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インタンジブルズとしての人的資産の測定

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インタンジブルズとしての人的資産の測定
千葉大学
経済研究
第2
6巻第1号(2
0
1
1年6月)
!!!
論 説
!!!
!!!!!!!
!!!!!!!
インタンジブルズとしての人的資産の測定
―戦略的マネジメントに向けて―*
内
¿
山
哲
彦
はじめに
今日の企業経営において,インタンジブルズ(intangibles;無形の資
産)とそのマネジメントの重要性が高まっている。特許権に代表される,
貸借対照表にオンバランスされる知的資産のほか,ブランドや顧客情報,
人的資産といった,伝統的な意味で無形資産とはいえないものを含め,
総称してインタンジブルズと呼ばれる(櫻井,2
0
0
9a,4
3ページ)
。イン
タンジブルズには人にかかわるインタンジブルズ,すなわち人的資産が
ある(Blair and Wallman, 2
0
0
1; Lev, 2
0
0
1; Kaplan and Norton, 2
0
0
4b;
櫻井,2
0
0
9a)
。具体的には,個人および人的組織の持つ知識や能力,高
い動機づけなどがあげられる1)。
内山(2
0
0
9c;2
0
1
0)において,インタンジブルズとしての人的資産に
*
本稿は,日本管理会計学会2
01
0年度全国大会(於 早稲田大学)での自由論
題報告に加筆修正したものである。報告に際し,司会の青木茂男先生(茨城
キリスト教大学)をはじめ,フロアーの先生方より大変に有意義なご質問と
ご助言をいただいた。記して感謝申し上げたい。また,本研究は日本会計研
究学会スタディ・グループでの共同研究による研究成果の一部でもある。主
査を務められた櫻井通晴先生(城西国際大学)をはじめ,委員の先生方のご
指導とご助言に心より感謝申し上げたい。
1)インタンジブルズとしての人的資産については,内山(2
0
0
9c,3
4―3
5ページ;
20
10, 7―8ページ)を併せて参照されたい。
(39)
39
インタンジブルズとしての人的資産の測定
ついて,その特徴と管理上の特有の問題を明らかにし,他のインタンジ
ブルズと同様に戦略によって価値が大きく異なることから戦略的なマネ
ジメントが重要であることを指摘した。そして,人的資産の戦略的マネ
ジメントに貢献するモデルとして,人事・労務管理分野における戦略的
人的資源管理(戦略的HRM;human resource management)と,管理
会計分野におけるバランスト・スコアカード(BSC;balanced
score-
card)
/戦略マップの諸研究を取り上げ,両者に見られる共通性と,そ
れに伴う共通した研究課題を指摘した。
戦略の実行を頂点とした業績管理を目的として,人的資産の戦略的マ
ネジメントと,管理会計を中心とする業績管理の仕組みとの統合に向け
た新たなフレームワークを筆者は「統合的業績管理システム」と呼び,
その研究の必要性と,戦略的HRMやBSC/戦略マップのモデルの有用
性を指摘してきた(内山,2
0
0
9a; 2
0
0
9b)
。内山(2
0
0
9c; 2
0
1
0)で明らか
にしたように,人的資産の戦略的マネジメントにはいくつかの研究課題
があるが,その1つに,人的資産の獲得・開発等に関するコストと,人
的資産に関してもたらされるベネフィットの測定・分析のための計算構
造の構築,およびそのマネジメント・システムへの組み込みがある。人
的資産の会計的測定については,かつて「人的資源会計(human resource accounting)
」として盛んに研究成果が発表された。その後,必
ずしも当初の隆盛は継続しなかったものの,1
9
9
0年代以降も人的資源会
計の考え方を用いて今日的経営課題の解決を目指すいくつかの研究が見
られる。
そこで本稿では,人的資源会計と戦略的HRM・BSCモデルの諸研究
の知見から,インタンジブルズとしての人的資産の測定について,特に
戦略的マネジメントに向けて考察を行う2)。内山(2
0
1
0)では,人的資
源会計の研究とインタンジブルズとしての人的資産のマネジメントの研
究との違いを指摘したが,本稿では,特に価値測定に重点を置いて,両
40
(4
0)
千葉大学
経済研究
第2
6巻第1号(2
0
1
1年6月)
研究の統合的な検討を行う。
以下,次の構成をとる。À節では,人的資源会計について概観すると
ともに,人的資産の測定の目的を明らかにする。Á節では,人的資産の
内容が個人と人的組織とに大別されることと,それが人的資産の測定方
法に深くかかわることを述べる。Â節では,人的資産の測定方法が犠牲
価値(コスト)に基づくものと効益価値(ベネフィット)に基づくもの
とに大別されること,ならびにインタンジブルズとしての人的資産の戦
略的マネジメントにおける効益価値による測定の重要性について述べる。
Ã節では,人的資産のコストとベネフィットの関係を明らかにするとと
もに,人的資産のコストとベネフィットの関係の分析においては,戦略
的マネジメントに向けて,人的資産以外の資産を組み合わせた測定・分
析モデルや非財務的尺度を組み込んだ測定・分析モデルも必要であるこ
とを指摘する。Ä節では,戦略的マネジメントの重要性に基づき,戦略
と整合した人的資産とそのマネジメントの必要性について述べるととも
に,戦略と整合した人的資産の獲得・開発だけでなく,人的資産とその
マネジメントからする戦略の創発も包含したフレームワークの構築が求
められることを指摘する。Å節では,人的資産の財務業績・企業価値へ
の貢献度合いを明らかにするにも,また戦略の創発にも,財務的尺度と
非財務的尺度とを組み合わせた継続的測定が不可欠であることを述べる。
最後にÆ節では,本稿での考察のまとめを行う。
なお,本稿では,人にかかわるインタンジブルズとして,主として
「人的資産」という言葉を用いるが,先行研究での呼称をそのまま用い
ることもあり,「人的資産(human asset)
」
「人的資源(human resource)
」
「人的資本(human capital)
」の言葉を特に区別しないことをお断りし
2)Edvinsson and Malone(1
997)は,人的要素についての測定尺度の選択は目
的論的であることを指摘している。その上で,インタンジブルズの価値は戦
略に大きく依存すること(Kaplan and Norton,2
0
04a)に基づく。
(41)
41
インタンジブルズとしての人的資産の測定
たい3)。
À
人的資産と会計
1.人的資源会計
企業経営における人的要素の重要性への関心は決して目新しいもので
はない。特に1
9
6
0年代から1
9
7
0年代には,経済学,経営学,会計学にお
いて人的要素を資本や資産と捉えた研究が数多く見られるようになる4)。
人的資源会計の研究も,単なる伝統的会計の延長ないし拡大として出現
したのではなく,社会心理学的,行動科学的,経営学的研究成果の蓄積
の上に展開された(若杉,1
9
7
3,1
6ページ)
。人的資源会計とは,「組織
