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Web技術を活用した自己評価システムの開発

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Web技術を活用した自己評価システムの開発
67
人間情報学研究,第12巻
− 原 著 −
2007年,67∼80頁
Web技術を活用した自己評価システムの開発
杉浦茂樹
Development of Web-based Self Evaluation System
Shigeki SUGIURA
When the teachers evaluate the result thing of the practical classes, they might do
self-evaluation or mutual-evaluation.
There are many problems in past method of self-evaluation and mutualevaluation using papers and pens.
In this paper, I propose a computerized self-evaluation and mutual-evaluation
system.
Keywords: Groupware, Educational support, Web-based system, XML
*
東北学院大学教養学部助教授
Journal of Human Informatics Vol.12
March,2007
68
杉浦茂樹
1.はじめに
→生徒への評価に時間がかかる。
1.1 研究の背景
・実施結果の整理が大変である。
近年、知識詰込み型教育への反省から、授業
における実習の比重が高くなっている。例えば、
→これまでの評価を参照するのが容易ではな
く、そのため有効に活用できない。
高等学校の普通教科「情報」では、教学習導要
<生徒側>
領により、総授業時間中3分の1以上(「情報A」
・評価用紙に記入する労力がかかり、評価用紙
では2分の1以上)を実習にあてることと定めら
れている[1]。
実習の成績評価は、従来のペーパーテストに
よる評価では困難な場合が多く、実習の成果で
ある作品や発表を用いて評価する場合が多い。
このような成果物による評価では、従来の教員
による評価だけでは不十分で、生徒自身が自分
の取り扱いが煩雑になる。
→自分の分、相手に渡す分、教員に渡すの分を
書かなければならない。
・返却された評価結果の管理が面倒であり、紛
失の可能性がある。
→後々見直すことができず、次回の学習に生か
せない。
自身の作品や発表を評価する「自己評価」、お
よび、生徒同士が互いに作品や発表を評価する
「相互評価」が重要であると言われている[2]。
1.2 研究の目的
本研究の究極的な目的は、図1に示す「自己
また、「自己評価」および「相互評価」は成
評価」と「相互評価」の作業の流れ全体を支援
績評価という効果と同時に、生徒への指導とい
する「自己・相互評価システム」の設計・実装
う効果も持っている。例えば、「自己評価」で
と評価であるが、システムの構築の第一歩とし
は、自己の成果物を改めて客観的に見ることに
て、「自己評価」のみに焦点を絞った自己評価
より、作成時には認識していなかった成果物の
システムの提案を行う。
長所・短所を明確に認識することができ、「相
自己評価に焦点を絞ったのは、以下の2つの
互評価」では、他の生徒の成果物を見ることに
理由からである。
より自己の成果物にはなかった長所・短所を参
理由1:「自己評価」と「相互評価」の実施の
考にすることができる、などの効果が期待され
流れはほぼ共通しており、片方の機能
る[3]。
を作成すれば、他方にその機能を流用
従来は、「自己評価」および「相互評価」は
紙で行うのが主流であった。しかし、紙などを
可能であると思われるため。
理由2:「自己評価」と比較して「相互評価」
使った方法では教員・生徒の双方に対して以下
では、実習のグループを識別する必要
のような問題があった[4]。
があるが、実習によっては毎週異なっ
<教員側>
たグループを作成するなど、グループ
・使用する紙の量が多い。
の管理を一般化するのは非常に困難で
→管理が難しく、配布に時間がかかる。
あることが予想されるため。
・結果の集計や平均・標準偏差などの計算に手
間がかかる。
人間情報学研究 第12巻
本稿では、まず、自己・相互評価システムの
全体像を述べた後、次に、自己評価のみに焦点
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69
Web技術を活用した自己評価システムの開発
を絞った自己評価システムの設計と実装につい
のために、実習を行っているグループに所属
て述べる。自己評価システムでは、XMLなど
するメンバーを何らかの方法で識別する必要
のWeb関連技術を活用することにより、効率的
がある。
なシステム開発に成功している。
