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プロローグ
六歳の女の子が墓地の前にぽつんとたたずんでい
た。滝のように腰へと流れる黒髪はつややかだが、
顔は死人のように青白く、大きな青い目には涙がた
まっている。肌の浅黒い端整な顔立ちのサルマンは
会葬者の列から離れ、女の子に歩み寄って手を握っ
サルマンは十二歳の少年には不釣り合いな厳しい
た。
顔つきで女の子を見下ろした。﹁ジャミーラ、泣く
な。こういうときこそしっかりしなきゃいけないん
女の子はじっと彼を見つめた。彼の両親も女の子
だ﹂
の両親と同じ飛行機事故で亡くなったのだ。サルマ
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ンがこんなにしっかりしているのなら、わたしもそ
こらえて小さくうなずいた。サルマンは首をめぐら
うならなくちゃいけない。女の子はそう思い、涙を
せ、埋葬されたばかりの彼の両親の墓を見やった。
ふたりは互いの手をぎゅっと握り締めていた。
六年前、パリ
てそんなふうに言われているのか、恋をしてみてよ
うやくわかった。フランス人の父とメルカザード人
ジャミーラは自分が目を見張るほど美しいことに
の母がこの街で恋に落ちたのも不思議はない。
リーブ色の肌。それに行き交う人々の目を引かずに
気づいていなかった。漆黒の髪にエキゾチックなオ
れんばかりの喜びに高鳴っていた。ともすれば手を
はいられないあざやかな青い目。彼女の胸ははち切
ジャミーラ・モローはスキップしたくてたまらな
広げて叫んでしまいそうになるのだ。わたしはサル
ジャミーラの胸はちくりと痛んだ。本当はサルマ
しを愛してくれている、と。
ない。今朝、サルマンのベッドで身も心も喜びに包
ンはわたしのことを愛しているとは言ってくれてい
くなって言わずにはいられなかったのだ。
ってくれなかった。けれどもあのときは我慢できな
まれて、愛していると告白したときも、彼は何も言
は恋をしているのだから。買い物袋を空に放り投げ
が、それはただの誇張だと思っていた。でもどうし
パリは格別ロマンティックな街だと言われている
たかった。
て大声で笑い、通りゆく人々を片っ端から抱き締め
ても季節は春だし、ここはパリだし、そしてわたし
でもこんなふうになっても仕方がない。なんといっ
浮き浮きと歩いていた。そんな自分にふと苦笑する。 マン・アル・サクルを愛している。そして彼もわた
かった。彼女はエッフェル塔を遠くに望む並木道を
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を終えたあと、サルマンに道端で偶然ぶつかったの
はすぐに行きますと返事した。あのときは早く返事
それが夢のような三週間のはじまりだった。彼女
﹁今晩、夕食を食べに行かないかい?﹂
だ。彼とは幼なじみだったが、この数年はまったく
もっと洗練された振る舞いをするべきだとわかって
しすぎたかもしれない。ジャミーラは再び苦笑した。
あれは三週間前のことだった。大学で最後の試験
会っていなかった。子供のころからずっと憧れてい
いる。けれども物心ついたときからサルマンのこと
たサルマンにばったり出会ったとき、衝撃が体に走
った。昔の彼もハンサムだったけれど、大人になっ
がずっと好きなのだから、できるわけがない。
のことを思い出すと、下半身がほてってくる。成人
ントに招き、初めて愛を交わした。今でもそのとき
最初の週末、サルマンは彼女を自分のアパートメ
た彼はさらに磨きがかかっていた。肌が浅黒いのは
変わらないけれど、背が高くなって肩幅も広くなり、
サルマンはぶつかったあと、彼女の体を支え、賞
すっかりたくましくなっていた。
トメントに向かっているところだった。サルマンと
ジャミーラは今、夕食を作りにサルマンのアパー
向けの映画のように激しく愛し合ったのだ。
は今晩は約束はしていない。それに実を言えば、愛
ーラかい?﹂彼女はうなずき、全身がかっと熱くな
賛のまなざしで驚いたように言ったのだ。﹁ジャミ
った。サルマンにそんなふうに見つめられたいとず
していると告げてから、彼はいつになく口数が少な
っと願っていた。
それから一緒にコーヒーを飲みに行き、そのあと
セクシーな笑みを浮かべてドアを大きく開けてくれ
ジャミーラが胸の張り裂けそうな思いで別れを告げ、 くなった。でもきっとサルマンは彼女を見た瞬間に、
立ち去ろうとすると、サルマンに引き止められた。
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いった。すると管理人が笑顔で迎えてくれたが、す
ジャミーラはサルマンの住む建物の玄関に入って
彼女は信号で立ち止まり、十八世紀に建てられた
シークは今晩あなたがいらっしゃることを知ってい
ぐにその顔が曇った。﹁ちょっとお待ちください。
るだろう。
サルマンの住む堂々たる建物を見上げた。そしてふ
サルマンを〝シーク〟と呼ぶのを聞いて、ジャミ
るのですか?﹂
ーラははっとした。彼がメルカザードの統治者の第
一位の継承権を持っていることをつい忘れてしまう。
まれ育ったところで、ジャミーラもパリで生まれた
の中にある独立した小さな首長国だ。そこは母が生
あと、メルカザードに移り住んで育った。彼女のフ
メルカザードはアラビア半島の大国アル・オマール
ぼっちでいるのとか、どうしてお兄さんのように社
るようなところがあったが、ジャミーラはそんな彼
交的でないのとか尋ねたこともなかった。それでも
ことになったからだ。
ランス人の父がサルマンの父に相談役として仕える
ジャミーラは管理人にほほ笑み、食料品が詰まっ
この三週間で、ナディムやメルカザードの話は避け
た買い物袋を掲げた。﹁これから彼に夕食を作るの﹂
顔を曇らせたままの管理人の前を通り、ジャミー
ルカザードに戻ることになっている。けれどももし
り出すつもりだった。
サルマンが望むなら、パリに残ってもいいと今晩切
たほうがいいことを学んだ。彼女はあと一週間でメ
を怖いと思ったことはなかったし、どうしてひとり
サルマンは昔から心に何かしらの苦悩を抱えてい
ている。
ザードはサルマンの兄、シーク・ナディムが統治し
きに、彼の顔がこわばったのを思い出した。メルカ
と、ふたりの故郷のメルカザードの話をしていると
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が止まり、扉が開くと、サルマンの部屋のドアがわ
の見晴らしのいい部屋に住んでいる。エレベーター
ラはエレベーターに乗り込んだ。サルマンは最上階
コートを取りに行き、香水の香りを漂わせながらジ
ただ呆然と見つめていた。女性は不満顔でバッグと
サルマンが赤毛の女性に小声で話しかけているのを
ジャミーラはショックのあまり体から力が抜け、
をかがめていた。女性は蔦のように彼の体に手を巻
った。サルマンは赤毛の女性にキスしようとして顔
ネクタイを締め、ダークスーツを着ていた。フォー
腰に手を当てて彼女を見つめている。白いシャツに
いくらか我を取り戻した。サルマンは引き締まった
ドアが閉まる音がすると、ジャミーラはようやく
たるい声で言った。﹁またあとでね、ダーリン﹂
ぼうぜん
ずかに開いているのが見えた。ドアの前まで歩いて
ャミーラの脇を通り、サルマンにこびるように甘っ
きつかせている。ジャミーラはTシャツにジーンズ
目の前の光景の意味を理解するのにしばらくかか
いって押すと、女性の笑い声が聞こえてきた。
という学生っぽい格好をしてきた自分が恥ずかしく
マルな服に身を包んだ彼の姿は初めて見たが、冷や
寄せた。ジャミーラを抱き寄せたのとまったく同じ
ふたりは唇を重ね、サルマンは赤毛の女性を抱き
ったことはなかった。それどころか彼から個人的な
ことは知っていたが、その話をきちんと教えてもら
やかで威圧的だった。彼が投資会社を経営している
つた
なった。
しぐさで。気づくと、手から買い物袋が落ち、床に
サルマンはそっけなく口を開いた。
﹁今晩、きみ
ラは今になってようやく気がついた。
話をいっさい教えてもらっていないことにジャミー
サルマンはキスを中断して首をめぐらせた。だが
ぶつかっていた。
女性から手を離そうとはしなかった。
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がここに来るなんて思わなかったよ。約束していな
上げた。﹁もちろんわたしだって来なかったわ。あ
かずにはいられなかった。﹁あなたは⋮⋮わたしと
を突かれたような痛みを感じていたが、それでもき
なたが、その⋮⋮忙しいと知っていたら﹂毒矢に胸
だってしていなかったわ!
