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多様化する会計ビジネスへの取組み

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多様化する会計ビジネスへの取組み
多様化する会計ビジネスへの取組み
Approach to Diversified Accounting Business
● 大槻敬久 ● 中古英治 ● 平石純也
あらまし
本稿では,会計ビジネスへの取組みを紹介する。まず,会計ソリューションが進んで
きた歴史を振り返りながら,現在の主要な論点である業容が大きく拡大している経理業
務
(業種別会計ソリューション)
,より深い経営分析ニーズ
(経営会計ソリューション)
,
グローバル化
(SAP会計ソリューション)に対する取組みを紹介する。つぎに大規模会計
システムが必要とされる背景と,
「大規模会計ソリューション」の進むべき方向性につい
て論ずる。大規模会計システム構築において潜在している問題を解決する手段としては,
業種別会計ソリューションが有効であることを提起し,その必要性と方向性を明らかに
する。さらに経営を分析する取組みとして,経営会計ソリューションを紹介する。経営
管理に必要な事業軸の整理と経営に必要な現場源泉情報の収集ルールの見直しをすると
同時に,経営層や現場層のそれぞれの視線をつなぐ仕組みを,会計業務システム構築と
併せて実現する。最後にグローバル化,国際財務報告基準への対応をSAPをベースに進
めており,その取組みを紹介する。とくに富士通版の会計テンプレートを作成し短納期,
低価格を実現する。
Abstract
This paper introduces Fsol s approach to handling changes in the accounting business.
First, looking back the accounting solutions history, it introduces Fsol s efforts for
handling the current key issues, such as its accounting solution by industry, management
accounting solution, and SAP accounting solution. Next, it discusses the need for large
accounting systems and the way that large-scale accounting solutions should progress.
To solve the potential problems in building large-scale accounting systems, this paper
raises the effectiveness of using industry-specific accounting solutions, and clarifies the
needs for them and the way they should progress. This paper also introduces Fsol s
management accounting solutions which review the rules on gathering information about
onsite accounting procedures that are essential for business administration as well as
for arranging and managing business. At the same time, they construct mechanisms
that link the stances of each management level and onsite level and accounting service
systems. Finally, it introduces Fsol s efforts for responding to globalization and meeting
international financial reporting standards based on SAP for realizing shorter lead time
and lower cost by introducing Fsol s accounting template.
188
FUJITSU. 62, 2, p. 188-192(03, 2011)
多様化する会計ビジネスへの取組み
ま え が き
富 士 通 の 会 計 ソ リ ュ ー シ ョ ン は,1975年 か ら
中堅企業向けに提供した富士通初の財務会計パッ
ケージCAPSELの発表が黎 明期と言える。当時の
の個別会計ソリューションと今後の取組みを紹介
する。
業種別会計ソリューション
本章では,現在提供している会計ソリューショ
中堅市場は経理業務のシステム化ニーズが高く,
ンを紹介するとともに,会計業務の高度化と,業
業務に特化した製品はお客様の支持を集めた。そ
種による多様化のため,業種別会計ソリューショ
の後,パッケージはレベルアップを重ね,これら
ンの必要性と今後の進むべき方向性を述べる。
は累積3万ユーザのサイトを持つ成功商品となっ
● 業種別会計ソリューションの必要性
た。また,お客様へより製品をご理解いただくた
会計システムにおけるシステムの目標は,「決算
めにアプリケーションランドを設立した。これに
短縮化」「グループ会計業務標準化」「業績指標の
より拡販強化や,導入手法標準化などにより人材
見える化」
「TCOコスト削減」
「CF経営の実現」
「経
育成や生産性向上が図られ,多くの案件に効率良
営予測マネジメントの実現」などが掲げられるこ
く対応でき,高利益ビジネスモデルの確立に大き
