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グローバル・インテリジェンス

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グローバル・インテリジェンス
2010年2月
グローバル・インテリジェンス
グローバル経済見通し
ビル・チェイニー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1ページ
米国市場見通し
グローバル経済
見通し
マーク・シュミーア . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4ページ
カナダ市場見通し
パット・マックヒュー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6ページ
欧州市場見通し
デイビッド・ハッセー
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8ページ
エマージング市場見通し
ピーター・メニー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10ページ
日本市場見通し
冨岡 英浩/津本 啓介 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12ページ
ビル・チェイニー
北米および、米国よりはやや緩やか
ながらも欧州の雇用改善に支えられ、
グローバル経済は自律回復の勢いが
本格化すると考えます。
グローバル債券市場見通し
バリー・エバンズ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14ページ
2009年7∼9月期の米国経済は明らかに上向きへと転じま
した。米国もこれでようやく近年最悪とも言えるリセッシ
ョンから脱し、回復局面に入ったことが確実となりました。
ただし、この回復は一時的な財政・金融刺激策と在庫水準
の調整によって実現されたものです。通常の景気サイクル
ではこのような刺激策や在庫調整の進展は所得と支出の伸
びを急激に加速させますが、今回はこの中の決定的な要素
が欠けています。それは雇用です。
弊社はこれまでと同様に、今回の急激なリセッション(景
気後退)を受けて異例ともいえる規模・スピードの人員削
減を行った北米の企業は、売上が改善すれば直ちに雇用を
再開すると考えます。ただ、雇用指標には改善が見られる
ものの、これまでのところ総雇用者数が増加するには至っ
ていません。消費者や銀行がバランス・シートの立て直し
に努めるなど、主要各国経済が直面している逆風を考える
と、ここで雇用が大幅な好転に転じなければ、こののち財
政刺激策の効果が剥落するにしたがって景気回復は失速す
る可能性が現実味を帯びてきます。
1
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
グローバル経済見通し(つづき)
弊社の見方としては、北米および、米国よりはやや緩やか
欧州:早い段階でインフレ懸念が生じる可能性
6.0
律回復の勢いが本格化すると考えます。このシナリオによ
5.0
れば景気が安定するにつれ、消費者もこれまでのように必
死に貯蓄を続けることもなくなれば、銀行が貸出を抑制す
ることもないものと思われます。ただし、深刻な逆風が景
気回復の腰折れを招きかねないリスクを高めています。
異例の金融緩和にもかかわらず、差し迫ったインフレの脅
威は生じておらず、今後も緩やかな景気拡大が予想される
インフレ率(CPI%変化率)
ながらも欧州の雇用改善に支えられ、グローバル経済は自
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
- 1.0
07年12月
08年4月
08年8月
EU加盟国全体(27ヶ国)
08年12月
ユーロ圏
09年4月
ドイツ
09年8月
09年12月
英国
出所:Global Insight
ことから、向こう2、3年はインフレが深刻なリスク要因
となることはないと考えます。各国中央銀行は2010年半
他の欧州諸国、特に英国ではより一層深刻なリセッション
ばごろから金融緩和からの出口戦略を慎重に模索し始める
に見舞われました。但し為替水準にある程度の柔軟性があ
ものと考えますが、このような周到に練られた計画も原油
ったことから、財政状況が示すよりは幾分速いペースで回
価格の急騰や金融危機の再発といった出来事によって頓挫
復に転じる余地がありそうです。例外はEU加盟候補国です。
する可能性があります。
これらはEU加盟前の大きな経済変動を避けねばならない
ことから為替を政策手段として使うことが禁じられており、
世界経済は自律回復が見込まれる
実質経済成長率
(GDP%変化率)
インフレ率
(CPI%変化率)
2009(見込) 2010(予) 2011(予) 2009(見込) 2010(予) 2011(予)
2
米国
-2.6
3.1
4.2
-0.4
1.6
1.4
カナダ
-2.6
2.5
3.9
0.2
1.4
1.8
ユーロ圏
-3.9
1.2
1.4
0.2
1.3
2.0
日本
-5.4
1.3
1.9
-1.4
-0.2
2.0
中国
8.5
10.1
9.0
-0.8
3.2
2.9
世界
-2.0
3.2
3.8
n.a.
n.a.
n.a.
依然として為替相場の変動リスクにさらされています。
2009年にユーロは対ドルで上昇し、欧州地域の輸出競争
力を低下させました。為替水準はギリシアやアイルランド
の債務不履行懸念から一時的に大きく変動しましたが、今
後は米国と欧州の景気回復の相対的な強さが為替相場を決
める主な要因になるものと思われます。弊社としては、ユ
ーロの対ドル相場は1ユーロ=1.50ドル近辺で推移すると
みています。
出所:MFCグローバル
アジアは輸出に依存
欧州経済は構造的な障害に直面
中国の経済成長が加速し、日本をはじめとする他のアジア
2010年以降、欧州経済は緩やかながらも持続的に成長す
諸国の景気回復を下支えしていますが、世界経済の回復が
ることが予想される一方で、米国以上に大きな景気回復リ
脆弱なものである中、輸出主導型経済の先行きを疑問視す
スクを抱えています。欧州では米国ほど大規模な雇用削減
る見方は依然として残っています。現時点では、中国政府
が行われなかったため、雇用回復も小規模なものに留まる
は急速な景気拡大を持続させるために必要とする限りの財
と考えます。欧州の景気見通しの弱さには、主導権を握る
政支出を行う意向です。弊社は、2010年の中国のGDP成
超国家政府が存在しない中で共通の金融政策を実施するた
長率は10%近くに達し、それ以降は9%程度で推移すると
