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戦略的創造研究推進事業 シーズから新しい潮流へ — そして

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戦略的創造研究推進事業 シーズから新しい潮流へ — そして
シーズから新しい潮 流へ — そしてイノベーションへ —
戦略的創造研究推進事業
2015
2016
社会・経済の変革につながる
イノベーション
1
Exploratory Research for Advanced Technology
Contents
03
ERATOのあゆみ
04
ERATOの理念
05
ERATOの運営
07
TOPICS
09
進行中プロジェクト
21
終了プロジェクト
41
研究実施場所 所在地
43
ERATO 研究プロジェクト 索引
2
Histor y
ERATOのあゆみ
戦略的創造研究推進事業は、国の重要な科学技術分野において、
戦略目標の達成に向けた世界トップ 水準の基礎研究を
強 力に 推 進することで、科 学 技 術 の 新しい 潮 流を形 成し、
新 技 術 の 創 出に 資するシーズをつくろうとするものである。
自らの進路を切り開くため、
Broadening one’s horizons.
国際社会に対する貢献を行うため、
M a k i n g c o n t rib u t io ns t o in t e r n a t io n a l s o cie t y.
創 造 科 学 技 術 推 進 事 業 が 発 足しました 。
Pr o m o t i n g inn ova t io ns in s cie n c e a n d t e c hn o l o g y.
国立研究開発法人 科学技術振興機構( Japan Science and Technology Agency : JST)は、我が国に
おける科学技術基本計画の中核的実施機関として、平成15年10月1日に新たなスタートを切りました。JST
は、技術シーズの創出を目指した、基礎研究から企業化までの一貫した研究開発の推進、科学技術情報の流
通促進など科学技術の振興基盤の整備を総合的に行い、わが国の科学技術の振興を図ることを使命として
事業を進めています。
昭和56年(当時 新技術開発事業団)に発足した創造科学技術推進事業では、
これまでに124の研究プ
ロジェクトを運営してまいりましたが、第2期科学技術基本計画や総合科学技術会議の推進戦略など、新し
い時代の要請を踏まえ発展的に解消し、国の戦略目標の達成に向けた基礎研究の担い手として、平成14
年(当時 科学技術振興事業団)
より戦略的創造研究推進事業ERATO型研究が発足し、現在20の研究プロ
ジェクトが研究を実施しております。
創造科学技術推進事業の先導的な研究システムに対する国内外の評価は高く、このため、戦略的創
造研究推進事業ERATO型研究は、
( 1)人中心の研究体制(2)均一思考の排除とヘテロな研究者集団
(3)弾力性(4)流動性、
という旧創造科学技術推進事業の特徴と精神を引き継ぎ、研究を推進するものです。
今後とも、優れた人材や組織との有機的な結合が事業推進の要とわきまえて活動してまいります。
3
Mission statement of ER ATO
ERATO の 理念
「人の可能性」に賭けたい。
ERATO のそんな思いが、日本の研究システムを変えてきた。
高い能力と大きな可能性をもった研究者が、雑事や既存障壁にとらわれることなく、
挑 戦したい 研究テーマに自由に没 頭できる体制を構築する。
ER ATOは、新しい科 学技 術の源流の創出のためのバックアップを行なってきました 。
組織にとらわれない
研究を中心的に推進する
L
E
総
括
A
D
E
R
R
E
拠
点
研究に専念
S
E
A
R
横断的に結集する
C
H
分野融合
M
E
M B
ス
タ
ッ
E
R
フ
環境整備
新しい科学技術の源流
社会•経済の変革をもたらす科学技術イノベーションの創出
ERATOの研究プロジェクトは、卓越したリーダーの元、
独 創 性に富んだ 課 題 達 成 型基 礎 研究を推 進します。
「人」中心の研究システム
ER ATOプロジェクトは、あくまで「人 」が中心。能力と先 取性のある研究リーダーを選出し、その熱 意と独 創 性、そし
てリーダーシップが十 分に発揮できるプロジェクト体 制を構築します。それがER ATOの基 本的な姿 勢なのです。「人 」
の可能性に賭けます。その可能性が最 大限活かされる研究 環 境を整えます。大きな成 果は、そこから生まれます。
既存組織から自由な研究拠点
新しい 、独 創 的 な研 究プロジェクトには 、新しい 研 究 拠 点を。研 究リー ダーの所属する既 存 機 関から独 立して管 理
運営される研 究 拠 点が、プロジェクト遂 行のベースとなります。キャンパス内あるいは外部 施 設 も含め、プロジェクト
ヘッドクォーターにサポートスタッフが常駐し、研究を支 援します。ER ATOプロジェクトスタッフは 既存の研究 組 織や
所属組 織にとらわれずに自由に研究に専心することができます。
幅広く開放的な研究集団
研 究プロジェクトのスタッフには 、リーダーが 希望する有 能な人材を揃えます。その対 象には分 野 や立 場 の 壁 や境 界
を設けません。それ が ER ATOの 基 本姿 勢です。国 内の大 学 や 研 究 機 関はもとより、産 業 界や 企 業 、官庁、海 外 の 研
究者などさまざまな立場の研究者を広 範な専門分 野から横 断的に招き、最 強の「ドリームチーム」を形成します。
4
M anagement of ER ATO
ERATOの運営
常 に 時 代 の 変 化 に 柔 軟 、迅 速 に 対 応して事 業 内 容 、実 施 方 法を 見 直す
姿 勢を保ち、変革を先導する事 業 運 営に 取り組んでいます。
ERATOの研究推進方式
様々な分野から結集した異なる価値観の研究者達が 相互に触 発し合い、
侃々諤々の議論を戦わせながら、全く新しい発想と切り口のもとで、
独 創的な科 学 技 術の芽が 創出されることを期待しています。
ERATO プロジェクト
大学等の本務
大学・研究所
拠点の設定・プロデュース
レンタルラボ、大学構内などに
独自の研究拠点を設定。
教授等
+
研究総括
研究グループ
個人研究者等
研究グループ
(プロジェクトリーダー)
民間企業
プロジェクト HQ
研究推進業務、企画推進業務を
担当。
研究グループ
海外の
研究機関
従来の研究拠点
新たな研 究 拠 点
推 進 体 制 プロジェクト制。大学とは 別にプロジェクトを立ち上げる。
研 究 期 間 約5年間
研
究
費
12億円を上限とした必 要 額
研究実施場所 大学、
リサーチパーク、民 間 研 究 機 関 等から借 用
研 究 領 域 戦略目標のもとにJ S Tが 研 究 領 域を設 定
5
ERATO の支援体制
ERATOでは、研究プロジェクト推進部、及びプロジェクト
ヘッドクォーターが研究総括や研究スタッフを支援して、
予算管理・進捗管理・各種契約・機器調達・
トラブルシューティング等に取り組みます。
※ヘッドクォーター(headquarters:HQ)
プロジェクトHQ
研究推進業務、研究環境整備及び経理事務など
プロジェクト遂行のための管理業務をプロジェクトHQが担当。
研 究 を 統 括 する 研 究 マ ネ ージメントと参 加 企 業との 連 携 等 、経 営 面 を 統 括 する 組 織 マ
ネージメント体 制を組 み 、運 営 は 、統 合 科 学 の 高 度 専 門 知 識と事 務 的 分 析 能 力を持 つ 職
員が 行います。
拠点の設定・
プロデュース
レンタルラボ、大学構内などに独自の研究拠点を設定。
新 たな研 究 拠 点を置き、研 究 支 援もそこに 置か れ たプロジェクトH Qが 行う方 式を取りま
した 。既 存 の 研 究 組 織にとらわ れず所 属 の 異なる研 究 員を1つ の 場 所に 集 める研 究 拠 点
方 式 が 盛 んに 行 わ れるように なりました 。研 究 総 括 に は 、所 属する組 織 の 論 理 や 束 縛 か
ら解 放され 、構 想・テーマに 最 適な研 究 環 境を自 由に 整 備して頂きたいと考えております。
研究者の委嘱、
予算配算等
研究の進捗に柔軟に対応できる予算配算制度を導入。
E R A T Oで行 わ れるように なった 、研 究 の 進 捗 に 応じた 柔 軟 な 運 営 は 、他 のファンディン
グ 機 関 の 研 究プ ログラム に も 波 及し、従 来 の 研 究 推 進システ ムでは 大 変 困 難 で あった 、
研究予算や研究計 画 の 変 更 や 柔 軟な運 用が 行 わ れるようになってきました 。
6
TOPICS
TO PI CS
E R ATO の 、最 近 の 研 究 成 果を
トピックスとして紹 介します。
1 アフリカゾウはイヌの2倍、ヒトの5倍もの嗅覚受容体遺伝子を持つ
東原化学感覚シグナルプロジェクト
研究総括:東原 和成 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
ゲノムの比 較が 明らかにした哺 乳 類の嗅 覚 受容体遺
ら比較することで、ヒトの嗅覚に対する理解もより深まること
伝子の多様 性
が期待されます。本プロジェクトでは、匂い・フェロモン・味
ゲノム比較により、アフリカゾウのゲノム中に、匂い分子を認
識する嗅 覚 受容体の機能 遺伝 子(OR 遺伝 子)が 約 2000
個も存在することが明らかになりました。この数は、イヌの2倍
以上、ヒトの約5倍に相当します。また、ゾウの OR 遺伝子が
非常に多いことを利用して、個々の OR 遺伝子がたどってきた
進化の道筋を明らかにするための新しいバイオインフォマティ
クスの手法を確立しました。この手法を用いて、アフリカゾウを
含む 13 種 類の有胎盤 類の持つ OR 遺伝子を同定・比較し
た結果、ほとんどの OR 祖先遺伝子は少数の子孫遺伝子し
か残していませんが、遺伝子重複を繰り返すことで、非常に多
くの子孫遺伝子を残した OR 遺伝子も存在することが分かり
ました。さらに、進化過程で遺伝子の重複や欠 失がなく、遺
伝子配列もほとんど変化していない、進化的に安定して維持
されてきた特殊な OR 遺伝子を3種類発見しました。
今後、さまざまな生物種の OR 遺伝子を進化的な視点か
TO PI CS
などの化学感覚シグナルが、どのようにして情動や行動に至
るのか、そのメカニズムを分子レベルで解き明かし、「医療」
や「 健 康 」、
アフリカゾウ
1948
「食」といっ
ウシ
1186
た産業展開
イヌ
811
ウマ
1066
ウサギ
768
モルモット
796
成果の蓄積
ラット
1207
マウス
1130
を目指してい
マーモセット
366
624
アカゲザル
309
606
ます。
オランウータン 296
821
チンパンジー 380
813
ヒト
396
821
0
1000
につながる
10 8 6 4 2 0
分岐時間(千万年前)
4267
2284
1100
2658
1046
2162
1767
1366
機能遺伝子
分断遺伝子
偽遺伝子
2000
3000
4000
嗅覚受容体遺伝子の数
白抜きの数字は機能遺伝子の数を、棒グラフの右側の数は機能遺伝
子・分断遺伝子・偽遺伝子の合計を表す。
「分断遺伝子」とは、ゲノ
ム配列データが 不完全なため、現時点では機能遺伝子か偽遺伝子
かを判定できないような配列のことである。生物種名の左側に、分
岐年代とともに系統関係を示した。動物のシルエットは、それぞれの
動物が持つ機能遺伝子の数を反映するように描かれている。
2 次世代時間標準「光格子時計」の高精度化に成功
香取創造時空間プロジェクト
東京大学 大学院工学系研究科 教授 /
研究総括:香取 秀俊 理化学研究所 香取量子計測研究室 主任研究員
2台の時計が 宇宙年齢138億年で1秒も狂わない
再 現性を実証
プロジェクトでは、セシウム原子時計の精度を大幅に凌駕し、
次世代の時間標準として期待されている「光格子時計」の高
対論的な時間の遅れを検出することで、土地の高低差を測る
「相対論的な測地技術」への展開のほか、物理定数の恒常
性の検証など、新たな基盤技術の創出や新しい基礎物理学
的な知見をもたらすことが期待されます。
精度化に取り組んできました。光格子時計の精度の向上を阻
む最大の困難は、原子を囲む室温の壁から放射される電磁
波(黒体 輻射)が、原子の固有の振り子の振 動数を変化さ
せてしまうことでした。そこでプロジェクトは、低温環境でストロ
ンチウム原子の励起振 動数を計測し、黒体 輻射の影響を1
/100に低減できる低温動作・光格子時計を開発しました。
2台の時計を約1ヵ月間にわたって比較することで、それらが
2× 10-18の精度で一致することを確認しました。この精度
は2台の時計で1秒のずれが生じるのに宇宙の年齢を越える
160億年かかることに相当します。
高精度な原子時計の実現は、
「 秒の再定義」を迫るだけで
なく、従来の時計の概念を超える新しい応用の可能性を秘め
ています。離れた場所にある2台の原子時計の重力による相
7
■低温動作・光格子時計の概要
レーザー冷 却されたストロンチウム(Sr)原子を光 格 子内に捕
獲し、低温恒温槽の中まで運び、低温環境内で分光することで、
黒体輻射が抑制された高精度な時計を実現する。
ER ATO研究成果プレス発 表( 2014年4月~2015年3月)
2014 年 5 月 27 日
磯部縮退 π 集積プロジェクト
研究総括
磯部 寛之
「つるつる・くるくる」カーボンナノチューブ分子内部の秘密
~化学が解き明かすカーボンナノチューブの筒内平滑構造~
2014 年 7 月 21日
平山核スピンエレクトロニクスプロジェクト
研究総括
平山 祥郎
2014 年 6 月17 日
香取創造時空間プロジェクト
研究総括
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
香取 秀俊
東京大学 大学院工学系研究科 教授、
理化学研究所 香取量子計測研究室 主任研究員
次世代時間標準として注目の「光格子時計」の小型化へ前進
~将来の高精度化と可搬化による応用にも期待~
2014 年 7 月 23 日
東北大学 大学院理学研究科 教授
東原化学感覚シグナルプロジェクト
研究総括
東原 和成
東京大学 大学院農学生命科学研究科
応用生命化学専攻 教授
高純度半導体における電子の結晶化の観測に成功
アフリカゾウはイヌの2 倍、ヒトの 5 倍もの嗅覚受容体遺伝子を持つ
~核磁気共鳴を用いて電子結晶のミクロな構造を探る~
-ゲノムの比較が明らかにした哺乳類の嗅覚受容体遺伝子の多様性 -
2014 年 7 月 29 日
竹内バイオ融合プロジェクト
研究総括
竹内 昌治
匂い受容体たんぱく質が発現した立体組織を用いて、空気中の匂いを感知
することに成功 -たんぱく質を利用した細胞センサー開発に新しい手法-
2014 年 10 月 8 日
中嶋ナノクラスター集積制御プロジェクト
研究総括
中嶋 敦
2014 年 8月 22 日
東京大学 生産技術研究所 教授
東山ライブホロニクスプロジェクト
研究総括
東山 哲也
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子
研究所 教授
植物の受精の瞬間におけるカルシウムシグナルをとらえた
~植物の受精成功のサインが明らかに~
2014 年11月21日
慶應義塾大学 理工学部 教授
河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト
研究総括
河岡 義裕
東京大学 医科学研究所 教授
気相からの丸いカゴ状のシリコンナノ物質の合成、薄膜化に成功
インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主たんぱく質を発見
~新材料創製やエレクトロニクスへの応用に期待~
~新たな抗ウイルス薬の開発に道~
2014 年12月19 日
染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト
研究総括
染谷 隆夫
体に直接貼る生体情報センサーの開発に成功
~粘着性ゲルによって、動いてもセンサーが剥がれない~
2015 年 1月 27 日
伊丹分子ナノカーボンプロジェクト
研究総括
伊丹 健一郎
〜世界初、完全非対称6置換アリールベンゼンの合成と単離〜
伊丹分子ナノカーボンプロジェクト
研究総括
伊丹 健一郎
~新触媒と新反応でナノグラフェンの精密合成が可能に~
2015 年 3 月 2 日
磯部縮退 π 集積プロジェクト
研究総括
磯部 寛之
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
「ナノサイズのコマ」も「歳差運動」と
「自転運動」の二種で回る
理論が解き明かすカーボンナノチューブ分子ベアリングの回り方
2015 年 3 月 25 日
石黒 浩
大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授
“社会的対話ロボット”
「CommU
(コミュー)」と
「Sota
(ソータ)」
を開発~人とロボットが暮らせる社会の実現に向けて~
2015 年 2 月10 日
香取創造時空間プロジェクト
研究総括
香取 秀俊
東京大学 大学院工学系研究科 教授、
理化学研究所 香取量子計測研究室 主任研究員
次世代時間標準「光格子時計」の高精度化に成功 ~2台の時計
が宇宙年齢138億年で1秒も狂わない再現性を実証~
2015 年 2 月 23 日
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子
研究所 拠点長/大学院理学研究科 教授
市販の化合物から炭素のシートを一気に伸ばす
石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト
研究総括
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子
研究所 拠点長/大学院理学研究科 教授
置換ベンゼンを意のままにつくる
2015 年 2 月16 日
2015 年 1月 20 日
東京大学 大学院工学系研究科 教授
染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト
研究総括
染谷 隆夫
東京大学 大学院工学系研究科 教授
室内光で働く腕 章 型やわらか 体 温計の開発に成 功 ~電力の送電不 要、
発熱を音で知らせる-新型センサーへの応用が期待~
2015 年 3 月 24 日
竹内バイオ融合プロジェクト
研究総括
竹内 昌治
東京大学 生産技術研究所 教授
世界最薄のリボン !? ~トップダウンとボトムアッププロセスの融
合によるグラフェンナノリボンの形成に成功~
河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト
研究総括
河岡 義裕
東京大学 医科学研究所 教授
光で居場所を探せるインフルエンザウイルスの開発に成功
~免疫応答メカニズムの解明、ワクチン開発に期待~
8
進行中プロジェクト
様々な分野から結集した異なる価値観の研究者達が相
互に触発し合い、全く新しい発想のもとで、独創的な科
学技術の芽が創出されることを期待しています。
On-going Projects
研究分野別目次
■ グリーンイノベーション ■ ライフイノベーション
■ ナノテクノロジー・材料 ■ 情報通信技術
研究期間別目次
研究期間
13 ▶ 18
12 ▶ 17
11 ▶ 16
10 ▶ 15
9
研究総括
浅 野酵 素 活 性分子
浅野 泰久
■ 数学・数理科学・計算機科学
ライフイノベーション
研究プロジェクト
■ 齊藤スピン量子整流
14 ▶ 19
グリーンイノベーション
研究プロジェクト
14
■ 百生量子ビーム位相イメージング
15
■ 石黒共生ヒューマンロボットインタラクション
20
■ 安達分子エキシトン工学
15
■ 磯部縮退 π 集積
16
■ 伊丹分子ナノカーボン
16
■ 佐藤ライブ予測制御
11
■ 美濃島知的光シンセサイザ
17
■ 河原林巨大グラフ
20
■ 東原化学感覚シグナル
12
研究プロジェクト
研究総括
佐 藤ライブ予測制御
佐藤 匠徳
東 原化 学 感 覚シグナル
東原 和成
斎 藤全能性 エピゲノム
斎藤 通紀
染 谷生体 調 和エレクトロニクス
染谷 隆夫
東山ライブホロニクス
東山 哲也
村田脂質活 性構造
村田 道雄
ナノテクノロジー・材料
研究プロジェクト
研究総括
齊藤スピン量子整流
齊藤 英治
百生量子ビーム位相イメージング
百生 敦
安達分子エキシトン工学
安達 千波矢
磯部縮退 π 集積
磯部 寛之
伊丹分子ナノカーボン
伊丹 健一郎
美濃島知的光シンセサイザ
美濃島 薫
秋吉バイオナノトランスポーター
秋吉 一成
金井触媒分子生命
金井 求
■ 秋吉バイオナノトランスポーター
17
■ 浅野酵素活性分子
11
■ 金井触媒分子生命
18
彌田超集積材料
彌田 智一
■ 斎藤全能性エピゲノム
12
香取創造時空間
香取 秀俊
■ 染谷生体調和エレクトロニクス
13
竹内バイオ融合
竹内 昌治
■ 彌田超集積材料
18
■ 香取創造時空間
19
■ 竹内バイオ融合
19
■ 東山ライブホロニクス
13
■ 村田脂質活性構造
14
情報通信技術
研究プロジェクト
研究総括
石黒共生ヒューマンロボットインタラクション
石黒 浩
数学・数理科学・計算機科学
研究プロジェクト
研究総括
河原林巨大グラフ
河原林 健一
On-going Projects
所属・役職
富山県立大学 工学部 生物工学研究センター 教授
所属・役職
進行中プロジェクト
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ページ
11
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ページ
(株)国際電気通信基礎技術研究所 佐藤匠徳特別研究所 所長
11
東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授
12
京都大学 大学院医学研究科 教授
・
東京大学 大学院工学系研究科 教授
13
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授
・
大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
14
所属・役職
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ページ
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 教授
14
東北大学 多元物質科学研究所 教授
15
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長/教授
・
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
16
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 拠点長/名古屋大学 大学院理学研究科 教授
・
電気通信大学 情報理工学研究科 先進理工学専攻 教授
17
京都大学 大学院工学研究科 教授
・
東京大学 大学院薬学系研究科 教授
18
東京工業大学 資源化学研究所 教授
・
東京大学 大学院工学系研究科 教授/理化学研究所 主任研究員
19
東京大学 生産技術研究所 教授
・
所属・役職
大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授/
(株)国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所 客員所長(ATR フェロー)
所属・役職
国立情報学研究所 教授
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ページ
20
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ページ
20
10
進行中プロジェクト
Green Innovation
グリーンイノベーション
浅野酵素活性分子プロジェクト
浅野 泰久
2011
- 2016
富山県立大学 工学部 生物工学研究センター 教授
研究グループ
●
酵素工学グループ 生物有機化学グループ 生物資源探索グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒939-0398 富山県射水市黒河5180 富山県立大学 生物工学研究センター1F K113号室
TEL:0766-88-2280 FAX:0766-88-2422
微生物や動植物由来の酵素を用いる物質生産は、極めて温和な条件下で起こりますが、これらはホワイトバイオテクノロジーと呼ばれ、
環境に優しい化学工業技術の1つとして注目されています。
本プロジェクトでは、微生物のみならず植物や動物などにおける高活性な酵素 分子が示す反 応を探究し、有用物質生産や健 康診断 法
などに資する手法の基盤 創出へと展開することを目標としています。有用物質 生 産の研究においては、微 生物・植物・動物から見いださ
