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飲食業の国際化支援に向けた 取組み - J

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飲食業の国際化支援に向けた 取組み - J
特集:中小企業の国際化と診断士の活動状況
第7章
飲食業の国際化支援に向けた
取組み
―日本の食品,
食文化,
おもてなしを世界に
阿達 道雄
東京都中小企業診断士協会城東支部国際部
1 .はじめに
2 .外国人にとっての日本食の魅力
城東支部国際部は,2013年に飲食業の国際
井上朋子部員
化というテーマへの取組みを開始した。その
日本の「食」に外国人が魅力を感じるポイ
きっかけとなったのは,同年 8 月10日に行わ
ントは,日本人には気づきにくい,あるいは
れた東京協会国際部主催の国際オープンセミ
想像を超える点すらある。たとえば,
『JNTO
ナーの幹事を城北支部とともに務めた際,第
訪日外客訪問地調査2010』(JNTO 日本政府
2 部で飲食業国際化の事例紹介を担当したこ
観光局)の訪日外国人旅行者が「特に満足し
とである。
た食事」のランキングでは,寿司,刺身,し
ここでは相川部員の紹介により,香港に出
ゃぶしゃぶといった高級和食料理だけでなく,
店して間もない焼肉店「ぴゅあ」の事例を紹
ラーメン,うどん,蕎麦,お好み焼き,とん
介した。さらに前座として,筆者と井上部員
かつ・カツ丼といった庶民的なメニューもト
による発表を行った。
ップ10入りしている。
また,観光庁による訪日外国人旅行者への
調査では,旅行中の体験および次回の旅行で
希望する体験として,
「日本食を食べる」と
いう回答が観光,ショッピング,温泉入浴と
いったほかの選択肢を抑えてトップとなって
おり,地域観光資源としての日本の「食」の
可能性も非常に大きい(訪日外国人消費動向
調査,観光庁,2012年)
。
外国人が感じる日本の「食」の魅力のポイ
ントの 1 つとして,
「食感」が挙げられる。
北海道から沖縄まで日本各地を食べ歩いた,
セミナーで発表する筆者と井上部員
英国人料理ジャーナリストのマイケル・ブー
以下,城東支部国際部員により,我々の取
ス氏は,著作『英国一家,日本を食べる』
(亜
り組んだ「食」にかかわる研究と取材結果を
紀書房)の中で,
「食感のバリエーションと
紹介させていただく。
コントラストは,今回の日本食べ歩き旅行で
得た最大の発見」と指摘しているが,私たち
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第 7 章 飲食業の国際化支援に向けた取組み
が普段意識することは少ない,サクサク,パ
リパリ,もちもち,ふんわり,といったさま
ざまな食感も,実は日本の「食」の大きな特
①現地ニーズを把握することによる新たな需
要の開拓。
②香港における日本産食肉の販促活動と需要
者への直接販売の事業拠点。
徴である。
その背景にあるのは,経験と勘に培われた
③現地販売先に対する指導・牽制機能の発揮。
職人の手仕事であれ,近代的な製造工場であ
店舗設計は,
「新鮮・美味・安心な日本産
れ,消費者が口に運ぶ瞬間まで維持されるデ
食肉をお手頃な価格で香港の人に」をコンセ
リケートな食感を作り出す,日本の高度な技
プトに,以下の取組みを行った。
術力と言える。今後は,その日本で生み出さ
①盛り付けは和風スタイルにこだわり,日本
れる食品の食感や鮮度を含め,国内で提供さ
れている品質を保ちながら, 海外への長距
離・長時間の輸送に耐えられる食品保存・包
らしく綺麗な商品づくりを心掛けた。
②店内をオープンキッチン方式として和風の
雰囲気・高級感を演出。
材・輸送技術の開発において,製造業をはじ
③現地では,単価が非常に高いイメージが強
めとする他業界との連携の面からも,国際派
い日本産和牛の中の上クラスを,リーズナ
診断士の活躍が期待される。
ブルな価格で食べてもらうことを心掛け,
また,飲食店の海外展開や食品輸出により,
客 単 価 設 定 は, 昼 1,
500~2,000 円, 夜
外国人が現地で日本の食文化に触れることは,
6,000~7,000円とした。
日本への旅行意欲の増大につながる。旅行者
「和風焼肉店」という店舗は香港に多数あ
