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人権・民主主義・地方自治おびやかす緊急事態条項

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人権・民主主義・地方自治おびやかす緊急事態条項
人権・民主主義・地方自治おびやかす緊急事態条項
憲法尊重・擁護を宣誓した私たちの目線で考えてみましょう
自 治 労 連 埼 玉 県 本 部
自 民 党 憲 法 改 正 草 案 ( 以 下 「 草 案 」) に は 、 新 た に 「 第 9 章 緊 急 事 態 」 が 盛
り 込 ま れ まし た 。自 民党 日本 国憲 法改 正 草案 Q& A(以 下「 Q& A」)で は、
「有
事 や 大 規 模災 害が 発 生し たと き」「 東日 本大 震災 にお ける 政 府の 対応 の反 省も 踏
まえて、緊急事態に対処するための仕組みを、憲法上明確に規定しました」と
説 明 し て いま す。
私たちは、緊急事態条項は、内閣総理大臣に全ての権限を委ねる超法規的な
措置を憲法上に規定しようとするものであり、内閣にこのような権限を与える
こ と は 、「 三 権 ( 立 法 ・ 行 政 ・ 司 法 ) 分 立 」 に 反 し 、「 憲 法 に よ る 権 力 の 統 制 」
と い う 立 憲主 義の 理 念と も相 容れ ない と 考え ます 。
ま た 、緊 急事 態の も とで は、基 本 的人 権 も地 方自 治も 奪わ れ ます。私 たち は 、
草 案 の 特 に 危 険な 部 分と して 、緊 急事 態 条項 の新 設に 強く 反 対し ます 。
「武力攻撃時や大災害時には必要ではないか」とお考えの方には、ぜひお読
み い た だ いて ご意 見 をお 聞か せく ださ い 。
1.草案にある「緊急事態条項」の仕組みとは
( 1 ) 緊急 事 態 の 宣 言 (98条 1項 )
草 案 98条1項 では、 内閣 総理 大臣 が、a )武力 攻撃、 b) 内 乱等 の社 会秩 序 混
乱、c)地震等による大規模な自然災害、d)その他の緊急事態において、閣
議 に は か って 緊急 事 態の 宣言 を発 する こ とが でき ると して い ます 。
草案が例示する上記4要件の際に、憲法で規定した緊急事態宣言をしなけれ
ば対応できないのでしょうか。そんなことはありません。法律でも十分可能で
す 。 そ れ は後 で述 べ ます が、 では 、宣 言 する と何 がど うな る ので しょ う。
( 2 ) 緊急 事 態 宣 言 の 効 果( 99 条 1項 、3項 )
内閣総理大臣が緊急事態を宣言すると、内閣の権限で、a)法律と同じ効果
を持つ政令を出すことができ、b)財政上必要な支出、その他の処分ができ、
c)地方自治体の長にも指示ができ、d)国民は、基本的人権をおびやかされ
る措置にも従わなければならなくなります。立法・行政権限や地方自治体への
指 揮 命 令 権、 基本 的 人権 を制 限す る権 限 が内 閣( 国の 機関 ) に集 中さ れま す 。
-1-
( 3 ) 国会 の 役 割 、 承 認 手続 き ( 98条 2項 、 3項 、4項 、 99条 4項 )
①
緊 急 事 態 宣言 の 承認 権は 内閣 と国 会 に集 中さ れて いる
内 閣 総 理 大 臣 の 「 緊 急 事 態宣 言 」 は 、 さ す が にフ リ ー パ ス で は あ りま せ ん 。
a ) 宣 言 は 、 事 前 又 は 事 後に 国 会 の 承 認 を 得 なけ れ ば な ら な い 、 b) 国 会 が 、
不 承 認 の 議決 や宣 言 解除 の議 決を した と き 、c )宣言 を継 続 する 必要 がな い と
き 、 に は 速や かに 解 除し なけ れば なら な いと して いま す。
ま た 、d)宣言 を、100日 を超 えて 継続 す ると きは、100日を 超え るご とに 事
前 に 国 会 の承 認が 必 要で す。さ ら に、e )国会 承認 で 衆・参 両院 が異 なる 議 決
を し た 場 合、両院 協 議会 を開 き、それ で も意 見が 一致 しな い とき 、又 は参 議 院
が 5 日 以 内に 議決 し ない とき は、 衆議 院 の議 決が 国会 の議 決 とさ れま す。
