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中国における CCUS 関連政策と取組みの動向

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中国における CCUS 関連政策と取組みの動向
IEEJ:2011 年 10 月掲載
禁無断転載
中国における CCUS 関連政策と取組みの動向
客員研究員
長岡技術科学大学経営情報系教授
李志東1
今年9月22日、炭素隔離リーダーシップフォーラム(CSLF: Carbon Sequestration
Leadership Forum)第4回閣僚級会合が中国・北京で開催された。解振華・国家発展改革委
員会副主任が開幕式で、中国の炭素回収・利用・貯留(CCUS: Carbon Capture, Utilization
and Storage)について演説した。解副主任は、ポスト京都議定書枠組み交渉の中国の司令
塔を務める一方、国内における省エネと温暖化防止の総合行政を司る実務責任者としても
知られているだけに、その演説は中国の基本方針を示すものとして注目されている。以下
では、同氏の演説を踏まえて、中国におけるCCUS関連政策と取組みの動向を探ってみる。
第1に、温暖化防止対策におけるCCUSの役割について、中国は中期よりも長期の方を重
視していることである。
中国政府は昨年1月に、GDP当たりのCO2排出量を2020年に2005年比40~45%削減、一次
エネルギー消費に占める非化石エネルギーの比率を15%へ引き上げる目標を国際公約とし
て国連に提出した。目標達成を担保する「第12次5カ年計画」は今年3月の全国人民代表大
会で採択された。そこで、達成責任の問われる「拘束力のある目標」として、2015年にCO2
排出原単位を2010年比で17%削減、GDP当たりエネルギー消費量を16%削減、一次エネル
ギー消費に占める非化石エネルギーの比率を2010年の8.3%から11.4%へ高めることを明記
した。2016~20年の省エネ率を16%と仮定して積算すると、排出原単位は2020年に2005年
比で47.5%の削減となる。すなわち、中国は少なくとも2020年までは、省エネと非化石エ
ネルギーの利用拡大だけで中期目標の達成を目指すのである。
CCUSに頼らない理由について、解副主任は、同技術は依然として研究開発と実証実験の
段階にあり、技術、資金、政策制度などの面で多くの挑戦に直面しているので、大規模な
商業化には程遠いとの基本認識を示している。一方、同技術は炭素の大幅削減に繋げるポ
テンシャルのある技術として、石炭依存からの脱却が短期間に困難な中国にとっても、長
期的には重要な役割を果たすだろう、と言明している。
第2に、中国はCCUSを必要な時に使える戦略的備蓄技術と位置付けたうえで、研究開発
を進めていることである2。
CCUSは2020年までに、中国で導入される必要性は見当たらないが、温室効果ガスの総
量削減義務を持つ先進国が目標実現のために導入せざるを得ない場面が出てくる可能性は
1
1983 年、中国人民大学を卒業。90 年に京都大学で経済学の博士号を取得し、2007 年から現職、兼日本エ
ネルギー経済研究所客員研究員、中国能源(エネルギー)研究所客員研究員。
2 中国は日本を含む先進国や国際機関との協力を進めながら、中原油田、吉林油田、華能北京高碑店熱電
所、華能上海石洞口熱電所、神華集団内モンゴル自治区石炭液化工場などで、CCUS関連の実証実験を行
っている。万鋼・国家科学技術大臣によると、第11次5カ年計画では、政府が20余りのCCUSプロジェクト
に2億元以上の財政資金を投入し、企業などからの投資額も10億元を超えた。
IEEJ:2011 年 10 月掲載
禁無断転載
否定できない。また、長期的には中国をはじめとする新興国や途上国も主体として導入せ
ざるを得ないかもしれない。そうなると、巨大な市場も生まれてくる。それを見越しての
技術開発が重要となる。今年7月4日公表の「国家第12次5カ年科学技術発展計画」では、石
炭火力分野でのCCUSを戦略的新興産業に指定された省エネ・環境保護産業の一部として技
術開発を促進すると規定している。
第3に、CCUS技術開発の方向性について、回収・輸送・貯留に関わるコスト低減と安全
性確保など世界共通の課題の他に、中国がより重視するのは資源化利用である。解副主任
は、CO2の資源化利用を通じて、CCUS技術の総合コストの削減とCO2削減以外の付加価値
の増大を図り、普及と産業化に繋ぎたいと述べている。
中国で資源化利用として最も期待されるのはCO2注入による石油増進回収(CCUS-EOR)
である。炭素削減だけではなく、石油の安定供給にも寄与するからである。2008年6月から
中原油田で展開されたCCUS-EORの実証実験では、昨年3月までにCO21.23万tを注入して、
原油3273tを増進回収できた。胡鳳濤・SINOPEC科学技術開発部油田課副課長によると、
中原油田全体でCCUS-EORを実施すれば、2000~3000万tの原油を増進回収できるという。
一方、CCUS-EORの大規模実施を阻害する要因は様々である。CO2販売価格が高いのは
その1つである。CNPC関係者によると、油田側が油井元でのCO2買い取り価格を150元/t
と希望するのに対し、例えば華能集団関連プロジェクトでの回収コストだけでも270元/tと
なっている。一方、許世森・華能集団クリーンエネルギー技術研究院長は、中国では
CCUS-EORの技術開発が遅れており、増進回収の経済性が海外より低いこと、経済性の向
上に必要とされる百万トン規模の実証実験が実施されていないことを原因として挙げた。
また、地下環境に対する影響や安全性への懸念を払拭できないことも大きい。李政・清華
大学BPクリーンエネルギー研究教育センター長は、EORの対象となりうる油田の多くは早
期開発されたもので、油井の施工品質が低く、地質関連データの蓄積も先進国ほどではな
いので、注入されたCO2が漏れ出すリスクは比較的に高い、と指摘した。
これらを踏まえて、中国は第12次5カ年計画において、電力や石炭化学工業など重点分野
を対象に、資源化利用を中心とするCCUSの技術開発と実証実験を一歩一歩着実に推進し、
同技術の長期的ポテンシャル、障害、リスクと影響を総合的に評価するとともに、中国の
長期発展戦略における位置付けと役割を明確化する、と解副主任が表明した。
最後に、CCUSに関する国際社会の役割分担について、解副主任は、国際協力による技術
開発とそれに伴う知的財産権の共有化の重要性を強調しつつ、新興国や途上国への資金援
助を求めた。また、先進国が技術や資金等の比較優位性を活かして、大規模な商業化モデ
ル事業を実施し、同技術の普及と応用の率先垂範を通じて、新興国や途上国に手本を提供
すべきだ、と強調した。これらは、ポスト京都議定書枠組み交渉に関する中国の一貫した
主張でもある。
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