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日本の教育をリードする新しい教育研究所をめざして

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日本の教育をリードする新しい教育研究所をめざして
福井県教育研究所 所報
窓(まど) No.164
2015.3 発行
〒918-8045
福井県福井市福新町2505
TEL:(0776)36 4850
FAX:(0776)36 4851
http://www.fukui-c.ed.jp/∼ fec/
日本の教育をリードする新しい教育研究所をめざして
福井県教育研究所 所長 小和田 和義
昨年末、中央教育審議会から、
「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選
抜の一体的改革について」の答申がなされ、2020年大学入試における新テスト導入等に向けてのスタートが切られました。学
力観のあり方を含めた抜本的な教育改革がなされようとしています。また、 4 月からは教育委員会の制度改革も実施され、我
が国の教育は内からも外からも変わろうとしています。
福井県は、現在、「福井型18年教育」を掲げ、幼児期から高校までの校種間の接続を意識した施策を進めています。そのた
めには、 1 人ひとりの教員が社会情勢の変化について見識を持ち、授業改善に努めなければなりません。当教育研究所はその
ような先生方をサポートするために、平成25年11月から「福井県教育研究所機能強化検討委員会」において 5 回にわたり機構
の強化策について審議がなされ、平成26年 2 月に「福井県教育研究所機能強化策の提言」が取りまとめられました。
その提言を受け、研究所は組織を 4 課 1 室から 3 部 1 室へと改編し、社会情勢を踏まえて教育に関するニーズや課題を的確
に把握し、研究・研修・相談を通して、迅速に新しい教育施策を学校での教育方法の実践や教育問題の解決などに反映させて
いく体制を整えました。
研修部では、従来の講義型の研修体制の見直しを図り、通信型研修・実践型集合研修(ロールプレイング方式などを取り
入れた集合研修)
・訪問研修(所員が各学校に出向いての研修)を有機的に関連付けた研修体制を充実させていくことにより、
各学校や各教員の具体的なニーズに的確に対応できるように致しました。
調査研究部では、 3 つのユニット(数学・英語・学力調査分析)で研究を進めています。数学ユニットでは、生徒が自ら学
ぼうとする新しい学習スタイル「予習的課題を前提とした授業」や、グループ活動「知識構成型ジグソー法など」
、基礎学力
を押さえICT教材を活用した授業の研究を行っています。英語ユニットでは「福井型18年教育」を踏まえ、小学校から高等学
校までのCAN―DOリストの作成や、それを達成するための指導法の研究を行っています。今後、これらの研究成果を基にし
た授業改善策を研修等で提案していきたいと考えています。学力調査分析ユニットでは、全国学力・学習状況調査と63回目に
なる本県独自の学力調査(SASA)とを分析し、課題やその解決のための指導法等を迅速に各学校に提示するとともに、訪問
研修等で年間を通したサポートを行っています。また、SASAでは今年度、新しい学力観に沿った出題もし、今後の授業のあ
り方を提案していきたいと考えています。
教育相談部では、従来の来所・電話・メール相談に加えて家庭教育を応援するために、家庭教育相談応援サイトを開設した
ほか、PTA連合会と協力して家庭教育フォーラムを実施致しました。また、相談機関が連携して事案に対応する教育相談ネッ
トワークを新設するとともに、放課後に行う事例検討会の充実にも努めてまいりました。
これからも、新しい機構(研修・研究・相談)を有機的に稼働させることにより、迅速・的確に先生方の教育活動をサポー
トしていくとともに、新しい視点で積極的に研究活動を行い、日本の教育をリードしていく研究所でありたいと考えています。
次世代型研修システムの確立に向けて
<研修部>
先生方が研修に費やす時間を、授業を変えるための研究とその準備や、直接児童生徒の疑問等に答えて指導する時間に活用するため、
研修をより受講しやすい体系に変更しました。各研修チームの平成26年度の報告と平成27年度へ向けての案内をご紹介します。
クロスセッションの
効果を測る
高い満足度!