以 上 の と おり 、内 閣 と国 会の 承認 だけ で 強大 な権 力を 内閣 総 理大 臣に 集中 さ
せ る 仕 組 みと なっ て いま す。 草案 には 不 安を 禁じ 得ま せん 。
②
宣 言 し た 政権 の 長期 延命 に道 をひ ら く条 項も
草 案 99条4項 によ る と、a)宣 言 が発 せら れる と衆 議院 は解 散 でき なく なり 、
b )衆・参 議院 の任 期 、選 挙期 日の 特例 も 設け るこ とが でき る こと にな りま す 。
一 般 的 に、多数 与党 から 内閣 総理 大臣 が 指名 され る議 院内 閣 制の もと で、衆
議 院 が 解 散さ れな け れば 、多数 与党 の議 員構 成は 長期 にわ た って 維持 され 、そ
の 議 員 構 成の もと で 、強 大な 権力 を掌 握 した 内閣 総理 大臣 が 意の まま に国 会 運
営 も 選 挙 も行 える こ とに なり ます 。
善 意 に と らえ れば、国会 に空 白を 生じ さ せな いた め、任 期が 過ぎ ても 衆議 院
を 解 散 で きな い仕 組 みに して いる とも 思 えま すが 、制度 的に は 、現 行憲 法に も
あ る 参 議 院の 緊急 集 会( 現行 憲法 54条 2項) で対 応で きる こ とで す。
( 4 ) 権力 集 中 の 割 に は ゆる や か す ぎ る 承 認手 続 き
この仕組み、強大な権力を内閣総理大臣に与えるにしては、チエック機能が
ゆ る や か 過 ぎ ると 思 いま せん か。
①
緊 急 事 態 宣言 の 承認 が事 後で 良い か
緊 急 事 態 とは どの 様 な事 態か は法 律で 定 める こと にな って お り曖 昧で す。そ
し て 、法 律 です から 国民 世論 の反 対が あ って も 、国 会の 多数 決で どう にで も 定
義 変 更 が でき ます 。定義 が曖 昧・ゆる や かな 一方 で、前記 の「(2 )」のと お り
強 大 な 権 力が 付与 さ れる 緊急 事態 の国 会 承認 が事 後で 良い わ け が あ り ま せ ん 。
②
国 会 議 員 の選 出 にま で内 閣総 理大 臣 が権 限行 使で きる な ど論 外
議 員 内 閣 制の もと で 、多 数与 党か ら指 名 され るで あろ う内 閣 総理 大臣 です か
ら 、国 会 議員 の多 数 を基 盤と して おり 、a)宣言 は事 後承 認 に回 され る可 能 性
が あ り 、b )事 後に 承認 され る確 立も 高 く、c )緊 急事 態の 期間 延長 もし や す
く 、さ ら に 、d )衆 議院 の議 決が 優越 さ れる とな れば 、フ リ ーパ スで はな く て
も 、 権 力 をも つ内 閣 総理 大臣 の思 い通 り にで きる 仕組 みだ と 思い ませ んか 。
-2-
極 め つ け は 99条 4項 で 、 宣言 期 間 中 は 衆 議 院 を解 散 で き な い 、 さ らに 内 閣 総
理 大 臣 の 意図 で選 挙 期日 も決 めら れる と なれ ば、与党 の多 数 で選 出さ れた 内 閣
総 理 大 臣 がい つま で でも 政権 に居 座り 続 けら れる こと にな り ます 。
2.「緊急事態条項」の危険な本質
( 1 ) 緊急 事 態 宣 言 で 、 三権 分 立 も 地 方 自 治も な く な る (99条 1項)
宣言が発せられると、第1に、内閣は法律と同じ政令を制定でき、予算も自
由に使えることになれば、内閣に立法権も財政処理権も付与することになり、
三権分立と国会中心財政主義の原則が壊れます。第2次世界大戦時の日本や、
ナ チ ス ・ ド イ ツの 例 を顧 みれ ば、 その 危 険が どれ ほど のも の か想 像で きま す 。
第2に、内閣総理大臣に、地方自治体の長に対して必要な指示をすることが
できる権限が与えられることになれば、地方自治にもとづく、首長や住民の総
意 に よ る 主体 的な 意 思は これ によ って 奪 われ るこ とに なり ま す。
( 2 ) 宣言 の も と で は 国 民の 人 権 侵 害 の 事 態も ( 9 9 第 3 項 )
草 案 99条 3項 で は 、 国 民 は 、「 何 人 も ∼ 当 該 宣 言 に 係 る 事 態 に お い て ∼ 発 せ ら
