...

ニュースレター vol.2 平成20年9月

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

ニュースレター vol.2 平成20年9月
 Newsletter vol. 2
平成 20年
9月
目
次
ページ
【巻頭言】
「運・根・鈍」
国際高等研究所 上級研究員 ・ 京都大学 名誉教授
新庄
輝也
【研究室紹介】
東京大学 大学院理学系研究科 藤森研究室
東北大学 電気通信研究所附属ナノ・スピン実験施設
半導体スピントロニクス研究部
首都大学東京 大学院理工学系 多々良研究室
東京大学 大学院工学系研究科 田中研究室
【研究紹介】
「半導体中の磁性元素の不均一分布と強磁性特性の相関と制御」
筑波大学 物質工学系
黒田 眞司
「多軌道模型によるスピンホール効果と軌道ホール効果」
名古屋大学 大学院理学研究科
紺谷 浩
名古屋大学 大学院工学研究科
大成 誠一郎,井上 順一郎
「光スピントロニクス機能デバイスの研究」
東京農工大学 工学部電気電子工学科
清水 大雅
「ナノスケールスピノダル分解による半導体スピントロニクス材料のデザイン」
大阪大学 産業科学研究所
佐藤 和則
【公募研究紹介】
「半導体上のスピネル型ハーフメタルの成長と高偏極率スピン注入の実証」
北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター
陽 完治
「Fe4N を用いた高偏極率スピン源の開発」
東北大学 工学研究科電子工学専攻
角田 匡清
「スピネルフェライトによるスピンフィルタ型スピン源の作製」
筑波大学 大学院数理物質科学研究科
柳原 英人
「有機局在スピン‐伝導電子共存系におけるスピン流の解明」
名古屋大学大学院 理学研究科
松下 未知雄
「原子層制御蒸着法および局所磁性測定法を用いた高スピン分極合金の探索」
名古屋工業大学 大学院工学研究科
壬生 攻
1
3
5
7
9
11
13
15
19
23
24
25
26
27
「スピン偏極STMで探る高スピン偏極磁性合金薄膜の表面状態と
スピン依存伝導」
大阪教育大学 自然研究講座
川越 毅
「気体原子の光ポンピングとスピン偏極」
兵庫県立大学
石川 潔
「ZnSe 障壁層を用いたスピン発光素子の開発」
産業技術総合研究所 スピントロニクスグループ
齋藤 秀和
「「スピン物性分光研究室」紹介」
立命館大学 理工学部物理科学科
今田 真
「ナノ狭窄構造薄膜のスピン伝導に関する研究」
東北大学 工学研究科
土井 正晶
「高温強磁性酸化物半導体の強磁性制御」
東北大学 金属材料研究所
福村 知昭
「MgO‐強磁性トンネルトランジスタの開発」
産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門
長浜 太郎
【会議報告】
特定領域「スピン流の創出と制御」2007 年度成果報告会
特定領域「スピン流の創出と制御」2008 年度研究会
28
29
30
31
32
33
34
35
36
【研究組織】
37
【お知らせ】
ホームページ、メーリングリスト等
39
巻頭言
運・根・鈍
国際高等研究所 上級研究員 ・ 京都大学 名誉教授
新庄輝也
「ノーベル賞を取るための秘訣」を聞かれた湯川秀樹先生は「運根鈍」をその
答えとされた。まだ敗戦のダメージから立ち直れていない時代に日本人初のノ
ーベル賞を授与された湯川先生は尊敬を一身に集める国民的英雄であり、子供
たちが将来の目標とする存在であった。したがって当時は誰もが知る有名な言
葉であり、多くの人が自分にはどの程度運根鈍が備わっているかをかえりみた。
しかし60年近くたった今ではこの言葉を知る人も少なくなっている。
「運根鈍」の中、「運」と「根」の意義は容易に理解できるが、「鈍」はか
なり意外に感じられる。発明発見をなしとげるには「敏(ないし鋭)」が必要と
いわれれば納得できるが、なぜ「鈍」が必要なのだろうか?湯川先生は(少な
くとも研究者としては)むしろ「敏」な人間であったと想像されるが、ご自分
のことを「鈍」と感じておられたということであろう。一般的にいって、かな
り優秀な人でも自分自身を「敏」と思うよりも、むしろ「鈍」と感じている場
合が多いのではないだろうか? 秀抜なアイディアを発想した人に対し、ひら
めきがあると評価するのは他人の頭で考えてのことであり、ご本人は自分なり
の思考過程を着実に積み重ねて結果を得ただけで、その間に飛躍があったとは
感じない。そしてその結果に至るために長時間を要したとすれば、自分のこと
を「鈍」な人間と評価していても不思議ではない。研究者にとって重要なのは
鈍重に努力を継続できる能力である。したがって湯川先生のいう「鈍」の内容
は実際には「根」とかなり共通すると思われる。
周囲の雑音に惑わされたり、目先の小さな成果ばかりを追いかけたりしな
いで余裕のある態度で研究を地道に推進する、そういう意味の「鈍」は非常に
重要である。プロジェクト研究やミッション研究では望ましい研究発展方向が
あまりに明らかで、そのために研究の自由な展開が束縛されてしまう心配があ
る。教授の期待する方向を理解する「敏」な学生が、教授の望むような成果ば
かりを追い求めるとデータの捏造にもつながりかねない。基礎研究の大きな成
果はしばしば意外性を伴った発見が基礎となっており、それに行き着くために
は過度の予測を加えることなく、多面的な考察を加えつつじっくりと研究を継
続する態度、すなわち「鈍」を維持しなければならない。
最近「鈍感力(渡辺淳一著)」というタイトルの本が出版されている。この本
はもっぱら恋愛問題における鈍感力の効能を説いているが、
「鈍」な姿勢を貫く
ことが研究能力の一つとすれば、研究面でも鈍感力という言葉が使えそうであ
る。予想もしない結果を発見するためには小賢く俊敏に立ち回ろうとするより、
巻頭言
鈍感力を生かして地道な研究態度を継続すべきである。もしも研究者として自
分が鈍に感じられたら、むしろそれが自分の長所であり、鈍感力が備わってい
るのだと思えばよい。
では、鈍感力を高めるにはどうすればよいのか? という質問が湧くかも
しれないが、意識して鈍感力を高める必要はない。最近のサラリーマン川柳の
中に、
「鈍感力、あることにさえ気がつかず」という笑える傑作があった。鈍感
力もあまりに多すぎてはマイナス面ばかりとなるので、
「適当な鈍感力を持って
いる」と自覚している程度が良さそうである。本特定領域にも鈍感力のあるメ
ンバーがいて、だれも予想しなかった飛躍的な成果をあげてくれることが望ま
れる。さて、巻頭言という貴重なスペースにこのような愚にもつかない駄文を
掲載するにはかなりの鈍感力が必要であり、本来の私の鈍感力だけでは不可能
な仕事であったが、最近備わり始めた老人力の後押しがあって脱稿にいたった。
研究室紹介
東京大学大学院理学系研究科
藤森研究室
藤森研究室では,光電子分光,軟 X 線磁気
の遷移金属イオンの系統的な電子構造解析,
円二色性(XMCD)測定など放射光を用いた
大学院生であった岡林潤氏(現東工大助教)
分光実験により,遷移金属を含む様々な物質
による Ga1-xMnxAs の光電子分光による研究
の研究を行っています.なかでも,現在スピ
(田中雅明先生のグループとの共同研究)な
ントロニクス材料として注目され将来を期待
どを通じて,研究の方向性が定まってきまし
されている希薄磁性半導体は,1988 年に研究
た.その間,「スピン制御半導体」,
「半導体ナ
室が発足した頃からの重点課題として特に力
ノスピントロニクス」と2つの特定領域研究
を入れてきました.研究の発端は,藤森が東
に参加させていただいたことによって,スピ
大着任前に在職していた無機材質研究所(現
ントロニクス研究分野の最先端に常に触れて
物質材料研究機構)において,東大物性研軌
刺激を受けながら,研究に集中できる環境を
道放射物性研究施設にいらっしゃった谷口雅
得ることができました.
樹先生(現広島大学教授)に誘われて,当時
現在,研究室には研究スタッフ2名(私と
話題となっていた Cd1-xMnxTe の光電子分光ス
吉田助教)の他に大学院生8人が在籍してお
ペクトルを解析したことに始まりました.研
り,そのうち3人(博士課程1人,修士課程
究室発足後は,研究室の助手に赴任された溝
2人)がスピントロニクスを研究テーマとし
川貴司氏(現東大新領域准教授)による
ています(他の学生は高温超伝導体,酸化物
Cd1-xMnxTe をはじめとする II-VI 族半導体中
薄膜を研究しています)
.研究手法は,光電子
研究室の集合写真.背景は小柴ホール.
研究室紹介
分光実験の他に,近年は軟 X 線磁気円二色性
えて,回折現象を通じて空間的な情報(実空
(x-ray magnetic circular dichroism: XMCD)実
間内での相関関数)を元素選択的,磁性選択
験が主力となっています.半導体スピントロ
的に与える軟 X 線散乱実験を,研究分担者の
ニクスの分野では,室温強磁性体を中心に
小出常晴先生と協力して立ち上げています.
様々な新物質・新材料が開発されていますが,
室温強磁性体の多くは,化学的・構造的に不
元素選択的にミクロな磁性・電子状態を調べ
均一な材料であろうということが最近の研究
ることのできる XMCD は欠かせないものと
で明らかになっていますが,軟 X 線散乱は原
なっています.XMCD 実験は,放射光実験施
理的に不均一性を反映する手法で,本研究を
設において円偏光放射光を利用する必要があ
通じて不均一な系を波数空間から調べる非常
りますが,精度よく,効率よく XMCD 実験を
に有力な手段になることが期待されています.
行える放射光ビームラインは世界的に見ても
多くありません.SPring-8,フォトンファクト
リーおよび台湾放射光で,そのような希尐資
源を利用して系統的な実験をおこなえる機会
に恵まれたのは,原子力機構(立ち上げ期は
原研),物構研,台湾グループとの共同研究に
よるものです.最近,原子力機構のビームラ
インがグレードアップされ,圧倒的な高性能
を有するビームラインに生まれ変わりました.
フォトンファクトリーの新しい円偏光新ビー
ムラインもほぼ立ち上げが完了し,同様の高
性能が期待されています.希薄な磁性の検出
が命である我々にとって,日本を中心に最高
の研究環境が整ってきたことを大変喜ばしく
思っています.
本特定領域では,従来の研究活動に加えて,
以下の新たな計画を立て,実行を開始してい
ます.ひとつは,従来の半導体材料に加えて
金属系材料に研究の幅を広げることです.と
くに,金属と酸化物の界面における電子状
態・磁性を,XMCD を用いて調べます.界面
はあらゆるデバイスの機能の源泉であると言
Spring-8 の日本原子力研究機構ビームライン BL23-SU
っても過言でなく,当研究室で行っている酸
における光電子分光および XMCD の実験風景.
化物界面の研究とも共通する,物性物理学の
フロンティアと考えて取り組んでいます.
もうひとつの計画は,局所的な電子状態・
磁気的性質の情報を与える XMCD 実験に加
(研究室ホームページ:
http://wyvern.phys.s.u-tokyo.ac.jp/)
研究室紹介
東北大学電気通信研究所附属ナノ・スピン実験施設
半導体スピントロニクス研究部
(大野・大野・松倉研究室)
東北大学電気通信研究所附属ナノ・スピン
新しいデバイス・システムの探索と実現,(2)
実験施設に所属する半導体スピントロニクス
ブロークンギャップヘテロ構造 (InAs/GaSb)
研究部(大野・大野・松倉研究室)は,半導
中のサブバンド間の光学遷移を利用した THz
体内の電子やスピンの状態を制御し工学的に
~遠赤外レーザの研究,(3)低温・強磁場にお
応用するために,新しい半導体材料の開発,
ける低次元電子間の量子輸送現象の研究を行
量子構造の作製と性質の理解,およびそれら
っています.対象としている半導体材料は,
の超高速電子デバイス応用に関する研究を行
GaAs/AlAs や InAs/GaSb,GaN,(Zn,Mg)O な
っています.具体的には,(1)半導体において
どの非磁性化合物半導体から,III-V 族ベース
スピンと電荷の自由度の両方を使った新しい
の強磁性半導体(Ga,Mn)As,(In,Mn)As および
エレクトロニクス(半導体スピントロニクス)
GaN,ZnO をベースとする磁性半導体など,
のための強磁性半導体/非磁性半導体量子構
さまざまな半導体系を用いてヘテロ構造・量
造の作製とそのスピン物性の解明,半導体ス
子構造を作製し,その電気・光・磁気的特性
ピンデバイスの研究開発,そしてスピンを用
を調べ,応用に結びつける研究を進めていま
いた量子コンピューティング・量子通信など
す.
