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参考資料 2005 年度 JARI 国内訪問インタビュー

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参考資料 2005 年度 JARI 国内訪問インタビュー
参考資料
2005 年度 JARI 国内訪問インタビュー調査結果の概要
-293-
-294-
インタビュー訪問先一覧
調査対象機関
大学・公的研究
訪問先
訪問日時
・Ⅰ.東京大学
2005 年 12 月 15 日
・Ⅱ.京都大学
2005 年 11 月 25 日
・Ⅲ.固体高分子形燃料電池
先端基盤研究センター(FC-Cubic)
2005 年 11 月 21 日
・Ⅳ.トヨタ自動車株式会社
2006 年 1 月 24 日
・Ⅴ.日産自動車株式会社
2006 年 2 月 6 日
・Ⅵ.株式会社本田技術研究所
2006 年 1 月 30 日
・Ⅶ.三菱自動車株式会社
2006 年 2 月 7 日
・Ⅷ.スズキ株式会社
2006 年 1 月 24 日
・Ⅸ.General Motors
アンケート形式で実施
・Ⅹ.DaimlerChrysler
アンケート形式で実施
・ⅩⅠ.大阪ガス株式会社
2005 年 10 月 18 日
・ⅩⅡ.新日本石油株式会社
2006 年 2 月 10 日
インフラメーカ・
・ⅩⅢ.東京ガス株式会社
2006 年 2 月 10 日
水素容器メーカ
・ⅩⅣ.大陽日酸株式会社
2005 年 11 月 16 日
・ⅩⅤ.岩谷産業株式会社
2005 年 11 月 16 日
自動車メーカ
エネルギー会社・
・ⅩⅥ.株式会社ジーエス・ユアサ
コーポレーション
FC スタック・
電池メーカ
FC コンポーネント
メーカ
2005 年 10 月 26 日
・ⅩⅦ.三洋電機株式会社
2005 年 12 月 14 日
・ⅩⅧ.三菱重工業株式会社
2005 年 10 月 17 日
・ⅩⅨ.東レ株式会社(機能材料研究所)
2005 年 10 月 26 日
・ⅩⅩ.東レ株式会社(コンポジット技術部)
2006 年 2 月 23 日
・ⅩⅩⅠ.ジャパンゴアテックス株式会社
2005 年 10 月 18 日
※General Motors および DaimlerChrysler は,アンケート形式で実施。
-295-
・
-296-
I. 東京大学山口助教授訪問インタビュー調査報告
日
時
平成 17 年 12 月 15 日(木)13:30~
場
所
東京大学工学部研究室
応対者
東京大学 工学部 化学システム工学科 山口 猛央 助教授
1. 燃料電池に関する研究の経緯と概要
① 当研究室では,主に PEFC のシステム設計と細孔フィリング膜という電解質膜に関す
る研究,電極触媒層のナノ構造制御に関する研究を行っている。
② 専攻は化学工学注)と呼ばれる分野であり,反応工学や分離工学などを背景にしたシス
テム的な思考を駆使して化学工場を熱や物質によって最適化していくことを目的とし
た学問である。この対象をオングストロームオーダーまで落とせば,化学の世界に入っ
ていく。燃料電池を一つの化学工場として捉え,化学工学のシステム的な考え方はその
ままにして,非常に複雑な機能材料の設計開発を,燃料電池を対象に研究しているのが
当研究室の特徴である。
③ 薄膜に関する研究は 18 年前から行っていたが,燃料電池に取り組んだのはこの 6 年で
ある。化学工学と膜というバックグラウンドから,燃料電池の電解質膜の研究に入って
いった。現在は,燃料電池全体に関する研究に広がっている。
④ PEFC の用途としては,ポータブル用 DMFC,自動車用,家庭用 PEFC のそれぞれに
ついて研究を行っている。それぞれ要求される使い方,耐久性,材料特性等が全て違
うため,必要とされる電解質膜,触媒層それぞれ全て違うものをターゲットに研究を
行っている。
注)
化学工業における製造上の計画や製造装置の設計などに関する研究を行う工学の一分野
-297-
2. 細孔フィリング型電解質膜
(1) ダイレクトメタノール形燃料電池用電解質膜に関する研究概要
1) DMFC の目標と課題
① DMFC は現状ではポータブル用途で期待されているが,高温でメタノールを高密度で
用いれば自動車用として航続距離を伸ばすことも不可能ではない技術だと考えてい
る。
② DMFC に要求される性能(解決せねばならない課題)は,
・メタノールのクロスオーバーの抑制が最大の課題であり,
・10-1 S/cm 程度の高いプロトン伝導性を有し,
・寸法安定性があり,高い機械的強度を有し,
・電気化学反応に対して,長期の耐性を有し,
・低コストで製造できる
ことである。
③ 通常のナフィオン膜では 10%以下,5%程度のメタノール濃度の燃料を用いるところ,
最初の目標として 10M(32%)でかつ上記条件を満たす炭化水素系の電解質膜の開発
を目標としている。
④ メタノール 1 に対して水 1 で反応するためメタノール濃度の理論値は 62%が最高とな
る。しかし一般にメタノールを高濃度にすると,水の活量が落ちて膜のプロトン伝導
性が落ちる。最近開発している膜では濃度 60%でも不可能ではないと考えているが,
プロトン伝導性との兼ね合いで初期目標を 30%とした。
⑤ 反応に不足するメタノールは補機によるメタノール循環方式により追加していく。メ
タノール循環方式にすれば,100%のメタノールを供給し,カソード側から水を内部供
給するというシステムも考えられる。濃度が濃いほど,対処する水の量が減るので補
機の負荷が減る。プロトン伝導性とのバランスから補機の負荷を軽くしつつ,パッシ
ブで燃料を供給するシステムでは 30%程度の濃度が必要となる。
⑥ 現状のリチウムイオンバッテリーと重量エネルギー密度[Wh/kg] を比較する(図Ⅰ
-1)。DMFC ではメタノールの濃度によってエネルギー密度の 7~8 割が決まる。メタ
ノール濃度 30%で利用率 100%(赤線)のときには,今のリチウムイオンのエネルギー
密度(150~200 Wh/kg)の 4~5 倍程度に匹敵する。補機を付けて最適化すれば DMFC
では 1,000Wh/kg から 2,000Wh/kg も不可能ではない。メタノール濃度 30 何%でメタ
ノール利用率 100%として,1,000Wh/kg 程度が現状の狙いとなる。
-298-
リチウムイオン電池との比較
エネルギー密度
1Wh
1Wで1時間通電したときに
取り出せる電気エネルギー
2000
重量エネルギー密度 [Wh /kg]
重量当たりに
貯め込める
電気エネルギー[Wh/kg]
50%
80%
100%
1500
Liイオン電池
1000
500
0
Li-ion battery
すでにエネルギー容量は、ほぼ限界に
近い。カーボンを用いない合金化など
未来技術を導入しても現状の1.5倍程
度が目標。
0
10 20 30 40 50 60 70
メタノール水溶液濃度 [wt%]
DMFCの電圧 = 0.5V
(赤:溶液中のメタノール利用率 100%,青:80%,緑:50%)
図 I-1
リチウムイオン電池との比較
2) 細孔フィリング膜のコンセプト
① 上記の目標を同時に達成するため,図Ⅰ-2 に示すような細孔フィリング型電解質膜を
提案している。細孔フィリング型電解質膜とは耐熱性・耐化学薬品性の高い数 10nm~
数 100nm 程度の細孔がある基材の細孔中に電解質ポリマーを充填したものである。膜
厚は数 10μm~100μm,アスペクト比1対 1000 程度であり,穴の形状は実際には複
雑な形状をしている。この細孔中に電解質ポリマーを充填する技術を有している。この
細孔フィリング膜は 1988 年に研究を開始した当研究室独自のものである。
② その特性としては基材に非常に強い物質を用いるため,そのたがにより細孔中の電解質
ポリマーが膨潤しにくいことが挙げられる。ポリマーに架橋して膨潤を抑制する方法も
あるが,この方法ではプロトン伝導性が落ちる。物理学的な計算でも,基材を強化して
周囲から膨潤を抑制した方が,膨潤抑制効果が高いことが明らかになっている。図では
水が透過するように描かれているが,膨潤を抑制することにより,実際には現状では水
もあまり透過しないようにしており,水が若干入ってプロトンだけが通ってメタノール
も通らない。ガスリークもほとんど生じない膜が開発できている。
③ 細孔フィリング膜の作成法としてはプラズマ照射グラフト重合法と,細孔内にモノマー
を含浸した後にラジカル重合を行う充填重合法の 2 種類を用いている。
-299-
細孔フィリング膜のコンセプト
Dry membrane at room temp.
Single material
×
H2 O
MeOH
All of functions
H+
Assign function
to each material
and make
system
Pore-filling membrane concept
T. Yamaguchi et al., Macromolecules, 24, 5522-5527 (1991)
H2O
Membrane during operation
substrate:
suppress membrane swelling
filling polymer:
reduce MeOH crossover
図 I-2 細孔フィリング膜のコンセプト
3) 細孔フィリング膜の性能特性
① ポータブル用では非常に安い素材を用いたいため,例えば基材には多孔性耐熱架橋型ポ
リエチレン(CLPE)などを用い,充填する電解質ポリマーとしてアクリル酸とビニル
スルホン酸の共重合体(AAVS,スルホン酸基濃度 0.7mmol/g-dry polym.)や 2-アク
リルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ATBS,スルホン酸基濃度 4.5mmol/g-dry
polym.)などを用いた。スルホン酸基を高濃度に含有するポリマーを充填した場合に
は,基材により膨潤を強く抑制しても,プロトン伝導性をそれほど損なわずにメタノー
ル透過性を抑制できる。
② 水の中に入っている状態と乾燥している状態での,膜の面積の変化をナフィオン膜と比
較すると(図Ⅰ-3),ナフィオンはメタノール濃度が上がると急激に膨らむが,細孔フィ
リング膜(CLPE-ATBS)はほとんど膨張しない。
-300-
電解質膜における膜面積変化率
Membrane area change ratio [%]
100
Nafion117
CLPE-ATBS
80
60
Pore filling
ratio : 59%
40
20
0
0
20
40
Methanol concentration [wt%]
60
図 I-3 電解質膜の膜面積変化率
4) 細孔フィリング膜を用いた燃料電池の性能特性
① メタノール濃度と出力の関係をナフィオンと細孔フィリング膜を用いた DMFC で比較
する(図Ⅰ-4,図Ⅰ-5)。ナフィオンの場合,メタノール濃度 8%であれば出力が出る
が,16%,32%ではほとんど出力が出なくなる。これに対して細孔フィリング膜では
32%でも 50mW/cm2 程度は出る。さらに膜厚や触媒量,温度を上げればさらに出力を
上げられることがわかっている。
② 耐久性についても,企業との共同研究では DMFC の DSS 試験で,5,000 時間を超える
実績がある。ポリエチレン型の細孔フィリング膜でも,うまく作ればほぼ同等の耐久
性があることが証明されている。
③ H2-O2 燃料電池試験では,60℃の常圧でも 1W/cm2 の出力が出ている。性能が非常に
良い理由は,プロトン伝導性が大きく IR 損が小さく,カソード損しか出ないためであ
る。解放起電力が高く,ガス透過実験からも,水素のクロスオーバーが低い膜だとい
うことがわかっている。
-301-
DMFC performances using Nafion117
membrane
MeOH conc.
●
8wt%
●
16 wt%
●
32 wt%
1
Atmospheric
Pressure
80
0.8
0.6
60
0.4
40
2
Power density [mW/cm ]
Volltage [V]
50 oC
100
20
0.2
0
0
200
400
Cathode:
O2
Pt loading
1.1 mg/cm2
Membrane:
Nafion117:200μm
0
800
600
Anode:
MeOH aq. Sol.
2.5M~10M
PtRu loading
2.0 mg/cm2
2
Current density [mA/cm ]
図 I-4 ナフィオン 117 を用いた DMFC の性能
DMFC performances
using the pore filling membrane
MeOH conc.
●
8 wt% 100
●
16 wt%
●
32 wt%
1
Voltage [V]
80
0.6
60
0.4
40
20
0
0
200
400
0
800
600
2
Current density [mA/cm ]
2
0.2
Power density [mW/cm ]
0.8
50 oC
Atmospheric
Pressure
Anode:
MeOH aq. Sol.
2.5M~10M
PtRu loading
2.0 mg/cm2
Cathode:
O2
Pt loading
1.1 mg/cm2
Membrane:
CLPE-ATBS:
20μm
図 I-5 細孔フィリング膜を用いた DMFC の性能
-302-
5) 全芳香族炭化水素系細孔フィリング膜
① 以上の膜でもまだメタノールのクロスオーバーが完全に抑えられていない。そこでメタ
ノールのクロスオーバーを下げる材料を探し,全芳香族系の炭化水素で細孔フィリン
グ膜を開発した。代表的なものは基材に多孔性ポリイミド(PI)を用い,充填ポリマー
としてスルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)を用いたものである。耐熱性の高い
素材を意識して選んだ。ポリイミドは非常に耐熱性があり,熱変化は 0 である。
② PI を直接スルホン化すると弱くなるが,PI を基材として用いるため,ポリイミド基材
自身の化学的耐性自体を上げることができる。充填ポリマーはポリマーでスルホン化
しても強いものということで選び,成形することが可能となる。
③ プロトン伝導性については,入っている水の量が非常に低くても,十分に高いプロトン
伝導性が達成できることがわかった。
④ 細孔フィリング膜は 25℃でも 80℃でもほとんどクロスオーバーしない。25℃のデータ
で比較すると,ナフィオンの数百倍ほどメタノールクロスオーバーを抑えていること
になる。
⑤ この膜はフェントン試験に対する耐久性が非常に高いことがわかっている。フェントン
試験で充填ポリマーがそのままだと 30 分くらいで膜が全部なくなってしまうが,この
膜では 10 時間後でもウエイトロスが大きくない。酸化やラジカル耐性が高い膜である
ことがわかる。これは細孔の中に OH ラジカルが入ってくることが難しい上に,入っ
てきても全然動けず,寿命も短いので影響が少ないということが考えられる。ガスも
メタノールもラジカルもほとんど入れないというものになっていると予想される。
⑥ DMFC 用の電解質膜としては,メタノールのクロスオーバーを抑制してエネルギー密
度を向上させることが最大の課題であったが,メタノールクロスオーバーを大きく減
少させ,ほぼ改善されたと考えている。
⑦ 耐久性のさらなる向上に向けた取り組みを行っている。今後,水素-酸素系の燃料電池
へもこの膜を展開していきたい。
6) 大量生産性について
大量生産性についても容易に製造できるように工夫している。ポリエチレンをベースと
したロール上の膜を作る方法は共同研究企業において既に完成している。マーケットがで
きればラインがひける段階である。次世代の膜について現在取組んでいるところである。
-303-
(2) 自動車用芳香族系炭化水素電解質膜に関する研究概要
① 細孔フィリング膜では,基材と充填ポリマーが用途によって選択可能であり,自動車
用への適用も考えて,高温耐性の膜を目指して,最初から非常に強い素材を組み合わ
せた膜を研究している。炭化水素系の膜はナフィオンよりはずっと安くできると考え
ている。現在,当研究室では,水素-酸素系の燃料電池に研究の重点をかなりシフト
させている。
② 具体的にやっていることは,ZrP(リン酸ジルコニウム)をポリマーの中にナノサイズ
で分散させる。例えば図Ⅰ-6 は SPES に ZrP を分散させたもの(ハイブリッド型)の
相対湿度別のプロトン伝導性をみたものだが,湿度が低くてもノーマルのものに比べ
同等の伝導性を示している。これは 90℃のときだが,55℃といった低温でもプロトン
伝導性は向上する。自動車用途として低温から高温まで伝導性を上げていくという考
え方で取り組んでいる。ナノ粒子で入れるというところがポイントであり,こうした
成果が得られている。
③ 後述するナノ制御法によって触媒層に SPES ポリマーを導入し,ハイブリッド膜と組
み合わせて,全て炭化水素系の MEA を作成し,100℃,1 気圧でも高い燃料性能を示
すことに成功している。湿度は 60〜70%くらいまで落ちている。飽和蒸気圧が 1 気圧
のところで水素と酸素を入れるため,SPES 膜の性能は図の程度であるのに対して,ハ
イブリッド形 MEA では,100℃,1 気圧でも性能が発揮されることを示す。一般には,
炭化水素系で 100℃,1 気圧ではプロトン伝導性が落ちるため難しい。触媒層の構造制
御をもっと改善すれば,さらなる性能の向上が期待できると考えている。
④ 自動車用途の膜としては,クロスオーバーと IR 損については,従来の膜よりも良いも
のができたと考えている。当研究室では,30μm や 20μm の膜厚にしているため,IR
損は低く,それでいてクロスオーバーを抑えることができる。耐久性能については炭
化水素膜全般と比べると過酸化水素に対する耐性は強いが,ナフィオンには劣る。そ
の分クロスオーバーを抑え,酸化物生成を抑制するといった全体的な取り組みによっ
て,ナフィオンより耐久性を向上させようと考えている。コストについてもナフィオ
ンより格段の低コスト化が可能である。
⑤ 高温耐久性については,最高温度で 120℃程度,低温から高温まで広い領域で良い性能
が出る膜を目指して研究開発を進めている。
-304-
Conductivity S/cm
Proton conductivity values of the Hybrids at 90oC
-1
10
ZrP-SPES
SPES
-2
10
-3
10
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
%Relative humidity
図 I-6 ハイブリッド膜の 90℃におけるプロトン伝導性
3. 実験と計算によるアプローチを用いた燃料電池のシステム設計
(1) 電解質ポリマーの耐久性評価
① コンピュータによるシミュレーションと実験とを組み合わせた燃料電池の設計を検討
している。例えば,次々とポリマーを作ってフェントン試験をしても効率的ではない。
もしくは燃料電池に組んで耐久性を評価してはとんでもない時間がかかる。そこで,計
算でポリマーがどのくらい耐久性があるのかというのを求め,実験で検証するというこ
とを行っている。
② 例えば SPES をフェントン試験にかけると,主鎖のどこが切れたかを GPC(分子量の
変化)によって把握できる。いくつかのタイプのポリマーについて半経験的な量子化学
計算により耐性が高いポリマーを探し,合成を行う検討をしている。
-305-
(2) 燃料電池の触媒層の設計
① 燃料電池の触媒層の設計に関しては,オブジェクト指向によるモデルを構築し,シミュ
レーションを行っている。例えば,色々なシミュレーションモデルが考えられるが,
外側の流路の計算等は非常に良く合うモデルがある。一方,触媒層の中での電気化学
反応と物質移動については直接的なモデル化が難しい。そこで,構造(触媒層厚み,
細孔径,気効率等),電解質物性(プロトン伝導率,拡散係数,電気浸透係数等),
反応(交換電流密度,移動係数)をそれぞれ 1 つのところに格納して入力し,PEFC
の発電試験結果を予測するモデルを構築する(図Ⅰ-7)。これはオブジェクト指向によ
るモデル構築の考え方である。例えば電解質物性だけを変えて同じ構造でどう性能が
変わるのかや,触媒だけを変えて構造が変わらないようにして,どう変わるのかとい
うことを予測したい。実験をやるとだいたい他も一緒に変わるので実験では把握でき
ない。それでこうしたシミュレーションを活用し触媒層の設計を行うことを検討して
いる。
② 実験結果との比較によって反応のパラメータを導出し,細孔の構造も燃料電池試験で
はなく分析実験によって導出し,電解質物性もナフィオンの文献値を用いて格納して
計算を行う。
③ 最適化により触媒を減らしていくことを考え,成功している。
④ 今後はさらなる性能向上と耐久性向上を目指し,ミクロからナノ,メソ,マクロと繋
げて解析,モデル解析を行う。さらに,構造制御などを用いて検討していく。実験と
計算を何度もフィードバックかけてさらに最適化していくことを行っている。触媒の
利用率を上げればよいことがわかっているので,主に利用率を上げる検討を行ってい
る。
PEMFCのシステム設計
カソード電極
構造
物性
反応
•触媒層厚み
•細孔径
•気孔率 etc
•プロトン伝導率
•拡散係数
•電気浸透係数等
•交換電流密度
•移動係数
電解質膜
アノード電極
PEMFCモデル
モデルの検証
性能予測
PEMFC発電試験
図 I-7 PEMFC のシステム設計
-306-
少ない触媒量で
性能を維持した
PEMFCの開発
(3) 白金反応の解析と実証
① 白金触媒における反応について詳細に解析を行っている。一般に用いられているモデル
式には Buttler-Volmer 式または Tafel 式があるが,これに含まれる移動係数αは電圧
による酸素の吸着状態によって 1.0 または 0.5 を取るといわれている。しかし,それが
本当なのかどうかは実際にはわかっていないのが現状であった。
② そこで当研究室では,燃料電池の MEA の三相(白金,カーボン,電解質)界面を作っ
て,白金の反応性を直接計測することに挑戦した。触媒活性な白金面積は CV(Cyclic
Voltammetry Analysis)で把握し,白金の表面積あたりでどういう反応が起こってい
るかを MEA の状態で計測する。一般的には回転ディスク電極での実験があるが,これ
は anyon 注)の効果や硫酸中か塩酸中かで性能が異なったりする問題があった。MEA
を用いてそのまま計測できたところが当研究室の特徴である。
③ 白金における Tafel プロットを電力依存の低いところを含めて行うと,低電圧領域でα
=0.5,高電圧領域でα=1.0 になることが確認できた。さらに触媒粒径が同じ場合,
担持密度や担持量が異なっても,有効白金表面積当りの交換電流密度でみると,α=
1.0,α=0.5 別にみて,電圧に依らず同様な値が得られることがわかった。
④ MEA のⅠ-V 曲線において,低電流高電圧領域のところで,1.2V から急激に電圧が落
ちるが,この理由が白金への酸素種の吸着であることが示唆された。現在,低電流領
域での電圧降下への対応(α=1 にならないような)検討を行っている。新しい触媒を
見つけること,白金を有効に使う方法も含めて検討を行っている。
4. 新規電極層ナノ構造制御法
(1) 新規電極層ナノ制御法
① 触媒担持カーボンは凝集体構造で,現状で有効利用されている白金は数十%である。
個々のカーボン粒子間の一次細孔は 20~40nm,カーボン粒子の集合体間の二次細孔は
0.1~1μmである。ポリマー電解質が入れない一次細孔中にモノマーを入れ,カーボン
にグラフト重合し,プロトン伝導体をカーボンの表面に構成する。これにより三相界
面量が増え,触媒の利用率を向上することができる。(図Ⅰ-8)
② 具体的には,カーボンブラック表面を活性化し,表面の OH 基に反応基をつける。そ
の後,グラフト反応により,プロトン伝導体のポリマーをつける。こうしたカーボン
の表面修飾を行ったのち,これを白金触媒と混ぜて MEA を作成する。
③ 全く同じ膜,触媒量で全く同じように作成した MEA の性能を比較したところ,50mV
以上向上している。これは有効白金量が向上したことが主な理由である。
④ 化学工学の考え方はバランスである。燃料電池の全体設計に向けて,全ての現象を理
解し,まず耐久性についてはポリマー自体の耐久性向上を目指す。さらに膜のガス透
過リークを下げることを考える。白金の反応性についてはなぜ吸着被毒が生じるのか
を含めて解析する。カーボン担体の改良も考えられる。カーボン表面によっては H2O2
が発生しやすいものもある。そうした検討を総合的に行い,高性能高耐久性な DMFC,
PEMFC を検討していきたい。
注)
《理》エニオン:素粒子であるボソンとフェルミオンの中間的な粒子。
-307-
新規電極層ナノ構造制御法
電解質ポリマーのグラフト重合
全ての触媒を
利用可能
ポリマー電解質が入れない1次細孔中にも
モノマーは入れる→ グラフト重合法の提案
図 I-8 新規電極層ナノ構造制御法
(2) 自動車用 FC の白金触媒低減の可能性について
自動車用 FC の白金触媒量の目標値 0.2g/kW に対して,例えば 1W/cm2 あるとすると,
水素-酸素系では 0.1mg/ cm2 が研究室での実証レベルであり,0.1g/kW となる。空気
を用いた場合で 0.2g/kW あたりが短時間での実験室ベースでの実力だと思われる。過
酷な条件での耐久性を考慮した値としては,現状ではもっと悪い水準にあると考えられ
る。
-308-
5. 今後の研究課題・展開等について
① 細孔フィリング膜のコンセプトについては,DMFC と自動車用途の燃料電池で実証し
てきた。残された課題として基礎研究の充実がある。例えばポリマー物質のデータにし
ても,物性が全部揃っているのは現状ではナフィオンのみである。他のポリマーについ
ても,物性データを測定し,解析システムに入れていかなければならない。白金や白金
との合金についても,物性を測定し,反応性のパラメータを整理しないと,解析システ
ムを活用できない。
② DMFC については,複数の企業と共同研究を行っている。基本的には作り方を企業に
伝授し,企業サイドで耐久性とスケールアップについて検討してもらうという方式であ
る。ポータブル用 DMFC の実現性は見えていると確信している。
③ 触媒層のコンセプトについても複数社が興味をもっており,同様の共同研究に展開する
ことを考えている。
④ 自動車用途については,もう少し長期的な取り組みが必要である。研究課題は耐久性と
性能とコストのバランスをうまくとっていくことである。ただ膜の耐久性が実証されれ
ば,膜のコストは下げられるだろうと考えている。白金触媒は資源量的に全体として使
用量を下げる必要がある。低温から高温域全体の性能向上を目指すとすると,少なくと
も始動時には白金を使う必要がある。二次電池を使って何 10℃以上のところしか燃料電
池を使わないという可能性もあるかも知れない。そうしたことも想定しながら,俯瞰的
なアプローチによって検討していく必要があると思っている。
⑤ 現状のフッ素系やハイドロカーボン膜が抱えている問題について,当研究室の細孔フィ
リング膜のコンセプトによって解決に向かうと信じている。
⑥ 当研究室では,電解質膜から研究を開始し,そこから徐々に研究対象を広げてきたため,
触媒の研究にはまだ本格的に入っておらず,これから充実させていきたいと考えている。
私見であるが,1つの研究室がシステム全体をみないと最適化は難しいと思っている。
各階層では専門知識の豊富な企業と協力する必要がある。しかし,全体設計は 1 つのグ
ループの人間の頭の中で行わないと,うまくいかないと考えている。
6. 共同研究・国プロへの参画状況
① 現在は,主に企業との共同研究を行っている。日本メーカ複数社と共同研究を行ってい
る。電解質膜の共同研究に関しては,名前を公表している企業も存在する。
② 燃料電池の NEDO プロジェクト及び JST の CREST プロジェクトに過去には参画して
いた。今年度は参画していない。
③ プロジェクトとして,大学間の共同研究はあまりやっていない。ただし,研究室間の合
同ゼミなどは積極的に行っている。
7. 国等への要望事項
特になし。
以上
-309-
II. 京都大学小久見教授訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 11 月 25 日(金)14:00~
場
所
京都大学
小久見研究室
応対者
京都大学
教授
小久見
善八
1. FC に関連する研究の経緯および研究内容について
① 1976 年に MEA を使った有機電解を始めて以来,
PEFC の MEA とのつきあいである。
当初は SPE(solid Polymer Electrolyte)法電気分解と呼んでいた。
② ナフィオンの物理化学的な特性を向上させるためプラズマ重合でクロスリンクしたナ
フィオンライクな膜を作成した。
③ 一連の研究として,ナフィオンのガス透過の研究を行った。ガス透過が問題を引き起
こすので,その透過速度の計測から,Nafion 中への酸素・水素の溶解度と Nafion 中
の拡散定数を見積もった。これに基づき,Nafion の構造のモデルを提案した。
④ NEDO で PEFC のプロジェクトを開始したことから,ナフィオンの中に白金コーン電
極を挿入したモデル電極で,有効電極深さを調べた。
⑤ 三相界面をモデル化するためのメニスカス電極の研究を行っている。炭素の上に白金
を担持させて,ナフィオン溶液を塗布した電極を水溶液に浸漬し,これを引き上げて
いくと,予想されるよりも高いところまで有効に電極として働くメニスカス電極がで
きる(これをスーパーメニスカス電極と呼んでいる)。このスーパーメニスカス電極に
ついて具体的な研究を進めている。
⑥ PEFC の劣化が重要な課題であることを認め,劣化要因の研究を始めた。ナフィオン
が過酸化物に弱いことは以前から知られており,Nafion の安定性について研究に着手
した。それが同志社大の稲葉教授の研究室で発展している。現在は,NEDO のスタッ
ク劣化プロジェクトの中で,触媒担体の劣化要因に関する研究を行っている。
⑦ メタノールには毒性があるため,これを避けるためにエチレングリコールを燃料とし
た直接型アルコール燃料電池の研究も行っている。エチレングリコールは 120℃でも
蒸発しないため,高温化も可能である。
⑧ 直接型アルコール燃料電池の触媒として,金のナノ粒子に注目し,モデル電極を用い
て,どのように触媒が作用するのか研究を行っている。
⑨ 電解質膜にポリリン酸塩を使った中間温度作動の FC の研究も行っている。250℃~
270℃の温度領域を狙っている。耐久性は今後の課題だが,ポリリン酸塩のプロトン伝
導について検討している。
-310-
2. PEFC に関する課題等について
(1) MEA からみた耐久性に影響を及ぼす主な課題(図Ⅱ-1)
① 電極触媒では,白金触媒粒子の活性表面積の低下がある。この粒子成長の抑制は難し
い課題である。
② 作動中に担体カーボンが消耗する現象も見られ,カーボンが酸化されると白金粒子が
担体から脱離するなど,触媒の劣化を招く。Pt は炭素の酸化にもよい触媒として働く。
酸素還元だけに活性を示すようにするにはどうすればよいか。
③ 改質ガスで作動する場合,Ru が溶出して耐 CO 被毒性が劣化する。エアーブリードな
どの方法があるが,劣化に対する影響などが未解明。
④ 電解質膜では,とくに低加湿条件での作動や反応ガスのクロスオーバーが多い場合に,
電解質膜の劣化が顕著であることが明らかになってきている。
⑤ 低加湿がどうして劣化を促進するのか,手探りの状況である。これまでと視点を変え
て研究する必要がある。
⑥ 高温作動電解質は極めて難しいが,大規模普及には必用な材料。水の活量が1より著
しく低い状態で高いプロトン導電を示すことは大変難しい。プロトンホッピングが真
にどこまで起こるか,慎重に検討しなければならない。
⑦ 作動中にカーボンの表面酸化や撥水剤の撥水性の低下などにより,電極が水で濡れ,
物質輸送に遅れが生じる問題がある。物質輸送に関する詳細な検討が必要。
⑧ ガス中の組成分布の不均一化,水や空気,燃料中の不純物等による汚染なども劣化要
因として考えられる。
図 II-1
MEA から見た耐久性に影響を及ぼす主な課題
-311-
(2) 炭素担体の劣化に関する課題について
① 炭素材料の劣化について,劣化速度に影響をあたえる因子の抽出が必用。
② 結晶性の高い炭素は反応性が低く耐性が高い。しかし,触媒を担持するためには,欠
陥が多い炭素がよいであろう。
③ 炭素の edge 面から炭素が酸化されると,Pt 微粒子が edge 面の後退と一緒に動き,集
まってくることを見出している。
④ 炭素は食塩電解工業でアノード材料として長い間使用されてきた。塩素発生という過
酷な条件下であるが,消耗しながらも使用されてきた。PEFC 作動条件下でどの程度
酸化されるか,その反応機構の解明も含めて,基礎的な研究を進めて,炭素担体を上
手に使う方法を開発することが望まれる。
(3) 固体高分子膜の劣化に関する課題について
① SPE 有機電解を研究していたころから,ナフィオンが過酸化物に弱いということが言
われていた。しかし,Nafion の構造からすると,過酸化水素によって容易に分解され
るのだろうか,と疑問を持っている。Nafion はどこまで安定か。
② 炭化水素系の電解質膜は PEFC 開発当初(SPE 燃料電池と呼ばれていた)に広く検討
されたが,2000 時間以上の寿命は無理であったと記憶している。その当時からのポリ
マー材料の発展はめざましい。過酸化水素耐性の高い膜があるのかもしれないが,炭
化水素系膜の分解反応,劣化を詳細に調べることが必用。
③ イオン交換基を固定した電解質膜は,交換基の隣接部位が反応しやすくなる場合が多
い。このことを考えて膜の分子設計をすることが必用。
④ PEFC 単セル,スタックの中でどのような条件の下で反応が進んでいるのか,詳細に
検討することが劣化の解明に繋がる。そのためには,これまで蓄積された劣化のデー
タを開示することが望まれる。
⑤ 高温での機械的強度を上げるためには Nafion のようなフッ素膜の分子設計の再検討
が必用であろう。架橋膜が薄膜状態で生産できれば一つの方向である。
(4) 貴金属触媒に関する課題について
① 貴金属量の低減は,触媒の利用率の向上により,ある程度までは進むと思うが,脱貴
金属触媒の開発は非常に難しい。しかし,貴金属を使用する限りコストと資源の問題
が発生するので,最終的には脱貴金属化に向けた取り組みが必要である。
② 量的な問題から考えるとルテニウムが問題であろう。純水素にすれば問題は軽減され
る。定置用燃料電池も CO を 1ppm 以下にしてルテニウムを使わない方向で進めるの
も方法。
③ 酸性電解室膜を使用する限り,負極触媒にも Pt が必用とされる。水素の酸化に対して
も脱貴金属触媒の研究が望まれる。
-312-
(5) その他
① 炭化水素系の膜も提案されているが,ハードルが高く開発には時間を要する。フッ素
系の膜の安定性と機械的性質の改良を優先して検討することがよいのではないか。コ
ストの面では難しいかもしれないが。
② 定置用 PEFC の耐久性は停止を含めた運転モードに大きく影響を受ける。少なくとも
純水素で連続運転であれば,単セルレベルで 40,000 時間は近い将来達成できると考え
ている。DSS 運転については,何が起こるのかを見極めていく必要がある。
③ 自動車用の耐久性については,オンオフなどがあり,開回路時の電位などの様々な条
件がわからないと判断できない。課題の詳細,運転データ等が公表されないため研究
の方向が定まらない。理想のものを追求せよというのもよいが,それなら研究開発に
は時間がかかる。
④ DMFC のメタノール利用については,健康に関する課題が大きく,その方面からの許
可が必ず必要になる。停止中も含めて DMFC からホルムアルデヒドが発生しないの
か?
