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論文 - 関東学生マーケティング大会2015

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論文 - 関東学生マーケティング大会2015
マイナス実感がもたらす惰性的購買の解消
~定番商品の戦略的消滅が再び愛を深める~
目次
① ―――はじめに
② ―――先行研究
③
1.
既存戦略と問題点
2.
マイナス実感の有効性について
3.
カテゴリーと対象ブランドの決定
4.
企業の決定
―――本研究
1. アイスクリーム業界現状分析
2. 商品への関与
3. 仮説設定
仮説:マイナス感情が高いほど、復活後の商品の購買意欲が高まる
4. 仮説検証、ならびに調査概要
5. 分析のまとめ
④
―――新規提案
1. 新規提案の概要:商品の大幅なリニューアルによるプロモーション
2. 提案プロモーションに対するロイヤルユーザーの反響別効果
3. 具体的な商品イメージ
4. PVSM 分析を用いたプロモーション期間の決定
5. 提案プロモーションのまとめと実施方法
⑤
―――結論と考察
⑥
―――参考文献
⑦
―――付録
村田沙穂
井上美智子
鈴木菜夢
渡辺光
村田班
1
① ―――はじめに
② ―――先行研究
恋人や夫婦の間で最も恐れられるのはマンネ
1.
リズムである。燃え上がる恋心は付き合いが長期
既存戦略と問題点
化するにつれて慣れとなり、隣にいることを当た
り前と感じるようになる。しばしばそれは「恋か
多くのマーケティングは、いかにロイヤルユー
ら愛に変わった」と表現されるのだが、やがてそ
ザーを獲得するかに重点を置き研究されてきた。
の愛も更なる年月を得ることで新鮮味のなさを
ジェームズ・L・ヘスケット(1998)は「ロイヤ
加速させていく。緊張などが続くと人間はその状
ルティの向上は顧客満足度の向上にダイレクト
態に慣れようとするため、新鮮味が失われていく
につながり、顧客価値が上がると顧客満足度も向
のは自然なことだ。しかし、マーケティングにお
上。その積み重ねが忠誠心となり顧客ロイヤルテ
いてはその自然の作用はあまり好ましくない。先
ィへとなる」とある。更にフレデリック・F・ラ
ほどのような流れを、ブランドに対する忠誠心で
イクヘルド『顧客ロイヤルティのマネジメント』
説明するとどうだろうか。自社のロイヤルユーザ
(1998)より、
「顧客ロイヤルティが 5%向上する
ーとなった消費者に対して、企業は自社を愛して
だけで、企業利益は 25%から 85%も増加する」
くれるユーザーの声を聞き、更なるロイヤルティ
と推定している。顧客ロイヤルティと顧客満足度
の向上に勤めることがユーザーをブランドスイ
は正の相関関係になり、これらを数値化しプロッ
ッチさせないことであるというのが今までの定
トすることで顧客の立ち位置や取るべき戦略な
石であり、これが自社商品を愛してくれるための
どを企業は立てていく。また田中(2008)では
ユーザー確保の必須法であった。しかし、従来ど
「ユーザーがブランドや企業にロイヤルティを
おりロイヤルティの高いユーザーの声に従い、満
感じている場合、消費者は自分の購入するブラン
足を積み重ね、自社の領域に留めておく手法は本
ドに購入以前に何らかの期待を持っており、そう
当に有効なのであろうか。ロイヤルユーザーと呼
した期待が満たされたとき感じる満足がロイヤ
ばれる人々は、果たしていつまで自社商品を心か
ルティにつながっている」とある。企業はこうし
ら愛してくれるのだろうか。恋心を企業への愛着
たロイヤルティ向上戦略によって消費者を獲得
とするならば、愛着はやがて当たり前に変わり、
し、収益を上げることを第一としてきた。こうし
当たり前は惰性に変化する。ロイヤルティの高い
たロイヤルティ向上戦略で獲得したユーザーに
ユーザーの購買行動はやがて習慣的購買行動と
対し、次に企業が打つべきは「どのような方法を
なり、惰性的な購買行動に変化する。いつまでも
とれば消費者に長くロイヤルティを持ち続けさ
ロイヤルユーザーのままではでいてくれないの
せることができるか」という戦略である。
だ。本研究では従来のロイヤルユーザー戦略への
ロイヤルティの高いユーザーを継続し続ける
問題点を指摘した上で、新しいロイヤルティ形成
方法としては具体的な例として、ポイントカード
について提案していく。また、本研究ではマーケ
制度が一般的な例としてあげられる。ポイントカ
ティング応用への可能性を重視し、実際の企業が
ード制度には、カードを作成し自社店舗などでの
どのように戦略を立てていくかについての知見
繰り返し購買を促すことによって自社商品を使
も提供する。
い続けてもらう狙いがある。また、カードを繰り
2
返し使用することでその消費者の購入商品や金
て、ある程度ロイヤルティの高いユーザーに対し
額、更には場所や日時などの、マーケティングに
既存の戦略をとることは本当に有効なのだろう
応用出来るデータの収集も容易に行うことがで
か。
きる。このようなポイントカード制度はその店だ
2.
けでのみ使用できる旧来のものにとどまらず、
マイナス実感の有効性について
TSUTAYA の T ポイントカードのような提携す
る店であれば飲食や服飾などジャンルを超越し
解決すべき点は、そのユーザーのロイヤルティ
た様々な業界のブランドで同一のポイントを貯
が惰性に変わってしまうことである。企業の血の
めることができるようになるなど、巨大なグルー
にじむ努力により消費者との間にロイヤルティ
プを組織するようになっている。そのような背景
形成され、多くの類似品から自社を選び購入した
もあり、飲食や服飾などあらゆる業界のブランド
というプロセスから、
「いつも買っているからこ
に流通している。繰り返し足を運ぶような店から、
れでいい」という習慣的購買、惰性的購買へと変
一度きりしか行ったことのない店までもポイン
化することは避けては通れない。消費者が自社製
トカードの作成を促されるためポイントカード
