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木曽広視野高速カメラTomoeの開発

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木曽広視野高速カメラTomoeの開発
木曽広視野高速カメラTomoeの開発 ○酒向 重行, 土居 守, 本原 顕太郎, 宮田 隆志, 小林 尚人, 諸隈 智貴, 高橋 英則, 藤堂 颯哉, 菊池 勇輝(東京大学 天文学教育研究センター), 青木 勉, 征矢野 隆夫, 樽沢 賢一, 前原 裕之, 三戸 洋之,中田 好一(東京大学 天文学教育研究センター 木曽観測所), 臼井 文彦, 松永 典之(東京大学 天文学教室),田中 雅臣, 渡部 潤一 (国立天文台), 冨永 望(甲南大学), 猿楽 祐樹, 有松 亘(宇宙航空研究開発機 宇宙科学研究所), 板 由房 , 小野里 宏樹, 花上 拓海, 岩崎 仁美(東北大学) 概 要 東京大学木曽観測所では105cmシュミット望遠鏡の視野(φ9度)のすべてを84台の常温駆動CMOSイメ
ージセンサで覆う超広視野高速カメラthe Tomoe Gozen camera†の開発を進めている。Tomoeは最大2Hz
のフレームレートで計20平方度の視野を連続的に観測できる。読み出しを特定の領域に限ることで20Hz
以上の高速観測も可能である。CMOSセンサを常温・常圧環境下で用いることで、カメラ筐体の軽量化と
小型化を実現する。Tomoeは他の装置に無い高時間分解能と超広視野高感度を合わせ持つため、10秒以
下の短時間変動現象の探査を初めて可能にする。Tomoeはプロトタイプ機を製作した後に、2017年度の
完成を予定している。これまでにCMOSセンサの性能評価を実施し、科学観測に使用できる水準に達して
いることを確認した。現在、Tomoeの各ユニットの詳細設計を進めている。センサの常温常圧下でのモ
ザイク配置と温度制御、高速読み出し回路、ビッグデータの処理部が開発の課題である。 u Tomoeの 特 長 現在、我々の研究グループは木曽観測所105cmシュミット望遠鏡用の超広視野高速CMOSカメラTomoeの
開発を進めている。Tomoeは東京大学とキヤノン社が商用センサを基に共同で開発した表面照射型マイ
クロレンズアレイ付CMOSセンサを84台搭載する(図1)。画素サイズはCMOSセンサとしては大型の19μm
であり、273Kの常温下でも読み出しノイズが2.3e-、暗電流が0.05e-/秒と高性能である。量子効率は波
長500nm付近で約45%である。ローリングシャッタ読み出しにより、読み出し時間が実質的にゼロの連続
観測を実現する。また、複数の特定領域を読み出す部分読み出し駆動も可能である。 Tomoeの観測視野は、センサのパッケージに対する感光部の面積が30%のため、望遠鏡視野φ9度の1/3
に相当する20平方度である。Tomoeはこの全視野を最大で2Hzのフレームレートで、また、複数の特定領
域を20Hz以上のフレームレートで読み出すことができる。このCMOSセンサの読み出しノイズは典型的な
CCDよりも低いため、数秒以下の短い積分時間の観測では、CCDよりも深い限界等級を実現する。Tomoe
の場合、1秒積分での限界等級は約17.2mag(S/N=5、Vバンド)である。数10秒以上の長時間積分時は量
子効率の差によりCCDより感度が劣るが、その差は0.5mag以下と顕著ではない。一方、読み出し時間が
実質的にゼロのため、CCDと比較し高い観測効率(積分時間と観測時間の比)が得られる。 世界の広視野カメラの大部分はCCDセンサを用いているため、広視野観測の時間分解能はCCDの読み出
し時間である10秒以上に制限される(図2)。一方Tomoeは、CMOSセンサを用いることで、これまでより
2桁以上短いサブ秒の高時間分解能を得る。この高速性能に超広視野と口径1mの高感度を合わせること
で、Tomoeは10秒以下の短時間変動の本格的な探査を初めて可能にする。期待される科学的成果は、重
力波天体の光学同定、超新星爆発の瞬間の検出、地球近傍天体の探査、太陽系外縁天体の探査、恒星フ
レアの短時間現象、ガンマ線バーストの早期追観測、系外惑星トランジット、と多種多様である。また、
Tomoeの高速読み出し性能を用いれば、積分時間3秒で高度25度以上の全天(10,000平方度)を1時間で
掃天することができる(木曽シュミット望遠鏡の指向時間を想定)。これにより、約17magより明るい
時間変動現象を一網打尽にすることができる。こうした機敏な観測手法は読み出し時間が長いCCDでは
効率的に実施できない。 現在、Tomoeの開発は東京大学木曽観測所のメンバを核とした開発チームと、木曽観測所の現行の掃
天観測プログラムKISS(超新星探査)とKISOGP(銀河面変光天体探査)のメンバを核としたサイエンス
チームにより、木曽観測所の次世代計画として進められている。まず、CMOSセンサを8個用いたTomoeの
プロトタイプ機を製作して広視野CMOSカメラに必要な技術を獲得する。その後、フルスペックのTomoe
の開発を行い、2017年度の完成をめざす。 u Tomoeの 開 発 状 況 2012年度より、CMOSセンサの実験室における性能評価を実施している。2012年12月と2013年12月には、
センサ(1チップ)を木曽シュミット望遠鏡に搭載して試験観測を行った。結果、CCDと同水準の感度と
安定性が確認された。表面照射型+マイクロレンズアレイによる測光精度への影響が懸念されていたが、
シーイングサイズを十分な画素数でサンプルする光学設計が有効に働き、1Hzフレームレート時に約1%
の測光精度を達成することが確認された。また、より短時間のフレームレートでは、シーイング効果に
より測光精度が劣化することも観測的に明らかとなった(30Hzフレームレート時は3%)。 現在、Tomoeの各ユニットの詳細設計を進めている。CMOSセンサは木曽シュミット望遠鏡の焦点面で
ある半径3,300mmの球面上にモザイク配置される。センサを設置する筐体内部を常温・常圧とすること
で、軽量化と小型化を実現する。筐体の構造は、多数のセンサの組み立てとメンテナンスを容易にする
よう工夫されている。16ビットADコンバータを計1,344台用いるアナログ読み出し部は、小型で低発熱
な設計の実現をめざしている。Tomoeは最大フレームレート観測時(2Hz)に、27TB/夜の画像データを
生成する。このようなビッグデータを高速に一次処理し、データサイズを大幅に低減させるソフトウエ
アと計算機システムの開発も進めている。また、時間変動現象を早期に自動検出するソフトウエアの開
発も進めている。 図1. Tomoeの視野。木曽観測所の現行装置である広視野
CCDカメラKWFCは、シュミット望遠鏡の視野φ9度の中央
部2.2x2.2平方度を使用している。一方Tomoeは、望遠鏡
視野の全てを84台のCMOSセンサで覆う。 図2. 広視野カメラの視野と時間分解能の
比較。Tomoeは多数台のCMOSセンサを搭載す
ることで、過去に無い広視野+高速観測を
実現し、短時間変動現象の広域探査を行う。 †
平家物語に登場する木曽出身の勇敢な女性武将である巴御前にちなんで名付けられた。 
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