め、強い国と弱い国との間に摩擦が生まれやすくなるなど
予想します。
構造的な問題も反映されています。さらに欧州の雇用市場
2009年の中国の経済指標を見るに、そのほとんどが金融
は比較的硬直的であるため、米国よりも早い段階でインフ
危機以前の成長軌道に回復したことを示しています。
レ懸念が生じる可能性があることから、欧州中央銀行
2009年7∼9月期のGDP成長率は8.9%であり、小売売上高
(ECB)は金融引き締めを検討する必要に迫られています。
と鉱工業生産は予想を上回りました。銀行預金高の急速な
2010年2月
増加は銀行貸出高の急増を裏付け、中国の株式相場と不動
他の輸出国についても、変動の程度は異なるものの、見通
産相場の高騰は単なるバブルではない可能性を示唆してい
しは改善しています。
ます。税収は改善に向かい、自動車販売台数も増加が続い
ています。
オーストラリアはほとんどリセッションに陥ることなく、
世界経済の景気循環を乗り切っており、オーストラリア準
中国および周辺の輸出国の深刻なリスクは、主要輸出先市
備銀行は景気過熱を抑制するため、すでに2回の金融引き
場の景気が低迷することです。ペッグ制は輸出競争力維持
締めを実施しました。インド、インドネシアおよびフィリピ
を可能にしますが、中国は世界市場における急速なシェア
ンも2009年は順調にプラスの経済成長を達成し、2010年
拡大を永久に続けていくことはできません。いずれは貿易
も堅調に推移しています。こうした国々は内需への依存度
摩擦が生じ、通貨の切り上げや内需拡大への移行など、あ
が比較的高いことが経済の相対的な安定に寄与しました。
る程度の妥協を余儀なくされるものと思われます。中国政
府高官は、貿易不均衡が再び拡大し、次の世界経済危機を
引き起こす火種を生む危険性を認識した上で、為替政策の
柔軟性拡大に向けた動きを示唆しています。
ビル・チェイニーはMFCグローバル・インベストメント・マネジメン
トのチーフ・エコノミストです。本レポート作成にあたっては同社エ
コノミストであるオスカー・ゴンザレスとレベッカ・ブロイも参加し
ています。三者はいずれも米国ボストンに在籍しています。
日本は2009年7∼9月期のGDP成長率がプラスに転じる一
方で、デフレが続いています。しかし、その他の指標は企業
収益、残業手当、夏期賞与の大幅な減少による税収の急激
な落ち込みなど、景気低迷の深刻さを如実に示しています。
鉱工業生産指数は9ヶ月連続で上昇しましたが、前年比で
改善したように見えるのは1年前の数値が極めて低かった
ためにすぎません。購買担当者指数は向上し、輸出額も予
想を上回ったものの、全般的に見ると景気に弱さが残って
います。世界経済の回復に伴い、日本の景気回復も勢いを
増すものと思われますが、自律的成長を促進するには内需
は脆弱な状態が続いています。
日本の鉱工業生産指数は、25年ぶりの低水準を脱した
指数(2005年=100)
120
100
80
60
1982
1986
1990
1994
1998
2002
2006
2010
鉱工業生産指数(日本)
出所: 経済産業省
香港と台湾は中国経済の回復と、薄日が差し始めた北米・
欧州の景気回復に乗じています。信頼感に改善が見られ、
今なお金融緩和策を継続していることから、全般的に景気
は回復に向かう公算が大きいでしょう。アジア地域のその
3
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
米国市場見通し
歴史的に米国株式相場は景気回復に先行して上昇します
が、2009年もS&P500指数の年間リターンは米ドルベー
スで26%と、例外ではありませんでした。図に示すよう
に、今回の株式市場の回復には目を見張るほどの力強さが
見られますが、前回のベア(弱気)相場での落ち込みが大
きかったことを考えると、おそらく予想された範囲内であ
ったと言えましょう。
株式市場の長期的見通しは明るいと
は言えません。投資家は相場上昇を
追うのではなく、押し目買いが最善
なリターンを実現するということを
忘れてはなりません。
2009年の米国株式市場回復は、過去稀に見るハイペース
180
170
160
底値から経過する月数
マーク・シュミーア
150
140
130
120
110
100
90
0
1
2
3
4
5
6
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
底値を100とした場合の反騰の水準
2009
過去の例に漏れず、2009年の米国株式市場は経済の回復
7
2002
1987
1982
1974
1970
出所:ブルームバーグ
を見越して3月に上昇に転じました。今では米国のリセッ
ション(景気後退)は2009年半ばに終焉したと見られて
これまでのところ株式相場はバリュエーションの上昇を背
います。2009年の株式市場は主にバリュエーションの大
景に急騰しました。S&P500対象銘柄の企業収益は2009
幅な改善に伴い急騰しましたが、2010年上期にもう一段
年7∼9月期を通じて減益が続きました。図に示すように、
の上昇が見られるかどうかは、企業収益のさらなる改善と
実績ベースの利益に基づくS&P500のPERは、市場が底を
株価収益率(PER)低下との力関係にかかっていると思わ
つけた3月の10倍から2004年以来最高となる18.6倍まで
れます。バリュエーションはすでに高水準にあり、家計や
上昇しました。
政府の債務残高の増大により企業収益の伸びが鈍化してい
ることを考えると、長期的な見通しは不透明です。
米国株式の株価収益率(PER)は6年ぶりの高水準に
米国のリセッションが2009年半ばに終焉したことを裏づ
ける証拠はかなり明白であるものの、2009年後半に発表
された経済指標の幾つかが景気回復の勢いが徐々に衰えつ
つある兆候を示しています。消費者信頼感、賃金、個人所
得はいずれも横ばいとなりました。雇用者数は2009年1
∼3月期に記録した大幅な減少からマイナス幅は急速に縮
小したものの、10∼12月期も純減となりました。製造業
出所:MFCグローバル
生産高は増加に転じましたが、月によって増減があり、プ
ラス値とマイナス値との間で大きく変動しています。
2010年の経済成長率はプラスとなるものの、今回の深刻
なリセッションからの回復局面の成長率は、過去の例と比
べればはるかに小幅な回復にとどまると弊社は考えます。
4
1
さらなる上昇には企業収益の伸びが必須
つまり、株式市場をさらに上昇させる要因があるとしたら、
それは企業収益の伸びでなければなりません。2010年の
企業収益は前年比25%∼30%の増加が見込まれる一方、
“Can the Corporate Profit Boom Last?(企業収益ブームは終焉を迎えるのか?)
