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報告書 - 埼玉県

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報告書 - 埼玉県
世界で活躍できるグローバルな人材の育成について
政策研究に携わる責任者 山田 あき子 東京国際大学商学部・教授
要約 調査対象の各グループ間の特性について海外志向を軸に検証を進めた。海外に出て行く気持ちが高
いグループ(外向き志向グループ)と相対的に低いグループ(内向き志向グループ)との海外渡航の動機
を比較検討した。前者は日本にないモノ・コトを海外に求める・自分自身の能力を海外で高め、確認した
いとする傾向が高く、後者は動機が散漫になり、何かの特定の動機に収斂しない。外向き志向が高いグル
ープと内向き志向グループの中間的に位置する留学経験者、海外就労者は語学力の向上を第一の動機とし
ている。内向き志向グループは海外に出ることに不安を持っている。それは語学力であったり、生活一般
であったりする。このような典型的な内向き志向の若者には、海外滞在には不安はないことを体験させる。
調査の回答の中に「英語が流ちょうでなくても外国で暮らせることが分かった」という記述回答があるが、
語学力がなくてもまずは暮らせることを体験させることが、グローバル人材の養成に寄与することを指摘
し、それを政策に反映させる具体策を提案する。
[研究員]
○山田 あき子(東京国際大学)
賈 曄(東京国際大学)
上代 圭子(東京国際大学)
田仲 正江(東京国際大学)
三上 剛(埼玉県県民生活部国際課)
黒澤 努(埼玉県企画財政部改革推進課)
[研究期間]
平成23年度
1.研究の背景
昨今、若者の内向き志向が取りざたされている。
海外勤務を希望しない若者の増大、日本から海外
への留学者数の減少など、日本人の若者が内向き
志向の傾向にあることが浮き彫りになっている。
日本国内の昨今の経済状況の中、海外展開を実
施している、あるいは実施を検討している企業は
グローバルな人材を求めている。さらに英語を企
業内公用語としている企業も増えている。これか
らの社会を担っていくべき若者のベクトルと社会
のベクトルが相反する方向に向いている。ここに
憂慮すべき現象があり、脱内向き志向の必要性が
いわれる背景がある。
(1)内向き志向の定義
海外留学、海外就労、海外赴任などを望まない
若者の考え方をいう。朝日新聞の記事(1)には2008
年に内向き志向の文言は見られるが、産業能率大
学が2010年7月に実施した新入社員の調査結果に
最近の「内向き」の語の使用は由来する(2)。
(2)若者の内向き志向の傾向
内向き志向の傾向は2点からいわれる。
第1点は、
海外留学に出る人数の経年の変化から
である。2004年の82,945人をピークとし、2009年
には59,923人と漸次的に減少している(3)。アメ
リカ合衆国への留学者数に絞れば、2001年が
46,810人だったのに対し、2009年度に24,842人、
2010年度21,290人とほぼ半減している(4)。
第2点は、
海外就労に関心を持っている若者の減
少である。産能大の調査(2008)によると調査対
象者の45パーセントを占めている。
しかし、果たして内向き志向といえるのかとい
う反論もある(5)。だが、大学在学者数(6)に対す
る留学者数の比率を見ると、ピーク時の2004年は
2.95パーセントだったが、2009年には2.11パーセ
ントとなっている。この点からも内向きの傾向に
あるといえるのではないだろうか。
表1 留学者数 定点指標
年度
大学在学者数
留学者数
留学者率
1992
2,293,269
39,258
1.71
1993
2,481,805
51,295
2.15
1995
2,546,649
59,468
2.34
2004
2,809,295
82,945
2.95
2009
2,845,908
59,923
2.11
単位
人
%
(政府統計の総合窓口総括集9/文部科学省報道発表)
2.目的
世界で活躍できるグローバルな人材の育成を支
援するための方策を研究し、政策への提言を行う
ことを目的とする。
3.方法
研究方法と手順は次のとおりである。
3−1 調査時期
予備調査を2011年7月に行い、本調査は2011年7
月から2011年10月に実施した。