れる国その他公の機関の指示に従わなければならない」とされ、国の命令への
服 従 義 務 が 明 記さ れ てい ます 。
国の措置が、どんなに違法・不当・理不尽なものでも、これに異議を唱える
に は 、 拘 禁・ 逮捕 ・ 弾圧 を覚 悟し なけ れ ばな らな くな りま す 。
第 3 項 後 段 で 、 言 い 訳 の よ う に 「 こ の 場 合 に お い て も 、 第 14条 、 第 18条 、 第
19条 、 第 21条 そ の 他 の 基 本 的 人 権 に 関 す る 規 定 は 、 最 大 限 に 尊 重 さ れ な け れ ば
な ら な い 」と 規定 し てい ます が、「最 大 限尊 重」 であ って 「 侵し ては なら ない 」
で は あ り ませ ん。
( 3 ) 現実 の 政 治 動 向 ・ 発言 か ら み て 緊 急 事態 条 項 は 戦 争 体 制の 道 具
安倍内閣は、立憲主義を破壊し、集団的自衛権を行使して外国に自由に自衛
隊を派遣できる国づくりを強行しました。しかし、いざ戦争ということになれ
ば、国民の多くが反対の運動に立ち上がるでしょう。これを抑圧する〝戦争推
進 勢 力 の 伝家 の宝 刀 〟が 緊急 事態 条項 の 本質 とみ るこ とが で きま す。
麻生財務大臣が憲法改正をめぐって「ナチスの手口に学ぶべき」と発言して
世のひんしゅくを買ったのは記憶に新しいことですが、ここでいう「ナチスの
手口」とは、ヒットラーが憲法の規定と議会の多数を使って、いつの間にか憲
法 を 機 能 しな いよ う にし てし まっ た手 口 を指 しま す。
当 時 の ド イ ツ の ワ イ マ ー ル 憲 法 48条 に は 「 公 共 の 秩 序 と 安 定 が 危 険 に さ ら さ
れたとき、大統領は軍隊の援助のもとに緊急令を制定できる。その際に国民の
基 本 的 人 権の 一部 ま たは 全部 を停 止す る こと がで きる 」と あ りま した 。
ヒトラーはこれを利用して「緊急令」を制定し、思想・表現・結社の自由を
-3-
奪って、ナチスの一党独裁への道を突き進みました。このナチスと同じことが
で き る 可 能性 を憲 法 に盛 り込 もう とし て いる のが 「緊 急事 態 条項 」で す。
( 4 ) 権力 の 暴 走 を し ば るの が 「 立 憲 主 義 」
近代立憲主義国家における憲法は、権力の暴走をしばるものであって、国民
を し ば る もの では あ りま せん 。
また、近代民主主義国家では、憲法でも人権を否定する自由は認められない
というのが根源的ルール(天賦人権論)です。緊急事態条項は、憲法で国民を
し ば ろ う とす るも の です から 、お よそ 立 憲主 義と は相 いれ な いも ので す。
ましてや、憲法に、立憲主義から逸脱した権力者に権力を集中させる条項を
定 め た り 、国 民に 権 力者 に従 わせ る義 務 を定 めた りな ど許 さ れま せん 。
3.憲法に「緊急事態条項」が無くても対応可能
( 1 ) 緊急 事 態 に 対 応 す る法 律 の 充 実 、 体 制の 整 備 こ そ 重 要
①
大 規 模 な 自然 災 害へ の対 応を 言う な ら災 害対 策基 本法 の 充実 が課 題
草 案 が 理 由に して い る大 規模 自然 災害 に は、現行 の災 害対 策 基本 法や 災害 救
助 法 な ど の法 律の 充 実、 適正 な運 用、 事 前の 体制 準備 で十 分 に 対 応 可 能 で す 。
災 害 対 策 基 本 法 は 、 阪 神 淡路 大 震 災 の 後 に 充 実さ れ て き ま し た 。 もち ろ ん 、
現 行 法 で の対 応が 不 十分 なら ば、 法整 備 をす れば よい こと で す。
東 日 本 大 震災 も口 実 に使 われ ます が、災 害支 援に あた った 自 治体 職員、法 律
家 や 福 島 県浪 江町 長 が証 言し たと おり 、現場 の状 況も 分か ら ない 中央 の内 閣 総
理 大 臣 に 権力 を集 中 して 、ど んな 適切 な 対応 がで きる と言 う ので しょ うか 。
現 場 の 実 態を 掌握 し てい る自 治体 の首 長 に権 限を 委譲 した 方 が有 効で す。な
