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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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アーヴィング・フィッシャーの景気循環論(1)
古川, 顕
經濟論叢 (2005), 175(4): 319-341
2005-04
https://doi.org/10.14989/66283
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
経済論叢 (
京都 大学)第 175巻第 4号,2005
年 4月
ア - ヴ イング 。フ ィ ッシ ャーの
景 気 循 環 論 (1)
古
Ⅰ は
じ め
川
顕
に
1
980年代後半 には,株価 。地価 を中心 に資産価格全般 の急激な上昇が生 じ,
1
99
0年代 に入 って以降は,逆 に資産価格の急激 な下落が生 じた。 こうしたバブ
ルの発生 と崩壊 とは,企業行動や金融機関などの行動 に大 きな影響 を与 え,紘
果 として 日本の景気後退 を従来 にな く長期化 させ る一方,不良債権の累増 によ
る金融 システムの脆弱化 を もた らした。すなわち,資産価格の上昇時 に借入れ
を して資産を取得 した企業や家計,そ して これに融資 した金融機関のバ ランス
シ- トが,その後の資産価格の大幅な下落 によって敦損 し, こうした各経済主
体 のバ ランスシー トの悪化 によって経済全体 の支出活動が抑制 され る一方,金
融機関保有 の不 良債権 の増大 として表面化 した と考 えられ る。 これが,いわゆ
るバ ランスシー ト問題 といわれ るものである。
不良債権問題 あるいはバ ランスシー ト問題 について考 えるとき,1
93
0年代 の
米国の大恐慌 の原因を企業の過剰債務 の発生 とデフレーシ ョンの相互作用 に求
めたア- ヴイング ・フイッシャ-の負債 デフレーシ ョン理論 を避 けて通 ること
はで きないように思われ る。
ただ し, フィッシャーの負債 デフレーシ ョン論 は従来, 日本経済が体験 した
以上のような不良債権問題やバ ランスシー ト問題 との関連か ら断片的に言及さ
れ,それが フィッシャーの景気循環論の流れの中で どのように位置付 けられ,
それが どのような特色 および問題点 を持 っているのかなどについてほ とん ど体
第1
7
5巻
2 (
320)
第 4号
系 的 に論 じられ て こなか った よ うに思 われ る。 そ こで本稿 で は, な るべ く
フイッシャ←の考 え方に即 してその内容 と問題点などについて検討す ることに
したい。
まず第 ‡節で は,景気循環 に関す るフィッシャーの初期 の研 究, 『
価値上昇
と利子』の概要 と特色 について検討す る。 第Ⅲ節では,その後 のフィッシャー
の中心的な書物の一つ 『
貨幣の購買力』 を取 り上げ,その景気循環論 を検討す
る。 次稿第Ⅳ節では, ブイッシャ-の景気循環論の最終的な考 え方であると思
われ る負債 デフレーシ ョン論 について,その基本的な考 え方を分析す る。 次 々
稿第 V節では,負債 デフレー シ ョン論 を中心 に, フィッシャーの景気 循
環
論に
おける問題点 と思われ るものを取 り上げ,筆者な りの検討 を加 える。第Ⅵ節で
は,結 び に代 えて, ほぼ 同時代 の R.
G.ホ- トレー との対 比 か ら, フィ ッ
シャー理論の特色 を要約す る。
瓦
葺 利子率 と信用循環-
『
価値上昇 と利子』 を中心に-
ジ ョセ フ 。シュンペー ターが フイッシャ←を 「アメ リカ最大 の理論経 済 学
者」 (
sc
humpe
t
e
r[
1
9
48
]p.21
9) と高 く評価 した ことはよ く知 られてい る。
フイッシャ-は2
0世紀前半 を中心 に, ミクロ経済学,マ クロ経済学,金融論,
計量経済学等 の多方面の領域 において多 くの先駆的な業績 を残 したが,その膨
大な著作 と,研究対象が多岐にわたることもあって, フィッシャーの経済学 を
体系的に理解す ることは必ず しも容易で はない。 しか し, フィッシャーの主要
Fi
s
he
r[
1
90
7
]), 『
貨幣の購買力』 (
Fi
s
he
r
な著作 とみなされてい る 『
利子率』 (
利子論』 (
Fi
s
he
r[
1
93
0a
]), 『
好況 と不況』 (
Fi
s
he
rl
1
93
2]) な どを
[
1
911
]), 『
見 る限 り,彼が貨幣の購買力の変動,す なわち一般物価水準 の変動 に最大の関
心を持 ち, これ と利子率や景気変動 などとの関係 を終始一貫 して研究対象 とし
て きた ことは明 白であ る1
)
。そ して, これ らの一連の研究の出発点 として重要
1
) フィッシャーの多領域 にわたる研究 において,ほぼ-質 して景気循環論の研究が重要な位置を
占め ることは間違いあ るまい。 この点で シュンペー ターは,「それ ら (
景気循環 の研 究- の/
ア- ヴ イング ・フ ィッシャーの景気循環論 (1)
(
321
) 3
であると思われ るのは,物価水準 と利子率の相互作用 に関す る優 れたモ ノグラ
Fi
s
he
r[
1
8
9
6
]
)であろ う。
フ 『
価値上昇 と利子』 (
ブイッシャ←は このモ ノグラフの第 1部 (
理論編) において,今 日一般 に
「フィッシャー方程式」と呼ばれ る次のような関係式 を導出す る。
j-i+ a+ i・
a
キン
この式の導出において, フィッシャーは金 と小麦 とい う二つの代表的な商品
を考 える。 ここで金 は 1年間で小麦 に対 してある一定額だけ価値が上昇す る商
義-
同 じことであ るが,小麦 は金 に対 して価値が減少す る商品-
であると
す る。 また,ある年の初めに 1ブ ッシェルの小麦 を購入す ることがで きる金の
) ブ ッシェルの小麦 を購 入で きる もの とす
量で,その年の終わ りには (1+α
る。 それゆえ, αは小麦 を基準 とす る金の価値上昇率 にはか な らない。そ して,
金の貸借 による年 間の利子率 を i
,小麦 の貸借 による年間の利子率 を jとす る
ど,容易 に上の関係式が導かれ る。
フィッシャー自身の言葉 によれば,「(
相対的に)価値が減少 してい る基準の
利子率 は 3つの項 の合計 に等 しい。すなわち,価値が上昇 してい る基準 の利子
翠,価値上昇率それ 自体,それ に両者の積である」 (
Fi
s
he
r[
1
89
6
]p.9
)0
上 の式 は,周知 の よ うに現代 で は jを名 目利子率 , iを実質利子率 ,aを予
想物価上昇率 (
期待 イ ンフ レ率) とす ると, i,aが十分 に小 さい とその交絡
項
∼・αが無視で きるため,名 目利子率 は実質利子率
と予想物価 上昇率 の和 に
等 しい と解釈 され る。 これは,次のような考 え方に基づいている。 もし資金の
貸 し手 と借 り手の双方が,貸出契約時点で貸借期間中の物価上昇率が正確 に予
見で きた とす ると,貸 し手の方は元本および利子の実質価値 の減価 を防 ぐため
に,物価水準 に変化がない場合の所定の利子率 (
実質利子率) に加 え,その予
想物価上昇率 に見合 う利子率の上乗せを要求す るだろうし,借 り手の側 も, 過
\ フィ ッシ ャー の 貢 献) は, わ れ わ れ の ほ とん どが 理 解 す る以 上 に は るか に重 要 で あ る」
(
Sc
humpe
t
e
r[
1
9
48
〕pp.2
2923
0) と述べ,景気循環理論 が フ ィッシャーの経 済学 の中枢 をなす
との認識 を示 してい る。
4 (
3
2
2
)
第1
75巻
第 4号
済時点での資金の実質価値 は不変 に保たれ るか ら,貸 し手の要求を受 け入れる
完全予見 」 (
pe
r
f
e
c
tf
or
e
s
i
ght
) を仮定す ると,実
ことになろ う。それゆえ,「
質利子率 は不変 にとどま り,名 目利子率 は予想物価上昇率 を織 り込んで決定さ
れ ることになる。
上の フィッシャー方程式の導出に際 して, フィッシャーはその前提 として,
われわれ は貨幣価値 の予期で きる変化 と予期で きな
次 のよ うに述べ ている。「
Ibi
d.