3. 今後の PEFC 研究の進むべき方向について
① PEFC は優れたエネルギー変換システムである。しかし,火力発電と比べて特に効率
が高いわけではない。熱を使うことができるシステムとすることが有利である。
② PEFC 技術はその材料も含めて 1960 年代の宇宙開発技術からブレークスルーはない。
ブレークスルーを目指した研究を強化することが必用。
③ Enthusiastic とも言われる開発熱の出口として PEFC 技術を”Fashion Technology”
として導入することも視野に入れて,その方策を考えることが必用であろう。
④ PEFC スタックの開発が前提であるが,システムアップの技術とその低コスト化が必
須である。
⑤ 完成度があまり低くない技術は完成度の向上とともにいろいろな問題が出てくるのが
普通である。サイエンスに問題があれば,サイエンスでなければ解決できない。
⑥ 究極的には廃棄物を使って生成したガスを用いる燃料電池が良く,それには改質が良
いと考えており,そのためには,組成がばらばらな廃棄物を一度に改質できるような,
性能が悪くてもタフな改質触媒と reactor を開発する必要がある。
-313-
4. リチウムイオン電池について
① リチウムイオン電池については寿命が一番の技術課題である。ハイブリッド車用途に
限ると,使い方が激しいので寿命と安全性が課題となる。EV 用途では大量に電池を積
むため,1個あたりのパワーはそれほど要求されないので,条件としては楽である。
② ハイブリッド用電池は放電深度が浅く,その点は有利だが,猛烈なスピードで充放電
を繰り返す。これが厳しく,今の電池系では耐久性に問題がある。
③ ピュアポリマーを用いるリチウムイオン電池は安全性で優位であるが,界面イオン移
動を含む内部抵抗が大きく,パワー用途にはハードルが高い。
④ 全固体電池は界面設計が難しく,大面積にしてパワーを出すのに工夫が要る。また,
固体電解質の導電率と安全性・毒性で課題がある。
⑤ 電動車両用の電池も大量生産になればニッケル水素よりは安くなると考えている。今
の民生用 18650 の電池では,ニッケル水素より Wh 当たりでは安価なはずである。
⑥ 日本のリチウムイオン電池技術は大型電池とその安全性に優位性がある。しかし,そ
れもあと何年続くか。リチウムイオン電池については,メモリー,液晶と同じ途を辿っ
てきた。大型電池の分野でもこれらの国の進歩は速い。
⑦ エネルギー密度,パワー密度,安全性,コスト,電池サイズなどすべての点で要求を
満たす電池は“理想”の電池である。求めるのはよいが,難しい。これらの特性の多
くはトレードオフの関係にある。用途に合わせた特性を強調した,サイズも適合した
電池を開発する必用がある。
⑧ 電池は規格が多すぎる。数千万から1億個の単位で造られる小型電池はそれでもコス
トダウンはできるが,数量の限られる中型,大型電池は規格化をしなければコストダ
ウンはおぼつかない。
⑨ サイズも含めて,異なる電池は新たに開発と捉えることが必用である。リチウムイオ
ン電池とひとまとめにして議論するのでは進歩はない。実際,携帯機器用小型リチウ
ムイオン電池は普及して完成度も高いが,HEV 用リチウムイオン電池は 10 年経って
もまだ出てこない。電池メーカーの努力が足りないとは思えない。ターゲットにあっ
た研究開発のスキームを構築することが必用。
⑩ 電動車両用電池には EV でも HEV でも FCHV でも,他の駆動システムではできない
出力と負荷の平準化を担わせている。このことを冷静に認識して電池を育てるという
姿勢が求められる。
-314-
5. 国や企業等への要望,導入へのシナリオについて
① NEDO プロジェクトでも最近は大学の非常に基礎的な研究も採用してくれるように
なった。今後,研究の“目利き”を育てることが望まれる。
② 現状では産官学の役割分担は不十分であると感じている。ブレークスルーをもたらす
可能性のある基礎研究が少ない。
③ 燃料電池はこれからのクリーンな社会に必要なものであるので,エネルギー関連企業
が長い目で,ぶれないで進めてほしい。エネルギー産業にぶれられると他のところも
ぶれてしまう恐れがある。
④ 定置用 PEFC の場合は,スケールメリットを出すために集合住宅などで一箇所で改質
し,極めてローカルなパイプラインで各戸に純水素を配給するような形もあると考え
ている。
⑤ 自動車用途には“車の現状性能をすべて満たさなければならない”,“コスト競争力も
持たなければならない”という条件があるのであれば,乗用車向けには実現が遅れる。
⑥ 2025,2030 年頃に本格普及というのであれば,今の車に倣って要求スペックを決めて
よいのか?
⑦ 自動車用 PEFC は何が問題なのか,なぜ問題なのか,どこまで克服すれば受けいれら
れるのか,多くの大学の研究者には見えてこない。とにかく理想の材料を造れ,と言
われても,研究の焦点が定まらない。
⑧ 素材や部品毎に“大量生産”のイメージが異なる。関連する産業がこれを共有するこ
とが必用。
⑨ PEFC はまずは”Fashion Technology”としてでもよいから,世に出すことを考えなけ
ればならない時期に来ている。
以上
-315-
III. 固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
場
所
応対者
平成 17 年 11 月 21 日(月)10:00~
独立産業法人産業技術総合研究所
固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター
固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター
研究センター長
副研究センター長
1. 研究センターの設立の背景と概要
(1) 設立の背景
① 当研究センターは,各種の技術的な課題の解決とコスト低減という相反する要求に対
し,従来のエンジニアリング手法のみでは解決が困難なため,科学的な手法を持ち込
んで物理限界を打破しなければならない,といった産業界の考えを受けて経済産業省
が設立した(図Ⅲ-1)。
② 特に自動車用途に対象を絞ったわけではないが,固体高分子形燃料電池と水素をキー
ワードとして研究を進めたいと考えている。
図 III-1
FC-Cubic 設立の背景
-316-
(2) FCV の開発の現状
① 現在の既存自動車の価格は 1 円/g~10 円/g であり,おおよそ白物家電と同等である。
しかし,現在の FCV の価格は,量産化を見込んだとしても数十円/g~数千円/g を超え
ており,戦闘機や旅客機に近い価格である(図Ⅲ-2)。これを一般に普及させるために
は二桁のコスト低減が必要である。
② 内燃機関自動車のエンジンなどの価格が要求される FC スタックの価格になると考え
ると,自動車会社の目標は 10~15$/kW である(図Ⅲ-3)。例えばトヨタ車では 1000
$/90kW 前後であり,それ以上では競争力がなくなると考えている。燃料電池実用化
推進協議会では FC スタックのコスト目標を 4000 円/kW と公表しているが,これと
自動車会社の目標には格差がある。
③ 自動車会社が本格的に FCV の開発に乗り出したのは,日産が 1991 年,トヨタとホン
ダが 1992 年であるが,その時期から急激に出力密度が上がっていった(図Ⅲ-4)。今
の出力密度は 3 kW/L を超える程度であるが,初期からの出力密度の向上は一桁であ
る。FCV の搭載スペースは厳しく,さらなるダウンサイジングを進める必要がある。
④ 固体高分子膜についても,デュポンが発表した価格では,量産してもナフィオンは一
桁下がるのが精一杯であり,自動車メーカが望む最終的な狙いの二桁までは届かない
(図Ⅲ-5)。自動車メーカでは,スタック内の電解質膜のコストとして$117~176 程
度を目標としている。約 10~20 ㎡/台を用いるとすると,コスト目標は$6~$18/㎡
となり,二桁のコストダウンが目標となる。エンジニアリングと量産を考えても二桁
のコスト低減は難しい状況である。
⑤ コストと性能の面からロードマップを描くと(図Ⅲ-6),コストを追及すれば性能が下
がり,性能を追及するとコストが上がるため,必ず最後は革新技術と書かざるを得な
い。汎用品を使ってかつ性能が出るような技術を開発していっても,目標の価格帯に
届くためには革新技術が必要である。この革新技術についてはサイエンスを用いて取
り組んでいく必要がある。
図 III-2
自動車と工業製品の価格
-317-
図 III-3
スタックのコスト目標
図 III-4
スタックサイズの変遷
-318-
図 III-5
図 III-6
量産効果による低コスト化
高性能化とコスト低減の両立
-319-
(3) FC-Cubic の概要と設立の理念
① 以上のような背景の下で,FCCJ をはじめとする産業界から,基礎研究について仕組
みも含めて充実させてほしいという要望が国(経済産業省)に対して出された。そこ
で,基礎研究のための燃料電池先端研究委託事業を新たにエネルギー高度化利用促進
特別会計予算を用いて実施することとなった。それを受け産業総合研究所内にその目
的に特化した研究センターを設立し,研究体制が整った。ちょうど平成 16 年度で技術
開発予算の区切りがあり, NEDO プロジェクトも組み換えをする時期というタイミ
ングの良いときであった。
② 英語名は,Polymer Electrolyte Fuel Cell Cutting-edge Research Center で C を頭文
字とする単語が3つあるので,FC の 3 乗から転じて,FC-Cubic と呼称することにし
た。正式名称は「固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター」である。
③ 2005 年 4 月 1 日の設立で 5 年間の予定である。産総研の中ではセンターは基本的に 5
年間の組織となっている。予算は経済産業省の石油特会の委託費(燃料電池先端科学
研究委託事業)である。人員は約 30 名。連携先は産・学・官である(図Ⅲ-7)
④ 図Ⅲ-8 は当センター設立に向けての理念である。産業界で求められるコストダウンや
性能向上,革新技術の開発といった問題を総合的に解決するために,従来のエンジニ
アリングではなくサイエンスの世界で,しかも非常に純粋な環境の下で徹底的に研究
し,サイエンス上の先端オプションを探索する仕組みをつくり,従来の物理限界の打
破につながる独創的な研究をすることである。アウトプットは 2 つの方向であり,一
つは燃料電池の高性能化・低コスト化であり,もう一つは燃料電池研究のリードであ
る。後者は世界のトップレベルの最先端電池研究センターとして,燃料電池に関する
研究をリードし,その成果を燃料電池の普及に反映させることを理念としている。
⑤ お台場に設置された理由としては,国際研究交流大学村として,東京国際交流会館,
日本化学未来館,産総研臨海副都心センターがここに建設されており,若い人が情熱
を持って研究できる場所として,ここが選ばれた。
-320-
図 III-7
FC-Cubic の概要
図 III-8 FC-Cubic 設立の理念
-321-
2. FC-Cubic のミッション
① 図Ⅲ-9 は,物理限界の打破をイメージしたものである。縦軸が性能指数,横軸が適用
条件を示している。性能を最大限発揮する一番の理想条件が真ん中である。現状の燃
料電池技術を①の曲線とすると,現状は②という既知の物理限界を超えられずにいる。
まずは,①と②の理想条件を良く学び,理想的な環境下で,そこを突破することを考
える。これを物理限界の打破と考えている。すると③のような曲線が描ける。次にこ
れを④のように適応条件を広げることになるが,これはエンジニアリングの役目であ
る。しかし,サイエンスで突破してもエンジニアリングの世界に早く普及しなければ
意味がない。日本はこの2つの仕組みが弱いと言われている。サイエンスを用いると
ころが物理であれば,適用条件を広げるのは応用物理の分野である。FC-Cubic はこの
2 つの仕組みを同時につくることが使命であると考えている。
② FC-Cubic のミッションは図Ⅲ-10 のとおりである。革新的技術の前進,情熱,人材育
成,継続性,支援,貢献の6つが挙げられる。
図 III-9
「既知の物理限界」の打破
-322-
図 III-10
FC-Cubic のミッション
3. 運営
① 経済産業省資源エネルギー庁のエネルギー高度化利用促進特別会計から平成 17 年度は
10 億円の予算を受けている。また,産総研からもこの 1 割弱の予算を受けている。今
年度の予算 10 億円は計測機器類の購入が大半を占め,来年度の予算は 12 億円である
が,これも多くが計測ツールなどの費用となる。研究予算にはプロジェクト研究員の
人件費も含まれている。
② 研究員は最大で 30 名であるが,現在は 10 名に満たない。来年度の 4 月時点には充実
させる予定である。研究員としては,ある程度経験を積んだ学位を有する研究者を想
定している。年齢は,5 年後の再就職も考え 35 歳以下としている。FC-Cubic を一つ
のキャリアにしてもらえればよいと思う。
③ 海外の研究所との連携については,図Ⅲ-11 に主要な 6 つの研究所を示している。その
うち 5 つが米国 DOE 傘下であり,基本的にアメリカ向きである。特にロスアラモス研
究所の”Institute for Hydrogen and Fuel Cells Research”とは,実務的に協同していく
予定である。
-323-
図 III-11
海外研究機関との関係
-324-
4. 研究テーマと研究体制
① 燃料電池技術における大きな課題として以下の 3 つがあげられる(図Ⅲ-12)。
・ カソード反応における損失が非常に大きく律則となっている。そのため,触媒上
でどういう反応が起きているかを良く調べていく必要がある。
・ 直流抵抗による損失は,基本的には固体高分子の中で生じている抵抗と考えられ,
電流の増加に対して直線的に低下していく部分である。各構成材料,各種界面の改
良が必要である。
・ カソードの物質移動による損失は電流を大きくしていくと,急に電圧低下が生じ
る部分で,カソードでの水などの物質移動による損失が律則になっている。つまり,
カソード側で生成した水の排出が大きな問題になっている。水がどういう状態なの
か,どのように排出可能なのかを解明する必要がある。
② これらの課題を解決するため,
・電気触媒上での電気化学的反応を解明し,革新的性能向上とコストポテンシャルの
向上を図る
・電解質材料上でのプロトン移動現象や反応現象を解明し,革新的性能向上とコスト
ポテンシャルの向上を図る
・主に水の移動に着目した,多層界面を経ての物質移動現象の解明
の 3 つの現象が非常に重要であると考えている。
③ 研究の流れとしては,まず上述の 3 つについて正確な評価技術を確立するため,それ
ぞれをチームに分けて研究を進める(図Ⅲ-13)。
・電極触媒では,触媒の表面状態の電気化学反応であるので,触媒の形態によってど
のような反応をするか,どういう反応状態なのかをみて,評価するツールをきちん
と構築し,どのように評価するかを検討する。
・電解質材料については,モデル電解質を作って,条件を変える中で,モデル電解質
と水分量とプロトンの移動の関係をきちんと計測する技術を確立する。最終的には,
移動速度と電解質構造との相関性を明らかにしていく。
・界面の物質移動については,動くものをどのように評価するのかというところから
掘り下げていく。
④ これらの現象について FC-Cubic の中で議論する際,研究者だけではサイエンスの中
での理想状態のみの議論だけになる可能性があり,現実の世界にその議論が及ばない
おそれがあり,早くエンジニアリングの世界につながらない。そこで,東芝燃料電池
システムの佐藤氏と奈良高専の泉氏を非常勤顧問として招いた。両氏とも古くから燃
料電池に取り組んできた専門家である。
⑤ 研究メンバーは,燃料電池の専門家ではなく,各テーマごとの必須の研究者を招聘し
た。大きな目標に対し,個人が持っている得意な分野,各自がもっているツールをこ
こで発展させてほしいと思っている。現状ではメーカからの参加者はいないが,今後
入ってきてもらう考えである。
⑥ 当センターでは,燃料電池を動かさないことも考えられる。膜や触媒が燃料電池の中
でどのように作用しているのかを考えるために必要であればセルを組むことも考えら
れるが,セル自身の研究を行うわけではない。
⑦ 第 2 期(6 年目以降の継続)については現状では未定であるが,今のメンバーは計測
ツールの研究者であるため,次の目標に向けてステップアップしていくと予想される。
5 年後の時点での新たな課題に対する専門家を集めることになるのではないかと思う。
-325-
図 III-12
燃料電池技術の課題
図 III-13
研究の流れ
-326-
5. 産業界のニーズと研究テーマについて
① 研究テーマとしては,他にも多く考えられるが,それらは自動車会社等でもできるだ
ろうということで,前述の 3 つに絞ったという経緯がある。この 3 つは最優先で解決
すべき部分であるため,基礎研究として行うこととなった。
② 研究の方向性が産業界のニーズと乖離しないように顧問の先生や研究センター長,副
研究センター長が,産業界のニーズの方向へ誘導していく。当センターでも,産業界
に向けて研究内容がどのように役立つかを発信していく必要があると考えている。
③ 月に一回くらいイブニングセミナーという形で,産業界とのクロースドな交流会を
行っている。NDA(秘密保持契約)を結んだり,共同研究を計画している我々に興味
を持ってくれる方々に集まっていただき,当センターの内容をよく知ってもらい,産
業界に情報を発信している。
④ 研究成果については,毎年報告会を行う予定である。基本的にセンターでの成果はオー
プンにする。仮に企業から研究者を招聘して,我々とともにここで仕事をしてもらっ
たらその成果は,オープンを基本として進めていく。その中で得るところがあれば,
自社にいち早く持ち帰り,検討していただきたい。
6. 企業・大学等との共同研究について
① 共同研究については,再委託はできないので,産総研の FC-Cubic の事業として行う
ことになる。共同研究の計画はすでに進んでいる。とくに上智大学の陸川先生(竹岡
先生)と共同研究を行うことを予定している。他の大学の先生とも共同研究を行うこ
とも計画している。企業からも数社からオファーを受けている。何か聞きたいことが
あったら直接聞きに来てほしい。
② 企業との共同研究については,例えば,プロトタイプ材料を当センターのツールで評
価してほしいといったものや,共同研究契約を結び,資金を提供してもらったり,人
材を派遣してもらったりなど色々なやり方が考えられる。共同研究は基本的に早い者
勝ちである。ある1社と行うことになると,後発のものと結ぶわけにはいかなくなる。
③ 当センターは基礎研究を行い,それをオープンにすることが基本である。研究成果に
は論文という形で公表することが基本となる。各企業が人を出せば自分たちのものと
いった考えはない。各企業はいかに基礎研究をうまく活用していくかという考えに切
り替えないといけないだろう。当センターは基礎研究を行う場であり,人のトレーニ
ングの場であると割り切って考えてもらいたい。その習得したことをどのように持ち
帰るかは,各企業にお任せしたい。
...
④ 産業技術総合研究所の FC-Cubic であるため,産業界に向けて情報を発信している。
大学に向けては発信していない。基礎研究を実施していく上で,最も理想的な状態を
見る手段としてシミュレーションがある。このような分野は我々に足りないリソース
であり,大学との共同研究を活用したいと考えている。当センター各研究者の出身大
学のコネクションを活かすことが基本となる。
以上
-327-
IV. トヨタ自動車株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 1 月 24 日(火)9:30~
場
トヨタ自動車株式会社
所
応対者
東富士研究所
FC 技術部
1. FCV の要素技術・システム技術の開発状況について
(1) FC スタック
1) スタック技術全般について
① この数年間で,何がどのくらい難しいのかが明らかになってきたという印象をもつ。明
らかになった課題は段階的に着実に解決の方向に進んでいる。だが将来の大量普及レ
ベルを想定すると,まだまだ現象理解が足りない部分が多く,全ての課題が摘出でき
ていない。逆に,現象の解明が進めば,その課題の解決はできると感じている。
② 具体的な課題としては,内燃機関と比べてさらなる出力密度の向上が必要であり,耐
久性,低温始動性能も同等レベルではない。だがこうした課題は現象理解が進めば必
ず数年のうちに解決できる問題だと思う。最後に残る課題はこうした課題の解決と低
コスト化の両立である。すなわちコスト目標を達成できるか否かが最大の課題である。
③ 膜の耐久劣化については,一部市場走行との相関が不十分だが,社内評価において 15
年 20 万 km もつだろうというところに来ている。問題は電極触媒に関連する出力低下
であり,これについてはまだ 5 年前後の水準であり,これをいかに 15 年 20 万 km に
延ばすかというのが課題となっている。
④ コストに関しても,何が一番ネックで,何が量産化で下がるのか,下がりにくい部分は
何かといった分析は進んでいる。
⑤ 自社製スタックの中で MEA も自社製が基本である。膜,触媒,GDL 材料は購入して
も,どう設計してどう製造するか,セパレータを含めたセルモジュールとしてどう最
適化するかは自社で行うべきことである。
-328-
2) 電解質膜・セパレータについて
① 電解質膜として,ハイドロカーボン系膜も今後の方向としてあり得るが,様々な意見
があり現状では判断できない。フッ素系膜は歴史があり,経験も豊かで,その特性が
わかっている。しかし炭化水素膜は色々な面でリサーチ不足であり,最終的にフッ素
膜と同等の性能や耐久性を担保したときにどういう構造になるのかが定まらないと,
フッ素膜よりもコストポテンシャルがあるかどうかが判断できない。性能や耐久性の
向上のため複雑な構造にすればするほどコストポテンシャルは下がってしまう。
② フッ素系の膜の改良も進んでいる。後はフッ素膜が大量に生産されたときにどこまで
コストが下がり得るのかということである。色々な予測はされているが,実際に大量
に生産された実績が無く読みが難しい。材料メーカ次第のところがある。
③ その一方で炭化水素膜は,単にコストだけではなく,水素の透過性が低いというメリッ
トなどがあり,そうした面でフッ素膜を凌駕できるかどうかもポイントになると思う。
④ 自動車用高分子膜は-30℃~120℃の領域でプロトン伝導性の発揮が狙いとなる。
⑤ セパレータの素材についても,カーボン製とメタル製で一長一短がある。メタル製は
非常に薄くサイズを小さくできるため,メリットが大きい。一方,耐腐食性はどうか,
接触抵抗をどのように下げ,長期にわたりそれを維持できるのか,この課題をクリア
するため表面処理をどうすれば一番よいかといったことが問題である。
(2) 水素搭載技術について
① エンジニアリングとサイエンスの領域に分けると,高圧水素や液体水素,水素吸着材と
のハイブリッド型タンクはエンジニアリングの領域である。一方,新規水素吸着材料
の材料開発やケミカルハイドライドなどはまだサイエンスの領域だと思う。
② ここ数年でエンジニアリングの領域で優先順位が高いのは高圧水素で,最も完成度が高
い。液体水素はボイルオフに起因する問題が大きい。加えて充填の際のフラッシング
ロス(ある量の水素を空中放散しないと充填不可能)が大きいという問題がある。
③ 70 MPa までの高圧化の実証は意義がある。ただし最適圧力かどうかは別である。タン
クの炭素繊維などコスト面,LCA 的な評価では 50 MPa といった可能性もある。
④ 70 MPa で充填時間を短縮し温度上昇を防ぐため,プレクーリングの有効性と必要性,
通信の必要性等の検討は必須。そのため JHFC-2 での 70 MPa の実証が必要である。
⑤ 昨年 7 月から導入の FCHV 用高圧水素タンクやバルブ等は(FC バス用タンクを除き),
全て当社グループの内製だ。トラブルを経験して技術のブラックボックス化を避ける
必要性を強く認識したためである。内製タンクは 70MPa も含め高圧ガス保安協会の認
可を取得済み。
-329-
(3) ガソリン系改質技術について
① 基本的にガソリン改質系 FCV は固体高分子形 FC では困難と考える。車に改質器と
PEMFC の構成では,始動時間の問題以外にも,内燃機関 HEV を上回る効率が期待で
きないからである。PEMFC の最高効率が 50~60%,改質器を入れて 0.8~0.7 掛けで
は,車両効率 30~40%となり,ガソリン HEV と同等になる。だとすれば HEV で良
いということになる。
② 改質器の技術は非常にコンパクトになり進歩した。
③ HC 系の燃料を直接使い高効率が得られれば,自動車への応用の可能性はある。例えば
HMFC(水素分離膜電池)は HC 系の燃料で発電効率 60%程度が期待でき車への適用
の可能性がある。
④ 2004 年に HC 燃料で改質器と高温で高効率が得られる HMFC を組み合わせ,500~
600℃で改質し,そのまま改質ガスを HMFC に投入するシステムを発表した。途中の
熱交換が不要で高効率が狙える。ただし,これはまだまだ基礎研究の領域である。
(4) エネルギーバッファについて
① FCV にはハイブリッド化が必須である。HEV 化して初めて内燃機関 HEV に勝る燃費
となる。そのため二次電池技術の進歩は FC 車の将来にとっても絶対必要である。
② トヨタではリチウムイオン,ニッケル水素,キャパシタの全ての研究開発を行ってい
る。リチウムイオン電池のポテンシャルの高さは認識しているが,過充電に対する安
全性や大量生産時に問題が生じないかなどを見極める必要がある。キャパシタも一気
にパワーが得られ,低温でも性能劣化がない等のメリットがある。それをどう活かす
か,単独か二次電池との組み合わせか,色々な可能性を念頭において研究開発中であ
る。
③ バッテリに関する市場データが必要である。FC を含め,新しい技術を大量に市場に出
していくのは大変時間を要することだと思っている。
④ 品質や信頼性,耐久性に対する要求は通常の民生用のバッテリと車用とは桁が違う。
車用では 10 年や 15 年間様々な使用パターンに対して保証する必要がある。使用環境
も非常に厳しい。大量生産して保証する必要がある。バッテリメーカは自動車メーカ
と協同しながらそうした電池を開発する事が有効と思う。日本企業はそういう関係を
相互に構築しやすく,日本メーカの強みであると思う。
-330-
(5) 全体システムからみた重点課題
① 燃料電池車を仕上げていくのに一番主要な課題は航続距離とコストの 2 つである。前
者は水素貯蔵の技術をどうするか,後者はシステム全体をいかに簡素化できるかとい
うことと,FC スタックのコストを下げるための材料や設計構想や製造技術をどうする
かということになる。
② トヨタ FCHV の航続距離は 35MPa で 10・15 モード 330km であるが,実際はエアコ
ン利用などもあり 220km 前後が実用航続距離だと思う。現在のガソリン車と比べて不
十分であり,改良が必要である。
③ 昨年における FC バスの実証走行の結果も現在整理しており,東京都のバスでは平均で
160km 程度。万博バスではタンクを 5 本から 7 本に増やしたので 240km 程度であっ
た。
④ 航続距離向上のためには, FCHV システムの効率向上と,水素の積載容積の向上が必
要である。そこで,コンセプトカーの Fine-X のようなパッケージングを検討している。
水素タンクはガソリンタンクより大きいという前提のもとで車を設計するということ
である。
(6) FCV のエネルギー効率について
① 現時点で Well-to-Wheel 総合効率をみると,水素製造を天然ガス改質とした場合,ガ
ソリン HEV と同等レベルであり,FCHV の車両効率をもう 1 割,2 割向上していきた
い。水素の製造効率も上げていく必要がある。
② FCHV の車両効率は,将来的には現状の 50%前後から 2 割向上の 60%までは技術的に
可能だと思う。ただし,最終的にコストとの背反で,決める事になる。
③ FCV は,石油代替・新エネルギーの利用に最大のメリットがある。石油の需給バラン
スが崩れる時期が来た時には,液体燃料を作るために石炭の液化や GTL などを使わざ
るを得なくなる。そうすると,Well-to-Wheel の総合効率は内燃機関 HEV より FCHV
が明らかに勝る時期が来ると考えられる。
④ 1 つの技術で全てを解決することはありえないため,HEV 等を使った内燃機関の燃費
向上,合成燃料やバイオ燃料による内燃機関燃料の改善,電気や水素を使った新しい
エネルギー機関への代替を同時並行的に進めていく必要がある。
-331-
2. 水素ステーションのあり方について
① 水素ステーションのあり方の議論には,30~40 年後の全エネルギーの供給方法のあり
方の議論が必要である。その中で車用への水素供給のあり方を考える必要がある。
② 車用水素ステーションに限った議論では,カーメーカとして当面はステーション側との
インターフェースの課題を明確にしたい。とくに安全性にかかる課題は公にした上で,
世界中の水素ステーションで大事故が起きることは絶対避けたいと思う。
③ 当面は副生水素と一部化石燃料ベースの水素を使うのが現実的。長期的に需要量が増え
たときは,CO2 やエネルギー需給問題解決のため非化石燃料が必要。再生可能エネル
ギーからの水電解や原子力発電から直接水素を製造する方式なども考えられる。
④ 少量のときはオンサイトもあり,大量製造の時代はオフサイトが主体だろう。その場合
の輸送手段についてパイプラインか液体水素のローリ輸送かなどの検討課題がある。
⑤ その意味で水素ステーションの建設コスト低減と,大量水素の長距離運搬のための技術
の実証を JHFC-2 インフラ側の議論・検討でやっていただけるとありがたい。
⑥ ステーションが将来 1 基 1 億円でできれば,日本国内の 5 万数千箇所のガソリンステー
ションを全部置き換えたとしても,5 兆数千億であり,必要時には対応可能な金額と思
う。
3. 今後の FCV の導入について
(1) FCV の新規導入・新型 FCV の投入について
① ボディ自体はいつでも変えられる。スタックの中身は順次更新している。2002 年 12
月の初期型と 2005 年 7 月に出したものは,水素タンク,バルブ,スタックシステム全
体を当グループ内製に換え,システムは簡素化され,ロバスト性も向上している。
② 限定導入の目的は,広く皆さんに FCHV を知って頂く事と合わせて,市場データによ
り社内の評価方法を検証することである。様々な使用履歴の FCV を回収・解析し,社
内の評価結果と比較して耐久試験方法や評価基準を見直す。コンプレッサやポンプ等
も同様。大量生産にはこうした検証を経ることが必要である。
③ 上記目的のため必要台数を出すが,普及の条件が整う前にそれ以上増やすのは費用対
効果的に意味が無い。それに要する資源は基礎研究や基礎開発に用いる方が効果的。
普及には商品性,インフラ整備,マーケットニーズの 3 条件が整うことが必要である。
④ 限定導入地域としてカリフォルニアと日本の三大都市圏を選択している。とくにデータ
取得の容易性等から日本が主である。その意味で型式認定の取得には感謝している。た
だ直ぐに車を増やすという意味ではない。普及の重要案件のひとつのクリアである。
⑤ 現在導入している FCHV は国内 11 台,米国 6 台の計 17 台である。2005 年 7 月から
順次新しい車に置き換え,国内では国交省道路局のものを除けば全部新しい車に置き
換わった。米国ではこれから置き換えが始まりつつあるところである。
-332-
(2) 本格普及の時期について
① FCV の導入・普及時期は先述の 3 つの条件が整ったときである。商品を成立させる技
術がここ数年でそう簡単ではないと認識されたのは確かである。エネルギー需給や
CO2 の問題がいつ本当に差し迫るかで大きく影響することだが,こうした問題に対し
て当面は合成燃料やバイオ燃料などで対応するしかないとしても,2010 年代には,FCV
がプリウスを導入したレベルと同等に達している必要があると考える。
② エネルギーが大きく変わるのには 30~50 年のスパンがかかる。市場の車が全部切り替
わるのにも 10 年~30 年を要する。それを考慮すれば,2010 年代を普及開始の目標に
しなければ遅すぎると感じている。
③ FCV の大量普及時期は 20 年,30 年先だと思うが,それを目標に市場のデータを収集
し,大量生産技術を確立し,インフラの準備を考慮すると,実はそれほど期間はない。
2010 年代にはある程度始まっていないと 2030 年での大量普及は困難である。
④ 考えられるシナリオとして,合成燃料やバイオ燃料のフェーズが先にくる。その後,
化石燃料,CO2 が限界になってくると,21 世紀全体を考えれば最終的には電気と水素
が中心になると思われる。
4. 他社との協力関係など
① 他社との協力関係は,原則として公表できない。当社は,互いにメリットが有る様々な
メーカとオープンに協力していくスタンスである。材料メーカや様々なコンポーネン
ト,ユニットの開発メーカとも協力していきたい。他の自動車メーカとも規格基準を
はじめとして協調すべき分野が多々あり,積極的に協力していきたい。
② エネルギー会社とは定期的に意見交換している。
③ FC キュービックは,当社を含めて FC の基礎研究の基盤強化に対する要望があり,経
産省に設立していただいたという経緯がある。自動車メーカのみならず定置用メーカ
などすべての関連企業が研究開発のニーズを正しく伝え,そのニーズに対してフィー
ドバックされるような研究を行ってもらうことがポイントだと思う。
④ 日本に基礎研究の核があってそれが世界のトップレベルであることが必要だ。欧米の
基礎研究に頼り産業界だけが日本で繁栄することはありえない。残念ながら現状では
基礎研究の領域は欧米に先行されている。FC キュービックには是非,5 年後 10 年後
には世界レベルの研究機関になってもらいたいと思っている。
-333-
5. 国・行政機関に対する要望等
① 基礎研究に対する研究基盤の整備が一番の要望事項となる。例えば FC に関する基礎的
な現象解明に関する研究や,水素貯蔵に関する基礎的な研究が挙げられる。
② 水素インフラをどのように整備していくのが良いのか,そのためにどういう技術開発
をすべきかという研究を是非 JHFC の中で行い,そこで合意した技術開発を着実に 3
年 5 年というスパンの中でやっていくという仕組みをつくって欲しい。
③ 規制は,2005 年の 3 月に 28 項目について緩和していただいたので,今後は実績を踏
まえ,必要なところを段階的にやってもらえればありがたい。例えば FCV で 70MPa
高圧が現実解だというのであれば,次のステップとしてそこの規格値をつくるなりの
対応が必要になる。
