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複合材構造の非破壊検査・修理技術の現状と開発 1

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複合材構造の非破壊検査・修理技術の現状と開発 1
(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要22-8】
この解説記事に対するアンケートにご協力ください。
複合材構造の非破壊検査・修理技術の現状と開発
1.概要
近年、航空機構造への複合材適用率は急激に増加している。特に、旅客機においては、長年の間、
複合材の適用率は構造重量の約 10%程度に留まっていたが、2007 年に就航したエアバス A380 機
においては約 20%、現在ボーイング社において開発中の 787 機に至っては、約 50%に及ぶとも言
われている。このような旅客機への複合材大量適用の背景には、複合材の高比強度という特徴を利
用して機体自体の軽量化による燃費向上を実現することはもとより、金属構造よりも耐腐食性や疲
労強度向上による整備コストの低減が期待できること、さらに、客室内の湿度環境が改善できるな
ど、運航の経済性の向上のみならず、快適な旅客輸送の実現が期待できることがあげられる。複合
材が構造重量の半分近くを占めるような旅客機では、主翼構造はもちろんのこと、胴体、尾翼、動
翼類の構造に至るまで、各箇所に複合材が使用されることになる。このような航空機に使用される
複合材は、主として CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics: 炭素繊維強化プラスチック)であ
り、積層板やスキンストリンガ構造として用いられる。また、表面板に CFRP を用いてハニカムコ
アに接着しハニカムサンドイッチパネルとして用いられる場合もある。言うまでもなく CFRP は、
積層板として強い異方性を有する繊維強化プラスチック材料であり、大量の複合材が使用されるよ
うになれば、これまでの金属材料が主であった航空機構造に対する整備の基本的な作業が大きく変
化することになるであろう。
以下に、航空機(主に旅客機)修理技術の開発に関連し、航空機に発生する損傷の原因、複合材
構造における損傷発見から修理方法選定、主な修理方法、損傷発見に必要な非破壊検査技術等につ
いて概説する。
1.1 航空機に発生する損傷の原因
航空機は、航空機製造会社で製造され、航空機ユーザ(運航会社等)に引き渡され運航されるこ
とになる。旅客機等では、複数の製造メーカによって構造部品が製造され、主製造メーカにおいて
機体として組立てられることが普通である。この製造から組み立てまでの工程において、工場内外
での損傷が発生することがある。例えば、CFRP 硬化後の部品トリムや穿孔、二次接着等工程等、
製造条件設定等に伴い発生するものがある。ドリル穿孔による
CFRP 板出口最外層の剥離損傷の例を図 1 に示す 1)。また、
部品の移動・輸送に伴う他部品や治工具との接触、工具取扱い
の誤り等による損傷も考えられる。これらのような製造中の損
傷(不具合)の多くについては、製造事前の工程検証(ツールト
ライ)や工程の見直しによって、工程変更、工程改善を行い減
らすことができるが、皆無とすることは難しいのが現状である。
構造部品として完成前の検査によって許容範囲以上の損傷が
発見された場合、設計製造メーカでの検討を経て、適切な修理を
図1
穿孔加工品出口の損傷の様子
行い使用することがある(インプロセス修理)
。
当然のことながら、航空機は運航開始後に損傷を受けることの方が多い。運航が始まってからの
損傷は、構造材料にかかわらず人為的なものと、自然や気象によるもの、設計・製造に起因するも
の等が混在し、損傷の程度や部位、発生時期も不定期である。航空機に使用される複合材構造が増
1
加した場合には、それだけ複合材構造が受ける損傷の数も多くなると考えられる。航空機の運用に
対して、損傷を与える主たる原因の中に、空港周囲における鳥や動物との衝突があげられる。米国
