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Page 1 州工業大学学術機関リポジトリ *kyutaca 『 Kyushulnstitute of
九州工業大学学術機関リポジトリ
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柔道競技における戦術の研究 : 第14回世界柔道選手権大
会のゲーム分析
橋本, 年一
1987-03-31T00:00:00Z
http://hdl.handle.net/10228/3486
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
29
柔道競技における戦術の研究
一第14回世界柔道選手権大会のゲーム分析一
(昭和61年11月29日 受理)
体育教室橋本年一
AStudy of the Tactics in the Judo Competition
一An Analysis of The 14tll World Judo Championships一
Toshikazu HASHIMOTO
1.はじめに
日本で創意工夫され育ってきた柔道競技は,オリンピック種目にも採用され,国際柔道
連盟への加盟国は120ケ国を数え,サッカーに次ぐ競技人口を有する国際スポーツとして
普及発展してきた。
一方,国際化が進むにつれ,科学的なトレーニングを取り入れた新しい練習方法や,そ
れぞれの国で古くから行なわれている格闘技(サンボなどの民族型レスリング)の技術に
工夫改良を加えた新技術の開発なども目覚ましく,競技ルールの改定などとも相まって,
従来の日本柔道とは異なった近代的なスポーツとして生まれ変わろうとしている。
即ち,正しい姿勢で正しく組んで技を競い合った日本の柔道が,組む前あるいは片手で
持って攻撃してくる外国選手のパワーとスピードさらにスタミナの前に,技を出せない内
に試合が終るといった,柔道以前の戦いに敗れるケースが近年非常に多くみられるように
なった。
今や旧来型の柔道でこれらの新しい戦術に対抗することは困難となり,日本の柔道も大
きな過渡期を迎え,柔道競技そのものに対する考え方を含めた技術や戦術の根本的な改革
を迫られているといえよう。
そこで本研究では,新しい格闘技としての柔道の戦術面にポイントを絞り,現在各国の
トップレベルにある選手達がどのような試合運びをしているかを,第14回世界柔道選手権
大会の試合結果について分析を行ない,さらに第18回全日本選抜柔道体重別選手権大会
(世界選手権日本代表最終選考会)との比較も交えながら,近代柔道の特徴と新戦術を探
ろうとするものである。
30 橋 本 年 一一
皿,研 究 方 法
1.対 象
(1)昭和60年9月にソウルで開催された第14回世界柔道選手権大会における全試合,
延べ217試合(内キケン試合の3試合を除いた214試合について考察した)を対象
とした。
(2)昭和60年7月に行なわれた第14回世界柔道選手権大会の日本代表選考,第18回全
日本選抜柔道体重別選手権大会の試合結果を参考とした。
2.内 容
(1)試合結果の内訳と分析
(2) 「一本」で勝敗が決まった試合の分析
(3)先取ポイントと試合結果の分析
(4)技の判定内容の分析
(5)勝敗が決定した技の分析
3.方 法
筆者独自の記録用紙を用いデーターを採り,タイム・スタディを含め上記内容につ
いて分析を試みた。
今回の大会は,新ルールにより試合時間は全て5分間で行なわれた。
尚,表中記号の○は一本,θは技有り,㊤は有効,eは効果,*は立技と寝技の合
せ技,▲は指導ポイント,念は注意ポイント,会は警告ポイントを示す。
田.結果および考察
1.試合結果の内訳と分析
表1は全試合217試合中キケン試合の3試合を除いた214試合について,試合結果の内訳
を示したものである。
これをみると,「一本」の判定で勝敗が決まり,5分間戦わず途中で試合が終了した試
合は104試合(48.6%),ポイント差による優勢勝ちおよび僅差の判定で勝敗が決まり5分
間戦った試合は110試合(51.4%)であった。