- 49 -
3−2 調査項目と手順
(1)調査項目
調査項目は、先行研究を参考に、プロジェクト
メンバーにおいて作成された。本調査を行う前に
大学生を対象に3回の予備調査を実施し、
その結果
を精査し、加筆・修正したものを本調査で用いた。
内容は、①属性、②海外志向の有無、③海外渡
航経験、④海外渡航の目的、⑤外国人との交流経
験、⑥将来の希望等に関する項目を設定した。
なお、回答は選択肢および自由回答とした。
(2)手順
調査方法は紙面調査とし、直接配布・回収が可
能なものについてはプロジェクトメンバーが直接
配布・回収を行った。海外等直接配布・回収が不
可能なものについては学校等に送付し、担当者に
配布・回収してもらった。
その後、一部インタビューを実施し参考とした。
3−3 調査対象者
調査対象者は、日本人の高校生、大学生、社会
人、ならびに海外からの留学生の1,591名である。
なお、詳細は以下の通りである。
表2 調査対象者
報告書内の呼称
一般高校生
高校生
サッカー部
Jユース
大学生
104
同左
334
サッカー部
173
図1 海外志向の程度
海外志向に関連し、「海外赴任のオファーを受
けるか」という問いに対する回答を一般学生Gと
日本人留学生Gと対照してみる。表3にあるよう
に、一般学生は躊躇するが19.8パーセント、断る
が9.9パーセントである。それに対し、日本人留学
生Gは、両者合わせても6パーセント未満と少ない。
日本人留学生Gは条件付けで受けると回答したも
のが64.7パーセントでありはするものの、90パー
セント超の回答者が受ける方向におり、高い海外
志向を示しているといえる。それに対し、一般学
生Gは61.4パーセントであり、低い傾向にあるこ
とがわかる。
82
日本人留学生
予定者
75
表3 海外赴任オファーの受諾の諾否(%)
269
112
外国人留学生
社会人
591
84
留学中
帰国者
463
64
一般学生
野球部
日本人留学生
人数
295
れたに過ぎない。それに対し、Jユースが90パーセ
ントを超え高い海外志向を示した。それに続いて
高校サッカー部、大学サッカー部と続き、
総じて、
サッカーグループ(以降グループをGとする)が
海外志向が高いことが見てとれる。一方、同じス
ポーツ系であっても大学野球部Gは、22パーセン
トであり、今回の調査では最も低い結果となった。
サッカーGと野球部G間に海外志向に見られる差
異は、スポーツ特性によるものと推察される。
一般学生
156
156
受ける
9.9
海外就労者
同左
87
87
条件付き受ける
51.5
海外でサッカ
ー選手・コーチ
サッカー就労
25
25
躊躇する
19.8
断る
3−4 分析方法
分析は、質単純クロス集計および有意差検定を
行った。有意差検定には、t検定を用いた。
4.結果
紙幅の関係もあり、本報告書では、一般学生の
特性を取り立てる側面と、海外滞在経験の有効度
を示す側面の結果に絞る。
4−1 一般学生の特性
(1)各調査対象グループ間の海外志向の程度
図1に見るように、一般学生の海外志向は下か
ら2番目であり、約3割の回答者に海外志向が見ら
9.9
61.4
日本人留学生
25.9
94.0
64.7
29.7
5.1
5.9
0.8
(2)回答者グループそれぞれの海外へ行く動機
や目的
この調査項目には、22の選択肢を立て、上位5
位の選択肢を選択してもらった。全員に共通の選
択肢と回答者グループの特性に合わせたグループ
固有の選択肢を用意した。
各回答者グループで、上位5位までに選択された
選択肢は、表4に示す通りである。
ここで特筆すべき点は、選択肢語学力について
である。語学力に下線を施したが、スポーツGと
非スポーツGとに顕著な違いがあることがわかる。
非スポーツGでは上位に語学力が上がっているが、
スポーツGではJユース、高校生サッカー部、サ
- 50 -
ッカー就労は5位までに上がっておらず、
他のグル
ープでは最下位である。すなわち、スポーツGを
見ると技術・能力の向上を目指していることが読
み取れる。それに対し、非スポーツGは語学力向
上が大きな動機・目的になっていることがわかる。
る。さらに、両者とも語学力がないことを認め、
前者はだから「行く」となるが、後者はだから「行
かない」となる。行かない理由のトップに費用が
上がっている点、今後の施策立案に示唆を与えて