内における効果的な測定を促進するために,人的資源に関する情報を識
別し,測定し,伝達するプロセス」
(Brummet et al., 1
9
6
9, p. Í)
,ある
いは「人的資源に関するデータを識別,測定して,この情報を利害関係
集団に伝達するプロセス」
(A.A.A., 1
9
7
3, p. 1
6
9)とされる。Likertらを
中心とする「ミシガン・グループ」による前者の定義は,人的資産に関
する問題の発見や有効な意思決定を助けるという管理会計目的を主眼と
しており,他方,A.A.A.による後者の定義は,企業内外の利害関係者へ
の情報提供を目的とし,管理会計と財務会計の両方を見据えたものと
なっている。
3)「人的資産」の呼称については,内山(20
09c,3
2ページ)を併せて参照された
い。櫻井(2009b, 4ページ)は,「管理会計では経営者によるマネジメントが
主要な研究目的であるから,資本の運用形態を表す貸借対照表の借方側の問
題として認識・測定することによってはじめて,効果的な管理方式が明らか
になってくるのではないかと考える」として,インタンジブルズを資産とし
て検討している。
4)その代表として,後にノーベル経済学賞につながるBecker(19
64)がある。
42
(4
2)
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2.人的資源会計の課題と今日的意義
このような人的資源会計の研究は,1
9
8
0年代まで次のような5つの段
階(stage)を経てきたとされる(Flamholtz, 1
9
9
9, pp. 1―3)
。第1段階
は1
9
6
0年から1
9
6
6年で,人的資源会計に関心が起こり,人的資産の経済
理論や組織心理学の研究など,人的資源会計の最初の起動力となったさ
まざまな関連理論から人的資源会計の基礎的概念が導出された時期であ
る。第2段階は1
9
6
6年から1
9
7
1年で,人的資産のコスト(歴史的原価や
取替原価)と価値(貨幣的および非貨幣的)の測定に向けたモデルの妥
当性を検討する基礎的な理論研究が行われるとともに,人的資源会計情
報の現在の利用および潜在的な利用を明確化し,実際の組織への適用が
いくつか実践された時期である。第3段階は1
9
7
1年から1
9
7
6年で,人的
資源会計に対する関心が急速に高まり,欧米やオーストラリア,日本で
多くの学術研究が発表された時期である。人的資源会計情報の利用が意
思決定に与える影響や人的資産のコスト・価値の測定モデルについての
研究が行われ,比較的小規模な企業への導入が図られた。A.A.A.の専門
委員会の報告書が発表されたのも,この時期である。第4段階は1
9
7
6年
から1
9
8
0年で,学術,実務双方で人的資源会計への関心が低下した時期
である。関心が低下した理由として,初期的な研究がある程度完遂され
たことで,より複雑な研究課題が残され,一部の研究者にしか取り組め
ないものになったことや,研究サイトとしての企業の協力が不可欠と
なった一方で企業側の関心はより喫緊の問題へと移ったことなどが指摘
される5)。そして第5段階は19
8
0年以降で,人的資源会計の理論と実践
への関心が再燃し始めた時期である。大企業による導入が試みられると
5)ここでいう「より喫緊の問題(more pressing issues)
」とは,オイル・ショッ
クやそれに伴う経済停滞を指していると思われる。この一連の現象は,予算
管理の研究史において,1
920年代に見られた予算利用の行動科学的関心の高
まりが1
92
9年の世界恐慌とその後の戦時経済体制によって大きく後退し,そ
の回復が第2次世界大戦後まで待たれるのと類似している。
(43)
43
インタンジブルズとしての人的資産の測定
ともに,産業構造の転換や,物的資産に代わり人的資産や知的資産がコ
ア資産であるという認識がその背景として指摘される。
人的資産が企業業績に与える影響は経験上認知されていたにもかかわ
らず,人的資産の会計的測定には当初から次のような阻害要因が指摘さ
れてきた(Brummet et al., 1
9
6
8, pp. 2
1
7―2
1
8)
。すなわち,人的資産へ
の支出を投資と見ようとしても,機械などの物的資産への投資と比して
人への投資はその根拠が希薄であること,支出のうち将来の効益分と現
時点での費消分との区分が困難であること,企業によって法的に所有さ
れているわけではないために人を個別の資産として考えることが難しい
こと,個人を貨幣単位で価値づけることに対する文化的制約やタブーが
存在することである6)。また,若杉(1
9
7
9,1
8ページ)は,人的資源会
計を実施している企業が少数にとどまる理由として,人的資源会計につ
いてまだ一般に広く認識されていないことや,会計法規がこれを取り入
れていない(制度会計化されていない)状況,管理会計として実施する
ことにより期待される効果と犠牲とが未知であることを指摘している。
このような課題のすべてが今日において解消されているわけではない。
しかし,人的資産の重要性,とりわけインタンジブルズとして企業の価
値創造にとって不可欠な要素と認識されることから,会計的視点による
人的資産の認識とその測定・管理はなお今日的な研究テーマであるとい
える。
欧米における研究(Parker et al., 1
9
8
9; Flamholtz, 1
9
9
9)だけでなく,
日本においても1
9
9
0年代以降,リストラによる大量解雇(黒川,1
9
9
4)
,
ベンチャー企業の評価(照屋,1
9
9
7)
,多国籍企業での人材の評価と管理
6)しかし,現実には,企業の合併や買収に際し,企業の人的要素が包括的にで
はあれ評価や売買の対象になっている。減価償却や引当金の設定に見られる
ように,そもそもどのような資産でもその真の価値を決めることは必ずしも
容易ではない。
44
(4
4)
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1
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(川嶋,1
9
9
9)
,IT化と知識集約型企業での資産価値測定(島永,2
0
0
7)
,
プロスポーツクラブの経営と情報開示(角田,2
0
0
8)といった今日的経
営課題に基づいた人的資源会計に関する研究が行われており,人的資源
会計の考え方やモデルはさまざまな示唆を与えている。
3.人的資産の測定の目的
人的資源会計に関する最初の研究は,後にA.A.A.の人的資源会計委員
会(Committee on Human Resource Accounting)のChairmanとなる
Hermansonによるもの(Hermanson, 1
9
6
4)とされ,そこでは外部報告
目的から人的資産の価値測定を扱っている。その後,人的資源会計はむ
しろ内部管理目的を中心に研究が進められ,その代表がLikert(1
9
6
7)
である。そこでは社会心理学の研究成果も用いて,人的資産にかかわる
企業内部のメカニズムの分析と管理を目指している。A.A.A.の人的資源
会計委員会も,人的資源会計の目的を「組織の内部および外部にかかわ
