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報告書第2部 - 内閣府経済社会総合研究所

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報告書第2部 - 内閣府経済社会総合研究所
4
「バイオ燃料」の評価
バイオマス資源を熱化学的はたは生物化学的に変換することにより、液体燃料を製造す
ることができる。輸送用バイオ燃料として、「バイオエタノール」と「バイディーゼル」が
代表となっている。「バイオエタノール」は、一般には糖質(サトウキビ等)またはデンプ
ン質(トウモロコシ等)をエタノール発酵して製造される。一方、
「バイオディーゼル」は、
植物油(菜種油やバーム油等)をメチルエステル化することにより、軽油代替燃料として
使用できる。
次世代のバイオ燃料として、木質バイオマス(セルロース系)をエタノール発酵または
ガス化を経由して合成燃料を製造する方法が研究されている。
4.1 「バイオ燃料」の要素技術
(1) バイオエタノール
バイオエタノールは、サトウキビ、トウモロコシ等のバイオマス燃料を生物化学的に変
換して製造される。エタノール発酵と呼ばれ、グルコースやフルクトースなどの糖質が酵
母などの微生物により嫌気的条件で分解され、エタノールと CO2 を発生する。最近は、従
来のエタノール発酵の対象とならなかったセルロース系バイオマスからエタノールに変換
する技術も開発が進んでいる。
エタノール発酵は既に実用化されており、ブラジルではサトウキビから作ったエタノー
ルを自動車燃料として利用している。最近はガソリン車が普及してきたが、バイオエタノ
ールを含む混合ガソリン(エタノール分 20∼25%)が使用されている。ブラジル以外でも、
米国、カナダ、スウェーデンなどでエタノール混合ガソリン(E10、E5)が使用されてい
る。
我が国では、
「揮発油等の品質の確保に関する法律」でガソリンにエタノールを 3%(含
酸素分は 1.3 重量%)まで混合することが認められている。しかし、一部の自治体による実
証的な利用に留まっているのが現状である。
1) 糖質系バイオマス原料エタノール製造
サトウキビや糖蜜などの糖質原料は、酵母を加えるだけで発酵できるため、最も効率が
良い。この発酵によって得られたものは「もろみ」と呼ばれ、エタノール濃度は 8%程度で
あり、蒸留によってエタノール濃度を高め、95%濃度の含水エタノールが製造される。さ
らに、含水アルコールを脱水剤とともに蒸留することにより、濃度 99%以上の無水エタノ
ールを造ることができる。発酵以降のプロセスは、他の原料の場合でも共通である。
2) デンプン系バイオマス原料エタノール製造
単糖や少糖のバイオマス原料の場合は酵母を加えるだけで発酵が可能であるが、デンプ
ン質原料の場合には、そのままでは発酵できないため、酵素により糖化し、その後酵母を
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加えて発酵させる。
デンプンは酵素(アミラーゼ)により多糖類を単糖に分解して糖化することにより、後
は糖質と同様に酵母で発酵することができる。
3) セルロース系バイオマス原料エタノール製造
セルロースやヘミセルロースを分解して糖(六炭糖)に変換するためには、酸糖化法と
酵素糖化法がある。
(a) 酸糖化法
濃硫酸または希硫酸により原料を分解(加水分解)し、酸を分離してから糖化する。酵
素糖化に比べて、幅広い木質系バイオマス原料に対応可能なのが特徴である。
濃硫酸法は、高濃度(70∼30%)の硫酸を用い、低温かつ短時間での処理が可能であり、
収率も 90%以上と高い。しかし、強酸による反応容器の腐食を防止するための対策や、硫
酸と糖との分離・回収にエネルギーとコストを要するという短所がある。
希硫酸法は、高温で希硫酸により加水分解する方法である。高温によるヘミセルロース
の過分解と容器の腐食、セルロースの収率が 50∼60%と低いのが課題となっている。
(b) 酵素糖化法
酵素でセルロース類を分解して糖化するためには、前処理、酵素生産、酵素糖化という
プロセスを経る必要がある。
前処理は、微粉砕(ボールミル、振動ミル、凍結粉砕)、蒸煮(爆砕、熱水分解、加圧熱
水処理)、照射(電子線、γ線、マイクロウェーブ)などの物理的処理、酸(硫酸、亜硫酸、
リン酸、フッ化水素)、アルカリ(水酸化ナトリウム、アンモニア)、溶媒(メタノール、
超臨界ガス)などの化学的処理、リグニン分解菌などの生物処理が組み合わされて用いら
れている。
セルロースを分解する酵素をセルラーゼと総称しているが、セロビオハイドラーゼ
(CBH)、エンドグルカナーゼ(EG)、β-グルコシダーゼという 3 種類の酵素が含まれる。
実際の糖化プロセスでは、前処理したバイオマス原料をセルラーゼとともに糖化反応槽
に入れ、pH4.5∼5.5、50℃の条件下で 1∼4 日間かけて加水分解するのが一般的である。た
だし、最近の技術開発により、反応性や効率は向上している。
将来に向けて、酵素による糖化と糖発酵を並行して進行するプロセスが検討されている。
発酵微生物がグルコースをエタノールに変換することにより、生成糖によるセルラーゼの