各クラス別にみると,一本勝ちによる勝敗決定が多くみられたのは,−65㎏級(29試合
中20試合の69.0%),−71㎏級(29試合中19試合の65.5%),無差別級(25試合中15試合の
60.0%)で,他のクラスではポイント差および僅差での勝敗決定が多くみられ,特に一60
㎏級(28試合中21試合の75.0%),−78㎏級(29試合中19試合の65,5%),−86㎏級(23試
合中14試合の60.9%)などで多くみられた。
一方,国内の選考試合をみると「一本」で勝敗が決まった試合は49試合中7試合の14.3
%に過ぎず,ポイント差および僅差での勝敗決定は42試合の85.7%もみられた。特に全体
の半数近くの24試合(49,0%)が僅差による判定試合であり,図1からも解かるように,
各国のレベルが上り実力が拮抗してくると,1ポイントを競い合う際どい判定試合が今後
益々増えることが予想される。特に積極的な攻撃柔道を要求する現行ルールでは,アマチ
ュァ・レスリングのトレーニング方法などを参考にしたスタミナの養成,さらにスタミナ
柔道競技における戦術の研究 31
表一1 試合結果の内訳 N=214
5分間戦った試合
一本で勝敗が決まった試合
最終一本勝
一発一本勝
立技
抑込技
関節技
絞技
立技
抑込技
関節技
先取ポ
逆転一本勝
絞技
立技
抑込技
関節技
Cント勝
絞技
逆転勝
技術
差
サ 定
注意
ポ膓ト無し
1
6
よ1ト・勝
皇工±上
12
2
2
4
2
2
4
1
1
6
4
2
7
4
4
2
4
1
同ポイント
z 審
s 住(㎏) 奉
一60
28
2
1
一65
29
4
4
一71
29
5
2
一78
29
4
一86
23
5
1
一95
27
3
1
+95
24
1
25
4
無
計
214 28
2
2
2
6
3
5
5
1
1
3
4
1
1
5
1
9
1
1
1
1
2
1
6
5
1
5
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1
1
43
28
2
4
1
1
1
1
2
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1
1
2
22
18
6
4
3
6
3
2
1
1
1
4
3
6
1
30
2
㎏ 36 %
2.0
懸猛一[=コ∈≡≡≡ヨE:::コ
ー発一本 最終一本 逆転一本 先取ポイント勝 逆転 僅差
図一1 試合結果の内訳の比較
の配分を考えた試合運びなど,早めに勝負を決める戦術の研究が緊急の課題といえよう。
次に,「一本」で勝敗が決まった104試合の内訳は,最初の判定が「一本」で試合が終了
した44試合(42.3%),ポイントを連取し(合せ技を含め)最終的に「一本」で試合が終
了した50試合(48,1%),相手に先にポイントを取られ逆転一本勝ちした10試合(9.6%)
32 橋 本 年 一
表一2 「一本」で勝敗が決ま
タイ
W判
iス
s)
0∼30秒
立
抑
絞
30秒∼1分
関
立
抑
絞
1分∼1分30秒
関
立
1
一60
一65
3
2
一71
2
1
一78
1
1
一86
2
一95
1
絞
抑
1
1
立
1
1
3
3
1
2
1
3
2
1
1
1
1分30秒∼2分
関
1
1
1
3
計
12
0
0
12
1
1
1
1
7
2
7
1
0
1
1
3
9
11
抑
絞
関
2分30秒∼3分
立
抑
1
1
絞
関
1
1
1
1
3*
7
2
1
7
1
4
19
1
1
1*
2
1
1
0
6
10
4
13
10
2分∼2分30秒
立
1
1
1
2
関
1
1*
無
絞
1
1
十95
抑
4
1
1
3
2
4
0
1
1
6
3
6
5
2
5
9
11
0
11
‡ 立技と立技の合せ技1試合含む
表一3 先取ポイントの判
タイム
i㎏)
30秒∼1分
0∼30秒
c粕フス定
○
e e
○
1
一60
一65
2
一71
2
一78
1
一86
2
一95
1
+95
○
e
○
1
1
2
3
3
2
1
1
2
3
1
1
1
1
4
2
2▲
3
1
1
計
11
7
13
7
8
e e e
1
6
2
8
18
26
1
1
1
1
2