る財務的意思決定の質を向上させること」として,管理会計,財務会計
を含めた広い目的を設定しているものの,多くの場合,外部報告に用い
られるよりも内部目的のために先行して実施されるであろうとして
(A.A.A., 1
9
7
3, pp. 1
6
9―1
7
0)
,
管理会計での先行した実施を想定している。
若杉(1
9
7
3)も,人的資源会計を管理会計のサブシステムとして構想
することの意義と実践可能性を指摘するとともに,その実践が,最初,
企業が経営管理のために必要な情報を作成利用する形で進められ,企業
に広く普及していった後に,会計原則や会計関係法規に採り入れられて
制度化するのがもっとも自然で,しかも企業社会にしっかりと根づくも
のとなるとする(若杉,1
9
7
9,2
5
3ページ)
。さらに若杉(1
9
7
6)は,管
理会計,財務会計の枠を超えて,人的資源会計の真の目的を次のように
説明する。すなわち,
「人的資源会計情報を通じて,企業の経営者に対
しては組織のあり方や人事政策の核心にふれた重要性を示し,また利害
(45)
45
インタンジブルズとしての人的資産の測定
関係者に対しては,人的資源の情況や経営者の人的資源に対する取扱い
方を正しく評価せしめることによって社会的プレッシャーとして,経営
者に間接的に人的資源に対する正しい取扱い方を促すことによって,結
果において企業内の人々にやる気をよび起し,生き甲斐をもたせ,その
結果として企業の経営効率の向上を期待しようとする点にある」
(若杉,
1
9
7
6,3
8ページ)とする。
このような人的資産の測定の目的について,若杉(1
9
7
6;1
9
7
9)を参
考にして記述すれば,次のように示すことができる。
¸
人的資産の価値の現状および増減変動を正しく測定し,表示する。
¹
¸を行うことで,経営者や管理者に人的資産の価値を認識させ,
その適正な獲得・開発や配分,有効活用,管理保全等に資する(財
務業績・企業価値の向上へ)
。
外部の利害関係者に測定結果を公表することで,
º
)
外部利害関係者の意思決定に資する。
*
コーポレート・レピュテーションを高めようとする経営者,管
理者に人的資産の開発・使用等に関する社会的プレッシャーを与
え,目的¹を促進する。
目的ºは,結果として管理会計目的と財務会計目的の両方を含むが,
このような企業外部への情報提供は必ずしも制度会計として実施される
必要はない。なぜなら,企業が独自に測定結果の情報を提供することで,
他企業との比較可能性などは確保されないものの,コーポレート・レ
ピュテーションの向上や,それを意図した人的資産の適正な開発・使用
等につながるからである。これらの目的のうち,管理会計として考察す
べきは目的¸,目的¹および目的º*である7)。とりわけ日本企業にお
7)財務会計分野における研究については,古賀(2
0
05)および伊藤(2
00
6)を
参照されたい。
46
(4
6)
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1
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いては,人的資産への投資とその回収にかかわる近年の問題として,以
下のような経営管理上の要請を指摘できる。第1に,日本企業では均一
的な従業員の長期雇用を前提にした人的投資を長期にわたって回収して
きたが,このような慣行は近年の雇用の流動化や従業員意識の変化によ
り見直しを迫られている。第2に,企画・管理部門や研究開発部門,
サービス分野の重要性にもかかわらず,そこでのホワイトカラーの生産
性の低さが指摘されている。そして第3に,経済の長期低迷によるコス
ト削減や費用対効果の厳格な管理,アカウンタビリティへの強い要請が
見られる。
なお,本稿では,紙幅の関係もあり,目的¸と¹を念頭に置いて議論
を進め,これらを前提とする,コーポレート・レピュテーションにかか
わる目的º*については稿を改めて考察したい8)。
Á
人的資産の内容―個人と人的組織―
測定と管理の対象たる人的資産をもって何を指すのかは,研究フレー
ムワークにかかわる問題である。人的資産の内容については,伝統的に
個人に焦点を当てるアプローチと人的組織に焦点を当てるアプローチと
がある。
人的資産として個人に焦点を当てるFlamholtz(1
9
7
1;1
9
7
2)は,研
8)コーポレート・レピュテーション(企業の評判)とは,「経営者および従業員
による過去の行為の結果,および現在と未来の予測情報をもとに,企業を取
り巻くさまざまなステークホルダーから導かれる持続可能な競争優位」
(櫻井,
2005, 1ページ)とされる。この定義では,ステークホルダーがレピュテー
ションを形成し,そのレピュテーションのもとになるのは経営者および従業
員による行為であり,さらには(過去の行為だけでなく)現在と未来の予測
情報がレピュテーションに影響を及ぼすとされる。これらから,後に検討す
るような人的資産に関する犠牲価値と効益価値の測定情報はコーポレート・
レピュテーションに影響を与えると考えられることを,ここでは指摘するに
とどめたい。
(47)
47
インタンジブルズとしての人的資産の測定
究の基礎単位(basic unit)に個人を選択した理由として次の2つをあ
げる(Flamholtz, 1
9
7
1, p. 2
5
5)
。第1に,選抜や訓練,配置,職務設計,
昇進,報酬といった組織的な意思決定の焦点が個人を中心としており,
したがって個人価値の測定がこれら意思決定の効果性を高めると考えら
れること。第2に,個人価値の総計によって人的組織の価値測定が概ね
可能であり,逆に,事業部や工場といった人的組織の価値を個人の価値
には分割できないことである。
これに対し,人的資産として人的組織に焦点を当てるLikert(1
9
6
7)
は,人的資産を組織の有する生産能力の価値および顧客信用の価値とし
た上で,企業間での人的資産の経済的価値の差異はリーダーシップやコ
ミュニケーションの質,協働的チームワークの構築力などの組織特性の
違いによると指摘する。そこには,個人の技量や能力はまったく自由意
思にしたがって主体的に発揮されるものではなく,個人が企業に所属す
る限り,個人そのものが持つ技量・能力も組織の性格や質のいかんに
よって左右されるために,組織そのものが個人の企業への貢献の度合い
や業績を決定するという認識がある(若杉,1
9
7
3,5
0―5
1ページ)
。
2つの主張にはそれぞれ根拠があり,その妥当性の優劣は一概に論じ
られない。重要なのは,個人と人的組織のどちらに焦点を当てるかが研
究フレームワークやモデルの構築に影響を与えるということである。具
体的には,次節で取り上げる,測定方法を犠牲価値(コスト)によるも
のとするのか効益価値(ベネフィット)によるものとするのかにかかわ
る。なぜなら,個人価値は,その獲得や開発に要した犠牲価値によって
測定が行われ,人的組織価値は,組織が獲得する収益や利益などの効益
価値によって測定が行われるのが一般であり,その逆は難しいからであ
る(内山,2
0
1
0,2
0ページ)
。
両測定方法を比較すれば,犠牲価値による測定のほうがより容易に実