サルマンは首をわずかに振った。﹁いいや﹂
再会してからも、彼女とつき合っていたの?﹂
ジャミーラは心の中で
的に愛を交わした男性をどうにか重ね合わせようと
ょう。あなたはわたしにあきたのね。あなたの興味
ジャミーラの脳裏に今朝のことがよみがえった。
は、たった三週間しかもたないのね﹂
﹁あなたを愛しているの、サルマン。思い返せば、
彼 女 は ベ ッ ド の 中 で た め ら い が ち に 告 げ た の だ。
ジャミーラはそう言うと、床に目を落とした。寄
ジャミーラはむきになって言い返した。﹁あなた
んど知らないくせに﹂
かしなことを言うものだ。きみはぼくのことをほと
するとサルマンは口をゆがめてこう言った。
﹁お
子供のころからずっとそうだったんだと思うわ﹂
とする本能がわき上がってきた。彼女は顎をぐいと
ジャミーラの体の奥底からにわかに自分を守ろう
こに自由に出入りしてもらっては困るんだよ﹂
口を開くと、彼女はびくりとして顔を上げた。﹁こ
せ木張りの床に食料品が散乱している。サルマンが
⋮⋮﹂
た を 驚 か せ よ う と 思 っ た の。 夕 食 を 作 る つ も り で
彼女は涙をこらえて言った。﹁わ、わたしはあな
わたしの奥深くに身を沈めた⋮⋮。
した。目の前のこの人が耳元で愛の言葉をささやき、 ﹁でも、あなたは今、彼女とつき合っているんでし
そう叫び、目の前の見知らぬ男性と、半日前に情熱
たった三週間でわたしの人生をひっくり返す約束
かったからね﹂
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愛しているの。それははっきりわかってる﹂そのや
のことなら昔から知っているわ⋮⋮昔からあなたを
た。純潔を捧げたのに、彼はそれをどうでもいいこ
大切な時間を〝情事〟という言葉で片づけてしまっ
できた恋人だ⋮⋮それなのにふたりで分かち合った
とだと思っていたのだ。
ささ
りとりをしたときからサルマンは急によそよそしく
なり、口数も少なくなったのだ。
まさか、ぼく
サルマンは彼女に近づき、険しい声で言う。﹁き
みはメルカザードに戻るんだろう?
今、目の前にいるサルマンは死にたくなるほどや
さしい声で問いかけてくる。﹁ぼくにいったいどう
に情事以外のことを求めていたわけじゃないだろう
わたしはばかじゃない。あなたはもう新しい恋人を
うな言葉を言ったこともない。そうだろう?﹂
みになんの約束もしていないし、期待を抱かせるよ
﹁何も望んでいないわ。あなたに何か期待するほど、 ね﹂さらにとどめを刺すように続ける。﹁ぼくはき
してほしいんだい?﹂
見つけたんだから。でもそれをわたしに話そうとは
たんだ?
ぼくたちはつかの間の情事を楽しんだ。
サルマンは口を引き結んだ。﹁何を話せばよかっ
だって次の日の予定しか言わなかった。ここからす
をかけられたように幸せだったが、サルマンはいつ
かに彼は何も言わなかった。彼と再会してから魔法
ジャミーラはとっさに首を縦に振った。そう、確
あと一週間できみはメルカザードに戻る。だからぼ
ぐに逃げ出して、できるだけ遠くに行きたい。そし
思わなかったの?﹂
くはきみのいない人生を生きていくよ﹂
てうぶだった自分を思い切りののしってやりたい。
くぎ
ジャミーラは叩かれたようにあとずさりしそうに
しかしそう思っても、ジャミーラはその場に釘づけ
たた
なった。目の前のこの男性はわたしにとって初めて
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になったように一歩も動けなかった。
していた。
この三週間は夢を見ているように楽しかった。自分
痛みがこみ上げてきたが、彼はそれをのみ込んだ。
て今まで気づかなかった。胸が切り刻まれるような
で、自分にまだ人間らしい気持ちが残っているなん
とうの昔にあらゆる感情を断ち切るすべを学んだの
を届けに来たという見え透いたいいわけを使って彼
そのとき、ちょうど仕事仲間のエロイーズが書類
そのはかない美しさをどれほど守りたいと思っ
――
ていても。
のままだったら、きっと握りつぶしてしまうだろう
繊細な 蝶 を握っているような気持ちになった。こ
ちよう
彼女の姿を見ているうちに、サルマンは手の中に
は思っていたような忌まわしい存在ではないと、信
の部屋に上がりこんでいた。あからさまな女らしさ
サルマンは目の前のジャミーラをじっと見つめた。
じはじめてさえいた。目が覚めるほど美しく成長し
を自信たっぷりに誇示するエロイーズと比べると、
か れん
たジャミーラと偶然再会し、その純粋で善良な心に
った瞬間、はっきりと悟ったのだ。ジャミーラを手
ジャミーラがいっそう清楚で可憐に思えた。そう思
せい そ
っていたのだ。
愛している⋮⋮。今日一日、そのことはなるべく考
たことは本当だったのだと気づいた。彼女はぼくを
蝶を握りつぶしたのだ。こうするしかなかった。自
連絡してきたとき、彼は感情を封じ込めた。そう、
だから管理人がジャミーラが部屋に向かっていると
うもないほどきっぱり別れを告げなくてはならない。
放さなくてはならない、と。それには彼女が疑いよ
えないようにして、罪の意識と責任から逃れようと
っているジャミーラを見たとき、今朝、彼女が言っ
数分前に通りの向こうで幸せそうにほほ笑んで立
接しているうちに、厚かましくもそんな気持ちにな
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分には後ろ暗い秘密にずたずたにされた心しか残っ
ら。
ていない。誰のことも愛することができないのだか
誘惑してしまった﹂
ジャミーラはすぐにその言葉の隠された意味に気
づいた。つまり、サルマンにとって彼女を誘惑する
間、彼は口を開き、言葉という鋭いナイフを彼女の
はないだろうか、と彼女が淡い希望を抱いたその瞬
んだように思えた。さっきのことは悪夢だったので
る。ジャミーラは彼の目に一瞬だけ後悔の色が浮か
