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ソーラーナンシー

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ソーラーナンシー
コーズリレーテッドマーケティングによる
脱コモディティ化
①―――はじめに
の意識が高まっており、企業では CSR を意識し、
②―――現状分析
環境対策、法令順守、人権配慮、消費者対応など
③―――研究テーマ絞り込み
に取り組もうという動きが広がり、専門部署を設
④―――仮説導出
置する動きも見られる。さらに、世界中で活動し
⑤―――検証
ている NGO 団体はその活動資金を得るために常に
⑥―――提案
奔走している。消費者・企業・NGO 団体、三者が
⑦―――今後の展望、課題
Win-Win の関係となるこの形にこそ差別化が困難
⑧―――参考文献
である非耐久財という分野での「日本活性化」へ
の手掛かりがあると考え、これを切り口に本研究
佐藤貴士
木村優里
を進めていくこととした。以上を踏まえ、本論は
友成幸宏
中屋敷華
「コーズリレーテッドマーケティングによる、脱
三浦高志郎
橋本英沙
コモディティ化を果たす」ことを目的とした。
山本梨沙
本論は以下のように構成される。まず、第 2 章で企
業を取り巻く現状を「脱コモディティ化」「社会との
学習院大学上田隆穂ゼミ非耐久財班
共存」の 2 点から検討する。第 4 章でアンケートを行
①―――はじめに
い、仮説を導出する。第 5 章では、導出した仮説の検
証に移る。具体的には、消費者をセグメント分けし、
リーマン・ショックに始まった世界的大不況の波
コンジョイント分析により消費者の属性別重要度を
は私たちの生活に大きな影響を与えた。消費者は
明らかにした上で、各々の特徴を比較した。これらを
購買に慎重になり、モノは売れなくなり、新しい
元に、第 6 章では経験価値の枠組みにあてはめて新提
ビジネスチャンスは見出しにくくなった。消費者
案を行う。
は低価格を求め、企業は値下げ競争を余儀なくさ
また、私達は 10 ゼミ討論会のテーマ「未来に向
れコモディティ化の進行は止まらない。それを回
けた日本活性化」より、
「次世代を担う若年層を研
避するため企業は付加価値の付与や多機能化など
究対象にする」と定義する。
によって差別化を図ろうとするが、日用品に代表
②―――現状分析
される非耐久財では低価格志向が顕著に現れるた
め、差別化は容易ではない。このような現状を打
1.消費財市場の現状
破し、
「未来に向けた日本活性化」のためには何が
必要か。私たちは新しい販売促進戦略の形の一つ
である「コーズリレーテッドマーケティング」に
私達がテーマとしている消費財市場では、昨今
注目した。近年、消費者は環境活動や社会貢献へ
生産技術の向上と平準化により差別化を図っても
1
すぐに模倣されることが多く、製品の均質化が起
く国外にも広げる必要性がある。また、インター
こっている。また、その様な製品を差別化するた
ネットの普及により企業の活動は国内に限らずグ
めに各社競うように低価格戦略をとった結果、物
ローバルな規模で展開され監視されている。この
価が下がり続ける悪循環は止まらず「デフレーシ
様に企業活動そのものが全世界を舞台にするよう
ョン」が続いている。このような問題点は、一般
になり、社会に与える影響力も大きくなってきて
的に「コモディティ化」という言葉で定義される。
いる。二点目に、
「環境問題」が挙げられる。地球
コモディティ化とは、ある商品カテゴリーにおい
温暖化の原因となる温室効果ガスの削減が各国の
て競争商品間の差別化特性(機能、品質、ブラン
重要な政策課題となっていることに示されるよう
ド力など)が失われ、主に「価格」を判断基準に
に、地球環境を中心とする環境問題は以前にも増
売買が行われるようになることをいう。コモディ
して全世界的に大きな注目を集めており、環境問
ティ化を起こしやすい製品群は一般的に消費者に
題への取り組みを含んでいる企業は経営方針その
とって日用品などの生活に不可欠な製品が多く、
ものが付加価値と捉えられている。3点目に、
「消
いかなるメーカーの製品でも必要を満たせば製造
費者の価値観の多様化」が挙げられる。かつての
元については細かく問われない。また、技術の向
“良い企業”という評価はもはや既存のものでは
上による過剰品質が、消費者の求める水準以上に
なくなり、商品の価格が多尐高価であっても企業
なってしまうケースが多々見られ、開発コストに
理念やコンセプトを重視してその商品を選ぶ消費
見合う対価を払ってもらえない。
(表1)
者も出てきている。この様な外的要因以外にも、
■表―――1
この頃多方面から伝わってくる企業の無責任な行
動に対して企業の社会的責任の実現を求める動き
コモディティ化
が強まっている。また、不祥事をきっかけにして
企業の姿勢を問うと共にその対応を新しい企業の
需要側要因
大
評価基準にしようとしている社会の動きにも関心
コモディティ化
が集まっている。この様なことから、ビジネスは
①過剰品質へ
の消費者の反
応
もはや企業と消費者だけで成り立つものではなく、
差別化さ
れた状態
「社会との共存」が求められているといえる。
供給側要因
小
②差別化シーズの
頭打ち
大
3.消費財市場の現状に対する解決策
(池尾他[2010]『マーケティング』
)
池尾・青木・南・井上[2010]によると、第 1 節
2.企業を取り巻く環境の現状
で挙げた「コモディティ化」から脱する為には、
「製
品開発において価格、性能、品質といった目に見
次に、二十一世紀という激動の時代において急
える機能的価値以外へも顧客価値を広げていく努
速に変化を遂げる、企業をとりまく環境の現状に
力が必要である。
」としている。そこで、このコモ
注目してみよう。まず一点目に、
「企業のグローバ
ディティ化に悩まされている業界の一つである、
ル化」が挙げられる。尐子高齢化により国内市場
家電業界で脱コモディティ化に成功した事例を取
が縮小傾向にある今、企業は市場を国内だけでな
り上げてみる。パナソニックが 2006 年に発表した
2
「子育て家電」は、子育て中の母親をターゲット
値の様な可視性の低い価値次元で差別化していく
として想定し、家事負担を軽減し時間をプレゼン
ことが重要なのである。顧客が製品に対して求め
トする家電としてネーミングされたものである。
る価値は決して一つではなく、通常であれば一つ
「親子の一日を、ほんの尐し長くする新・子育て
の製品に対して複数の価値が求められ、そしてま
家電」というコンセプトを打ち出すことで成功し
たそれらの価値は同列・同等ではなく構造的特徴
た。現在では清潔(空気洗浄機、掃除機)・家事の軽
が存在する。すなわち、基本的価値や機能的価値
減(ななめドラム式洗濯乾燥機)・食育(オーブンレン