施できると思われる。しかし,人的資産のマネジメントを考える場合,
48
(4
8)
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コストとベネフィットをともに含めた計算構造を構築しなければならな
い。人的資産のマネジメントとは,犠牲価値によって測定される個人価
値の総計を,効益価値によって測定される人的組織価値の総計が上回る
ようにすることを意味する。さらに,近年の戦略的HRMでは,その
ベースには個々人の能力開発があるものの,人事の成果として組織能力
に重点が置かれる(Ulrich and Smallwood, 2
0
0
4)
。したがって,人的資
産のマネジメントに資する管理会計とは,犠牲価値と効益価値の両方を
扱うものでなければならない。
Â
犠牲価値による測定と効益価値による測定
1.2つの価値測定
人的資産の会計的測定は,2種類の価値に基づく測定方法により大別
される。1つは,人的資産の獲得・開発・使用にかかわる犠牲価値(コ
スト)に基づく測定であり,いま1つは,人的資産がもたらす効益価値
(ベネフィット)に基づく測定である。人的資産のマネジメントにおい
ては,コスト・ベネフィット分析が求められるため,両測定がともに内
包される必要がある。
犠牲価値による場合,測定の主眼は人的資産への投資額の期間配分手
続きによる真正価値測定にある。すなわち,それまで一括して期間費用
とされていたものを資産計上し,使用に伴って減価の測定を行うという,
固定資産と同様の手続きであり,効益価値による場合と比して,現行会
計制度との整合性や客観性,実施の容易さに利点を見出せる。ただし,
人的資産の獲得や開発に関する投資額は,物的資産における場合とは異
なり,単に人的資産の獲得・開発に当たって必要とされた支出額を表す
に過ぎず,投資の行われた時点における人的資産の価値をそのまま表す
ものではない(若杉,1
9
7
3,1
2
3ページ)
。また,その投資が,効益がも
たらされる相当前の時点においてなされることも指摘できる。さらには,
(49)
49
インタンジブルズとしての人的資産の測定
人的資産獲得後の教育訓練投資についても,教育訓練の企業特殊性に
よっては,支出額がそのまま人的資産の価値として資産計上される根拠
とはならない。すなわち,教育訓練の企業特殊性が高い場合,教育訓練
によって生産性が向上しても,高まった能力による転職率の上昇は起こ
りにくく,したがって引き止めのために賃金の上昇が必要とならず,高
まった能力分だけ人的資産として資産計上することができる。しかし,
教育訓練の企業特殊性が低い場合には,生産性向上に伴い,高まった能
力によって転職率も上昇し,したがって引き止めのために賃金も上昇す
るため,その分だけ利益は上昇せず,資産として計上する意味がないと
9)
考えられる(黒川,1
9
9
4, 8ページ)
。
一方,効益価値による場合,測定の主眼は人的資産にかかわる将来の
潜在的効益力の測定・資産化にある。外部報告目的を念頭に置くと,犠
牲価値による場合と比して現行会計制度との整合性や数値の信頼性,実
行可能性の点で劣るものの,内部管理目的からは有用性は高いといえる。
人的資産のマネジメントでは,獲得・開発した人的資産が戦略に基づく
使用のなかでより多くの効益をもたらすことで,その価値が高まること
が求められる。すなわち,人的資産の価値がその使用のなかで当初の獲
得・開発コストに基づく価値と乖離することが,人的資産のマネジメン
トの目指すところである。とすれば,人的資産のマネジメントでは,犠
牲価値による測定値と効益価値による測定値とが対比され,分析される
ことで測定の有用性が見出される。
9)企業特殊性の高い教育訓練(能力開発)は,転職率を高めることがなく,人
的資産がもたらすベネフィットの占有可能性を高めるという点でも資産計上
を支持する。しかし反面で,従業員能力の汎用性の低下や環境対応力の低下
につながる危険性もある(内山,20
0
9c,3
6ページ)。
50
(5
0)
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第2
6巻第1号(2
0
1
1年6月)
2.さまざまな測定方法
このような犠牲価値に基づく測定方法と効益価値に基づく測定方法は,
さまざまなものが提示されてきた。それらは,図表1のようにまとめら
れる。
このうち,「せり価格法」や「修正現価法」
,Likertによる「行動科学
的変数法」やFlamholtzによる「個人価値測定法」が,人的資産の測定
だけでなく,そのマネジメントにも直接資するものと位置づけられる。
「せり価格法」は,物財の競売におけるせり値のつけ方を人的資産の
測定に適用したものであり,経済学的な機会原価の概念を用いて資産価
値を決定する方法である(若杉,1
9
7
9,1
0
3ページ)
。自部門の人的資産
を含めたROIをもとに,必要とされる人材のせり値を決定することで,
図表1 人的資産の測定方法
会計的測定方法
犠牲価値か
効益価値か
測定のみか
測定+管理か
非貨幣的測定の
有
無
支 出 原 価 法
犠牲価値
測定のみ
無
取 替 原 価 法
犠牲価値
測定のみ
無
せ り 価 格 法
犠牲価値
測定+管理
無
経 済 価 値 法
効益価値
測定のみ
無
修 正 現 価 法
効益価値
測定+管理
無
給 与 還 元 法
効益価値
測定のみ
無
暖 簾 価 値 法
効益価値
測定のみ
無
資 本 還 元 法
効益価値
測定のみ
無
自己創造暖簾法
効益価値
測定のみ
無
行動科学的変数法
効益価値
測定+管理
有
個人価値測定法
効益価値
測定+管理
有
出典:若杉(197
3,1
32―20
7ページ;19
79,90―14
6ページ)をもとに筆者作成
(51)
51
インタンジブルズとしての人的資産の測定
企業内での人的資産の適正な配分や有効な利用,適切な管理が促される
点で,計算方法そのものの妥当性よりも計算方法の導入によってもたら
される経営管理上の利点が強調される(若杉,1
9
7
3,1
4
4―1
4
7ページ)
。
その実施についてはさまざまな問題が指摘されるものの,今日,成果主
義的な報酬制度の導入と併せて実施されることの多い「社内公募制度」
や「社内FA制度」にも共通する考え方が見てとれる。
「修正現価法」は,企業の経済価値を将来において企業が獲得する利
益に基づいて見積り評価し,そのなかに占める人的資産の割合を求め,
これをもって人的資産の評価額とする「経済価値法」をベースにして,
割引計算の対象を人的資産に対する将来の賃金支払額とする,最近の状
況をより反映させるために加重平均を用いるなどの修正を加えたもので
ある。なお,そこでは将来における賃金支払額をもって人的資産が獲得
した成果に対する利益の配分額すなわち利益の流れと見ている(若杉,
1
9
7
3,1
5
6―1
6
1ページ)
。この方法によると,企業は人的資産の効率的利
用による高い利益率と,資本家から要求される資本コストの低減を意図
して,人的資産の効率的な配分が促されるとされる(若杉,1
9
7
3,1
6
1
ページ)
。
Likert(1
9
6
7)が提示する「行動科学的変数法」は,企業組織の構造,
