが準備されていなくては効果的な体験学習はできないのでしょうか。また、
コーディネーターを
見つけることはそれほど難しいのでしょうか。そして海岸での体験学習は本当に危険なのでしょうか。ライフセービ
ング活動や海に暮らす人々との交流を通して得られた経験を元に考えてみました。
1)
プログラム例∼オリジナル海岸マップ作成||海岸でのプログラムの一つとして、マッピングをお勧めします。事
前に集めておいた海岸についての情報を元に、実際に歩きながら観察し、自分の地図に現地での情報を書き込
んでいきます。興味の対象は一人ひとり異なるかもしれませんが、教室に帰った時、異なる対象をレイヤーとして重
ねる事で、新しい発見が生まれます。生物の生息分布と海岸の地形や地質の分布を重ねることで、それぞれの
生息環境が見えてきます。
2)
コーディネーター∼地元民への協力要請||海岸線には必ず漁業者がおり、青年団や観光協会も存在し、最
近では環境保護活動をしている団体も多く、大抵の地域には郷土史家がいます。これらの方々を探すことはそれ
ほど難しいことではなく、問題は目的に合った協力者を得ることです。より具体的な協力を依頼する方が協力する
側も情報や資料を提供しやすい場合が多いです。
3)
リスクマネジメント∼リスクアセスメント||自然環境下で活動する際、
リスクマネジメントは非常に重要な概
念です。自然環境下での活動が危ないのではなく、危険を認識する能力を持たずに活動することが危ないので
す。逆を言えば、危険に対しての教育を受けていれば、大抵の危険は回避することが可能なのです。それには、
自然環境への基礎的な知識に基づき、状況を客観的に捉え、最も安全にトラブルを回避する方法を導き、実際の
行動に移すための、個々の観察力・想像力・決断力・行動力とお互いの協力が欠かせません。
そこで、海岸での体験学習としてリスクアセスメントをお勧めします。自然環境下での様々なトラブルに対し、チー
ムで協力し安全に回避する方法を考え検証するリスクアセスメントは海岸に限らず、様々なフィールドや日常のシー
ンでも有効な経験となります。
また、マッピングとリスクアセスメントを組み合わせたプログラムも効果的です。事前の情報収集を元に海岸マッ
プを作り、その中にハザードレイヤーを設けることで、アセスメントとマッピングの二つのプログラムがつながり、学習
に深みを与えます。
4)
まずは大人が海岸線へ||海岸線は多様な要素が絡み合い形成されている特殊な環境です。海と陸が出会
う場所として、人を魅了してやみません。それゆえ海岸は体験学習のフィールドとして非常に魅力的な場所です。
海岸での安全な楽しみ方を体験することは、
フィールドを問わず、自然環境との関わりについて学ぶための素地に
なると考えます。海岸を体験学習のフィールドとして選ぶために、
まずは大人が海岸線を訪れ、海岸に打ち寄せる
知の波を肌で感じることで、
より実践的な体験学習の時間を子供たちに提供できるはずです(了)
。
150人のオピニオン ●
273
|教育|
着衣水泳が教える水中護身術
長崎宏子●スポーツコンサルタント、ベビーアクアティクス主宰、元五輪代表競泳選手
Ship & Ocean Newsletter No.47
(2002年7月20日)
掲載
例え、オリンピックスイマーでも……
もうかれこれ二十年も前のことになる。東京・代々木のオリンピックプールでおぼれかけたのは。ほんの数時間
前には、同じプールで日本新記録を出し、世界のトップとなり、MVPの表彰を受けた直後だった。
水泳界での
『おめでとう』
は、胴上げではなくプールへドボンと放り投げられること。
チームメイトから受けるこの残酷な祝福。その時私はすでに長袖長ズボンのトレーニングウエアに着替えていた
ので、
「ぬれたくない!」
とかなり抵抗はしたが、
まったくの無駄だった。
プール。なれた場のはず。なのに、衣類を身につけているだけで、わが身をコントロールできない自分に気付く。
水を吸って重くなった衣類は、私の体にまとわりつき、そして体は水の底へと引きずり込まれる感じ。水深二メート
