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ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や 読書環境等

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ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や 読書環境等
ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や読書環境等に及ぼす影響
ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や
読書環境等に及ぼす影響
森 俊之 1)・谷出 千代子 2)・乙部 貴幸 3)
竹内 惠子 4)・高谷 理恵子 5)・中井 昭夫 6)
仁愛大学人間学部 1)・仁愛大学人間生活学部 2)・仁愛女子短期大学幼児教育学科 3)
福井大学教育学部 4)・福島大学人間発達文化学類 5)・福井大学子どもの発達研究センター 6)
Effects of Bookstart on Children’s Lifestyle and Reading Environment
Toshiyuki MORI 1), Chiyoko TANIDE 2), Takayuki OTOBE 3)
Keiko TAKEUCHI 4), Rieko TAKAYA 5), and Akio NAKAI 6)
Faculty of Human Studies, Jin-ai University 1)
Faculty of Human Life Studies, Jin-ai University 2)
Department of Early Childhood Education, Jin-ai Women's College 3)
Faculty of Education and Regional Studies, University of Fukui 4)
Faculty of Human Development and Culture, Fukushima University 5)
Child Development Research Center, University of Fukui 6)
ブックスタートに取り組んでいる自治体と取り組んでいない自治体を比較することで,乳幼児期
からの絵本の読み聞かせがその後の子どもの読書習慣に及ぼす影響を検討した.7 年間以上ブック
スタートに取り組んでいる自治体と未だ取り組んでいない自治体を 1 か所ずつ選び,当該自治体の
公共図書館の近隣に立地する小学校 7 校で,1 年生の子どもをもつ保護者を対象に子どもの生活習
慣や読書環境に関するアンケート調査を行った.乳児期におけるブックスタートの体験が,小学 1
年生の時点での読書習慣を増やし,ゲーム習慣を減らすという結果が見出された.また,乳児期に
親子でブックスタートを体験することで,保護者の図書館利用頻度が高まり,保護者による子ども
への読み聞かせの頻度が高まるという結果も示された.ブックスタートは,保護者の読み聞かせ行
動などを変化させ,それにより小学校入学後の子どもの読書習慣など生活習慣に影響を及ぼすと考
えられる.
キーワード:ブックスタート,小学生,読書習慣,ゲーム習慣,読書環境
ブックスタートとは,地域に生まれたすべての赤
バーミンガム市で始まった活動である.当時のイギリ
ちゃんと保護者を対象に,乳児健診などの機会を利用
スは急速な多民族国家への道をたどっており,イギリ
して,絵本を開く楽しい体験といっしょにあたたかな
ス第二の都市であるバーミンガムにおいても移民が多
メッセージを伝え,絵本を手渡すという活動である.
く,識字率の低下が社会問題となっていた.また,離
赤ちゃんと保護者が絵本を介してゆっくり心触れ合う
婚率が上昇し,一人で子育てする親や,10 代の若い
ひとときをもつきっかけを作ることを目的としてい
カップルなど,さまざまな親に対する子育て支援策も
る.
求められていた.そのような中で,民族や社会経済的
ブックスタートはそもそも 1992 年にイギリスの
な差,個人的関心の違いなどに関わらず,すべての赤
− 61 −
仁愛大学研究紀要 人間学部篇 第 10 号 2011
ちゃんに平等に言葉や文字に出会う機会を提供するこ
が増すとともに,その効果は 1 歳半健診や 3 歳児健診
とを目指してブックスタートは誕生した.
の際にも継続しているという結果を見出している.
識字率向上という社会的課題を抱えていたイギリス
ブックスタートの影響を検討した研究は多いもの
では,ブックスタートの教育的効果が大きく注目され
の,その多くは,ブックスタートを実践している自治
た.1998 年のバーミンガム大学の研究グループの調
体が中心となって行われることが多いため,特定の自
査報告によると,子どもたちが小学入学の際に受ける
治体のみを対象とした調査であることが多い.ブック
基礎学力テストの点数を比較したところ,ブックス
スタートに取り組んでいる自治体だけの調査ではな
タートを体験した子どもとそうでない子どもの間には
く,ブックスタートに取り組んでいる自治体と取り組
学力差があり,その効果は読む,書く,話す,聞くと
んでいない自治体を比較することで,ブックスタート
いう言語的な能力だけでなく,計算や図形認識,空間
の影響をより明確に検討することができるであろう.