経営方針,経営者のリーダーシップといった,企業組織内における発展
方向と企業が達成する成果とを決定する独立変数たる「原因変数」
,従
業員の企業組織に対する忠誠度や態度,動機づけといった,原因変数と
結果変数とを仲介し関連づける「媒介変数」
,そして生産性,製品・サー
ビスの質,収益,利益といった,人的資産を企業目的の遂行のために利
用した成果を表す「結果変数」の3つを置き,企業における人的資産の
現在価値を測定する方法である。これら諸変数の測定を測定可能なすべ
ての組織単位で行い,測定値を統計的に分析することで,変数間に存在
する相関関係を観察する。そして,その関係を用いることで,企業全体
52
(5
2)
千葉大学
経済研究
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6巻第1号(2
0
1
1年6月)
や組織単位の収益力を予測し,この予測値について割引計算することで
現在価値を求めるとともに,管理を行うのである。Likertは,人的資産
を人的組織の有する生産能力の価値と顧客信用の価値として広く捉えて
おり(Likert, 1
9
6
7, p. 1
4
8)
,このような諸変数の設定と変数間での因果
関係の分析を基礎とする測定・管理の思考は,BSC/戦略マップにも共
通性を見出すことができる。
Flamholtz(1
9
7
2)が提示する「個人価値測定法」は,組織に対する
個人の価値を明らかにしようとするものである。そこでは,公式組織に
対する個人の期待実現可能価値を,組織に対して提供される潜在的な用
役の現在価値である個人の条件付価値と,個人がその組織にとどまる確
率との積とし,両者の決定要素をさらに分解してモデル化している。そ
の上で,モデルの有用性として,人的資産の利用に関する意思決定の効
果性の向上,人的資産の効果的な管理の促進,人的資産の管理保全につ
いての報告,社会的統制の促進という4つの目的に資するとしている
(Flamholtz,1
9
7
2, pp.6
7
5―6
7
7)
。
3.効益価値による測定の重要性
人的資産の測定にはさまざまな方法が示されているが,人的資産をイ
ンタンジブルズと捉え,有形資産や他のインタンジブルズとの組み合わ
せが戦略の実行や財務業績・企業価値の向上に果たす役割を把握しよう
とする場合には,効益価値による測定の重要性が高くなる。Ulrich and
Smallwood(2
0
0
3, p.1
4)が示す「インタンジブルズの構造図(architecture of intangibles)
」では,その一番の基礎に人材やリーダーシップの
質といった組織のケイパビリティを置き,それが製品のイノベーション
や技術などのインタンジブルズに結びついて将来のコンピテンシーを生
み出し,それが最終的に持続可能で予測可能な収益を実現するとする。
ここからは,効益価値としてどのような貢献がインタンジブルズに見出
(53)
53
インタンジブルズとしての人的資産の測定
されるかが,より重要な測定の対象となることがわかる10)。
Ã
測定とマネジメント
マネジメント・プロセス上,測定はマネジメントの一部であり,前提
であると位置づけられる。その意味で,管理会計の立場からすれば,測
定が有効なマネジメントに結びつくことで初めて意味を持つ。人的資産
の価値の現状およびその増減変動を正しく測定・表示することを前提と
して,1つには,内部報告により,経営者や管理者に人的資産の価値を
認識させ,その適正な獲得・開発や配分,有効活用,管理保全等に役立
ち,いま1つには,外部の利害関係者にその測定結果を公表することで,
コーポレート・レピュテーションを高めようとする経営者,管理者に人
的資産の開発・使用等に関する社会的プレッシャーを与え,人的資産の
適正な獲得・開発や配分,有効活用,管理保全等を促進することが求め
られる。しかし,現実には,人的資産に関する会計的測定がなされてお
らず,それによって,マネジメント上,たとえば好況期に安易な大量雇
用を誘発し,不況期に大量解雇を生み出すといった問題が引き起こされ
る(黒川,1
9
9
4)
。
マネジメントに向けて,人的資産に関するコストと,人的資産に関し
てもたらされるベネフィットは,図表2のようにまとめられ,関係づけ
られる。
人的資産に関する測定は次の4つに分類される(若杉,1
9
7
3,1
1
7―1
1
8
ページ)
。すなわち,¸人的資産への投資額の測定,¹現時点で企業内
に存在する人的資産の価値の測定,º人的資産価値の償却額・損耗額の
測定,»人的資産について発生する増価(計画的・自生的に生じる人的
10)古賀(20
05)は,経済の変化に伴い,会計モデルについても,有形財投資が
中心の「取引―原価アプローチ」から無形財投資が中心の「評価―(使用)
価値アプローチ」への変化を指摘する。
54
(5
4)
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図表2 人的資産に関するコストとベネフィット
コスト
人的資産への投資
・募集採用投資額
・教育訓練投資額
・組織形成投資額
・組織開発投資額
など
‚
第1次的ベネフィット
個人の獲得・開発
組織の形成・開発
・人材の確保
・人材の機能・能力の
向上度
・組織の形成
・協働関係の向上度
・技術の陳腐化の防止
など
‚
第2次的ベネフィット
製品・サービス品質の
向上
顧客満足の向上
収益・利益の上昇
非財務的:
・製品やサービスの質
・生産歩留
・作業時間
・顧客満足度
など
財務的:
・売上高
・生産高
・付加価値
・利益額
など
出典:若杉(197
9)図12―2および図12―3をもとに筆者作成
資産価値の増加)の測定である。このうち,¸とºは犠牲価値(図表2
の「コスト」
)に基づく測定であるが,¹は犠牲価値ならびに効益価値
(図表2の「第2次的ベネフィット」のうちの財務的なもの)双方に基
づいて測定が可能である。そして»は効益価値に基づいてのみ測定が行
える。人的資産のマネジメントのためには,その測定システムとして犠
牲価値による測定と効益価値による測定の両方が含まれなければならず,
マネジメント上それらが関連づけられて分析される必要がある。
しかし,人的資産のコストと第2次的ベネフィットとの関係の分析に
おいては,そもそも収益や利益などの企業の財務的成果は人的資産と物
的および財務的資産との協働によって獲得されることから,物的・財務
的資産を組み合わせた分析が必要となる。加えて,インタンジブルズと
して,人的資産と情報資産や組織資産との関連が分析に反映される必要
(55)
55
インタンジブルズとしての人的資産の測定
がある11)。インタンジブルズは戦略に組み込まれて初めて価値を生み出
すのであり,またその価値も,他の有形資産・インタンジブルズとの組
み合わせに影響を受ける(Kaplan and Norton, 2
0
0
4a)
。ここから,人
的資産についても複合的で戦略的なマネジメントが求められ,それに資
する,
人的資産以外の資産を組み合わせた測定・分析モデルが必要となる。
さらに,第1次的ベネフィットや第2次的ベネフィットのうちの非財
務的なものは,人的資産への投資,特に教育訓練投資との間で強い因果
