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Ⅱ 地域資源を活用した農山漁村活性化の取組

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Ⅱ 地域資源を活用した農山漁村活性化の取組
第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
Ⅱ
地域資源を活用した農山漁村活性化の取組
1
地域資源の活用状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地方経済の活力低下が懸念される一方、農山漁村の豊かな地域資源を十分に活かし、
自らの創意工夫と努力により活性化を図っている地域が東北にもたくさん存在している。
地域資源の活用状況
農業集落の地域資源の活用状況として、農林業センサス結果から自然系資源や農産物
などの特産品などの地域資源*5を活用した施設の状況をみると、産地直売所や農林業の体
験施設などがある農業集落は、約2,000集落(全体に占める割合11.8%)にのぼり、産地
直売所や森林レクリエーション施設等、年間5,000万人以上が利用している(図Ⅱ-1)。
図Ⅱー1
地域資源を活用した施設及び利用者数(東北・平成17年)
1 500
1 000
500
0
1 418
0
1 000
2 000
市民農園 2
農業・農村
研修資料館
201
(
180
180
森林・林業
研修資料館
万
人
67
)
)
29
884
304
農業公園
60
施
設
利
用
者
数
(
施
設
数
4 000
3 369
産地直売所
248
3 000
体験実習林 9
森林レクリエー
ション施設
1 765
資料:農林水産省「2005年農林業センサス(農山村地域調査)」
注: 「産地直売所」とは、生産者が自ら生産した農産物(加工品を含む。)を生産者又は生産者のグループが、
定期的に地域内外の消費者と直接対面で販売するために開設した場所又は施設をいう。なお、市区町村、農協
等が開設した施設や道の駅に併設された施設を利用するもの、並びに果実等の時季に限って開設されるものは
含むが、無人施設や自動車等による移動販売は除く。
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
また、全体の28.6%に当たる5,034集落において、産地直送や農林業体験学習の受入れ
など、地域資源を活用した交流事業*6に取り組まれている(図Ⅱ-2)。
図Ⅱー2
東北地域の農業集落における地域資源を活用した交流事業の取組状況
(集落数)
3 000
2 774
2 495
2 500
いず れかの交流事業を
行っている集落
5,034
全集落17,629の28.6%
2 000
1 500
1 201
1 000
500
232
0
農山村地域資
源を活用した観
光客の受入
産地直送を介
した交流
児童、生徒の
農林業体験学
習の受入
農林業ボラン
ティア活動を
介した交流
資料:農林水産省「2005年農林業センサス(農山村地域調査)」
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
2 多様な農林水産物を核とした活性化の取組
農林水産物等地域資源を活用した産地直売、加工品の開発・生産、販売促進等の取組
<事例1>
規格外のつくねいもをスナック菓子に[青森県・五所川原市]
五所川原市に本社がある津軽鉄道株式会社では、平成20年2
月から、同市特産の「つくねいも(やまのいもの一種)」の規格
外品を使用したスナック菓子「津軽鉄道発
つくねいもチップ
ス」を発売した。
原料となる「つくねいも」は、JAごしょがわら市から規格
外品を購入している。同JAは、12年から転作作物として、収
つくねいもチップスのパッケージ
益性の高いつくねいもの栽培に取り組み、産地化・ブランド化
を目指しているが、いびつな形状をしていることから規格外品も多く、この規格外品の有効
活用を図ったもの。
製造は、弘前市の菓子製造会社「アップルアンドスナック」が、気圧を低くした装置内に