” The Bank Credit Analyst誌 (2007年6月)
2010年2月
PERは低下が予想されます。2010年の1株当たり予想利益
ます。最も可能性の高い結果として、市場は大きく重要な
を75∼80ドルとした場合のPERの妥当な範囲は13∼16倍
景気循環に従いながらも、短期的に趨勢のない動きが続く
ですが、これを基準にすると、2010年の米国株式の予想
ことが考えられます。
リターンは-10%から+15%の範囲になります。
このような市場では、投資家は買いのチャンスに特別な注
長期的には米国株式市場の見通しは明るいとは言えませ
意を払わなければなりません。短期的な市場の魅力を評価
ん。2010年のPERは長期平均を4ポイント上回る水準で始
する上で役立つ便利なツールは、逆張りの指標として有効
まっている上、米国経済と株式市場には様々な問題が山積
に利用できる投資家センチメントです。以下の図に示すよ
しています。あまりにも多くの国民、銀行、政府(連邦政
うに、現在は調査回答者の約75%が強気で、投資家の強気
府と州政府)が過剰な水準の債務を抱えています。家計債
度は高水準にあります。これは市場がピークに達した
務は直近の最高水準から減少したものの、住宅ローンの延
2007年12月以来最高の比率です。この指標には、調整が
滞率は上昇傾向にあり、向こう2、3年でみても数百万件
必ずしも目前に迫っていることは示されていません。セン
の住宅が新規に差し押さえられる可能性があります。商業
チメントはこの先しばらくの間、高水準を維持する可能性
ローンの延滞率は10年ぶりの最高水準となり、今なお上
がありますが、たとえこうした状況が続いたとしても、こ
昇しています。銀行はバランスシートを改善したものの、
の水準から市場がさらに大きく上昇する可能性は低いと思
依然として償却すべき不良債権を抱えています。今後3年
われます。
以内に満期が到来し、借り換えが必要な債務は7兆ドルを
市場センチメントは「強気」を示す-有効な逆張りの指標
上回っています。
80%
70%
ここにさらに、米国政府の債務です。2009年の財政赤字
は対GDP比10%に達し、1兆ドル規模の財政赤字が今後数
年にわたって続く可能性があります。金利は低水準である
にもかかわらず支払利息は増加しており、公的給付支出額
は無制限に膨らんでいます。現在、連邦政府の公的債務は
GDP比50%を超え、100%に近づこうとしています。公的
債務総額はすでにGDP比100%を越えています。この数値
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
07年
11月
08年
1月
08年
3月
08年
5月
08年
7月
08年
9月
08年
11月
09年
1月
09年
3月
09年
5月
09年
7月
09年
9月
09年
11月
出所:Schaeffer's Investment ResearchおよびInvestors Intelligence
は過去20年間の日本に匹敵します。アメリカでは「日本
1年前の本誌の中で私たちは、2009年初めに市場が底を
の経験を回避することは可能で、明らかにその経験から多
打つ7つの理由を挙げ、株式投資家は翌年に十分に報われ
くの教訓を学ぶことができる」という楽観論が市場に広が
ることを示唆しました。現在、状況は全く異なっています。
っていますが、一方で、描く出口戦略が完璧に進まないリ
投資家は異常なほど楽観的であり、レバレッジ解消が進む
スクがあるという現実も残っています。
一方で、金融・財政緩和策転換の必要性に迫られている経
済の様々なリスクを見て見ぬふりをしています。したがっ
逆風はさらに長期化
て、投資家は相場上昇を追うのではなく、押し目買いをす
今後米国経済のレバレッジ解消が進む中、標準を下回る緩
やかな成長を辿る公算が大きくなっています。短期的には
ることが最善なリターンを実現するということを忘れては
なりません。
過剰な生産能力(設備水準)がインフレを抑制するものの、
同時に一部の企業で力強い収益拡大が阻まれる可能性もあ
ります。供給過剰が吸収されれば、今度はインフレ・リス
クが増大してPERにマイナスの影響を与えるものと思われ
2
マーク・シュミーア(CFA)は、MFCグローバル・インベストメン
ト・マネジメントの株式運用部門CIOおよび調査/アセットアロケー
ションの総責任者です。シュミーアはトロントを拠点としています。
“The Effect of China on Global Prices(世界の価格に与える中国の影響)
” Bank of Canada Review誌 (2007年8月)
5
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
カナダ市場見通し
勝ち組と負け組みが逆転
60%
40%
20%
0%
- 20%
- 40%
電気通信サービス
生活必需品
経済の堅調な回復を見込んで、2010年
の株式市場のリターンは適度な水準
にとどまるものの、それ以降は一段
と高い水準のリターンが見込めると
考えます。
一般消費財・サービス
2009
公益事業
パット・マックヒュー
資本財・サービス
素材
ヘルスケア
エネルギー
情報技術
金融
- 60%
2008
出所:ブルームバーグ
堅調な企業収益見通し
2010年および2011年におけるS&Pトロント総合指数の企
業収益率予想のコンセンサスはそれぞれ24.8%と17.9%の
上昇となっています。具体的には、下記の表に示すように
10セクターすべてが力強く上昇しますが、中でもカナダ
企業収益の大幅な伸びが予想される一方で、金利上昇に伴
にとって重要なセクターに顕著な伸びが見られます。
う株価収益率(PER)の低下を踏まえると、2010年のカ
ナダ株式のリターンは1桁台後半∼2桁台前半程度の水準
セクター全てに企業収益成長率の上昇が見込まれる
にとどまるものと思われます。しかしながら、長期的には
リターンは大きく上昇する見通しであるため、余裕のある
投資家はカナダ株式への十分な投資割合を維持すべきと考
えます。
カナダ経済は2009年半ばごろから回復の様相を見せ始め
ていますが、その範囲や強さを裏づける証拠は強弱まちま
ちの結果を示しています。カナダ経済は在庫投資、個人消
費支出、民間設備投資および輸出の改善を牽引役とし、
2010年は目覚ましい勢いはないものの、緩やかで着実な
回復軌道を辿ると弊社では予想しています。
2009年のS&Pトロント総合指数の年間リターンは、カナ
一般消費財・サービス
生活必需品
エネルギー
金融
ヘルスケア
資本財・サービス
素材
情報技術
電気通信サービス
公益
S&Pトロント総合指数
2010年
2011年
35.6%
8.0%
22.1%
17.3%
9.4%
13.9%
78.1%
14.7%
8.3%
5.9%
24.8%
14.0%
13.0%
24.5%
17.0%
6.8%
15.0%
22.0%
10.5%
3.9%
6.4%
17.9%
出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc.、TD Securities