)。 そ して
い変化 の区別 に注 目す る こ とか ら始 め なけれ ば な らない」(
「
われわれは差 し当た って, この予見が存在す ると仮定す ると (
傍点部分 は原
Ibi
d.
) とい う。 この仮定
文で はイ タリック),何 が起 こるか を発見 したい」(
の もとで導かれたのが,上の フィッシャー方程式 にはかな らない。
実証編) において, フィッ
フィッシャーは 『
価値上昇 と利子』 の第 2部 (
シャー方程式 に示 される物価 と利子率の関係 を明 らか にす るために,主 として
1
9
世紀後半 におけるニュー ヨー ク, ロン ドン,東京 な ど当時の世界の主要金融
いま
セ ンターのデー タを用いて実証 的な分析 を行 う。 この実証分析 の結果,「
や 4つの一般的 な事実が確立 された」(
Ibi
d.
,p.75) として,以下のように要
約す る。
①
高い物価 は高い利子率 に,低い物価 は低い利子率 に対応す る。
②
物価 および貸金の上昇 と下落 は,利子率の高低 に対応す る。
③
物価 (
あるいは賃金) の変動 に対す る利子率の調整 は不十分である。
④
この調整は,短期間よ りも長期 間に対 してよ り十分 となる2
)
。
これ らの事実, とりわけ③ は,物価 の変動の市場利子率 (
名 目利子率) に対
す る調整は完全ではな く,その意味で フィッシャー方程式 は不完全 な形で しか
物価が上昇 し始 め る
成立 しない ことを示唆 してい る。 フィッシャーは言 う。「
としよう。 (
貨幣で測 られ る)企業 の利潤 は増加す る。 利潤 は租所得 と費用 の
,
2
) ただ しフィッシャーは,後の著作 『
利子率』 において, 4つの事実の うち① を省略 して 「
い
まや 3つ の一般的な事実が確立された」 (
Fi
s
he
r[
1
9
0
7
]p.28
4) として残 りの 3つの事実を指摘
している。 これは恐 らく 『
価値上昇 と利子』 における① と②がほぼ同 じ内容 をを意味す るか ら
であると思われる。
,
ア-ヴイング 。フィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
2
3
) 5
差であ り, もしこれ らが上昇すれば,その差 も上昇す る。 今や借 り手はよ り高
い "
貨幣利子"を支払 う余裕がある」
。(
Zbi
d.
,p.75)「しか しなが ら,ほんの
少数の人 しか この ことを知 らないなら,利子 は十分 には調整 されず,借 り手は
利子費周を控除 した後の追加的な利潤マ-ジンを実現す る。 このことは,将来
における同様 の利潤の期待 をもた らし, この期待 は,貸出需要に働 きかけて利
子率 を上昇させ る。 もしその上昇が依然 として不十分ならば,その過程 は繰 り
返 され,か くて継 続 的 な試 行 錯誤 を通 じて利 子 率 は真 の調 整 に近づ く」
。
(
Fi
s
he
r[
1
8
96
]pp.7576
) 「
物価が下落 し始めるときは,逆の効果が表れ る。
貨幣利 潤は下落す る。 借 り手は元の利子率 を支払 う余裕はな くなる。 もし見込
み違いによって,彼 らが依然 として以前の利子率を支払 うなら,彼 らの利潤は
蚕食 される。か くして先行 きに悲観 して彼 らはよ り低い利子率 を求めることに
J
bi
d.
,p.7
6)
3
)
。
なろう」(
フィッシャーは,以上のような利子率調整の不完全性 よ り生 じる企業利潤の
,「直接 に信周循環の理論 (thetheoryof"credit
Ibi
d.
) として,
「ここに提起 された考 え方の もとで
c
yc
l
e
"
) に関わ っている」(
変動 ない し貸 し出 しの変動が
は,投機 と不況 は予測 の不均一性 (
i
ne
qual
i
t
yoff
or
e
s
i
ght
) の結果で あ る」
(
Ibi
d.
) と言 う。す なわち,「
現実の世界で は,予測 は非常 に不均一 に分布 し
,
Ibi
d.
,p.7
7)のであ り 「ほんの少数の人だけが,常 に "
現状 を正確
ている」(
に理解す る"能力 を持 っている。 借 入階層 を構成す るのは, まさにこうした
3
) フィッシャーは,名 目利子率 と実質利子率の区別に関 してマーシャル 『
経済学原理』 における
次のような文章 を引用する。「
われわれが商業活動のインフレーションと不況の時期が交互に生
じる原因を議論す るとなると,それ らが貨幣の購買力の変化によって引 き起 こされる実質利子率
の変動 と密接 に結びついていることを見出すだろ う。 とい うのは,物価が上昇 し始めると,事業
は活発 とな り,それは無分別に浪費的に運営 され る。借入資本を用いて活動す る人々は,借入額
よりも少ない実質価値 を返済 し,他の人々を犠牲 に して自らは豊かになる。その後,信用が動探
し物価が 下が り始めると,誰 もが商品か ら逃れようとし,価値が急速に上昇 している貨幣を保有
しようとす る。 これは,いっそ う物価 を下落させ,物価が下落すればす るほどさらにいっそ う信
用 を収縮 させ るoか くて長い期間にわた って,物価が下落 したがゆえに物価 は下落す るのであ
Ma
r
s
ha
l
l[
1
92
0
]p,5
9
4,Fi
s
he
rl
1
8
96
]p.79)。そ して 「
われわれは,利子率が完全 に調整
る」 (
Fi
s
he
r[
1
89
6
〕p.7
9
)と
されるならば, こうした信用 の効果は起 こ り得 ない と付 け加 えたい」 (
して,利子率調整の遅れ,そ してそれか ら生 じる名 目利子率 と実質利子率の義経 こそが信用循環
あるいは景気変動の基本的な原因であることを繰 り返 し強調する。
第1
75巻
6 (
32
4)
第 4号
人々である。その優れた予測力のゆえに,社会は資本の管理を彼 らに委ね るの
c
a
pt
a
i
nsofi
ndus
t
r
y) となるのは彼 らである」(
Zb
i
d.)。
である。"
産業の盟主" (
他方,資金の貸 し手はそ うした予測力を持 っていない。 こうした貸 し手 と借
り手の予測の非対称性 を前提 にす ると,物価 の上昇は企業の期待利潤の増加を
通 じて,借 り手である企業の投資および資金需要を増加させ るが,貸 し手の資
金供給 は変化 しないか ら,名 目利子率の上昇が生 じる。 しか し,名 目利子率は
(
期待)物価上昇率 ほ どには上昇 しないか ら,実質利子率の低下が生 じ,企業
の投資需要の増加 を生 じさせ る。 物価 の下落の場合は, この反対である。 それ
,
予測 の不完全性 (
i
mpe
r
f
e
c
t
i
onoff
or
e
s
i
ght
) は資産を貸 し手か ら借 り
ゆえ 「
i
ne
手 に移転 させ る,あるいはその反対であるのに対 して,予測の不均一性 (
-
qua
l
i
t
yoff
or
e
s
i
ght
) は物価上昇期の過剰投資 と物価下落期 の相対 的な停滞 を
,「前述の理論
Ibi
d.
,p.7
8)。 そ して フィッシャーによれば
生 じさせ る」(
(
予
測の不均一性理論) は事業-の刺激や不況,貸出額などに関す る観察 された事
Ibi
d.