れる新たな酵素を活性分子として活用し、発酵法や酵素的結晶変
換法等によるニトリルやアミノ酸などの有用化合物の合成に取り組
むことで、これまでの有機合成化学や酵 素工学では実現不可能で
あった技術の基盤を創出し、物質生産プロセスの開発に新たな展
開を誘 発することを目指します。健 康 診 断 法開 発の研究において
は、アミノ酸代謝に関与する微生物の酵素などを用いて、新しいア
ミノ酸 定 量 法の基 盤 技 術の創出に取り組むことで、血 液中のアミ
ノ酸単体の定 量に利用することなどを目指します。このように自然
から学ぶことで(新 規 酵 素を探 索することで)
、環 境にやさしい工
業技術の確立や新たな診断方法の開発に貢献します。
佐藤ライブ予測制御プロジェクト
佐藤 匠徳
2013
- 2018
実験系
バイオ計測グループ マウスグループ 数理計算シミュレーション系 生命数理グループ
予測制御データ解析グループ 動態数理グループ 統合系 統合動態バイオロジーグループ コンテクストバイオロジーグループ
研究グループ
●
(株)国際電気通信基礎技術研究所 佐藤匠徳特別研究所 所長
●
●
●
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒619-0288 京都府相楽郡精華町光台2-2-2
TEL:0774-95-2330 FAX:0774-95-2329
生命現象の多くは確率論的な振る舞いをすることから、生体システムの環境適 応や恒常性の維持と破綻を、高い精度で予想する
ことはこれまで限界がありました。本プロジェクトは、生体の分子シグナルネットワークの計測データに基づいて、生命システムの将来
変動を予測し、その予測に基づいて人為的制御を同時進行で行う「ライブ予測制御」の実現を目指します。ライブイメージング技術を
駆使し、血管パターン形成・リモデリングや循環 機能の変化にともなう代謝調節機能の変 動の基盤にある作 動原理を説き明かし、
将 来の代謝変 動を予測する数理モデルを構築します。さらに、気 象学や
地 球 惑 星科 学の分 野でライブ予 測に用いられるシミュレーション手法を
応用し、生命 動態の「ライブ予測 制御」に必要な数理学的手法を開発し
ます。酸 素 や栄 養など生物の生存を支える物 質 循 環を担う血管の形成
に応答した代 謝変 動を、数 理 学 的 手法を用いて統 合 的に理 解すること
ができれば、生体システムの環 境 応答の将 来予測と人為的制御が 可能
になると期待されます。さらに、生命のようなソフトでゆらぎの多い複雑系
に適 用可能な新しいタイプの数理モデル・シミュレーション手法は生命 科
学、人らしいロボティクス制御工学、人にやさしい真のユビキタス社会工
学、気 象学、地 球 惑 星科 学、情 報 通 信といった幅 広い 領 域において革
新的な予測制御技術の開発へと応用展開されると期待されます。
11
Life Innovation
ライフイノベーション
東原化学感覚シグナルプロジェクト
東原 和成
2012
- 2017
高次脳神経回路解析 受容シグナル情報伝達解析 脳イメージング 動物行動解析 バイオインフォマティクス遺伝子解析 昆虫・植物化学感覚解析 生化学代謝物質解析 化学感覚統合的解析
研究グループ
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東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授
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プロジェクトヘッドクォーター
〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1 東京大学大学院農学生命科学研究科
TEL:03-5841-5109 FAX:03-5841-8024
「匂い」
「味」
「フェロモン」といった シグ ナル( 化 学 感 覚 シグ ナル )は 、仲 間・敵・異 性 の 識 別 、誘 引・忌 避・摂 食・生 殖 行
動 など、外 部 環 境 に 適 合した行 動を速 やかにとることや、
個 体 間のコミュニケーションに 重 要な働きを担っています。近 年 「
、鼻」
や「舌 」など 末 梢での 感 覚シグナル 受 容 のしくみは 明らか になりつつありますが 、その 刺 激 がどのように 脳に 入 力され 、他 の
様々な情 報と統 合されて情 動 や 行 動に 至るのか 、そのメカニズムは 明らかになっていません。
本プロジェクトでは 、化 学 感 覚シグナルが 情 動 や 行 動を引き起こすま
でのメカニズムを解 明します。具体 的には 、生 命 活 動に 重 要な 意 味を
持 つシグナル 物 質を明らか にし、それらが 末 梢で受 容され た後、情 動
や行動の表出に至るまでの神経回路の解明に取り組みます。また、
ヒト、
マウス、魚、昆 虫、植 物など、多様な生物 種の比 較 解 析から化 学 感 覚
の起 源に迫ります。さらに嗅 覚と味 覚の 情 報が 脳で統 合され食 べ物を
「 美 味しい」と感じるしくみ や、液 性 因 子 や 代 謝 状 態 の 変 化 が 化 学 感
覚を変化させるしくみについて、分 子・神 経レベルで解 明するとともに、
疾 患に伴う匂い( 二 次 代 謝 産 物)や、ストレス・不 安を軽 減し安心 感を
もたらす匂 い やフェロモンなどを探 索することにより、
「医療 」
「健 康 」
「食 」といった 産 業 展 開 に 繋 が る、基 盤となる成 果 の 蓄 積 を目 指し
ます。
斎藤全能性エピゲノムプロジェクト
斎藤 通紀
実験系
マウス生殖細胞解析グループ サル生殖工学開発グループ バイオ計測グループ マウスグルー
プ 数理計算シミュレーション系 生命数理グループ
サル初期発生機構解析グループ 予測制御データ解析グループ 動態数理グルー
生殖エピゲノム解析グループ プ 統合系 統合動態バイオロジーグルー
ヒト始原生殖細胞発生機構再構成グループ
プ コンテクストバイオロジーグループ
研究グループ
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2011
- 2016
京都大学 大学院医学研究科 教授
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プロジェクトヘッドクォーター
〒606-8501 京都府京都市左京区吉田近衛町 京都大学大学院 医学研究科
TEL:075-753-4332
全能性とは、個体を構成するあらゆる細胞に分化し、個体を形成する能力のことを言います。個体の出発点である受精卵が全能
性を獲得するメカニズムの理 解はまだまだ十 分ではありません。受精卵から精子や卵子の源となる始原生 殖 細胞へ、始原生 殖 細
胞から精子や卵子へ、そして再び 全能性を持つ受精卵へと、世代を超えて遺伝 情報を継承する仕組みの中では、ゲノム機能を制御
するゲノム上のさまざまな修飾-その総 体をエピゲノムと呼びます-が
次々に変化することが 知られています。全能性獲得に至るエピゲノム制
御 機構の理 解は、細 胞の医療 応用の観 点からも非常に重 要な課 題
です。
本プロジェクトでは、生殖細胞のもつエピゲノム制御機構を、マウス、
さらにはよりヒトに近いカニクイザルをモデル 生物として、解 明・再 構
成し、全能性獲得に至るゲノム制御基盤を明らかにすることを目指しま
す。この過程において微 量サンプルからエピゲノムを定量・解 析する技
術を開 発します。これらの研究から得られる知 見は、ヒト生 殖 細 胞 研
究の基盤となり、不妊、先天性の疾患・症候群、ある種の遺伝病など
の原因解明、細胞のエピゲノムを制御する新しい技術の開発につなが
ることが 期待されます。
12
進行中プロジェクト
染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト
染谷 隆夫
東京大学 大学院工学系研究科 教授
2011
- 2016
研究グループ
●
バイオインクグループ バイオ印刷グループ 生体調和イメージンググル-プ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒113-0032 東京都文京区弥生2-11-16 東京大学 本郷キャンパス 浅野地区
TEL:03-5841-6756 FAX:03-5841-6709
エレクトロニクスは、シリコンデバイスを微 細化して機械の演算速 度と記憶容量を改善することで、現在の高度情報化社会の基盤
を築いてきました。しかし、
「より速く」のみを目指した技 術開発はすでに限界に達しつつあり、世界の開発競 争は「エレクトロニクス
と環境との調和・生体との調和」を目指した次のフェーズへと急速に移行しています。
本プロジェクトでは、
シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が 期待できる有機材料に着目し、
生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する全く新しいデバイス
の開 発 の実 現を目指します。具体 的には、より生体に適 合した有
機材料による特 殊なインクを開 発し“ 塗る”
ことで、特に神 経 細 胞
に接する生体プローブを実現します。また、この“ 柔らかい”生体プ
ローブを作 製するための回路パターン印刷 技 術、そして神 経 細 胞
から出る電気信号、化 学信号を何 百 万個となる生体プローブで受
信し、リアルタイムで神経細胞間でのネットワークを可視化する読み
出し集 積回路の開発を進めていきます。これらの技 術開発を通じ
て、細胞間のネットワークを可視化できるインプランタブル(生体内
への埋め込みが 可能な)フレキシブルデバイスともいうべき新しい
デバイスの開発につながることが 期待されます。
東山ライブホロニクスプロジェクト
東山 哲也
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授
2010
- 2015
研究グループ
●
光技術グループ ナノ工学グループ シングルセルオミクスグループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒464-8602 愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院理学研究科 理学部B館1階 B103号室
TEL:052-789-2496 FAX:052-789-2497
多細胞生物では、個々の細胞が、近距離あるいは遠距離にある他の細胞とコミュニケーションをとりながら個体全体を維持してい
ます。こうした個と全体を調 和する細 胞間コミュニケーションを、
「ホロニックコミュニケーション」と呼びます。これまでの生物学にお
いて、こうした細胞間のコミュニケーションを担う細胞外シグナリング分子が多数同定されてきましたが、それらの分子が、生きた多細
胞組織において実際にどのように挙動し機能しているのか、直接的に観察および操作解析するには限界がありました。
本プロジェクトでは、生きた細胞を顕微 鏡下で自由自在に解 析することで生
命現象を解明するライブセル生物学を確 立し、ホロニクス研究を推 進していく
ことを目的としています。そのために、細胞外シグナリング分子の組織内での可
視化やその操作解 析、個々の細胞の応答や新規のシグナリング分子の同定、
これらの解 析に必須なデバイスの技 術開発などを中心に研究を進めます。こ
れにより、植物の配偶 体形成や初 期 発 生を含む 様々な発 生現 象や、受 粉 時
の動的で複雑な細胞間シグナリングなど、ホロニックコミュニケーションが 関わ
る興味深い現象の解明を目指します。このために、光技 術、工学技術、シング
ルセルオミクスの 3 つのグループを融合し研究を展開することにより、ホロニッ
クコミュニケーションに関する新しい生物学のフロンティアが切り拓かれること
が 期待されます。
13
Life Innovation
ライフイノベーション
村田脂質活性構造プロジェクト
村田 道雄
大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
2010
- 2015
研究グループ
●
生体膜中脂質分子グループ 膜タンパク質リガンド構造グループ リガンド活性配座グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-1 大阪大学 大学院理学研究科 F413
TEL:06-6850-5575 FAX:06-6850-5573
脂質は、細胞の内と外を隔てる生体膜の主要な構成成分です。この脂質がタンパク質と相互作用して、脂質-タンパク質複合体を
作ることで、 必要に応じて物質を取り込んだり排出したりする生体膜の機能が 保たれています。これまでに生体膜中のタンパク質構
造・機能については多くの研究がなされてきました。一方、脂質については、生体膜中の脂質構造を知る手法が 少ないために進 展
しておりませんでした。しかし脂質も膜タンパク質と相互作用することによって重要な機能を担うことが 知られるようになったため、薬
などの開発現場においては脂質構造の解明が重要な課題となってきて
います。
このプロジェクトでは、1)
生体 膜中でリガンドとなる脂 質分 子を同位
体で標識しながら合成し、2)
リガンドの膜タンパク質との相互作用を固
体 NMR にて解 析します。同時に、3)標識したリガンドと結合したタン
パク質の構造を X 線 結晶構造 解析で調べることで、これまでの構造 解
析では明らかにされてこなかった脂質の活性配座を明らかにします。こ
のように、有 機 合成化 学、タンパク質工学をはじめとし、計算 科 学、X
線 結晶 構 造 解 析、固 体 NMR などの 技 術を駆使することによって、脂
質の立体 構 造という観 点から脂 質―タンパク質 相 互作用を統 一 的に
理解することを目指します。
Nanotechnology and Materials
ナノテクノロジー・材料
齊藤スピン量子整流プロジェクト
齊藤 英治
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 教授
2014
- 2019
研究グループ
●
先端スピン流科学グループ 核ダイナミクスグループ スピンゼーベック効果応用グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1 東北大学 金属材料研究所 4号館301室
TEL:022-217-6238 FAX:022-217-6395
電子の新たな自由度として、
「スピン」を積極的に利用するスピントロニクスが、
新しい電子技術として注目されています。スピンの流れである「スピン流」は、大幅
に消費電力を低減した不揮発性磁気メモリーや量子力学を応用した量子情報伝達
を実現できると考えられており、さらに、スピンを用いたエネルギー変換技術など、
多様な応用展開が期待されています。
本研究領域では、スピン流の本質的な機能を引き出すために、磁石中のスピン
の回転方向が一方向に偏っているため、熱などの物質中のランダムな運動を一定
の方向にそろえることができる機能(整流性)に注目し、これを基礎とした物質中の
ゆらぎの利用原理の構築と、スピンを用いた力学的・電磁気的・熱的エネルギー
の流れの制御を目指します。物質中のミクロなスピンを記述する量子力学を、物体
そのものの運動の影響を扱えるように拡張することによって、物質の物理理論にお
ける新しいパラダイムの創成に挑戦します。このパラダイムに立脚したスピン発電
機、量子モーター、スピン回路技術を開発することで、スピン流に基づく科学技術、
スピンを用いた新たなエネルギー変換方法を開拓します。
14
進行中プロジェクト
百生量子ビーム位相イメージングプロジェクト
百生 敦
2014
- 2019
東北大学 多元物質科学研究所 教授
研究グループ
●
X 線位相イメージンググループ 中性子線位相イメージンググループ 電子線位相イメージンググループ 位相画像解析グループ
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒980-8577 仙台市青葉区片平二丁目1番1号 東北大学 多元物質科学研究所
TEL:022-217-5388 FAX:022-217-5826
百生量子ビーム位相イメージングプロジェクトでは、高エネルギー光子(X線)や中性子、電子などの量子ビームの波としての
性質を利用して、量子ビームが物体を透過する際に生じる位相の変化(位相情報)を活用する、
「位相イメージング」技術の飛躍的
な展開を目指します。位相検出の鍵となる光学系の研究や新奇光学素子の開発を通じ、先端素材や複合材料、デバイス、さら
には実際に利用される製品に至るまでのマルチスケールで、これまで検出
できなかった物質の不均一構造や状態を可視化します。また、X線位相イ
メージングで得られた知見を基に、中性子線や電子線を用いた位相イメー
ジングへの技術展開を図り、さまざまな量子ビームの位相情報を相補的に
活用する高度なイメージングプラットフォームの構築を進めます。X線を用
いた位相イメージングでは、とくに動的手法および顕微手法による生体軟
組織やソフトマターのイメージング技術の開発に重点を置き、中性子線位
相イメージングでは、磁性材料などの構造と磁気情報の同時可視化に取り
組みます。さらに、走査型位相差電子顕微鏡や反射型位相差電子顕微鏡
など、電子線を用いた位相イメージング技術の開発を進め、計算機・情
報科学分野における最先端の画像解析技術なども導入し、位相イメージン
グの可能性を最大限に引き出すためのアプローチを追求します。
安達分子エキシトン工学プロジェクト
安達 千波矢
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長/教授
2013
- 2018
研究グループ
●
分子設計・合成グループ 応用デバイスグループ 物性・解析グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744 九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター
TEL:092-802-6920 FAX:092-802-6921
半導体機能を発現する有機分子を集積した有機光デバイスは、現在、さまざまな用途での製品開発が進められており、新しい光エレクトロニク
ス技術として期待されています。特に有機材料に電流を流すことで光を発生させる有機 EL(Electroluminescence)製品は、高精細ディスプレイ
や照明用などへの実用化が急速に進みつつあります。しかしながら、現在の有機 EL は、低消費電力化や低コスト化など、さらなる特性の向上が
必要とされています。さらに、有機 ELを基点に、次世代の有機光デバイスの開発を目指して、必要な機能発現を目指した新しい分子設計の開拓
が期待されています。
このような背景のもと、本プロジェクトでは、主に有機固体薄膜中における各種励起子(エキシトン)の基礎過程に焦点を当て、
未開拓の分子エキシトン過程の制御により高性能デバイスを実現するという視点から、
新材料創製を目指します。具体的には、励起一重項・三重項エネルギーレベルの精密
制御、放射失活・熱失活過程の制御、エキシトン拡散過程と励起子間相互作用など
を制御し、有機半導体レーザーなどの新しい光エレクトロニクスデバイスの創製を目指
します。さらに、生体システムの光化学・電子伝達システムを利用した新しい発光機構
デバイスの構築も目指します。これらの研究開発により、新しい光物理過程での理論・
新材料の創出が進み、有機 EL デバイスの基本性能向上や、情報通信用の新しい光
源など、従来では実現不可能と考えられていたデバイスの創製、さらには、バイオエレク
トロニクスの端緒を築くことが期待されます。本プロジェクトで、新しい概念を拡張しな
がら「分子エキシトン工学」を確立し、高性能光デバイスを開拓していきます。
15
Nanotechnology and Materials
ナノテクノロジー・材料
磯部縮退 π 集積プロジェクト
磯部 寛之
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
2013
- 2018
研究グループ
●
集積構造体グループ 強相関機能グループ デバイスグループ 理論交差グループ
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構3F
TEL:022-217-6159 FAX:022-217-6233
フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボンは、豊富な π 電子と熱的・化学的安定性に優れた剛直な構造という
特長をもち、電子材料や構造材料としての応用が 期待されています。しかし、巨大ナノカーボンであるカーボンナノチューブとグラフェン
は、その分子構造が 明確・一義ではないことが、物性研究を材料・機能開発に繋げる上での障害となっていました。
本プロジェクト研 究では、ナノカーボンの 特 長・要 件をもち、かつ設 計自
在 性など分 子 性物 質ならではの 特 質を備えた「ポスト・ナノカーボン」とも
いうべき機 能 性 物 質、
「縮 退 π 集 積 固 体 (
」degenerate π-integrated
solid )を創 製し、その新機能の発 見と有 機材料の開 発 、さらにそれらを基
にした新規デバイスの開発を目指します。
具体 的には、配位高分 子 や超分 子 化 学 等の手法を組み合わせて、豊富
な π 電子 系をもち高い対 称 性を備えた分 子(縮 退 π 電子 系分 子)を精密
に配置・集積させた固体・構造体(縮退 π 集積固体)の創出に取り組み、狙
い通りの機能や特質を実現する指導原理の獲得を目指します。また、創出さ
れた縮退 π 電子系分子やその固体内での自在設計により高性能軽元素超
伝導 物質および 縮退 π 集 積固体ならではの高い 機能や新しい 特質をもつ
有機薄膜デバイスを創出します。
伊丹分子ナノカーボンプロジェクト
伊丹 健一郎
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 拠点長/
大学院理学研究科 教授
2013
- 2018
研究グループ
●
化学合成グループ 物理工学グループ 分子集積グループ 機能材料グループ
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒464-8602 愛知県名古屋市不老町 名古屋大学高等総合研究館 6階 TEL:052-789-5916 FAX:052-789-5916
ナノメートルサイズの炭素物質(ナノカーボン)は、1990 年代から次世代材料として脚光を浴び続けて来ました。しかしながら、カー
ボンナノチューブやグラフェンなどのナノカーボンは単一の分子として分離・精製することが 困難であり、
「 構造的に純 粋な分子」として
取り扱えていないという現実があるため、ナノカーボン科学は様々な構造をもつ分子の「混合物」としてのサイエンスに留まっています。
本研究領域では、未踏・新奇なナノカーボンを構造的に純粋な分子として設計・合成するとともに、それらを基盤として圧倒的に優
れた機能性材料を創成し、応用展開まで図ることにより、
「分子ナノカーボン科 学」という新 分野の確 立と、イノベーションの創出を目
指します。
具体 的には、次の3つのテーマに取り組みます。第1のテーマとして、構造が 明 確
に定まったカーボンナノチューブとグラフェンナノリボン、さらには新奇な3次 元湾曲ナノ
カーボンの精密合成法を開発するとともに、その応用展開を図ります。一 例として、化
学合成により構築したナノカーボン分子をテンプレートとして精密成長させ、巨大なナ
ノカーボン分 子を得ることを目指します。第2のテーマとして、走 査 型プローブ 顕 微
鏡、単一ナノ構造近接場分光イメージング、単一光子計数技術などを駆使した単一ナ
ノカーボンの構造・物性 解析を行い、ナノカーボンの構造・物性やナノカーボン間の相
互作用を明らかにします。第3のテーマとして、ナノカーボン分子の集合体や単結晶の
ユニークな特徴を活かした新しい吸着・磁性・光学マテリアルの創出を目指します。
16
進行中プロジェクト
美濃島知的光シンセサイザプロジェクト
美濃島 薫
電気通信大学 情報理工学研究科 先進理工学専攻 教授
2013
- 2018
研究グループ
●
知的時空間統合化グループ 周波数極限化グループ テラヘルツ・広帯域スペクトル操作グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1 電気通信大学 情報理工学研究科 先進理工学専攻
TEL:042-443-5565 FAX:042-443-5565
光波の持つ位相情報や周波数情報を余すことなく利用できれば、圧倒的なダイナミックレンジを持つ情報をそのまま利用できるように
なり、光は単なる情報伝達媒体でなく、真にインテリジェントな主役、すなわち対象の計測から信号解析、情報処理や伝達、そしてユーザ
の利用までを担う主体になることができます。例えば、産業計測や安全計測において、欠陥・変形などのその場検出を光で行い、該当
の画像のみを選別して高速で伝送し、結果に対応して光で加工・修