,シート記入結果閲覧・-コメント記入
教員が、生徒が記入した自己評価または相
互評価のシート記入結果を閲覧して、必要に
応じてコメントを記入する。
.評価結果閲覧
生徒が、自分に対する評価結果および教員
からのコメントを閲覧する。
2.2 システムの構成
図1: 自己・相互評価システムが支援する作業の流れ
2. 自己・相互評価システム
本システムは、サーバPCとクライアントPC
により構成される(図2)
。
本章では、我々の研究の最終的な目標である、
自己評価と相互評価の両方を電子化して支援す
る「自己・相互評価システム」の概略について
述べる。
2.1 作業の流れ
自己・相互評価システムでは、図1に示され
るように、以下の6つの作業の支援を行う。
)自己・相互評価シート作成
図2: 本システムの構成
教員が、自己評価または相互評価に使用す
るシートを作成する。
*評価実施データ入力
教員が、自己評価または相互評価の実施に
必要な情報(Aで作成したシート、実施対象
クラス、実施日時)を登録する。
+評価実施
Bで登録された情報に基づき、適切な自己
評価または相互評価のシートを生徒に表示
し、記入させ、その結果を保存する。
なお、「相互評価」の場合は、シート記入
Journal of Human Informatics Vol.12
サーバPCには、Linux上にWebサーバ
(apache)、PHP処理系、データベース管理シス
テム(PostgreSQL)がインストールされている
必要がある。
一方、クライアントPCは標準的なWebブラ
ウザ(Internet ExplorerまたはNetscape Navigator
など)が利用できればOSは特に問わない。
システムの全機能は、クライアントPC上の
Webブラウザを通して利用される。Web閲覧の
一般的な操作である、ボタンのクリックやキー
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ボードからの文字の入力が行えれば、だれでも
本システムを活用することができる。
これら教員と生徒の手間の軽減により、自己
評価および相互評価で費やされていた時間を減
少させることが可能となり、授業準備や予習・
2.3 システム導入により期待される効果
本システムの導入により期待される効果を以
復習などにより多くの時間を割くことが可能と
なる。また、生徒は、評価実施後速やかに結果
下に挙げる。
を参照することや、容易に過去に遡って結果を
・教員の手間の軽減
参照することが可能となるため、評価結果を学
評価用紙の配布・回収、返却が不要となる。
また、数値的な項目は自動集計が可能となる
習に有効に活用できるようになることが期待さ
れる。
ため、結果の集計の手間が大幅に減少する。
・生徒の手間の軽減
3. 自己評価システム
従来の紙への記入と異なり複数枚の記入が
本章では、「自己・相互評価システム」構築
不要になり、手間が軽減される。また、返却
に向けた第一歩として、自己評価に焦点を絞り
された評価用紙の管理が不要となり、活用時
設計・実装した自己評価システムについて述べ
に過去の評価用紙を探す手間もなくなる。
る。
・即応性の向上
従来は、教員が用紙の返却を行うまで、生
徒は結果を参照することができなかったが、
3.1 自己評価システムの構成
自己評価システムは、以下の8つのモジュー
本システムを用いることで、教員が集計した
ルと4つのデータベースにより構成される(図
り、コメントを記入したりした時点ですぐに
3)
。なお、以下の説明で特に断りがない場合に
生徒は結果を参照することができる。
は、利用者とは教員と生徒の両方を示している。
<モジュール>
・インタフェース:利用者と本システム間のイ
ンタラクション(表示や入力)の仲介を行う。
・認証モジュール:利用者DBを用いて、利用
者の認証を行う。
・利用者情報管理モジュール:教員が、利用者
データ(ID、氏名、パスワードなど)の登
録・修正・削除を行う。
・シートエディタ:教員が、自己評価シートの
作成を行う。
・シート管理モジュール:シートエディタで作
成された自己評価シートのシートDBへの保
図3: 自己評価システムの構成
人間情報学研究 第12巻
存、および、登録されているシートの検索・
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Web技術を活用した自己評価システムの開発
閲覧を行う。
・評価実施情報管理モジュール:教員が、自己
評価の実施に必要な情報(使用するシート、
実施対象クラス、実施日時)の実施情報DB
への登録・変更・削除を行う。
い、ボタンのクリックやテキストの入力などの
操作を行うだけで、簡単に自己評価に用いるシ
ートの編集を行うことが可能となる。
また、作成されたシートは、シートデータ管
理モジュールによりシートDBに登録され、評
・評価実施モジュール:生徒に、
(実施情報DB
価実施に必要な情報(実施対象クラス、実施日
とシートDBにもとづき)適切な自己評価シ
時)を付加するだけで、CGIなど評価実施のた