)のであ り,彼 の 「
不均一予見理論」と 「
信用循
実 に密接 に対応す る」(
環の理論」とは表裏一体 の関係 にあると考えられる。
これに対 して,予測 の均一性 を仮定すれば, こうした景気 の変動 は生 じな
い4
)
。なぜなら,「もしすべての人が物価の上昇を同 じ程度に過小推定す るなら,
利子率が調整されない ことは,単 に貸 し手か ら借 り手への富の移転 を生 じさせ
るだけにす ぎない。それは貸出額 には影響を及ぼさない (
ある人か ら別の人の所得 の移転それ 自体が破産のような間接的な効果を もつ ものでない限 り)。
。
4
) 予測 (
予見)の均一性 に関 して, フィッシャーは次のような比橡を挙げている ド(
か って,本
当にそ うであったように) 1ヤー ドを国王の腰回 りの長さと定義 し,その国王が子供であった と
0
年
仮定 しよう。その場合,誰で も "1ヤー ド'が年 とともに伸 びることを知 ってお り,今か ら1
0
0
0 "ヤー ド"を引 き渡す約束を している商人は,その契約条件 を彼の予想 に応 じて変更さ
後に1
せ るであろう。測定方法の変更は,現実の数量を変更 しないで,ただ数量が示 される数字を変更
Fi
s
he
rl
1
8
96
〕p.1
)o フィッシャーはこの比憶が余程気 に入 ったのか,
す るだけなのである」 (
Fi
s
he
r[
1
9
07
日)
.7
9
) 『
利子論』 (
Fi
s
he
r[
1
93
0
a
]p.38
)で もそのまま使 っている。
『
利子率』 (
なお 『
利子率』ではこの引用 に続いて 「
予見 うる価値上昇を相殺す るために,利子率がそれに
応 じて下落 し,予見 しうる価値下落を相殺す るためには,利子率がそれに応 じて上昇す ることこ
そが必要である」 (
Fi
s
he
r[
1
9
0
7]p.79
) と述べてい る。
,
,
,
ア-ヴイング ・フィッシャーの景気循環論
(
1
(
3
25
) 7
)
そのような状況の もとでは,利子率 は正常 な ものよ り低 くなるが,誰 もそれを
知 らないので, どんな借 り手 もよ り以上借 りようとは しない し, どんな貸 し手
Ibi
d.
,p.7
6
)か らである5
)
。
もよ り少 な く貸そ うとは しない」 (
以上の フィッシャーの見解 は,「
一般 に,事業 に関す る予測が存在 し,その
正確 な予測力 は今 日ではか ってないほ ど大 きくなってい るとい う広範な事実を
強調す ることは重要である。 それは,近代 の企業社会の大 きな特徴 の一つであ
Ib
i
d.
,pp.3
63
7
) とい う認識 と一体化 して,彼 の信用循環 ない し景気変
る」(
動 に対す る考 え方 を支えている6
)
。
以上 のモ ノグラフ 『
価値 上昇 と利子』 で展 開 された考 え方 は, 『
利子率』
(
Fi
s
he
r[
1
9
07
〕) および 『
利子論』 (
Fi
s
he
r[
1
9
3
0a
]
) で も,ほぼそのままの形
、
で受 け継がれてお り,少 な くとも景気循環論 に関 しては, 『
価値上昇 と利子』
に付 け加 える新 しさはないように思われる。
五
五
五 交換方程式 と信用循環- 『
貨幣の購買力』 を中心 にFi
s
he
r[
1
91
1
]
)
フィッシャーの景気循環論 は,その大著 『
貨幣の購買力』 (
に お い て, 『
価 値 上 昇 と利 子』 (
Fi
s
he
r[
1
8
9
6
]) お よ び 『
利 子 率』 (
Fi
s
he
r
[
1
9
0
7
]) な どにおけるよ りは周到かつ体系的に景気循環 のプロセスを説明す る。
すなわち, 『
価値上昇 と利子』で は景気 の上昇過程 と下降過程 のみを分析 の対
象 としていたのに対 し, この書物で は,景気 の上昇-景気の ピーク- 景 気 の 下
5
) フィッシャーは同様 のことを 『
利子率』 において次のように述べている。「
貨幣的な価値上昇
ない し価値下落の利子率に及ぼす影響 は,その価値上昇ない し価値下落が予見 されるか否かに応
じて異なるだろう。 もしそれが予見 されないならば,貨幣の価値上昇は必然的に債務者を傷つけ
る。なぜな ら,貨幣の購買力は増大す るか ら,債務の元本はそれが満期 になれば,債務が契約さ
れた時に期待 された ものよ りはよ り大 きな財の数量を表すか らである。 しか し,価値の上昇が予
見 され るな らば, どれほど "
元本"の負担が増加 して も,利子率の減少 によって相殺 され る」
、(
Fi
s
he
r[
1
907
]p.7
8
)0
6
) レイ ドラ弓 ま『
価値上昇 と利子』 に関 して 「インフレー シ ョンと利子率の相互作用 に関す る
La
i
dl
e
r[
1
991
]邦訳9
7ページ) と述べ, この研究は 「
主 として,
フィッシャーの卓越 した研究」 (
景気循環ではな く,物価水準の変化 と名 目利子率の水準 との長期的な関係 にかかわるものであ っ
価値上昇
た」 (
同) と指摘 している。 しか し,物価水準の変化 と名 目利子率の水準 との関係 は 『
と利子』 においては,同時に景気循環 を引 き起 こす原因で もあ り,筆者にはこれ ら 3つは不即不
離の関係 にあるように思われる。
,
,
8 (
3
2
6
)
第1
75巻
第 4号
降-景気の底-景気の上昇 とい う,文 字通 り,景気循環の全過程 を分析の対象
とす る。
フィッシャーは,いわゆ る 「
交換方程式」 (
t
hee
quat
i
onofe
xc
ha
nge
) に基
づいて,貨幣数量 と物価水準,取引量および貨幣の流通速度 との関係 について
。『貨幣の購買力』
詳述 し, これに基づいてその独創的な景気循環論 を展開す る
における景気循環論を検討す る前に, ごく簡単 にフィッシャーの交換方程式 に
ついて触れ ることにしよう。
よ く知 られているように,その最 も基本的な形 は次式のように表される。
M V-PT
ここで, A射ま貨幣残高 (
正貨および銀行券), Vは貨幣の流通速度,pは一
般物価水準, 封 まあ る一定期 間の取引量である. フィッシャーは, この基本
,
任意の取引において支払われ る貨幣額 は,その販売価格
的な交換方程式 は 「
Fi
s
he
r〔
1
911
〕p.28
) とし,そ し
での財 の購入額 に等 しい ことを意味す る」 (
て 「
物価水準 (
p) は,(
1)流通 している貨幣数量 (
M) と正比例 して変動 し,
(
2)貨幣の流通速度 (
V) と正比例 して変動 し,(
3)貨幣を用いた取引高 (
T)
とは反比例 して変動す る。 これ らの 3つの関係 の うちの最初の ものは強調す る
t
hequant
i
t
yt
he
or
yofmone
y) を構成す る」
に億す る。 それは貨幣数量説 (
(
I
bi
d.
,p.2
9
) と述べている。
またフィッシャーは,財 ・サービスの購入における決済手段 としての預金通
Fi
s
he
r
貨 の重 要性 を考慮 して上 の式 を拡 張 し, 「
貨 幣 の範 噂 に属 す る」(
貨幣の範噂の外 にあるが,優れた代替物 を構成す
l
1
911
]p.47
)現金通貨 と,「
Z
bi
d.
)預金通貨のそれぞれの残高 を M,M ′とし,対応す る流通速度 を
る」(
それぞれ
V
,V′として次のような定式化 を行 う。
M V+M '
V'-PT
,
この式 において 「
小切手 と現金流通の間には,便宜的で慣習的な関係があ り,
平均的な人間や企業の預金残高 と保有 され る貨幣残高の間には多かれ少なかれ
安定 した比率が存在す る。 この事実が,一国全体 に適用 され ると, M と M ′
ア-ヴイング ・フィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
2
7) 9
の間には,便宜上,大 まかには固定 した比率があることを意味す る。 この比率
が一時的に撹乱 され ると,それ を回復 しようとい う傾 向が生 じる」(
Zbi
d"p.
52) とみなす。 こうした現金通貨 と預金通貨の間の一定の関係 を前提すれば,
「
流通貨 幣量 M の変化 は,通常,預金通貨額 M 'を比例的に変化 させ るか ら,
当然なが ら,流通速度や取引高が同時に変化 してこの効果が阻害されない限 り,
J
bi
d.