関係が想定されるものの,他方で,これらは当然に非財務的尺度で測定
されることから,非財務的尺度を組み込んだ測定・分析モデルの必要性
も併せて指摘できる。
Ä
戦略的マネジメントの重要性
1.人的資産と戦略
インタンジブルズとしての人的資産と財務業績・企業価値との関係は
多くの場合間接的であり,その因果関係の連鎖には他の要素,とりわけ
戦略が大きな影響を与える(内山,2
0
0
9c,3
3ページ)
。人的資産を経営資
源の1つと置いて戦略とのかかわりを明らかにしようとする研究は1
9
8
0
年前後から見られるようになる。Walker(1
9
7
8)やTichy,Devanna,
Fombrunらによる一連の研究(Devanna et al., 1
9
8
1; Tichy et al., 1
9
8
2;
Fombrun et al., 1
9
8
4)は,HRMと戦略的計画との関係を明示している。
Beer et al.(1
9
8
4)は,従業員をより制度的に,長期的に,かつ資産と
して捉えることの必要性を述べ,戦略的な視点を強調しているが,同時
に,現実にはHRMと事業戦略との対応がうまくいっていないことを指
11)Kaplan and Norton(2
00
4b)は,BSC/戦略マップの学習と成長の視点にお
いて,戦略の実行に不可欠なインタンジブルズ(原文ではintangible assets)
として人的資本(human capital)
,情報資本(information capital)
,組織資本
(organizational capital)の3つをあげ,戦略への整合(アラインメント)を
強調している。
56
(5
6)
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摘し,その理由として,ライン・マネジャーがビジネス・プランや戦略
を立てる際に人的資産について考慮しないまま計画を作ってしまうこと
や,人的資源部門がライン・マネジメントの必要性に応えることのでき
ないプランやプログラムを作ってしまうことが多いことをあげている。
このような実務の現状を受けて,戦略を前提とし,人的資源部門を
「戦略パートナー」あるいは「ビジネス・パートナー」と位置づけて
HRMの戦略実行への貢献性を強調し,
そのモデル化を試みる研究が1
9
9
0
年代後半から盛んになる(Ulrich, 1
9
9
7; Becker et al., 2
0
0
1; Ulrich and
Brockbank, 2
0
0
5; Christensen, 2
0
0
6)
。そこでは,戦略とHRMとの整合
(アラインメント)を維持し,すべてのHRMはビジネス戦略と顧客ニー
ズとに直接結びつけて考えられる。そして,多様なステークホルダーの
要求に配慮することで人的資産ならびにそのマネジメントが果たす戦略
的な貢献を第一義とする12)。そのための仕組みとしての業績管理の重要
性が強調され,BSCをはじめとする業績管理システムが取り上げられる。
Kaplan and Norton(2
0
0
4a)が指摘するように,インタンジブルズは
戦略に組み込まれて初めて価値を生み出すのであり,戦略的視点を抜き
にしてインタンジブルズの価値を測定することはほとんど意味を持たな
い。また,その価値も,他の資産・インタンジブルズとの組み合わせに
影響を受ける。その点で,人的資産を含めたインタンジブルズと戦略と
のかかわりを明示するBSC/戦略マップが持つ意義はきわめて大きい。
2.戦略を前提とした人的資産のマネジメントへの問題提起
しかし,特にヨーロッパの一部の研究者からは,このような戦略への
指向を強固にしたHRMに対して批判も見られる。たとえばGuest(1
9
9
7)
12)一方で,給与計算や福利厚生といった伝統的な管理業務・定型的業務は,一
層の効率化とコスト管理のためにアウトソーシングやシェアードサービスへ
の移管の対象となっている。
(57)
57
インタンジブルズとしての人的資産の測定
は,HRMの活動内容が限定されていることや,注視する業績が多くの
場合財務的なものに限定されていることを指摘し,より多様な成果を業
績尺度として取り入れる必要性を主張する13)。また,戦略と当該戦略に
整合したHRMとの組み合わせがより高い非財務的成果を生むことを示
す実証研究(Youndt et al., 1
9
9
6)があるものの,戦略とHRMとの整合
が高い財務的成果を生むことを示しえなかった実証研究(Huselid,1
9
9
5;
Delery and Doty, 1
9
9
6)も存在するなど,戦略に整合したHRMの貢献
性についての研究の蓄積は必ずしも十分とはいえない。
さらに,日本企業においては,このような策定された戦略を前提とし,
それに整合したHRMが必ずしも効果を発揮するとはいえないとする考
え方もある。たとえば津田(1
9
8
7,3
5
6ページ)は,日本の経営組織は「本
質では人間と人間との直接の関係で組織され,動かされていることが指
摘される。したがって日本企業の経営戦略を考える場合には,経営戦略
と人事(材)戦略とは不即不離であり,欧米企業のように,経営戦略を
策定したあとで人材の整理・調達をする,という順序により難いのであ
る。経営戦略と人事戦略とが連動しなければならない,あるいは人事戦
略が経営戦略策定の制約条件になるということが日本企業の経営戦略の
特徴であろう」とする。
同様に野中・徳岡(2
0
0
9,9
2―9
3ページ)は,現実の企業活動を「時間・
場所・人などによって構成される「そのつどの関係性」の文脈(意味合
い)のなかで,より良い未来への方向へ向けて舵を取り続けること」と
した上で,「すべてを固着化してしまおうとする制度志向の人事」を否
定する。そして,「現場の持つ環境認識の適切な解釈と組織運営への反
映が人事の力量」であり,「創発的な組織の人的資源の根源に置くべき
なのは,(中略)現場(フロントライン)の実践から学ぶ力,ビジョン
13)後者の問題については,BSC/戦略マップは一定の役割を果たすと思われる。
58
(5
8)
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と現実を踏まえた判断力(judgment)
,対話や協働しあう共創の能力な
ど」であるとして,「そのような知を綜合し,既存の戦略にとらわれず
に,むしろ戦略を創出していく構想力のある人材の育成と,彼らが創発
を行う場のマネジメントのプロとしての人事」であるべきと主張する。
すなわち,これまで戦略的HRMやBSC/戦略マップのモデルで主張
されてきた,策定された戦略を前提に,それと整合した人的資産の獲
得・開発と,そのマネジメント・システム(業績管理)への組み込みだ
けでは不十分であり,人的資産とそのマネジメントからする戦略の創発
を包含したフレームワークの構築が求められるといえる。
Å
非財務的尺度の組み込み
企業が利益獲得を主要な目的とする以上,戦略実行による最終成果は
財務的尺度で測定され,管理される必要がある。したがって,人的資産
の貢献も最終的には財務業績や企業価値といった財務的成果に結びつけ