2
1
1
1
1
⇔
2分∼2分30秒
○
1▲
2
3
1
1
1
e
θ
1
1
1
10
⇔
1
2
10
e
2
1
1
2
2
1分30秒∼2分
○
1
1
2
1▲
3
38
1
3▲
2
無
27
1
1▲
1
○
2
1
2
11
1
1分∼1分30秒
⇔
1
1
10
2分30秒∼3分
○
1
e e
1
1
1
2
1
1
1
1±
1
⇔
1
1
1
1
1
1
4㈲
2⇔
1
6
14
24
5
4
4
4
12
5
3含)
2
1
7
∈)
17
2
6
2
2
14
16
6
3
2
3
3
6
11
14
▲ 指導によるポイント1試合含む 会 警告によるポイント1試合含む
± 注意によるポイント1試合含む ④2試合▲指導によるポイント
(ロ)2試合とも 〃
であった。
ポイント差および僅差の判定で勝敗が決まり,5分間戦った110試合の内訳は,1ポイ
ントを先取し守り切った43試合(39.1%)(ペナルティポイント11試合を含む),2っ以上
のポイントを守り切った28試合(25.5%),先にポイントを取られ逆転ポイントを取り返
し守り切った7試合(6.4%),両者ポイントが無く僅差判定による30試合(27.3%),両
者同ポイントで僅差判定となった2試合(1.8%)であった。
柔道競技における戦術の研究 33
った技の内訳と時間分布
3分∼3分30秒
立
絞
抑
関
3分30秒∼4分
立
絞
抑
関
4分∼4分30秒
立
絞
抑
関
1
絞
関
1*
2
1
1
1
1
2
2
1
1
1
6
2
0
5
1
0
1
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8
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4
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0
0
2
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3
0
0
0
2
1
2
1*
6
2
1
0
1
8
1
1
3
3
5
1
2
7
6
1
1
53
33
8
10
4
1
0
4
4
1
53
5
6
7
4
10
関
9
2
5
1
絞
1
5
1
4
抑
10
2
1
計
立
1
2
1
2
抑
2
1
1
4分30秒∼5分
立
9
51
104
定内容と時間分布
3分∼3分30秒
○
e e
⇔
3分30秒∼4分
○
θ
e
⇔
1
1
1
4分∼4分30秒
○
⇔
4分30秒∼5分
○
e e
○
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
1
2
7
9
4
2
2
2
6
8
3
5
8
10
2
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2
1
6
4
6
1
6
1
1
1
1
5
5
1
1
1
3
7
1▲
2
e e
θ
7
1
1
計
○
1
1
1
2
e
θ
4
2
8
1
2
0
0
2
0
9
4
4
2
5
1
12
1
2
5
6
4
4
6
8
44
30
41
50
44
121
165
2.「一本」で勝敗が決まった試合の分析
「一本」で勝敗が決まった技の内訳と時間分布についてみたのが表2である。ここでは,
技の内訳を立技・寝技(抑込技,絞技,関節技)と大きく分類して示した。
「一本」で勝敗が決まった104試合について,立技・寝技に分けてみると立技53試合
(51.0%),寝技51試合(49.0%)とほぼ同数であり,内訳別にみると,「一発一本」試合
34 橋 本 年 一
では44試合中,立技28試合(63.6%),寝技は16試合(36.4%)と立技が多くみられるが,
「最終一本」試合では,立技は50試合中22試合(44,0%)に対し寝技は28試合(56.0%)
と寝技が多くなり,さらに「逆転一本」試合になるともっと極端で,立技は10試合中3試
合(30.0%)に対し寝技は7試合(70.0%)となっている。