平成 20 年度の大野・大野・松倉研究室と長谷川・池田研究室のメンバー(教職員,博士研究員)
.
後列左端が大野英男教授,前列左から大野裕,大谷啓太助教,松倉文礼准教授,池田正二准教授,長谷
川客員教授.後列左から3人目が松坂俊一郎博士研究員(科研費研究員)
.
研究室紹介
また,ナノスピンメモリ研究部(長谷川・
池田研究室)と共同で(4)金属磁性体を用いた
スピンメモリ素子の研究に力を注いでいます.
現在,ナノ・スピン実験施設を拠点に,高性
能スピンデバイス,スピン注入不揮発性メモ
リ,ロジックインメモリなど,産学連携のも
と研究開発を推進しています.
非磁性半導体スピントロニクス
本特定領域研究では,
「スピン流と光物性」
局所光検出核磁気共鳴を行う時間分解カー・ファラデ
ー回転測定システム.
というテーマのもと,主に非磁性半導体から
なる量子ナノ構造におけるスピン流の生成と
GaAs/AlGaAs ヘテロ構造をベースとする半導
光や電界による制御,それらを実際に観測し
体量子構造の製造・加工プロセスを一貫して
解析するための高感度・高空間分解測定シス
行っています.今後は新材料への展開も図っ
テムの構築,さらに光⇔電子スピン・核スピ
ていく予定です.
ンとの間の相互作用を制御して,量子力学的
スピンダイナミクスの計測には,超短パル
なコヒーレンスを操作・活用可能な量子力ス
スレーザーを用いた時間分解測定系を発展さ
ピントロニクスデバイスへの展開を目指して
せた光検出磁気共鳴測定系と,ミクロンオー
います.
ダーの空間分解能で最大5T まで印加可能な
スタッフ(分担者)以外では,博士研究員
顕微カー回転測定系を整備し,半導体量子ナ
の松坂俊一郎君,M2の小野真証君,M1の
ノ構造における光と電子・核スピン相互作用
高橋卓也君,B4の小林裕臣君が中心となっ
の解明と応用に向けた研究に取り組んでいま
て,この研究課題に取り組み,日々実験を行
す.
っています.(平成 20 年度)
本研究室では,ナノ・スピン実験施設のス
ーパークリーンルームで分子線エピタキシ成
長 や EB リ ソ グ ラ フ ィ な ど , お も に
松坂俊一郎君と彼が構築した 1μm 程度の空間分
解能を有する顕微カー回転測定システム.スピン
流の観察や局所光検出核磁気共鳴などの実験に
活躍中.
結晶成長・プロセス・デバイス作製まで一貫して行う
クリーンルームに設置された,高純度 GaAs/AlGaAs 半
導体量子井戸構造を作成する MBE システム.
(研究室 HP:http://www.ohno.riec.tohoku.ac.jp)
文責・大野裕三(平成 20 年 7 月 14 日)
研究室紹介
首都大学東京
大学院
理工学系
多々良研究室
首都大学東京は東京都立大学が再編されて
理論研究では数学的正しさのみが最終的に
発足した大学です。その大学院理工学系(物
は理論の健全性を保証するものです。逆にい
理)多々良研究室ではスピントロニクス、ナノ
えば、数学という言語を正しく使えさえすれ
磁性の理論研究を行っています。 物理として
ば、誰にでも正しい理論を構築できます。こ
の新しさ、重要性を主に,しかし同時にデバイ
れは理論研究のメリットの1つです。計算が
ス応用も考えながら研究を進めています。 主
中途半端な段階では、結果の解釈も釈然とし
に Green 関数を用いた多体量子論の厳格で解
ないことが多いですが、同じ計算を正しくや
析的な手法を用いています。
り遂げると、非常に美しい式や論理構造が自
研究室としては 2005 年4月からスタートし、
動的に目の前に現れることがよくあります。
2008 年度で4年目にはいり、小規模ながら研
計算が中途半端な段階で考えをめぐらすのは、
究室としても安定してきました。昨年度は初
あまり建設的ではないように思います。「完
の修士課程卒業生2名が無事企業に就職しま
全な計算+思考」が理論研究の基本と考えて
した。現在の構成員は博士課程1名、修士課
います。特に、大学院修士学生においては、
程 5 名の学生と多々良(准教授)です。首都大
計算という言語(手法)をしっかり学ぶこと
の学生は個性豊かで、それぞれ楽しくやって
が、いい物理をやるための早道だと思います。
いる(と思います)
。
研究テーマ

このような方針で、当研究室では配属され
た学生は4年生、修士ともまず数ヶ月間グリ
ーン関数の習得に励みます。この後は実戦を
磁化による電流生成(逆スピンホール
通じて計算手法を使いこなす過程に入り、そ
効果)
れぞれの興味と努力に応じた成果を出すこと
電流による磁化反転、スピン移行トル
を目指します。学生は早い段階で学会や国際
ク
会議で発表するチャンスを与え、質疑応答を

磁化構造に伴う異常ホール効果
通して物理を発展させ、度胸をつけるように

そのほか、スピンと電子輸送の理論的
しています。(このため本特定領域研究費の
問題
大部分は学生旅費、謝金で消えてしまう。
)

研究手法

スピントロニクスの理論は、基本的な研究
手法でアタックできる問題がまだ数多くあり
多体量子場の理論の解析手法(非平衡
ます。強相関など難しい理論解析が必要な分
Green 関数)
野とは研究に対するスタンスがだいぶ異なる
研究ポリシィ*
ように思います。複雑な系を考えれば多様で
複雑な現象が起きるでしょうが、簡単なセッ
(注*多々良の。学生のものと必ずしも合致し
ティングで簡単な計算で面白い成果が得られ
ていないかもしれません。
)
ることがベストだと思います。対象は古典ス

物理は正しい計算についてくる
ピン(磁化)なので、量子スピンが好きな「物

Think after calculation
理」の人からは退屈な対象と思われています

難しいことはしない
が、驚くような現象の多様さなど、スピント
研究室紹介
ロニクスは今もっとも面白い分野といってい
果)
。この現象に対しても微視的な定式化によ
いと思います。
り現象の理解と効率化の可能性を調べていま
研究詳細

電流誘起磁化反転
す。
博士課程学生の充実とポスドク雇用が今の
希望+急務です。ゆくゆくは数値解析を得意と
する学生やポスドクの雇用や、実験とのさら
に密な連携研究を行って行きたいと思ってい
ます。
首都大学は八王子市、京王相模原線(新宿か
ら 40 分)南大沢駅前にあります。何かのつい
でがあれば遊びにきてください。合同セミナ
ーや合同合宿(海、山、スキー)などもぜひ。
研究室ホームページ
Berger、Slonzcewski らによる初期の理論か
http://ccmp1.phys.metro-u.ac.jp/ccmp/member/tatara/lab/
ら最近まで、電流誘起磁化反転の現象の記述
は微視的な理論計算によらない古典的現象論
により行われてきました。こうした記述は磁
化(磁石の向き)がゆっくりとした極限(断
熱極限)では有効ですが、現実には非断熱性
やスピン緩和などの出現により量子性が重要
になってくると不十分なものとなります。
我々はこの点を改善するため、非平衡グリー
ン関数を用いた量子多体論の厳格な定式化を
ある日の研究室。(注:日常ではありません。) 畳
行いました。これにより、磁石に電流を流す
は大学の柔道場のお古。
ことでどのようなトルクが磁化(スピン)に
働くのかを明らかにすることができ、電流に
よる磁化変転の効率化に向けた指針を得るこ
とができました。

磁化による電流生成
量子相対論効果であるスピン軌道相互作
用は磁気(スピン)と電流(電子の軌道運動)
を結合させる相互作用です。これを用いるこ
とで磁気情報をスピンの流れ(スピン流)や
電流に変換できる可能性が最近明らかになっ
てきました(Saitoh(2006)逆スピンホール効
研究道具の一つ。
研究室紹介
東京大学
大学院工学系研究科
電気系工学専攻
田中研究室
東京大学では平成 20 年 4 月からの組織改編
により、大学院工学系研究科電気工学専攻と
電子工学専攻、および新領域創成科学研究科
基盤情報学専攻の3つの専攻が統合して、大
学院工学系研究科電気系工学専攻(英語名は
Department
of
Electrical
Engineering
and
Information Systems)となりました。私どもの
研究室はこれまで電子工学専攻に所属してお
りましたが、今後は新たに発足した電気系工
学専攻に所属することになります。
私どもの研究室では、将来の電子デバイス、
・ 半導体中への磁性元素のデルタドーピン
光デバイス、磁気(スピン)デバイス、それ
グとヘテロ構造、強磁性秩序の高温化
らのハイブリッド素子への応用を視野に入れ
・ 半導体ヘテロ構造中のスピン依存伝導、
て、新しい電子材料とデバイスの基礎研究を
磁気光学効果、スピン制御とそのデバイ
行っています。具体的には、(1) 半導体、金
ス応用
属、半金属、強磁性体など様々な物質を(縦
横無尽に)用いて、量子力学的効果が現れる
ナノメータ・スケールの超薄膜や人工格子・
・ 半導体をベースとしたエピタキシャル強
磁性トンネル接合デバイス
・ III-V 族半導体/強磁性微粒子(MnAs)系の
量子ヘテロ構造のエピタキシャル成長を行い、
作製、構造、磁気光学効果、スピン依存
自然界に存在しない新しい物質を原子レベル
伝導とその応用
で設計し作製すること、(2) 作製した新物質
群のマテリアルサイエンスと物性物理を研究
し、デバイスを試作して将来のエレクトロニ
・ 新しい IV 族ベースの磁性半導体、磁性体
/半導体ハイブリッド構造
・ ス ピ ン ト ラ ン ジ ス タ ( Spin MOSFET,
クス応用への指針を示すことをめざしていま
Spin-Filter
す。近年(この 15-16 年間)は特に、電子の
Transistor 等)の提案・解析・試作、デバ
スピンやその秩序(磁性)が顕著に現れる新
イス物理
しい物質群の創成とそれらの半導体エレクト
ロニクスへの応用:
「スピントロニクス)
」の
開拓研究に力を入れてきました。
最近および現在取り組んでいる研究テーマ
として、下記のものがあります。
・ 強磁性体/半導体ハイブリッド構造
・ III-V 族ベース磁性半導体とその量子ヘテ
ロ構造
Transistor,
Hot-carrier
Spin
・ スピントランジスタを用いた新しい再構
成可能な論理回路の提案・解析
・ スピンデバイスのプロセス開発と試作
・ 金属(半金属)/半導体ヘテロ構造の形
成とその電子物性・デバイス応用
・ 学生や研究員の自由な発想に基づく研究
私どものグループは、本特定領域研究「ス
ピン流の創出と制御」の A05 班「スピン流と
研究室紹介
機能・制御」に所属しておりますが、スピン
にまたがる新しい分野を開拓しつつあり、取
流の学理の解明とデバイス応用をつなぐ大切
り組むテーマも斬新でチャレンジングなもの
な役割を仰せつかっていると認識しており、
が多くあります。
”寄らば大樹の影”、”安易に
皆様とともに領域の発展のために努力したい
楽に卒論や修論を終えてしまおう”
、という考
と思っております。下記の図に示すように、
えの人は避けた方がよいでしょう。逆に意欲
スピントロニクス分野は、様々な材料(半導
的に勉強し、積極的かつ熱心に研究に取り組
体、金属、酸化物...)や現象(磁性、伝導、
めば、若い学生でも研究の最前線で活躍する
光…)およびその応用にまたがる横断的な分
ことが可能です(卒論の成果を学会で発表す
野です。最近では、ITRS(国際半導体技術ロ
る人もいるし、大学院生が自分の研究成果を
ー ド マ ッ プ ) で も 取 り 上 げ ら れ 、 Beyond
海外の国際会議で堂々と発表することは今や
CMOS の有力候補の1つとして期待する向き
当たり前です)
。サイエンス志向の人は知的好
もあります。私どもとしては、この豊穣な(し
奇心をもって深く物理学や科学の真理を探求
かしまだ未開拓な)分野を、少しでもよりリ
して下さい。エンジニアリング志向の人はデ
アルなものに近づけたいと思っています。
バイス設計・試作、特許出願まで何でも意欲
2008 年度のメンバーは、田中雅明(教授)、
大矢忍(助教)
、中根了昌(特任助教)
、アー
的に取り組んでみて下さい。国内や海外の優
れた研究機関との共同研究もあります。」
サンナズムル(特任助教)のスタッフと外国
学部卒業生はほとんど大学院に進学し、大
人研究員 1 名、博士課程大学院生 2 名、修士
学院(修士、博士)修了者、研究員等の進路
課程大学院生 3 名、学部生 3 名の総勢 13 名で
は、大学・研究機関、民間企業、政府機関な
す。毎年大学院学生と学部 4 年の学生が入っ
ど様々です。研究活動は東京大学 本郷/弥生
てきますが、原則1人1つのテーマで研究を
キャンパス工学部 10 号館を中心に、9 号館、
行っています。研究室に入る前の学生達には
