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我が家の息子は、養護学校に通う小学三年生。九才になった今も知能は

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我が家の息子は、養護学校に通う小学三年生。九才になった今も知能は
我が家の息子は、養護学校に通う小学三年生。九才になった今も知能は、一才代。
自閉症とは、脳の中枢神経の障害で治ることがないと言われている。
私たちは、二年前この家に引っ越すまで、ずっとアパート住まいをしてきた。多
動な息子は、余程具合の悪い時と寝ている時以外は、ずっと動いている。夜も寝る
寸前まで激しい動きを怠らない。もう少し広い所に。気兼ねのない所に住みたい。
そんな時、新聞に「中古住宅。築二十五年。」の文字。早速、電話をすると歩いて
いける距離にある。変化の苦手な息子には、なるべくなら環境のあまり変わらない
所はありがたい。中古住宅とはいえ、家を買うと言うのは、たくさんのお金とエネ
ルギーと思い切りと諦めも必要な人生の中の大事業。
「よし。決めた!」主人の一言。
そして『ボクのおうち大作戦』は、始まった。設計士によると耐震補強が必要な家
だという。まずは、耐震。柱、壁。補強することで、大地震の際、この家は、ある
程度の空間を残して潰れ、私たちの命を守る。次に設計士に自分たちの要望をたく
さんぶつけていく。息子は、危険がわからない。トイレにこだわりがある。とにか
く多動。逃げ出す。お風呂が大好き。など。実際に息子を何度も設計士に見せて一
緒に『自閉症児用リフォームの家』を考えていく。
一階。台所を全面改装。息子が逃げ出すのを防ぐ為、憧れの対面キッチンに。息
子の行動が料理しながらも、ばっちり監視出来る。洗濯機を家の中に。今までは外
に洗濯機を置く配置。これでは、洗濯している間に逃げてしまう。ぽろぽろと落ち
てきている砂壁は、帆立貝やもみ殻から出来ている天然素材の呼吸する壁、体に優
しいチャフウォールを上から塗ることに。シックハウス症候群とは無縁の健康住宅
に変身。アトピーの息子にもばっちりだ。玄関を引き戸から、ドアに。耐力壁との
絡みと、鍵の開け閉めというほんの短い時間にも逃げ出す息子対策の為、鍵なしで
開け閉めが出来るタイプのドアに変更。もちろん中からは、三重ロック。これでな
かなか出られないぞ。居間は、息子が窓から窓へと行ったり来たり、それも窓を思
いきり叩いて走る為、窓保護用の木のバーを取り付ける。お風呂は、唯一の彼の楽
しみ。お風呂場に出窓を付けて少しでも広く感じるように。問題は、トイレ。息子
が入る事の出来るトイレを研究してみると、全体が明るい。便器の色は、アイボリ
ーがベスト。一階のトイレは、以前住んでいた方が和式を洋式にリフォームしてあ
るのだが、壁の色は砂壁と暗く床のタイルが群青色と濃い。息子をそのトイレの前
に立たせるが、腰を引いてしまって絶対に入らない。なんとか明るい雰囲気にした
い。壁をチャフウォールの帆立貝。真っ白に。果たして入ってくれるだろうか。
二階に続く階段。急な階段の為、一階トイレにあった手すりを移動。そして二階。
危険のまだわからない息子は、本当に恐ろしいことを平気でする。窓際に腰掛けて
頭を左右に振って体ごと乗り出す。これではいつ落ちても仕方がない。転落防止の
鉄格子を二階の窓全体に取り付ける。御近所の御主人に「こんなうち見たことがな
い。何か飼うんですか。」と。「ええ。まあ。」(似たようなものだ。)でもこれで、二
階の窓が安心して開けられる。二階に息子の入れる仕様のトイレを作る。ベランダ
も気に入ってくれたが、油断したら息子は、隙間を抜けて屋根の上を歩いていた。
これも危険だ。網を張って隙間を無くそう。外壁のトタンの色は、家族会議の上、
決定。各人の好きな色を入れることに。私は、黄色。主人は、緑。当時四才の娘は、
ピンク。息子は、チョコレート色。(本当に好きな色かは疑問だが。
)
七月の終わりから本格的に工事が始まった。夏休みということもあり、毎日私た
ちは、息子を現場へ連れて行った。「もうすぐここに住むんだよ。」八月の終わり、
台風が来た。なんと雨漏り発生。住む前でよかった。その後、全てのチェックが終
了。
いよいよ引っ越しだ。引っ越し準備、当日、片付けと息子をショートスティに託
した。天気も良好。さあ頑張るぞー。無事引っ越しが済んでも、実際、息子がどう
いう反応をするかがとても不安だった。
初日、やはり二階のトイレも入れない。庭でおしっこをする。二日目、二階のト
イレでおしっこが出来る。三日目、怖々ながらもウンチも成功。やったー。一階の
トイレも二ヶ月間掛かってやっと入れるようになった。そうしてだんだんと息子は、
新しい空間にも慣れていったのだ。
あれから二年。新築の家ではないけれど、やはり自分の家はいいものだ。この家
になってから、恥ずかしながら、私もあまり息子を叱らなくて済むようになったし、
家族ひとりひとりの笑顔が増えた気がする。「休日ずっと家にいるのも楽しいね。」
家族みんながそんな気持ちになるって素敵なこと。毎日、毎年いろんな事が起こる
けれど、この家のお陰で私は、助けられている。ありがとう。
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