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ファインマン15「マッハをマークと呼ばないで」

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ファインマン15「マッハをマークと呼ばないで」
素粒子戦隊ファインマン
15
— マッハをマークと呼ばないで —
(c) Masaya Kasuga
Shaltics 2009
これまでのあらすじ
長岡:
「これはマンガ時空でのお話なのさ」
湯川:
「いきなり出オチかよ」
長岡:
「全世界の学会を統一しようとする謎の秘密結社・統一物理協会」
湯川:
「うちの教授が邪魔だということで、なぜか怪人を送り込んでくる」
長岡:
「さて、今回やってくるのはどこのドイツだ?」
湯川:
「いきなりネタばれかよ」
研究室の連中
斎藤丈隆(教授)
研究室のボス。無責任男のように見えるが、なんだかんだいって学生のことを
気にかけているようである。例えば、研究の邪魔をしないとか……。もうちょっ
とまじめにやればいい人である。
真田和也(助教)
斎藤教授のかわりに研究室を操る、影のボス。彼なくしては斎藤先生は生きて
いけない。謎の6次元テクノロジーは今日も絶好調だ。もうちょっと気を抜か
ずにやればいい人である。
湯川秀男(B7)
気合いで全てを克服する体力馬鹿。教養部のドイツ語で手応えを感じ、ついに
永遠の学部生から卒業か?卒論は3年前に出しているので、今は暇人である。
もうちょっと頭もつかえばいい人である。
朝永振一(D1)
研究室の中では真田につぐ理論派。その女顔を活かして女装することが多く、
最近は巫女のふりをするのが好きらしい。もうちょっと常識人のふりができれ
ばいい人である。
江崎玲奈(D1)
常識人できれいなおねいさん。まわりの異常さに耐える日々。だが、そのわり
にはツッコミ担当として楽んでいるような。もうちょっとおしとやかにできれ
ばいい人である。
1
長岡半太(M1)
黙っていればモテそうだが、喋ればそのオタク趣味があらわれる。変なときに
悪ノリさせると面倒なので、たまには放置プレイも必要だ。もうちょっと空気
を読めればいい人である。
南部陽子(B4)
研究室を破壊する小悪魔だが、最近は卒論で忙しく、おとなしい。暗記力が無
駄にあり、卒論のデータが飛んでも彼女なら記憶で復元できよう。もうちょっ
と落ち着いて行動すればいい人である。
統一物理協会
車イスの天才、ホウ教授の指揮する秘密結社。物理学会を統一して、自らの
学説で支配しようとたくらむ。
元日本支部
昨年末に壊滅したあと、組織内の大人の事情で宙ぶらりん。素子=ジョゼフソ
ンとその部下の三馬鹿はまだ日本にいる。
中国支部
ホウレイ氏の指揮する中国支部は、簡単にいえば中華思想。極東の島国は自分
のもの、ということで日本進出をたくらむ。
欧州支部
プランク将軍の指揮する欧州支部は、簡単にいえばドイツ好き。統一された美
を追求している。中国支部に対抗して日本にやってくる。
おことわり
この作品は「雰囲気」でできています。科学的な考証はするだけ無駄ですか
ら、やめましょう(笑)。
2
絶対零度=273℃(「に」がつ「な」みの「さ」むさ)
1
1.1
2月になった。
2月に対するイメージは、状況によって大きく違うだろう。
3回生以下の多くにとっては「長ーい休み」といった感じだろうか。夏休み
と違ってあとに試験を控えていないので、徹底的に堕落することができる。
4回生にとっては、文系と理系、卒業予定者と進学予定者、学会発表予定者
とそうでない者、といった違いにより、「4泊5日の卒業旅行」から「0泊5
日の研究合宿」まで全く違った思い出となる。
そうであるから、社会人になったあとは安易に「楽しかった4年生2月の思
い出」を語ってはいけない。近くに理系の院卒がいたら、
「俺そんなにヒマじゃなかったし」
と、逆鱗にふれるNGワードなのかもしれないのだ。
京都の2月はやたら寒い。
底冷えして気温の数字以上に—いやこの場合は「以下に」— はるかに寒く
感じられる。
あまりブルジョアでない学生(婉曲的表現)にとっては、一年で一番つらい
季節である。安い下宿には、エアコンのような暖房器具がなく、石油ストーブ
も使用禁止のところが多いのだ。
電気器具のない下宿では、ふとんをかぶって人肌—いわゆる「37℃の熱
源」—で温めるのが基本である。よくもまあ凍死する学生がでないものだと、
若者の生命力には驚きだ1 。
また、最近は湯たんぽや白金カイロが見直されており、それを使って暖房費
を節約する者もいる2 。
電気器具のある下宿では、電気代を気にしつつ、文明を享受する。
電気ストーブ、電気ファンヒーター、電気あんか、電気毛布などさまざまな
ものがあるが、その中でももっともポピュラーで優れたものがコタツである。
だがこれは使いかたによっては悪魔の兵器に変身する。上半身が暖まらずに
風邪をひいたり、心地よさに負けて授業を寝たおしてしまうのだ—まぁ悪いの
はコタツではなく自分なのだが。
ハロゲンヒーターはこのごろ流行のすごい奴である。物によっては指向性が
強すぎて、日焼けサロン状態になってしまうので、買うときには注意が必要だ。
1 よく頑張った、俺!