の場合、大型の鳥が衝突し、操縦席にまで及ぶ重大な損傷を与えた例 2)が報告されている。そのほ
か、航空機の運用中には、グランドサービスの車両、旅客乗降用のボーディングブリッジ、荷物輸
送用パレットの接触等による損傷も発生する 3)。他方、既存のファスナホールから動翼構造内部の
ハニカムコアに水分が侵入し、氷結と融解を繰り返し構造の損傷が発生し設計変更した例、エンジ
ン等のカバーパネルとブラケット・配管類の干渉、パネル端部の
層間割れ、ラッチ付近損傷(開閉扉付近)、ファスナの過剰締め込
みによる母板側の孔付近損傷等など、運航が始まると設計上、製
造上の不具合も表面に現らわれてくる 4)。さらには、雹、被雷な
どさまざまな種類の気象による損傷も予想される。海外で発生し
た雹のサイズには、図 2 に示すようなテニスボールサイズにも匹
敵するような非常に大きなものも含まれており 5)、このような雹
図2
の衝突による機体損傷は、運航安全性にも関わる可能性をはらん
テニスボールサイズの雹の例
でいる。また、我が国、特に冬の日本海側の空港では雷が多発す
る地域として知られており、被雷した場合も機体は損傷を受ける
可能性がある。
1.2 損傷の判定と修理
前述のように、航空機は使用すれば必ず損傷を受けると同時に経年劣化する。運航会社が航空機
を使用して事業を営む場合、当然のことながら運航の安全性を確保できないような損傷を負ったま
ま機体を使い続けることはできない。一方、機体が定時性を確保しつつ正常に運航しない限り、運
航事業は成り立たない。そのため、運航会社は、製造メーカの作成する整備基準(マニュアル)に
基づき、整備プログラムを設定し、効率よく、確実に整備を行うことが必要となる。現在の旅客機
は、多くの構造部材が損傷許容にて設計・製造されているため、設計当初から損傷発生・存在を見
込み、その損傷が進展するとしても所定の整備間隔で発見できるよう損傷成長を制御して設計を行
い、構造修復を行うことで機体の信頼性(必要強度等)が確保できるように設計されている。裏を
返せば、損傷が運航に対して致命的なサイズに至る前に発見できるような、適切な整備プログラム
が確立していることを前提として設計条件を設定しているため、整備プログラムなしには、機体の
安全性を保つことができないともいえ
る。
この設計の考え方は、
約50年の間、
金属材料を主とした航空機構造の運航
に対する経験の蓄積と設計技術の改良
と進歩に基づいたものであり、現在開
発されている複合材を多用した航空機
の設計思想にも引き継がれている。
一般的な複合材構造に対する損傷発
見から修理法選定までの流れについて
図 3 に示す 6)。まず、初期の損傷の検
図3
2
損傷発見から修理法選択のフロー
出は、目視検査やタッピング(打音検査)等の官能検査が中心となる。これらの検査によって損傷
が発見されると、さらに詳細な損傷の評価が行われ、損傷部位、サイズ、損傷モード(状況)等、
損傷がどの程度までに及んでいるのか、修復できるレベルであるのかを判定する。
複合材構造の場合、目視検査で検知できる損傷と実際に積層板内部の損傷との規模が一致しない
場合があるため、複合材構造に対する精度良い損傷検出手法の開発は長年の間の課題であった。し
かし、近年の非破壊検査技術の進歩は著しく、多数の超音波センサを 1 つのプローブに搭載した、
アレイ型 3D 超音波探傷装置 7)、瞬間的な発光による加熱を利用し、構造表面温度の変化を検出し
て損傷を検知するパルスサーモグラフィ 7)等に代表されるように、複合材構造に対する損傷判定確
度が向上したことが、航空機への複合材適用を後押ししているとも考えられる(詳細は 1.3 項参照)
。
損傷のサイズや程度が確定できると、製造メーカが提供する SRM(Structural Repair Manual:
構造修理基準)に従って損傷の修復を行うか否かを判定する。損傷判定の結果、非常に軽微な場合
は修理を必要としない場合があるが、逆に、重大な損傷がある場合も運航会社では設備や技術的な