て考えることが求められる。戦略的HRMやBSC/戦略マップのモデル
はもちろん,人的資源会計においても,人的資産の価値を効益価値に基
づいて測定する場合,それは対立する考え方ではない14)。
しかし,その最終的貢献を財務的成果に見出す形で人的資産を戦略的
にマネジメントするとしても,人的資産と財務的成果との直接的な関係
を把握することは必ずしも容易ではない(内山,2
0
0
9c,3
3ページ)
。企業
組織における組織階層と多様な職能の存在を前提とすれば,人的資産や
そのマネジメントがどのように財務的成果に影響を与えるかを理解する
ためには,経営の成果に関するより幅広い測定尺度を用いる必要があり,
14)企業調査においても,企業内における人事や教育の施策が財務業績の向上を
意図していないとする企業は皆無である。しかし,それが「狙い通り」ある
いは「まあ狙い通り」と回答する企業は3割程度にとどまっている(日本能
率協会グループHRM研究会,2
0
10)。
(59)
59
インタンジブルズとしての人的資産の測定
人的資産による成果も偏に財務的成果のみならず,そのパフォーマン
ス・ドライバーに多様な尺度を設定して,測定と管理を行う必要があ
る15)。したがって,そこでは,図表2で「第1次的ベネフィット」や「第
2次的ベネフィット」の非財務的なものとして示したように,非財務的
尺度による測定に依存しなければならない。
また,前節でも述べたように,戦略的マネジメントにおいては,人的
資産とそのマネジメントからする戦略の創発も包含したフレームワーク
が求められる。そこでは,非財務的尺度による測定・管理が中心となる
業務レベルと戦略レベルとを結ぶダブル・ループの組織学習が必要とな
る。現在の戦略的目標の達成度合いや人的資産の貢献度合いを明らかに
するという業績評価目的のみならず,戦略の創発のためにも非財務的尺
度による測定が不可欠である。
つまり,財務的尺度と組み合わせて非財務的尺度を用いた測定を実施
することで,人的資産への投資と非財務的成果,そして財務的成果との
因果関係を明らかにしていくほかはない。そして,このような財務的尺
度,非財務的尺度による測定を継続的に行うことが求められる(Lev,
2
0
0
4; Kaplan and Norton, 2
0
0
8)
。なぜなら,人的資産と財務業績・企
業価値との関係は長期的であり16),かつ間接的であるからである。この
点で大きな意義が見出されるBSC/戦略マップのモデルは,かつて
Likert(1
9
6
7)で示されたモデルと基本的には同じ思考に基づいている。
ただし,BSC/戦略マップの特異性は,人的資産だけでなく,情報資
産,組織資産といった他のインタンジブルズを含めて,それらが顧客満
15)Guest(1997)は,HRMという一種の中央集権的思想の下では,従業員は利
益を追求するという意識を株主と共有するという考え方が存在するとした上
で,それを否定し,人的資産とその管理が生み出すものを,経済的・財務的
なものに的を絞るという意味でperformance(業績)と呼ぶよりも,多様なス
テークホルダーに関する多様な尺度を用いるという意味でoutcome(成果)と
呼ぶ方が適切であるとする。
60
(6
0)
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足や財務的成果へどのように貢献するのかを複合的にモデル化している
点にある。加えて,上記のような人的資産を含めた多様な組織要素間,
ならびに財務業績との間の仮説的因果関係の明示と,その組織構成員へ
の伝達とを明確に意図していることも特徴点としてあげられる。人的資
産が人にかかわるインタンジブルズであり,その獲得や開発,使用には
人の意思や動機づけがきわめて大きな影響を与えることから,この明示
と伝達というプロセスは人的資産のマネジメント上大きな意義を持つと
考えられる。
Æ
まとめ
本稿では,人的資源会計ならびに戦略的HRM・BSCモデルの諸研究
の知見から,インタンジブルズとしての人的資産の測定について,特に
戦略的マネジメントに向けて考察を行った。
人的資産は,企業価値創造に不可欠な要素であるインタンジブルズと
位置づけられ,その測定と情報提供は,内部管理と,コーポレート・レ
ピュテーションの向上を意図した社会的プレッシャーとを通じて,人的
資産の適正な獲得・開発や配分,有効活用,管理保全等に資すると期待
される。人的資産の内容については個人と人的組織の2つの見方があり,
どちらに焦点を当てるかが,犠牲価値に基づく測定を行うか効益価値に
基づく測定を行うかに関係する。人的資産のマネジメントでは両測定を
ともに行い,分析に用いる必要があるが,戦略的マネジメントへの役立
16)Wright and Haggerty(20
0
5, p. 7)。彼らは,戦略的HRMと経済的業績につい
ての議論や研究の拡張にはTime, Cause, Individualsの3つの変数に焦点を当
てることが必要であると指摘し,¸時間横断的調査デザイン(more longitudinal research),¹複雑な因果関係モデル(more complex causal models)
,º
複数レベル・アプローチ(consideration of multi-level phenomena)の3つを
あげている。これらはBSC/戦略マップのモデルにもほぼ共通する考え方で
はあるが,特に時間横断的調査デザインは,研究において実際には必ずしも
実現しているとはいえない。
(61)
61
インタンジブルズとしての人的資産の測定
ちという本研究での目的に照らせば,実施に当たってはいくつかの困難
が予見されるものの,効益価値による測定の重要性が高くなる。その際,
物的・財務的資産や他のインタンジブルズを含めた複合的で戦略的なマ
ネジメントを前提に,それに資する,人的資産以外の資産を組み合わせ
た測定・分析モデルや非財務的尺度を組み込んだ測定・分析モデルが求
められる。また,人的資産の戦略的マネジメントにおいては,戦略と整
合した人的資産の獲得・開発だけでなく,人的資産とそのマネジメント
からする戦略の創発も包含したフレームワークの構築が求められる。そ
して,人的資産においても,当然にその最終的貢献を財務的成果に結び
つけて管理することが求められ,そこでは人的資産への投資とパフォー
マンス・ドライバーとしての非財務的成果,そして財務的成果との因果
関係を,非財務的尺度も併用した継続的測定によって明らかにしていく
ことが不可欠であり,これは人的資産の貢献性の評価と戦略の創発,双
方にとって指摘できる。
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若杉明(1
9
7
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American Accounting Association(1
9
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8
5.
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0