2 マンガ的な表現として、猫を抱いて「猫暖房」というのがあるが、実際の猫はそんなにおとなしくない
3
ずぼらな学生の部屋には、ハロゲンヒーターのとなりに夏から出しっぱなし
の扇風機があったりして、シュールな光景を見せたりもする3 。
ともあれ、学生たちはさまざまな方法で極寒の季節を乗り切るのであった。
1.2
京都理科大学では、試験の季節が終わってからというもの、ずいぶんと人が
減っていた。
今、残っているのは、研究にいそしむ大学院生と、卒業論文をかかえた4回
生である。皆、ピリピリした雰囲気4 の中にいた。
このような目的意識が同じ集団では、そしてその目的が苦労であるときは特
に、普段はあまり交友のない学生同士であっても、「戦友」のような気分が醸
し出されるものである。
トイレの壁に書いた川柳に返歌がついていたり、落書きがいつのまにかあい
うえお作文になっていたり、誰が決めたというわけでもなく、変なノリの文化
が共有されていた。— でも、鏡に「がんばれ!わたし」と落書きするのは、一
発ネタにしてもさすがにまずいと思うぞ5 。
斎藤研究室は他の研究室に比べると楽な研究室であったが、そこにもやはり
修羅は訪れていた。4回生やM2はグロッキーな状況だった。
暇だったのは、試験の終わった湯川、研究の合間の長岡、論文の終わった朝
永、の3人である。
「最大多数の最大幸福」とでもいえようか、こういうときは少数勢力である
暇な人のほうが居場所がない。
研究室の学生部屋にいると、いつものバカ話で他の学生を刺激してしまう恐
れがあった。そこで、会議用の部屋に行ってみたところ、そこは学生の仮眠室
となっていた。寝袋がまるで冷凍マグロのようであった。
3人の旅は続く。
つぎに、廊下の広い場所にある学科用の学生談話室に行ってみた。
そこはそこで他の研究室の生徒たちが、憔悴しきっていた。何かが一発キマっ
たような、焦点の定まらない虚ろな目をしていた。霊感がある人ならば、口か
らもわもわと何かが出ているのを見ることができただろう。さすがにそこも邪
魔をするわけはいかなかった。
3 羽根にヒーターを入れた「夏冬兼用扇風機」があるらしい
4 「ふいんき」と読む人とそれにツッコむ人がいるけど、山茶花が「さんざか」から「さざんか」になったことを
考えると、言葉の変化の方向としては、あながちまちがっていないのかも
5 実際に見たときは頭痛がした
4
「俺たちに安住の地はないのか」
と、先頭を歩く湯川はつぶやいた。
朝永は冷静に
「素直に帰って寝ろってことだろ」
と指摘する。正論だった。
しかし湯川はわがままだった。
「だって下宿に帰ると寒いじゃん」
湯川が意味なく学校に残りたがる理由はそれが全てだった。
国の税金の一部はこのように無駄に使われているのであった。
結局、3人は生協に行って遅い昼食か早い夕食をとることにした。
「そういえば、去年の長岡くんは4回生にしては全然つらそうじゃなかったね」
と朝永が口を開いた。
長岡は勝ち誇った。
「そりゃ、修羅場のペース配分は慣れてますから」
湯川と朝永は、「聞かなきゃよかった」と頭をかかえた。
長岡は独白を続ける。同人者に創作論を語らせると止まらない。
「だいたいみんな飲物のセレクションを間違っているんですよ。すぐにカフェ
インを摂るけれど、起きていても作業がすすみそうにないときは寝たほうがい
いんです。だからむやみにカフェインは摂っちゃダメ。それから、体が疲れて
もいないときにタウリンをとるとやたら体がハイテンションになるだけ。寝た
いときに眠れなくなる……」
経験論的哲学を語る長岡に、湯川はあきれはて、
「効果・効用には個人差があります」
とツッコむのが精一杯だった。
1.3
一方、その頃の統一物理協会。
日本をめぐる中国支部とヨーロッパ支部の勢力争いは続いていた。
中国が旧正月で休みであるこの時期に、ヨーロッパ支部のプランク将軍は抜
け駆けしようと、ボルツマンに続く怪人を送り込もうとしていた。
前回は下級怪人からの改造でうまくいかなかった。
「やはり元の怪人の能力が重要か……」
そう考えたプランクは、中堅怪人から次の攻撃隊を選ぶこととした。
5
目をつけたのは、音波攻撃を得意とするマッハという男であった6 。
マッハは組織のためならばと、攻撃隊となることを同意した。
すぐさま、改造手術が行われた。その音波攻撃の能力を最大限に発揮する外
見となった。—コウモリの顔で、耳のあたりに巨大な丸いスピーカーがつき、
それでいて胴体はミサイルのような姿だった。
改造後の姿を鏡で見たマッハは、近代美術のような自分の造型に戸惑ってい
たようだった。
「お言葉ですが、どっちかに統一できなかったのですか」
「耳をつけたらどこぞのネズミのようになってしまって、そのイメージをう
ち消そうと思ったら……つい」
悪の組織でも著作権料は恐かったようだった。
プランクはマッハに作戦をさずけた。
