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CT検査における 血流速度と造影剤濃度

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CT検査における 血流速度と造影剤濃度
01
SECTION
撮影技術と性能評価の最新動向
CT検査における
血流速度と造影剤濃度
はじめに
辻岡勝美
藤田保健衛生大学衛生学部診療放射線技術学科
る。当院でも,以前から循環式血流
される。プール部は,人体で言えば肺
ファントムを用いて,造影剤注入時の
血管であり,そこに注入された造影剤
近年のマルチスライス CT 検査にお
濃度変化の研究を行ってきた。本稿で
は攪拌,希釈される。ポンプ部は心臓
いては,造影剤注入技術が重要であり,
はその中から,最近特に注目されてい
であり,大動脈部に希釈造影剤が排出
多くの研究結果が報告されている。大
る,血流速度と造影剤濃度の関係につ
される。大動脈部は,そのまま大静脈
部分は,臨床での造影剤注入,CT 値
いて紹介する。
部としてプール部に戻される。
解析の手法に関するものである。そこ
には,被検者に合わせた多くのパラ
メータが存在し,実際的で非常に有用
従来のファントムでは,大動脈部は
断面積が変化する
循環式血流ファントム
均一な断面積であったが,断面積と本
数を変更できるようにした。実際,本
である反面,研究を困難にしている面
図 1,2 に,われわれが試作した循
数が多い分岐血管部は,1 本 1 本の断
もある。そのため,個別のパラメータ
環式血流ファントムを示す。プール部,
面積は大動脈部より小さいが,総断面
を排除した基礎的な検討が重要であ
ポンプ部,大動脈部,大静脈部で構成
積は大動脈部より大きくなっている
プール部
大動脈部
分岐血管部
大静脈部
図1
ポンプ部
循環式血流ファントムの概要
ファントムは,ポンプ部と大動脈・大静脈のパイプ部分で構成されており,パイプの一部は
CT でスキャンできるようになっている。分岐血管部は 12 本のアクリル製円筒でできており,
血液の通過する本数を変更することができる。
大動脈部
大静脈部
分岐血管部
a : 分岐血管部
図2
b : 分岐血管部の構成
循環式血流ファントムの分岐血管部の構成
同一の位置で大動脈,大静脈,分岐血管部を測定可能とした。
INNERVISION(22・8)2007 別冊付録
3
01
CT検査における血流速度と造影剤濃度
表1
分岐血管部の断面積
分岐血管本数
[本]
12
10
08
06
大動脈部
[mm2]
530.7(1.0)
分岐血管部
[mm2]
大静脈部
[mm2]
1139.8(2.2)
949.9(1.8)
530.7(1.0)
759.9(1.4)
569.9(1.1)
大動脈
分岐血管
大静脈
小さい
大きい
小さい
血管
断面積
心臓
心臓
※( )内は断面積比
図3
分岐血管部の断面積
循環式血流ファントムの分岐血管部は,断面積,血管本数を変更可能であ
る。1 本 1 本の血管の断面積は大動脈部より小さいが,総断面積は大動脈
部より大きくなっている。
デジタルビデオカメラ
インジェクタ
濃いコーヒーを注入
図4
光学的測定法
実験では,従来の CT 装置や DSA 装置を使用
せず,工学的な方法を用いた。ファントム,
デジタルビデオカメラを図のように配置し,
造影剤の代わりに濃いコーヒーをインジェク
タにより血管ファントム内に注入した。その
後,デジタルビデオカメラの画像解析により,
造影剤濃度(コーヒー濃度),流速等を測定
した。
(表 1,図 3)。これは,実際の人体の
血管数と血管断面積の関係と同じで
造影効果維持時間の変化
図 5 は,ビデオカメラで撮影された
実際の CT 検査では,目的の造影効
コーヒー濃度の輝度の経時的変化であ
果がどれほどの時間維持されるかが重
光学的に行った。造影剤の代わりに濃
る。このデータから,血管の太さを変
要な問題となる。そこで,今回はビデ
度の濃いコーヒーを使用し(インジェ