観点から修理不可能なことがあり、製造メーカへ輸送し修理する場合や、製造メーカの技術員が運
航会社の現場で修理するような場合も発生する。また、修理を行うよりも部分構造自体(コンポー
ネント)を交換した方が経済的に負担が少ない場合もある。修復を行えると判断した場合、どの修
理法によって修復するかを決定する。修理法の選定にあたっては、SRM に規定されている方法に
従い修理をしなければならない。大きくは、表面層のみの修理、補強板(パッチ)を用いた修理、
補強板を用いない修理(無パッチ)などに分類される。それらの選定には、損傷部位の構造(積層
板、ハニカムパネル、板厚の薄厚)
、荷重レベル、空力面に露出しているか否か、作業実施する現場
に修理用工具があるか、定期整備までの暫定修理か恒久修理か等が勘案され最も経済的かつ安全・
確実な方法が選定されることになる。
損傷発見から修復実施可否検討、修復方法選定、修復の工程については、基本的には SRM によ
って定められているものの、機体が運航できなくなる時間の推定もふくめて、運航会社や製造メー
カの技術蓄積に基づく判断も必要となる場合が多い。運航会社にとって、機体を計画的かつ安全に
運航するためにも、上記のような損傷の発見から修理実施判定し修復に要する時間を最短かつ低コ
ストで行うことを支える技術開発が重要となっている。
1.3 複合材構造へ適用される非破壊検査技術
前述したように、複合材構造の信頼性確保、特に損傷を受けた場合には非破壊検査が重要な役
割を果たす。複合材構造が急激に増加してきているため、複合材構造の非破壊検査の高性能化、高
効率化の要求が高まり、各種の新しい非破壊検査手法が研究・開発されてきている。多くの非破壊
検査手法は、対象物に超音波、放射線、熱などを入力し、その後の物理的な反応や変化を何らかの
方法で取得して、損傷や欠陥等を検出するものである。
超音波は複合材料の非破壊検査に最もよく用いられる技術であり、多種多様な装置が存在してい
る。この中で広く一般的に使用されている手法がパルスエコー法であり、一つのプローブからパル
ス状の超音波を発信し、底面や損傷部分から反射してきた超音波を同じプローブで受信して、その
減衰の程度や到達時間により非破壊検査を行うものである。超音波は層間剥離の検出に向いている
が、上記の反射法では、底面や剥離部分が入射方向と直角でないと検出が難しく、表面反射波が大
きいために表面近傍の損傷が検出できないといった制約も存在している。超音波は、剥離以外にも
ボイド率の計測やマトリックス・クラックの検出等といった使われ方をする場合もある。また、対
3
象物の両側に送信側と受信側のプローブを配置して、対象物の透過による超音波の減衰量によって
検査を行う透過法が使用される場合もある。
近年、1 次元や 2 次元に配列されたアレイ型プローブを使用して、アレイの素子間で位相差を付
けることで、全体としての超音波ビームの方向を走査したり、フォーカスしたりすることが可能な
フェーズドアレイ超音波が多数商品化されている。これは、シングルプローブを走査してスキャン
する従来の手法に比較して、高
速でより多くの情報が得られ
るため、複合材料の検査や研究
送信波
反射波
の現場での導入が進んでいる。
シュー
アレイ型超音波センサー
シュー材
カップラント
内部欠陥
また、図 4 に示すように同じア
レイ型プローブを使用し、発信
する素子を高速に切り替えて、
反射してくる超音波をアレイ
CFRP供試体
で受信し、開口合成技術を用い
図 4 3D 超音波探傷法の概念図
ることで図5 に示すような高精
細な 3 次元データを取得する
3D 超音波探傷と呼ばれる手法も開発されている。これらの
最新技術を用いると、従来型の超音波では困難であった層間
や表面がうねっている VaRTM 成形 CFRP 等の場合にも剥
離等の検出が可能であ
る。
この他にも、新しい
超音波技術として、媒
介に水やジェルを使用
しない空中伝搬超音波
法(或いは空中超音波
図5
3D 超音波スキャナによる探傷結
果の 3 次元表示例
等とも呼ばれる)やレーザを対象物に照射することで超音波を
発生させて検査をするレーザ超音波などの手法も開発されて