ル。もちろん底に足はつかない。呼吸をしようと水面へ浮かびあがろうとすればするほど、その引力は強くなるよう
に思えた。もがきにもがいて、水をガブリと飲んでしまい、水中でむせた。
プールサイドで笑うチームメイトが悪魔のように見えた。
「私はこのまま死んでしまうかもしれない」
たった数秒間だ
けそんなことを考えた。
その時プールサイドから聞こえた声。
「ヒロコ、靴をぬげ!」
。そう、私が“おぼれる”原因になっていたのは、水分
を含んだ衣類の重みもさることながら、靴をはいていたことが大きかったのだ。
人間の足は水中で魚の尾びれのような役割を果たしている。水中を前進するとき、人間が陸上生活では見せ
ることのない動きが生まれる。水の流れに逆らわないしなやかな動き。その足ひれが靴に覆われてしまうだけで、
例えオリンピックスイマーでも泳力を失う。おぼれてしまう。
靴をぬいで立ち泳ぎ。やっとの思いで水面に浮かび上がってきた私を、笑顔というよりは大笑いのチームメイト
たちが迎え、プールサイドへ引き上げてくれた。ゲホゲホッとむせる私の頭を、皆、ポンポン叩いて
「おめでとう!」
。し
かしながら私の心に
「おめでたい気持ち」
に浸る余裕などまったくなくなっていた。内心、声を上げて大泣きしたか
った。怖かった。
『祝福のドボン』がもたらした水への恐怖心は、その後も私の心の奥底にいつも潜んでいる。絶対に、洋服など
着て水に入るものではない、
と。
水難事故から身を守るための水泳、それが着衣水泳
現在、東京・四谷で開校している
『ベビーアクアティクス』
という乳幼児とその親御さん向けの水泳教室では、二
歳半になり、水中に潜るレッスンをマスターしたベビーに限って、着衣水泳を経験してもらっている。カリキュラムの中
には、万が一の水難事故防止のためのレッスン、例えば飛びこんだら体の向きを180度回転させ、プールサイドに
もどり、そこにつかまり、自力で這い上がる、
というレッスンなどが組みこまれている。プールで週に一度親御さんと
遊んでいるだけで、自分の体には浮力が作用していることを無意識の内に覚え、
もぐっても浮力に任せて水面まで
浮かび上がってくればそこには空気があって、呼吸ができるのだということを知る。が、それらのレッスンはすべて
水着姿でのこと。
万が一の水難事故は、水着を着ていないときに起きることが多い。だからこそ、幼いうちに洋服を着たまま水に
274 ●150人のオピニオン
「長女との初めての着衣水泳の写真で
す」
と長崎さん。水と自然に戯れるお
子さんに新鮮な驚きを受けたことが、乳
幼児のためのアクアティクス教室をは
じめるきっかけになったとか。
入ったときの感覚を経験しておく必要があると考え、カリキュラムの中に盛り込んでいる。
そこで驚かされることがあった。大人なら重くて沈んでしまいそうになる着衣水泳も、幼い子どもにとっては
『楽し
い』の一言に尽きるらしい。水着一枚の時と変らぬ勢いで泳ぎ、洋服の重みも水の抵抗もまったく感じていない様
子。むしろ、洋服の背中の部分に入りこんだ空気が『浮き』の役目をしてくれ、浮具なしで長い間水面を泳ぐことが
できる。靴をはいていても、足の動きがスローダウンすることはない。
それでも消費カロリーは高く、体力の消耗もかなり激しいので、着衣水泳を行った日のベビーは、普段よりも良く食
べ、疲れ切って良く眠る。あまりにも疲労度が高く、逆に病気への抵抗力を鈍らせてはいけないと、着衣は、40分間
のレッスンのうちの、最初の15分程度に押さえるようにアドバイスをしている。が、ベビーは洋服を脱ぎたがらない。体
の周囲にまとわりつく洋服。ひらひらとまるで踊っているよう。浮力もいつもよりある。自分の体がぷかぷかと浮く感じ。
おまけに温かい。脱ぎたがらないはずだ。着衣水泳をしていると、徐々に体力もついてくる。本当に強くなる。
お教室卒業となる三歳の誕生日までの半年間、着衣水泳を経験することによって、万が一水にドボンッという場
面に遭遇してもあわてない。毎年夏になると必ず起きる水難事故は、
『動揺』が冷静さを失わせる。高い泳力を持