低温センター、武田先端知スーパークリーン
研究室の特色を知らせるために、次のように
ルームなども活用しています。詳細は研究室
呼びかけています。
の
「当研究室では、電子工学を中心にマテリア
http://www.cryst.t.u-tokyo.ac.jp/index.html を 参
ルサイエンス・物性物理学・デバイス・結晶
照下さい。
工学など Science と Technology の広い領域
ホ
ー
ム
ペ
ー
ジ
研究紹介
半導体中の磁性元素の不均一分布と強磁性特性の相関と制御
筑波大学 物質工学系
黒田 眞司
磁性半導体における強磁性の発現は母体半導体中の磁性元素の分布が鍵とな
ることを(Zn,Cr)Te を例に取って示す。(Zn,Cr)Te においてはドナー性不純物で
あるヨウ素のドーピングにより強磁性転移温度が大幅に上昇するが、Cr が凝集し
たナノスケールの領域の形成がその原因であることが明らかとなった。Cr 凝集の
メカニズムについて我々のモデルを提唱する。
スピントロニクスへの応用を目指して、強
磁性となる半導体の新材料探索が活発に行わ
れている。これまで母体半導体と磁性元素と
のさまざまな組み合わせから成る希薄磁性半
導体(DMS)が研究の俎上にのぼり、その中の
いくつかは実際に室温以上で強磁性を示すと
報告されている。しかしながら同じ物質に対
して強磁性を否定する結果が報告される例も
多く、半導体における室温強磁性実現の確か
な見通しは立っていない。同じ物質で異なる
磁性が観測されるという矛盾した状況を説明
する一つの要因として、母体半導体中の磁性
図 1: II-VI 族半導体用分子線エピタキシー
(MBE)装置。
元素の分布の重要性が最近認識され始めてい
である窒素をドープすると強磁性は消失する
る[1]。結晶中の磁性元素の分布に偏りが生じ
[7]。透過型電子顕微鏡(TEM)観察における蛍
ると磁性は大きな影響を受けると予想され、
光 X 線分析(EDS)によると、これらのドーピ
実際いくつかの物質では磁性元素の凝集した
ングによる磁性の変化は結晶中の Cr 組成分
ナノメーターサイズの領域の形成に伴って高
布の違いに起因することがあることが明らか
い転移温度の強磁性を示すことが報告されて
となった。図 2 に示すように、ドーピングな
いる[2-4]。我々はこれまでの研究で、(Zn,Cr)Te
においても強磁性特性は Cr が高濃度に凝集
しで TC の低い結晶中の Cr 分布はほぼ均一で
あるのに対し、ヨウ素ドープにより TC = 300K
したナノ領域の形成と密接な関連があること
に達した結晶においては Cr 分布は不均一と
を明らかにした[5]ので、その内容について紹
なり Cr が高濃度に凝集した数十 nm の領域が
介する。
形成されている。この Cr の凝集領域が強磁性
(Zn,Cr)Te の薄膜結晶は分子線エピタキシー
クラスターとしてはたらくことにより、結晶
(MBE)装置(図 1)により成長した。(Zn,Cr)Te
全体の磁性が超常磁性的となって、磁化過程
にドナー、アクセプター性不純物をドーピン
における履歴など強磁性と同様の振舞いを示
グすると結晶の磁化特性は大幅に変化する。
すと理解される[8]。ドーピングによって結晶
すなわち一定の Cr 組成で、ドナー性不純物の
中の Cr 分布が不均一になるメカニズムとし
ヨウ素をドープすると、強磁性転移温度 TC は
て、以下のようにモデルが考えられる[9]。
大幅に上昇し[6]、逆にアクセプター性不純物
ZnTe 中の Cr の固溶度は低く、固溶限界を超
Curie temperature TC [K]
研究紹介
300
Cr 5%
図 2: (上) Cr 組成 5%の(Zn,Cr)Te における
強磁性転移温度 TC とヨウ素濃度との関
200
係。(下) EDS による Cr 分布のマッピン
グ 像 。 (a) ヨ ウ 素 ド ー ピ ン グ し た
Undoped
100
0
19
18
(Zn,Cr)Te 結晶(ヨウ素濃度 2×1018 cm-3、
TC = 300K) 、(b) ドーピングを施してい
17
10
10
10
-3
Iodine conecentration [cm ]
(a)
50nm
(b)
50nm
ない結晶 (TC = 30K)における Cr 分布図。
EDS マッピングにおける Cr の K線の強
度を赤色の濃淡で表す。
e
(Zn,Cr)T
ZnTe
えると相分離が生じ Cr 組成の高い領域と低
博士、板東 義雄教授、さらにポーランド科学
い領域とが形成される(スピノーダル分解)[1]。
アカデミーのトーマス・ディートル教授との
この相分離は Cr 間の引力的相互作用に起因
共同研究によるものである。ここに記して謝
すると考えられる[10]が、引力の大きさは Cr
意を表す次第である。
イオンの価数により変化すると予想される。
従って荷電不純物をドーピングすると Cr イ
参考文献
オンの価数変化により Cr の凝集の度合いが
[1] K. Sato et al., JJAP 44, L948 (2005).
変化するという訳である。このようなメカニ
[2] L. Gu et al., JMMM 290-291, 1395 (2005).
ズムは(Zn,Cr)Te に限らず他の磁性半導体に
[3] M. Jamet et al., Nat. Mater. 5, 653 (2006).
おいても生じうる普遍的なものであり、ドー
[4] D. Bougeard et al., PRL 97, 237202 (2006).
ピングによる磁性元素イオンの価数の調整を
[5] S. Kuroda et al., Nat. Mater. 6, 440 (2007).
通じて、分布の均一度を制御する新しいナノ
[6] N. Ozaki et al., PRL 97, 037201 (2006).
結晶作製法の開発につながるのではないかと
[7] N. Ozaki et al., APL 87, 192116 (2005).
期待される。
[8] K. Sato et al., JJAP 46, L682 (2007).
現在は、MBE の成長時の基板温度・フラッ
[9] T. Dietl, Nat. Mater. 5, 673 (2006).
クス供給量などのパラメーターを系統的に変
[10] M. v. Schilfgaarde et al., PRB 63, 233205
化させ、結晶中の Cr 分布の様子がどのように
(2001).
変化するかを調べている。特に Cr の凝集領域
が孤立したクラスター形状ではなく、1 次元
のロッド状に形成される条件を探索している。
さらに Cr 凝集領域の形状と磁化特性の相関
を詳しく調べ、スピン偏極電子源としての応
用を目指して研究を進めているところである。
本研究の成果は、当研究室の大学院生の西
沢 望(現 物質・材料研究機構)、石川 弘一郎
黒田 眞司
各氏、および物質・材料研究機構の三留 正則
筑波大学物質工学系
研究紹介
多軌道模型によるスピンホール効果と軌道ホール効果
名古屋大学大学院理学研究科 紺谷 浩
名古屋大学大学院工学研究科 大成誠一郎,井上順一郎
遷移金属においては,原子内スピン相互作用と,d 軌道間の重なり積分の位相に
より生じる異常速度のため,非常に大きなスピンおよび軌道ホール効果が出現す
る。また,軌道ホール流の概念が重要であることが示される。
スピンホール効果(SHE)は,印加した電
1)Pt の SHC は実験値と同じオーダーの大き
場と垂直方向にスピン s z の流れが生じる現
な値を示す。
象である。すなわち,非磁性金属において,
2)SHC の符号が遷移金属の種類により変化
上向きスピン電子と下向きスピン電子が逆方
する。すなわち,Ph, Pd. Pt 等では正であるが,
向に流れるため電荷の流れは存在せず,スピ
Nb, Mo 等では負の SHC となる。なお,Nb,
ン流のみが誘起される現象である。SHE が生
Mo に対する最近の実験において,負の SHC
じる機構としては,異常ホール効果と同様に,
が報告されている。
スピン軌道相互作用(SOI)と不純物散乱との
3)OHC は貴金属をのぞいて電子数,結晶構
組み合わせによる外因的機構と,ベリー位相
造に依存しない大きな値を示す。
又は一様な SOI による内因性機構とがある。
内因性機構による SHE のミクロな理論的・
これらの特徴および SHE の発現機構は次
実験的が半導体に対してなされた後,最近で
のように説明される。まず,採用した模型に
は大谷,齋藤や高梨グループにより,遷移金
特徴が2つある。一つは,Pt などの遷移金属
属における SHE および逆スピンホール効果
における大きな原子内 SOI を適切に取り入れ
(ISHE)の実験がなされ,非常に大きなスピ
ンホール伝導度(SHC)が報告されている。
半導体の SHE との違いが桁違いに大きなた
め,遷移金属特有の機構が SHE に働いている
と考えられる。
そこで,遷移金属特有の電子状態を取り入
れるため,多軌道の tight-binding(TB)近似と,
原子内 SOI を採用し,久保公式を用いて SOC
の計算を行なった。同時に軌道ホール伝導度
(OHC)の計算も行なった。なお,軌道ホー
ル効果とは,印加された電場に垂直な方向に
軌道角運動量が流れる現象である。d 軌道の
場合には,軌道角運動量の z 成分 Lz  1, 2
4d, 5d 遷移金属に対するスピンホール伝導度(SHC)
および軌道ホール伝導度(OHC)の計算結果。  は
の流れがある。4d, 5d 遷移金属に対する SHC
電気抵抗に対応するパラメータである。また,R は
と OHC の計算結果の一例を図に示す。幾つか
スピン軌道分極率である。
(本文参照)
の特徴が見られる。
研究紹介
ることができる点である。もう一つは,多軌
係数に軌道角運動量が含まれるため,軌道の
道の TB 模型における飛び移り積分の位相(符
ホール電流が存在することである。さらに,
号)が重要な役割を果たす点である。
s-d 混成項には,軌道角運動量の位相因子が含
4d, 5d 遷移金属の SOI の値は,0.01~0.3eV
まれているため,軌道角運動量に対する有効
であり,Pt や Au では 0.3eV と半導体の SOI
的アハラノフ・ボーム効果とも言うべき効果
と比較して格段に大きい。これが遷移金属に
が現われる。このため SOI とは無関係に OHC
おいて大きな SHE が実現する理由の一つで
が大きな値を持つことになるわけである。
ある。また,SHE の機構については,TB 模
SHC と OHC は LS 結合で結びついているた
型における重なり積分の位相から異常速度が
め,SHC はおおよそ OHC に LS 結合の平均値
大きな値となり,いわゆる Side Jump 機構と
を掛けたようなものとなる。フント則により,
同様な機構で SHE が出現する。
d 軌道や f 軌道内の電子数が半分以下では L
遷移金属における SHE の機構については,
と S が反平行,半数以上では平行となるため,
さらに次のような描像が成り立つ。電子が格
LS 結合の符号が変る。これが図に示したよう
子内で閉じた経路を回る場合,原子内 SOI に
な SHC の符号変化の機構である。
よる軌道間遷移により,回転方向に依存する
このように軌道流が遷移金属の SHE に重
位相(  i )が波動関数につく。これは有効的
要な役割を果たしていることが明かになった
アハラノフ・ボーム効果と解釈でき,有効的
わけである。今後,非平衡状態においえる軌
磁場が電子に作用しているとみなすことがで
道流がどのような物理を生み出すか興味深い
きる。
ところである。
SOI の場合に
本研究は田中拓郎氏(名大理)の協力に負
はないものである。ただし,原子内 SOI と多
うところが大きい。ここに謝意を表したい。
このような機構は,Rashba
軌道 TB 模型は,原理的にはどのような物質
にも適用できる。その一例として Graphene の
1) H. Kontani et al., JPSJ 76, 103702 (2007)
SHE の計算を行なった。
フェルミ準位近傍は,
2) H. Kontani et al., PRL 100, 96601 (2008)
線形分散を与える,いわゆる Dirac cone とな
3) T. Tanaka et al., PRB 165117 (2008)
り SOI でエネルギーギャップが生じる。この
4) S. Onari et al., to be published.
ため SHC が量子化されるが,電子散乱による
5) H. Kontani et al., to be published.