が満たされてこそ情緒的価値や自己表現価値なの
ジ、みきさー、圧力鍋)
・スキンシップ(電動歯ブラシ、
であり、そこには階層的な構造が存在している。
ヘアカッター)という 4 つの商品領域にまで拡がっ
上述の子育て家電の食洗器にこのブランド価値階
ている。
(表 2)このプロジェクトの成功要因は、製
層構造をあてはめてみると、
「汚れた食器を綺麗に
品の機能的特徴を単純に訴求するのではなく常に
するための基本的機能」が基本的価値であり、
「経
「子育て家電」という付加価値と結びつけ、ブラ
済性や家事負担を軽減させる利便性」が機能的価
ンドにマッチした世界観を作り上げた点にある。
値である。それらを前提としつつ差別化に用いら
上述のように、脱コモディティ化の切り口として
れているのが、「母親の満足感や気持ちのゆとり」
「感性に訴えかけるコンセプト」といった目に見
による情緒価値であり、時間的余裕から生まれる
えない機能的価値以外の顧客価値によって差別化
「明るく前向きな生活の実現」といった自己表現
を図ることは可能だと実証されている。では、次
価値であることがわかる。ここで、本研究では基
にこの事例をブランド価値階層構造にあてはめて
本的価値によって、差別化が困難である消費財の
考えてみる。
(表 3)ブランド価値階層構造とは、製
領域において「コモディティ化」を脱するために
品が顧客に対してもたらす価値を、基本的価値や
は、機能的価値以外の次元で差別化を図り、消費
機能的価値といった「製品力の部分である下部二
者に高価格でも需要させる必要があるとわかる。
つの価値」と情緒価値や自己表現価値といった「ブ
■表―――2
ランド価値の部分である上部の二つの価値」に区
分して考える方法である。下部にある基本的価値
子育て家電
コンセプト
や機能的価値は、多くの場合製品の機能的属性に
由来しているため客観的基準での評価・優务判断
が可能であり、次元的に可視性が高いといえる。
一方で情緒価値や自己表現価値は、そもそもの製
品属性の裏づけがあっても客観的評価基準が存在
しない、あるいは製品属性の裏づけがなく優务判
断になじまないものが多く、可視性が低いといえ
る。そして、市場競争の中で製品やサービスの価
値次元の可視性が徐々に高まると「価格」という
最も可視的な次元に一元化された状況、つまり「コ
パナソニックホームページより
モディティ化」が起こるといえる。故に、脱コモ
ディティ化を図るためには情緒価値や自己表現価
3
■表―――3
り組む必要があり、表 4 より、CSR に対する取り組
みが年々高まっていることがわかる。
ブランド価値階層構造
■表―――4
CSR 報告書作成数の増加推移
(和田[2002]ブランド価値共創)
4.企業を取り巻く環境の現状に対する解決策
(環境省ホームページ)
5.消費財市場と企業両者の現状に対する解決
第 2 節で挙げた「社会との共存」を果たす為に
策
は、近年数多くの企業が様々な活動を行っている
CSR(企業の社会的責任)に注目したい。CSRに
は明確な定義というものはなく、国や地域によっ
そこで私達は、第 3 節で挙げた「脱コモディテ
ても違いが見られるが、青木・池尾・南・井上[2010]
ィ化」を図るための解決策である「感性的価値へ
によると、
「企業は自己の営利のみを追求すること
の訴求」と第 4 項で挙げた「社会との共存」を果
は許されず、自社の活動や製品が、環境に対して
たすための解決策である「CSR」をキーワード
負荷を与えたり、あるいは地域社会の雇用状況を
とし、それら二つのどちらも満たすものとして「コ
変化させたり、消費者の健康状態に影響を与えた
ーズリレーテッドマーケティング」に着目した。
りするという可能性を常に自覚し、そのことに対
して責任を持つことが求められている。」を指す。
③―――研究テーマ絞り込み
具体的には、製品やサービスの提供、雇用の創出、
情報の公開、納税による金銭的な貢献、メセナ活
1.コーズリレーテッドマーケティング
動を通じた文化・、フィランソロピー、環境保護
活動、省エネ等が挙げられる。企業が現在抱えて
いる「社会との共存」という課題を果たすために
(1)説明
は、企業と消費者と社会の三者が共に手をとりあ
コーズリレーテッドマーケティング(CSR)と
って共存共栄していけるよう、これらの活動に取
は、コーズ(Cause=大義、目標、理想、よきこと)
4
を全面に出したマーケティング活動のことである。
ティング手法として一層展開されていく可能性が
Kotoler[2008]は「企業が製品の売上げや取引に応
ある。
じて、得られた利益の一定割合を何らかの組織に
寄付すること」で、「時間的限定で、特定製品を
(2)増加の背景
対象に、特定のコーズ」と共に行うマーケティン
近年、コーズリレーテッドマーケティングが注
グであると定義している。コーズリレーテッドマ
目されるようになったのは、1つには前述のように
ーケティングは「社会問題解決型マーケティング」、
世界的な大不況が背景にある。新しいビジネスチ
あるいは「ソーシャル・マーケティング」の新し
ャンスが見出しにくい中、社会貢献をビジネスに
い形とも言われている。ソーシャル・マーケティ
取り込むことで、販売増とブランドイメージの向
ングは社会的課題解決に基本的な軸足を置いて取
上につなげることができるマーケティングとして
り組むマーケティングとされているが、コーズ・
認識されるようになっている。他方、NGO 側も不
マーケティングは利益獲得(販売増)を中心目的と
況により寄付の減尐に直面しているが、コーズリ
しているところ、あるいは貢献の水準が製品の売
レーテッドマーケティングによって資金源の多様
上と結びついている点が特徴となっている1。コー
化と安定的獲得が可能となると共に、NGO 自体(団
ズリレーテッドマーケティングの事例は実に多様
体)やNGO が実施する特定プロジェクトについて、
であるが(主なものは後述)、Kotolerは理想的なの
その課題などの認知度の向上が期待できる。また、
は「マス・マーケット向けに大量の潜在顧客を保
企業にとってはコーズリレーテッドマーケティン
有し、流通チャネルに幅広く展開している製品を
グによって、消費者意識の変化への対応が可能と
扱う企業」(金融、消費財、航空産業、通信分野)が
なる。近年、社会とつながっていたい、社会に対
行うケースだと述べている。コーズリレーテッド
して何らかの貢献をしたいという「ソーシャル消
マーケティングは、社会的課題への取り組みをテ
費」への意識の高まりがみられるようになった。
ーマとして販売促進活動を行い、その売上額の所
コーズリレーテッドマーケティングによって、コ
定比率をNGO に「寄付」しようとするものである。
ーズに共感する人、あるいは社会的課題に関心あ
収益からの「寄付」という点で、従来型のマーケ
る新しい消費者を取り込むことができる。さらに
