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(2) 吸収-1:バイオアベイラビリティーと初回通過効果

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(2) 吸収-1:バイオアベイラビリティーと初回通過効果
薬物動態学・現場での活用法(2)
吸収-1:バイオアベイラビリティーと初回通過効果
廣田 孝司
東京理科大学薬学部生物薬剤学研究室
今回は薬物動態の初めの重要なプロセス「吸収」につい
てです。まずここでは経口吸収を考えます。経口吸収に関
しては「バイオアベイラビリティー」
「初回通過効果」な
どの言葉がありますが、そこから思い出してみましょう。
す〔小腸での非代謝率= Fg〕。
さらに、門脈血は肝臓、肝静脈を経て循環血に合流します
が、肝臓での抽出、代謝を免れたもの〔肝アベイラビリ
ティー= Fh〕だけが循環血に到達します。バイオアベイラ
ビリティー(F)は、F = Fa × Fg × Fh と計算されます。
あるくすりを飲んで 80% が消化管粘膜を透過し、消化管
壁の細胞で 20% 代謝され、残りは門脈に移行、その 80% が
肝臓を無事通過できたとすると、バイオアベイラビリティー
は F=0.8 × 0.8 × 0.8 ≒ 0.5 なので、飲んだくすりの半分だ
●吸収とバイオアベイラビリティー
けが薬効に寄与することになります。ただし、消化管内で効
くすりの吸収というと消化管内からは消失し、体内に取り
くくすり(胃薬など)や肝臓が作用部位の場合(スタチン類
込まれていくことをイメージするでしょう。狭義の吸収はそ
など)は、F 値が高いことは重要ではありません。
の通りですが、くすりの「役割」も考えた場合、もう少し厳
●初回通過効果って?
密な定義が必要です。多くのくすりは循環血へ移行後作用部
くすりの吸収では「初回通過効果がある」とか「ない」と
位に達しそこで薬効を発揮します。薬物動態的には吸収をバ
か言います。初回通過効果があると効き目が悪くなります
イオアベイラビリティー(生物学的利用率)で評価し、投与
が、それは何故でしょう?小腸や肝臓で代謝されやすいくす
されたくすり(投与量)のうち薬効にどれほど寄与できるか
りは、消化管腔内から小腸壁に移行しても循環血には至らな
を表わします。バイオアベイラビリティーの計算には、くす
いので、あまり効きません。つまり、Fg や Fh が小さいくす
りの血中濃度(多くは血漿中濃度)から血中濃度 - 時間曲線
りは初回通過効果を受けやすく、経口投与にはあまり適しま
を描き、その線の下の面積(AUC)を用います。バイオア
せん。こうしたくすりは、小腸壁や肝臓を通過しない投与方
ベイラビリティーは経口投与後の AUC を静脈内投与後の
法、例えば、静脈内投与や坐剤投与など別の投与経路の考慮
AUC で割った値で、投与されたくすりのうち循環血へ移行
が必要になります。
した割合になります。
次回も吸収についてもう少しお話したいと思います。
●バイオアベイラビリティーを決定する要因(図)
バイオアベイラビリティーは、くすりや患者の持つ性質に
図 バイオアベイラビリティー
起因する 3 つの要因で決まります。服用後、有効成分は消化
胃
循
どの程度透過できるか〔消化管粘膜透過率= Fa〕が第一の
消化管
管(仮に小腸としましょう)で溶け出します。小腸壁の膜を
F = Fa×Fg×Fh
り
くす
特定のくすりを汲み出すトランスポーターが機能し管腔内に
戻される場合もあります。例えば、いくつかの抗がん剤など
はp - 糖タンパク質(Pgp)によって一部が汲み出されます。
小腸の細胞にも代謝酵素があり CYP3A なども含まれていま
す。ここで代謝されずに残ったものだけが門脈血に移行しま
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小腸
Pgp
大腸
Fg
肝臓
門脈
代謝
Fh
環
血
Fa
血に移行できるわけではありません。小腸管腔側の膜にある
代謝
関門です。小腸壁の細胞に取り込まれたくすりがすべて門脈
Fa(消化管粘膜透過率)
Fg(小腸非代謝率)
Fh(肝アベイラビリティー)
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