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骨格筋収縮が脳機能に及ぼす影響―脳由来神経

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骨格筋収縮が脳機能に及ぼす影響―脳由来神経
第 31 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(104)
2014 年度 pp.104∼109(2016.4)
骨格筋収縮が脳機能に及ぼす影響
―脳由来神経栄養因子 BDNF に着目して―
前 川 貴 郊*
小笠原 理 紀*** 蔦 木 新**
中 里 浩 一** 石 井 直 方*
EFFECTS OF LOCAL MUSCLE CONTRACTION ON BRAIN:
CONTRACTION-INDUCED EXPRESSION OF BRAINDERIVED NEUROTROPHIC FACTOR(BDNF)
IN HIPPOCAMPUS
Takahiro Maekawa, Riki Ogasawara, Arata Tsutaki,
Koichi Nakazato, and Naokata Ishii
Key words: skeletal muscle, hippocampus, BDNF, FNDC5, afferent pathway.
緒 言
量負荷を課した比較的高強度なレジスタンス運動
モデルが、より効果的に海馬内の BDNF 発現を
これまで、数多くの研究が運動による認知機能
亢進させるとの報告もなされている4)。
の改善効果を報告している6,8)。運動による認知機
2013 年 に Wrann et al. は 運 動 に よ る 海 馬 内 の
能の改善にかかわっている重要な因子の 1 つに脳
FNDC5(fibronectin type III domain-containing
由来神経栄養因子 BDNF(brain-derived neurotropic
protein5)という膜蛋白の発現亢進が BDNF 発現
factor)がある。特に海馬内での BDNF 発現亢進
を導くことを報告した9)。FNDC5は骨格筋内でも
は神経新生、シナプス形成によるシナプスの可塑
生成され、収縮によってその分断型生成物である
性、およびシナプスにおける長期増強を導く。そ
イリシン(irisin)が循環血中に遊離されること
のため海馬内の BDNF 発現亢進は認知機能の改
が報告されている 2)。この研究で同時に、Wrann
善を示す有用な指標の 1 つと考えられる。
et al. は FNDC5を遺伝子導入によって肝臓内で過
脳内での BDNF 発現はさまざまな運動で亢進
剰発現させ、その分断型であるイリシンを末梢血
すると報告されている。齧歯類を用いた研究では
内に増やすと、海馬内の FNDC5発現が亢進しな
走ホイール上での自発性走運動や、低ストレスで
いにもかかわらず、海馬内の BDNF 発現が亢進
のトレッドミル走など、低∼中負荷程度の全身性
したと報告している。このことは、骨格筋収縮に
運動が海馬内 BDNF 発現亢進に効果的であると
よって末梢血に分泌されたイリシンが脳内 BDNF
報告している
発現の亢進を引き起こす可能性を示している。こ
*
**
***
。更に近年になって、ラットに重
6,8)
東京大学大学院総合文化研究科
Department of Life Sciences, Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo, Tokyo, Japan.
日本体育大学大学院体育科学研究科 Graduate School of Health and Sport Sciences, Nippon Sport Science University, Tokyo, Japan.
名古屋工業大学大学院工学研究科
Department of Life and Materials Engineering, Nagoya Institute of Technology, Nagoya, Japan.