ティングと同様と考えられるが、自社の本業であ
それほど意識は高くなくとも、商品選択の際に「よ
る製品に対して寄付システムを組み込むという点
りよきことをする企業」の商品の方を選択させる
で、本業(経営システム)として取り組んでいる
プッシュ要因として機能することが期待できる。
ということが言えよう。その意味で、コーズリレ
そのような消費者が増えてきていることは近年多
ーテッドマーケティングはCSRの一環であると考
くのマーケティング調査機関から報告されている。
えられると同時に、消費者にとって日々の消費行
もう1つ上げれば、企業のCSRへの取り組みへの浸
動を通じて無理なく社会貢献を行う1つの手法と
透があると考えられる。企業はそのマーケティン
して、今後企業によってますます取り入れられ、
グ力を社会的課題解決のために使うこともできる
社会に浸透していく可能性が見込める。さらに、
はずである。通常、コーズリレーテッドマーケテ
CSR の観点からも「本業」を通じた戦略的な取り
ィングでは、NGO などの社会的課題の解決に取り
組みとして、また企業・消費者・NGOなど多くのス
組んでいる団体と企業がパートナーシップ(協働関
テークホルダーを巻き込む形での効果的なマーケ
係)を組んで取り組む。企業はそのNGO の活動(あ
5
るいはそのNGO の特定のプロジェクトやキャンペーン)
業は新しい顧客を獲得できる。またニッチ市場へ
を企業ぐるみで支援することを決定し、売上に応
の展開が可能となる。特に「コーズ」に共感する
じた一定比率(商品・サービス価格の一定金額)の寄
人々の市場という新たなセグメントに食い込むこ
付を約束し、それをマーケティングとして本格的
とができる。
にアピールする。コーズリレーテッドマーケティ
ⅳ.ステークホルダー効果――
ングは、その点で社会的問題の解決のために企業
顧客を超えて社会全体、より広がりのあるステー
がもっているマーケティング力を活かし、売上や
クホルダーへのメッセージ性をもつことで、ステ
ブランドの向上も同時に目指す手法である。つま
ークホルダーからの評価が期待でき、また実際に
り、「企業の利益追求」と「CSRへの取り組み」と
顧客とのコミュニケーションにも大きくかつ良い
のバランスを図った1つの経営手法としてコーズ
影響を与えうる。
リレーテッドマーケティングは位置付けられうる
ⅴ.CSR効果――
ともいえよう。運動を推進するNGO団体、運動
コーズリレーテッドマーケティングはCSRと事業
を支援する企業、そして商品を購入するソーシャ
成果との両立を図ることができることによって、
ル消費者の3者がそれぞれメリットを受けるマー
マーケティング部門とCSR部門(組織)との協調が
ケティングの仕組みとなっているのである。では
発生する。コーズリレーテッドマーケティングは
具体的にどのようなメリットがもたらされている
営業部門や企画部門などの事業最前線の部門がイ
のだろうか?
ニシアチブをとって行う。そのためCSR経営に対し
て必ずしも協調的でなかったマーケティング部門
(3)メリット・効果
とCSR 推進担当部門との連携が可能となり、全社
Ⅰ.企業にとってのメリット(長坂[2010])
的にCSR経営への理解が進む可能性がある。
ⅰ.販売促進効果――
ⅵ.従業員効果――
社会性あるメッセージを付与することで、製品の
従業員の会社に対するロイヤリティの向上が期待
差別化が起き、消費者の購買意欲を後押しするこ
できる。また、有能な人材の採用が可能となる。
とによって、売上増加、収益増が期待できる。
ⅶ.NGO資産の活用効果――
ⅱ.ブランディング効果――
企業はNGOとの協働関係を通じて、そのNGOがもつ
CSR意識の高い企業であるという好ましい企業
資源(実践力・現場力・情報力・会員力)を活用でき、
イメージ(ブランド・アイデンティティ)の構築に大
またそのNGO の支援者を自社の味方につけること
いに役立つ。コーズリレーテッドマーケティング
ができる。
の対象となる商品・サービスやその広報媒体に、
Ⅷ.NGO とのネットワーク効果――
社会貢献に取り組む企業理念、社会的メッセージ、
問題解決を目指す公共セクターともマーケットを
さらに活動内容についての説明などを付与するこ
通じて繋がることができる。
とで、企業価値および商品の社会的ブランド価値
ⅸ.モニタリング効果――
を高めることができる。企業自身が商品を通じて
コーズリレーテッドマーケティングプロジェクト
顧客に新しい価値を提供することにもなる。
はNGOと協働することでNGOによるモニタリングを
ⅲ.市場開拓効果――
受けることになり、プロジェクトの透明性・互恵
コーズリレーテッドマーケティングによって、企
性・公正性が担保されうる。コーズリレーテッド
6
マーケティングにおいて透明性は特に重要である
このような点から、コーズリレーテッドマーケテ
(企業はグリーンウォッシング的活動や戦略と繋がりの
ィングはNGOにとっては、コーズに必要な資金を募
ない単発的な取り組みはコーズリレーテッドマーケティ
る適切な戦略の一つとなりうる可能性があると言
ングにおいてすべきではない)
える。
Ⅱ.NGOにとってのメリット(長坂[2010])
(4)事例研究
ⅰ.金源の多様化・安定化――
Ⅰ.ボルヴィック「1L for 10L」プログラム
NGOにとって活動の展開のためには収入の安定化
日本でコーズリレーテッドマーケティングが注
と収入源の多様化は欠かせない。その点でコーズ
目を集めるきっかけとなったのは、フランスのナ
リレーテッドマーケティングはNGO にとって安定
チュラルミネラルウォーター企業として知られる
的な収入を得るための重要な企業パートナーシッ
ボルヴィックによる飲料水キャンペーンである。
プ(協働)の形態のひとつであると言える。
売上1 リットルにつき10リットルの水をアフリカ
Ⅱ.寄付の上乗せ・従業員の協力――
の井戸の開発によって供給できるよう、また10年
コーズリレーテッドマーケティングによって企業
間のメンテナンスを行うことを目標に、売上の一
との繋がりが強くなることを通して、当該企業の
部をユニセフに寄付するというプログラムである。
社員のボランティア参加や個人寄付、寄付の上乗
まず2005 年にドイツでスタート(エチオピア向け)、
せ(社員の寄付に対するマッチングギフト制度を導入し
2006 年にフランスでも展開(ニジェール向け)、2007
ている場合)が可能となる。
年に日本でマリ共和国支援として実施された。こ
ⅲ.知名度・認知度の向上――
のキャンペーンによって、ボルヴィックはマーケ
信頼できる企業との共同広報 (宣伝等)を通して、
ットシェアを前年比の倍以上に伸ばし、クリスタ
NGO 自体の知名度と共にその解決されるべき社会
ルガイザーを抜いて、トップシェアに躍り出た。
的課題(コーズ)と、その取り組みキャンペーンの
こうしたCSR 的キャンペーンは持続的であること