品を愛し続けてくれる期間はそう長くは続かず、
のおかげで財布がパンパン、などという声は主婦
いずれその製品の従来の良さを感じにくくなっ
を中心によくある話だ。ポイントカード制が再来
ていく。そして何かのきっかけで他社へブランド
店および継続意向を高めることにおいて一定の
スイッチした際に自社へと戻って来ず、ユーザー
効果を発揮している。またカード作成時の会員登
の大きな損失となってしまう。菅野(2013)で
録などの消費者の情報から、DM やスマートフォ
は、最初はそのブランドに感情的な思い入れを持
ンのアプリケーションによるプッシュ通知など
って購買していたにも関わらず反復購買をする
での情報提供などを比較的容易に行うことがで
うちに、そのブランドに対する思い入れが低下し、
きている。
次第にその反復購買が習慣的購買となりブラン
もうひとつの例としては、期間限定商品や味の
ドに対する関心を失ってしまい、真のロイヤルテ
リニューアルなどによる、消費者の「飽き」を回
ィが築かれたとしても永続的に続くとは限らな
避する方法である。商品のパッケージや味、プロ
いとある。和田(1998) は、製品の機能・品質を
モーション方法などの変更によって少しずつ手
中心として築かれたブランド・ロイヤルティによ
を加えることで、消費者の注意を引き「飽き」を
る消費行動は、やがてルーティン化された消費行
感じさせないようにする戦略がとられている。期
動となり、次第に消費や購買そのものの飽きや、
間限定と銘打った製品を展開させるなどの方法
製品やブランドへの関与度を下げてしまうとい
もよく見られる。上記のように、各ブランド・企
う危険性をはらむことを指摘している。従来の戦
業は「消費者の飽き」の解消のために様々な努力
略としては継続購買をただ促すものや、カップヌ
を続けており、知名度の高い商品ほど「顧客を飽
ードルなどのように商品の味を少しずつ変える
きさせないプロモーションや製品作り」が重要と
戦略などがある。またかつてコカ・コーラが「ニ
なっている。ここで私たちが今回設定した「ロイ
ュー・コーク」として味を大幅に変えた戦略、レ
ヤルユーザーが惰性的ではなく、意思を持って商
ンジブランドの、ブランドのかさの中での浮気戦
品の購入・選択を継続させる」という課題につい
略など、これら従来どおりの多少の新鮮味を与え
3
続けているだけではロイヤルティの維持には繋
評価、そしてロイヤルティの向上にも関係してい
がらない。既存の戦略だけでは離れていったユー
るとある。顧客の期待以上の製品パフォーマンス
ザーを取り戻すことはなかなか難しい。そこで本
を提供しポジティブな感情を形成することが再
研究では、ロイヤルユーザーの惰性化した購買行
購買意向の向上や、ブランド・企業・商品へのロ
動の意識を変革させるために、商品に大幅な変更
イヤルティの形成にもつながる。企業は消費者と
を加えることでロイヤルユーザーにマイナス実
のロイヤルティをいかに形成していくかに必死
感をさせることを目的とする。
になっている。従来はこの通りの戦略の立て方で
マイナス実感の既存戦略としてあげられるの
有効な結果が得られたかもしれないが、本研究で
は「雪国もやし」の例だ。通常 40 円前後で売ら
はこの考え方に異を唱える形で考察・提案してい
れるもやしを 58 円という少々高めの価格設定な
く。
がら、
「もやしなのに高いぞ!買うな!」という
L・フェスティンガー(1957)による認知的不
「もやしなのに高価格」のマイナス要素をあえて
協和の理論の面から述べると、手に取った・試し
前面に押し出すことにより消費者の注意を引く
た商品がユーザーの形成した評価基準を下回っ
目的があった。この強いメッセージとキャッチー
たと感じたときある程度のロイヤルティを感じ
な CM により「もやしといえば『雪国もやし』」
ていた企業・ブランドの商品ならば「この企業・
というイメージを植えつけることに成功してい
ブランドの商品なのだから、自分が分らないだけ
る。類似した事例として「キューサイの青汁」に
で良い物のはずだ」という「ブランド・企業の肯
おける『う~ん、まずい!もういっぱい!』の
定」による不協和の解消。更に「昔のあの企業・
CM もあげられる。このような「企業や商品にと
ブランドは良かったのに」という「過去経験して
って不利に思われる要素」をあえてプロモーショ
いる企業・ブランドの良さの再確認」による不協
ンに盛り込む戦略は消費者の注意を引くのに有
和の解消が起こるのではないかと私たちは考え
効な手段とされている。これらのネガティブなア
る。本研究でターゲットとしている“真のロイヤ
プローチは広告や CM などにマイナスなメッセ
ルユーザーからみせかけのロイヤルユーザーに
ージを大々的に打ち出すことで成功した事例で
なってしまった人々”に対しては、形成された期
ある。しかし今回私たちは、商品そのものに消費
待水準を一度下回り、ロイヤルティを持っている
者自身の「マイナス感情」を感じさせる戦略を提
商品へマイナスの感情を抱くことが“真のロイヤ
案する。これは企業が消費者にネガティブアプロ
ルユーザー”への帰還に有効ではないかと考える。
ーチとしてマイナスなメッセージを送るのでは
つまりある程度期待された商品に対して実際に
なく、消費者が企業や商品に対してマイナスな感
購買・使用した場合、商品の使用感が形成されて
情を抱くことである。これは Oliver(1980)に
いた期待水準より下回ることにより、そこで感じ
よって提唱された期待不一致モデルにおける、
るブランドイメージの低下や商品への不満と言
「正の不一致」に類似している。期待不一致モデ
ったマイナスの感情が“昔(購買した商品より前
ルは本来、消費者の満足度を高めるためのモデル
に購買したことのある同社の商品)は良かったの
である。Oliver(1980)によると、期待の不一致
に”という意識を消費者に感じさせることができ
が直接的に満足に影響を与えるとあり、高い満足
るのではないだろうか。商品のマイナス実感によ