④ 基礎的研究と実証試験は並行的に行う必要がある。今みえている技術を使って FCHV
を仕上げ,使用側からのフィードバックを得て評価方法を更新・改良していく部分は
大 量生産に向けて必要な取組みである。基礎研究だけでは製品開発はできない。その
時々で重要性の重みは異なるが,実証試験は 3 年とか 5 年というスパンではなく,10
年 20 年,2020 年,2030 年まで見据え継続的に実施していただきたい。そのため,ど
のように継続させるのかということについて是非議論して欲しい。
6. JHFC に関する要望等
(1) 成果
① 当社にとっての実証走行試験の重要性については前述のとおりであり,貴重なデータ
が得られている。
② JHFC の成果として啓発関係は大きなインパクトがあったと思う。
③ 実務上は水素ステーションとのインターフェースのところで色々な課題・問題点が明
確になり,安全を担保するためにどうすべきかについて関係者の共通認識が得られたこ
とが成果だと思う。
-334-
(2) JHFC-2 への期待
① 水素の高圧化による FCV の航続距離改善の検討は JHFC-2 の場でなければできないた
め,それを JHFC-2 の目玉の一つにすべきと考えている。最高圧を 70 MPa にするか
どうかという議論は別にして,トヨタとしては 70 MPa の効果とか技術的な課題の検
討のため,インフラ側もセットで是非やっていこうと声をかけていきたい。
② 市街地や郊外,高速道路など様々な地域における走行時の航続距離の 35 MPa での現
状を把握した上で,どこまでこれが改善可能かの検証が検討の柱の 1 つだと思う。
③ 水素ステーションの低価格化に向けた検討等も必要。Well to Tank 効率データなどを
踏まえ将来ステーションはどうあるべきで,どのように水素を輸送し,どのような技術
を開発すればよりコンパクトで安くて安全性・信頼性を向上できるか検討をして欲し
い。その際,万博の水素ステーションのデータなども活用し,まとまった量を供給する
ステーションを想定した検討を行って欲しい。
④ 自動車とインフラメーカの協同面では,インターフェースに関わる部分を JHFC-2 で
行う意味があると思う。例えば 35MPa では必要無くても,70 MPa ではタンクの温度
や圧力といったデータが必要になる。そうした面での協力が必要である。プレクーリ
ングの効果と必要性,通信の必要性やメリット・デメリットなど,世界的な議論のた
めにもデータ取得の必要がある。是非 JHFC-2 の大きな目玉の 1 つにしていただきた
い。
7. 定置用 FC に関する取り組み
家庭用の FC システムはアイシン精機と共同でやっている。2005~2007 年で大規模実
証をやって,
2008 年から補助金というスケジュールで進めることが 10 年先 20 年先のマー
ケットにとって本当にいいことなのかどうかとの疑問はある。しかし,良い意味での競争
と協調が進むのであれば前向きに捉えて行きたい。
以上
-335-
V. 日産自動車株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 2 月 6 日(月)16:00~
場
日産自動車株式会社
所
応対者
総合研究所
先行車両開発本部
FCV 開発部
環境・安全技術部
技術渉外グループ
1. 開発中の FCV の要素技術・システム技術について
(1) スタック全般について
① ここ数年の間で,基本的な問題・課題と,全体的なフレームワークは変わっていないが,
技術の到達レベルはそれぞれの分野で着実に進歩している。
② 2005 年に従来の UTCFC 製から自社製スタックに置き換えた FCV を発表し,順次リー
ス車を置き換えていく予定である。06 年中には全て置き換える予定である。
③ 耐久性に関しては,改善が進んできているが,いまだ目標へ向けて道半ばである。
④ 自社製スタックは UTCFC 製と比較し,全ての点で秀でているわけではないが,自動
車としての用途を重視して開発した。
⑤ MEA は自社でも開発しているが,現状の自社製スタックでは購入品を用いている。基
本的に良いものを使うということで,現時点では購入品を選択したということである。
将来的には自社開発品に代替したいという希望はある。
⑥ スタックにおける主要課題は,コスト,耐久性,出力密度,低温起動の 4 つである。
この解決のため,MEA とセパレータの両方について重点的に取り組んでいる。
⑦ 低温始動性はまだ十分ではないが,近い将来かなり改善されると思う。
(2) 電解質膜,MEA,セパレータについて
①電解質膜としてフッ素系,ハイドロカーボン系のどちらを用いるかは決めていない。膜
に求められる仕様を満たせばどちらでもよい。現状では一長一短である。それぞれの
短所を改善していくと両者とも似たようなものになるかも知れない。
② 評価している範囲では,現時点でフッ素系膜を上回るハイドロカーボン膜は見当たら
ないが,ハイドロカーボン膜だけの歴史をみていくと着実に進歩している。
③ 白金担持量目標については,1台当り 10g 以下にすることが 1 つの目処と考えている。
現状の FCV が 100g の白金を用いているとすると,少なくともその 10 分の 1 以下に
することが必要である。この検討は社内でも行っている。また,MEA メーカで良い方
法が開発できればそれを採用する。どちらがやっても構わないと思っている。
④ セパレータは現在カーボン製を用いている。メタルの可能性も検討している。どちら
も一長一短である。メタルが色々な点でもう少し改善されれば,コスト的にはメタル
の方が有利と考えている。メタルセパレータにおける主な課題は電気抵抗,シール性,
耐腐食性である。
-336-
(3) 水素貯蔵技術について
① すべての可能性を検討しているが,今後 10 年間で現実的なのは圧縮水素のみではない
かと思う。航続距離を増やす 1 つの手段として 70MPa までの高圧化に取り組んでいる。
ただし,将来的に 70MPa が望ましいかは流動的である。タンクにスペースを配分して,
低圧化するほうがコスト的には有利である。
② 水素吸蔵材を用いたハイブリッド型の高圧タンクはそう簡単ではないと思える。
③ 水素吸蔵材の吸蔵率は,材料として 5%(重量%)程度が当面の目安である。ただし,
これで 5kg の水素を貯蔵するタンクを作っても,全てのデバイスを含めると 200kg 近
くなる。
④ 液体水素を車に搭載するという選択肢は考えていない。
(4) ガソリン改質について
ガソリン系の改質形 FCV は,可能性が低いと思う。あるレベルの車はできることはわ
かったが,ハイブリッド車と比べて,有意差が少なすぎる。改質器において大きなブレー
クスルーが無い限り,ガソリン改質系 FCV は実現しないのではないか。
(5) エネルギーバッファについて
① FCV の航続距離を伸ばすために,2 次バッテリは重要な役割を果たしている。水素を
大量に積むことができれば,コストを考慮して,普通のガソリン車と同様に 2 次バッ
テリを搭載しない選択肢も考えられる。効率的には悪化しても,FCV の石油エネルギー
からの脱却という意義は残る。
② エネルギーバッファとして何を用いるかこだわりはない。現時点ではキャパシタとの
比較評価で,2 次バッテリの方が使いやすく長所が多いと判断している。2 次バッテリ
は,自社製のラミネートタイプのリチウムイオン電池を用いている。
③ 2 次バッテリとして使用する限りは,リチウムイオン電池の耐久性は,現状では燃料電
池よりは長いと思われる。しかし,それが車の寿命に相当するかは実証できていない。
燃料電池の耐久性よりゴールに近づくのは早いだろうと思う。
④ 2 次バッテリのその他の課題として大きいのはコストだ。さらに温度管理が非常にシビ
アなところも改善が期待される。
(6) 全体システム,補機類等について
① 自社製スタックシステムではブロアではなくコンプレッサを用いている。UTCFC 製に
比べ,スタックを小型化しているため圧力を高めている。コンプレッサが大きいと電
気の消費量が大きく,音もうるさい。低圧になればコスト的には有利である。ただ今
の技術でそのまま低圧にするとスタックが大型化するので,そのバランスで圧力を決
めている。
② 将来のスタックの運転温度として 120℃くらいになると冷却系が小型化できる。車の論
理から言えば水を冷媒に用いて 100℃で冷却システムを動かすとすると,それで冷却で
きる温度が 120℃位ということである。一気に高温化するのは難しいため,80℃,90℃
と段階的に技術進歩が進むのではないか。
③ 全体システムとして,補機のコストを下げるという意味ではスタックの高温運転化と
加湿要求の緩和が大きい。やはり無加湿に近づくのが望ましい。そのポイントは,電
解質膜である。
-337-
(7) エネルギー効率について
① 自社製のスタックシステムの最高効率は運転条件によっては 50%以上の部分もある。
UTCFC のスタックは効率面では非常に優れている。自社製でも今後は 60%以上を目
指して改善したい。
② 車両効率の目標としては,ガソリンハイブリッド車の効率の 1.5 倍以上にはしたいと考
えている。
③ 効率の向上は,電解質膜に多く依存する。MEA における抵抗分極の削減が効率向上の
鍵であると考えている。
④ 水素の Well-to-Tank 効率はエネルギー会社の技術開発に期待している。カーメーカと
しては,まず車両の技術課題を克服することが役割だと思っている。
⑤ Well-to-Tank について言えば,日本でも目標設定をきちんと行えば,徐々に再生可能
エネルギーの比率が増加すると思う。そうなれば CO2 削減に寄与できると思っている。
⑥ 日本での再生可能エネルギーは風力,太陽光,バイオの 3 つの組み合わせになると思
う。日本では海岸線が多く,山もある状況を踏まえると,とくに風力利用が拡大できな
いものかと思う。ただ消費地で近いところで発電するのが基本なので,その意味では海
岸線の利用に期待している。
2. 水素供給ステーションについて
① 少量普及のうちはオンサイトで,供給量が増えてくればオフサイトに移行していくシナ
リオが良いと理解している。
② オフサイトへの水素輸送については,ある距離以上は液体の方が有利だと思う。さらに
量が増えた場合は,短距離では水素パイプラインが活用できるのではないか。
3. 各種クリーンエネルギー車の位置づけ,市場導入までのシナリオについて
① EV の課題は航続距離と充電時間である。また,電池については,経時劣化の改善も課
題の一つだと思う。
② ZEV 規制に伴い,2008 年 MY までに合計で 17 台の FCV をカリフォルニアに導入す
る計画である。
③ シリーズ型にしろパラレル型にしろ,コミュータではないプラグイン HEV はコストが
課題だと思う。ZEV 規制での取扱いによっては,状況が変わってくるかもしれない。
④ FCV の本格導入時期については,白紙である。技術開発の観点からは,2010 年までに
はかなり実用的な事ができると考えている。ビジネスモデルを成立させることが大き
な課題である。その FCV の性能レベルは,全てがガソリン車並とはならないが,航続
距離も実用で 500km に達すると思う。圧縮水素でも現状より効率を向上させるととも
に,ガソリン車のレイアウトにこだわらず,車上での水素搭載量を増やせば,達成可
能な目標だと思う。
4. 他社との協力関係について
① ルノーとの関係において,FCV の開発は基本的に共同プロェクトの位置づけである。
プロトタイプの開発は日産が分担しており,ルノーは基礎研究に活動を集中している。
② UTCFC とは今後,エンジニアリングの領域で相方にメリットがあれば協力していく。
-338-
5. 国に対する要望
① JHFC 以外での国・行政機関に対する要望としては,車については適切な規制の見直
しがされたと思う。ステーションについては日本でもガソリンスタンドとの併設が実
現すると良いと思う。
② 高圧ガス保安協会(KHK)の規制は国際的に見て厳しすぎるという意見がある。これ
から実績を積んでデータに基づいた議論ができるようになると良いと思う。
6. JHFC について
(1) 成果
① 最大の成果は,各社が一緒に行動したということだ。各社で同じ目標に向かって協同す
ることは,社会に対するコミュニケーションの点で大きな意味がある。その実現の場
として JHFC の存在価値がある。
② 海外から羨望されていることは,技術データや燃費データが取得されていることであ
る。第三者が FCV の効率・燃費の良さを計測し,情報発信することは大きな意味があ
る。
(2) 問題点
① 認知度をあげる工夫を期待したい。FCV 技術に対する認知度は,日本は世界的に高い
方だが,JHFC のイベントの認知度はあまり良くないのではないか。車を見に来て,触
れる人を増やす努力をして欲しい。カーメーカの立場からすると,技術が世の中のお客
さまに受入れられる素地を作ることを期待している。
② JHFC パークの場所的な問題もある。立地場所から交通の便があまり良くない。JHFC
パークをみなとみらい地区のような街中に作ることを検討してはどうか。公共の施設で
他のイベントが開催されるような場合に,共同でイベントを行うことも検討してはどう
か。
③ イベントや広報の専門スタッフが必要である。広告代理店などから人材を登用してはど
うか。
④ 燃料会社の自主的な取り組みが海外の積極的な企業と比較すると,やや消極的に感じ
る。
-339-
(3) JHFC2 に期待すること
① 前述のとおり情報発信の量と質の向上をお願いしたい。FCV 技術の持つ可能性と課題
を世の中に正確に伝えて欲しい。
② 自分で運転できる試乗会は重要である。FCV を一番良く理解するのは,自分で乗って
運転してみることだ。積極的に協力したい。
③ 当社は 70 MPa の高圧水素搭載 FCV の開発を行っている。70 MPa がどういうものか
という車両としての評価試験を開始した。現在カナダで実験を行っているが,JHFC2
でも 70 MPa のパイロットステーションを 1 ケ所考えてはどうか。技術的な課題を日
本でもエネルギーメーカと一緒に検討していくのは意味があると思う。
④ 5 分ごとの燃費データ取得を JHFC でやらなくても良いのではないか。ただし参加車
がどれだけの水素を消費して,何キロ走ったかは最低限必要だと思う。また,FCV の
燃費もいずれは公表する時期がくるだろうが,当面はシャーシダイナモでモード燃費
を測定し,JARI で平均値を取って公表するなどのやり方は現実的である。
⑤ 開発中の不具合事例を全部出すというのは難しい。しかし,ユーザーが使って起きた問
題は,今でも国交省に全て報告している。
以上
-340-
VI. 株式会社本田技術研究所殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 1 月 30 日(月)15:00~
場
株式会社本田技術研究所
所
応対者
栃木研究所
和光基礎技術研究センター
1. FCV の研究・開発体制と開発の経緯
① FC の開発は,基礎研究という形で 1980 年代から要素技術研究をスタートさせた。1990
年代後半に入って車の開発をはじめ,1999 年に水素吸蔵合金貯蔵式純水素型燃料電池
車(FCX-V1)およびメタノール改質型燃料電池車(FCV-V2)を開発した。その後,
純水素型燃料電池車の開発に集中し,2001 年,新たにコンパクトでかつ信頼性が高く,
高性能なスタックを開発した。これを FCX-V3 に搭載し,CaFCP で公道試験を開始
した。
② 2002 年 12 月 2 日にバラード製スタック搭載車を世界で初めて市場に限定導入(日米
同時)した。2003 年秋には,次世代型燃料電池「Honda FC スタック」を技術発表し,
2004 年 12 月から「Honda FC スタック」搭載車の納車を開始した。納車先は,カリ
フォルニア州に加え,北海道とニューヨーク州といった寒冷地区にも拡大している。
その後 2005 年 6 月に国内型式認可を取得した。
③ 「Honda FC スタック」搭載車は,スタック自体の出力向上とウルトラキャパシタの
性能向上により車両トータルでの効率を向上させ,バラード製スタック搭載車と比べ,
一充填走行距離を 355km から 430km に向上させた。また,スタックの出力密度は
1.5kW/L,1kW/kg を実現した。
-341-
2. FCV の要素技術・システム技術の開発状況について
(1) スタック
1) スタック技術全般について
① 「Honda FC スタック」の開発コンセプトは,①小型・高出力化,②量産ポテンシャ
ルとして将来的な低コスト化の方向性が示せること,③環境適合性の向上,の三つを
掲げてきた。その鍵となる技術が金属セパレータとアロマティック電解質膜(芳香族
系ハイドロカーボン膜)である。
② 量産ポテンシャルについては,より一般材に近く,生産性やリサイクル性を考慮した
材料として,セパレータに金属を採用し,電解質膜にはアロマティック膜を採用した。
今後も金属セパレータとアロマティック膜の組み合わせで開発を進める方針である。
③ 容積出力密度,重量出力密度で見ると,FCX-V3 に搭載したカーボンセパレータベー
スの旧スタックに対して2倍以上の出力密度アップに成功している(図Ⅵ-1)。
④ 以前のスタックでは,面圧を均一にするため皿バネを使っていたが,新構造ではシー
ルを一体成形した金属セパレータを用い,セパレータのバネ性を利用して,積層した
セルをパネルで囲むだけのシンプルなスタック構造とした。こういった単純な形態に
することで,部品点数を 2 分の 1 にすることができた。
⑤ 今後の目標は,車両への搭載性を向上させ,自由度のある車載ができるようにするこ
とである。一方,スタック小型化はガスの流れを悪くするなどの問題があり,そうし
た弊害の解決と,耐久・信頼性の向上,材料を安くしながら部品点数を減らしてコス
ト低減を図ることなどに取り組んでいく。
⑥ 東京モータショーで提案した V Flow FC プラットフォームは水素と酸素を垂直に重
力方向に流すというもので,スタックの小型化にもつながるコンセプトである。
⑦ 低温始動の目標はガソリン車並みのマイナス 30~40℃程度を目指している。
⑧ 車の耐久性の目標として 5 千時間と言われるが,数字にとらわれるのではなく,リア
ルワールドで使われるものに対してどう評価していくかが課題であると考える。その
ため,車をリースして市場での利用データの収集に努めている。
図 VI-1
スタックの容積出力密度と重量出力密度
-342-
2) 電解質膜・セパレータについて
① セパレータについては,カーボン製より金属にした方が小型化,低コスト化には適し
ていると考えた。一方,電解質膜は,とくに高温・低温で発電が可能であり,かつフッ
素系の様な製造プロセスの複雑性を回避可能と考え,アロマティック膜(芳香族系ハ
イドロカーボン膜)を検討してきた。
② アロマティック膜の良いところは,高温も低温も性能が出ることである。その理由は
アロマティック(芳香族)構造の主鎖にイオン交換基(SO3-)を従来のフッ素系電解
質膜よりも増加させ,イオン交換容量を大幅に増大させることができた点にある。そ
の結果,膜抵抗を約 1/2 に低減でき,氷点下においても電流を取り出し続けることが
できた(図Ⅵ-2)。
③ また,高温の部分は 95℃まで発電できるが,80℃で使用すればさらに耐久性は向上す
る(図Ⅵ-3)。
④ ハイドロカーボン系膜は,もともと強度的に有利であるが,化学的安定性は問題が大
きいと言われていた。そこで,化学的安定性の向上に着目して,サプライヤーと共同
開発を行い,ポリマーの分子構造を含めて検討を行った結果,このアロマティック膜
を開発することができた。今後もさらなる向上を目指していく。
⑤ アロマティック膜は,エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の延長線上にある
と考えている。フッ素系膜ではフッ酸を使う処理が必要となり,生産プロセスが複雑
になる。その観点からもアロマティック膜のコストポテンシャルはあると考えている。
⑥ 金属セパレータについては,一般的なプレス技術で成形できることやリサイクル性に
優れているなど将来のポテンシャルが高いと考えている。
⑦ また,金属セパレータは薄く成形できるため熱伝導性が高く,その結果スタック全体
の暖機特性が向上し,低温始動性に優れているという利点がある。
⑧ スタックの耐久性については,数千時間のテストは行っている。しかし今後は,市場
における車の使われ方を考慮した場合の相関性について,十分なフィードバックが必
要だと考えている。
図 VI-2
水素イオン伝導性の向上
-343-
図 VI-3
高温性能の向上(左)と高温耐久性の向上 80℃(右)
(2) 水素搭載技術について
① 水素貯蔵については,高圧化もひとつの手段であり,容積を小さくできる。しかし,
重量増加や高圧化による Well-to-Wheel 総合エネルギーの悪化,CO2 排出量の増加と
いうマイナス面がある。さらに,水素脆性の問題もあり,安全性の担保等を踏まえる
と,高圧化は慎重に進めるべきと考える。また高圧化タンクは,35MPa タンクも同様
だが,ハイグレードなカーボン繊維を用いるためコスト低減に対する課題もある。
② 水素貯蔵量の当面の目標は 5kg であるが,現状では 3.75kg である。70MPa では 5kg
搭載するためには容積 130L,重量 150kg 程度になり当社の目標には達しない。
③ 解決手段のひとつとして,吸蔵材料とのハイブリッド型のタンクに期待している。物
理的に水素を小さくして詰め込むには限界があり,化学的な方法と組み合わせること
が必要である。
④ 70MPa はタンクのみならず,ステーション側にも様々な制約が出てくる。充填時の昇
温を抑える方法としてプレクールなのか,他の方法なのかなど,インフラ側とタンク
側で考え方の整合を図っていく必要があると考えている。まず,35MPa での現状を整
理して,議論する必要があると考えている。その上で,どういうステーションが最後
にあるべき姿で,70MPa だと何が問題で,どういったツールが必要であるかなど現状
をベースに整理していく必要がある。
⑤ 自動車側とステーション側との通信については,自動車側の安全については,自動車
側で守るべきだという考えであり,「70Mpa には通信が必要」と言った短絡的な考え
には疑問が残る。
⑥ 今後これらについて,FCCJ や第 2 期 JHFC の中でひとつずつ議論していくべきと考
えている。
-344-
(3) WtW エネルギー効率等について
① 「Honda FC スタック」搭載の FCX の車両効率(アメリカ EPA の LA-4 モード走行
時)は,55%を達成しており旧モデルの 45%に対して 10%程度向上した。目標効率は
60%と考えている。
② CO2 排出量は,天然ガス改質水素を利用した場合 FCV は既存ガソリン車の 4 割程度
となる。FCV 普及においては,CO2 排出量の低減に向け,今後水素製造部分の議論が
必要だと考えている。
(4) 重点開発項目
① 重点開発項目は燃料電池スタックの耐久性,信頼性の確保である。とくに電圧が経時
的に低下してくるという問題がある。
② 電圧低下には以下の様な要因などが考えられている。
・ 触媒のシンタリングと移動
・ 電極の電位が高くなることによる,触媒担体の腐食
・ 電極層と電解質膜との剥離
・ 不純物による汚染
③ 上記のような現象が起こる原因としては,車の加減速による水素不足での発電,電位
が高いことによる担体腐食,触媒腐食,大気中に含まれるコンタミによる影響などが
考えられる。
④ このような問題に対して,現象を解明するとともに,その問題を 1 つずつ着実に解決
していく必要がある。
⑤ また,白金を使う前提で考えれば,少なくとも白金量を現在の 1/10 にする必要がある。
現在の車を全て FCV でリプレースすることを想定すると,現状の内燃機関車並みの 1
台 2~3gを目標にするか,あるいは他の材料にしなくてはならないと考えている。
⑥ FCV では,スタックの品質管理も大きな課題である。通常車両搭載のスタックでは,
セルを 200~500 枚程度直列に積層するため,1つのセルの異常が致命的となる。そ
のため,品質保証と耐久性の向上が重要である。例えば,FCV 車両が数千台になると
セル数は数百万セルになるため,部品点数を考えると,6 ナイン(99.9999%)以上の
品質保証が必要とされる。生産から組み立てまで現状の内燃機関とは,桁違いの品質
精度を担保しなければならない。
-345-
(5) 今後の FCV のコンセプトと全体システムについて
① 今後の FC スタック開発の方向性として,東京モータショーで V Flow FC プラット
フォームを提示した。
(図Ⅵ-4)このコンセプトは水素と酸素を垂直に流すというもの
で,生成される水を重力を使って落とそうという発想である。水があると,氷点下に
対してのダメージ等,始動性の問題が起こりうる。また,スタックをひとつにするこ
とにより,パッケージのしやすさにも繋がる。
② V Flow FC プラットフォームは,高効率とコンパクトを追及した以下の 3 つの V が
Key となっている。
・ Vertical:水素と酸素を上から下へ垂直に流す
・ Vertebral:背骨みたいなセンタートンネルに FC システムを配置する
・ Volume-efficiency:効率の高いパッケージング
③ 従来の床下に配置するシステムだと,キャビンが高くなり,SUV 的な車両にならざる
を得なかったが,V Flow FC プラットフォームでは乗用車同様の低床レイアウトが可
能となる。
図 VI-4
東京モータショーに出展した V Flow FC プラットホーム(ホンダ HP より)
-346-
3. 水素ステーションに関する取り組み等について
① 燃料電池車に使用する水素の供給元については,普及初期段階では副生水素の活用が
考えられる。その後の大規模な普及の時期には,CO2 削減の観点より原子力利用も含
めた水素製造が考えられていると認識している。一方で実際に使用する場所で小規模
に水素を製造するというオンサイト製造という方法も平行して存在すると思われる。
② Honda では,このオンサイト製造の一環として,再生可能エネルギーの一つである太
陽光を使って水を電気分解して水素を供給するステーションや天然ガスを改質して水
素供給と家庭へ電気と熱のエネルギー供給を行う「Home Energy Station(HES)
」
(図
Ⅵ-5,図Ⅵ-6)の研究を行っている。
③ 第 1 世代の「HES-Ⅰ」は 2003 年 10 月に実験開始,第2世代の「HES-Ⅱ」は 2004
年 11 月に実験を開始し,実証試験を進めてきた。
④ 2005 年 11 月には,システムをさらに進化させた「HES-Ⅲ」を投入した。「HES-
Ⅲ」は,小型・高性能の改質器を新開発し,
「HES-Ⅱ」と比較して約 30%小型化し,
発電量を約 25%向上すると伴に起動時間を1分に短縮した。また水素の製造・貯蔵能
力も 50%向上している。また,一般家庭の使用に応じて変化する消費電力量に追従し
て発電量を変化させる機能や,水素貯蔵タンクの水素を利用して発電を行う停電時の
バックアップ機能も搭載した。
⑤ 今後は,これらの実証試験の結果を元に,実際の CO2 の削減量やシステムに求められ
る課題などを明らかにしていく。
図 VI-5
図 VI-6
FCX と Home Energy StationⅢ(2005 年 11 月 15 日プレスリリースより)
Home Energy Station Ⅲの構成概念図(2005 年 11 月 15 日プレスリリースより)
-347-
4. 今後の FCV の導入について
(1) EV,HEV,FCV の導入の考え方,位置づけについて
① 地球温暖化問題がエネルギー問題より先にくると予想しているが,化石燃料の枯渇は
いずれくる問題という位置づけである。原油の可採埋蔵量のピークは楽観論と悲観論
があり,標準ケースでも 2030 年頃と言われている。それに対応した技術という形で
FCV 開発を行っている。
② エネルギー問題,地球温暖化問題に関しては,技術ミックスで対応させるべきだと考
えている。ガソリンエンジンでは,V-TEC の進化,HCCI(Homogeneous Charge
Compression Ignition:均一予混合圧縮着火)による高効率化,ハイブリッド車の拡
大がある。さらに,ディーゼルエンジン,そして代替燃料による対応がある。代替燃
料については,天然ガス,水素,アルコール類も含めて研究開発を進めている。
③ ディーゼルエンジンは,コモンレールによってガソリン車に匹敵する商品性が得られ
たが,どこまで排出ガスをクリーンにできるかとコスト低減が課題である。
④ HEV は,コスト低減が一番の課題である。
⑤ EV の課題としては,バッテリー技術のブレークスルーが必要である。ハイブリッドで
は SOC が 20%や 40%といった狭い範囲で使うため,耐久性が確保できるが,EV の
場合は航続距離を上げるためにも全域を使う必要があり,現状では耐久性や航続距離
の問題から,バッテリーの革新的な進化がない限り状況は変わらないと考える。
⑥ FCV は,地球環境問題,エネルギー問題に対する長期的取り組みという位置づけで研
究開発を行っている。
(2) 今後の FCV 開発の戦略について
① FCV の次の展開としては, V Flow FC のコンセプトに近いものを出したいと考えて
いる。この目標に向かって,耐久性や航続距離などの課題を解決した上で,コストを
低減していくという 2 ステップが必要だと考えている。
② 少量量産の条件としては,基本的には性能がガソリン車と同等になることが求められ
る。コストはガソリン車の数倍レベル程度に抑える必要があるが,これでも量販化と
いうわけにはいかないと考えている。
③ 量販化については,少なくとも今のガソリン車並みあるいは補助金を含めて HEV 並
みのコストまで下げる必要がある。
④ そのためには,技術面では耐久性を確保したうえで,コストをどこまで下げられるか
がキーになる。同様に,インフラ整備を加速するには商品性のある FCV を早く出すこ
とが重要だと考える。
5. 他社との協力関係について
① FCV の製法等については,基本的にホンダエンジニアリングと共同で開発している。
② アロマティック電解質膜と一体型セパレータについては素材メーカと共同で開発を
行っている。
③ HES については,プラグパワー社と関係を持って研究開発を行っている。
-348-
6. 国・行政機関に対する要望について
① 3 年前の訪問インタビュー調査時に話した内容については,この 3 年間でかなり取り
組んでもらえたと認識している。
② FC キュービックには,基礎的な部分の解明というところに期待している。
7. JHFC プロジェクトに参加しての感想,意見・要望等について
(1) 成果と問題点
① できたこと
・ ガソリンエンジンやハイブリッド車のエネルギー効率と FCV とを同様条件下で比
較し,FCV の優位性を明確にできた。
・ ステーションのエネルギー効率を世界で初めて出せたのは非常に価値があると認識
している。
・ 社会的アクセプタンスはかなり得られつつあると思うが,地道に継続する必要を感
じている。
② できなかったこと
・ 車とステーション間のインターフェース部分の課題についての議論がまだ不十分で
あると感じている。
・ 車両効率という点では,重量補正方法の妥当性などまだ検討が必要である。
・ 2010 年の導入期以降,車両数が増えたときのステーション側のビジネスモデルにつ
いて,車とステーション間で十分に議論が行えていなかった。
③ 課題
・ 耐久信頼性やコストについてはまだまだ解決しなければならない問題が山積してい
ると認識している。
・ ステーションに関しては,インターフェース部分なども含めて,モデルケースをど
う作るかというところまで繋げていけるような取り組みが必要だと感じている。
(2) JHFC-2 について
① 基本的には水素内燃機関も含めた実証を今後も進めていくことになると考えられるの
で,エネルギー拠点として多角的な供給形態という部分で検証を色々していくことに
なると考えている。
② 2010 年の導入期,その後の普及期の足掛かりとして重要な取り組みであると認識して
いる。
③ データの提供などできることとできないことはあるが,今後どの様な形態で参加し,
どう協力できるかについては,真摯にまじめに全力で取り組んでいく考えである。
以上
-349-
VII. 三菱自動車工業株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 2 月 7 日(火)14:00~16:00
場
三菱自動車工業株式会社
所
応対者
本社
環境技術部
1. FCV の開発状況について
(1) 取り組み概要
① 当社では,FC スタック,水素貯蔵タンク等は,他メーカから購入している。
② 当社の FCV 実証車である「MITSUBISHI FCV」
(MFCV)の FC スタックはバラード
製であり,高圧水素タンクはダインテック製である。FC システムはダイムラークライ
スラー(DC 社)との共同開発であるが,DC 社の F-Cell のシステムをそのまま搭載し
ている。二次電池も DC 社から供給されたニッケル水素電池を搭載している。
③ 今後,EV 開発に集中する方針で,JHFC-2 への参加は見合わせる予定である。
(2) 水素貯蔵について
高圧化による効率ロス,液体水素の保冷・オフガス処理などいずれも課題があり,実用
化までには大きな技術的ブレークスルーが必要と考えている。
(3) ガソリン系燃料等の改質技術について
① ガソリン系燃料の改質は高温となり,効率の低下等,課題がある。また,排出ガスがゼ
ロではないところも問題。
② 将来の石油枯渇を見据えたエネルギーセキュリティの観点からすれば,ガソリン系燃料
より水素搭載の方が良いと思う。
(4) 二次電池等のエネルギーバッファ
① エネルギーバッファ技術については,長年にわたり電気自動車(EV)用としてリチウ
ムイオン電池の開発を進めてきたが,リチウムイオン電池の性能向上により,EV とし
ての実用化が可能な状況になってきたと考えている。
② リチウムイオン電池は,FCV や HEV にも応用可能な技術であり,電動車両の要素技
術として確立させていきたい。
③ 現在のリチウムイオン電池は,EV 用を想定して開発を進めている。
(5) 重点開発項目
① FCV 全般で考えると,コスト,耐久性,インフラ整備及び,水素貯蔵が大きな問題と
して考えられる。FCV としての耐久性,信頼性,安全性に対する基本性能の確認が,
今後製品化していく上で必要と考えている。
② FC システムとしては,高コストの原因である電極触媒に用いる白金の使用量低減が必
要だが,耐久性とのトレードオフの関係にあり,難しい課題である。
③ 氷点下での始動性についての検討も重要である。
④ 効率的な水素貯蔵に関しても,航続距離にかかわる重要な課題と考えている。
-350-
(6) MFCV の燃費について
MFCV の 10・15 モードのガソリン等価燃費は 17.3(km/L),ベースのガソリン車は
11.0(km/L)である。