おり、一部で航空機の検査に用いられている。
超音波以外にも熱を利用した手法も色々存在しており、高効
赤外線カメラ
率な非破壊検査法の一つとして図 6 に示すようなパルスサー
モグラフィが挙げられる。この手法は強力なフラッシュにより
物体の表面を瞬間的に加熱して、赤外線サーモグラフィにより
物体表面の温度分布の時間的変化を測定して解析することに
より、物体内部の損傷/欠陥、或いは密度差などを検出でき、
フラッシュ
広い面積に対して、非接触かつ片面のみからのアクセスで、高
速に検査できることが特徴である。時系列で撮影した表面温度
熱伝導
剥離
図6
パルスサーモグラフィの写真と概念図
のデータの内、早い時間帯のものは表面に近い部分の内部状態
を、遅い時間帯のデータはよい深い位置の内部状態を示してい
る。パルスサーモグラフィによる探傷は測定時間が短時間であ
4
り、超音波探傷では通常必要となる水やグリスなども必要としない。厚みのある対象物には不向き
であるという限界もあるものの、CFRP 内部の層間剥離やボイド、ハニカムの接着不良、ハニカム
内の水などの検出が可能である。これらの長所を生かして運航現場で大面積を高速に探傷して、損
傷を受けた範囲をおよそ特定し、更に超音波探傷などにより詳細検査を行うような使用方法には威
力を発揮すると考えられる。
これらの他にもX線を利用した非破壊検査法なども利用されている。非破壊検査技術は、それぞ
れに長所と短所があるので、ノウハウを蓄積してその特徴をよく理解し、目的や適用部位に応じて
使い分けていくことが重要である。
1.4 複合材構造の修復法
複合材構造の修理は、前述したように損傷状態、部位、修理規模などによって修理法が選択され、
SRM に従って修理を行わなければならない(図3)
。表面層のみの修理、補強板(パッチ)を用い
た修理(機械的接合、接着修理)
、補強板を用いない修理(無パッチ)などがあり、いずれも航空機
開発設計の段階で、要素試験や実大試験に修理が盛り込まれて、修復強度、耐久性、修理手順など
が確認され、
当局の認定を経て SRM へ
反映される。航空機開発における修理
手法実証の例として、図7に 777 型機
の尾翼構造の修理法確認試験用供試体
を示す 8)。この供試体の修理は、尾翼
のスキンストリンガ構造に対する機械
(a)
的接合修理の強度と耐久性確認用の供
(b)
図 7 777 型機開発時の修復強度確認用供試体
(a) 機体内側からの修理状況
(b) 機体外からの修理部概観
試体で、母構造と同等の構造強度に修
復するようにチタン製の補強板とファ
スナを用いてストリンガを含む構造修
復を行っている。尾翼構造のように元
の複合材板厚が比較的厚く、歪レベルを低くして運用しなくてはならない CFRP 構造部位(重要部
材)のためチタンのパッチを用い、これらを強力なファスナで接合し荷重を伝達する修理法である。
金属補強板とファスナを用いない修理法として、接
着修理法がある。接着修理法は、損傷部を除去した
後、
母構造側と同等な材料(ここでは複合材)を用いて
接着接合により構造の修復を行うものである。この
接着修理には、母構造との接着形態や使用材料、工
具・装置等によって、さまざまな修理法があり、部
位に応じSRMで工法及び材料等が指定されている。
一般的な材料としては、プリプレグを使用する場合
図 8 一般的な接着修理法概要
や、ドライファブリック(CF 繊維織物等)に樹脂
を含浸させて積層後に硬化する場合等があり、フィルム接着剤を併用して用いることもある。一般
的な CFRP 板の接着修理法概要を図 8 に示す。CFRP 板の接着修理では損傷部分を除去して、そ
の周りを 1:50 や 1:30 程度(テーパー比は部位に応じて異なる)の勾配ですり鉢状に削り、そこ
にプリプレグやドライファブリックを積み重ねて硬化させ、最終的に修理部分にパッチをあてたよ
5
うな形態とする。接着修理は、機械的接合のようにファスナ局部での荷重伝達ではなく接着部全面
での荷重伝達であるため疲労強度が高く、ファスナやパッチが元の構造線からはみ出る割合は少な