ートを表示し、記入させ、その結果を評価結
めのプログラムを一切作成することなく、生徒
果DBに保存する。
に対して自己評価を実施することができる。
・評価結果閲覧モジュール:生徒が記入した自
己評価の結果を教員が閲覧し、必要に応じて
シートエディタの構成を(図4)に示す。
コメントを記入する。
<データベース>
・利用者DB:利用者データ(ID、氏名、パス
ワードなど)を格納する。
・シートDB:シートエディタで作成された自
己評価シート(XMLデータ)を格納する。
・実施情報DB:自己評価の実施に必要な情報
(使用するシート、実施対象クラス、実施日
時)を格納する。
・評価結果DB:生徒が入力した自己評価の結
果と教員が入力したコメントを格納する。
本章の次節以降では、本システムで特徴的な
モジュールである、シートエディタ、シート管
理モジュール、評価実施モジュールについて述
べる。また、各データベースの概要についても
説明する。
3.2 シートエディタ
シートエディタとは、生徒に記入させる自己
評シートを教員が作成する機能を提供する、本
システムの中核となるモジュールである。
教員は、シートエディタを利用することによ
り、Webブラウザに表示されたメッセージに従
Journal of Human Informatics Vol.12
図4: シートエディタの構成
本システムでは、近年急速に普及しつつある
XML(Extensible Markup Language)と呼ばれる
Web関連技術を効果的に取り入れることで、効
率的にシステムを開発することに成功した。
XMLとは、データ構造を、「タグ」と呼ばれ
る特定の文字列で記述していく、マークアップ
言語の一つであり、必要に応じて独自のタグを
定義できることが特徴である。一般的に、
XMLを利用する場合、データ構造はXMLを用
いて表現し、表示はXSLTなどのスタイルシー
トを用いて表現する。このことにより、ただ1つ
のXMLデータを状況に応じて多種多様な用途
に活用すること(ワンソース・マルチユース)
が可能となる。
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杉浦茂樹
本システムでも、自己評価シートの構造を
XMLで表現して、自己評価実施時の記入フォ
を行い、さらに、そのデータ・モデルに基づい
てXMLタグ(図6)の定義を行った。
ーム用HTMLやシートエディタのシート編集用
HTMLの表示など自己評価シートに関係するす
べての表示、さらには、評価結果DBのテーブ
ル(表)作成用SQL文生成なども、自己評価シ
ートXMLに適切なスタイルシート(XSLT)を
組み合わせることで行っている。
なお、評価結果の格納もXMLで行うことも
可能であるが、XMLは合計・平均・標準偏差
などの統計値を大量に計算する用途には向いて
いない。そこで、本システムでは、シートは
XMLとして扱い、評価結果はリレーショナル
データベースのテーブル(表)に格納して扱う
というハイブリッドな方式を採用することによ
り、システム構築の労力の減少と、評価結果集
計の実行速度の向上を目指す。
ここ数年でXMLがデータ構造の記述法の標
準となりつつあるため、XML支援ソフトウェ
アが急速に整備されつつある。本システムでは、
スタイルシートの適用にはこのようなXML支
援ソフトウェアを活用しているが、XMLの作
成・修正ではあえて単なるテキストデータとみ
なして、自力で文字列の書換えを行っている。
これは、現時点では、まだ、XML支援ソフト
ウェアが発展途上であるため、バージョンの違
いによる非互換性が大きいためである。将来、
XML支援ソフトウェアのバージョンによる機
能や利用法の差異が小さくなった場合には、
XMLの生成・修正にもXML支援ソフトウェア
を用いる予定である。
本研究では、まず、世間一般で用いられてい
る自己評価用紙の構造を分析することにより、
自己評価シートのデータ・モデルの定義(図5)
人間情報学研究 第12巻
図5: 自己評価シートのデータ・モデル
<?xml version="1.0" encoding="utf-8" ?>
<?xml-stylesheet type="text/xsl" href="edit.xsl" ?>
<!DOCTYPE selfevaluetionsheet[
<!ELEMENT selfevaluetionsheet(title,notes,items)>
<!ELEMENT title(#PCDATA)>
<!ELEMENT notes(#PCDATA)>
<!ELEMENT items(item+)>
<!ELEMENT item(question,answer)>
<!ELEMENT question(#PCDATA)>
<!ATTLIST answer kind ( empty | text | radio | check ) #REQUIRED>
<!ELEMENT answer(choice+)>
<!ELEMENT choice(#PCDATA)>
]>
<selfevaluetionsheet>