(ベース車の出力:121kW,MFCV:68kW。)
2. 将来の水素ステーションのあり方について
① 当面は,天然ガスやガソリン系燃料の改質によって製造される水素や副生水素が主流と
なるとしても,長期的には,再生可能エネルギーから製造する水素に徐々に切り替え
ていくことが望ましい。
② 現在は,高圧水素ガス等についての専門知識を有したものでないと充填作業ができない
が,安全対策等についての技術改善を進めていくことで,将来的にはセルフのガソリ
ンスタンドのように素人でも容易に充填できるようにしていく必要がある。
3. 今後の FCV の開発戦略について
① FCV は,まだ解決すべき技術的な問題点が多いことから,一般市販しての普及は 2020
年から 2030 年頃になると考えている。
② 当社としては, EV を開発し 2010 年頃までに市販化を進めていきたいと考えている。
EV の開発を通じ,EV,HEV,FCV 等電動車両の要素技術(バッテリ,インホイール
モータ,インバータ等)を発展させ,将来の FCV の実用化に繋げたい。
③ EV の開発を目指す理由は,FCV に比べて早期に実現できる可能性が高く,HEV と比
べ少ない販売台数でも環境負荷低減の貢献度が大きい 等がある。
④ 当社は 2003 年度から JHFC に参加し,同年度以降における JHFC 主催の各種イベン
トに参画している(走行試験は 2004 年 1 月から開始)。リース販売の実績は無い。
⑤ FCV の本格的実用化以降についても,軽自動車や小型自動車クラスでは FC スタック,
高圧水素タンク,二次電池等を搭載するスペースの確保が難しく,EV とした方が有利
と考えられる。
将来的には中型車,小型車以上は FCV 又は HEV,軽自動車や小型車の一部は EV の
ような棲み分けの可能性が考えられる。EV は低速時に高効率であり,車載部品点数が
少なく,より小型車への適性が高いと考えている。
-351-
4. EV 開発について
① 当社では,長年にわたり EV を開発してきた。現在,先進インホイールモータと高性能
リ チ ウ ム イ オ ン 電 池 を コ ア 技 術 と し た 次 世 代 型 電 気 自 動 車 MIEV ( Mitsubishi
in-wheel Motor Electric Vehicle)を開発している。今後,MIEV 技術を EV のみでな
く,HEV,FCV にも展開していくことを考えている。
② MIEV の実験車としてコルト EV,ランサーエボリューション EV を開発した。
③ コルト EV に搭載するリチウムイオン電池は 4 セルを直列につないで 1 モジュールを
形成する。1 モジュール 14.8V で,それを 22 個, 88 セルを直列に接続して 325V,
13.5kWh のバッテリーパックを構成する。コルトは 1,500cc クラスのガソリン車だが,
その燃料タンクのスペースより,少し大きくなる程度である。
④ リチウムイオン電池は温度変化に弱いが,+40℃から-10℃くらいの間で常温状態と
遜色なく機能するように調整をしている。やはり高温,低温領域では温度性能は落ち
ると思う。
⑤当社の既存車や推定車両との比較では,EV の燃料代は,ガソリン車の約 1/3,HEV の
約 2/3 程度であると試算している。夜間電力を用いると更に EV に有利となる。
⑥ 現在,軽クラスの EV を開発中であり,航続距離は 10・15 モードで 200km 程度を目
標としている。
⑦ EV 充電の基本イメージは,家庭での夜間充電である。軽自動車で走行距離が短いこと
を考えると家庭でも夜間 6~8 時間程度(200V利用の場合)で十分に充電できる。
さらにスーパーマーケット,コンビニエンスストアなどの商業施設に充電インフラを
展開することにより,商業施設を利用中に充電でき,EVの走行範囲も広げることが
できるのではないかと考えている。むしろ,既存のガソリンスタンドは使わないとい
うことでクルマのイメージを変えたいと考えている。
5. 他社との協力関係
① 三菱重工とは,メタノール改質技術を活用し,メタノール改質方式 FCV を 98 年に共
同開発したという実績がある。
② 現行 FCV は,DC 社の協力を得て,DC 社の F-Cell と同様のシステムを搭載した。
6. 国,行政機関に対する意見・要望
① 高効率で安全な車載用の水素貯蔵技術などの基礎技術についての研究をお願いしたい。
② FCV に限定することなく,電動車両全般についての開発支援もお願いしたい。特にリ
チウムイオン電池の開発に関しての資金援助をお願いしたい。
③ 今後の FCV の普及に向けた開発が,さらに長期間にわたり継続されると考えられるた
め,FCV 試験車両としての公道走行の認可なども継続をお願いしたい。
-352-
7. JHFC に参加して
(1) 成果と課題
① 当社の MFCV 及び JHFC 参加メーカ全体の FCV の燃費の実力が把握できた。さらに
発進加速,追い越し加速に関するそれぞれ具体的な数字を掴むこともできた。
② 各車種の総合効率や CO2 発生量の比較を公平なデータに基づき公表することができ
た。これらのデータは客観的なデータとして,今後も最適なシステムを検討する際に
大変役に立つと思われる。
③ 車両故障による修理や整備に時間を費やし,当初計画した期間の走行が行えず,取得
データが少なかった。
④ 普通車,軽といった車格ごとの取得データ量が少なく,車格補正を行ったデータを利
用してまとめたが,補正により偏りが生じているように思えた。例えば軽自動車の燃
費が悪く出る傾向があったように思われる。今後は車格ごとに多くのデータを取得し
てまとめるような考慮が必要と考えている。
(2) JHFC2 への期待
当面,EV の開発・普及に注力することとしており,JHFC2 への参加を見合わせる予定。
(3) JHFC に参加して認識した FCV 普及に向けた課題
① 水素安全の確立が必要である。一般の方に水素は危険との認識があり,安全確保に対す
るさらなる技術の向上とともに,安心できるエビデンスの提示が必要である。
② 既に言われているコストダウン,低温始動性,水素貯蔵などの課題克服も同様に重要で
あることをさらに認識した。
以上
-353-
VIII. スズキ株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 1 月 24 日(火)15:00~
場
スズキ株式会社
所
応対者
本社
次世代パワートレイン開発部
1. FCV の要素技術やシステム技術に関する開発内容や目標,主要な技術課題等に
ついて
① GM 製の FC スタックシステムを搭載した高圧水素貯蔵システムによる FCV の開発を
進めている。
② 2003 年に 35MPa の高圧水素タンクを搭載し,航続距離 130km の FCV を発表した(ワ
ゴン R-FCV,MR ワゴン-FCV)。2004 年 12 月には 70MPa の高圧水素タンクを搭載
し,航続距離を 200km とした MR ワゴン-FCV を発表した。70MPa の高圧水素タン
クは国内初の KHK の認証を取得し,これを搭載した車両は大臣認定を受けて,公道
も走行している。
③ 当面は 70MPa 高圧水素タンクが良いと考えている。70MPa 以上の高圧化は,タンク
の肉厚が増し,搭載効率上のメリットがなくなり,タンク自体のコストも上がる。高
圧水素製造エネルギー,製造コストの観点からも考慮が必要であると考える。液体水
素については,ボイルオフの問題が解決されていないのが課題である。
④ 70MPa 高圧水素タンクを搭載した MR ワゴン-FCV でも航続距離が 200km なので,
従来車並の航続距離の確保のためには,更なる技術革新が必要である。そのため,高
密度水素貯蔵技術は FCV 開発の中でも最も重要な課題の一つであると考える。水素吸
蔵材との複合化なども有力と考えている。
⑤ 車上改質形については,最終的に脱石油にならない。また,エネルギー効率でもガソ
リン HEV に及ばないのではないかと考えている。なお,軽自動車など小型車への適
応については,小型軽量化,低コスト化,高効率化なども課題となる。
⑥ 二次電池等のエネルギーバッファは,効率向上の手段としては有効であるが,軽自動
車など小型車については,コストが重要であり,メリットが少ないと考えられるため,
純粋な FCV の可能性もありうると考えている。二次電池を積んでいないと,スタック
のレスポンスなど制御が難しいが,今はガソリン車並に走れるレベルになっている。
⑦ 現在の FC システムは安全性が第一であるため,複雑で部品点数も多く,重量も重い。
今後は,安全性を確保しつつ,システムの簡素化,部品点数の削減,小型軽量化を進
めていく。その他,現在の重点開発項目としては,低コスト化,耐久性向上,航続距
離のアップが挙げられる。
⑧ FCV の本格開発は始まって 10 年程度で,内燃機関の歴史と比べても非常に浅いので,
さらなる車両効率の向上は可能と考えている。水素製造技術についても同様と考えて
いる。
-354-
2. エネルギー効率および水素ステーションのあり方について
① FCV のエネルギー効率については,EV を除いて最も良いと考えているが,総合エネ
ルギー効率からみると FCV はまだハイブリッド車を凌駕できていないと考えている。
FCV の普及に向けては,車両効率の向上および水素製造効率の向上が必要である。そ
のため,車両側としては,FC スタックや補機類の効率向上およびハイブリッド化も検
討している。
② 望ましいと考えられる一次エネルギーは,Well to Tank 効率や CO2 排出量,コストの
観点から考えることが重要である。ただし,導入の初期段階は,普及することが最重
要課題であるので,コスト優先で進めるのが得策と考えている。
③ 車両については,当面は直接水素型である高圧水素タンクを搭載した FCV で普及が始
まると考えている。
④ 短期的には FCV の普及を促進させるために,ある程度地域を限定して水素ステーショ
ンを設置する必要があると考えられるため,その地域に適した方式が良いと考える。
⑤ 中長期的には,エネルギー効率や CO2 排出量,脱石油化のために再生可能エネルギー
等を考慮して展開していくと思われる。
⑥ 水素ステーションについては,社内での試験走行用に水素充填装置を1基所有してい
る。20MPa 程度の圧縮水素をカードルで運んできて,昇圧して充填する。充填につい
ては,社内で規定を設けており,有資格者が付き添った上で,教育を受けた人間が充
填を行っている。
3. 今後の FCV 開発の戦略等について
(1) FCV 導入シナリオと EV/HEV/FCV の位置づけ
① FCV の導入のシナリオとしては,今後も内燃機関の改良・ハイブリッド車の導入が加
速され,当分の間は改良内燃機関車とハイブリッド車の共存状態が続くと見られる。
FCV はインフラ整備が進み,性能,コストがハイブリッド車と同等になった段階で普
及が始まると考えるが,石油価格の高騰が起きた場合には FCV の普及が早まると考え
る。
② EV については,電池技術のブレークスルーが実現すれば,普及が進むと考えられる。
③ 一方,HEV は短中期的な環境対応の商品,FCV が究極的な環境対応の商品であると考
えている。
④ FCV の導入時期については,数年前まで 2010 年ごろと言われていたが,最近は燃料
貯蔵技術開発やコストダウン,耐久性改良の進展スピードが思ったように進んでいな
い状況である。車は 2010 年にできるかもしれないが,インフラができないと売れない。
普及時期は 2015 年以降になるのではないかと予想している。
(2) FCV の普及啓発活動について
① FCV リースについては,自社で保有する FCV は 3 台と少なく,リースする余力もな
いため,リースは行っていない。
② FCV のデモ状況としては,JHFC,静岡県 ECO エネルギー・スクール,湖西市エコ
キャラバン,中国北京 GM Tech-tour などに参画した。
-355-
4. 他社との協力関係等について
① 2001 年に GM と燃料電池技術に関して長期的に相互協力することで合意し,FCV 開
発を進めている。2003 年にワゴン R-FCV,MR ワゴン-FCV を製作し,大臣認定を取
得して公道試験をスタートした。続いて 2004 年に 70MPa の高圧水素タンクを搭載し
た MR ワゴン-FCV で大臣認定を取得し公道試験を継続している。
② GM からは FC システムの提供を受け,車両全体は自社で開発を行っている。
③ 2003 年より JHFC プロジェクトに参加しており,引き続き今後も公道試験によりデー
タ蓄積を行いたいと考えており,第 2 期にも参加したいと考えている。
5. 国・行政機関に対する意見・要望等について
① 国で研究して欲しいテーマとしては,高密度水素貯蔵技術や水素用材料の開発をお願
いしたい。
② 近い将来,日本が水素エネルギー社会を実現するために,国としての将来のエネルギー
戦略の構築とリードを是非お願いしたい。
③ 規制緩和としては,水素の満充填の仕方において,充填後の温度低下による減圧を見
越した充填を許可してもらえるとありがたい。
6. JHFC プロジェクトに参加しての感想,意見,要望等について
① 市街地実走行平均燃費や 10・15 モード平均燃費が公表できたこと,自社のレベルがわ
かったこと,FCV の啓蒙アピールができたこと,FCV とステーションのインター
フェースの課題協議の場ができたことが良かった点として挙げられる。
② 期待はずれであったこととしては,データのまとめ方として,データの偏り,重量補
正の煮詰め不足が挙げられる。
③ データ取りのコンセンサスを得るのに長時間かかっていたと感じるので,最初にデー
タの公表方法の議論をするのが良いのではないかと思う。
④ 啓発活動では,より効果を上げるためにもっとメディアを利用するのも得策ではない
かと考える。
⑤ FCV はまだまだ発展途上の車であるので,JHFC から外部へ燃費や効率データを公表
するときには,現在のデータで悪いイメージを持つような誤解を招かないように,公
表の方法に配慮してもらいたい。例えば,トップランナーという言葉で発表されてい
るが,色々な車種がある中で,最も良い燃費のものという発表の仕方もあると思う。
⑥ JHFC2 については,継続的なデータの蓄積を期待している。
⑦ ステーションも FCV も少ない段階では,もっと地域を限定して運用した方がデータの
取得効率が良いことがわかった。このため,普及初期には地域を絞ってステーション
を構築していく必要があると考える。現在都心部で 10 箇所あるが,離れているところ
もあり,もし FCV を購入しても不便な状況にある。そういう意味で,普及初期はお客
様が使いやすい環境のステーションを計画し建設していくべきと考える。
⑧ 国のお金を使うかどうかは別として,データを出して走行試験を行っていくことには
協力していく考えである。そのデータはきちんと蓄積して国民に向けて PR していく
ことが必要である。PR というのは説明責任を果たすということだと考えている。事故
の事例などについても国民に対してきちんと説明すべきデータであり,蓄積されるべ
きだと思う。
以上
-356-
IX. General Motors 殿調査報告
1. FCV の要素技術・システム技術の開発状況等について
① FC スタックについては,耐久性,信頼性,低コスト,軽量化などの観点で内燃機関に
匹敵するよう,材質変更などの検討を行っている。水素貯蔵技術に液体水素貯蔵を加え
たあらゆる水素貯蔵技術の可能性について継続して研究を行っているが,一方で新たな
技術開発にも着手している。
② 高圧化,LH に対しては,それぞれ長所,短所を持っているが,現時点でどちらに絞る
という考えはない。継続してここの弱点を改善する技術開発を行っていく。
③ 公表できる情報はないが,車上改質に関しては可能性が低いと考えている。
④ 二次電池等のエネルギーバッファは,航続距離の観点からその優位性を認識している
が,それぞれの製品における商品性やコストなど,個別の要求に応じ判断する必要があ
ると考える。
⑤ 重点開発項目は,スタックおよび水素貯蔵技術。
⑥ 現状の FCV のエネルギー効率と将来見通しについては,HydroGen3 の現状効率とし
てヨーロッパのドライビングサイクルで 36%を達成しているが,より高い効率の実現
が可能と考えている。
⑦ 総合エネルギー効率(WtW)からみた FCV は,再生可能なエネルギーを使うことによ
り,効率の改善は歴然である。
2. 今後の FCV 開発の計画等について
① 導入地域については,具体的に導入マーケットを挙げることは出来ないが,グローバル
な市場要求に応えるため,車種の選択を行っている。
② 日米における FCV のリースは行っていない。
③ 米国では DOE の下でのプログラム走行,USPS(米国)のフリート走行,ヨーロッパ
では CEP(ベルリン),IKEA(ドイツ)のフリート走行,日本では JHFC,FedEx のフ
リート走行を行ってきた。
④ 導入・普及時期の見通しについては,2010 年までに実用化できる技術検証を行い,そ
の数年後には量産化を目指したい。
⑤ 日本以外の実証試験については,DOE ハイドロジェンプログラム, CaFCP(ともに米
国),CEP(ベルリン)などに参画している。
3. 水素ステーションについて
① 水素燃料の低コスト化,水素ステーションとガソリンステーションとの併設などが今後
の課題となる。
② 水素ステーション関連では,シェル(米国)との協力を行っている。
4. 国・行政機関に対する意見・要望について
実際の FCV 普及段階ではハイブリッド導入時に相当するレベル以上の国からの補助を
検討していただきたい。
-357-
5. JHFC に参加しての感想,意見・要望等について
(1) 成果と問題点
① できたこと(良かったこと)
・ 現時点での燃料電池車両のエネルギー効率が明確になった。
・ テストルート& 5 分法データ取得法の設定ならびにそのルートでのガソリン等価
燃費データ取得および開示
・ 10・15 モード燃費取得および開示
・ エアコン ON/OFF 時の燃費比較
・ ベース(内燃機関)車両との燃費比較走行およびそのデータ取得および開示(ベー
ス車両の設定に関しては若干の不満が残る)
・ バス(EXPO,有明路線)のデータ(ディーゼルとの比較含む)の取得および開示
・ 企業およびその FCV に対する認知度 UP
・ 自社の車両に関する主観評価
・ 地方での啓発活動
②できなかったこと(期待はずれだったこと)
・ FCV の普及課題の明確化(マーケット構築の観点からインフラ普及を考察してい
ない)
・ 液体水素の充填量を計測できるしくみがステーション側に用意されていなかった
・ ステーションの効率改善の可能性の検討
・ イベントの告知の仕方(メディアの使い方など)
・ JHFC の枠にとらわれない啓発活動の広め方(METI の枠内での啓発活動による限
界)
・ 試乗会,展示説明会という内容のマンネリ化
・ 試乗者へのアンケートの実施(各メーカ毎)
(2) プロジェクトを進めていく上での問題点と事務局への要望事項
① プロジェクトを進めていく上での問題点
・ 液体水素の充填量計測
・ マーケット構築の観点からのインフラ普及への課題抽出(規制緩和,水素製造コス
ト,オフサイト or オンサイト)
・ 高速充填への取り組み
・ ステーション側での効率改善(特定の稼働率を仮定)
② 事務局(JARI/ENAA)への要望事項
・ より媒体をつかった啓発活動の実施
・ 学校単位(特に大学など)でのイベントの実施
(3) JHFC-2 への期待
市場創造につながる事前活動
-358-
(4) JHFC プロジェクトに参加してわかった FCV 普及に向けての課題等
① マーケット構築の観点からのインフラ普及への課題抽出(規制緩和,水素製造コストオフサイト or オンサイト)
② 高速充填への取り組み
③ 70MPa での技術的な実証
④ ステーション側での効率改善(特定の稼働率を仮定)
⑤ 液体水素の充填量が計測できるしくみ
⑥ より媒体をつかった啓発活動の実施
⑦ 学校単位でのイベントの実施
⑧ 大学へのアプローチ
以上
-359-
X. DaimlerChrysler 殿調査報告
1. FCV の要素技術・システム技術の開発状況等について
① FC スタックについては,通常の利用にむけた 5000 時間までの耐久性の向上が課題。
摂氏マイナス 25℃以下でのコールドスタートについては実用化予定。
② 当面,圧縮水素が自動車への利用としては適合と考える。次世代での実利用と前提とし
た場合,その他の水素貯蔵技術が利用可能という確固たる根拠が現状は見当たらない。
③ 液体水素はやはりボイルオフガスの問題があるので積極的な研究開発は行っていない。
液化する際の追加エネルギーの必要性とタンクシステムが高額になることもマイナス
要因である。次世代の FCV は 700 気圧への高圧化になる。
④ ガソリン系燃料等の改質技術については,現状,積極的な研究開発は行っていない。
⑤ 二次電池等のエネルギーバッファは,リチウムイオン電池の利用を前提に研究開発を続
けている。
⑥ 全体システムとしては,効率化,燃費改善が重要課題。
⑦ 重点開発項目は,水素貯蔵,コストダウン,軽量化,小型化。
⑧ 現状の FCV のエネルギー効率については,すでに FCV は Tank-to-Wheel で通常の
内燃機関,内燃機関ハイブリッド車と比べてすでに高効率となっている。更なる改善を
続ける必要あり。
⑨ 総合効率では水素製造と貯蔵の部分が重要な要素と考えている。FCV の高効率はこの
製造・貯蔵におけるロスの部分をある程度は代償するかもしれないが。通常のガソリン,
あるいはディーゼル内燃機関に比べた FCV のエネルギー高効率性と地球温暖化ガス削
減効果を生かし,総合効率という観点からみた優位性を活用できる社会システムの追求
は,マスマーケットにおいて水素の安定供給とコストダウンととも非常に重要であると
考えている。
-360-
2. 今後の FCV 開発の計画等について
① 導入地域については,未定であるが,少なくとも現在すでに導入している地域(日本・
米国・欧州・シンガポール・中国・オーストラリア)は重要な市場であることは間違い
ない。
② 日米欧における FCV リースの状況については,日本はすでに民間企業・財団法人を含
めて 4 台の F-Cell を納車ずみ。また,昨年の EXPO では VIP の先導車として利用し
た。その他,世界各国でバスはバンタイプを含めて 100 台以上を導入済み。
③ 国内外における FCV デモ,フリートについては,各国の主要な実証試験に参加中。今
後も継続。
④ 導入・普及時期の見通しとしては,2012~2015 年ごろの商用化をめざしている。
⑤ 日本を除く実証試験への参画状況は以下のとおりである。
米:CaFCP (California Fuel Cell Partnership)
:DoE program (Department of Energy)
独:CEP (Clean Energy Partnership)
:ZERO-REGIO Project (FCV demo from Nov. ‘06)
EU(7 cities):HyFLEET :CUTE project (Clean Urban Transport for Europe)
Iceland:ECTOS (Ecological City Transport System)
Australia:STEP (Sustainable Transportation Environmental of Earth Project)
Singapore:SINERGY (Singapore Initiative in Energy Technology)
China:Fuel Cell Project in China with Chinese Ministry of Science and Technology
3. 水素ステーションについて
① 水素インフラの開発は行わない。
② 長期的には Renewable ソースのインフラの拡大に期待。
③ オンサイト,オフサイトの考え方については,個別ケースによる。(一概には,優劣は
つけがたい。
)
④ 水素ステーション関連での協力・連携状況については,現況まででもパートナー企業や
それ以外の JHFC 参加企業と密で Open なディスカッションを行っている。今後も
パートナーだけ企業にこだわらすに必要な協力,連携を模索してゆきたい。多くの関係
者との情報交換は実証試験の方向性を議論するためには重要であり,とくに地域を絞っ
た水素インフラの開発・方向性などは積極的に協議してゆきたい。ある一定の地域での
実証ができた場合にはその次のステップでその拠点をリンクされてゆくようなことを
望んでいる。
-361-
4. 国・行政機関に対する意見・要望について
JHFC-1への参加はまずは当面の目標達成においては十分な枠組みであったが,さらに,
普及に関連した対外的な大きな枠組みが必要になると思われる。行政においてもインフラ
側の安全を司る役割(水素安全),災害対策の部分(消防),環境性能(MOE),地方公
共団体,関連の業界団体などが常駐メンバーでなくとも,必要に応じて議論に参加できる
ような枠組みを期待したい。
世界各地でさまざまな FC 車実証試験が行われている。その中で JHFC に独自性,強み,
参加者へのメリットを持たせ,世界中の関係者が JHFC に参加したくなるような枠組み作
りを期待したい。
5. JHFC プロジェクトに参加しての感想,意見・要望等について
(1) 成果と課題
① できたこと
・ FCV の現状の燃費そのものの実力を評価できたこと。ICV と HEV との比較。
・ FCV の市場導入という意味での黎明期の Start として,国や関係者が一致協力し
て,必要なインフラの建設,インフラ(ガレージを含む)の安全性標準の確立に必
要なある程度の情報整理と問題点などの抽出ができた。
・ インフラメーカ・自動車メーカが共通の土台で具体的な技術的ディスカッションを
行う場所が確立された。また,自動車メーカが結束して FC 車の普及に向けたより
クローズで具体的な協議及び活動を行えるプラットフォームが確立された。
・ 燃費測定法,およびその測定結果に関する業界内でのある一定のコンセンサスが確
立された。
・ (まだまださらに向上が望まれるが,)メディア対応活動や地道な数多くの Event
などを通じた燃料電池と水素エネルギーに関する社会啓蒙活動に寄与した,また,
そのコミュニケーションに関係者の多くができる限りの協力を行った。
・ (JHFC の英文最終報告書の完成がその前提になるが,)海外の活動との交流な
ど燃料電池・水素関連技術に関するプラットフォームが確立されたことと同時に積
極的な情報の開示を行うことができた。
② できなかったこと
・ FCV の燃費・総合効率以外のメリットの検証や対外的な PR。とくに安全性・環
境性能やインフラ側で目標となっていた省エネルギー効果や経済性向上のための
課題の明確化については十分に目標を達成したとは言いがたい。
・ (これはプロジェクトだけの問題ではないが,)普及促進のための課題,とくに燃
料電池車の数量的な普及拡大にむけた積極的な各方面への提言について,今一歩の
踏みこみが望まれる。
・ 効果的,効率的な PR 活動によるさらなる認知度向上。
-362-
(2) プロジェクトを進めていく上での問題点,事務局への要望事項
① プロジェクトを進めていく上での問題点
・ 情報の機密性の問題から,たとえば燃費に関するまとめについても平均値として提
示せざるを得ず,ほんとうの FC の実力が見えづらい結果となってしまっている。
また,その計測の前提条件が複雑なため,定量的な評価には相当慎重な説明がもと
められる。
・ 燃費に比べてそれ以外に期待されるアウトプットが明確化されていなかった。
・ 中立性の尊重,ビジネスからの視点導入が難しいという理由から対外的なコミュニ
ケーションは各社が行っている部分とプロジェクトが行う部分に多少のギャップ
が感じられた。
② 事務局への要望事項
・ 各事務局間でワーキング活動の進捗やとりまとめについて,委員会の場での密度の
違いがあったように思われる。
(3) JHFC-2 への期待
① 前述のできなかったことに対する継続的努力。JHFC-1 でこれからの実証試験の基盤と
なるものはすでに完成した。JHFC-1 活動のまとめを通じて現状の課題を明確化し,
JHFC-2 ではその解決に集中して取り組むべき。
② また,課題の抽出において,JHFC-2 終了後に FC 車を一般車両と日常使用状態にお
いて競合させるためには何を解決しなければならないか,という観点が重要と考える。
③ 燃料電池自動車・水素の安全性に対する更なる社会的啓蒙活動。
④ ガレージ・Workshop などの安全性の標準化。(現状は多少,オーバースペックのよう
に感じられる。)
④(JHFC-2 の中で導入決定することではないが,)700 気圧のインフラの実証もある一定
のタイミングで期待したい。
(4) JHFC プロジェクトに参加してわかった FCV 普及に向けての課題等
① 車両の高効率化,航続距離の拡大,耐久性や信頼性の向上はプロジェクトとは直接関わ
りはないがコスト削減と同様に,もちろん必要不可欠である。その前提が整うという仮
定でいえば,インフラ拡大の大きな Vision の提示が待たれるところであり,JHFC が
その Vision 確立のための議論と具体的な推進の場として FCCJ と表裏一体で先導的な
役割の一翼を担うことが望まれる。FCCJ が別の議論の場として存在するが,JHFC か
らの OUT PUT としてはインフラの経済性,設置地域の合理性,利用回数と車両需要
の Feasibility Study など,実証・実態に即したフィードバックを行い,逆に FCCJ に
提示できる基礎情報が読み取れるようにするなど,相互に機能してゆくことを期待す
る。
② まだまだ,関係法規は関係機関が普及に対して十分に整備されていない。たとえば高圧
ガス保安法の基準も海外と異なり,普及に関する規制の見直しが必要と考えられる。
FCV の利用実態をプロジェクトからのフィードバックで想定しなおし,こういった規
制緩和の議論にも反映してゆくべきではないか。
③ 水素ステーションの普及は燃料電池自動車普及の前提条件となる。実証試験の期間と商
用化の移行期間をいかにスムーズに行うかについては政府の協力が不可欠であり,イン
フラ建設・燃料電池自動車自体への補助金などのも不可欠であると思われる。
以上
-363-
XI. 大阪ガス株式会社殿訪問インタビュー調査結果
日
時
平成 17 年 10 月 18 日(火)15:00 ~17:00
場
所
大阪ガス株式会社
応対者
営業技術センター
家庭用コージェネレーションプロジェクト部
1. PEFC 関連技術・製品の位置付け,開発内容,開発状況等について
(1) 家庭用 PEFC の技術開発に関する取り組み状況
1) 大阪ガスにおける取り組み概要
①
1980 年代から PAFC のセルの研究を行っていた。その技術を活かし 1998 年頃から
PEFC セルの評価に着手した。1999 年から三洋電機,松下電工等の試作機を NEXT21
に設置し,運転テストを開始した。
②
2003 年から,燃料電池メーカ 4 社(三洋電機,東芝燃料電池システム,松下電器,
荏原バラード)との共同開発を開始した。その後,年に 1~2 回の改良を実施し,現在
は第 4 次試作機の段階であり,性能的には当初(2003 年)の目標を達成している。
③
2005 年から燃料電池メーカとペアで,新エネルギー財団(NEF)の定置用燃料電池
大規模実証事業に参加している。
④
現状の電池本体についての当社の技術開発状況としては,ユーザの立場としての視点
から,特に耐久性向上のための劣化要因の解明に着目したセルの評価を実施している。
昨年度(2004 年 10 月)から,2007 年度末までに劣化要因の解析と加速劣化手法の開
発を目標とした NEDO のスタック劣化解析プロジェクトに参画している。
⑤
燃料改質装置については,従来から培ってきたナフサからの燃料改質技術を活かし,
燃料電池用小型燃料改質装置の開発を行っている。具体的には,新たな CO 選択除去
触媒の開発を行い,脱硫触媒や改質触媒を燃料電池用に改良・開発して,それらを組
み込んだ小型燃料改質装置を実際のシステムとして運転している。
⑥
その他に排熱回収のシステムや,高効率インバータなどの周辺機器についても開発を
行っている。
-364-
2) 家庭用 PEFC コージェネレーションシステムの目標効率と達成状況
2003 年頃定めた PEFC システムの目標効率である 31.5%(HHV)を 2004 年に達成し
た。定格だけでなく,最低負荷時(30%負荷)のシステム効率も 27%(HHV)と高い結
果を得ている。(表 XI-1)
表 XI-1
大阪ガス PEFC コージェネレーションシステムの目標効率(HHV)
プロセス
燃料改質装置
発
セルスタック
電
インバータ
効
補機損失
率
発電効率
排熱回収効率
総合効率
1kW 定格運転時
81 %
48.5 %
90 %
89 %
31.5 %
41 %
72.5 %
300W 発電時
72 %
53 %
88.5 %
81 %
27 %
24 %
51 %
3) 家庭用 PEFC コージェネレーションシステム普及のための技術課題
PEFC コージェネレーションシステム普及のための今後の技術課題は次のとおりであ
る。
① 長期耐久性の向上(4 万時間以上~9 万時間)
② コストダウン(補機類の削減・消費電力の削減・高耐久化,システムの簡素化
燃料改質装置・排熱回収システムのコストダウン)
③ 小型改質装置の高効率化(熱効率,起動停止特性の向上)
④ 最適運転制御方式の開発(学習運転制御方式や排熱回収システム)
このうち,特に①耐久性の向上と②コストダウンに集中して開発を進めている。
-365-
4) 電池本体に関する取り組み状況
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
セルスタックの耐久性向上のため,劣化要因の解明と,加速劣化手法の開発のため,
セルの評価を行っている。具体的には,1998 年頃から 5 センチ平方程度の単セルを様々
な温度,加湿条件,電流密度,不純物の影響等の異なる条件のもとで運転し,耐久性
に与える影響を分析してきた。
これまでの検討より以下の 4 つが主なセルの劣化要因であると考えている。
(表 XI-2)
・加湿量が不足することによりクロスリークに至ってしまうこと
・空気極ではフラッディングにより濡れが進行し,空気の拡散性が悪くなること
・空気極においてシンタリングが起き,触媒の有効面積が減少すること
・燃料極においては白金のシンタリングにより白金ルテニウム触媒が脱合金化し耐
CO 性が低下すること
上記以外にも炭素材料の腐食の問題や過酸化水素の生成による劣化の問題がある。こ
れらを含めて,NEDO プロジェクトにおいて加速試験方法の確立を目指して検討を
行っている。
現在,飽和加湿の条件での単セル運転においては,4 万時間を超えて運転しているも
のが何台かある。これにより,飽和加湿の条件下であれば膜材料が十分もつというこ