く航空機の空力的に有利となることがあげられるが、母構造をすり鉢状に削るため板厚が厚い部分
の修理は広範囲に及んでしまう可能性や修理加工に時間や熟練を必要とするというデメリットもあ
る。ハニカムパネルの修理では、CFRP 表面板の下にはコアがあり、表面板のみならずコアと表面
板との剥離やコア自体の損傷も存在する可能性がある。コアまで損傷が及んでいる場合は表面板の
損傷部分とともにコアを除去した後、
新しいコアとポッティング材を充填し、
表面板とコアを接着接合により修復す
る。図 9 にハニカムパネルの修理後の
断面状態を示す 9)。ハニカムパネルの
構造修理に当たっては、運航中に水分
が侵入し損傷部等のハニカム内部に溜
まっていることがあるため、接着硬化
のため構造温度を上昇させる際に、内
図 9 一般的なハニカムパネルの修理後断面
部の水分が膨張して修理部やその他の
部分を破裂破損させてしまう危険があ
る。そのため、損傷部分を除去した後、十分な乾燥(ドライング)を行い、加熱硬化の工程に進む
必要がある。複合材の接着修理の硬化方法としては、オートクレーブ、ヒートブランケット(図 10
、
ヒートランプ等によるもの
参照 10))
が一般的である。
機械的接合修理、接着修理ともに
力学的特性や作業性等に一長一短が
あるため、SRM に従うことはもとよ
り、損傷の状況、構造に応じて修理
法を選択し、修復を行うことが必要
である。その他、軽微な損傷に対す
る修理の場合には、
常温硬化の樹脂に
よる補修も行われている。また、非重
要部材における CFRP 板内部の剥離
図 10 ヒートブランケットによる複合材構造修理
(a) 様々な形状のヒートブランケット
(b) 複合材構造修理状況
などは、剥離部分に樹脂を注入し、樹
脂で充填補修する場合もある 11)。
1.5 複合材修理の研究開発の動向
複合材料が、従来使用されてきたアルミニウム合金に変わり機体の主要構造に投入されるように
なるためには、非常に長い歳月の構造材料に関する研究開発と技術実証の上に複合材構造設計及び
製造が成り立っている。しかし、前述したように、複合材部品の生産現場から組み立てライン、運
航に際してもさまざまな損傷への対応やその修理が必要となる。現在でも運用中の旅客機に不具合
や設計変更が出るように、今後複合材を多用した航空機にも複合材特性由来の不具合が発生する可
能性は否めない。ここで、改めて複合材として主な特徴を挙げるとすれば、
6
1)異種材料が組み合わされて一種の材料を構成している(プラスチックと炭素繊維)
。
2)材料が層構造をなしている(積層して製造する)
。
3)積層板内部(スキンストリンガ構造間の接着も含め)の損傷による圧縮強度の低下が大きい。
4)積層板内部・接着部分の損傷が目視では検知できない。
5)加熱・加圧による製造。
6)運用環境に対する材料特性劣化の考慮が必要(吸湿特性、耐熱性、紫外線劣化等)
。
7)その他(材料廃棄の問題等)
。
などとなる。このような特徴を持つ材料であるが故、前述したような複合材穿孔や機械加工性、複
合材層内部の衝撃損傷(デラミネーション)検知手法等、まだまだ研究開発が必要な項目が残され
ている。また、複合材を適用した 1.2 項の「損傷の判定と修理」で述べたように、修理可否判定の
際には技術データの蓄積(データベース等)が非常に有効となる。複合材構造に発生した損傷を正
しく評価し、効率よく、信頼性の高い修復をするために、製造や運航経験による技術蓄積はもとよ
り、複合材構造の非破壊検査技術、複合材構造修理法や修理部を含む強度・耐久性に関する総合的
な研究が必要と考えられる。
しかし、
一般的に複合材構造修復技術に関する系統的研究
(公開された)
は非常に少ない。その背景には、
1)現在就航している機体には複合材の使用量は少なく、複合材構造を修理すること自体が少ない。
2)航空機の修復技術は、設計技術と表裏一体の関係であり、修復部位の強度保証は、機体開発設
計時の荷重や製造図面に基づき設定しているので、製造メーカはこれらのデータを公開できない。
3)機体に発生する損傷の情報は、製造メーカに集約されて同型式の機体への参考情報となるとと
