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裁判官と子育て

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裁判官と子育て
リレーエッセイ「ハマの判事補の1日」(第6回)
裁判官と子育て
1
はじめに
横浜地方裁判所の判事補の志村由貴です。
私は,平成17年に裁判官として働き始めてから,各地の裁判所で勤務をしていました
が,平成23年に長男を出産し,約1年間の育児休業を経て,平成24年4月から横浜地
方裁判所の裁判官として復帰しました。現在は,2歳の長男の子育てをしながら,第1民
事部で行政事件や民事事件を担当しています。
今回は,子育てと裁判官の仕事との両立をするに当たって,私が悩んだ点や日々の生活
をご紹介することで,裁判官の仕事にご関心がある方々や子育てと仕事の両立を目指す
方々の参考にしていただければ幸いです。
2
裁判官になるまで
私が子育てと仕事の両立ということを真剣に考え始めたのは,司法修習生のときのこと
でした。司法試験に合格した人は,司法修習生として,裁判官や検察官,弁護士の指導を
受けながら研修を受け,これを終了すると,裁判官や検察官,弁護士などそれぞれの進路
に進みます。私は,司法修習生として裁判所で研修を受けていたときに,当事者双方から
主張される事実や証拠を丁寧に検討して中立の立場で紛争の解決を目指す裁判官の仕事を
間近に見て,裁判官を志すようになりましたが,将来的には子育てもしたいという気持ち
があったため,責任が重い上,定期的に異動(転勤)がある裁判官の仕事と両立できるか
どうか不安な気持ちもありました。ずいぶんと長く悩みましたが,修習中お会いした子育
てと仕事を両立している裁判官や裁判所職員の方々に勇気付けられ,裁判官を志望しまし
た。
3
産休・育休を取得するに当たって
いざ,産休・育休を取得するというときになると,当時,裁判官になって6年目に入り
担当できる仕事の種類が増えてきていた私は,裁判官として経験を積まなければならない
時期に長期間職場を離れることへの漠然とした不安を感じていました。
しかし,今では,子育てに専念することで得た経験は貴重なものであったと感じていま
す。あっという間に大きくなる長男の成長を見守ったという意味でもかけがえのない経験
でしたが,離乳食を全く食べずにこぼして遊んだり,1歳になっても1時間おきに夜泣き
をしたりと,子育ての大変さを実感したという意味でもかけがえのない経験でした。子ど
ものペースで24時間生活することで,忍耐強く,また,柔軟になっていったような気が
します。
「育児は育自」というように,育児を通じて,親である自分も成長できればと思っ
ています。そして,それは,裁判官としての成長にもきっと役立つのではないかと考えて
います。若手の裁判官に多様な経験を積ませる制度として,民間企業や弁護士事務所など
で一定期間仕事をしたり,海外のロースクールなどに留学したりする「外部経験」という
制度があり,私もアメリカのロースクールに留学させていただいたことで,日本とは異な
る文化や法制度に触れ,視野が広がったように思いますが,産休・育休中の経験も,いつ
か裁判官の仕事にも活かせるように思うのです。
また,一定期間,子育てに専念して仕事から離れたことは,裁判官の仕事のやりがいを
改めて感じる機会にもなりました。そのとき感じた気持ちが,現在,子育てと仕事の両立
を目指すに当たってのエネルギーになっているように思います。
4
「保活」について
産休・育休期間中に直面した現実的な壁が,預け先の確保でした。待機児童の状況が社
会問題になっていますが,私が住む自治体も例外ではありません。子どもを保育園に入れ
るための保護者の活動を「保活」というのだそうですが,私も,育休期間中は,自宅近辺
の認可保育園・認可外保育園を見学して回ったり,児童センターで他の母親たちと情報交
換をしたりしました。しかも,私の場合は,復帰時期と異動時期が重なっており,異動先
がわからないままの状態で「保活」をしなければならないという問題もありました。幸い,
自宅から通勤可能な裁判所に異動することになり,また,自宅近くの保育園に入園できま
したが,安心して預けられる場所の確保は出産後も仕事を続けるに当たっての重要な課題
だと実感しました。
5
復帰後の生活について
保育園に預けて仕事に復帰してからは,朝は母親,日中は裁判官,夕方以降は再び母親,
そして子どもが寝ついてからはまた裁判官として,充実した生活を送っています。仕事と
子育てを両立しているというと両方上手にこなしているように聞こえますが,実際には,
仕事も子育ても限られた時間があっという間に過ぎていく,というような生活です。
夕方は保育園に迎えにいかなければならないため以前のようには仕事ができないもどか
しさを感じることもありますし,逆に,育休中のようには育児ができないもどかしさも感
じることがありますが,できる限りのことを一生懸命するしかないと考えています。
入園当初は泣いてばかりいた長男も,すぐに保育園に慣れ,最近は,迎えに行ってもな
かなか帰ろうとしないくらいです。送迎時や行事の際に見られる他の友達と関わり合う姿
に,自宅での甘えん坊な姿とはちょっと違う,保育園ならではの成長を感じています。そ
んな子どもの姿に励まされ,私も力をもらっています。
6
両立に当たって心掛けていること
産休や育休から仕事に復帰した多くの親が直面する問題の一つに,子どもの病気がある
と思います。集団生活の1年目はよく病気をするといいますが,私の長男も,保育園入園
後しばらくは,風邪や胃腸炎を繰り返し,病児保育やベビーシッターに頻繁にお世話にな
りました。子どもの体調が大切であることはもちろんですが,裁判官の仕事も,人や社会
に影響を与える責任の重い仕事です。裁判官の仕事には,大きく分けて,法廷などで審理
(民事事件では口頭弁論や弁論準備手続などといいます。)を行う仕事と,判決を書く仕
事があります。審理は1,2か月前から予定が決まっており,私の都合で延期するわけに
はいかないので,病児保育等を利用したり家族の協力を得たりして,休むことがないよう
にしています。判決を書く仕事は自分のペースでできるので,できるだけ早めに準備する
ようにして,突然保育園から発熱の連絡があってもあわてることがないようにしています。
最近は抵抗力が付いてきたのか保育園を休むことが少なくなりましたが,いくら気をつ
けていても病気を完全に防ぐことはできませんので,前倒しできる仕事は早めにしておく
ことで,少しでも仕事に支障が出ないように心掛けています。
7
最後に
子育てと仕事を両立するというのは,簡単なことではありません。自分や子どもも大変
ですが,職場の方々や保育園,病児保育の支えがあってこそ,できることだと思います。
今は,皆さんに支えられながら,何とか子育ても仕事も頑張っているところですが,今後
は,母親としても裁判官としても成長して,社会に貢献していきたいと考えています。
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