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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「革新的軽量構造設計製造
基盤技術開発プロジェクト」
(事後評価)分科会
資料 5-1
「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発プロジェクト」
(事後評価)分科会
事業原簿
民間航空機基盤技術プログラム
「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発」
事業原簿
担当部署
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
ナノテクノロジー・材料技術開発部
―目次―
概要
プログラム・プロジェクト基本計画
プロジェクト用語集
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1.
NEDOの関与の必要性・制度への適合性 ..................................................................................... 1.1
1.1 NEDOが関与することの意義 .............................................................................................................................. 1.1
1.2 実施の効果(費用対効果) ........................................................................................................................................ 1.4
2.
事業の背景・目的・位置づけ.............................................................................................................................................. 2.1
Ⅱ.研究
開発マネジメントについて
3.
事業の目標 ............................................................................................................................................................................... 3.1
4.
事業の計画内容 ..................................................................................................................................................................... 4.1
4.1 研究開発の内容........................................................................................................................................................... .4.1
4.2
研究開発の実施体制...............................................................................................................................................4.17
4.3
研究の運営管理 ........................................................................................................................................................4.20
5.
情勢変化への対応 ................................................................................................................................................................ 5.1
6.
中間評価結果への対応....................................................................................................................................................... 6.1
7.
評価に関する事項.................................................................................................................................................................. 7.1
Ⅲ.研究開発成果について
8.
事業全体の成果 ..................................................................................................................................................................... 8.1
9.
研究開発項目毎の成果....................................................................................................................................................9.1.1
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
10. 実用化、事業化の見通し............................................................................................................................................... 10.1.1
概
要
作成日
制度・施策(プログラム)名
民間航空機基盤技術プログラム
事業(プロジェクト)名
革新的軽量構造設計製造基盤技術開発
担当推進部/担当者
ナノテクノロジー・材料技術開発部
0.事業の概要
Ⅰ.事業の位置付け・
必要性について
平成16年3月11日
プロジェクト番号
今 林
P99037
茂
経済活動の活性化、生活の質の向上のために、輸送機関の高速化が今後一層進
み、同時に、省資源・エネルギー使用合理化の必要性も年々高まると見込まれる。
これに対応するために、航空機、高速車両、船舶等の軽量化が求められている。
本事業では比強度に優れた材料である CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)及
びアルミニウム合金を主な材料とし、革新的構造設計の適用による部品点数削減
及び一体成形により軽量化を目指す設計・製造基盤技術を開発する。
近 年 発 展 が 目 覚 し く 比 強 度 に 優 れ た 材 料 と し て 、 CFRP 及 び ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 を 主
な対象材料として、航空機等の構造について、部品点数を大幅に削減しつつ、軽
量化と信頼性の向上を目指す革新的軽量構造の設計・製造基盤技術の開発がエネ
ルギー使用合理化、国際競争力強化に必要である。
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
主翼構造の目標は重量軽減率 15%、部品点数 50%減、機首構造の目標は重量軽減率
10%、部品点数 80%減であり、いずれも実物大評価試験による実証と、航空局・FAA 基
事業の目標
準を満足する設計製造技術を確立すること。
主な実施事項
事業の計画内容
H11fy
H12fy
H13fy
H14fy
H15fy
技術動向調査研究
○
○
○
○
○
要素技術開発
○
○
○
○
○
技術実証研究
成果とりまとめ
会計・勘定
開発予算
(会計・勘定別に
実績額を記載)
(単位:百万円)
開発体制
情勢変化への対応
Ⅲ.研究開発成果に
ついて
Ⅳ.実用化、事業化の
見通しについて
Ⅴ.評価に関する事項
Ⅵ.基 本計 画 に関 す る事 項
一般会計
○
○
◎
○
◎
H11fy
0
H12fy
0
H13fy
0
H14fy
0
H15fy
総額
0
0
263
389
390
389
369
1800
263
389
390
389
369
1800
特別会計 (電 多 .高 度 化 .石 油 )
総予算額
経産省担当原課
運営機関
プロジェクトリーダー
製造産業局航空機武器宇宙産業課
新エネルギー・産業技術総合開発機構
(財)日本航空機開発協会(JADC)常務理事 杉村洋一
富士重工(株)、川崎重工(株)、日本飛行機(株)、三菱重工(株)
委託先
再委託先:(独)宇宙航空研究開発機構、(学)金沢工業大学
1)契約方式が委託−再委託型(平成 11∼13 年度)から、平成 14 年、連名型方式に変
わったことにより研究開発実施体制を変更した。ただし、JADC が代表委託先としてプ
ロジェクト全体を統括する推進形態は継続した。
2)機首構造の技術実証試験を静強度試験から損傷特性試験に変更した。部分構造試験
で強度が十分あることが分かり実大強度試験の意義が薄らいだ事と B7E7 等で複合材
料の大幅適用が計画され非破壊検査の重要性が重みを増したことによる。
①主翼:重量軽減 21%(目標 15%)、部品点数削減 55%(50%)、実大静強度試験によ
り FAR 適合性と技術実証を達成。②前縁:重量軽減 6%(5%)、部品点数削減 1/8(1/5
∼ 1/10) 、 実 大 鳥 衝 突 試 験 に よ り FAA 適 合 性 と 技 術 実 証 を 達 成 。 ③ 機 首 : 重 量 軽 減
11%(目 標 10%)、部 品 点 数削 減 82%(80%)、部 分 強度 試 験 及び 損 傷 特性 試 験 によ り
FAA 適合性と技術実証を達成。④与圧胴体パネル:重量軽減 5%(目標 5%)、部品点数
削減 52%(50%)、最軽量設計技術を構築した。
投稿論文
「査読付き」7 件、「その他」70 件
特
許
「出願済」18 件、「登録」2 件、「実施」0 件
環境適合型高性能小型航空機及び B7E7 で航空機への実用化,事業化が具体化した。波
及効果として高速鉄道先頭車両構体,リニアモーターカー,高性能ヨット艇体,高速船
船体,自動車ボディ及びシャーシー,風力発電風車ブレード,体育館天井等への適用。
評価履歴
平成13年度
中間評価実施
評価予定
平成15年度(H16.3)
策定時期
平成11年3月
策定
変更履歴
平成14年3月
変更
事後評価実施予定
民間航空機基盤技術プログラム基本計画
1.目的
欧米等先行諸国の他、アジア諸国も含めた競争激化が進む中、大きな技術波及効
果によって環境をはじめ、情報、材料等の分野に高付加価値を生み出す航空機関連
技術について、戦略的に研究開発を行うことにより、我が国航空機産業の国際競争
力の維持・向上を図る。
2.政策的位置付け
航空機の開発は、先 端 技術と高度な材料・ 部 品等をシステム統合 す る分野であり、
科学技術基本計画 (2 001年3月30 日閣 議決定)等におい て示 されている重点
分野のうち、「材料」、「情報通信」、「環境」、「製造技術」といった要素技術を包含す
る。特に、今後不可避 と考えられる環境負荷 低減を実現するための 技術課題が多く、
地球温暖化対策技術として、「環境」分野と関連する。
なお、科学技術基本計画においては、航空機は国民生活を支える基盤技術として
「 社 会 基 盤 」分 野 に 掲 げ ら れ て お り、 他 の 輸 送 機 器 と と もに 、「 豊 か で 安 心 ・ 安全
で快適な社会を実現するために、社会の抱えているリスクを軽減する研究開発や国
民の利便性を向上させ、質の高い生活を実現するための研究開発を推進すること」
とされている。
また、「産業発掘戦略−技術革新」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方
針2002」(2002年6月閣議決定)に基づき2002年12月取りまとめ)
の「環境・エネルギー」分野における戦略目標(環境・エネルギー技術へのチャレ
ンジを産業競争力の源泉に(技術のグリーン化))、「情報家電、ブロードバン
ド・IT」分野における戦略目標(グローバルな需要予測・調達、リアルタイムの
在庫・物流等の管理、経営情報等の把握・分析に資する統合業務ソフトの普及)及
び「ナノテクノロジー・材料」分野における戦略目標(10年後に、世界市場を主
導できる我が国発の企業をナノテクノロジー・材料分野の‘5つの産業’で創出す
る。)に対応するものである。
3.目標
民間航空機関連技術について、2009年度までに、材料・構造・システム関連
等の中核的要素技術力を一層強化・保持するとともに、機体及びエンジンの完成機
開発能力を獲得する。また、こうした基盤技術力の維持・向上、これらを用いた航
空機・エンジン等の国際共同開発への参画、並びに環境適合等の要請に対応した民
間航空機及びエンジン開発への取組を通じて、我が国航空機関連産業の国際競争力
の強化を目指す。
4.研究開発内容
【プロジェクト】
Ⅰ.中核的要素技術の開発
<材料・構造関連技術>
(1)革新的軽量構造設計製造基盤技術開発
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、精密加工組立技術
等の分野で最先端の技術を有する我が国の技術力を最大限活かし、航空機、高速車
両等の輸送機器の部品点数及び接合部位数を現行の30%以下に低減させ、構造全
体の強度信頼性を低下させずに、飛躍的な軽量化によりエネルギー使用効率を大幅
に向上させる軽量構造設計製造技術を開発する。
②技術目標及び達成時期
2003年度ま でに、 部品点数の削減 (一体 設計ボックス結 合技術 :50%以上
削減、大型一体鋳造・FRP(繊維強化プラスチック)複合技術:80%以上削
減)等により軽量化( 一体設計ボックス結合 技術:15%以上の軽 量化、大型一体
鋳造・FRP複合技術:10%以上の軽量化)を図る。
③研究開発期間
1999年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2001年度に、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(2)次世代航空機用構造部材創製・加工技術開発
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、航空機、高速車両
等の輸送機器への先進材料の本格導入を加速させるため、先進複合材料及び先進金
属材料について部材開発、設計試作及び評価を実施することで、軽量化によりエネ
ルギー使用効率を大幅に向上させる革新的な構造部材の創製・加工技術の確立を行
う。
②技術目標及び達成時期
2007年度ま でに、 複合材料の更な る高効 率・低コスト製 造を可 能とする非 加
熱成形技術等や、 強度 のある軽量構造材 とし て有望なマグネシ ウム 合金の耐腐食成
型技術の確立を図る。
③研究開発期間
2003年度∼2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
<システム関連技術>
(3)航空機用先進システム基盤技術開発
①概要
航空機のハイテク化に対応した、人間の能力と機械による制御を融合させた先進
的な操作システム(先進的手動・電動ハイブリット操縦システム等)を開発する。
②技術目標及び達成時期
2003年度ま でに、 コックピット分 野にお ける革新的基盤 技術と して、先進 的
手動・電動ハイブリット操縦システム開発技術等の確立を目指す。
③研究開発期間
1999年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2002年度に、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(4)将来型航空機運航自立制御支援システム技術研究調査
①概要
次世代の航空機制御システム(各部位・機器の作動状況をモニタリングし、推進
系 ・ 姿 勢 制 御系 に 制 御 信 号 を 出 力 する 制 御 シ ス テ ム ( ソ フト ウ ェ ア )) を 開 発 し、
様々な事故条件下における有効性をシミュレーションするとともに、各種機器との
インターフェースとなるハードウエアの概念設計を行う。
②技術目標及び達成時期
2003年度ま でに、 冗長系によって その安 全性を確保して いる従 来の航空機制
御システムの抜本的な転換を可能とするための技術基盤の構築を図る。
③研究開発期間
2002年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(5)環境適合型次世代超音速推進システム技術研究開発
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、従来の推進システ
ム技術の延長線上から格段に飛躍した革新的な技術を適用することにより、エネル
ギー使用が効率化され、環境適合性にも優れた超音速輸送機用推進システムの実用
化に向けた基盤技術を開発する。
②技術目標及び達成時期
2003年度までに、以下の基盤技術を確立する。
(1) 低騒音化技術
現行ICAO(国際民間航空機関)の規制値より3dB低い騒音レベルを実現。
(2) NOx排出削減技術
超音速巡航時のNOx EI(エミッションインデックス)5g/kg-fuelを実現。
(3) CO 2 排出抑制技術の開発
現状技術を適用した場合と比べて CO 2 排出量 25%削減を実現。
③研究開発期間
1999年度∼2003年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2002年度に、事後評価を2004年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
Ⅱ.機体・エンジンの完成機開発技術
(1)環境適応型高性能小型航空機研究開発(フォーカス21)
①概要
機体の軽量化に必要な革新的な材料技術や、操縦を容易とするために有用な先端
的な情報技術を用いつつ、環境負荷が小さく運航コストが低い小型航空機の開発に
必要な技術の実証、試験を行う。
②技術目標及び達成時期
2005年度頃 までに 搭載技術の開発 ・選定 ・検証を行った 後、2 007年度頃
までに当該技術を搭載 した試作機の設計・製 造・試験を行い、技術 の有効性を実証
する。
③研究開発期間
2003年度∼2007年度頃
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度頃に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(2)環境適応型小型航空機用エンジン研究開発
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、エネルギー使用効
率を大幅に向上し、環境対策にも優れた次世代の小型航空機用エンジンの開発に
とって重要な技術の研究開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2009年度ま でに、 ①エネルギー使 用効率 を大幅に向上す る構造 設計技術(シ
ンプル化技術)、②騒音、NOx 等の環境負荷対応に優れた環境対策技術、③予知予防
制御等のインテリジェ ント化技術、④高バイ パス比化等の高性能化 技術といった要
素技術を開発するとと もに、それらを取り入 れた小型航空機用エン ジンの全機イン
テグレーションを目指す。
③研究開発期間
2003年度∼2009年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2006年度に、事後評価を2010年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(3)小型民間輸送機等開発調査
①概要
航空機産業の自立的発展基盤の確保及び一層の高度化推進の観点から我が国主導
の機体開発を実現するため、小型民間輸送機等の開発可能性を検討すべく、市場調
査とともに全機開発技術の研究を実施する。
②技術目標及び達成時期
2003年度以 降、防 衛庁の次期対潜 哨戒機 (PX)や次期 輸送機 (CX)の開
発機会(2011年度 までの予定)と並行し て市場動向調査やプラ ットフォーム技
術等全機開発に必要な 研究開発を実施するこ とにより、本開発機会 を我が国主導の
民間航空機開発に最大限活用することを目指す。
③研究開発期間
1989年度∼
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に実施。(5年ごとに中間評価を実施。)
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
(4)超高速輸送機実用化開発調査
①概要
移動時間短縮化の要請が強まる中、高速性と環境制約・経済性を両立させるため、
次世代の超高速航空機開発に必要な先端的技術の実用化開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2004年度までに、遷音速域等(マッハ 0.9∼1.5 程度)を飛行する超高速機開
発に必要な機体システ ム、空力設計、構造設 計(高速流体構造、耐 熱複合材料等)
の実用化開発を実施する。
③研究開発期間
2002年度∼2004年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2005年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究開発体制を構築し実施。
【関連施策】
研究開発 成果の 実用 化等を図る ため、 国際 共同による 実機開 発に 対し、航空 機工 業
振興法に基づき助成を行う。
5.研究開発の実施に当たっての留意事項
【フォーカス21の成果の実用化の推進】
フォーカス21は、研究開発成果を迅速に事業に結び付け、産業競争力強化に直結さ
せるため、次の要件の下で実施。
・技術的革新性により競争力を強化できること。
・研究開発成果を新たな製品・サービスに結びつける目途があること。
・比較的短期間で新たな市場が想定され、大きな成長と経済波及効果が期待できる
こと。
・産業界も資金等の負担を行うことにより、市場化に向けた産業界の具体的な取組
が示されていること。
具体的には、成果の実用化に向け、実施者による以下のような取組を求める。
・環境適応型高性能小型航空機研究開発
環境対応に優れ、情報技術を活用した小型航空機の研究開発の成果を踏まえ、市
場動向を見極めつつ、早期に実用化を図る。
なお、適切な時期に、実用化・市場化状況等について検証する。
6.プログラムの期間、評価等
プログラムの期間は2003年度∼2009年度までとし、プログラムの中間評価を
2008年度までに、事後評価を2010年度に行うとともに、研究開発以外のものに
ついては2010年度に検証する。
また、中間評価を踏まえ、必要に応じ基本計画の内容の見直しを行う。
7.政策目標の実現に向けた環境整備
・航空機開発に関連する環境整備(大型試験研究設備の利用等)に向けた関係省庁及
び機関との連携。
民間航空機基盤技術プログラム
革新的軽量構造設計製造基盤技術開発プロジェクト基本計画
1.研究開発の目的、内容及び目標
(1)研究開発の目的
経済活動の活性化、生活の質の向上のために、輸送機関の高速化が今後一層進み、同
時に、エネルギー使用合理化の必要性も年々高まると見込まれ、これに対応するため
に、航空機、高速車輌、船舶等の軽量化が求められている。
現在、これら輸送機器の構造は、強度と軽量化の両立を目指した結果として、多くの
部品点数から成る複雑な構造の集合体となっており、現行技術の延長では軽量化に限
界が見えているが、近年の、複合材料・アルミニウム鋳物等の材料製造技術、合金溶
接等の加工技術、及び、構造設計技術の進歩により、部品点数を大幅に削減して軽量
化する革新的な構造設計・製造技術を確立する可能性を示している。
本 研 究 開 発 は 、 比 強 度 に 優 れ た 材 料 と し て 、 C F R P ( Carbon Fiber Reinforced
Plastic)及びアルミニウム合金を主な対象材料として、航空機等の構造について、部
品点数を大幅に削減しつつ、軽量化と信頼性の向上を目指す革新的軽量構造の設計・
製造基盤技術を開発しようとするものである。
これにより、航空機、高速車輌、船舶等多岐に渡る機械、構造物の簡素化・軽量化・
信頼性向上及びエネルギー使用合理化の改善を通じて、広範な産業分野の活性化と新
規産業の創出に資する。
なお、本プロジェクト基本計画は、技術課題の策定にあたり審議委員会を開催し、関
連技術分野における有識者の議論を反映したものである。
(2)研究開発の目標
平成15年度までに、革新的軽量構造設計の適用による部品点数削減及び一体成形に
より軽量化を目指す設計・製造基盤技術を開発する。主翼構造の目標は重量軽減率1
5%、部品点数50%減、機首構造の目標は重量軽減率10%、部品点数80%減で
あり、いずれも実物大評価試験による実証を実施し、航空局・FAA基準を満足する
設計製造技術を確立する。
(3)研究開発の内容
上記目標を達成するために、以下の研究開発項目について、別紙の研究開発計画に基
づき研究開発を実施する。
①一体成形ボックス結合型構造方式の開発
②大型一体鋳造・FRP(強化プラスティック)複合技術
③革新的軽量構造高効率設計技術
2.研究開発の実施方式
(1)研究開発の実施体制
幅広い産・学・官の研究者の参画を得て,かつ,既存の研究開発用機械装置等を十分に
活用して効率的な研究開発の促進を図る。本研究開発では、新エネルギー・産業技術
総合開発機構(以下「NEDO」という。)によって選定される民間企業等(以下「委託先」
という。ただし、委託先から再委託された大学等研究実施者を含む。)を実施主体とし、
必要に応じて独立行政法人との共同研究を実施し、集中共同研究と分散共同研究を適
切に組み合わせて、プロジェクトリーダーである 財団法人 日本航空機開発協会 常
務理事 杉村 洋一の下に緊密な連携を図りつつ効率的な研究開発を実施する。
(2)研究開発の運営管理
研究開発全体の管理・執行に責任と決定権を持つNEDOは、経済産業省及び研究開
発責任者と密接な関係を維持しつつ、プロジェクトの目的及び目標に照らして適切な
運営管理を実施する。また、必要に応じて、外部有識者の意見を運営管理に反映させ
る。
3.研究開発期間
平成11年度から平成15年度までの5年間とする。
4.評価の実施
NEDOは、技術的及び産業技術政策的観点から見た研究開発の意義、目標達成度、
成果の技術的意義、並びに、将来の産業への波及効果等の観点から、外部有識者によ
る研究開発の中間評価を平成13年度、事後評価を平成16年度に実施する。
平成15年度終了時までに、研究開発目標の一部の特性あるいは機能を有する材料あ
るいは部品について、少なくとも一点を試用あるいは研究に供し得る段階まで作製し、
企業、大学などの外部機関に対して試料を提供する。
5.その他重要事項
(1)研究開発成果の取扱い
①共通基盤技術の形成に資する成果の普及
得られた研究開 発のう ち、下記共通基 盤技術 の形成に資する 成果に ついては、N
EDO、実施者ともに普及に努めるものとする。
②知的基盤整備事業または標準化との連携
得られた研究開 発の成 果については、 知的基 盤整備または標 準化と の連携を図る
ため、データベースへ のデータの提供、並び に、必要に応じて標準 情報(TR)制
度への提案等を積極的に行う。
③知的所有権の帰属
委託研究開発の成果に関わる知的所有権については、「新エネルギー・産業技術総
合開発機構産業技術研 究開発等業務方法書」 第19条の規定に基づ き、原則として、
全て委託先に帰属させることとする。
(2)基本計画の変更
NEDOは、研究開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状況、内外の研究
開発動向、産業技術政策動向、第三者の視点からの評価結果、研究開発費の確保状況
等 を 総 合 的 に 勘 案 し 、 達 成 目 標 を は じ め 基 本 計 画 の 見 直 し を 弾 力 的 に 行 う こ と と す る。
(3)根拠法
本プロジェクトは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(昭和54年法律第4
9号)第21条の2第1号に基づき実施する。
(4)その他
本プロジェクトは平成15年度から「民間航空機基盤技術プログラム」のひとつに 位
置づけられたことから、プログラムに含まれる各プロジェクトと連携しつつ研究開発
を進めるものとする。
6.基本計画の改定履歴
(1) 平成11年2月、制定
(2) 平成14年3月、中間評価の結果を受け研究開発項目の見直し等、改訂。
(3) 平成15年3月、民間航空機基盤技術プログラムへの改編、研究体制の再編を受
け、改訂。
(別紙)研究開発計画
研究開発項目①「一体成形ボックス結合型構造方式の開発」
1.研究開発の必要性
航空機、高速車両等の金属を材料とする軽量構造物は、骨組、薄板等のビルドアップ方
式によって、軽量化と高強度化を実現してきた。さらなる軽量化を目指し、ビルドアップ
構造方式を維持しながら、比強度の高いアルミニウム合金あるいは複合材料への置き換え
による軽量化も進められているが、限界に達しつつある。
一層の軽量化を達成するためには、構造そのものの見直しが必要であり、先進複合材料
の一体成形特性を生かした構造部材を製作し、これを全体構造に組み上げる新概念の構造
方式を導入することで、部品点数の削減及び軽量化を達成することができる。そのために、
一体成形型CFRP部材の継ぎ目のない成形技術、一体複合部材構造の最適設計技術及び
部分構造の製作・試験等の研究開発を行う必要がある。
また、物が衝突する先端部等には複合材料が使えずアルミニウム合金等の金属材料を使
用する。金属部材の現状の欠点である、部品の多さに伴う製造工程の複雑さや信頼性低下、
及び、リベット結合による重量増加や重なり部分の腐食し易さを解決するために、薄肉精
密鋳造、超塑性加工及び溶接技術を組み合わせた一体成形構造の開発が必要である。
2.研究開発の具体的内容
複雑な構造の各部位を大括りの箱型単位で分割して捉え、先進材料を用いた一体成形に
より継ぎ目の全くない(シームレスな)ボックス構造の組合せで全体構造を成形する、全
く新しい概念の構造方式を開発する。
(1)結合ボックスビーム
・ コンピュータによるCFRP部材成形シミュレーション技術を開発し、これを治具設
計及び製造プロセス改良等に反映させて、多様な複合材構造に対応できる成形技術を
開発する。
・ 複合部材テーラリング設計及び部品点数削減一体化構造設計により、多様な複合材構
造の重量、強度及び剛性の最適化を行う設計技術を開発する。
・ 部分構造レベルで一体成形型CFRPボックス構造供試体を製作し、上記開発技術の
