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地盤 - 都市機能の維持・回復のための調査・研究

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地盤 - 都市機能の維持・回復のための調査・研究
3.2.2
建物のモニタリング(地盤)
(1) 業務の内容
(a) 業務の目的
ビルの揺れを検知するセンサ群、センサデータ転送システム、センサデータに基づいて
損傷度合を即時に評価する健全度モニタリングシステムを構築し、地盤-基礎-建物連成系
を対象とした実験により、モニタリングシステムの検証を行う。さらにこのシステムを、
居住者等の避難や退避行動に対する情報提供手段として活用する仕組みをサブプロジェク
ト③と連携し整備する。
(b) 平成24年度業務目的
・地盤、基礎構造、ライフラインの健全度評価のための計測対象と計測目的を整理したう
えで、各計測に利用できると考えられるセンサおよびセンサデータ転送法を調査する。
・地盤の沈下、杭の傾斜、杭のひずみ、ライフラインの漏えい検知のための地中温度変化
について、沈下計、傾斜計、光ファイバや温度計などを使った測定のためのセンサと無
線通信方式(電波方式や IC タグ方式)によるセンサデータ転送法の候補を選定し、そ
れぞれシステムを組み立てたてたうえで、性能試験によって、損傷度合を即時に評価す
るために必要なデータが得られるかどうかという観点からその妥当性を確認する。ソフ
トを用いて計測データを健全性評価に利用する物理量に変換するとともに、データの読
み取りと表示のためのシステムを構築する。
・既往の技術情報と性能試験結果に基づいて、健全度モニタリングシステム構築用のセン
サおよびセンサデータ転送法を選定する。
(c) 担当者
所属機関
役職
氏名
技師長
藤井
俊二
部長
志波
由紀夫
室長
坂本
成弘
課長
佐藤
貢一
研究員
五十嵐さやか
チームリーダー
長尾
俊昌
課長
船原
英樹
京都大学
准教授
田村
修次
東京大学
准教授
糸井
達哉
東京理科大学
助教
肥田
剛典
(独) 防災科学技術研究所
主任研究員
長江
拓也
株式会社小堀鐸二研究所
統括部長
岡野
創
大成建設(株)技術センター
133
メールアドレス
[email protected]
[email protected]
(2) 平成24年度の成果
(a) 業務の要約
x 地盤、基礎構造、ライフラインの健全度評価のための計測対象と計測目的を整理したう
えで、各計測に利用できると考えられるセンサおよびセンサデータ転送法を調査した。
x 地盤の沈下、杭の傾斜、杭のひずみ、ライフラインの漏えい検知のための地中温度変化
について、沈下計、傾斜計、光ファイバや温度計などを使った測定のためのセンサと無
線通信方式(電波方式や IC タグ方式)によるセンサデータ転送法の候補を選定し、そ
れぞれシステムを組み立てたてたうえで、性能試験によって、損傷度合を即時に評価す
るために必要なデータが得られるかどうかという観点からその妥当性を確認した。ソフ
トを用いて計測データを健全度評価に利用する物理量に変換するとともに、データの読
み取りと表示のためのシステムを構築した。
x 既往の技術情報と性能試験結果に基づいて、健全度モニタリングシステム構築用のセン
サおよびセンサデータ転送法を選定した。
(b) 業務の成果
1) 計測対象と計測目的の整理、センサおよびセンサデータ転送法の選定
a) 地盤モニタリングの目的
建物の機能維持、回復のためには、地震発生後の早期の健全度、被害程度の判断が重要
である。しかしながら、地盤や基礎構造については、建物の傾斜や移動、地盤沈下や噴砂
など地上に現れる現象は観察できるが、杭破損など地中のみに留まる現象を把握するため
には時間と費用を要する。そのため、地上に何らかの被害の現象が現れない場合には大き
な地震後においても地下部分を調査することはあまりない。上下水、電気、ガスなどを建
物に供給するライフラインについても同様である。
写真 1 は 1964 年新潟地震において液状化が発生した地盤に立地していた建物の基礎杭
である。地震後に特に顕著な建物の沈下や傾斜がなかったため、その後継続して使用され
ていたものの、地震の 20 年後に建替えのために地下を掘削したところ、写真のように杭
が大きく損傷し、傾斜していることが発見された。この 20 年の間に大きな地震があれば
地盤・基礎に起因する深刻な被害が生じていた可能性があり、大きな地震がなかったのが
幸いであったと言える。
このような地下に隠れた被害の可能性を検知することが本プロジェクト課題の主目的
である。地震後の地盤、基礎構造やライフラインの健全度を判断するため、モニタリング
システムを構築し、このシステムによって各部位の損傷程度を一次判定として早期に判断
する手法を開発する。
134
写真 1
地下掘削によって初めて分かった杭の被害
1)
b) 過去の地震における地盤、基礎、ライフラインの被害
i) 地盤、基礎の被害
2011 年東北地方太平洋沖地震
2)
では地盤の液状化によって戸建て住宅とライフラインに
多大な被害を及ぼした。杭基礎の被害も報告されているが、その件数は 1995 年兵庫県南
部地震ほどではなかった。また、兵庫県南部地震では日本建築学会で基礎の被害調査を行
い報告書にまとめていることから
3 )、この調査結果に基づいて基礎の被害パターンを分析
する。この調査によると(表 1)、杭基礎については、調査件数 141 件のうち、被害件数が
89 件となっており、その比率が高い。その内訳を見ると(表 2)、杭頭部のクラックや破
損(42%)、杭中間部のクラックや破損(11%)が多く、杭頭露出や杭傾斜も多くみられ
た。また、杭種でみると(表 3)、PHC 杭、PC 杭などのプレキャスト系の杭の被害が顕著
である。
表1
基礎の形式と被害件数
基礎形式
直接基礎
杭基礎
不明
計
表2
あり
8
89
0
97
基礎被害
なし
14
16
2
32
不明
13
36
2
51
計
35
141
4
180
基礎の被害パターン
基礎被害状況
杭頭クラックや破壊
杭中クラックや破損
杭頭露出
杭傾斜
その他(フーチング,基礎ばり,基礎沈下)
不明
計
135
割合(%)
42
11
13
8
25
1
100
表3
杭種の違いによる被害状況
PC
PHC
既製 RC
その他
8
2
1
1
2
14
杭頭破壊
18
12
3
3
5
41
杭頭クラック
12
9
6
2
1
30
杭頭露出
8
5
1
2
5
21
杭中破損
7
6
1
3
17
1
1
杭傾斜
杭中クラック
場所打 RC
基礎ばり破損
計
2
1
1
2
11
基礎ばりクラック
2
1
7
1
基礎沈下