化させたときの大動脈,分岐血管,大
オカメラの輝度に一定のしきい値を設
ある。
この実験では,CT装置は使用せず,
4
断面積による血流の変化
クタにて 20ml ・ 5ml/s 注入),ファン
静脈の血流速度を求めた。表 2 はその
け,その維持時間を大動脈,分岐血管,
トムの上方からビデオカメラで撮影し
結果,図 6 は分岐血管の総断面積(1 本
大静脈について比較した(図 7)。その
て,その輝度変化によって血流速度,
の断面積×本数)と血流速度の関係で
結果,大動脈,分岐血管では造影効果
造影剤濃度を推定した(図 4)。
ある。血管の総断面積が大きくなると,
維持時間は変わらなかったが,大静脈
血流速度が遅くなることがわかる。
(表 3)。
で造影効果維持時間が延長した
INNERVISION(22・8)2007 別冊付録
110
1.40s
1.60s
1.80s
2.00s
Grey Value(輝度)
100
90
2.20s
2.40s
2.60s
2.80s
3.00s
3.20s
3.40s
80
70
60
50
※0.20s間隔
40
0
5
10
15
20
25
図5
30
横軸がファントムの位置,縦軸がコーヒーの輝度である。
時間の経過とともに左から右にコーヒーが流れていく様子
がわかる。
距離[cm]
流速[cm/s]
表2
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
分岐血管
8
10
各部位の血流速度の測定結果
分岐血管本数
[本]
動脈部
[cm/s]
分岐血管部
[cm/s]
静脈部
[cm/s]
12
10
08
06
14.7
14.6
14.8
14.4
6.8
7.9
10.2
12.7
14.3
14.4
13.1
13.3
断面積の増大
6
コーヒー濃度の経時的輝度プロファイル
(分岐血管 12 本:動脈)
12
分岐血管本数[本]
図6
分岐血管本数と流速の関係
分岐血管の本数と流速の関係をグラフに表すと,分岐血管本
数の増加,すなわち断面積の増大に従って流速が遅くなって
いる。このグラフから,断面積と流速の間に反比例の関係が
成り立っていることがわかる。
表3
Grey Value(輝度)
220
これまでの実験結果を断面積,流速,単位時間あたりの流量,
造影効果維持時間についてまとめた。断面積が大きくなると流
速が遅くなるが,単位時間あたりの流量は,連続の式から一定
であった。造影効果維持時間は,断面積が大きくなった時点で
は変わらないが,次に断面積が小さくなった時点で延長するこ
とがわかった。
170
120
造影効果維持時間
大動脈部
分岐血管部
大静脈部
断面積
[mm2]
530.7
(1.0)
1139.8
(2.2)
530.7
(1.0)
流 速
[cm/s]
14.7
(2.2)
6.8
(1.0)
14.3
(2.1)
造影効果維持時間の算出
単位時間あたり
の流量[ml /s]
78.0
77.5
75.9
コーヒーの濃度,流速に加えて,コーヒーの濃度がどれだけの時間維持す
るかについても検討した。一定のしきい値を維持している時間を「造影効
果維持時間」とした。
造影効果維持
時間[s]
15.8
(1.00)
16.1
(1.02)
27.5
(1.74)
70
20
--30
0
10
20
30
40
50
60
Time[s]
図7
分岐血管 12 本についての各評価項目結果
※( )は比率を表示
INNERVISION(22・8)2007 別冊付録
5
01
CT検査における血流速度と造影剤濃度
600
大動脈
500
分岐血管
大静脈
CT値[HU]
400
300
200
100
0
--100
10
0
20
30
40
50
Time[s]
図8
CT装置による時間CT 値曲線(TDC)
光学的測定法の結果を,CT装置と造影剤を用いて作成したTime Density Curve(TDC)
と比較してみても,ほぼ同じような結果が得られた。
連続の式
Q=S・v (= 一定)
Q:単位時間あたりの流量[cm3/s(ml /s)]
