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トンボ研究家刀根さんに聞く

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トンボ研究家刀根さんに聞く
トンボ研究家
刀根さんに聞く
今年の夏、世間ではモンスターを捕まえる無料ゲームアプリが爆発的な人気とな
り、スマートフォンを片手にまちなかを歩き回った、という人も多かったかもし
れません。モンスターを捕まえるのももちろん楽しいのですが、ちょっと足元を
見てみてください。小さな虫たちが見つかると思います。
9月はまだまだ残暑厳しい季節ですが、少しずつ秋へ近づく季節でもあります。
虫たちの世界でも、だんだんと成長した秋の虫たちの動きが活発になってきます。
一見ちっぽけに見える虫たちも、実はすごい能力を持っていたり、私たちに色々
■刀根定良(とねさだよし)さん
なことを教えてくれたりします。
今回は、そんな虫の世界に魅了され、地域の子どもたちに自然の大切さを伝え続
けている松阪市猟師町のトンボ研究家 刀根定良さんにお話を聞きました。
環境省から委嘱を受けて希少野生動植物種保
存推進員として普及活動や生息状況調査など
を行うほか、地域の小学校などで自然観察会
などを行っている。
さまざまな能力を持ったムシたち
― 最初に向かったのは松阪市小阿坂町にある
原っぱです。ここでは種類の違うバッタに出
会いました。
刀根さん)ショウリョウバッタなどのバッタの仲間はイ
ネ科の植物を食べて暮らしています。体が草と同じ緑色
なのは、他の動物に食べられないようにするためで、元
から草と同じ色だったわけではありません。コオロギも
▲コオロギはこんな枯れ草などの下に潜んでいる
そうです。コオロギは落ち葉や木の枝などの下に身を隠
しています。そのため同じような茶褐色をしているので
す。このように他の物の色や形に自分の姿を似せること
を擬態(ぎたい)といいます。外敵から身を守るため
に、長い年月をかけてこうした能力を身につけていった
のです。
▲ショウリョウバッタ。色、頭のカタチまで草にそっくり
― 続いてやってきた鈴の森公園(松阪市外五曲町)では、たくさんのトンボが空を飛んで
いました。
刀根さん)ウスバキトンボもシオカラトンボも全国的によく
みられる種類のトンボです。ウスバキトンボは春になると九
州から本土へ移動してきます。長い距離を飛ぶために体は軽
く、羽はグライダーのようになっています。一方、水辺を好
むシオカラトンボの羽は細く、早く飛ぶための形状をしてい
ます。このように、同じ種類のトンボでもよく見ると色々な
違いを発見することができます。
▲同じトンボでも住む世界が違うと姿も変わる
刀根が通れば草木も生えぬ
― 今では昆虫博士と呼ばれるまでになった刀根さん。きっかけはなにげない瞬間でした。
刀根さん)30歳ぐらいの頃でしょうか。その頃体調を
崩していた私は体の自然治癒力を高めるために意識的
に自然に触れるようにしていました。あるとき、外を
散歩していたらキトンボが飛んでいたのです。「こん
な綺麗なトンボもおるんやな」と、一瞬で魅了されま
した。それからは、まだ見ぬトンボを目指して全国各
地を駆け巡りました。行く先々で知り合いも増え、自
分が見ていないトンボを見せてもらったりすると闘争
心に火がつき、更に没頭しました。見たことのないト
ンボを採集していくうちに、いつのまにか「刀根が通
れば草木も生えぬ」(=トンボを捕まえにいってもす
でに刀根さんが捕まえてしまっている)と噂されるま
でに(笑)。そのくらい夢中だったんです。
▲刀根さんの自宅にはこれまでに集めた標本が所狭しと並ぶ
子どもたちに生きた学びを
̶ トンボ採集に全国各地を駆け巡った刀根さん。15年前に完成した松阪市の鈴の森公園の
整備にも環境の観点から関わりました。
刀根さん)僕がこういった活動を始めてから約25年が経ち
ました。最初の頃は市民活動でトンボ池を作ったり、木を植
えたり、間伐をしたり、それから海へ行ってゴミを拾った
り。でも、自然を残すってなかなか難しいですね。だから鈴
の森公園の整備に関わらせてもらったとき、自然の水辺を再
現することにしました。人工的な場所ではあるけれども、こ
こを基盤に生き物たちが戻ってくればそこからまた分散して
いくのではと考えたのです。15年経ちましたが、メダカや
トンボなどのさまざまな生き物がたくさん見られるようにな
りました。
̶ 現在は市内の保育園や小学校の子どもたちを中心に、虫を通して自然の大切さと命の尊さ
を伝えています。今後について聞きました。
刀根さん)子どもたちに教える上で僕が大切にしているのは五感(見る・聞く・におい・味・触れる)を使うこと。
まず五感を育てて、次に心の教育ですね。最近は知識が先に入ってしまっていて体験することが少なくなりました。
土台になるようなところができて初めて知識という種が育つのです。できればもっと多くの子どもたちに、特に小さ
い間にたくさんの経験をしてもらいたい。そのために、要望があれば色んな形で体験学習をやっていきたいと考えて
います。自然は人が作り出せるものではありません。だからこそ大切で尊いものです。命が輝く一瞬一瞬を大切にす
る気持ちが、子どもたちの心に根付いてくれたらと願っています。
●記事の内容は9月1日号の『ニュースMCTV』でも放送します。
( P118参照)
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