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講義資料
財政学Ⅰ
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第5回
予算(3)予算過程と予算制度改革
2015年5月8日(金)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
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予算循環(1)
 予算は単年度主義の原則に従って毎年度作成されるが、一つの予算が運営される過程は少なくとも3年度以
上にわたる。この過程は予算循環と呼ばれる。
 予算循環は大きく三つの過程から構成される。
 編成過程:行政府(官僚組織)が予算案を準備する立案過程と、議会で予算案を審議し、予算を成立させる決定過程
からなる。
 執行過程:成立した予算に基づいて行政府が財政を運営していく過程。
 決算過程:行政府が執行した予算の結果を議会に報告し、執行責任を議論する過程。
 予算循環の三つの過程は、それぞれが少なくとも1年間を要するため、予算循環のサイクルは3年間にわたる。
 ある会計年度においては、前年度予算の決算、当該年度予算の執行、次年度予算の編成が同時に行われている(スラ
イド3)。
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予算循環(2)
2012年度
2011年度予算
決算
2013年度
2012年度予算
執行
決算
2014年度
2013年度予算
編成
執行
決算
2015年度
編成
執行
決算
編成
執行
2014年度予算
2015年度予算
2016年度予算
神野直彦『財政学 改訂版』122頁に一部修正
編成
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予算の編成過程(1)
 日本の国家予算の編成は内閣が行い、国会に提出する(日本国憲法第86条)。
 実際には財務大臣が予算を作成するとされているため(財政法第21条)、予算の立案過程は財務省の主導の下に行わ
れる。
 議員立法のように、議員が予算案を提出する制度はない。
 予算の立案過程には、マクロの予算編成とミクロの予算編成の二つの側面がある。
 マクロの予算編成:予算全体の規模を決め、その財源を確保するために税制や公債発行を検討する。
 トップダウンで実施される「上からの」予算編成
 ミクロの予算編成:各省庁からの概算要求を個別に査定して積み上げていく。
 ボトムアップで実施される「下からの」予算編成
 マクロの予算編成は財務省の専権事項
 税収を見積もる権限は財務省の主税局が有し、公債発行に関する権限は財務省の理財局が有する。
 財務省の主計局は税収の見積額に基づき、マクロの予算編成とミクロの予算編成を整合させながら、財務省原案と呼
ばれる予算原案を作成していく。
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予算の編成過程(2)
 概算要求の作成
 各省庁が次年度の予算として財務省に要求する額を策定。5月頃に各省庁の課レベルで、6月頃に局レベルで開始。
 その後、省庁レベルの概算要求がシーリングをにらみつつ、7月から2か月間かけて作成される。
 シーリング:概算要求を作成する際の基準で、財務省が策定し、8月上旬までに閣議了解される。正式名称は「概算要求に当
たっての基本的な方針」。
 作成された各省庁の概算要求は、8月末を期限に財務省に提出される。
 財務省原案の作成
 主計局は9月以降、各省庁から提出された概算要求を査定。また、それに先立って4,5月頃から、主税局や理財局、
他の省庁とも連絡をとりつつ、マクロの予算編成の作業を開始。
 経済財政諮問会議は6月に経済財政運営等に関する基本方針(骨太方針)を示すとともに「予算編成の基本方針」の
原案を作成。「予算編成の基本方針」は12月上旬までに閣議決定される。
 予算編成の最終段階で基本方針が決定されるという「転倒」。1951年度の予算編成方針が7月に決定されたのを最後に、12月に
決定されるのが慣例となる。
 経済財政諮問会議:経済財政政策に関する重要事項について調査審議するために内閣府に設置された機関。内閣総理大臣、財務
大臣、総務大臣、経済産業大臣、日銀総裁、民間議員等から構成される。
 12月中旬に財務省原案がまとめられ、閣議に報告される。その後、各省庁に内示。
 ただし、財務省原案は2010年度予算以降、公表されないことに。
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予算の編成過程(3)
 復活折衝:各省庁は財務省原案の内示を受け、概算要求から減額あるいは拒絶(ゼロ査定)されたもののう
ち、どれを再度要求するかを検討。
 事務折衝:各省庁と財務省の事務レベルで調整。
 大臣折衝:事務折衝で決着がつかなかった場合に、各省の大臣と財務大臣の間で調整。
 復活折衝終了後、予算は閣議決定されて政府予算案となり、通常は1月下旬に国会に提出。
 財政法第27条「内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の一月中に、国会に提出するのを常例とする」
 「下院優先の原則」に基づき、予算はまず衆議院に提出(日本国憲法第60条)。衆議院では財務大臣による財政演説
が行われる。
 財政演説に対して代表質問が行われた後、予算は予算委員会に付託され、審議される。
 予算委員会で採決されると、その結果が衆議院本会議で報告され、議決される。
 衆議院で可決後、予算は参議院に送付され、同様の過程をたどる。参議院が予算を受け取ってから30日以内に議決し
ない場合、予算は自然成立する(日本国憲法第60条第2項)。
 立案過程は10か月の長期にわたるのに対して、決定過程は2か月という短期。