阻害を防ぎ、糖化速度が上昇するという利点がある。さらに、糖化と発酵を同じ反応槽で
行うため、設備の負担も減少し、生成するエタノールの損失も少なくなる。
4) 遺伝子組み換えによる発酵菌の開発
従来の酵母やザイモモナス菌などは、C6 糖の発酵機能はあるが、C5 糖は発酵できない。
C5 糖を発酵できる菌もあるが、アルコール耐性が弱いので使用は困難である。酵母やザイ
モモナス菌などに、 C5 糖を発酵できる遺伝子を導入し、C6 糖と並行して発酵する技術の
開発が進められている。
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Purdue 大学の Ho 博士のグループは、C5 糖の代表であるキシロースの発酵機能を付与
した並行発酵酵母(Purdue Yeast)を開発している。これは、カナダの Iogen 社が採用し
ている。
1980 年代にフロリダ大学のイングラム博士は大腸菌をベースとした遺伝子組換え菌
KO11 株を開発し、C5 糖のエタノール変換が可能となった。KO11 株はもともと C5 糖を
取り込む力のある大腸菌にアルコール発酵菌である Zymomonas mobilis の遺伝子を組み
込むことによって作られた。
図 4-1 バイオエタノールの生産方法
(出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
図 4-2 バイオエタノールの一般的な生産プロセス
(出所) 日本エネルギー学会「バイオマスハンドブック」
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図 4-3 セルロール系バイオマスからのエタノール生産プロセス例
(出所) 柳下監修「バイオエネルギー技術と応用展開」(シーエムシー出版)
(2) ETBE
ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)は、エタノールとイソブチレンから
製造されるエーテル化合物の一種で、バイオマス由来のエタノールから製造される場合は、
バイオマス燃料といえる。オクタン価が高く、ガソリンへの混合に際しては、バイオエタ
ノールよりガソリン品質への影響が少ない。
日本では、石油連盟が 2006 年1月に、2010 年度においてバイオエタノールを原料とす
る ETBE(原油換算約 21 万 kL 相当量のバイオエタノール)を導入することを目指すこと
を決定している。
ETBE を国内で生産するためには、新たに ETBE 製造装置を建設する必要がある。ただ
し、ETBE 製造は既設の MTBE 製造装置を改造して利用することも可能であり、フランス
やスペインでは改造装置を用いて ETBE の生産を行っている。
ETBE はエタノールとイソブチレンを合成して生産される。イソブチレンの供給方法と
しては、以下の4つが挙げられる。
(a) 石油化学(エチレン分解プロセス)からの副生 C4 留分の利用
(b) 石油精製(流動接触分解(FCC;Fluid Catalyst Cracking)プロセス、熱分解(コ
ーキング)プロセス)からの副生 C4 留分の利用
(c) n-ブタンから異性化・脱水素工程により製造
(d) TBA から脱水工程により製造
石油化学における副生イソブチレンは、エチレンクラッカー装置から発生している。
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図 4-4
ETBE 混合ガソリンの製造フロー
(出所)ETBE 利用検討ワーキンググループ
(3) バイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル)
バイオディーゼル(BDF:Biodiesel Fuel)は、菜種油やパーム油などの植物油をメチル
エステル化し、そのままディーゼル燃料として利用するものである。植物油は脂肪酸とグ
リセリンのエステル(グリセライド)であるが、メチルエステルによりグリセリンを除く
ことにより、既存のディーゼルエンジンを使用することができるようになる。軽油代替燃
料であり、そのまま(B100)使用する場合も、軽油に混合して使用する場合もある。
バイオディーゼルは、原料の性状によって製品の品質が変化するため、様々な問題があ
る。特に廃食用油を原料とした場合、様々な油を混合して原料にするため、製品にする際
の品質管理が大変難しくなってくる。
また、B100 等の高濃度のバイオディーゼルを使用した場合、エンジンの燃料供給ホース
がゴム製の場合、劣化の速度が速くなる為注意しなければならないことや、寒冷地等の非
常に寒さの厳しい場所では、流動点を下げるために添加剤を使用しなければならないこと
などが挙げられている。添加剤は軽油にも使用されているが、バイオディーゼルの方が、
軽油より一般的に流動点が高いために問題が起きやすくなる。
また、軽油に比べると酸化されやすいため、保存の際は劣化に注意する必要がある。全
米バイオディーゼル協会では、保存後 6 箇月以内に使用することが望ましいといわれてい
る。
1) アルカリ触媒法による製造
一般的なメチルエステル化は、アルカリ触媒を使用して、70℃で約1時間メタノールと