とは実証できた。
システムとしては,運転時間の一番長いもので 1 万 9 千時間程度。まずは,2008 年
には 4 万時間の耐久性確保を見通すことを目指して取り組んでいる。
2,3 年前までは低加湿にトライしているメーカもあったが,定置用に関しては飽和
加湿が前提になってきているように感じている。1 万時間以上の運転をしようとする
とかなり飽和に近い状態で運転しないと膜材料がもたない。
加湿条件については,実システムでは正確な露点制御が困難なため,加湿不足を避け,
ガス流路等の最適化を図ることによる過加湿に耐えられるセルスタックの設計が必要
と考えている。併せて,MEA の改良によるセルの劣化率の低減も必要である。
表 XI-2
電解質膜
空気極
燃料極
クロスリーク
フラッディン
グ
シンタリング
脱合金
主なセルの劣化要因
加湿不足によりガスのリーク量が増加
漏れの進行により空気の拡散性が低下
(起動停止により漏れが進行)
触媒の有効面積が減少(初期に顕著)
(起動停止・高電位運転により加速)
Pt のシンタリングにより Pt-Ru 電極触媒が脱合金化し,Ru
が溶け出し耐 CO 性が低下(高 CO 濃度で加速)
-366-
5) 小型燃料改質装置の開発状況
① プレート形の小型燃料改質装置を開発している。これは,プレート形の反応器を複合
一体化して放熱ロスを抑制したものであり,プレス加工を用いたシンプルな構造を有
するのが特長である。500W,750W,1kW,2kW 級の試作機をバリエーションとし
て開発しており,海外も含めてメーカに提供している。現在,荏原バラード,三洋電
機,東芝燃料電池システムの他,海外メーカなどにも技術供与を実施している。
② 都市ガスには,付臭剤として数 ppm の硫黄分が含まれている。通常の水添脱硫剤で
は ppm レベルまでしか下げられないが,当社が開発した超高次脱硫剤では 1ppb 以下
にすることが可能。通常の常温脱硫を使用した場合には,かなり大きな脱硫ユニット
をつけ,毎年それを取り替える必要があるが,当システムでは触媒交換なしで 10 年
間の運転が可能な設計となっている。さらにこの触媒により硫黄分を少なくできるた
め,S/C を 2.5 程度まで落としても安定して改質器を運転することが可能となる。こ
れにより蒸気発生に必要な熱を低減できるため,高効率化が可能となる。
③ 超高次脱硫剤は LPG にも適用可能である。この脱硫剤を用いた LPG 改質装置を搭載
したシステムの大規模実証事業が実施されている。LPG はボンベの交換直前には,
硫黄分が濃縮され,濃度が高くなるが,そういう状態であっても,超高次脱硫で濃度
を落とすことができる。そのため,LPG 改質装置は都市ガス仕様とほぼ同じ装置に
できる。
④ 新たな CO 選択酸化触媒の開発により,改質ガスの CO 濃度を 1ppm 以下にすること
ができた。9 万時間相当の加速劣化した触媒を用いたテストにおいても,10ppm 以下
であることを確認している。
⑤ 触媒に関しては 9 万時間運転に対する耐久性は確認できている。また,燃料改質装置
は長期耐久試験において 2 万 7 千時間を確認しており,現在も試験を継続中である。
⑥ 燃料電池で使う水素分を改質器に投入する燃料の熱量分で除した熱効率(以下の定
義)で 82%(HHV)を達成しており,これは世界のトップクラスである。
定義: (【FC に投入される改質ガスのエネルギー】-【オフガスのエネルギー】
)/
【投入燃料のエネルギー】
-367-
6) 家庭用 PFFC システムの最適運転制御方式の開発
① PEFC システムの運転方法の課題としては,様々な顧客ごとの電気負荷,熱負荷の変
動,季節による負荷変動,メーカによる FC 特性に対応した最適化が必要である。そ
のため,省エネ性と耐久性を考慮した最適学習運転(負荷予測と最適制御運転)制御
システムを開発している。
② 排熱回収システムにユーザの熱負荷に合わせて運転する学習制御を組み込んであり,
出力指令信号を送って燃料電池を動かすというシステムである。負荷変動に合わせ
て,最も省エネになる運転パターンをシミュレーションで割り出し,最適制御する。
③ 具体的に,このシステムでは,当日から 2 週間前まで 1 時間ごとの負荷パターンのデー
タを全てマイコンチッブに蓄積し,当日の曜日と水温から,負荷パターン(これくら
いの負荷が必要とか,こういう時間帯にピークがくるとか)を予測し,それにあわせ
て運転方法を決定している。定格あるいは部分負荷も含めた形で最も適切な運転を割
り出し,最適学習運転制御している。また,ユーザが自分で運転パターンを変更でき
る機能も付いている。
④ 運転パターンとしては,以下のようなイメージである。
・夏の熱あまりのときは 1 日 1 回動かす DSS または,2 日に 1 回動かす SS 運転。
・春や秋など中間期では,最低負荷に近いところで連続運転して,夕方上げるなど湯の
量にあわせて運転する。
・冬はできるだけ定格に近い運転をした方が,効率が高いため,負荷追従運転と強制運
転(電力負荷よりも出力を高くして熱に変換し,高い効率で運転する)を組み合わせ
て最適な運転を行う。
⑤ このような学習制御をした最適運転では,単純に負荷追従運転したときと比べ,省エ
ネ率が 1~3%程度向上していることを確かめている(図 XI-1)。特に負荷の大きい
ユーザでの最適運転は,より省エネ効果が高い。
図 XI-1 学習制御の評価
-368-
7) その他の開発への取り組みについて
① 排熱回収システムの商用機を開発している。200L の給湯タンク,幅 44cm,奥行き
75cm で低温騒音型ラジエータを有する(表 XI-3)。
② 補機類については,NEDO プロジェクト(後述)によって,補機点数の削減,消費
電力の削減,高耐久化,低コスト化の課題をクリアすることによって,2008 年まで
にコスト削減と耐久性の確保(4 万時間以上)に向けて取組んでいる。
表 XI-3 大阪ガスにおける排熱回収システム(商用機)の仕様
項目
新学習制御
給湯
暖房
暖房排熱利用
設置スペース
重量
本体との通信(※)
リモコン
待機電力
BU 効率
仕様
PEFC 対応
83%以上(CH 同等)
75%以上(CH63%)
有(一部)
440×750mm 以下
120kg
インテリジェント通信
FC 対応
10W/5W(リモコン off)
※FC との通信方式は,全国統一仕様に向けて検討中
8) 家庭用燃料電池技術開発の目標等について
① 大規模実証が 2007 年度まで計画されているため,2008 年度からの販売を目標にして
いる。そのためには,コストダウンと耐久性の向上が大きな課題である。
② 販売時の製造原価は 90 万円以下で,販売するときは 100 万円+α程度にすることが
必要である。そうでなければ,補助金が半分あったとしてもエコウィルのような販売
状況にはならないと考えている。
③ 現在,エコウィルの販売が伸びてきているが,発電効率が 20%(LHV),総合効率
が 85%(LHV)であり,熱需要の大きいユーザが対象となる。一方,燃料電池は,
熱の負荷の小さいところに対しても省エネ効果を出せる機器として重要であると考
えている。
-369-
(2) NEDO プロジェクトについて
1) スタック劣化解析プロジェクト
① 2004 年 10 月から,NEDO のスタック劣化解析プロジェクトに参画している。目標
は,2007 年度末までに 4 万時間以上の耐久性の見通しを得ることであり,そのため
に劣化要因の解明と加速試験方法を確立することが使命である。最終的に,半年間で
4 万時間が見通せるような加速試験手法を目標とし,短時間でセルの寿命を予測する
方法を確立するため,どのような劣化要因があるかという基礎研究に主眼を置く。
② プロジェクト運営はリーダーが小久見先生(京都大)で,産総研,神谷先生(横浜国
大),メーカ(東芝燃料電池システム,三洋電機,松下電器),エネルギー会社(大
阪ガス,東京ガス,新日本石油)が参画している(図 XI-2)。
③ スタック小委員会とシステム小委員会に分かれており,スタック小委員会では,劣化
要因の把握と研究指針の策定,システム小委員会では,実際のシステムの中での運転
条件に起因する劣化現象の把握と研究指針の策定を担当する。
④ スタック小委員会には,単セルの評価を行っていた経緯から,FC メーカ(東芝燃料
電池システム,三洋電機,松下電器)と大阪ガス,産総研,稲葉先生(同志社大)が
参加し,システム小委員会は,エネルギー会社(大阪ガス,東京ガス,新日本石油)
と FC メーカ(東芝 FCP,三洋電機,松下電器)で構成されている。役割分担は図Ⅳ
-2 のとおり。
⑤ スタック小委員会では,スタックメーカが要因を調べてデータを持ち寄り,研究機関
(産総研,同志社大学)や評価担当会社(大阪ガス)と協議し,研究機関が基礎的な
アプローチで進めていく形をとる(図 XI-3)。
⑥ 短期間で即実用展開可能な劣化加速試験法を確立するために以下のような研究指針
のもとで取り組んでいる。
・商品化が予定されている複数の最先端の実用スタックを用い,実システムの運転条件
を想定して劣化加速手法を開発
・重要な劣化因子に集中して検討
・劣化加速手法を科学的に裏付けるために基礎研究を実施(帰納的アプローチが主)
・トップメーカ,トップユーザ,官学の高度な FC 専門家の参画を想定し,即実行可能
な具体性を持った計画を策定
・基礎研究が最も時間を要するため,各社保有データを開示し,スタック共通の劣化要
因を整理,優先順位付けを行い,基礎研究テーマを立案
・各社分担テーマの成果を反映して研究計画を具体化
⑦ 現状は電極など MEA がメインであるが,これが解決に向かえば,スタックの調査に
展開していく(図 XI-4)。具体的には,ガス拡散層の課題(水の動きや撥水性,フラッ
ディング)と電極触媒層の課題(触媒のシンタリング,担体カーボンの酸化,ルテニ
ウム合金触媒の脱合金化など)について取り組んでいる。
⑧ 2008 年の段階では次世代の固体高分子膜は登場するのが難しいと考えられることか
ら,フッ素系膜,カーボンセパレータを使ったもので研究を進める。
-370-
図 XI-2 劣化解析プロジェクトの体制
図 XI-3 劣化現象の把握と指針策定
-371-
図 XI-4 研究の方針
2) 定置用燃料電池大規模実証事業
① 第 1 期では,JR 難波駅近くの都市機構の都心居住型集合住宅「アーベイーンなんば」
に三洋電機製の燃料電池システムを 18 台,その他に東芝燃料電池システム,松下電
器,三洋電機製のシステムを戸建住宅に合計 28 台設置し,運転データを取得してい
る。
② 第 2 期では,三洋電機と東芝燃料電池システムのシステムを合計 35 台実証する。家
庭用燃料電池開発を加速させる目的で,大阪ガスは三洋電機と東芝燃料電池システ
ム,東京ガスは松下電器と荏原バラードのシステムで実証事業に取り組んでいく。た
だし,今後もメーカ4社とは協力しながら進めていく。
③ 2002 年~2004 年の実証試験(NEF)では,ポンプの故障やセル内に水が詰まり動か
なくなるなどのトラブルや,フィルターの詰まりなど色々あったが,今回の実証では,
2005 年 9 月から運転開始して,大きなトラブルはまだ起きていない。
④ トラブル発生時には大阪ガスに連絡が入り対応する。燃料電池システム本体に関する
事項については,三洋電機や東芝燃料電池システムと協力して対応する体制となって
いる。
⑤ 大規模実証事業では,最低 2 年間は運転しなくてはならないため,実証期間中は,も
しセルがだめになったらセルを取り替えてでも運転を継続する。
-372-
3) 家庭用燃料電池システムの周辺機器の技術開発プロジェクト
2005 年度から,補機のコストダウンに関して,NEDO の補機プロジェクトがメーカ 5
社(松下電器産業,荏原バラード,三洋電機,東芝燃料電池システム,富士電機アドバン
ストテクノロジー)で進められている。燃料電池の普及に当ってはシステムコストの低減
が大きな課題であり,中でも周辺機器(補機類)のコストダウンが重要である(経済産業
省「定置用燃料電池市場化戦略検討会報告書 2005.4」の提言)。燃料電池メーカ5社の調
査により補機類の共通仕様を設定し,補機メーカと共に低コスト化・高耐久化・低消費動
力化を目指した開発が進められている。
2. 水素ステーションについて
(1) 水素ステーションの開発概要と利用状況(図 XI-5)
① 国プロをベースとして水素に関する技術開発を行ってきた。2002 年に WE-NET のプ
ロジェクトで酉島の水素ステーションをスタートさせ,その後「水素安全利用等基盤
技術開発」で安全関係と実用化関係の 2 件に参画し,ステーションの活用化を進めて
きた。
② NEDO の水素安全の研究(水素基礎物性の研究)と,水素実用化のプロジェクト(水
素スタンド用水素製造装置開発)の 2 件で水素ステーションの技術開発を継続してき
た。現在は実用化のプロジェクト(天然ガスのオンサイトステーションにおける製造
装置の負荷連携制御)のみとなっている。それも 2005 年度で終わるので,次年度ど
うするかについては現在検討中である。
③ 水素ステーションの利用状況については,現在はおおさか FCV 推進会議の車両 1 台
(大阪府がトヨタからリース)とダイハツが自社で運用している計 2 台の充填がメイ
ンである。今までの充填回数は 134 回,平成 17 年度だけでは 30 回で週 1 回以上の
ペースである。
図 XI-5 大阪ガスの水素技術開発取り組みの経緯
-373-
(2) 水素製造装置の開発
① ステーション用と工業用の 2 つの水素需要を対象とした水素製造装置を開発中。水素
製造装置自体は,NEDO によるガス協会のプロジェクトの成果も一部活用して自社開
発したもの。
② もともと OG-HH,HG という工業用の水素製造装置を開発しており,こうした触媒
技術等をベースに,ワンパッケージ化したコンパクトな装置である HYSERVE を開
発した(図 XI-6)。脱硫して改質し,CO 変成して,PSA で生成するシステムで,99.999%
以上の水素が製造可能である。
③ 過去の水素製造装置では改質部分を低圧(2KPa)で行い,それをコンプレッサで昇
圧して 9kgf/cm2(0.9MPa)の混合ガスにし,PSA で精製して 0.75MPa の製品水素
を得ていた(低圧フロー)。HYSERVE では,中圧(中 B:1.5 kgf/cm2(0.15MPa),
中 A:6 kgf/cm2(0.59MPa))のパイプライン網を活用し,最初に 9kgf/cm2(0.9MPa)
程度まで昇圧し,改質,CO 変成,PSA を中圧条件で行う(中圧フロー)ことで,大
きなコンプレッサが不要となり,コンパクト化が可能となった(図 XI-7)。自動運転
化により,ボタン操作で起動,停止,レート変更などが可能。
④ 100 Nm 3/h 規模のコンパクトな HYSERVE-100 の開発も昨年度終了しており,愛・
地球博の東邦ガスの水素ステーションで半年間運用していただいた。特に大きなトラ
ブルはなく,ステーション用途として,初めて実証することができた。
⑤ HYSERVE-100 の一番の目的はコンパクト化だったが,ドイツの某社の水素製造装置
に比べると設置面積も 6 分の 1 くらいになり,非常にコンパクトにできた。また,オ
フガスをほとんど 100%活用するため,低負荷(40%)から 100%までほとんど一定
の効率が得られるのが特長である。
⑥ 将来の水素ステーション用として,HYSERVE-300(300Nm3/h)を開発中で,現在
改質器と PSA それぞれについて単体テストを進めている段階である。当面は,
300Nm3/h が水素ステーション用として最適なサイズと考えている。
図 XI-6 コンパクト水素製造装置 HYSERVE シリーズ
-374-
図 XI-7
水素製造装置コンパクト化
(3) 水素ビジネス展開について
① 現在,HYSERVE-30 と HYSERVE-100 の 2 種類を商品として販売,当面は工業用
途をターゲットとし,既に 10 台程度を販売した。年々市場は増えている状態である。
② 価格は,状況に応じて補機類が変わるため前後するが,HYSERVE-30 で本体 4,000
万円程度。HYSERVE-100 でも 6~7,000 万円程度である。HYSERVE-300 は 1 億円
程度にしたいと考えている。
③ HYSERVE はコンパクト化,スキッド化されており,既設の CNG スタンドに設置し
て水素ステーション化していくことを考えている。法律的には可能である。
3. 国・行政機関等に対する要望
① 次世代膜や低加湿 MEA,貴金属量の削減,樹脂モールドセパレータや金属セパレー
タ,選択透過膜等の基礎研究や次世代開発,大量生産技術など,普及拡大が可能なコ
ストへの低減や耐久性を向上するための開発には,国が 100%研究投資し,国主導で
進め,その成果をフィードバックしていく必要があると考える。
② 一方,実用化開発については,現状のような 2/3,1/2 補助の継続を希望する。
③ 規制緩和については,機器の検知装置(ガス検知器,加圧防止装置等)が高価なため,
センサー類を減らすような規制緩和が必要である。
④ ステーションの規制については,平成 17 年 3 月に緩和されたものの,自主基準(簡
易検知器の設置,高圧部における散水設備の設置,過流防止弁の設置など)が多数あ
り,さらに規制緩和を求めていきたい。
⑤ 現在,系統連系に関しては,FC システムを設置する場合には,電力会社に設置の 2 ヶ
月前に書類を提出して確認を受け,電力会社の系統連系立会い検査が行われた後に,
運転開始可能となる。認証を受けた機器については,設置したら直ちに運転できるよ
うな制度への取り組みが JIA((財)日本ガス機器検査協会)や JEMA((社)日本電機
工業会)で進められているが,その取り組みを加速させる必要がある。
以上
-375-
XII. 新日本石油株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 2 月 10 日(金)10:00~12:00
場
新日本石油株式会社 本社
所
応対者
中央技術研究所
水素・新エネルギー研究所
FC・新商品事業本部
FC 事業部
1. PEFC・水素関連事業の取り組み体制
① 2005 年の 6 月末に組織が改編された。平成 17 年度に入って大規模実証事業が本格的
に立ち上がった経緯もあり,実務と研究開発を分離した体制で臨む。FC 関連の新組織
は新たに FC・新商品事業本部と研究開発本部の 2 つから成る。
② FC・新商品事業本部の中に FC 事業部がある。これは FC の事業化,実用化を想定し
た組織であり,販売部門,サポート部門,研究組織との調整などを担う部門がある。
③ 研究開発本部の中に位置づけられる横浜の中央研究所の中に FC 関連の研究組織とし
て FC 開発研究所と水素・エネルギー研究所を組織した。後者は,水素インフラに関す
る部分で,水素製造や輸送,貯蔵技術の研究組織である。
④ 家庭用 PEFC の大規模実証は,FC 事業部と FC 開発研究所が中心となって活動する。
⑤ 各組織の FC 関連従事者の約 8 割が FC 関連の研究開発に従事し, 2 割が水素の製造・
輸送・貯蔵の研究開発に従事している。
左:発電ユニット(1×1×0.45)m
右:貯湯ユニット(0.75×1.9×0.44)m
図 XII-1 ENEOS ECO LP1
-376-
2. PEFC 関連技術・製品の位置づけと開発内容の概要
① 当社では FC 関連技術の開発を最重要課題としている。大規模実証事業が終わる 2008
年度以降が本格的な事業化の時期だと見据えて活動している。基本的には 2010 年くら
いが本格的な事業化の時期と想定している。
② 当社の FC 製品は,2005 年の 3 月に商品化した「ENEOS ECO LP-1」(図 XII-1)と
いう家庭用の 1kW 級の LPG 仕様 PEFC 電熱併給システムがある。さらに 2006 年 3
月 20 日に商品化予定の「ENEOS ECOBOY」(図 XII-2)がある。これは灯油仕様の
家庭用 1kW 級 PEFC 電熱併給システムである。
③ これらの商品についても,エネルギー効率,耐久性については継続してステップアップ
していく。
④ 灯油仕様業務用の 10kW 級 PEFC 電熱併給システムについても現在研究開発を行って
いる。2005 年に入ってからホテルに設置し実証試験を行っている(図 XII-3)。さらに,
2005 年 9 月にコンビニエンスストアに設置して実証試験を開始した。
⑤ 当社が担当するのは,全体システムと改質器,改質器で用いる触媒の部分である。スタッ
クはそれぞれ家庭用 LPG 仕様が三洋電機製,灯油仕様が荏原バラード製,業務用は三
菱重工製を採用し,各社とそれぞれ共同開発を行っている。
⑥ 開発目標としては,どのシステムも 10 年 4 万時間稼動,発電効率は 36%(LHV),総
合効率は 80%(LHV)を目指している。
⑦ コンビニでの実証試験では,お湯を使わないところでの利用を想定し,吸収式冷凍機を
併設している。具体的には廃熱で吸収式冷凍機を動かし,チルドウォータを作って冷
房用に用いる実験を行っている。
⑧ 耐久性は 4 万時間の見通しが得られるところにはまだ達していない。
⑨ 家庭用の灯油仕様は,寒冷地での使用を想定し,マイナス 10℃に対応できるようにし
た。
⑩ JHFC では,2002 年にオンサイトナフサ改質ステーション(旭水素ステーション)を
建設し現在まで運営を行っている。
左:発電ユニット(0.9×0.9×0.35)m
右:貯湯ユニット(0.64×1.99×0.74)m
図 XII-2
ENEOS ECOBOY
-377-
図 XII-3 実証試験中の 10kW 級業務用 PEFC 熱電併給システム
3. FC 用改質器の開発状況
① 改質方式は全て水蒸気改質である。現状の主要課題は耐久性と信頼性である。基本的に
コスト低減と耐久性・信頼性の向上はトレードオフの関係にある。
② スタックも耐久性という視点からは改質器と同じような状況にある。
③ LPG については,市販仕様の LPG をそのまま用いることを前提としている。灯油につ
いては,低硫黄灯油を用いることとしている。すべての灯油の硫黄濃度に対応するこ
とは現状では難しい。今後の課題と捉えている。
④ 今回の組織改編に併せて,子会社の LPG 供給会社であった新日本石油ガスを合併した。
そのため,LPG 仕様 FC の開発と燃料の流通を完全に一元化することができた。
-378-
4. 定置用 FC システムの市場導入に向けた取り組み状況(大規模実証試験)
① NEF の定置用燃料電池大規模実証事業として,LPG 仕様の ENEOS ECO LP-1 を関東
圏を中心に 134 台導入した。来年度からこれを上回る数を全国に展開する予定である。
② 2006 年 3 月 20 日の商品化予定の灯油仕様 ENEOS ECOBOY は,関東圏の1都 10 県
と,北海道,東北北陸の人口 10 万人以上の主要都市で導入していく予定である。
③ いずれも,顧客とは年間 6 万円負担と,システム利用に関する運転データの提供に協
力していただく旨の契約を結ぶ。
④ 設置の希望者は多いが,設置スペースなどの条件を踏まえると,全ての希望にお応えき
れないというのが現状である。
⑤ 大規模実証の結果,実際に顧客が運転した結果として CO2 の排出削減量の具体的数値
が NEF の HP から公表された。CO2 排出削減効果があることが公的な第三者によって
示されたことは大きな成果であると考えている。
⑥ 大規模実証事業での 100 台規模の生産によって,コスト低減の効果が出ている。大量
生産の効果は改質器,スタック,補機類の全てのところで出てきている。2005 年度は
1台につき 600 万円の補助金が出たが,2006 年度はこれよりも下がることを想定して
いる。
⑦ 商品の最大の課題は,耐久性とコストである。耐久性の目標は 10 年間 4 万時間稼動で
あり,コスト目標は 2010 年に 100 万円である。
⑧ 今後の本格普及に向けての戦略としては,新築一戸建てに最初から設置することを目指
す。継続的な普及につなげる重要なポイントだと考えている。そのため,ハウスメー
カへのアプローチを進めている。そのためにはどうしても技術的に耐久性 10 年間 4 万
時間の達成が必要と考えている。
⑨ 大規模実証事業では,半年間区切りであるが,新築戸建に設置するには,1 年の期間を
要するため,通年での普及交付という制度に換えて欲しいと考えている。
5. 自動車用水素供給ステーション(JHFC)に関する取り組み状況
① JHFC において横浜市の旭水素ステーションを 2002 年に建設し,2003 年 4 月から運
用を委託され,運用している。オンサイトナフサ改質による水素供給ステーションで
ある。
② 主にエネルギー効率の改善に注力して取り組み,運転方法などによる改善を図った。当
初は 58.9%(HHV)であったのが,今年度は 66.2%まで向上できた。具体的には,改
質における S/C 比を最適化したり,燃料供給量を最適化したりした。装置自体は建設
当時から改良していない。
③ 典型的な稼動状況としては,1 週間に 1 度 10 時間程度稼動して水素を製造・補給して
停止する,というパターンを繰り返した。
④ 当社がリースを受けているのはトヨタ FCHV であり,通常の利用をしないと意味が無
いということで,中央技術研究所の所長車として利用している。
-379-
6. 水素供給ステーションのあり方について
① 現時点では,オンサイトとオフサイトの供給ステーションの間で優劣をつけるべき段階
ではないと考えている。
② 石油産業における製油所では,脱硫過程において水素を大量に使用している。そのため,
水素を大量に製造しており,この水素が FCV 用に供出可能である。この水素の製造に
は各種精製過程のオフガスを原料として優先的に用いている。
③ 将来の FCV の導入を考えると,長い期間従来車との共存が想定される。この場合,サー
ビスステーション(SS)における水素・ガソリン等併設が重要になってくる。
④ 既存インフラの活用という意味で,SS 併設オフサイト水素ステーションは重要であり,
JHFC-2 においては,この実証試験を行いたいと考えている。
⑤ 短中期,長期の燃料を考えていくと,短中期の過渡期においては水素を豊富に含んだ化
石燃料を活用することが重要である。環境にやさしくて経済性にも優れたエネルギー
として, CO2 の分離・回収を含めて化石燃料から大量に安く水素を作ることが,石油
業界の水素社会への対応と考えている。
⑥ 以上から,最初は SS 併設オフサイトの圧縮水素輸送方式でスタートし,ある程度の稼
働率が稼げる段階にきたらオンサイトの良いところも活用していくというシナリオを
想定している。そのため,高圧水素の輸送方式は直近の技術課題であると考え,そこ
に注力して取組んでいる。
⑦ 製油所の水素をオフサイトステーションを介して提供する場合の水素の値段について
は,水素製造コストは安価であり,デリバリーが重要なファクターとなる。FCCJ など
で,40~60 円/Nm3 が目標値として出されているが,現状技術だけではその目標に
達しないであろう。輸送方式,SS の建設・運用経費を含めて低コスト化の検討を行う
必要がある。
7. 水素の輸送方法に関する研究・開発状況について
① 製油所と SS を結ぶ水素輸送技術が重要と捉えており,この技術開発に注力している。
② 具体的には,輸送水素の高圧化を想定すると,タンクの軽量化が必要であり,従来の金
属製タンクから FCV で用いられているような複合容器への展開が考えられる。
③ さらには,圧力を上げずに大量の水素を貯めることを考えると,水素吸蔵材と組み合わ
せたハイブリッド型のタンクの領域に入っていくであろう。
8. FC 関連の技術開発等における他社との協力関係
① NEF の定置用燃料電池大規模実証事業に参加し,次年度も参加予定である。
② NEDO の産学連携プロジェクトに 3 テーマ参画している。1 つがスタックの劣化の解
析,基盤研究である。もう 1 つが低コスト化,高性能化のための主要部材の基盤研究,
3 つ目が改質系触媒に関する基盤研究である。
③ 自動車メーカでは,トヨタの FCHV をリースしている。
④ 燃料電池メーカでは,三洋電機(1kWLPG 仕様),荏原バラード(1kW 灯油仕様),
三菱重工(10kW 灯油仕様)と共同開発を行っている。
-380-
9. 国・行政機関に対する意見,要望
① 燃料電池や水素インフラ,FCV の開発全てにおいて一過性のものではないという認識
で長期的な取り組みが必要である。1企業がそれを継続することは難しく,当然企業
の自主的な努力も行うが,国からの継続的な支援,開発行為に対する資金の支援,制
度の見直しは継続的にお願いしたい。
② その中で,現在の NEDO プロジェクトのような基礎研究に係る部分は,しっかりとし
た支援をお願いしたい。
③ FC システムの開発分野では,家庭用の燃料電池については大規模実証事業がかなりの
成果を上げている。一方で業務用の燃料電池に関する実証事業がない。業務用途につ
いても大規模実証事業のような実証事業を創設して欲しい。
④ 政府が水素社会の実現に向けたロードマップ,明確な方針を打ち出し,この取り組みは
一過性でないということが国や企業,国民の中で共通の認識として確立されれば,民
間企業がある程度の自己負担を伴った取り組みも必要と考える。
10. JHFC プロジェクトについて
(1) 成果
① 当社では工場の敷地でなく市街地において水素スタンドを運営したが,ここを安全に運
営できたことは大変大きな成果であった。
② 技術的には水素ステーションのエネルギーの効率が把握でき,また改善してその数値を
向上することができたということは成果であり,JHFC に参加した成果である。
(2) 問題点と事務局への要望
① 期待外れだったことは,稼働率が低かったことである。
② 稼働率が低いことにも関係するが,水素ステーションのシステムの耐久性の検証が不十
分であった。
③ 事務局への要望事項としては,FCV の部分と水素ステーションの部分の境界領域,主
には充填になるが,そこについての課題の把握と解決策,それを実証する計画などに
ついて強いリーダーシップを今後も発揮して欲しいと考えている。
(3) JHFC-2 への期待
① SS 併設型のオフサイト水素ステーションの実証試験を行いたい。JHFC-2 ではまず水
素ステーションを併設オフサイト型でやるが,将来的には製油所の水素利用と CO2 の
分離回収,圧縮水素ガスの輸送技術を含めたトータルなシステムとしての実証試験を
行いたい。こういう実証試験は一過性で終わらせずに長期にわたって継続されるべき
だと考えている。
② CO2 の分離回収は,製油所の場合は濃度が比較的高く,まとめて CO2 を回収できるた
めコスト的に有利である。CO2 の回収では,他の水素メーカよりも経済的ポテンシャ
ルがかなり高い位置にあると考えている。
③ 当社として 35MPa や 70 MPa にこだわりはない。ただ車載ボンベと運搬ボンベの技術
の共通化する部分があるので関心を持っている。
-381-
(4) JHFC に参加して判明した課題等
① 実際に水素ステーションの建設・運営を担当して感じたことは,今のオフサイト型ス
テーションの技術の延長だけではかなり広いスペースが必要だということである。
② JHFC-1 は水素の製造やエネルギー効率に焦点を当てた実証試験だったと思うが,今後
は水素ステーションのコンパクト化にも焦点を当てていく必要があると感じる。
③ コンパクト化の方法としてオフサイトという方法を選べば,高圧貯蔵とか水素の吸蔵と
いう技術の必要性にも結びついてくると思う。
以上
-382-
XIII. 東京ガス株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 2 月 10 日(金)13:30~
場
東京ガス株式会社
所
応対者
R&D 本部
本社
水素プロジェクトグループ
1. PEFC 関連技術・製品,開発状況の概要等
① 関東圏と長野県,山梨県に都市ガス供給しており,2004 年ベースで 960 万軒に供給し
ている。ただし,関東圏においても他都市ガス事業者(例えば京葉ガス)が供給して
いるエリアがある。都市ガス会社は日本全国で 200 数十社ある。
② 当社の都市ガスは,天然ガスに LPG を混入して熱量調整を行っている。天然ガスにつ
いては,海外からの輸入と一部新潟県や千葉県の国産天然ガスも取り扱っている。輸
入天然ガスについては,根岸と袖ヶ浦の工場を東京電力と共同運用しており原料の融
通は行っている。また,先の 2 つの工場とは別に扇島に独自の工場も持っている。
③ 燃料電池の開発については,FC の開発は R&D 本部が推進統括し,とくに定置用燃料
電池に注力して開発を進めている。固体高分子形燃料電池では,家庭用 PEFC の製品
開発に注力している。また,別途 SOFC の開発も行っている。先般,中期計画を発表
しており,定置用燃料電池に関して,今後 5 年間重点的に取り組んでいく予定である。
④ SOFC については,家庭用より少し大きい業務用について検討を行っているが,家庭
用の 1kW に対する適応性も検討している。ただし,現在研究調査しているところであ
り,商品化のイメージまでには至っていない。
⑤ 2005 年に,松下電器産業と荏原バラードと共同開発した 1kW 級の家庭用都市ガス改
質形燃料電池コージェネレーションシステムの 2 機種を NEF の定置用燃料電池大規
模実証試験事業として市場導入した。当面荏原バラードと松下電器産業の 2 社と開発
を進めていく。
⑥ 水素分離型改質器(メンブレンリフォーマ)については,平成 17 年度から新たに 3
年間の NEDO プロジェクトとして採用され,開発を続けている。
⑦ JHFC では,2002 年にオンサイト LPG 改質ステーション,2003 年からメンブレン型
改質器を使った都市ガス改質型ステーション(ともに千住水素ステーション)を建設
し,運営を行っている。
-383-
2. FC 改質器の開発について
① 現在燃料については都市ガスのみを対象としている。改質方式は水蒸気改質である。
現状では他の燃料は考えていないが,試験は行っている。
② 主要技術課題は商品としてのコストと耐久性の確保である。
③ 家庭用では,荏原バラードとの共同開発品の改質器および付臭剤の脱硫に関する技術
については,当社の独自開発品を入れている。改質器の触媒には,当社のものを入れ
ている他,一部市販品も用いている。
④ 家庭用 PEFC は, 2008 年に 10 年耐久の製品を導入したいと考え開発を進めている。
⑤ 改質器の耐久性向上のポイントは触媒である。起動停止が極めて短い時間であったり,
窒素パージレスにするといったところで耐久性に悪影響を与えている。DSS 運転 4 万
時間と連続運転 9 万時間のどちらが困難かについては,何とも言えない。
⑥ コストについては補機類等の共有化も含めて総合的に削減を図りたい。
⑦ PEFC システムの商品としての価格は 2008 年には概ね 120 万円にしたいと考えてい