認知度も大きく向上する可能性をもつ。コーズが
が重要である。ボルヴィクの活動はその後も期間
広報され、そのコーズの意味・問題・実態を多く
限定を繰り返しながら未だに続いている。同社は
の人が知ることになり、コーズリレーテッドマー
最終目標を10年間としている。日本でも昨年に引
ケティングから得た資金によってより広く深くコ
き続き、2010年6月~8月末日まで、マリ共和国を
ーズへの対応(投資)が可能となる。
対象に「1L for 10L」プログラムを実施している。
ⅳ.信頼性の向上――
アフリカなど開発途上国では、依然として清潔な
NGO にとっては信頼ある企業と組むことによって
水を得られない人々が多い。飢餓で死ぬ人は実は
一般の人々からの信頼も一層増すことになる。企
極めて尐ない。実状は飢餓による栄養失調の状態
業とパートナーを組むことによって、NGO の活動
で、衛生的な水がないため汚い水からの伝染によ
の達成度を拡大させることができる。
り下痢や風土病などにかかり多くの人々が死んで
ⅴ.対等な協働関係へ――
いくのである。清潔な水が得られないことによる
企業との関係を一時的な関係から長期的・戦略的
子どもの死亡率は特に高い。すべての人が清潔な
関係へと、真の意味で対等な協働関係へ移行でき
水にアクセスできることこそ、最も重要な人間の
る可能性がある。
生活基盤なのである。ボルヴィックのこのコーズ
7
リレーテッドマーケティングによって、「これま
イレ建設と、5つの学校のトイレと給水設備の建
での3年間の取り組みから、24億6273万リットルの
設・修復を通じて、子どもとその家族の命と健康
支援が実現することになった。この量で約6万5363
を守ることを目指す活動を行う。2008年は7~10月
人がこれまでよりも衛生的な生活を送れるように
までの4カ月間、09年は9~12月の4カ月間をキャン
なった」という。さらに、このプログラムの展開
ペーン期間として展開した。3年目となる2010年は、
を通して、水の問題の重要性を広く発信すること
9月1日から12月31日の4カ月間である。このキャン
ができ、多くの人々の関心と共感を呼ぶことがで
ペーンの実施で同社の国内シェアは3位からトッ
きた。ボルヴィックによるユニセフへのこれまで
プへ上昇したうえ、キャンペーンの導入にあたっ
の支援により、手押しポンプ付の深井戸43基が新
て取引先からはとても良い反応があったという。
設されたほか、故障していた井戸100基が修復され、
以上のボルヴィック「1L for 10L」プログラム、
人口が多い村にはソーラーパネルを利用して水を
王子ネピア「千のトイレプロジェクト」の事例は
くみ上げる給水設備が1施設作られた。また、支援
共に、製品に改良を加えているわけではないため、
地域の修理工に井戸のメンテナンス法を指導する
機能的価値次元以外での差別化の成功により売上
など継続して井戸を利用できるような支援が行わ
増加を果たしていると言える。
れている。さらに、「2009年の支援により、深井
戸5基を新設、ソーラーパネルを利用した給水設備
④―――仮説導出
を5箇所で建設、6基の手押しポンプが修復されて
いる」(ユニセフHP)という。
1.日用品ブランドでの機能的価値以外での差別化
Ⅱ.王子ネピア「千のトイレプロジェクト」
の事例
トイレットペーパーメーカーの王子製紙の子会
前章では、コーズリレーテッドマーケティング
社、王子ネピアは、東ティモールに1000の家庭に
が、機能的価値以外の次元での差別化に成功し、
トイレを作るキャンペーンを2008 年から実施し
売上を伸ばした事例を述べた。日用品ブランドで
ている。名づけて「千のトイレプロジェクト」。
も、機能的価値以外、すなわち自己表現価値次元
国内で2007年より、日本トイレ協会と協働で「う
での訴求が可能ということを示した例として花王
んち教室」(学校トイレ出前教室)を実施しており、
のクイックルワイパーを挙げることができる。ク
子どもたちにいいうんちをして健康な身体をつく
イックルワイパーとは、本体部分に取り替え式の
ろうという健康教室を小学校で始めていたが、こ
立体凸凹シートを装着し簡単に掃除ができる、掃
の活動を通して、世界で毎年150万人もの子どもが
除機代わりの掃除用具である。成熟化市場におけ
トイレと水の問題で亡くなっているという現実を
る日用品ブランドの場合、機能的価値の次元での
知ったことから開始した。プロジェクトの内容は、
差別化はすでに困難であるが、情緒的価値・自己
毎年一定のキャンペーン期間を設け、期間中の売
表現価値を訴求することで、「製品自体の価値」
上(対象商品のティッシュ、トイレットロール)の一部
ではなく、「消費すること」によって価値が生ま
をネピアからユニセフの「水と衛生に関する支援
れ、差別化を可能にすることができる。(青木・池
活動」へ寄付しサポートするものである。この寄
尾・南・井上[2010])
付金でユニセフは東ティモールに1000の家庭のト
例えば、赤ちゃんのいる若い主婦にとっては以
8
下のような価値が存在する。(陶山・梅本[2000])
この例では、基本価値は同様に「拭き掃除機能」
「自分は家事と子育てに忙殺される毎日を送って
であるが、機能的価値は「軽くて操作が簡単」、
いた。せめて赤ちゃんが寝ている間は、ササッと
情緒的価値は「達成感」、そして自己表現価値は
掃除をすませて、一息つきたいが、掃除機の音で
「家族の一員としての生きる喜び」となる。身体
目を覚ましてしまうと思うとそれもできないでい
の弱い老人をターゲットとすれば、上記のような
た。ところが、『クイックルワイパー』を使えば
価値を訴求していくことが効果的かもしれない。
音を立てないので、赤ちゃんのことを気遣う必要
以上の事例より、情緒的価値や自己表現価値は、
もなく、いつでも簡単に掃除ができる。驚くほど
消費者によってそれぞれの価値内容が異なってい
にゴミやホコリがとれるだけでなく、それまで20
ることがわかった。和田[2002]によると、
「基本価
分かかっていた部屋の掃除が5~6分でできるので、
値・便宜価値の価値基準は一元的である。(中略)
残りの時間で新聞を読んだり、テレビを見たり、
一方で、感覚価値や観念価値にあっては、その価
尐しは自分自身の時間を持つ余裕ができた。おか
値基準は多元的である。感覚や観念にあっては、
げで、今まで閉じこもりがちであった気持ちが明
万人が認める絶対的な価値水準は存在せず、消費
るく開けて、前向きな生活が送れるようになった」。
者集団内にあってのみ判断基準は一元的である。
この例から、基本価値は「拭き掃除機能」、機
したがって、感覚価値や観念価値評価のレベルを
能的価値は「静か、手軽、高い掃除能力、時間短
判定する単位はセグメントであり、全体的ではあ
縮」、情緒的価値は「安堵感、ゆとり」であり、
り得ないのである。
」としている。
