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衣 錦 尚 絅

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衣 錦 尚 絅
い
きん
衣
錦
図書館通信
2003年度第3号
しょう
尚
2003.5.21.
けい
絅
発行:麻布学園図書館部
*「衣錦尚絅」については、図書館入り口のギャラリーに掛けられている額の解説を見てください。
「三国志」の世界にひたってみよう
国語科菅野正則
「三国志演義」は永遠のベストセラー
中国のどこの書店に入っても、古典文学の一番目立つ棚に何種類かの「三国志演義」が置
かれているのが目につく。古典扱いだが、字はすべて現代の簡体字に直してある。この小説
は 14 世紀末、羅貫中という人によって書かれて以来、600 年以上にわたって中国ではほと
んど毎年ベストセラーに近い位置を保ち続けてきたのではないかと思う。これこそ永遠のベ
ストセラーとも言える本だ。日本では、17 世紀末、元禄時代の初めに最初の翻訳本が出版
され、その後現代に到るまで何種類もの翻訳本が出ているし、昭和 14 年から 18 年にかけて、
翻訳というより「演義」の「語りなおし」ともいうべき吉川英治による.独自構成の作品も
生まれた。最近では北方謙三による同様な本が出版されている。これらの本を含めると、
「三
国志演義」は日本でも最も多く読まれている翻訳本であろう。
「三国志演義」とはどういう小説か
この長編小説は、中国の歴史の中で後漢という時代の末期(紀元 184 年)に始まり、後漢が
滅び(220 年)、全土が魏、呉、蜀という三国に分裂し、晋による全国統一(279 年)までの三
国の興亡と英雄たちの活躍を描いた物語である。ただ、この物語のほとんどは蜀を中心に話
が進められている。蜀の君主は紀元前 202 年建国された漢王朝の末裔である劉備である。彼
は幼くして父を失い、母と貧しい暮らしをしていたが、後漢末期の動乱の中で、関羽、張飛
という豪傑と義兄弟の契りを結び、次第に勢力を伸ばしていく。特に諸葛亮(字は孔明)とい
う軍師を得た後は、全国制覇の野望に乗り出した曹操の大軍を、当時長江の中下流域を支配
していた孫権と協力して赤壁の地で破り、遂に今の四川省の地を取り、蜀の国を打ち建てた。
その後、漢滅亡後は漢王を名乗り、魏に奪われた中原の地(黄河の中下流域)奪回を目指すが
志半ばで倒れてしまう。その劉備の志を受け継いだのが諸葛孔明で、蜀の国内を安定させた
うえで、蜀を出て北の山岳地帯を越え魏を撃とうとするが、これも志を果たせずに病で死ん
でしまう。孔明の志は孔明に心酔した姜維に受け継がれたが、蜀はその後暗愚な君主の下で、
遂に魏によって滅ぼされてしまう。
「演義」の底本となっているものと中国の人々の愛着
この物語の底本となっているのは「三国志」という歴史書で、魏が蜀を滅ぼしてまもなく
魏はその武将の司馬氏に国を乗っ取られ、晋という国(紀元 265 年∼ 420 年)が出来るのだが、
この本はその晋の時代に書かれ、その後多くの註が書き加えられた。中国では歴代の王朝が
編纂する正史と呼ばれる公的な歴史書が、王朝が交替する毎に作られる慣習があった。「三
国志」はその正史の一つである。従って登場する人物や出来事のほとんどは実在したもので
あるが、「演義」は小説であるから、色々と場面を作り替えたり、史書には登場しない人物
を登場させたりして、物語をより面白いものにしている。例えば、物語の最大の山場の一つ
である「赤壁の戦い」で、諸葛孔明が七星壇を設けて天に祈り、真冬に東からの風を呼び寄
せ火船による攻撃を可能にさせ、呉軍に曹操の大軍を撃破させるのだが、七星壇の記述など
史書にはないし、物語の初めの方で都の洛陽を焼き、後漢の最後の皇帝である献帝を長安へ
拉致した董卓を殺させるため、董卓と董卓の武将である呂布に近づき、両者を仲違いさせ、
遂に目的を達成する可憐な女性貂蝉も歴史書には出てこない人物である。「演義」は 7 割は
史実、3 割は虚構という歴史の評価もあるようだが、中国の多くの人々は「演義」を通して
三国の歴史を見ているようだ。例えば、中国の歴史上の 4 大美女というのが我々に紹介され
る。そこには歴史書に必ず登場する美女、楊貴妃、西施、王昭君と並び、貂蝉が入っている。
小説の「ヒロイン」が歴史のヒロインに変わってしまっている。そこには中国の人達の「演