3
3
1
2
2
11
水平ズレ
2
1
1
1
1
6
フーチング破損
1
2
2
4
9
フーチングクラック
2
1
3
1
不明
63
計(件)
ii)ライフラインの被害
1
43
26
13
23
168
4)
過去の主要な地震における上水道、下水道、ガスの被害と復旧状況を表 4 に示す。 液状
化などの地盤変状が発生した場合にこれらのライフラインの被害が大きいことがわかる。
表4
上水道、下水道、ガスの被害と復旧状況
上水道
1978 年
宮城県沖地震
M7.4
1995 年
兵庫県南部地震
M7.3
2004 年
新潟県中越地震
M6.8
2007 年
新潟県中越沖地震
M6.8
2011 年
東北地方太平洋沖
地震
M9.0
管路の破損で 7000 戸
以上が断水、数日程度
で復旧
下水道
部分的な被害
13 万戸が断水、地盤災
害による送水ルートの
遮断
家庭排水設備から
配管、処理場まで大
きな被害。
マンホールの浮上
1453 箇 所 、 管 渠 破
壊 5889 箇所
液状化や地盤変状によ
る管路の被害
液状化や地盤変状
による管路の被害
123 万 戸 が 断 水 、 1.5
か月後に仮復旧
220 万戸以上が断水、5
日で 50%復旧、20 日
でほぼ全面復旧
ガス
ガス管など供給設備に
3500 件の損傷、3 日間
の供給停止
86 万 戸 で 供 給 停 止 、 3
か月後までに供給開始
56800 戸への供給停止、
被害は低圧のねじ継手
鋼管の破損が多い
ガス管への侵入水によ
り復旧に時間がかかっ
た、1 か月後に供給開始
46 万戸への供給停止、1
か月後にほぼ復旧
136
c) 計測対象
本プロジェクトは、建物基礎や地盤の応答などをモニタリングしておくことによって
地震後早期にこれらの被害程度を推定することを目的としており、そのためのシステム
を構築している。すなわち、ここで構築するシステムは、地震後に基礎や地盤の健全度、
被害程度を判定するためのものである。
基礎構造の場合、建物の顕著な傾斜や移動など、基礎の被害に起因する上部構造の被
害や使用上での不具合がない場合、継続使用していても余震によって建物の崩壊に結び
付くケースはみられていない。また、基礎の掘削調査は時間と費用を要するため、従来
は建物傾斜と沈下の測定から基礎の被災度を推定し、その結果に基づいて掘削調査の必
要性や補修の可能性を推定してきた
5) 。本プロジェクトでは建物や地盤の応答と杭の損
傷度合などをモニタリングし、設計情報も利用して基礎の損傷度と被災度を推定する。
これによって従来の傾斜、沈下からの被災度推定の精度高め、掘削調査や補修の必要性
の判断に資するものである。図 1 に基礎の健全度判定フローを示す。例として表 5 に現
状で考えられる被災度レベル、修復レベルと再利用の可能性を示した
6) 。
建物
水平移動、沈下、傾斜などが地盤・基礎の健全度や被害程度を推定するための計測
対象として有効である。
基礎
杭の健全度や被害程度を想定するために、杭の歪、杭の傾斜、杭の損傷などを直接
計測するのが有効である。
地盤
地盤表面の水平移動、地盤の沈下、間隙水圧などが地盤の健全度や被害程度を推定
するための計測対象として有効である。
ライフライン
本プロジェクトで対象となるのは、建物敷地内における ライフライン施設で、地中に
埋設される 上水道、下水道、ガスに限定される。最も直接的な損傷の検知方法として、
液体またはガスの漏えいの検知を目指す。
本プロジェクトの方法
建物傾斜、沈下
→被災度推定
モニタリング
設計情報
従来の方法
基礎損傷度推定
→被災度推定
掘出し調査
補修の必要性を判断
図1
基礎の健全度判定フロー
137
表5
基礎の被災度レベルの判定
被災度
ランク
杭の修復レベル
再利用
無被害
A
修復無し
可能
小破
B
軽微な修復
可能
中破
C
大規模な修復
(不)可能
大破
D
修復不可能
不可能
d) センサおよびセンサデータ転送法
i) 計測用のセンサとセンサデータ転送法
表 6 に建物や地盤の応答と杭の損傷度合などをモニタリングする代表的なセンサと
計測項目を示す。建物や地盤の揺れや変位、液状化程度を計測するための加速度計、
GPS、間隙水圧計、沈下計は、既往の技術として使用されている。従って、本プロジ
ェクトにおける利用に際して技術面を再検証する必要はないと考えられる。一方、杭
の傾斜、歪、ひび割れや破損は基礎の損傷を判定するにあたって十分に確立されたと
言い難いため、計測によって得られるデータの精度を検証することとする。また、高
精度温度計は、ライフラインの損傷を判断するための有効性を検証しておくこととす
る。
表 7 に示すように計測方法には、手動計測、インターバル計測およびトリガ計測が
考えられる。これらの計測方法から計測用センサの動作を確認する。
地中での計測において、センサデータの転送法を有線とすれば確実であるが、施工
時の養生が難しいことや地震時に破損する恐れもあるので、できるだけ地中無線方式
を検討する。地中無線方式には低周波無線帯域と IC タグ帯域があり、表 8 に示すデ
ータ転送法にはそれぞれ得失があるので、性能検証によってセンサデータの転送性能
を確認する。
表6
計測用センサと計測項目
(a) 既往の技術
計測用センサ
計測項目
沈下計
地盤の沈下
加速度計
建物、地盤の揺れの大きさ
GPS
建物、地盤表面の水平移動
間隙水圧計
地盤の液状化
(b) 検証が必要とされる将来技術
計測用センサ
計測項目
傾斜計
杭の傾斜
光ファイバ
杭の歪
光ファイバ AE センサ
杭のひび割れ、損傷
高精度温度計
ライフラインの漏えい
138
表7
計測方法
計測方法
内容
手動計測
手動で計測開始する方法
インターバル計測
一定の時間間隔で自動計測開始する方法
トリガ計測
閾値を超えたら自動で計測開始する方法
表8
データ転送法
データ転送法
内容
x 専用線を使ってセンサと測定器間を直接繋ぎデータ通信
有線
する方法。
x センサと測定器間を長距離(土中で約 100m、海中で約
40m)で無線データ転送する方法。
低周波無線
(8.5kHz)
x 地中や水中でもデータ転送することができるが、転送速
度(75bps)が遅いため、測定データ数が多い場合には転
送に時間がかかる。
無線
x 電磁波の伝送損失が電波より少ない。
IC タグ帯域
x センサと測定器間を近距離無線でデータ転送する方法。
無
x 低周波無線と比較して転送速度(106kbps)が速い。
線
(13.56MHz)
x アンテナから IC タグに無線給電が可能である。
139
測項目と性 能検証
ii) 計測
地盤、
、基礎構造 、ライフラ
ラインの健全
全度評価のた
ために有効 であると考
考えられる測
測定項目
と性能検
検証するシ ステムを図