る。2010 年以降に概ね 50 万円まで下げたいと考えている。量産効果も含めてどこま
で下げられるかがポイントなる。
⑧ メンブレン型の改質器については,平成 17 年度から新たに 3 年間の NEDO プロジェ
クトに採用され,開発を続けている。エネルギー効率は目標値には届くと考えている
が,課題はまずは耐久性である。薄膜を用いるため,その製造技術を含めて耐久性が
課題である。実用化へのステップアップのところで様々なノウハウがあり,それが徐々
につかめつつあると言った状況である。
⑨ 都市ガス改質器においては,硫黄を含む付臭剤が問題である。将来の水素社会あるい
は,改質型の今の事業を展開していく上で,現状の付臭剤が本当に良いかは検討を要
する。
⑩ 欧州では,工業用としての水素パイプラインが既に運用されているが,水素に付臭剤
は添加されていない。水素の漏洩に対して付臭で安全性を担保するという発想がない。
日本で水素パイプラインが敷設される場合には,水素への付臭が必須になると考えて
おり,どんな付臭剤が良いのかを研究調査することは重要である。来年度から原子力
安全・保安院ガス安全課からの仕事をうけて日本ガス協会が国の事業として検討する
こととなっている。
-384-
3. 定置用燃料電池大規模実証試験について
① 2005 年 4 月に,大規模実証試験のために R&D 本部とは別に営業部門に新たに新エ
ネ・省エネ部を組織した。この部署が中心となって導入先とパートナーシップ契約を
結び導入を進めている。機器は,松下電器産業の製品と荏原バラードと共同開発した
製品の 2 機種を導入している(表 XIII-1)。
② 荏原バラードとの共同開発品では,改質器に当社の独自開発品を入れている。また,
脱硫に関する技術についても当社の独自技術が入っている。
③ 実証試験を行って,小さなトラブルはあったと思うが,大きなトラブルは起きていな
い。スタックに大きなトラブルがあった場合は,荏原バラードあるいは松下電器産業
が持ち帰ることになるが,そういったトラブルは発生していないし,開発の方向を転
換するような本質的なトラブルはない。
④ 大規模実証試験の一番の意義は,顧客の日々生活において,それに合ったコジェネ運
転をするので,色々なバリエーションのデータを得ることができ,商品として耐えら
れるのかどうかを調査できる点にある。
⑤ 氷点下での運転については,ヒータを搭載して対応している。
⑥ 導入効果としては,一次エネルギー消費量で 32%低減し,CO2 排出量が 45%低減し
た(図 XIII-1)。
⑦ 顧客の設備費の負担は 10 年間で 100 万円である。また,燃料代については,一ヶ月
当たりの上限金額を 9,500 円(3 年間)としている。
⑧ 運転はお湯の需要をメインにして運転している。温水が溜まるとターンダウンする。
電気があまった場合については,逆潮流はしない設定となっている。
-385-
表 XIII-1 大規模実証に導入した PEFC の仕様
製造メーカ
荏原バラード製
松下電器産業製
ガス種
13A
単相 3 線 AC100/200V 50Hz
13A
単相 3 線 AC100/200V 50Hz
1,000W
1,000~300W
37%(HHV),33%(LHV)
50%(HHV),45%(LHV)
1,000W
1,000~300W
37%(HHV),33%(HHV)
50%(HHV),45%(LHV)
0.24m3/h
750W 以下(起動時)
800(W)×350(D)×800(H)
0.24m3/h
820W(起動時)
800(W)×375(D)×1,000(H)
形式
電力
出力範囲
発電効率
熱回収効率
ガス消費量
消費電力(最大時)
本体寸法(mm)
重量(乾燥)
電気出力
燃料電池ユニット
騒音値
貯湯ユニット
貯湯タンク容量
給湯
標準能力
暖房
追焚
電源
ガス消費量(最大時)
消費電力(最大時)
本体寸法(mm)
重量(乾燥)
騒音値(同時使用時)
158kg
175kg
43db 以下(起動時,停止時) 52db 以下(起動時,停止時)
43db 以下(発電時)
44db 以下(発電時)
200ℓ
200ℓ
41.9~3.8kW(24~2.2 号)
41.9~4.36kW(24~2.5 号)
14.0kW
9.30kW
単相 2 線 AC100V 50Hz
14.0kW
8.72kW
単相 2 線 AC100V 50Hz
4.84m3/h
329W
800(W)×530(D)×1,850(H)
5.55m3/h
402W
850(W)×510(D)×1,900(H)
155kg
49db 以下
140kg
49db 以下
図 XIII-1 PEFC 発電電力量 1kWh と熱回収量 1.4kWh を
従来システムでまかなった場合との比較
-386-
4. 水素ステーションに関する取り組みについて
① JHFC では,日本酸素との共同事業として,LPG 改質型の千住水素ステーションを建
設,2003 年 5 月末に完成し,実証運転を開始した。
② 当社はさらに高効率でコンパクトな水素分離型改質器(メンブレンリフォーマ)の開
発に取り組み,2003 年から JHFC プロジェクトとして NEDO の開発品を用いた都市
ガス改質水素ステーション(40 Nm3/h クラスの実証機)を千住に設置し,さらなる効
率・耐久性の向上を目指した実用化技術開発を進めている。
③ 将来の水素ステーションについては,1民間企業として都市ガス改質型を推進してい
きたい。ただし,それだけでは水素社会に至ることはできない。例えば,都市ガスの
ないエリアでは,石油系液体燃料を改質する方法も有効と考えられる。副生水素につ
いても,利用に適したエリアは日本全国たくさんある。そういう他社他業種の技術と
も協力・協調していきながら水素社会を目指すべきだと考えている。
④ シナリオとしては,オフサイトの副生水素が潤沢にあるので,黎明期にはそれが代表
的な形態のひとつとして考えられる。しかし,まずオフサイトで水素供給して次にオ
ンサイトという単純な話ではなく,できるところからオンサイトでもオフサイトでも
進めていくべきであると考える。
⑤ 当社では,水素ステーション用水素製造装置を技術開発という点で積極的に行うが,1
つの商品として販売するより,都市ガス拡販のための手段として取り組んでいる。自
社開発にもこだわりはない。アライアンスを組めるところは,最大限に組んで,早く
商品を作り上げて市場に導入し,都市ガスの需要を開拓することが重要だと考えてい
る。
⑥ 将来必要であれば水素の配管の敷設も当然行っていくつもりである。技術的には今の
配管を水素用の配管に替えるのは可能だと思うが,東京ガスの配管は分配用配管であ
り,網の目のように敷設されているので,それを全て水素用に替えるのは,いままで
のインフラ投資を考えると有効ではないと考える。水素配管の可能性については社内
でも議論を行っている。
⑦ 以前都市ガスは水素と CO を含む合成ガスであった。しかし,純水素に対する既存の
配管に与える影響については,基礎に帰って検討しなくてはならない。水素脆性につ
いても,条件によって異なるはずである。そういう観点から勉強を始めているところ
である。
⑧ 天然ガスを遠方に大量に輸送する場合,現状では LNG のままローリーで輸送してい
る。輸送は導管があればガスにして圧送した方が安価となる。ガス導管が敷設されて
おらず,遠方の場合は,条件によっては LNG 供給が有利になる場合もある。
-387-
5. 他社との協力関係・国プロ等について
① JHFC と大規模実証試験(NEF)に参画している。
② NEDO の「水素安全利用等基盤技術開発」の水素インフラに関する研究開発「高効率
水素製造メンブレン技術の開発」と国際共同研究テーマとして「流動床触媒と膜分離
を用いる高性能改質技術の開発」に参画している。
③ 日本ガス協会を通じて原子力安全・保安院の「水素供給システム安全性技術調査事業」
に参画している。
④ トヨタと D/C から FCV を 1 台ずつリース契約している。各々約 20,000km 走行して
いる。主に,千住で行っている実証試験関連で使用している。また,定置用 FC のモ
デルハウスも千住にあるので,見学などで使用している。他には大学など関東近県で
のイベントに貸し出したりしている。車を使ってみた感想としては,相当よくできて
いると感じている。静かで,加速性能もよい。
6. 国・行政機関に対する意見・要望等について
① 水素ステーションについては,技術的にはかなりの水準に達していると思っている。
あとは,経済性を出すためにコストダウンに資するような開発を国が行ったり,補助
したりしてもらえるとありがたい。具体的にはとくにコンプレッサなど個々の機器,
補機のコストダウンを図るような開発である。燃料供給コストの補助については,期
間が決まってしまうため,それよりも機器の開発支援であれば一度で済むためその方
が有益だと考える。
② 将来に向けて進めている事業なので,長い目で見て,継続的に支援をして欲しい。
7. JHFC プロジェクトに参加しての感想,意見・要望等について
(1) 成果と課題
① 実際に水素ステーションを建設し,FCV も含めて,かなり実用に近い技術だというこ
とを実証することができたことは大きな成果である。
② 経済性の観点からの実現性の評価やそこへの道筋の検討が現時点ではできていない。
③ FCV とステーションの境界領域について検討し,課題を抽出するところまでは特別
WG でできたが,出てきた課題に対してどのように体系的に解決するかまでは難し
かった。例えば,通信の問題であれば,どうやって解決していくかを検討するような
体制作りが必要だと感じた。
-388-
(2) JHFC-2 に期待すること
① 初期導入シナリオやインフラ形成のシナリオ作りが必要である。
② 将来の水素社会に向けて,どうインフラを作っていくか前向きに話し合いができる場
を作ること。ステーション側からすると,車の開発がどういうところに落ち着くのか
わからないと,どういう水素の供給形態にすればいいのかわからない。ある程度一緒
に協力して進めていく必要がある。
③ どこの会社も今のステーションにさらに投資を重ねて何か新しいことをやるのは簡単
ではない。そういう状況ではあるが,JHFC-2 についてはそれなりの負担を覚悟して
やるつもりである。
④ JHFC-2 以降のテーマかもしれないが,大規模な水素ステーションの実証が必要だと
考えている。
以上
-389-
XIV. 大陽日酸株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 11 月 16 日(水)13:30~
場
大陽日酸株式会社
所
応対者
技術本部
本社
水素プロジェクト部
1. 会社概要・事業概要
① 大陽日酸は,2004 年 10 月 1 日に日本酸素と大陽東洋酸素が合併してできた会社であ
る。日本酸素が創業明治 43 年(1910 年)であるため,今年で創業 95 年になる。英名は
TAIYO NIPPON SANSO である。
② 当社は,日本で最初に酸素を製造するための空気液化機を作った会社である。空気を
液化段階で酸素,窒素,アルゴン等のガスに分離するものである。
③ 水素液化装置ではリンデと技術提携し,国内に 2 装置建設した実績を持つ。
④ 工業用ガスについては,セパレートガス(酸素,窒素,アルゴン等空気から分離する
ガス)の製造・販売が主体である。かつては酸素がメインであったが,近年では量的
にも売り上げ的にも窒素が多い。主に半導体メーカが窒素雰囲気で製品を作るのに用
いるためである。その他に副生水素や副生炭酸ガス,ヘリウム等も扱う。ヘリウムは
全量輸入である。現在,付加価値が高いのは半導体の材料ガス(モノシランガス,ホ
スフィン,アルシンなど)であり,輸入品取扱量も多くなってきている。
⑤ 日本の工業ガス会社としては,大陽日酸がトップ企業であり,次がエア・ウォータ(ほ
くさん,大同酸素,共同酸素が合併),ジャパン・エア・ガシズ,岩谷産業の順となる。
水素では岩谷産業,昭和電工,エア・ウォータ,大陽日酸の順となる。
⑥ ガス製造関係のプラントについては,本体の機器のみならず,ガスの供給される部分
の機器を含め,ほとんどを製造している。ただし,内製は大型の空気分離装置のみで,
その他は関係会社や子会社に外注している。
⑦ その他には,化合物半導体を作る装置(MOCVD や CVD 装置など)や,プラント工
場用の LNG などの液化貯槽を製造している。これには真空断熱が用いられるため,
この極低温の技術から,ステンレス製魔法瓶を作り出した。ステンレス製魔法瓶を国
内で初めて作ったのは当社である。今はサーモスというアメリカのメーカーを買収し
てサーモスブランドになっている。
⑧ 研究所はあるが燃料電池や水素についての研究開発人員はいない。将来的には参入し
たいと考えている。
-390-
2. PEFC・水素関連技術について
(1) PEFC・水素関連技術への参入の経緯
① 古くから水素の 15/20MPa の充填所を持っており,CNG のエコステーションに関し
ても日本ガス協会と共に国からの補助事業に参画していた。また,CNG スタンドも
20 数カ所を建設した実績がある。このような高圧ガスの充填技術を持っていたため,
FC に関連した事業に参入した経緯がある。CNG ステーションを扱っていたときに,
ガスを急速に充填し,精密に測定するという技術をディスペンサーや急速充填の技術
として経験し,学んだ。その技術を水素に展開することができた。
② 高松の水素ステーションは,旧日本酸素が WE-NET プロジェクトに参画し,建設し
た。4 年間が WE-NET プロジェクトで,その後 2 年間は NEDO の水素安全プロジェ
クトで運用し,2005 年 3 月に終了した。
③ CNG ステーションのシステムと,水素のシステムはまったく同様であり,圧力や材質
が異なるだけである。水素発生装置以外の圧縮機,蓄ガス機,ディスペンサーという
システムはまったく同様である。CNG の充填制御技術を活かして WE-NET の高松ス
テーションで実験データを取ることができた。
④ WE-NET での研究成果を生かし,JHFC や PEC,民間企業向けの水素ステーション
建設・運用では,最も多くの実績をもつ。
(2) 水素ステーションについて
1) ディスペンサー等
① 現状の水素ディスペンサーの設置数から考えると,大陽日酸製のものが一番多いと思
う。WE-NET や JHFC で得られた技術を全て注ぎ込んでいる。それを標準化・基準
化して普及期にはディスペンサメーカが造れば良いと考えている。大陽日酸は量産工
場を持っていないため,現状では全て手作りで内製している。その他のノズルなどは
全て仕様を定めて外注している。
② ガソリンスタンドのディスペンサメーカにはトキコテクノ,タツノ・メカトロニクス,
富永製作所などがある。水素も同様に扱うようになると予想される。大陽日酸がその
標準化に関する部分を関連する業界と一緒に協力している。CNG の時も当社がディス
ペンサーを試作し,富永製作所と共同で製作していた。
③ ディスペンサーの機能として正確に流量を測ることが要求されるが,水素だけはいま
のところ計量法の対象となっていない。高圧水素の流量測定法は,WE-NET で採用し
たコリオリ式の質量流量計を用いている。現状ではこれに勝るものはないと思う。
④ 液体水素のような温度でも測れるような流量計はまだない。BOG が入り精度が落ち
る。現状では,LNG であっても,予冷してから充填を行っている状況にある。
⑤ ディスペンサーの価格は,現状では 2~3 千万円であり,CNG と同レベルの 500 万円
程度にする必要がある。水素用の流量計でも日本で出回っているもので,100 万円以
下のものはない。構成パーツの量産化によるコストダウンも必要である。
-391-
2) 水素充填に関する課題
① 水素の急速充填においてはタンクを昇温させないで安全に充填するためのシステムの
確立が重要である。
② WE-NET の高松と酉島ステーションでは,25Nm3 を 10 分以内という仕様で作った。
現状では,おそらく 150 Nm3~200N m3 を数分で充填していると思われる。しかし,
タンク内の温度が何度まで上昇しているかは不明である。ディスペンサーの末端まで
の温度は自分たちで測っているが,タンクの温度が何度まで上がっているか知らされ
ていない。
③ JHFC の安全委員会では,FCV メーカごとにどのように充填するかの指示を受けてい
る。指示通りであれば,安全基準の 85℃以上に上昇しないということである。流量の
設定値を変えるコントロールパネルを用いてメーカ独自に設定して充填している。
④ 供給側と車側のコミュニケーション(通信)については,コスト増につながるため,
どちらかというと日本のカーメーカは積極的ではないように思える。
⑤ コミュニケーションを用いない現在の充填方法では,逆止弁があるためタンクの残圧
がわからない。そこで,標準化として,最初に入れた瞬間,10 秒ないし 15 秒程度一
定の流量充填し,タンク圧が何 MPa から何 MPa に上昇したかを計測し,タンクの容
量を計算し,それを瞬時にフィードバックして,タンクへの安全な(85℃にならない)
充填時間・充填パターンを割り出し,充填するようなシステムを取り入れようとエン
振協に提案している。高松で急速充填の試験を繰り返して,その充填制御のソフトウ
エアを製作した。これを標準にしてもらいたいと提案しているところである。
3) 高圧水素タンクについて
① 車載用の高圧複合容器を製造販売している日本メーカはない(トヨタは販売をしてい
ない)。販売されているのは,JFE コンテイナーが輸入販売しているカナダのダイン
テックなど輸入品が主なものだと思われる。
② 高圧複合容器についている附属品といわれるレギュレータや PRD(Pressure relief
Device)については,当社でも開発可能である。プレッシャーレギュレータについて
は,日酸 TANAKA という系列会社が作っている。
③ レギュレータにはインタンク,アウトタンクタイプがあるが,水素はインタンクで,
CNG では全てアウトタンクである。インタンクバルブの付加価値は高い。CNG では
レギュレータそのものに熱交換機能をつけているため,冷却水で冷やす設備がついて
おりそのためアウトタンクになる。
-392-
4) 圧縮機の現状と課題
① 日本の水素圧縮機技術は遅れている。国産の圧縮機は,ステーションに設置されてい
るのは,高松の WE-NET のステーション,東邦ガスの東海研究所,新日石の旭ステー
ション,出光の秦野ステーションの計 4 箇所と思われる。他には,JARI に加地テック
の 110MPa の国産圧縮機が入っているが,ステーション用としては同型の 40MPa 圧
縮機はまだ 1 台も普及していない。
② 国内の水素ステーション 14 箇所の残りは,ドイツのホーファー,アメリカの PDC マ
シーンズ社, PPI 社などの海外製品が入っている。
③ 圧縮機は,インフラ側から考えると,一番重要であり,心臓部に相当する。将来の量
産化とコストダウンを考えるとこの現状を何とかしないといけないと常々発言してい
る。
④ NEDO プロジェクトで,70MPa 圧縮機の開発を日立インダストリイズ&日立製作所
と IHI が行っているが,純国産製の圧縮機はまだ完成していない。開発が待たれる。
5) エネルギー効率について
① 水素供給ステーションのエネルギー効率上改善の余地があるのは,オンサイトの水素
発生装置だと思われる。発生装置本体の効率は高いが,補機などは既存品を使ってい
るので,さらなる効率化が可能だと思う。
② 圧縮機については,ダイヤフラムからレシプロにすることにより改善するが,大きな
改善は期待できないだろう。
③ 水素ステーションの効率アップには,全体のシステム設計段階で工夫するなど,エン
ジアリング力を発揮して行きたい。
6) 標準化について
当社は日本産業ガス協会(JIGA)の中で,水素充填ステーションや水素輸送に関する標
準化について貢献したいと考えている。安全面を重視して,これだけの設計で機器を備え
ておけばいいというような標準化である。
7) その他
愛知万博で連続運転して耐久性が不足しているものが把握できた。とくにディスペン
サーホースや圧縮機のトラブルである。当社の 15/20MPa の工業用充填所は,愛知万博の
ステーションの 5~10 倍に相当する規模であるが,30~40 年間運転してきて,やっとト
ラブルなく稼動している。これから考えると,この 40MPa のステーションもトラブル無
しで運用できるまでには同じくらいの時間が必要かも知れない。
-393-
3. 将来の水素供給システムについて
① 将来の水素供給方式としては,オフサイトでの高圧ローリー輸送か,長期的にはパイ
プラインが有力だと思われる。
② 高圧水素ガスのパイプラインは当社でも工場間では扱っている。技術的な問題はない。
将来,はじめから高圧の 70MPa で送れば良いと思う。リンデは既に 100MPa 程度で
運用を計画している。そうすると,ステーションに圧縮機の必要がなく,バッファタ
ンクのみでよくなる。
③ 例えば,水素発生装置をサテライト基地のように作っておき,そこからパイプライン
で最寄のステーションに送るという形態も考えられる。
④ オンサイトの場合には将来大きな 300m3/h や 500m3/h の発生装置を市街地に設置した
り,ガソリンスタンドと併設したりできるのか疑問である。
4. FC 関連事業における他社との協力関係について
(1) 国プロ等への参画状況
① FC 関連の国プロでは,JHFC プロジェクトのほか,NEDO の水素社会構築共通基盤
整備事業などにおいて,水素安全の基準作りと 70MPa 化に向けた基準作りに参画し
ている。
② 本庄早稲田のグリーン水素タウンのモデル構想に参画している。これには,廃シリコ
ンや廃アルミからできる水素を使って水素モデルタウンを作ろうと,早稲田大学が中
心になって行っている環境省の 100%補助事業である。非常用の燃料電池信号機,燃
料電池フォークリフトなどを動かす。当社は燃料電池用の水素の供給設備などを担当
する。FCV としては,学生がバラードの燃料電池で作ったものがある。
③ 地域コンソーシアムによる九州大学高圧水電解型水素ステーションの開発で水素ス
テーションのエンジニアリングを担当している。
(2) 他社との共同開発等について
引き合いを受けて受注しているものはたくさんあるが,水素・燃料電池に関する共同開
発等は行っていない。
5. 国・行政機関に対する要望
① 国には,水素に関する取り組みを地道にやってきた産業ガス業界に目を向けてもらい
たい。海外ではリンデなどの工業ガスメジャーは,パイプラインの敷設などの大規模
なプロジェクトを行っている。そういう中,我々も様々な取り組みに対して協力した
いと思っており,そうした取り組みに対する支援・補助が得られれば良いと思う。
② 規制の見直しや緩和が必要だと考えている。水素インフラはまだまだ非常に高価で,
運用費も高い。今回の規制緩和で保安要員が半分になったりしたが,それでもまだ法
に従ったものを作るには高くならざるを得ない。規制緩和するのには何らかの判断基
準が必要なため,そのためのプロジェクトを起こすのに資金援助が必要である。
以上
-394-
XV. 岩谷産業株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 11 月 16 日(水)9:30~
場
所
岩谷産業株式会社
応対者
水素エネルギー部
東京本社
1. 事業概要
(1) わが国の水素市場の状況
① わが国において産業用として出荷される水素の量は,全生産量の約1%程度である(図
XV-1)。日本では,製油所等で自家消費している分の方が圧倒的に多い。
② 当社グループは,産業用水素販売のトップシェアである約 34%を占めている。
③ 近年では,景気の影響や水素を大量に消費する企業においてメタノール改質などで水
素を自前で作るといったオンサイト化の動きもあり,出荷量は減少傾向にある(図
XV-1)。
④ 日本全体で圧縮水素の工場は自家消費を除くと約 40 箇所ある(図 XV-2)。工業地帯と
隣接してほぼ海岸沿いに多く点在している。全体のうちソーダ工場からの副生水素が
半分程度であり,その他は石油関係の改質や COG,メタノール改質などである。
⑤ 液体水素の工場は,産業用のコマーシャルベースで今あるのが岩谷瓦斯(尼崎市)と
太平洋液化水素(大分市)の 2 ヶ所だけである。他には,JHFC のデモプラント(君
津市)と,来年春に当社と関西電力の合弁事業として立ち上がるハイドロエッジ(堺
市)がある。
(図 XV-3)
図 XV-1 わが国における水素の生産量とマーケット
-395-
図 XV-2 日本の圧縮水素プラント(産業用)
図 XV-3 日本の液体水素プラント(産業用)
-396-
(2) 岩谷産業の事業概要
① 当社の事業には大きく分けて総合エネルギー事業と産業ガス事業がある。
② 総合エネルギー事業では,LP ガスを中東から輸入して各工場まで運び,シリンダーに
詰めて出荷している。小売りも行っている。全体の 4 割程度は LPG を海外から直接輸
入しているが,残りは国内の石油会社から購入している。近年では一部 LNG を扱っ
ている。これは,電力会社からの購入が多い。また,最近は DME 車向けの DME 供
給や風力発電などにも取り組んでいる。
③ 水素ビジネスは産業ガス事業として展開している。1941 年から余剰水素の販売を開始
した。それ以降,水素の大量輸送方法を開発したり,1971 年にはわが国で初めて尼崎
に液体水素製造プラントを建設したりして,ロケットに用いる液体水素を供給するな
どを行ってきた。WE-NET では,大阪の水素ステーションや,横浜市鶴見へ初のオフ
サイトステーション建設に参画した。JHFC プロジェクトへは,有明の水素ステーショ
ンでは昭和シェル石油と合同で,また鶴見ステーションで鶴見曹達と共同で参画して
いる。
(3) ハイドロエッジプロジェクトについて
① 大阪地域の液体水素・空気分離ガス製造会社「株式会社ハイドロエッジ」を関西電力
のグループ会社である堺 LNG と岩谷産業との合弁会社として設立した(2004 年 4 月
1 日)。2006 年 4 月から工場が稼働する予定である。
② 隣接する LNG 基地の冷熱を利用した空気分離装置があり,そこで製造した液体窒素
の冷熱を利用して,天然ガスから改質して作った水素を液化する。
③ 関西を中心に,半導体や水素添加を行う化学工場,光ファイバーを扱う電機メーカな
どに液体水素で輸送する予定である。
④ 将来の LNG を使う大規模な水素供給方式の一つのビジネスモデルがハイドロエッジ
である。普通に液体水素を作るよりは液体窒素の冷熱を使う分効率面のメリットはあ
るが,事業となると,経済性も加味してシステムを設計することになる。
-397-
2. 水素・燃料電池関連の取り組みについて
(1) 水素・水素供給設備の供給事業
① 基本的に燃料電池への水素供給という位置づけで取り組みを行っており,FC 自体の開
発は行っていない。とくに FCV や水素自動車の公道走行のサポートなどが中心であ
る。具体的には,自動車メーカなどに各社の様々な要求に応じた水素供給設備や,水
素を納めている。
② 日本国内における水素供給の 90 数%はガスである。現状では,ガス使用が大部分であ
り,ガス水素に比べ液体水素は非常に高価である。ただし,ハイドロエッジでは,顧
客に対して液体水素で供給するという考えで立ち上げているので,稼動すれば少しず
つではあるが液体水素での供給が増えていくと考えられる。
③ 米国ではパイプラインを除くと,約 8 割が LH での供給である。需要が大きく大規模
な LH プラントが作れるため,LH が安価であり,輸送距離も長いという特徴がある。
④ 水素の製造は,副生水素を用いる場合が圧倒的に多い。それだけでは地域的にカバー
できないため,メタノール改質や LNG 改質により製造を行っている。副生水素は,
苛性ソーダ工場からが約 6 割,その他は製鉄所の COG 等である。ソーダ工場の副生
水素は純度が約 99.9%に達する。
⑤ 工業用の水素の純度と燃料電池用の純度はだいたい同様であり,一般的に流通してい
るもので 99.99%。不純物としては窒素が多く,CO は精製すれば 1ppm 以下にできる。
副生水素を精製し,圧縮して配給するのが当社の主たるビジネスである。
⑥ 当社の技術は,水素の供給がメインであり,基本的には精製装置,コンプレッサや改
質器などはプラントメーカから購入してシステムを組んでいる。当社自身で行ってい
るのは,顧客側の受入設備の設置程度であり,いわゆる小規模なプラントエンジニア
リングを行っている。
(2) 水素貯蔵について
① 液体水素タンクは自社開発を行っている。ボイルオフガス(BOG)への対応は分野に
より異なる。工場では回収して液化前の原料ガスのラインに戻せば良い。水素ステー
ションにおける BOG をどう減らすかというのは重要な技術課題である。車載タンク
については,基本的に BOG を減らす良い方法がないのが現状である。
② 現在の LH タンクの BOG は,断熱構造自体であれば 1%/day くらいまで下がる。た
だし,車載タンクでは,取り出しのための配管がつくなど,補機が付けば付くほど断
熱性が悪化する。ボイルオフはタンクの断熱性能よりもシステムの問題に帰着する。
③ 車用の液体水素タンクの開発もある程度は行っている。ボイルオフをなくすための構
造計算や車のスペース効率向上のための異形タンクの開発などである。ただ,今まで
日本には車載用 LH タンクへのニーズがなかったため,本格的な着手はしにくい状況
にある。
④ 高圧水素タンクについては,NEDO プロジェクトに参画している(70MPa 水素タン
クの開発)。鋼製の容器を作っている住友機工やネリキ(バルブメーカ)など 4 社共同
で取り組んでいる。
⑤ 水素吸蔵合金の開発は行っていない。
-398-
(3) 水素供給ステーション関連の取り組み状況
① 1999 年から水素供給ステーションの取り組みを開始した。WE-NET において,2001
年の大阪の日本で最初の水素ステーション建設に参画した。その後 2002 年に
WE-NET で鶴見に,JHFC で有明ステーションの設置運営に参画している。
② 移動式の水素ステーションについては,高圧ボンベタイプ(図 XV-4)や,液体水素の
コンテナを使ったタイプ(図 XV-5)の開発も行っている。
③ 高圧ボンベタイプのものは,圧力差で自動車に流し込むタイプで,全国各地で FCV の
充填に用いられている。
④ 液体水素タイプについては,2,000 リットル液体水素コンテナから液体水素のままポ
ンプで昇圧して,気化し,ディスペンサーからガスで充填する(有明ステーションの
ミニ版)。圧縮機やディスペンサーをステーションに設置しておき,必要に応じて液体
水素コンテナを交換することが可能である。
⑤ 当社の水素ステーション関連のビジネスとしては,将来の可能性として,水素ステー
ションの建設や経営事業に取り組むことが考えられる。オフサイト型が多いとなれば,
大きなプラントを建設事業に乗り出すことも考えられる。
図 XV-4 高圧ボンベタイプの移動式水素ステーション
図 XV-5 液体水素のコンテナを使った移動式水素ステーション
-399-
(4) 水素供給ステーションに関する課題
① 最大の課題はステーションの建設コストである。現状の JHFC のステーションでは
30m3/h や 50m3/h の能力で改質器込みで 3 億円程度である。これでは,ステーション
の建設費だけで水素価格が 50 円/m3 以上になり,目標の 40 円/m3 の達成は不可能であ
る。
② 技術面にも課題はあるが,それよりも充填方法など各社各様の考えによる部分があり,
統一が取れていないなど課題が大きい。
③ 液体水素の輸送中のボイルオフはない。1%/day であれば 3 週間程度は大丈夫と考えら
れる。タンクローリーから貯蔵タンクなどへの移し替えの時にボイルオフが発生する
ことが課題である。
④ 制度面に関しては,今は過渡期であり,新しい技術基準もできたが,まだ完全ではな
い。安全重視には異存はないが,安全確保に対して多少過剰なところもあると考えら
れるので,もう少し試行錯誤しながら無駄な部分をなくしていければよいと思う。
⑤ 将来の水素供給方法については,初期には副生水素を利用し,その次には,ハイドロ
エッジがモデルになると考えている。LNG から効率良く液体水素を作り,液体水素の
形で供給する形式である。
(5) 定置用燃料電池システム
① NEF 大規模実証第 2 期から 10 台の東芝燃料電池システム製の LPG 改質形 PEFC を
設置する。将来的には,家庭用 PEFC の分野に進出していきたいと考えている。
② コージェネレーションシステムについては, LPG のガスヒートポンプ(エンジン式
のコジェネ機)の実績がある。大規模では数千 kW,小規模では 1kW 程度のものであ
る。
③ 荏原製 FC システムと水素のボンベを組み合わせた移動形の電源(非常用等)を開発
した。ボンベもあわせて 145kg で,出力は 0.8kW 程度。最大 5 台まで直列で繋ぐこ
とが可能であり,4kW までの出力が出せる。水素は 35MPa の FRP 容器に貯蔵する。
(6) 普及啓発活動等
① 普及啓発活動として,トヨタ,ホンダの FCV をリースしており,展示会などで試乗会
を行っている。
② 2005 年 6 月にはミシュランビバンダムフォーラム(京都国際会議場~愛・地球博会場)
へ参加し,2005 年 9 月にはおおさか FCV 推進会議との共催によりわが国初の東京-
大阪間往復という長距離高速走行を実施した。このときは,途中トレーラー搭載の移
動式充填機で充填しながら走行した(図 XV-6)。
-400-
図 XV-6
FCV と移動式ステーションを運ぶトレーラー
3. リース FCV の活用状況
① リースしている FCV(トヨタ,ホンダ各 1 台)の最も多い使い方は,工業ガスや LP
ガス系のイベントなどで展示あるいは試乗してもらうという形である。それ以外では,
基本的に東京本社 3 階に保管し,顧客に見せている。また,有明の水素ステーション
の見学に顧客をステーションまで乗せていって,その付近で試乗してもらったり,当
社社員が有明に行く場合にも使ったりしている。往復で 20km 強の距離である。
② 今までの総走行距離はトヨタ,ホンダともに約 1 万 km 程度である。
③ 燃費については,よく言われている水素 1kg で 100km に近いと感じている。
④ 最近は,信号で止まったりしたときに,FCV とわかって見ている人が増えてきたよう
に思え,JHFC などの成果が現れていると感じている。
-401-
4. 国プロ,他社との協力関係,競争企業等について
(1) 国プロ
① 大規模実証第 2 期で,東芝燃料電池システムと共同で参画している。東芝燃料電池シ
ステム社製 PEFC システムを 10 台投入している。
② 車載用液体水素タンクのボイルオフガス低減技術の開発や 70MPa の車載タンクシス
テムの開発,液体水素ディスペンサー等の開発を NEDO プロジェクトで行っている。
(表 XV-1)
表 XV-1 参画している NEDO プロジェクト
プロジェクト
グループ
期間
岩谷産業,日本重化学工
車載用液体水素タンクのボ
