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我が国のこれからの スポーツ振興の方向性

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我が国のこれからの スポーツ振興の方向性
ある人に
魚を一匹与えれば、
その人は一食を得る。
魚の捕り方を教えれば、
その人は生涯食える
III
我が国のこれからの
スポーツ振興の方向性
管仲(中国)
管仲は春秋時代、斉の宰相。この金言は、管仲の思想
をまとめたといわれる『管子』に収められた一言。
『管
1 21世紀のスポーツ振興の基本理念
子』の中にはこの他にも「一つの手間で、一の利益を得
るなら穀物を植える、十の利益を得るには木を育てる、
百の利益を得るには人を育てる事だ」と、人材養成の重
要性を説くものが多い。
スポーツは競技(コンペティション)である以上、指
生涯スポーツ社会の実現
これからのスポーツ振興に関する(財)日本体育協会(以下「本会」
という。
)の使命は、国民の一人ひとりが豊かで活力のある「生活/
導者が勝利を目指した指導を行うことは当然。ただ勝利
を求めるあまり指導を急ぎ、答えを与えてしまったとし
暮らし」を目指し、生涯を通じたライフステージにおいて、自己の
たら、結局は競技者が生涯食える(=スポーツに親しむ)
享受することのできるスポーツライフを築き上げていくという社会、
指導にはならないだろう。
管仲がスポーツ競技者の育成を念頭に置いていたはず
いわゆる「生涯スポーツ社会」を実現していくということです。
はもちろん無いが、この言葉がスポーツ指導者に示唆す
るものは重い。管仲が仕えた斉の桓公は凡庸といわれな
がら、春秋時代最初の覇者となった。今も昔も指導者の
重要性は変わらないのである。
能力・適性、興味・関心等に応じ、主体的にスポーツ文化を豊かに
生涯スポーツ社会の実現に向けて
生涯スポーツ社会の実現を目指し、国民の一人ひとりがスポーツ
に対する多様なニーズや能力に応じて主体的なスポーツ実践能力を
高め、継続的なスポーツ実践者の増大を図るためには、スポーツ文
化を豊かに享受する能力を育成することのできる、資質や能力の高
い指導者の存在が不可欠なのです。
本会は、この「生涯スポーツ社会」実現のための具体的な事業の
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一つとして、中央競技団体をはじめとする加盟団体とともに、社会
また、競技力向上を目指し、自らの限界に挑戦しつづけるトップ
の要請に的確に応えることのできる指導力を備えた責任あるスポー
アスリートは、世界で一番になる、世界で活躍したいなど自らの目
ツ指導者の養成事業を実施しています。
的を叶えるために「生活/暮らし」の中心にスポーツがあります。
トップアスリートたちは、激しく苦しい練習に耐えながら自らの
目的を達成するために、その他の欲望に惑わされず生活しているの
2 スポーツ振興の具体的視点
です。これも「スポーツのある人生」の一つです。
しかし、トップアスリートとして活躍してきた競技者もいつかは
スポーツのある人生
その競技生活からリタイヤする時が訪れます。目的達成のために身
かつては、人生において「スポーツをする」時期というのは、ご
体を酷使し、挑戦し続けたスポーツとの別れも、スポーツとの決別
く限られた年代の時期にしか行われないもののように捉えられてい
の時ではなく、人生の中では単なる通過点に過ぎず、スポーツへの
ましたが、実際には、そうではありません。
新たな携わり方のスタートを切る時となるのです。
例えば、乳児期においては、ハイハイをすることや家族との触れ
合いという行為そのものが全身を使います。そのこと自体をスポー
ツとは呼びませんが、体を動かす「運動」という意味ではスポーツ
に関わっていると言うことができます。
スポーツへの多様な関わり
日本のスポーツは、学校体育や企業スポーツを基盤とした「する」