義」に対する限りない愛着の深さがある。
「三国志演義」の面白さ
「演義」が長年にわたり人々に読み継がれ、愛されてきた要因を考えてみたい。それは「演
義」の面白さを考えることでもある。その第一は、歴史の転換を背景とした物語の展開の面
白さである。漢王朝の後裔を名乗る劉備は、後漢王朝滅亡寸前という動乱の中で、自分の周
辺に一定の豪傑達を集めたものの、王朝復興の為にたいした働きも出来ず鬱々と日を過ごし
ていたが、この物語の主人公とも言うべき諸葛孔明を得てから大きくその運命を変えていく。
「赤壁の戦い」を契機に劉備の勢力は一気に拡大し、遂に蜀の国を建てそこで漢王を称する
までになる。そうして魏に滅ぼされた後漢王朝復興を目指して戦いを始める。そこでは孔明
の知謀がいかんなく発揮される。そのはらはらする展開は、劉備の死を経て、孔明の中原攻
略の戦い(北伐)においてもますます読者を物語の中に引き込んでいく。第二は、この物語に
登場する豪傑達の豪壮な活躍の面白さであろう。ただ、これについては具体的には触れない
ことにする。第三は、劉備を軸にした英雄豪傑たちの互いの「信義」の強さである。信と義
という言葉は、紀元前 500 年頃、孔子によって唱えられてから中国人のモラルを表す代表的
な言葉となった。信は「うそいっわりがない」、義は「正しい道、正義」という意味で、そ
れぞれ独立して用いられていたが、時代を経るうち二つの概念が一体となり、「信義」とい
う熟語も用いられるようになった。正史「三国志」の諸葛亮伝で、劉備が「三顧の礼」を尽
くし、孔明に初めて会い、現状の社会の急務は何かを問うた時、孔明は「天下三分の計」を
述べ、劉備を評して、「将軍既に帝室の冑、信義天下に著はる」(将軍は既に漢王朝の子孫で
あり、その偽りのない真心と正しさは天下に知れております)と述べている。正史でいうこ
の「信義の心」は、「演義」でも劉備と孔明、その他の武将たちとの関係をつなぐ一貫した
思想ともなっている。いつの世も、戦乱の時代というのは、権謀術策がすべてを律し、保身
と利の為には偽りと裏切りが当然のように行なわれる世界である。そういう世界の中で、
「演
義」は劉備、関羽、張飛という三名の英雄が桃園で義兄弟の契りを結び、乱世の中で、漢王
朝の再興を果たし、戦乱の下で苦しんでいる民を救うため生死を共にしようと誓う所から始
まる。「信義」で結ばれた英雄たちの戦いの始まりである。その後劉備の下に集まる武将の
ほとんどはこの「信義」で結ばれた豪傑であり、特に孔明と劉備の結びつきは特別に固い絆
で結ばれていた。だから劉備は白帝城で死を迎える直前、家族と蜀の国のこと、さらに自分
が果たせなかった漢王朝再興という夢を孔明に託したのである。それを受けた孔明の苦悩と
決意は、最後の遠征となる北伐に出発するにあたり、後主劉禅に奉った「出師表」によく表
れている。この「出師表」は劉備と孔明の深い「信義」の結びつきの吐露とも言える。「演
義」が中国の人々に愛読され続けたのは、そういう伝統的モラルである「信義」で結ばれた
英雄豪傑達への人々の無限の共感とも言える。この心の結びつきを生徒諸君にも味わってほ
しい。
図書館からのお知らせとお願い
その1 第10、11回「麻布名画座」 韓国映画特集
今学期は、秋に予定されている高2学年旅行の韓国コースとタイアップして、韓国映画特
集として麻布名画座を下記の要領で2回実施します。
第10回名画座 上映作品『シュリ』(1999 年)
・日時:5月31日(土、中間試験最終日)、試験終了後
・会場:大視聴覚教室
・作品解説:南北分断という重いテーマを背景に、繰り広
り広げられるハードなアクションと男女の悲しい愛の物
語。日本でも大ヒットしたので、記憶に新しいでしょう。
第11回名画座 上映作品『八月のクリスマス』(1998 年)
・日時:7月9日(水、期末試験最終日)、試験終了後
・会場:大視聴覚教室
・作品解説:韓国で観客のすすり泣きを誘う大ヒットを記
録し、世界の映画祭でも好評を博した。小さな写真館を
経営する青年と交通取締員のラブ・ストーリー。
その2 生徒図書委員会による古雑誌販売
恒例の古雑誌販売は、6月中旬に予定されていますので、もうしばらく待っていてくだ
さい。日程が決まりましたら、図書委員会からお知らせします。
その3 貸し出し資料の返却を! 年度越えの延滞者は貸し出し停止となっています!
今日、春休み特別貸し出しを含め延滞者(1週間以上)に対して督促状を発行しました。
該当者はすみやかに返却を!