が日本滞在中に本場の日本の「食」を体験す
るが,和牛中心の日本産牛・豚肉100%の焼
ることで,さらに日本の「食」への愛着や関
肉店は初めてで,開店時から高い評価を得た。
心が高まり,帰国後,現地の飲食店や食品購
現在の来客者の約 8 割は地元の方で,現地で
入により,日本の「食」を楽しむ機会がさら
着実に受け入れられ,定着しつつある。TV
に増加する。
取材も受け, 昨年12月には『ガイアの夜明
このような好循環が生み出されることで,
け』にて放映された。
国内外における外国人向け「食」分野の市場
は成長が見込まれる点に注目したい。
3 .事例紹介 焼肉店ぴゅあ
相川佳寛部員
JA 全農ミートフーズ㈱直営店,国産専門
焼肉店「ぴゅあ」の海外初出店である,香港
の和牛焼肉「純」について紹介する。
「消費者と国内畜産農家の架け橋に」
,
「消
オープン前後の主な課題・リスクは以下の
費者に『安全・安心』で『価値ある豊かな食』
とおりである。
を提供する」という経営理念の下,2013年 2
①香港は現在,不動産バブルで家主が強く,
月に海外初の直営店,和牛焼肉「純」が香港
物件を即決で決めないと,すぐにほかの業
者と契約を結ばれてしまう。
にオープンした。
JA 全農グループは1990年より和牛の輸出
② 3 年後の契約更新時に,家賃が跳ね上がっ
を開始し,香港は今後も重要な輸出相手先と
ている可能性があるため, 3 年で回収でき
なっており,以下の 3 項目を目的としての出
る事業計画を作らなければならない。
店であった。
③身だしなみや接客などが日本的にはなかな
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特集
かできないほか,現地雇用者の定着率が低
る。
く,人材の流動性が高い。
体力のない中小の飲食業者にとって,海外
そのほか,開業認可やアルコール取り扱い
への進出は苦労が多い。日疋社長は,海外進
認可の取得に時間を要したり,現地消防法に
出へは動機づけが重要だと言うが,
「それだ
沿った店舗設計を義務づけられたりと,
「郷
けの苦労をしてもやりたいことがある」とい
に入れば郷に従え」状態であったが,現地の
う目標がないと挫折してしまうからだ。
人とのつながりを大切に,タイムリーな情報
苦労するのは,まず調達である。飲食業界
を入手し続けることにより,何とか開業にま
は,世界のほとんどで,まだきちんと組織化
で至ることができたとのことである。
がされていないことが多く,その中で食材の
昨年12月に「和食」が世界無形文化遺産に
調達ルートを確保することは困難を伴うとい
登録されたこともあり,今回の「ぴゅあ」の
う。また,人材確保も悩みの種で,サービス
海外進出事例も参考にして今後,中小企業が
の質を高めるためには優秀な人材が必要だが,
日本の食材を用いた飲食店を海外で展開でき
日本と違って大卒が皿洗いもやるというよう
るように支援していきたいと考えている。
な文化は,ほかの国ではまずない。そういう
4 .株式会社ひびき 日疋社長への取材
意味では,日本のサービス業は進みすぎてい
るとも言えるという。
海外進出の効果として,目的であった地域
北岡正一部員
活性化や社員のモチベーション向上には大い
同社は創業1990年で,埼玉県を基盤に,都
に役立っていると思われるが,そのほかの効
内も含めて20店舗(飲食店,持ち帰り店)を
果として社内のシステム化が進んだというこ
展開し,年商は11億円である。東松山市の伝
とがある。鮮度管理を例に挙げると,日本で
統的な味噌だれを使った「やきとん」が売り
は感覚や経験に頼っていることが多いが,そ
だが,肉や野菜のほか,醤油,日本酒,ビー
れでは現地の従業員に伝えられないので,き
ルなどでも埼玉県の産品にこだわったメニュ
ちんとマニュアル化することが必要になって
ーが特徴である。 また「人に良い物=食べ
物」という理念で,信頼し合える食の提供を
くる。その経験もあって,ひびきの工場では
すでに ISO9000の認定を受けているが,今後,
目標としている。
店舗でもこれを取得することを計画している
社長の日疋好春氏は,川越の企業の集まり
である「川越 Style 倶楽部」を主宰したり,
という。
全国のやきとり名店を集めた「全や連」の店
に対するアドバイスを,いくつか挙げてもら