「日本で遊んでいるモトコと協力してから、学生連中を倒すべし。モトコは
貧乏だから、少し金をあげれば言うことを聞くはずだ」
マッハは頭を上下させて、肯定のジェスチャーをした。
そして、GoGoGoとばかりに尻から煙をあげ、ジェット気流に乗って日
本へと向かっていった。
6 現実のマッハは、当時は実験で確かめることが難しかった相対性理論はもちろん、原子の存在すらも否定的な立
場であったとか
6
恵方巻 流行らせようと 必死すぎ
2
2.1
2月の始めといえば、京都理科大学の近くにある古田神社では、節分祭が行
われる。そこそこ大きく有名なイベントであった。
普段は学校の通学路として学生たちが我が物顔で占有している参道は、その
日は本来の役割をとりもどしていた。道に沿って屋台が建ち並び、多くの人達
が訪れている。
初詣や祭に縁のないようなインドア派の学生にとっては、屋台を見る一年で
唯一の機会かもしれない。普段は食べることのできないものに魅かれ、散財し
てしまうこともよくあることだった。
気の利いた学生は、研究室に籠る仲間に差入れをすることを忘れない。
その日の昼、斎藤研究室の会議用の部屋には、「どうぞ食べてください」と
いう一見怪しげなメモ書きとともに、さまざまな食べ物が並んでいた。
イカ焼き、たこ焼、りんごあめ、わた菓子、焼きそば、一銭焼き……何か意
地になって全種類をコンプリートしようとしているようにも見えた。
長岡が登校途中で買った大量の今川焼を置こうとしているとき、空のマグカッ
プを手にした玲奈が部屋に入ってきた。
玲奈は卒論とは関係なかったが、投稿論文のために忙しい日々を送っていた。
玲奈は、カップになみなみと安物ネスカフェの粉をいれて、お湯を注いだ。
「あ、姐さん。それはなんですか?」
「何って、お湯のコーヒー割り」
玲奈は、日々のカフェイン消費量が増え、もはや普通のコーヒーでは対応で
きない体になっていた。
「絶対、胃を壊しますよ」
長岡は気遣った。そしてすぐに
「べ、べつに心配しているんじゃないんだからね」
と、お約束の一人ツンデレごっこをした。
玲奈は、会議室の机の下に常備されているハリセンをさっととりだした。し
かし、それを長岡にたたきつける前に、力尽きて手をおろした。
玲奈は「ご心配ありがとう」と女神の笑みを浮かべて、長岡を軽くあしらっ
た。
会議室には陽子もやってきた。
7
陽子といえばツインテイルが特徴であったが、ここ数日は後ろで無造作に束
ねるだけだった。アホ毛かぴんと跳ね、余裕のなさを現していた。
陽子の卒論は実質的には真田がやっているので、スケジュールという面では
修羅場というわけではない。しかし、卒論発表のためには内容を熟知しておか
ねばならないため、彼女はこのところ難しい英語の教科書に向かい合う日々を
過ごしていた。
陽子は今川焼きをはむはむと頬張ったあと、
「湯川さんと朝永さん、今日は遅いですねぇ」
と言った。
湯川は下宿の光熱費を浮かせるために朝早く研究室に来ることが多い。また
朝永は性癖はアレだがまじめで、きちんと朝には登校している。
長岡と玲奈は、朝永に関してはなんとなく予想がついていた。
今は神社の祭。巫女の需要がある時期だった。
「あの変態についてはそっとしておこう」
と、玲奈はつぶやいた。長岡は同意した。
一方、湯川に関してはこれといった理由は思い付かなかった。
何も意見がでなかったことに長岡が耐えかねて
「べ、べつに心配しているんじゃないんだからね」
とボケてみたが、玲奈も陽子も反応する体力がなかった。
ツッコミのないボケほど虚しいものはなかった。
2.2
その湯川はまだ下宿にいた。
湯川の部屋の隣は、元日本支部の残党・素子=ジョゼフソンの部屋である。
音の響く木造下宿であったから、朝早くに素子のところに来客があったこと
は、湯川が容易に知りうるところであった。
「モトコちゃんに来客といえば、統一物理協会の関係者しかいない」
と、湯川は失礼な決めつけをしていた。
そういうわけで、湯川はここ小一時間ほど、コップを壁と耳にあてて素子の
部屋の様子を探っているのであった。
「これじゃ俺、変態だよ」
と、その姿が他人に見られないことを祈った。
素子の部屋には、四人の男が押しかけていた。
8
素子の部下のバーディーン、クーパー、シュリーファーのマッチョ3人。そ
れと、特徴ある耳スピーカーをもった怪人マッハ。
六畳の部屋に5人もいれば窮屈である。素子は、本心ではどこか他の広い場
所に行きたかったが、この変な連中を衆目にさらしたくはなかったので、しか
たなく部屋で会談している。
5人の囲む机—素子の趣味によりトレス台—の上には、茶封筒が置かれて
いた。
「これで協力してください」
とマッハは頼んだ。
素子の目は微妙に$になっていた。
ただ、最近の彼女はしたたかだった。封筒を手にしてわずかに振ると、
「中国支部からは、もうちょっと手応えがあったけどなぁ」