実践型集合研修
学校への
訪問研修の充実
教員の資質能力育成のために
集合研修は、全80講座で延べ 4 千人近
い方が受講されました。このうちの22講
座は平成26年度新設した実践型集合研修
で、模擬授業、ロールプレイングなど、
授業改善に直結する実践的な演習が中心
の研修を実施しました。研修後の調査で
は専門研修58講座の平均満足度72%に比
べ、実践型集合研修は 5 ポイント高い
77%でした。また、研修後の追跡調査で
も、内容の活用度や意識・行動の変化度
において実践型集合研修が 3 ∼ 7 ポイン
ト高い結果となりました。
学校との絆を深める
クロスセッションが実施され、 3 年目
となりました。
先生方が実践を持ち寄り、
校種や教科の枠を越えて語り合うことで
学び合い、実践力向上につなげることを
ねらいとしています。
他県から多くの視察が来られる、福井
県の研修の特色の一つとなっています。
平成26年度はクロスセッションの効果
測定を行い、今後の研修に活かしていき
たいと考えています。
《参加者の声》
・異校種、異教科の教育事情に触れられ
た。異校種の先生方の熱心さが伝わっ
た。小中連携、中高連携について考察
できた。校種間の課題や共通性がみら
れ連携を感じた。
・自らの実践の課題が見えた。すぐに役
立つヒントや新たな視点を得た。初心
に戻ることができた。
新たな
基本研修の動き
3年目研修と幼稚園・幼保連携型認定
こども園新規採用教員研修の実施
平成25年度から初任者研修が 3 年間の
若手教員研修となりました。平成27年度
には初めて 3 年目研修が実施されます。
それによりクロスセッションの参加人数
が増加するため、11月と 2 月の開催日を
4 日にします。また、そのうち 1 日を嶺
南会場で開催します。
国の子ども・子育て支援新制度の実施
に伴い、幼稚園新採用教員研修が変わり
ます。これまでの研修内容を引き継ぎな
がら、認定こども園に対応する幼稚園・
幼保連携型認定こども園新規採用教員研
修として新たにスタートします。
通信型研修の
配信を開始
いつでもどこでも自己研鑽できる新し
い研修の形として、通信型研修を平成26
年 8 月から開始しました。授業改善に関
する研修のほか、教育相談に関する研修、
ICTに関する研修、学校改善に関する研修、
組織経営に関する
研修など、分かり
やすい動画教材を
配信しています。
まだ登録がお済
みでない方は本所
のHPからお申込み
ください。
より実践的な
研修講座を
平成27年度は実践型集合研修42講座を
より実践的な演習を中心とした内容で実
施します。基礎的・汎用的な内容について
は通信型研修で、個別的な問題解決につ
いては訪問研修でそれぞれ対応します。
今まで以上に研修効果を高めるために
も、通信型研修と実践型集合研修、訪問
研修の連携や接続を進めます。授業改善
や学校改善に役立つ研修となるよう準備
を進めておりますので、ぜひご活用くだ
さい。
平成26年度
より学校と教
育研究所との
関係を身近に
し、授業研究
会などの校内
研修を充実し
ていただくた
めに、市町教
育委員会の指
導主事訪問に
同行させていただきました。また、ミド
ルステップアップ研修の学校訪問には、
福井大学教職大学院のご支援をいただ
き、より専門性の高い内容で研修を充実
してきました。
平成25年度より導入が進んでいるタブ
レット等のICTに関する訪問研修では、
基本的な操作から授業での活用まで継続
した支援を行いました。
平成27年度も各学校のニーズに応える
充実した訪問研修を実施していきます。
校内研修活性化
のために!