自己エネルギーが SOI によるギャップよりも
大きな場合には,SHC は非常に小さなものと
なることが示された。他方,バンドにフェル
ミ準位が位置する場合には大きな SHC が得
られる。どちらの場合も,
前述した機構で SHE
が出現することが理解できる。
最後の特徴である OHC については,その詳
細な解析を周期的アンダーソン模型により行
左から井上順一郎,紺谷浩,大成誠一郎
なっている。図には示されていないが,OHC
所属
は SOI の大きさによらずほぼ一定の値となる
ことがすでにわかっている。これらの理由は
つぎのようなものである。まず,異常速度の
名古屋大学工学研究科,理学研究科
研究紹介
光スピントロニクス機能デバイスの研究
東京農工大学 工学部電気電子工学科
清水大雅
半導体・強磁性金属ハイブリッド光アイソレータに関するこれまで研究の経緯
と、その動作原理を解説した。またハイブリッド光アイソレータを応用した光メ
モリ素子等、今後の研究の展開について述べた。
はじめに
清水研究室は 2007 年 1 月に発足し、約 1 年
半が経過しました。この 1 年半の間に特定領
域研究の「スピン流」がスタートし、
「光」
「磁
性」「スピン」
「デバイス」という切り口で特
定領域研究に参加しています。現在研究室は
教員 1 名、大学院生・学部生計 5 名という小
所帯で活動していますが、農工大の共有クリ
ーンルーム施設や他の研究室との交流によっ
図1.ヘルムホルツコイル(写真右奥)中の光スピン素
て光スピン素子の作製ができるようになり、
子に入射、受光用の光ファイバーを調芯している様
素子の評価系を構築することができました。
子。素子に電流を流し、磁場を印加しながら光の伝搬
図1の写真は光スピン素子にヘルムホルツコ
特性を測定するための装置群です。ステッピングモー
イルによって磁場を印加し、光ファイバで光
タによって 1m 以下の単位で光ファイバーを動かし
を入射、受光し、素子の光伝搬特性を測定し
て調芯を行います。
ているところです。光デバイスに電流を流し
研究の成果が大きな国際会議の舞台で認めら
つつ、磁場を印加し、光ファイバーを調芯す
れたことは喜ばしいことでした[1,2]。
るという作業は光デバイスの測定の中でも最
「スピントロニクス」関連の特定領域研究
も高度な技術を要する部類に属すると思いま
に関わるのは大学院生として関わった「スピ
す。
ン制御による半導体超構造の新展開」、公募研
研究分担者の東京大学先端研の中野義昭教
究として関わった「半導体ナノスピントロニ
授とは半導体エピ基板の作製等において分担
クス」に続いて 3 度目になります。過去二度
体制を構築し、東京工業大学の宗片教授とは
の特定領域研究では、活発な研究会等に刺激
本特定領域研究が開始される以前より MnSb
され、当時の経験と国内外の人的ネットワー
を用いたハイブリッド光アイソレータの研究
クを構築できたことは現在の研究室運営によ
で共同研究を行ってきました。MnSb を用い
い影響をもたらしています。
「半導体強磁性金
たハイブリッド光アイソレータの研究では昨
属ハイブリッド光アイソレータ」をテーマに
年 10 月の IEEE の国際会議 LEOS で中野研究
望んだ「半導体ナノスピントロニクス」では、
室大学院生の雨宮智宏君が口頭発表を行い、
当初なかなかよい成果が出なかったのですが、
学生発表部門で第 2 位を獲得するなど、共同
「デバイスができなかったからと言って命ま
研究紹介
(a)
(b)
Ferromagnetic metal
M
200-500nm
Core layer
k
Semiconductor substrate
Forward
Backward
図 2(a)ハイブリッド光アイソレータの基本構造。半導体光増幅器の上部に強磁性金属薄膜が蒸着されている。
(b)強磁性金属薄膜(Fe)と空気界面における横磁気カー効果による反射率変化。図では磁場の反転によって 1.4%
の反射率変化が観測されている。
で取られることはないから」と励まされたの
薄膜という単純な素子構造の上に実現するこ
を記憶しています。そのせいもあってか、
「ハ
とができます。図 2(b)は Fe 薄膜と空気界面の
イブリッド光アイソレータ」の実証に様々な
横磁気カー効果による反射率変化ですが、磁
形で成功し[3, 4]、半導体レーザとの同一基板
場の反転に伴って 1.4%の反射率変化が観測
上集積化を達成し[5]、現在に至っています。
されます。実際の素子では素子長が約 1mm で
デバイスの実証には様々な試行錯誤や失敗が
すので、
1%程度の反射率でも消光比は 10dB(=
ありましたが、それらは現在では貴重な糧と
透過して反射されてきた光の 90%がカットさ
なっています。賭けの要素があるデバイスの
れる状態)と容易に観測可能な値になります。
研究ですが、新しい材料の開発や物理の研究
ファラデー回転子を使用した光アイソレータ
ばかりでなく、きっちりとデバイス化する研
のように、偏光の回転を利用しているわけで
究も重要であると考えています。もちろん新
はないので偏光子が不要であり、半導体レー
しい材料や物理の基礎固めをすることが重要
ザ等との単一基板上の集積化が容易で、素子
であることは言うまでもありません。
同士の位置合わせの必要がありません。また、
導波路中の光はファラデー効果のように左右
ハイブリッド光アイソレータ
円偏光の重ね合わせで考えるのではなく、直
線偏光で考えます。
前置きが長くなりました。今回の特定領域
ハイブリッド光アイソレータでは強磁性金
研究に加わるきっかけとなった「半導体強磁
属の磁化状態によって光の伝搬損失・位相を
性金属ハイブリッド光アイソレータ」につい
非相反に制御するわけで、言い換えれば「光
て紹介します。素子の基本構造は図 2(a)に示
の抵抗の制御」と「光のダイオード化」です。
す通りです。磁気光学効果の一種に「横磁気
「巨大磁気抵抗効果の“光”版」とでも言え
カー効果」がありますが、この横磁気カー効
ば説明の一助になると思います。光化合物半
果によって半導体導波層と強磁性金属の間で
導体の光導波・増幅特性と強磁性体の非相反
非相反な反射率変化が生じ、導波路全体とし
性・不揮発性が組み合わされています。ハイ
て非相反な伝搬損失の変化、すなわち、光ア
ブリッド光アイソレータの動作波長は半導体
イソレータが半導体光増幅器上の強磁性金属
光増幅器の動作波長、すなわち、半導体の種
研究紹介
(a)
(b)
図 3(a) MnAs を用いたハイブリッド光アイソレータの断面電子顕微鏡写真。
(b) ハイブリッド光アイソレータのアイソレーション特性。図ではデバイス長 1mm あたり 7.2dB の光アイソレ
ーションが観測されている[7]。
類によって選択することができ、強磁性金属
も波長に応じて磁気光学効果が大きな材料を
選択すればよいことになります。
イソレータ特性に影響は及ぼしません。
なお、今年 5 月に行われた米国光学会 /
IEEE の国際会議 CLEO (Conference on Lasers
光デバイスは電子デバイスと比較すると市
and Electro - Optics) 2008 では集積光アイソレ
場規模も小さく、またその中で光アイソレー
ータと磁気光学現象というシンポジウムが開
タは地味な印象をもたれることが多いのです
催され、筆者も発表してきました[8]。聴講者
が、必要不可欠な素子であり、集積化ができ
の平均的な印象は集積アイソレータに対する
れば大きなメリットがあることに違いはあり
期待が半分、まだ基礎的なレベルにとどまっ
ません。
ていて本格的な集積光アイソレータは時期尚
これまでハイブリッド光アイソレータの一
早、ないし既に実用化されている光アイソレ
部においてエピタキシャル強磁性金属薄膜の
ータには及ばないのではないかというもので
MnAs[6, 7]や MnSb[1]を用いてきました。エピ
した。
タキシャル強磁性金属を用いることによって、
良好な電気特性、磁気光学特性、一軸性の結
晶磁気異方性の導波路デバイスへの応用等の
今後の展開
優れた点を活用することができました。これ
これまでの研究によってハイブリッド光ア
は 1990 年代に様々な形で行われていた半導
イソレータの実証とレーザとの集積化までは
体強磁性金属ハイブリッド構造の研究がたど
既に達成されています。本特定領域研究では
り着いた一つの出口であると考えています。
これらの成果を活かして単体のハイブリッド
図 3 に MnAs を用いたハイブリッド光アイソ
光アイソレータだけにとどまらない以下のよ
レータの電子顕微鏡写真と素子特性を示しま
うな研究を行う予定です。
す。図 3(a)の写真からは半導体光増幅器へス
ハイブリッド光アイソレータの中では非相
ピン注入がされていると見受けられますが、
反損失効果によって光子密度が導波路に沿っ
磁化の向き(=スピンの量子化軸)と光の伝搬
て変化しています。例えばハイブリッド光ア
方向が垂直のため、スピン注入は素子の光ア
イソレータの伝搬損失がゼロになり、レーザ
研究紹介
発振が起こった場合、レーザの両端面からの
ています。
発光強度が異なることが予想されます。光子
密度が導波路に沿って異なるという現象は非
相反損失効果ならではのもので、産総研のザ
研究紹介の最後に
エツ氏らによって高性能な双安定半導体レー
光デバイスに限らず新奇のデバイスの実証
ザの理論提案がなされています[9]。さらにこ
は実現されれば大きく注目され、一方で既存
れまで考慮してこなかった非相反「位相」変
の非常に発達したデバイスとの比較にさらさ
化にも着目しています[8]。非相反損失変化と
れるシビアな面もありますが、夢を与えられ
位相変化は同時に生じますが、導波路が低損
る光デバイスの研究を展開していきたいと考
失になるにしたがって非相反位相変化の影響
えています。また「スピン流」と名づけられ
が顕著になります。
た特定領域研究に加わったのですから既存の
これらの研究を行うにはまず単体のハイブ
研究だけに捉われず、スピンホール効果や光
リッド光アイソレータを低損失化、透明化を
のホール効果といった新しい物理も光デバイ
実現する必要があり、現在鋭意研究を進めて
ス研究の視野に入れていくことができればと
いるところです。図 3 のハイブリッド光アイ
考えております。
ソレータで約 7dB の伝搬損失が残っており、
あと一息です。
スピントロニクスの分野でスピントランジ
スタが出口の一つとして捉えられているのと
同じように、光エレクトロニクスの分野では
現在光バッファメモリ素子が一つのターゲッ
トとなっています。光スイッチと長さ数 km
の光ファイバーループを用いた長い信号を一
時記憶させるものから、半導体双安定レーザ
を用いて数ナノから数マイクロ秒の信号の
「かたまり」(=光パケット信号)を一括でスイ
ッチングする技術まで活発な研究が展開され
ています。強磁性体が有する不揮発性は「メ
モリ」機能としてもともと優れており、今後
光エレクトロニクスとスピントロニクスをベ
[1] T. Amemiya, Y. Ogawa, H. Shimizu, H. Munekata,
and Y. Nakano, Appl. Phys. Expr., 1, 022002 (2008).
[2]http://www.ee.t.u-tokyo.ac.jp/~nakano/lab/diary/aw
ard/2007leos.html
[3] H. Shimizu and Y. Nakano, Jpn. J. Appl. Phys.
43(12A):L1561-L1563 (2004).
[4] H. Shimizu and Y. Nakano, IEEE / OSA J.
Lightwave Technol. 24, 38 (2006).
[5] H. Shimizu and Y. Nakano, IEEE Photon. Tech.
Lett. 19(24):1973-1975 (2007).
[6] T. Amemiya, H. Shimizu, Y. Nakano, P. N. Hai, M.
Yokoyama, and M. Tanaka, Appl. Phys. Lett. 89,
021104 (2006).
[7] T. Amemiya, H. Shimizu, P. N. Hai, M. Yokoyama,
M. Tanaka, and Y. Nakano, Appl. Opt. 46, 5784
(2007).
[8] H. Shimizu and S. Yoshida, CLEO 2008 CThC3,
San Jose, USA, and accepted for publication in IEEE
Photon. Tech. Lett. 20 (2008).
[9] W. Zaets and K. Ando, IEEE.,Photon. Tech. Lett. 13,
185, (2001).