業,日本自動車研究所,産 2003-2007
イルオフ低減技術の開発
業総合技術研究所
水素安全利
用 等 基 盤 技 70MPa 車載用水素タンク 岩谷産業,住友機工,ネリ
2003-2007
術開発
システムの開発
キ,村田機械
液体水素ディスペンサーの 岩谷産業,トキコ,産業総
2005-2007
研究開発
合技術研究所,日立製作所
(2) 他社との協力関係
① JHFC の有明水素ステーションの設置・運営に昭和シェル石油と共同で参画している。
また,鶴見水素ステーションでは鶴見曹達と共同で参画している。
② リンデとの資本提携や業務提携はないが,水素関連では良い関係にある。例えば,有
明のステーションでは,リンデから液体水素のポンプやディスペンサーのカップリン
グ部分の供給を受けている。ただし,技術的に依存するところはない。
5. 国・行政機関等に対する要望
JHFC を発展的に継続して欲しい。ステーション側からすると,実証走行車両がもっと
増えて欲しいという希望がある。
以上
-402-
XVI. 株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 10 月 26 日(水)9:00~11:00
場
株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション
所
応対者
研究開発センター
京都本社
第三開発部
1. 燃料電池に関する取り組み状況等の概要
① 株式会社ジーエス・ユアサは 2004 年 4 月に日本電池とユアサコーポレーションが統
合し,発足した。
② 燃料電池に関する取り組みについては,旧日本電池においては,アルカリ型 FC から
研究開発をスタートし,PEFC に関してはシステムそのものよりも電極の性能向上の
ための要素技術開発に注力してきた。
③ 旧ユアサコーポレーションでは,DMFC の研究開発に取組んでおり,とくに DMFC
をいかに商品化していくかというシステムに注力して開発を行っていた。
④ 統合した現在は,日本電池とユアサの両メンバーとも,第三開発部では,一つの部署
に集結して研究・開発を行っている。第三開発部はバッテリーの将来技術の開発や
DMFC,PEFC,電池の管理システムなどの研究開発を担当している。
⑤ PEFC に関しては,現在電極の性能向上技術の開発に注力している。コストや耐久性
等の解決すべき課題が多く,そうした問題が解決するまでは,PEFC の製品化は難し
いと考えている。それには何らかのブレークスルーが必要と考えている。開発中の電
極技術は,主に白金担持量の低減を狙ったものであり,用途を限定したものではない。
⑥ 基本的に社内では,MEA の開発に注力しているが,これだけでは評価が出来ないため,
スタックを組んで実証を行っている。例えば,平成 12 年度から 16 年度まで,NEDO
のプロジェクトに参画し,開発中の電極を 1kW のスタックに搭載して実証運転を行っ
た。
⑦ セパレータについても,カーボンセパレータの溝の加工は自社で行っている。流路技
術についても学会発表を行っている。この技術は,例えば流路を 2 つに分けて,大電
流のときは分けた流路で流して圧損を少なくし,低電流の場合は,2 本をつなげて 1
本にして流速をかせぐという技術である(ガス流路可変機能)。
⑧ 一方,DMFC に関しては,ヤマハの二輪車 FC-me に搭載されているように,ユーザ
限定で商品の販売を行っている段階にある。
-403-
2. PEFC に関する開発状況について
(1) 白金触媒低減技術
① 電極触媒の白金量を大幅に低減するための技術を開発している。目標は今の現状の白
金使用量を 1/10 にすることである。現在のチャンピオンデータでも 2~3g/kW の白金
を必要としており,自動車用 FC の目標コストである 3,000~4,000 円/kW のほとんど
を白金代が占める状況にある。現状技術の延長線上には解決手段はないと考えており,
新たな技術を開発する必要があると考えている。
② 一般的には,カーボンに白金を担持したものを触媒メーカから購入し,高分子電解質
溶液に混ぜて製膜し電極を作成する。弊社の方法では,カーボンと高分子電解質を混
合して製膜しておき,そこに白金を担持する方法である。
③ 従来の方法では,反応に寄与しない部分にも触媒が付いてしまうが,この方法では電
解質の反応に寄与するクラスター部分にのみ選択的に触媒が担持されるため,白金量
を低減させることができるという利点がある。
④ 具体的には,電解質のスルホン酸基にイオン交換によって白金のある錯体(アンミン
錯体)の陽イオンを付加しておく。この錯体は電解質の骨格部分にはまったく付かな
いものである。製膜後,水素還元を行うことによってカーボン担体界面に選択的に白
金析出させる。
⑤ この技術により白金使用量は,初期性能が同等のものに対して大幅に低減できている。
⑥ この技術により担持した白金触媒は,加速試験や連続試験等の結果をみると,凝集が
非常に制御されていて,触媒の活性の低下が他社製に比べて非常に遅く,耐久性能が
高いという結果が得られている。例えば,活性な表面積の維持率が,他社製では 60~
70%であるものが当社のものは 90%程度になっている。
⑦ 白金の粒子サイズを小さくして表面積を上げたり,カーボン担体に対する高分子電解
質の被覆率を高めるなど,他の技術と組み合わせて,さらに白金使用量を低減すべく,
現在検討を行っている。一般に白金粒子を小さくすると凝集しやすくなるが,当社の
技術ではクラスターに白金が包含されているため,凝集が進みにくいという特長があ
る。
⑧ ルテニウムの溶解の問題に対してもこの技術の活用によりいいデータが得られてい
る。他社ではルテニウムが溶出するような条件で運転しても触媒構造の変化がなく,
対 CO 被毒性能が長時間維持されることを確認している。
⑨ この白金触媒量を大幅に減らす技術は,コストのみならず耐久性能にも寄与すると感
じている。FCV 用のみならず耐久性能が重視される定置用でも非常に有効な技術であ
ると考えている。
⑩ 白金量を減らすとリサイクルでの回収が困難になるという課題については,FC が大量
に普及する頃には,必ずそうした技術が確立できると考えている。
-404-
(2) その他
① 現在の PEFC の課題としては,触媒の凝集やカソードにおける白金の活性な表面積の
低減,アノードのルテニウムの溶出による対 CO 被毒性能の低下などがある。さらに
フラッティングの問題や電極内の高分子電解質の劣化もある。
② 現在,定置用では過飽和にしないと膜の劣化が抑制できない。一方でフラッティング
もおきるので,非常にバランスをとるのが難しい。理想的には相対湿度 70~100%の
間で稼動できるようになることが望まれる。
3. DMFC に関する研究・開発状況について
① DMFC に関しては,ユーザー限定で商品の販売を行っている。2005 年 9 月の甲府で
の IFCW でも 1kW 級と 100W の可搬型電源を製品として展示した。
② 1kW 級システムについては,現在三重県で温室栽培用途として実証運転を行ってい
る。冬季の日照不足を解消するため,夜明け前に燃料電池の発電電力で照明を点灯さ
せ,発生する CO2 をイチゴ等の発育の促進に活用し,熱は温室内の温度低下防止に利
用するというものである。運転温度は 60~70℃である。
③ 今の触媒を使っている限り副生成物として両極にホルムアルデヒドが必ず出る。ア
ノード側では,現在は燃料の利用率が 100%ではないためリサイクルする過程で生成
されたアルデヒドやギ酸が酸化され,燃料中ではある濃度レベルで平衡に達する。大
きいシステムではアノード側で反応に水が必要なため,カソードからの生成水を回収
する際にホルムアルデヒドやギ酸も一緒にアノードに返すような方法を考えている。
大型の DMFC であれば,吸着塔によって回収することも可能である。
④ 投入するメタノールは,体積を抑えるためには 100%が好ましいが,危険物の指定を
受ける。現在は規制のかからない 54%のものをリザーバータンクに蓄えている。セル
スタックに投入されるのは,大体 3%に希釈されたメタノール水溶液である。
⑤ メタノールのクロスオーバーは運転方法によって多少は改善される。効率を上げるた
めには,アノードでのメタノールに対する活性が低いのが最大の課題である。
-405-
4. FCV 用,HEV 用二次電池に関する研究・開発状況について
① FCV 用,HEV 用として全ての二次電池の開発に携わっている。バッテリーの専業メー
カとして全方位であらゆるメーカに提供するスタンスである。
② 実車への搭載については,ニッケル水素電池はないが,リチウムイオン電池について
は,三菱ふそうのシリーズハイブリッドバスに搭載されている。2002 年サッカーW 杯
の送迎用に使われ,その後遠州鉄道の路線バスとして運行されている。現在まで何の
問題もないとの評価である。鉛酸電池ではマイルドハイブリッド用途としてトヨタク
ラウンに搭載された実績がある。
③ ニッケル水素電池とリチウムイオン電池では,性能とコストの関係ですみわけが生じ
ると考えている。HEV が普及した際には,コンパクトカーではコストが重要視される
のでニッケル水素電池,SUV やピックアップなど高付加価値車ではコストアップ分を
吸収できるのでリチウムイオン電池が搭載されると考えられる。
④ 現状でニッケル水素の出力密度は 1,400W/kg,リチウムイオンでは最大 3,000W/kg に
達する。しかし,生産上リチウムが水分を嫌うためドライルームにするための設備を
必要とするため高コストとなる。さらにリチウムイオン電池は水溶液を使っている鉛
酸やニッケル水素に比べて伝導度が一桁小さく,その分を電極を薄くして面積を大き
くすることでカバーしているが,Wh 当りの電極面積が大きくなるため加工費が高く
なる。そのため,Wh 当りの究極の価格はリチウムイオンの方が若干高くなると予想
される。
⑤ 三菱ふそうの HEV に搭載のリチウムイオン電池の耐久性は,推定では 5 年以上もつ
と考えているが,数が出ていないため現状では判断できていない状況である。
⑥ カリフォルニアの ZEV 規制で要求されているバッテリーの耐久性の 15 年 15 マイル
は使い方次第と考えられるが,まだ保証できると言い切るのは難しい状態である。
-406-
5. NEDO プロジェクト等への参画状況について
① 平成 12 年度から 16 年度まで 5 年間 NEDO のプロジェクト「固体高分子形燃料電池
システム技術開発事業 固体高分子形燃料電池システム化技術開発事業 固体高分子
形燃料電池低コスト電極技術開発」に参画し,開発した電極を実用的な(熱回収を行
うクーラント等も完備)1kW スタックに搭載して実際に検証している。
② 燃料電池自動車等用リチウムイオン電池開発プロジェクト「燃料電池自動車等用リチ
ウム電池技術開発の車載用リチウム電池技術開発」に日本電池の時から参画している。
平成 18 年度までの 5 年間である。これは松下電池工業,日立製作所-新神戸電機の 3
グループが 50%補助で受けている。
③ 燃料電池自動車等用リチウムイオン電池開発の要素技術開発「電池の難燃化・固体化
のための新規電解質の研究」にも,ユアサの時から産総研とともに参画している。
④ 今年度から新たに「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 実用化技術開発
固体高分子形燃料電池低コスト電極の量産基礎技術開発」に参画している(50%補助)。
昨年度までは電極の要素技術開発であったが,今年度からはその電極の量産技術に関
して受託している。
⑤ 劣化に関するプロジェクトは大阪ガスを中心とするグループ,大同工業大学を中心と
するグループ,大阪科学技術センターを中心とするグループの 3 つがある。現在,大
阪科学技術センターを中心とするグループに対して,どのような形で協力できるかを
検討している最中である。協力メーカとして参画することになると思われる。
6. 国・行政機関に対する要望について
要素研究にはお金と時間がかかるので,それに国で力を入れている点については感謝
している。ついては,その成果が得られたときには,その波及効果ができるだけ大きく
なるようにしてもらいたい。例えば,評価に用いた素材等の素性を明らかにできるよう
な形で成果を示してほしい。特に 100%補助のプロジェクトに関しては,もう少し成果
をオープンにして欲しいと思う。
以上
-407-
XVII. 三洋電機株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 12 月 14 日(水)13:45~
場
三洋電機株式会社
所
応対者
東京製作所
研究開発本部 アドバンストエナジー研究所
1. 三洋電機の燃料電池開発の経緯・内容
(1) 燃料電池の開発経緯(図 XVII-1)
① 当社では,
「人と・地球が大好きです」をコーポレートスローガンに掲げている。そう
した中で,燃料電池は重要なテーマとしてその開発に取り組んでいる。当社は従来か
ら太陽電池と化学電池と冷熱の技術を有し,こうした技術ラインアップに燃料電池
コージェネレーションシステムを追加することにより,地球環境問題やエネルギー問
題の解決に貢献していきたいと考えている。
② 燃料電池の開発経緯としては,1980 年代以前にはメタノール形燃料電池やヒドラジン
燃料電池の開発を行っていた。1980 年代になって PAFC の開発を開始した。1987 年
には東京電力と 200kW 級の PAFC の共同開発を行った(図 XVII-1)。その後,当社
の業態を考慮して開発の重点を小型燃料電池に移行することとし,1988 年には,防衛
庁との共同研究で 5kW 級 PAFC(メタノール燃料),1990 年代に入って MH を使っ
たポータブル PAFC(0.25kW),NTT との共同開発で可搬形 PAFC(水素ボンベ使用)
などを開発した。
③ 1992 年から NEDO 委託研究で PEFC の開発を開始し,1kW の純水素型の PEFC を
開発(図 XVII-2),1998 年に販売を開始した。2000 年問題対応として,ある程度の
需要があった。販売台数は,累積合計 100 台程度である。
④ 1999 年 12 月に都市ガス改質形家庭用 PEFC を開発し,大阪ガスの NEXT21 に設置
し運転試験を行った。その翌年からミレニアムプロジェクトが始動し,参画した。
⑤ 小型 FC に関しては日本でも最初,世界でも早くから取り組んできたという自負をし
ている。早期に商品化に結び付けられるよう開発を進めている。
(2) 燃料電池の開発体制
① 当社は大きく 8 つの事業グループに分かれており,その一つであるイノベーショング
ループの中に研究開発本部がある。その中に,アドバンストエナジー研究所があり,
燃料電池の基盤技術開発を行っている。現在は家庭用 PEFC の開発が主体であり,マ
イクロ燃料電池(DMFC)についても開発を開始している。
② アドバンストエナジー研究所は,2005 年の春,燃料電池と太陽電池と化学電池等のエ
ネルギー関連の研究開発を集約した研究所として設立された。
③ 家庭用燃料電池システムについては,コマーシャルグループの中にある燃料電池ビジ
ネスユニットという部隊において,システム開発を行っている。
-408-
図 XVII-1 三洋電機における燃料電池開発の経緯
図 XVII-2 1kW 水素燃料可搬型電源
-409-
2. PEFC の開発状況について
(1) PEFC の開発ターゲット
① PEFC は低出力領域でエンジン系と比べ高効率であるため(図 XVII-3),十分に競争
できる分野であると考え,現在の出力ターゲットを 10kW 以下(図 XVII-4)として
いる。具体的には家庭用で 1kW,業務用で 5kW 前後が狙いと考えている。
② 将来的には,自動車動力源用燃料電池の開発も視野に入れるが,自動車用は使用条件
が過酷で価格要求も非常に厳しく,当面は 10kW 以下の家庭用や業務用,携帯機器用
といった分野で基礎的な技術や実績を積む。都市ガスの改質系をやっていれば純水素
にも応用可能であり,純水素も以前経験があるため,直接水素形も守備範囲内にある
と考えている。
③ 過去には全種類の FC を開発したが,現在は事業化につながるものとして,PEFC に
注力している。
図 XVII-3 出力と発電効率の関係
-410-
図 XVII-4
燃料電池の種類と利用形態およびターゲット
(2) 家庭用 PEFC システムに関する研究開発状況
1) PEFC システムの概要
① モデル住宅の電力消費データから(図 XVII-5),当社としては 750W を定格(最大)
出力として取り組んでいる。現在,各家庭に合った最適な運転方法を鋭意検討してい
る。
② 現在の都市ガス用 1kW 級家庭用 PEFC の仕様(図 XVII-6)は,発電効率は 35%以上,
熱回収効率は 45%であり,1kW の家庭用 PEFC システムとして概ね目標値を実現し
た。湯切れ防止用に加熱器を搭載している。
③ 家庭用システムの燃料としては,都市ガスと LPG の両方で開発しており,燃料改質装
置は,都市ガス用は大阪ガスからの購入品,LPG 用は新日本石油との共同開発品の 2
種類がある。
④ 燃料電池スタック,電力変換装置,制御基板等は自社開発であり,制御やパッケージ
ングも当社が行っている。
⑤ セパレータは材料メーカから購入している。MEA は膜や触媒といった素材は購入して
いるが,電極化や MEA 化は自社で行っている。ポンプやブロア等の補機類は購入し
ている。ポンプに関しては,コストダウンのために,各社共通で使おうという構想で
開発を進めている。
⑥ 将来目標は,価格が 50 万円以下で耐久年数が 10 年間である。
⑦ 今後は価格と耐久性の 2 つに注力して開発を進め,大規模実証でシステムの信頼性を
高めていく。また,貯湯タンクの適切な容量などについても詰めていく。
⑧ 運転温度は 70~75℃で,フル加湿である。この前提であれば,耐久性は改善されつつ
ある。今後,多少乾いたり濡れすぎたりしても問題なく使えるようになれば制御もか
なり楽になり,加湿器が省略できるようになれば,本当の意味でも,コストダウンの
点でも非常に大きな成果となる。
⑨ FC システムの製造については,ある程度は自動化されているが,手作りに近い状況の
ものもまだ多い。しかし,以前に比べたら相当効率化されてきている。
-411-
図 XVII-5 モデル住宅における電力需要
図 XVII-6 1kW級 PEFC 家庭用システム
-412-
2) 燃料改質装置
① 燃料改質装置は,平板形(大阪ガス)と円筒形(新日本石油共同開発)の両方を採用
している。現在は,平板形を都市ガス用,円筒形を LPG 用と使い分けているが,将来
的にはどちらか一つにしていく予定である。平板形は起動停止に伴うヒートサイクル
に弱い傾向があるためどちらかといえば連続運転に向いている。一方,円筒形は膨張・
収縮の耐性が高いため,起動停止のある運転に向いている。それぞれに長所と短所が
ある。
② どちらのタイプも,窒素パージなしで問題なく運転可能であり,従来に比べて性能は
向上している。フィールドで耐久性が確保できるかどうかを確認している段階である。
③ 耐久性を上げるため貴金属触媒を用いており,それが高コストの要因の一つとなって
いる。コスト高の要因の一つは,ロットが少なすぎるため十分量産効果が発揮されて
いない点にある。また,改質器自体をいかに安く作るかという製造技術にも課題があ
る。
④ 改質装置は補機との関連が大きく,補機が乱れると,ガスの組成が乱れ,スタックに
負担がかかる。スタックの CO 被毒耐性の向上も考えられるが,改質側で CO をでき
るだけ抑えたほうが得策と考えている。最終的にはコストの安いところで折り合いが
つくと考えている。
3) MEA
① MEA に関しては,本当の劣化の要因が全て明らかになっていないことが問題である。
一昔前は電解質膜に関する問題がネックになっていたが,現在は非常にタフになって
きている。現状では電極で起こる劣化メカニズムがよく分からないことが課題となっ
ている。今後は,フラッディングや CO の被毒問題を重視していく必要があると考え
ている。
② 炭化水素系の膜は,コストのハードルを越えるための一つの材料としてみているが,
定置用の 4 万~9 万時間という要求に対してはハードルが高いと考えている。今のと
ころはフッ素系の膜に限定している。
③ 拡散層についても,その構造が耐久性に影響するため,検討を行っている。課題とし
ては,高コストなことである。現時点では比率がそれほど大きくないので優先順位は
一番ではないが,将来的には重要な課題である。定置用 PEFC が 1 万台や 10 万台普
及したとしても量産効果による大幅なコストダウンは難しいと考えられる。
4) セパレータ
① カーボンセパレータは,基本的に技術はほぼ固まってきた。最低限必要とする性能の
ものはできるようになっている。あとは,数量とのバランスでコストが決まっていく
と考える。どのメーカも将来的には 200 円/セルと述べており,定置用の目標の中では
ある程度目処が立ちつつある。
② 大規模実証機 1 台につき何十枚のセパレータを入れたスタックを用いているが,近年
はセパレータの精度不足に起因する問題はほとんど生じていない。
③ 現時点では,金属製セパレータのメリットが自動車用ほど必要でないため,信頼性な
どの観点からカーボンセパレータを重視している。
-413-
5) 補機類
① 補機類のコスト削減は重要な課題である。家庭用 FC は非常に微妙な流量バランスで
成り立っている。1kW の出力に必要な流量は非常に少ないため,その範囲の調整は非
常に難しく,特殊機器が必要となり,高価な補機を使わざるを得ない。補機類のコス
トは現状では全体の 4 割程度を占めている。例えば,ターンダウンなどで流量制御が
乱れると,改質器の性能が乱れ,ガス組成が乱れる。その結果,即寿命に影響するた
め,十分な性能のものが要求されている。
② 現在使用している補機の耐久性については, 1~2 万時間は保証されていても,それ
以上の 5~10 年の保証はされていないのが現状である。
6) その他耐久性等の課題について
① 耐久性の向上はイコールコスト低減につながる。最低限まずは 5 年,最終的には少な
くとも 10 年にしなくてはならない。そのため,現状は出力特性よりも耐久性,コスト
ダウンを重点的に考えている。しかし,定置用の本当の意味でのメリットを出してい
くためには,高効率性は重要になるため,長期的には効率の向上も進めていく。
② 現在ではセルスタックの耐久試験において 1 万時間は到達できるようになってきてい
る。劣化要因が急速に解明されてきているので,耐久性の進歩は大きい。そろそろ 3
万~4 万時間の目処が立ってくると考えている。
③ ただし,新しい材料や MEA を開発しても耐久性の評価ができるのは少なくとも 1 年
先になる。そのため,加速評価法を開発する必要があり,現在 NEDO プロジェクトに
おいて取組みが行われている。
④ 現時点では,連続運転で 9 万時間と DSS で 4 万時間のどちらの方が難しいかは明言で
きないが,最近では,以前ほど起動停止が運転条件として厳しくならなくなってきて
いる。
(3) 家庭用燃料電池導入による経済的メリット
① FC とガス給湯器,エコキュート,エコウィルの使用エネルギー量を比較すると,FC
はかなり魅力のあるものとなる。ただし,コジェネで動かすことがポイントになり,
メリットを最大に引き出すためには,温水の利用が重要になる。
② 耐用年数は 10 年と想定し,FC の経済メリットを既存の給湯器と比較すると,燃料電
池が 50 万円で導入されたならば,大体 5 年で全自動給湯器(25 万円)の場合と同等
になる。今は,燃料電池は数百万円しているが,現在のターゲットである 50 万円まで
コストダウンできれば, 5 年目以降はすべてメリットとなる(図 XVII-7)。
③ 電機工業会でも,経済的なメリットと環境的なメリットを足し合わせて,電気代とガ
ス代を比較すると,年間 4~6 万円節約できると発表している(図 XVII-8)。
-414-
図 XVII-7 家庭用 FC のユーザーメリット
図 XVII-8 FC 導入による経済・環境メリット
3. 国プロ等への参画状況
(1) 定置用燃料電池大規模実証事業
平成 15 年度からの NEF の大規模実証試験に参画。新日本石油(LPG)と大阪ガス(都
市ガス)に,上期と下期,追加分も含めて合計 179 台納める予定。実証試験全体で 480
機のシステムが導入される予定である。
-415-
(2) その他の実証試験について
① ガス協会の定置用燃料電池ミレニアムプロジェクト(平成 12~16 年度)に参加した。
出力 1kW 級,燃料は天然ガスである。
② 岩手県葛巻町で,牛の糞尿をメタン発酵させ,メタンを改質して水素を作り PEFC を
動かしている(図 XVII-9)。農水省の補助金で,2001 年からの 5 年間のプロジェクト
であり,今年度で終了する。こうした実証プラントが連続で稼動したのは世界で初め
てと思われる。バイオメタンの改質については,さまざまなメタン濃度で問題なく発
電できることを確認しており,現在は経済的な運転方法の検討段階にある。
図 XVII-9 岩手県葛巻町バイオガス発電プラント(農水・生研センター)
(3) 産官学連携 NEDO プロジェクト(定置用)
産官学連携 NEDO プロジェクトには表 XVII-1 の 4 つに参画している。
-416-
表 XVII-1 参画している NEDO プロジェクト
PEFC セルスタック劣化
解析プロジェクト
定置用ロバスト
プロジェクト
寿命の劣化加速手法の開発が目的で 3 年間のプロジェクト。
リーダーは京大の小久見先生。
膜メーカ,システムメーカ,エネルギーメーカの垂直連携プ
ロジェクト。MEA のタフネスさを上げ,FC が少々ラフな
ところでも運転出来るようにするのが目的で,5 年間のプロ
ジェクトと考えているが,3 年間で中間評価の予定。
定 置 用 改 質 系 触 媒 プ ロ 低コストで起動停止を伴う耐久性に優れた改質系触媒の開
ジェクト
発が目的。評価手法および起動停止方法の開発を行い,開発
触媒をその評価手法を用いて評価し改質器全体の低コスト
化を図る3年間のプロジェクト。
定置用補機
メーカと情報を共有化し,標準仕様の安価な補機を開発して
プロジェクト
低コスト化を図るのが目的。3 年間のプロジェクト。
4. 国・行政機関に対する要望
① 分散型電源として FC や太陽光発電装置を系統に繋いだ場合,系統の停電を検知する
単独運転検知方法に関する研究開発を是非お願いしたい。現状では,複数台を同一系
統につなぐと,単独運転検知機能の検知感度が鈍くなることが発生している。
② 国には,今の技術の延長線上にはない,ブレークスルーに繋がるような分野での基礎
研究を継続的にやっていただきたい。例えば,白金を使わない触媒といった研究を地
道に継続していただきたい。
③ 太陽光が独り立ちするまで,10 年間に渡ってユーザ等に対する補助金があった。同様
燃料電池についても長いスパンで,ユーザ助成やユーティリティー会社への補助など,
継続的に資金を割いてもらいたい。
以上
-417-
XVIII. 三菱重工業株式会社殿訪問インタビュー調査報告
日
時
平成 17 年 10 月 17 日(月)
場
所
三菱重工業株式会社
応対者
技術本部
14:00~16:00
技術本部
広島研究所
広島研究所
PEFC 開発センター
PEFC 開発センター
1. PEFC に関する三菱重工の取り組み
① PEFC は 1988 年頃から研究開発を開始,当初はフォークリフトのディーゼルエンジ
ンやバッテリーに代わる動力源として研究をスタートさせた。
② その後 1999 年から 3 年間にわたり三菱自工と共同でメタノール改質型燃料電池車の
開発を行った。
③ NEF の 2003 年度委託事業として家庭用都市ガス改質形 1kW 級 PEFC コージェネ
レーションシステムと,業務用灯油改質形 8.5kWPEFC コージェネレーションシステ
ム(コンビニに設置)の実証運転を実施。2005 年 6 月からは,広島ダイヤモンドホ
テルにおいて実証運転を実施中。
④ PEFC 関連の要素技術開発として,10 年以上にわたりメンブレンリフォーマの研究
開発を東京ガスと共同で進めている。
⑤ 無人潜水艇(うらしま)の動力源としての燃料電池開発も 10 年以上続けている。こ
こ 2,3 年で実際の潜水も成功させてきた((独)海洋科学技術センターの委託)。潜水
艇ではゼロエミッションが基本のため,純酸素(液体貯蔵)と純水素(MH 貯蔵)を
使用。水は回収して循環させるシステムとなっている。
⑥ 当広島研究所には PEFC 開発センターを含め 11 の研究室・センターがある。燃料電
池は,技術本部長直轄プロジェクトとして当開発センターが中心となって研究開発を
進めている。
⑦ PEFC 開発センターでは,個々の材料をはじめ,改質器,システムの研究・開発を推
進している。一部補機類の研究開発も行っている。
-418-
2. 定置用 PEFC(スタック,改質器等)に関する研究・開発状況
(1) 燃料改質触媒・改質器の開発状況
① 当社の基本はハードウェアメーカであるが,触媒もブラックボックスにならないよう
にマネージメントできるようにしている。もともと化学プラント(メタノール合成や
メタノール改質等)を造ってきたため,20 数年前から触媒技術を手がけている。PEFC
関連の触媒も現在すでにある程度担える。
② CO 変成触媒については,現状では活性は低いが耐久性が高いため,貴金属触媒が一
般的となっている。しかし,これは高価なことが課題である。一方,銅系の卑金属触
媒では劣化が問題となる。とくに DSS 運転における起動停止時による劣化が問題と
なる。従来はこれを窒素パージにより防いでいた。
③ 現在当社では,新たな窒素レスパージ法(発停ロジックの適正化によるイナートガス
処理)の開発を進めている。これはバーナーの排ガス(CO2,N2 等)をクリーンアッ
プすることによりイナートガス(不活性ガス)を製造し,パージに用いる方法である。
これによって,卑金属触媒でもほとんど劣化しないことを実証している(図 XVIII-1)。
④ CO 選択酸化触媒については,貴金属触媒が高活性であり,低い温度で使えるため明
らかに良い。しかし,将来を見越して,タフで安い触媒を目指し,並行して卑金属触
媒の検討も進めている。
⑤ 改質器については,吸熱,発熱反応のバランスを取るための熱の授受が難しい。とく
に負荷が変わると温度分布が生じ,ひずみが生じる。とりわけ低負荷時において温度
を均一に保持するのが困難である。
⑥ 当社の新型の 1kW 級都市ガス改質器の改質プロセス効率は,50%負荷時で 80%
(HHV)以上の効率を示し,負荷 100%では 83%の効率となる(図 XVIII-2)。負荷
30%レベルでも,従来型から大幅に改善して 79%の効率を示す。低負荷では,相対
的に放熱によるロスが大きいため,この抑制が課題となる。とくに低負荷時に S/C
を大きくする(スチームを多めに入れる)ので,できるだけ S/C の上昇を抑え,効
率を低下させないような検討を行っている。
⑦ 燃料については,都市ガス,LPG,ナフサ,灯油,メタノール,DME などを対象と
している。これら全ての燃料について改質器を完成させた実績がある。
⑧ プラント会社としては,DME の早期の普及を願っている。DME は軽油代替として
も使え,水素のキャリアにもなる。都市ガスやプロパンへの製造も可能であり,臨機
応変に使えるメリットがある。
⑨ 車載改質器にも興味をもっている。米国 DOE のガソリン改質への補助の停止決定以
降,下火になってしまったが,航続距離を考えたら,純水素も見通しは厳しい。その
ため,液体燃料改質も選択肢として残しておく必要があると考える。まだ,技術的に
は発展途上にある。二次電池も以前に比べて相当改善されているし,シミュレーショ
ン技術や制御技術も良くなってきているため,液体燃料改質の可能性も残しておくべ
きであると考えている。
-419-
Metal Cu
ZnO
活性予測線
80
In te n s ity (a .u )
CO転化率/%
100
目標CO転化率
60
40
【DSSパージ処理】
<DSS
Purge Operation>
水蒸気処
理①
Steaming Treatment
イナートガス処理
N2Treatment
20
初期
Fresh
0
0
200
N2ガス処理
400
600
DSS回数/回
水蒸気処理②
800
1000 0
20
40
2θ/deg
水蒸気処理①
イナートガス処理(N2レス処理)
図 XVIII-1 CO 変成触媒の DSS 要素耐久性試験
図 XVIII-2 1kW 級都市ガス改質器の効率
-420-
60
80
(2) 電池セルの開発状況
① 電極触媒については,アノード触媒では耐 CO 性向上と高活性化,カソード触媒では
高活性化が課題である。貴金属担持量の低減と耐久性の向上が共通課題。
② 電池セルの一般的な耐久性は湿度の影響が非常に大きい。システム的には,ドライも
ウエットも関係なく幅広い条件で運転できることが望ましい。例えば DSS 運転では
最初はドライ状態からスタートする。また,常に湿度 100%を維持するというのは非
常に難しい。100%を超えるとフラッディングの問題が生じる。
③ 固体高分子膜の劣化メカニズムとしては,過酸化水素に起因するラジカルが問題であ
ると推測している(図 XVIII-3)。そのため,耐久性向上への課題として,水素分子及
び酸素分子透過量低減,過酸化水素生成防止,高分子膜の化学的安定性向上,生成し
た過酸化水素の高分子膜への拡散防止または不活性化が挙げられる。
④ MEA も自社開発を行っている。ブラックボックス化にしてしまうと,自社で分析・
解析できず,問題解決することができなくなる。ただし,全ての素材を自社開発する
のは負担が大きいため,安くていいものがあればそれを使っていくというスタンスを
とっている。
劣化要因として過酸化水素に起因するラジカルが膜劣化を促進すると推定
水素極
燃 料極
触媒層
触 媒層
(1 )水 素 分 子 及 び酸 素 分
子 透過
H+
高 分子膜
高分子膜
H+
O2
空酸素極
気極
触触媒層
媒層
(2)過 酸 化 水
O 2 素 生成
H2O
H2
H2
H 2 O2
H 2 O2
( 3 )高 分 子 膜 の
劣 化、破 損
(4)過 酸化 水素 ラジ カル 生成
H2
HO・
H+
H2O
<課題>
(1)水素分子及び酸素分子透過量低減
(2)過酸化水素生成防止
(3)高分子膜の化学的安定性向上
(4)生成した過酸化水素の高分子膜への拡散防止又は不活性化
図 XVIII-3 固体高分子膜の劣化メカニズム案
-421-
(3) 定置用システムの開発状況
① 家庭用の都市ガス改質形 1kW 級 PEFC コージェネレーションシステムおよび業務用
灯油改質形 8.5kWPEFC コージェネレーションシステムを開発している。
② 家庭用都市ガス改質形 1kW 級 PEFC は,平成 15 年度の NEF 委託の実証試験で実
証運転を行った(図 XVIII-4)。
③ 業務用灯油改質形 8.5kW 級 PEFC は,大崎のコンビニ(2004 年 3 月から)および広