訪問研修の活用のすすめ
学校を取り巻く環境が大きく変化し、学
校教育に関する課題も複雑化しています。
それらを克服するために、教職員の適応力・
指導力、学校のチーム力を向上させる校内
研修をさらに活性化しませんか。
学校全体の校内研修会への訪問だけでな
く、教科会・学年会などの小グループ、研
究主任の先生の個人的な相談など、学校の
各場面での支援をさせていただきます。
また、平成27年度は、
「アクティブ・
ラーニングを取り入れた授業づくり」な
ど新たな教育的課題に関する訪問研修も
実施します。まずは、気軽にお電話でご
相談ください。
日本の教育センターをめざして始動
<調査研究部>
調査研究部は、日本の教育センターとしての役割を果たすべく、平成26年度新設されました。福井県の児童生徒の学力向上を目
標に3つのユニットを立ち上げ、調査分析及び授業改善に資するような調査研究を実施しています。データの分析だけでなく、新
しい授業を提案、参加、協力、実施したり、聞き取り調査を行ったりして、より実践的で具体的な調査研究を心がけています。
得られた知見は、なるべく早く先生方に発信するのと同時に、これから求められる資質・能力を培うための授業改善策を中期的
にねばり強く研究を重ね、広く全国に向けても発信していきたいと考えています。
学力調査分析
ユニット
数学ユニット
英語ユニット
学力向上に向けた
検証・改善サイクルの構築
タイプの異なる学習方法を
高等学校に導入
意味内容を重視した授業の
提案とCAN-DOリストの作成
学力調査分析ユニットでは、
全国学力・
学習状況調査、SASA(福井県学力調査)
を一括で管轄、分析することで、福井県
の児童生徒の学力向上に向けた検証・改
善サイクルの構築を目指しています。
平成26年度は 3 つのグループを組織
し、高等学校での授業改善について研究
協力校で研究・実践を行いました。
平成26年度は、小中高を見通した授業
改善の提案を目指し、実践協力校での研
究・実践と、福井県英語学習CAN-DO
リストの作成を行いました。詳細な報告
書は、平成26年度末に県内すべての小中
高校に配布予定です。
【全国学力・学習状況調査
について】
お茶の水女子大学耳塚寛明教授、慶應
義塾大学中室牧子准教授をアドバイザー
として、福井県の児童生徒の学力の特徴、
学習や生活状況と学力の相関、学校質問
紙と学力の相関、他都道府県との比較等
の分析に関する研究を行いました。分析
の詳細につきましては、年度末に報告書
を発行しますので、ご活用ください。
【SASAについて】
SASA2013報告書に掲載した福井県の
児童生徒の課題克服のための指導事例を
用いた授業改善について、研究協力校と
ともに協働研究を行いました。
また平成26年度は、今後のさらなる学
力向上や21世紀型スキルを意識した授業
改善を促すために、これまでのA基礎力
問題、B活用力問題に加え、Cチャレン
ジ問題を導入しました。
これらの詳細については、年度末に教育
研究所HPに掲載します。ご活用ください。
【第1グループ】
自ら学ぶ姿勢を育てるための一つの手
段として
「予習的課題を前提とした授業」
をテーマに研究・実践を行いました。予
習をすることで、生徒が課題意識を持っ
て授業に臨むようになり、その結果とし
て授業理解度の向上が見られました。ま
た、
「予習的課題を前提とした授業」に
おけるタブレットの有効な活用方法につ
いて研究・実践も行いました。
【第2グループ】
東京大学三宅なほみ教授をアドバイザ
ーとして、「知識構成型ジグソー法」を
取り入れたグループ学習について研究・
実践を行いました。一斉授業では見られ
ない、
「生徒たちが協調して学び、成長
する姿」を目の当たりにし、アクティブ・
ラーニングの効果を実感することができ
ました。
【第3グループ】
調査分析の進化
全国学力・学習状況調査の結果分析
から得られた福井県の児童生徒の課題
やこれからの福井県の授業の方向性を、
SASAの作問に反映させていきます。
また、アドバイザーとの協働研究を進め、
学力分析の方法を確立し、分析結果を福井
県の子どもや保護者へ還元していきます。
愛知教育大学飯島康之教授をアドバイザ
ーとして、
「ICTを活用した授業」について
研究・実践を行いました。ICTを効果的に
活用することで、数学に対する苦手意識の
改善や、理解度の向上が見られました。
【実践協力校での研究・実践】
小学校の外国語活動では、豊かなコミ
ュニケーション体験をねらった授業の提
案を行いました。大阪樟蔭女子大学菅正
隆教授をアドバイザーとして、授業研究
会を開き、小学校外国語活動の現在と未
来について、知見を得ることができまし
た。
中学校では小学校との接続をふまえ
て、生徒と英語でやりとりをしながら行
う文型導入の方法や必然性のある言語活
動を行う授業の提案を行いました。
高校では、小学校での英語教科化によ
る英語授業の高度化を見越し、卒業時に
は英語でプレゼンテーションやディベー
トができる生徒の育成を目標に、まずは
見聞きした内容を自分の言葉で伝える活