検証を行うとともに、耐空性要求等に合致する試験を行う。
・ 複合材料が適用できない支持金具等には、薄肉精密鋳造による部品点数削減及び軽量
化技術を開発する。
・ CFRP部材と金属部材との異種材料組合せ部について、結合技術及び防食技術等を
開発する。
・ 上記の各要素技術を組み合わせて、小型旅客機の主翼相当の構造体を試作し、強度試
験等を実施し、構造設計・製作上の問題点を抽出し、対処する。また、上述の試験結
果等を反映した主翼構造を製作し、更に広範囲かつ高度の強度試験等を実施して達成
目標を満たすことを評価・確認する。
(2)超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ構造
・ 物が衝突し複合材料が使えない主翼前縁など先端部構造の部品点数削減及び重量軽減
を行うため、アルミニウム合金の薄肉精密鋳造、超塑性加工及び溶接を組み合わせた
一体成形技術を開発する。
・ 部分構造供試体を製作し、上記開発技術の検証を行うとともに、耐空性要求等に合致
する試験を行う。
3.達成目標
(1)結合ボックスビーム
・ 複合部材製造に用いる治具設計及び製造プロセスに、開発される成形シミュレーショ
ン技術の成果を反映し、製造の初期から量産並の品質の安定を達成させるとともに、
治具の改修等に要する開発期間を15%削減、開発コストを20%削減する。
・ 現状のアルミニウム材料ビルドアップ方式主翼ボックス構造と比較して、部品点数で
50%減、かつ、耐空性等の設計要求条件を満足する一体成形型CFRPボックス構
造の設計・製造技術を確立する。
・ 従来の板金組立て構造と比較して、重量軽減10%、部品点数1/10で、鍛錬材と
同等の信頼性・構造強度を有する薄肉一体化鋳造品の設計・製造技術を確立する。
・ 革新的要素技術を盛り込んだ主翼構造を製作し、実機開発時相当の評価試験を実施し
て性能を確認することにより、航空局・FAA等の機関が定める基準を満足する設
計・製造技術を確立する。
・ 主翼構造全体では、重量・強度の最適化により従来構造に対し、15%の重量減、部
品点数50%減を目標とする。
(2)超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ構造
・ 現状のリベット結合によるアルミニウム合金前縁構造と比較して、5∼10%の重量
軽減、部品点数1/5∼1/10、かつ、耐空性等の設計要求条件を満足する一体化
組合せ構造の設計・製造技術を確立する。
(別紙)研究開発計画
研究開発項目②「大型一体鋳造・FRP(強化プラスティック)複合技術」
1.研究開発の必要性
構造体の軽量化を図るためには、部材の継ぎ手部重なりを省略した一体構造化が有効な
手段である。金属材料及び複合材料ともに一体成形技術があるが、構造材の用途に応じて
両者の利点を使い分けて構造全体を製作した方が部品点数削減及び重量軽減に有利な場合
がある。例えば、航空機の機首構造では、多数の操縦装置や電子機器を取り付ける内部構
造部材は金属材料による一体化構造が有利であり、外部形状を形成する滑らかな大型補強
外板は複合材料による一体成形構造が有利である。
現状の部品組立方式による大型構造金属部材は、部品の多さに伴う製造工程の複雑さや
信頼性低下、及び、リベット結合による重量増加や重なり部分の腐食し易さといった欠点
を有する。これらの問題を解決するためには、大型一体複雑形状の精密鋳造技術及び高精
度・高品質結合による一体化が可能な摩擦攪拌接合等の溶接技術の開発が必要である。
先進複合材料の一体成形特性を生かして大型外板構造を製作することで、部品点数の削
減及び軽量化を達成することができる。そのために、一体成形型CFRP部材の高精度成
形技術、一体複合部材構造の設計技術及び部分構造の製作・試験等の研究開発を行う必要
がある。
2.研究開発の具体的内容
上記軽量構造を達成するため、次の高精度一体成形技術を開発する。
・ 航空機主要部材に適用できる鋳造材料及び鋳造工程につき、それらの高度な管理によ
る高品質鋳造技術及び低歪熱処理技術に立脚した薄肉大型精密鋳造構造要素の設計・
製造技術を開発する。例えば、従来170個の部品をリベットで組み立てていた耐圧
床支持構造を、本技術により1個の一体化部品にすることができる。
・ 航空機主要構造に適用できるアルミニウム合金の摩擦攪拌接合技術を開発し、継ぎ手
の強度等の設計データを取得し、リベットレス接合構造に関する設計・製造技術を開
発する。
・ コアと外皮からなるCFRPサンドイッチ部材技術を開発し、多様な複合材構造に対
応できるCFRP部材の高精度成形技術を開発する。
・ プラスチックコアCFRP面板の一体成形サンドイッチ構造供試体を製作し、上記開
発技術の検証を行う。
・ 金属部材とCFRP部材との異種材料組合せ部について、構造要素試験を実施し、加
工技術、結合技術を開発する。
・ 小型旅客機の機首構造相当の構造体を試作し、強度試験等を実施し、構造設計・製作
上の問題点を抽出し、対処する。
3.達成目標
・ 従来の板金組立構造と比較して、重量軽減10%、部品点数1/10で、鍛錬材と同
等の信頼性・構造強度を有する薄肉大型一体鋳造品の設計・製造技術を確立する。
・ 現状のリベット結合による組立構造と比較して、部品点数で1/2∼1/4、重量で
10%以上減少するアルミニウム合金の摩擦攪拌接合に関する設計・製造技術を確立
する。
・ アルミニウム材料骨組・薄板外板組立構造と比較して重量軽減20%、部品点数1/
5∼1/10、かつ、疲労に強く断熱性・遮音性に優れる一体成形CFRPサンド
イッチパネルの設計・製造技術を確立する。
・ 革新的要素技術を盛り込んだ機首構造を製作し、実機開発時相当の評価試験を実施し
て性能を確認することにより、航空局・FAA等の機関が定める基準を満足する設
計・製造技術を確立する。
・ 機首構造全体では、革新的要素技術を組み合わせることにより、従来構造に比べて重
量10%減、部品点数80%減を目標とする。
(別紙)研究開発計画
研究開発項目③「革新的軽量構造高効率設計技術」
1.研究開発の必要性
新しい溶接技術が開発され、これまでできなかった強度が高い2024、7075、
7050などの高力アルミニウムの溶接が可能になった。溶接構造は、従来のリベット結合構造
に比べ縦通材やフレーム等による継ぎ手を減らすことができ、大幅な部品点数の削減ができる。
反面、剛性に寄与していた縦通材、フレーム等がなくなることにより剛性が低下し座屈を早期に
起こし軽量化が難しくなる。従って、軽量化のためには部材の薄肉化が必要であり、従来どおり
の強度を維持し、かつ剛性の低下を防ぐためには新しい構造様式を考案するとともに、その設計
法を開発する必要がある。
また、複合材料の強度は、アルミニウム合金などの金属材料に比べばらつきが大きいため、複
合材構造の高信頼性を高めるためには強度予測が必要であり、特に長期間使用する構造には長期
耐久性を保証する寿命予測技術が必要である。現時点では、信頼性の高い複合材料の寿命予測法
がなく、実時間の繰返し負荷による疲労試験を行って、その結果から必要寿命を保証している。
このため寿命保証には、長期の試験時間と多大な費用がかかっており効率的な方法とは言えない。
また、複合材料の強度のばらつきを考慮すると、たった1個の供試体の試験結果にもとづく寿命
には、信頼性が乏しい。高信頼性で効率的な構造設計技術を得るため、加速試験法と長期寿命予
測法の開発が必要である。
2.研究開発の具体的内容
コンピューターによる数値解析手法を用いて部品点数削減一体構造の全体強度評価技術を確立
することにより、強度面の信頼性を低減させずに最も効率的な構造を設計する技術を開発する。
(1)全体強度評価技術開発
従来のリベット結合によるアルミニウム合金組立構造を溶接接合により一体化を行うと、部品
点数の大幅な削減が可能である。しかし、従来のリベット結合構造では縦通材やフレームが剛性
増大に寄与し座屈を抑えることができたが、溶接接合一体成形構造では、縦通材やフレームの数
が激減し剛性が極端に低下する。その結果、強度の高い高力アルミニウム合金を用いているにも
かかわらず座屈が低荷重で発生し強度低下につながる。それを防ぐ為、航空機の胴体与圧構造を
対象に、金属接合技術とコンピューターによる数値解析手法を用いて、全く新しい溶接構造の強
度と剛性のバランス(例えば、強度の限界である引張破壊と剛性の限界である圧縮座屈破壊が同
時に起こる部材寸度及び配置)をとり、効率的に最軽量構造を得る設計技術を開発する。
(2)高信頼性効率的構造技術開発
最近、エポキシ樹脂系の複合材料について加速試験と長期寿命予測が可能な基礎理論が大学の
研究室で構築された。この理論を土台に本格的な研究を行い、短時間の試験と解析により長期寿
命を予測できる技術を開発する。加速試験を行って必要な材料データを取得するとともに、寿命
予測法には信頼性要求を入力してそれを満足する寿命を出力できる機能を取り入れ、信頼性の高
い長期寿命を効率的に保証できる解析技術とする。
3.達成目標
(1) 全体強度評価技術開発
・コンピューターによる数値解析手法を用いて、現状のリベット結合による組立構造と比較して、
部品点数で1/2∼1/4、重量で5∼10%減少するアルミニウム合金の溶接一体化構造を設
計する技術を開発する。
(2) 高信頼性効率的構造技術開発
・加速試験法を導入し、信頼性の高い長期寿命を効率的に予測できる方法を開発する。
プロジェクト用語集
用 語
複合材料の一体成形
三次元織物複合材料
RTM と VaRTM
コボンド
説
明
複合材料は未硬化の母材であるプリプレグを積層・成形
し、温度・圧力をかけて硬化することで製品とする材料で
ある。その特性を活かすことにより、今まで別部品として
製造し組立していた部品を、それぞれの部品を合わせて
セットして硬化することにより、一体としての製造が可能
となる。
一体成形には未硬化同士の部品を硬化するコキュアと硬化
品(RTM硬化品、プルトルージョン等)と未硬化品を硬
化するコボンドの二通りの方法があり、場合によって使い
分けることができる。
一般的複合材料は板厚方向(層間)の剛性・強度が低いと
いう弱点がある。その弱点を克服するため、樹脂含浸法
(RTM法)に用いる強化繊維に板厚方向の糸(Z糸)で
層と層を縫い合わせることで層間強度を上げることを目的
とした材料のことである。
RTM(樹脂含浸)法は乾いた状態の繊維の織物(ドライファ
ブリック)を治具内にセットしそこへ樹脂を流し込み硬化
させて成形する方法である。オートクレーブを用いること
なく成形可能であり、製造コスト低減が可能な成形方法で
ある。
VaRTM(真空樹脂含浸法)とは RTM でのアルミ等の金属の治
具に対して、上型の治具を柔軟なゴムやパックを用い、真
空圧により樹脂を含浸する方法である。金属治具に対して
安価な材料の治具を用いての成形法であり、製造コスト低
減が可能である。
コボンドとは未硬化のプリプレグと硬化済の複合材料部品をセッ
トし同時に硬化することにより一体化する方法である。
それに対して未硬化のプリプレグ部品同士をセットし同時に硬化
する方法をコキュアという。
例えば航空機の翼の外板パネル等を複合材料で製造する際、ス
ティフナー付きの桁をRTM法で成形したものを外板用の未硬化
プリプレグにセットしコボンドすることで外板パネルと桁の一体
化も可能となる。各部品を最適な成形法で成形し、それらを一体
で硬化することができる硬化方法である。
なお、一般的に硬化部品と未硬化部には接着フィルムを挿入する
こととなる。
ボックス構造
航空機の翼のように薄く長い形状で効率的に曲げ荷重に対
(ボックス・ビーム) 抗できる片持ち梁構造様式は、上面及び下面に外板を配
し、その間を板材(桁)で結合した箱型構造である。箱型
をしているのでボックス構造と、また梁構造であるので
ボックス・ビーム呼ばれている。
フォームコア・サンド フォームコアはプラスチックを材料にした硬質発泡体で、
イッチパネル
従来のサンドイッチ構造に用いられるハニカムコアに比べ
て加工が容易で、加熱成形することで複雑な形状にも追従
し易い。この硬質発泡体を心材とし、表面材(本プロジェク
トではCFRP)を両面に接着した板をフォームコア・サンド
イッチパネルと呼ぶ。
コアのマルチサポート 熱可塑性発泡コアでは軟化温度に、ハニカムコアではガラ
成形
ス転移温度に達するとコアの形状成形が可能である。コア
の成形には従来耐熱性のある成形型を準備しコアを加熱し
成形型に押し付けて成形していた。この場合成形形状に応
じた成形型を準備する必要があった。それに対し、マルチ
サポート成形は上下に高さを変えられるサポートを多数並
べることにより成形型を構成し、その型にコアを押し付け
て成形を行うものである。この型により多くのコア成形型
の製作が不要となり低コストコア成形が可能となる。
アルミニウム合金の一 小さい部品を多数結合して大きい構造を作り上げる組立構
体成形
造(ビルドアップ構造)に対し、大きい板そのものを用い
て一挙に一工程で複雑な形状の構造を作り上げてしまう加
工法を一体成形と言う。下記に示す超塑性成型法、薄肉大
型鋳造及び摩擦攪拌接合技術がアルミニウム合金の一体成
形法である。
アルミニウム合金超塑 最近開発されたアルミニウム合金の中に、ある温度条件で
性成形法
大きく伸びる合金がある。この大きい伸びを超塑性と言
う。例えば、5083と命名されている合金は、520℃で100%
近い伸びを示し、元の長さの倍の長さまで伸びる性質があ
る。これは従来の2024や7075合金がせいぜい15%程度しか
伸びないのに対し、非常に大きい伸びである。この大きく
伸びる性質を利用して、凹凸のきつい部品を一工程で成形
する方法が超塑性成形法である。従来のプレス成型法に比
べ複雑な形状部品が製作できる。
砂型法によるアルミニ 鋳造は製作する部品の形を繰り抜いた鋳型に溶融したアルミニウ
ウム合金薄肉大型鋳造 ム材料を流し込んだ後冷却し鋳型を壊して部品を取り出して
技術
製作する。従って、鋳型は壊しやすい材料で作る必要があ
り、砂を用いる方法を砂型法と呼ぶ。最近のアルミニウム合金D35
7は狭い隙間の鋳型に流れ込む性質が良く、従来の材料に比
べ薄肉で大型の部品製作ができる。世界のトップレベルの技術
では、2m大の部品を板厚2mm(従来は5mmが限界)
で製作できる。
インベストメント法に インベストメント法はロストワックス法に代表される精密
よるアルミニウム合金 鋳造法であり、完成製品と同形状のモデル(ワックス、樹
薄肉精密鋳造技術
脂等により造型)の周囲にセラミック等を付着させ、内部
のモデルを焼失させて鋳型とし、内部に生じた隙間に溶融
したアルミニウム材料を注入・凝固させる。抜き勾配が不要であ
り、高精度、薄肉(最小1mm以下)、複雑形状しかも美麗
な鋳肌を有する高品位な製品を得ることができる。
アルミニウム合金摩擦 構造材料の主材料として用いられている高力アルミニウム合金
攪拌溶接技術
2024 や 7075 合金は溶接によりつなぐことができず、リベッ
ト等を用いてつないできた。これは従来の溶接技術では温
度が高すぎ、溶接部の強度が極端に低下する(60%程度)
ためであった。摩擦攪拌溶接は、攪拌棒を接合部で回転さ
せ、摩擦熱を発生させてつなぎ合わせる方法で、温度が低
く溶接後の強度低下が少ない(90%程度)。この技術は気密
性が要求される耐圧隔壁や航空機の与圧胴体外板等に高力
アルミニウム合金を適用できる。
I 事業の位置づけ・必要性について
1.NEDO
1.NEDO の関与の必要性・制度への適合性
1.1
NEDO が関与することの意義
(1)NEDO が実施する必要性
① (多額の資金と国の急務) 本研究開発は、輸送系の構造を軽量の革新的技術で
ブレークスルーを図ろうとするものであり、要素技術を確立するまで5年程度
の期間を必要とすると見込まれ、また多額の資金を要する。一方国内のエネル
ギー使用合理化は輸送系で特に遅れており、自動車等が大気汚染の排出源とな
り、一刻も早いエネルギー使用合理化・CO2 削減策が求められている。
② (企業の視点と国の視点) 企業においてはメガコンベンションの影響等により
生き残りのための競争が激しく、次々と高機能商品を市場に投入せざるを得な
い状況にある。このため、短期の実用化を目指した研究開発に研究資源を集中
せざるを得ず、本研究開発のような長期のテーマで、かつ広範囲の展開分野が
あり、その効果は地球環境保護までを含む遠大なテーマには、なかなか手を出
せず、また推進のしかたも民間だけでは限界があると想定される。
③ (環境保全効果の大きさ) 本技術が完成し応用展開ができれば、省エネ効果は
最初自動車・高速鉄道の分野で大きな成果が上がり、やがて航空機で効果が十
分発揮できる。環境保護の視点からみても、2010 年時点で国内だけで約 34 万
KL(原油換算)/年を節約し、2020 年に約 70 万 kl 節約が見込まれ、炭酸ガス排
出量も 2010 年時点で京都議定書の削減量の約 6.4%貢献可能である。プログラム
の成功率を勘案しても看過できない量になる。
④ (国益と経済に果たす役割) 航空産業の観点からみると、民間航空機において、
大型機の分野については米・ボーイングと欧州・エアバスの2大寡占状態によ
る国際共同開発が定着しており、日本の企業を含めた世界の有力メーカーが、
各々の開発機会の中でそれぞれシステム・インテグレーターとしてモジュール
(高度な技術力が必要な中央翼、前胴、後胴と言った大型組立て部分構造)の
獲得に向け競争を激化している。今現在のホットな話題では、ボーイングのソ
ニック・クルーザーとエアバスの巨人機 A380がある。一方、100人乗り
前後の小型機については、地域路線の拡充により長期的に市場の高い成長が見
こまれているが、現在及び将来ともに激しい競争環境の中で参入・撤退の動き
が一層激化すると予想される。先陣を切って計画発表を行ったものの経済不況
の煽りで英仏伊3国の合弁会社(AIR)は解散、インドネシア(N2130)は計画
を凍結、フォッカー(オランダ)、サーブ(スウェーデン)は撤退した。しか
しその後、ボンバルディア(カナダ)、エンブライエル(ブラジル)、フェア
チャイルド・ドルニエ(米国)の各社がそれぞれ開発着手または計画発表を行
い、BAE システムズ(AVRO)、ボーイング(B717)、エアバス(A318)も競争に
参入して活況を呈している。
ア
ジア地区の代表として我が国も完成機の開発に参入していく必要がある。小型
旅客機を丸ごと作る技術力はすでにあるが、そのために常に時代を先取りした
技術開発が必要である。航空産業が今後の成長戦略を描く作業は民間の力だけ
1.1
では限界がある。米国や欧州は安全保障と経済に果たす役割の大きさから、戦
略産業と位置付け、国益の観点から強力に支援している。国益を意識せざるを
得ない産業において国の関与なしには、企業は持てる潜在能力を発揮できない。
他方、航空機での軽量化のニーズは他の輸送機産業に比べても著しく大で、機
体構造の重量を下げる為には何度も設計し直す世界である。また、航空機産業
の技術波及効果は大きく、広範な産業分野の活性化と新規産業の創出に資する
ことができる。(以上、航空機工業審議会のビジョン及び討論を参照)
⑤ (国の関与が無かった場合の損失)市場原理に任せていては十分な研究開発が行
われず、必要なタイミングで成果を世に出していくことが不可能となり、社会
的にも多大な損失を生じることになる。
⑥ (原局プロジェクトの必要性)したがって、緊急に国がプロジェクトを実施し、
ポテンシャルのある民間企業を糾合するとともに必要な資金を投入することに
より、革新的技術についてのブレークスルーを早急に実現して革新的軽量構造
設計製造の実用化を図り、生産及び雇用の維持拡大、国民のニーズの充足並び
に新規産業創造の基盤作りを行っていく必要がある。
⑦ (汎用技術)航空機を例に取って重量減と普及化を狙って得た技術成果は、信頼
性が高く、高速車両・自動車・高速船等へ汎用技術として技術移転が容易に出来、
高速輸送の社会的ニーズの高まりと共に、エネルギー使用合理化効果が大きく、
併せて CO2 排出量削減効果も大きく、国が積極的に関与すべきプログラムと考
えられる。(国土交通省・環境省・経済産業省・資源エネルギー庁にまたがるプロ
ジェクトと考えられる。)
(2)委託研究で実施する理由
① 本テーマは、材料技術、設計技術、コンピュータ技術、評価技術等極めて広範
な分野における最先端の研究開発能力及び技術力を駆使してのみ実現可能であ
り、民間企業単独では実施できず、高いポテンシャルを有する企業が共同で取
り組む必要がある。
② また、生産・雇用の維持拡大、国民のニーズの充足及び新規事業創造の基盤作
りの観点から極めて高い政策的意義を有するものであり、また研究成果の円滑
な普及の観点からも補助金よりも委託費で実施することが妥当である。
(3)他制度でなく原局プロジェクトが適切な理由
本テーマは省エネ技術ではあるが、具体的な対象物が小型航空機であること、
相当の期間と資金を要するものであること等から、他制度ではなく航空機武器
宇宙課による原局プロジェクトが適切である。
(4)国際動向から見た研究開発の必要性
カナダやブラジルにおいては、100人前後の中小型民間航空機の完成機製
造を進めており、アジアをリードする立場にある我が国においては、これまで
の技術的蓄積とインフラを活用して本プロジェクトに早急に取り組むことによ
り、2000年代以降も民間航空機分野での競争力を確保し、新規市場の確保
と国民のニーズの充足、新規事業創造の基盤形成を実現することが必要である。
のみならず、エネルギー使用合理化と CO2 ガス排出量削減の観点から環境保
1.2
護対策上欠くことの出来ない事業と考えられ、国として積極的に推進していく
必要がある。
1.3
1.2
実施の効果(費用対効果)
中間評価時に比べ、航空機分野では 2002.9.11 のテロで需要が落ち込んだこと、自動車分野へ
のアルミ合金適用が拡大したことを反映して、費用対効果を見直した。また重量軽減率は目標
値を上回った達成値を使用した。
結論を始めに示し、導き方を説明する。
省エネ効果量:2010 年度,プログラム成功時 62 万 KL /年×成功率 10%=6.2 万 KL-原油/年
2020 年度,プログラム成功時 113 万 KL/年×成功率 10%=11.3 万 KL-原油/年
2030 年度,プログラム成功時 153 万 KL/年×成功率 10%=15.3 万 KL-原油/年
CO2 排出量削減効果:
2010 年度,プログラム成功時 145 万トン/年×成功率 10%=14.5 万トン-CO2 /年
2020 年度,プログラム成功時 266 万トン/年×成功率 10%=26.6 万トン-CO2 /年
2030 年度,プログラム成功時 369 万トン/年×成功率 10%=36.9 万トン-CO2/年
(1)プロジェクトの概要
研究開発期間
1999 年度∼2003 年度
研究開発予算 国
1,870 百万円 (=’99 年度 270+4 年間×400(百万円))
民間
0 百万円
すなわち定額補助
経済活動の活性化、生活の質的向上のために、輸送機関の高速化が今後一層進み、同時に、省
資源・エネルギー使用合理化の必要性も年々高まると見込まれる。これに対応するために、航
空機、自動車、高速車両等の軽量化が求められている。本研究開発は、航空機構造を例に取っ
て、軽量化と信頼性の向上を目指す革新的軽量構造の設計・製造基盤技術を開発する。また得
られた汎用技術を、自動車、高速車両のみならず多岐にわたる機械、構造物の軽量化・信頼性
向上、エネルギー使用合理化改善を通じて、広範な産業の活性化を促す。目標はビーム(主翼)
構造で重量 15%減、シェル(機首)構造で重量 10%減、である。
本研究開発で取得するデータは技術的見通しを得る目的であるのでデータ点数が少ない。実用
化のためには設計許容値設定を目的とした統計値ベースの処理が可能な点数のデータを取得す
る。また結合部の設計データや耐雷、腐食性等の実用化に向けたデータの取得を実施する必要
がある。そのため下記、導入実証試験が引き続き必要である。
導入実証期間
2003 年度∼2007 年度
導入実証予算 国
1,750 百万円 (環境小型機の 7%,5 年間×350 百万円と仮定)
民間
1,750 百万円 国が 1/2 補助
なお、次の商品開発は必要であるが、実機プロジェクトの一部とみなし、民間側の全額負担と
する。
商品開発期間
商品開発予算
2004 年度∼2008 年度
数十∼数百億円 全額民間負担
仮に国の関与がなかった場合は、商品化は相当遅れ、成功率は極めて少ないとみなす。
(2)市場規模の見通し
市場規模(原油換算消費量)
(イ)分野における 1995 年の原油換算消費量は次のとおり。
(百万 KL)
航空機
9
下記運輸省平成 7 年度資料参考による。
「航空輸送統計年報」「鉄道統計年報」
鉄道
*
5
「内航船舶輸送統計年報」
「自動車輸送統計年報」
船舶
17
(注*)1995 年における鉄道の
自動車
乗用車
46
エネルギー消費量=電力 18,755 百万 kWh+軽油 314 千 kl
トラック
41
=原油換算 4.874 百万 kl
1.4
(ロ)各分野における需要予想指数は以下のとおり。
(1995 年を1.0とする。)
2010 年
2020 年
2030 年
航空機
2.0
3.2
5.0
鉄道
1.0
1.0
1.0
船舶
1.0
1.0
1.0
自動車
乗用車
1.3
1.5
1.7
トラック
1.0
1.0
1.0
航空:年率4.7%(日本航空機開発協会資料参考)
自動車[乗用車]:年率1.7%(日本自動車部品工業会資料参考)
鉄道、船舶、自動車[トラック]:一定(1995 年と同程度)と仮定。
以上(イ)、(ロ)より、各年における市場規模(原油換算消費量)は以下のとおり。
(百万 KL)
2010 年
2020 年
2030 年
航空機
18.0
28.8
45.0
鉄道
5.0
5.0
5.0
船舶
17.0
17.0
17.0
自動車
乗用車
59.8
69.0
78.2
トラック
41.0
41.0
41.0
(3)省エネ効果の算出
(イ) 省エネ率
(a) 軽量化率
本事業により開発される革新的軽量構造を採用した場合、各分野での軽量化率は以下
のとおり。
(%)
*1
*2
採用後の重量比率
全重量
現状の重量比率
軽量化率
全重量
構造重量 非構造
全重量
構造重量 非構造
重量
重量
航空機 100
28.0 72.0
93.7 23.7 70.0
6.3
鉄道
100
60.0 40.0
84.1 44.1 40.0 15.9
船舶
100
35.0 65.0
80.6 15.6 65.0 19.4
乗用車 100
87.0 13.0
79.1 66.1 13.0 20.9
トラック
100
70.0 30.0
83.2 53.2 30.0 16.8
*1.【航空機】
:代表的な狭胴型機(B737-500)のデータ。
【鉄道】:新幹線車両の実績重量を採用。鉄道車両の構造材料は現状では、鋼、ステンレスが主体(一部非熱処理型アル
ミニウム合金)。これら材料に対し平均的に比強度が約 1.7 倍の高力アルミニウム合金を用いた革新軽量構造に置換し
た場合(比強度通りの比率では軽量化できない諸ファクターとして 0.8 を考慮して)構造重量を 1/(1.7×0.8)=0.735 に
出来ると推定される。即ち 60.0×0.735=44.1.なお材料比強度データは下記参照。
密度,g/cm3
比強度,×106cm
引張強度,kgf/mm3
船舶用鋼材
50
7.85
0.6
自動車/車両用鋼材
60
7.85
0.8
高力アルミニウム合金
48
2.8
1.7
CFRP(参考)
208
1.6
13
【船舶】:高速船の概略値を採用。船舶の構造材料は現状では、船舶用鋼板が主体。この材料に対し比強度が約 2.8 倍
の高力アルミニウム合金を用いた革新軽量構造に置換した場合(比強度通りの比率では軽量化できない諸ファクター0.8
を考慮し)構造重量を 1/(2.8×0.8)=0.446 に出来ると推定される。即ち 35.0×0.446=15.6.
【乗用車】:乗用車の概略値。装備品含め空車重量を構造重量とした。革新軽量構造 H14 年度成果報告書 p.13。
【トラック】:業界情報(トラックと乗用車の違い-重量編)。空車重量を構造重量とした。満載時 50%、空車時 90%の平
均。
*2.革新構造材料を用い同程度の構造強度を有する場合の重量比率。基本的には、比強度の逆数に比例。なお、航空機は
非構造重量にも構造重量の軽減効果が波及。
1.5
重量(トン)
(b) 省エネ率
各分野の重量軽減率
革新軽量構造による
革新軽量構造による航空機機体軽量化
構造軽量化(12.0%)(注 2)
に対する省エネ
率は以下のとお 70
り。
57.5
60
エンジン規模縮小
必要燃料減少
①航空機
53.9
6.3%軽量化
航空機分野と 50
15.2%軽減
16.1
構造
13.6
(注1)
して、代表
全体重量減少
40
的な旅客機
5.5
6.2%軽減
5.2
エンジン
(B737-500)
10.4
10.3
30
装備品
必要翼面積減少
を想定*1。
有償重量
この場合、
9.8
9.8
20
機体重量低減
機体規模縮小
燃料重量
がそのまま省 10
4.9%節減
15.7
15.0
エ ネ効果 に寄 0
機体軽量化
燃料消費節減
与すると考え
(6.3%)
(4.9%)
全金属製
革新軽量構造製
られるため、これ
注 1)革新軽量構造適用による構造軽量化 12.0%
注 2)12.0%の軽量化は構造組立の達成結果による。
を考慮し省エネ率
3.2%
機体規模縮小による構造軽量化
*2
すると、
を試算
約4.9%となる。
*1.試算データは B737-500 の諸元を基に、機体重量 31.9 トン、乗客貨物重量を 9.8 トンと仮定。
*2.プログラム計算(JADC 亜音速機体規模設計プログラム-、通称 JADC-CAD)による。一次近似で、31.9[機体重
量]×0.063[低減率]÷(31.9[機体重量]+9.8[乗客貨物重量])×100=4.8[%]。 非構造重量にも重量軽減効
果が波及したため 4.9[%]。上図参照。
②鉄道
車体重量の軽減率に対する省エネ率の経験値*1を用い比例計算*2すると、省エネ率は約
14.8%となる。
*1.川崎重工技報、営団資料を参考。
(新幹線車両:重量軽減率約30%で省エネ率約28%)
*2.15.9[低減率]×(28[上記省エネ率]÷30[上記重量低減率])=14.8[%]
③船舶
船舶の場合、エネルギー消費は船体の粘性抵抗*1に比例。さらに、喫水下の船体表面積
が重量軽減量に比例すると仮定*2すれば、省エネ効果は重量軽減量に比例する*3ため、
省エネ率は重量軽減率に相当する約19.4%となる。
*1.[粘性抵抗:D]=[喫水下での船体表面積:S]×[航行速度:v]×[粘性率:η]
*2.積載量、船体形状、航行速度、軽量化による重量変化前後の喫水面の断面形状が同じ(一定)であると仮定
すると、
[重量軽減量:Δw]=[喫水面での断面積:A]×[喫水線の降下量:Δh]×[海水の比重:ρ]
[喫水下の船体表面積の減少量:Δs]=[喫水面での周長:L]×[喫水線の降下量:Δh]
であるから、海水の比重(1.01∼1.05)をρ=1と見なせば、Δs=Δw×L/A となる。
*3.省エネ効果は粘性抵抗の低減量ΔD に比例。ΔD は上記*1、*2より
ΔD=Δw×v×η×L/A
となるため、省エネ効果は重量軽減量に比例する。
④自動車
乗用車、トラックとも一般的なものを想定*1。車両の重量軽減率に対する省エネ率(燃費
改善率)の統計値*2を用い比例計算すると、省エネ率は乗用車約12.5%、トラック約
10.1%となる。
*1.乗用車は、車体重量 1,000kg、乗員(60kg)2 名、荷物 30kg と仮定。トラックは、10 トン車を仮定。車両重量
10 トン+最大積載量 10 トン(満載時)=車両総重量 20 トン。
*2.新素材要覧’93 及び国土交通省自動車交通局資料(車両重量別燃費データ)を参考。(燃費感度係数=0.6:重
量軽減率約1%で省エネ率約 0.6%。)
以上①から④より、各分野における省エネ率を以下のように設定した。
(%)
航空機
4.9
鉄道
14.8
船舶
19.4
自動車
乗用車
12.5
トラック
10.1
1.6
(ロ)導入率