把握といった数学的な能力にもわたっていることが示
また,これまでの多くの調査は乳幼児健診時などに
されている(Wade & Moore, 1998).
実施されることが多いため,乳幼児期の保護者を対象
日本では 2000 年の「子ども読書年」をきっかけに子
としたものが多い.また,日本ではブックスタート開
どもの読書年推進会議でブックスタートが紹介され,
始からせいぜい 10 年であることもあり,小学校入学
2001 年に世界で 2 番目に開始された.日本の場合,
後など長期的な視点から検討した研究はあまりない.
イギリスと異なり識字率向上という意図はなく,親子
子どもの発達という視点からは,乳幼児期のみではな
のふれあいを図ることが目的とされている.ブックス
く,より長期的な影響の分析も大切であろう.
タート支援センター(2004 年より NPO ブックスター
本研究では,ブックスタートに取り組んでいる自治
ト)が推進する形で全国の自治体に広められ,2011 年
体と,現時点では取り組んでいない自治体を比較する
10 月末現在,全国 1,742 市区町村のうち 802 の自治体
ことで,乳幼児期からの絵本の読み聞かせが,小学校
(実施率 46%)が実施するに至っている(NPO ブック
入学後の子どもの読書習慣など生活習慣に及ぼす影響
スタート , 2011).
を検討することを目的とした.
ブックスタートの効果は,日本においても,いろい
ろと研究されてきた.日本において最初にパイロット
施行として実施されたブックスタートでは,ブックス
方 法
タート直後の効果として,母親の絵本への興味関心が
<調査対象>
喚起されたり,家にある絵本を見るなど具体的な母親
行政として 7 年間以上ブックスタートに取り組んで
の家庭内での行動変化が示されたりしている(秋田・
いる自治体と未だ取り組んでいない自治体を 1 か所ず
横山・ブックスタート支援センター,2002).その後
つ選び,当該自治体の公共図書館の近隣に立地する小
も,多くの自治体でブックスタート事業が行われてお
学校 7 校で,1 年生の子どもをもつ保護者を対象にア
り,それぞれの自治体が中心となって行われている調
ンケート調査を行った.
査も多い.
<調査内容>
ブックスタート直後だけではなく継続的な効果を
アンケートは,現在の子どもの生活習慣(読書習慣,
調査した研究もある.たとえば原崎ら(原崎・篠原,
テレビ習慣,ゲーム習慣),保護者の読書習慣,保護
2005,2006;原崎・篠原・安永,2007)は,10 ヶ月
者の子どもへの関わり方,
子育て情報の入手手段,
ブッ
健診(ブックスタート直後),1 歳半健診,3 歳児健診
クスタートを過去に受けたかどうか,ブックスタート
の際に,保護者にアンケート用紙を渡して,ブックス
に対する感想や意見などを尋ねる質問で構成された.
タート事業の効果や親の子育て意識を検討している.
本研究ではこれらの項目のうち子どもの読書など生活
その結果,ブックスタートを受けた直後に絵本に対す
習慣に関連する項目,読書環境に関連する項目につい
る親の意識が高まり,子どもに読み聞かせをする機会
て分析した.
− 62 −
ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や読書環境等に及ぼす影響
<調査期間>
㪈㪇㪇㩼
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アンケート用紙の配布および回収は,平成 23 年 2
月から 3 月にかけて実施した.
㪏㪇㩼
<調査手続き>
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アンケート用紙の配布および回収にあたっては各小
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学校にご協力いただいた.すなわち,小学校から子ど
もを介して保護者に配布してもらい,同様に子ども
㪉㪐㪅㪐
㪈㪇㪅㪈
㪉㪇㩼
を介して学校に提出してもらった.アンケート用紙
の配布数は 391 部,回収数は 349 部であり,回収率は
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89.0%であった.