図 2 に示す。表 9 に示 した本プロ ジェクトで
で性能検証す
するモニ
タリング
グシステム の計測方法
法について示
示す。
図2
表9
測定項目
目と性能検証
証するシス テム
モ
モニタリング
グシステム の計測方法
法
シス モ
モニタリング
グ
計測方
方法
データ
タ転送法
目的
下 x 沈下計
計
x 地盤の沈下
x 傾斜計
計
x 杭の傾斜
x インター バル
計測
x トリガ計
測
x 低周
周波無
線
周波無
x 低周
線
地盤沈下量お
地
および杭の傾
傾斜角
を計測し、
を
無
無線で地上に
に転送す
る。
る
B
x 杭の傾斜
x 傾斜計
計
x インター バル
計測
x IC タグ帯
無線
域無
杭の傾斜角を
杭
を計測し、センサに
セ
取付けた
取
IC タグからボ
ボーリン
グ抗に挿入し
グ
したアンテナ
ナに転
送する。
送
C
x 光ファ
ァ
x 杭のひずみ
み
イバセ
セ
ンサ
x 手 動 計
測
x 有線
線
杭に光ファイ
杭
イバを貼付 けて、亀
裂などによる
裂
る材長方向 のひず
み量を測定し
み
し、損傷場所
所や程度
を推定する。
を
D
x 杭の損傷
x AEセ
セ
ンサ
x 手 動 計
測
x 有線
線
パルス発生機
パ
機で加振し、
、透過波
や反射波を光
や
光ファイバ AE セ
ンサで受信し
ン
して、損傷の
の有無と
位置を検知す
位
する。
E
イ x 高精度
度
x ライフライ
ンの漏えい
い
温度計
計
x 手 動 計
測
x 有線
線
震災後のパイ
震
イプライン を通っ
ている上下水
て
水やガスの漏
漏出を
高精度温度計
高
計で測定し漏
漏えい
の有無を検知
の
知する。
テム
A
項目
センサ
サ
140
2) センサおよびセンサデータ転送法の性能検証、データ読み取りと表示システムの構築
表 9 に示したシステム A~E のモニタリングシステムの性能検証とデータ読み取りお
よび表示システムについて述べる。
a) 地盤の沈下(システムA)
i) センサ
建物の周囲に沈下計を設置し、地震による地盤の沈下量を測定する。沈下計は従
来から用いられてきており、深度ごとに沈下量が測定できる。図 3 左図に示すよう
にロッドを硬質地盤などの不動点に固定し、測定する深度ごとにセンサ(ポテンシ
ョメーター)を設置する。地盤沈下(図 3 右図)が生じた時は、各ポテンショメー
ターも地盤沈下に追従し、各ポテンショメーターの中に入っている回転式差動トラ
ンス変位計が回転することによって地盤の沈下量を測定する。
沈下計にセンサと送信機が一体となった一体型沈下計と別々になった分離型沈下
計の2種類を用いた。一体型沈下計を写真 2、分離型沈下計を写真 3 に示す。また
各沈下計には、データ送信機が接続している。
ロッド
図3
沈下計と沈下計測の原理
データ送信器
データ送信器
沈下計
沈下計
写真 2
写真 3
一体型沈下計
分離型沈下計
ii) 計測方法
計測方法としてインターバル計測で行う。インターバル計測の間隔は、5モード
(3ヶ月毎、毎月、週に 1 回、毎時と毎分)が可能である。
141
iii) センサデータ転送法
地盤の沈下計のシステム構成を図 4 に示す。データ送信器から写真 4 に示す地上
に設置した受信器にデータを転送する。沈下計の性能諸元を表 10 に示す。
地上
受信器
PC
地中
データ送信器
写真 4
受信器
データ送信器
沈下計×1
沈下計×2
一体型沈下計
分離型沈下計
図 4 地盤の沈下計のシステム構成図
表 10
沈下計の性能諸元
沈下計測範囲
1000mm
精度
10mm(沈下計測範囲の 1%)
転送速度
75bps
通信方式
低周波磁界方式 8.5kHz
通信距離
土中で約 100m
iv) 性能試験
沈下計および地中のデータ送信機は、海上空港など飽和地盤の沈下測定で実績も
報告されている。本プロジェクトでは、測定精度とデータ転送性能の確認のために
性能試験を行った。
性能試験では、図 5 に示すようにデータ送信器を完全に水没させた状態で地上の
受信器にデータを送信する方法とし、送信機に2台の変位センサを接続し、No.1 お
よび No.2 の変位計に 100mm と 50mm の変位を与えた。試験状況を写真 5 と写真
6 に、測定結果を写真 7 に示す。No.1 の沈下計のロッドに 100mm、No.2 の沈下計
のロッドに 50mm の沈下量を与えたところ、測定結果は No.1 の沈下計の変位量が
99mm、No.2 の沈下計の変位量が 50mm の測定値が得られた。水中でのデータ伝
送が可能であることと、十分な測定精度であることを確認した。
142
沈下計×2
データ送信器
No.2
50mm
受信器
No.1
100mm
通信距離
約 10m
図5
性能確認試験の概要
No.1
No.1
写真 5
No.1 の沈下計に縮み量 100mm 与えた状況
No.2
写真 6
No.2
No.2 の沈下計に縮み量 50mm 与えた状況
写真 7
143
測定結果
PC
b) 杭の傾斜(システムA,B)
ⅰ) センサ
杭に傾斜計を設置して、地震継続中または地震前後に傾斜角度を測定する(図 6)。
そのための静的傾斜計と動的傾斜計を選定した。静的傾斜計と動的傾斜計の性能を
表 11 に示す。
表 11
地震前
地震後
図6
傾斜計の設置概要
静的と動的傾斜計の性能
静的傾斜計
動的傾斜計
-
±50°/秒
角度測定成分
ピッチ角、ロール角
ピッチ角、ロール角
静止時の精度
±0.2°
±0.1°
動的時の精度
-
±0.5°
角速度
静的傾斜計は計測指示を与えた時点の傾斜角度を測定するものである。地震前と
地震後に測定した傾斜角度の変化から、杭の地震による傾斜を測定する。写真 8、
写真 9 に静的傾斜計の外観と内部構造を示す。
動的傾斜計は常時動作しておりデータを一時メモリに蓄えている。地震が発生す
るとトリガが動作し内部メモリに一定時間(サンプリング 100Hz、継続時間 5 分間)
データを保存する構成としている。写真 10、写真 11 に動的傾斜計の外観と内部構
造を示す。
144
記録用外部メモリ
32kB の 記 録 が 可 能
電気二重層コンデンサ
駆動用電源を保持する
(電池と同様の働きを
する)
加速度センサ
2.2-3.6V で 駆 動
(低消費電力)
Z
Y
X
写真 8
写真 9
静的傾斜計の外観
静的傾斜計の内部構造
X 軸加速度計
Z 軸加速度計
X 軸 ジャイロ
Z 軸 ジャイロ
Y 軸加速度計
Y 軸 ジャイロ
MPU
不 揮 発 性 メモリー
写真 10
写真 11
動的傾斜計の外観
動的傾斜計の内部構造
ii) 計測方法
静的傾斜計の計測方法としてインターバル計測で行う。インターバル計測の間隔
は、任意に設定(180 秒以上の指定)することができる。動的傾斜計の計測方法で