ルマンはさっきから無言で彼女をじっと見つめてい
今晩、エロイーズと夕食に出かけ、きみがいない人
れないんだよ。ぼくたちはこれで終わりだ。ぼくは
マンティックな夢を叶える白馬に乗った王子にはな
れる男じゃない。ぼくの心はゆがんでいるんだ。ロ
いか、ジャミーラ、ぼくはきみが望むものを与えら
戻る準備があるだろう﹂彼は口を引き結んだ。﹁い
﹁もう帰ったほうがいい。きみにはメルカザードに
のはいとも簡単だったということだ。
心に突き刺した。
生を歩んでいくよ。だからきみもそうしてほしい﹂
ジャミーラはしだいに頭がぼうっとしてきた。サ
﹁きみが来ることはわかっていたんだ。管理人が教
かな
えてくれたからね。エロイーズにキスするのをやめ
ジャミーラはわらにもすがるような思いで言った。
﹁わたしたちは友達
てもよかったんだが、そんなことをしてもどうなる
わけでもないし、きみにはぼくという人間を知って
﹁なんだって?﹂サルマンは鋭い声で問いただした。
ていたわ﹂
少なくとも、友達だと思っ
――
もらったほうがいいと思ってね﹂彼はナイフをさら
﹁ぼくたちが同じ場所で育ったからといって、生涯
に深くねじ込んだ。﹁こんなことはあってはならな
かったんだ。ぼくの心が弱かったから、きみをつい
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の友人になれると思っていたのかい?﹂
やめておくのよという理性の声を無視し、ジャミ
てきた気持ちは凍りつき、粉々に砕けた。彼は彼女
が大事にしていたふたりの思い出を容赦なく傷つけ
緒 に 遊 ん で く れ た。 あ の と き 分 か ち 合 っ た も の が
とを好んでいたのに、わたしのことは気にかけて一
あなたはメルカザードにいたとき、ひとりでいるこ
てしまった﹂
ってしまったようね。あなたはただの冷血漢になっ
なたにも心があると思っていたけれど、すっかり失
わ。あなたの言いたいことはよくわかったから。あ
もジャミーラは言った。﹁もう何も言わなくていい
きずな
絆 となり、この三週間でより強く結ばれたんだと
ジャミーラの言葉は途切れた。サルマンの顔がぞ
けたとき、背中からサルマンの皮肉っぽい声がした。
乱する食料品の外に足を踏み出した。ドアに手をか
ジャミーラは気力を奮い立たせて背中を向け、散
ようにぼくにまとわりついてきた。ぼくはそんなき
カザードの友人たちにも。ぼくは当分会うつもりは
﹁親愛なる兄貴によろしく伝えてくれ。それとメル
口には出さなかったが、その言葉はふたりのあいだ
きみにも当分会うつもりはないから。サルマンは
ないから﹂
んだ。この三週間は欲望に支配されていただけだ。
その瞬間、ジャミーラが何年間もサルマンを慕っ
なんてない﹂
いた。それだけのことだ。ぼくときみのあいだに絆
きみは美しい女性に成長し、だからぼくは欲望を抱
みがかわいそうで、あっちへ行けとは言えなかった
っとするほど冷酷になったからだ。﹁きみは子犬の
﹁そう、そのとおりだ﹂
思って⋮⋮﹂
ーラは言った。﹁それ以上の関係だと思っていたわ。 たのだ。胸が引き裂かれるように痛んだが、それで
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を空虚に漂った。彼女はドアを開けて歩き出した。
アハメドは今、人でこみ合う舞踏室にジャミーラ
を置いて用事をすませに行っている。その日はパー
ティの初日で親族や親しい友人しか呼ばれていなか
ったが、それでも二百人ほどの客が詰めかけていた。
一度も後ろを振り返らずに。
一年前
しく思った。サルマンとパリで別れてから、彼のこ
る壮麗なフセイン・パレスで開かれた。山岳地帯に
ビア半島の海岸沿いの大都市ブハラニの中心地にあ
つものように豪勢に執りおこなわれた。それはアラ
彼女の手を握り、生きる力を与えてくれた。ジャミ
両親の墓の前で立っていたときの夢だ。サルマンは
再びあの夢を見るようになったのだ。六歳の彼女が
とがずっと頭から離れなかった。さらに悪いことに、
ジャミーラは向こう見ずな決断をした自分を恨め
アル・オマールのスルタンの誕生日パーティはい
あるメルカザードからそこへ行くには車で二時間ほ
だったと気づいてからもう何年も経ったが、今でも
きの恋心が愛に変わったと思ったのは、愚かな錯覚
あのとき、彼女はサルマンに恋したのだ。幼いと
ーラはそのことを片時も忘れたことがなかった。
ミーラに何度か誘いをかけていた。ジャミーラはよ
この数年、スルタンの側近であるアハメドがジャ
どかかる。
うやく誘いを受ける気になり、彼の同伴者としてパ
思い出すたびに苦痛に胸が締めつけられる。
休暇で帰ってくるたびに、ジャミーラは真っ赤にな
十代のころ、サルマンがイギリスの寄宿学校から
た
ーティに出席した。本当はサルマンもそのパーティ
に招待されていることを知っていたので行くことに
したのだが。
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ってしどろもどろでしか話しかけられなかったが、
に驚いた顔をしてから、誰だかようやくわかったよ
の場から立ち去るのだ。そうすればサルマンはふた
うにほほ笑む ――
この数年間苦しんできたことはお
くびにも出さずに。そしておざなりの挨拶をし、そ
それでも彼に会えるのを心待ちにしていた。けれど
も彼が故郷に戻ってくる回数はしだいに減り、やが
りのつかの間の情事は彼女にとってもささいな出来
は自分の故郷で勉強してほしいと願っていたことも
廊下に出ると、長身でがっしりしたタキシード姿の
ただ、そのようにはならなかった。ジャミーラが
事にすぎなかったのだと思うにちがいない。
あったが、サルマンがそこに住んでいたからだ。そ
男性の後ろ姿が見えた。彼女はサルマンの兄のナデ
ィムだと思って声をかけた。まちがいに気づいたと
会してしまったことがショックで、言葉を失ってい