(105)
のことから我々は、骨格筋の収縮自体が海馬内の
D.サンプリングタイムコース
BDNF 発現に重要であり、骨格筋の収縮を中枢の
運動は12時間の絶食状態で実施し、運動終了 3
活 動 と 無 関 係 に 引 き 起 こ す こ と で、 海 馬 内 の
時間後に動物に麻酔をかけ、血液を採取した。そ
BDNF 発現の亢進を誘導できないかと考えた。
の後、頭部を切断し、海馬を氷上で採取した。次
そこで本研究では、無意識下で電気刺激を用い
いで下腿三頭筋から腓腹筋を取り分けた。その後
て骨格筋を局所的に収縮させるモデルを作成し、
筋湿重量を測定し、解析を行うまで−90℃で保存
局所的な骨格筋収縮が認知機能改善にかかわる
した。
BDNF およびその関連因子の海馬での発現に及ぼ
す効果を調べた。
方 法
A.材料
E.坐骨神経遮断モデルおよび群分け
坐骨神経遮断モデルとして、坐骨神経を鉗子で
遮 断 し た Nerve Crush モ デ ル を 用 い た。Nerve
Crush モデルは、皮膚切開後に坐骨神経を露見し
鉗子で30秒間挟むことによって作成した。麻酔下
7 週齢(体重,250∼300 g)の Sprague-Dawley
で坐骨神経遮断個所より筋に近位側に電気刺激を
ラット(日本クレア,東京)を個別に一定気温の
加えた群を坐骨神経刺激+筋収縮あり(NC+MC)
もと、12時間の明暗サイクルで飼育した。食餌と
群(n = 6 )、坐骨神経遮断個所より筋に遠位側
水は自由摂取とした。 1 週間の飼育後に運動を
に電気刺激を加えた群を坐骨神経刺激+筋収縮な
行った。本研究は東京大学動物使用委員会の承認
し(NC+WC)群(n = 6 )とした。NC+MC 群で
を受けた(承認番号:25-11)
。
は電気刺激を与えると骨格筋収縮によるトルクが
B.筋収縮方法
発揮されるが、NC+WC 群では電気刺激を与えて
本研究では独自に開発したラット用の電気刺激
もトルクの発揮がみられなかった。麻酔下で坐骨
装置を用いて、下腿三頭筋を等尺性収縮させた。
神経を遮断し、電気刺激を与えないものをコント
被験動物は運動の15分前にイソフルランによる全
ロール群(NC)(n = 6 )とした。電気刺激条件
身麻酔を行った。被験動物の脚のつま先を鉗子で
とサンプリングタイムコースは R50群と同様にし
つまみ反応がないことを確認し、大腿部の毛をバ
た。
リカンで剃った。大腿骨に沿って皮膚面にメスで
F.ウェスタンブロッティング
切れ目を入れ、坐骨神経を露出させた。その後、
海馬と腓腹筋のサンプルは 4 ℃のプロテアーゼ
坐骨神経に電気刺激装置(SEN-3301,日本光電,
阻害剤とホスファターゼ阻害剤(Thermo Scientific,
東京)とアイソレータ(SS-104J,日本光電)に
USA)を含む RIPA バッファー内(25 mM Tris・
つながった電極を引っかけ、下腿三頭筋を収縮さ
HCl pH 7.6,150 mM NaCl,1 % NP-40,1 % sodium
せた。 1 回の強縮性収縮は 3 秒間でレップ間のイ
deoxycholate,0.1% SDS)でホモジナイズした。
ンターバルは 7 秒とした。セット間のインターバ
血清はプロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害
ルは 3 分とした。電気刺激の周波数は100 Hz(矩
剤入りの 1 % Tween-20入りの PBS で 1 : 4 に希
形パルス持続時間 1 ms)とし、発揮張力が最大
釈した。ホモジナイズ溶液は12000 rpm の速度で
になるように電圧( 3 ∼ 5 V)を設定した。
10分間遠心し、その上澄みを採取した。蛋白濃度
C.被験動物と運動プロトコール
の定量は Lowry 法に基づいて行い、サンプルは
被験動物は50回収縮群(R50,n = 5 )
、コント
DTT 入りのサンプルバッファーに混ぜ、95℃で
ロール群(CON,n = 5 )に分けた。R50群は右
5 分間処理した後に解析を行うまで−90℃で保
脚の下腿三頭筋を 1 セット10回を 5 セット、計50
管 し た。 FNDC5、BDNF、SYP(Synaptophysin)
、
回の収縮を行った。CON 群は R50群と同様に右
Phospho-Akt は12.5%の濃度のゲルを用いて等量
脚に偽手術を実施し、電極を坐骨神経に引っかけ
の サ ン プ ル を 電 気 泳 動 に よ っ て 分 離 さ せ た。
た。
Phospho-TrkB(Tropomyosin receptor kinase B) は
7.5%のゲルを用いた。泳動後、ゲルをニトロセル
(106)
C.腓腹筋における蛋白発現
ロースの膜に転写した(25 V, 1 A で 1 時間)。
転写したニトロセルロース膜は 5 %スキムミルク
筋 収 縮 3 時 間 後 の 骨 格 筋 に お け る FNDC5、
を含む TBS-T(0.1% Tween-20を含む Tris-buffered
BDNF の発現を調べた結果、R50群で CON 群と
saline 溶液)でブロッキング後、 5 % TBS-T を含