は、インターバル計測とトリガ計測で行う。インターバル計測の間隔は、任意の時
間間隔を指定することで傾斜角度を測定する。また外部からトリガ計測を行う。動
的計測時間は、5 分間(サンプリング 100Hz)で行う。
iii) センサデータ転送法
静的傾斜計を用いたシステム構成を図 7 に示す。静的傾斜計のデータ転送法は、
杭の近傍にあらかじめ設けておいたボーリング孔に通信給電分離アンテナを挿入し
て、杭に設置された静的傾斜センサ付き IC タグから無線でデータを取得する方法
とした。IC タグは、13.56MHz の短波の周波数帯である。通信距離は短いが、傾斜
計に給電できるのが特徴である。
動的傾斜計を用いた構成を図 8 に示す。動的傾斜計のセンサデータ転送法は、沈
下計のデータ転送法と同じ 8.5kHz の低周波無線通信を選定した。
145
図7
静的傾斜センサを用いたシステム構成図
地上無線通信モデ
ム
地上
PC
地中
動的傾斜センサ×3
データ送信器
×3
図8
動的傾斜センサを用いたシステム構成図
iv) 性能試験
静的傾斜計の性能試験
静的傾斜計では、センサに接続した IC タグと、ボーリング孔に下ろして近接さ
せたアンテナの間のデータ転送状況について調べる必要がある。ここでは、ボーリ
ング孔(φ86mm)に入る大きさのアンテナ(76.5mm×230mm×5mm)を新規に
製作し、気中状態のアンテナの指向性について確認した。またアンテナと IC タグ
との間に土および水を挟んで読み取り試験も行った。
まず気中で IC タグとアンテナが完全に正対(水平・垂直ともにズレが 0mm)し
ている場合について試験したところ、通信距離は最大で 235mm であった。次に IC
タグとアンテナに水平・垂直のズレがある場合について、ズレ変位と通信距離の関
係を調べた。その代表的な試験結果を図 9 に示す。IC タグとアンテナのズレが大き
いほど、通信可能な水平距離は小さくなっていることが確認できる。このようなズ
レ位置と通信可能な距離のデータが得られ、今後のシステム設計に反映していく。
次に、IC タグとアンテナの間に土や水が存在した場合の通信性能について試験を
行った。写真 15 に試験の状況を示す。アンテナと IC タグの位置のズレは、0mm
とした。土を段ボール(幅 180mm)に、水をポリ容器(幅 180mm)に各々入れて、
146
これらを挟んで通信を行った。その結果、いずれの場合も気中と同様に通信するこ
とが確認できた。
傾斜計の角度の性能を確認するため、図 10 に 30 分間かけて水平を保持した時の
角度の変化を行った結果である。これより、静止時の精度の範囲にあることが確認
できた。
IC タ グ と の 垂 直 ズ レ :0mm
‐30°
‐15°
0°
15°
‐45°
IC タ グ
30°IC タ グ と の 垂 直 ズ レ :150mm
45°
‐60°
300
アンテナ
IC タ グ と の 垂 直 ズ レ :100mm
1
0 1
0 5
m 0
m
60°
200
100
0
100
200
ア ン テ ナ 中 心 か ら の 水 平 距 離 (mm)
図9
300
ア ン テ ナ と IC タ グ の 垂 直 方 向 ズ レ (mm)
( 水 平 角 度 が 0°の 場 合 )
垂直ズレと通信可能な水平距離の関係
写真 15
試験の状況
3
2.5
2.5
2.0
角 度 ( °)
1.5
2
1.0
1.5
:上端(ピッチ)
:上端(ロール)
:下端(ピッチ)
:下端(ロール)
1
0.5
0.5
0.0
-0.5
0
-1.0
-0.5
-1.5
-1
17:24
17:24
17:31
17:38
17:31
17:38
17:45
17:52
17:45
17:52
18:00
18:07
18:14
18:00
18:07
18:14
時刻
図 10
時刻歴角度変化
147
18:21
18:21
18:28
18:28
18:36
18:36
18:43
18:
時
動的傾斜計の性能試験
動的傾斜計を回転台に取り付け、+10 度から-10 度まで一定角速度(0.07°/秒)
で回転させた。傾斜計のデータを低周波無線通信で送信し、受信モデムで受信して
PC に収録した。サンプリングは 100Hz である。動的傾斜センサ試験の開始前の状
況を写真 12 に、試験終了後の筐体を写真 13 に、データ表示状況を写真 14 に示す。
PC に収録したデータから、+10 度から-10 度まで角度が時間とともに線形に変化し
たことを確認した。動的精度の 0.5 度の範囲内にあることが確認できた。
写真 12
動的傾斜センサ試験 写真 13
動的傾斜センサ試験 写真 14
データ表示状況
の終了後の状況
の開始前の状況
c) 杭のひずみ(システムC)
i) センサ
杭の歪を測定するセンサには、金属管入り光ファイバ歪みセンサ(ピコストレイ
ンセンサ)を選定した。金属管中に光ファイバを挿入し、250mm 間隔で外側から
金属管を押さえつけて(カシメ)光ファイバを固定させたセンサである。光ファイ
バに予め適切な張力を付与する事によってセンサとしての初期感度を確保している。
また、一定の間隔で固定する事によって亀裂発生位置の特定を可能とし、局所的な
大きな伸びの変状によるセンサの破壊を防止している。ピコストレインセンサを、
杭表面または鉄筋に連続的に敷設して、杭のクラックや鉄筋の伸びなどを測定する。
図 11 にピコストレインセンサの設置概要を示す。
写真 16 にピコストレインセンサを示し、図 12 に内部構造の概念図を示す。表
12 にピコストレインセンサと測定器の性能諸元を示す。
光ファイバ
センサ
光ファイバ
センサ
鉄筋
地震前
図 11
地震後
ピコストレインセンサの設置概要
148
写真 16
ピコストレインセンサ
図 12
ピコストレインセンサの内部
構造の概念図
表 12
ピコストレインセンサと測定器の性能諸元
ピコストレインセンサの直線性
測定器の最小ひずみ精度
±0.05%(500μ)
0.01%(100μ)
ii) 計測方法
計測方法として手動計測で行う。
iii) センサデータ転送法
ピコストレインセンサに内蔵された光ファイバを地下階または地上階に設置した
測定器に接続させ、光を用いた通信技術によってデータ転送する。システム構成図
を図 13 に示す。
光ファイバ
測定器
AQ8603
図 13
ピコストレインセンサを用いたシステム構成図
iv) 性能試験
ピコストレインセンサの性能を確認するため、単純引張試験と繰返し試験を行っ
た。試験装置を図 14 に示す。単純引張試験は、0.1%まで単純に引っ張り、その後
±0.1%までを 0.05%間隔で繰返し試験を行った。単純引張試験におけるピコストレ