新着資料紹介・特集として
今回は特集としての紹介です。以下のものの他にも新着資料がありますが、紙面の都合で紹
介は次回に回します。(マークの説明:「*」→全集・シリーズもの、「※」→寄贈図書)
その1 『プロジェクトX 挑戦者たち』が入りました。
第1期から第5期まで、全 49 巻(DVD 版。1巻のみ VTR 版)です。カウンター横の AV
ソフト書架にあります。
その2
自然科学系(数学、理科を中心に)の本がたくさん入ってきています。
・知のたのしみ学のよろこび/京都大学/岩波書店/ 002-Ky
・ノーベル賞受賞者にきく子どものなぜ?なに?/ Bettina Stiekel /主婦の友社/ 002-S
・Windows はなぜ動くのか/天野司/日経 BP 社/ 007-A
・プログラムはなぜ動くのか/矢沢久雄/日経 BP 社/ 007-Ya
・新しい科学の教科書 2,3 /検定外中学校理科教科書をつくる会/文一総合出版/ 400-A-02,03
・科学史年表/小山慶太/中公新書/ 403.2-Ko
・否定学のすすめ エジソンかアインシュタインになってみないか/浦壁伸周/プレジデント社/ 404-U
・理科年表をおもしろくする本 理科年表読本/宇野正宏/丸善/ 404-U
・理科年表を楽しむ本 理科年表読本/上西一郎/丸善/ 440-U
・講談社ブルーバックス 408-B-1407 ∼ 9
・入試数学伝説の良問 100 良い問題で良い解法を学ぶ/安田亨
・脳を活性化する性ホルモン/鬼頭昭三
・(Q&A)食べる魚の全疑問 /高橋素子
・DNA 鑑定のはなし 犯罪捜査から親子鑑定まで/福島弘文/裳華房/ 408-P-255
・なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか/ Brian Butterworth /主婦の友社/ 410-B
・数学者は城の中?/ Hans Magnus Enzensberger /日本評論社/ 410-E
・大学で学ぶ数学 慶應義塾大学 SFC での実践テキスト!/河添健/慶應義塾大学出版会/ 410-Ka
・楽しもう!数学を 高校数学への再挑戦/河添健/日本評論社/ 410-Ka
・証明の展覧会 1、2/ Roger B.Nelsen /東海大学出版会/ 410-N-01,02
・数学脳をつくる 「よのなか」教科書/岡部恒治/新潮社/ 410-O
・大学でどのような数学を学ぶのか/数学セミナー編集部/日本評論社/ 410-Su
・楽しい数学/数学基礎学力研究会/東京図書/ 410-Su
・高校生に贈る数学ライブ/数学セミナー編集部/日本評論社/ 410-Su
・数学ランド・おもしろ探検/寺田文行/森北出版/ 410-Te
・アリスと旅する不思議な「数」の物語/釣浩康/ PHP 研究所/ 410-Ts
・あなたは数学者 上、下/ David Wells /日本評論社/ 410-W-01,02
・数学センス! 数遊び・組合せ・論理のパズル/Б.А.コルディムスキー/丸善/ 410.7-K
・微分・積分の意味がわかる 数学の風景が見える/野崎昭弘/ベレ出版/ 413.3-No
・史上最大の発明アルゴリズム/ David Berlinski /早川書房/ 418-B
・物理はこんなに面白い/原康夫/日本経済新聞社/ 420-Ha
・現代物理の世界がわかる アリストテレスの自然哲学から超弦理論まで/和田純夫/ベレ出版/ 420-Wa
・クォークの魔法使い 素粒子物理のワンダーランド/ Robert.Gilmore /培風館/ 429.6-G
・絵とき 化学入門/藤谷正一/オーム社/ 430-Fu
・化学は楽しいワンダーランド/上村明男/丸善/ 430-Ka
・シュワルツ博士の「化学はこんなに面白い」/ Joe Schwarcz /主婦の友社/ 430.4-S
・絵とき化学結合の見方・考え方/藤谷正一/オーム社/ 431.1-Fu
・おはなし天文学 1 ∼4/斉田博/地人書館/ 440-Sa-01 ∼ 04
・人はなぜ、夜空を見上げるのか 宇宙物理学の変遷と天才たち/桜井邦朋/ PHP 研究所/ 440.1-Sa
※海を学ぼう 身近な実験と観察/日本海洋学会『海を学ぼう』編集委員会/東北大学出版会/ 452-Ni
・赤ちゃんはスリッパの裏をなめても平気/堀内勲/ダイヤモンド社/ 465-Ho
・世界の食虫植物/食虫植物研究会/誠文堂新光社/ 471.7-Sh
・ゴキブリたちの優雅でひそやかな生活/ Richard Schweid /徳間書店/ 486.4-S
・カラスとかしこく付き合う法/杉田昭栄/草思社/ 488.9-Su
・感覚の地図帳/山内昭雄/講談社/ 491.1-Ya
・からだの地図帳/講談社/講談社/ 491.3-Ta
・健康の地図帳/大久保昭行/講談社/ 491.6-O
・(知っておきたい)身近な薬草と毒草/海老原昭夫/薬事日報社/ 499.8-E
・(図説)からくり 遊びの百科全書/立川昭二/河出書房新社/ 502-Ta
・どうなってるの? 身近なテクノロジー/藤塚光政/新潮社/ 504-Fu
・ナノテクノロジーを追う/辻野貴志/日経 BP 社/ 504-Ts
・ごみは燃やせ リサイクル神話の呪縛を解く、ごみ焼却の経済学/立石勝規/光文社/ 518.5-Ta
・ネットワークはなぜつながるのか/戸根勤/日経 BP 社/ 547.2-To
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