を得ればブランドの評価も上がり製品に対する
り、過去商品への意識の再確認ができるのである。
4
そして、その一連の思考こそが失ってしまったロ
適であるとし、ハーゲンダッツの商品を例に推察
イヤルティの再確認へとつながると私たちは考
を進めていく。
える。
今回は自社商品の従来のやり方とは違うリニ
③ ―――本研究
ューアルの展開の方法と、そこから発生するマイ
ナス感情の有効性について述べていく。更にマー
1.
ケティングへの実践可能性を重視し、具体的な商
アイスクリーム業界現状分析
品を例に言及していく。
現在アイスクリーム業界の現状として、一般
3.
カテゴリーと対象ブランドの決定
社団法人日本アイスクリーム業界
(http://www.icecream.or.jp/index.html
10 月
マイナス感情の実感が惰性的購買に有効であ
19 日確認)によると、アイスクリームの購入金
るとしたが、惰性的なロイヤルティになりやすい
額は年間を通して 7 月と 8 月が最も多く、2008
財は非耐久財と半耐久財である。なぜならば食品
年から 2012 年まで年間の購入金額の合計もあま
や日用品、衣服のように日常的に購買する財は、
り変わっていないことが分かる。
(表 1)7 月と 8
繰り返し購買をしていくうちに、購買自体が習慣
月の夏季シーズンは気温の変化によってそれぞ
的なものとなり、ロイヤルティの低下につながり
れの年で多少の売上の変化はあるものの、年間を
やすい。すると、はじめは確かなロイヤルティを
通して安定的に購入されていることが読み取れ
持って購買していたものがいつの間にか習慣的
る。このことからアイスクリーム業界は成熟した
購買になり、やがて惰性的な購買行動へと変化し
業界といってよい。業界の大きな成長がない代わ
ていってしまう。その中でも今回は繰り返し購入
りに、企業間で消費者のシェアを奪い合う競争状
しやすく、かつ商品に対する変更が比較的容易で
態が絶えないが考えられる。
あることから研究の対象を食品業界とし、その中
■表―――1
でも家庭用アイスクリームを財として選択する。
1 世帯あたりアイスクリーム支出金額
4.
企業の決定
(一般社団法人日本アイスクリーム協会
http://www.icecream.or.jp/data/04/statistics05.
html より引用)
本研究では、研究対象の業界をアイスクリーム
業界とする。その中でも「ハーゲンダッツジャパ
ン」に焦点を当てていく。これは、ハーゲンダッ
ツジャパン(以下、ハーゲンダッツと表記)はア
イスという低関与の財でありながら高級感があ
り、他企業に比べある程度のロイヤルティを獲得
しているからである。ハーゲンダッツのロイヤル
ユーザーはある決まった商品を繰り返し購買し
ていると考えられる。以上の知見から本研究に最
5
また同アイスクリームプレス株式会社によると、
2013 年上半期の大手アイスクリームメーカーの
販売実績は以下のようになっている。森永製菓は
定番商品である「チョコモナカジャンボ」
「バニ
ラモナカジャンボ」シリーズが前年比に比べ大増
幅したことで高い結果を残すこととなった。フタ
バ食品は大手 CVS とのプライベートブランド商
品への取り組みが販促要因となっている。
■表―――3
2013 年上半期メーカー別の売上数
(アイスクリームプレス株式会社
http://icecreampress.co.jp/?p=251
より引用)
■表―――2
2010 年以降の第 2 四半半期販売金額推定値
(アイスクリームプレス株式会社
http://icecreampress.co.jp/?p=255 より引用
更に現在のアイスクリーム業界の動向として
2013 年 10 月 19 日確認)
従来からの命題である消費層の拡大だけでなく、
高付加価値商品の定着を図ろうとする動きが見
られる。大手 CVS のローソンから「ドトール
フ
ローズン・カフェ・オレ」
(森永製菓)
「マウント
レーニア・カフェ・ラッペ」
(森永製菓)が発売
され、新しい氷菓のカテゴリー創造に乗り出して
いる。例年より厳しい猛暑の中で各企業が確実な
成長を見せている中、ハーゲンダッツは販売実績
107%という結果になっている。アイスクリーム
6
プレス株式会社
ユーザーを安定的に確保できる商品でもある。ハ
(http://icecreampress.co.jp/?p=217 20 13 年 10
ーゲンダッツバニラもその例に漏れず、1961 年
月 19 日確認)によると、定番商品であるミニカ
にニューヨークで誕生して以来の主力定番商品
ップの機関 6 品(バニラ、ストロベリー、グリー
だ。しかし定番商品はどのような財にも関係なく
ンティ、クッキー&クリーム、マカデミアナッツ、
「飽き」という問題を抱えている。田中(2008)
チョコレートブラウニー)は好調な伸びを見せて
によると強いロイヤルティを持った顧客層を持
いる。また今シーズン発売のミニカップ新製品は
つことは、より強いブランドの基盤となるとあり、
すべて好調に推移。アイスクリームバーの「キャ
更にロイヤルティによって顧客は①「非顧客」②
ラメルマカデミナナッツ」
「トリプルチョコレー
「価格ロイヤル」
(価格に敏感)③「消極ロイヤ
トクッキー」は純増、クリスピーサンド、クレー
ル」(習慣で買う)④「複数ロイヤル」
(2 つ以上の
プグラッセも堅調な動きで全体を引き上げたと
ブランドにロイヤル)⑤「積極ロイヤル」
(積極
ある。アイスクリーム業界全体として定番商品は
的に繰り返し購買する)の 5 つの階層に分けられ
自社の主力商品として根強い人気を保っている
るとある。定番商品に対する顧客は主に、③「消
ことが分かる。ハーゲンダッツも例外ではなく、
極ロイヤル」⑤「積極ロイヤル」の 2 つの階層の
毎シーズンの新商品とともに定番のカップ商品
顧客が存在すると考えられる。その中でも⑤「積
もロイヤルティの高いユーザーを保持している
極ロイヤル」でいてくれる期間は前述に述べたよ
といえる。このような人気定番商品であり、ロイ