インセンサで測定したひずみと、変位計の測定から計算したひずみの関係を図 15
に、同様に繰返し試験の関係を図 16 に示す。
測定対象評価範囲において、ひずみ量が 0.2%までの単純引張試験を行った結果、
0.1%まで直線性がほぼ対応し、既知の性能の 0.05%以上確保されていることが確認
できた。さらに繰り返し試験では 0.05%までは直線性を満足した結果となった。従
って、ピコストレインセンサで測定したひずみは、変位計の測定から計算したひず
みと十分な精度で対応していることが確認できた。
149
この部分を
温度補正に使用
測定対象範囲
3m
約 3m
可動端
滑車
約 3m
固定端
滑車
引張試験機
錘
錘
BOTDR
ピ コ ス ト レ イ ン セ ン サ の ひ ず み (%)
0.25
◆ :最大値
■ :平均値
▲ :最小値
:線 形( 最 大 値 )
:線 形( 平 均 値 )
:線 形( 最 小 値 )
0.20
0.15
0.10
y=0.9431x-0.0015
R 2 =0.9935
0.05
y=0.9037x-0.0045
R 2 =0.993
0.00
-0.05
-0.05
y=0.8886x-0.0085
R 2 =0.9898
0.00
0.05
0 .10
0.15
0.20
0.25
試験装置
0.15
ピ コ ス ト レ イ ン セ ン サ の ひ ず み (%)
図 14
0.10
0 .05
y=0.7063x-0.0024
R 2 =0.9960
◆ :最大値
■ :平均値
▲ :最小値
:線 形( 最 大 値 )
:線 形( 平 均 値 )
:線 形( 最 小 値 )
0 .00
-0 .05
-0.10
y=0.6585x-0.003
R 2 =0.9941
-0.15
-0 .15 -0.10 -0.05 0.00 0 .0 5 0.10 0.15
変 位 計 か ら の ひ ず み (%)
変 位 計 か ら の ひ ず み (%)
図 15
y=0.7484x-0.0018
R 2 =0.9958
図 16
単純引張試験のひずみ
繰返し試験のひずみ
d) 杭の損傷(システムD)
i) センサ
杭の損傷を探査する有効な方法としてインテグリティーテストがある。この方法
では、杭頭部を露出させて人力で打撃するため、地盤の掘削が必要になる。本プロ
ジェクトでは、発振子と光ファイバ AE センサを事前に杭に設置することで、地盤
の掘削なしで杭の損傷を探査する方法を開発することを狙っている。発振子を一定
の起振力で制御することができるため、光ファイバ AE センサで受信した地震前後
の小さな応答差から杭の損傷状況について従来のインテグリティーテストより精度
を良く判断出来る可能性を今後検討していきたい。本システムとインテグリティー
テストの特徴
6) を表
13 に示す。
振動子と光ファイバ AE センサの設置状況を図 17 に示す。振動子は 1 台、光フ
ァイバ AE センサは反射波測定用と透過波測定用の 2 台を用意した。図 18 にシス
テム構成図を示す。写真 17 に光ファイバ AE センサと振動子の外観を示す。
150
表 13
本システムと IT 試験の特徴
本システム
インテグリティーテスト
種類
ピエゾアクチュエータ
ハンマー
周波
30~150kHz
-
種類
光ファイバ AE センサ(FOD)
加速度計
周波
10Hz~1MHz
0.7Hz~10kHz
測定距離
ピエゾアクチュエータ出力依存
~60m
杭長測定
可能
可能
杭長の±3%程度
杭長の±5~10%
発振子
受信子
杭長測定精度
発振子
光ファイバ
AE センサ
地震前
図 17
地震後
発振子と光ファイバ AE センサ設置の概要
光ファイバ
AE セ ン サ
振動子
パルサー
トリガ信号
光ファイバ
AE セ ン サ
干渉計
杭
振動波形
オシロス
コープ
光ファイバ
AE セ ン サ
図 18
写真 17
光ファイバ AE センサの外観と
振動子の外観
システム構成図
ii) 計測方法
計測方法として手動計測で行う。
iii) センサデータ転送法
振動子や光ファイバ AE センサのセンサデータ転送法には、高精度な分解能を要
求するため有線方式を採用した。
151
iv) 性能試験
コンクリートブロックを用いた予備試験(ケース1)、建設現場の場所打ち杭を用
いた試験(ケース2)、PHC 杭の破壊試験による損傷検知試験(ケース3)を行っ
た。ケース1とケース2で用いたシステム構成諸元を表 14 に、ケース3で用いた
システム構成諸元を表 15 に示す。
表 14
ケース1とケース2のシステム構成諸元
パルサー
矩形波、最大 400V
干渉計
光源:半導体レーザ(波長 1550nm)
周波数特性:100Hz から 500kHz±1dB
10Hz から 1MHz±3dB
起振用発振子
ピエゾ型発振子
周波数:30kHz,70kHz,150kHz
(ケース2は 30kHz のみ使用)
ハンマー
樹脂製、IT 試験用、金属製
光ファイバ AE センサ
表 15
周波数 70k,100kHz
ケース3のシステム構成諸元
パルサー
正弦波,方形波,ランプ波,ノイズ,任意波形
最大 800V
干渉計
光源:半導体レーザ(波長 1550nm)
周波数特性:100Hz から 500kHz±1dB
10Hz から 1MHz±3dB
高出力型発振子
ピエゾ型発振子:周波数範囲:0.1Hz~5MHz
最大 1000V
光ファイバ AE センサ
周波数 70kHz
ケース1
ケース1の試験体を写真 18 に、試験体諸元を表 16 に示す。材長は、2300mm の
コンクリートの試験体を用いた。試験方法は、図 19 に示すように加振面の発振子
から発生させた起振力がコンクリート内部を伝搬し受信面の光ファイバ AE センサ
で受信した時間差から杭長を確認する試験と、受信面から反射して戻ってきた反射
波を加振面と同じ面に設置した光ファイバ AE センサで受信した時間差から杭長を
確認する試験の2種類を行った。発振子の周波数を 30,70,150kHz の3種類、印加
電圧を 40~400V まで 40V 刻みで 10 段階の起振力に変動させて試験を行った。図
20 に周波数 70kHz の発振子に印加電圧 80V(電圧の 1/15 として図中に表示)の発
振子からの起振力を与えた時の起振面と受信面で測定された波形を示す。この試験
より、受信面(周波数 70, 100kHz)で 520μsec 後に受信し、起振面で 1050μsec
後に反射波を受信した。この時刻を反射波の受信時刻とした理由は、起振面の発振
152
子からの直接波と反射波とが合成され、急激な振幅の減少が確認されたためである。
この反射波の到達時間から算出される部材長は 2.36m(弾性波速度 Vp を 4500m/sec