) として,預金通貨
一般物価水準の正確 に比例的な変化 を生 じさせ る」(
を導入 して も貨幣数量説が貫徹す ると主張す るのである。
ところで, フィッシャーは 『
貨幣の購買力』 においては,現金通貨 と預金通
貨 との高い代替性 を認めなが らも,後者を貨幣の定義の中には含めていない。
その理由はフィッシャーによれば,貨幣 とは 「
他の財 と交換 に一般的に受容さ
れ る財」 (
Fi
s
he
r[
1
91
2
]p.1
47,傍点部分は原文で はイタリック) と定義 され
,「銀行券 は交換 において一般的に受容 され るけれ ども,小切手 は受取人
るが
Ibi
d"p.1
49,傍点部分 は原文ではイ
の特別の了解の もとにのみ受容 される」(
Fi
s
he
r[
1
93
2
]) において,
タリック)か らである7
)
。ただ し, 『
好況 と不況』 (
フイッシャ弓 ま貨幣の歴史に触れ,金 (
キン) は貨幣 として優れた物理的特性
を持 ってはいるものの,金の購買力が減価す るケース も時々生 じた と指摘 した
7
) フィッシャーは貨幣 と一般受容性 の関係 につ いて,次 の よ うに述べ てい る。「
一般 受容性
(
ge
ne
r
a
la
c
c
e
pt
a
bi
l
i
t
y) は法律 によって補強 され,それゆえ貨幣は "
法貨",すなわ ち,貨幣単
位で表示された債務 を清算す る法的な手段 として債務者か ら債権者に支払われ,債権者はそれを
受容 しなければならない とされる貨幣 となる。 しか し,そ うした補強は本質的なものではない。
何 らかの財が貨幣であるために必要であることのすべては,一般受容性がそれに付加 されている
ことである。未開地では,何の法律的な拘束力 もな しに,時には砂金や金塊が貨幣 となることが
ある。バージニア植民地では貨幣はたば こであった し,ニューイングランドのインデ ィアンの間
wa
mpum) であった」 (
Fi
s
he
r[
1
91
2
]p.1
4
7)0
では,それは貝殻の数珠 (
またフィッシャーは,「
貨幣」は 「
通貨」 (
c
ur
r
e
nc
y) に属す ると考えるO ここで 「
通貨」 とは,
「
一般的に受容 されようがされまいが,その主な目的および使用が交換手段 として役立つ ような
種類の財」 (
I
bi
d.
,p.1
48
) であるとし,それは,貨幣 と (
小切手 によって移転可能な)銀行預金
か ら成 り立つ とみな して次のように述べている。「
小切手 は銀行預金 を移転す る証拠 となる。そ
れは受取人の同意によってのみ受容 されるのであ り,見知 らぬ人には一般的には受容 されないo
Lか し,銀行預金 は小切手 によって現実 には貨幣以上に交換手段 として役立 ってい る。 この国
[
米国]では,時には預金通貨 (
de
pos
i
tc
ur
r
e
nc
y) とも呼ばれ る小切手が振 り出せ る銀行預金
は,はるかに重要な通貨ない し流通手段 (
c
i
r
c
ul
a
t
i
ngme
di
a)である。他方,銀行券 は流通手段
(
通貨)であ り,かつ貨幣で もある」 (
Ib
i
d.
) としている。
1
0 (
32
8)
第 175巻
第 4号
。
級,次のように続 ける 「
金 はいまや紙幣や小切手 に依存す るようになった。
近代人が小切手 システムを発明 した とき,小切手を振 り出 し得 る預金が貨幣 と
みなされるようになるとは夢想 にもしなか っただろう。 しか し,あらゆる点で,
それは貨幣であ り, もっぱ ら金 の購買力 を決定す る」 (
Fi
s
he
rl
1
93
2〕p.21
)
と考 えるに至 る。
さて, 『
貨幣 の購 買力』にお けるフィッシャーの景気循環論 は,いわゆ る
t
r
a
ns
i
t
i
onpe
r
i
ods
) とは,
「
過渡期」 を分析 の対象 とす る。 ここで過渡期 (
「
物価 の上昇 ない し物価 の下落 によって特徴付 けられ る」 (
Fi
s
he
r[
1
911
]p.
56) 期間である8
)
。交換方程式 に従 うと,例 えば貨幣量が 2倍 になれば,他 の
条件が一定である限 り,物価 も 2倍 になるが, フィッシャーによれば, これは
比較静学的な 「
均衡」の変化 を考 える永久的効果ない し究極 的効果 (
pe
r
ma
-
ne
ntorul
t
i
ma
t
ee
f
f
e
c
t
s
) であ り, この効果は貨幣量の変化 に伴 う物価 の上昇
t
e
mpor
a
r
ye
f
f
e
c
t
s
)
または下落 とい う 「
過渡期」において生 じる一時的効果 (
とは明確 に区別 されなければならない。「
"
貨幣数量説"は,過渡期 においては
I
bi
d"p.1
61
) のである。
厳密にも絶対 的にも妥当 しない」 (
フィッシャーは,信用循環 もしくは景気循環 は, こうした過渡期 における物
価の変動 と利子率の相互関係,特 に物価の変動 に対す る利子率調整の遅れに原
。
因があるとして次のように述べる 「こうした景気 の上昇 と下降の研究 は,刺
子率調整の研究 と結 びついているか ら,われわれの最初の作業 は,物価の上昇
と下落の利子率 に及ぼす効果に関す る簡単な説明をす ることである。 実際,本
章 [
第 4章] の主な目的は,過渡期の利子率の固有の動 きが物価変動の帰着で
Ib
i
d.
,p.56,
ある危機および不況の主たる原因であることを示す ことである」(
傍点部分は原文ではイタリック)9)。
,
8) 『
初等経済学原理』 においては 「
過渡期 とは,交換方程式 における 6つの変数の うちの何 らか
の変数の撹乱 (
例 えば,流通貨幣量の増加)が,完全にその効果を出 し切 るまでの期間を意味す
Fi
s
he
r[
1
91
2
]p.1
8
4) と定義付 けされている。
る」 (
9
) す ぐ後 の説明の便宜上 『
貨幣の購買力』の翌年 に出版 され,それを経済学の教科書用 に要約
した とされる 『
初等経済学原理』の対応す る箇所 を示 しておこう。それは次のように記されてい
る。「こうした景気の上昇および下降の研究は企業貸出の研究 と結 びついている。さて,物価 /
,
(
3
2
9
) l
l
ア- ヴ イング ・フ ィッシ ャーの景気循環論 (1)
さて, フイッシャ弓 ま景気循環の一連のプロセスを以下のように記述す る
.
最初 に,例 えば,金の数量の増加のような何 らかのシ ョックによって物価の上
実
昇が生 じた としよう。物価が上昇す るにつれて企業の利潤 も増加す るが, 「
際 には,企業家の利潤は彼が支払わなければならない利子率 自体が即座 には調
整されないため,物価上昇以上の速度で増加す る。 利子は企業家の費用の中に
含 まれてお り, この費用 は最初の うちは上昇 しない。その結果,企業は通常 よ
りも大 きな利潤を得てい ることを見出 し,借 り入れを増加させ ることによって
事業を拡張 しようとす る。 こうした借 り入れは,ほ とんどの場合,銀行か らの
短期の貸 し出 しの形態をとる。 そ して,われわれが これまで見たように,短期
の貸 し出 しは預金を創造す る。 よく知 られているように,貸 し出 しと預金 との
対応 は著 しく正確である。 それゆえ,預金通貨は増加す るが, この預金通貨の
J
bi
d.