自己表現価値は「明るく、前向きな生活の実現」
以上の事例と文献より、何を自己表現価値と感
である。このように赤ちゃんのいる世帯のセグメ
じるかを知る為には、消費者をセグメント化する
ントでは、これらの価値伝達がマーケティング・
ことが必要ということがうかがえる。
コミュニケーション上、重要となる。
2.実態調査
また、このセグメントとはまったく価値の異な
るセグメントもある。次のような老女の例だ。
「病気がちで、娘夫婦の世話になっている。寝
次に、実態調査としてどれくらいの割合の消費
たり起きたりの生活であるが、できることは自分
者が寄付付き商品への購買経験があるのか、購買
でしたいと思っていた。掃除もしたいが、重たい
経験がある消費者に対しては今後も購買する意欲
電気掃除機を扱うのは大変だった。『クイックル
があるか、また購買未経験の消費者に対しては今
ワイパー』は、ゴミやホコリがよく取れる。しか
後機会があれば経験したいと思うかという内容に
も軽くて簡単に扱えるので、自分の部屋だけでな
基づいてアンケート調査を行った。
く、娘の部屋、孫の部屋も掃除をするようになっ
た。自分にはもう何もできないと思っていたが、
実施日時:2010 年 10 月中旬
一本の『クイックルワイパー』のおかげで掃除が
実施対象:大学生男女(n=46)便宜サンプル
できた喜びと、自分でもまだ家族のためにできる
調査内容:寄付付き商品購買に関する調査
ことがある、という生きる喜びを味わうことがで
きた。それは家族の一員であることの実感でもあ
る」。
9
■表―――5
まず、私達は以下のような検証フローを設定す
る。
寄付付き商品購買意欲に関する調査
1.寄付付き商品を購買している消費者の深層心理
を探る。
2.「寄付」が自己表現価値に当てはまり得るのか
を検証する。
3.消費者をセグメント分けし、自己表現価値を最
も追求しているセグメントでは、具体的にどのよ
うな寄付を求めているのか、また、そのセグメン
トは高価格を受容するのかを検証する。
また、以下の検証はすべて、寄付付き商品とし
表 5 より、寄付付き商品の購買経験があると回
て最も認知されている「飲料水」を調査対象商品
答した人 83%、購買未経験と回答した人 17%、購
として取り上げている。
買経験のある人の中で今後も購買する意欲がある
1.デプスインタビュー
人、また購買未経験の人の中で今後機会があれば
購買したいと思うと回答した人 83%、購買経験の
ある人の中で今後は購買する意欲がない人、また
(1)実施概要
購買未経験の人の中で今後機会があっても購買し
まず、私達は、消費者がなぜ寄付付き商品をす
ないと回答した人 17%であった。
すんで購買しているのかを探るため、デプスイン
以上のアンケート調査によって実際に寄付付き
タビューを実施した。デプスインタビューとは、
商品を購買している消費者が多い上、今後も購買
調査員が被験者と1 対1 で向かい合い、自由なイ
する意欲がある、また今後機会があれば購買した
ンタビュー形式で聞き取りを行う調査である。特
いという消費者も多いという実態が明らかとなっ
定のテーマについて、より深く掘り下げることや
た。以上のことから、寄付付き商品の今後の消費
対象者の深層心理を探ることが出来る。特徴とし
も大いに見込めるのではないかと考える。
ては、より詳細な情報の収集が可能であること、
周囲の意見に同調したり惑わされることなく、被
3.仮説
験者の意見を聞き出せることが挙げられる。深層
心理的発言を抽出するという、あくまでも質に重
私達は、
「コーズリレーテッドマーケティングを
きを置いている目的の為、サンプル数は尐数で良
利用して、消費者の自己表現価値を訴求すれば、
く、一人の被験者からじっくり深層心理を引き出
脱コモディティ化への糸口となる」と大枠の仮説
すことが肝要なのである。顧客自身で認識してい
を設定する。
る顕在意識というものは全体の5%にすぎず、95%
は顧客がほとんど気づいていない潜在意識および
全く気づいていない無意識である(バンス・パッカ
⑤―――検証
ード[1958])と過去の研究で証明されている。顧客
10
が行動を起こしたり、起こさなかったりするのは、
ての共感、社会問題に取り組む団体に対する共感、
潜在意識および無意識に依存するところが大きい。
製品と寄付先との関連性に対しての共感などとい
調査概要は以下の通りである。
ったことが考えられる。つまり寄付付き商品を購
調査形式:インタビュー形式
入する際は、消費者は製品自体以外にも、無意識
調査期間:2010年10月4日~10月8日
のうちに「共感」する商品を選択基準にしている
調査対象:大学生男女(n=7)便宜サンプル
のではないかと考える。この結果は、後の検証と、
所要時間:約1時間
次章の提案の際に参考にする。
調査目的:寄付行為に関する深層心理、寄付付商
2.製品関与尺度を用いた一元配置分散分析
品購買に関する深層心理を探る
(2)結果より考察
次に私達は、寄付が自己表現価値の訴求である
調査結果として、デプスインタビューから得ら
のかを検証する。
「価値体系の中で中心的で重要な
れた寄付付き商品に対する消費者の顕在的意識は
価値の実現と深く結びついた製品カテゴリーに対
以下のような 7 項目となった。
して、消費者はレベルの高い関与を示すと考えら
れる」
(青木他[1988])これより、関与尺度の高さは、
a.人目を気にする
自己表現価値の訴求になりうると定義する。そこ
b.寄付は聞こえがいい
で、関与尺度を用いて以下の調査を行った。
c.信頼できる会社か
日時:2010 年 10 月中旬
d.見返りを多尐なりとも求めている
対象:大学生男 28 名
e.人情を感じる
ンプル)
f.本当に寄付されているか不安
質問項目:価格、産地、シーン、飲みごたえ、寄
g.欲しい商品でないと買わない
付、エコ意識への共感、以上 6 属性をそれぞれ訴
女 20 名
計 48 名(便宜サ
求している代表例の飲料水を、下記の 5 項目で、
以上の顕在意識に焦点をおき、さらに掘り下げた
それぞれの商品を 7 点満点で評価し、平均値の差
質問を行うことによって 4 項目の潜在意識を抽出
を求める。
した。
分析:一元配置分散分析
a.興味のあることならすすんで寄付する
b.経過が知りたい
青木他(1988)の関与尺度項目
製品関与
c.寄付したことを実感したい
1.使用していて楽しい気分になれる商品である
d.思い入れのあることに寄付したい
2.使っている銘柄に愛着の湧く商品である
3.使用する銘柄によって個性が反映される商品
以上の潜在意識を踏まえ、
「共感」という消費者の
である
内面に存在する無意識の部分を導きだした。ここ
4.自分らしさを表現するのに必要な商品である
でいう共感とは企業の取り組みに対する共感、企
5.この商品について豊富な知識を持っている
業の理念に対する共感、社会問題の深刻さに対し
11