と推定)となり、実際の部材長とほぼ整合した。
表 16
写真 18
試験体諸元
幅(mm)
850
高さ(mm)
400
長さ(mm)
2300
コンクリート強度(N/mm 2 )
52.6
試験体形状
2300(mm)
受信面
加振面
光ファイバ
発振子
光ファイバ
AE セ ン サ
AE セ ン サ
図 19
発 振 子:ト リ ガ
試験方法
発 振 子 :周 波 数 70kHz
印 加 電 圧 80V
反 射 用 :70kHz
反 射 用 :100kHz
透 過 用 :70kHz
透 過 用 :100kHz
520μsec
図 20
1050μsec
発振子(周波数 70kHz、電圧 80V 時)による起振力を与えた時の透過
と反射の受信波形
ケース2
ケース2では、長い杭への適用性を検討する目的で、工事中の場所打ち杭を対象
に杭長の測定を試みた。杭頭の打撃によって杭先端から戻ってきた反射波を杭頭に
設置した光ファイバ AE センサで受信し、その往復時間から杭長を評価した。図 21
に杭形状、発振子と光ファイバ AE センサの配置を示す。
加振方法として発振子による方法とハンマーによる方法を用いた。発振子の周波
数を 30kHz とし、印加電圧を最大出力の 400V で起振力を与えた。また杭頭の光フ
ァイバ AE センサに周波数 70Hz と 100Hz の2種類を用いた。測定の結果、ハンマ
ーによる加振の方が発振子による加振よりも反射波を明瞭に受信することができた。
この要因として発振子の起振力が十分でなく、ノイズ中に反射波が埋もれたためと
考えられる。図 22 に光ファイバ AE センサ(周波数 70,100kHz)で受信したハン
マーの打撃による波形を示す。これにより杭頭と杭先端間の往復時間は 22.6msec
153
と読み取れた。コンクリートの設計圧縮強度 30N/mm 2 を参考に弾性波速度 Vp を
4200m/sec とすると杭長は 47.5m となり、実際の杭長 49m とほぼ整合した。この
ように振幅が小さな波でも光ファイバ AE センサ で検知可能であり、杭長測定への
適用可能性が確かめられた。しかし発振子の高出力化が必要であることが分かった
ので、ケース3では高出力の発振子を準備した。
49,000
振動子
光ファイバ
AE センサ
光ファイバ
AE センサ
図 21
図 22
振動子
杭形状、発振子と光ファイバ AE センサの配置
IT 用ハンマーによる光ファイバ AE センサの受信波形
ケース3
ケース3では PHC 杭(φ600-A 種-8m)を用いた単純ばり二点載荷による静的曲
げ試験を行い、曲げ試験開始前の杭が健全な状態と、曲げひび割れ発生後における
損傷状態の性能試験を行った。写真 19 に PHC 杭の曲げ試験状況を示す。本システ
ムの発振子に高出力型を用い、振動数 70kHz の光ファイバ AE センサを両端部に設
置した。
図 23 に杭が健全な状態における試験で得られた波形を示す。加振面の発振子で
加振力(印加電圧 30V:電圧の 1/6 として図中に表示))を与えてから杭中を伝搬し
受信面の光ファイバ AE センサで受信されるまでの時刻が 1.76msec 後であった。
弾性波速度 Vp を 4500m/sec とすると、杭長は 7.92m となり、実杭長 8mとよく整
合する結果になった。図 24 に杭中央部に曲げひび割れ(ひび割れ幅 1.1mm)が生
じた時に受信面の光ファイバ AE センサで受信された波形を示す。曲げ試験開始前
154
の受信波形とくらべて、透過波の振幅出力が小さくなっていることが確認できた。
これは、ひび割れが生じたことにより波形の伝搬が一部途絶えたことによるもので
あると推測される。
本システムによる杭の損傷探査の可能性が確認できたため、今後波形や構造解析
を通じて、この手法によるひび割れ位置や損傷程度判別の可能性について検討する
予定である。
高出力型
振動子
受信面
加振面
光ファイバ
AE センサ
発振子
光ファイバ AE センサ
写真 19
PHC 杭の曲げ試験状況
10
トリガー
5
透過側
反射側
0
出力(V)
-5
-10
-15
-20
1.76mse
-25
-30
-35
0
0.001
0.002
図 23
0.003
Time(sec)
0.004
0.005
0.006
試験開始前の測定結果
10
トリガー
5
透過側
反射側
出力(V)
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
0
図 24
0.001
0.002
0.003
Time(sec)
0.004
0.005
0.006
曲げひび割れ(杭中央部のクラック幅 1.1mm)時の測定結果
155
e) ライフラインの漏えい(システムE)
i) センサ
図 25 に示すように埋設された配管のはずれや破損など、ライフラインに損傷が
生じた時に生じるガスや液体の漏えいによる地盤内の微少な温度変化を瞬時に捉え
るものとして高精度温度計を用いた。高精度温度計は、測定器と温度測定プローブ
により構成され、温度分解能 0.001℃、絶対精度として 0.01℃である。漏えいによ
る地盤の微少な温度変化をモニタリングしている事例は、廃棄物最終処分場で実用
化されている。
写真 19 に高精度温度センサ(5 台)、写真 20 に性能試験で用いた発熱体(1 台)
を示す。
図 25
ライフラインの設置配置と地震による損傷模式図
( 参 考 出 典 : http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20120810.html)
写真 19
写真 20
温度測定プローブ
発熱体
ii) 計測方法
計測方法として手動計測で行う。
iii) センサデータ転送法
高精度温度計のセンサデータ転送法には、有線方式を採用した。高精度温度計
を用いたシステム構成図を図 26 に示す。
156
有線(専用線)
ヒータコン
トローラ
発熱体
高精度温度計
高精度温度計
アンプ部
桂砂
計測用 PC
図 26
高精度温度センサを用いたシステム構成図
iv) 性能試験
高精度温度計は確立した技術であるが、ライフラインの設置される地盤内という
条件において、十分な精度で計測しデータ転送できることを確認するために試験を
行った。試験に用いた測定器の性能を表 17 に示す。
表 17
高精度温度計の性能諸元
高精度温度測定器
温度測定プローブ
発熱体
チャンネル数:15
分解能:0.001℃,絶対精度:0.01℃
Pt100,ClassA
直径 3mm,長さ 150mm
最大電力:0.08W
最大発熱時間:10000 秒
試験に用いた容器と断熱材を写真 21 に示す。また温度測定プローブの設置状況