とが多い。こうした業務改善目標に対してシステ
く貢献した。
ム化の方法論は,会計システムの場合,パッケー
そうした状況が大きく変化したのは1990年代後
ジ適用が一般的である。しかし,目的達成を実現
半の会計ビッグバンである。会計制度の改訂だけ
する手段として,パッケージ導入だけでは解決で
にとどまらず,大手市場のお客様中心に,システ
きないのが現実である。目的達成において重要な
ムの位置付けが財務数字の集計システムから経営
ことは,「業務ルールの変更」「業務プロセス改革」
に直結した基幹システムへ大きく変化していった。
そのタイミングで導入されたのが,国産初のERP
「曖 昧 な配賦処理の見直し」「現場責任入力実現に
よるスピードアップ」「定型的作業のシステム化」
(Enterprise Resource Planning)パッケージであ
「財管一致の実現」「予測精度の向上」など様々な
る GLOVIA である。これを機に中堅市場から大
業務改善であり,パッケージ導入のみで解決でき
手市場へ,ソリューションも個別業務からより広
ないことが多くある。その検討の結果,あるべき
い範囲を対象にするようになった。それに伴いビ
姿を実現するためには,パッケージ導入+アドオ
ジネス規模も1990年代の数億円規模から2002年に
ン開発が一般的な手段となり,大規模会計システ
は,23億円と飛躍的な伸びを示すこととなった。
ムを構築することが多い。パッケージの標準機能
変化の流れは今日に至るまで続いており,2008年
だけでは業務要件を実現できない理由として,経
の内部統制対応,これから導入されていく国際財
理部門の業務は当然「会計パッケージ機能」より
務報告基準(以下,IFRS)など企業経営における
広く,とくに業種別の会計業務が存在しているこ
会計システムは年々重要性を増している。また,
とが挙げられる。例えば,会計法規などでも個別
大手市場での意識変化は中堅市場へも広がってお
に規定されているような特色のある代表的業種と
り画一的な製品導入は過去のものとなった。
しては,建設業,リース業,独立行政法人などが
現在の会計ソリューションへの主要なニーズは
ある。建設業については工事原価を積み上げてい
「多様化する専門業務への対応」,「企業活動の実態
くための独特な仕組みがあり,リース業について
のより正確な分析」,「グローバル企業経営への基
はリース契約にかかわる貸し手側・借り手側双方
盤となる財務システム構築」の3点であると分析
においてリース資産に対する対応が必要であり,
している。そうした分析を踏まえ,富士通システ
独立行政法人については厳格な予算執行管理と収
ムソリューションズ(Fsol)では,「業種別会計ソ
支報告に対応することが必要である。
リューション」,
「経営会計ソリューション」
,
「SAP
こうした非常に特色のある分野については既に
会計ソリューション」の大きく三つの個別会計向
Fsol内でも優れたソリューションが確立している
けソリューションと,連結会計向けソリューショ
が,とくに法的な規制を受けていない業種につい
ンを併せて提供している。本稿では,これら三つ
ても会計業務上の特色があり,個別にシステム化
FUJITSU. 62, 2(03, 2011)
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多様化する会計ビジネスへの取組み
の要求が強くなる。その業種例として,
「情報メディ
であった。業種特有のシステムは部品単位ではな
ア会計ソリューション」と「FC(フランチャイズ)
く,全体業務としてとらえていかなければならな
会計ソリューション」をそれぞれ図-1,図-2に示す。
い。Fsolが着目しているのは部品単位の標準化で
情報メディア業では源泉税管理とそれに伴う支
はなく,業種特有の業種システムとしての業務フ
払業務について,FC会計ではフランチャイズ店舗
ローの共通化であり,業種別会計ソリューション
と本部間の会計情報連携を実装する部分について
と名付けるところである。
特色が現れている。
● 業種別会計ソリューションの方向性
こうしたパッケージ標準機能で対応されていな
前節では,業種別会計ソリューションの必要性
い業務については,システム化せずに手作業で業
について論じたが,現状,会計法規などで特別に
務を実施するか,アドオンによりシステム化を選
規制を受けていない業種については,積極的に業
択することになるが,業種に特色のある業務は往々
種別会計ソリューションを打ち出すことはどのベ
にして業務量が多く効率化が必要であり,アドオ
ンダでも行われていない。これは,基幹システム(販
ン開発を実施することになる。アドオン開発を標
売・生産など)では業種別の観点でのソリューショ
準化する取組みは従来から実施されてきたが,従
ン整備が一般的であるが,会計システムは業種共
来の標準化は各機能単位での部品としての標準化
通であるととらえられているためである。顧客サ
イドも業種特有の会計業務についてはあまり着目
がなく,実際にシステム化する段階で,初めて明
基幹システム
購買システム
販売システム
原価管理システム
財務会計
しかし,近年の大規模会計システム構築につい
ては,ますます投資に対する効果がシビアに求め
情報メディア会計領域
外部インタフェース
管理会計
らかになることが多い。
られてきており,従来のように業種別に必要な部
債権管理
分を個別開発することは費用対効果上認められな
債務管理
くなりつつある。各業種のお客様に魅力的な提案
外貨管理 海外送金
回収管理
支払管理
源泉管理
と感じていただくためにも,業種別会計テンプレー
トの開発が必須と考えており,Fsolではその先駆
国内銀行
海外銀行
国内取引先
海外取引先
国税局 個人取引先
社外関係先
けとして,情報メディア会計・FC会計・クレジッ
ト会計などを整備中である。こうした業種別会計
ソリューションを整備していくことで,従来の
図-1 情報メディア会計ソリューション
Fig.1-Information media accounting solution.