一方,国内の選考試合をみる,7試合中立技1試合(14.3%)に対し寝技は6試合(857
%)と実力が接近してくると立技で一本を取ることは非常に困難となり,今後の国際試合
に寝技の重要性を暗示するかのような結果がみられる。
各クラス別にみると,軽量級・中量級では,ほぼ全体と同傾向がみられ,軽重量級(−
86㎏級・−95㎏級)では立技,重量級(+95㎏級・無差別級)では寝技での決まり技が多
くみられた。
次に,技の決まった時間分布をみると,立技では53試合中19試合(35、8%)が試合開始
からの1分間でみられ,前・後半で分けてみると,前半の40試合(75.5%)に対し,後半
は13試合(24.5%)と極端に少なくなっている。一方寝技では,抑込技の関係で試合開始
からの1分間が最も少なくなっている以外どの時間帯でも平均してみられ,前・後半で分
けてみても,前半23試合(45.1%)に対し,後半は28試合(54.9%)とむしろ立技とは逆
に後半の方で多くみられる。さらに国内選考試合をみると,前半は2分から2分30秒の間
で立技の1試合がみられるだけで,寝技の6試合はすべて後半にみられる。
これらの結果から,立技が試合の前半,寝技が後半で多くみられるのは,一瞬の判断力
や技を掛ける微妙なタイミングなどを必要とする投技においては,脳から筋肉への伝達を
つかさどる神経系統の働きが疲労との関係で鈍ると技が決まりにくくなるのではないかと
思われ,立技での勝負は前半戦,逆転や後半の勝負は寝技を用いる方が有効な戦術のよう
である。
3.先取ポイントと試合結果の分析
先取ポイントが試合の勝敗にどのように影響しているかを,先取ポイントと試合結果と
の関係についてみると,先取ポイ’ントが勝利に結び付いた試合は214試合中165試合(77.1
%),逆に先にポイントを取りながら逆転敗けをした試合は,17試合(7.9%)と非常に少
なく,214試合から僅差判定の32試合を除いた182試合でみると,90.7%が勝利に結び付い
ており,クラス別では一65㎏級(100%),−95㎏級(96.0%),−60㎏級(95.5%)でそ
の傾向が著しく,先取ポイントが勝敗に大きく影響を及ぼしていることがうかがえる。こ
のことは,国内の選考試合においても同様で,僅差判定を除いた25試合中22試合(8&0%)
が勝利に結び付いている。
そこで,先取ポイントが勝利に結び付いた165試合について,その判定内容と時間分布
を表3に示した。
まず,先取ポイントが勝利に結び付いた165試合の内訳をみると,1ポイントを守り切
り勝利に結び付けた試合が43試合(26.1%),2つ以上のポイントを守り切り勝利に結び
付けた試合が28試合(17.0%),ポイントを連取し最終的に「一本」で勝利に結び付けた
試合が50試合(30.3%),最初の判定が「一本」で試合が終了した試合の44試合(267%)
である。
柔道競技における戦術の研究 35
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怒怒
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36 橋 本 年 一
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タイム
○
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214
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30秒∼1分
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2
1
1
1
1
2*
2
2
1
1
1
1
1
2
24
e e e
1
2
1
1
4*
3
2分30秒∼3分
○
1
1
1
2分∼2分30秒
○
1
2
1
2
19
e e e
2
1
2
1分30秒∼2分
○
1
3
1
1
e e e
1
1
4
2
6
2
2
○
3
3
1
9
18
2
1
0
3
15
3
11
2
4
1
18
▲指導のポイント 会 警告のポイント