うに永続的ではなく繰り返し購買すればするほ
ヤルティの高い商品を数多く持つハーゲンダッ
ど定番商品に対してのロイヤルティが下がって
ツのロイヤルティはどのようになっているのだ
いく。つまり、定番商品には真のロイヤルユーザ
ろうか。
ーである⑤「積極ロイヤル」の顧客層は一握りし
か存在せず、みせかけのロイヤルユーザーである
2.
定番商品への関与
③「消極ロイヤル」の顧客層がほとんどを占めて
いることになる。定番商品ほど、惰性的な購買を
アイスクリーム業界の現状について触れたが、
されていると言える。花形・もしくは金のなる木
ここからはハーゲンダッツの定番商品(=ロイヤ
だと思われてきた定番商品は、実は惰性的な購買
ルティの高い商品)への関与について述べていく。
をされ、ブランドスイッチされやすい危うさ持っ
先ほども触れたようにハーゲンダッツの主力商
た商品だと考えられる。
品は毎シーズン展開される新商品と、定番商品で
ここで変わらない魅力を提供してきた定番商
あるミニカップがある。その中でも創業以来長い
品がある日突然流行に乗った商品へと変化した
歴史をもつロングセラー商品であるバニラ味の
とき、みせかけのロイヤルユーザーであろうと真
関与はどのようになっているのだろうか。一般的
のロイヤルユーザーであろうと、長らく商品を愛
に定番商品はブランド・企業の顔であり、変わら
してくれたロイヤルユーザーはどのような反応
ず存在し続け流行やシーズンに左右されず、年間
を示すだろうか。恐らく大半のロイヤルユーザー
を通して安定した売上げを出すことができる。同
は驚き、そして一度はその商品を試してみるだろ
時に定番商品には長年その商品を愛してきたユ
う。しかし、今まで愛用してきた商品との違いに
ーザーが多く存在しており、ロイヤルティの高い
動揺し、人によっては落胆を味わう。その商品を
7
3.
高評価するロイヤルユーザーも存在するだろう
仮説
が、いつもの味に慣れ親しんだ者としては、今ま
で信頼し普遍的に存在するだろうという安心感
定番商品への関与の項でも述べたとおり、今ま
が突然失われたことで、焦りや危機感を感じる。
で信頼し、ロイヤルティを感じていた商品の購入
いつまでも変わらない、という保障がないと気が
機会を突然失わせることによって、惰性的に購買
ついたロイヤルユーザーが感じることは「あの商
していた商品に対して再び意識を向け、注目させ
品はやっぱり良かった」という定番商品への評価
る契機とすることができる。ただし、ロイヤルテ
の再認識ではないだろうか。
ィの高い定番商品をいきなり廃盤にすることは
現実的ではない。
Dick & Basu (1994)では、態度的ロイヤルテ
そこで、ある期間ロイヤルティの高い商品に何
らかの変更を加え期間限定品とする(具体的なプ
ィと行動的ロイヤルティの両方の観点を同時に
ロモーションは後述で述べるが、消費者に対して
取り入れて顧客ロイヤルティを概念化するため
は「期間限定」とは告知しない。またこの間、ロ
に両観点を組み合わせる枠組みを作成し、顧客ロ
イヤルティのある従来の商品自体は販売しない)
イヤルティと態度的ロイヤルティの組み合わせ
ことで、この惰性的な傾向を打破することを目指
により、表のようにロイヤルティを分類すること
そうというものである。
ができるとある。同書では更に、反復購買行動と
この期間限定品のみ購入できる期間に、ロイヤ
いう行動的観点から捉えたものを反復的愛顧と
ルユーザーは必然的に従来の商品の良さを思い
し、他の対象(サービスやブランド、店舗、販売
出し、再認識することになる。ここで今一度今回
員など)の比較で好むという態度的観点から捉え
の研究対象となるユーザーについて確認をして
たものを相対的態度としている。
おきたい。
■表―――4
顧客ロイヤルティと態度-行動間の関係(出所:Dick & Basu (1994) , 朴(2007) )
著者作図
8
今回の研究対象である「見せかけのロイヤルテ
るためにとるべき行動~』
(2012)では、プロダ
ィ」は、商品に対して反復購買(行動的ロイヤル
クトライフサイクルの衰退期から撤退に至る過
ティ)は高いが、好ましい感情(態度的ロイヤル
程で、
「この製品は販売が終わる」ことを明示的
ティ)が欠けているまま購買を繰り返しているこ
に行うクロージングを実施することで製品リバ
とが分かる。この「見せかけのロイヤルティ」を
イバルの有効性が高まる可能性を指摘している。
持つユーザーに対して、
「態度的ロイヤルティの
このことから、
「旧製品の販売停止」をユーザー
低いまま反復購買をしているロイヤルティ」から、
の大々的に明示することによって商品に対する
「態度的ロイヤルティも高く、反復購買をしてい
再認識を促すことができる。更にその後、新商品
るロイヤルティ」へと戻ってもらうことが今回の
から旧商品への復活をすることによって旧商品
研究の大きな目的である。更に本研究では「見せ
に対するロイヤルティの向上を図ることが可能
かけのロイヤルティ」を「真のロイヤルティ」へ
である。
格上げするのではなく、
「真のロイヤルティ」か
ら「見せかけのロイヤルティ」へ変わってしまっ
以上の知見から以下の仮説を設定する。
たものを再び「真のロイヤルティ」へ戻すことを
研究内容としていることを再度認しておきたい。
仮説:マイナス感情が高いほど、復活
本研究の対象者であるユーザーについて言
後の商品への購買意欲が高まる
及・確認したが、
「見せかけのロイヤルティ」を
持つユーザーに対し、企業側として今後とるべき
戦略として「マイナス要素を実感させること(=
復活後の商品に対する購買意欲が高まることは
以下マイナス実感と表記)
」を提案する。マイナ
つまり、ユーザーが旧商品への認識を改めたとい
ス実感の有効性については前述で述べたとおり
うことである。態度的ロイヤルティの低い惰性の
であるが、具体的に企業がとるべき戦略を以下言
購買をしているユーザーに対し、マイナス感情を
及していく。
抱かせることで再びロイヤルティが高い購買へ