回答はすべて無記名方式で行った.
図1 ブックスタート経験の有無による 1 週間あたりの
読書習慣の違い
結 果
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1)子どもの読書習慣
「週 4
1 週間当たりの子どもの読書の頻度を「毎日」
∼ 5 日」
「週 2 ∼ 3 日」
「週 1 日」
「しない」の 5 段階で回
答してもらい,その割合を算出した(図 1).ブック
スタートを受けた有群の方が,受けていない無群より
㪉㪌
㪉㪇
㪈㪌
㪈㪇
㪌
㪇
も,
「毎日」または「週 2 ∼ 3 日」読書しているという
ᐔᣣ
回答が多く,逆に「読書しない」や「週 1 日」という回
ભᣣ
図 2 ブックスタート経験の有無による 1 日あたりの読
書時間の違い
答は少なかった(χ2=10.35, df=4, p<.05).
1 日当たりの読書時間も尋ねているので,1 日当た
を平日と休日に分けて算出してみると,平日は有群
で 18.5 分,無群で 15.9 分であった.休日はやや読書
時間も長く,有群で 25.1 分,無群で 21.9 分であった.
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りの平均読書時間を算出した(図 2).平均読書時間
統計的な有意差はみられなかったが,ブックスタート
㪍㪇
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䋫
㪁
㪉㪇
㪇
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を受けた有群の方が受けていない無群よりも,平日も
休日も,1 日当たりの読書時間は長い傾向がみられた.
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図 3 興味のある本のジャンルについてのブックスター
2)子どもの興味のある本のジャンル
ト経験の有無による違い(*:p < .05, +:p < .10)
子どもがどのような本に興味をもっているか,興味
のある本のジャンルを複数回答してもらい,ジャン
した.
ル毎に興味あると回答したものの割合を算出した(図
ブックスタート経験の有無による比較をジャンル
3).どちらの群も,小学 1 年生という年齢を反映して,
毎にすると,
「興味なし」
「その他」を除く全てのジャ
最も興味あるジャンルとして選ばれたのは「絵本」で
ンルでブックスタート有群の方が興味あると回答し
あった.次いで多かったのは,ブックスタート有群で
「読み物」
たものが多かった.χ2 検定をしたところ,
は「読み物」,ブックスタート無群では「図鑑」であり,
を興味あると回答したのは,ブックスタート経験の
ブックスタート経験の有無により若干異なる様相も示
ある有群の方が多く(χ2=4.743, df=1, p<.05),ど
− 63 −
仁愛大学研究紀要 人間学部篇 第 10 号 2011
のジャンルにも「興味がなし」と回答したのは,ブッ
群 88.7 分,無群 93.3 分),休日では 150 分前後(有群
クスタート経験無群の方が多かった(χ2=6.561, df=
141.6 分,無群 150.1 分)であり,やはり,ブックスター
1, p<.05).
「絵本」と「マンガ」については,ブック
ト経験の有無による統計的な有意差はみられなかっ
スタート経験有群の方が多いという有意傾向がみられ
た.
た.
4)子どものゲーム習慣
3)子どものテレビ視聴習慣
「週 4 ∼
1 週間当たりのゲーム従事の頻度を「毎日」
「週 4 ∼
1 週間当たりのテレビ視聴の頻度を「毎日」
5 日」
「週 2 ∼ 3 日」
「週 1」
「しない」の 5 段階で回答し
5 日」
「週 2 ∼ 3 日」
「週 1 日」
「しない」の 5 段階で回答
てもらい,その割合をブックスタート経験の有無条
してもらい,その割合をブックスタート経験の有無条
件毎に算出した(図 6).その結果,ブックスタート
件毎に算出した(図 4).その結果,両群とも,毎日
を経験した有群の方が「ゲームをしない」または「週 1
テレビ視聴があるというものが 8 割を占め,テレビ視
回」という回答が多かった.ただし,χ2 検定の結果,
聴が子どもの生活において習慣化されていることが示
統計的な有意差は認められなかった.