本事業で開発される革新的軽量構造の各分野の構造に対する導入率は、航空機では大半の機
体、鉄道では高速車両、船舶では高速艇から導入されると仮定。自動車は電気自動車等車両
重量軽減の必要性があるものから導入されると仮定。
以上より各分野の構造における導入率は以下のとおり。
(%)
航空機
90
鉄道
30
船舶
5
自動車
乗用車
20
トラック
20
(ハ) 適用率
本事業で開発される革新的軽量構造の導入率は、過去の新製品の移行・普及度合い(例えば
電気製品等)を参考に各分野ごとに設定。2020 年にこの革新的軽量構造の導入率が成熟す
るものと仮定。ただし、航空機及び船舶は経済寿命が長いことを考慮し、緩やかに上昇する
ものと仮定。
以上より、各分野における適用率を以下のように設定した。
(%)
2010 年
2020 年
2030 年
航空機
10
20
27
鉄道
27
40
40
船舶
10
15
20
自動車
乗用車
20
30
32
トラック
20
30
30
省エネ効果量の算出式は各分野ごとに以下の方法により算出。
省エネ効果量=(2)市場規模(原油換算消費量)×(3)(イ)省エネ率×(3)(ロ)導入率×(3)(ハ)適用率
従って、上記より省エネ効果量は以下のとおり。
航空機
鉄道
船舶
自動車
合計
乗用車
トラック
2010 年
7.9
6.0
1.6
29.9
16.6
62.0
2020 年
25.4
8.9
2.5
51.8
24.8
113.4
(万 KL)
2030 年
53.6
8.9
3.3
62.6
24.8
153.2
(4)成功率
現段階では客観的かつ合理的な根拠による成功率の設定は困難であることから、成功率を1
0%とする。従って成功率を考慮した総省エネ効果量は上表の合計値の 1/10 となる。
1.7
(5) CO2排出量削減効果の算出
本事業は、また大幅なCO2排出量削減効果がある。
以下、2010年、2020年、2030年における排出量削減効果を求める。
(イ) 2010年における排出量削減効果の算出法
2010年におけるCO2排出量削減効果の導き方を下記に示す。
2010年
①排出原単位 ②使用燃料 ③全燃料 ④各燃料の
輸送系 使用燃料 (kg/リットル) Ref1
航空機 ジェット燃料
2.42
2.70
2.89
2.94
1.23*
2.64
2.36
2.64
2.36
A重油
船 舶
B重油
C重油
鉄 道
乗用車
トラック
電力*
軽油
揮発油
軽油
揮発油
比率(%)
削減量
Ref2
(万kl)
100.0
23.1
2.7
74.2
93.6
6.4
100.0
73.0
27.0
計
7.9
1.6
6.0
29.9
16.6
輸送系別CO2
⑤CO2削減
削減量(万トン)
削減量(万トン) 量(万トン)
③×②/100
④×①
7.900
0.370
0.043
1.187
5.616
0.384
29.900
12.118
4.482
19.1
1.0
0.1
3.5
6.9
1.0
70.6
32.0
10.6
19.1
19.1
4.6
4.6
7.9
7.9
70.6
42.6
62.0
113.1
合計
144.8
注*:CO2の発生量0.3kg/kWhを採用。'95鉄道消費電力18,755百万kWh=4,562千kl-原油相当を採用。
従って、原油リットル当りのCO2の発生量は0.3×18755/4562=1.23kg/リットル。
Ref 1:
温室効果ガス排出原単位
排出原単位
発熱量
(kcal/−) 単位熱量当り*2
単位熱量当り
単位
*1
原油
リットル
9,250
0.7811
2.65
ジェット燃料油
リットル
8,600
0.7665
2.42
揮発油(ガソリン)
リットル
8,400
0.7658
2.36
軽油
リットル
9,200
0.7839
2.64
A重油
リットル
9,300
0.7911
2.7
B重油
リットル
9,800
0.8047
2.89
C重油
リットル
9,800
0.818
2.94
排出源名
(Gg−C/1010kcal)
(kg−CO2/−)
【出典等】*1環境省国立環境研究所地球環境センター 産業関連表による二酸化炭素排出原単位(1995)
*2 第3回産構審、総合エネ調、化学品審議会、産技審 合同小委資料6(2000.6.21)
Ref 2:運輸経済統計要覧 平成8・9年版 pp.176-177
平成11年度運輸白書 pp.420-422のデータから推測すると、
何も対策を講じない場合、運輸部門では、2010年に1990年比で約40%のCO2排出増加が見込まれる。
運輸部門 1990年 CO2排出量 = (総排出量 1124.5百万トン )×(運輸部門排出比率 19%)= 214百万トン
運輸部門 2010年 CO2排出量 = (214百万トン )× 1.4 = 300百万トン
運輸部門 2010年 CO2排出増加量 = (214百万トン )× 0.4 = 86百万トン
革新的軽量構造の寄与(145万トンのCO2削減)は、
運輸部門 2010年 CO2排出量 300百万トンに対し、0.48%削減に相当する。
運輸部門 1990年-2010年間のCO2排出増加量86百万トンに対し、1.7%削減に相当する。
京都議定書に対応する交通運輸分野の温室効果ガス排出削減目標、
即ち、2010年において1990年比17%の増加(1995年の排出量と同水準に抑える目標、自然体で
推移すると40%増)に抑制する場合の削減目標量13百万トン(ref:同白書p.102,1-2-12図)のうち、
11.2%(145万トン)を削減できる。
1.8
(ロ) 2020年、2030年における排出量削減効果
2010年、2020年、2030年におけるCO2排出量削減効果は下記のとおり。
2010年
①排出原単位 ②使用燃料 ③全燃料
輸送系 使用燃料 (kg/リットル) 航空機 ジェット燃料
A重油
船 舶
B重油
C重油
鉄 道
乗用車
トラック
電力
軽油
揮発油
軽油
揮発油
2.42
2.70
2.89
2.94
1.23
2.64
2.36
2.64
2.36
比率(%)
削減量
ref1
(万kl)
100.0
23.1
2.7
74.2
93.6
6.4
100.0
73.0
27.0
計
2020年
輸送系別CO2
③全燃料
削減量(万トン)
削減量
2030年
輸送系別CO2 ③全燃料 輸送系別CO2
削減量(万トン)
(万kl)
削減量
削減量(万トン)
(万kl)
7.9
19.1
25.4
61.5
53.6
129.7
1.6
4.6
2.5
7.2
3.3
9.5
6.0
29.9
6.9
1.0
70.6
51.8
10.2
1.5
122.2
62.6
10.2
1.5
147.7
8.9
8.9
16.6
42.6
24.8
63.6
24.8
63.6
62.0
144.8
113.4
266.3
153.2
362.3
1.9
2.事業の背景・目的・位置づけ
2.1 事業の背景・目的・意義
(1)事業の背景と目的
(a)社会的背景と目的
エネルギー供給構造が脆弱な我が国におけるエネルギー供給確保および温室効果ガ
ス排出削減等地球環境問題への対応のため、エネルギーの使用合理化の促進が求めら
れている。
エネルギー需要に関して、産業部門においてはエネルギー使用合理化政策の効果と
ともに産業構造の転換も進められ、第一次オイルショック時の水準と比較すると全体
の消費量の伸びを大きく下回っている。一方、運輸部門は我が国エネルギー需要の1
/4を占めながら、全体の消費量の伸びを大きく上回りエネルギー使用合理化が進ん
でいるとは言えない状況にある(最終エネルギー消費 1994 年/1975 年比、全体:
1.39 倍、産業部門:1.11 倍、運輸部門:1.81 倍)。
運輸部門の需要を長期的に見ると、今後、経済活動の活性化、生活の質の向上のた
めに輸送機器の高速化とグローバル化が進められ、航空機輸送が年率 3.1%、自動車
(乗用車)輸送が年率 1.7%の伸びが予測されている。この需要の大幅な伸びに対し
て、エネルギーの消費量を減少させるには、直接的に燃料消費を削減できる輸送機器
の軽量化が必須である。
本事業は、今後大幅に伸びる輸送量を背景に、図 2.1 に示す技術開発及び適用化を
考えて輸送機器の軽量化を行い、エネルギー消費量の削減、更に温室効果ガス排出削
減を行うことが目的である。
(b)技術的背景と目的
現在、航空機、高速車両、自動車、船舶など輸送機器の構造は、強度と軽量化の
両立を目指した結果として、多くの部品点数から成る複雑な構造の集合体となってお
り、現行技術の延長では軽量化に限界が見えている。
しかるに、近年急速な技術の進展を遂げている複合材料やアルミニウム鋳物等の材
料製造技術、合金溶接等の加工技術、および構造設計技術は、図 2.2 に示すように構
造の一体成形率を高め部品点数を大幅に削減して軽量化する革新的な構造設計・製造
技術を確立する可能性を示している。
2.1
事業の骨子
複合材料
材料面
技術開発
先進アルミニウム合金
一体成形型CFRP部材の
設計製造技術開発
革新的
軽量構造
適用面
設計面
大型構造金属部材の
精密鋳造・溶接技術開発
航空機
革新軽量構造
インテグレーション技術開発
船 舶
鉄 道
自動車
図 2.1 事業の骨子
2.2
目 的
省資源・エネルギー使用合理化
温室効果ガス排出削減
170個の部品をリベットで組立てた従来構造様
式の耐圧床支持構造
精密鋳造技術で一体成形した革新構造様式の耐
圧床支持構造(部品数1個)
図2.2 一体成形率を高め部品点数を大幅に削減した構造例
2.3
本研究開発では、比強度に優れた材料として、炭素繊維強化複合材料 CFRP(Carbon
Fiber Reinforced Plastic)及びアルミニウム合金を主な対象材料として、輸送機器
に汎用的な構造法(図 2.3 参照)であるビーム構造(曲げモーメントをとることに適
した構造様式)とシェル構造(内圧荷重を取ることに適した構造様式)の一体成形率
を高め、軽量化を図る技術の開発が目的である。
図 2.3
図 2.3
構造法の汎用性
構造法の汎用性
2.4
輸送機器の構造はこの両構造様式の組み合わせで成立しているが、ビーム構造の代
表構造として、航空機の主翼構造および前縁構造を取り扱い、シェル構造の代表構造
として、機首構造を取り扱う。航空機の安全性や軽量化に対する要求および設計基準
は厳しく、これらの要求、基準を満足できれば他の輸送機器への展開がし易いので、
難度の高い航空機構造を対象に技術開発を行う。とりわけ図 2.4 に示す民間航空機の
主翼・機首・前縁構造は、航空機構造の中でも極めて数多くの部品からなる組立構造
であり、部品点数削減および軽量化を図る研究開発対象として最適である。
(2)事業の意義と必要性
前述の通り運輸部門の需要は今後、船舶、鉄道では大きい伸びがないものの、航空
機が年率 3.1%、自動車(乗用車)が年率 1.7%の大きい伸びが予測されている。こ
の需要の大幅な伸びを吸収して、更にエネルギーの全消費量を減少させるには、直接
的に燃料消費を削減できる輸送機器の軽量化が必須である。本事業は、極めて多数の
部品・部材を組立てて作るため重くなっている現在の輸送機器を、構造体の一体成形
率を高め部品・部材を減らして軽量化を図る技術の開発を進めている。
今後ますます増大する世界の経済活動、人口増大に伴い急増する人・物の輸送を、
地球環境を壊すことなく実現する技術開発の一翼に取り組む本事業は、エネルギー政
策上の意義が大きい。
本事業では、材料そのものの軽量性と一体成形加工性を生かす複合材料の適用によ
り 15%以上の軽量化を、アルミニウム合金の一体成形技術により 10%以上の軽量化
を目標に技術開発を行っている。この軽量化により、2010 年には原油換算 33.5 万k
l、2020 年には 69.9 万klのエネルギー消費削減が期待できる。2010 年原油換算
33.5 万klのエネルギー使用合理化は、温室効果ガスの排出量を 83.8 万トン削減で
きる。この削減量は、京都議定書に対応する交通運輸分野の削減目標 13 百万トン
(平成 11 年度運輸白書)の 6.4%に相当する(図 2.5 参照)。
エネルギー使用の合理化を進める本事業の意義は大きく、その実現に不可欠である
輸送機器軽量化技術の開発は必要である。
2.5
前縁構造
部品点数削減目標:86%
86%減
86%減
重量軽減目標:5%
5%減
5%減
機首構造
部品点数削減目標:80%
80%減
80%減
重量軽減目標:10%
10%減
10%減
主翼構造
部品点数削減目標:50%
50%減
50%減
重量軽減目標:15%
15%減
15%減
従来構造
従来構造
桁と小骨と縦通材補強パネルをファ
スナーで組み立てる従来の翼は部
品点数が極めて多い。
多数の小骨
風防枠フレーム
従来の縦通材とフレー
ムによる補強構造は部
品点数が多い。
前桁
縦通材
後桁
多数のフレーム
革新的機首構造
複合材サンドイッチ構
造の適用によりフレー
ム、縦通材等の補強
材を大幅削減。新しい
鋳造及び溶接技術を
駆使し一体化による部
品点数削減を実現
耐圧床:大型薄肉
鋳造による
一体化
革新的主翼構造
上面パネル:縦通材、前桁*、
上面外板のコボンドによる一体
成形
*前桁、縦通材は
RTMによる成形
RTMによる成形
小骨:トウプレース
メント成形
前方与圧隔壁:摩擦攪拌接
合による一体化
コア
与圧外板:複合材サ
ンドイッチパネル
複合材外皮
後桁:RTM
後桁:RTM成形
RTM成形
下面パネル:縦通材と外板
のコボンドによる一体成形
複合材一体構造化により大幅部品点数削減実現
図2.4 極めて多数の部品からなる組立て構造の代表(従来構造)と部品点数削減と軽量化を狙う革新構造
2.6
革新的構造適用によるエネルギー使用合理化
及び CO2 排出削減効果:2010年
航空機
船 舶
オイルセービング 1.6 万kl
(CO2 排出削減 4.6 万トン)
オイルセービング 7.9 万kl
(CO2 排出削減 19.1 万トン)
鉄 道
オイルセービング 6.0 万kl
(CO2 排出削減 7.9 万トン)
「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発」
「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発」
重量軽減目標
一体成形ボックス結合型構造 :21%減
大型一体鋳造・FRP 複合構造:11%減
本軽量化技術の導入を積極的に促進した場合、2010年
に計 144.8 万トンの温室効果ガス排出削減ができる。この
削減量は、京都議定書に対応する交通運輸分野の削減
目標13百万トン*の11%に相当する。
自動車
オイルセービング 46.5 万kl
(CO2 排出削減 113.2 万トン)
*「平成11年度運輸白書」1-2-12 図(102 頁)による
図 2.5
エネルギー使用合理化および温室効果ガス排出削減効果(見直し結果)
2.7
2.2 事業の位置付け
(1)研究開発分野および産業分野の技術体系
(a)軽量化を可能にする材料
高速車両、自動車、船舶の主構造材料は高張力鋼で比重が 7.82 と重い。航空機の
主構造材料はアルミニウム合金で比重が 2.76 と軽い。強さは高張力鋼の方が高いの
で、強さを比重で割った比強度で比較すると、高張力鋼が 11.3kmでアルミニウム合
金が 16.3kmである(図 2.6 参照)。同じ強さの構造を作った場合、アルミニウム合
金の方が 30%軽くできる。高速車両、自動車、船舶等をアルミニウム合金で作れば大
幅な軽量化を図ることができるが、問題は材料の価格が高いことを除けば、部品の結
合方法が違うことにある。この問題の解決法は次項(b)で述べるが、これまで溶接が
できずファスナーによる結合法しかなかった高強度アルミニウム合金 2024、7050、
7075 には新接合技術の適用、超塑性加工ができる新アルミニウム合金 5083、薄肉で
大型の鋳造が可能な新アルミニウム合金 D357 などの使用を前提に技術開発を行う。
航空機への適用もまだ多くはないが、複合材料を用いれば更に軽くできる。最近の
汎用的なタフレジン複合材料の比重は 1.62、比強度は 25.9kmである。アルミニウ
ム合金に比べ 37%、高張力鋼に比べ 56%の軽量化が可能である。
他にチタニウム合金があるが、本技術開発では、航空機(遷音速巡航の旅客機)、
自動車、鉄道、船舶の輸送分野への適用を目標に技術開発を行う。この適用分野の温
度環境は最高80℃程度である。チタニウム合金は400℃以上で利点を発揮できる
耐熱合金であり、アルミニウム合金に比べ材料コストも高く、この分野への適用は過
剰品質となり除外した。
また、マグネシウム合金もあるが、軽量構造法を目的とした本技術開発では、開発
の最終段階で実物大構造の供試体を用いた実証試験を行うため、主翼構造では幅2m
x長さ5m、機首構造では直径4mx長さ4mの大きさを持つ構造を製作する必要が
ある。この大きさの構造を作るには、素材の大きさとして幅1mx長さ5m程度の板
が必要である。マグネシウム合金は、比重が軽く、最近開発された合金では耐腐食性
も改善され超塑性加工ができるなど、非常に魅力的な材料で十分アルミニウム合金の
競合材料になりうると考えられる。しかし、現在ではまだ大板の入手が困難であり、
大型構造法の研究開発に着手するには時期尚早である。このため除外した。
本事業はアルミニウム合金および複合材料を対象に、軽量設計・製造技術の開発を
行う。
(b)大幅な部品点数削減を可能にする一体成形技術
構造の一体成形率を高め大幅な部品点数削減ができれば、結合個所が減り孔空けな
どに伴う結合部補強に必要な重量増を抑えることができる。
高速車両、自動車、船舶の主材料である高張力鋼は溶接により小部材を結合して大
きい部品を製作し構造を組立てることができる。しかし、航空機構造の主材料である
アルミニウム合金は、これまで溶接ができず小部品をリベットやボルトによる結合、
或いは、接着により大きい構造を組み立ててきた。従って、アルミニウム合金製構造
は、鉄製構造に比べ部品点数が多かった。
しかし、現在では図2.7に示すように、アルミニウム合金の新しい接合方法である摩擦攪拌接合
や部品を分断することなく深絞り成形ができる超塑性加工など新しい技術が生まれ、その実用化
を行えば部品点数を大幅に削減することができる。また、アルミニウム合金の大型薄肉精密鋳造
技術に よる構造の一体成形お よび複合材料が持つ特 長の一つである一工程 成形( one shot
curing)を活かした構造の一体化により、更に部品点数を削減することができる。これらの萌芽
したばかりの要素技術を実用化すれば、現状技術の延長では限界が見えてきた部品点数削減の壁
を打破することができる。
2.8
30
タフレジン複合材料
比強度 Ftu/ρ(km)
25
本研究開発が軽
量化技術開発の
対象とする構造
材料
20
初期型複合材料
15
木
比重 0.65
10
1.62
比重
チタニウム合金
比重 4.42
アルミニウム合金
マグネ合金
比重 1.77
高張力鋼
現在の航空機
の主構造材料
2.76
比重
比重 7.82
5
現在の自動車、
高速車両、船舶
の主構造材料
0
0
図 2.6
20
40
60
引張強度 Ftu(kgf/mm2)
80
現在の主構造材料と本研究開発が軽量化技術開発の対象とする材料
2.9
100
アルミニウム合金部材の従来の組み立て方法
アルミニウム合金部材の新しい結合方法及び成形法
①リベット或いはボルト・ナット結合
スプライス
継ぎ手
板
深絞り材
板
補強外板
床ビーム
リベット或いは
ボルト、ナット
左記①②に変わり、
③摩擦攪拌接合(FSW)
新しい
結合方
法及び
成形方
法の実
用化に
よりによ
り、大幅
リベット或いは な部品
ボルト、ナット 点数削
減及び
組立て
外板
工数削
減が可
能とな
る。
リベット或いは
ボルト、ナット
リベット或いは
ボルト、ナット
補強材
継ぎ手
④超塑性加工(SPF)
深絞り材
補強外板
⑥大型薄肉精密鋳造
②接着結合
継ぎ手
接着剤
図 2.7
部品点数削減の壁を打破する新しい技術
2.10
深絞り一体成形
⑤複合材料一体成形(RTM,)
床ビーム
スプライス
突合せ接合
複合材料一体成形
鋳造による
一体成形
(2)技術動向を踏まえた研究開発テーマの位置付け
①一体成形型 CFRP 部材の設計・製造技術
米国においては NASA が中心となって 1970 年代に軽量化を狙った ACEE(Aircraft
Energy Efficiency)プログラムが立ち上げられ、航空機の舵面構造を中心に CFRP
の適用が本格化し、1980 年代に軽量化を狙った適用が急激な伸びを示した。しかし、
軍需予算の縮小とともに新機開発の機会が減少し 1990 年代を境に適用が頭打ちと
なった。その後は、低コスト化と軽量化を同時に達成できる技術の研究プログラム
が相次いで開始され、熱可塑複合材料、織物複合材料、レジン・トランスファ・
モールディング(RTM)など部品点数を削減する一体成形技術とそれらを生かす設
計技術が研究された。
航空機の主構造への CFRP 適用は、軽飛行機の分野で全複合材構造機(全構造重量
の 80%程度が複合材料でできている)が出現しているものの、大型民間機にはまだ
尾翼構造への適用に止まっている。唯一、欧州で ATR 72 が主翼外板に CFRP を適用
しているが、従来のアルミニウム合金構造の材料置き換えのレベルから脱しきれて
いないのが現状で、多数の部品をファスナーで組み立てる方式を取っている。大型
民間機の胴体構造については、国内外を問わず CFRP 適用の実績がない。複雑な装
備配置、切り欠きの多さ、特に機首構造には複雑形状、鳥衝突等の設計条件が加わ
り、さらに複合材適用を難しくしている。
わが国においては、品質の高い材料技術を生かして、これまで海外と肩を並べて
航空機への CFRP 適用を進めてきた。大型民間機に関しては、米国ボーイング社へ
複合材舵面を数多く国内メーカーが納入しており、国内の CFRP 部材の設計・製造
品質は世界でもトップクラスである。また、一体成形により部品点数削減を図る成
形技術の先進的研究が助走しており、本研究開発課題に取り組む土台ができている。
従来の構造様式を踏襲しアルミニウム合金を複合材料に置き換えただけで軽量化
するのは、世界最先端の技術とはいえない。複合材料の特長を生かして一体化がで
きる構造様式を考案して、主翼構造と機首構造の部品点数を大幅に削減し、更に軽
量化を行う技術開発が本事業の一番目の研究開発テーマである。本一体成形のテー
マは、主翼及び機首の主構造に複合材料を本格的に適用することとあいまって世界
最先端の技術開発に位置付けられる。
現在、米国および欧州で研究開発が進められている最先端の複合材主翼構造の重
量軽減及び部品点数削減効果を本プログラムと比較する形で表 2.1 に示す。
表 2.1
世界最先端複合材主翼構造の重量軽減及び部品点数削減効果
比較項目
開発機関
NASA-Boeing
Cranfield 大学-BAe
重量軽減#
(%)
25
部品点数削減#
(%)
60
製造コスト削減#
(%)
20
20
5~10程度
30
本プログラム
22
57
25
(JADC-FHI)
(注)#従来のアルミニウム合金構造から軽減あるいは削減できる量
上表から読み取れるように3者の開発における重点の置きどころが若干違うが、
本プログラムで開発を進めている複合材主翼は、複合材研究の先進国と比べても遜色
2.11
がない世界最先端の技術開発である。
本研究開発プログラムにおいて、主翼構造を再委託している富士重工業(株)は
1970 年 代 の ボ ー イ ン グ 機 の 舵 面 へ の CFRP 適 用 を 皮 切 り に 、
B737,B747,B757,B767,B777, MD-11 の舵面、脚ドア、フェアリング等の民間機実機
適用実績、さらに T-4 尾翼、F-2 主翼外板等の防衛庁機適用実績を持ち、一体成形
型 CFRP 構造の設計・製造・試験を実施できる世界でトップクラスの実力を発揮し
て開発を進めている。また、機首構造を再委託している川崎重工業(株)において
も、同様に固定翼機構造や回転翼機ロータ系の複合材化を手がけており、これらの
実績、経験を生かして本研究開発を推進している。
② 大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
航空機機体への鋳造構造の適用は、海外機体メーカーでは軽量化、製造サイクル短
縮を狙って積極的に推進されている。欧州のエアバス社は、以前より構造用鋳造部品
の適用拡大に積極的であり、A300 の貨物扉、アクセスドア、A320 エントラスドアの
ヒンジ等に適用した事例が報告されていた。そして最近、A340 のフラップ・トラッ
ク・サポート構造を鍛造ビレットの機械加工部品から一体の鋳造部品化した。また,
アクセスドア周辺構造などにも適用を拡大している。米国ボーイング社は、鋳造部品
の主構造への適用について研究開発を続けていた。古くは、CAST プログラムとして
YC-14 前脚取り付け部の耐圧隔壁の試作研究を行ったことが有名である。しかし、実
機への適用はエアバス社に比べ一歩遅れている。実機での運用経験の不足が大型鋳造
構造の開発に最大の障害となり、小型のドア類や 2 次構造部品への実機適用に止まっ
ている。このように海外においても、1mを超える大きさの薄肉大型鋳造品は実機適
用の域に達していない。
国内においては、強度と信頼性が向上しつつある鋳造材料の登場により、徐々に航
空機への適用が検討されている。しかし,民間航空機への適用は研究が開始されてい
るものの、装備品取り付け部品等の 2 次構造部品への適用検討に止まっており、主構
造への適用を狙った薄肉で大型な精密鋳造部品の研究開発に取り組む計画はなかった。
また、海外では、軽量化、低コスト化の目的から航空機構造に溶接構造を適用しよ
うとする研究が進められている。特に、リベット結合を溶接に置き換えることにより、
軽量化を達成しようとしていることが注目される。ボーイング社において、デルタ・
ロケットの燃料タンクに摩擦攪拌接合を用いた研究が進められ適用する動きがある。
今後、新しい溶接技術を用いた航空機構造の研究が進むものと考えられる。なお、深
絞りができ一体成形による部品点数削減に有力なアルミニウム合金の超塑性成形
(SPF)技術も見逃せない。
これまでの鋳造品は肉厚が厚く軽量化を求める構造への適用は不向きであった。最
近開発された新しいアルミニウム合金 D357 を用いると薄板の鋳造品が製造できる。
ただし、大型部材の製造が難しい。本事業では、世界最高技術を狙って砂を鋳型に用
いる砂型法により大きさ2mクラス、板厚 2mm の大型薄肉鋳造品を、また、ロスト
ワックスを鋳型に用いるインベストメント法により大きさ1mクラス、板厚 1mm の極
薄肉鋳造品を製造できる技術を開発する。その開発目標と世界トップレベルとの比較
を図 2.8 に示すが、世界最高の薄肉大型鋳造技術の開発と言える。
また、結合個所を減らして一体構造化を図る摩擦攪拌接合を高強度アルミニウム合
金 2024,7050,7075 に適用できる技術開発及び深絞りにより部材の分割を避け構造部
材を一体化できる超塑性加工技術の開発を本事業の第二の研究開発テーマとして取組
んでいる。
機首構造を対象にした薄肉大型精密鋳造技術及び高精度・高品質溶接技術の研究開発
2.12
を再委託している川崎重工業(株)は、10 年以上も前から航空機用薄肉アルミニウム
合金鋳造品の研究を行ってきており、小型から中型鋳造部品の実機への適用実績が多
数ある。従って、2mクラスの大型薄肉鋳造品の研究開発力を十分に発揮している。
また、同社は摩擦攪拌接合の基礎研究を実施した経験を生かし、機首部の耐圧隔壁大
型構造部材への適用研究開発を遂行している。富士重工業(株)には、アルミニウム
合金鋳造品ばかりでなくチタン合金鋳造品開発の経験を生かして、大きい集中荷重が
働く主翼構造部材の部品点数削減を狙った薄肉大型精密鋳造技術の研究開発を再委託
している。
アルミニウム合金の超塑性成形技術、溶接技術、鋳造技術の設計・製造実績を持つ日
本飛行機(株)には、その 3 技術を統合して前縁構造の一体構造化を行い、大幅な部
品点数の削減を実現する研究開発を再委託している。
③ 革新軽量構造インテグレーション技術
複合部材と金属部材との結合方法にはファスナー継ぎ手と接着継ぎ手の二種類があ
り、両方法の長所・短所について 1970 年代末から 1980 年代前半にかけて、米国にお
いて盛んに研究開発が行われた。結果として、ファスナー継ぎ手は孔あけによる強度
低下があり軽量化に不利であるが、接着継ぎ手に比べ、強度のばらつきが小さく修理
が容易で、多列ファスナーは損傷の進展を停留させ耐損傷性を持つ点で有利である事
がわかった。その後、接着継ぎ手は損傷の進展に対する抵抗力が弱くフェールセイフ
性がないこと、積層構成の自由度が少なく設計が難しいことから使用される機会が減
少し、現在ではほとんどファスナー継ぎ手が使用されている。わが国では、機体メー
カーが米国の研究開発の後追いの形で実用化の力をつけた。ただし、結合方式そのも
のに関する研究開発要素はないが、国内外とも、材料特性と形状への依存性が強いと
の認識のもとに、新複合材料、新構造様式を採用するたびに要素試験等を行って、設
計・加工法や防食性の妥当性を確認している。
B777 の構造設計作業に新しい方法が導入された。構造解析ワークステーション
(SWS; Structural Work Station)である。これは、一連の構造解析作業を自動化し
て、内部荷重の解析から応力分布計算、安全余裕計算そして強度計算書の作成までを
コンピュータで一括処理する統合型構造設計システムである。狙いは、設計所要時間
の短縮と国際共同開発における計算上の品質の標準化である。わが国には、会社独自
の小規模 SWS は見受けられるが、国際共同開発にも使用可能な標準化された本格的な
SWS はまだない。
金属構造に対する FAA 及びわが国航空局の基準は昔から内容的に大きい変化はなく、
国内でも富士重工業が FA-300 で、三菱重工が MU-300 で、FAA 及び航空局の型式証明
を取得した経験がある。従って、金属構造に対する実証試験についてはノウハウを
持っている。
しかし、FAA の型式証明を取得した航空機の複合材構造の実証試験については世界
的に見ても実績が少ない。米国で MD-11 外側補助翼(1990 年)、B777 尾翼(1995 年)、
欧州で A320/A340 尾翼(1988/92 年)、ATR 72 主翼(1989 年)などが挙げられるだけ
である。FAA の複合材構造に対する耐空性審査基準は 1984 年に発行された AC 20107A である。この基準では、実証試験方法について詳細多岐にわたるガイダンスが与
えられており、FAA や航空局の意向を十分に反映した方法を策定する必要がある。わ
が国では、MD-11 補助翼、B777 尾翼の先導的研究開発となった 7J7 プログラムに機体
メーカーが参画し、世界の新しい構造基準の洗礼を受けた。
本事業では、複合材部材と金属部材との組合わせ(結合方法)、統合型構造設計シ
ステムの検討および実物大構造の設計・試作に基く実証試験を第三のテーマとして研
2.13
究開発を行っている。このテーマは開発した技術が世界的に十分通用することを検査
するために必要である。
革新軽量構造インテグレーション技術の研究開発を再委託している富士重工業及び
川崎重工業は、複合部材と金属部材の結合技術について今までの経験を生かして、新
複合材料、新構造様式に対応できる研究開発を進めている。また、数少ない機会では
あるが上記国際共同開発において耐空性証明のために行った複合材構造実証試験に参
画した経験を生かして、本研究開発を遂行している。
2.14
砂型法による開発目標:
大きさ2mクラス、板厚2mm
大きさ2mクラス、板厚2
耐圧床支持構造 mm
(注)
1.青(■)で表示は、革新的軽量構
造設計製造技術開発の目標
2.赤(×
× )で表示は、Hitchcock 社の
最新試作実績
製品サイズ(mm)
■
×
海外研究レべル
×
国内実績レベル
海外実績レベル
■
×
×
インベストメント法による開発目標:
大きさ1mクラス、板厚 1mm
製品最小肉厚(mm)
図 2.8 薄肉大型精密鋳造技術の海外レベルと開発目標
2.15
④ 総合調査研究