を写真 22 に示す。図 27 に温度計と発熱体の距離と温度変化の関係の性能試験の結
果を示す。横軸に高精度温度計の発熱開始時からの温度変化を示し、縦軸に発熱体
の温度を示している。発熱体の出力は設定可能最大値の 0.08W、加熱時間は 10000
秒とした。発熱体に最も近い距離 100mm の CH1 で、発熱開始約 2000 秒後から、
その他の温度計より顕著な温度上昇が見られる。その後は、距離が近い温度計から、
順番に時間遅れで温度上昇を確認した。また、温度上昇幅も発熱体から近い温度計
ほど大きい温度上昇が確認され、分解能 0.001℃で測定できることを確認した。
図 28 に発熱体から最も遠い CH5(距離 500mm)と、その他の温度計との温度差を
示す。発熱開始後 10000 秒の時点での、発熱体から最も遠い CH5 からの温度差は、
CH1 では 0.03℃,CH2 では 0.01℃、CH3,CH4 では 0.005℃となっており、今回の
実験装置の構成では、発熱体からの距離が 100mm,200mm の温度計で他の温度計
と有意な差が出ることが確認できた。
157
900mm
500mm
断熱材
発熱体
CH1 CH2 CH3 CH4 CH5
100mm 100mm
150mm
珪砂
写真 22
試験状況(容器と断熱材)
12.0
0.050
0.09
11.9
0.045
0.08
11.8
0.040
0.07
11.7
0.035
11.7
0.06
11.6
0.030
11.6
0.05
11.5
0.025
11.5
0.04
11.4
0.020
11.4
0.03
11.3
0.015
11.3
0.02
11.2
0.010
11.2
11.1
0.005
11.1
11.0
20000
0.000
0.10
発熱体出力:0.08W,10000秒
CH1(10cm)
CH4(40cm)
0.01
CH2(20cm)
CH5(50cm)
0.00
0
図 27
5000
12.0
10000
経過時間(秒)
15000
CH3(30cm)
発熱体
発熱体温度(℃)
発熱体出力:0.08W,10000秒
CH5との温度差(℃)
実験開始からの温度変化(℃)
実験状況(上部断熱材設置前)
0
図 28
発熱体と各温度計の時刻歴温度
5000
CH1-CH5
CH3-CH5
発熱体
10000
経過時間(秒)
CH2-CH5
CH4-CH5
15000
11.9
11.8
11.0
20000
発熱体と CH5 を基準にした
各温度計の時刻歴温度
f) データ読み取りと表示システム(システムF)
i) システム構成
建物の基礎等に設置した各種センサ(ひずみ計、AE センサ、温度計等)で測定
したデータを計測・表示用 PC に一括して保存する。タブレット端末の役割として、
計測・表示用 PC に保存されている測定データを表示させものである。
本システムの全体構成の概要を図 29 に示す。設置された各種センサ(ひずみ計、
AE センサ、温度計等)は各センサ専用の測定器/ロガー等を経由して計測・表示
PC に LAN 接続で行う(RS-232 仕様の測定器は Ether-RS232 信号変換器等を使用
して接続する)。計測・表示 PC では各測定器と通信を行い、あらかじめ設定された
内容に従い計測データの収集を行う。計測データの確認・表示は、無線 LAN によ
りタブレット端末等のブラウザを使用する。無線ルータ、計測・表示用 PC 一式は
UPS 経由での電源供給を行い、瞬停およびサージ対策を行う。
158
発熱体温度(℃)
写真 21
温度測定プローブ
無 線 LAN
無線ルータ
SW-HUB 等
タブレット端末
電源供給
UPS
計 測 ・ 表 示 用 PC/ サ ー バ
LAN 接 続
AE 測 定 器
ひずみ測定器
図 29
LAN 接 続
LAN 接 続
RS-232C
温度測定器
全体システム図の概要
ii) PC およびタブレットの仕様
・測定用 PC
メンテナンス更新が簡便に行える OS や周辺ソフトを検討対象にする。
PC 機種
:サーバ用 PC
OS
:Windows
プログラム開発言語 :PHP
・タブレット端末機
機種の OS に依存させない。
測定用 PC の測定データおよび確認したいデータは、インターネットを使って
表示する。
表示端末の役割は、あくまでも表示用とし、計算処理は最小限のものとする。
PC 機種 :ipad、Android 端末、Windows 端末
OS
:iOS、Android4.0、Windows8
表示
:FireFox など各種ブラウザに対応(IE:一部非表示)
タブレット端末機と測定用 PC のシステム概念図を図 30 に示す。
ブラウザ
表示
HTML5
W eb サー
FORTRAN
C
データ
バ
PHP など
ベース
OS
OS
測定用 PC
タグレット
図 30
タブレット端末機と測定用 PC のシステム概念図
159
iii) 計測・表示システム
計測・表示システムは、表 18 に示すように計測データの計測・記録を行う計測
管理プログラムと、計測データの Web 表示を行う Web サーバプログラムの2つに
より構成される。図 31 にシステムのデータフローを示す。
計測管理プログラムにより計測器の個別設定や計測器固有の特殊なプロトコル等
への対応を実現した。また将来、計測器種別の追加や仕様変更があった場合でも
Web サーバプログラムへの影響を最小にすることと可能にした。
Web サーバプログラムはクライアント(ブラウザ搭載端末)からの表示リクエス
トへの応答と計測管理プログラムからの計測データ追加リクエストに応じて DB へ
の記録を行う。
表 18
システムの内容
分類
計測管理
プログラム
Web サーバ
プログラム
主な機能等
測定器毎の個別制御対応
設定 UI
計測データの一次記録等
Web クライアントへの計測
データ表示
計測管理プログラムとの接
続インターフェース
計測データの DB 格納・管理
備考
・ Windows 常駐型アプリケーション
・VisualStudio2008 または 2010 によ
る C 言語アプリケーション
・ PHP5+SQL により作成
・ Web クライアントへは HTML5 を使
用
・ IIS7.0 または XAMP の利用
レスポンス
・ 計測データ
HTML5
Web サーバプログラム
計測データ格納
(PHP+SQL)
SQL-DB
リクエスト
計測データ送信
・ 表示内容
・ 表示項目 等
計測管理プログラム
(Widows アプリケーション)
一次保存
計測データ取得
計測器
図 31
・・・
システムのデータフロー
160
計測器
計測生データ
iv) 上位システムと各システムの動作確認