ダドルベースで35%となり、上位セクターから下位セク
ターまでのランキングの順位は2008年のそれとほぼすべ
しかし、2010年のカナダ株式リターンを予想するために
て逆転した形となりました。最も高いパフォーマンスとな
は、投資家は株価と企業収益の伸びが必ずしも一致しない
ったのは、同指数における組入比率が高い金融サービス
ことを認識する必要があります。各国中央銀行は2010年
(組入比率30.5%)とエネルギー(同27.6%)でした。パ
半ば頃に金融引き締めに踏み切ることが予想されます。実
フォーマンスのランキング下位3位のセクターは通信サー
際に一部の中央銀行はすでに金融引き締めを実施していま
ビス、消費必需品および一般消費財セクターでした。
す。金利引き上げは株式市場のPER低下につながるため、
投資家は投資割合をどの程度縮小するかを慎重に検討する
必要があります。
6
2010年2月
以下の図に示すように、カナダ株式市場のPERは2010年
歴史を今もなお指針にすることができるとすれば、過去
コンセンサス予想ベースで15倍となり、長期平均を1標準
20年以上の実績に基づき、ROEは今からわずか6ヶ月間で
偏差弱下回っています。カナダ株式市場でこれほど低水準
少なくとも100ベーシスポイント上昇する可能性がありま
のPERが長期にわたって続いたのは20年以上ぶりです。
す。このような急速な改善はカナダ株式市場に非常に好ま
しいと言えます。最後に、市場のPBRが現在の水準にあっ
PERコンセンサスは通常平均以下
たのは2003年後半から2004年前半で、当時のROEも現在
35.47x
と同等の水準でした。したがって、まず第1にカナダ株式
31.74x
コンセンサスベースでの
予想PER=25倍
28.01x
1標準偏差上回る
24.28x
市場のバリュエーションは妥当な水準にあり、2番目とし
てROEが底入れした後、市場は収益性の観点から急速に上
20.55x
16.82x
1標準偏差下回る
昇すると弊社は考えます。
13.09x
9.36x
以上の予想は景気の二番底が回避されることを前提として
88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
年
いますが、経済が景気刺激策の段階的な解除や中央銀行に
S&Pトロント総合指数の株価収益率(PER)
よる金融引き締めの影響を乗り切ることができれば、
出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc.
2011年初めには平均を上回る企業収益の伸張、消費者信
頼感の改善、過去の実績に基づき極めて割安な水準のPER
バリュエーションは低下する見込み
しかし、PERはどの程度低下するのでしょうか。弊社は、
4ポイント低下すれば十分だと考えます。図に示すように、
これは1990年、1995年および2001年に市場のバリュエ
を見込むことができるでしょう。投資家は2010年のリタ
ーンは適度な水準にとどまるものの、それ以降はリターン
の大幅な上昇に備えなければなりません。
ーションが底をつけたときと同じ水準です。4ポイント低
下したとしても、2010年にカナダ株式市場は配当を含め
て1桁台後半から2桁台前半のリターンを実現できると思
われ、これは確率的にも高いと考えます。
パット・マックヒュー(CMA)は、MFCグローバル・インベストメン
ト・マネジメント(カナダ)のシニア・ポートフォリオ・マネジャー
です。同氏はトロントを拠点としています。
以下のグラフは、カナダ株式市場の株価純資産倍率(PBR)
と収益性指標である自己資本利益率(ROE)との関係を考
察したものです。ここで重要な点を2つ強調する必要があ
ります。まず第1に、ROEは1992年、1999年および2002
年にV字の底にあります。さらに、最近のデータ・ポイン
トは収益性が改善し始めたことを示しています。
PERコンセンサスは通常平均以下
3.15x
16.13%
2.87x
14.39%
2.59x
12.65%
2.31x
10.91%
2.03x
?
1.75x
1.46x
9.17%
7.43%
5.69%
1.18x
3.95%
88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
年
S&Pトロント総合指数の株価純資産倍率(PBR、左軸)
S&Pトロント総合指数の自己資本利益率(ROE、右軸)
出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc.
7
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
欧州市場見通し
るため必要な緊縮財政を実施すれば、国内の景気低迷を一
段と悪化させ、ギリシャは真正のデフレに直面することに
なるでしょう。アイルランドとスペインについても、今後
数年間の景気見通しはギリシャと同様、波乱含みです。
困難なのは、統一通貨ユーロを導入しているために、貿易
相手国に対する競争力を高めるため通貨を切り下げるとい
デビッド・ハッセー
う伝統的な手段に訴えることができないことです。英国や
今後12ヶ月の最も可能性の高いシナ
リオとして、欧州株式市場はボラティ
リティと調整を伴いつつ推移、その中
では株価が妥当な水準にあり、将来的
な成長が見込める信用度の高い大型
銘柄が市場を牽引すると考えます。
スウェーデンといった国々は、ユーロに対して自国通貨を
切り下げることが可能であったため、国内の製造業セクタ
ーを短期的に好転させることができました。
こういった懸念は、既に国債スプレッドの拡大という形で
表れています。現在、ギリシャとアイルランド市場での資
金調達コストは上昇しており、両国の国債利回りはドイツ
の国債利回りを大きく上回っています。このことは、英国
など財政支出が急増している他の国々にも問題が生じる可
で、2010年の市場予測には依然として多くの落とし穴が
潜んでいることを改めて自覚させられました。とはいえ、
今年の欧州株式リターンを予測する上で役立つと思われ
る、いくつかの大きなテーマをご紹介したいと考えます。
経済回復ペースが失速する可能性は低い
能性があることを意味しています。
経済不安が国債利回りに反映
単位:パーセント(%)
過去2年間に亘って前例のない出来事を経験したおかげ
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
最近ニュースで目にするテーマの1つは、欧州経済の回復
ペースが二分するとの見通しに関するものです。ドイツや
フランスなどの国々が既にリセッション(景気後退)から
0.0
08年1月
08年4月
08年7月
08年12月 09年1月
09年4月
ドイツ国債利回りとの差
ギリシャ国債
スペイン国債
09年7月
09年12月 10年1月
アイルランド国債
出所:ブルームバーグ
抜け出し、世界経済が回復すればその恩恵を受けられる好
位置につけている一方で、周辺地域の見通しはそれほど明
とはいえ、これらは欧州株式にさほど大きな影響を及ぼさ
るくありません。好況であった数年間における賃金の上昇
ないであろうと弊社は考えています。なぜならば、ギリシ