復を行うなど、一連の作業を高速かつ知的に実現することが考えら
れます。このように光を主役として活用することにより、医療、環境、
エネルギー、安全・安心、製造等の様々な産業・社会に対し日常的
に恩恵がもたらされるでしょう。
このような背景のもと、本研究領域では周波数軸上においてスペ
クトル強度が 櫛状に精密かつ等間隔に並んだ先端光源「光コム」
を、エレクトロニクスと光技術との融合により、基盤的かつ革新的な
「知的光シンセサイザ」へと進化させます。これによって、光波の時
間、空間、周波 数、位相、強 度、偏光などの全てのパラメータを自
在に操作でき、様々な応用に使えるところまで進化している知的光
源を開発し、その未踏な応用分野を開拓することを目標とします。
秋吉バイオナノトランスポータープロジェクト
秋吉 一成
2011
- 2016
京都大学 大学院工学研究科 教授
研究グループ
●
ナノゲルテクトニクス工学グループ プロテオリポソーム工学グループ エキソソーム工学グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒615-8530 京都市西京区京都大学桂 京都大学工学研究科附属桂インテックセンター302号室
TEL:075-383-2152 FAX:075-383-2154
生命システムは 、自身の 体 内の状 況を診 断し、反 応 、調 整、成長、再生するなどの高度な能 力を有しています。近 年ではこれら
生命 現 象の巧 妙な仕 組みが 分 子レベルで明らかになってきました。またこの生体システムに啓 発され 、類 似の 機 能システムを人
工 的に設 計し応 用する研究分 野(バイオインスパイアードサイエンス)も発 展してきています。これは病 気の早 期 診 断・計 測 、ドラッ
グデリバリーシステム(DDS)治 療、再生医 療などの 先 進 医 療を推 進する上で重 要となっている次 世代 バイオマテリアル 開 発にブ
レイクスル ーをもたらす新たな 概 念です。例えば 、生体 内で免 疫 活 性
情 報 伝 達を行う物 質を、体外から導入し適 切な場 所で機 能させること
ができれば 、安 全なバイオ医 薬 品として臨 床 上有 効となることが 期 待
されています。
本プロジェクトでは 生体 分 子システムを規 範として、種 々のバイオ医
薬 品 や 分 子マーカーの 徐 放 制 御 や 選 択 的 輸 送を行える機 能 性ナノ微
粒子
( バイオナノトランスポーター )を①ナノゲルテクトニクス工学 、②プ
ロテオリポソーム工学 、③エキソソーム工学の3つの 観 点から創 製する
ことで、バイオ診 断・計 測やがん免 疫 治療、細 胞 工学や骨再生医 療な
どの医 療 応 用を目指します。
17
Nanotechnology and Materials
ナノテクノロジー・材料
金井触媒分子生命プロジェクト
金井 求
2011
- 2016
東京大学 大学院薬学系研究科 教授
研究グループ
●
触媒グループ 医薬機能グループ 触媒医療グループ(化学) 触媒医療グループ(生物)
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院薬学系研究科 総合研究棟 4F
TEL:03-5841-4830 FAX:03-5684-5206
細 胞は 統 合され た化 学反 応の場であり、生命 活 動は 触 媒 の 一種である酵 素の活 性によって支えられています。極 めて単 純 化
した表 現を用いると、病 態とは 酵 素 活 性が 適 正値より低下あるいは亢 進しすぎた状 態であると言えます。これまでの多くの医 薬
は 、この酵 素 活 性を調 節することで薬 理 作用を発 揮してきました。近 年の生物 科 学の進 歩により創 薬ターゲットの 分 子機 構が 解
明されてきている一方で、優れ た 薬 理 作用が 期 待できる分 子でも複 雑
な 構 造を持 つために合 成コストが 高くなり、医 薬 品の開 発 候 補から除
外されてしまうことが あります。さらに、現 在の 医 薬 の 中 心である低 分
子医 薬 だけでなく、抗体や核 酸といったバイオ医 薬や、幹 細 胞を利用し
た再生医 療など新しい医 薬や治療の概 念が 提 唱されはじめています。
本プロジェクトでは 、
「 触 媒 」をキーワードに、複 雑な 構 造を持 つ医 薬
候 補 物 質を短 工 程、かつ地 球 環 境を汚染 せずに合成できる革 新 的 触
媒を開 発し、これまで合成が 困 難であった医 薬 分 子 の 合成を目指しま
す。また、生体 内の酵 素 機能と置き換えられる人工 触 媒システムを開 発
し、このシステムを細 胞 内に 導入することで、触 媒自 体 が 医 薬となると
いう新しい 概 念を提 唱します。
彌田超集積材料プロジェクト
彌田 智一
2010
- 2015
東京工業大学 資源化学研究所 教授
研究グループ
●
転写材料グループ バイオテンプレートグループ 分子回路グループ ナノ接合グループ
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田4259 東京工業大学 S2-II期棟 2F 210号室 TEL:045-924-5233 FAX:045-924-5277
新材料の発見・創製は、科学技術や産業上、極めて重要で、今日までに金属、セラミックス、プラスチック、半導体などさまざまな性
質の新材料が 開発されてきました。これまでの新材料の創製は、主に新しい性質が 偶発的に発見された物質の周辺の探索・最 適
化で行われており、合理的な新機能の設計や新材料の探索は容易ではありませんでした。一方、ハイブリッド材料は成分の組み合わ
せだけでも無限の可能性があるものの、個々の構成成分の性 質を併せ
持つ程度の複合機能に留まっていました。
本プロジェクトは、ナノテンプレート(ナノスケールの鋳型)を利用するこ
とで、各構成成分の精密な配置・配列を実現し、各成分同士の相互作用
を精密に制御することで、
単なる成分の足し合わせ以上の性質をもつ材料
( 超 集 積 材料)の創出を目指します。ここで用いるナノテンプレートは人工
的なものだけでなく、微生物がもつような複雑な構造も利用し、より高度
な相互作用の制御を目指します。さらに、分子配線技術をナノテンプレート
を利用して開発し、分子で回路を作ることで、その回路自体が1つの新材
料であるという概念も提唱します。このような新材料創出の新しい方法論
を確立することで、合理的に新材料を探索することが 可能となり、材料探
索への大きなブレークスルーが 期待されます。
18
進行中プロジェクト
Nanotechnology and Materials
ナノテクノロジー・材料
香取創造時空間プロジェクト
香 取 秀俊
東京大学 大学院工学系研究科 教授
理化学研究所 主任研究員
2010
- 2015
研究グループ
●
光格子時計実験グループ 物理応用グループ 先端レーザーグループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学 工学部6号館 413号室
TEL:03-5841-6859 FAX:03-5841-6859
天体 観測から始まった「時間」を正確に計る技 術の探 求の結果、人 類は、数千万年で誤 差 1 秒のセシウム原子時計を完成させ
ました。この高精度な時計は、今や地 球規模での高速 通信や、GPS 衛星による測位計 測に利用され 、グローバル 化した現代社会
を支える基 幹 技 術となっています。
本研究領域では研究総 括の独 創的なアイデアであり、セシウム原子時計をはるかに凌駕する精度をもつ「光格子時計」の実現を
目指します。この新しい原子 時計では、レーザーの干渉縞によってできる微小
空 間-光 格 子-に閉じ込 められ た、およそ 100 万個の原子が 吸収・放 出す
る光の振 動数から 1 秒を決めます。
この光 格子時計は、理論 的には、18 桁の精度での時間測定を可能にしま
す。これは、宇宙の年齢(137 億年)を経っても誤 差が 1 秒以下に相当します。
このような超高精度な時間計 測では、日常的な運 動スケールでの時間合わせ
にも、相対論的な「時空」の歪みが 顕著に現れるようになります。これは 、我々
の通常の「時空 」の概 念を大きく変えるばかりか、次 世代の新たなセンシング
技 術につながる可能 性が あります。光 格 子 時 計をツールとする、新たな精密
計 測・量子 計 測の潮 流をつくるとともに、
「 原子 時 計の刻む 1 秒は不 変か?」
さらには「 物理 定 数は普 遍な定 数なのか?」という物理学の根 源 的な問題に
も挑みます。
竹内バイオ融合プロジェクト
竹内 昌治
東京大学 生産技術研究所 教授
2010
- 2015
研究グループ
●
プロセス融合グループ 機能創発グループ 融合展開グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学駒場オープンラボラトリー M202
TEL:03-5452-6616 FAX:03-5452-6617
多細胞生物の組織や臓器は、異 種 細胞からなる複 雑な三 次 元 構造を持ち、機能的な組織や臓器を人工的に作製するには、こ
の構造を再 現することが 鍵と考えられます。これまでの組 織 工学では、立体 的な足場に細 胞を蒔くことで三 次 元の組 織 形成を行
なってきましたが、この方法では軟骨などの比 較的 低密度の組織は形成できても、消化器官などの高密度の厚い組織や異 種 細胞
の層構造などを再現することは困難でした。そこで、細胞ブロックを制御性良く集 積することで立体組織を造 形するボトムアップ 型の
アプローチに注目が 集まっています。しかし、細 胞そのものは柔らかく変 形し
やすいため、組み立ての高速化・精密 化にはこれまで限界がありました。
本研究 領 域は、微 細な加工・配置を得意とする MEMS 技 術やマイクロ流
体デバイス技 術と組み合わせて、細 胞をあたかもネジやバネ、歯車といった
規格 化された部品のように加工し、厚みを持った三 次 元 組 織を機械 組み立
てのように緻密かつ高速に構築することを目指します。このようなバイオテクノ
ロジーと工学テクノロジーの融 合によって実現する細 胞 組 織 構造 体は、再生
医 療における安 全な移植材料としての利用や、動 物実験に依 存しない 薬 物
動態検 査システムの構築などに役 立つことが見込まれます。また、ロボットに
利用するためのセンサやアクチュエータの開発など、細胞を利用したものづく
りという新たな産業分野の創出につながることも期待されます。
19
情報通信技術
Information and Communication Technology
石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト
石黒 浩
大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授/
(株)国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所 客員所長(ATR フェロー)
2014
- 2019
研究グループ
●
自律型ロボット研究グループ 音声対話研究グループ 実証研究グループ
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒560-8531 大阪府豊中市待兼山町1-3 大阪大学 基礎工学研究科
TEL:06-6850-6360 FAX:06-6850-6360
ロボット研究は、日常的な場面で働くロボットに焦 点を移しつつあります。本研究 領 域では、身振り手 振り、表 情、視 線、触れ合
いなど、
人間のように多様な情報伝 達手段を用いて対話できる、
社会性を持つ自律型ロボットの実現を目標に、
共生ヒューマンロボッ
トインタラクション
(人 間とロボットの相互作用)
の研究開 発に取り組みます。特に、人と安 全に関わることができるロボットの皮 膚や
内部メカニズム、
頑健で柔軟な音声認識技 術と、
欲求、
意図、
行動・
発 話の階 層モデル の開 発・構 築を行います。これらにより、特 定
の状 況と目的において自律 的に対 話できる機能や、複 数の情 報
伝 達手段を用いて社会的状 況で複 数の人間と対話できる機能を
開発し、実 社会において人間と親和的に関わり、人間と共生する
ための自律型ロボットの実現を目指します。
そして開発したロボットが人と同レベルのものに感じられること
を確認し、技 術の実 用化に向けて、ロボットを用いた高齢 者や発
達障がい者の生活支援に取り組みます。さらにこのようなロボット
をテストベッドとして用いることにより、自己・他 者認 識、意 識、心
といった、認 知 科 学 や脳 科 学における重 要 課 題について、理 解
を深めることが 期待されます。
Math and Mathematical Science and Computer Science
数学・数理科学・計算機科学
河原林巨大グラフプロジェクト
河原林 健一
2012
- 2017
国立情報学研究所 教授
研究グループ
●
グラフマイニング& WEB & AI グループ 複雑ネットワーク・地図グラフグループ グラフ・ネットワークにおける理論と最適化グループ ネットワーク・アルゴリズムグループ
●
●
●
プロジェクトヘッドクォーター
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2 国立情報学研究所 ビッグデータ数理国際研究センター
TEL:03-4212-2664 FAX:03-4212-2120
インターネットの Web 構 造 や、Facebook、Twit ter などのソーシャルネットワークに代 表される巨 大なネットワークは、各 々
10 9(10 億 人)
に近いユーザーが 利用し、現 代社 会に欠かせない 存 在となっています。これらのネットワークは年 々急 速に膨張し、
近い 将 来には 1010 を超えるサイズになると予想されています。ネットワークの膨 張に伴う情 報 量の増 大はハードウェアの進 歩を上
回る速さで進んでおり、い わゆる「ビッグデータ」の中でも特に巨
大な、1010 以 上のサイズのネットワークに対しては、現行のアルゴ
リズムでは実 用的な速 度で情 報を解 析することが 不 可能であり、
高速アルゴリズムの開発が急務となっています。
このような背景のもと、本プロジェクトでは、巨大なネットワーク
を膨大な点と辺の接 続構造、
すなわち1010 以 上の頂 点を持つ「巨
大グラフ」として表現し、理論 計算 機科 学や離散 数学などにおけ
る最 先 端の数学的理論を駆使してそれを解 析する、高速アルゴリ
ズムの開発を目指します。研究開発を通じて、新たな数学的理論
を構 築するだけでなく、ネットワーク解 析における理 論 的 研 究の
有効性を実証し、巨大な情報 量のために従 来の手法では対処で
きなかった諸問題 解決の糸口を得ることが 期待されます。
20
終了プロジェクト
Completed Projects
これまでに124プロジェクトの研究に着手し、104プロジェクトが 終了しました。
研究期間別目次
研究期間
09 ▶ 14
08 ▶ 13
07 ▶ 12
06 ▶ 11
研究プロジェクト
■
伊藤グライコトリロジー 22
■
■
吉田 ATP システム
■
高柳オステオネットワーク 22
■
四方動的微小反応場
22
柳沢オーファン受容体 28
■
湊離散構造処理系
■
22
■
今井量子計算機構
28
■
吉村パイ電子物質
34
中嶋ナノクラスター集積制御 22
■
相田ナノ空間
28
■
野依分子触媒
34
■
末松ガスバイオロジー 22
■
小池フォトニクスポリマー
28
■
伏谷着生機構
34
■
関口細胞外環境
29
■
岡山細胞変換
35
35
01 ▶ 06
00 ▶ 05
28
92 ▶ 97
91 ▶ 96
04 ▶ 09
03 ▶ 08
02 ▶ 07
01 ▶ 06
21
柳田生体運動子
34
吉里再生機構
34
■
袖岡生細胞分子化学
■
河岡感染宿主応答ネットワーク 23
■
樽茶多体相関場
29
■
木村融液動態
■
高原ソフト界面
23
■
横山液晶微界面
29
■
永山たん白集積
35
■
岡ノ谷情動情報
23
■
細野透明電子活性
29
■
鳥居食情報調節
35
■
黒田カイロモルフォロジー
29
■
新海包接認識
35
23
99 ▶ 04
■
平山核スピンエレクトロニクス 23
■
五十嵐デザインインタフェース 23
■
大津局在フォトン
29
■
前中センシング融合
24
■
北野共生システム
30
■
北川統合細孔
24
■
楠見膜組織能
30
■
中内幹細胞制御
24
■
近藤誘導分化
30
■
下田ナノ液体プロセス 24
■
宮脇生命時空間情報
■
橋本光エネルギー変換システム 24
■
十倉マルチフェロイックス
24
98 ▶ 03
97 ▶ 02
25
■
五神協同励起
30
■
井上過冷金属
30
■
難波プロトニックナノマシン
30
■
堀越ジーンセレクター
31
90 ▶ 95
89 ▶ 94
88 ▶ 93
87 ▶ 92
05 ▶ 10
■
■
■
浅田共創知能システム
25
■
上田マクロ量子制御
25
■
岩田ヒト膜受容体構造
25
■
長谷部分化全能性進化
25
■
金子複雑系生命
25
■
中村活性炭素クラスター
26
■
下條潜在脳機能
26
■
加藤核内複合体
■
■
96 ▶ 01
池田ゲノム動態
36
■
榊量子波
36
■
増原極微変換
36
■
水谷植物情報物質
36
■
西澤テラヘルツ
36
■
古沢発生遺伝子
37
■
国武化学組織
37
■
井上光不斉反応
31
■
横山情報分子
31
■
後藤磁束量子情報
37
■
月田細胞軸
31
■
宝谷超分子柔構造
37
■
稲場生物フォトン
37
■
加藤たん白生態
32
■
土居バイオアシンメトリ
32
26
■
御子柴細胞制御
32
合原複雑数理モデル
26
■
高柳粒子表面
腰原非平衡ダイナミクス
26
■
平尾誘起構造
32
■
小林高機能性反応場
26
■
山元行動進化
32
■
前田アクチンフィラメント動態
27
■
高井生体時系
33
■
大野半導体スピントロニクス
27
■
山本量子ゆらぎ
33
■
八島超構造らせん高分子
27
■
田中固体融合
33
■
審良自然免疫
27
■
橋本相分離構造
33
■
山本環境応答
27
■
広橋細胞形象
33
■
十倉スピン超構造
27
■
河内微小流動
33
■
中村不均一結晶
28
■
板谷固液界面
34
92 ▶ 97
■
31
31
93 ▶ 98
35
36
川人学習動態脳
舛本単一量子点
94 ▶ 99
外村位相情報
青野原子制御表面
■
■
95 ▶ 00
■
■
86 ▶ 91
■
吉田ナノ機構
37
■
黒田固体表面
38
84 ▶ 89
■
掘越特殊環境微生物
38
83 ▶ 88
■
早石生物情報伝達
38
82 ▶ 87
■
水野バイオホロニクス
38
■
林超微粒子
38
■
増本特殊構造物質
38
■
緒方ファインポリマー 39
■
西澤完全結晶
85 ▶ 90
32
81 ▶ 86
39
Completed Projects
20 09
- 2014
伊藤グライコトリロジー
理化学研究所 主任研究員 研究総括
終了プロジェクト
伊藤 幸成
ヒトを始めとする高等動物、植物、酵母など真核生物の細胞内にはアミノ酸で構成されたタンパク質に糖が結合した糖タンパク質が他種多様な形で存
在し、様々な生体現象に深く関与しています。特に高等生物においては糖タンパク質の糖鎖の構造多様性が多彩な機能(細胞間認識、細胞分化、癌化、
シグナル伝達、免疫応答、微生物感染など)に反映されています。最近になり、糖鎖がタンパク質立体構造形成過程に重要な関与を行っていることが知
られるようになり、糖鎖生物学における重要課題として注目されています。このような過程をしらべる上で、糖タンパク質を天然物から単離して利用する従
来の生化学的なアプローチには限界があります。本研究は、有機化学合成により糖鎖および糖タンパク質を精密に人工合成し、これらを用いた糖タンパ
ク質の細胞内外における作用を系統的に解析することによって、糖タンパク質の生体内における機能を深く理解しようとするものです。本研究は生命科学
における有機化学的手法の優位性を示すモデルケースになるとともに、
タンパク質の立体構造や糖鎖構造異常に起因する種々の疾病(アルツハイマー病、
プリオン病、糖鎖不全症など)
の解決、合成糖タンパク質医薬開発、新規な抗感染症薬開発における新たな研究の流れの創成が期待されます。
高柳オステオネットワーク
東京大学 大学院医学系研究科 教授 研究総括
高柳 広
骨は、脊椎動物が持つ特有な組織であるにもかかわらず、これまでその役割は、単に生体を支持し運動を可能にする硬い組織としての認
識に留まってきました。しかし近年の研究から、骨は単なる運動器の一部ではなく、外界の環境変動やストレスを感受し、免疫系など他の
生体系を能動的に制御している事が明らかになってきました。そこで本プロジェクトでは、骨と全身生体系との相互作用を分子レベルで解明
し、脊椎動物の生体系を「骨による外界からの刺激感受と骨による全身の生体系制御システム=オステオネットワーク」として捉え直し、この
オステオネットワークの解明を進めます。骨を中心とした感知・全身制御ネットワークというユニークな発想は、今後、骨と免疫系の相互作用
を明らかにする骨免疫学的アプローチをさらに発展させた概念として、これまでの生体における骨の役割を一転させる契機になると期待さ
れます。そして本プロジェクトの成果から、生命システムの理解を深めるのみならず、メタボリック症候群、炎症性疾患、異所性石灰化、肝性
骨異栄養症といった、骨と他臓器に共存する種々の疾患の解明や、それらに対する新薬開発の基盤となることが期待されています。
四方 動的微小反応場
大阪大学 大学院情報科学研究科 教授 研究総括
四方 哲也
生命の定義としてよく引用されているのは「進化可能な自律的化学反 応システム」です。しかし、すべての人がこの定義を受け入れている
わけでもなく、また、細胞の持つダイナミックな反 応容 器(動的微小反 応 場)
としての性 質がこの定義の中に十 分反映されているわけで
もありません。このプロジェクトでは、細胞の持つ性 質、すなわち1)
微小区画での反 応の高 効率性、確率性、頑 強性、2)
成長分裂する
微小区画による再帰性、3)
変異と選択による進化能の 3 点に着目して、これらの性 質をもつ動的微小反 応場を既 知物質から創りあげ
ます。そして、4)
その性 質を単細胞生物である大 腸菌などと比 較します。この創出と比 較のサイクルを繰り返すことによって、生命の最小
単位である細胞を新しい 視点から捉えなおし、人工 細胞 創出の設 計指 針を得ることを目指します。この目的を達 成するためには、細胞
生物学だけでなく、生化学、物理化学、理論生物学、また微小反 応場を設 計するマイクロ・ナノ工学などの多くの分野融合が 必要となり、
新しい領域を切り開く人材を育成することができると期待されます。
湊 離散構造処理系
北海道大学 大学院情報科学研究科 教授 研究総括
湊 真一
計算機は、産業プロセスの最適化や解析、マーケティング、バイオインフォマティクスなど、様々な情報処理に活用されています。近年の爆発的に
増大している大規模データを処理するためには、計算機ハードウェアの高速化だけでなく、膨大な離散構造データ(計算機が行う論理的な処理
を表現したデータ)を数学的に簡約化し効率よく計算する「アルゴリズム技術」の重要性が 高まっています。本研究領域では、基本的な離散構造
の1つである論理関数を処理する BDD
(Binary Decision Diagram: 二分決定グラフ)
と、
さらにその進化形である ZDD (Zero-Suppressed
BDD; ゼロサプレス型 BDD)の2つの技法を基盤とした離散構造処理系の研究に取り組みます。ZDD は、研究総括が独自に考案した BDD の
進化形で、疎な組合せの集合を効率よく処理する技法として世界的にも注目されています。これらの技法をさらに発展させ、多様な離散構造を統
合的に演算処理する技法を体系化し、システム検証や最適化、データマイニング、知識発見などを含む分野横断的かつ大規模な実問題を高速
に処理するための技術基盤を構築します。開発した処理系の実装技術は、国内外の研究者や産業界が利用しやすい形で提供していきます。
中嶋ナノクラスター集積制御
慶應義塾大学 理工学部 教授 研究総括
中嶋 敦
ナノクラスターとは、数個から数百個の原子・分子が集合した、数ナノメーターの大きさの超微粒子のことです。原子・分子より大きく、バル
ク固体よりも小さいナノクラスターは、そのどちらとも異なる特異な性質や機能を有することから、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなど
への応用が 強く期待されています。本研究領域は、シリコン複合クラスターおよび 有機金属サンドイッチクラスターをモデル材料として、ナノ
クラスターの合成・機能解析を行うとともにナノクラスターを配列集積させて太陽電池などのデバイスを作製し、これら実証データを足がか
りとしてナノクラスター物質科学の基 礎を確立するものです。ナノクラスターの応用可能性の探索にあたっては、クラスター化学の知見を活
用したナノクラスターの精密大量合成と同一環境下での配列集積、原子レベルでの物性計測・機能解析および集積物質を利用したデバ
イス