世界をリードできる技術を開発するためには、絶えず世界の技術動向を素早く把握
し開発計画に反映する必要がある。特に、開発期間が 5 年間にわたる長期である場合
には計画が時代遅れとならないよう、技術動向調査は欠かせない。また、技術が広い
分野に及びその要素技術をインテグレーションすることが目的である事業にあっては、
総合的な技術の価値判断ができる指揮機能が必要である。
本研究開発を総括指揮する財団法人
日本航空機開発協会(JADC)は、上記米国ボーイング社
との共同開発プログラム B777,7J7 などや日本が主体性を持って実施している小型民間輸送機
(YSX)の開発調査事業(この中で、RTM による一体構造化、大型アルミ合金鋳造品設計法等の
先行研究を行った)において、研究開発の中核体として航空機全体に係わる先進技術を取得して
きた。従って、革新的技術の構築に取り組む本研究開発においても、JADC が世界の最新技術動
向を分析し課題を明確にした上実行計画を策定し、設計・製造・試験について研究開発能力を持
つ機体メーカーに再委託して研究開発を推進し、航空機構造統合技術の構築を推進している。
2.16
II 研究開発マネジメントについて
3.事業の目標
(1)最終目標値
部位ごとに適用する加工技術、設計技術が異なり,また構造効率も異なるため、事
業全体の単一数値目標を設定することは難しい。従って、開発テーマ別に、下記の最
終目標値を設定した。
①一体成形型 CFRP 部材の設計・製造技術
(a)主翼構造に対し、従来のアルミニウム合金構造に比べ、
重量軽減率:15%
部品点数:50%減
実機開発時における開発期間を15%削減
開発コストを20%削減
(b)機首構造に対し、従来のアルミニウム合金構造に比べ、
重量軽減率:20%
部品点数:1/5∼1/10
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
(a)主翼構造に対し、従来のリベット組立て構造に比べ、
重量軽減率:10%
部品点数:1/10
(b)機首構造に対し、
薄肉大型一体化鋳造技術を確立し、従来の板金組立構造に比べ、
重量軽減率:10%
部品点数:1/10
また、摩擦攪拌接合技術を確立し、従来のリベット組立構造に比べ、
重量軽減率:10%以上
部品点数:1/2∼1/4
(c)前縁構造に対し、従来の板金組立て構造に比べ、
重量軽減率:5∼10%
部品点数:1/5∼1/10
③革新軽量構造インテグレーション技術
(a)主翼構造に対し、上記①、②の成果として、
・実物大供試体による実証試験を実施して性能を確認
・航空局・FAA 等の機関の定める基準を満足する設計・製造技術
の確立
・重量軽減率:15%
・部品点数:50%減
(b)機首構造に対し、上記①、②の成果として、
・実物大供試体による実証試験を実施して性能を確認
・航空局・FAA 等の機関の定める基準を満足する設計・製造技術
の確立
・重量軽減率:10%
・ 部品点数:80%減
3.1
④革新的軽量構造高効率設計技術
(a)全体強度評価技術
コンピューターによる数値解析手法を用いて、現状のリベット結合組立構
造に比較して、部品点数で1/2∼1/4、重量で5∼10%減少するア
ルミニウム合金の摩擦攪拌接合一体化構造を設計できる技術を開発する。
(2)最終目標値の設定根拠
①一体成形型 CFRP 部材の設計・製造技術
(a)主翼構造
【目標】重量軽減率15%、部品点数50%、
(実機開発時)開発期間15%削減、開発コスト20%削減
【根拠】(i)航空機構造用 CFRP の成形技術開発は、トライアンドエラーによる修正・
安定化が避けられない現状にある。特に構造が大型化するほど安定化までに時間を必
要とし、成形不具合による損失リスクも増大する。今後の一体化による構造コスト低
減を成立させるために,成形プロセスを事前に解析的に評価して成形初期から安定し
た品質を実現させ、また実機開発においてトライアンドエラーを前提としない手法を
確立する意義が大きい。ここではその高精度成形技術の確立に挑戦し、目標として開
発期間 15%、開発コスト 20%削減と設定した。
(ii)アルミニウム合金を CFRP 部材に置き換える従来方式では部品点数が多い。こ
こでは、最新成形技術及びその効果を十分に引き出せる最適設計技術により、重量・
コストの両方とも引き下げた新世紀にふさわしい高効率構造設計・製造技術を目指す
ものであり(図 3.1 参照)、達成レベルとして 50%の部品点数削減を実現させ、かつ重
量的にも 15%軽減を達成することを目標とした。
(b)機首構造
【目標】重量軽減率20%、 部品点数削減率90%
【根拠】機体構造への複合材の適用は、海外のメーカーで積極的に推進されている。
海外航空機製造会社について動向調査を行ったところ、Boeing757旅客機水平尾翼
で重量12%減、部品点数20%減、YC−14輸送機水平尾翼で部品点数30%減
を達成している。しかし、図 3.2 に示すとおり、複合材料の特長である一体成形性を
十分に生かした構造様式を採っておらず部品点数が多い。一体成形により部品点数の
大幅な削減をねらって、従来の組立構造と比較して重量軽減20%、部品点数 1/5∼
1/10 を目標とした。
3.2
図 3.1
主翼構造部品点数の推移と部品点数削減目標
図 3.2
胴体部材配置間隔の推移と部品点数削減目標
3.3
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
(a)主翼構造
【目標】重量軽減率:10%、 部品点数:1/10
【根拠】従来の鋳造技術は複雑形状の成形性に優れるものの、薄肉化の限界、強度の
限界から適用個所が限られ、かつ重量低減には結び付けにくかった。これに対し、最
近の鋳造技術の進歩による薄肉高強度化により、従来板金組立構造であった部分の鋳
造一体化を図り、部品点数を大幅に削減しつつ、かつ重量低減も顕著に達成すること
を狙い、具体的目標として部品点数を 1/10、重量軽減 10%を設定した。
(b)機首構造
【目標】薄肉大型精密鋳造に対し、重量軽減率:10%、 部品点数:1/10
摩擦攪拌接合に対し、重量軽減率:10%以上、部品点数:1/2∼1/4
【根拠】(i)航空機機体構造への鋳造構造の適用は、海外機体メーカでは軽量化、製
造サイクル短縮のために積極的に推進されている。海外航空機製造会社と鋳造品製造
会社について技術動向調査を行ったところ、エアバス社ではA340のフラップ・ト
ラック・サポート構造への鋳造の適用により重量15%軽減、ボーイング社ではYC
−14耐圧隔壁の試作研究で重量5%軽減を達成している。以上の動向調査を勘案し、
部品点数の大幅な削減を目指して、従来の板金組立構造と比較して重量軽減10%、
部品点数 1/10 を目標とした。
(ii)航空機構造への溶接技術の適用は国内外とも研究段階であり、航空機以外では
ボーイング社においてデルタ・ロケットの燃料タンクに摩擦攪拌接合を用いた研究が
進められ、適用される動きがある。重量軽減効果については各研究とも目標値や試算
値で10%程度の重量軽減を見込んでいる。以上の動向調査を勘案し、機械加工と溶
接との最適な組合せも考慮して、従来のリベット結合による組立構造と比較して重量
軽減10%、部品点数 1/2∼1/4 を目標とした。
(c)前縁構造
【目標】・重量軽減率:5∼10%、部品点数:1/5∼1/10
・実物大供試体による実証試験を実施して性能を確認
・航空局・FAA 等の機関の定める基準を満足する設計・製造技術を確立
【根拠】(i)鋳造技術及び超塑性加工/溶接技術の進歩を加速させ、現在の前縁構造
であるアウタースキンとインナースキンとの多重構造、リブとスキンとの板金ビルト
アップ構造 及び防氷ダクトのサポート・ブラケット等を集約し、部品点数を飛躍的に
削減し一体化することにより重量の有利さを引出せる数値目標として重量軽減率5∼
10%、部品点数1/5∼1/10を設定した。
3.4
(ii)海外の航空機製造会社の動向を見ても前縁構造の一体化は進んでいない。現状
構造部品点数の壁を破り(図 3.3 参照)、鳥衝突に耐え、又、防氷ダクト内臓の複雑
構造である等の要求を満たしつつ、重量減及び部品点数大幅減の前縁構造を目標とし
た。この目標値はこれまでの研究レベルと材料メーカの先行研究成果から、努力の余
地があるが達成出来うるものと考える。又、この目標値をクリアすれば、 欧米の航
空機前縁構造の技術/コスト競争上の有利さを確保でき、かつ、他の航空機二次構造
部材に応用する上で波及効果が大きい。
図 3.3
前縁構造部品点数の推移と部品点数削減目標
③革新軽量構造インテグレーション技術
(a)主翼構造
【目標】・従来構造に比して重量 15%減、部品点数 50%減
・実物大供試体による実証試験を実施して性能を確認
・航空局・FAA 等の機関の定める基準を満足する設計・製造技術の確立
【根拠】①②の要素技術により得られる重量軽減および部品点数削減効果を統合して、
従来主翼構造に比べて、革新的主翼構造全体として15%の重量軽減、部品点数5
0%低減を達成する。現状航空機の重量の壁を打ち破り、新世紀にふさわしい高効率
の航空機を実現させるために必要なステップアップのレベルを狙って、目標を設定し
た。また、複合材は特に大型実大化して始めて確認できる技術課題もあり、品質確認
のための要求として、世界的に通じる実物大実証試験を設定した。
(b)機首構造
【目標】・従来機首構造に比べて10%の重量軽減、部品点数80%低減
・実物大供試体による実証試験を実施して性能を確認
・航空局・FAA等の機関の定める基準を満足する設計製造技術を確立
【根拠】①②の要素技術により得られる重量軽減および部品点数削減効果を統合して、従来機首構造に比べて、革
新的機首構造全体として10%の重量軽減、部品点数80%低減を達成する。実物大供試体による実証試験の必要
性は主翼と同じ。
④革新的軽量構造高効率設計技術
(a)全体強度評価技術
【目標】摩擦攪拌接合による与圧胴体パネルに対し、
重量軽減率:5∼10%、部品点数:1/2∼1/4
【根拠】機首構造部品への摩擦攪拌接合適用目標と同じであるが、多数の部品が組み
合わさった大きい一体化構造を考えており構造効率がやや低下する事を配慮して、重
3.5
量軽減率を若干低目に設定した。
(3)最終目標に至る中間目標
最 終 目 標 に 向 い 毎年 着 実 に 開 発 の 歩 を進 め る た め 、 各 年 毎の 達 成 目 標 ( Exit
Criteria)を設定している。毎年度末に第三者を含めた技術審査会を開き、Exit
Criteria の達成度を審査し、必要に応じ加速処置・計画修正等を行って開発の進捗を
図っている。各年毎の Exit Criteria を表 3.1∼表 3.3 に示す。
平成 13 年度までに要素技術を確立し、その後直ちに開発した技術の実証に移る方針
で研究開発を進めている。表 3.1 に示す主翼構造は平成 12 年度に要素技術開発を完
了したので、平成 13 年度より実証に使用する実物大供試体の設計に入る。表 3.2 に
示す機首構造は平成 12 年度までに薄肉大型精密鋳造および摩擦攪拌接合に関する単
品レベルの要素技術開発を完了した。平成 13 年度以降は一体成形サンドイッチパネ
ルの設計製造技術を完成させ実証段階に入る。表 3.3 に示す前縁構造は、平成 13 年
度1m長の供試体を用いて鳥衝突に対する耐荷を確認した後、2m長の実物大構造を
用いて実証段階に入る。
3.6
表3.1 「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発 (a)主翼構造」各年度の達成目標(Exit Criteria)
H11FY
H12FY
①一体成形型 (1)CFRP部材の高精度
CFRP部材の設 成形技術
計・製造技術
研究 開発項目
●成形シミュ
レーション技
術、熱解析技術
の方向付け
●成形シミュ
レーション方向
付け
(2)一体複合部材構造
の最適設計
●技術実証実物
大供試体設計解
析手法の方針明
確化
●新成形法に
あった最適設計
方針明確化
(3)部分構造の製作・
試験
●成形加工性・ ●部分構造試験
要素試験実施 、 供試体設計完了
部分構造試験供
試体製作着手
(1)薄肉大型精密鋳造
技術
●適用効果算定
と適用部位設定
●設計基礎デー
タ取得
(1)複合材と金属部材
の組合わせ技術
●前縁インタ
フェース概念設
計
●前縁インタ
フェース計画設
計
②大型構造金
属部材の精密
鋳造・溶接技
術
③革新軽量構
造インテグ
レーション技
術
●強度実証計画 ●部分構造静強
(2)デジタルモック
度試験結果によ
アップ等による高効率 設定
る解析手法検証
インテグレーション技
と改善
術
H13FY
H14FY
H15FY (最終年度)
(最終目標)
実機開発に必要な基本技
術開発をH12年度までに完
了し最終目標を達成し
た。
★重量軽減率;15%
★部品点数減;50%
★実機開発時開発期間減;15%
★開発コスト減;20%
H12年度までに実大供試体
製造相当まで完了し、最
終目標を達成した。
★重量軽減率;10%
★部品点数減;1/10
実物大供試体設計・製造
に集約できるレベルをH12
年度までに達成した。
(3)実大構造の設計検 ●実機設計課題 ●実機計画設計
討及び試作・試験によ に対する方策設
定、実機主翼コ
る検証
●実物大供試 ●実物大供試 ●実物大供試
体第1次設計 体設計完了 体製造完了、
及び静強度試
完了
験完了
ンセプトの絞込
み
3.7
☆重量軽減率;15%
☆部品点数減;50%
☆実物大試験実証
☆耐空性基準を満足する
設計製造技術
3.8
表3.3 「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発 (c) 前縁構造」 各年度毎の達成目標(Exit Criteria)
研究開発項目
H11 FY
●前縁構造計
画設計
②大型構造金 (1)薄肉大型精密 ●開発試験計
属部材の精 鋳造技術
画策定
密鋳造・溶
●構造要素試
接技術
験着手
●前縁構造計
画設計
(2)高精度・高品 ●開発試験計
画策定
質溶接技術
●構造要素試
験着手
H12 FY
●構造要素強
度試験及び成
形試験完了
●実物大構造
供試体設計着
手
●構造要素強
度試験及び成
形試験完了
●実物大構造
供試体設計着
手
H13 FY
H14 FY
●実物大構造
供試体設計完
了
●実物大構造
供試体製作及
び衝撃強度試
験着手
●実物大構造
衝撃強度試験
完了
●技術実証供
試体設計及び
製作に着手
●実物大構造
供試体設計完
了
●実物大構造
供試体製作及
び衝撃強度試
験着手
●実物大構造
衝撃強度試験
完了
●技術実証供
試体設計及び
製作に着手
3.9
H15 FY(最終年度)
(最終目標)
●工程スペック、
設計許容値確立
●技術実証供試 ☆重量軽減率:5%
体製造完了、実
証試験実施
☆部品点数:1/7
☆実大構造試験による実証
●工程スペック、 ☆航空局・FAA基準を満た
設計許容値確立 す設計製造技術確立
●技術実証供試
体製造完了、実
証試験実施
4.事業の計画内容
4.1 研究開発の内容
(1)事業全体の計画
(a)研究開発項目と開発の意義
ア.要素技術開発フェーズ(平成11年度∼13年度)
本事業の目的である航空機、高速車両、自動車、船舶等の構造物の簡素化(部品点
数削減)、軽量化、エネルギー使用合理化改善を達成するために、次の3大項目と8
中項目から成る研究開発を進めている(図 4.1(a)も併せて参照方)。
大項目
①一体成形型 CFRP 部材の
設計・製造技術
中項目
[1] CFRP 部材の高精度成形技術
[2] 一体複合部材構造の最適設計
[3] 部分構造の製作・試験
②大型構造金属部材の
精密鋳造・溶接技術
[1] 薄肉大型精密鋳造技術
[2] 高精度・高品質溶接技術
③革新軽量構造インテグ
レーション技術
[1] 複合部材と金属部材の組合せ技術
[2]高効率インテグレーション技術
[3] 実物大構造の設計検討及び試作・試
験による検証
個別研究開発項目の意義・ニーズについて次に示す。
①一体成形型 CFRP 部材の設計・製造技術
金属を材料とする構造物は、骨組、薄板等のビルトアップ方式によって、軽量化と
高強度化を実現してきた。同様の構造方式を維持しながら、比強度の高いアルミニウ
ム合金あるいは複合材料への置き換えによる軽量化も進められているが、限界が見え
ている。
三次元織物材など複合材料の一体成形特性を生かした構造部材を製作し、これを全
体構造に組み上げる新概念の構造方式を導入する事で、部品点数の削減及び軽量化を
達成する事ができる。そのために、RTM など一体成形型 CFRP 部材の高精度成形技術、
一体複合部材構造の最適設計技術及び部分構造の製作・試験等の研究開発を行う必要
がある。
4.1
汎用構造様式
【事業の目的】
航空機、高速車両、自動車、船舶等の構造
物の簡素化、軽量化、エネルギー使用合理化改善
機首上部
外板パネル
主翼上面パネル
③革新軽量構造インテグレーション技術開発
[1]複合材部材と金属部材の組合わせ技術
[2]高効率インテグレーション技術
[3] 実物大構造の設計及び試作・試験による実証
リブウェブ
機首下部
外板パネル
主翼下部ボックス
②大型構造金属部材の精密
鋳造・溶接技術開発
[1]薄肉大型精密鋳造技術
[2]高精度・高品質溶接技術
薄肉大型精
密鋳造品
①一体成形型 CFRP 部材の設計製
造技術開発
[1]CFRP 部材の高精度成形技術
[2]一体複合部材構造の最適設計
[3]部分構造の政策・試験
ハットストリンガ
(RTM 成形)
外板
(プリプレグ・コボンド成形)
上部外板
パネル
シアタイ
(プリプレグ・コボンド成形)
1600mm
640mm
アルミ合金薄肉精密鋳造品
補強外板パネル
アルミ合金超塑性加工/溶接一体化前縁
図 4.1(a) 事業の全体計画:事業の全体構成と研究開発項目
4.2
平成 14 年度
∼15 年度に行
う技術実証
サンドイッチ・パネル
現在到達した
研究開発レベル
(平成 11 年度
∼13 年度)
[1] CFRP 部材の高精度成形技術
CFRP 部材製造時のコンピュータシミュレーションによる残留熱応力及び
熱変形予測技術を開発し、これを治具設計及び製造プロセス改良等に反映
させて、多様な複合部材構造に対応できる高精度成形技術を開発する。
[2] 一体複合部材構造の最適設計
複合部材テーラリング設計及び部品点数削減一体化構造設計により、
多様な複合部材構造の重量、強度及び剛性の最適化を行う設計技術を開発
する。
[3] 部分構造の製作・試験
部分構造レベルで RTM 法により一体成形型 CFRP 主翼補強外板供試体を製作し、
上記開発技術の成立性検証を行うとともに、設計要求に基く試験を行なう。また、
機首構造についても部分構造レベルでプラスチックコア CFRP 面板の一体成形型
サンドイッチ構造供試体を製作し、上記開発技術の成立性検証を行うとともに、
設計要求に基く試験を行う。
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
大型構造金属部材の現状の欠点である、部品の多さに伴う製造工程の複雑さや信頼
性低下、及び、リベット結合による重量増加や重なり部分の腐食し易さを解決するた
めに、大型複雑形状の精密鋳造技術及び高精度・高品質の溶接技術の開発が必要であ
る。
[1] 薄肉大型精密鋳造技術
航空機主要部材に適用できる鋳造材料及び鋳造工程につき、砂型法によ
り大きさ2mクラスで板厚2mm 以下、インベスト法により大きさ1mクラ
スで板厚1mm 以下の世界トップの技術開発を狙う。そのため高度な管理に
よる高品質及び低歪熱処理に立脚した薄肉大型精密鋳造構造部材の設計・
製作技術を開発する。
[2] 高精度・高品質溶接技術
航空機主要構造に適用できるアルミニウム合金の超塑性加工/溶接継手、
摩擦攪拌接合継手の強度等の設計データを取得し、リベットレス溶接構造
に関する設計・製造技術を開発する。また、ロボット等高精度位置決め技
術と組合わせて、高精度・高品質溶接技術を開発する。
③革新軽量構造インテグレーション技術
構造体全体としての、強度、重量、経済性等を最適化するために、異種部材の組合
せ技術、装置や機器を含めた設計技術、及び、構造全体の強度・信頼性評価技術の開発、並びに、
実大構造の試作・試験による検証が必要である。
[1] 複合部材と金属部材の組合わせ技術
CFRP 部材と金属部材との異種材料組み合わせ部について、構造要素試験
を実施し、加工技術、結合技術及び防食技術等を開発する。
[2]高効率インテグレーション技術
主翼構造について、クーポン、要素、部分構造試験で得られる各部分構
造要素の応力、歪み、変形、破壊モード等のデータを統合した構造全体の
データベース統合化システムの検討を行う。
[3] 実物大構造の設計及び試作・試験による実証
上述の各個別技術を統合して、小型旅客機の主翼及び機首構造の実物大
構造体を試作し、強度試験を行って最終目標を達成すること及び航空局・
米国 FAA の基準を満足することを実証する。
4.3
ィ.技術実証フェーズ(平成14年度∼15年度)
平成11年度∼13年度は要素技術の確立を目指し複合材料と金属材料別に研究開
発項目を括って作業を展開した。要素技術は材料により設計法・製造法が異なるため
この区分による作業展開が実行しやすく、また、成果もわかりやすかった。しかし、
平成14年度∼15年度に行なう開発技術の実証では、複合材部品と金属材部品が複
雑に組合わさった主翼構造、前縁構造、機首構造の組立構造単位の供試体を用いて強
度試験を行なう。従って、下記のように構造様式の違いによる開発項目区分に組替え
て作業展開を行なった。これにより成果の達成度を判断しやすい形を取る事ができる。
大項目
① 一体成形ボックス結合型
構造方式の開発
(主翼及び前縁構造)
中項目
[1]コボンド結合ボックスビーム(主翼)
[2] 超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ
構造(前縁)
② 大型一体鋳造・FRP(強化 [1]新型コア・サンドイッチ与圧外板
プラスティック)複合技術
[2]薄肉大型精密鋳造
[3]摩擦攪拌接合(FSW)
(機首構造)
③ 革新的軽量構造高効率
設計技術
[1]全体強度評価技術開発
[2]高信頼性効率的構造技術
組換えによる個別研究開発項目の対応を表 6.1 に示す。ただし、③[1]全体強度評
価技術開発は新規研究開発項目であるので、その意義・ニーズについて以下に示す。
③[1]全体強度評価技術開発
従来のリベット結合構造の最軽量設計法は、溶接構造には通用しない。強度と剛性
(座屈)がバランスする全体強度評価を新しく行い、最軽量構造を設計できる技術が
必要である。何故なら、
従来のリベット結合によるアルミニウム合金組立構造を新しい溶接技術である摩擦
攪拌接合により一体化を行うと、疲労強度の改善により板厚を薄くでき軽量化を行う
ことができるとともに、部品点数の大幅な削減が可能である。従来のリベット結合構
造では、板厚そのものが厚く剛性が高いことに加え、縦通材やフレームが剛性増大に
寄与し座屈を抑えることができた。しかし、溶接接合一体成形構造では、板厚の薄さ
に加え縦通材やフレームの数が激減し剛性が極端に低下する。その結果、強度の高い
高力アルミニウム合金を用いているにもかかわらず座屈が低荷重で発生し強度低下に
つながる。それを防ぐため、コンピューターによる数値解析手法を用いて、従来の航
空機にはなかった全く新しい摩擦攪拌接合構造の強度と剛性のバランス点(例えば、
強度の限界である引張破壊と剛性の限界である圧縮座屈破壊が同時に起こる部材寸度
及び配置)を見つけ出し、効率的に最軽量構造を得る設計技術を開発する。
(b)研究開発項目間の有機的関係
図 4.1(a)に事業の全体構成を示すが、開発する最終構造は複合材料と金属材料から
なる。研究開発項目①複合材料(CFRP)と②金属材料(新アルミニウム合金)で材料
別に要素技術を開発し、③インテグレーション技術で構造体として①②を統合する。
要素技術の開発①②で開発を行っている項目およびそれらを統合するインテグレー
ション技術③で開発を行っている項目を具体的に図 4.1(b)に示す。
表 4.1 に構造別、研究項目別の開発目標とその目標達成のため開発が必要な要素技
4.4
術を示す。構造間の有機的関係は、複合材料製の主翼桁間構造と金属材料製の前縁構
造との結合のように異種材料の結合に関わる技術課題がある。この課題は研究開発項
目③[1]で取り組んでいる。また、機首構造、主翼構造及び前縁構造の技術実証は航
空局及び FAA の同じ基準に立脚したものでなくてはならない。環境条件、設計要求な
ど密接に関係し合う事項がある。
本研究は公募競争入札により開発実施会社が選定されており該当企業には参加時点
から競争が開始されている。構造ごとに単独の開発実施者が研究を行っているが、各
年度毎に設定した開発目標に対する達成度が第三者を含めた技術審査会により評価さ
れるため、お互いに切磋琢磨している。一つの研究を数社に競わせるという方法は、
研究の分野が限定されている場合あるいは、潤沢な予算のある場合には有効であるが、
らない場合には必ずしも有効でないと考え、本研究開発では機首/主翼/前縁のそれ
ぞれの技術開発において将来の国際共同開発でイニシアチブを取り得る体制に効率的
に取組んでいる。
日本航空機開発協会(JADC)内に技術委員会を設け、実行計画・進捗及び研究成果
のチェックアンドレビューを行い、研究開発項目及び構造間に有機的に結びついてい
る諸課題を処理している。これは④総合調査研究の任務とし、設計要求の統一基準、
部品点数の数え方統一方法、技術実証計画の専門家(FAA DER)
による第三者評価など構造全体をまとめる上で発生する研究項目間の調整事項の解決
を行っている。
学問的・専門的な知識が必要な研究項目については、官学の研究者の参画を得て共
同研究を行い効率的に研究開発を促進している。
4.5
③革新軽量構造インテグレーション技術
・実物大構造の設計及び試作・試験による実証
【機首構造】
【主翼構造+前縁構造】
・高効率組立手順
・複合材部材と金属部材の組合せ技術
・鳥衝突シミュレーション
・実証試験計画のDER評価
・グローバル/ローカルFEMモデルの使い分け
・実証試験計画のDER評価
①一体成形CFRP部材の設計・製造技術
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
・マルチサポート成形コア【機首部材】
・ 薄肉大型精密鋳造(砂型法)耐圧床支持部材 【機
・新型サンドイッチ外板【機首部材】
・RTM成形桁【主翼部材】
首部材】
・大型鋳造部材溶接補修技術【機首部材】
・摩擦攪拌接合与圧隔壁【機首部材】
・VaRTM成形ストリンガー【主翼部材】
・ 薄肉精密鋳造(インベストメント法)固定後縁部材【主翼
部材】
・コボンドパネル【主翼部材】
・超塑性加工/溶接部材【前縁前方部材】
・薄肉精密鋳造(インベストメント法)【前縁後方部材】
図4.1(b)
要素技術とインテグレーション技術の区分
4.6
インテ
グレー
ション
技術
開発
要
素
技
術
開
発
表4.1
表4.1 目標達成に必要な要素技術
4.1 目標達成に必要な要素技術
構造区分
研究
開発項目
機首構造
主翼構造
前縁構造
(KHI①~③)
(FHI①~③)
(NIPPI②)
① 一 体 成 形 型 目標:重量軽減率 20%
CFRP 部材の設 部品点数 1/5~1/10
☆新型サンドイッチパネル
計・製造技術
②大型構造金
属部材の精密
鋳造・溶接技術
③革新軽量構
造インテグレー
ション技術
④総合調査研
究 (JADC)
究 目標:重量軽減率 15%
部品点数 50%減
☆RTM(VaTRM)
RTM(VaTRM)
☆3 次元織物複合材料
鋳 造 部 品 目 標 : 重 量 軽 減 率 目標:重量軽減率 10%
10%部品点数 1/10
部品点数 1/10
アルミ溶接部品目標:重量軽減率
10%以上、部品点数 1/2~1/4 ☆薄肉精密鋳造(
インベスト法))
☆薄肉精密鋳造(インベスト法
☆薄肉大型精密鋳造(
☆薄肉大型精密鋳造(砂型法)
砂型法)
☆摩擦攪拌接合
機首構造全体目標:
主翼構造全体目標:
重量軽減率 10%
重量軽減率 15%
部品点数 80%減
部品点数 50%減
航空局・FAA 基準満足する設計 航空局・FAA 基準満足する
製造技術確立、
設計製造技術確立、
実物大試験による実証
実物大試験による実証
☆強度実証計画
☆強度実証計画
・技術委員会運営
・技術委員会運営
(技術審査会等)
(技術審査会等)
・構造全体技術課題分析(技術 ・構造全体技術課題分析
動向調査等)
(技術動向調査等)
☆実証計画の DER 評価
☆実証計画の DER 評価
(注
4.7
(注)☆
(注)☆は目標達成のた
め開発が必要な要素技術
目標:重量軽減率 5~10%、
部品点数 1/5~1/10
☆薄肉精密鋳造(
インベスト法))
☆薄肉精密鋳造(インベスト法
☆超塑性加工
☆強度実証計画
・技術委員会運営
(技術審査会等)
・構造全体技術課題分析
(技術動向調査等)
☆実証計画の DER 評価
(c)事業のスケジュールと予算の推移
研究開発期間は平成 11 年度から 15 年度の 5 年間である。平成 11 年から 13 年度の
3 年間で要素技術を確立し、平成 14 年度から 15 年度で開発した技術を実証する計画
である。
本研究開発は未知の技術課題が多いため、図 4.2 に示すとおりクーポンの試験から
ノウハウを積み上げて実機実物大構造に至るビルディング・ブロック開発方式をとっ
ている。図 4.1 に現在の到達レベルを、図 4.2 に各年度ごとの研究開発レベルを設
計・試作を行う構造(部品)あるいは強度試験供試体のイメージで示す。現在、詳細
構造あるいは実物大の部分構造のレベルに達したところである。
各個別研究開発項目ごとの配分を含めた予算の推移を表 4.2 に示す。
図 4.2(a)
ビルディング・ブロックと各年度毎のステップ・アップ
4.8
図 4.2(b) ビルディング・ブロックと各年毎のステップ・アップ
4.9
表 4.2
研究開発項目
① 一体成形ボックス結合型構造
方式の開発
予算の年度ごとの推移
H11
(主翼−富士重工業)
(1) コボンド結合ボックスビーム
(2) 薄肉精密鋳造
(前縁−日本飛行機)
(3) 超塑性加工/溶接精密鋳造
組合せ構造
(小 計)
② 大型一体鋳造・FRP(強化
プラスチック)複合技術 H12
189
3
154
134
119
750
9
25
27
22
21
23
118
185
219
176
155
142
877
64
161
141
124
490
27
26
40
14
53
118
67
40
161
(胴体パネル−三菱重工業)
(1)全体強度評価技術開発
(日本航空機開発協会統括)
(2)高信頼性効率的構造技術開発
・高信頼性長期寿命予測法の開発
(金沢工業大学)
・加速試験用供試体製作(富士重工業)
(主翼−富士重工業)
(3) 統合型構造解析システム
3
3
(機首−川崎重工業)
(4) 3次元CADデジタルモック
アップ
(小 計)
単位:百万円
H15
合計
H14
154
6
(機首−川崎重工業)
(1) 新型コア・サンドイッチ与圧
外板
(2) 薄肉大型精密鋳造
(3) 摩擦攪拌接合
(小 計)
③ 革新的軽量構造高効率設計技術
H13
141
124
597
31
32
63
5
5
13
17
17
34
4
7
0
0
3
4
3
53
54
117
・企画調査、評価、技術審査、
20
技術委員会等(日本航空機開発協会)
40
37
33
34
164
・複合材強度評価技術の研究
(宇宙航空研究開発機構)
3
3
3
9
・摩擦撹拌接合・超塑性加工の組織
解析(産業技術総合研究所)
3
④ 統合企画,内外研究動向調査
(日本航空機開発協会統括)
(小 計)
研究開発管理費
費
用
総
計
3
20
2
40
8
43
7
36
(9)
37
(9)
176
35
263
389
390
(394)
(366)
1802
4.10
(2)研究開発項目毎の内容の詳細
各研究開発項目の事業内における位置付けおよび項目毎の有機的関係については
4.1 項において、各項目の目標値および目標設定根拠については 3 章において既に述