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9
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(63)
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,“Human Resource Measurement-A
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2ページ)
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Lev, B.(2
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『DIAMONDハーバード・ビジネス・
pp.1
0
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3ページ)
レビュー』Vol.2
9 No.1
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4年1
1月,2
4―3
Likert, R.(1
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不二訳『組織の行動科学―ヒューマン・オーガニゼーションの管理と価値』ダイヤモンド
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Parker, L.D., K.R. Ferris and D.T. Otley(1
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Hall.(上埜進,越野啓一,神谷健司訳『行動会計学の基礎理論―人間的要因と会計―』同
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Tichy, N.M., C.J. Fombrun and M.A. Devanna(1
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, Why the Bottom Line Isn’
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0
4年)
(65)
65
インタンジブルズとしての人的資産の測定
Ulrich, D. and N. Smallwood(2
0
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4)
,“Capitalizing on Capabilities,”Harvard Business Review,
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『DIAMONDハーバード・ビジ
Vol. 8
2, No. 6, pp. 1
1
9―1
5ページ)
ネス・レビュー』Vol.2
9 No.1
1,2
0
0
4年1
1月,3
4―4
Ulrich, D. and W. Brockbank(2
0
0
5)
, The HR Value Proposition, Harvard Business School
Press.(伊藤武志訳『人事が生み出す会社の価値』日経BP社,2
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Walker, J.W.(1
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Wright, P.M. and J.J. Haggerty(2
0
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5)
,“Missing Variables in Theories of Strategic Human
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3, pp.1―1
7.
0
5―0
Youndt, M.A., S.A. Snell, J.W. Dean, Jr. and D.P. Lepak(1
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9
6)
,“Human Resource Management, Manufacturing Strategy, and Firm Performance,”Academy of Management Journal,
6
6.
Vol.3
9, No.4, pp.8
3
6―8
※本稿は,科学研究費補助金(若手研究z課題研究番号2
2
73
0
3
51)による研究成果
の一部である。
(20
1
1年3月2
2日受理)
66
(6
6)
Summary
Summary
The Measurement of Human Assets as Intangibles: For
Strategic Management
Akihiko UCHIYAMA
In today’
s business, intangibles and the management of ones are
very important. Intangibles related to human being(human assets)
,
that is, knowledge, capability and high motivation of people are included in intangibles that are vital for company’
s economic/financial
performance and corporate value. The measurement of human assets
is indispensable for the management of human assets. It has been
studied in“human resource accounting(HRA)
”for a few decades.
Recent years, the relation of human assets and strategy is invested in
“strategic human resource management (SHRM)
” and “balanced
scorecard(BSC)
”researches. In this paper, we bring focus into human assets, and examine the measurement of human assets as intangibles for strategic management based on the studies of HRA,
SHRM and BSC.
106
(10
6)
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