(太陽電池および光磁気デバイス)の創成を行い、新たなナノ物質科学の構築に取り組みます。また、これらの機能を活用した研究を
通じて、ナノクラスターを基盤材料とした新たなナノデバイス創成の道筋を提示することを目指します。
末松 ガスバイオロジー
慶應義塾大学 医学部 教授
研究総括
末松 誠
ジョンズ・ホプキンス大学
細胞工学研究所 教授 研究総括
グレッグ セメンザ
ガス分子(O2、NO、CO、H2S、CO2 など)
は、地球の太古における単細胞生物が外界の環境変化を感知する信号として利用してきたこと
が知られていますが、現代の哺乳類においても蛋白質、脂質や糖質などと同様に生体の構成成分として生物作用の発揮に重要な役割を
果たしています。本研究領域では、バイオシミュレーションを活用した代謝システム予測や、細胞内におけるガス分子濃度解析などのマクロ
的視点の研究と、細胞内におけるガス分子と代謝を促す分子(酵素)
との結合における分子構造の変化の解析など、代謝システム内に
おける化学反応の解明といったミクロ的視点の研究を相補的に行い、ガス分子が介在する代謝機構の解明を目指します。さらに、代謝
機構の解析により得られた知見を活用しつつ、酵素や代謝変動の局在の細胞レベルでの精密な解析、体内特定部位での代謝作用に
おけるガス分子の役割のより詳細な解明を進め、特定の臓器のガス分子環境の人為的な制御・調節の実現といったガス分子の特性
を利用した病態制御技術の基礎を確立し、がん研究や薬物代謝・毒性メカニズムといった応用研究への端緒を得ることを目指します。
22
終了プロジェクト
20 08
- 2013
袖岡生細胞分子化学
理化学研究所 主任研究員 研究総括
袖岡 幹子
生物が個体としての "生"を維持するために、個々の細胞の生死は厳密に制御されています。例えばさまざまな傷害により必要な細胞が 死んで
しまう場合にはネクローシス
(壊死)
とよばれるタイプの細胞死が 観察される一方で、不要な細胞は自ら死ぬしくみ、アポトーシスとよばれる細胞
死により除去されます。これらの細胞死のしくみに異常が生じると、がんや虚血性疾患、神経変性疾患などのさまざまな疾患を引き起こすこと
が知られており、細胞死の制御により新たな治療法、予防法を確立できることが期待されます。その為には、細胞死のしくみ、特にネクローシス
のしくみを分子レベルで理解し、その全貌を明らかにすることが重要です。本研究領域では、細胞死を制御しうる低分子化合物を開発し、細胞
死に関連するたんぱく質を同定し、それらの相互作用を生細胞で検出可能にする新しい化学的な手法の開発を行い、さらに同定したたんぱく
質の働きを調べることにより細胞死のしくみを分子レベルで解明することを目指します。また、研究過程で開発される新しい "細胞死制御分子 "
や生細胞解析手法は、細胞死の異常により引き起こされる疾患の治療薬の創製や、ほかの生命現象の解明にも役立つことが期待されます。
河岡感染宿主応答ネットワーク
東京大学 医科学研究所 感染・免疫部門 教授 研究総括
河岡 義裕
ウイルス感染症は、重篤な疾病を引き起こし多くの人命を奪うだけでなく、世界経済に大きな影響を与え、我々の生活に甚大な被害を及
ぼしています。現在、世界中で毎年多くの人がウイルス感染症に罹患していますが、インフルエンザウイルスは他の呼吸器ウイルス感染症と
比べ臨床症状が重く、肺炎合併による死亡者も多いことから特に注目されています。これまでの精力的な研究にも関わらず、インフルエン
ザウイルスの病原性と宿主応答との関係については、ほとんどわかっていません。そこでウイルス学的な情報と宿主応答の相関を、体系的
かつ包括的に理解するため、ウイルス・細胞生物学グループ、宿主細胞応答グループ、免疫グループ、計算システム生物学グループを設置
し、ウイルス感染に重要な細胞性因子および病原性発現と相関する細胞性因子の同定を行い、ウイルス感染に対する宿主応答のモデル
化ならびにデーター解析を行います。これらの解析により、ウイルス感染における宿主細胞応答のネットワークを明らかにすることができま
す。従って、本研究で得られる知見は、ウイルス感染症の新たな概念の確立と新規治療法の開発につながることが期待されます。
高原ソフト界面
九州大学 先導物質化学研究所 所長/教授 研究総括
高原 淳
液 晶、ゲル、界面活 性 剤、合成 高分 子、生体 高分 子、エラストマーなどの軟らかい 材料「ソフトマテリアル」は、機 能 性 材料として日常生
活の中で極めて重 要な位 置を占めています。また、ソフトマテリアルで形成される表面と界面「ソフトインターフェース」は身の回りの至る
所に存 在し、主として有 機 高分 子で形成され、有 限 の厚 みと、特 徴 的な動 的 特 性を有しています。従って、ソフトインターフェースの構 造
と動 的 特 性の精密 制 御は、この 分 野の科 学と工学の 発 展を促 進します。本プロジェクトは優れた特 性を有する自然 界 のソフトインター
フェースの材 料 設 計に学び、ソフトマテリアル の材 料 科 学を駆使して新 規なソフトインターフェースを創 製することを目指すと共に、高 性
能なソフトインターフェース構築のための普 遍 的な科 学的原 理の解明をも目指します。具体 的には、このプロジェクトを推 進するために、
1)精密有機・無機合成技術に基づくソフトインターフェースの分子設計、2)
自然界に学ぶソフトインターフェースの階層構造制御、3)
ソフトイ
ンターフェースのその場構造解析技術と動的特性評価技術の開発、さらに創製したソフトインターフェースの基礎的な機能特性を評価します。
岡ノ谷情動情報
東京大学 大学院総合文化研究科 教授 研究総括
岡ノ谷 一夫
情動情報とは、喜び、悲しみ、驚き、怒りといった心の状 態を他者に伝 達する表 情や音声、体の動きの情報のことです。私たちは、情動
情 報が 言 語と同様にある種の規 則 性(情動 文 法)をもって伝 達されるものであると捉え、その進化 過 程・発 達 過 程の生物学的な解 析
を基 礎として、情動情報の計算 科学的な符号化モデルを構築することを目指します。そのために、言語を獲得する前 後の乳 幼児、成人、
および 鳴き声でコミュニケーションする鳥やネズミなどの動物を研究対 象とします。本研究領域は、情動情報の生物学的基盤を解明し、
符 号化 技 術の創出を試みるものであり、従 来の情報 処 理技 術に欠けていた付 加情報を扱うための新たな可能性を示し、それによって
コミュニケーション効率を飛 躍的に増大させることが 期 待されます。たとえば、情動 情 報を付 加できる新しいタイプのインターネットブラ
ウザーの実現や、人の気持ちを理 解し親密なコミュニケーションを行えるロボットの開発といった新たなハードウェアあるいはソフトウェア
の実現に繋がっていくことが見込まれます。
20 07
- 2012
平山 核スピンエレクトロニクス
東北大学 大学院理学研究科 教授 研究総括
平山 祥郎
近 年の高度な情 報 処 理技 術は半 導体やハードディスクに見られるように電子の電荷やスピンの性 質を活用しています。一方、原子核の
持つ核スピンは電子スピンよりもスピンの向きが 変わりにくいため量子状 態を保 持しやすいという特 徴が あり、近 年、量子コンピュータ
への応用が 強く期待されています。しかし、核スピンは精密な制御が 困難であるためその応用が 制限されていました。この課 題を解決
するため本プロジェクトでは、ゲートにより精密制御可能な半 導体量子構造やナノマテリアルを用いて核スピンを精密に制御する技 術を
確立し量子 情報 処理のための半導体デバイスや超高感 度 NMR への展開を目指します。さらに、
核スピンを利用した精密測定を通して、
未 知の物理現 象を数多く見いだし、核スピンが 重 要な役 割を果たす新たなエレクトロニクス分 野の創出に繋げることを目指します。本
研究領域は、量子 情報 処 理技 術の実現に向けた核スピンを用いた多量子ビット量子デバイスの構築に繋がり、戦略目標「情報 通信 技
術に革新をもたらす量子 情報 処理実現に向けた技 術基盤の構築」に資するものと期待されます。
五十嵐デザインインタフェース
東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 研究総括
五十嵐 健夫
メディア表現のための技術では、スケッチから3次元モデルを作成する技術、布や紐などを自由に操作する技術、流体現象を含むイラスト
を描く技術、などの成果により、
「 訓練を受けていないユーザのための3次元CG制作・編集のための技術」という新しい流れを作り出しま
した。生活デザインのための技術では、拡張現実感技術を利用して家具や衣服デザインを行う技術、スケッチで椅子をデザインする技術、
家具モデルから製作のための構造を推測する技術、物理シミュレーションを利用して家具や衣服をデザインする技術、などの成果により、
「実世界で使うことのできる実物体のデザインを初心者でも簡単に行えるようにするための技術」という新しい流れを生み出しました。ロ
ボット行動デザインのための技術では、
カードを置くことでロボットに指示する技術、
マウス操作で服の畳み方や料理プロセスを教える技術、
俯瞰カメラ画像を使ったロボット操作およびプログラミング環境の技術、布を使った簡易的なセンサ技術、カメラ付き扇風機で風を制御す
る技術、などの成果により、
「ロボットや次世代家電のための多様なユーザインタフェース」という新しい技術の流れができました。
23
Completed Projects
前中センシング融合
兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授 研究総括
終了プロジェクト
前中 一介
世界 的な少 子高齢 化 、生活 習慣 病の蔓 延 、社会の複 雑化による大事故の発 生などに対応するべく、絆 創膏のような形態で体への貼
り付けを前 提とした超小型・低 消費電 力の生体 活動モニタリングシステムを、MEMS 技 術をベースにして構 築します。このシステムは、
長 期にわたり常時人の行動を見守り、疾 病の予防、健 康アドバイス、危険が 発 生しそうな場面での事前 警 告、転倒や事故などが 発 生
したときの即時通報などの機能を有し、安 全で安心な社会構築に貢 献します。研究は MEMS 技 術で多種 類のセンサ群を融合したデ
バイス構 築、超 低 消費電 力の集 積回路群の実現 、振 動や日射・熱による超小型 発電デバイスの試作、さらには生体信号 処 理 用の新
しいアルゴリズムの開発 や、
低 消費電力無線モジュールの開発、
市販デバイスによるデモモデルの試作と提 供など、極めて多岐にわたっ
ています。プロジェクト期間内では絆 創膏型システムの考え方や成 果について積 極的に啓 蒙を進め、今日ではウエアラブル 健 康管 理シ
ステムの核のひとつとして絆 創膏型システムが 認められるようになりました。
北川統合細孔
京都大学 物質 - 細胞統合システム拠点
拠点長/教授 研究総括
北川 進
カリフォルニア大学 バークレー校
化学・生化学科 教授 研究総括
オマール ヤギー
多孔性材料は非常に重要な機能性物質群であり、これまでゼオライトなどの無機固体や紀元前からの歴 史がある活性 炭のような炭素
材料を中心に研究が 行われてきました。北川研究 総 括は 1997 年に室温において内部のゲスト分 子を取り除いても安定な“多孔性”
配位高分 子(PCP もしくは MOF と呼ばれる)の合成に世界で初めて成 功し、その化合 物がメタンを吸 蔵、脱 着できることを実証
しました。この研究を契 機に、世界中で PCP の研究が 指数関数的に増加し、多様な物質が合成されると共にその機能が 追 及さ
れています。本研究では、分離あるいは吸着といった単独の機能を追 及した物質を合成する段階( フェーズ( I ))から、その機能発
現の場や環 境を強く視 野に入れた新 物質、新機能の開発を行う段階(フェーズ
( II )
)へ展開しました。PCP のソフトな性 質およ
び細孔 機能の両統合という新概 念のもと、
様々な場において優れた機能を発揮できる物質の開発を行いました。PCP 材料は、
環 境、エネルギー、資源、生命に関わる気体を自在に操作するサイエンス、テクノロジーへの貢献が大いに期待されています。
中内幹細胞制御
東京大学 医科学研究所 幹細胞治療研究センター 教授 研究総括
中内 啓光
臓 器 不全症に対する治療には人工 臓 器あるいは他 人からの臓 器 移植による臓 器置 換 法が主 流ですが、近 年、新しい治療 法として胚
性幹 細 胞(ES 細 胞)
や人工多能 性幹 細 胞(iPS 細 胞)
などの幹 細 胞を用いた再生医 療が注目を浴びています。しかし現在の再生医 療
が目指しているのは細胞療法が主体であり、複雑な細胞間相互作用をその発 生 過程に必要とする臓器を試 験 管内で再生することは不
可能と考えられています。本プロジェクトでは Blastocyst Complementation(胚 盤 胞補完)法を用い臓器を異 種 動物 個体内で再
生することを目指し、(1) 小 動 物を用いてのコンセプトの検 証 (2) 大 動 物による臓器 再生・移植を進め、世界で初めて、異 種 動 物 個 体
内で膵臓を作 製することに成 功しました。また、造 血幹 細 胞の制御 機構の解明など臓器 再生の基になる知見も得られました。将 来 的
にヒト臓器が 家畜を利用して再生できるようになれば、多くの患者を救済できるだけでなく、ヒトの臓器や組織を利用した創薬や医療関
連 産業にも画期的進歩をもたらすことが予想されます。
20 06
- 2011
下田ナノ液体プロセス
20 0 6
北陸先端科学技術大学院大学 グリーンデバイス研究センター 教授 研究総括
- 2011
下田 達也
現在の I T社会は半導体を初めとするハイテク電子デバイスの進歩に負っています。ハイテク世界では技術パラメータは高度に煮詰められ
ているように思われますが、エネルギー効率、資源利用効率は極めて低水準にあります。環境エネルギー面、国際競争力の面からその効
率を抜本的に改善することが強く求められています。このような課題を解決するため下田ナノ液体プロセスプロジェクトでは、ナノサイズの電子
デバイスを溶液法で直接形成する技術基盤を確立することを目標にします。そのためには溶液あるいは溶質のナノ構造と物性を解析し、分
子間力をベースとしたナノ物質輸送科学の新領域開拓と新ナノ構造液体の創出を行います。換言すると固体形成のゆりかごとしての溶液の
隠されたポテンシャルを引き出すことであります。得られた科学的知見を駆使してナノ電子デバイスを作成する技術の研究を推進します。当
プロジェクトの研究領域は、
高性能なナノデバイスを低エネルギー、
省資源で製造する技術基礎を創生することを目指すもので、
戦略目標「ナ
ノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」
に資すると期待されます。
宮脇生命時空間情報
理化学研究所脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム シニア・チームリーダー 研究総括
宮脇 敦史
生体としての調 和のとれた形態 形成や生理的活動は、それを構成する個々の細 胞が 互いに連 絡し合い、時空間的に正しく機能するこ
とで実現されます。細 胞の活 動の様 子を知るために、ディッシュに培 養された状 態での計 測がよく行われます。しかし、このような人工
的な環 境では、生体内での細 胞の活動を正しく反映できるとは言い 難いです。本プロジェクトでは、細 胞が示す増殖や移動,分化など
といった様々な生命 現 象を、本来の活 動の場である生物 個 体の中で計 測することで、その時空 間 的 制 御のメカニズムを解 明すること
を目指しました。 そのために、細 胞が 起こす生命 現 象を光の強さや色の変化として検出するための、蛍 光あるいは発 光を利用したプ
ローブを創出しました。そして、個 体に発 現されたプローブからの 光を三 次 元 的に高い解 像 度で観 察し、その時 間 変化を可 視 化する
ための顕 微 鏡システムと計 測 技 術を開 発しました。これらにより、生物 個 体を対 象としたライブイメージングの技 術 革 新とその実 践 的
応用を行いました。
橋本光エネルギー変換システム
東京大学大学院工学系研究科教授 研究総括
橋本 和仁
「最先端の基礎化学の成果を利用することにより、新たなエネルギー変換技術
(特に太陽エネルギー)
を開発し、人類・社会に貢献する」の目標の
もとで、希少金属などを使用せず自然界にありふれた安全・安価な材料(有機物質や、酸化鉄・硫化鉄などの鉄化合物、さらに微生物)
でエネル
ギー獲得を行うという考え方で、以下の研究を進めてきました。有機薄膜太陽電池では、より高い太陽光エネルギー変換効率を実現させるため、
50 以上の光学的バンドギャップの狭い新規ポリマー設計・合成を進め、2010 年には、太陽光照射下における短絡電流密度が 23.7mA/cm2
という、既報告中では最高値を示すポリマーの開発に成功しました。人工光合成の開発においては、Mn 系酸素発生触媒の高活性化にも取り組
み、世界で最初に Mn 系触媒を介した水の酸化反応の中間体検出に成功し、過電圧の低下が切望されている酸素発生触媒に対して明確な設
計指針を与える成果を得ました。微生物燃料電池おいては、遺伝子工学的手法により電流生産量が野生株よりも 50%高い変異株の作成に成功
し、また電極表面をカーボンナノチューブなどで被覆することにより、出力密度が従来の 5 倍以上も増加するという結果が得られました。
24
終了プロジェクト
十倉マルチフェロイックス
東京大学大学院工学系研究科教授 研究総括
十倉 好紀
固体中の電気作用と磁気作用の相関は、古くより物性物理学の主要なテーマであり、現代のスピントロニクスでさえ、そのうちの磁気抵抗効果や磁気ドメイン壁の電流駆動など、そ
の僅か一部が実用化されようとしているに過ぎません。ここでのマルチフェロイックスの科学は、
「 磁性絶縁体において磁気構造と電気分極の相関を増強し、これによって、電気ー磁
気の相互制御を巨大化して実証する 」というものでしたが、これも、
「固体中の強く相互作用する多数の電子が創発する新しい電気磁気力学」の重要な一分野です。ただ、この狭義
のマルチフェロイックス科学についてさえ、そのメカニズムの多様性、物質の多様性、創発的な電気磁気効果特性の出現、など探索すべき真理と解決すべき課題は山積でした。本プ
ロジェクトの集中的な研究と、これと同時に世界的な規模で起こったマルチフェロイックス科学の研究の隆盛によって、磁性体がつくる固体中の電気分極についての物理概念は、完
全に面目を一新したと言っても過言ではありません。磁場作用が電気分極ベクトルを変化せしめる現象は、今や極めて多くの物質群で観測され、その微視的メカニズムも、群論予測
のレベルを超えて定性的に、ある場合には定量的にも、理解できるようになってきました。一方、電気的作用が直接、磁気構造に変化をもたらす例も集積され、何が現象を律速して
いるかの理解も大幅に進みました。本プロジェクトによって、マルチフェロイックスの科学は確実に「新しい科学技術の流れ」となった、あるいはその流れの形成に大きく寄与しました。
20 05
- 2010
浅田共創知能システム
大阪大学大学院工学研究科教授 研究総括
浅田 稔
近 年の脳 科 学は、最 先 端可視化 技 術の発 達により、様々な脳活動を計 測し、更なる解 析と新たな課 題を生み出しつつありますが、現
象の説明で終わることが 多く、内部メカニズムの動 的なシステムとしての記 述に欠けていました。そのため、実世界で起きている、他者
を含む外部 環 境との相互作用のモデル 化が 困 難でした。21 世 紀の生命 科 学では、この課 題を多様なアプローチにより解決すること
が 望まれています。本プロジェクトでは、構成的手法による人間の認 知発 達 過程の理 解を目的として、身体的共創知能、対人的共創知
能、社会的共創知能、共創知能 機構の4つのグループにより、この課 題にアタックし、いくつかの認 知発 達 過程のモデル 化及び 関与す
る脳内基 盤の対応づけを可能としました。また、二歳 児までの運 動 発 達プロセスの機能を実装し、ロボット研究者のみでなく幅 広い分
野の研究者が 使 用可能な各種ロボットプラットフォームを開発し、大きな成 果となりました。今後は、これらに基づき、新たな理 解を創出
する多くの成果とそれらの集約による新 分野の確立が 期待されます。
上田マクロ量子制御
東京大学大学院理学系研究科教授 研究総括
上田 正仁
レーザー冷 却 技 術の進 展により、温 度、原子 数密度、閉じ込 めポテンシャル の形 状と次 元 性、なかんずく原子 間 相互作用の強さと符
号など、極 低 温 原子集 団の 性 質を決 定するほとんどすべての 物 質および 外 部 環 境 パラメーターを連 続 的に変化させられる、究 極の
人工量子 物 質が 誕 生しました。このような背景の下、
「上田マクロ量子制 御プロジェクト」では、絶 対零度 近くに冷 却された原子あるい
は分 子集団を形 状可 変な電磁ポテンシャルで超高 真空中に孤 立させた理 想環 境下に置くことで、原子(分 子)間相互作用、原子-光
相互作用、不 確 定性関 係を高い 精度で制 御する方法の確 立を目指して研究を行ってきました。その結 果、ユニタリーフェルミ気体の熱
力学的 性 質が 物質の詳細によらない普 遍的 性 質をもつことを明らかにしました。また、振 動と回転のみならず並 進 運 動の自由度も凍
結した極低 温分 子の生 成に成 功しました。更に、冷 却原子気体を微小な光 共 振 器と組み合わせることにより、原子 一 個で光 子 一 個
をまた後者で前者の量子状 態を互いに制御する技 術を確 立しました。
岩田ヒト膜受容体構造
京都大学大学院医学研究科教授 研究総括
岩田 想
ヒトの G 蛋白質共役受容体(GPCR)
は医薬品の主要な標的であり、その X 線結晶構造解析は構造生物学にとって重要な課題です。プロジェ
クトの開始時、技術的に困難な点が構造決定に至る過程にあったため、
1つもその構造が解かれていませんでした。プロジェクトでは(1)
発現・
精製(2)
結晶化( 3)
データ測定という3 つの領域の基盤技術開発を平行して実施し、開発した技術を用いて GPCR の構造解析を達成する
ことを目指しました。なお、モデル膜蛋白質を技術開発の促進に利用しました。Green Fluorescent Protein 融合蛋白質として GPCR を発
現させる出芽酵母の系で、安定化変異体をスクリーニングし、メタノール資化性酵母又は昆虫細胞で大量培養を行い、機能を維持した GPCR
を生産する方法を確立しました。リポソーム免疫法や抗体スクリーニング方法を開発し、GPCR の構造を認識し安定な複合体を形成する抗体
を作成する方法を確立しました。この複合体を蒸気拡散法で結晶化する以外に、キュービック液晶法を導入しました。インペリアルカレッジと共
同して放射光施設ダイアモンドでデータ測定法を開発し、最終的に 3 種類の GPCR、5 種類のモデル膜蛋白質の構造解析に成功しました。
長谷部分化全能性進化
自然科学研究機構基礎生物学研究所教授 研究総括
長谷部 光泰
動物、植物ともにひとたび分化した細胞を幹細胞にプログラムしなおす
(リプログラム)
ことができます。植物は高いリプログラミング能力を
持ち、簡単な処理だけで幹細胞を作れることが知られていました。しかし、その分子機構はほとんど明らかになっていませんでした。ヒメツ
リガネゴケはこれまでのモデル植物とは違い極めて高い分化全能性を持ち、陸上植物で最も容易に遺伝子ターゲティング法が 行えます。
我々はヒメツリガネゴケゲノム解読を出発点とし、分化した葉細胞を幹細胞に容易に変えることができる幹細胞誘導因子 STEMIN 遺伝子
を発見しました。また、哺乳類の多能性幹細胞誘導を引き起こす因子がヒメツリガネゴケの幹細胞化も誘導するが、その分子機構は哺乳
類と異なることもわかりました。これ以外にも多くの遺伝子がリプログラミングに必要であり、それらの相互作用を明らかにし、リプログラミ
ング過程における遺伝子ネットワークの概要を明らかにしました。さらに、シダ植物ゲノム解読を通して、これらの因子が陸上植物全体の中
でどのように進化したかを推定し、本プロジェクトの成果を将来的に品種改良などに利用していくことが 可能であることがわかりました。
20 04
- 20 09
金子複雑系生命
20 0 4
東京大学大学院総合文化研究科教授 研究総括
- 20 0 9
金子 邦彦
本プロジェクトでは、ゆらぎの多い 素 過 程が 多く絡みあっている生命 現 象の普 遍 的 性 質を定 量的レベルで理 解するため、
「 複 雑系生命
科学」の樹立に挑みました。
具体的には、
(1)人工複製細胞系の構築と複製維持をする細胞状 態の条件、
( 2)
人工遺伝子回路の実験を
もとにシグナル 伝 達系 不 要の一 般的適 応 原 理を発見、
(3)粘菌を用いた指 揮者不 要の多細 胞 組 織化のダイナミックな仕組みの発見、
(4)大 腸菌進化実験を踏まえた表現 型揺らぎと進化しやすさの関係の定 式化、
( 5)
異 種 生物間の共生における可 塑性の制御の解 析、
( 6)統 計力学による遺伝 子 発現 測 定精度の画期 的向上など、生命システムが満たす普 遍 的 論 理を発見し、理論 的な定 式化を行いま
した。これらの成 果は、既存の分子生物学やシステム生物学と相補的な役割を担う新学問分野「複 雑系生命 科 学」を切り拓きました。