おいて油で揚げる「減圧フライ」という製法で行っている。気圧を低くすることで水の沸点
を下げ、つくねいもを焦がさずに揚げることが可能となり、サクサクとした歯ごたえととも
につくねいも独特の食感が味わえるという利点がある。
同製品は1袋50グラム入りで、パッケージには津軽鉄道の象徴でもある「ストーブ列車」
が描かれてある。20年は1万5千袋の製造を行ったが、新たな販売契約が整えば増産も予定
している。
また、販売は津軽鉄道本社の他、津軽五所川原、金木、津軽中里の3駅で行われている。
同製品によってつくねいも自体の評価が高まり、産地化・ブランド化の一層の推進が期待
されるとともに、売上増による同社の収益増も期待されている
<事例2>
山ぶどうで地域振興を[岩手県・一関市]
一関市(東磐井地方)は中山間地が多く、遊休農地の増加が問題となっていた。そのため、
山間地という立地で、しかも高齢者でも容易に栽培管理ができる「山ぶどう」栽培に着目、
耕作放棄地の解消と地域振興を図っている。
平成12年に中山間地域等直接支払制度への参加を契機に設立された「大原山ぶどうの会」
は、県オリジナル品種の涼実紫(すずみむらさき)を植栽、収穫された山ぶどうを加工し、
山ぶどう原液ジュースの商品化(「徳林」)や、菓子、アイスクリームなどの試作品作りにも
取り組んだ。
19年3月には、同ぶどうの会、同市室根町の太田川ぶどう生産組合、同市東山町の生産者
で、「一関地方山ぶどう振興協議会」を発足させて、山ぶどうによる地域の産業振興と活性化
を図っている。
山ぶどうは、高齢者でも比較的容易に栽培できることから栽培面積の増加が見込まれ、ま
た、肥培管理をしていく段階で人の手を加えることにより、農薬等の使用を抑え、より自然
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
に近い状態で収穫されることから、今後、安心・安全の面から学校給食等に利用してもらう
よう関係機関に働きかけていくこととしている。
また、ふるさとの味として贈答用に販売することを計画している。
<事例3>
地場産品の魅力満載!パンフレットを発行しPRに一役[宮城県・栗原市]
若柳金成商工会では、地域総合振興事業(※)の一環として、平成11年の資源調査事業を
始めとして、特産品の開発や販路拡大事業等に継続して取り組んできた。今回、「食」にテー
マを定めて、特産品の魅力をさらに高め、販路の拡大を図ろうと、平成19年2月に宮城大学
食産業学部教授ら18人からなる「特産品開発事業等運営委員会」を設立して検討を重ね、19
年4月に管内の地場産品を紹介するパンフレット「うめぇがすと」(A4版・4ページ)を発
行した。
「うめぇがすと」は「おいしいですよ」という意味の方言で、数ある地場産品のうち、り
んご、もち、しいたけをはじめとして、日本酒、みそ、漬物、ジャム等の農産加工品を含む2
0種類が紹介されているほか、生産者の連絡先と顔写真、さらに商品に対する「店主のこだわ
り」が掲載されている。発行部数は1万部で、県内各地方振興事務所、栗原市各総合支所、
県内各商工会のほか東京都の「みやぎふるさとプラザ」に設置した。
パンフレットの裏面には、管内地図の他、運営委員が創作した伊豆沼、内沼を題材にした
物語とイラストが掲載されていることもあり、きれいで見やすいと消費者からも評判になっ
ている。
今後は、パンフレットの発行を機に、今回紹介できなかった商品も含めてブランド化を視
野にいれた「こだわりの一品」の育成を目指していくほか、年末には「ふるさと宅急便(仮
称)」と銘打った米、もち、りんごやみそ等地場産品のパック商品を計画し、販路の拡大を目
指していくこととしている。さらに、イラスト入りの買物袋を作成する予定にしており、積
極的に消費者にPRしていきたいとしている。
※地域総合振興事業…地域振興の横断的・一体的な推進に資するため、宮城県地方振興事務
所が自主的に取り組む事業。
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
<事例4>
地域の活性化、第一弾「わかさぎスナック」発売[秋田県・潟上市]
潟上市は八郎潟残存湖の湖畔に位置し、古くからわかさぎ等
