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第6号 2013.03

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第6号 2013.03
ARC 住宅不動産通信 第 6 号
2013.03
ファイナンシャルプランナー 川口 満 の
コンサルタントの
眼
なぜ住宅に消費税はかかるのか
~いよいよせまる税率アップを前に原点を見直そう~
今回のテーマは日本の財政事情の悪化とともに、話題の中心となっている消費税です。昨年ようやく
民主党政権下で自民党、公明党の賛同をえて消費税の税率アップが決まりました。もともと自民・公明
連立政権時代の 2009 年の税制改正において、社会保障と税の一体改革による基本方針は合意されてい
ます。所得税法の付則 104 条で合意内容が以下のように明記されています。
「経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革
を行うため、平成 23 年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。当該改革は、2010 年代の半ば
までに持続可能な財政構造を確立することを旨とする」
消費税の税率アップによって、増え続ける社会保障費用を捻出することは既定路線なのです。経済状
況が悪く、デフレ脱却が望めない間は、消費税を上げることができないという政治家の先生方の反対が
根強く 2012 年の夏の国会でまとまるまでの紆余曲折は皆さんご存知の通りです。
消費税税率アップを柱とする、税制抜本改革は入口のところで手間取っていたわけです。しかし、平
成元年に消費税が導入されてから四半世紀が経とうとしている中で、消費税そのものの制度上の問題点
も指摘されてきています。消費税の重要性が高まるなかで、問題点への対処も求められます。ここでは
住宅・不動産の分野で何が問題となるのか、とりあげてみましょう。
租税収入に占める消費税の割合がこれから急増する
一般会計(国税のみ)総額 41 兆 4867 億円の内訳を示します。
第 1 位 源泉所得税
第 2 位 消費税
第 3 位 法人税
国税庁レポート 2012 より、ARC にて作成
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消費税率 5%であっても、租税収入に占める消費税の割合はほぼ 4 分の 1。所得税、法人税が思った
ほど多くないのは、リーマンショック後の景気後退のせいもありますが、やはり前回お伝えしたように、
生産年齢人口が縮小し所得が伸びない人口構造になっていることが大きいでしょう。いずれにせよ、国
の財政を支える頼れる財源をどこに求めるかは、大きなテーマでした。欧州の例を見るまでもなく、流
通消費の段階で経済活動をとらえて課税する税金が普及しているのは、それなりの理由があるものと考
えます。日本においては、1988 年に何度かの挫折を経てようやく消費税として導入されたものです。当
初は小さく産んで、いずれは大きく育てると言われていましたが、3%から5%へあげるときでも大変
な騒ぎでした。難産であった税制ですから、導入することを優先し制度として問題が予想される点には
目をつぶっていたのが実状でした。四半世紀を経て制度が定着し、なんどかの改正を経てはいますが、
住宅・不動産の分野では以下のような問題点が指摘されているのです。
住宅・不動産に係る消費税の論点
A.土地の譲渡及び貸付が非課税
一般の資産貸付及び役務の提供は課税されます。土地は「消耗しな
い」前提で消費の対象ではないという理由らしいのですが・・・。
通常は土地建物一体となって譲渡されることが多いので、いちいち分
別することになります。
B.住宅の貸付が非課税
社会政策的な配慮から急遽非課税とされたものです。当初は住宅、貸
付の定義が曖昧でウィークリーマンションや付属施設の賃料で疑義が
生じたため、通達で例示されています。これからも定義が変わるかもし
れません。
C.住宅取得は課税業者が有利か
最終消費者が住宅取得すると当然消費税を負担します。ところが事業
者が住宅取得するにあたっては、課税業者であって課税売上がある限
り、消費税の仕入れ控除を受けられます。大きな仕入れ控除であれば
納税額を超え、税金の還付を受けられるのです。
D.不動産業で免税事業者は有利か
既存住宅などの不動産を売買すると、個人間では課税されず、課税売
上高が 1,000 万円以下の事業者も免税。しかし免税業者は、仕入れや
間接費用にかかった消費税を仕入れ控除することができません。免税
だから有利という訳ではないのです。
E.不動産業は簡易課税で有利か
課税売上高が 5,000 万円以下の事業者は、簡易課税制度を選択する
ことで、不動産業であれば課税売上高の 50%を課税仕入れにすること
ができます。実際の不動産業で売上高に占める変動費部分が 5 割に
達することはないので、ほとんど使われません。
消費税導入にあたって、中小事業主の納税負担(経理処理)を軽減するためということで、免税事業
者や簡易課税制度が設けられました。そのことによる益税(納税されるべきものが事業者の下に残る、
制度上の欠陥)が問題であるということで、対象となる課税売上高の金額減らしてきています。これは
中小企業であれば、住宅・不動産に関わらず問題となります。住宅・不動産に固有の問題となると、A.