また、生体ゆらぎにヒントを得た情 報ネットワークやロボットの新たな制御法の研究が 始まり、さらに「細 胞を創る研究会」
「定 量 生物学
の会」といった研究会が 発足するなど、複雑系生命 科 学における理論と実験の協働が目に見える形で動き出しています。
25
Completed Projects
中村活性炭素クラスター
東京大学大学院理学系研究科教授 研究総括
終了プロジェクト
中村 栄一
「化 学の力によって炭 素に内在する性 質を引き出し、新しい 性 質を付与する」という考え方を基 本に、化 学 機能、物 性機能、生物 機能などを付
加した「活性炭素クラスター」化合物群を創出するとともに、産業に役立つ技術基盤を築くことを目指しました。その結果、高分解能電子顕微鏡
(TEM)を用いた研究では、
「 有機分子の動き」の観察に成功し、分子同士の反応の様子を観察できることを実証しました。また、光電変換機能、
発光機能などを有する有機太陽電池や有機 EL 素子として有用な新規化合物群の創出に成功しました。さらに、電子供与体/電子受容体のナ
ノ階層構造をデザインするという合目的的な設計指針を提 案し、新規フラーレン誘導体を用いて有機薄膜 太陽電池の高効率化を実現しました。
本プロジェクトで生み出された多種多様な構造を持つフラーレン誘導体の量的供給は、新しい科学技術の潮流を生み出し、イノベーションに繋が
る材料開発のプラットホームとなることが 期待されます。これらの新規化合物群に有用なデバイスの開発は、有機薄膜 太陽電池などの実用化に
向けた材料開発の基盤技術を提供するものとして、さらに高性能な新規デバイスの開発により産業界に広く貢献することが 期待できます。
下條潜在脳機能
カリフォルニア工科大学生物学部教授 研究総括
下條 信輔
神 経科 学の最後の謎である「意 識 」
「情動」
「意 思 」の決 定機構は、その計 測方法 や 仮 説と研究 方法を繋ぐ 哲 学の欠 如などのために
未 解決のままでした。近 年の脳 機能イメージング法の急 速な発 達により、心 理認 知 機能の主観 的 / 機能 的な側面、神 経 生理メカニ
ズム、計算アルゴリズムの三者を直 接 対応付ける学際 的アプローチが 可能となりつつありました。そこで、潜 在的あるいは無 意 識下に
おける脳 機能(潜 在 脳 機能)を認 知心 理学的 観 点から理 解することを目指し、心 理物理、行動、脳生理、薬 理、情 報工学の幅 広い分
野から多くの優 秀な若手 研究者を結集させ、それまで概 念であった潜 在 脳 機能について、その実 態 解明につながる成 果を得ることが
できました。潜 在 脳 機能として、基 本 的な2軸(新 奇 性 / 親 近 性、プレディクティブ
(予測 的)
/ポストディクティブ
(理由の後 付け)
)の発
見、音に対する選 好 形成メカニズムの解明、視 覚 / 体性 感 覚から運 動 指 令生 成に至る情 報 処 理 過 程や嗜 好の脳内機構の解 析を行
い、潜在 能力の開発法、医療、アート/エンターテインメント支援システムの開発などにつなげていく萌芽を形成することができました。
加藤核内複合体
東京大学分子細胞生物学研究所教授 研究総括
加藤 茂明
本プロジェクトでは、動物細胞核内に存 在する巨大複合体の同定、およびその機能 解 析を目指し、未だ報告のない超巨大複合体 群の同定も
試みました。その結果、これら核内複合体が、選 択 的な遺伝 情 報管 理において中心的な役 割を果たすエピゲノム制御因子(DNA 塩基 配列を
変化させずに遺伝子の働きを制御する因子 )として機能していることなどを次々に明らかにすることに成功しました。特筆すべき成果のひとつとし
て、細胞核内のタンパク質機能やエピゲノム調節の一つに、糖付 加反 応機構が 関与することを初めて証明しました。核内タンパク質の糖付 加反
応は、細胞外グルコース濃 度に依 存するため、糖尿病 等の代謝性疾 患との関連する可能性が 考えられ、白血病ガン細胞の分化誘導治療 薬の
一つとして、新たに糖鎖付加剤が応用できる可能性を示しました。核内複合体の多様 性や核内での幅広い 機能について、その一端を明らかに
し、エピゲノム制御における重要性を証明することができました。核内複合体が創薬の標的分子として極めて有望な候 補因子となりうることが証
明され、基 本的な生命現象の解明に留まらず、iPS 細胞などの再生医療、新規薬剤・治療法の開発研究など産業的な応用も期待されています。
20 03
- 20 08
合原複雑数理モデル
20 03
東京大学生産技術研究所教授 研究総括
- 20 08
合原 一幸
実 在する複 雑な諸現象を理 解するためには、普 遍性・一 般性を追求する分野横断的基 礎 理論と個々の現象の個別性・特 殊 性への洞
察に立脚した、非線形システム的理 解が重要となります。本プロジェクトでは、数理工学やカオス工学を基 礎に、非線形科学、生命 科 学、
医学、情報科 学、工学などの諸 分野と関連する「複 雑 数理モデル」に関する基 礎 理論を構築して、その多様な応用研究を展開するとと
もに、その結果をさらに基 礎理論研究にフィードバックすることにより、
「 複 雑 数理モデル」論の数理的体系化を目指して研究を進めまし
た。特に、1 )複 雑系および脳型コンピューティングの基盤 技 術の研究開発、2 )複 雑システムの非線 形解 析理論とその解 析ツールの研
究開発、3 )細 胞内および 細 胞 集団システムの複 雑 数理モデリング手法の研究開発に重 点的に取り組みました。今後も本プロジェクト
で構築した基 礎理論を基盤として、様々な応用数理研究の発展を目指しています。
腰原非平衡ダイナミクス
東京工業大学フロンティア研究センター 教授/ 東京工業大学大学院理工学研究科教授 研究総括
腰原 伸也
物 質の「非平 衡状 態 」を利用して超 高速 相スイッチなど新機能を持つ物 質を開 拓する研究を行いました。これまでに有 機電 荷 移動 錯
体の光 誘 起 相 転 移を基にした 超 高速 光スイッチ材 料と鉛フリーの電 気 歪 素 子材 料 の開 発 指 針を発 見する大きな成 果を得ました。ま
た 原子・電子 等の量子 的 粒子 やその集 団の「動き」を直 接 観 測すれば 、
「 百 聞は一見にしかず」の言 葉 通り、物 質 科 学 全 体に格別の
発 展をもたらすと考えられます。そこで、外からの刺激に高速で変化・応答する電子 や原子の動きを捕まえるために、放 射光 施 設の量
子ビーム技 術とピコ秒 領 域の超 高速 光技 術を組み合わせた、新たな「超高速分 子動画 観 測 装置 」の建 設とその利用技 術を開発しま
した。この装置を用いて、強 相関系と呼ばれる新 物質 群の光誘 起 相転 移現 象 解明の他にも、生理活 性ガス分 子の移動に伴うたんぱ
く質分 子中でのドミノ倒し的変 形の解明や、溶液中光化 学反 応のダイナミクスの解明などに大きな成 果を達 成しています。
小林高機能性反応場
東京大学大学院理学系研究科教授 研究総括
小林 修
グリーンケミストリーの推 進は人 類の存続と発展に不可欠であり、今世紀の化学の最 重要課 題です。本プロジェクトでは、化学反 応が起
こる“場”を精密にデザインすることで反 応 場に高度な機能を付与し(高機能性 反 応 場の構築)、これを活用した高 効率かつ環 境 調 和
型化学プロセスの構築を目指しました。
「水溶液中での有機 合成反 応」と「高活性かつ回収再使 用可能な固定化触 媒 」の基 礎研究か
ら開始し、完全 水中における高選 択 的な不 斉 合成 反 応、種々の高機能 性高分 子固 定化 触 媒および それらを用いる環 境 調 和 型 酸 化
反 応や省資 源 型 還 元反 応等を実現しました。その結果、省資 源・省エネルギー・環 境保 全型化 学プロセスの構築に大きく貢 献し、本
プロジェクト最終年度からは、これらの成果を基盤とした実用化研究「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤 技 術開発プロジェ
クト( 経済産業省 )」がスタートしています。
26
終了プロジェクト
前田アクチンフィラメント動態
名古屋大学大学院理学研究科構造生物学研究センター長/ 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻教授 研究総括
前田 雄一郎
筋 肉中でアクチンフィラメントは固 定 長 の構 造 体として存 在し筋 収 縮とその調 節を担います。一 般の 細 胞ではアクチンの重合・脱 重合
の循環 的 分 子 運 動が 細 胞 運 動を駆 動し、多くの細 胞 機能を担います。蛋白質アクチンが見せるこれら多彩な挙 動をアクチンフィラメン
トの構造とその揺 動から解 明し、私たちの蛋白質 理 解を深めたいというのが 私たちの 研 究目標です。本プロジェクトでは(1)新しい 構
造 解 析 法を編み出してアクチン重合体の高分解能 構造をはじめて解明し、重合に伴ってアクチン分 子は平板化することを発見しました。
(2)
アクチンフィラメント端の構造を解明するためのクライオ電子 顕微 鏡法を開発し、それを使って蛋白質 CP(キャッピング・プロテイン:
CapZ )がフィラメント端での重合・脱 重合を調 節するメカニズムを解明しました。このように本プロジェクトは蛋白質の繊 維 状 会 合体の
構造 解 析 法を開発しつつ、原子構造を解明し、さらにその構造に基づいてアクチンフィラメントの作 動原 理を解明する研究で重 要な貢
献をしています。
20 02
- 20 07
大野半導体スピントロニクス
20 0 2
東北大学電気通信研究所教授 研究総括
- 20 07
大野 英男
半 導体において電荷とスピンの両方を制御するため、新たなスピン現象の探索とそれらを利用した半 導体スピントロニクス素子の開発
を進めています。第一に、強 磁 性半 導体(Ga,Mn)As においてパルス電流による磁 壁 移動を低電流密度で実証し、その機構がスピン
流と局 在スピンの相互作用によること、および 磁 壁のクリープ 運 動が、パルス電 流と磁界 駆 動とでは 異なった普 遍 性(Universality)
に属することを明らかにしました。第二に、
(In,Mn)As および(Ga,Mn)As チャネルの電界効果 型トランジスタで、保 磁 力の電界制御
と電界アシスト磁 化 反 転を実 証しました。これらは 将 来 の電 気 的 磁 化 反 転 技 術として発 展が 期 待されます。第三に、GaAs/AlGaAs
量子井戸内で電子スピンを光で操作・検出し、超微細相互作用の電界変調を利用した核スピン分極の制御、r f パルス磁場照射で生じ
るラビ振 動の光 検出、スピンエコー法による核スピンの局所 的 位 相緩 和 時間の決 定を行いました。これにより核スピンコヒーレンスの
利用に道が 開けます。
八島超構造らせん高分子
名古屋大学大学院工学研究科教授 研究総括
八島 栄次
DNA やタンパク質などの生体高分子には、らせん状のものが 数多く存 在し、生命の維持に重要な役割を果たしています。本プロジェク
トでは、
「生命の機能発 現の鍵となるのは「らせん」であり、分 子 や高分 子にらせんを付与できれば、生体高分 子に迫る、あるいはそれ
を越える機能を引きだせる」という基 本 構想のもと、らせんの形をした新しい分子や高分子を次々と合成し、その形と物性、機能との相
関を調べ、化学と生命 科 学の境界領域の開拓を目指しました。DNA の情報機能とタンパク質の触 媒 機能をあわせ持つ分子の合成を
意図し、触 媒 活 性のある相補 性の鎖を有する右巻き二重らせん分 子を合成し、そのオリゴマーによる DNA 類 似の完 璧な鎖 長と配列
の認 識に成 功しました。また、高分 子が二重に絡まりらせん構造を形成することで、丈 夫な高分 子ができることを実証する一方で、らせ
んの形や向きを顕微鏡を使って直接 観る方法の開発にも成 功しました。
審良自然免疫
大阪大学免疫学フロンティア研究センター拠点長/ 大阪大学微生物病研究所教授 研究総括
審良 静男
病 原体の生体 内 侵 入を感 知し排 除する生体 防 御システムである免 疫 系は、自然 免 疫 系と獲 得免 疫 系から成り立っています。これまで
に自然 免疫系は非 特異的な免疫 反 応として注目されていませんでした。しかし最 近、Toll-like receptor(TLR:Toll 様 受容体)
が病
原体に特 異 的な構 成 成分の認 識に重 要な役 割を果 たしていることが 明らかとなりました。本プロジェクトでは、1)TLR の 役 割、及び
TLR の病原体認識 特異性が、どのように細胞内シグナル 伝 達 機構により制御されるかを遺伝子欠損マウスを用いて明らかにしました。
2)TLR 非依 存性 RNA ウイルス感 染認 識 機構として RIG-I / MDA5 という分 子の役 割を明らかにし、そのシグナル 伝 達に必要な分
子 IPS-1 を同定しました。また、ウイルス DNA も TLR 非依 存的に認 識されていることを明らかにしました。このように、本プロジェクト
は自然免疫系による病原体認識メカニズムの解明において重要な貢献をしています。
山本環境応答
東北大学大学院医学系研究科教授/ 筑波大学大学院人間総合科学研究科 客員教授 研究総括
山本 雅之
遺伝 子 改 変マウスを利用して、 低 酸 素 環 境に応答して赤血球を増産するメカニズムについて、 遺伝 子レベルで解 明を進めています。
また、有害な化 学 物 質(「親電子 性物 質 」)に対する防 御 系 酵 素 遺伝 子の誘 導 発 現を促 進する転写因子 Nr f2 を発 見し、Nr f2 が 発
がん予防に関与することを明らかにしました。Keap1 は Nr f2 の抑 制 性制 御 因子であるが、同時に環 境ストレスのセンサー分 子です。
Keap1 タンパク質の結晶 構造を解 明し、また、一 部のヒト肺がん細 胞から Keap1 機能に重 大な変化を及ぼす変 異を検出したので、
Nr f2 と Keap1 の構造機能 連 関の解 明に取り組んでいます。さらに、薬 剤によりゼブラフィッシュに多 数の突 然 変 異を惹 起し、Nr f2Keap1 経 路に異常のある変 異フィッシュの同定を進めています。それらの原因遺伝 子を究明することにより、新規 環 境 応答遺伝 子の発
見を目指しています。
20 01
- 20 06
十倉スピン超構造
東京大学大学院工学系研究科教授/ 20 01
産業技術総合研究所強相関電子技術研究センター長 総括責任者
- 20 0 6
十倉 好紀
固体中で強く相互作用する電子集団は、波 動関数の強い重なりを保ちつつも、原子サイトまわりになかば局在して、スピンや軌 道のナノ
メートル周期の秩 序構造を示し、これらは、しばしば、量子論 的な興味深い 性 質を現出します。本プロジェクトでは、このようなスピンお
よび 軌 道 超構造体の示す特異な電 気 磁気 応答の研究に、理論、物質、物 性開拓の統 合 的な観 点から取り組みました。その結果、互
いに傾いたスピン集団が示すカイラリティに起因する巨大な電気磁気 効果や異常磁気電流 効果、スピンと分極の組み合わせとしてのト
ロイダルモーメントが 誘 起する特異な電磁 波 応答といった新 現 象・物 性を発 現させることに成 功しました。さらに、遷移金 属酸化 物の
超 格 子 作 製 技 術による興 味深い電磁 応答を示すスピン超 構造 体を設 計・開 発する一方、電子 線、放 射光 X 線、中性子散 乱といった
さまざまな手法を用いた機能性スピン超構造の計測にも成 功しました。
27
Completed Projects
中村不均一結晶
カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 総括責任者
終了プロジェクト
中村 修二
青 色 LED(発 光ダイオード)の材料として知られている GaN 系 半 導 体は、GaAs などの従 来の結晶と比 較すると、均 一 結晶を得るの
が 困難でした。また、結晶の不均一 性が大きいにもかかわらず極めて発 光 効率が 高いという特 徴がありましたが、その物理メカニズム
は未 解 明のままでした。本プロジェクトでは、これらの課 題を解決することで、従 来の青・緑・白色LEDの特 性を大 幅に改善し、本 格
的な固体照明の到来をもたらす技 術を生み出しました。以下に成 果の概 要を記します。○アンモノサーマル法によるバルク GaN 結晶
成長法への端緒を拓きました。○ 従 来の GaN 系半 導体 材料では利用されていなかった非 極性・半 極性面での高品 位 結晶成長 技 術
を確立し、次世代 LED、レーザーダイオードへの道を拓きました。○ GaN 系半導体 材料における非輻射中心の起源 解明など、この材
料系の物理的理 解を深めることで、幅広いデバイス設 計への指 針を与えました。
吉田ATPシステム
東京工業大学資源化学研究所教授 総括責任者
吉田 賢右
生物が行う代謝反応の基幹である「ATP システム」の分子機構を生化学、タンパク質化学、遺伝子工学、1 分子観察と 1 分子操作な
どの方法を駆使して解明することを目指しました。研究により、FoF 1 ─ ATP 合成酵素の回転と触媒反応の対応が明らかになりました。
更に、ATP 合成酵素には、細胞内の ATP 濃度を感知して合成速度を制御する仕組みがあるらしいことを見出しました。また、細胞
内の酸性小胞でプロトンポンプとして機能している V 型 ATP アーゼが、回転モーターであることを証明しました。一方、植物の ATP
合成は、光合成反応とリンクした酸化還元反応を利用して制御されていることを示しました。これらの研究は、人、植物、細菌など
広範な生物におけるエネルギー代謝の制御に係わる分子機構・細胞生理および代謝メカニズムの解明、環境応答ナノ分子マシーンの
開発、エネルギー代謝の病態等の理解へ貢献する重要な基礎を築きました。
柳沢オーファン受容体
テキサス大学サウスウェスタン医学研究所教授/ ハワードヒューズ医学研究所研究員 総括責任者
柳沢 正史
私達はオーファン受容体(そのリガンドが不明であり生理機能が明らかでない受容体)のリガンドハンティングを精力的に押し進め、
1998 年には食欲や睡眠の制禦に関連する新規の神経伝達物質オレキシンを単離・同定しました。本プロジェクトでは、このオレキ
シンの遺伝子欠損マウスを用いた研究により、突然深い眠りに陥る睡眠障害ナルコレプシーがオレキシンにより改善されることを明
らかにしました。また、オーファン受容体の GPR103 に対する内在性のリガンドの同定にも成功し、このリガンドが食欲、血圧調節
などに関与していることを明らかにしました。さらに、オーファン受容体の GPR7 に対する新規のリガンドとして NPB ならびに NPW
( ニューロペプチド B ならびに W )を単離・同定し、遺伝子欠損マウスの解析からこれらのペプチドがエネルギー代謝やストレス、
喜怒哀楽の感情制禦などに重要な役割を果たしている事を明らかにしつつあります。
20 00
- 20 05
今井量子計算機構
東京大学大学院情報理工学系研究科教授 総括責任者
今井 浩
本プロジェクトは将来をささえる新情報技術基盤の研究・技術開発を遂行することを目指して発足しました。その結果、量子計算・量子情報処理の
分野で多くの重要な成果を挙げることに成功しました。たとえば、従来のコンピュータでは不可能であった、確率1でリーダーの選出を行う問題に
ついて、それを可能にする量子計算を用いたアルゴリズムの性能の評価を行いました。また、量子計算機は量子回路の組み合わせからなるもので
すが、その回路図の設計指針を与える研究を行ないました。そしてどのような問題で量子計算機が従来の計算機の性能を上回るかについて研究
しました。また、量子計算機が実現した場合、現在の暗号システムが解読可能となることが知られています。そのような状況でも安全となる量子暗
号に注目し、その 150 kmの伝送実験を行ないました。理論面では量子暗号においてノイズに紛れた盗聴を不可能にするための符号化法につ
いて研究しました。さらに、これらの量子効果の源泉である量子エンタングルメントの定量化についても研究し、このテーマと量子状態を用いた通
信との関連を明確にしました。同時に、生成されたエンタングルメント状態の精度を検証する方法について研究し、その最適化にも成功しました。
相田ナノ空間
東京大学大学院工学系研究科教授 総括責任者
相田 卓三
通常、分子は多様な相互作用の環 境に置かれていますが、雑多な相互作用の呪 縛から解放すると、全く新しい性 質が見えてくるかもし
れません。本プロジェクトでは「分 子間 相互作用を高度に制 御することにより、分 子のもつ特 性を引き出し、新たな機能を導く」という
基 本 戦略のもとに、化学と他分野の境界領域を開拓することをめざしました。有機・無機を問わず、一義的に定まった空間に分子を孤
立させるための道具としての特異なナノ空間の構築と機能開拓をねらって、ナノスケールの空間の新しい使い方を探索し、デンドリマーや
メソポーラスシリカを対象とした研究を精力的に展開する一方で、超分子グラファイトナノチューブなど独自のモチーフを構築し、カーボン
ナノチューブのソフトマテリアル 化に成 功し、また超分 子グラファイトナノチューブによる分 子ソレノイドの可能性を提 案するなどナノマテリア
ルデザインへの新しい道標を築くことができました。
小池フォトニクスポリマー
慶應義塾大学理工学部教授 総括責任者
小池 康博
「フォトニクスポリマー」とは、ポリマー物質学と光学を融合することにより生まれた新しい光 機能性ポリマーのことを言う。光の偏波また
はフォトンが、高分 子の鎖やその集合体 、高 次 構造、更に巨大な不均一構造とどのような関わりを有するかをその起 源まで遡って検 討
することにより、既存の概 念では予測し得なかった新機能を創出し、それらの基 礎研究を基に、光 通信 等のフォトニクス分 野において、
新しいシステムを構築しうるフォトニクスポリマーを提 案し、実証している。家 庭内にギガビット超の高速 通信をもたらす GI 型プラスチッ
ク光ファイバ、及び 高精細ディスプレイ材料に大きな変革をもたらすゼロ複 屈折 性ポリマー並びに光散乱ポリマー導光 体 等が 実 用段階
にまで至っており、更に高精細・大画 面ディスプレイに直接 超高速 GI 型プラスチック光ファイバが 繋がれた ”Fiber To The Display”
システムの実現へ向けた研究を進めている。
28
終了プロジェクト
関口細胞外環境
大阪大学蛋白質研究所教授 総括責任者
関口 清俊
私たちの身体を構成する細胞は、周囲の細胞外マトリックスと呼ばれる構造 物との相互作用を通じて、その運命や挙 動を決めています。
本プロジェクトでは、細 胞ごとに最 適化された細 胞 外マトリックスの分 子的実体を解明し、それを生体外で再 構築するための基 盤づくり
を目指しました。その結果、トランスリプトーム情報を活用して細胞外マトリックス蛋白質を網羅的に探索する方法を初めて確立し、40 を
超える新規 細胞外マトリックス蛋白質を同定しました。また、細胞外マトリックスの中核となる基底膜に着目し、ほぼすべての基底膜 蛋白
質の生体内局在部位を網 羅的に解 析して、その結果が 高解 像 度の免疫組 織 染 色画像のまま閲覧できる世界 初のデータベースを構築
しました。さらに、細 胞 外マトリックスを構成する蛋白質の総 体を表す ”
マトリオーム”と概 念を提唱し、細 胞 外環 境 設 計に基づく新しい
細胞制御研究の領域を開拓しました。
19 99
- 20 04
樽茶多体相関場
東京大学大学院理学系研究科教授 総括責任者
樽茶 清悟
電子を微小空間に入れると「電 荷をもつ量子」としての姿が 現 れ 、そこでは 1 個単位で電子状 態を識 別・操 作することができます。プ
ロジェクトでは、半導体の微小 構造を作り、電子の量子力学的性質、特に低 次 元系特 有の相関現象、外 界の粒子(原子核、フォノンなど)
との相互作用、量子計算の物 理を探 究しました。研 究では、原子に類 似の単一量子ドット
( 人 工 原子)
、それを複 数個 結 合した人 工分
子を作り、電子 数を零から順に増やした時の電気伝導の変化を調べることによって、人工 原子におけるフント則の一 般性、人工分子に
おけるパウリ効 果、分 子 的電子状 態の存 在などを検 証しました。また、電子スピン状 態を厳密に制 御することにより、数々の多様な近
藤効果を発見し、人工原子の近 藤 物理の世界を拓きました。さらに、スピン交換結合 制御や単一電子スピンの読み出し実験に成 功し、
スピン量子計算実現へ道を開きました。
横山液晶微界面
独立行政法人産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門長 総括責任者
横山 浩
「液 晶のナノテクノロジー」を目指して、ナノスケールの界面 環 境と液 晶の自己組 織 性との協 奏が 生み出す、分 子集団の多様な高 次 構造
の世界を開 拓し、その形成 機 構の解 明と人為的 制 御による新 規な機 能の 発 現に取り組みました。探 索 的実 験と理 論・シミュレーショ
ンの 連 携を横 軸に、そして微 細 加 工・分析(トップダウン)
と合成・統 合(ボトムアップ )からのアプローチの 連 携を縦 軸にした 分 野横 断
的な研究開 発によって、これまでに例のない「三安 定 液 晶デバイス」の実現から、光 や電場で構造が大 幅に制 御でき、フォトニックデバ