比べ有意な変化はみられなかった(図 3 A,B)。
む 以 下 の 一 次 抗 体 に 4 ℃ で 1 晩 反 応 さ せ た。
D. 坐 骨 神 経 遮 断 モ デ ル で の 海 馬 に お け る
BDNF および関連因子の蛋白発現
[FNDC5 ab174833(1:1000),Abcam;BDNF
ab109049(1:1000),Abcam; Phospho-TrkA
坐骨神経を鉗子で遮断した後に、遮断個所より
(Tyr490)
,Cell
/ TrkB(Tyr516)C35G 9 (1:1000)
末梢側(NC+MC 群)および中枢側(NC+WC 群)
Signaling Technology;Phospho-Akt(1:1000)
,Cell
に電気刺激を与え、 3 時間後の海馬内での BDNF
Signaling Technology;SYP(1:1000)
,Cell Signaling
発現および関連因子の発現を調べた。電気刺激 3
Technology]
。そして、TBS-T で 5 分、3 回洗浄し、
時間後の海馬における FNDC5、BDNF、リン酸
5 %スキムミルクを含む TBS-T に二次抗体を加
化 Akt 発現を調べた結果、NC、NC+MC、NC+WC
え、室温で 1 時間反応させ化学発光にてバンドを
検出した。バンドの発光強度を化学発光検出器
A
CON
R50
B
CON
R50
Ez-capture と CS analyzer ソフトウェア(ATTO,
Tokyo)を用いて測定した。全蛋白量は Ponceau S
**
*
*
**
**
による全蛋白量で定量化した。
G.統計
データは平均±標準偏差で表記した。統計解析
は CON 群と R50群に対して対応のない t 検定を
行った。坐骨神経遮断モデルに関しての統計解析
は NC、NC+MC、NC+WC 群間で一元配置分散分
C
CON
R50
D
CON
R50
析を行った。統計的有意水準は 5 %未満とした。
結 果
**
**
*
*
**
A.海馬における BDNF および関連因子の蛋
白発現
筋収縮 3 時間後の海馬における BDNF および
関連因子の蛋白発現を調べた。FNDC5、BDNF
発現は R50群で CON 群に比べ有意に増加してい
た(図 1 A,B)
。BDNF の受容体である TrkB の
E
CON
R50
リン酸化も R50群で CON 群に比べ有意に増加し
ていた(図 1 C)
。TrkB の下流のリン酸化 Akt 発
現も R50群で CON 群に比べ有意に増加していた
(図 1 D)
。一方、シナプス蛋白である SYP に関
しては R50群で CON 群に比べ有意に亢進してい
なかった(図 1 E)
。
B.血清における蛋白発現
筋収縮 3 時間後の血清における FNDC5濃度は
R50群で CON 群と比べ増加していなかった(図
2)
。この結果から、FNDC5の血清濃度は筋収縮
3 時間後には上昇していないことが示された。
図 1 .海馬における BDNF および関連因子の蛋白量
Fig.1.Protein expression of FNDC5(A), BDNF(B), Phospho-TrkB(C), Phospho-Akt(D), Synaptophysin(E)in the
hippocampus 3 h after exercise.
Values are expressed relative to the mean of control. Bars indicate SD. ** P < 0.01 vs. the corresponding control.
(107)
CON
R50
図 2 .血清における FNDC5 の蛋白量
Fig.2.Protein expression of FNDC5 in the serum 3 h after exercise.
Values are expressed relative to the mean of control. Bars indicate SD.
A
CON
R50
B
CON
A
NC
NC+MC
NC+WC
C
NC
NC+MC
NC+WC
B
NC
NC+MC
NC+WC
R50
図 4 .坐骨神経遮断モデルでの海馬における BDNF およ
び関連因子の蛋白量
Fig.4.Protein expression of FNDC5(A), BDNF(B), Phospho-Akt(C)in the hippocampus 3 h after exercise using
nerve crush model.
Values are expressed relative to the mean of control. Bars indicate SD.
図 3 .腓腹筋における FNDC5 と BDNF の蛋白量
Fig.3.Protein expression of FNDC5(A)and BDNF(B)in the
skeletal muscle 3 h after exercise.
Values are expressed relative to the mean of control. Bars indicate SD.