<title>プレゼンテーションをやってみよう</title>
<notes>発表を聞き終わってから記入してください。</notes>
<items>
<item>
<question>大きな声で話せましたか。</question>
<answer kind="radio">
<choice>非常に声が小さかった</choice>
<choice>どちらかといえば小さな声だった</choice>
</answer>
</item>
</items>
<selfevaluetionsheet>
図6: 自己評価シートXMLの例
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Web技術を活用した自己評価システムの開発
示す。
「選択肢」は選択肢のテキストデータである。
シートの編集では、まず、自己評価シート
XMLとシートエディタ画面表示用スタイルシ
ート(XSLT)をサーバ上のXSLTプロセッサに
より処理し、シート編集用HTMLを生成し、ク
ライアントPCのWebブラウザに送り、画面に
表示する。教員は、画面の指示に従って、ボタ
ンのクリックやテキストの入力するなどの操作
を行う。教員の操作により入力されたデータは、
PHPで書かれたXMLデータ変更プログラムに送
図7: 回答の方式とその例
られ、自己評価シートXMLを書き換える。こ
の書き換えられた自己評価シートXMLを利用
本システムで扱う自己評価シートは、「タイ
して、再び同じ作業を繰返す。
トル」、「諸注意」、「設問群」の3つの要素から
教員は、これら一連の流れにより自己評価シ
構成される。このうち、「タイトル」と「諸注
ートを対話的に編集することが可能となり、特
意」は、それぞれ、タイトルと記入上の諸注意
別な知識がなくても自己評価シートを作成する
のテキストデータである。一方、「設問群」は
ことができる。
複数個(1個以上)の「設問」要素から構成さ
れる。
各「設問」は、
「質問文」と「回答」の2つの
要素から構成される。このうち、「質問文」は
質問文のテキストデータである。一方、
「回答」
シートエディタ画面用スタイルシート
(XSLT)の一部を図8に、それで実際に生成さ
れたシートエディタ画面を図9に示す。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<xsl:stylesheet
version="1.0"
xmlns:xsl="http://www.w3.org/1999/XSL/Transform">
は、「方式」という1つの属性と複数個(1個以
上)の「選択肢」要素から構成される。
「方式」は、回答の方式に対応し、以下の4
つのいずれかの値をとる。
[方式0] empty(回答方式未選択)
[方式1] text (記述式)
[方式2] radio(単一選択式)
[方式3] check(複数選択式)
なお、[方式0]のempty(回答方式未選択)は
作成途中のみ存在し、完成した自己評価シート
には存在しない。[方式1]∼[方式3]の例を図7に
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<xsl:template match="/">
<xsl:apply-templates />
</xsl:template>
<xsl:template match="selfevaluetionsheet">
<html>
<head>
<title>自己評価シート 編集</title>
</head>
<body>
<h1 ALIGN="center">自己評価シート 編集</h1>
<p>
<fieldset>
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杉浦茂樹
<form action="edit.php" method="POST">
<SPAN CLASS="info">※タイトルとシート記入の諸注意を入力してください。
</SPAN>
<BR />
<xsl:apply-templates select="title" />
<xsl:apply-templates select="notes" />
<input type="submit" value="タイトルと諸注意は決定" />
</form>
</fieldset>
</p>
<hr/>
<xsl:apply-templates select="items" />
<form action="edit.php" method="POST">
<input type="submit" name="append_item" value="質問を追加" />
<BR />
</form>
<hr />
<form action="edit.php" method="POST">
<input type="submit" name="preview" value="プレビューする" />
<BR />
<input type="submit" name="save" value="途中で保存" />