イスに応用が 期 待される液 晶コロイド( 液 晶を媒 質とした微粒子 分 散系)の学理の発 展、液 晶の集団秩 序を生かした分 子モーターの
実現 、さらに微界面コンセプトに基づく分 子設 計による新 規なナノ構造 液 晶相の発見と分 子論の展開など、科 学と技 術にわたるナノ構
造 液晶の将 来 性を明示する、多くの先 導的な成 果を挙げることができました。ナノ構造 液 晶に関するこれらの成 果は、電気 光学デバイ
スの枠を超えて、生命 現 象の分 子的理 解とその利用にも新たな展開をもたらすものと期待されます。
細野透明電子活性
東京工業大学フロンティア創造共同研究センター教授 総括責任者
細野 秀雄
酸 化 物は、資 源 的に 豊 富で、大 気 雰 囲 気で安 定であり、環 境にやさしい 化 合 物 群である。こうした 酸 化 物 のもつ 光 学 的 透 明 性と
いう本 来 的な 特 徴を生 かしつつ、そのアクティブ な 電 子 機 能を探 求することを目標に研 究を行った。特に、層 状 化 合 物、ナノポーラ
ス化合 物など自然ナノ構 造を内蔵する化合 物に 着目して材料 の 探 索を行い、
「 広 範 囲に亘って電子キャリヤの制 御 可能な複 合 酸 化 物
(InGaO3(ZnO)m」
「p 型 高 伝導 率 化合 物
(LaCuOSe)」
「紫外透
、
明 伝 導 体(Ga2O3)」
「真
、 空 紫外透 明ガラス
(フッ素ドープシリカ
ガラス)」
「光
、 誘 起で導 電体化する透 明 典 型 金 属 酸 化 物(C12A7:H-)」
「活
、 性 酸 素を大 量に含んだ化合 物(C12A7:O-)」
「室
、 温・
大 気中で安定なエレクトライド」などの機能性化合 物を見出すことに成 功した。さらに、
「 反 応性固相エピタキシャル法 」と名付けた独自
の方法などにより、それら化合 物の高品質エピタキシャル膜を育成し、
「 紫外 発 光ダイオード」
「高性能
、
透 明薄膜トランジスタ」
「O、 ビー
ム発 生装置 」
「深
、 紫外光ファイバー」などの新機能デバイスを試作し、
「透明酸化物エレクトロニクス」の新しいフロンティアを開拓した。
黒田カイロモルフォロジー
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系教授 総括責任者
黒田 玲子
「カイロモルフォロジー(chiromorphology)
」は、chiral(左 右 非 対 称性)
と morphology(形態)を融 合させた造語で、ミクロから
マクロへの形態 形成のプロセスをキラリティーという切り口で探るという新しい 概 念を表現しています。分 子カイロモルフォロジー研究で
は、従 来、不 可能 だった固 体 状 態でのすべての 偏 光 現 象を測 定できる Universal Chiroptical Spectrophotometer(UCS)2
機 種を開 発し、それらも駆使して、固 体 状 態におけるキラルな環 境の創生、反 応、結晶 化 制 御、キラリティーの識 別と転写 等、固 体 状
態でのキラリティー研究への道を開くことができました。生物カイロモルフォロジー研究では、胚発 生のごく初期に母 親の遺伝 子で決ま
る巻貝 L.stagnalis のキラリティー決 定機 構の解 明を目指しました。その結 果、らせん卵割 過 程において遺伝 的に決まる右巻胚に特
徴的な細胞骨格ダイナミクスがキラリティー決 定に重要であり、左巻胚とは鏡像対称にないという、従 来の定説を覆す発見をしました。
19 98
- 20 03
大津局在フォトン
東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 総括責任者
大津 元一
従 来の光 科 学 技 術では光の回折によりその空間分解 能は光の波 長程 度に制 限されます(回折 限 界)。この限 界の打 破のために、本
プロジェクトは近接場 光を研究し、その応用としてのナノフォトニクス( 近接場 光を媒介としたナノ寸法物質間の局所的電磁 相互作用を利
用してナノ寸法の光デバイスを作製し、動作させる技 術 )
とナノフォトニクス(近接場 光を使った原子操作 技 術)を開発しました。まず量子
力学的な物理量をも矛盾なく記述できる近接場光 理論を構築しました。次にナノフォトニクスではナノフォトニクスイッチなどのデバイス、
ナ
ノ光化 学気相堆 積などの加工法などを開発しました。さらにアトムフォトニクスでは原子の偏向、誘 導、捕 獲、移動、解放などの方法を
開発しました。これらの成果は光科学技 術のパラダイムシフトを実現すると供に、ひろい応用を通じて 21 世紀の高度情報化・高度福祉
社会に貢献するところが大きいと期待されます。
29
Completed Projects
北野共生システム
(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所取締役副所長 総括責任者
終了プロジェクト
北野 宏明
生命現象は、多くの多様 性をもった構成物の巧妙な相互作用から成り立っている。このような系を、単なる複 雑系ではなく、各 々の要素
の「共 生系」
と捉え、その理 解方法の探 求を行った。これを、細 胞や 個 体発 生のレベルで探 求するシステムバイオロジーと、知能・行動
レベルでその工学応用・産 業 展開を目指した共生系知能の二つの方向で研究を行った。その結果、システムバイオロジーという新たな
学問 分 野の勃 興に大きな貢 献をし、その中でモデル 表 現言 語 SBML やロバストネスに関する一 連の理 論・実験 研究など、幾つか の
重要な技 術的・理論的枠組みを確 立した。これらの成 果はこの分野が急 速に発展する源となりつつある。共生系知能の分野では、人
間型ロボットにおける音 環 境 理 解や複 数 感 覚 融合などの先 端 的技 術を確 立すると共に、ロボットデザインという分 野を開拓し、商 業化
への道 筋をつけた。この結果、プロジェクトのスピンアウトとして、ロボット・ベンチャーが2社誕生し順調に成長している。
楠見膜組織能
名古屋大学大学院理学研究科教授 総括責任者
楠見 明弘
細胞が、多細胞生物の中で他の細胞と相互作用して機能するためには、細胞膜が 可 塑的で多機能なシステムとして働くことが 必須であ
るが、その構築 原理と作働機構の多くは未解明のままでした。本プロジェクトでは、1 分子ナノテクノロジー技 術を用いて、細胞膜の組織
化の機構と人工の素子や機械にはない可 塑性による細胞膜の多機能化の機構の解明を目指しました。その結果、細胞膜の機能発現
を制御する細 胞 膜コンパートメント化の仕組み/働きを解明し、細 胞 膜 上でのシグナル変 換システムの基 本 的なアルゴリズムの理 解を
深めることができました。これらの成 果は、細 胞と多 細 胞 社会の構造 形成 機構の新しい 概 念を樹立し、さらに、可 塑 的な多機能 素 子
の設 計に指 針を与えるものと考えられます。特に、細 胞 膜 上の情 報 変 換システムの理 解が 進み、バイオメディカル分 野、生命 科 学 分 野
に根本的な影響を与えると期待されます。
近藤誘導分化
大阪大学大学院生命機能研究科教授 総括責任者
近藤 寿人
1個の受精卵から体ができるまでの発生のプロセスは 、細胞間の相互作用がくり返され 、
そのたびに新しい分化が誘導されて次の相互作
用をひきおこすという連綿としたものであり、
また柔軟性に富んだものです。細胞分化とその誘導の分子機構について、それらの基本的なモ
チーフと変容 、
そのモチーフをちりばめるプロセス全体の骨格を明らかにする研究を展開しました 。メダカなどの小型魚を用いて発生にかか
わる多彩な突然変異体を沢山つくり、それらを手がかりとして個々の分子機構とプロセスの全容を明らかにする挑戦です。分化機構の主要モ
チーフであるWnt蛋白質を介した細胞間シグナルについては、分子生合成から分化制御に至る一貫した研究を実施し、また発生の柔軟な
性質を反映する組織再生機構の研究では、
トランスジェニックイモリなどを使った新しい研究を行いました 。
これらの研究成果は特に脳の領
域形成という具体的な課題の中に結実して、新しい発生像をもたらしています。この発生像は今後私達の健康の諸問題にも貢献することを
期待します。メダカという日本で育まれた実験動物を駆使して新たな研究を展開できたのも、ERATOのプロジェクトに相応しいものでした。
19 97
- 20 02
五神協同励起
東京大学大学院工学系研究科教授 総括責任者
五神 真
レーザー光と物質の相互作用を巧みに利用すると、物質系のランダムな熱 運 動を取り去り、極低 温の世界のように集団の量子現 象が
顕 在化する状 態が出現します。本プロジェクトでは、最 新のレーザー技 術を駆使して、光 励起を経由してこのような物質相を創りだす方
法を開拓すると共に、新しい物質相の物性と機能を探 求しました。原子気体から半 導体 、有機 化合 物、遷移金属酸化物に至る広い物
質系を対象とし理論実験両面から研究を進めました。アルカリ土 類 原子のスピン禁 制遷移を利用したレーザー冷却法を開拓し、常温か
らわずか 100 ミリ秒で数百ナノケルビン台の極低 温の原子気体を得る技 術を確 立しました。また、半 導 体における電子正孔系の多 体
量子相関による光制御機能の解明、電子正孔凝縮相の実現、モット絶縁 体である一次 元銅酸化物系の巨大非線形光学効果の発見な
どの成 果が 得られました。これらは多 体系の量子 物理学と次 世代の光技 術の両 面にとってブレークスルーにつながるものと期 待され
ます。
井上過冷金属
東北大学金属材料研究所所長・教授 総括責任者
井上 明久
通常の金属は融点以下では直ちに結晶化するが、特定成分(3 経験則)
の金属では過冷却液体が安定化することを見出してきており、本プロジェクト
はこの過冷却金属液体(過冷金属)
の高安定性の極限と機構を探求し、新たな物質科学の創出と新規な機能を持った金属材料の創製を目指した。
その結果、3 経験則を満たした合金では、
(1)高稠密充填、
(2)
新局所原子配列、
(3)
長範囲均質相互作用の特徴をもった新ガラス構造が生成され、
この新規原子配列構造が結晶への再配列を起こし難くして、過冷却液体が安定化することを明らかにした。相変態の観点からも安定化の機構解明
を図り、安定化した金属―金属系過冷金属の初期析出相は 20 面体局所原子配列を含む準安定な fcc-Zr2Ni 型相であるが、3 経験則をはずす元
素を少量添加すると初期析出物は正 20 面体準結晶となり、常に 20 面体的原子配列が関係していることを見出した。また過冷金属の究極の安定
化には合金成分、不純物が主要因子であることを証明し、新規な Fe 基、Co 基、Ni 基、Cu 基、Ca 基、Mg 基等のバルク金属ガラスやナノ結晶合金な
どを創製した。これらは、
光学用部品、
光通信用部品、
電磁気部品、
フレーム材、精密研磨部品、
スポーツ部材、装飾品などとして実用化されてきている。
難波プロトニックナノマシン
大阪大学大学院生命機能研究科教授 総括責任者
難波 啓一
細菌の運 動 機関であるべん毛は、20 数種 類の蛋白質からなる分 子機械で、細 胞 壁にあるモーターがプロトンの流れをエネルギーと
して、菌体外に長く伸びたらせん型スクリューであるべん毛 繊 維を回転させて推 進 力を発 生させている。研究により、フックやべん毛 繊
維を構成している蛋白質の構造を原子レベルで解明しました。この構造を基にべん毛がそのらせん形態を変える時に原子1個の精度
で働くスイッチ機構や、柔らかく曲がるがねじれには強いフックの仕組みを解明しました。電子 顕微 鏡 本体の改良と画像処 理ソフトウエ
アの改良で4Å の分解能を達 成し、べん毛蛋白質の重合 部を解明し、またべん毛尖端 部の構造を明らかにし、キャップと呼ばれる部品
が べん毛が自己 構築されるのを助ける様 子を解明しました。さらに、べん毛モータの回転計 測を行い、回転 角速 度のゆらぎを観 測で
きました。
30
終了プロジェクト
堀越ジーンセレクター
東京大学分子細胞生物学研究所助教授 総括責任者
堀越 正美
私 達の身体は遺伝子 DNA の遺伝 情報に基づいて形作られますが、
「細胞内において染 色体 DNA からどのようにして遺伝子が 読み出
されるか?」という機構に関しては多くの謎に包まれています。本プロジェクトでは、染 色体 構造をとっている遺伝 子 DNA の特定 領 域を
選択して遺伝 情報の読み出し
(転写)を制御する蛋白質「ジーンセレクター」を単離し、
その作用を解明する研究を行いました。その結果、
ヒストンのアセチル 化修飾を介して染 色体がグローバルに機能区分されるという、これまで全く考えられなかった遺伝 子 発現の制御 機
構を発見することに成 功しました。また、ヒストンアセチル 化 酵 素・脱アセチル 化 酵 素に代 表される正・逆 反 応 酵 素の活 性中心付近に
機能的な共 通モチーフ構造を見出しました。さらに、
「ジーンセレクター」の機能変 異実験を通して、多細胞生物で知られているアポトー
シス様の細胞死が 単細胞生物においても存 在することを発見しました。これらの成 果は、いずれもオリジナルな概 念に基づいて新仮説
を構築することを目指したものであり、その結果、このような多くの新しい「芽」を多岐の研究分野に生みだすことに成 功しました。
19 96
- 20 01
川人学習動態脳
エイ・ティ・アール計算論的神経科学プロジェクトサイバーヒューマンプロジェクトリーダー 総括責任者
川人 光男
計算 論 的アプローチ、心 理 学・非侵 襲 脳活 動 計 測 、神 経 生 理 学モデリング、ロボティックスの4つの手法を有 機 的に組み合わせ、学
習、思考、コミュニケーションなどのヒト脳の高 次 機構を計算論 的に解明することを目指した。その結果、ヒト小脳内内部モデルの存 在
証明、平 衡位置 制 御 仮 説と内部モデル 仮 説の統 合、インピーダンス制 御の実験 的 証明、大 脳 皮 質・大 脳 基 底 核・小脳の統 一学習モ
デル、階層多重 順 逆モデル対によるコミュニケーションの研究、下オリーブ 核のカオスによる低 発火 頻 度 符 号 化 等の新しい成 果が 得ら
れた。また、理論を計算の観 点から実証するため、ヒューマノイドロボットを開発、見まね学習、前庭 動眼 反 射、平滑 性眼球運 動などの
実装に成 功した。さらに、階層強化学習の実証として、起き上がりロボットを開発した。これらの研究は、脳の仕組み解明に新たなパラ
ダイムを与えるだけでなく、その成果が、リハビリテーションやロボット制御といった様々な応用に繋がることが 期待される。
井上光不斉反応
大阪大学大学院工学研究科教授 総括責任者
井上 佳久
医 薬などキラル 化合 物のニーズの高まりを背景に、光を用いる新 規不 斉 合成法の開 発と、光不 斉反 応を制 御するための指 導原 理の
解 明を目指した。その結 果、円偏 光のみを物理 的不 斉源とする絶 対不 斉 合成では Bonner らによる「 宇宙におけるホモキラリティー
創成仮説 」を支 持する知見を得、また、多 光 子 過 程を利用した絶 対不 斉 合成にも成 功した。光不 斉増殖系では、
「 光不 斉反 応の多次
元 制 御」による光 学 収率の飛 躍 的向上( 従 来の 7%から 100%を達 成)と「光不 斉反 応のエントロピー制 御 」という新 概 念を提 案し
た。超分子を用いる光不斉 合成でも、最高 41% の光学 収率を得るとともに、
キラル化合 物の絶対配置の新決 定法の開発に成 功した。
これらの成 果は、従 来のエンタルピー化学から、弱い 相互作用を制御するエントロピー化学 への発展とその応用に結びつくと期待され
る。
横山情報分子
東京大学大学院理学系研究科教授/理化学研究所主任研究員/ ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクター 総括責任者
横山 茂之
生物の複雑で多様な情報を処理する高度な情報処理システムとしての面に着目し、遺伝情報分子および細胞情報分子の改変により、新しい人
工情報処理システムを構築することを目的として研究を行いました。核酸合成酵素によって選択的に認識される非天然型の新規核酸塩基対
(x-y)
を創製した。xを鋳型 DNA に組み込み転写反応を行うと、RNA の x に相補的な位置に選択的に y が取り込まれた。x-y 塩基対を含む新たなコ
ドン -アンチコドンにより遺伝暗号を拡張し、mRNA の特定したコドンに対応させて非天然型アミノ酸をタンパク質に導入できた。非天然型アミノ
酸(3-ヨードチロシン)を選択的にサプレッサー tRNA に結合させる酵素変異体を創製し、無細胞系および培養細胞系において、タンパク質中の
任意の位置に 3-ヨードチロシンを取り込ませることができた。リン酸化 3-ヨードチロシン部位に選択的に結合する結合タンパク質 SH2ドメイン変
異体を創製した。本研究により、生物における情報分子の作用機構の解明に貢献することが出来、遺伝情報分子および細胞情報分子を統合し
た生体内での人工情報処理システム構築への基盤が出来ました。今後全く新しいプロテインエンジニアリングの開拓が期待出来ます。
月田細胞軸
京都大学大学院医学研究科教授 総括責任者
月田 承一郎
細胞が 極性を形成するのは、個体発 生における形作りの色々な場面でみられます。それぞれの細胞が 極性 形成 、すなわち細胞内の部
品をある方向に向かって配置する場 合、それぞれの細胞は基 本となる細胞軸を、自らの中に持っていると思われます。この様なすべての
細胞に普 遍的な座標軸を、細胞軸と呼びます。この軸の分 子的基 盤は何かについて、種々の生物の系で解 析を行いました。特に緑 色
蛍光タンパク質 GFP を用いて、軸が 変化する場 合に何が、どのように動くかを調べたのが、この研究の特 色であります。中心体に付属
する PCM-1 タンパク質より成る、中心体へ集 積する全く新しい 細 胞内オルガネラの発見、癌 抑制遺伝 子産物 APC の微小管に沿った
運 動の可視化、
ショウジョウバエ多核性 胞胚におけるカドヘリン - カテニン接着系のふるまいのライブ観察などの結果は、
これまでなかっ
た新しい動的な考えが 細胞軸研究には必要であることを示した、画期的なものです。また、酵 母を用いたアンフォルジンの同定と解 析
は、細胞軸の決 定に全く新しいタイプの機能が 必要なことを示しました。
19 95
- 20 00
舛本単一量子点
筑波大学物理学系教授 総括責任者
舛本 泰章
数ナノメートルサイズの半 導 体 微 結晶は量子点を構成し、かつ表面の割 合が 高いため、外 界 の影 響の強い 特 徴 的な量子現 象を示す
と考えられます。しかしサイズ分布のため、量子サイズ 効 果の精密な測 定や新しい 現 象の発見が 妨げられてきました。本プロジェクトで
は、高い空間分解能のレーザー分 光法を用い、単一の半導体量子点の本質を明らかにする研究を行いました。その結果、量子点中の
多励起子状 態やフォノン緩 和を明らかにし、量子点のデバイス応用の障害とされた問題について原理的な解を得ました。サイズ、濃 度、
配列を制御するⅢ - Ⅴ族 半 導体 量子点作 製 技 術も開発しました。さらに、重水素終端ポーラスシリコンの長 寿命発 光 や Eu 珪 素酸化
物の白色発 光、光学活性イオンドープⅡ- Ⅵ族半導体ナノ結晶の高効率発 光など、発 光デバイスへの応用が 期待される結果も得ました。
「量子点は埋め込まれているホストと一 体として理 解される」という考えは、今後も量子点の本質的概 念となると考えられます。
31
Completed Projects
加藤たん白生態
(財)相模中央化学研究所主席研究員 総括責任者
終了プロジェクト
加藤 誠志
細 胞を構 成している未 知の蛋白質ネットワークを解 明するために、ある特 定の活 性を手 掛かりに蛋白質を探 索するという従 来 のアプ
ローチではなく、まず機能 未 知の蛋白質をそろえてから、それらの機能を探索するというアプローチを試みました。すなわち、ヒト完全長
cDNA バンクを出発材料にして、新 規 cDNA がコードしている蛋白質をインビトロ翻 訳や 細 胞内発現によって実際に手にした後、それ
らの蛋白質の細胞内局在部位の決 定や相互作用する蛋白質の探索を通じて新しい蛋白質ネットワークを見つけていくというやり方です。
その結果、細胞周期を制御している新しい蛋白質修飾経 路、転写 機構に関る新しい核蛋白質複合体 、細胞内蛋白質の新規 糖鎖修飾
など、新しい蛋白質ネットワークを見つけることができました。本プロジェクトによって試 行されたアプローチは、ポストゲノムシーケンス時
代の分子 細胞生物学 研究において威力を発揮することが 期待されます。
土居バイオアシンメトリ
セレスター・レキシコ・サイエンシズ(株)代表取締役社長 総 括 責任者
土居 洋文
生命における非 対 称 性を指 標にして、様々な生物 種で、各 種の生命 現 象を解 析しました。哺 乳 類の初 期 発 生における非 対 称 性の出
現を遺伝 子レベルから探るために、マウス初期 胚で発現している約 25000 個の cDNA の部分塩基 配列を決 定し、胚の体 軸 形成に
関連する遺伝 子 や 約 4000 の新 規 遺伝 子を見い出しました。また、非 対 称分裂をする出芽 酵 母を用いて、酵 母の老化 過 程で変 動す
る mRNA を DNA マイクロアレイ法を用いて同定し、同方法を支援、解 析するソフトウエアを独自開発しました。さらに、古細菌、線 虫、
分裂 酵 母を用いて、非 対 称分裂や非 対 称分 配などに関わる新 規 遺伝 子を見い出しました。また、ゲノム情 報のもつノンランダム性に基
盤をおいた新しい理論を構築しました。これらの成果はポストゲノム時代を担う新しい考え方を提示するものと思われます。
御子柴細胞制御
東京大学医科学研究所教授/ 理化学研究所脳科学総合研究センター・グループディレクター 総括責任者
御子柴 克彦
細胞内セカンドメッセンジャーとしてのカルシウムの働きは多岐にわたるので、本プロジェクトではできるだけ幅広く受精、卵割、発生から神経細胞の成長、分化、
神経系における情報伝達と高次機能など広範囲の研究を行い、その結果、
アフリカツメガエル胚の背腹軸の形成に関するイノシトール3燐酸受容体(IP3R)を介
した細胞内カルシウムの機能、同受精卵での IP3 誘発カルシウム放出による細胞表層構造の制御、ニワトリ胚での細胞内カルシウム放出による神経成長制御
機構の解明 、IP3R とその結合タンパクとの分子間相互作用 、IP3R1 型欠損マウスにおける小脳の長期抑圧の欠損と海馬 CA1、CA3 領域の長期増強の増加、
リアノジン受容体によるシナプス可塑性と行動・学習の調節など多くの成果を得た。カルシウムの機能全体からみれば、最も基本的な部分を解明したことになる
が、このような基礎研究の積み重ねによりいずれは全体像が明らかにされるであろう。その意味で、本プロジェクトにおける研究成果は脳の高次機能をはじめと
する生命現象の本質を解き明かすのに大きく貢献するものと考えられ、また得られた成果は種々の疾患や外傷により傷ついた神経の再生、てんかんのような脳
機能障害の病因の解明、記憶のメカニズムの解明、卵割から発生に至る分子機構の解明による発生医学の発展など今後の展開が期待できると思われる。
19 94
- 19 99
高柳粒子表面
東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 総括責任者
高柳 邦夫
物理学 者ファイマン教 授は、日進 月歩するコンピュータで 125 個の原子からなる記憶ドットを夢見ました。物質が 1mm の百 万分の一
の大きさであるナノメートルスケールになるときに、表面 効果によってあぶりだされる新 現 象や新構造について探索を行いました。超高
真空電子 顕微鏡に走 査 型トンネル顕微鏡を組 込んだ新装置を開発し、ナノメートルの太さの金属ナノワイヤを作成し電子 伝導が量子 化
されていることを示しました。また、金ナノワイヤの原子配列の電子顕微鏡 観察から、金属ナノワイヤがカーボンナノチューブや DNA と同
じように螺 旋構造をもつことを示しました。さらに、金原子が 一列に並んだ中空に浮かぶ鎖を作ってみせ、金属といえどもナノスケールで
は絶 縁 体に変わりうることを理論的に示しました。シリコンでもナノ粒子の生 成 、あるいはナノワイヤの生 成を試みるなど、固体結晶とは
全く異なる構造や性質を有する ”粒子表面物質 ”実現へ向けての未知の領域を切り開くことができました。
平尾誘起構造
京都大学大学院工学研究科教授 総括責任者
平尾 一之
ガラスなどの非晶質 材料は内部 構造の自由度が大きいため、電場・磁 場・光などの外部 場によって新たな構造が 誘 起され 、これまで
にない 様々な機能の発現が 可能になるものと期 待されます。本プロジェクトは、このような誘 起 構造の形成 技 術の探 索と発現 機能の
追 求、および 誘 起 構造の理 論 設 計を目指して研究を進めました。その結 果、フェムト秒・超 短 パルスレーザ光の集 光 照 射により、ガラ
ス内部の任意の位置に屈折率 変化・イオン価数 変化・結晶化・分極 配向などの永 続的な構造 変化が 誘 起されることを見出しました。
さらに、これらの構 造 変化を利 用して、光 導波・光メモリ・波 長 変 換など様々な光 機 能を持つ三 次 元 素 子が 得られることを明らかに
すると共に、超高速の光誘 起 光スイッチを実現するなど、将 来の超高速・大容量 光 情 報 処 理技 術をガラス材料で実現する道を拓きま
した。