ちながら水中で力絶えてしまう人がいるのはそのせいだろう。プールで泳ぐことがもたらす様々な恩恵……泳力、
涼しさ、楽しさ、体力増進、心身の疲労回復とリラクゼーションなど。それらに加えて、
『自分の身は自分で守る』
とい
う
『水中護身術』
もまた、水がもたらしてくれる恩恵ではないだろうか。
とはいえ、プールの衛生管理上、衣類を着用したまま水に入ることを許可する施設はこの日本にはまだまだ少な
い。また、学校教育の中でも着衣水泳の授業はせいぜい一、二回。泳力を身につけることに重点がおかれ、何
か肝心なことが忘れられているような気がする。また、思春期になれば水着姿になること自体に抵抗を感じる学生
もいる。ならば洋服を着たまま泳いでもよいのではないかと思ってしまう。その生徒は、泳力こそ向上はしないかも
しれないが、水難事故から身を守るハウツーを確実に体得するだろう。速いだけでなく、いろいろな水泳のエキスパ
ートがいてもおもしろいと思う。人生に役立つ水との関わりを、
より多くの人々に見つけていただきたいと願う(了)
。
150人のオピニオン ●
275
|教育|
生命を救う・生命を教える
∼ライフセービングの存在意義∼
小峯 力●内閣府特定非営利活動法人日本ライフセービング協会理事長
Ship & Ocean Newsletter No.36
(2002年2月5日)
掲載
諸外国においてライフセービングが極めて自然な形で国民の生活に溶け込んでいることを目のあたりにすると、
その背景には歴史と深いスピリットのあることに頷ける。わが国のその活動は、
「救助」
「教育」
「スポーツ」
によって
「生命尊重」の思想が育まれ、それを地域社会へ還元及び貢献していく体系化が叫ばれて久しい。それは学
校・地域それぞれのクラブ化によって全国に展開されている。
日本ライフセービング協会は、
「LIFESAVING」
を以下のように表記している。
「ライフセービングは、文字通り人命救助と訳すのが適当である。広義には人命救助を本旨とした社会的活動
を意味し、一般的には水辺の事故防止のための実践活動である」
諸外国ではその活動のプロ
(公務員)
をライフガードと呼び、非プロをライフセーバーと呼んでいる。わが国のそ
の活動は非プロ
(ボランティア)
による歴史をかさねてきたのでライフセーバーとしている。
そこで、
本稿の限られた紙面にてライフセービングを表現する不十分さを恐れ、
今日知られたビーチフラッグス等、
「生命を救うスポーツ」
と題された競技面からの概観であることを許されたい。
ライフセービング競技の起源と精神
はじめに、
「ライフセービングはスポーツではない。しかしライフセービング競技はスポーツである」
ことを前提にご
紹介したい。
オーストラリアで小学生向けに用意
されるライフセービングの教科書
日本経済新聞社2000年4月9日朝刊(c)
日本経済新聞社
276 ●150人のオピニオン
オーストラリアのライフセービング競技の歴史は古く、
1908年に始まったという。
(写真:Surf Life Saving Association of Australia)
この競技は1908年、約100年前にオーストラリアにおいて始まった。その競技
種目は実際の救助に要求される要素をベースに考案され、またその参加者は
「Proficiency」
と呼ばれる一定条件
(年間の救命活動時間)
をクリアーした者だけ
に許されることが特徴である。それは多くのスポーツにみられる勝利至上を超え
て、
「生命尊重」が優位でなければならないことを意味している。それは以下の言葉が明確に表現している。
「競技に勝つために一生懸命トレーニングし自分を鍛える。そして、その勝利を得たとき、その鍛えられた身体が
はじめてレスキューを可能にする。自己のために鍛えた身体が、いつの間にか他者のために尽くすことに繋がって
いることが素晴らしい。だから私は一生懸命トレーニングをする。つまり競技のNo.1は、
レスキューのNo.1である」
(オーストラリア、アイアンマン・チャンピオンGrant Kenny)