とユーロ高とがあいまって、ポルトガル、イタリア、アイ
ャおよびアイルランドが欧州全体のGDPに占める割合は
ルランド、ギリシャおよびスペインは、欧州および世界で
3%に過ぎないからです。
の競争力をそがれることになりました。
多額の債務にあえぐこれら周辺国の問題を最もよく表して
一部のファンダメンタルズは明るい兆候を
示す
いるのがギリシャです。ギリシャの政府債務は対GDP比で
110%を上回るだけでなく、欧州連合(EU)の制限を超え
る莫大な財政赤字を抱えています。これらの問題に対処す
例えばポーランドの場合、1989年に共産主義が崩壊し
2004年にEUに加盟して以来、一連の抜本的な市場改革と
他のEU諸国からの投資を経て、ポーランドはEUの周辺加
8
2010年2月
盟国を大きく上回る実質GDP成長率を達成するに至りまし
が、現在の株価はせいぜい妥当な水準といったところであ
た。またポーランドは債務水準の低さや国内経済の堅調さ
ると弊社は考えています。しかしながらリターンの「失わ
を一因として、2009年にリセッションを免れた数少ない
れた」10年が終わった今、株式は今後も長期的に値上が
国の1つでもあります。
りする可能性があります。世界中で実施された大規模な景
ポーランド経済:EUを常に牽引
8%
気刺激策の最終的な解除に関する懸念を背景に、株式のリ
スク・プレミアムは歴史的な水準まで拡大していました
が、ここへ来て縮小していることも株式市場の好調に拍車
6%
をかけると思われます。弊社は、世界経済が「どうにかこ
4%
うにか回復する」というシナリオを中心的な前提としてい
2%
ること、および極めて低いリターンしかもたらさないキャ
0%
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
ポーランドの各年GDP成長率
ッシュや債券は魅力的な投資先ではないと考えていること
も、弊社の見解を裏付けています。
出所:ブルームバーグ
弊社が考える今後12ヶ月の欧州株式に関する最も可能性
欧州全体の人口8億5,000万人のうち、50%超は新興国で
の高いシナリオは、ボラティリティと調整を伴いながら、
す。人口ベースでは東欧などの新興国は欧州先進国を上回
信用度が高く、株価が妥当な水準にあり、将来的な成長が
りものの、そのGDPは欧州全体の約15%を占める程度であ
見込める大型銘柄が相場を牽引するというものです。中国
り、株式市場の時価総額も依然として欧州全体の時価総額
の経済成長の陰り、金融政策の誤り、または恐れられてい
の10%にも達していません。
る景気後退の二番底の兆しが見えれば、弊社はより慎重な
欧州株式市場に関するその他の好材料としては、特にロシ
アおよびポーランドにおける企業および消費者の債務水準
が米国より低いことが挙げられます。また、欧州では一般
的に従業員の解雇が困難であることから変動費の比率が比
較的低く、米国よりも営業レバレッジが高い事から、景気
回復過程においてはより早いスピードでの景気拡大が可能
となります。
姿勢を取ることになるでしょう。弊社は今後12ヶ月の間
インフレ懸念はないと考えていますが、市場は今後も景気
刺激策の終了と金融政策の正常化に注目していくでしょ
う。これらが実現すれば、米ドル高の進行、コモディティ
価格の上昇および債券利回りの大幅上昇をもたらす可能性
があります。その場合、株式市場は打撃を受ける可能性が
ありますが、長期的に見れば更なる買いの機会を与えてく
れると考えています。
欧州の住宅価格は、スペイン、アイルランドおよび英国を
除き、依然、所得と比較して妥当な水準にあります。注目
すべきもう1つの重要な点は、米国の輸出のうち新興国市
場向けが占める割合は約35%であるのに対し欧州の輸出は
その半分が新興国市場向けであり、そのため欧州は世界経
済の成長から恩恵を受けることに関して、より有利な立場
デビッド・ハッセーはMFCグローバル・インベストメント・マネジメ
ント(欧州)リミテッドの欧州地域株式担当責任者です。本レポート
は、同社の欧州株式ポートフォリオ・マネジャーのグレゴール・ラプ
リッチ(CFA)および、欧州株式アナリストのデイビッド・ダグデー
ル(CFA)、ウィル・ハムリン(CFA)と共同で作成されました。4名
はいずれも英国ロンドンを拠点としています。
にあるという点です。
長期的な展望は依然として魅力的
株式市場は3月の底打ちから力強い回復を続けてきました
9
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
エマージング市場見通し
長期的にも投資効果の高かったエマージング市場
350%
300%
250%
200%
150%
100%
50%
0%
ピーター・メニー
2000
2001
2002
2003
2004
2005
MSCI世界指数
エマージング市場のリスク・リターン
特性は改善しており、エマージング
市場はブル(強気)相場、ベア(弱気)
相場のいずれでも先進国市場を大きく
アウトパフォームできると考えてい
ます。
2006
2007
2008
2009
2010
MSCIエマージング指数
出所:ブルームバーグ
弊社はこの楽観論を正当化する根拠は十分にあると考えま
す。例えばブラジルは堅調な成長が見込まれ、国内統治も
比較的良好であり、経済的ショックに見舞われた場合は利
下げを行う余力があります。こういったプラス面にもかか
わらず、ブラジルの株価水準は他のエマージング市場と同
水準となっており、魅力的であると弊社は考えています。
2009年のエマージング市場は、MSCI Barra指数で見ると
米ドル・ベースで79%上昇という素晴らしいパフォーマン
一部市場は更に魅力的
スをあげ、1988年の指数開始以来、最も好調な年となり
ました。これとは対照的に、先進国市場の上昇率は31%に
とどまりました。
特に株価収益率(PER)ベースで見た場合、割安となって
いる市場は他にもいくつかあります。2009年のロシア株
式はバリュエーションを理由に上昇し、一部にコーポレー
1980年代と1990年代を経験した人なら誰でも、エマージ
ト・ガバナンス上の懸念があるにもかかわらず、特に原油
ング市場を、頻発する危機が市場の崩壊をもたらす脆弱で
価格が回復した今、株価は妥当な水準にあると思われます。
リスクの高い市場として記憶しているでしょう。しかし今
トルコや韓国といった市場は、(例えばPERで見た場合)
般の金融危機を経て、このエマージング市場像は一変しま
株価が比較的割安であり、なおかつ世界経済の回復に向け
した。今や莫大な債務負担にあえいでいるのは先進国政府
好位置につけているというバランスの取れた市場となって
であり、その一方でエマージング市場は引き続き、一貫し
います。もちろん、トルコには政治リスク、そして韓国で
てより高いレベルの経済成長を遂げると見られます。エマ
は原油価格の上昇に起因する圧力があり、両国ともリスク
ージング市場が2009年1年間または2009年までの10年間
を抱えていますが、これらは現在の株価水準に織り込み済
に投資先として正しい選択肢であったのは明らかですが、
みと考えています。
今後の見通しはどうでしょうか?