調査対象商品:
1.低価格を代表する「セブンイレブンのプライ
3.消費者をセグメント分けし、コンジョイン
ベートブランド、天然水」
ト分析
2.産地を推している「南アルプスの天然水」
3.飲用シーンのバリエーションが豊富な「ビタ
続いて、
「寄付」を自己表現価値と感じ、購買の
ミンウォーター」
際の選択基準としている消費者集団が全体のどれ
4.硬度が高く飲みごたえのある「コントレック
ほどの割合なのかをクラスター分析によって探り、
ス」
それぞれのクラスターに対してコンジョイント分
5.寄付付商品の代表例である「ボルヴィック」
析を用いて、何を重視して購買しているかを明ら
6.つぶせる軽量ボトルやネーミングからエコ意
かにすることとした。
識への共感を集めている「いろはす」
コンジョイント分析とは、商品やサービスを構成
する規格や性能などのファクターの最適な組み合
表6より、記述統計の平均値に着目すると、ボルヴ
わせを探る方法である。消費者が複数の商品から
ィックの平均値は3.67(7点満点)、いろはすの平均
一つを選択する場合に、それぞれの評価ファクタ
値は4.10となっており、他の4製品と比較して、高
ーをどの程度、相対的に評価しているのかを知る
い平均値をつけている。多重比較の有意確立に着
代表的な手法となっている。この分析手法では、
目しても、他の4製品とは0%水準で有意な差が認め
プロファイルと呼ばれる仮想商品群から好みの順
られている。よって、ボルヴィックに代表される
序を回答してもらう方法をとり、消費者別の「本
「寄付」は、自己表現価値に当てはまると言える。
当に重視すること」を明らかにしたうえで、商品・
また、いろはすのような、エコ意識への共感も、
サービス内容の各々の「買いたい気持ちを強める
自己表現価値と言える。
力(効用値)
」を算出できる。よって、実際の商品
選択の状態に近く、信頼性の高い結果が出やすく
なることがコンジョイント分析の利点である
12
■表―――6
製品関与尺度の記述統計、一元配置分散分析の結果
■表―――7
デプスインタビューより選定した属性・水準
属性
水準1.0
水準2.0
水準3.0
価格
100
120
170
生産地
国内
海外
飲用シーン
※運動後
日常
飲みごたえ
軟水
硬水
寄付レベル
なし
決まった寄
付先
会社
B社
利益追求型
A社
社会との共
存重視
13
寄付先選択
水準4.0
※体験ツ
アー
■表―――8
ビューから考察される顕在意識、潜在意識である
「思い入れのあることに寄付したい」
「興味のある
SPSS の直交配置によって生成された仮想製品
カード1
カード2
カード3
カード4
カード5
カード6
カード7
カード8
カード9
カード10
カード11
カード12
カード13
カード14
カード15
カード16
価格
120円
100円
100円
100円
120円
120円
100円
170円
170円
100円
100円
100円
170円
100円
170円
120円
産地
国産
海外産
海外産
国産
海外産
海外産
国産
海外産
国産
海外産
国産
海外産
国産
国産
海外産
国産
シーン
運動後に飲用
日常に飲用
日常に飲用
日常に飲用
日常に飲用
日常に飲用
運動後に飲用
運動後に飲用
日常に飲用
運動後に飲用
日常に飲用
運動後に飲用
日常に飲用
運動後に飲用
運動後に飲用
運動後に飲用
硬度
硬水
硬水
軟水
軟水
硬水
軟水
硬水
硬水
軟水
軟水
硬水
硬水
硬水
軟水
軟水
軟水
寄付
寄付先選択
寄付先選択
決まった寄付先
体験ツアー
体験ツアー
なし
体験ツアー
なし
寄付先選択
寄付先選択
なし
決まった寄付先
決まった寄付先
なし
体験ツアー
決まった寄付先
ことなら進んで寄付する」等より、
「寄付先を選択
できる」という水準 1 を決定。また、
「本当に寄付
会社
A社
A社
A社
A社
B社
B社
B社
A社
B社
B社
A社
B社
B社
B社
A社
A社
されているか不安」「経過が知りたい」「寄付した
ことを実感したい」
「多尐なりとも見返りがほしい」
等の顕在意識、潜在意識より、
「体験ツアー」を水
準 2 に決定した。ここでの体験ツアーとは、購入
した人から抽選で、寄付先へ赴き、ボランティア
活動に参加できるツアーに参加できると仮定する。
その結果、表7の属性・水準を決定した。
また、SPSS を用いて直交配置を行った結果、表 8
の、16 枚のカードが生成された。
まず、消費者をグルーピングするクラスター分
析を行う為に、順位付けされたカードを、1 位 15
点、2 位 14 点、16 位 0 点という具合に得点化し因
子分析を行い、因子得点を抽出した。本来であれ
ば共通値 0.4 以下を削除すべきであるが、カード
の順位付けを得点化している為、カードの削除を
調査概要は以下の通りである。
行うことは、以降のコンジョイント分析に支障を
日時:平成 22 年 10 月 28 日~11 月 1 日
きたしてしまう。そのため今回はカードの削除は
対象:大学生男女(N=125)便宜サンプル
行わない。その結果、6 つの因子を抽出することが
調査方法:直交配置により生成された 16 枚の仮想
できた。
(表 9)
製品のカードを、購買意欲が高い順に 1 位~16 位
次に、抽出された因子得点を元に、クラスター数
までの順位付けをしてもらう。
を 3 つと設定し、クラスター分析を行った。結果、
以下の特徴を持つクラスターを 3 つ抽出すること
コンジョイント分析の仮想製品を考える際に、
ができた。
(表 10)ここで、クラスターの特徴を把
まず属性は、ブランド価値階層構造における 3 つ
握するのに本来であれば抽出された因子を参考に
の価値に基づいて決定した。機能的価値より、
「価
するが、ここではコンジョイント分析をクラスタ
格」「産地」。情緒的価値より、「飲用シーン」「飲
ー毎に行うことにより、特徴を把握する。
みごたえ(硬度)」
。自己表現価値より、
「寄付」
「会
まず、クラスター1に着目する。
(表 11)各属性
社への共感」
。以上6つに決定した。
(表 7)それぞ
の中でどれが最も重視されているかを探るため、
れの水準は、価格・産地・シーン・飲みごたえの 4
重要度値を見ると、最も数値が高いのは price(価
属性に関しては、今回は私達が一般的に考えられ
格)であり、32.0%を占めている。だがここで注目
る選択肢を選定した。今回の検証で重要となる「寄
するのは、hard(硬度)の割合が他のクラスターと
付」と「会社への共感」の水準は、デプスインタ
比較し、31.2%と高くなっている。この点から考察
14
すると、硬度の高低の差によって変化する飲みご
Donation(寄付)に関しては、15.4%と、他のクラス
たえを重視しているクラスターと言える。
ターと比較するとそれほど重視されていないのが
■表―――9