島ダイヤモンドホテル(2005 年 6 月から)において実証運転を行っている。(図
XVIII-5)
④ 集合住宅向け PEFC システムのコンセプトとして,燃料をいったん集合住宅内の一箇
所で改質し,改質ガスを各家庭にデリバリーし,各家庭に FC だけを設置するような
形態が考えられる(図 XVIII-6)。故障の原因となる改質器も一つで済み,コストダウ
ンにもつながる。去年まで地域新生コンソーシアム研究として要素的な研究を行っ
た。現状では各家庭への改質ガスの供給や電力供給は規制上不可となっているため,
この実現のためには,今後,各種の規制緩和が必要である。
貯湯槽
発電ユニット
家庭用PEFCシステム外観写真
(H15年度NEF委託実証試験)
図 XVIII-4 家庭用都市ガス 1kW 機の実証試験状況
-422-
発電出力
燃
料
定格出力
発電効率
出力電圧
総合効率
発電効率
総合熱効率
パッケージ
系統連系
寸法
制御方式
■設置場所 :広島ダイヤモンドホテル
■設置場所 :広島ダイヤモンドホテル
(広島県広島市西区観音新町)
(広島県広島市西区観音新町)
■試験期間 :2005年6月から
■試験期間 :2005年6月から
8.5 灯油
kW
8.5kW(AC送電端)
32%以上
AC200V
83%36%(LHV) 【目標値】
76%(LHV) 【目標値】
幅1,900×奥行き690×
あり
高さ1,900
全自動
図 XVIII-5 灯油業務システムの実証試験状況(広島ダイヤモンドホテル)
50~100世帯
集中改質装
置
燃料
改 質 ガ
ス
【集合住宅向けPEFCシステムの概念
図】
図 XVIII-6 集合住宅向け PEFC システム
-423-
3. メンブレンリフォーマの開発状況
① メンブレンリフォーマは,高純度な水素が得られること,リフォーマの低温化や小型
化が図れること,基本的には触媒が 1 種類で良い(通常は 3 種類)ことなどのメリッ
トがあり,研究開発のテーマとしては魅力的である。一方で,コスト低減とパラジウ
ム膜の薄膜化技術が課題である。
② コスト低減に向けては,まずパラジウムを用いると原材料費が高く,材料としてこれ
に替わる良いものを見つけることが課題である。昨今では代替物質の提案もされつつ
ある。
③ 薄膜化については,一般にメンブレンが薄いと抵抗が小さく性能が向上するものの,
耐久性が不十分となるが,最近は良好な耐久性を有する膜が開発されつつある。
4. 本格普及に向けてのシナリオと課題
① 本格普及や商品化に向けての主要課題は,コストダウンと信頼性の向上である。とく
に市場に受け入れられるコスト低減は必須である。そのためには,コンポーネント部
材点数の低減,補機類の標準化,モジュール化・一体化の推進等が必要である。
② さらに,無加湿膜の開発や,貴金属レス触媒の開発など革新的要素技術の推進も併せ
て必要である。とくに改質器の触媒コストについては CO 変成触媒の占める割合が高
く,これを安くするためには,システムサイド,触媒サイドからのアプローチによっ
て,更なる検討を進めていく必要がある。
③ 補機類については,現状では量産化されれば数百円のものが数万円,十数万円してい
る。これについては,ある程度仕様を確立することによって,標準化,共通化し,量
産化を図っていく必要がある。
④ 改質器については,NEDO 研究プロジェクト(定置用燃料電池改質系触媒の基盤要素
技術開発)によって,できるだけ触媒の共通化を図り,触媒の低コスト化実現のため
の開発を進めている。現状の改質触媒は,貴金属の利用がメインであり,原材料だけ
で 1kW 当り 20 万円以上に達する。目標として数万円以下にする必要がある。ベース
メタルとして銅やニッケルなど安い卑金属を中心とした触媒で改質していくことが
必要と考えている。
⑤ FCV が普及していかないと,量産化によるコストダウンが限定されるため,早期に
実用化してほしいという要望がある。同時に,自動車用と定置用とで構成部材をある
程度共用化できるものは共用化し,量産化を図っていく必要がある。
⑥ 定置用燃料電池システムの最終価格については,年間の光熱費メリットが 5 万円くら
いと言われているので,その償却を 6 年と考えると,30 万円/kW くらいが狙いであ
ると考えられる。
-424-
5. NEDO プロジェクト等への参画状況について
① NEDO プロジェクトについては,表 XVIII-1 に示すように,
『固体高分子形燃料電池
実用化戦略的技術開発事業(H17 から 5 ヵ年)
』の「要素技術」で 2 つ,
「実用化技術
開発」で 1 つの研究プロジェクトに参画している。その他に『固体高分子形燃料電池
実用化戦略的技術開発/次世代燃料電池技術開発(H17 から 2 ヵ年)』にも参画してい
る。
② 経産省のサポートの下で,地域コンソーシアム研究にも参加している。メンバーは三
菱重工,広島ガス,戸田工業,田中工業,ケミカル山本,広島大学。
③ FCH(燃料電池・水素基盤技術懇談会)には外部協力という形で参画している。
表 XVIII-1 三菱重工が参画する NEDO プロジェクト
<固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業>
○ 期間:平成 17 年から 5 年間
○ 研究テーマ
【要素技術】
・ DSS 対応長寿命電池技術の研究開発(単独)
・ 定置用燃料電池改質系触媒の基盤要素技術開発(8 社 1 大学)
※8 社 1 大学:三菱重工,新日本石油,富士電機アドバンストテクノロジー,
出光興産,東芝燃料電池システム,松下電器産業,東京ガス,三洋電機,
広島大学
【実用化技術開発】
・ 長寿命膜・電極接合体の生産技術開発(単独)
<固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/次世代燃料電池技術開発>
○ 期間:平成 17 年から 2 年間
○ 研究テーマ
【評価技術】
・ 白金代替触媒材料の開発(単独)
6. 国・行政機関に対する要望について
① やみくもに研究を推し進めるのではなく,組織だった研究開発をきちんとやらなけれ
ばいけない時期が来ていると感じている。情報開示などをもっと積極的にやっていく
必要がある。
② 開発資金援助は是非今後も継続をお願いしたい。
③ もう少し早く規制緩和を進めてほしい。各家庭への改質ガスの供給や水素のデリバ
リーなどを可能にするため,安全性などの検証や,安全を確保するための方策の方向
性などの検討が必要と考えている。
以上
-425-
XIX. 東レ株式会社(機能材料研究所)殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 10 月 26 日(水)14:30~16:30
場
東レ株式会社
所
応対者
機能材料研究所
機能材料研究所
1. 東レの研究開発戦略
① 先端材料による事業拡大を目指し,先端材料を意識した研究開発を行っている。
② 研究本部は,技術センターの中にある。研究本部で研究を推進し,研究から事業に至
るまでの開発の推進や事業に向けた様々な取り組みを推進する部署が技術センター
である。技術センターは本社直轄で,所長は副社長である。
③ 東レでは,携帯機器用を中心とした DMFC 用の炭化水素系電解質膜や MEA の研究開
発をしており,自動車用への展開も図っている。これらは研究本部の機能材料研究所
で担当している。GDL については,複合材料事業本部のコンポジット事業部ですで
に事業として展開している。
2. 東レにおける燃料電池への取り組み
(1) 全般
① 電極基材(ガス拡散層)と,携帯機器用 DMFC,自動車用 PEFC の電解質膜,MEA
について検討を行っている。
② DMFC については,携帯モバイル機器のエネルギー容量不足を補うため,またリチウ
ムイオン電池に対する駆動時間や充電時間といった不満解消のため,さらに新たな電
源ニーズを担うという位置づけで開発を進めている。
③ 自動車用に関しては,炭化水素系電解質膜の研究を平成 17 年度からの NEDO プロ
ジェクト研究に参画して行っている。
(2) DMFC への取り組み状況
① MCO(メタノールクロスオーバー)の低減をさせようとすると,従来のフッ素系電解
質膜に比べて触媒と膜との界面接合がうまくいかないという課題がある。結果的に,
良い膜ができても発電性能が乏しくなってしまうようなことがあるため,膜だけでな
く MEA としての発電性能を向上させていくように研究を進めている。
② 触媒に関しては酸化活性向上,膜に関しては燃料の MCO の低減が課題である。
③ それぞれの課題に対して,平成 16 年度まで NEDO 委託研究で取り組んできた。平成
17 年度以降も新たな委託研究で継続して研究を進める。
④ 今後は耐久性が非常に重要なテーマになってくる。
-426-
(3) NEDO プロジェクトによる DMFC 研究について
① 平成 13 年度から平成 16 年度まで NEDO プロジェクトで高効率 DMFC の研究開発を
行った。
② 当プロジェクトは平成 16 年度で終了し,平成 17 年度はまた新しい委託を受けて検討
を行う。
1) 電解質膜
① 従来のフッ素系電解質膜のメタノール透過機構を解析するため計算化学を活用し,メ
タノール透過のコンピュータシミュレーションを行い,クラスター領域におけるメタ
ノール透過量が最も多いということがわかった。また,フッ素系電解質膜では,クラ
スターのサイズを小さくすると MCO が低減するが,伝導度も低下するというトレー
ドオフの現象をコンピュータシミュレーションにより確認した。
② コンピュータシミュレーション技術を活かして,新たな電解質膜の設計を行い,プロ
トン伝導度が従来のフッ素系電解質膜比 1.0 で,MCO だけを 0.1 以下に低減した炭化
水素系の新規電解質膜を作製し,トレードオフを解消することができた。
③ 新電解質膜は,従来のフッ素系電解質膜のような疎水と親水の相分離構造ではなく,
明確に相分離構造を持たないポリマー構造になっている。これが,プロトン伝導を維
持し,MCO を低減できた要因と考えている。
2) MEA
① 新規電解質膜の MEA 化については,伝導度が同じ膜であれば,出力的にも従来のフッ
素系電解質膜と同等以上の MEA 化手法を開発した。
② 新規膜を適用した MEA 性能は,MCO を低減させた上で,従来のフッ素系電解質膜の
出力性能に比べて,2 割~2 倍くらいの出力アップを達成した。
③ 新規膜を用いた MEA と従来のフッ素系電解質膜を用いた MEA の温度とメタノール
濃度と出力の関係を比較したところ,温度 40℃,MeOH 濃度 10%でフッ素系電解質
膜と同等, 60℃においては,濃度 10%と 30%でフッ素系電解質膜よりも高い出力を
得た。これにより目標レベルの効率に達することが可能と考えられる。
④ 耐久性に関しても,60℃,濃度 3%,250mA での 500 時間運転した結果であるが,フッ
素系電解質膜の出力低下率に比べて,新規膜では大幅に向上した。
3) 触媒
① 信州大学の高須先生との共同研究で,触媒の高分散化と新規構造による高活性化,担
持カーボンによる高活性化について研究を行っている。
② 信州大学では,アノード触媒で,白金ルテニウムに新たな金属を導入する Pt-Ru-M 系
触媒としては市販のものに比べて 2 倍くらい高活性のものができつつある。
-427-
(4) DMFC の駆動試験
① 2 年程前に携帯電話と PDA の駆動実験を行った。PDA 程度になるとポンプとファン
が必要であったが,全てセル出力で賄い運転を行った。
② 昨年のナノテクフェアに DMFC でビデオを駆動させた。また,ノートパソコンの駆動
も行っている。
(5) 自動車用電解質膜の開発について
① 従来,DMFC 主体で研究を進めてきたが,今後,この技術を自動車用の電解質膜の研
究開発に活かしていく。
② 平成 17 年度から 5 年間の新たな NEDO プロジェクトでは,とくに自動車用を目標に
した炭化水素系の電解質膜を中心に検討を行う。具体的には,耐久性,高温電解質と
いったテーマが中心になっていくと考えている。
③ 炭化水素はいろいろな種類,バリエーションがあり,設計の自由度が数限りなくある。
当社のナノ技術を活かし,自動車用の炭化水素系の膜を力強くプッシュしていく。
3. 国プロへの参画状況について
① NEDO の「固体高分子形燃料電池システム技術開発事業 固体高分子形燃料電池要素
技術開発等事業 高効率ダイレクトメタノール形燃料電池の研究開発」に参画した。
平成 13 年から平成 16 年までの 4 年間である。具体的な研究内容は,MCO の低い電
解質膜の開発および高活性アノード触媒,新規構造 MEA 開発による高効率化である。
② 平成 17 年度から3年間の計画で,
「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業」
の「要素技術開発 高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」と「実用化技術開発 炭
化水素系電解質膜および MEA の量産化技術開発」に参画する。
以上
-428-
XX. 東レ株式会社(コンポジット技術部)殿
訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 18 年 2 月 23 日(木)13:30~15:10
場
東レ株式会社
所
応対者
滋賀事業場
コンポジット技術部
滋賀コンポジット技術課
1. PEFC 用ガス拡散層(GDL)の開発販売状況等の概要
① PEFC 用 GDL に用いるカーボンペーパーはコンポジット技術部で新製品の開発を行っ
ており,コンポジット事業第1部で行っている。
② 製品はカットされたカーボンペーパーが主体であり,Web で仕様(表 XX-1)を公開し
販売している。
表 XX-1 東レ製カーボンペーパーの物性表
項目
単位厚さ
電気
抵抗値
熱伝導率
厚さ
方向
単位
TGP-H060
TGP-H090
TGP-H120
mm
0.19
0.28
0.36
0.15MPa
4.7
直流 4 端子法
mΩ・cm
面
方向
mΩ・cm
厚さ
方向
W/(m・K)
面
方向
W/(m・K)
気体透過性
ml・mm/
(cm2・hr・
mmAq)
気孔率
%
嵩密度
g/cm3
80
5.8
5.6
1900
1.7
室温
21
室温
23
100℃
1700
0.44
0.45
8
×10-6/℃
-0.8
曲げ強度
MPa
39
曲げ弾性率
GPa
9.8
引張強度
N/cm
線膨張係数
(面方向)
1500
78
μm
表面粗さ
備考
50
70
出典:東レ㈱HP より
-429-
0.45
Ra
25~100℃
90
2. 東レ製カーボンペーパーの特徴・取り組み状況
① 当社のカーボンペーパーの特長は,高い空隙率を有し,酸素,水素の透過性が高い。
電気伝導性が高く,薄く平滑な表面を有する点が挙げられる。機械的特性として高強
度で壊れにくく,屈曲に対し追従性を有している。これまで長い開発実績を積んでい
るため,信頼性データの蓄積があることも強みである。
② 当社のカーボンペーパーは他社製品と比べて機械的強度が強く,圧縮に強いこと,電
気伝導性が高いこと,固体高分子膜中の水分が乾燥しにくいことなどである。
③ 燃料電池は市場自体がまだ開発的な要素が強い状況なので,新製品開発の段階から顧
客ニーズを捕らえることに主眼を置いている。
3. PEFC 用 GDL 全般に関する技術開発動向
①自動車用と定置用では GDL の要求特性が異なるが,当社製のものはどちらにでも対応
できると考えている。
② MEA の耐久性に関しては,過去にリン酸形燃料電池に用いられた経緯から,良好な耐
食性を示すと考えている。使用条件を考慮すると,膜や触媒,マイクロポーラス層に
比べて GDL が及ぼす MEA 全体の劣化への影響は小さいと考えている。
③ 耐熱性に関しては,200℃の PAFC で使っていた実績がある。
④ スタック加工精度は要求性能のひとつであり,GDL の厚さや厚み精度に対する要求が
厳しくなってきている。
4. FC 関連事業における他社との協力関係・国プロへの参画状況について
GLD 関連で特になし
5. 国・行政機関に対する要望について
FC 市場の早期立ち上げのための,規制緩和や補助金,インフラ整備
以上
-430-
XXI. ジャパンゴアテックス株式会社殿訪問インタビュー調査報告
訪問日時
平成 17 年 10 月 18 日(火)9:00~
場
ジャパンゴアテックス株式会社
ポリマーサイエンスセンター
ジャパンゴアテックス株式会社
ビジネスオペレーションセンター
所
応対者
ポリマーサイエンスセンター
1. ジャパンゴアテックスの会社概要・製品概要
(1) 会社概要
① ジャパンゴアテックスは,米国 W.L.ゴア&アソシエーツと特殊ケーブルメーカである
潤工社の資本 50%ずつによる合弁会社であり,1974 年に設立された。もともとケー
ブルの被覆材料にフッ素樹脂が用いられるため,両社が協力したという経緯がある。
現在の従業員数は 400 名強であり,年間売上高は約 230 億円である。
② 日本には,3 つの拠点があり,本社機能およびマーケティング&セールスを担当する
ビジネスオペレーションセンター(東京),ゴアテックスの製造と研究開発を行うプロ
ダクション&テクニカルセンター(岡山県備前市吉永町)
,製造したゴアテックスの中
間製品,完成品を製造するポリマーサイエンスセンター(岡山県岡山市御津河内)が
ある。日本では,研究開発,製造,販売が一貫して行える体制を整えている。
③ 全世界のゴアグループは,旧西側諸国を中心に世界 21 カ国 94 拠点で展開しており,
製造プラント 40 工場以上,総人員 7,000 に及ぶ。ジャパンゴアテックスもゴアグルー
プの一員だが,唯一 W.L.ゴア以外の資本が入っており,独自性が出しやすいという特
徴がある。他は W.L.ゴア出資 100%の子会社である。
④ ゴアテックスは,PTFE を特殊延伸加工し,連続多孔質構造としたものである。製品
としては,ロッド状,チューブ状,フィルム状,ファイバーといった形態がとれる。
⑤ 事業分野は 5 分野。従来はファブリクス,メディカル,エレクトロニクス,インダス
トリアルの 4 分野だったが,今年度インダストリアルからエレクトロケミカルが分離
独立し,5 分野となった。
⑥ 燃料電池関連はエレクトロケミカル分野で研究開発しており,社内でも最も重要なプ
ロダクトの一つとして位置づけられている。米国ゴアとも協力し,開発,生産,販売
をワールドワイドに展開している。
⑦ ポリマーサイエンスセンターのエレクトロケミカルプロダクト内に燃料電池プロジェ
クトがあり,固体高分子電解質膜や MEA の開発・生産・販売を行っている。
⑧ 米国 W.L.ゴアとのやり取りは頻繁にあり,お互い協力しながら開発を進めている。
-431-
(2) 事業分野および製品について
① ファブリクス分野では,アウトドア用のウエアやシューズ,グローブ,テント等を製
造している。
② メディカル分野では,人工血管や手術用の縫い糸,人工心臓,デンタル製品等を扱っ
ている。
③ エレクトロニクス(電子材料)分野では IC パッケージ用の接着剤や,高周波伝送計用
基盤材料,プリント配線基板材料などを扱っている。
④ インダストリアル分野では,シーラントやガスケット材,フィルターバッグ,ベント
フィルター,クリーンルーム用ウエア,ビル等の空調管理に使うような加湿器,オゾ
ン溶解モジュール,オイルロールというプリンターの部品など,種々雑多なものを扱
う。
⑤ エレクトロケミカル(電気化学)分野では,PEFC 用電解質膜並びに膜/電極接合体(M
EA),パワーキャパシタ(大容量としては日産ディーゼルのハイブリッドトラックに
採用されたアルミ一体化電極),空気亜鉛電池用(主に補聴器に用いられる)の空気拡
散膜や,アルカリイオン整水器の電解隔膜,などを扱っている。中でも燃料電池につ
いては,全社的にも最も力をいれている分野のひとつであり,固体高分子電解質膜お
よび MEA を扱っている。用途としても自動車用,家庭用,モバイル機器用の 3 つの
全てに注力している。
2. PEFC 関連技術・製品の開発内容,開発状況等について
(1) FC 関連技術・製品の位置づけ
① PEFC のバックグランドとしては,20 年以上前から PAFC 用の Pt 触媒シート電極や
SiC(炭化ケイ素)のマトリックスシートの製造・販売をしていた経緯がある。PAFC
の商品化が遅々として進まない中,1992 年頃から,もともと扱っていた電解隔膜のイ
オン交換膜の技術も組み合わせ,軸足を PEFC へ移行させた。
② W.L.ゴア社とも協力し,PEFC 用固体高分子膜,MEA の開発・生産・販売を行って
いる。前述のとおり,今年度よりエレクトロケミカル分野は格上げされ,その中でも,
また,会社全体,グループ全体において,燃料電池製品は最重要プロダクトとして位
置づけられている。
③ 関連技術としては,CO センサー,水電解用固体高分子電解質膜が挙げられる。
④ ガスセパレータの開発・製造は行っていない。
(2) 固体高分子膜
① 固体高分子電解質膜 GORE-SELECTⓇは,ゴアテックスを補強材としたイオン交換膜
である。補強されていることによって高強度,高寸法安定性を有するため,耐久性が
高く,薄膜化が可能という特長を有する。
② 薄膜化によりプロトン伝導性が高められ,また,水の逆拡散が容易に起こるため水管
理が容易となる。薄いため使用材料も少なくなり,低コスト化も可能である。現在は
膜厚 30μm が標準品であるが,15μm までの製品を提供している。希望としては,
15μm に近い方へシフトさせていきたいと考えている。
-432-
図 XXI-1 GORE-SELECTⓇ
(3) MEA
① 薄い GORE-SELECT Ⓡ 膜を痛めずにその特長を十分に引き出せる MEA として,
GORE-SELECTⓇ膜両面に触媒層を形成した膜/電極接合体 PRIMEAⓇ(3層品)を開
発し,提供してきた。PRIMEAⓇはハンドリング性が非常に優れ,接合界面がイオン
コンタクト的にも良好であることが特長である。また,改質ガス対応品も製品ライン
ナップしている。
② 従来は,PRIMEAⓇ(3層品)とガス拡散層 CARBELⓇを別体で納めていたが,現在
は,ガス拡散層 CARBELⓇを一体化させた PRIMEAⓇ(5 層品)としても展開してい
る(図 XXI-2)。これは,顧客におけるスタックアップ時の利便性の向上を図った製品
となる。CARBELⓇにはカーボンペーパーを基材とした CARBEL-CFPⓇ,カーボンク
ロ ス を 基 材 と し た CARBEL-CL Ⓡ , 改 良 型 の カ ー ボ ン ペ ー パ ー を 使 っ た
CARBEL-CNWⓇがある。CNW はガス拡散層表面の凹凸が膜に与える影響を吸収出来
るようなマイクロレイヤーを有する(図 XXI-3)。これによって,高い締め付け圧に対
しても MEA を傷めることなく,性能,信頼性を向上できるようになった。
③ PRIMEAⓇは,当初,全用途を対象として,標準的な MEA として 55 シリーズを市場
展開してきた。現在アメリカでは用途にあわせて展開している(定置用には 56 シリー
ズ,自動車用には 57 シリーズ,ポータブル用に 58 シリーズ)。
④ 日本では自動車用と定置用でとくに用途を分けず,55 シリーズの中で,耐久性,ハン
ドリング性の向上を進めた展開品として現在 557 を扱っている(図 XXI-4)。さらに改
良を進めた 558 を現在開発中である。日本では,現在まではとくに用途別に MEA を
分けることをしてきていない。どの用途でも高耐久性や低加湿対応等,求められる性
能は共通項が多いためである。しかしながら,それぞれの用途に合わせて,GDL を変
化させたり,膜厚で調整したりするなどで対応を取ってきている。
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図 XXI-2 PRIMEAⓇ(5層品)
-DiagramGDL / MEA interface
Pressure
Conventional micro layer
←GDL
GDL
← Micro layer
← Electrode
← PEM
MEA
GDL
Spiky Pressure
Improved micro layer
←GDL
Pressure
← Micro layer
← Electrode
← PEM
Uniformized Pressure
図 XXI-3 ガス拡散層 CARBELⓇイメージ図
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Series 56
Stationary
高耐久MEA
開発中
(サンプル提供開始)
Series 57
Transportation
高温低加湿対応MEA
Series 55
Series 557
All Purpose
自動車、定置、携帯
問わず、標準MEAとし
て展開
高耐久MEA
膜、電極改良
ハンドリング性向上
Series 58
Portable
常温作動、低加湿対
応MEA
Series 5580
Transportation
広運転領域、高耐久MEA
膜、電極、拡散層改良
Series 5582
Stationary
高電位・高耐久MEA
膜、電極、拡散層改良
図 XXI-4 PRIMEAⓇのグレードの紹介
(4) 自動車用途の開発ロードマップについて(図 XXI-5)
① 自動車用途製品の開発について,高温対応については当面 100℃を目指しており,将
来的には 120℃までを目標に開発したいと考えている。
② その他の重要開発項目としては,高耐久電解質膜,高活性・高耐久電極,広いオペレー
ションウィンドウを有する低抵抗拡散層の開発である。広いオペレーションウィンド
ウを有することで,用途別に製品を分ける必要が無くなるメリットがある。
③ 2006 年までに,第一段階を完成させたいと考えている。ただし,それでは市場のニー
ズを十分に満足できないということで,第二段階として 2008 年までの開発を考えて
いる。
-435-
2005
2006
2007
2008
Gore Select ~高耐久電解質膜~
Gore Select ~高温対応膜:ver1~
100℃対応 PRIMEA ~高活性、高耐久電極~
Carbel ~広いオペレーションウィンドウ、
低抵抗拡散層~
Gore Select ~高温低加湿対応膜:ver2~
120℃
PRIMEA ~高温対応、低加湿電極~
Carbel ~広いオペレーションウィンドウ、
作動範囲、高耐久拡散層~
最適MEA構成
図 XXI-5 自動車用途の製品開発ロードマップ
(5) 重点開発項目
1) GORE-SELECTⓇ
① GORE-SELECTⓇについては,自動車用,定置用,携帯用ともに,高耐久化,高温低
加湿運転対応,低コスト化に対して力を入れている。
② GORE-SELECTⓇは高強度な機械的補強を有しているために膨潤収縮が抑えられ,耐
久性が良いという特長を有する。最近では,過酸化水素あるいはヒドロキシラジカル
耐性を上げたイオン交換樹脂の開発と補強層の更なる改良により,より信頼性・耐久
性の高い膜の開発を目指している。
③ 高温運転に対しては,現行のものでは劣化が加速されてしまうが,樹脂改良(化学的
高耐久な樹脂の開発)や,補強層の強化によって達成していく。樹脂改良は,ゴアグ
ループ全体でも開発を進めており,耐熱性とイオン伝導性向上がポイントとなる。
④ 新たな補強層の開発によって,更なる薄膜化を狙っている。薄膜化することにより,
高出力化,及び高温低加湿対応,さらには低コスト化にもつながると考えている。
⑤ 大量生産時には,薄膜化により国の目標価格である$30~50/m2 に到達できると考え
ている。
⑥ 耐久性については,膜単体よりも MEA や GDL を含めて検証する必要があるが,フッ
素系膜であれば,いずれ耐久性は自動車用,定置用とも目標値を十分満たせると考え
ている。
⑦ 高温化の要望は様々なところから聞いている。ただし,120℃だと白金の溶出やカーボ
ンの腐食も激しくなるため,膜だけの話ではなくなり,MEA トータルとしての対応が
必要と考えている。
-436-
2) PRIMEAⓇ電極
① 長期運転において電極構造を維持した高性能な電極開発を目指す。現在では,白金の
シンタリングや溶出,触媒担体の腐食が注目されている。そのため,シンタリングを
抑制し,腐食に対して耐性の高い担体を目指した開発を行っている。そのためのアプ
ローチは,以下のとおりである。
・ 高活性,高耐久電極の開発を目指し,新規触媒の探査や触媒活性,耐久性の向上
を目指した電極の改良に取組んでいる。
・ 高温耐久性については,単に耐久性だけに観点を置くと高温に対してシビアに
なってくるため,これに対しては,電極構造の改良,高温耐久性を有する新規樹
脂の開発というアプローチから検討を進めている。膜の方でいい樹脂が開発でき
れば,電極にも展開していく。
・ 低コスト化のためには,触媒量の低減が必要であり,触媒担持量の最適化や新規
高活性触媒の研究開発を進めている。
② 現状では,高温化や信頼性あるいは耐久性をあげることが優先課題であり,白金の担
持量を減らすのは次の項目と認識している。
③ 自動車用と定置用の耐久性の確保については,車の場合は運転モード(負荷変動やス
タート&ストップのサイクル),定置用の場合は要求耐久時間があまりにも長いこと
で,どちらもそれぞれ難しいところがある。
3) CARBELⓇ
① ガス拡散層については,運転領域を拡大した,高性能で,長時間に渡ってフラッディ
ング並びにドライアウトを抑制する高耐久な製品の開発を目指す。そうすることが,
MEA を自動車用とか定置用とか用途で分ける必要が無くするためのポイントになる
と考えている。
② そのため,基材の最適化や構成材料の最適化,例えば撥水処理の程度やその方法の最
適化等の検討を行っている。
4) MEA のコストと生産性
① 本格的な導入時期を想定し,市場の要求コストに見合った材料の選定,ファブリケー
ション,生産方法の開発が必要である。そのため,以下のような取り組みを実施して
いる。
② 平成 17 年度より NEDO の「固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の高生産性量産技
術開発」に参画(単独)し,低コストで高生産性,スタッキングもしやすい,ハンド
リング性の良い MEA(7 層品:5 層+ガスケット)を大量に作れる生産システムの構
築を目指している。
③ 導入時期と将来価格を想定し,材料メーカとビジョンを共有した上で,その想定にマッ
チした材料の開発を行い,ファブリケーションの最適化を進める。
-437-
5) その他
① ハイドロカーボン膜については,以前開発検討を進めていたが,耐久性の点では厳し
いと考えており,今後は,リサーチだけは続けていきたいと考えている。
② ダイレクトメタノール用の固体高分子膜については,メタノールクロスオーバーの低
減が最大の課題であるが,現在は,MEA トータルとして,DMFC に耐えうるものの
開発に注力している。
(6) 製造方法の特長,性能について
① 現在の当社の製造能力は,国内(定置用,自動車用)カスタマーの現在の要求量の約
3 倍量を確保できている。
② 当社はフレキシブル生産体制を完備しているという特長がある。ユーザの様々な形状
や数量の変更要求に対応して,MEA を設計,生産することが可能である。最近では,
既製品の販売から,顧客の使い方に合わせた MEA の生産という形の方が主流になり
つつある。そのために,7 層品を手がける必要性が増してきている。
③ 現在,量産初期に入っていると認識しており,ISO9000 の取得(済み)をはじめとし
て,カスタマーの品質監査も問題なく受け入れられるような品質保証体制を構築して
きている。
(7) 市場導入へ向けた取り組み
① 最大の競合製品は,顧客の内製MEA品となる。
② 市場導入に向けた戦略としては,顧客の FCV としての評価も進んでおり,課題が明確
になりつつある。これらの課題を一つ一つ解決していくことが肝要と考えている。そ
して,市場の立ち上がりに先立ち十分な品質,コスト,生産性を確保しておく必要が
あると考えている。
③ 市場導入に向けた課題としては,特にコスト面において,市場に受け入れられる価格
と導入初期の数量に基づく材料コストでは,かなりのギャップがあり,国からの補助
金拠出によってスムースな市場立ち上げを希望したい。
④ 製品としては,基本的に MEA で販売をしている。3層品(MEA)から開発を始め,
3層の性能を生かすために拡散層を含めた5層品にて展開してきているが,スタック
時のハンドリング性等を考えて,現状では7層品の開発も進めている。顧客へは 5 層
あるいは 7 層で提供している。基本的に材料の提供は行わない。
⑤ 開発費は別にして,今まではある程度ビジネスとして成立していたが,普及期の価格
に適合させていくために,非常に厳しい状況に置かれてきている。顧客からの要求価
格は,年毎に半減していかなければいけないイメージである。
(8) リサイクルについて
① MEA の白金触媒の回収率は 90 数%台である。そのため,100%に近づけるべく,検
討を行っている。
② イオン交換樹脂についてはリサイクルを行っていない。技術的には可能だと確認して
いるが,経済的に成り立つかどうかは別問題である。
-438-
3.
MEA 製法の動向について
① MEA の構成については,既に 3 層から 5 層,7 層へ移行してきており,各社とも開発
を進めている。当社においても,現在は標準的に 5 層品を展開し,7 層品のサンプル
ワークを開始している。
② 量産性については,各 MEA メーカとも量産機の導入を進めているという認識を持つ。
当社では,既に量産初期段階に入っており,ISO9000 の認証登録はもとより,顧客の
品質監査において,品質の保証を行ってきている。
4. FC 関連事業における他社との協力関係
① 材料メーカとは,強力な関係を構築しつつ,開発を推進していくのが基本スタンスで
ある。触媒や基材など世界中の材料メーカなどに間口を開いている。常に関係を持っ
ており,より強力な関係を構築して,開発を促進したいと考えている。
② カスタマーとは信頼関係がどこまで築けているかによって,ディスカッションの内容
の濃さも違う。データを開示してやれるような状態になっているところもある。
5. 国・行政機関などに対する要望事項
①
コストに関しては,市場がまだ立ち上がっていないのに,大量生産時の値段を要求さ
れる。定置用に国から補助金が出ているが,車を含めてもう少し補助を拡充してもら
えるとありがたい。
② 一般的に,自動車メーカに対してはもう少し情報をオープンにしてもらえればという
希望がある。
以上
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-440-
禁無断転載
平成17年度燃料電池自動車に関する調査報告書
平成18年3月
財団法人
日本自動車研究所
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