山元行動進化
早稲田大学人間科学部人間基礎科学科教授 総括責任者
山元 大輔
このプロジェクトでは、キイロショウジョウバエの配 遇 行 動異常突 然 変 異 体を作成し、その原因遺伝 子をクローニングしました。遺伝 子
の構造 解 析をすすめるとともに、形質転換やモザイク解 析等を行い、分子間相互作用がいかにして個体の行動へと繋がっていくのかを
研究しました。また地 域特異的に特 殊 化を遂げたハワイ産ショウジョウバエの同胞種群の研究を通じて、種分化の契 機となった配 遇行
動 制 御遺伝 子の進化を探りました。この研究は、行動異常を伴う遺伝 子疾 患の発 症 機構を理 解する糸口を与えるとともに、行動の人
為的制御による害獣害虫の防除といった応用の道をひらくものとして期待されます。
32
終了プロジェクト
高井生体時系
大阪大学大学院医学系研究科教授 総括責任者
高井 義美
多 細 胞 生物の個々の細 胞は、外 界からの刺激を受け、それぞれの局面において果たすべき役 割を正しいタイミングで遂 行しています。
私たちはこのタイミングを決 定する機構を『 時系制御(バイオタイマー)』と呼び、その解明を試みました。まず、低 分子量 G 蛋白質が 中
核的なバイオタイマーであると考え、この分 子の機能と作用機構を解 析し、その結果、その新しい活 性制 御因子を見出すと共に、細 胞
の接 着、運 動、分泌 、遺伝 子 発 現等の低 分 子量 G 蛋白質による時 系制 御 機構を解 明しました。一方、全く新しい 細 胞間接 着機構を
発見し、この機構が cadherin 系との関係の基に細胞間接 着 形成を時・空間的に制御していることを示しました。また、神経シナプス
に局在する多 数の新しい 分 子を見出し、これが 神 経シナプス接 着 分 子 や神 経 伝 達 物 質 受容体をシナプスに効 率よく集 積させ、記 憶
学習の時系制御に関与していることを明らかにしました。これらの成 果から、複 雑な細胞機能の制御 機構とその異常に基づく種々の疾
病の病 態が分子レベルで理 解されることが 期待されます。
19 93
- 19 98
山本量子ゆらぎ
米国スタンフォード大学教授/ NTT 基礎研究所主席研究員 総括責任者
山本 喜久
本プロジェクトでは、量子論のより深い理 解と量子状 態の人工的な制御を目指した研究を行なってまいりました。量子光学、メゾスコピッ
ク物理、操作マイクロスコピーの実験 技 術を発展させることで、光 子・電子・原子の波 動関数を量子レベルで制御する新概 念の創出と
実験による実証を目指しました。光の量子状 態 制 御としてスクィーズド光を発 生する TJS 形 半 導 体レーザの開 発および、光 子を 1 つず
つ発 生する単一 光 子ターンスティル素子と単一 光 子を 90%以 上の量子 効率で検出できる固体ホトマル素子の開発に成 功しました。半
導 体中の 2 次 元電子ガスを用いて 2 電子の衝突を実現し、衝突による出力電 流 雑 音の抑圧を観 測しました。これにより、電子がフェ
ルミ粒子であることに起因する 2 電子の量子 干渉効 果を実 験により実証しました。量子井戸微小 共 振 器内のエキシトン・ポラリトンの
振 動現象を解明すると共に、エキシトン・ポラリトンの誘導放出現象を実証しました。また、単一原子接 合を STM 探 針で実現し、クーロ
ンブロケード振 動を観測しました。
田中固体融合
(株)東芝研究開発センター研究主幹 総括責任者
田中 俊一郎
固体の接 合などで界面が 形成される過程を原子および原子集団の大きさで動的に解明し、界面近傍における諸現象および界面物性
とともに形成 支 配因子を把握し、融合界面を設 計・制御する可能性を探りました。研究の結果、セラミックス接 合 時の原子の振る舞い
を透 過 型電子 顕微 鏡で直視することに成 功し、接 合過程を支 配する素反 応や融 体の濡れに先行する原子層の存 在を初めて明らかに
しました。半 導体の界面では金 属や 絶 縁 層との電位障壁高さを制 御しその分布を nm の分解 能で画像 化しました。界面近傍に残 留
する応力や 歪の分布を最小 25nm の領 域で実 測し界面電子構造 や機 械強 度への影 響を把 握しました。従 来 困 難であった A、W な
どの易酸化性金属超微粒子の生 成と移動・回転・融合および埋 込操作などを電子 線照射法で可能にしました。これら研究結果は、界
面形成素過程 解明だけでなく界面が 規定する諸 特性の改善に寄与し、界面設 計・制御の手法を提言して新規素子創製や材料設 計に
役立つ可能性を示しています。
橋本相分離構造
京都大学大学院工学研究科教授 総括責任者
橋本 竹治
分 子が自然の 仕 組みに従い 秩 序構造を形成する過 程(自己 秩 序 化 過 程・相形成 過 程 )
に、何らか の人為を加えることにより新しい 機
能をもつ非平 衡構造の構築を研究のねらいとしました。この為に「大きな構造がゆっくり変化する」高分子系やコロイド系をモデルに選
び、それらの相転 移に伴う自己秩 序化過程を探究し、その階層性を解明しました。具体的には種々の散乱法によるフーリエ空間での構
造 解 析法と種々の顕微鏡法による実空間解 析法を併用し、数 nm ~数μ m に至る広い空間スケールで実空間・実場解 析すると共に、
測 定法の新たな開発も行いました。得られた成 果を一 般 的な非 線 形時間発 展 方程 式に基づいたシミュレーションにより理論 解 析し、
その数理物理学的意義も明らかにしました。これらの研究により、高分子混合系、ブロック共重合体 、ゲル、コロイド系の非平 衡構造の
制御法とその新材料創製への道が 拓けたものと期待します。
広橋細胞形象
国立がんセンター研究所副所長 総括責任者
広橋 説雄
細胞のとる形態には細胞の増殖と分化を制御し、その構成する多細 胞社会である組 織の構築と維 持に関わる豊富な情 報が 凝 縮され
ています。本プロジェクトは、細胞のとる形態を細胞の機能と多細胞社会の秩 序を総合的に表現するものと捉え、これに関わる遺伝 子
や機能分子の探索および機能の解明を進め、さらに研究を効率よく進めるために新しい実験 技 術や細胞の三次 元観察法の探索と開
発を行いました。研究では、CT 技 術を光学顕 微 鏡に応用した生きた細 胞の三 次 元観察法の開発、細 胞の形態情 報に基づいて形態
に関わる遺伝 子探索が 効率よくできる実験 技 術の開発、組 織 構築に重 要な細 胞間接 着 分 子の新 規 遺伝 子の同定や動態の解 析、癌
の転 移 性に深く関わる培養系での癌組織の再 構築モデルの確 立や遺伝 子の単離などの成 果が 得られました。これらの成 果は分子病
理学と呼べる新たな学問分野の発展に大いに貢献するものと期待されます。
19 92
- 19 97
河内微小流動
東京大学先端科学技術センター教授 総括責任者
河内 啓二
微小な生物の飛行や泳ぎのメカニズムの解明を行いました。これらの運 動の多くは、運 動器官がその目的だけに進化しているため、そ
の形状や作 動原理を解明しやすいのです。メートルのサイズの生物や機械は、翼や鰭の断面が 美しい流 線形をしていて、揚力を利用し
て運 動しています。ミリメートルのサイズの昆虫では、非常に薄くギザギザで反りのついた翼断面が 使われ 、この形状の翼の性能がこの
サイズでは優れていることを確か めました。また、はばたき運 動特 有の急 加減 速 運 動と後流中の渦のふるまいを利用して、大きな流体
力が 発 生できます。さらに小さなサイズでは、揚力( 翼 )は利用せず、パラシュートのように抗力を利用して運 動しています。このように生
物はそのサイズにふさわしい 運 動メカニズムを採 用し、与えられた環 境を上手に利用していることが 明らかになりました。将 来 開 発が
期待されている微小な機械 類の設 計にも、この視点が重要であると思います。
33
Completed Projects
板谷固液界面
東北大学工学部教授 総括責任者
終了プロジェクト
板谷 謹悟
固体と液体とが 接する「固液界面」
で起る種々の物理 及び化学過程を、主として液体中走 査トンネル顕微 鏡(STM)を駆使することによ
り原子・分 子のレベルで理 解し、もってその諸 過 程を原子レベルで制 御することをねらいました。このため、ます第一に原子レベルで規
定され 、しかも清 浄な各 種金 属及び半 導体 表面を液体中に露出する方法を確 立しました。原子レベルで規 定された「固液界面」で起
るハロゲンイオンの特異吸着、硫 酸アニオンの吸着構造、さらには有 機 分 子の吸着構造を STM 並びに超高 真空 - 電 気化 学 複合 装
置により決 定する事に成 功しました。さらに金属、半 導体 表面上で起るエッチング反 応の動的過程の観察にも成 功し、
「 固液界面」で起
る物理・化学過程の機構を原子・分子レベルで解明する事を可能としました。これらの成果は応用上においても極めて重要であるばか
りか、学問的にも新しい 研究分野を開拓した事になります。
柳田生体運動子
大阪大学基礎工学部、医学部教授 総括責任者
柳田 敏雄
筋 肉など生体運 動を担う生体分 子は 熱ノイズレベル の小さなエネルギーで機 能しています。これは 熱エネルギーの 数百倍 のエネル
ギーをつぎ 込んで正確かつ高速に作 動させるコンピュータなどの人工機械 素 子とは対照的です。そこで生体分 子 1 個の動 作を直 接高
分解 能で測 定する技 術を開 発し、その生体分 子の特 性の解 明を目指してきました。その結 果、生体分 子 1 個が 滑り運 動したり、化 学
反 応をしたり、機能している様 子を直 接 可視 化することに成 功しました。また生体分 子 1 個を生きたまま捕まえ操 作することも出来る
ようになりました。そして個々の分 子を見ると生体分 子モーターはエネルギーの入 力に対して決まった力学応答をするのではなく、状 況
に応じて多様な応答をすることが 分かりました。このようにして人工機械にはない生物 分 子機械のアルゴリズムが 明らかになってきまし
た。またこの間開発してきた 1 分 子計 測技 術は新しい生物学を創ってゆくブレークスルーになるものと期待されます。
吉里再生機構
広島大学理学部教授 総括責任者
吉里 勝利
動 物の 体には、損 傷を受けた部分を再生したり、新しい環 境に対応して変 態したりする能 力が あります。本プロジェクトは、再生・変 態
を動 物の姿・形の再 構築としてとらえ、細 胞 外マトリックスと呼ばれる物質の役 割に焦 点を当てながら、動 物のもつ高 次な組 織 形成の
機構を解明し、さらに組 織・器官を人工的に再 構築する技 術の探索を行いました。研究では、カエル幼生の組 織 構造転 換やイモリの
四肢再生に関わる遺伝 子群の解明、肝臓の幹 細 胞や毛パピラ細 胞の培養 法の確 立、インスリン分泌性 人工 皮 膚による糖尿病マウス
の実験的治療、組織タンパク質を網羅的に記載したデータベースの作成などの成 果が 得られました。これらの成 果を踏まえて、人工臓
器 や動 物 代 替 法に関するバイオテクノロジーの開 発 や損 傷した体を元 通りに復 元する医 療 技 術の発 展に、新たな展開をもたらすこと
ができました。
19 91
- 19 96
吉村パイ電子物質
松下技研(株)専務取締役新素材研究所長 総括責任者
吉村 進
私たちは、古来 人 類の友であった炭 素 材料を新 素 材として蘇らせようとの思いで、固 体中に π 電子の広がりが 存 在するために起こる
諸現象を基 礎的に解明し、新機能を生み出す研究を進めてきました。この研究により、グラファイトを代 表とする種々の新パイ電子 物質
が 極めて低い温 度で合成され 、パイ電子 空間での規 則 的な重合反 応あるいは生体 細 胞の活 性化などが 観 察されました。また、パイ
電子 物質と金属・半 導体・金属酸化物・ガラス・高分子・生体細胞など多くの物質との相互作用を制御することにより、新機能の発現、
パイ電子デバイスの提 案が 可能になりました。近い 将 来に、ここで得られた低 温合成 炭 素 材料に基づく電子デバイス、たとえば、高容
量2次電池、太陽電池、発 光素子、ディスプレイデバイスなどの実現が 可能になるものと思われます。
野依分子触媒
名古屋大学理学部教授 総括責任者
野依 良治
物質の性 質や機能はその構成分子の純 度に重 大な影響を受けます。したがって、キラリティを含めあらゆる観点から同一の化合 物を純
粋に合成することはすぐれた物質の創製の基 本であります。このプロジェクトでは完全化学反 応の実現にむけた分子触 媒の開発を目指
しました。その結 果、多くの有 機 化合 物の完全 水素化 反 応に有 効な力量ある不 斉ルテニウム触 媒の開 発に成 功し、生理 活 性物 質や
機能 性材料の合成に必 要な光 学 活 性化合 物の革 新 的 合成 技 術を確 立しました。さらに分 子触 媒の概 念を高分 子 合成に展 開して重
合反 応を完全に制御することができました。また、超臨 界流 体を反 応触 媒とする高速かつ高生 産性の分 子触 媒 応を開拓して、新たな
化学技 術の萌芽を提示しました。これらの研究成果は、分子触 媒 反 応が 次世代の化学技 術の基 幹となり得ることを明確に示すもので
す。
伏谷着生機構
東京大学農学部教授 総括責任者
伏谷 伸宏
海の生物の多くは、その一生において、卵から孵化した幼生が浮遊 生活後、岩などに付着、続いて変 態して幼 体となる着生という過程
をもちます。この海に特 有な現 象のメカニズムを化 学 情 報 伝 達の面から解 明を試みました。まず、ムラサキイガイなど4種 類の幼生の
飼育に成 功するとともに、幼生の付着行動を詳細な画像解 析や新たに開発した生体内カルシウム濃 度イメージング法などで解 析し、多
くの新知見を得ることができました。一方、幼生細胞の分画と電気生理との組み合わせにより、新しい細胞機能 解 析の途を開きました。
フジツボについては、化 学信号の認 識、神 経系と二 次メッセンジャーを介する情 報伝 達による付着行動の開始、セメント物質の分泌お
よび 変 態という一連の情報の流れと機能発現をほぼ 明らかにできました。また、さまざまな着生誘起・阻害物質を単離・構造決 定しま
した。
34
終了プロジェクト
岡山細胞変換
東京大学医学部教授 総括責任者
岡山 博人
細 胞の増殖と分化をうまく行うことによって、単細 胞 生物は生存の可能性を高め、多 細 胞 生物は個 体発 生を行います。このプロジェクト
では分裂 酵 母ならびに哺 乳 動 物 細 胞をモデル生物として、増 殖と分化を制 御するマスタースイッチ、すなわち、分化の開始 機構と細 胞
周期の制 御 機構の解明を目指しました。研究では、10 数 種の新しい制 御因子を発見し、新しい分化 制 御シグナルの存 在、常数分裂
サイクルと減 数分裂サイクルの開始 制 御 機構、細 胞 周期のチェックポイントセンサー機構 、哺 乳 動 物の DNA 損 傷によるG I 期チェック
ポイント機構の根幹を明らかにしました。それによって細胞の癌化 機構の解明に重要な手がかりを得ることができました。
19 90
- 19 95
木村融液動態
科学技術庁無機材質研究所総括無機材質研究官 総括責任者
木村 茂行
融液は単結晶材料の合成の中間段階として用いられます。融 液の処 理によっては材料の品質が大きく変わります。本プロジェクトではシ
リコン融 液の奇妙な挙 動をテーマとして取り上げました。研究の結果、融 点( 1415℃ )
の近くで融 液の熱 膨張 率が 異常に大きくなるこ
とや、ある種の不純物添 加で異常が消えることが わかりました。表面 張 力や粘性係 数にも異常が見られました。X線によって融 液の構
造を調 べた結果、原子間に特 殊な力が 働いていて、これが 不純 物により妨害されることなどを解明しました。融 点 近傍の膨張 率 異常
は融液の流体力学的挙 動にも影響を与え、成長する結晶の中の酸 素濃 度に響きが大きいだけでなく、大 型シリコン結晶の引き上げに
際して成長界面近くに乱流領域ができることを立証し、シリコン結晶の将来技 術に一石を投じる結果になりました。
永山たん白集積
東京大学教養学部教授 総括責任者
永山 国昭
たん白質は、生命の基 本物 質として生体 構造の組み立てと活動 機能の両方に役 立っています。たん白質はお互いに相手を認 識し、自
律的に集合し、大きな構造体を作り上げます。生物が 持つこのすぐれたモノ作りの原 理を「人間の工学」に応用する研究を進めました。
その結果、
“たん白質の自己集 積化技 術”に関して新しい展 望が 開けました。具体的には i )超分 子
(複合 蛋白質)
の作成 、ii )たん白質
2次 元 集 積 体および 微粒子2次 元 集 積 体の作成、iii )たん白質の凝 集 制 御に新しい方法を見出しました。また固 体 、液体 表面の微
粒子集 積、簿膜作成の新しいその場 観察法を開発しました。たん白質や微粒子を2次 元的に集 積し、結晶的構造体を作るには「液体
薄膜 」という作業空間がすぐれていること、この発見がプロジェクト最 大のメッセージです。
鳥居食情報調節
味の素(株)中央研究所主席研究員 総括責任者
鳥居 邦夫
生命現象の中の脳による生体恒常性 維持機構について、液性、神経 性両 面より明らかにすべく、無 麻 酔 無拘束 条件下で研究を実 施し
ました。研究では、生体が 欲 求する栄 養 素を量 的質的に評 価するエペラント行動 観 察 装置を開 発し、脳内の欠 乏 栄 養 素認 知部 位の
測定にあたっては in vivo 用の MRI 装置を立ち上げました。これらの機 器を駆使して、特定 栄養 素欠 乏 動 物や 代謝性 疾 患モデル動
物が 特定 栄養 素を選 択 摂 取し生体恒常性を維 持することを観察し、欠 乏 栄養 素の脳内での認 知部位を世界で初めて MR 画像として
捉えました。また、栄養 素欠 乏に対して適 応する際に脳に可 塑的変化が 生じること、適 応に神経 栄養因子であるアクチビンが深く関与
していることを明らかにしました。これらの結果は代謝性疾 患での栄養 療法により生体恒常性のリハビリテーションの可能性を示してい
ると考えます。
新海包接認識
九州大学工学部教授 総括責任者
新海 征治
生体の認識系に比肩できるような人工的な認識システムを構築することにより、物質が 物質を識 別するメカニズムを解明することを目指
しました。そのツールとして環 状化合 物“カリックスアレーン”を利用した研究により、特定の金属や分子に対する高選択的・高 効率の包
接認 識メカニズムが 明らかにされ 、その成 果は、例えば 高 精度 Na センサーやフラーレン精製 法などの創 製に寄 与しました。また、各
種のフェニルボロン酸化合 物を利用して、従 来より困 難であった糖質の認 識 機 構の解 明にも挑 戦し、特定の糖、あるいはその光 学 異
性体も識 別しそれを読み出すことのできる全く新しい糖質 識 別システムを創り出しました。この成 果は、複 雑な生体系の探 究に大きな
手がかりを与えるものと期待されます。
19 89
- 19 94
外村位相情報
(株)日立製作所基礎研究所主管研究長 総括責任者
外村 彰
電子は、小さな領 域を観察する有力な手段です。本プロジェクトでは、電子の持つ波の性 質を利用して物質の構造や 性 質を計 測する
技 術、い わゆる電子 干渉計 測を、より高度な汎 用性の高いものに発 展させるとともに、それを様々な物 質の計 波に応用する研究を進
めました。その結果、液晶パネルを用いたリアルタイムホログラフィ、200 分の 1 波長以下の位相変化を検出できる位相シフト干渉 法、
電磁場の三次 元分布 計 測法など、いくつかの新しい干渉計 測技 術を確立しました。また、これらの技 術を用いて、磁区・磁 壁の変化の
動的な観察、生体物質の無染 色正焦点観察、空間磁場の三次 元計測、収 差補正による分解能の向上などの応用計測を実現しました。
こうした基 礎、応用にわたる研究により、電子干渉計測に新たな展開をもたらすことができました。
35
Completed Projects
青野原子制御表面
理化学研究所主任研究員 総括責任者
終了プロジェクト
青野 正和
原子を一 個の単位で操作する様々な技 術の開発、その基 本となる物質機構の解明、そしてそれらの応用について研究を行いました。こ
れらの研究により、走 査トンネル顕微鏡(STM)
の探 針を用いて、原子 一 個を「引き抜く」「与える」
、
ための技 術とそれらをリアルタイムで
検出する方法を確 立し、STM 探 針による単原子操作の物理機構を理論と実験の両 面から解明しました。また、STM 像の理論計算法
を確 立し 、シミュレーションによる安定 原子配列の理論 的予測を可能にしました 。さらに、STM 探 針 先 端における化 学反 応を利用し
たり、探 針先 端の構造と組 成を制御することによって試 料表面に異 種 原子を一 個ずつ連続供給する方法も開発しました。その他 、有機
分子を構造単位として持ち、室温で動作するシングル・エレクトロン・トランジスターを可能にする基 礎 実験に成 功するなど、新規な人工
物質、デバイスの実現に手 掛かりを得ました。
池田ゲノム動態
東海大学総合医学研究所教授 総括責任者
池田 穰衛
ヒトゲノムを研 究 対 象とし、ヒトゲノムに記 載されている多くの生命 情 報のなかから、高 次の生命 活 動の 一 例であるヒトの 精 神 活 動に
かか わっている遺伝 子 やゲノム構 造とこれらの機 能の関 係を把 握するための "Geno SPHERE" の解 明を研 究 主 題としました。本プ
ロジェクトの 研 究 遂 行 体 制の一つの 特 色として、研 究グループの一つをカナダ・オタワ市に設 置しました。研 究では 、精 神 活 動にかか
わる未 知の遺伝 子単 離に必 要な新しい 手法の開 発 、生物 機 能の予 測および 計 測システムの開 発を行いました。さらに 、これらの手
法を用いて、精神 活 動 異常を随 伴する遺伝 性神 経・筋 疾 患の原因 遺伝 子と周辺 領 域に存 在する全 遺伝 子を単 離しました。
19 88
- 19 93
榊量子波
東京大学先端科学技術研究センター教授 総括責任者
榊 裕之
10 ナノメートル程の 微小 な半 導 体 構 造 中に電子を閉じ込 めると、その波( 量 子波 )
としての 性 質が 強く現 れます。本プロジェクトでは、
量子波を自在に制 御するための技 術を探 索し、新しい 物 性や機能を創出してエレクトロニクスの新次 元を切り拓くことをねらいに研究
を進めました。特に、エピタキシーの高 精度 制 御や超 清 浄エッチングなどにより、ナノメートル寸 法の量子 細 線や量子 箱 構造の形成を
可能としました。作 製した量子 細 線では閉じ込められた電子の特異な性 質を実証し、さらにトランジスタ機能なども示しました。また、
量子波の共 鳴 や 干渉、散 乱などを制 御した種々のデバイスの可能 性も明らかにしました。有 機 分 子 簿膜の量子 箱的な側 面の解 明と
応用も試みました。この研究は、新機能 素子や超高速素子の実現を通じ、電子工学の新 分 野を拓くものと期待されます。
増原極微変換
大阪大学工学部教授 総括責任者
増原 宏
化 学反 応は、極 めて細かい 時間スケールでみれば 、いくつもの過 渡 的な段 階の 組み合わせであり、空 間 的にも界面層や 液 滴などの
微小な反 応 場で起こっています。本プロジェクトでは、レーザー光 パルスが 化 学反 応のエネルギー源、制 御 手段として有 効に活用し得
る点に着目し、微小領 域の 化 学反 応をレーザーで制 御しながら進めていく手法を探 求しました。研 究では、種々の 微 細 加 工技 術によ
るマイクロ反 応 場の創 製 法を提 案し、そこで起こる化 学反 応をマイクロメートル・ピコ秒の分解 能で計 測する極 微分 光法を開 発しまし
た。さらに、微小領 域の物質を自由自在に操るレーザーマイクロマニピュレーションの手法を確 立しました。これらの手法を駆使する事
により、微小領 域に特 有なマイクロ化 学 現 象を明らかにすると共に、数多くの微小反 応 場を時間 的、空間 的に構成し高選 択性、高 効
率の物質 変 換システムを構築する手 掛かりを得ました。
水谷植物情報物質
北海道大学農学部教授 総括責任者
水谷 純也
植物は自らの意 志で動けないので化 学 物質により他の動 植物から自分を守ったり、
他を攻撃していると考えられます。プロジェクトでは、
この生物 間 相互作用において情 報をやりとりしている化 学 物 質(植物 情 報 物 質 )の探 索とその 作用・生 成 機 構 、生 態 系における振 舞
いなどについて探 求しました。研 究では、植物の防 御 機 構に関 与している誘 導性 抗 菌物 質や 摂 食 阻害 物 質などを多 数 見いだし、そ
の動態と機能について検 討を行いました。また、葉 面に着生している細菌が 植物二 次代謝産物のケイ皮 酸を抗 菌性スチレンに変 換し
ていることを確 認し、新しいエコシステムモデルを提唱しました。さらに遺伝 子レベルにおける生 態 化 学的 役 割についても検 討を行い
新しい 知 見を得ました。この他 、 昆 虫へのマイクロダイアリス法の適 用や植物 情 報 物 質の導入に有用な小型 微粒子 銃の開 発などを
行いました。これらの研究から、自然の理にかかった新たな農 薬・医 薬 等の開発 や産 業面への応用が 期待されます。
19 87
- 19 92
西澤テラヘルツ
東北大学学長 総括責任者
西澤 潤一
