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コンパクトフリー型トルクダイオード

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コンパクトフリー型トルクダイオード
NTN TECHNICAL REVIEW No.77(2009)
[ 製品紹介 ]
コンパクトフリー型トルクダイオード
Compact Free type Torque Diode
糸 見 正 二* Shoji ITOMI
NTNは,入力軸から出力軸へ動力を伝達するが,出力軸が駆動される場合は入力軸へ
動力が伝達されないフリー型トルクダイオード(TDF)を既に開発済みである.この
度,TDFを小型・軽量化したコンパクトフリー型トルクダイオードを開発したので以
下に紹介する.
NTN developed Free Type Torque Diode that has function to rotate output shaft by turning the input
shaft , but not to rotate the input shaft by turning the output shaft. Recently ,NTN has developed
small and light Free type Torque Diode ”Compact Free type Torque Diode”.
This report introduces structure and function of this product.
1. まえがき
フリー型トルクダイオード(TDF)は回転機器の電動
と手動の自動切換えや,モータの安全・保護機構とし
て幅広く採用されている.更なる用途拡大として小型
精密機器への適用可能な「コンパクトフリー型トルク
ダイオード」を開発した.
2. 寸法と特徴
開発品
図1 開発品と現行品のサイズ比較
Comparison of size of developed product
and current product
図1,図2に開発品と現行品のサイズ比較を示す.
開発品は現行品に対して1/3に小型化されている.
10
カム面
開発品
出力軸
φ10
φ10
φ4
φ4
入力軸
16.7
φ30.5
外輪
現行品
現行品
図2 開発品と現行品のサイズ比較
Comparison of size of developed product and current product
*産機商品本部 応用設計部
-83-
NTN TECHNICAL REVIEW No.77(2009)
してトルクが伝達されないタイプを「フリー型」と称
以下に開発品の特徴を示す.
して両者を区別する.
【特徴】
ここでは,フリー型トルクダイオードの入・出力軸
(1)出力軸をカム面にも利用し,外径10mm×
の回転トルク伝達の関係を表1に示す.
10mmのサイズに小型化(従来比1/3)
開発品であるコンパクトフリー型トルクダイオード
(2)ハウジングと入力軸を樹脂化し,28gに軽量化
の構造および動作原理を図3,図4に示す.
(従来比2/5)
(3)摺動部を少なくして,回転トルク※を低減
外輪は,入力軸とトルク伝達可能に連結されており,
(トルク5mN・m以下,従来比1/25)
外輪内周にはカム面が形成されている.保持器は,こ
(※ここでの回転トルクは無負荷時のトルク)
ろとボールを保持し,ボールはばねによって外輪端面
とふた側面に押し付けられる構造となっている.
(4)ハウジングを樹脂化し,ハウジングの取付形状
の自由度大
表1 フリー型トルクダイオードの
入・出力軸の回転トルク伝達の関係
Relation of input and output shaft rotation
of Free type Torque Diode
3. フリー型トルクダイオードの原理
トルクダイオードとは,入力軸からの回転トルクは
入力軸
出力軸
回転
回転
出力軸に伝達されるが,出力軸からの回転トルクは入
力軸に伝達されないという逆入力遮断クラッチであ
(入力軸を回すと出力軸も回転)
る.逆入力の場合に出力軸がロックし入力軸へトルク
回転しない
が伝達されないタイプを「ロック型」,出力軸が空転
ばね
外輪端面
ころ
回転
(出力軸を回すと出力軸のみ回転)
ふた側面
入力軸からの回転入力により,
外輪が回転し,出力軸が回転する
外輪
ボール
両方向回転可能
接触
両方向回転可能
出力軸
入力軸
保持器
図3 入力軸から回転入力する場合
Case of input shaft rotating
ころ
外輪は停止しているので、
入力軸は回転しない
出力軸からの回転入力
接触しない
図4 出力軸から回転入力する場合(入力軸は回転しない)
Case of output shaft rotating (Input shaft not rotating)
-84-
コンパクトフリー型トルクダイオード
次節で,入力軸からトルクを入力する場合と出力軸
4. 耐久試験
からトルクを入力する場合のトルク伝達経路の相違を
説明する.
図5の正逆回転試験機を用い,表2に示す耐久試験
条件にて入力軸を正逆回転して出力軸を回転させ,耐
3. 1 入力軸から回転トルクを入力する場合
久性の確認を行った.
入力軸が回転すると入力軸に連結された外輪が回転
試験結果を表3に示す.11×10 4サイクル運転後
し,保持器は,外輪と同方向に約1/2の速度で回転す
の回転トルク,内部状態およびバックラッシは,運転
る.保持器に保持されたボールは,外輪端面とふた側
前後で大きな変化はなく,良好な結果が得られた.
面を転がり,ころは外輪と保持器の回転速度差によっ
て,外輪のカム面まで移動して外輪カム面と軸の間で
表2 耐久試験条件
Test condition of endurance test
ロックし,出力軸は外輪と一体になって回転する(図
3).
3. 2 出力軸から回転トルクを入力する場合
回転数
100min-1
試験機
正逆回転試験機(図5参照)
運転パターン
出力軸からトルクが入力される場合,ころは保持器
負荷トルク
1s正転,0.5s停止,1s逆転,0.5s停止を
1サイクルとして運転
50mN・cm(両方向トルクリミッタで負荷)
によって外輪カム面に接触しない位置で保持され,こ
温 度
室温
ろは外輪カム面に噛み込まず,出力軸が回転しても入
出力軸
φ4のニードルピンを使用(硬度HRC60以上)
力軸は回転しない(図4).
表3 試験結果
Test results
注)入力軸の回転が止まった後に,入力軸を逆方向に
少し回転することにより,ころはカム面から離れ
運転時間
て図4の状態になり,出力軸の回転は入力軸に伝
無負荷時の
回転トルク
わらなくなる.
内部状況
バックラッシ
11万サイクル(61 時間)
運転前後とも3mN・mで,変化なし
接触部の摩耗は軽微
残存グリースは大きな変化なし
試験前後で変化なし
コンパクトフリー型トルクダイオード
出力軸
入力軸
両方向トルクリミッタ(負荷)
図5 正逆回転試験機
Forward and reverse rotation test machine
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モータ(入力)
NTN TECHNICAL REVIEW No.77(2009)
5. 用 途
カメラ・ビデオのレンズズームのモータ駆動と手動
の切換え等に使用される.
6. まとめ
従来,回転機器の電動と手動の切換えは電磁クラッ
チなどの電気部品,または手動レバーによる回転経路
の切り換えで行っていたが,フリー型トルクダイオー
ドを使うことによりスイッチレスでの自動切換えを可
能とした.
今回開発したコンパクトフリー型トルクダイオード
により,小型機器の電動・手動の自動切換えが可能と
なる.今後は更にコスト低減,性能向上を進めるとと
もに,他の用途にも提案し,省エネルギー機器の開発
に貢献していく.
執筆者近影
糸見 正二
産機商品本部
応用設計部
-86-
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