さらに1908年、
「The Sydney Morning Herald」の新聞記事は明快である。
「ライフセービングのように、スポーツに人道主義の目的が備わったとき、そのスポーツこそ奨励するに値するもの
である」
この記事が掲載されたのは、
日本における明治41年のことであった。今日オーストラリアの国民に、本競技がす
でに国技レベルで老若男女に普及・浸透している状況は、
こうした歴史と精神からも頷けるのである。
一昨年、
日経新聞が興味深い記事を報じた
(写真参照)
。オーストラリア政府が高齢者向けのスポーツ振興に
ライフセービング競技を取り上げるという。政府の試算では高齢者を中心に国民の参加度を10%高めるだけで、
年間6億豪ドル
(およそ390億円)
の福祉予算の削減が可能だという。そこでは社会貢献につながる救命活動の
存在性と課題性が見事に体現されている。まさに
「一石二鳥」である。今後の日本社会の高齢化問題に、明るい
実例として示唆のあるものと思われる。
ライフセービングが生命を教える
以上のように、ライフセービング競技の発展には、スポーツとして勝敗を競いあう要素を充分兼ね備えながらも、
その身体活動に確かな哲学を求めていることが強調されている。
「そんなことはどうでもいい、スポーツは勝たねば
意味が無い」
という至上の声も聞こえてきそうだが、逆にそういう時代だからこそ、
ライフセービング競技を正しく普
及することが、社会に対してスポーツ文化を位置付ける一石となり得るのではないかとさえ思う。そして何よりも、人
間が最も問いつづけるテーマ、
「生命尊重」
を教育する手段としてライフセービングはそれを明確に表現できるプロ
グラムが豊富にある。
すでに数年前より東京都のある区の小・中学校を対象に「ジュニア・ライフセービング」
なる教育実践を臨海学
校へ導入しており、その成果は教職員及び父母をはじめ、何より子どもらの評価が大変高い。そしてそれが予期
されていたように2002年からの新学習指導要領には「水辺活動」が加えられ、そのキーワードは「生きる力」
または
「命の教育」である。
まさに
「生命教育=ライフセービング」
は、諸外国の歴史と実例からも否定されず、世界のライフセービングはそこ
を狙っているのであり、
これこそがライフセービングの存在意義なのである。
(了)
150人のオピニオン ●
277
|教育|
海の心がわかる潜水士の養成
渋谷正信●(株)渋谷潜水工業 代表取締役
Ship & Ocean Newsletter No.27
(2001年9月20日)
掲載
従来の潜水士
私の職業は、海の中・水の中で調査や工事をする潜水士である。別の言い方をすれば、水の中の工事屋さん
である。
その仕事を約30年余り続けてきた。潜水稼働時間を延べにしたら3万時間を超える。
若いころのある日、水深は浅かったが朝5時に潜水作業をはじめて、昼食を食べようかと浮上してきたら夕方5
時ということがあった。海が荒れる前に水中に型枠を組んで、水中コンクリートを打設する仕事。たえずゆれ動く波
の影響で、型枠固定の水中溶接が何度もふっ飛びやり直しが続いた。
干潮時をねらった仕事であったが、満潮時までずれこみ波当りはさらに
強くなっていた。波で動揺する型枠をなだめすかし、波と波の間の静け
さをねらっては溶接の火花を飛ばす。型枠を固定できるまで作業を終え
ることはできない。
海との葛藤であり、そして波を手なずけ取り込んで作業をするのが水
中で作業をする潜水士である。またある時は、磯の岩盤に穴を削りその
中にダイナマイトを装填して、水中発破をかける。磯場をいかに効率良く
破壊していくか、が求められる。効率よく破壊できるものが腕のいい潜水
士であった。
注文者の要求どおりに作業ができるように腕を磨き、稼ぎをあげるため
に働くのがプロの潜水士、その効率と利益の追求に明け暮れる日々の
中には、海の環境がどうなるとか、自分の仕事が海中の生態系にどんな
潜水士による水中溶接の作業風景。ただ効率のいい仕
事をするのではなく、海の心がわかる潜水士を育てたい。