<BR />
<input type="submit" name="save_and_quit" value="完成したので登録" />
</form>
</body>
</html>
</xsl:template>
<xsl:template match="title">
<B>タイトル:</B>
<BR />
<input type="text" name="title" size="60" value="{.}" />
<BR />
</xsl:template>
図9: シートエディタ画面の例(一部)
シートエディタでは、PCの操作にあまり慣
れていない教員のことを考慮して、質問項目を
削除するときに本当に削除してよいか確認をす
る削除確認機能と、誤操作を1回だけ取り消す
ことができるUNDO機能を実装している。
3.3 シート管理モジュール
シート管理モジュールは、シートエディタで
作成された自己評価シートのシートDBへの保
<xsl:template match="notes">
<B>シート記入上の諸注意:</B>
<BR />
<textarea name="notes" size="60" rows="4" cols="40">
<xsl:value-of select="." /></textarea>
<BR />
</xsl:template>
存、および、登録されているシートの検索・閲
<xsl:template match="items">
<xsl:apply-templates select="item" />
</xsl:template>
…
であるラージオブジェクトとしてデータベース
覧を行う。
本システムでは、自己評価シートXMLを単
なるバイナリデータとみなし、PostgreSQL拡張
に保存している。
教員が自己評価シートを容易に検索できるよ
図8: シートエディタ画面用スタイルシート
(XSLT)の例(一部)
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うにするため、自己評価シートXMLは以下の
9種類の付加データと組にしてデータベースに
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る。
D Aで作成された自己評価シートXMLおよび
記録される。
BとCで得られた付加情報がシートDBに登
(1) シートID(INTEGER型)
録される。
(2) シート版数(INTEGER型、0∼)
(3) 作成者(INTEGER型、教員の利用者ID)
なお、本システムでは、自己評価シートの削
(4) 作成日時(TIMESTAMP型)
除および修正は許可しない。これは、評価シー
(5) 最終更新日時(TIMESTAMP型)
トの削除や修正により評価結果との間に矛盾が
(6) 対象科目名(TEXT型)
発生すると、評価結果が利用不能になる恐れが
(7) 対象学年(INTEGER型)
あるからである。もちろん、プログラム的に矛
(8) 説明(TEXT型)
盾の発生を検査することで予防することも可能
(9) 利用回数(INTEGER型、0∼)
だが、バグの発生など想定外の事態も考慮して、
なお、異なる種類の自己評価シートは異なる
シートIDを持つが、後述する更新機能を用いる
原始的であるが確実である評価シートの削除・
修正を禁止する方針を採用した。
ことにより、同一のシートIDを持つ複数の自己
評価シートが存在することになる。このため、
自己評価シートの修正の代わりに、現在登録
評価実施や評価結果閲覧など、自己評価シート
されている自己評価シートを元に新しい自己評
の版の違いを区別する必要がある場合には、シ
価シートを作成し、登録する機能(自己評価シ
ートIDとシート版数の組を用いる必要がある。
ート更新機能)を提供する。
付加情報のうち、(6) 対象科目名、(7) 対象学
年、(8) 説明の3つの項目は教員がデータを入力
自己評価シート更新の具体的な手順は以下の
する必要があるが、その他の項目はシステムに
通りである。
より自動的に適切な値が算出される。
A 一覧表示または検索により、修正の元とな
る自己評価シート(以下、「元シート」と呼
自己評価シートを新規作成して登録する具体
的な手順は以下の通りである。
A シートエディタで自己評価シートXMLを編
集し、登録ボタンをクリックする。
ぶ)を指定して、更新ボタンをクリックする。
B 元シートの自己評価シートXMLをシートエ
ディタで編集し、登録ボタンをクリックする。
C シート管理モジュールの登録画面に移り、
B シート管理モジュールの登録画面に移り、
対象科目名・対象学年・説明の3項目を必要
対象科目名・対象学年・説明の3項目を入力
があれば修正する(元シートの付加データの
して、登録ボタンをクリックする。
対応する値が初期値となる)
。
C シートIDとして一意なID、シート版数とし
D 作成者としてログイン時に入力した教員ID、
て0、作成者としてログイン時に入力した教
最終更新日時として現在の日時、利用回数と