と言った。つまり「封筒が軽い」という意味であった7 。自分を高く売ろうと
していたのであった。
それを隣で聞いていた湯川は
「あー、それやるとどっちからも信頼を失うんだよね」
と、素子に死亡フラグがたっていることを心配に思ったが、だからといって
何もできなかった。
素子の部下も、素子の立場が危うくなりそうなことに気づいていた。
「そろそろ決めましょう」
「このままでは粛正されてしまいます」
「ハンバーガーにピクルスをはさむ仕事はもう嫌デス」
と、口々に素子の決断を促した。
愛する部下の諌言に、素子の目から¥マークが消え、素子の心は傾いた。
そのとき、ふとしたことから場の空気が乱れた。素子の部下の言う
「『マーク』さん」
という言葉が原因だった。
「『マッハ』だ!」
「『マーク』と読みマス。百歩譲っても『マック』デス。」
「『ハ』だ。いや、[ha] も違う。[x] だ8 。発音できないからって、人の名前を
勝手に変な読み方に変えるんじゃない」
マッハは必死だった。民族の誇りをかけて、それは譲れなかった。
7 最近疑問なんだが、我々は純粋に質量のみを測ることってできるんだろうか?力を介して測定するほかないよう
に思えるのだが
8 無声軟口蓋摩擦音、と言うらしい
9
一方の素子の部下はアメリカン、「俺がルール」の文化で育っている。
「デファクトスタンダードは大事でーす」
と、強引につくった既成事実をもっともらしく押しつけるのが、奴らのいつ
ものやりかただ9 。
結局、両者は譲らなかった。
くだらない理由……いや、当人たちにとってはとても真面目で譲れない理由
により、素子とマッハの共闘は成立しなかった。
2.3
盗聴をしていた湯川は、
「こりゃすごいことになったぞ」
と思い、マッハが下宿を出たのを確認するとすぐに、研究室へと向かった。
湯川の準備は早い。ジーンズ+半袖Tシャツの上に使い古しのコートを羽織
るだけだった。— ちなみにコートを取ればそれは夏の服装とかわらない。
快調に自転車をとばす湯川の前に、節分祭の屋台と人が立ちふさがった。湯
川は京都に7年住んでいるだけあって、すぐに事情を理解した。
体力馬鹿でもマナーはわかっている。自転車を降りて、ゆっくりと進んだ。
その途中、己の心の奥から湧き起こってくる「お祭り男」の血には抗えなかっ
た。研究室にいくまでに、地鶏と鮎の串焼きの誘惑に負けた。
「『天然』なんて宣伝文句が嘘だってわかっているのに……くやしい、でも
食べちゃう」
と、恍惚の敗北感を味わっていた。
湯川は時計台前から学校に入る。学校の敷地に入ると人混みもなくなった。
ふたたび自転車に乗ろうとしたとき、ふと、校門に近い建物の上に人影を見
つけた。
そこではときどき政治団体がアジテーションをしているから、学校の風景と
してはそれほど違和感がないものだった。
しかし、今回の人影はあからさまに怪しかった。先ほど見たマッハと黒タイ
ツ戦闘員がそこにはいた。
湯川は先に研究室に行くか、残って話を聞いてみるか迷ったが、手持ちの食
品を見て、とりあえず食べながら様子を見ることに決めた。
建物の上でマッハは演説を始めた。マイクを自分のへそにさすと、開口一番、
9 ちなみに、酸性度をあらわす「ぺーはー」も、アメリカ人にあわせて「ぴーえっち」となりつつある
10
「単位が多すぎる!」
と叫んだ。耳の巨大なスピーカーが揺れていた。
学生に対しては、なかなか良いつかみであった。
ただし、マッハの言う単位は、授業単位ではなく、物理単位のことだった。
「世の中の単位は、長さ、時間、質量、時間、エントロピーの5つですむ10 。
それなのに単位が多すぎる。なぜか?それは物理学者が自分の名前を残そうと
するからだ」
湯川は確かにそれは一理あると思った。
「放射線関係は特にひどい。シーベルト、グレイ、ベクレル、キュリー、ラ
ザフォード、レントゲン……名前を残せばいいってもんじゃない」
マッハの言葉に、原子力関係の学生だろうか、
「そうだそうだ」
と合の手を入れた。
マッハは調子にのった。
「我々、統一物理協会は単位の統一を提唱する。プランク時間、プランク長、
プランク質量、プランク電荷、プランク温度。これらに統一して、物理の勉強
を簡単にしようではないか」
これには野次馬はひいた。結局プランク一人勝ちかよ、と思わせたからだ。
湯川も「やれやれ」と醒めて、研究室へと自転車を進めた。
2.4
湯川が研究室についたのは、昼休みも終わるころだった。
学生たちが買ってきた屋台の食べ物も、もうすっかり消費され、今来た湯川
に「追加は?」とねだっているようであった。
湯川は、会議室にいた真田と長岡に、新しい怪人の情報を伝えた。— 丸い
ふたつの耳型スピーカーに、コウモリのような顔、そして胴体はロケット。
聞いていた二人は、
「いくらなんでもそれは酷すぎるだろう」
「寒さで幻覚を見たんですか?リアルマッチ売りの少女、見参!