影響を与えるのか、心にとめる余裕がなかった。
地球との共生と感受性
従来の潜水士は、そのように技能・技術を取得することに重点をおいてきたものであった。しかし、その結果は
海の自然環境が破壊されても、そのことに関心を示すことができない、
もしくは心を動かさないというダイバーをつく
りだしたかのようにみえる。少なくとも私はそうであった。
しかし、私たち人間は、今、地球上で生活していくうえで、自然環境との共生は避けて通れない状況下にある。
地球規模で進められつつある排気ガス規制や環境共生型の技術開発が様々な分野で取りざたされていること
からもそれがうかがえる。そのような地球
(社会)
の目指している方向から、海中の仕事を行う潜水士も、単に経験
い のち
がある、技術をもっているという次元の資質だけでは許されなくなるだろう。特にこれからは他の生命と交流がで
きる能力=感受性の豊かさが要求されてくると思う。
感受性とは「外部の刺激や印象を感じ取ることができる働き」
(大辞泉・小学館)
とある。それは、澄みきった洞
察力であり、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力である。感動する力といってもよい。
地球環境問題に大きく影響を与えた「沈黙の春」の著者レイチェル・カーソンは、
「知る」
ことは「感じる」
ことの半
278 ●150人のオピニオン
分も重要でないと述べている。彼女は「美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたとき
の感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や感情などさまざまな形の感情をよびさますことが第一」
という。そのような感情
がよびさまされると
「次はその対象となるものについてもっと良く知りたいと思うようになり、そのように見つけだした
知識は、
しっかりと身につく」
と言っている。最初に必要なのは、感じることなのである。
心という海を拓く
効率一辺倒のあり方、注文者の要求だけに耳を傾ける、稼ぎをあげるためだけに働くという姿勢からは、海の
中の美しさ、海の中の本当の事を見過ごしてしまう。そのためにも潜水士は、最初に感受性を磨く、海の心がわか
る技術を体得する必要があるのではないだろうか。
海という地球の最前線で働く潜水士は、毎日が有無を言わさずこの自然環境と向き合っている。その潜水士の
感受性を高めることの意義は大きい。
しかし、知識や技術を教える教育はあるが、
この感受性を磨き、人間の意識
(心)
を拓く養成機関は少ないよう
に思う。意識
(心)
という形に現れにくいものには手をだせないというのが現状かもしれないが、現状打破をしなけ
ればいずれにしても新しいものは生まれてこない。
今、私は潜水士として、自分自身の反省と経験から私塾という試みで、
「海と共に生きる潜水士養成講座」
を開
いている。プロダイバーになったら稼ぎが良いからという理由で集まってくる若者に、海の環境を大切にする、海の
心がわかるような潜水士にならないか、
と話をすると、パッと目が開き心が動くのがわかる。人の根底には、人をお
い のち
もいやるとか他の生命をおもいやるという意識(心)
が存在しているようだ。この人の根底にあるおもいやりとか優
しさを引き出す本格的な場が必要である。
水中環境を担う地球人
この海の心がわかる潜水士の養成が可能になれば、その
養成技術は他の分野にも応用を拡げることができる。環境を
意識したレジャーダイバーを育てることもできるだろうし、今後の
福祉社会にも活かせる。海の心がわかるとは、言葉をかえれ
ば海へのおもいやり、他の生命へのおもいやりである。
社会福祉を成功させるには一人一人の人が、人間に対し
ても自然に対してもお互い様というおもいやりの心が必要であ
る。おもいやりのある人間が、大多数派になった世の中を思
い描いて見てほしい。毎日がどれくらい安心してやすらぎに満
野生のイルカと泳ぐ子供。そこに海との調和のイメージを見ることができる。