べたので、ここでは各研究開発項目の計画内容の詳細、研究手法等について示す。
ア.要素技術開発フェーズ(平成11年度∼13年度)
①一体成形型 CFRP 部材の設計・製造技術
[1] CFRP 部材の高精度成形技術
従来の複合材部材の製造は樹脂硬化後の変形等、製品の精度のコントロールを、
治具設計、成形条件やその制御方法について経験によって得られたデータやノウハウ
に頼って変える事で行なっていた。主翼構造を対象とした研究では、RTM 樹脂フロー
を解析で予測することで高精度な複合材部品を製造する技術を開発する。本研究では
数々の成形パラメータの相関関係を、基礎データとして試験によって取得し入力デー
タとして扱うことで成形条件の違いによる樹脂フローを予測をし、最適な加工条件を
設定する。
一方、機首構造を狙ったサンドイッチパネルの成形では、まずコアを成形あるい
は機械加工してから、CFRPプリプレグと積層してオートクレーブでキュアしてお
り、コアの加工工程がサンドイッチパネル成形工程の大きな部分を占める。従来のハ
ニカム・コアは取り扱い性が悪く精度を出しづらいが、プラスチック・コアは加熱硬
化可能で成形精度を向上できる。現状のプラスチック・コアの成形は、コアを成形型
に入れてオーブンで加熱して成形後、周辺を手作業でトリムするプロセスのため、問
題点がある。この成形プロセスを、形状可変サポートによる成形と、ロボットによる
自動トリムに変更できれば、流れ作業的に成形できることとなり、加工時間、精度を
改善できる。本研究開発では、コアの成形加工工程の改善を目的として汎用のコア成
形装置を整備し、多様な形状のサンドイッチ部材に対応できる高精度成形技術を開発
する。
[2]一体複合部材構造の最適設計
主翼構造を、従来の部品点数が多い構造様式(図 4.3(a))から、複合材一体成形
による構造様式(図 4.3(b) (c))を用いて部品点数を最小にしつつ、従来方式と同等
の強度、剛性を有するよう設計する。まず、新構造方式に適した解析手法を検討・設
定する。その際、航空局、FAA 等の基準を調査・検討し実機開発時の使用に耐えられ
る解析手法とする。部分構造試験供試体の解析に本手法を適用し、部分構造試験の進
展に伴い試験結果の評価、設計への反映、解析手法のリファインを行う。改良した最
適設計技術で項目③「革新軽量構造インテグレーション技術」において行われる実物
大主翼構造の設計を行う。
4.11
(a)部品点数が多い従来の主翼構造様式
(b)マルチスパー一体成形翼の案
図 4.3
(c)一体成形補強パネル翼の案
従来主翼構造様式と複合材一体成形主翼新構造様式
機首構造は、操縦・電気装備のぎ装品があり、形状が複雑で多数の補強材
があり、設計条件(鳥衝突、対雷、視界等)等の要求も加わり、部品点数の多い構造
である。複合材適用は難しく開発リスクがあったが、近年高温特性に優れタフなプラ
スチック・コアが開発され、プラスチック・コアとCFRP面板によるサンドイッチ構
造により、機首構造への複合材料適用を実現できる可能性がでてきた。本研究開発で
は、複合材料による大型一体成形法を用いて設計強度と重量の間でトレードを行いな
がら、重量軽減効果の大きい設計手法を確立する。
[3]部分構造の製作・試験
大型一体成形法の加工・成形試験を行い、成形性を確認する。主翼桁間構造の構
造要素供試体を製造し、構造要素試験を行い、構造要素レベルでの強度を確認する。
主翼桁間構造の一部分を取り出した部分構造供試体を設計・製造する。部分構造試験
は静強度、耐損傷性、修理法など実機開発時の試験の流れに沿って行う。これらに
よって得られた結果は項目③「革新軽量構造インテグレーション技術」において行わ
れる実物大構造の設計に反映する。
機首構造についての複合材適用は少なく、機首構造特有の設計条件に対する設計
ガイドライン等もない。対象材料も新しく、かつ大型化の製造プロセスも従来とは異
なる。一体複合材構造を完成させるため、部分構造レベルの製作・試験を行い、成形
条件データ・強度データを取得し、大型複合材構造の製造プロセスの確立と機首構造
の設計要求を満足する設計手法を確立する。
4.12
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
[1]薄肉大型精密鋳造技術
従来構造は 、組立構造に起因する軽量化・部品点数削減化 への悪影響がある。厚
板からの削り出しや鍛造化による一体部品化においても、歩留まり率低下、機械加工
工程の複雑さから、部品点数削減進展の壁に直面している。また鍛造品も鍛造型の問
題から複雑な形状の一体部品を製造するには必ずしも向いてはいなかった。
鋳造品は、i) 強度が低い、ii) 製品の信頼性が低い、iii) 鋳造可能な最低板
厚が厚い、iv) 大型な鋳造品は寸法精度が悪い、等の問題が有り、主要構造部材、特
に大型部材への適用はまれであった。近年のアルミニウム鋳造技術の進歩は薄肉で大
型の鋳造品が製作可能となりつつあり、また強度も向上してきている。これらの鋳造
材料に対して、航空機主要部材として適用に耐えうる機械特性と形状精度を確認し、
例えば部品点数が多い翼端構造(図 4.4 参照)や固定後縁構造など適用可能な主翼構
造部分を検討する。また部分構造試験を行い、薄肉大型精密鋳造構造の最適設計デー
タを取得して、設計手法の確立を行う。
(a)従来構造の例
図 4.4
(b)薄肉精密鋳造構造の例(部品数 1 個)
薄肉精密鋳造による部品点数削減案の一例
新アルミニウム合金 D357 を候補鋳造材料として開発を行う。大きさ 2m クラスの
薄肉大型化を狙う場合、D357 鋳造材を適用した砂型精密鋳造法が最も効果的である。
これは特に機首構造部材などの1mを超えるサイズに対しては、インベストメント鋳造法は
設備の制約が多いためである。砂型法で大きさ 2m クラスで板厚 2mm 以下の鋳造技術
(前出の図 2.1 参照)を、インベストメント法で大きさ 1m クラスで板厚 1mm 以下の鋳造技術
を開発し、一体化による部品点数削減を行う。A/B201 鋳造材は、非常に高強度な鋳造
材料であり軽量化を図るには有効な材料であるが、材料特性上湯流れ性が悪いため
D357 鋳造材と同じ薄肉大型化を目指すのは困難である。砂型/インベストメント法いずれの鋳
造法においても、製品の高品質化・低歪化が精密鋳造部品にとって重要であり、設計
技術、鋳造プロセス技術、熱処理歪制御技術の検討を行い、高品質・低歪の鋳造技術
を開発する。
前縁構造に高品質大型アルミニウム鋳造技術を適用することにより、リブ、スキ
ンを一体化し、更に防氷用ホットエア通路やダクトサポート ブラケットを組込むこ
とで、大幅な部品点数の削減を図る。鋳造は強度要求に応じた、最小限の板厚を追求
4.13
する。鋳造部品サイズは精度確保の観点から適切な大きさとする。
[3]高精度・高品質溶接技術
航空機の機首構造において、圧力隔壁は構造上重要で大きさの割に部品点数が多
いため重量の点で課題を有している。そのため機械加工と溶接技術の組合せによるリ
ベットレス構造が実現できれば、部品削減および軽量化効果は非常に大きい。圧力隔
壁を現実的な機械加工が可能な大きさに分割し、それらを高精度・高効率な摩擦攪拌
接合技術により結合し、リベットレス構造を達成する。
また前縁全体(スキン、リブ、防氷ダクト/ホットエア通路)をアルミニウム合
金の超塑性加工と溶接により、一体構造とすることで、 大幅な部品点数の削減を図
る。
図 4.5
前縁構造への一体成形技術の適用
③革新軽量構造インテグレーション技術
[1]複合部材と金属部材の組合わせ技術
国内では民間機の主構造、特に主翼桁間構造に複合材を用いた例はなく、複合部
材と金属部材の熱膨張率の違いから生じる変形を逃がす設計手法や、電位差腐食に対
する準備、金属と複合材の接合部でのファスナ穴径等の設計基準も民間輸送機に適用
できるレベルのものは存在しない。これらの問題を抽出し、対応する要素試験を行う
ことで確認・裏付けとし、異種材料の組み合わせ部に対する加工・結合・ 防食の設
計マニュアルを確立する。
機首構造を考える場合、電解腐食の他に、導電率が低いため別途被雷対策も必要
である。電解腐食防止及び耐雷対策についてガイドラインがあるが、両対策の整合が
明確ではないため、二つの対策を両立させる場合に問題がある。また、複合材はアル
ミ材に比べて機械加工が難しく、金属材と同時加工を行った場合、さらに加工が難し
くなる。構造要素試験により、電解腐食防止法を確立し、構造要素加工試験により複
合材と金属を組み合わせた最適加工プロセスを確立する。
[2]高効率インテグレーション技術
従来の強度解析作業は、外部荷重計算、内部荷重算出、部材強度検討のように
段階別の作業であり、一段階の作業の遅れが全体の作業に影響を与える要因となっ
ていた。そこで、主翼構造を対象にしてクーポン、要素、部分構造試験で得られる各
部分構造要素の応力、歪み、変形、破壊モード等のデータを統合した構造全体の
データベース統合化システムの検討を行う。
[3]実物大構造の設計検討及び試作・試験による検証
小型輸送機を想定した主翼構造の実物大構造を設計・試作する。航空局・FAA 等の
4.14
基準に適応する実証試験を実施して、構造設計・製造の妥当性を確認する。
一体成形型CFRP部材の設計・製造技術および大型構造金属部材の精密鋳造・
溶接技術からなる一体化要素技術を用いて機首構造実物大供試体を試作し、実証試験
を行って設計・解析の妥当性を確認する。また、開発初期段階から航空局・FAAの
基準に合致した開発手順を設定し、実際の開発と同レベルの開発プロセスを経験する。
④総合調査研究
プロジェクト全体の研究開発を円滑かつ着実に推進し、目標を確実に達成するた
め技術委員会を設置し、総合調整を行う。技術審査を行い研究開発成果を毎年確認し、
次のステップへの移行を決定する。また、再委託先の研究開発を補完し,航空機構造
の総合技術を構築するため、独自の技術研究開発を行う。世界の最新技術動向を分析
し、課題を明確にして研究開発の実行計画に反映する。技術実証計画を FAA DER に提
示し、第三者の専門家の評価を通して世界トップクラスの技術開発を行う。
国立研究所および大学との共同研究
幅広い産・学・官の研究者の参画を得て効率的な研究開発の促進を図るため、次の2国立研究
所と1大学との共同研究を行っている。
[1](独立行政法人)産業技術総合研究所(名古屋センター)基礎素材研究部門
中村守副部門長との共同研究
(a)共同研究の目的:アルミニウム合金 2024,7075 への摩擦攪拌接合法の適用は前
例がなく、本研究開発において解決すべき技術課題が多数ある。 また、超
塑性加工用アルミニウム合金 5083 についても、加工前後の材料特性変化の把
握が重要である。中村研究室の豊富な当該技術に関する研究成果を活用して、
課題解決に当たる。
(b)共同研究の内容:
イ.摩擦攪拌接合部の組織解析
ロ.超塑性加工による組織変化の解析
[2](独立行政法人)航空宇宙技術研究所 先進複合材評価技術開発センター
石川隆司センター長との共同研究
(a)共同研究の目的:本研究開発では、複合材構造の新成形法である RTM 等の適用
を行なう。新成形法を適用する場合、成形後の複合材の強度等の性能を評価
して所定性能の発現を確認する必要がある。
石川研究室の先駆的強度評価技術によりこの確認を行なう。
(b)共同研究の内容:
イ. 新成形法に対して複合材性能を把握できる適切な強度評価技術の確立
ロ.前項評価技術及び所有試験装置による強度評価の実施
[3]金沢工業大学 材料システム研究所 宮野靖教授との共同研究
(平成 14 年度からは③[2]高信頼性効率的構造技術開発の一項目として実施)
(a)共同研究の目的:本研究開発では主翼及び機首構造に複合材料を適用する。現在、複合材構
造の長期寿命の実証法は実時間での疲労強度試験しかないが、この試験は非
常に長い時間がかかる。宮野研究室では、短時間の試験に基き長期寿命を予
測できる加速試験法及び寿命予測解析法を研究している。この方法を研究開
発中の主翼及び機首構造に適用して、長期寿命を早期に予測し設計に反映し
て、長期耐久性を確保する。
(b)共同研究の内容:
イ.適用する複合材料の宮野理論への適合性確認
ロ.マスター曲線(時間―温度移動因子)の導出
ハ.寿命予測解析法の設定
4.15
ィ。技術実証フェーズ(平成14年度∼15年度)
新規追加項目③[1]全体強度評価技術開発について詳細を示す。
③ 新的軽量構造高効率設計技術
[1]全体強度評価技術開発
従来、航空機の与圧胴体構造は多数の
部品を右図に示すようにリベットで結合
して組立てていた。摩擦攪拌接合によっ
構造の一体化を行なえば、部品点数の削
減及び疲労強度、座屈強度の向上による
軽量化が期待できる。
次の挙げられる摩擦攪拌接合(FSW)一
体構造化案の中から、強度試験及び構造
解析を行なって部品点数の少ない最軽量
構造様式を導き出す設計技術を開発する。
図
リベット結合ビルドアップ構造
FSW による一体構造化案
(A) 押出し型材 FSW 接合構造(ニアネットシェイプ素材の活用)
(B) インテグラルスキン FSW 接合構造(簡単形状素材の活用)
(C) ラップ FSW 接合技術(薄板安価素材の活用)
(D) レーザ溶接接合構造(特殊素材の活用)
(E) 高剛性パネル構造(フレーム点数の削減)
4.16
4.2 研究開発の実施体制
(1)研究開発実施機関と実施体制
財団法人 日本航空機開発協会(JADC)からの再委託(平成 11 年度∼13 年度)及び連
名型体制(平成 14 年度∼15 年度)で研究に参加した研究所・大学・企業は次のとおり
である。
(アイウエオ順)
研究所:(独立行政法人)航空宇宙技術研究所先進複合材評価技術開発センター
(独立行政法人)産業技術総合研究所(中部センター)基礎素材研究部門
金属材料組織制御・評価研究グループ(平成 13 年度まで)
大 学:金沢工業大学材料システム研究所
企 業:川崎重工業株式会社
日本飛行機株式会社
富士重工業株式会社
三菱重工業株式会社(平成 14 年度から公募で参加)
JADC を含め各研究開発実施機関の選定は、i)研究テーマへの取り組み意欲・意思、
ii)当該技術の経験・実績、iii)研究開発設備の保有状況等にもとづき行った。
平成 13 年度の研究開発実施体制(委託−再委託体制)を図 4.6(a)に、平成 15 年度の
連名型研究開発実施体制を図 4.6(b)に示す。
(2)研究開発実施場所
各機関が保有する経験・知識および研究開発設備を活用して開発を進めるため各機
関の所在地で研究開発を行う。ただし、技術委員会、技術審査会等全員が集合して調
整、審議等を行う場合は日本航空機開発協会で行う。
各機関の所在地を次に示す。
日本航空機開発協会:東京都港区虎ノ門1丁目2番3号 虎ノ門第一ビル
航空宇宙技術研究所:東京都三鷹市大沢 6−13−1
産業技術総合研究所(名古屋センター):名古屋市北区平手町 1‐1
金沢工業大学材料システム研究所:石川県松任市八束穂 3‐1
川崎重工業株式会社:岐阜県各務原市川崎町 1 番地
日本飛行機株式会社:神奈川県横浜市金沢区昭和町 3175 番地
富士重工業株式会社:栃木県宇都宮市陽南一丁目1番11号
三菱重工業株式会社:愛知県名古屋市港区大江町 10 番地
4.17
平成13年度研究開発実施体制(委託-再委託)
(英文略称説明)
NAL=(独法)航空宇宙技術研究所
AIST=(独法)産業技術総合研究所
FAA=米国航空局
DER=Designated Engineering Representative
FHI=富士重工業(株)
KHI=川崎重工業(株)
NIPPI=日本飛行機(株)
FSW=摩擦攪拌接合
SPF=超塑性成形
経済産業省
NEDO
推進委員会
委託
(財)日本航空機開発協会
技術委員会
・総合調査研究
再委託(共同研究)
個人契約
FHI(主翼構造)
NAL 先進複合
材センター
・新複合材
強度評価法
KHI(機首構造)
FAA
DER
Ric Abbott
FAA DER
Atuo Sato
AIST 基 礎 素
材研究部門
FAA DER
J.E.Durham
・FSW&SPF
金 沢 工 業 大 学
材料システム研究所
・複合材長期寿命予測法
NIPPI(前縁構造)
組織解析
図 4.6(a) 平成 13 年度研究開発実施体制(委託−再委託)
4.18
平成15年度研究開発実施体制(連名型体制)
経済産業省
NEDO
(連名型方式)
プロジェクトリーダー
(財)日本航空機開発協会常務理事 杉村 洋一
(代表委託先)
(財)日本航空機
三菱重工業(株)
川崎重工業㈱
富士重工業㈱
開発協会
(再委託)
独立行政法人
宇宙航空研究開発
機構
金沢工業大学
(財)日本航空機開発協会主催の
技術委員会で全体を総括する
図 4.6(b) 平成 15 年度研究開発実施体制(連名型体制)
4.19
日本飛行機㈱
4.3 研究の運営管理
平成14年度から連名型契約方式に変更なったが、委託−再委託契約時と同様に
財団法人日本航空機開発協会(JADC)を代表委託先とした運営管理を継続した。
JADC 内に、本プロジェクトを総括する会議体を設置し、以下の運営をおこなった。
(a)プロジェクトの運営方法
プロジェクト全体の研究開発を円滑かつ着実に推進するために、組織を構
成する会議体として技術委員会を設置し、全体が有機的に結合する運営を
行う。
(b)技術委員会の設置
プロジェクト全体の推進・運営を審議決定する組織とし、その下に目的別
に企画部会と研究部会を設け定期的に各会議体を運営する。
各会議体の役割とメンバーは以下の通りである。
図 4.7
財団法人
会議体運営組織図
日本航空機開発協会(JADC)
(会議体)
技術委員会
企画部会
研究部会
(ミッション)
(メンバー)
・総合調整
・技術審査
プロジェクトリーダー、サブリーダー
構成メンバー
・研究進捗整理、管理
・予算、決算、成果報告
・対外的な情報交流
情報発信・管理
・研究の財産管理
(出願・登録・権利関係)
プロジェクトリーダー、サブリーダー
関係メンバー
・一体成形型 CFRP 部材の
設計・製造技術
・大型構造金属部材の
精密鋳造・溶接技術
・革新軽量構造
インテグレーション技術
・研究合同会議
・海外技術動向調査
4.20
関係メンバー
5.情勢変化への対応
5.情勢変化への対応
(1)契約方式変更に伴う研究開発実施体制の見直し
平成14年度から契約方式が委託−再委託型から連名型方式に変更になった。
従って、研究開発実施体制を図 4.6(b)のように変えた。ただし、(財)日本航空機
開発協会が代表委託先としてプロジェクト全体を統括する推進形態は継続した。
(2)機首構造技術実証試験の計画変更
当初、本年度の技術評価試験は、平成14年度に実施した部分構造供試体での与
圧試験の結果を基に、実物大構造での与圧試験にて破壊限界を確認する予定で
あったが、試験結果とFEM解析にて実物大試験結果の精度良い予測が可能に
なった為、実用化に必要なもう1つの評価試験である「損傷特性試験」に切り替え
て実施することが有益と判断した。従って平成15年度は当初予定していた「実
物大構造での与圧試験」は実施せず、「実物大構造での損傷特性試験」を実施する。
具体的には損傷の種類,大きさ等の評価、想定した損傷に対する運航会社での使
用を対象とした検査法の確立を目指す。
さらに、全体の組立てを行って実物大構造供試体を完成させ、組立性も評価する。平成14年度実
施の供試体での与圧試験結果と評価を図 5.1 に示す。
部分構造与圧試験結果の分析に基づく革新的軽量構造設計製造基盤技術開発
「大型一体鋳造FRP複合技術」に関する主要技術評価方法と対応を表 5.1 に示
す。
1.FAA要求:終極(ULT)荷重[114kPa: LMT(制限荷重) x 1.5 ]に3秒間以上耐荷する
こと
2.試験結果
①1項FAA要求[終極荷重(114kPa)に3秒間以上耐荷]を満足し,破壊も生じなかっ
た。
②破壊に到る負荷を測定した結果,380kPa[LMT の5倍]でコア端部に割れ発生と推定
される
歪みの変化が認められたが,500kPa まで負荷を上げても破壊は生じなかった。
③終極荷重状態での発生歪みは解析(予測),試験結果ともに-1500∼2500μs の範囲であ
り,
下図に示すように両者は良い一致を示した。
3.上記,部分構造与圧試験の結果が FEM 解析と一致する事から,実大構造与圧試験も FEM 解
析にてFAA要求を満足することが判断出来,負荷と歪みの関係も解析可能である。
5.1
1
2
3
39
35 33 31
37
40
36 34 32
38
22
8
38
6
26
2 7
9
40
29
11 14 17 20 24
3軸ゲージ
30
28
12 15 18
42
2軸ゲージ
単軸ゲージ
26
16 22
34 31 3 8 11 14 19
5 10 13
36
41
33 6
X
インナー側(アウター側より見る)
アウター側
数字はゲージ識別番号を示す。
ひずみゲージ貼付位置
2500
2000
1500
1000
500
0
y = 1.1127x - 76.018
R2 = 0.9039
-500
-1000
-1500
-1500 -1000 -500
0
21
23
7
500 1000 1500 2000 2500
Strain from Test(μs)
試験結果と解析結果のひずみ相関(供試体 1,2 x,y 方向全ひずみデータ)
【終極荷重負荷:114kPa(制限荷重 x1.5 倍)】
図5.1 部分構造与圧試験結果の評価
5.2
27
39 37 35 32 4 9 12 15 20 25 28
Y
Strain by Analysis(μ s)
17
24
21 25
16
10 13 19
23
4
5
30 1
27
18
29
表5.1 革新的軽量構造設計製造基盤技術開発 「大型一体鋳造FRP複合技術」 主要技術評価方法と対応
5.3
6.中間評価結果への対応
(1)補足説明の追記
適用材料の選定においてチタン合金及びマグネシウム合金を選ばなかった理由を
「2.2 事業の位置づけ(1)研究開発分野及び産業分野の技術体系(a)軽量化を可能
にする材料」に追記した。イタリック文字で示す。
研究開発実施者間の競争体制について、「4.1 研究開発の内容(1)事業全体の
(b)研究開発項目間の有機的関係」に追記した。イタリック文字で示す。
インテグレーション技術と要素技術との区分を明確にするため、図 4.1(b)を追加
した。
(2)研究開発項目区分の組替え
中間評価において下記の項目組替え提案を行い了承されたので、平成 14 年度以
降新研究開発項目区分で技術実証作業を展開した。
『平成 11 年度∼平成 13 年度は要素技術の確立を目指し複合材料(CFRP)と金属
材料別に研究開発項目を括って作業を展開した。表 6.1 の NEDO 基本計画区分を参
照方。要素技術は材料により設計法・製造法が異なるため、この区分による作業展
開が実行しやすく、また、成果も分かり易かった。
しかし、平成 14 年度以降行う開発技術の実証では、主翼、機首、前縁の構造単
位の供試体を用いて強度試験を行う。従って、開発内容が要素技術開発から実物構
造物製造技術開発に推移したため、表 6.1 の新基本計画の区分、即ち、構造様式の
違いによる開発項目区分に組替えて作業展開し、成果の達成度をより判断しやすい
形に変更することを提案する。』
(3)研究開発実施者間の連携/競争の強化
新しい研究開発テーマ③[1]「全体強度評価技術開発」の公募により、平成 14 年
度から航空機製造分野で高い技術レベルを有する三菱重工業株式会社が参入した。
これにより中間評価時懸念が示された実施者間の競争を強力に行なう事業体制を組
む事ができた。
6.1
表6.1 開発項目及び作業内容の対比
新基本計画
開発項目区分
①一体成形ボックス結
合型構造方式の開発
旧基本計画
作業内容
[ 革新軽量ビーム構造 ]
(a)コボンド結合ボックスビーム
(b)薄肉大型精密鋳造:製法A
作業内容
(1)CFRP部材の高精度成形技術
(2)一体複合部材構造の最適設計
(3)部分構造の製作・試験
[ 革新軽量補助ビーム構造 ]
(a)超塑性加工/溶接精密鋳造組合
せ構造
[ 革新軽量シェル構造 ]
②大型一体鋳造・FRP (a)新型コア・サンドイッチ与圧外板
(強化プラスチック)統 (b)薄肉大型精密鋳造:製法B
合技術
(c )摩擦攪拌接合
(1)薄肉大型精密鋳造技術
(2)高精度・高品質溶接技術
(a)全体強度評価技術開発
開発項目区分
①一体成形型CFRP部材
の設計・製造技術
②大型構造金属部材の
精密鋳造・溶接技術
(1)複合部材と金属部材の組合わせ技術
(2)デジタルモックアップ等による高効率イ
③革新軽量構造インテグ
ンテグレーション技術
レーション技術
(3)実物大構造の設計検討及び試作・試
験による検証
③革新的軽量構造高 (b)高信頼性効率的構造技術開発
効率設計技術
カラーマークで
対比を示す
6.2
7.評価に関する事項
7.1 評価の履歴
(1)中間評価
1)実施時期
第1回評価分科会(平成13年11月6日)
公開部分
1.分科会の公開
2.評価のあり方と評価の手順
3.評価の分担及び評価の論点
4.評価書の構成
5.プロジェクトの概要
6.周辺動向調査
非公開部分
7.プロジェクトの個別テーマの詳細
8.コメント、質疑応答
第2回評価分科会(平成13年12月26日)
公開部分
1.評価の進め方
2.評価書の審議及び確定
2)技術評価分科会
分科会長
:
分科会長代理:
分科会委員 :
黒川
座古
鈴木
知明
勝
康文
鈴村
野村
山際
暁男
宏之
和久
摂南大学 機械工学科教授
大阪大学大学院 工学研究科教授
財団法人鉄道総合技術研究所
鉄道力学研究部部長
東京工業大学大学院 理工学研究科教授
名古屋大学 工学研究科教授
東京工科大学 メディア学部教授
3)中間評価報告書(平成14年6月)
(2)事後評価
1)実施時期
評価分科会(平成16年
3月22日)
7.1
III 研究開発成果について
8.事業全体の成果
(1)最終目標に対する達成度
表 8.1 に目標達成状況を示す。数値目標を全てクリヤーする事ができた。ただし、
与圧胴体 FSW 接合パネルの重量軽減目標 5∼10%及び前縁構造の重量軽減目標 5
∼10%の達成が非常に難しかった。数値の決まっていない課題目標である FAR 適
合性や技術実証も目的を達し、実用化に繋がる成果を得た。
(2)成果の普及、広報
合計 77 件の成果発表を国内外の学会や研究会で行い、成果の PR を行なった。
成果発表リストを表 8.2 に示す。
特許は合計 18 件申請した。そのリストを表 8.2 に示す。
(3)大学等外部機関へのデータ、試料の提供
( a)複合材料特性データの公開普及データベースへの提供
主翼及び機首構造の研究開発で取得した複合材料特性データを宇宙航空研究開発
機構(JAXA)が公開普及を目的に構築した先進複合材データベースシステム
JAXA−ACDB に登録した。本データベースはインターネットで公開されている
(http://www.jaxa-acdb.com/)。
(b)試作品を教材として提供
機首構造の研究開発において試作した発泡コア・サンドイッチパネル(大きさ
50cmx10cmx3.5cmt)を京都大学に教材として提供した。この試作品は、京都大学
工学研究科航空宇宙工学専攻の基礎工学コースで航空機構造部品のサンプルとして
使用される。
(c )ヘルスモニタリング技術の実用性評価試験の機会提供
JAXA で実施した複合材主翼補強外板の疲労・損傷許容試験において、東京大学
大学院新領域創成科学研究科武田研究室で開発された光ファイバー・センターによ
るヘルスモニタリング技術の実用性評価試験を行なう機会を提供した。
供試体に光ファイバー・センサーを添付し、人工的に付与した損傷の進展をモニ
ターする試験を行なった。同時に光ファイバーが航空機の実機繰返し荷重に対して
十分な耐久性を持つ事を確認する目的もあった。
8.1
表8.1 「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発」 目標達成状況
主翼ボックス
目標
達成度
開発技術
RTM一体成形:
複合材料
部品点数50%減
重量
部品
27%
54%
前縁
目標
達成度
**
**
機首
目標
サンドイッチパネル:
重量20%減、
部品点数1/51/10
達成度
23%
1/50
与圧胴体パネル
目標
達成度
**
**
高信頼性効率的構造技術
目標
達成度
加速試験によ
*1
る寿命予測法、 ・寿命予測法
縫合効果評価 ・縫合効果評価法
法、データベース ・JAXA-ACDB
耐圧床支持構
薄板大型鋳造:
造:
重量10%減、
6%
SPF+精密鋳造:
10%
FSW接合パネル:
11%
部品点数1/10
1/8
重量5-10%減、
1/100
重量5~10%減、
1/10
前方耐圧隔 部品点数1/2FSW:
(1mmt達
部品点数1/5(1mmt達
壁:
重量10%減、
成)
1/10
1/4
成)
13%
部品点数1/2-1/4
1/4
固定後縁:
薄肉一体化鋳造:
アルミニウム
重量10%減、
合金
部品点数1/10
重量15%減、
部品点数50%減、
各構造全体
開発期間15%短縮、
開発コスト20%減
技術実証 FAR満足
(注)
21%
54%
16%
21%
実大供試体
静強度試験
+要素試験
/解析
**
FAR満足
**
実大供試体
鳥及び雹衝
突試験
重量10%減、
部品点数80%減
FAR満足
*1
寿命予測法は次の要素からなる長期寿命予測法
①ATM=Accelerated Test Method (加速試験法)
②TTSP=Time-Temperature Superposition Principle(時間温度換算則)
③TTWSP=Time-Temperature -Water absorption Superposition Principle
④PIF/BVID=Post Impact Fatigue from Barely Visible Impact Damage
⑤Under-threshold Criteria
8.2
11%
82%
実大供試体
NDI試験+要
素試験/解析
5%,
48%
**
**
**
**
**
**
**
**
FAR適合性
DER評価
表8.2 成果発表リスト(1/2)
番号 査読
1
2
3
4
5
6
学会等名/場所
プレス発表
(財)機械振興協会「機械振
* 興」1999年7月号
第38回飛行機シンポジウム(仙
台)講演集
7
8
9
THERMEC 2000(Int'l Conf. on
Processing & Manufacturing
of Advanced Materials, Las
Vegas, USA)
10
11
12
13
14
15
発表年月日
表題
H11.6.11
我が国の民間航空機を加速するための革新的基盤技術
開発の開始について
H11.7.1
我が国の民間航空機を加速するための革新的基盤技術
開発
H12.10.12
革新的低コスト・軽量構造を実現する基盤技術開発
革新的軽量構造;挑戦的な開発・実証目標と開発体制
機首構造開発-構造様式の変革
革新軽量複合材主翼構造の開発
精密鋳造と超塑性成形を適用したアルミニウム合金翼
前縁構造の開発
H12.12.6
The Introduction of an R&D Program of Key
Technology for Innovative Low-cost and Light
Structures Structural Development for Civil
Innovative
Transport
Technology Development for Innovative Cockpit
Structure of a Transport Aircraft
Conceptual Study of Innovative Composite Wing
Structure
Application of Low Cost Metal Processes to Wing
Leading Edges
H13.4.5
革新的構造技術の開発
日本航空宇宙学会誌Vol.49
* No.5672001.4月号pp.59-12
LiMAT 2001 (The 2nd Int'l H13.5.8
Conf. on Light Materials
for Transportation Systems,