S:断面積[cm2] v:流速[cm/s]
連続の式から
血流速度は通過断面積に反比例する。
図9
断面積(血管径)が大きい
流速(血流速度)が 遅い
断面積(血管径)が小さい
流速(血流速度)が 速い
連続の式
血流速度(流速)を考える上で,重要となるのは「連続の式」である。連続の式と
は,単位時間で流れる液体の量は断面積と流速の積となる,というものである。これ
により,血流速度は通過する断面積に反比例し,断面積が大きいと流速は遅く,断面
積が小さいと流速は速くなる。このときの断面積とは,血管1本1本の断面積ではな
く,総断面積である。今回の実験では,拍動性は考慮せず,血流を定常流として考えた。
① 血管径(断面積)が大きくなると,
CT を用いた実験
最後に,実際の CT 装置を用いて本
6
流体における連続の式
血流速度は遅くなる。これは,1 本
1 本が細い場合でも,総断面積が大
今回の実験で,造影 CT 検査におい
きくなれば起こる。断面積が再度
ファントムの実験を行った。大動脈と
ては,流体における「連続の式」が重要
小さくなれば,血流速度は再び速
分岐血管の造影効果維持時間はほぼ同
(図 9)。
になっていることが確認できた
くなる(図 10)。
じであるが,大静脈では延長した。ま
単位時間あたりの流量は断面積と流速
た,CT値は大動脈で高く,分岐血管,
の積であり,断面積が大きいと流速は
造影剤は希釈され,血中造影剤濃
大静脈では低くなった。これは,コー
遅く,断面積が小さいと流速は速い。こ
度は低くなる。これは,1 本 1 本の
ヒーを用いて光学的に計測した結果に
のため,造影剤を注入する CT 検査で
血管径(断面積)が小さい場合で
似ていた(図 8)。
は以下の2つにまとめることができる。
も,総断面積が大きくなれば起こ
INNERVISION(22・8)2007 別冊付録
② 血管径(断面積)が大きくなると,
速い
速い
遅い
図 10
血管径の太さ(断面積)による血流速度の変化
血管径(断面積)が大きくなると,血流速度は遅くなる。これは 1本1本の血管径
が細い場合でも,総断面積が大きくなれば起こることである。また,断面積が小さ
くなれば,血流速度は再び速くなる。
高濃度
低濃度
低濃度
造影効果維持時間が延長
図 11
血管径の太さ(断面積)による血中造影剤濃度の変化
血管径(断面積)が大きくなると,造影剤は希釈され,血中造影剤濃度は低くな
る。これは,1 本 1 本の血管径(断面積)が小さい場合でも,総断面積が大きくな
れば起こることである。断面積が再度小さくなっても,造影剤濃度は上がることは
なく,造影効果維持時間が延長する。
断面積:小→血流速度が速く,
造影剤濃度が高い
断面積:大→血流速度が遅く,
造影剤濃度が低い
図 12
血管の総断面積と造影剤濃度の関係
実際の血管形状は左のようだが,総断面積で考えれば右のようになり,末梢に近づ
くに従って血流速度が遅くなり,血管内の造影剤濃度は低下する。
る。また,断面積が再度小さく
1 本 1 本の血管径が細くなっても,全
うことになる(図 12)。このように,
なっても,造影剤濃度は上がるこ
体の断面積が大きくなれば血流速度は
造影 CT 検査の画像評価では,血管の
とはなく,造影効果維持時間が延
遅くなり,造影剤濃度は低下する。こ
微細さだけでなく,血流の原則「連続
長する(図 11)。
のことは,例えば,従来の分解能評価
の式」から求められる造影効果の低下
では,「血管が細いから識別できない」
についても考慮する必要がある。そし
という言い方をされていたが,実際に
て,より良い造影 CT 検査を行うため
は「血管が細く,さらに造影剤濃度が
には,目的部位に高い造影剤濃度を与
低下しているため識別できない」とい
える造影技術が重要となってくる。
造影CTにおける
末梢血管の識別能
前述のように,造影 CT 検査では,
INNERVISION(22・8)2007 別冊付録
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