舗を出すなどさまざまな活動を行っているが,
った。
海外進出にも積極的に取り組んでおり,ニュ
①決裁権を持った人を現地に置くこと。
ーヨーク,韓国,中国,台湾,シンガポール
②撤退戦略について考えておくこと。
などに販路を持っている。現在はフランスへ
③現地の人の言うことを鵜呑みにしてはいけ
これから海外進出を考えている飲食店など
の進出を計画している。
ない(シンガポールでは,
「現地人は外食
海外に出ようとした動機は大きく 2 つある
が多いから調味料は売れない」と言われた
という。 1 つは,地域活性化である。埼玉と
ことがある。しかし,スーパーマーケット
いうブランドを大きくするには,東京への進
では調味料が実際に売られているので,そ
出だけでは,いまさら珍しくない。それなら,
んなわけはないと思った,という)
。
思い切って海外へ出て,そこで有名になるこ
④日本人は伝える力が弱いので,メッセージ
とにより,地域の名を上げて活性化したいと
をビジュアルなイメージで伝えることが必
考えた。もう 1 つは,人材の確保と育成であ
要である。これは外国人のほうがうまい。
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第 7 章 飲食業の国際化支援に向けた取組み
ただし,一番重要なことは,やはり「しっ
かりした動機づけ」があることで,診断士が
支援する際もそれを意識することが重要だと
交流企画。
・国際化に関心を持つ全国の診断士や飲食業
者との交流企画など。
強調する。
2014年の活動目標としては,上記のような
ひびきの場合,海外で事業拡大をして業績
食の国際化にちなむイベントの開催を実施し
を上げるということは,現時点では最重要の
たい。
目標ではない。それよりも海外に進出するこ
とが,国内市場における活性化をもたらすこ
とを重視している。
ところで, 東京の飲食店市場は,ASEAN
全体よりもまだ大きいと言われており,飲食
業界では日本は相変わらず大きい市場である。
また,東京オリンピックの開催決定や和食の
世界的評価が高まる中,国内における外国人
への市場も確実に伸びていくと思われる。
そのようなトレンドの中で,単に「日本国
内は縮小するから,とにかく海外に出ないと
いけない」という風潮に乗るのではなく,自
社にとって何が大切かをじっくりと考え,そ
れでいて迅速に行動し,海外に出て行くひび
きの姿は,グローバル時代での中小企業の戦
略として参考になる。
阿達 道雄
5 .今後の活動に向けて
今回は,新入部員を含めた部員の積極的な
活動により,飲食店の国際化にかかわる実例
に触れることができた。今回,紹介させてい
ただいた外国人に関する調査結果,
「ぴゅあ」
,
「ひびき」の国際化に向けた取組みは,今後
我々が中小飲食業の国際化支援に取り組むに
あたり,有益な財産になると感じている。
この経験,縁故を活かし,城東支部国際部
としては,この飲食業の国際化というテーマ
をさらに追いかけ,中小企業支援を含めた活
動につなげていきたい。
内容は構想段階であるが,以下を実現でき
ればと考えている。
・国際化に関心のある地域飲食業者に対する
相談会などを通じての支援活動。
・今回,取材に応じてもらったような国際化
経験者,診断士,さらには外国人も含めた
(あだち みちお)
一橋大学法学部卒業後,総合商社に勤務。
リスク管理,海外での債権回収,資源開
発事業などに従事。英国留学,米国駐在。
2004年中小企業診断士登録。東京都中小
企業診断士協会城東支部所属。2013年
より城東支部国際部長。
(執筆協力)
北岡 正一
(きたおか しょういち)
東京大学工学部卒業後,ソフトウェア会
社に勤務。システム開発,グローバル事
業推進などに従事。米国,フランスに駐
在。2010年退職し, 独立。2013年中小
企業診断士登録。
(執筆協力)
井上 朋子
(いのうえ ともこ)
フード・ツーリズム・コンサルタント,
中小企業診断士,国際ホテル経営学修士。
旅行会社で訪日外国人市場の分析,販売
促進などに従事の後,2011年独立。 訪
日外国人旅行者などへの飲食店紹介,ブ
ログや SNS での情報発信も行う。
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