ースに新たな研究を展開していきたいと考え
清水大雅
東京農工大学
工学部電気電子工学科 / 大学
院共生科学技術研究院
若手人材育成拠点
研究紹介
ナノスケールスピノダル分解による
半導体スピントロニクス材料のデザイン
阪大産研
佐藤和則
第一原理電子状態計算とモンテカルロシミュレーションを用いて、最近盛んに議
論されている希薄磁性半導体のスピノダル分解についてシミュレーションを行
った。得られた知見をもとに半導体スピントロニクス材料への応用を議論し、マ
テリアルデザインをいくつか提案する。
我々の研究グループでは、半導体スピント
例えば GaN や ZnO を母体とする希薄磁性半
ロニクス材料の計算機マテリアルデザインと
導体は初期の理論によると高いキュリー温度
実証実験との比較を精力的に進めている。こ
が予測され数多くの合成実験が実行されてい
こでは、半導体スピントロニクス材料研究で
るが、おもしろいことに実験結果には大きな
最近問題になっている事柄について解説し、
ばらつきがあり、例えば GaMnN では常磁性
実用的な半導体スピントロニクス材料設計の
(Tc=0)から 900K 以上の Tc を観測した報告ま
ための2つの方向性を示したい。
である。一方、最近の精度のよい第一原理計
算では均一な GaMnN のキュリー温度はせい
今までで最もよく研究され系統的な実験が
ぜい 50K 程度であることが予測されている。
行われているのは GaAs に Mn を添加した希
このようなことから、作成した希薄磁性半導
薄磁性半導体である。このような希薄磁性半
体の評価と磁性への関係が検討されるように
導体の合成が成功したのは比較的近年で、非
なり、スピントロニクス材料関係で最近、最
平衡結晶成長法の進歩のおかげである。つま
も活発に議論されている話題となっている。
り、GaMnAs は容易に GaAs と MnAs に分
希薄磁性半導体は溶解度ギャップを持つた
離 し て し ま う た め MBE(Molecular Beam
め、非平衡結晶成長法で注意深く作成しても
Epitaxy)法を用いて、低温で原子の拡散を制
スピノダル分解がある程度進行し、ナノスケ
限した状態で結晶成長を行わなければならな
ールでは不純物分布に不均一を作る。均一分
い。しかし原子の拡散が抑制されすぎると当
布を仮定する理論計算と実験結果の不一致
然ながら結晶性は悪くなる。そのため結晶成
(理論では予測されない高いキュリー温度を
長条件の最適化は非常に難しいが、非平衡結
持った相が実験的に観測されていること。
)の
晶成長法によれば、注意深く条件を設定する
原因がここにあると考えられる。また、非平
ことで均一で良い結晶性をもった希薄磁性半
衡の結晶成長であるのでスピノダル分解がど
導体の合成が可能であると信じられてきた。
の程度進行するかが実験条件の微妙な変化に
しかし、近年原子スケールレベルの解像度
敏感に反応すると考えると、実験結果の大き
での希薄磁性半導体の評価が進み、特にワイ
なばらつきにも納得がいく。
ドギャップ半導体を母体とする希薄磁性半導
体では必ずしも均一な結晶を合成できていな
いということが指摘されるようになってきた。
希薄磁性半導体の磁性について、以上のよ
うな観点から既に我々のグループでは第一原
研究紹介
理計算とモンテカルロシミュレーションによ
生成される。(b)では不純物は3次元的に自由
り定性的な議論を与えている。まず、スピノ
に拡散できるとしたが、実際の非平衡結晶成
ダル分解の有無については比較的簡単に第一
長(MBE 等)では原子の拡散は成長表面に限
原理計算から示すことができる。そのために
られていると考えられる。拡散を成長表面の
は、混合エネルギーE を計算すればよい。
みに限って第一層目から順にシミュレーショ
例 え ば 、 GaMnN
の 場 合 、
ンを行っていくと図(c)のように結晶成長方
E=TE(Ga1-xMnxN)-[x × TE(MnN)+(1-x) ×
向(図の下から上の方向)に長く伸びたナノ
TE(GaN)]と計算され、 TE は全エネルギー
磁性体を作る。これは第一層目にスピノダル
である。要するにE は化合物が均一に混ざ
分解で成長の核になるクラスターができ、引
った場合と分離した場合のエネルギーを比較
力的な相互作用のために、その上に優先的に
している。TE(GaMnN)の計算は CPA を用い
磁性不純物が成長するためである。
ることで計算できるので、KKR-CPA がこの
このような計算機シミュレーションの結果
手の計算に適していることがわかる。エント
に対応する現象が実際に実験で観測されてい
ロピーの項を加え熱力学からスピノダル曲線、
る。観測には TEM(Transmission Electron
バイノダル曲線を描くことができる。我々の
Spectroscopy) や EELS(Electron Energy
最近の計算によると一般に希薄磁性半導体は
Loss Spectroscopy) が 用 い ら れ 、 GaMnN
相分離する傾向があり、その傾向はワイドギ
(Martizez-Criado et al, Appl. Phys. Lett. 86
ャップ希薄磁性半導体では特に大きい。その
(2005) 131927, K. H. Ploog et al, J. Vac. Sci.
ため GaMnN 等では均一な物質を作るのはか
Technol. B21 (2003) 1756), AlCrN と
なり難しい。一方、GaMnAs 等ではE は GaN
GaCrN(Gu et al., J. Magn. Magn. Mat.,
系の希薄磁性半導体に比べると小さく、合成
290-291 (2005) 1395), GaFeN (Bonanni et
はワイドギャップ半導体に比べれば容易であ
al., Phys. Rev. B 75 (2007) 125210), GeMn
るということになり実験事実を再現している。
(Jamet et al., Nature materials 5 (2006)
E の計算だけでは、具体的な磁性不純物
653) や GeFe (Shuto et al., 90 (2007)
の分布をしめすことはできないが、不純物間
132512) で実験が行われスピノダル分解と
に働く対相互作用を計算しておけばモンテカ
磁性の関係が明らかになりつつある。シミュ
ルロ法によりスピノダル分解をシミュレート
レーションで予言した細長いナノ磁性体の生
することができる。第一原理からの対相互作
成は、特に AlCrN と GeMn ではっきり観測
用の計算処方は Ducastelle と Gautier により
されている。単純なシミュレーション手法で
与えられており合金の相図の予測に用いられ
あるが、我々の方法は希薄磁性半導体成長の
てきた。E の計算結果に対応して希薄磁性
物理の一端を記述しているようである。この
半導体では引力的な対相互作用が計算される。
現象を積極的に使い、最初に何らかの方法(電
希薄磁性半導体をモデル化したイジング模型
子線リソグラフィー等)で成長核となるもの
に対してモンテカルロシミュレーションを実
を植え付けてやるとその上に選択的にナノ磁
行して磁性不純物の不均一分布を再現する。
性体が形成される(図(d)-1 → 2 → 3)。ま
GaCrN についてのシミュレーションの結
た、その成長途中で不純物濃度を変えてやる
果を図に示す。図(a)は完全にランダムな Cr
とナノ磁性体の形状も変えることができる
の初期配置であるが、Cr 間の引力的な相互作
(図(e)-1 → 2 → 3)。このようなシミュレ
用により図(b)のように小さなクラスターが
ーションは、希薄磁性半導体中のナノ磁性体
研究紹介
を半導体スピントロニクスデバイスへ応用す
解は強磁性を抑制する。なぜなら、図(b)にあ
ることを考えて行ったものであるが、最近
るスピノダル分解により形成されたクラスタ
GeMn の系で形状制御の実証実験が行われて
ー間には磁気的な相互作用がほとんどないか
いる(Devillers et al., cond-mat 4 May 2007)。
らである。クラスター内の磁性原子間には強
い交換相互作用が働いていると予想され、一
つの磁気モーメントを形成していると考える
と、スピノダル分解した希薄磁性半導体は超
常磁性状態になっていることがわかる。それ
ぞれのクラスターは大きな磁気モーメントを
持つため外部磁場に強く反応し鋭く立ち上が
るが‘常磁性’であるのでヒステリシスは現れ
ない。しかし、現実には磁気異方性のため磁
化が外部磁場方向に緩和するのに有限の時間
がかかる。そのため観測時間のスケールが緩
和時間よりも短いと系の磁化曲線にヒステリ
シスが現れる(ブロッキング現象)。クラスタ
図:希薄磁性半導体 GaCrN と ZnCrTe のスピノダル
分解のモンテカルロシミュレーション。(a)GaCrN 中で
の Cr の完全にランダムな初期配置、(b)3次元的に Cr
ーが大きく成長し、また球対称から大きくず
れた形状をとると異方性エネルギーは大きく
なりブロッキング現象が強く表れるようにな
の拡散が起こりスピノダル分解により小さなクラスタ
る。よって、ナノ磁性体の形状と大きさを制
ーが形成された。(c)拡散が成長表面のみに制限される
御できれば、ブロッキング温度を調整するこ
場合結晶成長方向に平行に細長いクラスターが形成さ
とができ、希薄磁性半導体の高温での磁気特
れる。(d)成長の核を植え付けておいてやるとその上に
性を制御できる。これが新しい半導体スピン
ナノ磁性体が選択的に成長する。(e)また、成長途中で
ト ロ ニ ク ス 材 料 設 計 の 指 針 (1) で あ る ( K.
不純物濃度を変えるとナノ磁性体の形状を制御できる。
Sato et al., Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007)
(a)〜(c)は GaCrN、(d)と(e)は ZnCrTe のシミュレーシ
L682)。
ョン結果である。
磁性不純物の高濃度添加については、我々
は同時ドーピング法を提案している。同時ド
さて以上のことをふまえると半導体スピン
ーピング法はワイドギャップ半導体の単極性
トロニクス材料の設計方針として相分離をど
(一方の極性にしかドーピングできない性
のようにとらえるかで 2 つの方向が考えられ
質)をのりこえて価電子制御を行うテクニッ
る。つまり、(1)相分離を積極的に起こさせて
クである。例えば GaN は n 型ドーピングは
磁気特性の制御に用いるという考え方と、(2)
容易であるが p 型ドーピングは非常に難しい
相分離を抑制し高濃度に遷移金属を添加する
という単極性を示すが、アクセプターである
方法を探るという考え方である。(1)について
Mg とドナーである Si または O を 2:1 の割合
は、われわれは超常磁性状態でのブロッキン
で同時添加すると、固溶度の上昇、活性化率
グ現象を用いるマテリアルデザインをおこな
の上昇、移動度の改善が期待できることが第
っている。
一原理計算によりデザインされており実験に
低濃度領域(10%前後)では、スピノダル分
より実証されている。この方法を希薄磁性半
研究紹介
導体に応用する。希薄磁性半導体では磁性不
加する。そのため、磁性不純物とキャリア不
純物が母体半導体にホールを導入する場合が
純物の比率によっては、固溶度はあがっても
多く、p 型伝導と強磁性発現が密接に結びつ
強磁性が消えてしまう可能性がある。一番有
いている。同時添加する不純物はドナー不純
望な方法は格子間不純物を同時ドーパントと
物ということになり、GaMnAs や GaMnN の
して用いることである。同時ドーピングの効
場合は O または Si が候補となる。計算する
果で高濃度に磁性不純物を添加した後、熱処
混合エネルギーは例えば n 型の GaN の場合、
理により格子間不純物を取り除き強磁性を復
E
活させる。O や Si のような置換型の不純物の
=
TE(Ga1-xMnxN1-yOy)
TE(MnN1-yOy)
+
-
[x ×
(1-x)×TE(GaN1-yOy)
]
場合は難しいが、格子間 Mn や格子間水素等
と多尐複雑になるが KKR-CPA では簡単に対
の動きやすい不純物であれば十分現実的なマ
応できる。我々の最近の計算では y=0 の場合
テリアルデザインであると考えており計算を
混合エネルギーは正で、x に関して上に凸の
進めている。実際、GaMnAs では結晶成長時
曲線であるが、y の値を大きくしていくと x
に格子間 Mn が自然に導入されることがわか
の小さい領域に混合エネルギーが負の領域が
っており、低温でのアニーリングにより格子
出てきて、その濃度領域ではスピノダル分解
間 Mn を拡散させ取り除くことでキュリー温
は起こらず均一に固溶することがわかる。さ
度が上昇することが実験的に確かめられてい
らに y を大きくしていくと混合エネルギーは
る。
全濃度領域で負で下に凸の関数となる。この
ように希薄磁性半導体でも高濃度ドーピング
第一原理計算に基づく希薄磁性半導体のス
に同時ドーピング法が有効であることが第一
ピノダル分解の計算機シミュレーションを紹
原理計算により示唆されている (K. Sato et
介したが、「ナノスケールスピノダル分解に
al., Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) L1120.)。
よるスピン流機能と制御法のデザイン」のた
黒田らは ZnCrTe での同時ドーピングの効
めに、この知見を活用し、スピノダル分解を
果を実験的に調べている(Nature materials,
起こした希薄磁性半導体を積極的に用いた新
6 (2007) 440) 。彼らの実験によると同時ドー
規ナノスピントロニクス・デバイスの創製法
ピングをしない場合、Cr の不均一分布を観測
や、スピン流とその制御法のデザインである
し同時に強磁性を確認している。I(ドナー)
が、その例として CMOS-free-MRAM や熱電
の同時ドーピングは不均一分布と強磁性には
冷却素子のデザインを提案していきたいと考
大きな影響を与えないが、N(アクセプター)
えている。
の同時添加で Cr は均一に分布するようにな
り同時に強磁性が抑制される。これは、我々
の第一原理計算の予測(I により不均一分布
が抑制される)と矛盾する。ZnTe は通常 p
型の単極性を示し特にキャリア不純物を導入
しなくても p 型になっている。このようなこ
とを考えに入れ ZnCrTe での同時ドーピング
の効果を考察中である。
さて、同時ドーピングでは磁性不純物が導
入したキャリアを補償する不純物を同時に添
氏名:佐藤和則
所属:阪大産研
公募研究紹介
半導体上のスピネル型ハーフメタルの成長と高偏極率スピン注入の実証
北海道大学
量子集積エレクトロニクス研究センター 陽 完治
スピネル型のハーフメタルである鉄酸化膜のマグネタイトは自然界にも安定し
て存在することで知られた高スピン偏極率材料である。半導体(InAs)上の高品質膜
の成長が可能であること、特に半導体との界面が安定していることは、界面でのス
ピン散乱を起こす起因となる鉄の砒素化合物を抑制できる可能性が高い。このよう
な系の結晶成長技術の確立とスピン注入の評価をおこなう。
本研究のではこのようなスピネル型のハー
フメタルの結晶成長技術の確立と半導体への
スピン注入効率の評価を高温領域でおこない、
高偏極率のスピン源の開発を目指す。
1年という限られた期間内に効率的にこの目
的を達成するためには、これまで蓄積した技
術を応用して次のような項目を明らかにして
行く。
(1) 材料(InAs, InGaAs, GaAs)に応じたマ
グネタイトの成長条件の確立。(結晶成長、
XPS 測定、 SQUID による磁化測定を含む。
)
。
(2) マグネタイトの金属• 絶縁体転移温度
(約 120K)以上室温までにおけるスピンダイ
オードからの偏光測定。高温での偏光測定は、
5.93Å
非発光再結合を小さく保つために高品質なヘ
テロ構造のエピ成長が鍵となる。(3)InAs
8.40Å
[100]
系チャンネルを用いたローカルおよびノンロ
ーカル磁気抵抗測定。チャンネル中のスピン
伝導に与えるスピン軌道相互作用を考慮し、
[110]
(100)InAs 系ヘテロ構造および(110)InAs 基
(001)Fe3O4 surface
板を用いて磁気抵抗測定をおこなう予定。
6.06Å
8.57Å
[110]
[100]
(001)InAs surface
陽 完治・北海道大学 量子集積
エレクトロニクス研究センター
公募研究紹介
Fe4N を用いた高偏極率スピン源の開発
東北大学工学研究科電子工学専攻 角田匡清
Fe4N は、高いスピン偏極率を持った電気伝導性が期待されるのと同時と、CoFe
などの強磁性層との組み合わせでインバース TMR 効果を示す。Fe4N を用いた高
偏極率スピン源とスピンエレクトロニクスデバイスの開発を目指しています。
Fe4N を用いた高偏極率スピン源とスピンエ
レクトロニクスデバイスの開発を目指してい
ース TMR 効果が観測される[3][4]ことが、大
きな特徴です。
ます。 Fe-N 系合金は N 原子が Fe 格子中に
侵入型で取り込まれることで形成され、
数 100
nm 程度の厚みの薄膜では、bcc 構造の Fe 格
子中への N 原子侵入により c 軸方向に格子が
伸びた bct(’)相が、およそ 11 at%を上限に
して N 濃度を連続的に変化させて合成でき、
また、fcc 構造の Fe 格子の体心位置への N 原
子侵入により N 濃度 20 at%の Fe4N(’相)が
合成されます。我々のグループの最近の研究
では、極薄(~数 nm)層の多層積層膜の手法
図2.Fe4N/MgO/CoFeB-MTJ のインバース TMR 効果
を用いることで、広い N 濃度組成範囲で’相
本研究では、理論予測されている Fe4N の高
ならびに’相の両相の合成が可能であること
偏極率スピン伝導率の検証、ならびにインバ
も明らかとなっています[1]。このような Fe-N
ース TMR 効果とスピントランスファートル
系合金を用いることによって、スピンエレク
ク効果との相関検討を目的に実験を行ってい
トロニクス材料における N 等の軽元素の役割
ます。
を実験的に解明すべく、その第一歩としてバ
ルクでも安定な Fe4N を選んでいます。
'-Fe-N
a
c
Fe
N
c
a
'-Fe-N
図1.N 濃度 20 at.%
の Fe-N 合金の格子模
型。Fe 格子の八面体
位置に N 原子が侵入
している。軸比(a/c)
により ’相および ’
相が区別される。
[1] K. Sunaga, M. Tsunoda et al., IEEE Trans.