?」
と初めは信じなかったが、疑っていてもしかたがないので最終的に信じた。
真田は的確に
「音波に対抗するものを用意すればいいんだね」
と必要とされているものを理解した。
10 というか、次元が独立した5種類の単位をくみあわせればよい
11
つぎに湯川は、マッハをどうしたらよいか聞いた。
真田は少し考えたあと、
「こちらにも余裕はないし、対策ができるまでは放っておこう」
と言った。触らぬ神に祟り無し、ということだ。
真田が対策を練りに部屋を出たあとは、なぜか単位の話になった。理系の学
生にとって、でっちあげ単位を考えるのは、よくあるバカ話である。
「ビタミンCの単位『レモン11 』」
「時間の単位『ギャバン』」
「硬さの単位『バキュラ』」
湯川と長岡は、まるでバトルをしているかのように、つぎつぎに新単位をでっ
ちあげた。
そのうちに、
「『グリコ』は長さの単位か体積の単位かエネルギーの単位か12 」
とどうでもいい議論になった。最終的に、
「実は、体積とエネルギーは同じだったんだよ」
「な、なんだってー」
と、伝家の宝刀「キバヤシ断言」で強引に終わらせた。
全然どうでもいいけど、「蒼天航路」の曹操のセリフの強引さも、キバヤシ
断言に劣るとも勝らない、まさに丙丁つけがたいすさまじさである。
11 レモン1個のビタミンCは、実際には
50mg 程度であるが、宣伝などでは 20mg で計算するそうだ
12 もともとは「エネルギー」
。
「体積」ってのは「一粒300メートル」を粒の一辺の長さだとひねくれて考えた場合
12
3
音痴に歌うのは実は難しいらしい
3.1
夕方には、真田の対抗策ができたようだった。
研究室に来ていない朝永を除く、4名が会議室に集められた。
机の上には真田の用意したスピーカーが鎮座していた。
「音には音で対抗だ!」
と真田は言った。が、どうということもない、普通のスピーカーに見えた。
何が違うのかを聞くと、真田の答えは単純だった。
「やたら丈夫」
とだけ言った。
玲奈が「あ、あたし論文があるわ」と言い、陽子は「英語の続きがあります
からぁ」と言って、その場から逃げていった。
真田は彼女たちを追わなかった。
「やはり、オーディオの深みは、女性には分からないのですかねぇ」
と、勝手な解釈をしていた。
湯川と長岡は、軽いめまいを感じながらも、真田の話を聞いた。
どうやら、真田は一時期ピュアオーディオにはまっていたことがあるらしい。
究極の音質を求めて、ケーブルはもちろん、スピーカーの材質、筐体の強度、
床との共鳴を抑える工夫、などなどさまざまな知識をためこんでいた。もちろ
ん、理学部物理学科だけあって理論も完璧であったそうだ。
「そうでしたか、真田さん……で、今もその趣味は続けているんですか?」
真田の顔色が急に変わった。
「結局、家からつくりなおさなきゃいけないことに気づいて、目が覚めま
した……」
世の中には恐ろしい趣味があることを、湯川と長岡は思い知った13 。
気を取り直して、真田がスピーカーの説明をはじめた。
「音をしっかり出すために、この筐体はやたら丈夫です。ダイヤモンドより
も硬い。なにしろ、クォークをグルーオンで閉じ込めて固めていますから」
「そ、そんなのをどうやって作るのですか?」
「アップクォークとダウンクォークを用意して、ねればねるほど色がかわっ
て、ポン!」
真田の6次元テクノロジーはツッコミ不可の謎技術だった。
13 たぶん、一番金のかかる趣味のひとつだと思う
13
ふと、長岡は致命的な欠点に気づいた。
「で、これどうやって運ぶの?」
「なぁに、君たちの変身スーツが変身用ケータイに入っているのと同じよう
に、空間をカプセル化すればいいじゃないか」
真田は明解に答えた。しかし、長岡は疑問は解決しなかった。
「あれって、体積は小さくできるけど、質量は変わらないでしょ」
長岡にしては鋭い指摘だった。真田の用意したスピーカーは丈夫なだけあっ
ていかにも重そうだった。
真田と長岡は同時に、体力自慢の湯川の顔を見て、目で訴えた。
非言語コミュニケーションは、数が多いほうが勝つのであった。
3.2
日は沈み、少し暗くなっていた。
湯川と長岡は怪人マッハを探しに外に出た。
湯川は無駄に動きたくなかった。スピーカーの入った変身ケータイがやたら
と重かったからだ。湯川のコートは、片方だけがやたらとずりおち、ボタンと
ボタン穴の関係が一個ずれていた。
「モトコちゃんに頼んで場所を聞こうよ」