,p.59,傍点
増加 は,い っそ う一般物価水準 を上昇 させ る傾 向がある」(
部分 は古 川) 州 。 ここで明 らか なように, フィッシャーは過渡期 においては貨
幣数量説は妥当 しない と言いなが らも,貨幣 (
預金通貨)の増加は物価 を上昇
させ ることを当然 とみな している。 すなわち,貨幣量の変化が直接的な物価の
変動を引 き起 こす とみる点で, フィッシャーは数量説の枠組みに沿 った議論を
展開す る。
こうして物価の上昇 による企業利潤の増加 は,銀行貸出および預金通貨の増
,
加 とい う金融的要因を媒介 に して景気 を上昇 させ る。 その うえ 「もし物価が
\が上昇す る時は借 り手は得 を し貸 し手は損 をす る一
一万,物価が下落する時は反対のことが妥当す
る。企業貸出は貨幣の形態でなされるけれ ども, しか し人が貨幣を借 りる時はいつで も,その貨
幣を保蔵す るためにそ うす るので はな くて,それで もって財 を購入す るためにそ うす るのであ
る」 (
Fi
s
he
r[
1
91
2
]p.1
8
5
)0
1
0
) これに対応す る 『
初等経済学原理』 の文章は次のようになっている。「
実際,企業家の利潤 は
その費用の多 くが同 じ額にとどまる傾向があるか ら,通常 は‡れ [
物価が上昇す る前の利潤〕以
上に増加するだろう。特 に,過去の貸 し出 しに対す る貸 し手への彼の支払いや働いている従業員
への支払いは, しば らくの間は,全般的な物価上昇によって影響 を受けないか,ほ とんど影響 を
受けない。その結果,企業は通常 よ りも大 きな利潤 を得ていることを見出 し,借 り入れを増加 さ
せ ることによって事業を拡張 しようとす る。 こうした借 り入れは,ほとんどの場合,銀行か らの
短期の貸 し出 しの形態 を取 る。そ して,われわれが これまで見たように,短期の貸 し出 しは預金
を創造する。それゆえ,預金通貨は増加す るが, この預金通貨の増加は,い っそ う一般物価水準
Fi
s
he
r[
1
91
2
〕p.1
86,傍点部分 は古 川) 。
を上昇させ る傾向がある」 (
第1
7
5巻
1
2 (
33
0)
第 4号
上昇 しているならば,担保の貨幣価値 もよ り大 きくな り,借 り手がよ り大 きな
信 用 を得 る こ とを容 易 にす る。 したが って,物 価 はいっそ う上昇 す る」
(
zbi
d.)。 すなわち,「
最初 の物価 のわずかな上昇 は,それ 自体 を繰 り返す-逮
の結果を引 き起 こす。物価 の上昇は物価の上昇を引 き起 こし,利子率がその正
常 な水準 を下回る限 り,物価 は上昇 し続 ける」(
I
bi
d"p.6
0, 傍点部分は原文
ではイタリック) とい うヴイクセル的な累積過程 を引 き起 こすi
l
)
。
さらに物価の上昇は,別の側面か ら物価の上昇それ 自体 を促進する。 フィッ
。
われわれは誰で も,熟 した果物 と同様,手の上 に腐 りつつ あ
シャーは言 う 「
るどのような商品か らも大急 ぎで逃れようとす る。 貨幣 も例外ではない。その
価値が減少 しつつあるとき,保有者はで きるだけ早 くそれを手放そ うとす るだ
ろ う」(
fbi
d.
,p.63)。 つ ま り,物価 の上昇 (
貨幣の購買力の減少)は,貨幣価
値下落の予想 を通 じて交換方程式 における貨幣の流通速度 を加速させ,いっそ
うの物価の上昇を促す ことになる1
2
)
。
しか し,以上のような景気 の上昇局面 はいつ まで も続かない。「
利子率 は遅
れるけれ ども徐 々に上昇 してい き,そ してそれが物価上昇率に追いつ くやいな
,
や仝局面 は変化す る」(
Zbi
d)。 す なわち 「
銀行 は支払い準備 に対す る関係か
ら,それほど異常な貸 し出 しの増加 に耐えることがで きないか ら, 自己防衛的
に利子率を引 き上げざるを得 ない。利子率が調整 されるようになるとす ぐ,借
り手はもはや大 きな利潤 を期待す ることがで きな くな り,貸出需要の増加が止
む」(
J
bi
d.
,p.64)。
。
預金通貨の額が法律
さらに,景気 を抑制す る次のような要因が存在す る 「
および慎重 な慣行 によって銀行準備額のある最大乗数倍 までに限定 されるばか
l
l
) これに対応す る 『
初等経済学原理』 の文章 は次のようになっている。「
最初の物価 のわずかな
上昇は,それ自体 を繰 り返す一連の結果 を引 き起 こす。物価の上昇は物価の上昇を引 き起 こし,
企業の異常 に高い利潤が続 く限 り,物価 は上昇 し続 ける」 (
Fi
s
he
r[
1
91
2]p,1
8
7,傍点部分 は原
文ではイタリック)0
1
2) フィッシャーによれば,物価の上昇は取引量 (
Q) をも増加させ る。 しか しこの効果はそれほ
ど大 きくない。「なぜなら,取引量 は,貨幣量以外の要因にもっぱ ら依存す るか らであるO よ り
Fi
s
he
rl
1
911
]pp.61
6
2
)。
重要なのは,貨幣の流通速度である」 (
ア- ヴ イング ・フ ィ ッシ ャーの景気循環論 (1)
(
3
31
) 1
3
りか,銀行準備それ 自体が準備 として用いられ る貨幣額 によって制約され る0
その うえ,利子率の上昇 とともに,それに基づいて貸 し出 しがなされる債券の
ようなある種 の担保証券の価値が減少 し始める。 そ うした証券の価格 は,一定
の割引価値額の合計であるか ら,利子率の上昇につれて下落す る。 それゆえ,
以前ほどの大 きさの貸 し出 しの担保 としては用いることがで きない。 こうした
fbi
d.)。 このように
貸 し出 しに対す る歯止 めが,預金への歯止め ともなる」(
フィッシャーは,銀行貸出 に影響 を及ぼす準備や担保価値 の変化 に も注意 を
払 っている。
さて利子率が上昇 し,銀行準備や担保価値の減少が生 じると,次第に破産す
る企業 も出始める。「
銀行か ら多額 に借 り入れた企業の破産 (もしくは破産の
見込み) は,多 くの預金者の側 に銀行はこれ らの貸 し出 しを回収す ることはで
きない との恐れを引 き起 こす。 したが って銀行 自身が疑われるようにな り,そ
のために預金者が現金を要求す る。 こうして銀行準備が最 も必要な時にこそ,
b
a
n
k
r
u
n
)が生 じる。 準備 の
その銀行準備 を払底 させ るような "
銀行取付" (
Zbi
d.
,p.65
)0
不足 のために,銀行 は貸 し出 しを削減 しなければな らない」(
フィッシャーは,「こうした物価 の上昇の終着点が,いわゆる危機 (
c
r
i
s
i
s
)で
Zb
i
d.
) と述べ,次 のように続 ける。「
信用 の失墜 によって もた らされ
ある」(
る銀行信用の崩壊 は,その原因が何であれ,あらゆる危機の本質であることは
一般 に認識 されてい る。一般 に認識 されていないのは,そ して この章 [
第4
章]で強調 したいのは, (
ここに記述 した典型的な商業危機がそ うであるよう
に) この信頼の喪失 は,利子率の調整の遅れの結果であるとい うことである」
(
Ibi
d.
,p.6
6,傍点部分 は古川) とこれまでの主張 を繰 り返す。 フィッシャー
か ら見れば,景気 の上昇期 に速やか に利子率の調整がなされ,「もし以前 の利
子率が十分に高か ったならば,借 り手は決 して投資 し過 ぎることはなか っただ
Zb
i
d"p.6
7
)か ら,その結果 として経済危機が生 じるはず もなか った
ろ う」(
のである。
フィッシャーは, この経済的危機 に関 して次のように も述べてい る。「
過去
1
4 (
3
3
2
)
第1
75巻
第 4号
の過剰借入 (
ove
r
bor
r
owi
ng) の誤 りは, こうした誤 りを犯 した不幸 な犠牲者
が 自らの支払い能力を守 るために,なおいっそ う借 り入れ ことを余儀 な くさせ
危機" の期 間 を特徴 付 け るの は, この特 殊 な異 常性 (
s
pe
c
i
a
la
bnor
る。 "
-
,
ma
l
i
t
y) である」(
Ibi
d.)。 すなわち 「
貸 し出 しは古い債務 を持続す るために,
あるいは新 しい貸 し出 しを生み出す ことによって これ らの債務 を返済す るため
に必要 とされる。 それは,新 しい投資のために必要 とされるのではな く,古い
Ibi
d.