の佃煮製造が盛んに行われている。わかさぎはカルシウムやタ
ンパク質、マグネシウム、ナトリウム等栄養が豊富であり、同
市の昭和飯田川商工会では八郎潟産のわかさぎを県内外に売り
込み、地域の活性化につなげげたいとわかさぎを使った新商品
の開発を始めた。
黒糖と白ごまの黒糖わかさぎ
同商工会では、秋田県佃煮組合の協力を得ながら、平成18年
4月から開発を始め、地域資源∞全国展開プロジェクト(中小企業庁「小規模事業者新事業
全国展開支援事業」)より800万円の補助金を受けてケーキやパン等総計12種類の試作品を完
成させた。
19年度は秋田県の県地域活性化事業より300万円の補助金を受け、スナック感覚で食べられ
るようにわかさぎに小麦粉をまぶして揚げた「揚げわかさぎ」とわかさぎを素揚げし黒糖で
コーティングした「黒糖わかさぎ」の2種類の試作品を商品化させ、販売を開始した。
PR活動として、まず19年2月に開催された「東京ギフトショー・全国ふるさと見本市」
に参加し企業に試食用の商品を送ったり、東急電鉄の協力を得て駅の構内10か所の売店で、
秋田弁で書かれたわかさぎのPRチラシを添付し販売してもらう等商品のPRを行った。
「揚げわかさぎ」「黒糖わかさぎ」は秋田県佃煮組合で製造し販売している。また、汎用性
に優れた「わかさぎ粉末」を開発しており、20年より販売を予定している。
<事例5>
特産品化を目指し果樹の廃材を利用した器づくり[山形県・上山市]
上山市では、「元気で、住みやすく、やさしい」まちづくりを
目指して、平成13年から市民グループ「上山まちづくり塾」(鈴
木正芳代表)を発足させ、これまでも「食用ホオズキによる町
おこし」など様々なイベントや交流会などを実践している。
同塾は大分県由布院市のまちづくりメンバーとの交流の中で、
地元の材料を使った木工芸品による地場産業づくりの取組を知
り、全国でも有数の果樹産地である山形に豊富に存在する、さ
作成された器
くらんぼ、ラ・フランス、うめ、すももなど果樹のせん定枝や間伐材などの廃材を利用し、
地場産業振興と農業の活性化を図りたいと考えた。
18年8月に、鈴木代表ら同塾のメンバーやその支援者5人で工房「くだものうつわ」を立
ち上げ、湯布院市で活動する木工デザイナーの時松氏から直接指導を受けながら商品化を目
指した。19年2月の同市主催「食の祭典」での試作品展示や、11月に開催された「市総合産
業まつり」での試作品販売が好評だったことから、20年2月から本格的販売に踏み切ること
になった。
この取組は、各種イベントでの展示によりマスコミ等からも取材を受けるなど注目されて
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
おり、市内の旅館などからもすでに注文が入ってきている。また、友好都市ドイツ・ドナウ
エッシング市に学生訪問団が訪れた際には、記念品として贈呈するなど、少しずつ認知度が
高まっていく手応えを感じている。上山市では、今後、農家から廃材を買い取って製品に加
工、販売する体制を確立し、全国的にも珍しい果樹の廃材を利用した器を上山の特産品とし
て地場産業に発展させていきたいと期待している。
<事例6>
「カリカリ甘梅漬」で地域を活性化[福島県・いわき市]
JAいわき市女性部高萩支部では、「軒先から商品を生む」の
アイデアのもと、各農家にある散在の梅を使用して地域の特産
品を作り販売することで、地域農業の活性化を図っている。
これまで未収穫や少量のため商品価値がなかった梅を商品化し
ようと昭和60年頃から、JAいわき市女性部高萩支部の部員数
名が様々な方法で漬け込み地域内で販売していた。しかし、各
商品にバラツキがあり思うような普及効果が見られなかった。
「カリカリ甘梅漬」
そこで、統一した味と食感にするため、市内の小川町振興協議会や地場産品振興専門委員会
の支援を受け平成7年から加工器具の導入や製造技術の研究を行い、地域の特産品「カリカ
リ甘梅漬」を販売した。原料の梅とシソは、地元(小川地区)で収穫したものを使用してお
り、果形や粒の大きさなどの規格を栽培農家に徹底させ、規格内のものを全量購入する契約
を結んでいる。また、高齢者が収穫作業を行う際は、部員たちが手伝うなど質の高い原料の