いると考える。
表4 海外渡航の動機や目的(%)
表5在学中の留学を希望する理由・希望しない理由(件)
−①
行きたい理由
一般学生(非スポ) 一般高校生(非スポ) 日本人留学生(非スポ)
海外への憧れ
7.5
語学力向上
趣味の深化
自己能力確認
今時間がある
12
費用
18
ことばを学ぶ
11
日本が良い*1
11
語学力向上
16.6 友達作り
43.9
興味関心がある
3
自己能力向上
12.5 見聞拡大
36.1
異文化体験
2
語学力
経験
2
時間がない
6
不安
レベルの高さ
見聞拡大
81.2
興味・関心がない
5.1
友達作り
19.3 語学力向上
行きたくない理由
4.5
友達作り
知識技術向上 34.5
11.5 世界で活躍
その他
29.8
計
外国語使用
自己能力確認
36
*1 含 日本で勉強ができる
10
8
6
その他
37
計
90
−②
Jユース
高校生サッカー部
大学生サッカー部
レベルの高さ 89.1 レベルの高さ 68.9 レベルの高さ 34.7
高技術習得
68.8
高技術習得
62.9
高技術習得
32.4
②「海外赴任のオファー」を受けることに躊躇
する理由・断る理由
一般学生と海外留学者の回答を対照してみよう。
自己能力向上 62.5 自己能力向上 49.5 自己能力確認 28.9
32.4
活躍したい
19.1
海外の活躍者 21.9 海外の活躍者 21.8
活躍したい
50.0
活躍したい
語学力向上
13.3
-③
野球部
高技術習得
海外就労(非スポ)
11.9
サッカー(就労)
表6 海外赴任のオファーに躊躇・断る理由(%)
一般学生
日本人留学生
語学力
30.6
家族
47.0
不安
24.2
日本が良い
26.6
語学力
見聞拡大
30.1
スポーツ継続 59.3
日本が良い
19.3
自己能力確認
語学力向上
24.8
自己能力確認
家族や友達
10.0
レベルの高さ
9.5 海外への憧れ 17.7
短期がよい
3.0
世界で活躍
見聞拡大
40.7
活躍したい
7.1
15.9
世界で活躍
37.0
語学力向上
6.0 自己能力確認 13.3
高技術習得
25.9
-④
外国人留学生(非スポ)
就職に有利
63.5
自己能力確認
61.5
語学力向上
57.7
経営技術習得
51.3
母国から近い
47.0
日本文化好き
(2)海外へ行きたい理由・行きたくない理由
一般学生の海外へ行きたくない理由を、①「在
学中の留学」を希望しない理由の記述回答、②「海
外赴任のオファー」を受けることに躊躇する・断
る理由の記述回答の2点で検証する。
①「在学中の留学」を希望しない理由
希望するが約30パーセント、希望しないが約58
パーセントである。両者からその理由の記述回答
を得ている。
その両者に相対する回答がある。語学力と時間
に関する記述である。行きたい理由に時間がある
とあるが、行きたくない理由には時間がないとあ
一般学生についてみると、ここでは語学力と不
安が上位に上がっている。不安はコミュニケーシ
ョンの不安、適応に対する不安などを包摂し、日
本が良いは日本が好き・日本が一番・日本にいた
い・日本で研究等を包摂している。家族や友達は
家族や友達から離れることであり、ここでは別項
目として立てたが、不安の一つであるといっても
よいだろう。この傾向は日本人留学生Gについて
もいえる。したがって、海外に出たくない大きな
要素は、不安と日本が良いという考えにいきつく。
4-2 海外滞在から得たコト
(1)海外渡航の有効度
海外渡航の有効度を海外就労者G・日本人留学
生Gがどう見ているかを、①これまでの海外滞在
の経験が活かされていること、②海外就労・留学
を勧めるその理由の2点で検証する。
① これまでの海外滞在経験が活かされていること
サッカー就労Gの実数は少ないが、海外滞在の
経験の有効度を示唆しており全て掲載した。表7
の3つのグループ記述回答から、自信が持て、語
- 51 -
学力がつき、それによってコミュニケーション力
もつき、柔軟性が持て、人として成長したとその
有効度を見て取れる。
者Gも日本人留学生Gもその順位に違いはあるも
のの、共通項目があがっていることである。
この記述回答に、内向き志向の若者を外向きに
するヒントがある。
表7 海外滞在の経験が活かされていること(件)
-① 海外就労者
-② 日本人留学生
表9