)ので
(
そ して不幸 な)投資 と結びついた債務 のために必要 とされ る」(
あ り,経済危機の渦中にある過剰借入の企業 にとっては,いわば借 り入れのた
問題 は,過去の契約
めに借 り入れるとい う状況 に陥 るのである。 したが って 「
の 網 の 目 か ら い か に抜 け 出 す か とい う こ とで あ る。 そ れ は, 清 算
(
l
i
qui
da
t
i
on) の問題である」(
Ibi
d
.
)。
しか し,物価が下落 し,それに伴 って
景気 も下降す るときには,企業が既存の債務 を清算 し,過去の貸出契約の網 の
目か ら逃れることは容易ではない。以上のように, フィッシャーが信用循環 な
い し景気循環のなかで も不況や経済危機の問題 に重要な関心を持ち続 けた こと
その決定 と信用,利子および危機 との関
は, 『
貨幣の購買力』の副題 として 「
係」 とい う見出 しを付 けていることか らも明 らかであろう。
フィッシャーは,物価 の下落 とそれに対す る利子率調整の遅れ との関係か ら,
景気循環の下降局面およびそれか らの反転局面 について も分析 している。 景気
の下降時には 「
銀行貸出は低下傾向 とな り,その結果,預金 も減少す る。預金
通貨の減少は物価 をよ りいっそ う下落させ る。 商品の在庫 を購入す る目的で借
り入れた人々は,商品を販売 して も,彼 らが借 り入れた額を返済することさえ
不十分であることを見出す。 よ り低いそ して正常な利子率水準-の調整の遅れ
Ibi
d.
,p.6
8,傍点部
のために,前の時 とは正反対 の一連の出来事が生 じる」(
分 は古川)。 ここに述べ られているように,景気 の下降局面 と景気の谷 につい
てのフィッシャーの分析 は,景気上昇局面および景気の山の場合 とは完全 に対
称 的であ り,改めて説明す る必要はあるまい。ただ フィッシャーは,「
物価 の
下落はいっそ うの物価の下落 を招 く。 明 らかに,利子率の遅れがある限 り,鰭
ア-ヴイング ・フィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
3
3) 1
5
環 はそれ 自体 繰 り返 す。最 も失 う人 は,債 務 を負 った企 業 家 で あ る (
The
ma
nwhol
os
esmos
ti
st
hebus
i
nes
smani
nde
bt
)」(
Ibi
d.
) と述べ,物価下落
の債務者 に及ぼす影響 に言及す る。 以上の見方は,次節で詳述す る 「
負債 デフ
レーシ ョン理論」 と整合的であることは明 らかであろ う。
。
以上の分析 を通 じて, フィッシャーは次 のように述べ る 「
われわれ は,物
価 の上昇, ピー ク,下落,そ して回復 を考慮 して きた。 これ らの変化 は,何 ら
かの最初 の撹乱 に対す る異常 な振動であ る。 [
物価 の]上方および下方-の動
ape
r
f
e
c
tc
r
edi
tc
yc
l
e
) を構成す るが, こ
きは一体 となって完全 な信用循環 (
の信用循環 は振 り子の前方および後方-の動 きに類似 してい る。 ほ とん どの場
令,商業的振 り子 (
t
hec
omme
r
c
i
alpe
ndul
um) の前後への振動 に要す る時 間
は,およそ1
0年である」(
Ibi
d.
,
r
p.7
0)i
3
)
。そ して フィッシャーは 「
商業的振 り
子」を振動 させ る主な原因 として,企業心理-のシ ョック,農産物の作柄,発
,「そ うした最 も共通の原因の一つ は貨幣量 の増加で
Ibi
d.
) として,貨幣的要 因を原 因の第一 に挙 げ る。
『
貨幣の購買力』
あ る」(
明などを指摘 してい るが
には, こうしたマネタリス トとしてのフィッシャーの特色が色濃 く表れてい る。
上に述べたように, フイッシャ-は交換方程式を基礎 に して財 ・サー ビスの
交換 メカニズムを説明 し,物価 の変動,そ して信用 の変動 によって特色付 けら
1
3) フィッシャーは しば しば信用循環 について言及 している。 しか し筆者の知 る限 り,信用循環が
何 を意味す るかについて どこにも明確 には定義 していない。ただ,「
信用」については,「ここで
債務者 と呼ばれる)契約の一方の側が, (
債権者 と呼ばれる) ち
用いられる意味での信用 とは, (
う一方の側 に対 して貨幣を支払 う約束である」 (
Fi
s
he
r[
1
91
2
]p.1
65
) との定義付 けを行 ってい
る。 フィッシャーのい う信用循環 とは,い くつかの使用例か ら見て,上の意味での信用の一種で
ある小切手を振 り出す ことがで きる銀行預金 (
預金通貨)の循環的変動 を指 していると判断 しう
るO ここで,小切手振 り出 し可能な銀行預金 (
bankde
pos
i
ts
ubj
e
c
tt
oc
hec
k) とは,「
預金者 と
して知 られるある特定の債権者がある特定の貨幣額 を要求次第小切手によって引 き出す ことがで
きる,預金者の銀行に対す る請求権」 (
Ibi
d.
,p.1
6
5
)を意味 している。
もっとも,物価の上昇に伴 って景気が上昇 し,それ とほぼ同時に信用の増加が生 じるのが通常
であ り,また物価の下落 と,景気の下降,および信用の減少が同時並行的に生 じるのが通常であ
るとすれば,信用循環,景気循環,「
価格循環」は三位一体の関係 にあると理解で きる。なお,
,
pr
i
c
ec
yc
l
e
s
) とい う朋 吾は 『
初等経済学原剰 (
I
bi
d,p.1
91
)にただ一度登場す る。
価格循環 (
a
na
l
t
er
nat
i
onof
また, フイッシャ弓 ま景気循環の定義 に関 して,それを 「
好況 と不況の交代 」 (
Zb
i
d.
,p.1
80) とだけ述べているo
boomsandde
pr
e
s
s
i
ons
)(
1
6 (
3
3
4)
第1
75巻
第 4号
,
れる 「
過渡期」の性格 を明 らかに した。その うえ 「
過渡期 は常態であ り,均
衡の期間は例外であるか ら,交換のメカニズムはほ とんど常 に静学的な状態 に
Fi
s
he
r[
1
911
]p.71
) と言 う。ただ
あ るとい うよ りも動学的な状態 にある」 (
し,そ うした過渡期 において も,あらゆる信用循環の リズムは,ある時は過度
の好況を,また別の時には深刻な不況を生み出す といった形で,常 に極端に振
。
れ るわけではない として次 のように述べている 「もし銀行が物価上昇期 に貸
し出 しを行 うのに慎重であ り,それゆえ信用通貨の拡大が限 られているなら,
物価 の上昇 も同様 に限 られた ものとなる。 そ してその後に続 く物価 の下落 もよ
り小 さ くな り, もっとゆるやかに行われやすい。 もし物価水準の変化 の意味 を
もっと正 しく評価 し, これ らの変化 を利子率の調整によって相殺 しようと努め
るならば,振動 は大幅 に軽減される。 その振動 をそれほど大 きな規模 に達す る
Zbi
d.