と、彼女を何かで釣る、あるいはゆすることで場所を聞き出すことを提案し
たが、長岡はあまり借りを作るのもあとが面倒だと言った。
ひとまずは、学校の近くを探すことにした。
変な格好と大きな声の集団というわかりやすい特徴を目当てに探すと、意外
なほど近くでマッハたちが見つかった。
屋台の並ぶ参道の近くで、黒タイツ戦闘員といっしょにティッシュを配って
いたのであった。そのティッシュには、ホウ教授の著作のリストがかかれてお
り、宣伝と啓蒙を兼ねていた。
マッハを探したはいいが、今度はどうやってアプローチすればよいかが、次
の障害となった。というのも、湯川としては、万が一いきなり戦闘が始まって
しまったときのことを考えると、多くの人の前で自分の顔をさらすことは避け
たかったからだった。
ふたりは、マッハを遠巻きに見ながら相談した。
「むかしありましたね、『頭隠して体隠さず14 』」
「それは捕まる」
14 永井豪は天才だと思う。このパロディを許した川内康範にも、
「おふくろさん騒動」だけからじゃわからない人
間味を感じますなぁ
14
「じゃあ矢文」
「この人混みなら他に人にあたりそうだ」
「女子のふりしてラブレター」
「女の子たちは勉強中だし、朝永はいないし、俺に女装趣味はない」
良いアイデアが浮かばなかった。
ふと湯川は目の前で、戦隊物のお面を売っているのを見つけた。デザイン的
にどことなくツッコミどころを含むアレである。
それで顔をかくすことにした。
二人とも、小さなおともだち向けのグッズを買うことに恥ずかしさはなかっ
た。湯川は、(堂々と買ってつければ、店の人もギャグでやっているのだと分
かってくれる)と根拠なく信じていた。長岡のほうは、彼の趣味柄、単に羞恥
心が鈍っていただけだった。
湯川と長岡は、二人して青いマスクを買った。自分の色ではなく、ここにい
ない朝永の色であるのは、自分達の正体をできるだけ隠したい意図によるもの
だった。
二人はしずしずとマッハに近付いてゆき、
「19時に、教養部の屋上で待っている」
と簡単に言った。
マッハのほうは、それが果し合いの意味であることを理解した。
「仲間の戦闘員をつれていくが、それでも良いのだな」
とルールを確認した。
湯川は黙ったまま親指をたてて、許諾の意志をしめした。
すぐに、湯川と長岡はダッシュで逃げた。
「あー、命が縮んだ」
「それにしてもどうして教養部なんですか?」
「だってあそこなら変なコスプレ連中がいても、変な音が出ていても、全然
違和感ないだろ」
納得の一言だった。
夜の大学は文化のるつぼ、演劇部や合唱部やバンドやら芸術関係のサークル
やらが入り混じり、カオスな雰囲気を作っているのだ。
3.3
約束の時間になった。
15
生協で夕食を食べたあと、湯川と長岡とは教養部の屋上に向かった。
この日はめずらしく陽子もついて行っていた。
「英語は飽きたのです」と、要
するに気分転換のストレス解消のために来ていた。
階段を昇り終えると、マッハと黒タイツたちがすでにそこにいた。
マッハの合図とともに、黒タイツたちは大きな歯車をまわし始めた。
もやがあらわれ、月がわずかに紫がかる。あたりは26次元の超物理空間に
つつまれていった。
湯川たちも変身をした。
先にマッハが攻撃した。
マッハの耳スピーカーがぶるぶると揺れた。すると、足元が低い音をたてて
振動しはじめた。
低周波の微妙なうねりにより、三人は膝から倒れ落ちて転がった。体を安定
させるためには這いつくばるほかなかった。
それにようやく慣れたころ、マッハの次の攻撃がきた。今度は高周波だった。
キーンとした音が高くなり耳を蝕んでいった。
しばらくするとその音は次第に聞こえなくなった。
長岡は
「もう終わりかよ?」
と挑発したが甘かった。しばらくすると変身スーツの表面が細かく波打ちは
じめた。ダメージをあたえるほどではなかったが、気分を悪くさせるには十分
であった。
音が聞こえなくなったのは、攻撃がやんだからではなく、人の聞ける周波数を
越えたからだった。その証拠に、遠くから犬の遠吠えが聞こえるようになった。
周波数がちょうど共鳴してしまったのだろうか、屋上の入口の窓ガラスが粉々
に砕け散った。
マッハは低周波と高周波を繰り返し、湯川たちを弄んだ。
実は、苦しんでいたのは湯川たちだけではなかった。黒タイツ戦闘員は、戦
闘スーツに身を包んだ湯川たちよりもはるかに防御力が低い。マッハの後ろで
は、戦闘員が周波数の変化に耐えられず、黒マグロのように横たわっていたの