わかる。また、その属性の中でどの水準が最も重
視されているかを知るために、ユーティリティ推
仮想製品の因子分析
定値に着目すると、価格の中では 1.0(100 円)の数
値が 2.31 と最も高くなっている。2.0(120 円)は
0.70 であることから、差が大きく開いているので、
消費者は低価格志向であることが言える。また、
最も重視されている属性の寄付の中では、3.0(寄付
先選択)が 0.21 と最も重視されているが、他の属性
水準の値よりも低いため、寄付に関してはほぼ重
視されていないことが言える。最も重要度値が高
い hard(硬度)の中では、1.0(軟水)の数値が 2.7 と
高くなっている。総括すると、硬度を最重要視し
て製品選択をし、その中でも、軟水を好んでいる
ことが言える。以上より、クラスター1を飲みご
たえを重視する「情緒的価値追求クラスター」と
ネーミングする。
■表―――10
クラスター分析結果
クラスター
FAC1
FAC2
FAC3
FAC4
FAC5
FAC6
クラスター1
.99
.07
.21
-.26
.37
-.58
クラスター2
.12
.27
-.31
.33
-.50
.80
クラスター3
-1.16
-.39
.16
-.11
.20
-.35
15
■表―――11
好していることがうかがえる。以上より、クラス
ター2をとにかく価格を重視する「機能的価値追
クラスター1 コンジョイント分析結果
求クラスター」とネーミングする。
■表―――12
クラスター2
コンジョイント分析結果
続いて、クラスター2に着目する。(表 12)まず重要
度値を見ると、価格が 45.0%と群を抜いた数値にな
っている。次に重要度値が高いのは寄付の 22.2%
である。価格のユーティリティ推定値は、1.0(100
最後にクラスター3に着目する。(表 13)まず重要度
円)が 3.6 と非常に高い数値をつけており、2.0(120
値を見ると、寄付が 46.1%と非常に高い数値をつけ
円)、3.0(170 円)はマイナスの数値になっている。
ており、寄付に関心が高いクラスターであること
そのため、極端に低価格志向であることを示して
が想像できる。次に、価格と同等の重要度値をつ
いる。寄付に関しては、4.0(体験ツアーが当たる制度)
けている company(会社)も特筆すべき点であろう。
が 0.59 と最も高くなっており、安い中でも何かし
会社に対して 19.8%の重要度値をつけているクラ
らの見返りや、自分へのメリットがあるものを選
スターは他にはない。寄付を重視すると同時に、
16
会社の透明さや、信頼性を商品選択の際の基準の 1
つとして考えているということになる。ユーティ
リティ推定値に目を向けると、最も重要視されて
いる寄付の 4.0(体験ツアー)が最も高く 2.64、次い
で 3.0(寄付先選択)が 1.78 となっている。次いで、
会社の数値は 2.0(A 社)が 1.57 と他と比較しても
高い数値を付けており、ここからも会社への信頼
感や、透明性、クリーンさなどを総合的に考慮し、
購買時の選択基準の一つとしていることがうかが
える。最後に価格に注目すると、数値の高さでは
1.0(100 円 ) が 0.84 と最も高くなっているが、
2.0(120 円)も 0.60 と次いで高い数値を付けている。
100 円と 120 円の数値の差に着目すれば、クラスタ
ー1は 1.6、クラスター2 は 3.9 であり、このクラ
スター3 に関しては 0.2 と非常に差が小さくなって
いる。このことより、消費者は最安値でなくとも、
3 つのクラスターの度数分布表より、
「情緒的価値
多尐の高価格であれば受容するということが言え
追求クラスター」は全体の 32%、
「機能的価値追求
る。以上よりクラスター3 を、寄付することに価値
クラスター」は全体の 36.8%、
「自己表現価値追求
を感じる「自己表現価値追求クラスター」とネー
クラスター」は全体の 31.2%であることがわかった。
ミングする。
これを考察すると、全体の割合では大きな差はな
■表―――13
く、消費者はそれぞれ重視する点が異なることが
うかがえる。
クラスター3 コンジョイント分析結果
4.結果まとめ
自己表現価値追求クラスターの消費者は高価格
でも受容し、また「寄付」や「会社への信頼性」
といった機能面以外での差別化を図れるため、こ
の 31.2%の自己表現価値追求クラスターをターゲ
ットとし、コーズリレーテッドマーケティングの
戦略を展開していくことが、脱コモディティ化へ
の糸口となることが証明できる。
17
⑥―――提案
築することで得られる経験価値である。
これを枠に私たちは提案を考えていく。これら
以上の検証結果を踏まえた上で、経験価値マー
は検討している中の一例である。
1.SENSE は五感の刺激を通して得られる経験価
ケティングの枠組みにそって提案を行う。
平山[2007]によると、「経験価値マーケティング
値なので寄付をつけて出来ることではないので、
項目は価値階層構造の情緒的価値、自己表現価値
対象外とする。
にあてはめることができる。
」としている。このこ
2.FEEL ではこの会社が何らかの社会問題への
とから私達は、自己表現価値を追求している消費
取り組み(共感)をしていることを伝える。
者集団に対して、経験価値の枠組みにそってアプ
3.THINK ではその社会問題の現状を知ってもら
ローチすることは有効な手段なのではないかと考
う。また会社のクリーンなイメージ(会社理念など)
えている。
を浸透させる。ホームページで詳細の情報提供を
経験価値マーケティングはブランドと消費者の
して、さらに深く、社会問題について考えてもら
関係を中心に、そこでの接点を通して消費者の思
う。
いや経験・感性を踏まえたうえでのマーケティン
4.ACT では体験ツアーの実施をする。体験ツア
グ活動であることから、今後の企業のマーケティ
ーとは観光ツアーの中にボランティア体験が含ま
ング活動の活路を見出し、他社やほかのブランド
れたパッケージツアーのことである。
(例えば、青森
に対する持続的な競争優位を確立するという意味
りんごジュースという製品だった場合、青森のりんご農
で、重要なアプローチになりうると考えられる。
家で実際に収穫や耕作をしてもらい、製品の元を知って
つまり経験価値マーケティングを用いることで脱
もらうことで実感を湧かせる。)製品の購入者から抽
コモディティ化を図ることができる。
選で、このツアーが当たる。当選者は、体験の様
まず経験価値マーケティングとは 5 つの経験価
子をブログで報告する義務がある。そうすること
値の次元に分けられる。
によって参加者だけでなくほかの消費者の興味を
それは1.SENSE(感覚的経験価値)、2.FEEL(情
惹きつける。また寄付先が明確化されるので安心
緒的経験価値)、3.THINK(認知的経験価値)、4.