き を し て い る 可 能 性 が あ る。 本 実 験 に お い て
Phospho-Akt は R50 群 で 有 意 に 増 加 し て い た。
Akt 活 性 は さ ま ざ ま な 因 子 に よ っ て 亢 進 す る
ことがわかっており、IGF-1(Insulin-like growth
群の 3 群間での有意差は確認できなかった(図
factor I)もその活性化因子の 1 つである。齧歯類
4 A ∼ C)
。
を用いた運動モデルにおいて IGF-1発現は持久性
考 察
運動とレジスタンス運動の両方で亢進することが
報告されており3)、本実験で行った局所的な筋収
本研究では、無意識下で下腿三頭筋を収縮させ
縮によっても、海馬における IGF-1発現が亢進し
たときの海馬における BDNF およびその関連因
ている可能性が考えられる。しかし、IGF-1発現
子の発現を調べた。その結果、海馬内の FNDC5、
は運動直後にピークに達し、 1 時間以内に基準値
BDNF 発現、また BDNF の受容体の活性型であ
に戻ると報告されており1)、本実験のサンプル採
る Phospho-TrkB、Phospho-Akt は CON 群 と 比 較
取時(運動 3 時間後)には基準値に戻っていると
し R50群で有意に増加した。
考えられる。
認知機能の増強に関連すると考えられる BDNF/
活動依存性のシナプス蛋白マーカーとして SYP
TrkB の下流のシグナル伝達経路の 1 つに PI3-K/
が広く使われている。更に、SYP の減少は認知
Akt(Phosphatidylinositol 3-kinase/Akt kinase)経路
機能の低下に相関することが報告されている7)。
がある。TrkB/ PI3-K/Akt 経路の活性化は蛋白合
数週間にわたって持久性運動やレジスタンス運動
成に重要であり、特にシナプス蛋白の輸送に関連
を継続すると、海馬内での SYP 発現は増加する
した蛋白の合成を促すと考えられている。そのた
ことが報告されている3)。本研究では SYP 発現は
め神経細胞の成長、増殖、生存において重要な働
CON 群に比べ R50群で増加していなかった。こ
(108)
のことから R50群で Akt は活性化していたが、単
の両者が含まれる。したがって、電気刺激が運動
回の運動刺激では海馬内での SYP 発現増加には
神経線維とともに求心性神経線維の興奮を引き起
不十分だったと推察される。
こし、後者による神経活動が中枢へと伝達される
中枢における運動指令の生成を伴わない条件で
ことで海馬における BDNF 発現に影響を及ぼし
の骨格筋収縮によって海馬における BDNF とそ
た可能性がある。信号伝達の経路としては、①坐
の関連物質の発現に変化がもたらされたメカニズ
骨神経→筋→筋内受容器→中枢、②坐骨神経→中
ムとして、末梢から中枢への何らかの求心性情報
枢のいずれか、あるいは両者の複合作用が仮定さ
伝達がかかわっている可能性が高い。末梢から中
れる。
枢への求心性の伝達経路としては神経伝達経路と
そこで中枢と末梢神経間の神経伝達経路を遮断
液性伝達経路が考えられる。このうち液性伝達経
した状態で坐骨神経個所より骨格筋側および中枢
路として、海馬内の BDNF 発現を増加させる可
側の坐骨神経に電気刺激を与えたときの海馬内の
能性のある骨格筋由来のマイオカインの一種イリ
BDNF や関連因子の発現に違いがあるか検証する
シン(分断型 FNDC5)について、血中濃度と骨
必要がある。求心性神経伝達経路を遮断する方法
格筋内の発現を調べた。
として Seddons の分類によると神経を完全に切断
イリシンは収縮した骨格筋由来のマイオカイン
する Neurotmesis、神経の軸索や髄鞘は損傷して
の一種であることが報告されている 。また
いるが神経の上膜や周膜などの支持組織は無事な
BDNF も骨格筋の収縮によって骨格筋細胞内で発
Axonotmesis、軸索が一時的に遮断される Neura-
現が亢進し、血液中に分泌されることが報告され
praxia の 3 つに分類される。Neurapraxia は神経の
ている 。BDNF は骨格筋以外にもさまざまな組
伝導を完全には遮断することはできない。また
織で合成されることがわかっており、膵臓、心臓、
Neurotmesis は非常に侵襲的である。そこで、神
腎臓、胎盤などがあげられる。また、ヒトを対象
経の伝導を完全に遮断でき、Neurotmesis ほど侵
とする研究でも、運動によって血清の BDNF 濃
襲的でない Axonotmesis を行うこととした。鉗子
度が増加することが報告されている 。しかしな
で坐骨神経を一定時間挟み、Axonotmesis の状態
がら、運動によって循環血で増加する BDNF の
に近い Nerve Crush モデルを作成した。坐骨神経
産生部位、更には血液内の BDNF の働きに関し
遮断個所より末梢側と中枢側に電気刺激を与えた
てはよくわかっていない。また骨格筋から分泌さ
ときの海馬内 FNDC5、BDNF および下流のリン
れる BDNF は自己分泌、傍分泌による局所的作
酸化 Akt 発現を検証した。その結果、坐骨神経を
用が主な役割であり、循環血の BDNF の発生源
遮断したのみの NC 群に比べ、末梢側に電気刺激
ではないことも報告されている 。本研究の結果、
を与えた群と中枢側に電気刺激を与えた群の両者
運動 3 時間後の血清内では CON 群に比べて分断
において FNDC5、BDNF、リン酸化 Akt 発現に有
型 FNDC5の発現は増加していなかった。また、
意差はなかった。
骨格筋においても FNDC5、BDNF の発現は CON
BDNF はストレスで海馬内発現が抑制される。
群に比べ有意に増加していなかった。これらの結