だった。
マッハは攻撃を一旦中止して、仲間を介抱した。
湯川たちは体勢をたてなおす余裕ができた。
16
まず、変身ケータイが壊れる前に真田のつくった頑丈スピーカーをとりだ
した。
ただ、取り出したはいいが、何をしたら良いかまでは決めていなかった。
とりあえず、敵に「何かあるぞ」とハッタリをかまさなければならないので、
マイクをつないだ。
長岡は湯川にささやいた。
「湯川さん、音痴で敵を倒せるのはアニメやマンガやゲームだけですよ」
「わ、分かっとるわい」
湯川はそう強がってみたが、打つ手はなかった。
3.4
突然に、シャンシャンシャン……と鈴の音が聞こえてきた。
屋上の入口からであった。鈴の音は近づきつつあった。
すぐに、目の部分をポワトリンのような羽根メガネで隠した巫女があらわれ
た。朝永がコスプレしている「美少女巫女シンディーヌ」であった。
「朝永!来てくれると思ってたんだ」
湯川は喜んだ。しかし謎の巫女は、
「誰なのそれ!
?」
と、女声をつくってまでもかたくなに否定した。それどころか
「そこはあなた、
『誰だ!』と聞くことで、
『良くぞ聞いてくれました—』と
名乗らせるのが礼儀というものでしょう」
とダメ出しまでしたのだった。
湯川が朝永に気を取られているすきに、陽子がマイクを奪い取った。ストレ
ス解消に来ている彼女は、一曲歌って帰ろうという魂胆だった。
「はい、陽子です」
と言った矢先、陽子はドジっ娘属性を発動した。
屋上のタイルの3ミリのすき間につまづいて転んだ。
転んだ先にはちょうど、スピーカーがあった。キーという不快な高周波が鳴っ
た。ハウリングである。
偶然にも、マッハや戦闘員に効いているようだった。自分の出す音には耐え
られても、他人の出す音には耐えられないようであった。
「やめんかぁ!」
マッハはさっきまで自分がやっていたことを棚にあげて怒った。
17
体勢が逆転したことに湯川と長岡は喜んで、
「ハウるのすごくしろ」
と、はやしたてた。
陽子は調子にのった。
普通であれば不快なこの音も、陽子にとっては面白い現象でしかなかった。
「あはははははははははははははははははははは」
と能天気な笑い声をあげた。彼女のアニメ声が、その狂気さをまた一段と強
めていた。
陽子以外、敵味方関係なく腰が抜けた。
湯川と長岡は憔悴してゆくなかで、
「真田さんはどうして変な音をオフにする機能くらいつけてくれなかったの
だろう。ピュアオーディオにはまっていたならば、バイパスフィルタ15 なんて
朝飯前だろうに」
と、真田のいつものうっかりを怨んだ。
陽子が笑うのに飽きると、ようやく一同は立ち上がることができた。
ともあれこれで高周波の攻撃は五分五分となった。
3.5
マッハは精神攻撃から物理攻撃に移った。
耳のスピーカーがわずかに光る。それと同時に爆音が鳴り、その正面にある
ものが粉砕されていった。
湯川はハリセンをかざしてなんとかかわしたものの、ハリセンは粉々に砕け
ていった。
「こ、これはまさしく衝撃波」
「なに、知っているのか、と m……いやシンディーヌさん」
「ちなみに今回あたしまだ名乗ってませんから」
朝永は根にもっていた。いつものような「あれはまさしく……」という解説
はなかった。
湯川たちは、衝撃波を避けるべく物陰にかくれた。エアコンの陰や国旗掲揚
台の陰にかくれた。
長岡は少し逃げおくれ、真田のスピーカーの後ろに身を潜めた。
そこに衝撃波があたった。
15 特定の周波数を通したりブロックしたりする回路。このおかげでテレビやラジオでチャンネルを選択できる。抵
抗とコイルとコンデンサーを使うのでRLC回路と呼ばれる
18
スピーカーは真田が自慢したとおり、やたら頑丈だった。ゴックなみになん
ともなかった。
「この硬さ。3バキュラかな」
長岡は余裕だった。
マッハはむきになって何度も衝撃波を放ってくる。しかし、スピーカーは無
傷のまま変化しなかった。
朝永は、マッハの背後の戦闘員がたおれていることに気づいた。よく見ると、
マッハが衝撃波を出した直後に、ダメージをくらっているようだった。
「湯川くん、敵の攻撃をスピーカーの正面で受けるんだ」
そういわれて、湯川はその言葉に意味に気づいた。衝撃波はスピーカーにあ
たって、そのまま反射していたのだ。
湯川はエアコンの背後からスピーカーの背後へと走り込んだ。勢いで長岡が
横にはじきとばされたが、気にしてられなかった。
マッハの耳が輝き、爆音とともに次の衝撃波が飛んだ。