ジャミーラは誰もいない廊下でこんなふうに彼と再
サルマンはゆっくりと振り返ると、眉根を寄せた。
きにはすでに手遅れだった。
愛想をつかし、新しい人生に踏み出せると思ったの
生活を送っていることを目の当たりにすれば、彼に
顔をゆがめたが、すぐに欲望にけぶったまなざしで
サルマンは体を後ろに傾け、苦痛を感じたように
た。
サルマンに会ったら、さんざん練習してきたよう
つけられるだろう、と。
だ。そこまでいかなくてもある程度気持ちの整理を
ンが悪名高いプレイボーイのシークとして自堕落な
れはわかっている。だからパーティに来て、サルマ
サルマンをいいかげん忘れなくてはならない。そ
してその決断の代償を払わされることになった。
その後パリに留学しようと決めたのは、父が娘に
界から輝きが消え、退屈な日々が続いた。
てぱったりと帰ってこなくなった。ジャミーラの世
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ーラ。ようやく会えたね。きみに避けられているの
彼女の体をけだるげに見下ろした。﹁やあ、ジャミ
の。でも今晩は誘われたから ――
﹂
﹁ああ、ジャミーラ、そこにいたのかい。きみを迎
﹁わたしはこういう晴れがましい席は好きではない
かと思ったよ﹂
はアハメドが我がもの顔に肩に手をまわすのを許し、
と、ジャミーラの心に安堵の波が押し寄せた。彼女
デートの相手のアハメドがそう言ってやってくる
えに行くところだったんだ﹂
リオは捨てるしかなかった。彼女は鉄の意志で落ち
さぶった。さんざん頭で思い描いていた再会のシナ
おざなりに別れの言葉をつぶやいてからサルマンを
彼の深みのある声はジャミーラの心の奥底まで揺
着きを取り戻し、足を踏み出して彼の脇を通りすぎ
あん ど
ようとした。だが腕をつかまれた。
言わないで、サルマン。どうしてわたしがあなたを
心臓が痛いほど激しく打っている。﹁ばかなことを
値踏みするような目でにらまれ、料理がなかなか喉
に囲まれて立っていた。食事中ずっと、サルマンに
贅をつくした食事が終わり、今、彼女は大勢の客
ぜい
ジャミーラは顎をくいと上げ、彼と目を合わせた。 置き去りにしてその場を立ち去った。
避けなければならないの?﹂頭の中の声が答える。
ほっとすることに、ナディムと彼の連れの女性の
を通らなかった。
アイルランド人のイサルトを見つけた。イサルトは
られないからよ。
彼があなたの心を粉々に砕いたことが、今でも忘れ
ナディムが彼女の家族が経営するアイルランドの牧
場を買ってから、メルカザードのナディムの競走馬
﹁スルタンのパーティでこれまできみに会ったこと
ジャミーラはつかまれていた腕をぐいと引いた。
がなかったからね﹂
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生産牧場で働いている。
ジャミーラはすぐに話しかけに行った。ふたりは
彼女はゆっくりと振り返り、心の動揺を隠そうと
もせずに鋭い声で言った。﹁わたしをひとりにして、
サルマンもとげとげしい声で言い返した。﹁ひと
サルマン﹂
だが、サルマンが目を細めて近づいてくると、ジ
は口元をこわばらせた。
﹁ええ、そうね。あなたは
聞きたくなかった真実を告げられて、ジャミーラ
きではなかったな﹂
りになりたいのなら、メルカザードから出てくるべ
ャミーラはさらに自分の顔から血の気が引いていく
﹁そのとおりだ﹂
故郷には戻る気がないみたいだから﹂
なぜパーティに来るのが
間にかパティオにはほかには誰もおらず、ドアも閉
が、唐突にサルマンは一歩前に踏み出した。いつの
それから長いこと、ふたりとも押し黙っていた。
ジャミーラは友人を捜しに行くとつぶやくと、部
められている。
パテイオ
屋を足早に横切り、開いたドアから中庭に出た。あ
がほっとする間もなく、サルマンの気配を背中に感
造りの手すりに手を置き、息を深々と吸い込む。だ
じた。
ジャミーラは逃げることを忘れてサルマンをにら
が覚えているよりもずっときれいになった﹂
サルマンはざらついた声で言った。﹁きみはぼく
りがたいことにそこにほとんど人はいなかった。石
いい考えだなんて思ったの?
うすればいいのだろう?
のがわかった。逃げ道はどこにもない。いったいど
ジャミーラはぎこちなくほほ笑んだ。﹁別に﹂
の、ジャミーラ?﹂
イサルトは間髪入れずに尋ねてきた。﹁何かあった
彼女の青白い顔を見ると、心配そうな顔になった。
18
みつけた。﹁このあいだ会ったときも、あなたはわ
﹁ぼくのことなんか忘れたと思っていたよ﹂
もかも忘れてしまいそうになった。
ことなんてとっくの昔に忘れたわ。あなたと話すこ
ジャミーラは甲高い笑い声をあげた。﹁あなたの
たしを美しいと言ったわ。わたしをベッドに連れて
とも何もないし。わたしの同伴者が捜しているだろ
いくためにそう言ったと教えてくれたことを忘れて
しまったの?﹂
﹁あの男はきみにふさわしくない。スルタンにこび
うから、これで失礼させていただくわ﹂
へつらっている男だ。どうしてあんな男と一緒にい
﹁きみはあのときも確かに美しかった。けれども今
彼女はこわばった口元にあざ笑うような笑みを浮
のきみは成熟して、あでやかな美女になった﹂
かべた。﹁よく言うわ。あなたはいつだってスルタ
ジャミーラはかっとなって言い返した。﹁なぜあ
るんだ?﹂
彼はわたしにぴったりな人
彼女はサルマンの脇を通ろうとしたが、腕をつか
よ﹂
な た が 気 に す る の?
まれた。﹁きみは絶頂に達したときにあの男の名を
エロイーズと
それともあれはわたし
れて帰るくせに。あなたは今でも交際は三週間だけ
ンのパーティにひとりで来て、一番美しい女性を連
のルールを守っているの?
はどのくらい続いたの?﹂
だけに与えられた特権なのかしら?
﹁そういう口はきくな﹂
〝あの男にも愛していると言うのか?〟彼が口に出
いでくれと懇願するのか?﹂
あの男の背中に爪を突きたててやめな
叫ぶのか?