「パッケージ+アドオン開発」という構築スタイル
を脱却し,
「パッケージ+業種別会計テンプレート」
による低価格・短期導入が可能なシステムを提供
店舗業務
単体決算
会計共通
機能
本部業務
資金管理
自動決済会計領域
決済業務
債権業務
債務業務
外部インタフェース
金融機関
電力会社
クレジット・電子マネー
郵便局
公共機関
国税局・印刷業者
図-2 FC会計ソリューション
Fig.2-Franchise accounting solution.
190
していくことが重要と考えている。
連結決算
外部インタフェース
直営店コンビニ
店舗インタフェース
FC コンビニ
販売
システム
FC会計領域
経営会計ソリューション
物流
システム
経営会計ソリューションは,企業における様々
な活動(生産・販売など)から生まれる情報を蓄
積した上で,項目に含まれる金額を定量情報とし
。その情報を活用して,経営層・
て管理する(図-3)
管理部門・現場部門のそれぞれ立場で必要として
いる管理メッシュ(事業軸,組織軸や商品などの
原単位)で粗利,営業利益だけでなく,事業別バ
ランスシートや営業キャッシュフローなどを提供
するソリューションである。
FUJITSU. 62, 2(03, 2011)
多様化する会計ビジネスへの取組み
取引発生
取引収集
生産
・・・
源泉情報の抽出
調達
データ整理・整形
販売
企業に お け る 様 々 な 活 動 情 報
各グループ会社
業務システム群
取引情報蓄積
連結
会計システム
仕訳作成
エンジン
連結決算
情報
金額
定量情報
非会計明細データ
活動明細情報
会計業務
システム群
連結決算
単体決算
会計明細
情報
会計システム
予算
編成
取引情報活用
経営明細
情報
予実管理/業績管理(BI)
債権債務
り,予実分析精度が向上している。
など,経営情報の質向上について,経営トップ
から現場セクションまで幅広く評価をいただいて
いる。
今後の取組みとして,経営に必要とされる事業
軸・商品軸・組織や地域軸などの管理事例を数多
経営管理
(実績)
く持っており,かつデータボリュームの多い食品
経営管理
(予測)
トとしプロダクトの選定に入っている。
管理業務
システム群
卸業種(売上・仕入は月間1億件程度)をターゲッ
一つの取組みとして,食品卸業種商談の中でお
客様の具体的なご要件をヒアリングさせていただ
図-3 経営会計ソリューション
Fig.3-Management accounting solution.
きながら,データボリュームや管理内容を整理す
ると同時に,プロダクトの性能比較など実施して
いる。収集から蓄積,開示を実現する上で,業務
以下に三つの特長を示す。
(1)各事業の収益活動単位に取引を整理
の課題解決とシステム構築を一環したサービスで
お客様へ提供ができるソリューションとして整備
各事業単位での収益実績にかかわる活動,費用
を進めている。経営会計ソリューションは業種に
実績にかかわる活動など,それらの情報を収集す
固定されたソリューションとするのではなく,専
る上での計上ルールやタイミング整理を行い,課
門商社事例の取りまとめなども実施しており他業
題を定義して解決施策を検討立案していく。
種への展開も順次計画していく。
(2)財管一致の発想をもって源泉情報にアプローチ
SAP会計ソリューション
集約など加工されていない源泉情報には,例え
ば「誰の指示で何の仕事をしたか」などの事業軸
昨今,日本企業の海外進出は大手企業だけでな
や組織軸のキーが含まれており,財務会計だけで
く中堅中小企業にも急速に広がりつつある。これ
なく管理会計として活用できる情報が整理するこ
らの背景とIFRSへの対応も含め国内だけでなく海
とができる。
外子会社も含めた会計(経営)システムの統合化
(3)財務3表を活用したマネジメント
事業と組織の関係整理,粗利や営業利益および
が必要になっている。グループ経営を実現するに
は従来から下記のような要件が求められる。
BSやCFをどの軸で把握していくか,共通費のとら
(1)企業グループレベルでの業務プロセスの標準化
え方として配賦方法をどう見直していくのか,予
(2)企業グループレベルでの管理指標の共通化
算管理の進め方はどうあるべきなのかなどを整理
(3)様々な切口による経営指標の可視化,分析
した上で財務3表の内容を中心に検討していく。
(4)将来の環境変化(法改正,M&Aなど)への柔
このような特長を持った本ソリューションは,
お客様の経営管理に適用され,企業活動の正確な
分析に貢献している。
軟性
(5)内部統制強化に寄与する堅ろう性
これらの要件のほか,多通貨,多言語,各国の法