確保に努めている。収穫した梅は、一粒づつ手作業で種を取り除き、着色料は使用せず、シ
ソと砂糖を加え、防腐剤の代わりにリキュールで漬け込むなど、独特の風味とカリカリ感を
出している。この他にも、「ソフトタイプの甘梅漬」や「塩梅漬」も販売するなど、新たな商
品開発を行いさらなる活性化に取り組んでいる。
それまで、自家用として収穫するためあまり管理されていなかった梅だが、この活動によ
って栽培農家の生産意欲が向上し栽培面積を増やすなど、地域の農業振興に寄与している。
また、当初は一部の部員で製造を行っていたが、生産量が増加したことで部員全員が製造・
販売に携わり、これまで以上に部員達の交流が増えたことや、安定した商品供給ができるこ
とで、地域の活性化につながっている。19年7月現在の生産量(約3千㎏)を維持しながら、
高品質な商品提供を行い、県内外にいわき市の特産品としてアピールし、さらなる地域の活
性化に貢献していきたい。
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
3 自然環境や伝統文化などを核とした取組
グリーン・ツーリズム等都市と農山漁村の交流の取組
<事例1>
今年は田んぼに北斎の巨大絵が彩る[青森県・田舎館村]
田舎館村では、五穀豊穣の願いを込めるとともに、同村を県
内外にPRするために田んぼに水稲で絵を描く「田んぼアート」
に取り組んでいる。
田んぼアートは、同村むらおこし推進協議会が稲作体験ツア
ーの一環として実施しているもの。同ツアーは今年で15回目と
なり、19年は5月27日に田植えを行った。これまでもモナリザ
田んぼアート
や浮世絵、風神・雷神といった難しい題材を取り上げ作成してきたが、19年は、江戸後期の
浮世絵師葛飾北斎の「富嶽(ふがく)三十六景」の中から「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴(赤
富士)」に挑戦した。1万5千㎡の広大な水田をキャンバスに、古代品種の紫稲と黄稲、紅都
(べにみやこ)、県産米つがるロマンを使用し、4色の稲を精密に植え込み、北斎画を浮かび
上がらせる。
稲作体験ツアーは年々参加者が増加し、18年は700人の参加者が県内外から集まり、村のP
Rに大きく貢献している。また、「田んぼアート」の見学者も年々増加し、17年は約13万人、
18年は約20万人が見学に訪れた。
19年の稲刈りは9月30日に開催したが、県内外から多くの参加者が集まり、農作業の体験
を通じて広域交流の場として参加者に好評であった。
<事例2>
「軽トラック市」で町の中心商店街と地域農業を活性化[岩手県・雫石町]
しずくいし軽トラック市実行委員会(雫石商工会内)では、雫
石商店街よしゃれ通りで、「軽トラック市」を開催(毎年6~11
月の各月第1日曜日、平成19年7月は第2日曜日)している。
この軽トラック市はTMO(町づくり機関)構想の一環として、
中心市街地の活性化を検討する中から生まれたもので、同実行
委員会が17年から開催している。
軽トラック市は、町内外の農家やフリーマーケット参加者(参
大勢の人で賑わう軽トラ市
加料は軽トラック1台に付き千円を支払い、販売物は原則として自由。軽トラックのレンタ
ルも可能)が、新鮮な野菜や果物、加工品、雑貨、衣類などの商品を持ち寄り、そのまま軽ト
ラックの荷台に並べて販売するという市で、開催日には480メートルの通りに約50台(うちフ
リーマーケットが5割、農家2~3割)の軽トラックが集合する。参加者の中には青森県や秋
田県といった隣県からの参加や屋台(ラーメン、たいやき、たこやき、やきとり)なども出店
される。
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
新鮮な地元の野菜や農産加工品などが販売されることから、地産地消や地域の経済効果に
つながっている。
また、実行委員会が企画するイベントや、県内外の特産品の販売、マスコミ各社からの取
材による宣伝効果などもあり、来場者数は開催初年の17年は1万2,800人、 2年目の18年は
1万5,300人と増加している。多い日には約4千人が中心商店街に足を運ぶことから、商店街