サルマンは彼女のほうに歩いてきた。彼の男らし
﹁どうして?﹂
さの化身のような姿に圧倒されて、ジャミーラは何
19
して言わなくても、その言葉はふたりのあいだを行
てしまいたかった。
砂漠でようやくオアシスを見つけて渇き切った喉
彼の唇が焼き印のように熱くジャミーラの唇に重
マンはあのとき、まったく同じしぐさであの女性を
ジャミーラの頭に赤毛の女性の姿が浮かんだ。サル
ルマンは彼女をさらに引き寄せた。そのときふと、
を潤すように、ふたりは互いの唇をむさぼった。サ
ねられた。サルマンはさらに彼女の唇を強引にこじ
体が彼の感触を今もはっきり覚えていることがシ
言ったのよ。わたしは同じことを繰り返すつもりは
って何もなかったの。ただの情事だとあなた自身が
頭と体を引き離した。﹁わたしを放っておいて、サ
ジャミーラは冷水を浴びせられたようにぞっとし、
抱いていた⋮⋮。
ョックだった ――
それを自分がどれほど恋しがって
いたのかを知ったことも。背中を支える彼の手の感
えしてくるりと背を向け、歩き出した。そしてドア
彼女は濃いロイヤルブルーのドレスの裾をひるが
ルマン。わたしたちのあいだには何もないわ。昔だ
触に全身が震えた。その手が下がり、シルクのドレ
ないわ﹂
彼がもっとほしかった。欲望に焦がされて燃えつき
﹁言っておきますけど、わたしはあなたと別れてか
ーラは弱々しい声をもらして体を弓なりに反らした。 の前で振り返った。
身が硬く張りつめているのが伝わってくる。ジャミ
がこみ上げてきた。押しつけられた腰から彼の下半
ス越しにヒップを手で包み込まれると、大きな喜び
る炎に投げ込まれたように全身がかっと熱くなる。
すべはなかった。欲望が体を駆けめぐり、燃えさか
開け、舌を差し入れてきた。ジャミーラに抵抗する
にとらえられ、胸へと引き寄せられていた。
き交った。ジャミーラはいつの間にかサルマンの腕
20
だから今起こったことを特別な出来事だと思わない
ら、絶頂に達していろいろな人の名前を叫んだの。
目がどれほど無防備ではかなげに見えたのかも忘れ
大切な存在ではないということだ。あの美しい青い
を願おう。それならば彼女にとってぼくはそれほど
別れ際にサルマンに投げつけた言葉がどれだけ卑
てしまえる。
でほしいわ﹂
サルマンは彼女がパーティ会場に戻っていくのを
の中で激しい動揺が渦巻いていた。こんな気持ちに
劣だったか、ジャミーラにはわかっていた。でもあ
見つめていた。ジャミーラと思いがけず再会し、心
たりと壁にもたれかかった。ジャミーラを腕に抱い
なったのは彼女と別れたとき以来だった。彼はぐっ
れから一時間も経たないうちに、パーティを抜けて
のときはああしなければ気がすまなかったのだ ――
それが真実とはかけ離れていたとしても。彼女はあ
か改めて思い知らされた。
ドへの帰路を急いでいた。
服を着替え、愛車のジープに乗り込んでメルカザー
て唇を重ねると、どれほど甘美な気持ちになれるの
彼女を抱くのはしっくりと体になじむし、息をす
るのと同じように必要なことに思えた。あの瞬間、
てぼくは彼女を誘惑し、手ひどく突き放したのだ。
彼はそう思うと、はっとし、背筋を伸ばした。かつ
だったのだろう。あげくの果てにキスまでしてしま
つかないと思っていたなんて、わたしはなんて愚か
なければならなかった。サルマンと会ってももう傷
だが途中で涙があふれ出てきて、車を路肩に止め
彼女をもう一度求める権利なんかない。これまで恋
うなんて。サルマンはわたしがいまだにどれだけ彼
昔と同じようになりふりかまわず彼女がほしかった。
人がたくさんいたと言った彼女の言葉が正しいこと
21
を求めているのかを思い知らせるために、あんな残
ざ別れの挨拶を言いに来てくれたのだ。あのとき彼
サルマンは彼女の頬に指で触れ、こう言ったのだ。
女は十六歳でどうしようもないほど彼に夢中だった。
がサルマンの考え方に影響を及ぼしたのだろうかと
ジャミーラはかつてメルカザードで起こった大事件
は残酷な幻想にすぎなかった。サルマンの態度を正
うな三週間をすごせたのだと信じていた。でもそれ
そのときに結ばれた絆のおかげで、パリで夢のよ
対に忘れてはならない。今晩を境に、サルマンへの
当化させるものは何もない。今度こそそのことを絶
気持ちにけじめをつけるのだ。
るアル・オマールに奇襲攻撃をかけられて、サルマ
だ。ナディムとサルマンにとって心の痛手となる事
くつき合い、メルカザードを出ていく日にもわざわ
ンはジャミーラのたわいもないおしゃべりに我慢強
兄や両親でさえ近づけようとはしなかった。サルマ
のを許されていたのはジャミーラだけだった。彼は
そののち解放されてから、サルマンのそばに行く
ときまだ二歳で、何も覚えていなかった。
件だったにちがいない。けれどもジャミーラはその
ンと彼の家族は三カ月も城の奥深くに幽閉されたの
考えることがあった。メルカザードの独立に反対す
てしまったことが今でもどうにも信じられなかった。 ﹁またいつか会おう、お嬢さん﹂
サルマンが別れた日にあれほど冷酷な人間になっ
酷なことをしたにちがいないのに。
22
現在
シーク・サルマン・ビン・ハリド・アル・サクル
は山岳地帯を飛ぶヘリコプターの回転翼を見上げた。
ナディムは二十一歳という若さで国を統治する責任
を負ってからそこで執務をおこなっていた。兄の背
負った重圧にサルマンはいつでも恐怖を覚えた。彼
能力がないから恐れているわけではなかった。彼
だったら耐えられそうにないからだ。
はすでに八歳のときに国のために恐ろしい重荷を背
負わされたのだ。誰にも話すことのできない重荷を。
それ以来、彼はメルカザードを心から追い払った。
けれどもジャミーラだけは別だった。昔から親近
前方にはすでにメルカザードの町のビル群にまじっ
のに。ジャミーラはふたりのあいだに 絆 があると
してしまった。ずっと自分に禁じていたはずだった
女だけだった。パリではつい心を許し、彼女を誘惑
ヘリコプターは険しい山々を縫うように進んでいく。 感を覚えており、彼のそばにいるのを許したのは彼
て城の姿もぼんやり見えている。彼はそこに向かっ
信じていたので、そんなものは存在しないと冷酷に
出ていった日のことは昨日の出来事のように今で
りうずく。だが今はそんなことを考えている場合で
告げた。そのことを思い出すと、今でも肌がちりち
きずな
のに、心の中は空っぽだった。
ていた。生まれ育った故郷に十年ぶりに戻ってきた
もはっきり覚えている。兄のナディムと激しい口論
をしたのだ。ふたりはナディムの書斎に立っていた。 はない。サルマンは無理やり、兄との言い争いに考
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善良な心を奪い取られずにすんだからだ。サルマン
も子供のころはそれを持っていた。あの三百年とも
えを戻した。
﹁ここはおまえの故郷なんだぞ、サルマン!﹂兄は
から、彼はナディムよりもずっと年老いてしまった
るのだ。八歳で幽閉されて恐ろしい日々をすごして
日となるとわかっていた。ようやく自由の身になれ
切っていた。その日がメルカザードですごす最後の
そう言われてもサルマンの心は死人のように冷え
でサルマンは兄を罰しているのだ。そんな自分に嫌
も味わわせてやりたい。だからとがめられない方法
かったナディムを恨んでしまう。あの苦しみを兄に
恐怖のどん底に突き落とされたときに救ってくれな
ナディムもまだ幼く、無力だったからだ。それでも
とはわかっている。それが理不尽だということも。
ナディムが弟を守れなかった自分を責めているこ
思える三カ月の幽閉生活で奪われるまでは。
ように感じていた。﹁兄さん、この国は今や兄さん
それが原因で兄とのあいだに確執が生じ、この数
気が差していても。
とナディムはあきらめたようだった。兄を見るたび
を伝えてきたのがわかった。それでもしばらくする
ナディムが行かないでくれ、と無言のメッセージ
張をはらんだものだったが、それでもこれまでより