2
された.χ 検定の結果も両群の間に差はなく,ブッ
1 日当たりのゲーム従事時間を平日と休日にわけて
クスタートの経験には影響を受けないことが示され
算出した(図 7).平日については有群が 25.0 分,無
た.1 日当たりの平均テレビ視聴時間を比較したと
群が 37.4 分,休日については有群が 52.5 分,無群が
ころ(図 5),両群とも平日でおおむね 90 分前後(有
80.0 分であった.平日・休日ともに,ブックスタート
㪇㪅㪇
㪎㪅㪉 㪉㪅㪍
㪈㪇㪅㪌
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㪏㪇㪅㪊
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図 4 ブックスタート経験の有無による 1 週間あたりの
図 6 ブックスタート経験の有無による 1 週間あたりの
テレビ視聴頻度の違い
㪈㪌㪇
ゲーム従事頻度の違い
㪈㪏㪇
᦭⟲㩷㩿㪥㪔㪈㪌㪌㪀
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図 5 ブックスタート経験の有無による 1 日あたりのテ
ભᣣ
図 7 ブックスタート経験の有無による 1 週間あたりの
ゲーム従事時間の違い(**:p < .01)
レビ視聴時間の違い
− 64 −
ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や読書環境等に及ぼす影響
を受けていない無群の方が,統計的に有意に長くゲー
6)子どもの図書館利用習慣
ムに従事していることが示された(平日:F=7.85,
子どもの図書館利用頻度を「よく利用する」
「時々利
休日:F=9.35, df=1/282, p<.01).
用する」
「たまに利用する」
「利用しない」の 4 段階で
回答してもらい,その割合をブックスタート経験の有
5)保護者の図書館利用習慣
無条件毎に算出した(図 9).ブックスタート経験の
保護者の図書館利用頻度を「よく利用する」
「時々利
有無にかかわらず,
「ときどき利用する」や「たまに利
用する」
「たまに利用する」
「利用しない」の 4 段階で回
用する」という回答が多かった.子どもの図書館利用
答してもらい,その割合をブックスタート経験の有無
に関しては,保護者の図書館利用の結果とは異なり,
条件毎に算出した(図 8).ブックスタート有群では「た
ブックスタート経験の有無による統計的な有意差は認
まに利用する」と回答したものが 38.7 %と最も多く,
められなかった.
ブックスタート無群では「利用しない」と回答したもの
「ときどき利用する」
が 40.3%と最も多かった.また,
7)子どもの本の所有冊数
という回答は有群のほうが無群よりも高かった.これ
「20 冊
子ども所有の本が何冊あるかを「30 冊以上」
らのブックスタート有無による違いは統計的にも有意
「10 冊未満」
「なし」の 5 段階で回答
以上」
「10 冊以上」
2
であった(χ =12.925, df=4, p<.05).
してもらい,その割合をブックスタート経験の有無条
件毎に算出した(図 10).ブックスタート経験の有無
㪈㪇㪇㩼
にかかわらず,子どもの本を 30 冊以上所有している
㪉㪈㪅㪊
㪍㪇㩼
ものが多かった.
ブックスタート有無で比較をすると,
㪋㪇㪅㪊
㪏㪇㩼
ブックスタート有群の方が 30 冊以上や 20 冊以上と回
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䉋䈒೑↪
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答したものの割合がやや多く,10 冊未満と回答した
ものの割合がやや少なかったが,統計的に有意な差は
みられなかった.
㪈㪋
所有する本の具体的な内容については,今回,調査
㪈㪎㪅㪋
㪈㪌㪅㪌
を行わなかったが,興味のある本のジャンルに若干の
᦭⟲
㩿㪥㪔㪈㪌㪌㪀
ή⟲
㩿㪥㪔㪈㪉㪐㪀
㪉㪇㩼
㪇㩼
違いがみられたことを考えると,所有する本のジャン
ルにも差がみられるかもしれない.