 予算をめぐる利害調整は議会で行われる前に、主として行政府の内部で、政権与党と密接な連携をとりつつ行われる。
予算の執行・決算過程
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 執行過程
 予算が成立すると、内閣に予算の執行権限が付与される。
 内閣は予算を各省庁に配賦し、それを受けた各省庁は、財務大臣の承認を得た支払計画に基づいて支出を行う。
 実際の支出はすべて、国庫金を管理する日本銀行が行う。
 「部局等」あるいは「項」の間で資金を融通する「移用」は、あらかじめ国会の議決を経た場合に限り、財務大臣の承認を得て
行うことができる。これに対して「目」の間で資金を融通する「流用」は、財務大臣の承認が得られれば認められる(財政法第
33条)。
 決算過程
 予算の執行が終わると、各省庁の長は歳入歳出の結果を決算報告書にまとめ、7月末までに財務大臣に送付。
 財務大臣は決算報告書に基づいて決算を作成し、作成された決算は閣議決定を経て、11月末までに会計検査院に送付
される。
 会計検査院:内閣から独立した検査機関。しかし、あくまで国の行政府の一部であり、国会の機関ではない。
 会計検査院の検査を終えた決算は、検査報告を添えて国会に提出される(日本国憲法第90条)。
 歳入額が歳出額を上回り、歳計剰余金が生じた場合は、使途が確定した分を控除して純剰余金を求めた上で、その2
分の1以上を国債の償還財源に充当する。
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予算制度改革の試み(1)
 古典的予算原則の限界
 多元的な利害を充足する必要性
 古典的予算原則は、同質的な利害を代表する議会が行政府をコントロールするために作られた。
 しかし、同質的な利害を有し、「財産と教養」のある一部の市民しか政治に参加しない時代から、大衆も政治に参加する時代にな
ると、議会には様々な利益代表者が送り込まれ、それらの多元的な利害を充足する必要性が発生。
 そのために議会は、行政府の活動を規制するよりもむしろ拡大することで、多元的な利害を充足することを求めるように。
 景気変動に対応するためには、弾力的で機能的な財政運営の必要性
 しかし、予算の編成過程が長期にわたるため、こうした運営には限界。
 単年度主義を厳守していては、長期的な視点に立った財政計画を作成することは困難。
 以上のような理由から、予算原則に例外が生じるとともに、財政運営上の裁量性が行政府に認められることに。
 その結果、「結果責任」という観点から効率性が重視されることに。
 その一方で、議会の地位は相対的に低下し、財政民主主義は脆弱化。
 予算制度改革の方向性
 予算の結果が国民経済にどのような効果をもたらすのかを明らかにする国民経済計算。
 政府が実施する政策を評価する手段としての予算。
 長期にわたる財政計画の作成。
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予算制度改革の試み(2)
 事業別予算:予算を行政責任の単位である所管別にではなく、機能別に分類し、費用・便益分析(costbenefit analysis)を行った上で、費用に比べて便益が最大となるような事業を選択する。
 しかし、費用や便益を正確に見積もることは、恣意性も入り、極めて困難。
 PPBS(Planning-Programming-Budgeting-System):事業別予算をさらに発展させ、アメリカで1961年に
導入。個々の事業目標を数量化するなどして長期計画を作成するplanning(目標計画立案)、それを実施す
るために様々な案の中から最適なものを費用・便益分析により選択するprogramming(実施計画策定)、そ
れを単年度予算に具体化していくbudgeting(予算編成)から構成される。
 しかし、実施困難などの理由により、導入の10年後に廃止。
 ゼロベース予算:前年度予算の実績にかかわらず、新たに政策をゼロから策定し直し、それらを比較検討して
予算配分を行う。
 伝統的な漸増主義(incrementalism)に基づく予算編成では、前年度実績を基準に予算額の増減を行うため、予算の
内容が硬直的になるという批判に対する対応。
 アメリカで導入が試みられるも、策定に膨大な時間と費用がかかるため、失敗に終わる。
 サンセット方式:予算の肥大化を防ぐため、事業の執行に期限を付けておき、期限が過ぎた場合はその継続が
正当化されない限り、自動的に歳出計画が終了する。
 アメリカのいくつかの州政府で採用。
予算制度改革の試み(3)
10
 財政計画の役割
 単年度主義に基づく予算では明らかにならない後年度負担や事後的費用を明確化するとともに、予算が国民経済にどの
ような影響を及ぼすのかを明らかにする。
 しかし、長期の財政計画は、単年度主義に基づく予算のような法的拘束力は備えておらず、あくまで予算の参考資料と
いう性格にとどまる。
 日本における中期財政フレームの作成
 1976年2月に「財政収支試算」(1976~80年度)を発表。
 1981年度以降、後年度負担を推計した「財政の中期展望」を発表。
 2002年度以降は「後年度歳入・歳出への影響試算」に名称変更。
 経済財政諮問会議
 2002~06年:「構造改革と経済財政の中期展望」を発表。
 2007~08年:「経済財政改革の基本方針」を発表。
 2009年:「経済財政の中長期方針と10年展望」を発表。
 2013年:「当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」を発表。
 現代の財政運営においては、財政民主主義を重視する「古典的予算原則」と裁量性や効率性との間で、どのよ
うにバランスをとっていくかが大きな課題に。
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