ったのを感じた。兄と交わした会話は相変わらず緊
顔を合わせたとき、サルマンは自分がわずかに変わ
オマールのスルタンの誕生日パーティでナディムと
年のあいだ深まるばかりだった。だが昨年、アル・
に、サルマンはいつも苦い嫉妬を感じていた。兄は
いんだ﹂
に口を出さないでくれ。そんな権利は兄さんにはな
のものだ。ぼくのものではない。だからぼくの人生
くするためにふたりで力を合わせて統治しよう﹂
怒鳴った。﹁ここでぼくを補佐してほしい。国を強
24
もいくらか気持ちが楽だった。
サルマンは顔をしかめて窓の外を見やった。眼下
軍部が彼の両親とナディムに忠実だったのは幸いだ
だがナディムはイサルトと結婚したことに反発を
った。
の国のシークがメルカザードの女性を妻に選ばなか
覚える者がいることをサルマンに打ち明けた。彼ら
には山々に囲まれた彼の国が広がっていたが、目に
入ってこなかった。一カ月のあいだナディムの代わ
しまうかもしれない。しかしサルマンが代わりを務
ないかぎり、ナディムの統治は危ういものになって
ったことに不満を抱いているのだ。後継者が生まれ
ナディムと彼のアイルランド人の妻は、第一子が
いまだに信じられなかった。
りを務めるためにメルカザードに戻ってきたことが
生まれる前に一カ月ほどアイルランドですごすこと
めてくれれば、不満分子も封じ込められる。
なぜか拒めなかったのだ。いつの日か故郷に戻って
サルマンは気づくとその役割を引き受けていた。
にした。ところがメルカザードには一カ月以上シー
心の中の悪魔と向き合わなくてはならないことがわ
クが不在になったら、軍部が新しい統治者を任命し
った。この法律はかつてメルカザードが数々の攻撃
て革命を起こすという昔ながらのばかげた法律があ
義務感があったとか時間がすぎたとかそういう理由
かっていたのかもしれない。彼は自分でもわけがわ
ではない。もちろん一年前のパーティでジャミーラ
からない決断をしてしまった理由をそう結論づけた。
この法律が施行されたことが一度だけあった。サ
にさらされたとき、外部の脅威から国を守るために
ルマンの両親が亡くなったときに、ナディムが成人
と会ったときに、心がざわめいたからでもない。
定められたのだ。
して統治者になるまで、暫定政府が発足したのだ。
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フセイン・パレスの廊下に立っていたジャミーラ
サルマンはそれが彼女を救うことになるのだと自
から抜け出してきたまぼろしかとさえ思った。その
た彼の魂は汚され、周りの人をも汚してしまう。だ
救われることがないからだ。悪魔を目の当たりにし
それがわかっていながら、スルタンのパーティで
から彼は誰も近づけないのだ。
ない女性だった。しかし我慢できなかった。パリで
きではなかったのだ。彼女は背を向けなければなら
キスしたときのように、彼女の唇はどこまでも甘く、
焼き印をつけずにはいられなかった。パリで初めて
黒い欲望に取りつかれ、彼女は自分のものだという
い男の同伴者としてパーティに来たと知って、どす
ジャミーラの唇を奪ってしまった。彼女がくだらな
彼女を誘惑して純潔を奪い、自分がどれほど堕落し
ひ
官能的だった。
が熱を帯びているのだから。まるでこの誘惑に打ち
こうしてジャミーラのことを考えただけで、下半身
あれほど強く彼を惹きつける女性はほかにいない。
た。別れた日の彼女の青ざめた顔を思い出すと、今
勝ってみろと試されているかのようだ。なぜなら彼
女にもう二度と触れるわけにはいかないからだ。そ
ぬほどの悲しみが宿っていた。あの瞬間、ジャミー
ラは持ち前の純真さと明るさを失った。
でもみぞおちに悪寒が走る。あの美しい目に底知れ
それだけではあきたらず、彼女の心を粉々に砕い
ているのか、改めて思い知った。
サルマンの顔は曇った。ジャミーラに手を出すべ
ミーラに会いたかったからだと。
のようにスルタンのパーティに出席したのは、ジャ
ときようやくわかったのだ。パリで別れてから毎年
彼女はこの世のものとも思えぬほど美しく、彼の夢
を見た瞬間に、胸がよじれるような感覚に襲われた。 分に言い聞かせてきた。というのも彼自身は決して
26
う、この試練に耐えれば、彼の汚れた魂も少しは救
惨な経験をした人の話を聞いたこともある。そんな
ほどないだろう。彼女は牧場で働いていて目がまわ
うな響きがあった。﹁ジャミーラに会う機会はそれ
最後に話したときに、ナディムの声には警告するよ
と勘づいており、それを好ましいとは思っていない。
し寄せてくる。楽しいだけでなく、つらい思い出も。
スも昔と少しも変わっておらず、思い出がどっと押
をめぐらせた壁も、平屋根の上にもうけられたテラ
サルマンはため息をついた。凝ったデザインの格子
ひときわ目立つ白亜の城がはっきり姿を現すと、
にはいかない。
話を彼に打ち明けてくれた人々の信頼を裏切るわけ
るほど忙しくしているから﹂それなら好都合だ。サ
これまでどうにか生きてきたように今度の試練も乗
ナディムは、ジャミーラとのあいだに何かあった
われるかもしれない。
ルマンは心の中でつぶやいた。馬や牧場のことを考
り越えてみせる
実に引き戻され、閉所恐怖症の発作が起きそうにな
の青々とした庭が間近に見えてきた。サルマンは現
ヘリコプターは下降しはじめ、メルカザードの城
かめた。﹁お兄様には少しも似ていません。あれじ
思えません﹂メイド頭のハナはしわの寄った顔をし
りてきたんですよ。メルカザードの第一継承者とは
たいに破れたジーンズをはいてヘリコプターから降
﹁ミス・ジャミーラ、あの人ったらロックスターみ
心の痛みから目をそむけて。
――
えただけでぞっとし、全身に激しい震えが走る。そ
った。彼はパイロットに戻れ、と命じたい衝動をど
こを訪れる気には到底なれないだろうから。
うにか抑え込んだ。国を一カ月のあいだ、統治する
ゃあ、面汚し
﹂
――
だけの強さは身に着けたはずだ。自分よりもっと悲
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もイサルトも親しい友人だし、もちろん大好きだ。
けれどもどこから見ても幸せそうなあのふたりに嫉
﹁ハナ、もう話は充分聞いたわ﹂ふたりはナディム
とイサルトが留守にしているあいだの役割分担につ
子供が生まれる前にふたりそろってアイルランド
妬を覚えずにはいられない。
年老いたメイド頭は真っ赤になった。﹁すみませ
いふたりを毎日見ているのが、日を追うごとにつら
たとき、ジャミーラは正直ほっとした。仲むつまじ
くなってきたからだ。
だが、留守のあいだサルマンが執務を代行すると
あん
のよ。ねえ、彼はナディムたちが戻ってくるまでし
ナディムが食事の席で言ったとき、ジャミーラの安
メイド頭の顔がぱっと輝いた。﹁そうですね。そ
のあとに彼女がおかしな行動を取っても、ふたりと
っているのがわかった。去年のスルタンのパーティ
ナディムとイサルトがジャミーラの反応をうかが
ど
かいないわ。そのときがきたら何もかもいつものよ
堵感はすっかり消えてしまった。
れに来年、このお城に赤ちゃんが誕生するんですも
ない。
ことだったのは火を見るより明らかだったにちがい
も何もきかなかったが、それがサルマンに関係した
顔に表れていませんようにと祈っていた。ナディム
ジャミーラもうれしそうな顔をしたが、心の内が
の!﹂
に出さずに自分に言い聞かせた。
うに戻るから﹂ええ、そのはずよ。ジャミーラは声
ジャミーラはぎこちない笑みを浮かべた。﹁いい
ん、ミス・ジャミーラ。愚痴なんてこぼして⋮⋮﹂
からというもの、何をしていても集中できなかった。 のイサルトの実家に行くとナディムに打ち明けられ
ルマンを乗せたヘリコプターが到着する音を聞いて
いて話し合っていた。だがジャミーラは前の日、サ
28
た。ショックで震える手を隠すためにワインを口元
ジャミーラはあのときの自分を褒めてやりたかっ
﹁どうしてわたしがお城に行かなきゃならないの?