図 8 保護者の図書館利用の頻度のブックスタート有無
による比較
㪈㪇㪇㩼
㪏㪇㩼
㪏㪅㪋
㪊㪊㪅㪌
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㪇㩼
図 9 子どもの図書館利用の頻度のブックスタート有無
図 10 子どもの本の所有冊数のブックスタート有無に
による比較
よる比較
− 65 −
仁愛大学研究紀要 人間学部篇 第 10 号 2011
8)保護者による子どもへの読み聞かせ習慣
上述のとおり、乳児期に親子でブックスタートを体
保護者による 1 週間当たりの読み聞かせの頻度を
験することで,子どもの読書時間(頻度)が増加する
「週 2 ∼ 3 日」
「週 1 日」
「しない」
「毎日」
「週 4 ∼ 5 日」
とともにゲーム従事時間が減少するなど,子どもの生
の 5 段階で回答してもらい,その割合をブックスター
活習慣に影響を及ぼすことが示された.読書は,思い
ト経験の有無条件毎に算出した(図 11).ブックス
やりや共感(e.g. 佐々木,1998;新田・宮本 ,2010),
タート経験の有無にかかわらず,保護者による子ど
漢字の読み書きなど(e.g. 古川 ,1994),想像力や集中
もへの読み聞かせの頻度は「週 1 日」という回答が最
力など(e.g. 松尾 ,2002)を高めるなど,子どもの発達
も多かった.ブックスタートの有無による比較をする
において多方面に影響することが考えられている.ま
「し
と,
「週 2 ∼ 3 日」という回答は有群の方が多く,
た,テレビゲームも,攻撃性(e.g. 井堀ら ,2008),自
ない」という回答は無群の方が多いという結果であっ
己効力感(e.g. 新田・城 ,2002),シャイネス(e.g. 梅
2
た(χ =10.816, df=4, p<.05).
原ら ,2002)など,子どもの発達にさまざまな影響を
及ぼすことが示唆されている.それゆえ,ブックス
㪈㪇㪇㩼
㪏㪇㩼
㪍㪇㩼
タートが小学入学後の生活習慣に影響することで,子
㪉㪍㪅㪏
㪊㪎㪅㪐
㪋㪊㪅㪊
㪉㪉㪅㪐
㪋㪅㪍
㪇㩼
れる.
䈚䈭䈇
㪋㪇㩼
㪉㪇㩼
どもの育ちに少なからず影響を及ぼす可能性が考えら
㪊㪎㪅㪇
㪐㪅㪋
㪎㪅㪏
㪌㪅㪌
᦭⟲
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ή⟲
㩿㪥㪔㪈㪉㪎㪀
ㅳ䋱
一方で,
乳児期にブックスタートを経験することで,
ㅳ㪉䍃㪊
保護者の図書館利用頻度が高まったり,保護者による
ㅳ㪋䍃㪌
子どもへの読み聞かせの頻度が高まったりするなど,
Ფᣣ
保護者の行動が変化することが示された.
前段で,ブッ
㪋㪅㪎
クスタート経験により子どもの読書習慣が増加するこ
とを述べたが,これらには当然に保護者の行動という
読書環境の違いが影響していると考えられる.
図 11 保護者による読み聞かせの週当たり頻度のブッ
保護者の関わりで子どもの習慣が変わり,子どもの
クスタート有無による比較
成長に影響を及ぼすとなると,逆に保護者に対して早
期教育などの焦燥感や不安感などを引き起こす危険性
考 察
もある.そもそも,ブックスタートの目的は早期教育
本研究では,ブックスタートが子どもの生活習慣や
ではなく,親子が絵本を介してゆっくり心ふれあうひ
読書環境等にどのような影響を及ぼすかを検討するた
とときをもつきっかけをつくることである.ブックス
めに,小学 1 年生の保護者にアンケート調査を行った.