ちた生活になるだろうか。海も、地球も、人も、そして生きとし生けるすべてのものが……。
水中工事を業とする潜水士ではあるが、地球の3分の2の水中の自然環境を担う地球人として、潜水士の責
任は大きい。
(了)
150人のオピニオン ●
279
|教育|
民族、
海へ
∼わが国初の本格的洋上大学の実現へ∼
茂川敏夫●海事懇話会代表理事
Ship & Ocean Newsletter No.2
(2000年9月5日)
掲載
わが国は四囲を海に囲まれた海洋国家でありながら海洋民族とはいい難く、海浜から海を眺めて暮らしてきた
“沿岸民族”であるといわれている。幕府の鎖国政策や明治以来の軍事国家的行動の中で自由闊達な海上の
往来が進展しなかった事由は存在する。
しかしながら平和国家となり経済的飛躍の中で、近年、
ようやく世界一周を含む大航海を体験する機運が隆昌
してきていることは慶ばしいことであるが、その実を見ると未だ少数の有閑者層の享受する対象物で、汎国民的普
及の路線に繋がるものとはいい難い。ことに21世紀に中枢となる次世代人に海洋を身を以て識る体験航海が与え
られる社会的な制度、
システムは望むべくもない現況であることを、私は憂慮し、良い方策はないものかと考える。
そこで、具体的プランとして、公私立大学に新学部として「洋上大学部」
を設置し、専用の洋上大学船による航
海で単位を取得するという構想の検討を提案したいのである。
本案については、アメリカのペンシルベニア州、
ピッツバーグ大学の洋上大学船が代表的な事例として世界的に
知られており、一航海3カ月で世界を一周し、年2回の実施時にはわが国も訪問先として選定される等、十数年の
実績を既に有するものである。
翻って、わが国でも洋上大学を開講した事例はあり、東南アジア、
オセアニア海域を巡って太平洋諸国の歴史、社
会、環境、生活文化等、多岐に渡る講座を現地での交流、そして航海体験を大学生活の中に身につけるなど、それ
なりの意義を挙げているものの、継続的企画とは成り得ず単発に終わっているのは残念である。もちろん、そこには今
後解決しなければならない学校制度から船舶の問題迄多くの課題が残されているが困難な障壁とは思わない。
その解決事の一つに、大学開講期間外の余剰期間に専用船の有効利用を如何に図るかという問題がある
が、
これもわが国が今、直面しているところの、高齢化社会のライフプラン構築の最前線に位置するものとして、
「海
と人間」
「海と日本人」等々のテーマクルーズを、中高年を対象に企画し、参加しやすい案件を付与すれば充足さ
れるものと思われる。
とかく、海とか海洋というイメージは、陸上での日常の生活感覚に結びつき難い面もあるが、洋上大学船で大
海原に乗り出し、そこで海の匂い、海の色、海に棲む生物を肌で感じ取る時に、われわれ人間は地球のよってき
たる成因を識りたいと思わずにはいられないのではなかろうか。20世紀は人類が宇宙へと視点を向け、21世紀
は海や大地の奥深くを探索することによって宇宙を識る幕開けとなろう。
また、固く構えることもない。太陽がいっぱいのクルージングの中、船と並んですばらしいジャンプを見せるイルカ
の群れに拍手を贈り、
「生きていて良かった」
と呟く老婦人の心の中には、そこが海の動物の楽園であることがし
っかりと把握されている。
いずれにしても、
日本民族は、21世紀には、沿岸民族のレッテルを返上して、真の海洋民族となり、世界の海洋
民族とも共生の感覚を身につけた若者、そして中高年者のニッポンを目指して頑張りたいものである。
私はここに、大いなる効果を期待して
「洋上大学専用船」の誕生を提案したい。
(了)
280 ●150人のオピニオン
|教育|
100分の1の想像力を
岡野靖彦●東京大学名誉教授(大学院工学系研究科)
Ship & Ocean Newsletter No.46
(2002年7月5日)
掲載
「君子危うきに近寄らず」
と言う諺は、英語では、"Praise the sea, but
keep on land."つまり「
、海の偉大さは認識すべきだが、海には近づかない