中国は2009年に大規模な景気刺激策を実施し、元建ての
新規融資額は1兆米ドルを大きく上回りました。中国国内
10
2010年2月
および諸外国の景気刺激策が市場を下支えし、資産価格上
結論として、弊社は大幅な上昇を遂げた株式市場には全般
昇の条件を整えていることから、短期的な中国の経済見通
的に大きなリスクがあることを認識しており、また欧米先
しは引き続き良好と考えています。しかし長期的には中国
進国市場の貯蓄率上昇とエマージング市場の消費拡大によ
は成長のバランスを調整し、資本配分を見直す必要があり
る段階的な再調整が達成可能であるかについて懸念を抱い
ます。新規融資の規模を考慮すれば、中期的には不良債権
ています。しかしながら、エマージング市場のリスク・リ
が増加することが予想されます。同様に中国は天然資源の
ターン特性は改善しており、エマージング市場はブル(強
一大消費国であり、それら資源が逼迫すれば、成長のバラ
気)相場、ベア(弱気)相場のいずれでも先進国市場を大
ンス調整を迫られることになるでしょう。
きくアウトパフォームできると考えています。
エマージング市場の明るい見通しは、経済成長見通しによ
って裏づけられています。国際通貨基金は「新興国および
発展途上国経済」の2010年∼2014年の平均年間成長率を
ピーター・メニーはMFCグローバル・インベストメント・マネジメン
ト(ヨーロッパ)リミテッドのシニア・ポートフォリオ・マネジャー
です。同氏は英国ロンドンを拠点としています。
6%超と予測していますが、先進国経済の成長率はわずか
2.3%と予測しています。
ハンディキャップの認識と現実
ではなぜ、エマージング市場の株価水準は(ほとんどの評
価指標において)先進国市場とほぼ同水準となっているの
でしょうか。第一の理由は、これまでの「実績」でしょう。
投資家はエマージング市場のボラティリティに慣れてお
り、先進国世界の内在的なリスクの高まりにすぐには順応
できないでいます。第二に、市場間の「感染」があります。
エマージング市場は様々なグループから構成されていま
す。これは投資対象としては強みですが、(ドバイなど)
1つの小さなエマージング市場で発生した問題がその他の
エマージング市場に対する投資家心理に影響を及ぼす可能
性があるという点で、弱みともなっています。最後に、世
界的な不均衡や、よりバランスの取れた世界経済の成長を
どのようにして達成するかに関する問題など、全世界の株
式市場に影響を及ぼしている諸問題が引き続きエマージン
グ市場の足かせとなっています。
1
低迷時:88-90年、94-95年、97-98年、99年、00-01年、03-04年。2四半期、12カ月先物リターン単純平均
11
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
日本市場見通し
場も、中国と同様に拡大が続くと予想されます。
グローバル自動車市場も回復傾向へ
2009年(見込み)
百万台 前年比
(%)
冨岡 英浩
津本 啓介
2010年の日本株式は外需関連企業、
製造業によって牽引され底堅い推移を
期待できるでしょう。一方、日本の金利
については、デフレ環境の継続や国内
民間部門の資金余剰、さらに本邦投資
家のホーム・カントリー・バイアスを背景
に、低位で安定する推移を見込んでい
ます。
国内株式見通し
12
中国
12.5
米国
2010年(予測)
百万台 前年比
(%)
45%
13.5
8%
10.5
-21%
12.0
14%
アジア
3.8
(除く日本・中国)
-19%
3.9
3%
東欧
(ロシア含む)
3.5
-40%
3.8
9%
61.6
-7%
63.1
2%
グローバル
出所:ブルームバーグ
この恩恵を受ける自動車セクターは、国内株式の時価総額
の一割以上を占めます。関連産業の裾野は広く、販売回復
は、完成車メーカーはもちろん、例えば自動車部品メーカ
ーや、鉄鋼会社等の株価にとってもプラスに働くでしょう。
また、日本の自動車セクターはハイブリッド技術で先行し
ており、環境意識の高まりも追い風のひとつです。
ハイテクセクターも好調
一方、ハイテクセクターについては、PCやテレビ等の昨
2009年の国内株式は、9月以降下落基調が続き他の主要
年の需要は、2009年初にはマイナス成長が予想されてい
国に水をあけられていましたが、12月に入ると上昇に転
ましたが、新興国の成長に牽引され、通年で前年比プラス
じTOPIX配当込み株価指数は7.62%の上昇となりました。
の実績となった模様です。今年は、新興国の成長持続に加
国内株式が振るわなかった背景として、民主党政権や円高、
えて、先進国の需要の急回復も期待できます。先進国では、
相次いだ大型増資、さらにはドバイ問題や根強いデフレ圧
昨年の厳しい経済環境の中IT投資が削減された事例も多
力等が指摘されてきました。しかし一方で、自動車やハイ
く、この潜在需要の一部が、今年に後ろ倒しになって顕在
テクセクター等で見られる最近の環境好転は、まだ市場で
化してくると予想されるからです。また、ウィンドウズ7
十分に評価されていないと考えます。
の販売の出足が予想以上に好調で、関連製品の需要への波
各国の自動車市場は、昨年前半の大幅な落ち込みから回復
及効果も見込めます。
してきています。米国の自動車販売は、政府による買換え
ハイテクセクターは、電気機器や精密機器、さらに化学や
支援の補助金が切れたことで、いったん9月に急落したも
ガラス製品等の関連産業を含めた全体では、日本株の時価
のの、10、11月と増加し、政策による下支えがない中で
総額のおよそ25%を占めます。この中には、PCに使われ
も底打ちを確認できたようです。この回復基調は今年にか
る電子部品で高いシェアをもつメーカーや、タブレット
けても続くと期待できそうです。また、昨年に米国を抜い
PC、スマートフォン等の新しい製品に必要な高い技術力
て世界最大の市場となった中国は、今年も高い経済成長に
を持つ企業が多くあり、今年の需要回復を受け堅調な業績
伴い市場拡大が続く見通しです。インド等、他の新興国市
を期待できます。
2010年2月
日本経済は、内需面ではデフレによって企業業績が圧迫さ
財政赤字にかかわらず日本の金利が低く保たれた理由とし