マイナス実感とは「商品のマイナス実感による
意識を変えさせるきっかけを与えることができ
過去商品への意識の再確認である」と前述で述べ
る。
た。企業がユーザーに「マイナス実感」をさせる
4.
為にとるべき戦略として、
「ロイヤルティの高い
仮説検証、ならびに調査概要
商品の変更による旧商品一時販売停止」を提案す
る。これはマイナス実感を「広告」や「キャッチ
仮説を検証するために、以下の調査を行った。
コピー」などによる宣伝文句として商品イメージ
を抱かせるのではなく、
「商品自体」にマイナス
<調査概要>
感情を抱くことを重視しているためである。商品
■表―――5
の販売停止について昨年の関東学生マーケティ
ング大会で提唱された多摩大学 豊田ゼミナール
調査内容図
柳原班の研究『製品撤退時におけるクロージング
プロモーションの有効性 ~再び消費者に愛され
9
Q5 『この期間限定商品が売られている間、
「バ
ニラ味」が買えないことに、あなたはどれくらい
がっかりすると思いますか? どのぐらいがっか
りするか、値を選択してください。
』という質問
のがっかり度の推移を検証する。[3~0~-3]の範
囲で[3]へ行くほどがっかり度が低く、[-3]へ行く
ほどがっかり度合いが強いとする。こだわり度別
のがっかり度の平均の差を t 検定で分析する。
<調査概要>
■表―――6
t 検定によるこだわり度合いの差の検定
仮説:マイナス感情が高いほど、復活
後の商品の購買意欲が高まる
以上を検証することを目的として調査を行う。
まず前提として、この調査はハーゲンダッツのバ
ニラ味にロイヤルティを持っているユーザーに
<分析結果①>
聞く必要がある。そのため以下のような流れで今
t 検定による分析の結果、以上のような結果に
回の調査対象を絞っていく。
(アンケート内容は
なった。変数 1 を Q4 における「こだわりを持っ
付録に添付)Q1『アイスクリームの「ハーゲン
ているユーザー」とし、変数 2「こだわりを持っ
ダッツ」の「バニラ味」をご存知ですか?』とい
ていないユーザー」とする。有意水準は 5%と設
う質問に『知っている』と回答したもの、更に
定し、こだわりを持っているユーザーの方がマイ
Q2『この商品を食べたことはありますか?』と
ナス感情を抱きやすいことが分かった。
いう質問に『ある』と回答したものを有効回答と
する。そして Q3『この商品はどのくらい好きで
<調査②>
すか』に対し、[3]もしくは[2]をつけた物をロイ
更に仮説に対する検証を追加していく。前提と
ヤルユーザーとする。
して旧「ハーゲンダッツバニラ」の販売停止、およ
び「新バニラ」の販売をするというものである。
<調査①>
Q5『この期間限定商品が売られている間、
「バニ
仮説に対する検証として、Q4『ハーゲンダッツ
ラ味」が買えないことに、あなたはどれくらいが
を買うとき、他のアイスとはこだわりを持って購
っかりすると思いますか? どのぐらいがっかり
入していますか?』という質問に対し、
するか、値を選択してください。』の質問に対し、
[こだわりを持っている]と答えたユーザー
[3~1]:がっかりしないグループ
[こだわりを持っていない]と答えたユーザー
[0]:どちらでもないグループ
以上 2 つのユーザーに分類し、ユーザー別に
[-1~-3]:がっかりするグループ
10
以上の 3 つのグループにわける。
このグループ[3]
かりを感じるユーザー」の再購買意向は、左半分
へいくほどがっかりする度合いが低く、[-3]へい
の「がっかりしないユーザー」グループに対して
くほどがっかりする度合いが高いことを示して
高いことが分かる。つまりがっかりするグループ
いる。これら 3 つのグループごとに、Q7『再び
の方が、ロイヤルティの高い従来の商品が復活し
「バニラ味」が発売されたら以前より購買意欲が
た際に商品へのロイヤルティが高まることが分
高まると思いますか』および Q8『その「買いたい
かった。
「がっかりする」という「マイナス感情」
と思う」気持ちがどれくらい高まると思いますか』
が高いほど再購買意欲の割合が高いことを示し
という質問に対する数値を比較する。
ているため[仮説:マイナス感情が高いほど、復
活後の商品の購買意欲が高まる]は支持された。
■表―――7
更に左半分にあたる「がっかりしないユーザー」
のグループを見ても、
「がっかりを感じるユーザ
「コラボレーションバニラ味」に対するがっかり
ー」の再購買意向の度合いよりも大きく値が下が
度別に見た再購買意向
っていない。これはマイナス感情を抱かせるよう
なインプリケーションをした場合でも、
「がっか
りをしないユーザー」への悪影響はそれほど大き
く無く損失のリスクになる可能性が低いことを
示している。つまり、この分析からは元々対象と
していた「がっかりを感じるロイヤルユーザー」
に対し、
「バニラ味」を再発売した時に購買して
もらえる度合いが高いということが実証され、ま
た対象としていないユーザーに対してもそれほ
どの悪影響が出ないということがわかった。
<分析結果②>
表 6 はそれぞれおのがっかり度を選択したユー
ザー別に再購買意向の度合いの値を平均したも
のである。これを元に表 7 では O4 の質問で判別
を行ったこだわりの有無を加味し、二元配置分散
による分析を行った。表 7 では縦軸を Q5 におけ
るがっかり度合いとする。[3]へいくほど全くが
っかりせず、[-3]へいくほどとてもがっかりする
ものである。縦軸は Q8 の買いたいと思う気持ち
の度合いを[1]を最低、[5]を最高とし、こだわり
のあるユーザー別に 3 つのグループの平均の差
の分析をした。表 7 から、右半分にあたる「がっ
11
■表―――8
「コラボレーションバニラ味」に対するがっかり度別に見た再購買意向
5.
④ ―――新規提案
分析のまとめ
1. 新規提案の概要:商品の大幅なリニュー
アルによるプロモーション
仮説:マイナス感情が高いほど、復活
後の商品の購買意欲が高まる
商品の大幅な変化が、みせかけとなったロイヤ