Magn., 42, 3020 (2006).
[2] S. Kokado et al., Phys. Rev. B, 73, 172410
(2006).
[3] K. Sunaga, M. Tsunoda et al., J. Appl. Phys.,
102, 013917 (2007).
[4] 駒崎洋亮,角田匡清,他,日本磁気学会
第 32 回学術講演会, 14a2PS-33(B) (2008).
最近の理論計算[2]から、Fe4N は高偏極率ス
ピン源の材料として有望であること、また、
MgO 障壁層および CoFeB 強磁性層と組み合
角田匡清
わせることで、室温で大きな(~75%)インバ
東北大学大学院工学研究科
公募研究紹介
スピネルフェライトによるスピンフィルタ型スピン源の作製
筑波大学大学院数理物質科学研究科 柳原英人
高いスピン分極率を実現する手段として強磁性絶縁体をトンネル障壁とする MTJ
を作製します.比抵抗やキュリー温度が高いスピネルフェライトのうちγ-Fe2O3
を障壁として利用することで,室温でのスピンフィルタ効果を確認したいと考え
ています.
強磁性絶縁体では伝導帯がスピン分裂して
ると考えています.
いるため,トンネル電子が感じる障壁高さは
これまでにγ-Fe2O3
スピンに強く依存します.したがって,強磁
を成長させる条件や,
性絶縁体を障壁とした MTJ を作製すれば,無
適当な下部電極材料,
偏光が偏光板を通ることで偏光を作ることが
スピンバルブ構造を
できるように,非磁性の電極を用いて高いス
実現するための層間
ピン分極電流を得ることが期待できます(ス
材料等の探索を進め,
ピンフィルタ効果).室温でのスピンフィルタ
素子を作製しました.
型 MTJ の実現には,高い TC と高い比抵抗を
素子の基本構造は,窒
併せ持つ磁性材料が不可欠です.
化物,酸化物,金属
この研究では,純オゾンを酸化源として作
図2
膜構造と RHEED 像
といった異種材料
製したγ-Fe2O3 を障壁層にもちいてスピンフ
の組み合わせからなり,この過程で興味深い
ィルタ型 MTJ の作製をします.γ-Fe2O3 は,
界面現象やエピタキシャル成長条件が見出さ
マグヘマイトと呼ばれ Fe3O4(マグネタイト)
れています.
3+
と同じスピネル構造ですが,すべて Fe で構
83.8
すでにいくつ
83.6
2.0
t-Fe O  36 Å
2
3
1.5
83.4
の高い電気抵抗をも
ており(図 2)室温
つ酸化物です.また磁
での MR も観測
気テープに用いられ
しています.現時
ていた実用材料です
点では 2%程度の
ので,高い TC を持ち,
さほど大きくない MR ですが,今後成膜条件
室温での化学的な安
の見直しを行なうことでより大きな MR を実
定性も十分です.Fe
現したいと考えています.スピンフィルタが
と O のみからなる酸
スピン注入源のあらたな選択肢になることを
化物であるため,サイ
目標に研究をすすめていきた
ト欠陥等の影響はな
いと思っています.
くスピンフィルタ用
柳原英人
の障壁層に有望であ
筑波大学大学院数理物質科学研究科
図 1 スピンフィルタの概念図
R ()
か 素子 を作 製し
83.2
83.0
1.0
82.8
82.6
MR (%)
成されているため,そ
0.5
82.4
82.2
-1000
-500
0
500
0.0
1000
Magnetic field (Oe)
図3
室温での MR 曲線
公募研究紹介
有機局在スピン-伝導電子共存系におけるスピン流の解明
名古屋大学大学院 理学研究科 松下 未知雄
有機ラジカル分子のスピンに基づく磁性-導電性共存系が実現した。この物質は
磁性金属イオンを含まず、π電子系の2次元的なトポロジーによって、s-d 相互
作用や s-f 相互作用と類似の電子構造を作り出している。
磁性-導電性共存物質は、これまで天然に
め、SOMO の軌道によって HOMO の軌道が
磁性をもつ遷移金属元素や希土類元素の単体
スピン分極を受けていると考えられる。この
金属及びその合金、または、それらのイオン
ような電子構造は磁性金属元素の電子構造と
を含んだ酸化物等に限られていた。これらの
類似しており、π共役系の 2 次元的なトポロ
原子(イオン)上では、内殻であるd軌道が
ジーを操作して、磁性金属元素を人工的に創
磁性スピンを、外殻であるs軌道が伝導電子
ったともいえる。我々はこのようなドナー分
を担っており、原子軌道間の直交性に基づく
子を、「スピン分極ドナー」と呼称している。
強い一中心の相互作用(s-d 相互作用)が、様々
現在、ドナー骨格の異なる種々のスピン分
な興味深い物性を示す起源となっている。こ
極ドナーの合成を進めており、すでに複数の
れに対し、我々の研究グループでは、有機合
系で負性磁気抵抗の検出に成功している。
成的手法を活用して、伝導電子と局在スピン
このような有機磁性-導電性共存系は、単
の両方を有機分子が担う、これまでに無い磁
に有機物質で出来ているというだけではなく、
性-導電性物質を開発し、その伝導電子と局
伝導キャリヤーの電荷秩序化に基づく非線形
在スピン間の相互作用を磁気抵抗の形で検出
的な導電特性と巨大負性磁気抵抗のカップリ
することに初めて成功した
[1,2]
。
我々が開発した物質においては、局在スピ
ングや[2]、分子スピンによる分子上のトンネ
ル電子の散乱など
[3]
、有機導電体に特有の性
ンは分子上のフリーラジカルとして存在し、
質を兼ね備えたスピン依存伝導現象が見出さ
同じ分子上のπドナー部位が分子間で形成し
れている。本領域の研究者と積極的に交流を
た混合原子価の積層構造が伝導電子を担って
持ち、これらの有機ラジカルに起因する新し
いる。この際、分子上のフリーラジカルの軌
いスピン依存伝導を解明していきたい。
道(SOMO)と伝導電子を担うπドナー部の
[1] M. M. Matsushita, et al. Chem Lett. 36, 110-111 (2007).
[2] M. M. Matsushita, et al. Phys. Rev. B 77, 195208, (2008).
[3] T. Sugawara, et al. Phys. Rev. B 77, 235316, (2008).
軌道(HOMO)は、同じ分子上の軌道のため
直交しているが、同じ空間を共有しているた
図1 スピン分極ドナーESBN の分子構造と分子軌道、及
びそのイオンラジカル塩(ESBN)2ClO4 の結晶構造の模式図
松下
未知雄
名古屋大学大学院理学研究科
公募研究紹介
原子層制御蒸着法および局所磁性測定法を用いた
高スピン分極合金の探索
名古屋工業大学大学院工学研究科
壬生 攻
原子層制御蒸着法と局所磁性測定法を用いて,微視的な観点から高スピン分極合
金の探索を目指します.主力装置は超高真空交互蒸着装置とメスバウアー分光装
置で,後者を用いた共同研究の御提案もお待ちしています.
本公募研究課題は,原子層レベルで構成元
主力装置は,単発電子銃 2 機と 6 連電子銃 1
素を蒸着し薄膜成長を制御する「原子層制御
機を備えた超高真空交互蒸着装置(Fig. 1)
交互蒸着法」を用いて合金規則度や界面原子
と,3 ユニットのメスバウアー分光装置で,
種・界面構造が制御された L21 型ホイスラー
その他に SQUID 磁束計やマイクロカー効果測
合金(あるいはそれと類似した構造をもつ合
定装置などが常備されています.磁気トンネ
金)の薄膜を作製し,原子核をプローブとし
ル接合の作製は,連携研究者の葛西伸哉助教
た局所的な磁性測定法である「メスバウアー
の御協力のもと,京大化研・小野研究室にて
分光法」を用いて結晶構造の乱れの影響や界
行っています.
面磁性を精密に評価することによって,微視
当研究室は,発足 4 年目を迎え,この 4 月
的な観点から高スピン分極合金の磁気的特性
から田中雅章助教がメンバーに加わりました.
の解明と制御を目指すものです.室温付近で
スハルヤディ・エディ博士研究員と,修士 2
の磁気抵抗効果の低下など,ホイスラー合金
年生 3 名,1 年生 3 名,学部 4 年生 3 名をあ
薄膜を用いた磁気トンネル接合が直面してい
わせて 12 名のメンバーとなり,ようやく研究
る諸問題にブレークスルーをもたらすことを
室としての体制が整って参りました.このよ
目標としています.また,原子層制御蒸着法
うなタイミングで公募研究に採択いただいた
を用いることによって,熱平衡状態で存在が
ことは大きな励みであり,この場を借りて関
知られていない高スピン分極合金を探索し,
係者の皆様に深く感謝いたします.
それらを用いた巨大磁気抵抗素子を作製する
ことを目指します.