,p.71
)。 以上のように, フィッ
までにさせ るのは利子率の遅れである」(
シャーは経済活動の自律 的な変動 を増幅させ る要因 として,銀行の貸出行動 を
通 じる信用通貨 (
預金通貨)の変動 と,それ に対す る利子率調整の遅れを重視
す るのである。
か って レイ ドラーは,「
古典派の "
信用循環"の分析ではその性質上,貨幣
的要因が重視 され,それは時には経済変動 を引 き起 こし,また常 に経済変動 を
伝達 し増幅 させ る要 因 (
mone
t
a
r
yf
a
c
t
o
r
s
,S
ome
t
i
me
si
ni
ns
t
i
ga
t
i
ngbuta
l
ways
i
npr
opa
ga
t
i
nga
nda
mpl
i
f
yi
ngf
l
uc
t
ua
t
i
ons
) とみなされた。 したが って,古典
派の貨幣数量説を発展かつ洗練 させた人々が,同時に古典派の貨幣的景気循環
La
i
dl
e
r[
1
991
]邦訳
論 アプローチを推進 した として も,驚 くことで もない」 (
9
4ページ) と述べた ことがあった。 この 「
古典派の貨幣数量説 を発展かつ洗練
させた人々」の筆頭 に, フィッシャーがいることはおそらく間違いあるまい。
以上,なるべ くフィッシャーに忠実に 『
貨幣の購買力』における景気循環論
の概要を説明 した。 『
貨幣の購買力』 における景気循環論 は, イ ンフレ率 と利
子率の相互作用,特 に後者の前者に対す る調整の遅れに景気循環の根本的な原
Fi
s
he
r[
1
8
96
]) や 『
利子率』 (
Fi
s
he
r
因を求めた点で は, 『
価値上昇 と利子』 (
ア- ヴ イング ・フ ィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
35
) 1
7
[
1
9
07]) などと同一であ り,その主張は終始一貫 しているといえよう1
4
)
。
利子率』
,あるいは
ところで, フィッシャー 自身は 『
価値上昇 と利子』や 『
利子率調整の
『
貨幣の購買力』 において,「
利子率調整の不完全性 」ない し 「
遅れ」 を当然の前提 として,それが何 に由来す るか を明確 にはしていない。た
。
利子率が低下 し始めた
だ し, 『
貨幣の購買力』の中に次のような一文がある 「
時でさえ,それはゆっくりと低下 し,破産が引 き続いて生 じる。 借 り手はいま
辛,利子率は名 目的には低いけれ ども,依然 として支払いに応 じるのは困難で
あることを見出す。特 に,契約がち ょうど物価が上昇す る前,あるいはち ょう
ど物価が下が り始める前 になされた場合には, この ことが真実であることを知
る。 これ らの場合 には,利子率は条件の変化が生 じる前 に契約されている。 そ
の緒呆,名 目利子率を引 き下げる何 らかの調整は,ほ とんどなされないだろう。
利子 を支払 うのが 困難 で あ るた め,破 産が 引 き続 い て生 じる」(
Ibi
d.
,pp
6768,傍点部分は古川)0
この文章は,利子率調整の遅れを貸 し手 と借 り手の間の契約の存在 に求めて
いることを示唆 している。すなわち,貸出金利 に代表 されるように,利子率は
一般 に,貸 し手 と借 り手の間の相対 (
あいたい)的な契約 として決まる約定金
利であることか ら,契約期間中は利子率の変更が行われないのが通常であ り,
したが ってまた物価 の変化 などに対 してある程度利子率調整の遅れが生 じるの
も当然であろう。 それゆえ, もし企業 にとって利子費用が唯一の費用要因であ
るなら,物価の上昇は直ちに企業の利潤の増加 を通 じて景気の上昇を招 き,物
価の下落は企業の利潤の減少を通 じて景気の下降を招 くことは明白である。
しか し,企業における費用要因 としては,賃金 をは じめ とす る種々の費用要
1
4
) 『
貨幣 の購 買力』 には,景気循環 を引 き起 こす大 きな要因 と して現実 の インフ レ率 に対す る利
,
子率調整 の遅れが強調 され 『
価値上昇 と利子』 で強調 された 「
予想 の不均一
山陵」 とい う要因 は
この大部 の本の どこに も登場 しない。ただ し,後 の 『
好況 と不況』 で は以下のように再登場す る
「
貸 し手 と借 り手 の間には不均一 な予測 の理論が存在す る。--イ ンフ レーシ ョンの期 間には,
借 り手 は貸 し手 よ りも的確 に予見す る (
あ るいは感 じる)か ら,実質利子率 は低 い とい うのが事
実であ る。 この ことが借 り手 にあ ま りに も自由に借 り入れ させ,過剰借 入 (
ove
r
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nde
bt
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dne
s
s
)
に導 く」 (
Fi
s
he
r[
1
9
3
2
]p.6
2
)
)0
1
8 (
33
6)
第1
75巻
第 4号
因が存在 し,それ らに も物価 の変化 な どに対す る調整 の遅れが存在す ることは
容易 に理解 で きる。 実 は, この点が W.
C.ミッチ ェルに よって批判 され, お
そ ら くこの批判が直接 の原因 となったので あろ う。 フ イッシャ可 まそれ以降,
信用循 環 あ るいは景気循環 との関連で,「
利子率調整 の遅れ」を指摘す るこ と
はな くな った1
5
)
。
例 えば, 『
貨幣 の購 買力』 の翌年 に出版 された経 済学 のテキス ト 『
初等経 済
学原理』 (
Fi
s
he
r[
1
91
2
]) にお け る 「
過渡期 」 の説 明 (
第1
0章) を, 『
貨幣 の
購買力』 における 「
過渡期」 の説明 と比較す る と微妙 に異 なってい るが,最大
の違いは, 『
初等経済学原理』 においては, 『
貨幣の購買力』 において強調 され
た 「
利子率調整の遅れ」がすべて削除され,別 の表現 に置 き換わ ってい ること
である。
ま た, フィッ シャー は 「
不 安 定 な ドル と い わ ゆ る景 気 循 環」 (
Fi
s
he
r
,「物価水準 の上昇 は一時的に景気 を活発化 させ ,
[
1
9
25
〕) とい う論文 において
物価水準 の下落 は景気 を押 し下げるとい うことは長い間認識 されて きた。別 の
表現 をすれば,貨幣価値 の減少 (
mone
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c
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a
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on) は景気 を活発化 させ,
貨幣価値 の上昇 は (
mone
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ya
ppr
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c
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a
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i
on) 景気 を抑制す る」 (
Fi
s
he
r[
1
925]
p.1
8
0) と述 べ た うえで, この物価 と景 気 の関係 につ いて次 の よ うな説 明 を
。「これ らの関係 は主 に先見 的 な理 由か ら認識 されて きた。理 由は
行 ってい る
簡単で明瞭である。 生産者が よ り高い価格 を得 るとき,彼 らは最初 はそれ に応
じた高い賃金や給与 を支払 う必 要はない。生産者が支払 う地代や利子 の上昇 も
ず っと小 さい。 こうした利子,地代,給与,賃金 の (
時 間的)遅れ はろん原材料 も幾分異 なった理由によ り遅れ るが-
もち
,契約や合意 によって価格
が固定 されてい るがために必然 的に生 じるのであ る。明 らか に, これ らの重要
,
W.
C.ミッチ ェルは 『貨幣の購買力』 の書評で 「フィッシャー教授 が物価水準 の変化 に対す
る利子率調整の遅れ と本質的には同 じい くつかの他の要素に もっと注意を払 うことによって,彼
1
5
)
Mi
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l
H1
91
2
]p.1
6
4) と述
の業績 を改善 させ ることがで きないか とい う疑 問が挙 げ られ る」 (
べ,そ うした要素 として貸金の調整の遅れな どを指摘 してい る。なお以上の ミッチ ェルの指摘 は,
中路 [
2
002
]1
7
4-1
7
5ペー ジに負 ってい る。
ア-ヴイング ・フィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
3
7
) 1
9
な費用要因の遅れは,実際的には総支出が総収入よ り時間的に遅れることを意
味する。 その結果,利潤つま り収入の費用 に対す る超過分は,増大す る傾向が
Ibi
d.