に よ り 地 震対 策を 言 うの なら 、原 発災 害 対策 の法 整備 の方 が 先行 させ る課 題 で
す 。 そ し て、 真に 震 災に 学ぶ なら 原発 廃 止の 方が 有効 では な いで しょ うか 。
②
安 保 法 制 は武 力 攻撃 に対 応す るた め と言 って きた のが 草 案作 成者 のは ず
私 た ち は、専守 防衛 なら 個別 的自 衛権 で 対応 でき、他国 の戦 争に も参 加す る
集 団 的 自 衛権 行使 に 道を ひら く安 保法 制 は戦 争参 加法 だと 批 判し 、廃 止を 求 め
て い ま す 。そ して 、憲法 9条 を世 界に ア ピー ルし て、平和 外 交で 戦争 を抑 止 す
る こ と が 、国 民の 生 命・ 財産 を守 る最 善 の道 だと 言っ てき ま した 。
と こ ろ が、安保 法制 があ れば 武力 攻撃 か ら日 本を 守れ る、と 言っ て強 行採 決
し た の が 草案 作成 に 携わ った 人た ちで す 。だっ たら 、安保 法 制が あれ ば緊 急 事
態 条 項 な ど不 要と い うの が理 屈で はな い でし ょう か。 説明 に 矛 盾 が あ り ま す 。
「 Q & A 」で も「 ミ サイ ルが 発射 され た とき に∼ 閣議 決定 を して いて は、間
に 合 わ な いの では な いか」との 質 問に「 そう した こと は( 草 案の)憲法 9条 の 2
な ど 別 の 法制 で考 え るべ きこ と」 と答 え てい ます 。
そ の 答 え の理 屈か ら 言え ば、武 力攻 撃へ の対 応は 安保 法制 で 考え るべ き、と
-4-
言 う こ と であ り、 緊 急事 態条 項を 制定 す る必 要は なく なっ て しま いま す。
実 は 、緊 急事 態条 項 を制 定し たい 理由 は 次の「(2 )」で述 べ ると おり 別に あ
り 、 武 力 攻撃 の例 を 理由 にす るの は国 民 への 脅し と口 実に 過 ぎま せん 。
③
テ ロ ・ 社 会秩 序 混乱 への 対応 なら 警 察法 があ りま す
警 察 法 に は 「 第 6 章 緊 急 事態 の 特 別 措 置 」 と いう の が あ っ て 、 第71条 に は 、
「 内 閣 総 理大 臣は 、大規 模な 災 害 又は 騒 乱そ の他 の緊 急事 態 に際 して 、治安 の
維 持 の た め∼ 緊急 事 態の 布告 を発 する こ とが でき る 」と 定め られ てい ます 。草
案 の 緊 急 事態 条項 の 「宣 言」 が「 布告 」 にな って いる だけ で す。
そ し て 、第72条に は「内 閣総 理大 臣は 、前条 に規 定す る緊 急 事態 の布 告が 発
せ ら れ た とき は∼ 一 時的 に警 察を 統制 す る 。こ の場 合に おい ては 、内閣 総理 大
臣 は ∼ 長 官を 直接 に 指揮 監督 する もの と する 」と して いま す 。
さ ら に 、 第 73条 で は 、「 緊 急 事 態 の 布告 が 発 せら れ た と き は 、 長 官は ∼ 都 道
府 県 警 察 の警 視総 監 又は 警察 本部 長に 対 し、必 要 な命 令を し、又は 指揮 をす る 」
と も あ り ます 。
す で に 内 閣 総 理 大 臣 が 強 大な 権 力 を 掌 握 で き る仕 組 み が で き あ が って お り 、
テ ロ へ の 対応 は警 察 法で でき ます 。む し ろ、海外 から のテ ロ 防止 策は 、現 行 憲
法 9条 を 活 か して 、 政府 が平 和外 交で 活 躍す るこ との 方が 有 効で す。
( 2 ) そも そ も 憲 法 に 緊 急事 態 条 項 を 盛 り 込む ね ら い は 何 か
「 Q & A 」で も「 現 行法 にも 、災 害対 策 基本 法と 国民 保護 法 に例 があ りま す 。
したがって、必ずしも憲法上の根拠が必要ではありませんが、根拠があること
が 望 ま し いと 考え た とこ ろで す」 と述 べ てい ます 。
実際に草案には、2つの条に8つの項の定めしかなく、これで緊急時に国民
の生命・財産を守れる仕組みができるなどとは考えられません。法律で具体的
な対応策を定めなければならないなら、憲法に抽象的な規定など不用です。現
実 の 事 態 には 何の 役 にも 立ち ませ ん。