れ依然低調ですが、一方でアジア等への輸出は引き続き堅
ては、デフレ環境の継続や、家計・企業の資金余剰(貯蓄
調で、生産や輸出は回復してきています。2010の国内株
過剰)、さらに本邦投資家のホーム・カントリー・バイア
式は外需関連企業、製造業によって牽引され底堅い推移を
ス(国内投資家が国債の90%以上を保有)が挙げられま
期待できるでしょう。
す。われわれは、財政悪化を懸念していますが、日本の金
利を低位に抑制するこうした要因が今後もしばらく働き、
国内債券見通し
金利は大きく上昇しないと見ています。
日本の金利は2009年を通じて低位で小さなレンジの中で
日本の国債残高(対GDP比)と金利の推移
の推移となりました。昨年年央までに景気の悪化には歯止
めがかかりましたが、その後の回復は緩やかなものに留ま
っています。その間、政府の経済対策が景気を下支えして
きましたが、一方で、財政赤字拡大に関する投資家の懸念
が高まりつつあります。1990年代以降わが国の財政が悪
化してきたにもかかわらず、日本の金利は諸外国に較べて
かなり低い水準を保ってきましたが、今後もそのような状
140%
3.5%
120%
3.0%
100%
2.5%
80%
2.0%
60%
1.5%
40%
1.0%
20%
0.5%
0.0%
0%
95
96
97
98
99
00
01
02
03
国債残高(対名目GDP比、%、左軸)
04
05
06
07
08
09E 10F
10年国債利回り(%、右軸)
況が続きうるのか、と疑問視する声が増えています。
出所:財務省、ブルームバーグ
昨年12月一ヶ月間のイールドカーブ(利回り曲線)の形状変
注:国債残高
(対名目GDP比、%)
について、2008年度までは実績、2009年と
2010年度はそれぞれ見込みと予測。10年国債利回りは各々年末値
化は特徴的です。日銀の追加金融緩和策採用等から短中期
の金利が低下する一方で、10年超の金利は、財政赤字へ
日本は大きな需給ギャップを抱えており、それが解消され
の懸念を反映するかたちで、上昇しました。
るまでには数年かかると見ています。多くの産業で過大な
設備や過剰な雇用を抱えているため、企業は設備投資に積
実際、日本の財政は悪化しています。2009年度の新規国
極的にならず、雇用環境の改善も期待できません。このよ
債発行額は2008年度の33兆円から20兆円増えて53兆円
うなデフレ環境では、企業はバランスシートの健全化(デ
となる見込みです。2010年度当初予算では、44兆円の新
ィレバレッジ)を継続し、民間企業部門の資金需要はきわ
規国債発行を予定しています。GDP対比の国債残高を見る
めて弱いものにとどまる見込みです。一方で、国内の金融
と、2008年度末の110% から2009年度末には127% に増
機関は、資金需要の低迷に直面するため、債券投資を拡大
加、さらに2010年度末には134% へと増える見込みです。
する以外の選択肢が限られるのが現状です。
民主党の財政政策は不透明感が残ると市場は見ています。
一方で、投資家はソブリン・リスクへの警戒感を強めてい
結局、家計や民間企業の資金余剰が、直接・間接に政府の
ます。アイスランド、ラトビア、ドバイ、ギリシアなど、ソブリ
資金不足を埋め合わせる状況が続くと考えられます。先行
ン・リスクに関する悪いニュースも増加しています。
きを見ても、企業からの資金需要が盛り上がらない限り、
いわゆる「クラウディング・アウト(資金需要逼迫による
国内金利は当面、低位で推移
このようにわが国の財政が急激に悪化するなかで、日本の
金利上昇)」に至らないため、日本の金利は、当面、低位
で推移すると考えています。
金利は先行きどうなるのでしょうか。これまで通り低位で
推移するのか、それとも、金利上昇へと向かっていくので
しょうか。
冨岡英浩および津本啓介はMFCグローバル・インベストメント・マネ
ジメント・ジャパン株式会社の取締役株式運用部長および取締役債券
運用部長です。冨岡、津本はいずれも東京オフィスに在籍しています。
13
グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス
グローバル債券市場見通し
バリー・エバンズ
クレジット市場は、2010年も引き続
き魅力的なレラティブ・バリュー戦略
のための投資機会を提供してくれるで
しょう。米ドルは対ユーロおよび対円
で上昇するものの、コモディティ通貨
および日本を除く一部アジア通貨に
対しては下落すると予想されます。
2009年にはクレジット・セクターおよび非政府機関発行
公開市場委員会(FOMC)が比較的早期に利上げを行った
場合、イールド・カーブが大幅にフラット化する可能性が
あります。経済情勢の改善や利回りの低さ、それにクレジ
ット・スプレッドが過去の平均を大きく上回って拡大して
いたことを背景に、投資適格社債および高利回り社債のス
プレッドはいずれも縮小し続けると考えています。スプレ
ッド縮小幅は2009年ほど極端ではないと思われるものの、
投資適格社債のスプレッドは40∼70ベーシスポイント
(bps)、高利回り社債のスプレッドは100∼200bps縮小す
ると予想しています。
の証券化債券セクターが予想を上回って上昇し、上昇ペー
スは2010年に入って鈍化するものの、依然としてプラス
米連邦準備制度理事会(FRB)およびその他の各国中央銀
2009年にはリスク・センチメントが為替を
牽引
行がいつ、どのように金融緩和政策を解除し始めるかであ
2009年の為替市場を牽引した主たる要因は、リスク・セ
り、弊社としてはFRBによる政府機関保証付モーゲージ担
ンチメントの変動でした。安全逃避先である米ドルはクレ
保証券(AMBS)の買取プログラム等の様々なプログラム
ジット・クランチと景気後退による恩恵を最も受け、大幅
は2010年前半で徐々に縮小されると予想しています。
に上昇しました。その後2009年第1四半期末までには不
のリターンをもたらす可能性が高いと見ています。焦点は
FRBによる利上げの可能性については2010年後半までな
いと考えています。このように早期の利上げの可能性はな
いとするものの、FRBが金利を据え置いているため、利回