員ID、作成日時・最終更新日時として現在の
して0が自動的に取得される。
日時、利用回数として0が自動的に取得され
シートIDは元シートと同一の値、シート版数
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は元シートの値に1を加えた値、作成日時は
元シートと同一の値とする。
E Bで作成された自己評価シートXMLおよび
CとDで得られた付加情報がシートDBに登
録される。
3.4 評価実施モジュール
シートエディタで作成された自己評価XML
を用いて、生徒の画面に自己評価記入用HTML
フォームを表示して、生徒が記入したデータを
評価結果DBに保存するのが評価実施モジュー
ルの役割である。3.2節でも述べたが、集計の
図11: 記入用HTMLフォームの例
効率化のために、本システムでは記入データは
リレーショナルデータベースのテーブルに保存
評価結果DBのテーブル作成用SQLも、自己
する。
評価実施モジュールは、以下の3つの機能を
評価シートXMLから生成される。自己評価シ
ートXMLにテーブル生成用スタイルシート
提供する。
・評価結果DBのテーブル作成用SQLの生成と
(XSLT)を適用することで、図10のようなSQL
文が生成される。
実行
・自己評価記入用HTMLフォームの生成と表示
・記入データの評価結果DBへの保存
本システムでは、回答の方式として、A記述
式、B単一選択式、C複数選択式の3種類があ
る。
-- 回答テーブル
CREATE TABLE answer_self_000007 (
student_id INTEGER UNIQUE NOT NULL,
記入用HTMLフォームでは、A記述式の記入
q1 INTEGER NOT NULL,
q2 INTEGER NOT NULL,
q3 INTEGER NOT NULL,
q4 INTEGER NOT NULL,
q5 INTEGER NOT NULL,
q6 TEXT NOT NULL,
q7 INTEGER NOT NULL,
q8 TEXT NOT NULL,
q9 TEXT NOT NULL,
q10 TEXT NOT NULL,
-- 単一選択式
-- 単一選択式
-- 単一選択式
-- 単一選択式
-- 複数選択式
-- 記述式
-- 複数選択式
-- 記述式
-- 記述式
-- 記述式
post_date TIMESTAMP NOT NULL DEFAULT CURRENT_TIMESTAMP,
PRIMARY KEY ( student_id )
);
項目はTEXTAREA、B単一選択式の記入項目
はRADIOボタン、C複数選択式の記入項目は
CHECKBOXとして実現されている(図11)
。
なお、CHECKBOXはひとつもチェックが付
けられなかった場合に、その記入項目が存在し
なかったとデータ受信プログラム側が誤判定す
るのを防ぐため、常にチェックが付くダミー
(HIDDEN属性)を0番目の選択肢として生成し
ている。
図10: テーブル生成用SQL文の例
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Web技術を活用した自己評価システムの開発
A記述式の記入データは、PostgreSQLの
TEXT型(不定長テキストデータ)として評価
結果DBへ保存される。
ワードなど)を格納する。
・シートDB:シートエディタで作成された自
己評価シート(XMLデータ)を格納する。
B単一選択式とC複数選択式の記入データ
・実施情報DB:自己評価の実施に必要な情報
は、質問項目ごとにビット列としてまとめて、
(使用するシート、実施対象クラス、実施日
INTEGER型(整数型データ)として評価結果
時)を格納する。
DBへ保存される。具体的には、各質問項目の
・評価結果DB:生徒が入力した自己評価の結
選択肢i番目(iは1から数え始める)の値を2iと
果と教員が入力したコメントを格納する。
して、選択されている選択肢に対応する値の論
理和を計算して格納する(このとき、
CHECKBOXのダミー選択肢は除外して論理和
利用者DBは、教員テーブルと生徒テーブル
の2つのテーブルにより構成される。
を計算する)。よほど特殊なプラットフォーム
教員テーブルと生徒テーブルは、A利用者ID
以外では、INTEGER型は32ビット以上の値を
(INTEGER型)、B氏名(TEXT型)、Cパスワ
保持できるので、本システムでは、1質問項目
ード(TEXT型、SHA1で暗号化して格納)の3
での選択肢の上限を30個とする(0ビット目と
つの項目を共通にもつ。
31ビット目は、将来の拡張のための予約として
生徒テーブルは、上記の3項目に加えて、D
データ保存時には使用しない)。なお、30個を
学年(INTEGER型)とEクラス番号
超える選択肢が必要な場合には、複数の質問項
目を利用することにより対応する。
(INTEGER型)の2つの項目をもつ。
なお、利用者IDは,教員と生徒の全体に対し
てユニークとなるように値を生成する。