ルユーザーの従来品への関与とロイヤルティの
向上に効果があるということが分かった。ここで
上記の内容に対し、アンケート調査による検証を
はより具体的なロイヤルティの再認識および向
おこなった。t 検定による検証では「こだわりを
上の戦略として実際のブランド・人物名を表記し
持っているユーザー」の方が「マイナス感情」を
ながら新規提案をしていく。本研究の考察から以
抱きやすいことが分かった。更に二元配置分散の
下のインプリケーションを提案する。
分析により、
「がっかりする」という「マイナス
ハーゲンダッツの主力商品であるハーゲンダ
感情」が高いほど商品が復活したときの再購買意
ッツバニラを、コラボレーションという形で味を
欲の割合が高いことが検証された。以上のことか
大幅に変更する。具体的にはパティシエの鎧塚俊
ら仮説は支持された。
彦氏によるハーゲンダッツバニラのリニューア
ルという形で旧バニラの販売を中止。コラボレー
12
3. 具体的な商品イメージ
ション商品をオリジナルバニラとして販売する。
(以下、従来のハーゲンダッツバニラを旧バニラ、
コラボレーション商品をオリジナルバニラと表
具体案としては、
「ハーゲンダッツ×鎧塚」と題
記する)
した『Vanilla
2. 提案プロモーションに対するロイヤル
■表―――9
feat. YOROIZUKA』を販売する。
ユーザーの反響別効果およびターゲッ
トの設定
ハーゲンダッツと鎧塚氏のコラボレーションイ
メージ図
この販売の方法による消費者の反応は二種類
(写真は
「ハーゲンダッツジャパン」
http://www.haagen-dazs.co.jp/
あると考えられる。まず一つ目は興味本位で商品
を手に取りオリジナルバニラを美味しいと感じ
「Toshi Yoroizuka」
る消費者であり、従来の新商品を投下した場合と
http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuk
同じ反応をする。もう 1 つの反応は従来のバニラ
a/
両 10 月 20 日確認
より引用)
味の方が美味しいと感じ、同時に従来の旧バニラ
が販売中止になってしまうことにマイナスな感
情を実感する。またハーゲンダッツは過去このよ
うに主力商品の味は大幅な変更をしたことが無
かったため、このような商品を販売することにユ
ーザーは疑問を感じる。私たちの提案は、後者で
ある旧バニラの方が良いと感じる消費者をター
ゲットとする。
オリジナルバニラを販売し、旧バニラが販売さ
れなくなるという期間(ある一定の期間)をあけ
従来のハーゲンダッツバニラを基盤にしながら
ることにより、がっかりするというマイナス実感
も鎧塚氏の作るスイーツ“らしさ”を加えたテイ
が起こる。そして旧バニラの味の美味しさを再び
ストと、鮮やかな色合いが特徴。
実感・認識することができ、旧バニラへのロイヤ
ルティの向上の可能性も見込むことができる。
■表―――10
商品イメージ図:カップ外装
(写真は
「ハーゲンダッツジャパン」
http://www.haagen-dazs.co.jp/
「Toshi
Yoroizuka」
http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuk
a/
13
両 10 月 20 日確認
より引用)
いる。
■表―――12
商品イメージ図:内容②横からの断面図(著者作
図)
従来のミニカップに鎧塚氏をパッケージにプリ
ントし、コラボレーション商品であることを分り
やすく示す。
■表―――11
鎧塚氏の特徴である果物をトッピングする。間
商品イメージ図:中身①正面から見た図
にラズベリー・洋ナシを挟み、従来のバニラとは
(写真は 「ハーゲンダッツジャパン」
大幅な違いをアピールしていく。
http://www.haagen-dazs.co.jp/
10 月 20 日確
4. PVSM 分析を用いたプロモーション期
認 より引用)
間の決定
ここまで新規提案の具体的内容を提案してき
たが、今回のインプリケーションではコラボレー
ション商品である「バニラ with ラズベリー味」
を市場に投下した後、元の商品の「バニラ味」の
販売を再開させることで惰性的になってしまっ
たロイヤルティを新商品投下以前よりも上げる
ことがこのインプリケーションの最大の目的で
ある。そのためにはコラボレーション商品を展開
する日数の設定が重要になってくる。最適期間を
バニラにラズベリーソースを加え、大人びたテイ
逃してしまえばこのインプリケーションでの効
ストに。バニラの間にもラズベリーのエッセンス
果が全くなくなってしまうからである。本研究で
が混ざり合い、見た目にも華やかな使用になって
は、コラボレーション商品を市場に投下し「バニ
14
ラ味」を再び販売する適切な期間を探るために
質問をすることにより、ユーザーが思う適切な期
PVSM(Period of validity Sensitivity
間を割り出す分析方法である。
Measurement)分析を用いた。この分析手法は昨
年の関東学生マーケティング大会で提唱された、
■表―――13
多摩大学 豊田ゼミナール 市川班の研究『るし躊
躇の解消による購買契機の創出~所有数自覚効
PSM 分析図(著者作図)
果と締め切り効果を活用した購買喚起プロモー
(参考
ションの提案~』(2012)にて用いられた新たな分
http://www.nsspirit-cashf.com/yougo/yougo_ps
析方法である。この研究に使用された PVSM 分
m.html
析を、最適期間の策定のために使用した。
そもそも PVSM 分析とは PSM(Price
Sensitivity Measurement)分析を元にした分析
方法である。PSM 分析では「①高い」
「②安い」
「③高すぎる」
「④安すぎる」という 4 つの項目
に対し、
「そう感じる価格はいくらか」という質
問をし、価格感度を分析する際に用いられる。そ
れを元に、PVSM 分析では「①短い」
「②長い」
「③短すぎる」