写真 23 に上位システムとシステム A~E の動作確認試験状況を示す。この試験
により、全てのシステムについて動作することを確認した。
分離型沈下計(2台)
上位システムと無線地盤測定
システム(沈下計)
受信器
上位システムと無線地盤測定
システム(傾斜計)
受信器
上位システムと IC タグ測定
システム
一体型沈下計(1台)
傾斜計(3 台)
上位システムとひずみ測定
システム
上位システムと杭損傷測定システム
上位システムとライフライン損傷検知システム
写真 23
上位システムと各システムの動作確認
161
v) インターフェースフロー
タブレット端末機で表示するインターフェースフローを図 32 に示す。
トップ画面
(サイト選択)
センサー配置
模式図
無線地盤
傾斜計
日選択
(カレンダー
風表示)
時間
選択
経時変化
計測器
選択
経時変化図表示
CSV ダウンロード
設定
最大値,位置表示
最新値
一覧
ベクトル
計測器選択
(最大値)
無線地盤
沈下計
ベクトル
表示
経時変化図表示
CSV ダウンロード
IC タグ
経時変化図表示
経時変化
ベクトル
ひずみ
計測器選択
(最大値)
杭選択
CSV ダウンロード
ベクトル表示
分布図表示
CSV ダウンロード
最大値,位置表示
計測日時選択
杭損傷
経時変化図表示
CSV ダウンロード
弾性波速度,
反射位置表示
ライフライン
経時変化図表示
CSV ダウンロード
図 32
インターフェースフロー
3) センサおよびセンサデータ転送法の選定
地盤の沈下、杭の傾斜、杭のひずみ、杭の損傷およびライフラインの漏えいに必
要なセンサやセンサデータ転送法について、性能試験を実施し損傷度合を即時に評
価するために必要なデータが得られることを確認した。また、ソフトを用いて計測
データを健全度評価に利用する物理量に変換し、データの読み取りと表示のための
システムを構築した。データの読み取りと表示のためのシステムと、各センサおよ
びセンサデータ転送システムを接続し、システム全体の性能試験を行って、各セン
サのデータが読み取りと表示のためのシステムで確実に読み取りと表示ができるこ
とを確認した。
図 33 に構築したシステム全体を示す。
162
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図 33
全体システム
(c) 結論ならびに今後の課題
1)結論
x
地盤、基礎構造、ライフラインの健全度評価のための計測対象と計測目的を整理した
うえで、各計測に利用できると考えられるセンサおよびセンサデータ転送法を調査し
た。
x
地盤の沈下、杭の傾斜、杭のひずみ、ライフラインの漏えい検知のための地中温度変
化について、沈下計、傾斜計、光ファイバや温度計などを使った測定のためのセンサ
と無線通信方式(電波方式や IC タグ方式)によるセンサデータ転送法の候補を選定し、
それぞれシステムを組み立てたてたうえで、性能試験によって、損傷度合を即時に評
価するために必要なデータが得られるかどうかという観点からその妥当性を確認した。
ソフトを用いて計測データを健全度評価に利用する物理量に変換するとともに、デー
タの読み取りと表示のためのシステムを構築した。
x
既往の技術情報と性能試験結果に基づいて、健全度モニタリングシステム構築用のセ
ンサおよびセンサデータ転送法を選定した。
2)今後の課題
地盤・基礎計測センサ性能試験(平成24、25年度の計画内容)
x
地中センサへの充電・給電方法の性能試験:地中に設置したセンサを常時または
地震発生後の必要な時に起動するためには、地中でセンサに給電する必要がある。
そのための地中充電・給電方法を選定し性能試験で性能を確認する必要がある。
x
打音から杭の損傷を判定する打音診断センサについて、性能試験とデータ解析か
ら、損傷度合を判定する手法を開発する必要がある。
モニタリングシステム構築(平成25、26年度の計画内容)
センサで得られたデータから地盤、基礎構造、ライフラインの健全度を評価する方
法を構築する必要がある。評価結果をユーザーに分かり易く伝えるための、表示方
法についても検討する必要がある。
(d) 引用文献
1) 河村壮一、西沢敏明、和田、20 年後の発掘で分かった液状化による杭の被害、日経
アーキテクチュア、1985.7.25
2) 基礎構造の地震被害と耐震設計、2012 年度日本建築学会大会、パネルディスカッシ
ョン資料
3) 阪神・淡路大震災調査報告(建築編―4、建築基礎構造)、日本建築学会
4) 清野純史、地震とライフライン被害、活断層研究、28号、pp95~106、2008.
5) 二木幹夫、上ノ園隆志、中田慎介、建築基礎の被災度区分判定指針及び復旧技術例、
建築研究資料
No90、建築研究所 1997
6) 佐藤貢一、船原英樹、藤井俊二、建物の健全度モニタリング(地盤)に関する研究開
発(その 2)杭損傷検知および地中計測データの転送、日本建築学会大会梗概集、2013
(e) 学会等発表実績
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学会等における口頭・ポスター発表
なし
学会誌・雑誌等における論文掲載
なし
マスコミ等における報道・掲載
なし
(f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定
1) 特許出願
1.発明名称
:杭状態検出システム
出願日
:平成24年10月22日
出願番号
:特願2012-233167
特許出願人 :大成建設株式会社
発明者
2.発明名称
:五十嵐さやか、佐藤 貢一、坂本成弘
:最大変位記録計
出願日
:平成24年12月7日
出願番号
:特願2012-268535
特許出願人 :大成建設株式会社
発明者
3.発明名称
:志波由起夫
:基礎杭評価システム
出願日
:平成25年2月18日
出願番号
:特願2013-029343
特許出願人 :大成建設株式会社
発明者
:佐藤 貢一、五十嵐さやか、坂本成弘
2)ソフトウエア開発
なし
3) 仕様・標準等の策定
なし
(3) 平成25年度業務計画案
・地中に設置したセンサを常時または地震発生後に起動するために必要となるセンサ給電
に関連して、適切な地中充電・給電方法を選定し、性能試験により適用性を確認する。
・打音から杭の損傷を判定する打音診断センサについて、性能試験とデータ解析を実施す
ることから、損傷度合を判定する手法を開発する。
・センサで得られたデータから地盤、基礎構造、ライフラインの健全度を評価する方法と、
評価結果をユーザーに分かり易く伝えるための表示方法を検討し、システムの開発に着
手する。
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