「電 波 」と「光 」の中間に位置するテラヘルツ(一兆 ヘルツ)領 域では、半 導 体 素 子構造は分 子・原子レベルの単位の微 細 化が 要求さ
れます。このため、電子の平均自由行 程よりも小さな半 導 体 結晶中の電子の挙 動、光と格 子振 動の相互作用や量子 効 果についての
解 析およびそれらの制 御方法の検 討を行いました。研究では、光 励 起分 子層エピタキシャル成長 技 術などにより、理 想 型静電 誘 導ト
ランジスタ
(ISIT)やタンネットダイオードの試作を行いました。また GaP 半 導 体ラマンレーザで 300mW という超 低しきい 値 発 振 の
実 現と、これらによる光ヘテロダイン復 調 実 験にも成 功しました。さらに、1.4THz で 500V/ W の検出感 度のショットキー・ダイオード
等のテラヘルツ帯回路素子や広 帯域 光ファイバー通信の実現の手 掛かりを得ました。
36
終了プロジェクト
古沢発生遺伝子
第一製薬(株)取締役 / 分子生物研究室長 総括責任者
古沢 満
生物の初期 発 生 過 程における形態 形成と、生 殖 細 胞の分化を支 配する遺伝 子の探 索および 制 御 機構の解 析に重 点を置いて研究し
ました。研 究では、先ず、超 微 量の DNA を簡単に増 幅・取 得する方法、異なった組 織・細 胞 間の 微 妙な DNA 構 造の差を認 識して
単 離する方法 や、完全な mRNA カタログを作成する為の均 一 化 cDNA ライブラリーの 作成 、正常な機 能・性状を持つ不 死化 細 胞
株の樹立 法 等の応 用範囲の広い 技 術を開 発しました。さらに、これをもとに研 究を進め、アフリカツメガエル の初 期 生 殖 細 胞で発 現
している vasa-like 遺伝 子 や、マウスの始 原 生 殖 細 胞に特 異 的に発 現している新しい 転写 制 御 因 子 遺伝 子を発 見したり、マウスの
脳に特異的に DNA 一次 構造 変 異が 起こっていること等を見出しました。また、進化についても考察し、新しい 不均衡仮説を提唱しま
した。
国武化学組織
九州大学工学部教授 総括責任者
国武 豊喜
このプロジェクトでは、精密な分子 組織を人工的に創り出すために自己組織能をもつ化合 物を設 計し、分子レベルの精密さをもつ新し
い 材料を探索することを目指しました。研究では、水面単分子膜において水素結合が 有 効な分子認識の手段となることを発見するとと
もに、走 査トンネル 顕微 鏡や表面力測定装置を用いてエピタキシャル重合や分 子間相互作用の新しい 現 象を見出しました。さらに、分
子 鋳型法を新たに開発し、ポリマーシリケートや金属酸化物超 簿膜の多層フィルムを初めて創り出しました。これらの2次 元ポリマーや
分子 組織性セラミックスは新機能材料として期待されます。
19 86
- 19 91
後藤磁束量子情報
神奈川大学理学部教授 総括責任者
後藤 英一
磁 束 量子は、情 報 処 理の観 点からみると、高速 動 作が 可能、熱の発 生が 極めて少ない、空間を介した回路 結 合が 可能という特 性を
秘めています。本プロジェクトでは、この磁 束 量子が 情報信号の媒介となりうるか、さらには回路化、高集 積化することにより超高速コン
ピューターとして使えるかについて探 求しました。研究により、パラメトロンの原 理をもとに超伝導回路内の磁 束 量子に変化を起こさせ
る素 子(磁 束 量子パラメトロン)
を作成し、これを用いた回路で、16GHz の超 高速スイッチング 動 作 等を実 現しました。さらに、磁 束 量
子パラメトロンに適したコンピューターアーキテクチャの構築、レーザ光掃引による極 微弱 磁 場 環 境の実現など、超高速情 報 処 理 体系
の実現の手 掛かりを得ました。
宝谷超分子柔構造
帝京大学理工学部教授 総括責任者
宝谷 紘一
環 境に適 応して機能を自ら制御する超分子の柔構造に着目し、自己集合、エネルギー変換、特定物質の輸送等、生体 機能に深く係わっ
ている機構の作 動原 理を探 求しました。研究により、細菌べん毛の全構造とその生 成のメカニズムの解明、およびべん毛の生長を制
御するべん毛キャップの発見と、これらのたん白質からのキャップ機能再 構成に成 功しました。さらに、細菌べん毛モーターの構造を解
析し、モーターの回転 速 度をサブミリ秒の時間分解能で計 測、制御することに成 功し、将 来の超小型マシン構築 への知見を得ました。
また、チューブリンというタンパク質を膜 小胞の中で自己集合させ、その集合力を用いて膜 小胞を様々に変 形させることに成 功し、人工
細胞実現への手 掛かりを得ました。
稲場生物フォトン
東北大学電気通信研究所教授 総括責任者
稲場 文男
生体 組 織や 細 胞などから生じ、肉眼や 通常の光 検出器では 検 地できないような極めて微弱な光(生物フォトン)
に着目し、その特 性を
精密に測 定、分析する手法を探 索し、生物フォトンの 発 光 機 構や 役 割を探 求するとともに、得られた手法を用いて生物を無 侵 襲で計
測する技 術について研究しました。研究により、世界でも最高感 度の光 子計 数装置、
2次 元発 光画像システムを試作しました。次いで、
それらを用いてヒトの呼気や喀 痰、受 精 前 後の卵、創 傷自然 治癒 過 程の細 胞・組 織などから生物フォトンの検出に成 功し、生体内部
情 報の無侵襲計 測の基 礎を確 立しました。さらに、極 微弱光の検出、測 定技 術を総合し、世界で初めて生体 試 料の光 断層像(光 C T)
計 測に成 功し、生物フォトン分 野を切り拓く手 掛かりを得ました。
19 85
- 19 90
吉田ナノ機構
(株)ニコン専務取締役 総括責任者
吉田 庄一郎
先 端技 術の急 速な発展に伴い微細化・精密 化技 術はナノメータ(10 - 9m)領域へ入り込んできました。このプロジェクトでは、ナノメー
タで物を計 測、制御、加工する手法を探索し、それを可能とする機械・機構の要素技 術について研究を行いました。研究により、1ナノ
メータでの位置 決めを可能とする超精密 位置 制御システムを実現し、半 導体 技 術や精密加工技 術などの広い分 野での応用が 期 待さ
れています。また、二波長レーザー測長装置により空気のゆらぎの影響を除去しナノメータオーダの測長を可能としました。さらに、加工
表面や生物 試 料を観 察するための SEM-STM 複合 装置の作 製、粒子ビームによる超平滑面の加工手法の開 発、高反 射率X線 光学
多層膜の作製などの基盤 技 術を確立し、ナノテクノロジーともいうべき新しい分野を切り拓くことに大きく貢献しました。
37
Completed Projects
黒田固体表面
東京大学理学部教授 総括責任者
終了プロジェクト
黒田 晴雄
固体の表面で起こる現象を原子、分子レベルで追求、制御することにより、新規な固体 表面修飾手法と、それを利用した優れた機能を
有する物 質の創出を目指しました。研究により、シリコン単 結晶 表面の清 浄 化、水素修 飾による安 定化の手法を確 立しました。得られ
た表面は簿膜 形成 時の下地 効 果、電子 線 照 射によるパターニング 効 果に優れ 、半 導 体 技 術への発 展が 期 待されます。また、稀土 類
金属の人工 超格子が 特異磁 性を示すことを発見、金属の磁気特 性の研究に新しい方向を示しました。さらに、光化 学反 応によるカル
ボニル錯体の修飾、カードハウス構造を有するクレー層間化合 物の作製など、新規な物質系の表面科 学的合成という新しい分野の開
拓に多くの手 掛かりを得ました。
19 84
- 19 89
掘越特殊環境微生物
東京工業大学工学部教授/ 理化学研究所主任研究員 総括責任者
掘越 弘毅
高温、強アルカリ、高塩濃 度など特 殊な環 境に生育する微生物を探索し、その構造、代謝経 路、および 耐性機構の解明を目指しました。
研究により、高い 塩 濃 度で生育する三角形の古 細 菌を発見し、生命の起 源に迫る糸口を与えました。微 生物にとって毒 性の強い 有 機
溶 媒(トルエンなど )の高濃 度 存 在下でもよく生育する溶 媒 耐性菌を発見しました。この菌やその生 産する酵 素は各 種バイオリアクター
への応用が 期待されます。さらに、特 殊メタン生 成 細菌等の発見、耐 熱性トレハラーゼ、耐 熱性 β - グルコシダーゼ、好アルカリ性菌の
菌体外蔗糖 分解酵素、好熱菌の澱 粉 分解酵素等有用酵素の分離に成 功し、今後、微生物工業に大幅な生産プロセスの革新となる知
見を得ました。
19 83
- 19 88
早石生物情報伝達
(財)大阪バイオサイエンス研究所長 総括責任者
早石 修
細胞間の情報伝 達が 行われる細胞 膜から生 成されるプロスタグランジン( PG )等の酸 性 脂 溶性物質の中枢神経系における作用の
解 明を目指しました。研究により、PGD2 が自然な眠りを引き起こすこと、また、PGE2 が 覚 醒を促すことを発 見し、睡 眠の機
構解明に糸口を与えました。PG の微 量 定 量 法の開発、PGD 合成 酵 素や PG 受容体の脳内分布・PGF 合成 酵 素の構造と機能の
解明・脳内 PG の無侵襲的検索法の確立等を行いました。一方、うつ病患者中の PG が 健 康 者より多いこと、PG をメチルエステ
ル 化すると脳内に移 行し易いこと、PG に眼 圧低下作用があること等を見い出し、今後、医 療 分 野、医 薬 品分 野で PG を利用す
るための基 礎となる知見を得ました。
19 82
- 19 87
水野バイオホロニクス
帝京大学薬学部教授 総括責任者
水野 傳一
生体の分 子、細 胞、組 織、器官等における系全体とこれを構成する個々の素子との強 調関係に着目し、強 調し得る性 質を持った素子
の作成 、配列、制御方法等の研究を行いました。具体的には、生体の秩 序運 動、リズムの引き込みによる機能 制御や情報 処 理などの
ホロニックスシステムについて研究を行い、自律性のあるイメージ情報 処 理技 術、機械制御技 術などへの応用を探りました。さらに、循
環 器系などの疾 病が 生体の動的平 衡の乱れに起因することから、その維持に重要な異物排除 等の機能を促 進する方法について研究
を行い、
「自己回復療法 」ともいうべき新しい治療技 術を追求しました。
19 81
- 19 86
林超微粒子
日本真空技術(株)会長 総括責任者
林 主税
10 分の1ミクロン以下の金 属や 金 属化合 物 粒子が1個の元 素 原子ともバルク物 質とも異なった性 質を持っていることに着目し、その
基 礎 的 物 性を解 明するとともに、超 微 粒子による新しい工 業 素 材の創出をねらいとしました。このため、理 想 的な状 態で組 成・粒 径
の制御された超微粒子の生 成機構を解明するとともに、その生 成法を検討しました。さらに、超微粒子の特異性を活かし、記録媒体 、
高性能 触 媒などへの応用のほか、有 機 物及び 無機 物と超微粒子の生化 学的反 応を用いた新たな領域での応用の可能性を見い出し
ました。これらの成 果をもとに、その後 超微粒子を用いたガスデポジション法の開発 や独 立 超微粒子の製 造 法の開発が 進められてい
ます。
増本特殊構造物質
東北大学金属材料研究所教授 総括責任者
増本 健
アモルファス物 質や層間 化合 物などの原子 配 列 、組 織 、組 成を人為的に変えた物 質を作成し、その構 造・諸 物 性の 特 異 性を解 明す
ることにより、新しい 機 能 材料や構 造 材料 の創出をねらいとしました。研 究では 、アモルファス相、複 合組 織 相、非 平 衡結晶 相などの
形成 方法 の検 討を行い 、新 規のアモルファス物 質、層間 化合 物の 生 成を試 みました。さらに、生 成した 物 質についてその構 造 分析
や 物 理 的・化 学 的 諸 物 性の解 明を行い 、新 規なセラミックス材 料、磁 性 材 料、オプトエレクトロニクス材 料などへの応 用の可能 性を
探りました。その 後、アモルファス超 微粒子の製 造 技 術の開 発、ガスセンサーなどへの応 用が 図られています。
38
終了プロジェクト
Completed Projects
緒方ファインポリマー
上智大学理工学部教授 総括責任者
終了プロジェクト
緒方 直哉
高分 子 物 質のうち、ポリアミド、ポリエステルなどの 縮 合系ポリマーを主な対 象として、ポリマーに力学 的 機 能 、分 離 機 能 及び 電 気 的
機能など特異な機能を付与することにより、高度な付 加 価値を持った高分 子材料の創出をねらいとしました。このため、分 子設 計をも
とに単分 子膜 状ポリマーの合成 及び 分 子量 分布の制 御について検 討するとともに電 気、熱、圧 力、他 物 質などの刺 激に鋭 敏に反 応
するポリマーの合成の可能 性を探りました。また、混合 物を鋭 敏に見分けて必 要 成分のみを選 択 的に分 離する能 力を持ったポリマー
の合成法を見い出し、その 後この成 果をもとに光学 異性体分離 剤の開 発に成 功しました。さらに、完全グラファイト構造のパイロポリ
マーの合成に成 功し、中性子 線回折用モノクロメータなどへの応用展開を図りました。
西澤完全結晶
東北大学電気通信研究所教授 総括責任者
西澤 潤一
完全 結晶技 術と静電 誘 導制 御 理論を組合わせることを基 本とし、結晶 欠 陥の極めて少ないシリコン、ガリウム砒素等の結晶 材料を追
求することにより、超 高速素 子、大電 力素 子、光学 機能 素 子などの創出をねらいとしました。研究では、ガリウム砒素系化合 物 結晶に
ついて、化 学量論 的組 成を得るための生 成法、成長 法を追求し、不純 物混 入のない完全な結晶育成 技 術を確 立しました。その後、こ
の成 果をもとに開発が 行われ 、Ga A s 大 型単結晶引き上げ 技 術が 企 業化されました。また、分 子 精度で結晶 成長できる光 励起分 子
層エピタキシャル成長 法を実 現しました。さらに、高速 、低 雑 音、低 消費電 力等の静電 誘 導 効 果の特 徴を利用した両 面ゲート型 静電
誘 導サイリスタ、光学 機能 素子などの作成を行い、新 世代の素子群としての可能性を見い出しました。
39
ERATO Website
ERATO ウェブサイト
新たな研究プロジェクトへの扉を開く、
ER ATO ホームページ
ERATO 研究 成 果など 最 新 情報を、
ホームページに掲載しています。
ERATO ホームページには、プレス発 表などの最新情報、
研究プロジェクトの研究成果ビデオ、プロジェクトの中間・事後評 価の結果、
推 薦公募、シンポジウムの詳細など、
ERATO に関するさまざまな情報を掲載しています。
http://www.jst.go.jp/erato/index.html
2 最新情報
2 お知らせ
研究総括の推薦公募・採択、人材募集に関連する情報をお知らせしています。
2 イベント
各プロジェクトが実施するシンポジウム、研究成果報告会等の開催情報です。
2 研究成果プレス発表
ERATO 事業では研究成果の最新情報を公開しています。
2 研究プロジェクト
http://www.jst.go.jp/erato/research_area/index.html
2 進行中プロジェクト
http://www.jst.go.jp/erato/research_area/ongoing/index.html
現在進行中プロジェクトの概要を掲載しています。
各プロジェクト名をクリックすると、プロジェクト紹介へ移動できます。
□ 研究グループ
□プロジェクトホームページ
2 終了プロジェクト
http://www.jst.go.jp/erato/research_area/completed/index.html
終了プロジェクトの一覧を掲載しています。
各プロジェクト名をクリックすると、研究成果の概要へ移動できます。
□ 研究成果集
□ 評価・追跡調査
40
The Location of Laboratories
研究実施場所 所在地 [平成27年4月現在]
富 山
浅野酵素活性分子
滋 賀
斎藤全能性エピゲノム
京 都
佐藤ライブ予測制御
斎藤全能性エピゲノム
秋吉バイオナノトランスポーター
石黒共生ヒューマンロボットインタラクション
大 阪
村田脂質活性構造
石黒共生ヒューマン
ロボットインタラクション
福 岡
安達分子エキシトン工学
徳 島
美濃島知的光シンセサイザ
愛 知
伊丹分子ナノカーボン
東山ライブホロニクス
41
The Location of Laboratories
研究実施場所 所在地
宮 城
百生量子ビーム位相イメージング
齊藤スピン量子整流
磯部縮退 π 集積
河原林巨大グラフ
茨 城
美濃島知的光シンセサイザ
埼 玉
香取創造時空間
東 京
東原化学感覚シグナル
染谷生体調和エレクトロニクス
磯部縮退 π 集積
神奈川
彌田超集積材料
美濃島知的光シンセサイザ
金井触媒分子生命
香取創造時空間
竹内バイオ融合
河原林巨大グラフ
42
ERATO Research Projects Index
43
▼
▼
▼
川人
光男
学習動態脳
96
▼
16
17
北 川
進
統合細孔
07
▼
07
27
北野
宏明
共生システム
98
▼
10
25
木村
茂行
融液動態
90
▼
16
11
楠見
明弘
膜組織能
98
▼
18
15
国武
豊喜
化学組織
87
▼
12
23
黒田
晴雄
固体表面
85
▼
94
36
黒田
玲子
カイロモルフォロジー
99
▼
19
20
小池
康博
フォトニクスポリマー
00
▼
18
16
腰原
伸也
非平衡ダイナミクス
03
▼
18
16
後藤
英一
磁束量子情報
86
▼
97
34
五 神
真
協同励起
97
▼
14
22
小 林
修
高機能性反応場
03
▼
91
37
98
▼
明久
過冷金属
97
02
30
井上
佳久
光不斉反応
96
01
31
14
量子計算機構
00
超集積材料
10
ヒト膜受容体構造
05
今 井
浩
彌田
智一
05
28
斎 藤 通 紀
全能性エピゲノム
11
15
18
榊
裕 之
量子波
88
岩 田
想
10
25
佐藤
匠徳
ライブ予測制御
13
上田
正仁
マクロ量子制御
05
大津
元一
局在フォトン
98
10
25
下條
信輔
潜在脳機能
04
03
29
下田
達也
ナノ液体プロセス
06
大野
英男
半導体スピントロニクス
02
07
27
新海
征治
包接認識
90
緒方
直哉
ファインポリマー
81
86
39
末 松 誠
ガスバイオロジー
09
岡ノ谷一夫
情動情報
08
岡山
細胞変換
91
13
23
関口
細胞外環境
00
96
35
袖 岡 幹 子
生細胞分子化学
08
染 谷 隆 夫
生体調和エレクトロニクス
11
茂明
核内複合体
04
誠志
たん白生態
95
高井
生体時系
94
香 取 秀 俊
創造時空間
10
金子
邦彦
複雑系生命
04
金 井
求
触媒分子生命
11
微小流動
92
▼
井上
▼
文男
▼
稲場
86
▼
09
生物フォトン
▼
グライコトリロジー
▼
幸成
▼
伊藤
▼
92
▼
固液界面
▼
謹悟
▼
板谷
▼
13
▼
分子ナノカーボン
08
91
▼
伊丹 健一郎
05
02
▼
縮退 π 集積
13
08
▼
共生ヒューマンロボットインタラクション 1 4
04
03
▼
89
19
▼
ゲノム動態
90
16
▼
池田
92
93
▼
五十嵐 健夫
07
18
▼
13
デザインインタフェース
09
▼
分子エキシトン工学
11
▼
安達 千波矢
03
95
▼
11
14
▼
酵素活性分子
05
▼
浅 野 泰 久
95
13
▼
05
16
09
26
00
32
▼
共創知能システム
03
99
15
19
高 原 淳
ソフト界面
08
▼
稔
12
13
09
25
高柳
粒子表面
94
▼
浅 田
01
99
16
18
高 柳 広
オステオネットワーク
09
▼
静男
13
17
14
97
33
竹内
バイオ融合
10
▼
審良
02
啓二
36
▼
11
自然免疫
河内
94
▼
バイオナノトランスポーター
加藤
12
▼
秋 吉 一 成
加藤
08
巨大グラフ
▼
か
感染宿主応答ネットワーク
河原林 健一
▼
89
博人
河 岡 義 裕
▼
原子制御表面
寛之
か
26
▼
正和
磯部
28
08
▼
青野
浩
05
▼
03
▼
00
複雑数理モデル
年 号
▼
ナノ空間
一幸
プロジェクト名
▼
卓三
合原
石 黒
研究総括 / 総括責任者
▼
相田
穣衛
頁
年 号
▼
あ
プロジェクト名
▼
研究総括 / 総括責任者
▼
ERATO研究プロジェクト 索引
15
さ
た
近藤
寿人
誘導分化
齊藤
英治
スピン量子整流
清俊
義美
邦夫
昌治
頁
23
20
31
24
30
35
30
37
38
29
28
26
37
30
26
30
14
12
36
11
26
24
35
22
29
23
13
33
23
32
22
19
ERATO Research Projects Index
分子触媒
91
橋本
和仁
光エネルギー変換システム
06
橋本
竹治
相分離構造
93
長谷部 光泰
分化全能性進化
05
早 石
生物情報伝達
83
超微粒子
81
林
修
主 税
東 山 哲 也
ライブホロニクス
10
平尾
一之
誘起構造
94
平山
祥郎
核スピンエレクトロニクス
07
広橋
説雄
細胞形象
93
伏谷
伸宏
着生機構
91
古 沢
満
発生遺伝子
87
細野
秀雄
透明電子活性
99
宝谷
紘一
超分子柔構造
86
掘越
弘毅
特殊環境微生物
84
▼
良治
▼
野依
▼
87
▼
テラヘルツ
▼
潤一
▼
西澤
▼
81
▼
完全結晶
▼
潤一
▼
西澤
▼
97
▼
90
プロトニックナノマシン
▼
たん白集積
啓一
▼
国昭
難波
15
▼
永山
19
07
27
▼
01
06
28
▼
不均一結晶
97
34
▼
修二
14
99
32
▼
中村
15
07
27
▼
04
98
33
▼
活性炭素クラスター
01
31
▼
栄一
24
04
29
▼
中村
17
11
97
34
▼
ナノクラスター集積制御
18
90
37
06
28
96
34
14
22
11
25
御子柴 克彦
細胞制御
95
94
35
水谷
純也
植物情報物質
88
95
35
水野
傳一
バイオホロニクス
82
湊 真 一
離散構造処理系
09
知的光シンセサイザ
13
生命時空間情報
06
▼
中 嶋 敦
09
22
95
12
24
美濃島
▼
07
14
単一量子点
14
22
宮脇
▼
幹細胞制御
38
泰章
09
26
村 田 道 雄
脂質活性構造
10
▼
啓光
36
87
舛本
06
28
百 生
敦
量子ビーム位相イメージング
14
▼
中内
93
27
95
35
▼
90
邦夫
06
02
30
八島
栄次
超構造らせん高分子
02
▼
89
食情報調節
彰
鳥居
32
81
86
39
柳沢
正史
オーファン受容体
01
▼
位相情報
外 村
00
88
特殊構造物質
92
36
柳田
敏雄
生体運動子
92
▼
06
31
極微変換
健
96
34
山元
大輔
行動進化
94
山本
雅之
環境応答
02
や
薫
敦史
▼
マルチフェロイックス
00
宏
増 本
11
24
山本
喜久
量子ゆらぎ
93
▼
好紀
38
増 原
12
98
33
横山
茂之
情報分子
96
▼
十倉
36
86
32
10
25
横 山
浩
液晶微界面
99
▼
01
93
00
17
88
38
吉里
勝利
再生機構
92
▼
スピン超構造
24
86
38
吉田 庄一郎
ナノ機構
85
▼
好紀
12
15
13
吉田
賢右
ATPシステム
01
▼
十倉
07
99
32
吉 村
進
パイ電子物質
91
▼
12
センシング融合
12
23
四方
哲也
動的微小反応場
09
▼
95
化学感覚シグナル
一介
27
98
33
▼
バイオアシンメトリ
前中
31
08
96
34
▼
洋文
東 原 和 成
31
02
▼
土居
03
▼
01
97
アクチンフィラメント動態
正美
▼
▼
▼
96
ジーンセレクター
前田雄一郎
堀越
▼
細胞軸
ま
29
▼
月田 承一郎
33
▼
04
頁
▼
98
99
年 号
▼
93
多体相関場
清悟
プロジェクト名
▼
固体融合
樽茶
研究総括 / 総括責任者
92
37
▼
は
田中 俊一郎
頁
04
29
▼
な
年 号
91
37
▼
た
プロジェクト名
▼
研究総括 / 総括責任者
ERATO 研究プロジェクト 索引
89
38
44
M
45
E
M
O
ERATO 事業本部 所在地
The Location of ERATO Head Office
市谷見附
JR
〒 102- 0076
東 京都千 代田区 五番 町 7 K's 五番 町
国立研究開 発法 人 科 学 技 術 振 興 機 構
研究プロジェクト推 進部
Tel: 03-3512-3528
駅
Fa x: 03-3222-2068
E-mail: eratow w [email protected]
URL : ht tp://w w w.jst.go.jp/erato/index.html
宿
新
至
谷
ヶ 交番
市
市ヶ谷駅
みずほ銀行
京
東
至
東郷公園入口
地下鉄市ヶ谷駅
3番出口
2番出口
セブンイレブン
文教堂
東京本部別館
(K’
s五番町)
東急番町ビル
ガソリンスタンド
ルクセンブルク
大使館
上智大学
市谷キャンパス
千代田女学園
Exploratory Research for Advanced Technology
2015.04.1500
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