「④長すぎる」という 4 つの項目
に対し「そう感じる期間はどのくらいか」という
■表―――14
全回答者の最適価格
15
N’s spirit 投資額研究所
10 月 23 日確認)
■表―――15
上記の表 13 にて、各表の交点が期間設定の目安と
なる。コラボレーションバニラの発売期間におい
3 つの期間の定義
て、全回答者対象の PVSM の結果は、最適期間が
21 日、上限期間は 59 日(約 2 ヶ月)
、下限期間は
10 日(約 1 週間)であった。以上の分析を更にが
っかり度別に分析し、以下の表(表-16)にまとめ
た。
PVSM の結果は、がっかり度の高い[-3]のユーザ
ーは最適期間が 12 日と顕著な数字が出る結果とな
った。それに対し他の数値のユーザーの最適期間
はおおむね 2~3 週間程度であり、がっかり度が高
いほど最適期間が短いことが顕著であることが分
今回の調査では、付録に添付した通りアンケート
かった。本研究ではがっかり度の高いユーザーへ
Q6 の質問項目が実際に PVSM を起用したもので
焦点を当てたインプリケーションの提案であるた
ある。実際にインプリケーションに起用するため、
め、今回のインプリケーションの最適期間を 12 日
新規提案で用いたハーゲンダッツの例をそのまま
とする。また[-3]を選択したユーザーの妥協期間は
応用しシチュエーションを設定して調査を行った。
15 日であるため、販売期間は 12 日~15 日の期間
この質問により「上限期間」
「妥協期間」
「最適期
で調整することが可能であると考えられる。提案
間」
「下限期間」を導き出すことができる。これら
への具体的な活用として YOROIZUKA コラボレ
の PVSM 分析をアンケートの全対象者に対する分
ーションバニラを販売し、旧バニラの販売を再開
析と、アンケート Q5 のコラボレーション商品が市
するまでの期間を 12 日とする。
場に投下され「バニラ味」が買えない時のがっか
り度別に回答者を分けて PVSM 分析を行い、以下
の結果が得られた。
また、
分析には R 及び、R studio
を使って分析を行った。
■表―――16
がっかり度別の最適期間分析まとめ
16
5. 提案プロモーションのまとめと実施方法
⑤ 結論と考察
以上の提案のまとめとして、
本研究はロイヤルユーザーが時間経過やその他
・
「ハーゲンダッツ×鎧塚」と題した『Vanilla
feat.
の様々な要因からロイヤルユーザーになった当初
YOROIZUKA』を販売
に持っていた「商品に対する態度的なロイヤルテ
・オリジナルバニラの内容としては鎧塚氏の特徴
ィ」が低くなり惰性的な購買になってしまってい
である果物のトッピング。またバニラにラズベリ
る時、いかに商品に対する態度を変えさせるかに
ーソースを加え、旧バニラとは違うリニューアル
ついて「商品に対するマイナス実感」という方法
な商品であることをアピールする。
でロイヤルユーザーになった当初に持っていた商
・『Vanilla
feat. YOROIZUKA』の販売期間、及
品に対する真のロイヤルティの復活を目的とした
び旧バニラの販売停止から復活するまでの期間を
研究であった。アンケートによる調査の結果、こ
12 日~15 日の間とする。
だわりが強いユーザーほどロイヤルティの高い商
またこれらのプロモーションは商品に対し「がっ
品に変更が加えられることに対して「がっかりす
かりするユーザー」には「旧商品の復活によるロ
る」という「マイナス実感」をしやすく、更に「マ
イヤルティの向上」に繋がり、
「がっかりしないユ
イナス実感」の度合いが高いほど元々ロイヤルテ
ーザー」に対しても前述の仮説検証で示された通
ィを持っていた商品が再び販売されたときの購買
り悪影響は無くユーザー損失のリスクになる可能
意欲が高くなることが分かった。今回は一例とし
性は低い。
て、惰性的な購買になりやすい消費財の中でもア
イスクリーム業界のハーゲンダッツを使用したが、
■表―――17
同じような構図であれば他業界においても応用可
能性があることを示唆することができた。
新ハーゲンダッツバニラの広告画像例
ただし、変更した商品を旧商品に戻すときのプ
(写真は 「ハーゲンダッツジャパン」
ロモーションにおける施策についてはくわしく触
http://www.haagen-dazs.co.jp/
れまでにいたらず、復活した際の消費者の購買行
10 月 20 日確認
より引用)
動など心理的面からの考察についてもう少し踏み
込む必要があったと考えられる。今回の研究では
インプリケーションを提唱するにとどまり、消費
者の心理的な側面まで踏み込むことができなかっ
た。また PVSM 分析における各数値の回答者数に
ばらつきがあり、最適期間の策定においてやや不
安を残す結論となった。本インプリケーションは
短期間に何度も打ち出すことはできないという問
題点がある。ハーゲンダッツのように独自の孤高
な商品イメージが存在している主力ブランドの商
品に大幅な変更をしてしまうと、消費者は新鮮味
を感じるよりも今までの商品に対するロイヤルテ
17
ィの低下を実感する可能性がある。必要過多に手
形で進めてきた。今までのようなロイヤルティ向
を加えてしまうと、みせかけや真を問わずにロイ
上のための「プラス感情の積み重ね」や、「飽き」
ヤルユーザーを逃してしまうことにも繋がりかね
を感じさせないようにとられてきた保守的な戦略
ない。今後の課題として、消費者心理の方面へも
に対して、「マイナス実感」という新たな切り口
踏み込んだ研究を行い、どの段階で旧商品に戻れ
による企業への戦略を提案することができた。
「マ
ば最大限の効果を得られるのかを検証する必要が
イナス」を用いた戦略は今までなされてこなかっ
ある。
た研究であり、本研究は大いに意義のあるもので
本研究では、自社商品をいつまでも愛し続けて
あったといえる。
くれることのない現代特有の移り気な消費者に対
して、従来の「満足を与える戦略」に異を唱える
18
⑥ ―――参考文献