念 注意によるポイント ‡ 立技と立技の合せ技一試合含む
次に,先取ポイントの判定内容をみると,「効果」によるポイントが最も多く165試合中
50試合(30.3%),次いで「一本」の44試合(26.7%)の順で多くみられ,国内選考試合
でも「効果」によるポイントが最も多くみられた。
次に,ポイントを取った時間分布をみると,試合開始からの1分間が最も多く,165試
合中64試合(38.8%)以下時間経過とともに少なくなっている。クラス別にみても,−60
㎏級で1分から2分の間が多くみられた以外,他のクラスではすべて試合開始からの1分
間が最も多くみられた。
前・後に分けてみても,前半の121試合(73.3%)に対し後半は44試合(26.7%)と少
なく,近年の柔道においては,試合開始直後の先制攻撃によって,ポイントをあげ試合を
有利に進めようとする戦術を心掛けている選手が多いようである。
一方,国内選考試合をみると,逆にラストの1分間に最も多くみられ,前半の6試合
(27.3%)に対し後半の16試合(72.7%)と勝負の遅さが目立ち,今後の大きな課題のひ
とつといえよう。
4.技の判定内容の分析
技の判定が宣告された判定内容と時間分布についてみたのが表4である。ここでは指導・
注意などのペナルティポイントを除いた純粋な技のポイントによる判定のみを取りあげ,
立技・固技別に示した。
これをみると,技の判定は延べ298回宣告され,その内訳は立技244回(81.9%),固技
54回(18.1%)である。次に判定内容をみると,立技では「有効」が79回(32.4%),固
技では「一本」が41回(75.9%)と最も多く,これに「合せ技」の「技有り」を加えると
51回(94.4%)となる。
次に,判定の宣告があった時間分布をみると,立技では試合開始からの1分間が最も多
柔道競技における戦術の研究 37
定内容と時間分布
3分∼3分30秒
○
e e
θ
キケン勝を除く
3分30秒∼4分
○
1
θ
e
⇔
1
1
1
1
2
1
3
1
1
1
1
1
2
8
0
4
17
4分30秒∼5分
○
○
θ
1
3
1
1
2
1
5
7
3
3
1
1▲
3
⇔
e
⇔
2▲
1
θ
1*
1
2
1
θ
1
1
2
1
4分∼4分30秒
3
1
⇔
4
7
4
1
4
1
θ
6
7
3
20
1
2
3
19
3
3
1
1
1
1
7
10
3
7
2
4
9
2
6
2
2
13
4
4
4
4
11
3
4
2
3
15
1
1
1
1*
1▲
1
1▲
2
3
1
1
7
9
16 ’
e
○
1
2▲
6
計
判定
23
1
1▲
1
1
9
3
1
2
15
32 104 21
32
3
3
38
19
182
く244回中66回(27.0%),以下時間経過とともに減っていき,3分から4分の間が最も少
なく,ラストの1分間で少し多くみられる。前・後半に分けてみると,前半の142回(58.2
%)に対し後半は102回(41.8%)と前半にやや多くみられる。一方,寝技では,試合開
始直後の1分間が少ないだけで全体に平均してみられ,前・後半に分けてみると,前半の
25回(46,3%)に対し後半は29回(53.7%)とむしろ後半に多くみられ,先の「一本で勝
敗が決まった試合の分析」で述べたと同様の結果がみられ,前半立技,後半寝技という攻
撃方法が有効な戦術として生きてくるようである。
一方,国内選考試合をみると,立技も寝技も後半に多くみられ,消極的な試合運びが目
立ち,もっと積極的な攻撃を心掛けるべきであろう。
5.勝敗が決定した技の分析
勝敗が決定した判定の内容とその時間分布について表5に示した。表中「判定」とある
のは,僅差による判定で勝敗が決まった試合であり,ここではポイント差が明らかとなっ
た182試合についてみたものである。
182試合について勝敗を決定づけた技の判定内容をみると,「一本」が最も多く104試合
(57.1%),次いで「有効」の38試合(20.9%)の順となっている。
一方,国内選考試合をみると,「効果」による勝負決定が最も多く,積極的に「一本」
を取りにいく柔道をもっと心掛けるべきであろう。
次に,勝敗を決定づけた技の判定があった時間分布をみると,最も多くみられたのは1