動じない・度胸がついた
9
柔軟性が身に付く
34
語学力向上
5
コミュニケーション力
28
5
自己成長や自信
22
4
語学力の向上
18
現地の習慣など知った
柔軟性が身に付く
適応力が培われた
3
その他
外国人を恐れない
2
計
その他
7
計
多
5
89
海外に目を向けたきっかけ(記述回答数件順)
海外就労者
日本人留学生
人の話(周囲の人の影響)
外渡航の経験(修学旅行、
留学、旅行、親の仕事)
旅行
映画・テレビ番組
書籍
周囲の人の影響
仕事
外国人教師
英語の勉強
音楽
ホームステイ(含むキャンプ) 英会話教室
35
少
映画・テレビ番組
-③ 就労(サッカー)
考え方
3
言語力向上した
3
積極的コミュニケーションをとる
2
人間的に成長
2
人に優しくなれた
2
相手の立場で考えられる
1
外国人を恐れない
1
日本人としての誇り
1
日本を客観的に見られる
1
計
16
②海外就労・留学を勧めるその理由
それぞれの項目の記述者数は多くないが、その
言わんとするところは、視野が広まることと日本
に対する認識を新たにすることであり、特にスポ
ーツGでは精神力が強くなる点である。これは①
でみた度胸が付くと通じるものがある。
(3) 海外滞在遂行に必要な要件
ここで触れておきたいことが2点ある。一つは非
スポーツGがコミュニケーション力が大事な要件
としたことである。これは外国人留学生の意識で
もある。もう一点は語学力についてである。海外
就労者Gなど長期にわたって海外滞在をしている
人は、多様性受容を上位に上げており、語学力で
はないことである。この傾向は日本人留学生Gに
も言える。しかし、海外滞在経験が少ない一般学
生Gは、語学力が高い位置にある。海外滞在経験
をすることで、語学力に対する認識が変わること
を示唆しているといえよう。
表10 海外へ行くための必要要件
一般学生
コミュニケ
表8 海外就労・留学を勧めるか(記述回答件数)
日本人留学生
74.6
ーション力
-①海外就労者
(%)
-①
コミュニケ
58.4
ーション力
就労者
コミュニケ 61.1
ーション力
積極性
44.3
知識欲
36.5
多様性受容
51.3
日本の再認識
13
見聞が広がる
2
語学力
43.4
好奇心
22.0
精神力
23.9
経験(日本ではできない)
12
グローバル
2
精神力
21.3
語学力
20.8
好奇心
19.5
視野が広がる
10
多様性を知る
2
多様性受容
18.9
積極性
18.4
語学力
15.9
柔軟性
価値観が変わるなど
3
エキサイティング
2
見識が深まる
3
日本が元気がない
2
-②
人生が豊かになる
3
チャレンジ
2
機会に恵まれる
2
その他
外国人留学生
日本語力
コミュニケ
ーション力
外国語力
多様性受容
自信を持つ
計
9
67
-② サッカー(就労)
精神力が強くなる
5
経験(多様)
4
世界が見られる
計
78.8
76.9
40.1
34.6
34.0
4
11
(2)海外に目を向けるきっかけ
海外に目を向けるきっかけについて記述回答を
求めた。ここで取り上げるべきことは、海外就労
5.考察
5-1 海外渡航の動機・目的
非スポーツグループGとスポーツGの海外渡航
の動機に違いがある。前者は語学力向上、友達作
- 52 -
りであり、見聞の拡大であったりする。それに対
し後者は、日本では得られない高い技術を求め、
自己能力の向上を目指している。この傾向はサッ
カーGに顕著である。
各グループ間で海外志向の傾向に違いがある。
それを対照することで内向き志向の若者の傾向を
考察する。海外志向の高さに着目すると、図1で
みたようにJユースが一番高く、高校生サッカー
部、大学生サッカー部、一般学生、大学生野球部
と続く。サッカーGの海外志向の高さは日本では
得られないモノ・コトがあることによる。自己成
長させる要素が海外にあることが明白なケースで
ある。一方、海外志向が低い一般学生はその動機
が拡散していることからもその低さの理由が推察
できる。非スポーツGの中でも海外就労者Gおよ
び日本人留学生Gの海外渡航の動機・目的に選択
率の高い項目がある。大学野球部Gは、今回の調
査では海外志向は低かったが、それは自己能力の
向上心はあるものの、敢えて海外でプレーする必
要性を感じていないからだと思われる。
ここで着目したい点は、語学力が諸刃の刃とな