感も持ってもらえる。
ACT(肉体的経験価値)、5.RELATE(関係的経験
5.RELATE では体験ツアーで行った先との長期
価値)、の 5 つである。
的な関係の構築をする。定期的にその土地の特産
それぞれの内容は以下の通りである。
物が贈られる、社会的問題への取り組みの様子を
1.SENSE とは、五感の刺激を通して得られる経
継続的に報告、ボランティアに従事している人、
験価値である。
恩恵を受けた人からのお礼が届く、などである。
2.FEEL とは内面の感情を刺激することで生ま
例としてはそのツアーで参加者に青森に興味を持
れる経験価値である。
ってもらい、再び青森に足を運んでもらうこと(結
3.THINK とはクリエイティブな思考を通して得
果、青森にお金を落としてもらい潤うことができる)や、
られる経験価値である。
そこで出会った農家の人に収穫したリンゴを参加
4.ACT とは肉体的経験を通してライフスタイル
者に届けてもらう(消費者の周りの環境に青森りんご
変化から得られる経験価値である。
というブランドを知ってもらうことができる) などの、
5.RELATE とは準拠集団や文化との関係性を構
ツアーだけで終わる関係性ではなくその後の長期
18
⑧―――参考文献
的な関係を構築することで、長期優良顧客となる。
上記のように、経験価値マーケティングに焦点
を当て、自己表現価値を訴求できるような一貫し
フィリップ・コトラー/ナンシー・リー『社会的
たプロモーション策を提案するとともに、デプス
責任のマーケティング――「事業の成功」と「CSR」
インタビューより得られた「共感」という深層心
を両立する』(恩蔵直人監訳、東洋経済新報社、
理に訴える方法を模索すれば、より一層、消費者
2008 年)/ Corporate Social Responsibility, by
の購買意欲を掻き立て、コーズリレーテッドマー
Philip Kotler and Nancy Lee, 2005、
ケティングによって脱コモディティ化を促進でき
長坂寿久[2010]論文『コーズ・リレーテッド・マー
るのではないだろうかと考えている。
ケティング(CRM)とNGO――CSR=企業とNGOの新し
い関係(その4)――』(季刊
⑦―――今後の展望
国際貿易と投資
Autumn 2010/No.81)
上田隆穂・守口剛[2004]『価格・プロモーション
本研究を通して寄付付き商品によって脱コモデ
戦略
現代のマーケティング戦略②』有斐閣アル
ィティ化を図る研究は今後もさらに追及する必要
マ
性があるものとの考えが一層強まった。今回調査
陶山・梅本『日本型ブランド優位戦略』ダイヤモ
対象を大学生のみとしていたが、他の年代への調
ンド社、60ページ)
査を行うことによって汎用性を示すことが必要で
和田充夫[2002]『ブランド価値共創』同文舘出版
あった。それを実現できていたなら私達の研究は
池尾恭一・青木幸弘・南知恵子・井上哲浩[2010]
さらに研磨されていくだろう。
『マーケティング』
また意味的価値とは、個人の主観的な意味付け
上田隆穂[2005]『日本一わかりやすい価格決定戦
をすることによって決まる価値であり、性能など
略』
と違い、客観性がほとんど存在しない。その製品
恩蔵直人[2007]『コモディティ化市場のマーケテ
のデザインや、使用することによって初めて得ら
ィング論理』有斐閣
れる価値である場合が多い。そのような価値を、
平山弘[2007]『経験価値アプローチとブランド価
文字だけで表現しきれたかどうかは疑問に残ると
値の本質』論文
ころである。
ジェラルド・ザルトマン 『心脳マーケティング』
そして研究費用との兼ね合いから困難ではあっ
兼子良久講師
たが、他財にも適用できる汎用性を持った研究に
経営学特殊講義(マーケティング
のための多変量解析) 講義資料
するためには、他財も扱って実証分析をすべきで
はあった。しかし以上のことを鑑みても、本研究
経済産業省ホームページhttp://www.meti.go.jp/
から得られた成果は非常に大きかったと言える。
パナソニックホームページhttp://panasonic.jp/
ボルヴィックホームページ
http://www.volvic.co.jp/
ネピアホームページhttp://www.nepia.co.jp/
花王ホームページhttp://www.kao.com/jp/
19
自己表現価値に関するアンケート
51
GAKUSHUIN Univ. UEDA Seminar 21st
自己表現価値に関するアンケート
52
GAKUSHUIN Univ. UEDA Seminar 21st
20
コンジョイント分析用アンケート
こんにちは。私達上田ゼミでは、12月の関東10ゼミ討論会に向けて研究を進めております。アンケートを作成しましたので、お手数かとは思いますが、
ぜひご協力いただけますよう、お願いいたします。
問. 下記に16枚のカードを示してあります。それぞれのカードを、仮想の製品と考えてください。
それぞれの特徴を考慮し、あなたが購入したいと思う順に、カードの左上の空欄に(1~16)の番号を記入してください。
また、それぞれの項目の説明を示しておきますので、参考にしてください。
面倒かと思いますが、よろしくお願い申し上げます。
500mlペットボトルの
ミネラルウォータとして考えてください
会社A
①製造・販売をしている会社・・・・・ ・水事業を通じて、世界の
生活水準を上げることに
注力している
②価格・・・100円/120円/170円
・利益よりも、みんなの幸
せを求めている
TVCMの様子
TVCMの様子
会社B
・無駄なコストは削減
・利益を追い求めるシビア
な経営管理体制
③生産地・・・国産 / 海外産
④飲用シーン・・・運動後に飲用するために開発された水 / 日常に飲用するための普通の水
⑤水の硬度・・・軟水(日本人の口に合う、やわらかな味) / 硬水(ミネラル豊富だが、日本人は好まない人が多い)
⑥寄付に関して・・・ ボルヴィックの1ℓ for 10ℓに代表されるように、
売り上げの一部が社会貢献のために寄付される商品かどうか。
・寄付なし
・決まった寄付先に寄付される(自分で選べるわけではない)
・寄付先を選択できる(自分が寄付したいと思う活動や団体に、売り上げの一部を寄付できる)
・体験ツアーがあたる(購入した人から抽選で、観光旅行と社会貢献活動体験のパッケージツアーが当たる)
53
GAKUSHUIN Univ. UEDA Seminar 21st
1位~16位まで順位付けしてください。
①会社A
会社A
②120円
120円
③国産
国産
運動後に飲用
④運動後に飲用
硬水
⑤硬水
寄付先を選択
⑥寄付先を選択
①会社A
②100円
③海外産
④日常に飲用
⑤硬水
⑥寄付先を選択
①会社B
②100円
③国産
④運動後に飲用
⑤硬水
⑥体験ツアーが
当たる
①会社A
②170円
③海外産
④運動後に飲用
⑤硬水
⑥寄付なし
①会社B
②100円
③海外産
④日常に飲用
⑤硬水
⑥決まった寄付
先に寄付
①会社B
②170円
③国産
④日常に飲用
⑤硬水
⑥決まった寄付
先に寄付
ここに数字を記入してください
①会社A
②100円
③海外産
④日常に飲用
⑤軟水
⑥決まった寄付先
①会社B
②170円
③国産
④日常に飲用
⑤軟水
⑥寄付先を選択
①会社A
②100円
③国産
④日常に飲用
⑤軟水
⑥体験ツアーが当
たる
①会社B
②120円
③海外産
④日常に飲用
⑤硬水
⑥体験ツアーが
当たる
①会社B
②100円
③海外産
④運動後に飲用
⑤軟水
⑥寄付先を選択
できる
①会社A
②100円
③国産
④日常に飲用
⑤硬水
⑥寄付なし
①会社A
②170円
③海外産
④運動後に飲用
⑤軟水
⑥体験ツアーが
当たる
①会社B
②100円
③国産
④運動後に飲用
⑤軟水
⑥寄付なし
①会社A
②120円
③国産
④運動後に飲用
⑤軟水
⑥決まった寄付
先に寄付
面倒かと思いますが、まず、自分が6項目の中でどれを重視するのかを考え、その中で順位をつけていくこと
をお勧めします。(例:自分は軟水が好き→軟水のものの中で、1位~8位を決め、それから残りを決める)
①会社B
②120円
③海外産
④日常に飲用
⑤軟水
⑥寄付なし
面倒なア
ンケートに
ご協力
いただいて
ありがとう
ございまし
た!
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デプスインタビュー結果一部(原文まま)
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