分から2分の間で42試合(23.1%),次いでラストの1分間で38試合(20,9%),試合開始
直後の1分間の36試合(19.9%)の順となっており,前・後半に分けてみると,前半の93
試合(51.1%)後半の89試合(48.9%)となっている。
これらの点から,5分間試合における試合のやま場は1分から2分あたりであり,この
時間帯を制することが,先制攻撃を早い時間に仕掛けて先取ポイントをあげることととも
38 橋 本 年 一
試合結果に大きく影響を及ぼしているといえよう。さらに,ラストの1分間と試合開始直
後の慎重な試合運びを心掛ける必要があろう。
また,現行ルールの特徴の1つとして,「マテ」による試合の中断という問題があり,
今大会においても,5分間戦った110試合について,5分間の試合時間中審判の「マテ」
の宣告で試合が中断した回数は,延べ1,339回の中断があり,これは1試合平均12.2回,
24.6秒に1回の中断となる。また,時間経過とともに「マテ」の回数も多くなる結果がみ
られ,これらの点からも試合の後半は,立技よりも寝技での慎重な試合運びを心掛けた方
が安全で有効な戦術といえよう。特に消極的な試合運びに対するペナルティが厳しくなっ
ている今日のルールでは,寝技を有効に利用する戦術が必要となってこよう。
一方,国内選考試合では,ラストの1分間での攻防が最も多くみられ,全体的に勝負が
遅く,慎重すぎる試合運びが,内容の乏しい試合にしているようである。
IV.要 約
以上,第14回世界柔道選手権大会の試合結果を通して,近代柔道の特徴と現行ルールで
の新しい戦術を探ろうと,国内選考試合のデーターをも交えながら分析を試みた結果,つ
ぎのような点が今後の研究課題としてあげられる。
(1)今後,各選手のレベルが接近してくると立技で一本を取ることは難しくなり,1ポ
イントを競うような緊迫した試合が多くなることが予想され,アマチュアレスリン
グの選手のようなスタミナの養成と,その配分を考えた試合運びの研究が必要であ
ろう。
(2)現行ルールでは,立技で勝負することは日本選手にとって体力的にも不利であり,
寝技の見直しが戦術面からも必要となり,その攻撃も短時間に相手を危険な状態ま
で一気にもっていく,スピードのある攻撃方法の研究が,今,最も必要かつ緊急の
研究課題であろう。
(3)立技での勝負は,出来るだけ早い時間帯に行ない,後半の勝負は寝技が有効であろ
う。
(4)先取ポイントが勝敗に大きく影響を及ぼしている点から,試合開始直後に先制攻撃
を仕掛ける選手が多くみられる。そこで日本選手も同様の戦法で対抗するか,逆に
前半を慎重な試合運び(巧みな組み手でかわすなど)で切り抜け,後半に勝負をか
け,寝技で仕留める戦法などが有効であろう。
(5)立技において両手で組まないと技が掛けられない選手は,今後益々不利となり,片
襟・片袖を持っての攻撃ができるよう組み手の研究が必要であろう。
(6)ワンパターンの寝技への引き込みでは相手を仕留めることは困難であり,立技から
寝技への巧みな引き込みを数多く身に付ける必要があろう。
(7)今後,相手の投技をつぶし,うつ伏せの相手の後方についてからの攻撃技術が重要
な戦法として生きてくると思う。今回の大会でも多くのこのようなチャンスを攻め
手が無いため,みすみす逃している試合が非常に多く目に付いた。
(8)投げ技の中で,相手の返し技やすかし技のように裏をとられる危険性が最も少ない,
柔道競技における戦術の研究 39
「捨身技」を今後もっと研究する必要があろう。
(9)立姿勢での自然体と同様に,寝姿勢で最も安定し攻撃にも防御にも適した仰向け姿
勢は,両手・両足が使える有効な戦法としてもっと活用すべきであろう。
最後に,今回のデーター作成に御協力いただいた東亜大学の原田守治先生に心から感謝
の意を表します。
参 考 文 献
1)橋本年一・安藤慶子:「柔道競技における戦術の研究一女子柔道のタイム・スタディによるゲ
ーム分析一」九州工業大学研究報告(人文・社会科学)第34号 昭和61年
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