また末梢神経の損傷は神経障害性の痛みを発生す
果から、本研究で調べたタイムポイントでは骨格
るようになると報告されている。神経障害性の痛
筋から分泌したマイオカインは血清内で確認する
みには痛覚過敏症や異痛症(通常は痛くない刺激
ことができず、海馬の BDNF 発現増加のメカニ
を痛みとして感知してしまう症状)などがある。
ズムにかかわっている可能性は低いと推測され
そのため、本研究では坐骨神経遮断後の電気刺激
る。しかしながら、IGF-1や未知の液性因子など
が痛みとして中枢に伝わり、ストレスとなってい
がかかわっているかどうかは今後の検討課題であ
る可能性が考えられる。よって坐骨神経遮断時の
る。
電気刺激の影響が局所的な骨格筋収縮による何ら
本研究で電気刺激を行った坐骨神経には、遠心
かの求心性情報伝達の効果を上回ってしまい、海
性神経線維(運動ニューロン)と求心性神経線維
馬内での FNDC5、BDNF 発現および下流のリン
2)
5)
10)
5)
(109)
酸化 Akt 発現の亢進を抑制してしまった可能性が
, 463-468.
thermogenesis. Nature, 481(7382)
3)Cassilhas R., et al.(2012)
: Spatial memory is improved by
考えられる。
また、今回用いた神経伝導の遮断方法では、求
心性神経に特異的に大きなダメージを引き起こ
し、刺激部位から中枢側へ向かう神経伝導にも影
aerobic and resistance exercise through divergent molecular mechanisms. Neuroscience, 202, 309-317.
4)Lee MC, et al.(2012)
: Voluntary resistance running with
short distance enhances spatial memory related to hippo-
響を及ぼした可能性も否定できない。こうした問
, 1260campal BDNF signaling. J Appl Physiol, 113(8)
題を解消するためには、今後脊髄背側への求心性
1266.
神経の入路近傍での伝導のブロックなどを試みる
必要があると考えられる。
総 括
本研究において、無意識下での局所的骨格筋収
縮が BDNF とその関連因子の発現に効果的であ
るかどうかを海馬内で調査した結果、発現の亢進
を確認することができた。このことは全身性運動
5)Matthews VB, et al.(2009): Brain-derived neurotrophic
factor is produced by skeletal muscle cells in response to
contraction and enhances fat oxidation via activation of
AMP-activated protein kinase. Diabetologia, 52(7), 14091418.
6)Neeper SA, et al.(1996): Physical activity increases
mRNA for brain-derived neurotrophic factor and nerve
, 49-56.
growth factor in rat brain. Brain Res, 726(1)
7)Sze C-I, et al.(1997): Loss of the presynaptic vesicle
protein synaptophysin in hippocampus correlates with
でなくても、骨格筋を受動的に収縮することによ
cognitive decline in Alzheimer disease. J Neuropathol Exp
り海馬内の BDNF 発現の亢進および認知機能の
, 933-944.
Neurol, 56(8)
向上の可能性を示唆する知見である。
謝 辞
本研究に対して助成を賜りました、公益財団法人明治
安田厚生事業団に深く感謝申し上げます。
参 考 文 献
1)Berg U, et al.
(2004): Exercise and circulating insulin-like
growth factor I. Horm Res, 62( Suppl 1), 50-58.
2)Bostrom P, et al.(2012): A PGC1α-dependent myokine
that drives brown-fat-like development of white fat and
8)Van Praag H, et al.(1999)
: Running enhances neurogenesis, learning, and long-term potentiation in mice. Proc Natl
(23)
, 13427-13431.
Acad Sci U S A, 96
9)Wrann CD, et al.(2013)
: Exercise induces hippocampal
BDNF through a PGC1α/FNDC5 pathway. Cell Metab, 18
(5)
, 649-659.
10)Yarrow JF, et al.(2010): Training augments resistance
exercise induced elevation of circulating brain derived
(2), 161neurotrophic factor(BDNF)
. Neurosci Lett, 479
165.
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