Pusan, Korea)
16
17
18
19
20
21
22
ICCE/8(Int'l Conf. on
Composite Engineering,
Tenerife, Spain)
H13.8.8
H13.11.13
Proceedings of the 7th
Japan Int'l SAMPE
Symposium, Tokyo, Japan
(Society for the
Advancement of Material and
Process Engineering)
23
24
25
26
27
28
29
30
日本複合材料学会2002年度研 H14.5.20-21
究発表講演会,東京大学
第44回構造強度に関する講演 H14.7.24-26
会、松山
31
34
36
37
38
39
会社
JADC
菊川廣繁
JADC
伊藤幸生
八幡明一
西谷美貴弥
原田 淳
的場正明
NEDO
JADC
KHI
FHI
NIPPI
Yukio Ito
NEDO
Akikazu Yahata
JADC
Yasuo Hirose
KHI
Yasuhiro Toi
FHI
Nobuyuki Suzuki NIPPI
菊川廣繁
JADC
Yukio Ito
NEDO
Akikazu Yahata
JADC
Yssuo Hirose
KHI
Toru Jinishi
NIPPI
Atsushi Harada
FHI
Yssuo Hirose
KHI
Yukio Ito
NEDO
Akikazu Yahata
JADC
Yasuhiro Toi
FHI
Toshihiko Ito
KHI
T.Sakanashi
KHI
Masaaki Matoba
NIPPI
Atuo Sato, Moto
Ashizawa
DER
Ric Abbott
DER
濱上陽三
KIT
八幡明一
西谷美貴弥
平木恵
JADC
KHI
FHI
金属製翼前縁の新構造様式の開発と鳥衝突試験
越智淳
CFRPの層間せん断強さ試験方法の検討
野口義男
CFRP積層板のモードⅠ層間破壊靭性に対する縫合効果 堀川晋
32
33
35
NEDO's R&D Program on Key Technology for
Innovative Low-Cost and Lightweight Structures
R&D Scheme and Objectives for Innovative
Aircraft Structures
Innovative Nose Section of Fuselage Structures
Applied by Friction Stir Welding (FSW) of the
Aluminum Alloy
and Large ThinProcesses
Casting offor
Application
of Manufacturing
Monolithic Structure to Wing Leading Edge
Affordable Composite Application to Wing
Structure
The Industrial Application of CFRP Sandwich
Panel for Aircraft Structures
NEDO's R&D Program on Revolutionary Low-Cost and
Lightweight Aircraft
R&D Program of Innovative Structural
Technologies
Development of Affordable Composite Wing
Structure
Innovative Cockpit Structure-Molding Technology
of Form Core
Innovative Cockpit Structure-Friction Stir
Welding Technology of Al-Alloy
Structural Development for Innovative Leading
Edge of Wing
Integrating Research & Development Programs with
FAA Certification to Expedite the Introduction
of New Technology into Production Aircraft
Design, Manufacturing, and Certification
Considerations for Modern Integrated Structures
CFRP擬似等方性積層板の静的曲げ強度の時間および温
度依存性
革新的軽量構造技術開発の現状
革新機首構造の研究
革新的軽量主翼構造の開発
発表者
建部信彦
日本機会学会関東支部ブロック合 H14.9.7
同講演会(帝京大学,宇都宮)
ICAS2002(23rd Int'l Council H14.9.8-13
of the Aeronautical
Sciences), Tronto,Canada
(社)自動車技術会,#5構造強度 H14.8.30
部門委員会,東京
TEXCOMP6-Int'l Conf. on H14.9.12
TEXTILE COMPOSITES, Drexel
Univ.,米国フィラデルフィア
NIPPI
NAL
NAL
革新軽量複合材主翼構造の開発
三浦順二
FHI
Some Manufacturing Activities in Japanese
Aircraft Industries (JAI)
The CFRP Sandwich panel for Aircraft Nose
Structure
航空機の構造設計開発におけるCAEの活用(OHP発表)
Yoichi Sugimura
JADC
Yasuo Hirose
KHI
丸山智子
FHI
A Practical RTM/VARTM Application for Affordable Shigeki Tanaka
Wing
8.3
FHI
表8.2 成果発表リスト(2/2)
学会等名/場所
発表年月日
表題
番号 査読
10th Japan-U.S. Conference H14.9.16-18 R&D for Innovative Aircraft Structures
40
on Composite Materials,
Application of new CFRP sandwich panel to the
41
Stanford Univ., USA
aircraft nose structure
Development of Affordable Composite Wing
42
Structure
Stitching Effect for ModeⅠInterlaminar Fracture
43
Toughness of CFRP Laminates
第24回中堅・中小企業のための H14.10.9
革新的軽量複合材機首構造の研究(OHP発表)
先端技術(航空宇宙)講座(名古
44
屋・東京第一ホテル)
第40回飛行機シンポジウム(横 H14.10.9-11 発泡コアサンドイッチパネルの製造技術開発
45
浜市開港記念会館)
複合材一体構造品の製造技術
46
H14.10.9
革新機首構造インテグレーション技術
第27回複合材料シンポジウ
47
ム、山口社会福祉会館
H14.10.10
複合材一体構造品の製造技術
48
MTSJapan主催第6回エアロセミナー(東 H14.10.29
革新的軽量複合材機首構造の研究(OHP発表)
49
京主婦会館プラザエフ)
日本鋳造工業会東海支部岐阜 H14.11.14
航空機用高信頼性鋳造品の技術動向
50
地区講演会,岐阜
自動車技術会関西支部,同支部 H15.1月
航空機における軽量化について
51
ニュース第22号
LS-DYNAセミナー2003、千葉, H15.2.18
川重テクノサービス㈱におけるLS-DYNAを用いた解析
52
幕張
事例の紹介
革新的軽量機首構造の開発
日本塑性加工学界,第4回次世 H15.1.24
53
代航空機機体加工技術研究会
複合材一体構造品の製造技術
54
(岐阜)
航空機の翼前縁構造開発研究の紹介
55
56
57
日本複合材学会 Advanced H15.3月
*
Composite Materials
航空機国際共同開発促進基金 H15.4月
主催,平成14年度“航空機等の
機械工業動向調査事業”
ICCM-14 (Int'l Conference H15.7.14-18
on Composite Materials),
San Diego, USA
58
59
*
60
*
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
77
Atsushi Harada
FHI
Yutaka Iwahori
NAL
西谷美貴弥
KHI
伊藤俊彦
KHI
川上宗仁
FHI
藤田敏文
石川裕一
西谷美貴弥
KHI
FHI
KHI
吉野保明
KHI
廣瀬康夫
KHI
門野浩次
NIPPI
伊牟田守
KHI
井上智洋
FHI
鈴木信行
NIPPI
Development of Affordable Composite Wing
Structure
最近の航空機設計技術の現状
田中茂樹,他
FHI
廣瀬康夫
KHI
R&D Program for Innovative Civil Aircraft
Structures
Akikazu Yahata
JADC
DevelopmentOFFoamCoreSanwichPanelStructureforTra Katsutoshi
nsportNoseComponent
Fukumoto
KHI
Masayuki Nakada
KIT
Shin Horikawa
NAL
堀川晋
NAL
中田行彦
MHI
LiMAT 2003 (The 3rd Int'l H15.11.2-6
Conf. on Light Materials
for Transportation Systems,
Honolulu, USA)
Proceedings of the 8th
H15.11.18-21
Japan Int'l SAMPE (Society
for the Advancement of
Material and Process
Engineering) Symposium,
Tokyo, Japan
74
76
会社
JADC
KHI
Time-Temperature Dependent Flexural Fatigue
Behavior of CFRP Quasi-Isotropic Laminates
Stitching Effect for Interlaminar Fracture
Toughness of CFRP Laminates
第45回構造強度に関する講演 H15.7.30-8.1 CFRP積層板のモードⅠおよびモードⅡ層間破壊靭性に
会(豊橋)
対する縫合効果
第13回航空輸送技術講演会,メル H15.10.2
将来民間機に向けての研究開発について(OHP発表)
パルク東京
第41回飛行機シンポジウム H15.10.8-10 民間航空機における革新的翼前縁構造の開発
(長野)
#28複合材料シンポジウム(秋 H15.10.23-24 航空機主翼及び機首複合材構造の長期耐久性・耐損傷
田)
性評価について
第47回日本学術会議材料研究 H15.10.29-30 革新的翼前縁構造の開発(その1)-鳥衝突試験
連合講演会,京都京大会館
革新的翼前縁構造の開発(その2)-鳥衝突数値シミュレーション
73
75
発表者
Akikazu Yahata
Yasuo Hirose
*
先進材料技術協会(SAMPE
H16.1.29
Japan)平成15年度第3回技術情
報交換会,東京品川
金沢工業大学 博士論文
H.16.2.18
*
(公聴会)
越智淳
NIPPI
菊川廣繁
JADC
越智淳
山口秀行
NIPPI
NIPPI
Development of Monolithic Structure for
Innovative Wing Leading Edge of Commercial
Airplanes
Makoto Ochi
NIPPI
R&D to Innovate Civil Aircraft Structures
Innovative Nose Structure -Manufacturing
Technology of CFRP Sandwich Panel with Form Core
Affordable Composite Application to Innovative
Wing Structure
Development of Innovative Wing Leading Edge
Conceptual Study of Innovative Welding Fuselage
Structure for Civil Transport Aircraft
Time-Temperature Dependence of Flexural Behavior
of CFRP Laminates for Aircraft Use
A New Approach to Substantiate Durability and
Damage Tolerance for Aircraft Composite
Structures
「革新的軽量構造設計製造基盤技術開発」の現況紹介
(OHP発表)
Akikazu Yahata
Toshihiko Ito
JADC
KHI
Yuuichi
Hayakawa
Makoto Ochi
Hiroaki Sato
FHI
NIPPI
MHI
Masayuki Nakada
KIT
Hiroshige
Kikukawa
JADC
菊川廣繁
JADC
時間−温度−吸水量換算側を基盤とする炭素繊維強化 関根尚之
プラスチックの長期疲労寿命予測法に関する研究
KIT
8.4
表8.3 特許出願リスト
出願年度
H11年度
H
12
年
度
H
13
年
度
H
14
年
度
H
15
年
度
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
1
2
3
4
5
1
2
3
出願日
H12.3.10
H12.8.21
H12.8.21
H12.12.22
H13.3.9
H13.3.30
H13.4.5
H13.7.27
H13.9.3
H13.9.3
H14.4.5
H14.4.5
H14.10.31
H14.12.3
H14.12.25
H15.11.27
タイトル
会社名
特許出願
複合材翼およびその成形方法
FHI 特願2000-066750
成形装置および方法
KHI 特願2000-250297
成形方法および装置
KHI 特願2000-250298
複合材の補強平板及びその製造方法
FHI 特願2000-390312
成形体の形状修正方法および装置
KHI 特願2001-66148
超塑性成形方法
NIPPI 特願2001-101582
複合材翼及びその製造方法
FHI 特願2001-107671
補強パネルの製造方法
FHI 特願2001-228400
複合材閉断面構造の成形方法
FHI 特願2001-265826
複合材製の翼の製造方法及び複合材翼
FHI 特願2001-265850
衝撃耐久構造体
NIPPI 特願2002-104335
航空機翼前縁部及びこの製造方法
NIPPI 特願2002-104336
複合材製ラミネートシムとその製作方法
KHI 特願2002-317175
複合材の成形冶具
FHI 特願2002-351044
複合材の成形冶具
FHI 特願2002-374764
摩擦攪拌接合用の金属板材表面処理方法、 MHI 特願2003-397058
金属板材、塗料、接合方法、および移動体
H15.12.8 FSW重ね合わせ接合継手
MHI 特願2003-409347
H15.12.8 FSW重ね合わせ継手とその疲労強度改善方法 MHI 特願2003-409348
8.5
特許公開
特許登録
特開2001-25393(H13.9.18)
特開2002-059479(H14.2.26) 特許第3486160号(H15.10.24)
特開2002-059478(H14.2.26) 特許第3461490号(H15.8.15)
特開2002-187599(H14.7.2)
特開2002-264131(H14.9.18)
特開2002-292435(H14.10.8)
特開2002-302097(H14.10.15)
特開2003-39566(H15.2.13)
特開2003-716864(H15.3.12)
特開2003-72691(H15.3.12)
特開2003-291892(H15.10.15)
特開2003-291895(H15.10.15)
9.研究開発項目毎の成果
9.1 一体成形ボックス結合型構造方式の開発
(1)結合ボックスビーム(主翼構造)
本研究開発では航空機の主翼構造を対象に複合材料を用いた革新的軽量構造の開
発を実施した。以下にその成果をまとめる。
(a)革新軽量主翼構造の設計
①想定主翼
小型機から大型機までの幅広いバリエーションへの成果の発展性を考慮し片翼スパン
10m の主翼を想定した。図 9.1.1-1 に想定した主翼平面形を示す。
また本研究において比較ベースラインとするアルミ製主翼は、このクラスの一般的な構
造様式を持つものとした。以下に概要を示す。
! パネルは外板とストリンガをファスニングする組立式とする。
! 前後桁、リブは機械加工による削り出し部品とする。
! 外板と桁、外板とリブはファスナ結合する。
! 前後桁とリブ、ストリンガとリブはクリップを介してファスナ結合する。
舵面や主脚等の集中荷重が加わる部分では補強したリブを用い、リブと桁の取付け部には集中
荷重に対応するためのバックアップ金具を取付ける。
10m
前桁
後桁
小骨
翼胴結合部
点検作業孔
検討対象部:桁間構造
図 9.1.1-1
革新的軽量主翼
想定平面形
②革新的軽量主翼構造概要
複合材料の持つ一体性成形に有利な特徴を生かしつつ構造成立性、重量軽減、部
品点数削減と製造工程の容易化を図った構造とした。図 9.1.1-2 に構造様式の概要
を示す。外板をストリンガで補強し、前後 2 本桁および内部にリブを配置した構造
である。一見して従来構造と類似しているが、代表的な特徴である
9.1.1
下面パネルと前後桁を一体化した下部ボック構造を上面外板とファスナ結合する構
造様式により、最終組立工程の作業性を改善して製造容易化を図ると共に、下面側
にファスナ結合をなくすことにより燃料リークのリスクを低減している。
上面パネル
上面パネル
RTMハットストリンガ、
外板の一体構造
+
リブウェブ
+
下部ボックス
RTMハットストリンガ、
RTM前後桁、外板の一体構造
リブウェブ
下部ボックス
図 9.1.1-2
革新軽量主翼
構造様式概要
③製造方法
本構造の製造工程は RTM 複合材とプリプレグ複合材を適材適所に利用し前後桁・ストリ
ンガ・スキン・リブコードを一体化させることを最大の特長とし、自動化と RTM・VARTM 製
法の適用率を高めて生産性を追求したものである。以下に製造工程の概略を示す。
! RTM 製前後桁:フランジ・ウェブ部分は三次元織物を適用し、スティフナ・リブポス
ト部分はブレイディング織物を用いて、マッチドダイ RTM 製法により両者を一次硬化
して一体化させる。一次硬化の後、機械加工でトリムする。
! RTM 製上下面ハットストリンガ:三次元織物を用いた VARTM 製法により一次硬化させ
た後、機械加工でトリムする。
! 上下面スキン:プリプレグを ATL 装置により自動積層する。アクセスホール部分はこ
の段階では加工せず、コボンド成形後にトリムする。
! リブウェブ:プリプレグをコルゲート状に積層し、本硬化とトリムを行う。他の部品
とのコボンド成形は行わない。
! リブコード:プリプレグをL字型またはT字型に積層したものを下部ボックスボンド
アッシーまたは上面パネルボンドアッシーとして本硬化させる。
! 下部ボックスボンドアッシー:プリプレグを積層したスキンの上に一次硬化した前後
桁、ハットストリンガ、リブコードをセットし一体コボンド成形する。成形後、アク
セスホール加工などのトリムを行う。
! 上面パネルボンドアッシー:下部ボックスボンドアッシーと同様にスキン、ストリン
ガ、リブコードを一体コボンド成形する。
! ボックスアッシー:脚取付け部支持金具の取付け、リブウェブの取付けを行った後、
上面パネルボンドアッシーと結合する。
9.1.2
図 9.1.1-3 に製造工程の概念図を示す。
図 9.1.1-3
革新軽量主翼
製造工程概念図
④重量および部品点数削減効果および開発期間短縮、開発コスト削減効果
革新軽量主翼のアルミ製ベースライン主翼に対する実物大主翼の重量削減結果を
図 9.1.1-4 に、部品点数削減結果を図 9.1.1-5 に示す。
120%
100%
80%
27%軽減
5%
13%
12%
60%
40%
1%
10%
12%
120%
INSTL
リブ重量
桁重量
外板重量
100%
80%
40%
50%
20%
0%
アルミ製主翼
図 9.1.1-4
53%
60%
70%
20%
0%
0%
革新軽量主翼
重量比較
43%
4%
アルミ製主翼
図 9.1.1-5
接着組立
機械加工
板金等
組立
54%
削減
27%
5%
6%
7%
革新軽主翼
部品点数比較
重量削減効果は、アルミ製ベースライン主翼に対して-27%となり、目標である 15%削減を達成
した。部品点数削減効果はアルミ製ベースライン主翼に対し-54%となり、研究目標値の 50%削
減を達成した。
また、上記の部品点数削減効果により成形治具の数/構成部品数が大幅な削減、
設計での自動化技術の導入考慮等によって開発期間 16%短縮、開発コスト 21%削減
となった。
9.1.3
(b)実証試験
本研究開発においては実際の航空機開発を想定した実証計画にしたがった試験・解析等
を実施した。強度実証の規準(Certification Basis)として、米国 FAA(Federal
Aviation Administration)の定める耐空性の審査基準である FAR のうち、旅客・貨物輸送
用航空機に適用される Part25 を設定した。FAA は複合材航空機構造の強度実証のガイドラ
インとして AC20-107A(Advisory Circular)を発行している。AC-107A ではビルディング
ブロックアプローチによる強度実証を推奨しており本研究開発でもクーポン試験からノウ
ハウを積上げて実機実物大構造に至る方法を取った。また、実機開発における強度実証
計画の完成度を確認するために、FAR 有資格者(DER)による実証計画のレビュー
を受けつつ研究を行った。
① クーポン試験/要素試験
クーポン/要素レベルの試験として以下の試験を実施した。
! 三次元織物 RTM 複合材料の基礎特性取得試験
! 三次元織物 RTM 複合材料の積層板許容値取得試験
! プリプレグ材料及び三次元織物 RTM 複合材料のファスナ継手疲労試験
! プリプレグ材料のフランジ剥離試験
② 部分構造試験
本研究で採用した製造法による補強外板の設計許容値は過去に例が無く、設計コ
ンセプトの妥当性ならびに、解析手法の確認のために静強度部分構造試験を行った。
試験はインパクトサーベイ試験により確認された BVID(Barely Visible Impact
Damage:目視困難な衝撃損傷)を付与した供試体で実施した。BVID における内部
損傷は一般的な検査法で充分に判定できる大きさであり本製造法による外板パネル
に特別な NDI 手法は必要ないことも同時に確認した。図 9.1.1-6 に試験実施状況を
示す。
供試体は BVID を付与した位置近くで-6046μの最大外板歪を示して全体座屈で破
壊した。FEM 解析による座屈荷重、座屈モードの予想と良好な一致を見せた。本構
造コンセプトのチェックポイントの一つであるストリンガ/外板のコボンド接着部
はこのレベルまで問題なく耐荷しており成立性を確認できた。
なお、同様の部分構造供試体を製造し、JAXA にて疲労/耐損傷性試験を実施した。
図 9.1.1-7 に供試体を示す。
9.1.4
図 9.1.1-6 部分構造試験状況
図 9.1.1-7
疲労/耐損傷性試験
供試体
③ 実物大強度試験
(a)項で述べた実機構造桁間ボックスの内舷側、翼胴結合部から7番リブまで、
約 4.3mスパンの実物大構造供試体を製造し静強度及び残留強度の実証試験を行い
設計コンセプトの妥当性を確認した。試験では BVID 付与後終極荷重負荷、VID
( Visible Impact Damage : 目 視 可 能 な 衝 撃 損 傷 ) 付 与 後 制 限 荷 重 負 荷 、 DSD
(Discrete Source Damage:要素損傷)付与後制限荷重の安全帰還荷重(70%制限荷
重)負荷を実施した。その後 DSD 付与状態での破壊試験を実施した。図 9.1.1-8 に
供試体セット状況、図 9.1.1-9 に終極荷重試験の状況を示す。
(a)試験セットアップ
図 9.1.1-8 実物大静強度試験
9.1.5
(b)終極試験状況
試験状況(その1)
供試体は終極荷重、制限荷重、70%制限荷重に耐荷した。なお各試験での歪デー
タは解析による予想値と極めて良い一致を見せた。さらに DSD 付与後の破壊試験に
おいて 148%制限制限荷重で破壊した。これにより設計および解析の妥当性を実証
した。
(c)DSD 付与状況
図 9.1.1-9 実物大静強度試験
9.1.6
(d)DSD 部亀裂進展破壊状況
試験状況(その2)
(2)超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ構造(前縁構造)
(a)開発目標に関する自己評価
民間航空機を対象として、軽量かつ部品点数の少ない主翼前縁構造の開発を
目的に、超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ構造技術を適用した革新的軽量構造に
関する研究開発を実施した。この結果、研究開始当初に設定した最終的な目標
を達成することができた。
表 9.1.2-1 に開発目標と達成度に関する自己評価を示す。
表 9.1.2-1 開発目標と達成度に関する自己評価
開発目標
目標達成度に関する自己評価
・重量軽減率:5∼10%
・部品点数:80∼90%削減
・実大供試体(全長 1.8m)の試作による実証を通し
て、重量軽減 6%及び部品点数 88%削減を達成する
ことができた。
・実大構造試験による
技術実証
・実大供試体を用いた技術実証試験により、実用構
造としての成立の見通しを得ることができた。
・航空局・FAA 基準を満 ・FAA DER による技術資料評価及び技術実証試験へ
たす設計製造技術確立
の立会い評価を受け、本研究で開発した構造が航
空局・FAA 基準を満たすことを確認することがで
き、実機の開発能力を習得することができた。
(b)研究成果の概要
前述の開発目標を達成するために、超塑性成形技術、精密鋳造技術、高精度
溶接技術および耐衝撃構造に関する高効率設計技術等の要素技術に関する研究
開発を実施した。その結果、実用化に繋がる多数の研究成果を得ることができ
た。以下にその概要を示す。
①超塑性成形技術(SPF)
・超塑性仕様の 5083Al 合金について、クーポン試験および成形性確認試験
等の構造要素試験を実施し、母材および超塑性変形を与えた成形材に関す
る設計・製造データを取得した。
・名古屋工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所)との共
同研究により、超塑性変形を与えた 5083Al 合金の EBSP 法によるミクロ組
織調査を実施した。その結果、超塑性変形により発生するキャビティの優
先場所が大角粒界部であることを明らかにした。
9.1.7
・上記各種試験による取得データおよび共同研究の成果を基に、翼型断面形
状の内面方向へ張り出す超塑性成形を試み、しわ・割れ等の生じない適正
な超塑性成形条件(成形ガス圧、ひずみ速度、温度など)を設定した。図
9.1.2-1 に SPF 成形による実大供試体を示す。
・上記各種試験等による取得データを基に、設計許容値および工程スペック
を策定した。
②ロストワックス精密鋳造技術
・D357 Al 鋳造材について、クーポン試験片による材料特性評価試験および
供試体試作による鋳造試験等を実施し、設計・製造データを取得した。
・上記各種試験による取得データおよび試作を通して、製品に適合した鋳造
方案を策定し、適切な光造形樹脂材料を選定すること等により、供試体に
適した鋳造工程を確立した。
・確立した鋳造工程により、最小肉厚 1.0mm、全長 500mm の薄肉大型精密鋳
造品の製作に成功した。図 9.1.2-2 にその供試体を示す。
・上記各種試験による取得データおよび試作を通して、設計許容値および工
程スペックを策定した。
・量産を念頭に、簡易金型を用いた量産用ロストワックス工程による試作を
実施し、製作工程を確立した。
③高精度・高品質溶接技術
・クーポン試験片および試作供試体を用いた溶接材の材料特性確認試験等を
実施し、SPF/溶接材および鋳造/溶接材に関する設計・製造データを取得
した。
・SPF 用アルミ合金内板と外板を重ねて二重パネルとする接合法として超音
波接合の適用を検討し、接合条件と接合ツールを最適化した。超音波接合
の適用により、従来の電気抵抗スポット溶接やリベット結合に比べて、外
板面平滑度の著しい向上を達成した。
・SPF パネルおよび精密鋳造品の継手接合法として磁気攪拌 TIG 溶接の適用
を検討し、適正な溶接条件を見出した。磁気攪拌 TIG 溶接の適用により、
溶接部品質の向上(ブローホールの抑制等)が達成された。
・上記各種試験による取得データを基に超音波接合および磁気攪拌 TIG 溶接
について、設計許容値および工程スペックを策定した。
④鳥衝突による構造損傷の予測・評価技術
・飛行中の鳥衝突に対する構造強度解析を目的として、FEM によるシミュ
レーションの適用技術を習得した。
・供試体を用いた鳥衝突試験結果および、高速引張試験より得られた材料物
性値データをシミュレーションにフィードバックすることにより、解析精
9.1.8
度を向上した。
・試験とシミュレーションの効果的な相互活用に基づく、構造損傷の予測・
評価技術を適用した高効率設計手法を確立した。
・本研究で確立した高効率設計手法により設計された、耐衝撃構造のコンセ
プトに基づく実大供試体を図 9.1.2-3 に示す。また、図 9.1.2-4 に実大供
試体に対する FEM 鳥衝突損傷シミュレーション例を示す。
⑤航空局・FAA 基準適合性−技術実証試験(鳥・雹衝突試験)
・技術実証試験の実施および FAA DER の助言を通して、航空局・FAA 基準を
満たす試験計画の策定および試験実施手順を習得した。
・図 9.1.2-5 に技術実証試験の概要を示す。FAA DER 立ち合いのもとに実施
した、FAR 規定に基づく鳥衝突および雹衝突を想定した技術実証試験によ
り、試験の適性に関する評価を受けた。また、試験体に関しては、飛行安
全性に影響を及ぼすような重大な損傷は見られず、構造の健全性と航空
局・FAA 基準への適合性が確認された。
・型式証明取得を前提とした技術資料のレビューおよび技術実証試験の立会
い等を通した FAA DER の評価により、本研究で開発した前縁構造が、航空
局・FAA 基準を満たすレベルにあることが証明された。
(c)研究成果の総括
以上の研究開発成果により、実機開発時には超塑性加工/溶接精密鋳造組合
せ技術を適用した一体成形ボックス結合型構造に関して、最小限のリスクおよ
びルーティングで、軽量化および部品点数の削減が図れると期待される。
9.1.9
(a)外観(前方より見る)
(b)外観(後方より見る)
(c)断面
図 9.1.2-1 SPF 成形による実大供試体
(SPF5083-O、外板 1.5mm/内板 0.8mm、全長 900mm)
(a)供試体外観(左上 2 図)
(b)ミクロ組織(左下図)
(c)内部品質(右表)
機械的
規格値
実測値(実体
特性
(AMS4241)
付き試験片)
Ftu(MPa)
345 Min.
371
Fty(MPa)
276 Min.
316
伸び(%)