,p.1
80,傍点部分 は古川)0
ある。 反対 に,物価 の下落は利潤を損 なう」(
これよ り,フィッシャーが利子 に限 らず,企業の費用全般の調整の遅れを重視
す るようになったのはいまや明白である。
以上の点 を別 にすれば,『
貨幣の購買力』は, フィッシャーの従来の著作 に
ない大 きな特徴 を持 っているように思われる。 それを箇条書 きすれば,次の通
りである。
(
∋ 景気循環の全過程 を体系的に取 り扱 っていること。
②
その場合,「
交換方程式」に基づ く貨幣数量説 を基本 に して景気循環 プ
ロセスを分析 していること。
(
釘 そうした景気循環 プロセスの分析 においては,単 に利子率調整の遅れに
基づ く企業の借入行動や投資行動の変化 にとどまらず,銀行準備 の変動や
利子率の変化 に伴 う担保価値の変動 などが銀行の貸出行動の変化 を通 じて
実体経済に及ぼす影響 をも考慮 していること。
④ 物価の変動 と景気循環 プロセスを対応 させなが ら,景気循環の一つの過
程 として経済的な 「
危機」を強調 していること。
⑤
,
「
物価 の上昇は物価の上昇を引 き起 こす」 「
物価 の下落は物価 の下落を
引 き起 こす」との表現 に端的に見 られ るように, ヴイクセル的な累積過程
を重視 していること。
『
貨幣の購買力』,特 にその第 4章の 「
過渡期」の分析 における以上の視点
Fi
s
he
r
は,「
負債 デ フ レ- シ ョン理論」 としてつ とに有名 な 『
好況 と不況』 (
[
1
932
])の分析 につなが ってい ぐ6
)
。
,
1
6) 堀家 [
1
9
88
]は 『
貨幣の購買力』が明 らかに したか った ことは,貨幣数量説の理論的な側面
貨幣の購買力』の第 9章以降にそのオ リ
よ りも,その 「
完全 に統計的な検証」であるとして 『
2
0
0
4
]は 『
貨幣の購買力』 の貢献 として,①支払い手段
ジナ リティを求めている。.また平山 [
としての銀行預金を貨幣 として認め,そ うして も長期的には貨幣数量説の成立が主張 しうること
(
む貨幣数量が変化 した ときの長期均衡 に至 るまでの過渡期の性格 を明 らかにし,特 に名 目利子率
の調整の遅れに起因す る名 目利子率 と実質利子率の乗離が物価の変動 をもた らす ことを明 らか/
,
,
2
0 (
3
3
8)
第ユ
75巻
第 4号
フイッシャ←の負債デフレ-シ ョン理論を検討す る前 に,見逃す ことので き
Fi
s
he
r
ない もの と して 「
主 と して "ドルの ダ ンス" と して の景 気循 環」(
不安定な ドルといわゆる景
[
1
9
2
3
]) とい う短 い覚え書 き,および先 に触れた 「
気循環」 (
Fi
s
he
r[
1
9
2
5
]
) と題す る論文がある1
7
)
。 これ について簡単 に言及 し
ておこう。
フィッシャーは前者 において,「
企業の関心事であるのは,物価が高いか低
いかではな く,物価が上昇 しているのか,それ とも下落 しているのか どうか と
い うことである。 物価の上昇は企業活動 を刺激す る。 なぜなら生産者が手に入
れる価格 は,利子,地代,給与および賃金などの諸費周 を追い越すか らである。
これ に対 して,物価 の下落 は景気 を押 し下げる」(
Fi
s
he
r[
1
9
2
3
]p.1
0
25
)ど
主張す る。 そ して,その主張を実証的に確かめるために,物価変化率 と取引量
(
経済活動の代理変数 として米国電信電話会社の事業指数)の間の時差相関係
91
42
2
年間にわたって調べた結果
数を1
の速度 (
物価変化率のこと-
,「この一つの要因,すなわち物価変動
古川)が,その他の要因に帰せ られる主な例外
を除いて,ほ とんど完全に景気の上昇および下降を説明す るように思われる」
(
Ibi
d.
,p.1
0
2
7) との結論を導 く。なお,「ドルのダンス」とは,物価変化率の
フィッシャー独 自の表現である。
後者の論文で は,前者の分析 をいっそ う発展 させ,物価変化率 の 「
分布 ラ
グ」 と当時の代表的な取引指標 との相関関係 を実証分析す る。その結莱
,「物
91
52
3年の期 間に対 して,取引額 をほ とん ど完全 に説明す
価水準の変化が,1
るとい う結論 は,いわゆる景気循環 との関連において,基本的な重要性をもっ
,
Fi
s
he
r[
1
9
2
5
]p.1
91
) と述べた うえ 「この研究が
てい るように思われ る」 (
示唆す ることは,その原因が何であれ,物価水準が大 きく変化す る限 り,"
敬
\に したこと,③以上の命題の統計的検証,の 3つを挙げている
。
1
7
) 筆者が知 る限 り, フィッシャーが景気循環 (
t
hebus
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yc
l
e
) とい う言葉を最初に用いたの
は,1
92
3
年の論文 「
主 として "ドルのダンス" としての景気循環」 においてである。それ以前に
は もっぱ ら信用循環 (
t
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yc
l
e
) とい う言葉 を用いていた。ただ し, 『ドルの安定化狛 こ
6
6)0
おいては,t
r
adec
yc
l
e
sとい う表現 を用いている (
Fi
s
he
r[
1
92
0
]pp.65-
ア-ヴイング ・フィッシャーの景気循環論 (1)
(
3
3
9
) 2
1
引" もそれに応 じて変化す るとい うことである。 もちろん,われわれがいずれ
安定 した ドル,すなわち,安定 した物価水準 を持つならば,その場合 にも残る
経済活動のよ り小 さい変動 は,不安定 な貨幣以外の原因によって説明 しなけれ
Jbz
'
d.
,p.194) として,景気循環 を抑制す るために,その 「
最大
ばならない」 (
t
hegr
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s
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be
r
)」(
fbi
d.
,p.199) としての ドルの不安定化
の撹乱要因 (
を防止す る必要性 を指摘 している1
8
)
。 この論文は,分布 ラグを用いた当時 とし
ては最先端の実証分析であ り,必要に応 じて分析道具を工夫 してきた統計学者
としてのフィッシャーの面 目躍如たるものがある。
参考 文 献
小泉
進 [
1
9
82
] 『
マ クロ経済学』有斐 閣。
1
9
9
7
] 『ケイ ンズ理論の源泉』有斐 閣。
小 島専孝 [
1
9
8
2
] 「
1
9
2
9
年恐慌 とフ ィッシャー笹原昭吾 [
マ ネタリズムの批判的吟味 をかね
」『経済学論 婁』 中央大学,第23巻第 2号。
]「
『
政府』 と 『
銀行』 の間違 い を指摘 した フィ ッシ ャー, ケイ ンズ
の理論 は今 も有効だ」
『
エ コノ ミス ト』 2月11日号。
て-
館龍一郎 [
1
9
97
中路
2
0
02
〕 『ア- ヴ イング ・フ ィッシ ャーの経済学』 日本経 済評 論社。
敬 〔
古川
1
9
95
] 「
金融政策 とクレジ ッ ト・ビュー 『
金融経済研究』第 9号。
顕 [
[
1
9
97
]
」
「
バ ブル経 済 の崩壊 と物価 下落」
『フィナ ンシ ャル ・レビュー』 第
43号。
[
2
00
0
] 「
信 用 の経 済学-
氏.
G.ホ- トレーを中心 に-
」『経 済論叢』
第1
6
6巻第 5。6号。
[
2
0
0
2
] 『テキス トブ ック 硯代 の金融』東洋経済新報社。
2
00
4] 「
貨幣数量説 の歴 史的発展
平 山健 二郎 [
」『経済学論究』 関西学院大学経済学
8巻第 2号。
会,第5
]
8
) フイッシャTは 『ドルの安定化』 において次 のよ うに述べている。
「
事業 は常 に不確実性 に
買
よって損害を受 ける。不確実性 は努力を無効 にす る。そ して ドルの購 力における不確実性 は,
あ らゆる事業の不確実性のなかで も最悪の ものである。ただ一つの特殊な事例 について述べ ると
物価水準 に関する不確実性 は抵当貸出 (
l
oa
nonmor
t
gage
)を危険にさらす。銀行は地価 の大幅
な減少によって抵当を守 るマージンが払拭す ることを恐れ,それゆえに大幅なマージンを要求す
る。よ り安定 した ドルは,よ り小 さなマージンを十分 とし,か くて農民が彼の土地の価値 の大 き
な部分 まで抵 当にいれ ることを可能 に し,それ によって彼 および銀行家 を助 けるのであ る」
(
Fi
s
he
r[
1
920
]p.6
5)。
2
2 (
3
4
0
)
第1
7
5巻
第 4号
堀家文書郎 [
1
9
88
〕 『
貨 幣数量説 の研 究』東洋経済新報社 。
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気賀勘重 。気賀健 三
訳 『
利子論』 日本経 済評論社 ,1
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