上記のようなデータ形式を定義することによ
り、各設問の回答とリレーショナルデータベー
スのテーブルのカラムとが、1対1に対応するこ
とになり、記入データのデータベースへの保存
処理プログラムの作成が容易になった。
シートDBは、ただ1つのシートテーブルによ
り構成される。
シートテーブルは、9つの検索用の付加情報
(AシートID(INTEGER型)、Bシート版数
(INTEGER型、0∼)、C作成者(INTEGER型、
試作したプログラムは、任意の自己評価記入
教員の利用者ID)、D作成日時(TIMESTAMP
用HTMLフォームの記入データの処理が可能で
型)
、E最終更新日時(TIMESTAMP型)
、F対
ある。
象科目名(TEXT型)、G対象学年(INTEGER
型 )、 H 説 明 ( T E X T 型 )、 I 利 用 回 数
3.5 各データベースの概要
本システムでは、以下の4つのデータベース
を利用している。以下,各データベースの概要
(INTEGER型、0∼)
)とXMLファイルの格納場
所を示すJXMLファイルOID(OID型)の合計
10個の項目をもつ。
について述べる。
・利用者DB:利用者データ(ID、氏名、パス
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実施情報DBは、ただ1つの実施情報テーブル
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により構成される。
4. まとめ
実施情報テーブルは、A実施ID(INTEGER
本稿では、授業における自己評価および相互
型)、使用する自己評価シートを識別するため
評価を電子化して支援する自己・相互評価の構
のBシートID(INTEGER型)とCシート版数
築の第一歩として、自己評価のみに機能を絞っ
(INTEGER型)、実施対象の生徒を指定するた
た自己評価システムの設計と実装について述べ
めのD対象学年(INTEGER型)とE対象クラ
た。
ス番号(INTEGER型)
、実施期間を指定するた
近年急速に普及しつつあるXMLというWeb
めのF実施開始日時(TIMESTAMP型)とG実
関連技術を効果的に取り入れることにより、
施終了日時(TIMESTAMP型)の7つの項目か
PCの操作に不慣れな教員でも自由自在に自己
らなる。
評価シートの作成が行えるシートエディタ、お
よび、シートエディタで作成された任意の自己
評価結果DBは、複数の回答用テーブルとコ
評価シートから評価記入用HTMLフォームを生
メントテーブルにより構成される。回答用テー
徒に表示し、そのフォームに記入されたデータ
ブルとコメントテーブルの名称は、対応する実
を評価結果DBに保存する評価実施モジュール
施情報テーブルの実施IDから生成する。
を、効率的に実装することができた。
各回答用テーブルは、A回答者ID
実装されたシートエディタを学生に利用して
(INTEGER型、生徒の利用者ID)、B回答日時
もらったところ、特に操作の説明を受けなくて
(TIMESTAMP型)の2つの項目に加えて、実施
も自己評価シートを作成できることが確認で
評価シートの各設問の回答に対応する項目をも
き、教員の評価シート作成による負担の軽減と
つ。
いう目標は本システムで達成できると思われ
各コメントテーブルは、A回答者ID
(INTEGER型、生徒の利用者ID)、Bコメント
(TEXT型)とB最終記入日時(TIMESTAMP型)
の3つの項目をもつ。
る。
今後は、他のモジュールの実装を進め、まず
は実際に授業で自己評価に用いることで、本シ
ステムの評価を行う予定である。
3.6 自己評価システムの実装状況
シートエディタはほぼ実装が終了しており、
任意の自己評価シートの作成が可能である。評
価実施モジュールもほぼすべての機能の試作を
終えて、単体テストは完了している。その他の
モジュールおよびデータベースに関しては概要
設計を終えて、詳細設計および実装の途中であ
る。
人間情報学研究 第12巻
2007年3月
Web技術を活用した自己評価システムの開発
79
参考文献
[1] 文部科学省: 高等学校学習指導要領 平成11
年3月, 国立印刷局 (2004年1月).
[2] 石田恒好: 評価を上手に生かす先生, 図書文
化社 (2002年9月).
[3] 余田義彦: 生きる力を育てるデジタルポート
フォリオ学習と評価, 高陵社書店 (2001年).
[4] 吉田宏史, 高橋岳之, 竹田尚彦:自由記述を
重視した成果物相互評価システム, 情報教育
シンポジウムSSS2004論文集, pp159-162, 情
報処理学会 (2004年8月).
[5] webアンケート作成支援script,
http://www.wht.mmtr.or.jp/~toyama/jouhou/
〔2007年3月2日受付〕
Journal of Human Informatics Vol.12
March,2007
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