方がよい」
となっています。なるほど「一理ある」言葉ではありますが、人
間の好奇心と闘争心が、言うことを聞くはずがなく、人類はこれまで果
敢に海に挑戦してきました。アカデミックな分野での、その最たるものは
Challenger 号による海洋探検でしょう。木造の軍艦を改良した海洋
調査船 Challenger 号による世界規模の海洋調査結果は膨大、かつ
科学史上燦然と輝くものですが、その中にマンガン団塊の発見もありました。
後年、
このマンガン団塊の経済的価値が認められ、主としてその開発権を国際的に論議する場として、1973年
に第3次国連海洋法会議が発足しました。あしかけ10年にもおよぶ討議の結果、国連海洋法条約は採択(1982
年)
、発効
(1994年)
に至りました。その中には、排他的経済水域
(EEZ)
の制度も定められています。
ところで、
この Challenger 号が3年半にも及ぶ歴史的大航海に向けて、英国ポーツマス港を出帆したのは1872年
のことですが、奇しくもその年に、
ジュール・ヴェルヌの
「海底2万海里」が出版されています。SF小説の古典の代表と
してのこの作品には、作者の広汎な科学的知識と豊かな想像力とが相まって、興味深い記述があふれています。
筆者はかつて大学における講義で、学生に次のような課題でレポートを提出させたことがあります。すなわち、
「ジュー
ル・ヴェルヌの
『海底2万海里』
を読んで、工学的に興味をもった事項を挙げて論評せよ」
と言う風にです。
結果は、考えさせられるものでした。もちろん潜水艦の動力源、海底炭鉱、海底トンネルなどについて触れた、
「まともな」
レポートも見られました。一方で、
「そのような本は、見当たりませんでした」
「
、どんな本なのですか?」
「
、ど
うすれば手に入りますか?」
などと言う声が聞こえたのには、
びっくりした次第です。
もっとも Challenger号と聞けば、
あの大事故を起こしたスペースシャトルをもっぱら思い浮かべる年代ですから、
この古典SFを知らなくても、責めら
れないのかもしれません。しかし、厳しい受験戦争を勝ち抜くために相当の勉強をしてきたのでしょうが、知識の
幅というか余裕がなさ過ぎるのではないでしょうか。海に夢を馳せ、次代の海洋開発を担う若者を期待できるの
でしょうか? 若者ばかりを責めていられません。わが国において例のEEZについての検討、対応がいまだに不十
分と聞きます。EEZを規定する200海里は、2万海里の100分の1です。130年前にジュール・ヴェルヌが示した海に
関する興味と想像力の100分の1でもよいから、現代の私たちはそれを持ちたいものです。とくに若い人たちに持
ってほしいと思います。
なお、
「海底2万海里」のフランス語の原題では「海底2万リュー
(lieue)
」で、1リューはほぼ4kmだそうです。した
がって、実は「200分の1の想像力」でよいことを、蛇足ながら付記しておきます(了)
。
【チャレンジャー号について】
1872年12月21日∼1876年5月24日にかけて世界一周探検をしたビクトリア女王期イギリスの機帆船。2,306トン、L=226ft、W=30ft。3本マスト
(補助動力
用エンジン付)
。乗組員243名、うち科学調査団6名。調査海域ポイント数362。収集した動植物標本13,000種以上(うち未知の新種7,000以上)
、海水標本
1,441本、底質標本数百点以上。1880∼95年の15年をかけていわゆる
『チャレンジャー・レポート』
(全50巻)
が刊行され、近代海洋学の基礎となった。ちなみに、
1875(明治8)年4月11日∼6月16日に横浜にも寄港。相模湾や瀬戸内海等を調査。滞在中、明治天皇と幹部が接見している。上記チャレンジャー号の図を含
め参考:
「チャレンジャー号探検:近代海洋学の幕開け」
(西村三郎著、中公新書)
(編集部)
150人のオピニオン ●
281
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