結局、国民の生命・財産を守るというのは口実です。強大な権力を内閣総理
大臣に集中できる体制づくりが本音です。草案1条で天皇を元首にし、草案9
条 の 2第 1項 で 内 閣 総 理 大 臣 を 最 高 指 揮 官 と す る 国 防 軍 を 保 持 し 、 草 案 12条 ・ 13
条等で基本的人権を制限し、さらに強大な権力を一手に集中できる体制づくり
と し て 緊 急 事 態条 項 を定 める とい うの が 本当 のね らい に他 な りま せん 。
4.緊急事態条項と地方自治・自治体職員
最後に、地方自治、自治体職員との関係で、緊急事態条項が何をもたらすか
を 再 確 認 しま す。
( 1 ) 宣言 が 発 せ ら れ る と地 方 自 治 も 自 治 体職 員 も 危 機 に
草 案 99 条 1 項では 、緊急 事態 が宣 言さ れる と 、内 閣総 理大 臣が 地方 自治 体 の
-5-
長 に 対 し て必 要な 指 示を でき るこ とに な って いま す。
地 方 分 権 改 革 の 中 で 、「 国 と 地 方 の 役 割 分 担 」「 関 与 の 原 則 ・ 類 型 ・ 手 続 き ・
係争処理」等が抜本的に改革されました。ところが、内閣総理大臣からそれら
を超越した権力的な指揮命令が地方自治体の首長に行われ、自治体職員もそれ
に 服 さ な け れ ばな ら ない とい う関 係に な りま す。
住 民 の 反 対世 論が あ って も従 わな けれ ば なら ない なら、地 方 自治 の消 滅で す 。
住 民 全 体 の奉 仕者 と して の自 治体 職員 の 危機 でも あり ます 。
( 2 ) 地方 自 治 制 定 の 背 景を 再 び ∼ ∼い かな る場 合に も 機能 させ るべ きで す
国から一定の独立をした関係で国政を監視できる機能、住民の要求や実態か
ら行政を担う自治体職員の役割は、どの様な事態でも機能させるべきです。そ
の余地もない緊急事態条項は、独裁政権の成立にも何の歯止めもかけられない
事 態 を 生 じ さ せる こ とに なり ます 。
現 行 憲 法 第 8 章地 方自 治が 定め られ た 歴史 的背 景を 思い 起 こし てく ださ い 。
天皇にすべての権力が集中し、天皇をいただいた軍部が言論弾圧・思想統制を
繰り返し、国策に反対・政府に抵抗できる社会をこわして悲惨な戦争へとすす
んでしまった歴史の反省から、権力の分散、分権の仕組みとして地方自治を憲
法 に 盛 り 込ん だは ず です 。
そして、戦後の歴史では地域住民の暮らしを向上させるだけでなく、民主主
義 の 学 校 とし ての 役 割を 果た して きた の が地 方自 治で す 。1990 年代半 ばか らは 、
一 歩 進 め て分 権・ 自 治の 流れ も広 げら れ てき たは ずで す。
それを、時代を逆行させ、戒厳体制に道をひらくことも可能な緊急事態条項
に は 、首 長 、議 会、当局 幹部 も含 めて、全て の自 治体 関係 者 が反 対す べき です 。
( 3 ) 地方 自 治 と 住 民 全 体の 奉 仕 者 を 守 る 世論 を 広 げ よ う
緊急事態において、地方自治がこわされ、国民の基本的人権が侵害されるに
いたった時に、地方自治体の長が国の求める指示に従わず、独自の判断で行動
するのか、また、自治体職員が国又は長の命令に従わず住民の意志で行動する
の か 、 そ れぞ れ判 断 を迫 られ るこ とに な りま す。
そして、改憲議論の中では、そうした事態になった場合に、国がゴリ押しを
するための自治体と職員への抑圧体制・法整備が課題として出てくるものと思
われます。
職員にとっては、全体の奉仕者としての公務員制度の改悪、人事・服務管理
制度の強化、職員の職場での発言の自由、表現の自由にも制限が強められる可
能 性 が あ りま す。実 際に、草 案では 28 条 2 項を 新た に設 け て公 務員 から 労働 基
本 権 を 今 より もさ ら に制 限す る改 悪ま で しよ うと して いま す 。
そうした事態を許さないためにも、人権も民主主義も地方自治もおびやかす
草 案 に よ る憲 法改 悪 を許 さな い世 論を ひ ろげ まし ょう 。
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