3 Min.
10.9
D.A.S.*
なし
31μm
* D.A.S.=Dendrite Arm Spacing
図 9.1.2-2 ロストワックス精密鋳造による実大供試体
(D357-T6、全長 500mm、最小肉厚 1.0mm)
(b) 供試体外観(組立後)
(a) 供試体外観(組立前)
図 9.1.2-3
主翼前縁構造実大供試体(全長 1.8mm)
9.1.10
実大供試体モデル
(全長 1.8m)
鳥モデル
(a)FEM モデル概要
(節点数:161,258,要素数:162,310)
(b)シミュレーション結果
図 9.1.2-4
FEM 鳥衝突損傷シミュレーション例
試験
鳥衝突試験
雹衝突試験
試験規格
ASTM F330
ASTM F320-94
衝突物
4 Lbs (1.8kg)実鳥
直径 2.5inch 模擬氷球
衝突速度
320 Kt (165m/sec、想定巡航速度)
供試体
(鳥・雹打込み装置)
(a)技術実証試験条件
(上表)
(b)試験セットアップ
(上図)
(c)鳥衝突試験後の供試体外観
(右上図)
(d)雹衝突試験後の供試体外観
(右下図)
図 9.1.2-5
技術実証試験概要
9.1.11
試験スタンド
9.2 大型一体鋳造・FRP(強化プラスティック)複合技術の開発
(1)計画と比較した目標の達成度
(a)最終目標に対する達成度
平成 15 年度までに達成すべき最終目標の達成状況を述べる。最終目標の達成度
については数値の試算に基いて判断したので、その計算結果を次項に示す。
研究開発項目
(a) 新型コア・
サンドイッチ
与圧外板
最終目標の達成評価
最終目標
(1) CFRP 部材の硬度
成形技術
(2)一体複合部材
構造の最適設計
(b)薄肉大型
精密鋳造
(砂型法)
(c)摩擦攪拌
接合
・重量軽減 20%、部品点
(3)部分構造の製
数 1/5∼1/10
作・試験
・一体成形 CFRP サンドイッ
チパネルの設計製造技術
確立
(4)複合部材と金 ・航空局・FAA の基準を
属部 材の組合わ
満足する設計製造技
せ技術
術確立
(5)実物大構造の
設計検討及び試
作・試験に よる
検証
(1)薄肉大型精密 重量軽減10%
鋳造技術
部品点数1/10
新型コア・サンドイッチ与圧外板につき、実
物大機首構造の試作・評価試験により
一体成形 CFRP サンドイッチパネルの設
計製造技術を確立し実用化への
目途を得た。また、得られた要素技
術の成果に基く計算から、重量軽減
23%、部品点数削減98%を達成した。
精密鋳造技術は実物大試作品を製作
し、重量軽減 10%(最終目標 10%)
、
部品点数削減 99%(最終目標 90%)と
最終目標を達成した。
(2)実物大構造の
設計検討及び試
作・試験による検
証
(1) 高 精 度 ・ 高 品 部品点数で1/2∼1 溶接技術も実物大の複雑形状部品を試
質溶接技術
/4
作し、重量軽減 13%(最終目標 10%以
重量で 10%以上減少
上)
、部品点数削減 74%(最終目標 50
∼75%)と最終目標を達成した。
(2)実物大構造の
設計検討及び試
作・試験による検
証
9.2.1
(b)最終目標に対する達成見通し計算結果
新機首構造と原型機の重量、部品点数算出結果を表 9.2-1 に示す。最終目標値で
ある−原型機に比べて重量 10%減、部品点数 80%減−を達成出来る目処を得た。
表 9.2-1 機首構造の重量、部品点数積算
重量(kg)
部
CFRP
品
外板パネル
部品点数
ベース機
新機首
構造
低減率
ベース機
新機首
構造
低減率
306
237
23%
1,363
30
98%
34.8
31.4
10%
170
1
99%
34.1※1
29.7
13%
89
23
74%
2.62
2.08
21%
16
6
63%
19.5
17
12%
210
120
43%
86
76
12%
237
35
85%
21
21
0%
15
15
0%
93
118
-27%
247
185
25%
597
531
11%
2,347
415
82%
主
な
鋳造
要
素
構
溶接
耐圧床支持構
造
前方耐圧隔
壁
造
CFRP
フロアビーム
前脚前方ド
CFRP
ア、前脚後
他
方ドア
要
STA-9575
素
鋳造
隔壁及び前
構
脚キールソ
造
ン
溶接
そ
の
他
従来
耐圧床(ウェ
ブ、横桟)
※2
構造
合
計
※1
ベース機体とした国産双発ジェット輸送機は開発年代が古いため、鳥衝突(ディスクリー
ト損傷、FAR25.571(e)(1))を考慮していない薄板・板金組立構造となっている。ここでは、現
行の FAR 規定のもとで設計する場合の板金組立構造の重量を推算してベース機重量とした。
※2 ウェブ及び横桟を除いた耐圧床構成品、操縦室床パネル支持構造、フレーム STA-8760、フ
レーム STA-7760、窓枠フレーム、操縦室床板 − 6 項目。
9.2.2
(2)研究開発項目毎の成果
機首構造の研究開発項目ごとに最終成果を示す。
産業のエネルギー使用合理化を推進するために、航空機の構造を対象に新技術を
適用して重量軽減、部品点数低減を目標とする研究を実施している。対象構造とし
ては、シェル構造の代表として民間機の機首構造、ビーム構造の代表として民間機
の主翼構造が選定された。
とりわけ民間機の機首構造は、形状が複雑で部品点数の多い板金組立方式が多用
されているにもかかわらず、軽量化、部品点数低減化の研究が行われてこなかった
分野であり、大幅な低減効果ポテンシャルを有している。
本研究は機首構造の低コスト化・軽量化を目的に「新型コア・サンドイッチパネ
ル与圧外板」、「薄肉大型精密鋳造・製法B」及び「摩擦攪拌接合」の3つの技術開発を
行っている。各研究項目毎の研究成果を以下に示す。
①新型コア・サンドイッチパネル与圧外板
[1]CFRP 部材の高精度成形技術
コア成形試験により発泡コアの成形条件を設定すると共に発泡コア成形装置を
製作し、据付・機能確認試験を実施後、実物大供試体のコア成形に適用した。
本装置のサイズは 10.5mL×3.5mW×4.0mH で、成形可能なコアのサイズは最大
1350mm×2800mm×800mm である。
[2]一体複合材構造の最適設計
(ⅰ)FEM 解析結果
計画図に基づいて機首構造のFEMモデルを作成し、FEM解析により内部
荷重を算出して強度検討を行った。
機首構造の構造様式は、複合材部品の製造性を考慮し、外板パネルの分割を上
部パネル左右分割、下部パネル左右分割の計4分割とした。FEM解析では、
Outer Skin、Inner Skin の荷重配分を確認するためにサンドイッチ構造を
Outer Skin、コア、Inner Skin に分けてモデル化を行った。また、荷重ケース
は、与圧荷重単独、水平3点着陸、前脚片揺れの3ケースを選定した。
内部荷重解析結果より、風防周り及びパネル結合部に荷重が高くなる個所が
あるが、外板パネル中央部付近は荷重密度が低いという結果であった。従って、
外板パネルのダブラーによる補強は周辺結合部に限定できることが判った。
9.2.3
[3]部分構造の製作・試験
実機の設計でクリティカルな与圧構造継ぎ手部を模擬した部分構造試験を
実施した。試験荷重は与圧単独荷重を模擬し、継ぎ手部の破壊まで荷重を負荷
し、供試体各部の歪を歪ゲージにより計測した。その結果、終極荷重に3秒間
耐荷するというFAAの要求を満足していること確認すると共に極荷重状態で
の発生歪みは、解析結果と試験結果で良い一致を示した。これより、実大構造
与圧試験もFEM解析にてFAA要求を満足することが判断出来,負荷と歪みの関
係も解析可能である。
2500
Strain by Analysis(μs)
2000
1500
1000
500
0
y = 1.1127x - 76.018
R2 = 0.9039
-500
-1000
-1500
-1500 -1000 -500
0
500
1000 1500 2000 2500
Strain from Test(μs)
図 9.2-1 試験結果と解析結果のひずみ相関
(供試体 1,2 x,y 方向全ひずみデータ)
【終極荷重負荷:114kPa(制限荷重 x1.5 倍)】
[4]実物大構造の設計検討及び試作・試験による検証
(ⅰ)実物大構造供試体の設計検討・試作
実物大構造の設計結果に基づいて、実物大機首構造供試体を製作し、評価試
験を実施した。供試体製作時のコアの成形に当たっては、低コスト成形法であ
るマルチサポート成形法を適用した。マルチサポート成形法については用語集
を参照のこと。
9.2.4
実物大機首構造供試体を図9.2-2に示す。
(ii)実物大構造評価試験
a.損傷特性試験
実構造の損傷特性を把握し、エアラインでの使用に適したNDI手法を設定
するため、損傷特性試験を実施した。本試験において、雹衝突、工具落下を
模擬した損傷を付与し、各種の検査法を施行した結果、以下の成果を得た。
なお、検査法の施行においてはエアラインの検査担当者にも立ち会って頂い
た。
・本試験の条件下では、Foam core sandwich panel 構造の内部損傷の範囲は
目視検査の結果とほぼ一致する。検査法の試行結果を図 9.2-3 に示す。
・エアライン用検査装置としては、超音波ASCAN法(二重透過法)が最
も適している。
9.2.5
損傷検出部の平均直径(mm)
80
60
tapping
MIA
A-SCAN
C-SCAN
Visual
tapping
MIA
A-SCAN
C-SCAN
40
20
0
1
2
3
4
5
6
損傷付与ポイント
雹模擬(φ3.0)
図 9.2.-3
ツール模擬(φ1.0)
非破壊検査法精度比較
b.組立評価試験
大型複合材構造の穿孔作業を含むファスナー締結作業に重点をおいて評価を
行った。
穿孔作業については、予備試験で選定したドリルと加工条件で実施した結果
特に大きな問題はなかった。 孔の内部及び縁に Al 切屑が原因と考えられる
傷が見られたが、仕上げリーマで取りきれる程度であり、要求を充分満たす
ものであった。また、繊維の剥離については、入口、出口共に発生しなかっ
た。
結合作業については、CFRPパネルと Al スプライス間にはコンター誤差や
板厚誤差により1∼2mm の隙間が認められた以外、作業性を大きく阻害する
現象は見られなかった。上部組立と下部組立を結合する時の形状ミスマッチ
や前方バルクヘッドとの形状ミスマッチが懸念されたが、干渉無く、スムー
ズに位置決め、ファスニング作業を行なうことが出来た。従来構造のように
多数の部品を位置決め、結合することに比べて、一体大型パネル化により、組
立工数を大幅に低減することが可能と考えられる。当試験では大きな作業上
の不具合は認められなかったが、実用機展開に当っては、パネルのコンター
精度や板厚精度を改善し、ミスマッチ部のシミング作業等を削減していくこ
とが課題と考えられる。
②薄肉大型精密鋳造(砂型法)
(ⅰ)昨年度に得られた技術課題(板厚の均一化、熱処理歪みの抑制)を解決
するための設計検討を実施し耐圧床支持構造の供試体図面を作成。供試
9.2.6
体サイズは昨年と同様に 1850mm×1550mm で材料は D357 アルミ合金。鋳
造方法は砂型精密鋳造。試作供試体を図 9.2-4 に示す。
図 9.2-4 耐圧床支持構造供試体
(ii)上記の耐圧床支持構造の評価試験として、X 線による内部欠陥検査等の品
質評価と切り出し試験片による引張試験等の強度評価を実施した。
(iii)溶接補修試験では、平板試験片を用いて、製造欠陥の溶接補修を想定し
た適切な溶接条件(添加物、予熱温度等)求めるための試験を実施すると共
に溶接部の強度試験を行い溶接補修の妥当性を確認した。
③摩擦攪拌接合
(i)摩擦攪拌接合部分構造試験のため、1500mm×500mm のサイズの供試体を設計。
板厚は 5.5mm と 2.0mm の2種を設定し材料は実機に合わせて 7050-T7451 プ
レート材とした。
(ii)前方与圧隔壁部分構造供試体の機械加工部品及び溶接補助用具(供試体固
定用治具、FSW ツール)を製作した。さらに H11 年度試験結果より最適溶接
条件を設定し前方与圧隔壁を摸擬した部分構造供試体の接合試験を実施し、
外観、X 線検査及び切り出し強度試験により溶接品質を評価した。これに
より、前方与圧隔壁供試体の製作についての見通しを得た。
FSW接合試験供試体を図 9.2 -5 に示す
図 9.2-5
FSW で接合する前の機械加工部品(左)と接合後一体部品(右)
(長さ 1700mm x 幅 300mm x 2 個)
9.2.7
9.3
革新的軽量構造高効率設計技術の開発
(1)全体強度評価技術(溶接接合与圧胴体パネル最軽量設計技術)
(a) 最終目標に対する達成見通し計算結果
比較のベースとした従来型のビルドアップ構造と本研究で検討してきた
ラップ FSW 接合構造について、重量と部品点数について比較した結果を以下
に示す。
まず、部品点数については、ストリンガ及びフレームの FSW 接合による一
体化や、シアタイをなくしたことにより、大幅な部品点数の削減ができ、部
品点数は従来に対し 52%の削減が見込め、最終目標値の部品点数削減率 50%
を達成できる見通しを得た。 (図 9.3.1-1 参照)
また、重量については、FSW 接合パネルがリベット接合構造パネルよりも
圧縮座屈強度が高いことと、3 列リベットによる重ね継手様式であったパネ
ル間結合を、FSW による突き合わせ接合にすることにより、重量は従来に対
し 5%の削減が見込め、最終目標値の重量削減率 5%を達成できる見通しを得
た。 (図 9.3.1-2 参照)
100%
100%
90%
80%
75%
70%
シアタイ
フレームスプライス
フレーム
ストリンガクリップ
ストリンガ
スキン
50%
25%
60%
ストリンガ
スキン
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0%
ビルドアップ
図 9.3.1-1
ビルドアップ
ラップ-FSW
図 9.3.1-2
胴体構造部品点数比較
9.3.1
ラップ-FSW
胴体構造重量比較
(b) FSW 接合与圧胴体パネル最軽量設計技術の開発成果
胴体構造の軽量化、部品点数削減による低コスト化を計るため、従来のアルミ合
金のリベット組立て構造に代わる溶接接合を適用した新構造様式の検討とその成立
性確認のための強度特性データの取得を実施した。
航空機の胴体構造は、外板(スキン)に長手方向補強材(ストリンガ)と円周方
向補強材(フレーム)を接合したセミモノコック構造である。これらの部品は、リ
ベット等のファスナーを用いて結合する構造となっており、フレームについてはス
キンとの結合にシェアタイを、ストリンガーとの結合にストリンガクリップを介し
て結合する構造となっており、部品点数が多く、ファスナーの結合においては自動
化できない部分が多い。また、航空機用の高強度アルミ合金は、従来溶融溶接はで
きなかったが、近年材料を溶融させることなく接合できる摩擦撹拌接合(FSW)の
開発により接合できるようになり、溶接可能な高強度のアルミ合金や高品質なレー
ザー溶接技術が開発された。そこで、溶接結合や大型の機械加工部品の適用により、
胴体構造の部品点数削減と軽量化を計ることにした。
平成 14 年度は、新構造様式として、組立て手法を変更した 1)FSW 組立構造およ
び 2)レーザー溶接組立構造、3)スキンとストリンガの一体パネルを用いた機械加
工インテグラルスキン構造、および 4)押出し材パネル構造、さらにはスキン、ス
トリンガ、フレームを一体化した 5)高剛性パネル構造を提案し、それらの構造の
重量、部品点数の比較を行うとともに、製造可能性について検討して、重量軽減、
部品点数・コスト軽減および適用可能範囲の広さの観点から、1)FSW 組立て構造が
最も有力であることを明らかにした。また、構造成立性検討のために、胴体構造で
一般的な板厚(2mm)における接合部の継手強度特性(静的、疲労)および亀裂進
展特性を取得した。
H15 年度の研究では、より詳細に FSW 組立て構造の成立性を確認するために、
FSW 重ね継手のより実機に近い形でのクーポン試験片を用いた継手強度特性評価試
験を行うとともに、スキンとストリンガを結合したパネル状態(図 9.3.1-3 及び4)での座屈試験、せん断試験および亀裂進展特性試験を行った。
パネルの座屈強度試験では、連続接合である摩擦撹拌接合のほうがリベット接合
よりも、端部の拘束状態が剛であることにより、高い座屈強度が得られた。これに
より座屈評定となる胴体下面側のパネルでは、FSW 適用により軽量化が可能である
ことが明らかになった。パネルせん断強度試験では、FSW パネルは、リベット結合
パネルと同様の強度特性が得られることを確認した。パネル亀裂進展特性試験では、
FSW パネルの亀裂速度はリベット構造と比べて遅くなった。この原因としては、ス
キンの圧縮残留応力および連続接合による補強効果が考えられる。また、スキンと
ストリンガが直接結合されているため、亀裂がスキンからストリンガに伝達し、ス
トリンガーが破断する危険性があることがわかった。但し、FSW パネルの残存強度
9.3.2
は中央ストリンガが破断しているにも係わらず、リベット構造と同じであった。パ
ネルでの試験を通じて、新構造が、従来構造より座屈評定の面で有利で、他の面で
は同等であることを明らかにした。
構造の成立性に関しては、クーポン試験の結果で一部の継手様式でリベット結合
よりも FSW 結合のほうが疲労強度が低いケースがあるが、亀裂進展特性等を含めて、
構造全体で評価した場合には問題とはならず、スキンストリンガを FSW を用いて組
み立てた構造が、従来のリベット構造よりも軽量化が可能であることを明らかにし
た。
試験前
試験後
(1) パネル座屈試験供試体
(2) パネルせん断試験
図 9.3.1-3
スキン・ストリンガパネル供試体試験状況
9.3.3
(1)
パネル亀裂進展特性供試体
(2) 亀裂進展特性試験状況
図 9.3.1-4
パネル亀裂進展特性
9.3.4
(2)高信頼性効率的構造技術
[1] 加速試験にもとづく長期寿命予測法
(a) 研究目的
主翼及び機首構造用複合材料の長期寿命について,予てから提案されている「温
度環境下における樹脂系複合材料の長期疲労寿命の予測法」を用いて加速試験によ
り早期予測を行い,設計に反映して長期耐久性を確保することを目的とする.具体
的には,曲げの定ひずみ速度(Constant Strain Rate,以下 CSR と略称する)負荷
試験およびクリープ試験,疲労試験を種々の負荷速度および温度の下で実施する.
その実験結果を用いて,信頼度要求を入れた長期寿命を解析する.また,CFRP の
水分吸湿の長期寿命に対する影響の予察試験として,種々の条件で吸水した一方向
CFRP 積層板について曲げの CSR 試験を種々の負荷速度および温度の下で実施する.
(b) 研究概要
主翼及び機首構造用の複合材料積層板について,加速試験による長期強度
評価を行うために,下記の3つの項目を実施した.
① 動的粘弾性試験,CSR 曲げ試験,曲げクリープ試験,曲げ疲労試験
a. 動的粘弾性試験:周波数が 0.02Hz∼8Hz の範囲,温度が室温∼母材樹脂の
ガラス転移温度近傍の範囲で貯蔵弾性係数を測定し,マスター曲線を求めて
時間−温度換算則の成立を検証した.
b. 定ひずみ速度曲げ試験:速度が 0.02,2,200mm/min の 3 水準、温度が 25∼
210℃の範囲の 6 水準の下で定ひずみ速度曲げ試験を行って CSR 曲げ強度を
測定し,マスター曲線を求めて時間−温度換算則の成立を検証した.
c. 曲げクリープ試験:温度 25,110,170℃の 3 水準の下で曲げクリープ試験
を行って,CSR 曲げ強度のマスター曲線より線形累積損傷則を用いて推定し
た.
d. 曲げ疲労試験:温度 25,110,170℃の 3 水準の下で曲げ疲労試験を行って,
長期の曲げ疲労強度を推定した.
② 信頼度要求を入れた長期寿命解析法の構築
信頼度要求を入れた長期寿命解析法について,加速試験手法および統計的解
析手法の二つをもとに開発した.
③ 水分吸湿の長期寿命に対する影響の予備試験
上記主翼及び機首構造用の複合材料とは異なる一方向 CFRP 積層板に吸水お
よび乾燥の工程を加えた試験片を用意し,温度 25∼90℃の 5 水準の下でク
リープ変形試験ならびに CSR 曲げ試験を実施し,CSR 曲げ強度の時間および温
度依存性に及ぼす吸水の影響について検討した。
9.3.5
(c)
成果概要
①動的粘弾性試験,CSR 曲げ試験,曲げク
リープ試験,曲げ疲労試験
CSR,クリープ,疲労の各強度には貯
蔵弾性係数に対して成立するものと同じ
時間−温度換算則が成立した.そして,
CSR 曲げ強度のマスター曲線に線形累積
損傷則を適用して,クリープ曲げ強度を
図 9.3.2-1
予測することができた.(図 9.3.2-1)さ
曲げクリープ強度の予測
(UT500/#135)
らに,長期疲労強度を推定するための曲
げ疲労強度のマスター曲線を求めること
ができた.(図 9.3.2—2)
②信頼度要求を入れた長期寿命解析法の構築
信頼度要求を入れた長期寿命解析法に
ついて,加速試験手法およびクリープ寿
命の統計的解析手法の二つをもとに開発
し,破壊確率 0.5 から 10-24 の信頼区間及
び翼荷重を模擬した荷重条件における信
頼度解析を行った.
(図 9.3.2-3)
図 9.3.2-2
曲げ疲労強度のマスター曲線
(UT500/#135)
3.0
MLE
1E-01
1E-02
1E-03
1E-06
1E-09
1E-12
1E-15
1E-18
1E-21
1E-24
Load
2.0
1.5
1.0
0.5
100.0
10.0
Life
Stress [log MPa]
2.5
1.0
0.1
0.0
-5
0
図 9.3.2-3
5
Time to failure [log min]
10
15
-17
-16
-15
Probability [log P]
クリープ寿命信頼区間および信頼度解析結果 (UT500/#135)
③水分吸湿の長期寿命に対する影響の予備試験
今回実施した吸水量の範囲では、クリープコンプライアンスおよび CSR 曲
げ強度の時間依存性,温度依存性,吸水量依存性の間には時間−温度−吸水
9.3.6
量換算則が成立した.(図 9.3.2-4)
図 9.3.2-4
CSR 曲げ強度のグランドマスター曲線と時間−温度−吸水量移動因子
[2] 衝撃損傷疲労解析法
(a)研究目的
衝撃負荷による層間はく離が疲労強度に及ぼす影響の評価として,衝撃損傷後の
繰返し荷重下のはく離進展挙動を評価する.はく離進展挙動の評価方法として,赤
外線応力画像装置(TESA)によるその場観察を行い,超音波 C-SCAN と比較検討を
行う.
(b)研究概要
①
実験方法
疲労試験は島津サーボパルサを用いて実験を行っ
た.衝撃後の疲労試験に用いた試験片の形状を図
9.3.2-5 に示す.TESA で観察を行うために黒色スプ
レーで塗装を施した.試験片に落錘試験によって
NVD 相当である衝撃荷重 2J/mm を与える.機首構造
用 材 料 UT500/#135 は R=0.1 主 翼 構 造 用 材 料
T800S/3900-2B は R=-1 周波数 5Hz にて実験を行っ
UT500/#135
た.UT500/#135 は静的引張り強度 404MPa を基準に
94,90,85,80,75%の 5 水準,T800S/3900-2B は静的圧縮
強度 287MPa を基準に 90,85,80,75,70%の 5 水準を設
定した.
② 疲労損傷観察法
疲労損傷の観察には日本電子社製赤外線応力画像
システム JTG8010(TESA)と東レ社製走査型超音波探
傷映像システム TU2000 を用いた.TESA による
UT500/#135 の観察はインパクト側から,T800S/3900-
9.3.7
T800S/3900-2B
図 9.3.2-5
試験片形状
2B の観察はインパクトの裏側から行った.C-SCAN
は図 9.3.2-6 に示すように厚さ方向に 3 分割して観察
を行った.
図 9.3.2-6
成果概要
超音波探傷観察部位
KHI ; UT500/#350
a. 疲労試験の S-N 挙動
FHI ;T800S/3900-2B
450
UT500/#350 と T800S/3900-2B の疲労試
6
も 10 サイクル付近まで疲労試験を行っ
6
た.各水準 3 本ずつ行い,10 サイクル付
近の応力の試験片は 1 本のみ行った.
Cyclic Stress(MPa)
験の結果を図 9.3.2-7 に示す.両試験片と
400
300
250
200
UT500/#350 の試験片は高い繰り返し応力
150
でも破断繰り返し数の多いことがあるた
100
1.E+00
め,近似線は T800S/3900-2B に比べると
2
350
1.E+01
1.E+02
1.E+03
1.E+04
1.E+05
1.E+06
1.E+07
Number cycle
若干傾きが緩やかとなることがわかっ
図 9.3.2-7
S-N 曲線
た.
TESA
b.疲労進展挙動観察
UT500/#350 と T800S/3900-2B の損傷の
進展挙動を図 9.3.2-8,図 9.3.2-9 にそれぞ
れ示す.各試験片の破断繰り返し数は
306000,295280cycle である.N/Nf は繰り返
し数を破断繰り返し数で割った疲労寿命
C-SCAN
比である.
UT500/#350 はサイクル数の増加ととも
に,試験片から自由縁からのはく離の発
生による損傷の進展が多く見られる.衝
―
撃による損傷は若干試験片幅方向に進展
する.自由縁はく離と衝撃損傷によるは
く離が連結し,破壊に至ることがわかっ
Initial
N/Nf=0.16
図 9.3.2-8
た.
N/Nf=0.68
UT500/#350 の疲労進展挙動
TESA
9.3.8
N/Nf=0.98
T800S/3900-2B は疲労寿命の末期に衝撃
によるはく離が大きく進展することがわ
かった.インパクト裏側の試験片表面で
は,はく離縁で部分的に座屈を起こす.
C-SCAN
その影響ではく離の進展を加速している
と思われる.また,座屈により表面に亀
裂が発生しており,寿命低下の一因であ
―
ると思われる.
また超音波探傷による結果では,イン
パクト側のはく離は破断にいたるまでほ
とんど進展せず,インパクト裏側のはく
Initial
N/Nf=0.33
図 9.3.2-9
離が進展することがわかった.
9.3.9
N/Nf=0.93
N/Nf=1
T800S/3900-2B の疲労進展挙動
[3] 複合材強度評価技術の研究
まず、旧航空宇宙技術研究所(NAL)が開発した
挿入型治具を使用するモード I 層間破壊靭性試験
[DCB]法(図 9.3.2 -10 参照)のスティッチング/RTM成
形を中心とする新成形技術採用複合材への適用
可能性を確認したところ、極めて適切であり、
貫層糸のある複合材ではこの方法しか適用でき
ないことを把握した。
次に、この方法を適用した DCB 試験結果を整
理する最適な縫合パラメータとして、縫合糸の
体積含有率を用いるとよいことが分かった。そ
の定義と、図解を図 9.3.2-11 に示す。この二つ
の知見に基づき、ケブラー繊維、炭素繊維を用
いてステイッチングした複合材のモード I 層間破
壊靭性値(GIR)の実験値を図 9.3.2-12 に示す。
9.3.10
貫通縫合糸本数 × 縫合糸の平均断面積
× 100
l⋅w
= 縫合糸の体積含有率
縫合密度[%] =
図 9.3.2-11 縫合糸体積率の定義
12
10
GI[N/mm]
黒●は太いケブラー糸(29)
を用いてスティッチした新旧の複合材板の結
果で、縫合密度に関してほぼ線形となる。赤
抜き丸と白抜き三角はやや細い Ackermann 社
のケブラー糸を用いた結果であり、これより
低い直線に回帰してくることがわかる。この
原因は、当然後者の糸の引張り強度とケブ
ラー29 の強度に差があるためと考えられる。
今 回 の 新成 形法 板 [CF/ エ ポ キシ 板 : T700・
TR-40 1K(スティッチ糸)/TR-A31 RTM 用エポ
キシ]の GIR データ[CF Stitch とマーク]から、
明らかにケブラー縫合糸と違う傾きの直線上
にある。ケブラー糸に対するのと同様のシ
ミュレーションからもそれが証明された。
次の研究課題として、新成形複合材の有孔
圧縮強度評価法の研究がある。これに旧 NA
が開発した、標準法の 1/3 程度の長さの試験
片が使用できる方法(NAL-III 法)を使用でき
るかどうか試行したところ、全く問題なく適
図 9.3.2-10 挿入型 DCB 試験法
8
6
4
Series of Specimen
I (60 tex)
II (80 tex)
III (111 tex)
IV (80 tex OSS-A)
IV (80 tex OSS-B)
CF Stitch(TR40)
y=6.56x+0.80
y=2.88x+1.11
OSS
III FEM
II
FEM
I
FEM
y=2.33+1.10
2
0
0
0.5
1
1.5
Volume Fraction of Stitch Thread[%]
図 9.3.2-12 GIR と縫合糸体積率
の関係
2.14
25.4
φ6.35
118
t
38.1
図 9.3.2-13 有孔圧縮強度試験の
ために開発された NAL-III 法
L-方向
T-方向
350
300
C S0 0 L
C S0 0 T
C S3 3 L
C S3 3 T
C S6 3 L
C S6 3 T
C S6 6 L
C S6 6 T
C S1 2 L
C S1 2 T
250
Strength (MPa)
用できることを把握した。この試験法の
治具と試験片寸度を図 9.3.2-13 に示す。
この試験法を用いて、CF 縫合エポキシ
板の有孔圧縮(OHC)強度と縫合密度、縫
合方向との関係を調べた結果を図 9.3.214 に示す。ここに 、下の数字 は縫合
ピッチと縫合間隔を表す。この図から最
も密度の高い 3*3 の時には OHC 強度が
上昇するが、それ以外の時は強度上昇は
200
150
100
50
0
C S0 0 L
C S 00 T
縫合なし
C S33 L
C S3 3T
3*3
C S6 3L
C S6 3 T
C S 66 L
6*3
CS 66 T
6*6
C S1 2L
C S1 2T
6*12
図 9.3.2-14 OHC 強度と縫合密
度、縫合方向の関係
CAI Strength(MPa)
700
CF Stitching(L)
CF Stitching(T)
T700 CL (No Tckifier**)
T700 CL (Tackifier**)
600
500
400
300
強度の向上
200
CF Stitch
3.30J
CF Stitch
6.67J
CF CL
2.67J
CF CL
5.34J
100
0
0
5
10
15
20
25
30
Impact Energy(J)
** Epoxy based Tackifier ST-1153 by Structil
Co.LTD.
図 9.3.2-15
CF 縫合による衝撃後残留圧縮(CAI)強度の上昇
顕著でないこと、縫合方向は強度に影響しないことが明らかとなった。
第3の研究課題として、新成形複合材の衝撃後圧縮強度(CAI)評価法の研究があ
る。この評価にも、旧 NAL で開発した Half-SACMA 法を主に用いた。この CAI
強度を非縫合の場合と比較したものを図 9.3.2-15 に示す。これから、縫合により、
相当に CAI 強度の上昇が得られることが明らかとなった。また、図示は省略した
が、別の検討により、Half-SACMA 法は標準法である SACMA 法とほぼ同等の適
用可能性があることが判明した。
本組織における研究分担項目での
最後の研究課題は、新成形法によ
り成形した補強平板構造の損傷許
Root 側
容性能把握試験である。さらに詳
Tip 側
細に言えば、FHI が製作した新成形
法による主翼構造と同等の成形法
図 9.3.2-16 翼上面模擬の補強平板
を用いて製作した翼上面模擬の補
9.3.11
端部金具
評定部
378mm
1286 mm
Load
強平板パネル(図 9.3.2-16,-17)に、衝撃損
傷を2箇所与え、飛行荷重を模擬した擬似ラ
ンダム疲労荷重(Mini-Twist: 図 9.3.2-Z9)を
与えて損傷の進展の有無を調べる方法を採用
している。衝撃損傷の付与位置は大略、図
9.3.2-Z8 に星型で示すとおりで、この図の上
側の衝撃損傷は 4.89J/mm,下側の衝撃損傷は
6.23J/mm の板厚あたりのエネルギーで与え
ている。
供試体
Cycle
図 9.3.2-18 擬似ランダム荷重:Mini-TWIST
与えている疲労負荷はすでに定版化さ
れている Mini-TWIST と呼ばれる方式
で生成される荷重列で定義される。この
例を図 9.3.2-18 に示す。
疲労試験の状況写真と、衝撃損傷の初
期状況をパルスサーモグラフィで撮影し
たものを図 9.3.2-19 に示す。パルスサー
モグラフィとは、大熱量をパルスで与え
て、温度分布を時系列で追跡することに
より層間剥離を検出する新しい手法で、
今回のような試験には極めて適切な試験
手法である。これ以後の詳細記述は省略
するが、上記のエネルギーで生成された
損傷は、2寿命相当の負荷を作用させて
も、全く進展が無く、新成形複合材構造
が、極めて優れた損傷許容・耐損傷進展
能力を有することが実証された。
526
図 9.3.2-17 補強平板の詳細寸法等
10mm
図9.3.2-19 ランダム負荷疲労試験
および非定常サーモグラフィ探傷装置
による損傷進展評価
9.3.12
9.4 統合企画、内外研究動向調査
(1) 技術委員会
研究開発全体を円滑かつ着実に推進するため、JADC に本プロジェクトを総括
する技術委員会を設置した。技術委員会は、研究開発組織全体が足並みを揃えて目
標達成に向かって推進できるよう、総合調整、技術審査等を行うことを目的とし、
研究開発実行計画、研究テーマ間の整合性、成果報告等に関する打ち合わせ、調整
を適宜行った。
次に示す3回の技術委員会を毎年必ず開催した。
第 1 回技術委員会:各年度の実施計画審議
第 2 回技術委員会:中間報告
第 3 回技術委員会:技術審査
第 3 回技術委員会では、外部の審査委員および NEDO オブザーバーも参加して、各
年度の研究開発成果と Exit Criteria 達成度につき審査を行った。
(2) 技術課題の検討
①自動車への技術適用化率と軽量化率の見直し
本研究開発技術の適用によるエネルギー使用合理化効果および CO2 排出削減効果
が大きい自動車に対して、それら効果の基礎となる軽量化につき見積もり精度を上
げる検討を平成 14 年度に行った。自動車の重量モデルを精査した結果(図 9.4-1
参照)、前回平成 13 年度の軽量化率 7%に対して、3 倍近い 20%強の軽量化率(図
9.4-2)を得ることができた。平成 15 年度、エネルギー使用合理化効果および CO2
排出削減効果再試算時に、本研究開発技術適用化率を用いて効果の再計算を行なっ
た。
(a)現 用 鋼 材 を使 用 し た 一 般 車 の 重 量構 成
参考 資 料 :軽 金 属学 会 第58回 シンポジウム 予 稿集 (2000年 4月 )、
(a)19ページ図 3、(b)28ページ図 6、(c )27ページ図 3をそれ ぞれ 参 照
そ の 他5%
(b)モノコックボディの材 料形体割合
駆 動関 係 10%
エン ジン関 係 10%
型材 12%
ボ ディ関 係 57%
板 材 88%
シャー シー関 係 18%
空 車重 量の 57% x 88% = 50%
引張 強 度比 較
以 上を板 材が 占める。
現 用 アルミ合 金 5182-0 27kgf/mm 2 6061
21kgf/mm 2
高 力 アルミ合 金
2024 45kgf/mm2 7050,7075 52kgf/mm2 (c )モノコックボデ 構造
図 9.4-1
摩 擦攪 拌接 合、 超塑 性加 工が
適 用で き る 高力 アルミ合金 に よ
る 軽量 化が狙 い 目
自動車の重量モデルと軽量化の狙い目
9.4.1
(b)ボ ディとシャー シ ー関 係部 品に板材の み適 用した 場合
軽量化
24.0%
16.6%
(a)現 用 鋼 材 を適 用 した 場 合
10%
5%
10%
57%
18
%
34.4%
軽 量化
ボ ディ関 係
シャー シー関係
エンジン関係
駆 動関係
そ の他
(c )ボ デ ィと シャー シ ー 関 係 部 品 に板 材 と押 出 型 材 を適
用 した 場 合
軽量化
27.3%
16.4%
31.3%
図 9.4-2
摩擦攪拌接合及び超塑性加工適用による一般車の軽量効果
②FAA との技術実証試験計画の打合せ
平成 14 年 9 月 20 日、米航空局 FAA Seattle Aircraft Certification Office を訪
問し、最終年度実施する技術実証試験計画に対する FAA 実務者の意見を聞いた。
訪問した一番の目的は、実大疲労試験に変わる証明方法提案に対する FAA の見解
を聞き出すことにあった。実大静強度試験は行うが、実物大供試体に繰り返し荷重
をかける実大疲労強度試験を行う時間と費用がないので、代わりに小さな試験片を
用いた加速試験データに基づく解析証明法を採りたいと提案したが、型式証明取得
が 目 的 で あ れ ば 拒 否 、 開 発 段 階 の 新 構 造 コ ン セ プ ト 証 明 ( Proof of Concept,
POC)が目的であれば検討の価値はある。ただし、詳細な証明方法の提示が必要
との見解であった。本研究開発は POC が目的であるので、現解析証明方法で新構
造コンセプトの妥当性を実証することができる。
③DER 評価
FAA 実務者から出たコメントは、DER 評価の中でも取り上げ対策を検討した。
主なものを挙げると、燃料タンクを構成する複合材主翼の燃料吸収劣化防止対策、
与圧機首構造の de-compression に対する安全証明、鳥衝突による前縁防氷パイプ
のクラッシュに対する飛行安全対策などであるが、DER の豊富な経験・ノウハウを
活かして適切なアドバイスを得て、技術実証に反映することができた。また、ばら
つきが大きい複合材構造の安全寿命を実行可能な試験期間で求めるための荷重割増
係数(表 9.4-1)など有益なガイドを DER から得ることができた。
9.4.2
表 9.4-1
荷重割増係数と試験期間の関係
Load Enhancement Factor of
Starship by courtesy of Rick Abbott
Example Factors
From the Starship examples shown factors may be derived which define the number
of test lifetimes required to establish B-Basis reliability at nominal loads (without LEF),
the LEF for B-Basis reliability with one test lifetime, and the LEF for two test lifetimes.
TEST DATA
LIFE FACTOR
WITHOUT LEF
LEF for ONE
LIFETIME TEST
LEF for TWO
LIFETIME TEST
Compression/
Puncture damage
17.6
1.21
1.15
Shear/
Puncture damage
7.96
1.15
1.12
Compression
Impact damage
21.5
1.25
1.17
A LEF of 1.15 has been accepted by the FAA for two lifetime full scale damage
tolerance testing on major composite structures.