こり笑い、ハナのプライドをくすぐる作戦に出た。
ゃない。それに新しい馬が来たから、牧場も忙しい
に運び、平然と言ったのだ。﹁あら、よかったわね。 あなたは城内のことを手際よく切り盛りしているじ
サルマンが家に戻ってくるのはずいぶんとひさしぶ
ほっとすることに、ハナは反論せずに帰っていっ
のよ。もし何か起こったらまた連絡をちょうだい﹂
た。ジャミーラはオフィスの椅子に身を沈めた。心
ナディムはいたわるように言った。﹁そのあいだ
りだから﹂
臓が激しく脈を打ち、若駒のように神経質になって
これから一カ月のあいだ、城にもサルマンにも近
わかごま
きみはフランスの牧場を視察しに行ってもいいんだ
づかなければいい。少なくとも牧場にいれば安心だ。
一カ月。
いる。
よ﹂
ジャミーラはすっと背筋を伸ばした。弱い人間だ
響を及ぼすと思われるのも我慢ならなかった。﹁い
と思われるのも、サルマンの存在が彼女の仕事に影
いえ、わたしはどこにも行かないわ。仕事がたくさ
はない。
こから車で十分のところにいても、どうということ
サルマンのことはもう吹っ切れた。だから彼がこ
にいれば、彼がやってくることはないだろう。
サルマンは昔から馬が大きらいだった。だからここ
それなのにハナは今、こんなことを言い出してい
んあって忙しいんですもの﹂
る。﹁お城に来て、使用人たちと話をしてくれませ
ジャミーラはノーと叫びたい衝動をこらえ、にっ
んか?﹂
29
そう、どうということはないわ。
冷たい怒りがこみ上げてきて、ジャミーラは吐き
怒りに意識を集中させ、サルマンに再び会うとい
捨てるように言った。﹁すぐにそっちに行くわ﹂
うことは考えないようにした。外に出てジープに乗
きゆう しや
朝の五時半にジャミーラのオフィスの電話が鳴っ
た。ちょうど朝の点検のために 厩 舎に向かおうと
ジャミーラが車から降りたとたん、ハナはしゃべ
の庭に着いた。ハナが手を振って待っていた。
りはじめた。﹁毎晩、毎晩、それはそれは大きな音
り込み、普段なら十分かかる道のりを五分ほどで城
ひっきりなしに行き来して城の庭に着陸するせいで
せいでいらだっていた。このところヘリコプターが
もあった。牧場からは離れているが、それでも低空
もしナディム
食べ切
れ な い も の だ か ら、 し ま い に は 投 げ 捨 て る ん で す
で音楽をかけ⋮⋮それに食事といったら!
⋮⋮儀式を執りおこなう舞踏室に!
飛行するヘリコプターもあり、馬が驚いてそのあと
様がいたら⋮⋮﹂
うわさ
だ。サルマンが城で毎晩のようにパーティを開き、
使用人を集めて。あと、大型バスも調達してきてち
ジャミーラはきっぱり言った。﹁片づけをさせる
ジャミーラは歯を食いしばり、彼女の住まいの中
き出すから﹂
ょうだい。わたしがこれから客を全員この城から叩
一時間後、サルマンが滞在している棟にジャミー
たた
にあるオフィスの電話を取った。最初、電話からは
にかなだめてようやく話を聞けた。
ハナのすすり泣きしか聞こえてこなかったが、どう
いた。
その客をヘリコプターが運んでくるのだと 噂 で聞
何時間も興奮状態が続いてしまったことがあったの
していたところだった。寝不足とぴりぴりしている
30
楽息子や道楽娘が大挙してやってきて破壊のかぎり
燃えたぎる怒りに変わっていた。ヨーロッパから道
ラは足を踏み入れた。冷たい怒りは今やふつふつと
と こ ろ ま で 来 る な ん て、 自 分 を 何 様 だ と 思 っ て る
﹁ちょっと﹂女性はとがった声で言った。﹁こんな
マンはジーンズだけは身に着けていた。
の?﹂
ジャミーラはオリーブ色の官能的なサルマンの体
をつくしたあとを、この一時間のあいだに見てまわ
千鳥足のその女性を、廊下で待っていたメイドのと
をなるべく見ないようにして、女性のほうにつかつ
った。それからいまだに酒の抜けない不満顔の五十
ころに連れていき、冷ややかな声で言った。﹁この
人の客をアル・オマールの空港に送るためにバスに
ジャミーラはサルマンの部屋のドアを乱暴に開け
人をバスに乗せてちょうだい。そうしたら運転手に
か歩いていき、手を引っ張って立たせた。それから
た。目の前の光景に心が痛んだが、怒りの炎もさら
押し込んだのだ。
に燃え上がった。いまだに彼に動揺させられる自分
いた。周りには空のシャンパンの瓶やグラスが散ら
ンは先ほどからぴくりとも動いていない。ジャミー
はドアをぴしゃりと閉め、ため息をついた。サルマ
女性の抗議の声が聞こえないように、ジャミーラ
出発するように伝えて。これで全員のはずだから﹂
ばっている。派手なドレスを着た厚化粧のセクシー
身動きひとつせずに眠る。酒を飲んだことでいっそ
ラの胸は締めつけられた。彼は昔から死んだように
ブロケード張りのソファに人がふたり横たわって
に腹が立ったのだ。
はサルマンが眠っている。女性の手は彼のたくまし
うそんなふうになっているのだろう。彼女の目はト
な女性が顔を上げ、とろんとした目を向けた。横に
い裸の胸に置かれていた。ありがたいことに、サル
31
ジャミーラは髪を後ろに撫でつけ、化粧はせずに
な
戻ってから初めてゆったりした気持ちになった。
さまよった。顎にはうっすらとひげが生え、額には
はいている。十八歳と言っても通りそうなほど若々
白いシャツとジーンズを身に着け、乗馬用ブーツを
ップアスリートのような引き締まった彼の体の上を
黒い髪がかかっている。そんな彼の姿は天から落ち
いており、頬はピンク色に染まっている。この数日、
しく見えた。美しい青い目はサファイアのように輝
と、ジャミーラには宝石のような真の美しさがある。
彼の気を惹こうと競い合っていた女性たちと比べる
けれども彼は天使なんかじゃない。
い、そして目当てのものを見つけた。それから居間
ムとハナに心の中であやまってから、バケツの中の
ねしていた女友達を思い出し、自己嫌悪に襲われた。
サルマンはそこでふと、酒に酔って彼の隣でうたた
ト機に乗せて追い返すことに決めたのだ。けれども
﹁いったいどういうつもりなの?﹂ジャミーラは怒
サルマンは最初、奇襲攻撃をかけられたのかと思
りに耐えかねるように声を震わせた。﹁戻ってきた
ジャミーラの顔を見るかぎり、すでにそれは解決ず
目の前にジャミーラが空のバケツを持って立って