タートをすることにより,かえって負担を与えない
本研究の結果を要約すると,ブックスタートの効果と
ように十分留意することも重要である.これまでに,
しておおむね次のような結果が示された.すなわち,
ブックスタートや読み聞かせなどの取り組みが保護者
ブックスタートにより:
の育児不安を軽減するという研究もあるが(e.g. 伊藤,
①子どもの読書習慣が高まる.
2011),今回の調査では保護者の育児不安や負担感な
②子どものさまざまな本への興味が高まる.
どの心理状態は調べなかった.今後,保護者の心理に
③子どものテレビ視聴習慣には影響しない.
焦点を合わせた研究も望まれる.
④子どものゲーム習慣が抑えられる.
今回の検討では,小学校 1 年生時点では,ブックス
⑤保護者の図書館利用習慣が高まる.
タートの経験により,読書習慣やゲーム習慣などの生
⑥子どもの図書館利用習慣には影響しない.
活習慣に影響を及ぼす可能性が示唆された.これが小
⑦子どもの本の所有冊数は多くなる.
学校 1 年生以後においてどのように変化するのか,よ
⑧保護者による読み聞かせが多くなる.
り長期的な視点による検討を行うことで,ブックス
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ブックスタート経験の有無が子どもの生活習慣や読書環境等に及ぼす影響
たら 岩波書店
タートの意義をより客観的に明らかにすることができ
NPO ブックスタート 2011 ブックスタート各地の活動
るであろう.
(Web ペ ー ジ http://www.bookstart.net/local/index.html 2011 年 11 月 30 日付)
佐々木 良輔 1998 「思いやりの気持ち」に与える読書の影
謝 辞
響 読書科学 42(2), 47-59.
本研究は,福井県大学連携リーグ研究推進事業の補
梅原宣子・坂元章・井出久里恵・小林 久美子 2002 テレ
ビゲーム使用がシャイネスに及ぼす影響:中学生の縦断
助を得て行った.
データの分析 性格心理学研究 11(1), 54-55.
調査の回答にご協力いただいた保護者の皆様,研究
実施に際しさまざまなご協力・ご示唆をいただいた福
Wade B. & Moore, M. 1998 An early start with books:
井市みどり図書館(農中仁美氏)
・大野市図書館(乾孝
子氏)・越前市中央図書館(大西美保氏)に対して感謝
致します.
引用文献
秋田 喜代美・横山 真貴子・ブックスタート支援センター 2002 ブックスタートプロジェクトにおける絵本との出
会いに関する親の意識(1):4 ヵ月時でのプロジェクトの
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古川義和 1994 学童期の読書体験の影響について 日本
教育心理学会総会発表論文集(36),448.
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原崎聖子・篠原しのぶ 2006 母親の乳幼児養育に関する
調査: ブックスタート事業 18 ヶ月児を中心に 福岡女学
院大学紀要(人間関係学部編)7, 23-28.
原崎聖子・篠原しのぶ・安永可奈子 2007 母親の乳幼児
養育に関する調査:ブックスタート事業 36 ヶ月児を中心
に 福岡女学院大学紀要(人間関係学部編)8, 73-82.
井堀宣子・坂元章・渋谷明子 2008 テレビゲームが子ど
もの攻撃行動および向社会的行動に及ぼす影響―小学生
を対象にしたパネル研究 デジタルゲーム学研究 2(1),
34-43.
伊藤由美 2011 母親による胎教の動機づけとしての絵本
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松尾直博 2002 中学生が認識した読書の心理的影響 日
本教育心理学会総会発表論文集(44),645.
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小学生を対象に 日本教育心理学会総会発表論文集 380.
新田まや・城仁士 2002 テレビゲームが小中学生の自己
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NPO ブックスタート(編) 2010 赤ちゃんと絵本をひらい
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literacy and mathematical evidence from a longitudinal
study. Educational Review, 50(2), 135-145.
仁愛大学研究紀要 人間学部篇 第 10 号 2011
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