っている点である。非スポーツGが海外渡航の目
的にあげる語学力が海外へ目を向けさせる動機に
なると同時に内向きにさせる要因にもなっている
点である。表6で見るように、「海外赴任のオフ
ァーがあったら受けるか」の問いに対する「躊躇
する、断る」の理由のトップに語学力があがって
おり、「在学中に留学したい」かの問いに「した
い」とした回答の理由の3番目に語学力があがって
いる。外向き志向の動機にもなり、内向き志向の
要因にもなっているのである。
5-2 海外に出たくない理由
(1)海外渡航の不安
海外赴任オファーについての一般学生の回答で
は、彼らの半数を越える回答者が海外に出ること
に条件付きで受けると回答している(表3)が、
躊躇する、断るも3割弱を占める。その理由に大
半の回答者は不安をあげている。語学力、生活、
治安など細目は異なるが、不安が大きな割合を占
める。しかし、不安の多くは海外滞在経験の中で
払拭されることが海外就労者・日本人留学生の回
答からわかる。これまでの海外経験で活かされて
いることに関する回答には、コミュニケーション
力の向上、語学力の向上、動じない態度(度胸が
つく)、外国人を恐れなくなったなどとあり、直
接自信がついたと記述した回答者もいる(表7)。
(2)日本が一番良いという考え
また、一般学生の留学したくない理由に、日本
がいい、日本で生活したい、日本で勉強ができる
などがあり、これを一括りとすると語学力より上
位になる(表5・表6)。海外留学を勧めるかに
対する記述回答の中に、他者を受け入れることが
出来るようになり、日本を客観的に見られるよう
になり、日本人として誇りを持って、人間として
成長できたとある。海外就労を勧める回答にも、
日本の再認識との記述がある(表7)。このよう
な日本が良いといった考えも、日本が全てではな
いことが認識できたという記述回答からわかるよ
うに海外経験を通じて払拭される。
5-3 海外滞在で得られること
留学を勧めるか・海外就労を勧めるか・海外での
プレーを勧めるか・これまでの海外滞在が今の生
活に活かされているかという問いに対する回答か
らは、回答者が海外滞在で得られたことが読み取
れる。視野の広がり、異文化・他者の受容、コミ
ュニケーション力の向上・語学力の向上・多様性
の受容・柔軟性の獲得、自信が持てる、外国人を
恐れない、自己成長などとあげている。
ここでも、一般学生が総じて持っている不安と、
日本が良いという考え方が取り除かれることが読
み取れる。
5-4 日本への留学生(外国人留学生)の留学
の動機
外国人留学生の留学の動機は、実利的である。
就職に有利に働くがトップであり、自分の能力を
確かめたい、日本語力を上げたいと続く(表4④)
。自分の能力を確かめたいが高位にあるのは、
サッカー就労GおよびサッカーGの傾向に似てい
る。だが、日本人の各グループの留学の動機とし
ては就職に有利であるは高位に選ばれてはいない。
海外就労G・日本人留学生Gには留学が就職に有
利に働くかと尋ねているが「そう思う」とした回
答は各々2割、3割弱に過ぎない。
5-5 海外に目を向けたきっかけ
海外に目を向けたきっかけを海外就労Gと日本
人留学生Gに聞いているが、いずれも人の体験談
や土産話、旅行、書物、映画などとあがってくる。
人からの体験談を直接聴くことが肝要である(表
9)ようだ。
書物などでは示しきれないことがそれ
ぞれの国の暮らしにはある。メディアを通じた情
報は一方通行であり、かつ実感が持てない。百聞
は一見にしかずの疑似体験が有効であるといえる。
記述者の数としては決して多くはないが、ホー
ムステイ、インターナショナルキャンプなどへの
参加がきっかけになったと記述した回答者もいる。
こういった活動に参加させる最も適切な年齢につ
- 53 -
いては、今回の調査では実証できなかったが、一
部実施したインタビューの中で、ある国際機関に
勤務している調査対象者が、小学校高学年での1
週間のホームステイが海外へ目を向ける大きな引
き金になったと語っている。同年齢の子どもが二
人でホームステイし、
そこでの体験が大きかった。
コミュニケーションに自信がもてたこと、やれば
できるという自信がもてたことが大きいという。
6.結論
内向き志向のグループを外向きにし、グローバ
ルな人材に育てるには、まず、二つの点があげら
れる。一つは彼らが持っている語学力のレベルに