の活性化に大きな効果を発揮している。
雫石町では、軽トラック市が町の名物として町内外に定着し、農業や観光の振興・発展に
繋がればと期待している。
<事例3>
土作りから収穫まで、農家が教える「栽培指導型農園」が大好評[宮城県・仙台市]
仙台市では、遊休農地対策や都市住民との交流を促進する方策の一つとして市民農園開設
事業に取り組んでいる。平成19年度は、遊休農地を活用した地域活性化を模索していた同市
青葉区大倉地区を選定、農家との交流を図りながら、農業未経験の利用者への栽培指導を行
う「栽培指導型農園」を開設することとした。
市民農園の母体となる大倉若林地区の農家で組織する「大倉若林会」は、農地の区画整備
や看板設置費用等への市の助成や、企画・運営等へのサポートを受けながら、19年5月に、
同市では2例目の取組となる栽培指導型農園「大倉ふるさと農園」を開園した。
利用者は、募集人数の倍以上の応募者の中から、40~60歳代の10組を選定、1区画当たり
利用面積約50㎡で貸し出された。市民農園利用者は、12月までの8か月間に季節にあった作
物の栽培や土作り等同会員より本格的な指導を受けられ、貸し出しのみの「市民農園」と異
なり、未経験者でも安心して栽培へ取り組める。
利用料金は、1区画当たり3万円で、種苗、肥料、農薬等資材は同会が用意する。栽培指
導のための講習会は毎月2回実施し(午前10時~12時までの2時間)、だいこん、ほうれんそ
う、しゅんぎく等約11種類の野菜の収穫を目指す。
仙台市では、市民農園開設事業により遊休農地の有効利用が図られ、市民がサポートする
農家と直接触れ合い、自然豊かな農村の魅力や地域文化に接することで、農村への関心が高
まるなど、農村との交流を通しての地域活性化が期待できるとして、農園の利用面積や募集
人数の拡大を検討している。
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第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
<事例4>
地引き網と島式漁港を観光資源に[秋田県・由利本荘市]
由利本荘市岩城にある道の駅「岩城」島式漁港公園岩城アイ
ランドパーク(株)では、海に親しんでもらいながら地域の活
性化につなげたいと、平成18年に引き続き3回目となる大漁地
引き網体験(協賛:ウェルサンピア秋田、岩城活魚センター、
(有)天鷺ワイン)を行った。
同道の駅は、地場産農産物の直売所や活魚センター、温泉施
設などがあり、また日本海に沈む夕日を眺望できることから利
全国でも珍しい島式漁港
用者も多い。そこで地場産の魚を知ってもらいながら、地域の
活性化につなげたいと、18年6月と8月に行い好評だった地引き網体験を19年も行ったもの
で、県内全域から集まった約60人の参加者は、同漁港を利用する県漁協南部総括支所道川連
絡会が設置した地引き網を約2時間かけて引き上げた。
同漁港は、国内で2例目(外海に築港された漁港としては国内初)となる島式漁港で、19
年4月から漁港として本格的な利用が開始され、眺望テラスや遊歩道などがある漁港公園と
しても親しまれていることから、訪れる人も多く、同漁港と同道の駅は新たなレジャーエリ
アとして期待されている。また、地引き網体験では、地場産の魚を知ってもらうため、獲っ
た魚は参加者で分配するようにしている。
以前より「岩城ふれあい港まつり」も開催しており地場産の海産物や農産物などもPRし、
更なる地域の活性化につなげていきたい。
<事例5>
農家民宿開設マニュアルを作成し開業を後押し[山形県・県内全域]
自然豊かな農山漁村で、農業体験などの余暇を楽しむグリーン・ツーリズムが人気を集め
ている。山形県内の産直施設や農家レストラン、農家民宿、観光農園、体験施設などのグリ
ーン・ツーリズム関連施設の平成18年における利用状況は、720万人と年々増加している。
しかし、これまで農家民宿に関しては、旅館法や食品衛生法などさまざまな法規制があり、
手続きも複雑なため取り組む人が増えにくい状況であったが、農家民宿の開設に関する各法
律の規制緩和が15年以降全国的に進められたことから、耐火構造の間仕切り壁(建築基準法)