みのようだ。
いた。美しい顔に挑むような表情が浮かんでいる。
と思ったら、この城を自分の遊び場にするなんて。
った。その昔、訓練されたとおりに反射的にぱっと
たちまち彼の体に生気がみなぎり、メルカザードに
立ち上がる。
彼は客を呼んだことを後悔し、彼の自家用ジェッ
冷たい水をサルマンにぶちまけた。
じゆう たん
に戻ってくると、高価な 絨 毯を汚すことをナディ
ジャミーラは顎をこわばらせ、バスルームに向か
てきたばかりの堕天使のようだった。
32
出ていこうとした。だがドアにたどりつく前に力強
ジャミーラはそう言うと、背中を向けて部屋から
お友達はみんなバスでそこに向かっているから﹂
だでさえ忙しいのに、あなたが呼んだお坊ちゃまや
い手に腕をつかまれ、振り向かされた。﹁いったい
かわいそうに、ハナはひどく取り乱しているわ。た
お嬢ちゃまの世話までさせるなんて。それに、ひっ
どこへ行くつもりだ?﹂
﹁何をする ――
﹂
サルマンはジャミーラを部屋から出ていかせるべ
きりなしにヘリコプターが行き来するから、牧場の
きだとわかっていた。彼女のことはもう追いかけな
ふたりのあいだの空気が電気を帯びたようにぴり
黒 豹 を起こしてしまったことに気づいた。サルマ
ぴりした。ジャミーラは遅ればせながら眠っていた
いと何度も自分に言い聞かせてきた。けれどもこう
馬が怖がっているのよ﹂
ンは肩をいからせて腕を組み、鼻にかかった甘い声
して顔を合わせると、彼女の時間を超越した美しさ
くろ ひよう
で言う。﹁キスで起こしてくれなかったのかい?
や女らしい曲線を描く体に、彼の傷ついた魂は 抗
ジャミーラはバケツを床に置いた。思わず落とし
えなかった。﹁さっきも言ったように、きみは友好
あらが
なんともつれないな﹂
にできないような人に、どうして挨拶しなきゃいけ
がら彼をにらみつけた。﹁自分の家や使用人も大切
ジャミーラはここに来たことをすっかり後悔しな
的に挨拶もできないのか?﹂
ているようね。そんなにお楽しみがほしいのなら、
﹁あなたはメルカザードは退屈すぎる場所だと思っ
ないの?﹂
なったが、それでも氷のように冷たい声で言った。
そうになったのだ。彼女はこの場から逃げ出したく
お友達のあとを追ってブハラニに行ったらどう?
33
サルマンは目を光らせた。﹁そのとおり、ここは
ジャミーラは顎を突き出した。﹁いいえ、義務は
ることね。それにわたしはナディムとイサルトの家
だとは認めていないもの。まず彼らの尊敬を勝ち取
あるわ。だってここの使用人たちはあなたを統治者
ええ、
ジャミーラの息はふいに乱れた。サルマンの男ら
ジャミーラはぴしゃりと言い返した。﹁わたしの
しい香りをかいでしまったからだ。酒のにおいはま
立場を忘れるなって言いたいんでしょう?
彼女は身をよじって彼から逃れようとしたが、つ
ったくしなかった。飲んでいないのだろうか?
をあなたがめちゃめちゃにするのを黙って見ている
かまれた手は驚くほど力強かった。ジャミーラは再
もだったら、さっき目の当たりにした光景はいった
つもりはありませんから﹂
び彼をにらみつけた。もちろん彼女はサルマンの家
いなんだったんだろう?
じゃないって誰も教えてくれなかったから﹂
族の一員ではない。両親が亡くなったあと、ナディ
﹁ここは﹂サルマンの声も彼女に負けず劣らず冷や
﹁そういう意味で言ったんじゃない。ここはぼくの
をわきまえてきたつもりだ。
もあるんだ。だからいつでも好きなときに好きな人
やかだった。﹁ナディムだけではなく、ぼくの家で
くなり、ジャミーラは再び彼から逃れようとして激
サルマンのそばにいることにとうとう我慢できな
を招待するからな﹂
ていちいち説明する義務はない﹂
は今、この国の統治者だ。だからぼくの行動につい
家だ。だからぼくの好きなようにやる。それにぼく
で
ミーラはそのことを忘れず、いつだって自分の立場
ムが彼女を引き取って面倒をみてくれたのだ。ジャ
そうね、このところ、わたしがあなたの家族の一員
ぼくの家だ。そのことを忘れてはいけないよ﹂
34
しく身をよじらせた。
一瞬、手が離れたと思ったら、すぐに彼のがっし
りした胸に引き寄せられた。そして突然、両手で脇
腹をつかまれ、サルマンの肩に担がれた。
サルマンはそのままバスルームに向かった。彼女
は手足をばたつかせて抵抗したが、彼の力強い体は
サルマンの説明のつかない怒りはすでにおさまり
バスルームに入ると、サルマンは片手で彼女の体
んな彼女の姿から目が離せなかった。
い体の曲線がくっきり浮き出ている。サルマンはそ
わかっていた。ジャミーラはずぶ濡れになり、美し
ぬ
つつあった。目の前の女性がそうさせているのだと
を押さえつけたまま、シャワーの栓をひねった。ジ
びくともしなかった。
ャ ミ ー ラ は 叫 ん だ。﹁ い っ た い 何 を す る つ も り な
マンが広げた手で彼女のおなかを押さえつけている
ジャミーラは背中を壁につけ、息をのんだ。サル
のだ。蒸気の向こうで彼の目が黒曜石のように光っ
今すぐ床におろして!﹂
サルマンは彼女を抱えたまま温かなお湯が降り注
た。うっすらと胸毛の生えたたくましい体を水滴が
の?
んから彼の険しい声がする。﹁きみをぼくと同じ目
ぐシャワーの下に立った。ジャミーラの頭のてっぺ
したたり落ちている。
らに強く押さえつけられた。﹁きみはどこにも逃げ
ジャミーラは彼の手を振りほどこうとしたが、さ
にあわせようとしているだけだよ、生意気なお嬢さ
ん﹂
35
オアシスの熱い闇
2012 年 7 月 20 日発行
著 者
訳 者
アビー・グリーン
小林ルミ子 ( こばやし るみこ )
発 行 人
発 行 所
立山昭彦
株式会社ハーレクイン
東京都千代田区外神田 3-16-8
電話 03-5295-8091( 営業 )
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® と がついているものはハーレクイン社の登録商標です。
™
Printed in Japan © Harlequin K.K. 2012
ISBN978-4-596-12754-9 C0297
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