管野(2013):菅野佐織「自己とブランドの結びつきがブランド・アタッチメントに与える影響」
.

豊田(2004):豊田裕貴『
「もの選びへのこだわり」と「バラエティーシーキング」
』
.

高橋(2010):高橋広行『消費者行動とブランド論(2)』
.

中本(2001):中本晋輔『ペプシチェレンジとニュー・コーク』
.

橋本(2006):橋本正博『ブランドポートフォリオ戦略に関する一考察』
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
Oliver, Richard L. [1980], “A Cognitive Model of the
Antecedents and Consequence of
Satisfaction Decisions,” Journal of Marketing Research, Vol.17, No, 4(November), pp.460-469.

浅野(2010):浅野泰弘『アスリートと商品のイメージの一致が消費者の購買行動に与える影響』
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
竹内(2011):竹内愛(修士論文)『ファンの消費行動から見る日本アニメの海外発信について』
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
宇佐美 境(2006):宇佐美和歌子 境新一『広告によるマーケティングと消費心理に関する研究』
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田中(2008):田中洋『消費者行動論体系』中央経済社.

和田(1998):和田充夫『関係性マーケティングの構図』有斐閣.

「一般社団法人日本アイスクリーム業界」
(http://www.icecream.or.jp/index.html

「アイスクリームプレス株式会社」
(http://icecreampress.co.jp

「ハーゲンダッツジャパン」
(http://www.haagen-dazs.co.jp/

「Toshi Yoroizuka」
(http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuka/

Leon Feininger (1957) [1954]. A Theory of Cognitive Dissonance. California: Stanford University
10 月 19 日確認)
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2013 年 10 月 19 日確認).
2013 年 10 月 20 日確認)
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Press.

レクチャー「社会心理学」 2 認知的不協和理論 知のメタモルフォーゼ.

朴(2007):朴修賢『スイッチング障壁が顧客ロイヤルティと顧客満足意与える影響』.

Dick, A. S. & Basu, K. (1994) “Customer Loyalty: Toward an integrated Conceptual Framework”
Journal of Academy of Marketing Science 22 (2), pp.99~113.

市川直美・北村みかこ・木林沙友里・志村美栄 (2012) 『るし躊躇の解消による購買契機の創出~所
有数自覚効果と締め切り効果を活用した購買喚起プロモーションの提案~』.

川元早樹・永田優季・柳原美穂・山縣雄樹(2012) 『~製品撤退時におけるクロージングプロモーショ
ンの有効性~
~再び消費者に愛される為にとるべき行動~』.
19
⑦ ―――付録
アンケート内容の掲載(アンケート URL:
https://docs.google.com/forms/d/17U1aXlIBEwowrFCAENA0MjOxVsqTaWfzWfG1eFbswtM/viewform
)(A)
20
(B)
21
(C)旧商品再発売時の購買意向の平均値
(D)購買意向の平均値と標準誤差
(I)PVSM によるがっかり度合いが 1 と回答した
(E)ハーゲンダッツバニラの認知度
郡
(F)ハーゲンダッツバニラを食べたことのあるユ
ーザーと食べたことの無いユーザー数
(G)PVSM によるがっかり度合いが 3 と回答し
た郡
(H)PVSM によるがっかり度合いが 2 と回答し
た郡
22
(J)PVSM によるがっかり度合いが 0 と回答した
(L)PVSM によるがっかり度合いが-2 と回答し
郡
た郡
(K)PVSM によるがっかり度合いが-1 と回答し
た郡
(M)PVSM によるがっかり度合いが-3 と回答し
た郡
23
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