混合攪拌することにより、96%程度のメチルエステル化が進行するので、不純物を除くこ
とによりバイオディーゼルが得られる。
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図 4-5 バイオディーゼルの製造方法(アルカリ触媒法)
植物油
+
R1-COOCH2
メタノール
バイオディーゼル
アルカリ
触媒
+
グリセリン
R1-COOCH3
CH2OH
R2-COOCH2
R2-COOCH3
CH2OH
R3-COOCH2
R3-COOCH3
CH2OH
3 CH3OH
(出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
図 4-6 バイオディーゼルの生産プロセス(アルカリ触媒法)
(出所) 松村・サンケァフューエルス(株)編「バイオディーゼル最前線」
2) 超臨界メタノール法
植物油などを超臨界状態(350℃、200∼400 気圧)でメタノールと反応させることによ
り、触媒なしで脂肪酸エステルとグリセリンを生成することができる。
図 4-7 二段階超臨界メタノール法によるバイオディーゼルの生産プロセス
(出所) 柳下監修「バイオエネルギー技術と応用展開」(シーエムシー出版)
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(4) BTL
BTL(Biomass To Liquid)は、バイオマスを熱分解して発生するガスを合成して得られ
る液体燃料の総称である。一般に、このようなフィッシャー・トロプシュ(FT:Fischer
Tropsch)法で合成した生成物を、FT 合成燃料と呼んでいる。メタンを主成分とする天然
ガスからの合成ガス経由の FT 合成燃料と並んで、バイオマスのガス化によって得られる
BTL の製造技術の開発が進められている。BTL は、原料が化石資源由来である GTL に比
べて、炭酸ガスの削減効果も見込まれるため、最近欧米を中心に技術開発が進められてい
る。
FT 技術を構成する技術分野として、触媒開発、リアクター開発、プラント開発が挙げら
れる。
表 4-1 合成液体燃料の特性(他燃料との物性比較)
項目
沸点(℃)
3
液密度(g/cm )
FT 合成軽油
(例)
軽油
メタノール
(CH3OH)
プロパン
(C3H8)
DME
(CH3OCH3)
メタン
(CH4)
200∼300
180∼360
64.8
−42
−25.1
−161.5
0.78∼0.81
0.84
0.79
0.49
0.67
−
ガス比重
−
−
−
1.52
1.59
0.55
飽和蒸気圧
−
−
−
9.3
6.1
−
発火温度(℃)
−
250
470
504
350
632
爆発限界(%)
−
0.6∼7.5
5.5∼36
2.1∼9.4
3.4∼17
5∼15
セタン価
70∼80
40∼55
5
5
55∼60
0
低位発熱量(kcal/kg)
10,400
10,200
5,040
11,100
6,900
12,000
(出所)日本 DME フォーラムなど各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
図 4-8 次世代のバイオ燃料生産
(出所) (独)産業技術総合研究所 バイオマス研究センター
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4.2 「バイオ燃料」のライフサイクルコスト分析
(1) バイオ燃料のライフサイクル
バイオ燃料は、栽培した農作物(バイオマス)または廃棄物系バイオマスなどの原料を
調達し、工場で化学プロセスを経て製造される。
ライフサイクルの考え方、および関連データは、「総合資源エネルギー調査会石油分科会
石油部会燃料政策小委員会」における評価検討結果を参考にした。
図 4-9 バイオ燃料のライフサイクル
農業
生産設備建設
(製油所)
スタンド
運営・保守
自動車走行
点検・保守
燃料使用
燃料貯蔵・供給
燃料混合・貯蔵
輸送
バイオ燃料製造
輸送
バイオマス収穫
バイオマス栽培
輸送
廃棄バイオマス
リサイクル処理
廃棄処理
︵埋立・焼却︶
(出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
表 4-2 バイオ燃料原料の調達方法による分類
分 類
農作物
国産
廃棄物系
輸入
農作物
粗製品
最終製品
バイオエタノール
•
•
•
•
•
サトウキビ(糖蜜)
小麦(規格外)
農業廃棄物(稲ワラ)
林地残材
建築廃材
−
• 粗製エタノール
• 無水エタノール
• ETBE
バイオディーゼル(軽油代替)
• 菜種
• 廃棄食油
• パーム油
−
• バイオディーゼル
(出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
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図 4-10
バイオエタノール製造のライフサイクルインベントリ例
(a) ブラジルからのエタノール輸入の場合
(b) 国内生産のエタノールの場合
(出所) 経済産業省
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