URL: http://kinou.elcom.nitech.ac.jp/mibu_lab/
壬生
Fig. 1
超高真空交互蒸着装置
攻
名古屋工業大学大学院工学研究科
公募研究紹介
スピン偏極STMで探る高スピン偏極磁性合金薄膜の表面状態とスピン依存伝導
大阪教育大学 自然研究講座
川越 毅
スピン偏極 STM の手法を用いて高スピン偏極材料の形状構造・磁気構造・スピン依存
伝導・表面スピン偏極電子状態との相関をナノ領域で調べることを目指します。
特定領域研究「スピン流の創出と制御」A01
観察室ともに5×10-11Torr以下が定常的に得
班「スピン源の探索と創製」の H20 年度公募研
られています。試料成長室には、Kセル、電
究に採択していただきましたことを、研究代
子ビーム蒸着源4、試料加熱ステージ、低
表者高梨先生をはじめ関係者の方々に感謝申
速電子線回折およびオージェ分光器STM観
し上げます。
察室にはOmicron社マイクロSTM、探針用電
これまでのスピン流・スピン依存伝導の研
子衝撃加熱、試料搬送装置が設置されてい
究は薄膜試料を微細加工した固体デバイスを
ます。すなわち試料の清浄表面作製とその
用いた(サブ)ミクロン領域の観測が主流で
評価、探針の清浄化、強磁性探針作成、S
あるのに対して本研究の特徴は、強磁性探針
TM観察が室温・超高真空下で可能です。
を用いたスピン偏極 STM の手法を用いること
であり、 1)ナノ構造(原子配置)、磁気構
造、スピン偏極表面状態が同時にかつナノ領
域(原子レベル)で調べられる
2)理想的
な真空バリアを介しての電流注入磁化反転の
観測などのスピン依存伝導の実験もナノ領域
以下の局所領域で行うことができる
などの
利点を持つと考えています。
高スピン偏極材料として1)bcc Co 2)
FePt(001)規則合金薄膜
などを研究対象と
し、これらの薄膜の清浄表面を作製し、強磁
性探針を用いたスピン偏極 STM によって形状
構造・磁気構造・スピン依存伝導・表面スピ
ン偏極電子状態との相関をナノ領域で調べる。
FePt(001)規則合金薄膜は研究代表者である
東北大金研高梨教授グループから提供しても
図1 超高真空 MBE/STM 装置
よろしくお願い申し上げます。
らい、共同研究によって効率的に特定領域研
究の推進に貢献できると期待しております
本研究の主要な実験は、現有の試料成
川越 毅
長室、STM観察室を備えた超高真空STM/MBE
大阪教育大学
装置(図1)が設置されている大阪教育大
教養学科自然研究講座
学で行います。到達真空度は試料成長・STM
公募研究紹介
気体原子の光ポンピングとスピン偏極
兵庫県立大学 石川 潔
気体原子の光ポンピングによる電子と核のスピン偏極を研究しています。 光の
角運動量を、アルカリ金属原子を介し、気体・液体・固体に移し貯えることが目
的です。 現在は、偏極気体原子によりアルカリ塩の核スピン偏極率が増大する
物理に惹かれています。
兵庫県立大学は、兵庫県内に分散する教育
研究施設群です。 兵庫県が日本海にも瀬戸内
海にも面しているので、その気候風土に応じ
た多種の施設があります。 私が本拠地とする
播磨科学公園都市キャンパスは、SPring-8 な
どの放射光施設に近接し、光をキーワードと
した自然豊かな地域です。
このキャンパスで、これまでレーザーを使
ったスピン偏極の研究を行ってきました。 光
ポンピングしたアルカリ金属は、GPS 原子時
計や高感度な原子磁束計に使われます。 アル
図:永久磁石による光ポンピング NMR 装置。 冷却
水により永久磁石磁場の温度ドリフトを抑える。
カリ金属により核スピン偏極した希ガス(3He,
ません。 超伝導磁石を手に入れるだけの才覚
129
があればよいのですが、4 年生の課題として
研究でありながら、応用に直結することが面
永久磁石を使い NMR 用の磁石(磁場 0.57 T、
白く感じられます。 さらに広汎な物質に、ア
均一度 10 ppm)を作ることにしました。 磁
ルカリ金属を介し光の角運動量を移したいと
場は弱いものの、手作りすることにより上図
思っていたところ、共同研究の機会が得られ
のようなコンパクトな装置になりました。 こ
ました。 それは、3 年前に兵庫県の在外研究
の忍耐の時期に頑張って実験することで、超
制度で行なった、合衆国プリンストン大学に
伝導磁石とレーザーによる実験を将来実現さ
おける固体の核スピン偏極の実験です。 その
せたい、と夢見ています。
Xe)は医療画像診断に利用されます。 基礎
半年ぐらい前から電子メールにより議論しな
がら実験計画をたて、帰国後も毎日のような
メール交換によって理論考察などを行いまし
た。 おかげで、のべ 500 日の滞在は実験のた
めに使うことができ、海外で立ち上げた実験
は順調に進みました。
帰国しましたが、せっかくの新しい視点に
よる固体の核スピン偏極が実用化できるかど
うかという時に、自分が手を引くことはあり
兵庫県立大学
石川 潔
公募研究紹介
ZnSe 障壁層を用いたスピン発光素子の開発
産業技術総合研究所スピントロニクスグループ
齋藤秀和
強磁性金属から半導体への効果的なスピン偏極電子の注入(スピン注入)のため
には、金属/半導体界面に絶縁障壁層を挿入する必要があるとされています。本
研究は、より効率的なスピン注入のための新障壁層材料の開発を目的とします。
半導体スピントロニクス分野における最終
体である Fe と強磁性半導体物質(Ga,Mn)As
的な目標の素子の一つが、電子のスピン自由
を電極としたトンネル接合における磁気抵抗
度を利用して、電源を切っても情報を失わな
(MR) 曲線を示します。障壁層材料としては
い機能(不揮発性)を有するトランジスタで
ZnSe という II-VI 族の半導体を用いています。
ある「スピントランジスタ」です。
最大で 40%に達する磁気抵抗比が得られまし
スピントランジスタを実現するためには、
た。この値は金属/絶縁体/半導体(MIS)型トン
強磁性体から半導体中へスピン偏極した電子
ネル素子としては最も高い値です。この結果
を注入し、そのスピン情報を保ったまま、少
より、我々は ZnSe が Fe から半導体 GaAs 中
なくとも半導体トランジスタのチャネル長さ
へのスピン注入のための優れた障壁層材料と
(目安として百∼数百 nm 程度)を伝搬させ
成り得ると考えています。
具体的なスピン注入実験としては、Fe/ZnSe/
る技術を確立する必要があります。
この「スピン注入」を効果的に行うために
半導体量子井戸から構成される発光素子を作
は、強磁性と半導体間にトンネル絶縁層を挿
製し、そのスピンの方向に依存した発光特性
入することが必要とされています。本プロジ
を調べます。また、ZnSe 以外の障壁層材料も
ェクトは、より効果的なスピン注入のための
積極的に導入する予定です。
新障壁層材料の開発を目的としています。
研究に際しては、研究代表者の所属する産
本特定研究への参加に先立ち、研究代表者
総研スピントロニクスグループの皆様からご
グループは障壁層材料への有力な候補となる
支援をいただいております。ここに、集合写
材料を見出しました。図は、一般的な強磁性
真を掲載して感謝の意(?)を表します。
50
M R (%)
40
T = 2 K
V = 1 mV
d Z nS e = 3 nm
30
20
10
0
-40
-20
0
20
40
µ ο H (m T )
Fe/ZnSe/(Ga,Mn)As磁気トンネルダイオード素子
における磁気抵抗曲線(Saito et al. APL2006)。
産総研スピントロニクスグループ
産総研スピントロニクスグループ。研究代表者(齋藤)
は下段右端。
公募研究紹介
「スピン物性分光研究室」紹介
立命館大学理工学部物理科学科
今田
真
2008 年 4 月に新しく「電子のスピンに起因する面白い物性を電子分光の実験で解
明する」ことを目指して発足した研究室です。まだスタッフ 1 人と 4 年生 5 人だ
けの研究室ですが、学生さんの意気込みで研究室立ち上げと SPrin-8 利用実験を
進めています。
立命館大学びわこ草津キャンパス(BKC)に
行うことを目指しています。そのほか光電子分
2008 年 4 月にできたばかりのわたしたちの研
光による電子状態の解明や磁気円二色性顕微鏡
究室は、「スピン物性」を「分光」の実験手法
による元素ごとの磁気モーメントマッピングで
で明らかにすることを目指しています。研究
特定領域の研究に寄与できればと願っています。
対象を示す「スピン物性」はかなり広い意味
領域内の共同研究を積極的に行っていきたいと
で使っていて「磁性」と「強相関電子物性」
思っておりますのでよろしくお願いいたします。
の両方を含ませています。研究手法の「分光」
は、我々の場合は、光電子分光や軟 X 線磁気
円二色性などの電子分光法で、大学の実験室
だけでなく SPring-8 や UVSOR などの高輝度
放射光施設に共同利用実験をしにでかけてい
きます。
スピン流の物理に関しては、放射光の持つ
パルス性を利用した時間分解測定を用いるこ
とで公募研究「強磁性-非磁性層における伝導
電子スピン状態ダイナミクスの実験的解明」を
SPring-8 での実験風景。左上は軟 X 線、右下は硬 X 線
を用いた光電子分光。硬 X 線は真空チェンバーを透過
するので、後者は放射線防護ハッチの中で行われる。い
ずれも 80 meV 程度の分解能が得られ、特に硬 X 線は光
エネルギーの 8 keV の 10 万分の 1 の高分解能である。
実験室で立ち上げ中の光電子分光装置。右上のお椀状の
部分が光電子分析器 (MB Scientific 社製の A1 型) で、
左下手前の He 放電管 (同社製 L1 型) で発生する紫外光
を用いて 1 meV オーダーの分解能が得られる。
今田 真 立命館大学理工学部物理科学科
公募研究紹介
ナノ狭窄構造薄膜のスピン伝導に関する研究
東北大学 工学研究科
土井正晶
当研究グループでは自己組織化法を用いた絶縁体層中への電流狭窄ナノチャネ
ル構造の造り込み方法を適用し、スピントランスファートルク(STT)によるマ
イクロ波発振について研究し、その応用に向けて取り組んでいます。
当研究グループ(東北大学大学院工学研究
3D電流マッピング
科電子工学専攻佐橋政司研究室)では自己組
織化法を用いた絶縁体層中への電流狭窄ナノ
チャネル構造の造り込み方法を適用し、ナノ
狭 窄 領 域 に 磁 壁 を 閉 じ 込 め た
FeCo/[FeCo-AlOx ナノ狭窄構造]/FeCo を積層
した強磁性ナノ接点型のナノ狭窄構造薄膜に
おいて GMR ではなく、TMR でもないナノ狭
窄磁壁型(Domain Wall MR
ナノ狭窄構造作製・評価装置
(DWMR))の比
較的高い磁気抵抗比(~10%)を観測すること
を報告しています。また、既に本ナノ狭窄構
造体において狭窄された磁壁に起因すると考
えられるスピントランスファートルクによる
比較的高い発振強度と Q 値(⊿f/f)のマイク
ロ波発振を確認しています。
そこで本研究課題では、自己組織化による微
小な導電チャネルでのマルチチャネル STT マイ
クロ波発振において、そのスピン伝導とそのス
ピントランスファートルクによって生じるスピ
ンダイナミクスを調べ、特にスピンダイナミク
スのナノチャネル間のコヒーレンシーについて
図1
作製・評価装置と Conductive-AFM による 3D 電
流像の測定例
検討することを目的とします。まず自己組織化
によって形成された種々の層厚・酸化条件で作
製 し た ナ ノ 狭 窄 層 FeCo-NOL ( Nano-OxideLayer)において Conductive AFM によって構造
解析を行い(図 2)、チャネル径、間隔、分布等
を定量化します。構造解析を基にチャネル密度
の異なるナノ狭窄型スピンバルブ素子を作製し、
磁気抵抗効果および STT マイクロ波発振の計測
を行います。得られた MR 特性と直流電流投入
時のスペクトルアナライザを用いたスピンダイ
ナミクス計測の結果を合わせて、ナノ狭窄領域
て解析し、ナノ狭窄層におけるスピン伝導とコ
20nm
ヒーレントなスピンダイナミックスについて考
察することを目標にします。
1nm
1nm
20nm
i
図 1 自己組織化法を用いた絶縁体層中への電流狭窄
ナノチャネル構造(概念図)
土井正晶・
東北大学工学研究科
公募研究紹介
高温強磁性酸化物半導体の強磁性制御
東北大金研 1,東北大 WPI 材料機構 2 福村知昭 1,上野和紀 2,山田良則 1,川崎雅司 1,2
コバルトドープ二酸化チタンは約 600 K という高いキュリー温度を持つ希薄ドー
プ系強磁性半導体です。本研究では、半導体スピントロニクスデバイスの室温動
作を目指し、強磁性の外場制御を行なうことを目的としています。
酸化物半導体は触媒、蛍光体、透明導電体
を流すユニークな物質です(図 1)
。
と様々な用途に用いられていますが、最近の
この物質では電子濃度が上がると常磁性相
酸化物薄膜技術の発達により、半導体デバイ
から強磁性相に変化します。強磁性相では通
ス材料としても有用な性質を持つことがわか
常の強磁性金属のホール効果のように、ホー
ってきました。酸化物半導体は n 型が大半で
ル効果が異常項と正常項の足し合わせになり、
すが、高濃度の電子ドープが可能で比較的重
異常ホール伝導率が縦伝導率の約 1.6 乗にス
い電子の有効質量を持つことから、遷移金属
ケールすることがわかりました[2]。このスケ
ドープにより大きな交換相互作用が発現する
ーリング則は他の物質についても見られ(図
ことが期待できます。また、酸化物半導体に
2)、東大の小野田らによって理論的にも説明
対して、様々な遷移金属のドープが可能です。
されています[3]。図 2 から、Co ドープ TiO2
コンビナトリアル手法で多くの酸化物半導体
では電界効果などにより伝導率を変化させれ
と遷移金属ドープの組み合わせの磁性を調べ
ば、室温で異常ホール効果を制御できること
た結果見つかったのが、
が期待できます。約 600 K という希薄ドープ
Co ドープ TiO2 の室温強
系での高温強磁性[4]のメカニズムの解明も
磁性です[1]。Co 濃度が
加えて、本研究では室温強磁性の制御を試み
高々数%もあれば室温
ていきたいと思います。
強磁性が生じ、薄膜の状
態ではほぼ透明で電気
図 1 Co ドープ
TiO2 薄膜の写真
図 2 様々な強磁性体の異常ホール伝導率-縦伝導率
の関係
[1] Y. Matsumoto et al., Science 291, 854 (2001).