(3) 内外研究動向調査
①エアバス A380 へ適用される新材料・構造技術
エアバス A380 の新材料・構造技術の適用状況を調査した。複合材料の適用範囲
が狭くなった。複合材料の適用は全構造重量の 19%程度であり、アルミ合金が
45%程度を占める。以前は主翼外弦部に複合材料を適用する計画であったが、今回
の説明ではアルミ合金になっていた。複合材料の主な適用部位は、中央翼、尾翼、
後部与圧隔壁である。胴体は、クラウン部に GLARE と前胴下部に 6xxx 系アルミ
合金の溶接外板の使用が新技術である。以前からの説明と大きい変化は見受けられ
なかった。
②複合材料の新しい設計法 SIFT
複合材料の新しい設計法 SIFT(Strain Invariant Failure Theory )を調査した。
従来の解析方法では強化繊維と樹脂が結合されたモデルを用いたが、SIFT では強
化繊維と樹脂を分離して解析する。コンピューターの性能が発達し計算コストが安
価になったことにより、従来に比べはるかに微細な要素分割モデルの解析が可能に
なったことを背景に構築された設計法である。微細化モデルの解析を行うので、よ
り精密な構造解析ができ、今後、損傷進展解析や長期寿命予測解析など幅広い応用
が期待できる。SIFT 開発グループによると、B7E7 の試算では Tsai-Wu など古典
的な設計法に比べ、SIFT は更に10%程度の軽量化が可能である。
9.4.3
③FAA の複合材料新規定制定計画
T 類主構造への複合材適用に対する基準化が順次行なわれるが、FAA は、N 類の
AGATE*材の規格化で採った方法 AGATE Approach (Shared Database と SPC**が骨
子)と同じ方法を採りたい意向である。
*AGATE=Advanced General Aviation Technology Experiment
**SPC=Statistical Process Control
取組み日程(図 9.4-3 参照)は、AGATE 材の規格化準備を 2000 年に開始し、
2003 年 9 月に AC23-20 (Acceptance Guidance)として正式発行するのを皮切りに、
現在、回転翼機の疲労及び耐損傷性基準がまとまり近々発行する。2008 年の耐損
傷性実証及び保守整備基準発行を最終目標として、環境劣化基準など順次新基準の
制定が行なわれる。
Milestones for Composite Safety and
Certification Policy, Guidance and Training
2007
2005
2003
Final process control,
Stiffness,
International M&P
design,
manufacturing,
dimensional
specs, database
Initial static
AGATE
structural
integrity and
standards and initial stability and
strength
Shared
repair
issues
for
flutter
Databases substantiation environmental effects
bonded structures
2000
2001
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
Final damage
National Plan* for Rotorcraft Initial process control,
tolerance
Final
aircraft products ARAC for design, manufacturing, environmental substantiation
fatigue and structural integrity and
& maintenance
effects and
damage
repair issues for
2001
Updates for new
material
2002 tolerance
bonded structures
material forms
limits
& processes
2004
* International participation
in many of the tasks since 2001
2006
2008
図 9.4-3 FAA の複合材構造関係新基準の制定計画
(第 2 回 FAA ワークショップ資料、平成 15 年 9 月 米国シカゴ)
9.4.4
Ⅳ 実用化、事業化の見通しについて
10.実用化、事業化の見通し
10.1
一体成形ボックス結合型構造方式の実用化、事業化見通し
(1)結合ボックスビーム(主翼構造)
本研究は、当初から航空機分野に実用化における実証の課題とそれに対する実行
案を具体化して、DERのレヴューや外部評価を受けつつ研究を進めており、必要
な要素技術の確認が想定通り達成されており、一体成形ボックス結合型構造として
の目標である重量軽減 15%削減をクリアし、最終成果見込みとして重量軽減見込
みは 26.9%に達している。よって、該当分野における実用化に向けた基盤技術とし
ての成熟度はきわめて高く、以下のような具体的な利用候補が想定される。
航空機;
今後開発されるあらゆる航空機の翼構造。
特に近い将来の候補機体は、
①新型旅客機
②新型ビジネスジェット機
③既存旅客機構造レトロフィット
一方、本研究により開発された要素技術はその基盤技術としての完成度の高さから、航
空機分野のみならず運輸分野においても各要素技術の適用が以下のような実用化シナリオ
が想定される。
自動車;
鉄道車輛;
船舶;
その他;
乗用車、バス、貨物輸送車の車体構造
車体構造全般
船体構造全般
風力発電用ブレード
航空機への適用は研究実施担当の弊社が実用化主体となり、要素技術に関して他航空機
メーカも類似展開が期待できる。自動車、鉄道車輛、船舶へは各専門製造メーカが要素技
術の成果を生かして取組むことができる。
また、本研究は運輸分野のみならず、土木・建築分野へも複合材技術の波及が望める。
軽量構造技術の普及や修理部材としての適用で既存構造物の寿命延長あるいは新規構造物
のライフサイクル増大につながり、地球資源効率化につながる。また、風力発電ブレード
の製造法にも要素技術が役立っており、直接的に新クリーンエネルギー活用拡大に寄与し
10.1.1
ている。
図 10.1-1 発電用小型風車
図 10.1-2 同ブレード
具体的な実用化サンプルとして、以下航空機を具体例として示す。航空機における実用
化ではターゲット機体に対して、さらに実機開発のための個々の仕様に合致させる実証確
認ステップを踏んだ上で、迅速なる適用化を計画している。ただし個々の機体の実用化に
際しては、機体仕様によって特質点・強化点が変化し、各々に最適な材料システムの選択
が行われるので、材料や仕様に合わせた開発の仕上げの研究ステップが各適用ごとに必要
となる。
① 新型旅客機
次世代型旅客機開発構想(例えばボーイング社 7E7)に対しては、本研究開発の基本概念
を適用することが出来る。大型旅客機に対するより強い重量軽減要求に対しては、材料系
を適したものに設定し直した上で機体の仕様に合致する実証研究をさらにワンステップ加
えることにより、実機開発につなげることができる。
開発の概略マイルストーンは、H13、14 年度は機体仕様検討が実施されており、H15年
度から部分構造確認試験、材料系実証データベース構築活動が開始されている。H16 年度
機体構造形態確定、実証研究の実施を経て、H17 年度製造開始、H18 年度初飛行、H19 年度
型式証明取得へつながると予想される。
また、新型コミュータ機への適用として現在開発が検討されている環境適応型高性能小
10.1.2
型航空機へも本研究開発の基本概念の適用は可能である。本研究における成果である重量
削減効果は環境適応型機の狙いである環境負荷の軽減につながる物であると期待される。
② 次期ビジネスジェット機
ビジネスジェット機分野では、胴体の複合材化が米国中心に確立しつつあるが、主翼へ
の適用は未確立であり、次期開発あたりから適用化が活発化すると予想できる。本研究開
発成果をフルに生かしつつ、モデルチェンジの目玉として実機適用に直接つなげる展開が
考えられる。本研究での実物大供試体はビジネスジェット機クラスの主翼の一部をデモン
ストレーションしており、実物大構造デモンストレーションの完了により、より直接的に
開発リスク・開発コストともに大きな低減につなげた適用・実用化を進めることができる。
③ 既存旅客機構造レトロフィット
本研究で開発した要素技術概念、成形方法特許に関しては、比較的小型のコンポーネン
ト適用へも展開可能であり、各々仕様に合わせてアジャストしつつ、既存旅客機部品のレ
トロフィットを進めることができる。
複合材技術は構造大型化に伴う成形上及び強度上のリスクが大きく、本研究ではこの課
題に対して計画通り H14 年度、H15 年度に実物大供試体試作及び強度試験を実施し構造の
大型化に対する一定の目論見を得た。軽量化で期待されていた複合材がコストや耐損傷性
で適用の伸び悩みが生じていた状況下で、本研究による革新製造技術の完成により本来の
複合材特性を十分に引出す適用が可能となる。特に重量軽減要求が厳しく、改善効果の高
い航空機分野で顕著な成果が示せるが、他分野においても構造重量削減、修理等の維持改
善によるライフサイクル向上に役立たせることができる。
事業化とそれに伴う経済効果に関して、添付表に概略規模を示す。各々先に示した開発
の概略スケジュールに従い、実用化研究を経て、事業化が十分に達成可能との見通しが得
られている。
10.1.3
実用化開発研究
の規模 (億円)
開発費概算
(億円)
量産費規模
(億円/年間)
本技術関連
新型旅客機
10-30
2000
100-200
次期ビジネス
ジェット機
10-20
300
10-20
既存旅客機
レトロフィット
10-20
50
25-50
合計
50-120
約 5000
150-300
また、当該分野の研究開発を促進する波及効果として、以下の点があげられる。即ち、
本研究は材料素材そのものに関しては既存及び研究開始時点で成熟度の高い材料を用いて
研究を開始したが、本活動により素材自体の研究開発に弾みがつき、より高性能な素材改
質も期待できる。また、世界に向けた研究紹介により、他国の類似研究とのコミュニケー
ションが活性化し、さらなる研究発展の可能性も広がっている。
市場創出効果については、日常生活に密着する輸送機が全般にわたって軽量化され、燃
料消費が幅広い分野で改善される。
10.1.4
(2)超塑性加工/溶接精密鋳造組合せ構造(前縁構造)
(a) 実用化・事業化のシナリオ
航空機主翼前縁については、国内および海外での機体開発計画を注視しつつ、
個々の機体仕様に応じた前縁の構造形態(例えば固定前縁、または可動前縁
等)にフレキシブルに対応できるよう、設計と詳細な材料特性の確認を継続す
る。まずは既存機へのレトロフィットを提案し、FAA STC を取得することによ
り、実機適用を図ると共に運用実績データを蓄積し、新規開発機への適用の機
会をつかみ提案し、製造のための詳細設計、FAA 認証取得および量産を目指す。
図 10.1-3 に実用化のシナリオを示す。
年度
H 11
H 12
H 13
H 14
H 15
H 16
H 17
H 18
H 19
H 20
H 21
H 22∼
レトロフィット提案(新規開発機への適用提案)
(マーケット調査及び開拓)
機種固有の
詳細設計
革新的軽量構造設計製造基盤技術開発
《委託研究:116百万円》
FAA 認証試験
静強度試験(26百万円)
製品・販売
(13百万円)(13百万円)
疲労強度試験(30百万円)
(15百万円)(15百万円)
防氷詳細設計及び試験(24百万円)
小型民間機・主翼前縁構造
H 16∼H 18
[強度及び性能追加確認]
《社内費40百万円》
《 補助 40百万円》
(11百万円)(6百万円)(7百万円)
(24百万円)(34百万円)(22百万円)
合計80百万円
H 19∼H 21
[機種固有の設計・試験]
《社内費180百万円》
年60百万円×3年間
実用化考え
◎ 国内外での新規航空機開発に備える。
◎ レトロフィットによりFAA のSTC を取得し、既存民間航空機の部品、部材を製作する。
(新造機のみならず、既存機にも適用することにより整備コスト低下、省資源、省エネ化に資するとともに
運用実績データを取得する。)
課題
◎ 革新技術ゆえの信頼性の確保(・データの追補 ・FAA 認証取得の確実化)
◎ マーケット調査及び開拓、機会を捉えた確実なる提案
図 10.1-3 前縁構造実用化のシナリオ
(b)輸送機器産業及び他産業への波及効果
本研究期間経過後、直ちに高速輸送機器産業分野において、精密鋳造および
SPF を用いたワンショット成形による一体化構造部品が、車体軽量化のための
実用化候補技術として取り上げられることが想定される。実用化の主体は自
動車メーカおよび鉄道車両メーカ(部品メーカを含む)になると予想される。
この場合、各運用条件における強度上の安全性、耐久性ならびに材料、部品
のリサイクル性等の十分な見極めがなされる期間(数年)が必要と考えられ
る。自動車産業では、ホイール、エンジン部品、ドア、バンパー、フェン
ダー、スペアタイヤハウジングおよび二輪車の燃料タンク等に、また鉄道車
10.1.5
両の座席、窓枠、車両構体等の広範囲に適用されると考えられる。特に、輸
送機器の高速化に伴い、耐衝突・衝撃性能はますます重要な性能課題となっ
てきており、本研究開発による耐衝撃構造設計技術の適用により、より効率
的な製品設計が図れると考えられる。
船舶については、商用船はその大型の故に軽量化要求は低く、むしろ中・小
型のレジャーボート及び特殊軽量化要求船(追尾目的等)の構体及び部品等
に適用される可能性が高いと考えられる。また、船体以外では、海上コンテ
ナや LNG 貯槽容器等への適用が想定される。
航空機及び射爆訓練用標的は、複合材料と競合する部分が多いが、複合材化
が難しい複雑形状部材が多用される部品を一体化できる精密鋳造は、軽量化
メリットが大きい。このためドア類、操縦系統リンク部品、ブラケット類に
実用化されると考えられ、2005 年以降の新機種開発時に採用されることが考
えられる。以上のような状況から総じて、本研究開発の実用化による高速輸
送機器分野での軽量化は、エネルギー節減および排ガス削減に大きく寄与す
ることが予想される。特に、自動車および鉄道車両は、その生産数の多さか
ら、省エネルギーおよび排ガス削減効果が他産業に比べ著しく大きいと予想
され、本研究成果の適用による車体の軽量化がもたらす社会的影響は注目に
値する。
また、薄肉精密鋳造技術は、本研究着手当初に想定していなかった分野へ波
及する可能性がある。例えば、住宅の土台、水ジャケットを有する環境改善
型の瓦、道路用信号機の部材、歩道のモール等への適用である。一部の家庭
電化製品の筐体や部品にも使用される可能性がある。一方、高精度・高品質
溶接技術も、当初想定していなかった分野へ波及する可能性が高い。例えば、
SPF を利用したものでは、ビル・住宅用の意匠性建材(内外壁・門扉等)、自
動販売機等の筐体,パラボラアンテナ等が挙げられる。更に、近年注目され
つつある電磁シールドの観点より、医療電子機器ケース等への適用も想定さ
れる。これらは全て耐久性およびリサイクル性に寄与する環境配慮型の製品
となる。更に、自動車パーキングシステムにおける料金収受機筐体、標的シ
ステム構体および、風力発電用ブレード等への適用に関しては、日本飛行機
が実用化をリードする主体企業として想定される。
図 10.1-4 及び 10.1-5 にそれぞれ輸送機器産業およびその他の産業における
実用化時のイメージを示す。
10.1.6
輸送機関の軽量化
大型構造金属部材の精密鋳造・SPF・溶接技術の適用
航空・宇宙産業
鉄道車両産業
自動車産業
適用製品部位(想定)
適用製品部位(想定)
船舶産業
適用製品部位(想定)
・主翼及び尾翼の前縁構造
・舵面支持構造、操縦系統部品等
・ナセル外板、ナセルリップ、パイロン前縁等
・ドア、フェアリング類
・射爆訓練用標的関係部品等
・ホイール、エンジン部品(自動車)
・ボイラー容器等
・駆動系部品、座席等(鉄道車両)
・水中翼船構体等
・ドア、バンパー、フェンダー等
・海上コンテナ等
・ボディ、車両構体等
・LNG 貯槽容器等
実用化時期(想定)H16∼
実用化時期(想定)H16∼
実用化時期(想定)H16∼
図 10.1-4 精密鋳造・SPF・溶接技術実用化時のイメージ(輸送機器産業)
10.1.7
各種構造物の軽量化・耐久性・リサイクル性・意匠性
大型構造金属部材の精密鋳造・SPF・溶接技術の適用
土木・建築産業
適用製品部位(想定)
家電産業
その他産業
業務・医療用電器産業
適用製品部位(想定)
適用製品部位(想定)
・建材(壁・門扉)
、瓦等
・自動販売機筐体、部品等
・パラボラアンテナ
・道路用信号機部品等
・家電製品筐体、部品等
・パーキングシステム料金収受機筐体
・歩道のモール
・医療電子機器筐体、部品等
実用化時期(想定)H16∼
実用化時期(想定)H16∼
および部品等
・風力発電用ブレード
実用化時期(想定)H16∼
図 10.1-5 精密鋳造・SPF・溶接技術実用化時のイメージ(輸送機器以外の産業)
10.1.8
10.2
大型一体鋳造・FRP(強化プラスティック)複合構造の
実用化、事業化見通し(機首構造)
①一体成形型CFRP部材の設計・製造技術
(a)実用化時のイメージ
本技術は、疲労に強く耐熱性、遮音性に優れたCFRPサンド
イッチパネル外板の設計・製造技術を開発して、従来の複雑形状の金属
構造に対して部品点数低減、重量軽減を図るものであり、航空機、自動
車、鉄道、船舶などの輸送機関への適用に加えて建築構造物への適用も
考えられる。
具体的な製品の例を以下に示す。
(i)航空機機首構造外板/舵面(エルロン、フラップ、ラダー等)
・実用化時期は平成15年∼20年
・実用化の主体はKHI及び共同開発相手先のメーカ
具体的には7E7プロジェクトへの適用可能性が考えられる。
・市場の担い手は航空機ユーザー(エアライン、防衛庁等)
航空機の舵面への適用イメージを図10.2-1に示す。
(ii)高速鉄道車両外板
・実用化時期は平成15年以降
別材料の外板サンドイッチパネルの適用事例は既にある。
図10.2-2にE4系新幹線の適用事例を示す。
・実用化の主体はKHI。
・市場の担い手は鉄道車両のユーザー(JR各社等)
(ⅲ)船舶
・実用化時期は平15年以降
小型船舶では船体へのサンドイッチパネルの適用事例が既にある。
図10.2-3にヨットについての適用事例を示す。
・実用化の主体はKHI。
・市場の担い手は船舶のユーザー(一般消費者、官公庁等)
10.2.1
図 10.2-1 航空機舵面への適用イメージ
10.2.2
図10.2-2
E4系新幹線の適用事例
10.2.3
Fabrication of Hull/Frame
Sail Boat for Americas Cup Challenge
Photo: by Takeo Tanuma
図10.2-3
Vacuum Bagging
Courtesy of GH Craft Co.Ltd
ヨットへの適用事例
10.2.4
(b)成果の実用化可能性
本研究により、外板サンドイッチパネルの設計製造技術及び非破壊検査
技術が確立されたで、実用化への見通しは得られている。特に高速鉄道車
両外板については新幹線の先頭車両への適用実績があるので実用化の可能
性は高い。
今後は長期耐久性及び耐損傷性を考慮した設計手法を開発段階で確立する
必要がある。そのためには、車両、建築構造、航空機の2次構造のような
比較的技術リスクが小さなものから適用を進めて設計上の技術課題を解明
し、最終的に航空機の一次構造への適用を図るというプロセスが望ましい。
(c)波及効果
CFRPサンドイッチパネルは耐熱性、遮音性に優れた構造なので、
低価格材料及び大量生産方式の開発、廃棄処理方法/リサイクル方法の
確立等の関連分野の研究活動が進展すれば、省エネ住宅の外壁や自動車
の車体等にも適用可能なポテンシャルを有している。他産業への適用に
あたっては低コスト化が重要であるが、本研究で開発した発泡コアの自
動成形技術が有効と考える。
図10.2-4に体育館の天井部分への適用事例を示す。
Full CFRP School Gymnasium Roof in Shiga Pref.
(Left: Under Construction, Right: Schematic)
図 10.2-4 に体育館の天井部分への適用事例
10.2.5
②大型構造金属部材の精密鋳造・溶接技術
(a)実用化時のイメージ
本技術は、バラツキが小さく、湯流れの良いD357アルミニウム合金を
適用した大型精密鋳造技術と、従来は溶接が不可能であった高強度アルミニ
ウム合金の接合を可能とする摩擦攪拌接合技術の開発するものであり、部品
点数低減/重量軽減に繋がることから、航空機、自動車、鉄道のような輸送
機関を中心とした適用が可能である。
具体的な製品の例を以下に示す。
(i)航空機用構造部品への大型精密鋳造の適用
・実用化時期は平成15年∼20年
・実用化の主体はKHI及び共同開発相手先のメーカ
・市場の担い手は航空機ユーザー(エアライン、防衛庁等)
航空機の胴体構造への適用イメージを図10.2-5に示す
(ii)鉄道車両の側壁、ドア板等への摩擦攪拌接合の適用
・実用化時期は平成15年以降
別材料の構造については、地下鉄車両への適用事例が既にある。
(図10.2-6参照)
・実用化の主体はKHI。
・市場の担い手は鉄道車両のユーザー(都市の交通局、JR各社
等)
図 10.2-5 胴体構造への精密鋳造の適用構想
10.2.6
接合線
MIG溶接
溶接
FSW
接合線
MIG溶接
溶接
MIG溶接
溶接
地下鉄車輌構造体
接合部
ドア板
図10.2-6
側壁
地下鉄車両への適用事例
(b)成果の実用化可能性
本研究により、設計・製造に関わる基礎データを取得し、実構造を模擬し
た部分構造試作に成功しているので実用化の可能性は高い。
(c)波及効果
航空機を対象とした厳しい設計要求及び品質要求を満たしている新技術な
ので、コスト要求を満たせば航空機や鉄道車両以外の輸送機器や建築構造
物等への適用も可能と考える。
③革新軽量構造インテグレーション技術の開発
(a)実用化時のイメージ
本研究では、まとまった単位の構造体(機首構造)に各要素技術を盛り込ん
で試作し、構造全体としての性能を試験で評価することにより、各要素技術を
実機適用可能な技術として確立させることを目的としたものである。具体的に
10.2.7
は、実構造として組み立てるのに必要なCFRP部材と金属部材を接合する際
の構造様式、孔あけ等の加工条件を本研究で開発した。
これらの成果に基づいて各要素技術を組み合わせた例を図10.2-7に示す。
(b)実用化の可能性
実物大構造評価試験により、本研究の成果が航空局・FAAの基準に合致し
ていることを確認するので実用化の可能性は高い。
(c)波及効果
複合部材と金属部材を組み合わせる事例に適用可能なので、他産業への波及
効果は大きいと考える。
10.2.8
Aluminum
CFRP Sandwich Shell
( CFRP and Plastic Foam Core)
Aluminum Precision Casting for
Floor Support, Bulkheads, Doors
図 10.2-7 各要素技術を組み合わせた例
10.2.9
Friction Sir
Welding for
Forward
Bulkhead
10.3 革新的軽量構造高効率設計技術の実用化、事業化見通し
(1)全体強度評価技術(溶接接合与圧胴体パネル最軽量設計技術)
(a)実用化時のイメージ
本研究開発成果の具体的利用候補としては、H15 年度から経済産業省のプログラム
「FOCUS21」にて開発が始まった 30 席クラスの小型民間航空機(環境適用型高性能小
型航空機、図 10.3-1)の胴体構造が挙げられる。
環境適用型高性能小型航空機の開発プロジェクトは、H15∼H19 年度までの予定で、
三菱重工業㈱が中心となって実施中であり、H17 年度から試作機の製造を開始し、H19
年度初飛行のスケジュールで開発が行われる。その後、その成果と市場状況をもとに
事業化が検討される。
開発した技術の適用により、航空機体構造の軽量化による燃費向上と、製造コスト
削減による機体価格の削減を計ることで、エアラインの運行コストを下げることで、
魅力ある機体とするとともに、燃費向上による省エネルギー効果が期待される。また、
開発する機体は、既存の大きな機体では充分な需要がなかったため直行便が運行でき
なかった路線への運行が可能になったり、需要の変化にも対応できるようになるため、
旅行者の利便確保と需要に応じた効率的な運行が可能になり、別の意味での省エネル
ギー効果もあると考えられる。
一方、リニアモータカーの開発においても、車体構造の軽量化の要求がある。図
10.3-2 に示す現在の最新型の車両は、低コスト化のため、構造外板は押し出し型材を
摩擦撹拌接合でつき合わせ継手方式で接合した構造となっており、大型の押出し型材
を利用する関係で材料の最小板厚や適用できるアルミ合金に制限があり、航空機で利
用されている高強度のアルミ合金が適用できない。しかしながら、開発した構造様式
では、コスト面を含めてもその制約が少なくなるため、高強度材料の適用により車両
重量の軽量化が計られると想定される。
船舶の分野においても、高速船を中心に船体の構造へのアルミ構造の適用がなされ
ようとしている。図 10.3-3 はアルミ合金製の高速船の例である。適用方法としては、
押出し型材を通常の溶接や摩擦撹拌接合で接合したものを用いるのが一般的であるが、
本研究で用いた平板に補強材を摩擦撹拌接合で接合する工法を採用できれば、摩擦撹
拌接合のもつ低ひずみ特性を利用して、大型の補強材つきパネルを高精度かつ低コス
トに製造できるようになる。また、船の下部構造は走行抵抗削減のため、複雑な複曲
面となっているが、このような型材を用いたら出来ない部材についても、曲面成形し
た板に補強材を重ね接合することで製造する方法もあると考えられる。
(b)成果の実用化可能性
本開発では、主として設計的な観点から構造の成立性を中心に検討しているが、上
10.3.1
記の環境適用型高性能小型航空機の開発プロジェクトにおいても、本プロジェクトで
は行っていない製造技術およびその周辺技術の開発を実施しており、ふたつのプロ
ジェクトを効率的に活用することで、成果を迅速に実用化できるものと考えられる。
(c)波及効果
航空機用に主に使用されている高強度のアルミ合金(ジュラルミン)は、軽量で
高強度であるため、構造体の軽量化が可能であるが、この合金は溶接が不可能で接合
方法として、リベット等のファスナーで結合される必要があるため、溶接組立てが一
般的な車両や自動車、高速船では、あまり利用されることがなかった。しかしながら、
高度な信頼性が要求される航空機の分野でも摩擦撹拌接合という新しい溶接法と組み
合わせることで、溶接組立てが可能であることになることで、他の分野でのジュラル
ミンの利用が進み、製品の軽量化、省エネ効果が増すと考えられる。また、開発にお
いて、摩擦撹拌接合で一般的なつき合わせ継手ではなく、自動車等でも多く利用され
ている重ね合わせ継手を主な対象としたことで、本成果をもとに、摩擦撹拌接合の適
用があまり進んでいない自動車分野での適用も想定できる。
胴体構造
図 10.3-1 環境適合型高性能小型航空機
10.3.2
車体構造への適用
図 10.3-2 リニアモーターカーでの適用(三菱重工技報 Vol.40No.12003/1 より引用)
船体構造
図 10.3-3 全アルミ合金製高速船(隠岐汽船レインボー)への適用
10.3.3
(d)実用化へ向けての計画
開発した技術は、30 席クラスの小型民間航空機(環境適用型高性能小型航空機)の
胴体構造への適用を想定している。その実機適用までのフェースは下記の通りである。
なお、表 10.3-1 および( )内の年度は、H15 年末における計画の予定時期であり、
今後各種事情により変更もあり得る。
フェーズ1:製造および品質保証技術の開発(∼H16)
本研究は研究期間が2年度だったため、設計技術と強度特性データの
取得のみを行い、製造技術に関しては当社が以前から所有している技術
をベ ースに行ってきた。しかしながら、実用化のためには、大型の部
品を高精度に安定して生産できる製造技術の開発と、製造した製品の品
質を保証する検査技術の開発が必要である。また、実機製造のための、
生産設備の導入も製造技術の開発に合わせて行う必要がある。
フェーズ2:設計・製造のためのデータ整備(H16∼17)
開発した摩擦撹拌接合を用いた構造は、リベットを用いた従来構造と
は異なるため、設計に使用する強度計算の継手強度の許容値や、各種設
計計算書のもとになる技術データの取得が必要がある。さらに、部分構
造の設計を行い、部分構造での成立性を確認する。また、製造分野にお
いても、製造プロセスの承認を得るため、プロセスの安定性を証明する
試験やプロセス管理上のパラメータを決定するため試験を行い、製造工
程を凍結する必要がある。
フェーズ3:試作機試作/全機構造試験、飛行試験(H18∼19)
試作機を設計・試作を行い、その機体を用いて地上での構造試験を行
うとともに、地上での安全性が証明された時点で飛行試験を行い、開発
した技術、機体の成立性を確認し、必要に応じて設計変更を行う。
フェーズ4:量産化(H20以降)
表10.3-1 環境適用型高性能小型航空機の開発スケジュール
年度
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
FOCUS21 期間
▽中間評価
▽交付先決定
主要マイルストーン
▽T/C申請
ロールアウト▽
▽組立開始
▽機体構想 ▽基本仕様
▽初飛行
機体トレードオフ・スタディ等
構想図
計画図
開発の流れ
製造図
1号機製作・地上試験
確認試験等
新技術実用化
10.3.4
飛行試験等
▽T/C取得
▽納入
(e)実用化へ向けてのシナリオ
i) 実用化へ向けての課題
エアラインが運行する民間航空機の主構造に溶接構造を適用した実績は
なく、航空機の型式証明等を取得するには、新構造を用いた航空機の飛行
安全性と製造技術の安定性を証明する必要があり、多くの試験が必要であ
る。また、製造された航空機がエアラインにとって、運行しやすい機体で
ある必要があるため、軽量化(燃費向上)に加えて、耐食性の向上や点検
間隔の拡大等を計り、メンテナンスの行いやすい機体とする必要もある。
ii) 産業界における具体的利用のシナリオ
環境適用型高性能小型航空機の開発プロジェクトでの開発を通じて、開
発した技術の実用化技術の開発と実証を行い、小型民間機(リージョナル
ジェット機)の商業化で利用する。
それに引き続き、今後開発が予想される次世代の民間ジェット機の開発
やリニアモータカーへの適用を行い、開発した技術を利用する。
iii) 実用化までの実現可能性・迅速性、市場ニーズとの関係
環境適用型高性能小型航空機の開発プロジェクトを利用して、開発した
技術の実用化に向けた開発を継続する予定である。開発した技術を利用す
れば、製造コストの削減や生産性の大幅な拡大が計れ、構造重量の軽量化
を計れるため、トータルライフコストの削減の要求が強い小型民間機の分
野での市場ニーズに合致しているものと考えられる。
iv) 事業化への見通し
環境適用型高性能小型航空機の開発プロジェクトの中で、フェーズ3ま
での研究開発を進める予定であり、開発の過程において、開発した技術に
致命的な技術的な問題が生じるか、適用がもたらす軽量化、低コスト化の
効果が見出せない限りは、実用化に向けた開発を行い、事業化できるもの
と考えている。
10.3.5
(2)高信頼性効率的構造技術(高信頼性長期寿命予測法)
①金沢工業大学再委託研究
短時間の加速試験データと時間温度換算則によって一定振幅繰り返し荷重負
荷に対する S-N カーブを求め、長期寿命を予測する法は PAN 系炭素繊維/エポ
キシ樹脂複合材料に対して有効であり、航空機に限らず種々の複合材構造物の
寿命予測に活用できる。特に次の寿命予測については実用化の段階に達した。
・ クリープ寿命
・ 一定繰返し与圧荷重がかかる航空機与圧胴体構造の寿命予測
・ 季節(数ヶ月)ごとあるいは年ごとの非常に長い周期で荷重が変化する
建築物、橋梁等の長期寿命(百年あるいはそれ以上)の予測
・ 一定引張荷重が長期にわたって働くフライホイールの耐久寿命予測
・ 海水に長期間晒される船舶艇体の吸水による強度劣化予測
また、複合材料に異物が当たってできる衝撃損傷に繰返し荷重がかかると層
間剥離が拡大して残存強度が低下する。特に圧縮荷重がかかる場合急激な強度
低下があることを明確にした。この劣化現象を Post Impact Fatigue (PIF)と
して、実構造に対する損傷許容性設計手法の一つに位置付けた。
②JAXA 再委託研究
縫合等を適用した新成形複合材料特有の強度発現メカニズムを探求する評価
試験法を確立し、主翼構造に使用した複合材料の縫合効果につき評価した。こ
の評価方法を実用化するため、孔付き圧縮(OHC)試験法を JIS 標準試験法と
して提案している。
10.3.6
Fly UP