対する自信のなさ、生活一般や新しい環境への適
応などに持っている不安を取り除くことである。
一つは日本が良いという考えを取り除くことであ
る。それには海外滞在を仕向けることだと結論付
けられる。「海外滞在で得られること」で示した
ように海外滞在経験を通じてそのいずれもが払拭
されることが本調査からいえる。
海外滞在経験を願望するように仕向ける必要が
ある。そのためには彼らに向上心を持たせること
であり、自分たち以外の世界に関心の目を開かせ
ることである。その仕掛けに海外に目を向けるこ
とになった「きっかけ」についての記述回答がヒ
ントになる。多くの体験談を直接人から聴かせる
ことだといえる。
非スポーツGの海外渡航への動機は、必ずしも
海外に出なくとも達成可能である。回答者のひと
りと話す機会があった。「それはそうだが、海外
に出ると毎日のように発見があり、それによって
視野が広まった」と語った。10ヶ月のアメリカ留
学から帰国し2年強が経過するが、モノの見方や、
判断に幅が持てているように思うと語った。
海外へ出ることが、若者を必ず成長させる。グ
ローバルな人材として求められるのは、コミュニ
ケ-ション力を有する他者を受け入れられる、物怖
じしない、語学力に長けた、地球上に共時的に異
なる文化を背景にする人々が共存することを認識
できる、アイデンティティーの確立した人材であ
る。海外での滞在経験を持たせることがグローバ
ル人材を養成するキーポイントであることは確か
である。
7.政策への提言
以下のような人材を育てることである。
語学力・海外の生活に不安を持たず、日本は本
当に良い国であるのかが考えられ、我々が学べる
ことは本当に海外にないのかが考えられ、海外に
学ぶモノ・コトがあることを知る。このような人
材だといえる。それによりサッカーGのように海
外志向が高まることが期待される。
具体策として2点提案する。
(1)日本語以外の言語でコミュニケーションを取
らなければならない状況に追い込む。10日〜2週間
のホームステイもしくは、インターナショナルキ
ャンプを盛り込んだプログラムを作る。送り出し
先として、埼玉県が姉妹提携をしている国・地域
・都市などが上げられる。エリート集団の育成も
あろうが、今回調査対象となった一般学生のよう
なグループを外向きにする政策をとることが急務
なのではないか。経済的な面が海外留学の障害に
なっている点も付記しておく。
(2)学校教育の中で、人から直接海外の国々の様子
や体験を聴いたりする機会を作る。ゲストスピー
カーも良いが、日常的にそのような機会を提供す
るには外国人教師の採用も一つであるが、さらに
教職員の多くが自身の体験が語れるように海外滞
在経験を積みやすくする政策が肝要かと思われる。
引用・参考文献
参考文献1(本文注)
(1)
「協力隊員集めピンチ 応募ピーク94年度の3
割 不安な若者内向き志向」『朝日新聞』夕刊総
合面2008年12月27日
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ーバル意識調査
(3)文部科学省平成23年度報道発表平成 24年
1月20日
(4)日米教育委員会
http://www.fulbright.jp/study/res/t1-colleg
e03.html
(5)西水美恵子「明日への視点」『毎日新聞』2011
年1月11日朝刊
(6)政府統計の総合窓口総括集9『大学の学校数、
在籍者数、教職員数(昭和23年〜)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?
bid=000001015843&cycode=0
参考文献2
1) 白川三秀「留学生減少」は若者だけの問題か
グルーバル人材への鍵は若い時代の海外経験
『無
限大』No.128 2011新春:12〜16
http://www-06.ibm.com/ibm/jp/mugendai/no128
/pdf/128f.pdf
2) デロイトトーマツコンサルティング(2011)
『グローバル人材の育成と活用』中央経済社
3) 東京大学資料(2007)『東京大学をめぐる諸
問題』
本研究を公表した又は公表予定の学会発表
1)東京国際大学論叢2012年
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