スポーツを中心に発達してきました。
10歳未満ぐらいでは、友達との触れ合いなども増し、楽しみなが
しかし、少子高齢化やバブル崩壊後の長期的な経済不況、急速な
ら知らず知らずのうちに身体を動かし、また、地域の野球クラブや
高度情報化など、社会的背景の変化とともに、企業スポーツ等の衰
サッカークラブに所属する子どもも出始め、自らの意志でスポーツ
退、子どもたちの体力低下、国際競技力の低迷など、スポーツ界も
を始めます。
多くの課題に直面しており、スポーツ環境の整備についてはこれま
10代、20代では、自らの欲求から、より専門性の高いスポーツを
でと同じ形で進めていくことが難しくなっていると考えられます。
追求したり、仲間と楽しくコミュニケーションをはかるためにスポ
このような社会的背景の変化とそれに伴う価値観の多様化、ライ
ーツを行ったりします。
30代、40代では、子どもや家族、仲間とのコミュニケーション、
自分自身の生活の充実をはかるため、また、日常の仕事からリフレ
ッシュするためなどにスポーツを行います。
50代、60代では、気持ち良い汗をかきたい、体力を維持したい、
老化を防止したい、スポーツをすることで生きがいを感じたいなど
社会環境の変化とスポーツ
少子化と超高齢社会
ライフスタイルの多様化
国際化
高度情報化
の理由からスポーツに携わることが考えられます。
このように、個人によってスポーツをする目的は様々です。ライ
学校運動部や
企業スポーツの衰退
フステージに応じたスポーツへの取り組み方があるとともに、これ
国際競技力の低迷
までスポーツを行っていなかった人々にとっても「スポーツとの出
青少年の体力低下
会い」は、どの年代でもあります。
スポーツ環境の整備が必要
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一つとして、中央競技団体をはじめとする加盟団体とともに、社会
また、競技力向上を目指し、自らの限界に挑戦しつづけるトップ
の要請に的確に応えることのできる指導力を備えた責任あるスポー
アスリートは、世界で一番になる、世界で活躍したいなど自らの目
ツ指導者の養成事業を実施しています。
的を叶えるために「生活/暮らし」の中心にスポーツがあります。
トップアスリートたちは、激しく苦しい練習に耐えながら自らの
目的を達成するために、その他の欲望に惑わされず生活しているの
2 スポーツ振興の具体的視点
です。これも「スポーツのある人生」の一つです。
しかし、トップアスリートとして活躍してきた競技者もいつかは
スポーツのある人生
その競技生活からリタイヤする時が訪れます。目的達成のために身
かつては、人生において「スポーツをする」時期というのは、ご
体を酷使し、挑戦し続けたスポーツとの別れも、スポーツとの決別
く限られた年代の時期にしか行われないもののように捉えられてい
の時ではなく、人生の中では単なる通過点に過ぎず、スポーツへの
ましたが、実際には、そうではありません。
新たな携わり方のスタートを切る時となるのです。
例えば、乳児期においては、ハイハイをすることや家族との触れ
合いという行為そのものが全身を使います。そのこと自体をスポー
ツとは呼びませんが、体を動かす「運動」という意味ではスポーツ
に関わっていると言うことができます。
スポーツへの多様な関わり
日本のスポーツは、学校体育や企業スポーツを基盤とした「する」
スポーツを中心に発達してきました。
10歳未満ぐらいでは、友達との触れ合いなども増し、楽しみなが
しかし、少子高齢化やバブル崩壊後の長期的な経済不況、急速な
ら知らず知らずのうちに身体を動かし、また、地域の野球クラブや
高度情報化など、社会的背景の変化とともに、企業スポーツ等の衰
サッカークラブに所属する子どもも出始め、自らの意志でスポーツ
退、子どもたちの体力低下、国際競技力の低迷など、スポーツ界も
を始めます。
多くの課題に直面しており、スポーツ環境の整備についてはこれま
10代、20代では、自らの欲求から、より専門性の高いスポーツを
