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通所リハビリテーション施設利用者への美容ケアがもたらす心理的効果

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通所リハビリテーション施設利用者への美容ケアがもたらす心理的効果
通所リハビリテーション
通所リハビリテーション施設利用者
リハビリテーション施設利用者への
施設利用者への美容
への美容ケア
美容ケアが
ケアがもたらす心理的
もたらす心理的効果
心理的効果
Psychological Effects of the Beauty Treatment for Elderly People in Day Care
主指導教員 長田由紀子教授
臨床心理学研究科 臨床心理学専攻 1000-090718 藤間勝子
【問題と目的】
近年,化粧行動一般についての心理学的な研究をもとに,心理的または身体的あるいは
その双方に問題を有する人に対する化粧の心理学的効果が研究されるようになった。中で
も,直接的に容貌に問題を抱えているのではない人々に化粧を導入することで精神状態の
改善を図るプログラムについては,初期にはうつ病や統合失調症,認知症高齢者を対象と
して研究がされていたが,その後認知症高齢者を対象とした化粧の実践として「わが国独
自の発展(野澤,2006)」を遂げた。現在では,対象を認知症以外の高齢者にまで広げ,多
くの実践が報告されており,気分の改善,表情表出の増加,発話の増加,抑うつ・不安の改
善,主観的幸福感の向上などの心理的効果についても報告されている。しかし,先行研究では,
施設入居者を対象とした研究が多く,在宅高齢者に対する化粧の研究はあまりなされていない。
また化粧の研究はほとんどが女性を対象としており男性に対しての研究は進んでいない。化粧
とは,阿部(2002)によると「体表の健康を維持する」行為と「外見を演出する」行為の総称
である。このように化粧を広義に捉えれば,男性を対象とすることも奇異ではないだろう。本
研究では,こうした高齢者に対する化粧の先行研究を踏まえ,通所リハビリテーション(以下
デイケア)利用の高齢男女を対象に,化粧(以下美容ケアとする)を実施し,その心理的効果
についての測定を行った。
【仮説】
1. デイケア利用者の主観的な QOL は,美容ケアの施術で変化する。
2. デイケア利用者の不安感や気分は,美容ケアの施術前後で変化する。
3. 美容ケアは,女性のみならず男性の主観的な QOL や気分の向上に影響を与える。
【方法】
東京都内の通所リハビリテーション施設(以下デイケア)を利用する 65 歳以上男女で,
①認知症の診断を受けていない②改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)で 21 点以上得
点③本研究への参加に同意の得られた男女 33 名
(男性 12 名,
女性 21 名)
から協力を得た。
平均年齢は 80.00 歳(SD=14.78 歳)
,HDS-R の平均スコアは 24.97 点(SD=2.59 点)であ
った。
協力者を,美容ケアを行わない群(以下統制群;男性 5 名,女性 6 名)と美容ケアを行
う群(以下介入群;男性 7 名,女性 15 名)に分け,介入群には週1回 30 分の美容ケアを
8週間連続でデイケア利用時間内に行った。統制群では,通常のデイケアプログラムのみ
を行った。介入群で行った美容ケアの内容は,女性は顔のマッサージ・化粧・手指のマニ
キュア塗布であり,男性は顔のマッサージ・手のマッサージ・爪磨きである。
美容ケアの効果測定は質問紙を用いて行った。主観的 QOL を測定する指標には,身体的
な主観的 QOL を測定する SF-36 より下位尺度である身体機能と全般的健康感,改訂 PGC モ
ラール・スケール,GHQ-12 を用いた。QOL の測定は,統制群・介入群ともに測定開始1・
4・8週目に 1 度ずつ行なった。気分を測定する指標としては STAI 日本語版より状態不安
尺度,また介入群のみ POMS 短縮版を加えて用いた。気分の測定は,統制群の場合はデイケ
アプログラム内で 30 分以上時間をおいて2回測定した。
介入群では美容ケアの前後で2回
測定した。
【結果】
SF-36 身体機能及び全般的健康感,改訂 PGC モラール・スケール合計得点および各下位尺度
GHQ-12 について分散分析を行った結果,男女共に,介入群と統制群に美容ケアの介入による変
化は見られなかった。
状態不安については両群で測定回数が異なるため,まず測定時期の近い 2 回分の結果につい
て分散分析を行い,統制群・介入群を比較したところ,男女共に,美容ケアの介入による
状態不安得点の変化に有意差は見られなかった(5%水準。以下有意水準は全て5%)
。続
いて,介入群のみ 3 回測定した結果について分散分析を行ったところ,男女共に,美容ケア介
入前に比較し介入後に,有意に状態不安得点の低下が確認された。次に,介入群について状態
不安の質問項目別に分析をおこなった。その結果,男女共に「平静である」
「安心している」
「ほっとしている」
「ゆったりとした気持である」
「気分がよい」
「満足している」
「ウキウ
キしている」
「楽しい」の8項目において,美容ケアの介入後に,有意な数値の増加が見ら
れた。
「不安である」は女性のみ介入後に有意な数値の低下が見られ,
「リラックスしてい
る」については,男性のみで介入前に有意な数値の増加が見られた。
POMS 短縮版の分散分析結果としては,男女共に美容ケアの介入により,有意に「活気」の T
得点の増加が認められた。また女性については,
「活気」の他,
「抑うつ-落ち込み」
「疲労」の
各尺度で有意な T 得点の低下が認められた。続いて,質問項目別の分散分析を行ったところ,
男性では介入前に,
「活気」を構成する質問5項目のうち,
「いきいきする」
「積極的な気分
だ」
「精力がみなぎる」
「元気がいっぱいだ」の4項目で有意な数値の増加が認められた。
男性の 4 項目に加え,女性では「活気がわいてくる」の1項目についても介入前後で有意
に数値が増加しており,女性については,
「活気」を構成する全ての質問項目で,有意な数
値の増加が認められた。また女性では「頭が混乱する」
「自分は褒められるに値しない」
「疲
れた」
「へとへとだ」
「あれこれ心配だ」
「だるい」
「うんざりだ」
「物事がてきぱきできそう
な気がする」
「どうも忘れっぽい」の9項目において,介入後において有意に数値が低下し
た。
【考察と今後の課題】
本研究では,心身の主観的な QOL の変化に美容ケアの介入が寄与することは確認できな
かった。しかし,状態不安を低下させること,活気を上昇させることについては,男女と
もにその効果が確認できた。仮説の1は棄却されたが,2.3については支持される結果
となった。気分の変化については,男女で差が生じ,女性に対しては,美容ケアが活気の
みならず疲労や抑うつなどの気分を改善することも確認できた。
今回の研究では男女,介入・統制の 4 群に分けて比較するには,協力者の人数・バラン
スに問題があり限界があった。また使用した尺度も効果の測定に妥当であったか疑問が残
る。介入する美容ケアの内容を,顔だけではなく,爪の手入れまで含めた為,要素が複雑
になり,
どのような施術がどのような効果に影響を及ぼしたのか見えにくい部分もあった。
以上
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