このソリューションの効果として,
規制,会計制度などのグローバル要件にも対応す
A社:実態により近い事業情報を即時にとらえ,
るためにFsolではSAP社のERPパッケージをベー
取引明細に裏打ちされ信頼性が高く役員会で利用
している。
スにグローバル会計ソリューションを実現する。
また,今後拡大する中堅中小企業のお客様の海
B社:グループ全体の取引実態を一元的に管理で
外展開を支援すべく,低価格,短納期,高品質の
きることで資金予測ができ,グループ全体の資金
導入サービスを実現するためにSAP-ERPに対する
圧縮を50億円程度実現できた。
。SAPビジネ
会計テンプレートを提供する(図-4)
C社:営業部署で取引明細が参照できるようにな
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スは生産,販売,会計という全社ビッグバン型の
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多様化する会計ビジネスへの取組み
WebSERVE smart
ワークフロー
(WebSERVE商品群)
お客様基幹システム
トランザ
クション
マスタ
連携
SC Pathfinder
for SAP
本社
関連会社
(日本)
規制対応を行ったグローバル会計システムを構築
関連会社
(中国)
連結
データ
+中国ローカライズ機能
していく。
IFRS対応No.1の
連結パッケージ
EU/USA(FCIPL)
}と連携する。これらの拠点と
SD:販売管理
MM:在庫・
FI-GL
購買管理
総勘定
元帳
FI-AP
債務
管理
FI-AR
債権
管理
また,システムだけでなく富士通グループの海
外サポート拠点{中国(FCH)
,ASEAN(FSBT)
,
関連会社
(英語素材)
SAPほかモジュール
に対応した国内会計システム導入のみならず,グ
ローバルの統一要件を実現しながら海外各国の法
+日本ローカライズ機能
富士通グループの
ソリューションや
お客様基幹システムと
スムーズに連携
このテンプレートを活用することにより,IFRS
FI-AA CO-CCA CO-OPA
固定
資産
原価
センタ
内部
指図書
連携し,JOC(日本のお客様の海外進出)ロール
アウト(運用展開)の実施および導入後の運用保
守サポートを24時間,言語に関係なくできる環境
図-4 SAP会計テンプレート
Fig.4-SAP accounting template.
を構築する。
各国ローカライズに関しても各拠点に協力を要
請し,法規制,会計制度など国,地域などの情報
商談の進め方が多く,会計単独を見れば使いづら
いという評価がでることもしばしばであった。今
回提供する会計テンプレートはFsolの国内におけ
る会計システム導入ノウハウを生かし,経理部門
収集/蓄積をし,さらなるサービス向上に取り組む。
む す び
Fsolでは,本稿で述べた三つの会計ソリューショ
が必要とする機能に対する,標準パラメータ設定,
ンを中心にビジネス展開している。これらのソ
アドオンプログラムに加え,システムフロー,操
リューションは,様々な環境変化へフレキシブル
作マニュアルなどの導入,保守に必要な標準ドキュ
に対応しながら,経営管理や会計業務の課題の解
メントを提供する。これらにより,お客様のグロー
決策を効率的で効果的に提供できる。今後も「企
バル要件である,
業はどうあるべきか」を念頭に置き,より広い業
・複数会計基準などIFRSへの対応
種業務への対応軸と,より深い専門業務への対応
・外部システムとのインタフェース機能
軸の2軸を基にグローバルという枠組みの中でお客
・日本語,中国語,英語版による標準設定
様へのニーズへ対応する会計ソリューションを創
・手形,期日現金など日本固有機能の追加
出し,ビジネス拡大に貢献していきたい。
などの対応を行う。
著者紹介
大槻敬久(おおつき たかひさ)
(株)富士通システムソリューションズ
会計ソリューション部 所属
現在,会計業務ソリューションに従事。
平石純也(ひらいし じゅんや)
(株)富士通システムソリューションズ
会計ビジネスイノベーション部 所属
現在,会計業務ソリューションに従事。
中古英治(ちゅうこ えいじ)
(株)富士通システムソリューションズ
会計ソリューション部 所属
現在,会計業務ソリューションに従事。
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FUJITSU. 62, 2(03, 2011)
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