や誘導灯(消防法)の設置、家庭用台所とは別の営業用厨房(食品衛生法)の建設などが不
要になり初期投資が少なくなった。
この流れを受け山形県では、19年3月に開設マニュアルを作成し、農家民宿開業に向けた
支援体制作りを行うことにした。作成した「農林漁家民宿開設マニュアル」(A4版、17ペー
ジ)は、農家民宿を始めるために、開設手順等をまとめたもので、相談や指導を行う関係機
関や市町村へ配布した。また、農家民宿開業を後押しするために、山形県グリーン・ツーリ
ズム推進協議会や各市町村の協力のもと、許認可機関との連携による支援体制づくりを進め
るなど、許認可機関と推進機関がマニュアル作成を機に連携し支援体制が整った。取組の成
果として、県内でマニュアル作成前の農家民宿数22戸から32戸まで増加した。
- 180 -
第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
今後は、農家民宿の開設に加え、サービスの充実に向けた研修会を開催し、上質なグリー
ン・ツーリズムの展開を目指し、修学旅行や20年度から実施される子ども農山漁村交流プロ
ジェクトの推進による小学生の受け入れを積極的に実施していく。
なお、同マニュアルは、同推進協議会ホームページでも見ることができる。(アドレスhttp
://www.gt-yamagata.com/news/index.html)
<事例6>
二地域住居促進を目指し町内滞在ツアーを実施[福島県・塙町]
塙町では、東白川地方の特産物であった「こんにゃく」を中
心にした畑作が営まれていたが、農産物の価格低迷や農業従事
者の高齢化などで年々遊休農地が増加してきた。同町では、増
加する遊休農地を解消するため、都市住民を対象に二地域居住
や定住促進を図ることを目的に「町内滞在ツアー」を実施、農
業や観光を通した田舎暮らしのPRに取り組んだ。
ツアーは春、夏、秋の年3回実施し、町営の宿泊施設を利用
田植えをする参加者
して一泊二日の日程で農業体験をメインに、いちご狩りやソバ打ち、ダリア鑑賞会などそれ
ぞれの季節に合わせたイベントを盛り込んでいる。各催しの講師等は町民が担当し、町民と
参加者の交流を通して、「塙の人情」にも触れてもらう内容である。
対象は、同町が物産イベント等を通じて平成3年から交流のあった東京都練馬区民で、19
年3月に、塙町職員と農業者グループ「常世(とこよ)アグリネットワーク実行委員会」が同
区内でツアーの説明会を開催、その後5月19~20日に実施した春のツアーには同区民39名が
参加し、田植えやいちご狩りを体験した。その後ツアー参加者へは、夏のじゃがいも掘りや
秋の稲刈りを中心とした農業体験を通し、同町の魅力をPRすることにしている。
同町では、今後、地元の子ども達との交流やボランティア体験なども取り入れ、塙町の魅
力を更にPRし、ツアーを通して同町の住みやすさなどを実感してもらい、交流人口の増加
から定住促進へつながればと期待している。
- 181 -
第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
4 新たな手法による活性化の取組
企業連携、人材の育成・活用などの取組
<事例1>
地元食材使用の駅弁を皮切りに地域ブランドの確立を目指す[青森県・今別町]
今別町商工会(相内喜久男会長)では、東北新幹線「新青森駅」及び北海道新幹線「奥津
軽駅(仮称)」の開業にあわせ、地元でとれる新鮮な海や山の食材を使用した駅弁「奥津軽駅
(津軽海峡)弁当シリーズ」を柱に、「食」の情報発信を行い、同町において生産・採取され
る農産品、畜産品、海産物、山菜等林産物等の地域ブランド(奥津軽ブランド)確立、産業
振興、観光開発の推進を図る「今ベールを脱ぐ奥津軽弁当
奥津軽駅(津軽海峡)弁当シリ
ーズ開発プロジェクト」を実施することとなった。
平成19年度のおもな取組としては、同町の特産品でもある石もずく、もずくうどん、いの
しし、山菜などを使用した「奥津軽駅(津軽海峡)弁当シリーズ」の開発や統一的な「奥津
軽ブランド」のイメージコンセプト策定、観光振興のためのルート開発などの取組を行う。