[2] H. Toyosaki et al., Nat. Mater. 3, 221 (2004); K.
Ueno et al., Appl. Phys. Lett. 90, 072103
(2007); T. Fukumura et al., Jpn. J. Appl. Phys.
46, L642 (2007).
[3] S. Onoda et al., Phys. Rev. Lett. 97, 126602
(2006).
[4] K. Ueno et al., J. Appl. Phys. 103, 07D114
(2008)
福村知昭
東北大金研
公募研究紹介
MgO-強磁性トンネルトランジスタの開発
産総研エレクトロニクス研究部門 長浜 太郎
強磁性トンネルトランジスタはスピントロニクスを用いた三端子素子であり、ス
ピン注入源や増幅素子の可能性が期待されている。本研究では、従来型の AlOx
障壁層ではなく、MgO 障壁層を用いることにより、特性の大幅な向上を目指す。
強 磁性 トンネ ルトラ ンジ スタ (Magnetic
Tunnel Transistor: MTT)は強磁性体のエミッ
タ層ベース層を持つホットエレクトロン型ト
ランジスタです。コレクタは半導体で、ベー
ス/コレクタ間にはショットキー障壁が生成
されます。エミッタに電圧を印可すると電子
はベース中にトンネルし、そのトンネル電子
はエミッタ電圧に応じてベース中のフェルミ
準位よりも高いエネルギーを持ちます(ホッ
図 1.強磁性トンネルトランジスタの構造の模式図
トエレクトロン)
。エミッタ電圧がベース/コ
電子は s 電子的であり電子-電子散乱確率が d
レクタ間のショットキー障壁高さよりも高け
電子に比べて小さいため、ここでも散乱を抑
れば、ベース層を弾道的に横切った電子はコ
えることできます。また、トンネル障壁の前
レクタ層に注入されて、コレクタ電流となり
方収束効果は波数ベクトルのばらつきを抑え、
ます。また、ベース層内で散乱されエネルギ
ベース・コレクタ界面での反射を抑制すると
ーを失ったトンネル電子はショットキー障壁
考えられます。
を越えられずにベース電流となります。
以上のような MTT の伝導メカニズムでは、
これまでに、いくつかの試料を作製し、3nm
の Fe(001)ベース層をもつ MgO-MTT において
ベース層内の散乱を減らすことが最重要な課
注入効率 0.24%を達成することができました
題です。従来はエミッタ/ベース間の障壁に
(注入効率はコレクタ電流とエミッタ電流の
は、作製の容易さからアモルファス AlOx 層
比)。今後はコレクタ材料の調整によるショッ
が用いられてきました。一方、最近の強磁性
トキー障壁高さの制御やベース/コレクタ間
トンネル接合(MTJ)では MgO 障壁を使うこ
挿入層による界面散乱の抑制などにより、さ
とで非常に高性能な TMR 素子を実現してい
らなる注入効率の増大を目指します。
ます。そこで、MTT でも MgO 障壁を用いる
ことで大きく特性を向上できるのではないか
長浜太郎
というのが、本研究の狙いです。
産業技術総合研究所
まず、単結晶障壁・単結晶ベース層を用い
ることで欠陥や界面での構造による散乱を減
らすことができます。さらに MgO 障壁の対称
性フィルター効果によりトンネルできたΔ 1
エレクトロニクス研
究部門
特定領域研究「スピン流の創出と制御」 2007 年度成果報告会
2008 年 2 月 27~28 日に東京大学本郷キャンパス工学部 2 号館講堂にて、本特定領域
研究 2007 年度成果報告会が開かれました。関係者約 120 人が集まり、口頭(24 件)お
よびポスター(36 件)で 2007 年度の成果発表を行いました。27 日夜には懇親会も行わ
れ、藤森啓安先生、佐藤勝昭先生はじめ、古くからスピントロニクス分野でご活躍され
た先生方からの激励のスピーチもいただき、ここでも活発な議論が交わされました。10
月に正式に領域が発足してから間もない時期の初年度成果報告会でしたが、高梨領域代
表の挨拶と講演に始まり、口頭講演では各グループの代表者から、またポスターでは若
手研究者や大学院生から、さまざまな成果が報告されました。また、外部の大学等研究
機関や企業関係者の参加も見られ、本領域への関心の高さがうかがわれました。
成果報告会のホストをしてくださった田中研究室、大谷研究室の皆さん、有り難うご
ざいました。特に、大谷研究室秘書の川村さんには手際よく準備していただき、おかげ
さまで滞りなく報告会を行うことができました。
特定領域研究「スピン流の創出と制御」2008 年度研究会
2008 年 7 月 22~24 日に京都大学芝蘭会館にて、本特定領域研究 2008 年度研究会が
開かれました。関係者約 120 人が集まり、公募研究代表者 12 名の発表を含む 35 件の口
頭発表およびポスター(38 件)による発表がありました。22 日夜の懇親会でも昼に続
いて熱心な議論が交わされました。懇親会では、総括班研究協力者の高尾正敏氏、京大
名誉教授の新庄輝也先生から激励のスピーチを頂きました。新庄先生からは、本ニュー
スレター巻頭言にある「運・根・鈍」に加えて、「縁」も良い研究をする上で重要であ
るとの指摘を頂きました。本研究会では、新たに加わった公募研究代表者による斬新な
研究発表もあり、まさに本特定領域が研究者間の「縁」を深める場となっていることが
感じられました。
成果報告会のホストをしてくださった鈴木研究室、小野研究室の皆さん、有り難うご
ざいました。特に、鈴木研究室秘書の長谷川さん、小野研究室秘書の外山さんには、研
究会の準備段階から大変お世話になりました。有り難うございました。
研究組織
領域代表者
高梨弘毅 (東北大学
金属材料研究所
教授)
1.総括班
高梨弘毅
大谷義近
大野裕三
小野輝男
田中雅明
前川禎通
研究協力者
安藤功兒
家泰弘
大野英男
高尾正敏
宮崎照宣
東北大学
東京大学
東北大学
京都大学
東京大学
東北大学
金属材料研究所
物性研究所
電気通信研究所
化学研究所
大学院工学系研究科
金属材料研究所
産業技術総合研究所
東京大学 物性研究
東北大学 電気通信研究所
松下電器 中尾研究所
東北大学
教授
教授
准教授
教授
教授
教授
副部門長
教授
教授
総括担当
名誉教授
2.計画研究代表者
A01 班 スピン源の探索・創製
高梨弘毅(班長)
東北大学 金属材料研究所
教授
「ナノ構造制御による高効率スピン源の提案と創製」
黒田眞司
筑波大学 数理物質科学研究科
准教授
「強磁性半導体の特性制御とスピン源への応用」
山本眞史
北海道大学 情報科学研究科
教授
「ハーフメタル系材料を用いた高効率スピン源の探索と創出」
高橋有紀子 物質・材料研究機構
研究員
「高スピン偏極材料のナノ構造解析とスピン偏極率測定」
藤森淳
東京大学 新領域創成科学研究科
教授
「軟 X 線磁気円二色性および軟 X 線散乱による
高スピン偏極材料のキャラクタリゼーション」
白井正文
東北大学 電気通信研究所
教授
「高効率スピン源の理論設計」
A02 班 スピン流とナノヘテロ構造
大谷義近(班長)
東京大学 物性研究所
「新しいスピン流生成・操作手法の探索」
教授
秋永広幸
産業技術総合研究所
研究グループ長
「シリコンベース素子を用いたスピン注入効率の最適化」
新田淳作
東北大学 大学院工学研究科
教授
「スピン軌道相互作用を用いたスピン流の電気的な検出と制御」
井上順一郎 名古屋大学 工学研究科
教授
「ナノヘテロ構造におけるスピン注入とスピン蓄積の理論」
A03 班 スピン流と光物性
大野裕三(班長)
東北大学 電気通信研究所
准教授
「半導体量子構造における核スピンの光制御・検出」
宗片比呂夫 東京工業大学 理工学研究科
教授
「強磁性半導体における光磁化の解明と制御」
安藤康夫
東北大学 工学研究科
教授
「金属系多層膜におけるスピン流と時期緩和の光学的検出」
永長直人
東京大学 工学系研究科
教授
「光・電子スピン結合の理論」
A04 班 スピン流と電子物性
小野輝男(班長)
京都大学 化学研究所
教授
「スピン流における磁気構造のナノスケール制御」
勝本信吾
東京大学 物性研究所
教授
「単電子スピン制御」
齋藤英治
慶應義塾大学 理工学部
講師
「ナノ磁性体におけるスピン流−電磁場変換」
多々良源
首都大学東京 都市教養学部
准教授
「逆スピンホール効果の微視的理論と応用」
前川禎通
東北大学 金属材料研究所
教授
「磁壁運動によるスピン流と起電力」
A05 班 スピン流と機能・制御
田中雅明(班長)
東京大学 工学研究科
教授
「スピン偏極電流制御デバイス」
鈴木義茂
大阪大学 基礎工学研究科
教授
「スピン流高周波・熱デバイスの研究」
清水大雅
東京農工大学 工学府
特任准教授
「光スピントロニクス機能デバイスの研究」
仲谷栄伸
電気通信大学 電気通信学部
教授
「スピン偏極電流磁化反転の解明とデバイス設計」
お 知 ら せ
○本特定領域研究のホームページ
http://ssc1.kuicr.kyoto-u.ac.jp/~tokutei/
に関連情報を掲載していますので、是非ご覧ください。
○本特定領域研究のメーリングリスト
[email protected]
有効にご利用ください。
○2008 年度成果報告会
2009 年 1 月 7 日、8 日に仙台にて開催予定です。
○ 出版される論文等には次のような謝辞を入れてください。
[欧文例]
This work was supported by a Grant-in-Aid for Scientific Research in Priority Area “Creation
and control of spin current” from the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and
Technology, Japan.
[和文例]
本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金特定領域「スピン流の創出と制御」を受
けてなされた。
編 集 後 記
特定領域「スピン流の創出と制御」の 2008 年度研究会は過日猛暑の京都にて
開催されました。研究会の週は今年一番の暑さだったようですが、今年度から
加わった公募研究代表者を含めた素晴らしい発表に活発な議論が交わされまし
た。皆様のお手元にこのニュースレター第2号が届く頃には、研究の秋を迎え
ていることでしょう。
本号では、計画研究メンバーの研究室紹介・研究紹介に加え、今年度新たに
採択された 12 人の公募研究代表者の方に公募研究内容も紹介いただいています。
また関連研究として、大阪大学・佐藤和則先生に「ナノスケールスピノダル分
解による半導体スピントロニクス材料のデザイン」に関してご寄稿をいただき
ました。今後も、研究室紹介・研究紹介を中心に共同研究の種になるようなニ
ュースレターを目指したいと思います。研究成果に関するトピックス、報道発
表の紹介、国際会議報告などを下記ニュースレター編集担当宛にご投稿下さい。
末筆となりましたが、多忙なところ本ニュースレターの原稿を短期間で執筆
してくださった方々に、心より感謝いたします。
平成20年8月
ニュースレター編集担当
小野 輝男
京都大学化学研究所
〒611-0011 宇治市五ヶ庄
℡: 0774-38-3103
E-mail: [email protected]
Fly UP