もに、次期機体開発のための重要なデータとなるため、2)と同様に公開は難しい。
4)機体の損傷にはさまざまなケースがあり、すべてのケースについての実証をするためには多大
な時間と労力がかかる等があるためと考えられる。
特に航空機開発においては、研究開発の成果が航空機製造メーカの製造マニュアルや SRM へ反
映されることが必要であり、複合材元来の特性向上や不具合を解消する研究開発と同時に、複合材
の製造現場、運航現場において直面する現実的な課題に即した研究開発が必要である。そのために
は、製造メーカ、運航会社、研究機関の連携が重要となる。例えば、PPG Aerospace 社が開発した
複合材構造用の塗装システム
12)のように、運航会社のニーズと複合材塗装剥離の問題を塗料の技
術開発によって解決し実用に供すような、技術開発課題の吸い上げから研究開発およびその技術の
適用までの取り組みが必要であろう。我が国では航空機産業において長年の悲願であった国産旅客
機の開発が進みだし
13)、今後は、国内において機体性能設定、設計、製造、運航、整備が行われ
るようになり、旅客機という工業製品としてのライフサイクルが完結するようになる。国産の機体
を多くの旅客輸送路線に投入できれば、航空機製造メーカは、運航会社からの整備に関するフィー
ドバックを多く蓄積でき、さらに次期機体設計に反映できるという好循環ができる。ユーザーの運
航する機体の損傷や修復情報、その現場での問題点に対するフィードバックを確実に蓄積し、対策
検討や研究改良を重ねていくことによって、車や家電製品と同様、さらに使いやすく安全で経済的
な旅客機の開発が行えるようになる。そして、運航会社は、旅客輸送事業に対する経済的なメリッ
トを、旅客は快適で安全な空の移動を、そして、旅客、運航会社に対して評判の良い機体がさらに
生産機数を上げ、製造メーカや材料メーカが機体開発・販売のメリットを享受できることになると
考えられる。
複合材は、軽く、強く、そして錆びない。しかし、材料を供給するメーカから設計・製造メーカ、
7
運航会社に至るまで、複合材の特性を理解しつつ機体を設計、製造、運航、整備していくことで、
複合材を適用したことによるメリットが受けられることを忘れてはならない。また、機体の整備(修
復)作業をサポートするため、複合材構造に対する非破壊検査、修理法、強度・耐久性評価に関す
る技術的な蓄積や研究開発を行い、機体損傷の評価技術、修復技術の信頼性を向上していくことも
重要であると考えられる。
参考文献
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international (1989).
2)Edward C. Cleary, Richard A. Dolbeer, and Sandra E. Wright, WILDLIFE STRIKES TO
CIVIL AIRCRAFT IN THE UNITED STATES, APHIS and FAA, 1990–2006.
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5)Jet Aviation magazine OUTLOOK, Spring and Summer 2004.
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Vol. 6. Design and applications 6.07 composite application in commercial airframe structures.
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13)http://www.mhi.co.jp/news/story/200803284691.html 、2008 年 3 月 28 日 発行 第 4691
号三菱重工ニュース.
8
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