から C.までの論点と言えそうです。
土地の譲渡は確かに消費とは言えず、キャピタルゲインについては所得税が分離課税されます。問題
は土地の貸付が非課税とされても、施設利用に付属した土地の貸付は課税となることです。借地権を設
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定する土地貸付は非課税ですが、駐車場として整備したものは課税となるのです。紛らわしい区別と言
わざるをえません。
住宅の貸付が非課税なのは意味があることなのか
住宅を持たず、賃貸住宅に住むテナントが社会的弱者と決めつけるわけにはいきませんが、住宅の貸
付は非課税と決められました。そして住宅貸付が非課税となると、住宅の範囲、貸付の範囲、対価たる
家賃の範囲がそれぞれ問題となります。
住宅の範囲は、まず人の居住の用に使われる部分に限定され、戸建以外にもマンション、アパート、
社宅、寮、下宿などが含まれます。駐車場、共用施設や付属設備で住宅と一体となって貸し付けられて
いるものは住宅に含まれますが、別途賃料をとっているものは外されます。店舗など用途を別にするも
のが建物内に含まれている場合は合理的に住宅と区分する必要があります。
貸付の範囲は、賃貸借契約の中で人の居住の用に提供することが明記されている必要があります。人
の居住用であっても、貸付期間が一月未満のものや旅館、ホテル、貸別荘などの施設の貸付に該当する
ものは外されます。ウィークリーマンションのようなタイプは貸付期間が一月を超えても非課税とはで
きないのです。
対価たる家賃の範囲は、月ぎめ家賃の他、敷金、保証金、一時金等のうち返還しない部分を含みます。
共同住宅の共益費は家賃に含まれます。もしマンションの専用部分で使う通信料などを賃料とは別に利
用料として徴収する場合は課税となります。給食や介護、介助サービスなどを提供するものは、そのサ
ービス部分は課税となり、部屋代に相当する部分のみが非課税となります。
このように消費税のなかに、非課税取引を取り込むと、さまざまな例外項目が生じたり、定義が明確
でないと不合理な取引が生じたりすることは避けられません。消費税の税率上昇とともに、軽減税率や
非課税対象の設定が議論されていますが、住宅の貸付を非課税にすることだけでも、このようにさまざ
まな取り決めが必要であり、疑義が生じます。消費税の課税原則として、広く薄く負担を求め、簡素な
制度にしたいのなら、なるべく非課税を増やさないことにしなければなりません。
住宅の取得の消費税負担こそが最大の問題
消費増税が国会で決まった際、高額消費で影響が大きい自動車と住宅について、十分な購入支援をす
ることも民主党、自民党、公明党の三党で合意しています。所得税の住宅ローン控除拡大、個人住民税
の控除増額、控除枠を使い切れない方への給付金などが検討されているようです。しかし、消費税率が
5%から 8%、10%と上がるのであれば、住宅の価格が 3000 万円として 150 万円だったものが 240 万円、
300 万円と負担が急増することになります。少々の負担軽減策では追いつくものではないのです。
さらに別の問題として、自己居住用の住宅取得であれば、少なくとも軽減措置がありますが、賃貸住
宅の取得について何らの軽減も考えられていないのです。単純に必要事業資金の急増となります。一方
で住宅の取得が課税業者の建設投資であれば、消費税の仕入れ控除が受けられるのです。もし住宅の貸
付が課税取引であって、住宅取得する時点で課税業者になり、その後の家賃収入について消費税をおさ
めるのであれば、取得時の消費税負担は税額の仕入れ控除ができるのです。つまり賃貸住宅の取得につ
いては、このような課税業者の選択を可能にする必要があるのではないでしょうか。そもそも建設段階
で、一時に高額の税金をかけることに問題があります。
高額の税金を還付することに抵抗があるのなら、そもそも賃貸住宅の投資に対し、課税しなければよ
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いのです。不動産の取得を資産取引として消費税の対象とはなじまないと考えることもできるのではな
いでしょうか。
(賃貸用)不動産は土地、建物が一体となって価値が生まれるのです。資産として長期
にわたる収益が期待できるから、高価なものとなっています。その資産の取得にあたって消費税をかけ
るというのは、課税の論理として大いに問題があると思われます。
旭リサーチセンター
主席研究員 兼
住宅・不動産企画室長 川口 満
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