りの上昇がイールド・カーブのスティープ化につながり、
米国債利回りは2010年の前半から上昇すると見ています。
その後、政策金利の引き上げが行われると予想される数ヶ
月前ぐらいよりフラット化してくるでしょう。もし、連邦
14
安が後退し始め、リスク・センチメントが変化したことも
あり、通年ベースでは米ドルはほぼすべての主要通貨に対
して下落することになりました。今後は昨年のような株式
市場との相関関係ではなく、むしろより伝統的なバリュエ
ーションの決定要因が2010年の外国為替市場を牽引する
と予想しています。
2010年は、世界各国の景気刺激策の出口戦略が重要なテ
2010年2月
ーマとなるでしょう。「危機的レベル」の財政・金融政策
年には好調となるでしょう。アジアでは、世界消費の継続
の解除時期は、ソブリン・リスク展望と金利差に直接影響
的な上昇傾向を受け、韓国ウォンとシンガポールドルがア
を及ぼすと考えられます。こういった状況を考慮すれば、
ウトパフォームすると予想されます。新興国市場通貨の中
米ドルはG3(日米欧)の中で有利な位置につけていると
では、弊社はブラジルレアルとインドネシアルピアを選好
言えます。
する姿勢を維持します。両国とも国内消費の底堅さを示し
一方で欧州中央銀行(ECB)は、欧州通貨同盟加盟国の中
ており、また金利環境も魅力的となっています。
の強い国と弱い国の双方にとって最も適切となるよう政策
のバランスを取るために柔軟性を犠牲にせざるを得ず、そ
のため出口戦略では米FRBに遅れを取ることが予想されま
バリー・エバンズ(CFA)は、MFCグローバル・インベストメントの
債券運用における最高投資責任者(CIO)です。エバンズは米国ボス
トンを拠点としています。
す。ギリシャおよびその他の周辺加盟国では引き続き脆弱
性の兆候が見られ、そのため一層2010年のユーロはレン
ジ内で推移することになると思われます。対米ドルで14
年ぶりの高値をつけた日本円は、2010年には円安に転じ
ると弊社は考えます。日銀は長期的なゼロ金利政策を維持
する姿勢を弱めていないことから、円は揺るぎないファン
ディング通貨としての地位に回帰すると見られます。イン
グランド銀行は2010年に量的緩和政策を終了すると見ら
れますが、英国の財政状況が悪化していることから、弊社
は依然として2010年の対米ドルおよび対ユーロでの英ポ
ンド上昇には否定的な見方を取っています。
2010年には一部のコモディティ通貨および日本を除くア
ジア通貨に投資機会が生じると考えています。弊社は依然、
オーストラリアドルに関して前向きな姿勢を取っており、
中国のインフラ構築とオーストラリアのコモディティ輸出
セクターとの間の有益な関係に変化はないと考えていま
す。またオーストラリア準備銀行の積極的な金利政策も、
引き続きオーストラリアドルを下支えするでしょう。カナ
ダ経済が目覚ましい回復を示し、原油価格の安定化によっ
て浮上する中、弊社はカナダドルが2010年に米ドルをア
ウトパフォームすると見ています。タカ派姿勢の中央銀行
と原油輸出に支えられ、ノルウェークローネもまた2010
15
主要オフィス一覧
トロント
MFCグローバル・インベストメント・マネジメント
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MFCグローバル・インベストメント・マネジメント®について
MFCグローバル・インベストメント・マネジメント®(以下、MFCGIM)は、生命保険および資産運用サービスにおいて世界有数の金融サービス会社であるマニュライ
フ・ファイナンシャル・コーポレーション
(本社トロント)の事業部門のひとつです。MFCGIMおよび系列会社は、グローバルな資産運用サービスを世界主要各国の機関
投資家、投資ファンドおよび個人のお客様に提供しており、伝統的な株式や債券運用のみならず、石油・天然ガス、不動産、森林、農地、非公開株式などのオルタナ
ティブ投資を含めたあらゆる資産クラス、およびアセット・アロケーション戦略を展開しています。MFCGIMの運用拠点は米国、カナダ、英国、日本、香港およびアジ
ア9ヶ国に配置され、2009年9月末時点の運用資産残高はおよそ24.8兆円
(2,970億カナダドル)にのぼります。
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日本では国内外のマニュライフ・グループや海外顧客に対し国内株式や国内債券の運用をご提供するほか、日本の年金基金をはじめとする機関投資家のお客様に
MFCグローバルが運用する国内外の運用商品(森林投資等のオルタナティブ含む)をご提供しています。東京ではCIOを含め総勢13名の運用プロフェッショナル
(2010年1月現在)を擁し、海外拠点のファンド・マネージャー、アナリスト、エコノミストとグローバルな市場動向について情報を共有しつつ、豊かな経験に基づいた
質の高い運用サービスをご提供しています。MFCグローバル・インベストメント・マネジメントに関する詳しい情報についてはセールス・顧客サービス部(03-52045540あるいは[email protected])
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ディスクレーマー
MFC Global Investment Management®ロゴマークはザ・マニュファクチャラーズ・ライフ・インシュアランス・カンパニーのトレードマークであり、同社およびマニュ
ライフ・ファイナンシャル・コーポレーションを含むグループ企業に帰属するものです。当資料に記載される見解は2010年1月現在における弊社独自のものですが、
これらは市場環境等によって変動します。当資料は作成時において信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、信頼性、完全性を
保証するものではありません。当資料に記載される見解およびコメントは現状に基づいた一般的なものであり、マニュライフ・ファイナンシャル、MFCグローバル・
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