なお、同商工会は、今回のプロジェクトを中小企業庁の補助事業である「平成19年度小規
模事業者新事業全国展開支援事業」に申請。19年度事業分として採択されたことから、関係
機関、商工業者、農林漁業者、地域住民、学識経験者等で構成する「奥津軽ブランド推進委員
会」を組織化させ、各方面と連携を図りながら、今後の展開方向・戦略を具体的に検討するこ
とにしている。
同プロジェクトは、地元特産品の付加価値向上や新たな食品加工産業の形成、観光産業の
確立、新たな雇用創出など地域活性化に寄与するとともに、商工、農林水産、観光など多岐
な分野の発展につながるものと考えられる。同商工会では、住民参加型の地域活性化事業に
位置づけており、プロジェクトの成功で、地域の活性化や人材育成につながればと期待して
いる。
<事例2>
伝統ある養蚕業復興事業に町を挙げて取り組む[宮城県・丸森町]
丸森町は、かつて養蚕が盛んであったが、現在は、養蚕農家
が4戸という現状である。
しかし、同町大張地区において平成17年度に1名が後継者と
して就農したことや、地元産繭の有効活用と、生糸を紡ぐ技法
などの伝承を目的に活動している耕野身(こうやみ)しごとの会
(椎名千恵子代表、会員3名)と養蚕農家との連携など、養蚕業
復興の兆しも見え始めた。
機織りを見学する来場者
また、同町には、養蚕業との関わりで「金山織」や「佐野地織」などの機織りが盛んで、
高齢者生産活動センター織物部会(高橋キヨ子代表、会員8名)や大内地区にある大内佐野
地織保存会(駒場とし子代表、会員7名)が、技術の習得や後継者への伝承などを目的に活
動を行っている。
- 182 -
第2部
東北の農山漁村活性化の現状とこれから
丸森町でも基幹産業としての養蚕文化の維持継承、養蚕素材を活用した付加価値の高い地
域産品の創出と、観光資源として活用を図ることを目的に、平成16年~25年度にかけて「丸
森発シルクロード計画」推進事業を実施している。
19年4月には、同事業の一環で、
「まるもりシルクフェスタin仙台」を仙台市内で開催、先
述した各グループが連携し、織物の展示や真綿かけなどの体験を通じてシルクの良さをPR
した。
<事例3>
地場産農産物を活用した「地ソース」が完成[秋田県・横手市]
横手市では、地域に密着した基幹産業である農業を、地域産
業のコアと位置づけ、農産品・加工品を中心とした地域の「食」
に関わる産業を元気にしていこうという目的でマーケティング
推進課を立ち上げ、その取組として「食のまちづくり」による
産地ブランド化を目指し、地場産の材料にこだわった「ソース」
を開発した。
複数の地場産農産物を活用した「ソース」造りは、地域資源
の有効活用と地域農業の活性化が図れるとして、ソースメーカ
ー・地元食品会社・流通業者・大学関係者・同市が連携した、
産・学・官12団体による「横手地ソース研究会」を平成18年の
秋に発足させた。
ソース造りは試行錯誤を繰り返しながら、19年2月に「ウス
『中濃ソース』 『ウスターソース』
ター」と「中濃」の2種類が完成した。「ウスター」と「中濃」とも200ml入り5千本を限定
生産した。「口に含むと秋田の農村風景が浮かんでくるような味」をコンセプトに、材料は玉
ねぎ・にんじん・セロリ・りんごジュース・ワイン等を使用しており、地場産野菜・果樹の
うまみを凝縮した製品に仕上がっている。
19年2月から市内のスーパーマーケットや観光施設、道の駅等で販売している「地ソース」
は、素材・製法に徹底的にこだわった極上ソースで、高級感のあるラベルとガラス容器を使
用している。価格も一般に市販されているものに比べ割高であるが、横手市は「焼きそばの
まち」として有名なことから、やきそばともあいまって人気を呼び、初回生産の1万本は順
調な売れ行きとなっている。生産農家はもとより、横手地ソース研究会では地域農業が活性
化し、販路拡大・生産意欲向上・所得向上に期待している。
今回の野菜産地とソースメーカーが一体となった取組は、今までに無かった取組でソース
業界からも注目されるなど、加工用野菜産地としての新ビジネス発展に期待がかかる。
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