でと同じ形で進めていくことが難しくなっていると考えられます。
追求したり、仲間と楽しくコミュニケーションをはかるためにスポ
このような社会的背景の変化とそれに伴う価値観の多様化、ライ
ーツを行ったりします。
30代、40代では、子どもや家族、仲間とのコミュニケーション、
自分自身の生活の充実をはかるため、また、日常の仕事からリフレ
ッシュするためなどにスポーツを行います。
50代、60代では、気持ち良い汗をかきたい、体力を維持したい、
老化を防止したい、スポーツをすることで生きがいを感じたいなど
社会環境の変化とスポーツ
少子化と超高齢社会
ライフスタイルの多様化
国際化
高度情報化
の理由からスポーツに携わることが考えられます。
このように、個人によってスポーツをする目的は様々です。ライ
学校運動部や
企業スポーツの衰退
フステージに応じたスポーツへの取り組み方があるとともに、これ
国際競技力の低迷
までスポーツを行っていなかった人々にとっても「スポーツとの出
青少年の体力低下
会い」は、どの年代でもあります。
スポーツ環境の整備が必要
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フスタイルの急激な変化は、人々のスポーツへの関わり方にも大き
な変化をもたらし、
「する」スポーツだけでなく、
「みる」
「ささえ
る」などのさまざまな関わり方が存在するようになってきました。
「する」スポーツは、子どもから大人まで、誰もが同じルールで
気軽に楽しめるニュースポーツや自然環境を楽しむアウトドアスポ
ーツ、スケートボードなどコンクリートの上でも楽しめるストリー
ト系のスポーツなどたくさんの新しい分野を生み出しました。
また、
「みる」スポーツとしては、日本のプロ野球やJリーグは
もとより、衛星放送やインターネットを使うことによって、誰でも
簡単に世界のスポーツをリアルタイムで楽しむことができるように
Ⅳ
これからのスポーツ
指導者養成の方向性
なりました。特に近年では、世界のトップレベルのプレイを楽しむ
ことのほかに、日本を離れ、世界で活躍する日本人選手が多く現れ
たことから、ますます「みる」スポーツへの関心が高まっています。
1 これからのスポーツ指導者養成の方向性
「ささえる」スポーツでは、1998年のオリンピック長野冬季競技
会や2002年に日韓共催で開催されたサッカーワールドカップで、た
第Ⅱ章「新たなスポーツ環境とスポーツ指導者」でも紹介していると
くさんのボランティアの方々が活躍されました。このことは、自己
おり、本会のスポーツ指導者養成事業は、今後のスポーツ活動の場に
の持っているノウハウを活かし、スポーツイベントをはじめとする
おいて必要とされるスタッフを想定し、
実技指導を担当するコーチン
各種のスポーツ活動の場面において支援することにより、自己実現
グスタッフ、
医学面からのサポートを行うメディカル・コンディショ
や自己充実を図ろうとする人々が増加しているという傾向にあるこ
ニングスタッフ、
地域スポーツクラブなど組織を円滑に経営していく
とを示しています。
存在であるマネジメントスタッフを養成しています。
このように、スポーツには、運動能力の高い人たちだけではなく、
様々な目的のもとで、子どもからお年寄りまで、多くの人々が関わ
るようになりました。
2 日本体育協会が加盟団体等と協力して
養成するスポーツ指導者の分類と役割
スポーツが「安全に、正しく、楽しく」行われるためには、スポ
ーツ技能を指導する実技指導者の存在の重要性もさることながら、
医学面からのサポートを行うスポーツドクターやアスレティックト
レーナー、さらには地域スポーツクラブなどの組織を円滑に経営し
ていくマネジメント能力を持った人材が、それぞれの立場を尊重し
ながら協力していく体制が不可欠です。本会では、下表に示すスポ
ーツ指導者を養成しています。
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