とっさに湯川はスピーカーの方向を直した。
目論見どおり、衝撃波は反射波となり、そのままの勢いでマッハに襲いかかっ
た。マッハの体は勢いよくはじき飛ばされた。
大の字になって倒れたマッハに、湯川は馬乗りとなった。
ハリセンの怨みとばかりに、近くにあったマイクでしばきたおした。
マッハのへそはケーブルのコネクタになっている。湯川はそこにマイクのピ
ンを差し込んだ。
マッハは怒りのままに、マウントポジションにいる湯川をどかそうと、衝撃
波を出した。
湯川は体をひねってそれを避けると同時に、手をのばしてマイクをその波面
に近づけた。
マイクが拾った衝撃波はマッハの内部で増幅され、耳スピーカーから発せら
れる。そしてその音をまたマイクが拾う。マッハは自らの体でハウリングをお
こした。
増幅するエネルギーに耐えられなくなったマッハは、そのまま痙攣して戦闘
不能となってしまった。
19
分裂必死、分解不可能
4
4.1
マッハ敗れるとの報せは、すぐに統一物理協会の欧州支部へと届けられた。
プランク将軍は、「中級怪人でもだめだったか」とさらに強い怪人を送り込む
ことを決心した。
中国支部では、旧正月もおわり、年始の行動が始まっていた。ホウレイ氏は
新たな怪人計画をたてて、一日でも早く日本に送り込もうとしていた。
そして、開店休業状態の旧日本支部では、行動に消極的だった素子=ジョゼ
フソンも、点数を稼ぐためにそろそろ動かざるをえなくなっていた。
この忙しい時期に、学生たちにはこれからジェットストリームアタックが待
ち受けているのである。
総合人間・環境学部の織田先生は、太陽の塔となって、学生たちの行く末に
光を導こうとしていた。
4.2
斎藤研究室の会議室には、例の意味なく丈夫なスピーカーが残っていた。
もう三日以上、放置されたままである。真田が回収すべきなのだが、真田は
そうしなかった。
「丈夫につくりすぎて、どう壊していいのかわからないんだ」
一同は真田らしい展開にあきれた。
朝永は理知的に、
「特異点に放りこめばなんとかなるんじゃない」
と思ったが、それを言うと真田が本気でブラックホールを作りそうだったの
で、恐くなって敢えて何もいわなかった。
「物をつくるときは、それを壊す方法もつくらなければならない」
という、創造と破壊の哲学を思い知ったのであった。
20
5
本日の復習
真田: 今日は音の話をしましょう。
: 音は、力学的エネルギーの変化が縦波として伝わる現象です。
: あ、そもそも縦波と横波の違いは分かってますか?
長岡: そりゃ「縦波」は縦というくらいだから上下方向の波で、
:「横波」な左右方向の波で……あ、嘘です、そんな目で見ないで。
朝永: 波を伝える媒質の振動が波の進行方向に平行であるのが「縦波」
: 波の進行方向に垂直であるのが「横波」ですね。高校とかだと、
:「前後の振動が縦波」という言い方をするときがあります。
湯川: 媒質の粗と密なところができるので「粗密波」とも言いますな。
真田: 音は波ですから、波の要素をそのままもってます。
:「振幅」は音の大きさとして、「周波数」は音の高さとして、
: そして「波形」は音色として、それぞれ識別されます
湯川: ん、「識別されます」ってことは、人間がそう感じてるってこと?
真田: まあそうですね。「人間の耳がそうなっているから」なんです。
朝永: 周波数の違うふたつの音は、ふたつの音として認識できるけど、
: 周波数の違うふたつの光は、元の色と違う色として認識される。
: 目と耳は、波を受け取る器官だけど、つくりが違うんだな。
湯川: なるほど。耳はまざりあった波を周波数別に分けて認識できるもんな。
: ん、これってフーリェ変換と同じ?
真田: 計算しているのではなく、物理的な共鳴現象を使っているのですが
: 結果的にはそういうことになりますね。
長岡: よし、耳を使った生体フーリェ変換デバイスを研究しよう!
真田: さて、人間の耳はだいたい20Hz∼20KHzの音を聞き取れると
: いわれていますが、高い音は歳とともに聞こえなくなります。
長岡: テレビがつけっぱなしで、でも画面がうつっていないときに
:「キーン」という音が聞こえたり聞こえなかったり。
湯川: テレビの走査線が戻る「水平周波数」は15. 7KHzですな。
真田: ……わたしにはもう聞こえませんけどね。
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