動の提案を行いました。
【福井県英語学習CAN-DO
リストの作成】
東京外国語大学投野由紀夫教授をアド
バイザーとして、福井県英語学習CANDOリストの作成を行いました。
授業改善のさらなる広がりを目指して
CAN-DOリストの効果的活用法の研究
・平成26年度の研究協力校における継続的
な研究はもとより、新たな研究協力校に
おける研究・実践も進めていきます。
・平成26年度の 3 つのグループで得られ
たそれぞれの研究成果を、グループの
枠を超えて共有することで、さらなる
授業改善に取り組みます。
・教師・生徒ともに目標設定が明確にな
るようなCAN-DOリストの活用法を
研究していきます。
・CAN-DOリストの目標設定に対応し
た評価法の研究を行い、授業のあり方
の研究を継続していきます。
支援のあり方の展望∼誰を支援し、 どのように支援するか∼ <教育相談部>
教育相談部の支援対象は、教職員に加え、悩みを抱える児童生徒・保護者でしたが、平成26年度より、その支援のすそ野を広げ
る方針で進めてきました。また、支援の方法についても、来所型から訪問型へ、ネットワークの活用、ユニット研究にもとづいた
学級経営の方法論の提示など、より実践的な内容に改善しました。
主な業務
①教育相談ネットワークを活用した教育相談活動(来所・電話・メール)
②適応指導教室(フレンド学級)の運営と県内適応指導教室のネットワークづくり
③「学びのベースとなる学級づくり」と「教育相談活動への支援」を核とした研修活動 ⑴学校のニーズに応じた訪問研修 ⑵実践力の向上を目指す実践型研修 ⑶基礎力を培う通信型研修
④学級集団と学力の関係についての調査研究及び望ましい学級集団の育成に有効な指導プログラムの作成に関する実践研究
⑤家庭教育相談・応援サイトの運営と家庭教育フォーラムの実施
特徴的な実践について以下に紹介します。
学びのベースとなる学級づくり
専門研修「気になる子もまとまる学級経営」
平成26年度、教育相談部が担当した専門研修のコンセプトは、
「学びのベースとなる学級づくり」でした。良好な学級集団を作る
ことが学力を向上させることの最も重要な基盤であると考えるからです。平成26年度実施
した学級経営に関する専門研修の中から、名城大学の曽山和彦准教授をお招きして実施し
た研修講座について報告します。講座は、
「発達障がいの理解と支援」
「学級集団づくり」
「自
尊感情&ソーシャルスキルを育むための 伝わる言葉 のかけ方」
「教室でできる特別支援教
育(模擬授業)
」という 4 部構成でした。受講者が見通しを持って受講できるための配慮
や安心感を持たせる言葉かけ等、
研修講座そのものが「どの受講者にも伝わり、
理解できる」
ユニバーサルデザインにもとづいた研修となっており、大変な好評を得ました。平成27年
度もこのコンセプトに沿った研修を実施していきたいと考えています。
学校のニーズに応じた訪問研修(情報モラル教育)
事前研修+ロングホームでの実践+事後研修
SNSに関わる諸問題に対する理解と対応についての訪問研修は、平成26年度最も増加しました。その中で、LHの時間に情報モ
ラル意識を高める実践を行った学校に、事前と事後に訪問して研修を行った事例を報告します。まず、事前研修として、教師が
実態を理解、把握することと、ロングホームにおいての授業案のいくつかを提案しました。それを受けて、先生方が指導案を作
成し、全クラスで「SNSのメリットとデメリット+上手に使いこなすために」について生徒が考える授業を行いました。その後、
事後研修として、「SNSの問題は心の問題」という視点から、生徒のコミュニケーションスキルを高めるための方法論について研
修を行いました。このような連続した学校支援をこれからも行っていきたいと考えています。ご活用ください。
「学びのベースとなる学級づくり」に関する調査と実践
教育相談部研究ユニット
平成26年度、教育相談部研究ユニットでは、学級集団と学力(全国学力調査)との関連についての調査研究と良好な学級集団
育成のための学級経営プログラムの実践研究を行いました。調査研究においては、小学校、中学校それぞれにおいて特徴的な結
果を得ることができました。また、良好な学級集団育成のためのプログム作成(小:ソーシャルスキル教育をベースとしたプロ
グラム、中:ピア・サポートプログラムと「仲間の良いとこ探し」を中心としたプログラム)の実践研究においても有効な成果
を上げることができました。平成27年度に向けては、これらの結果を総合的に分析、考察し、この調査研究と実践研究を合わせ
た効果検証をさらに深め、校種別の課題に応じた学級経営プログラムについて研究を進めていきたいと考えています。
適応指導教室 「フレンド学級」
外部講師や他の適応指導教室との交流を通して
適応指導教室に通えるようになった子どもたちが、次の目標にしたいのが、日頃からよく慣
れ親しんでいるスタッフではなく、それ以外の人たちと交流できることです。平成26年度は、
外部講師による体験プログラムを32回実施しました。また、他の適応指導教室に通う子どもた
ちとの合同活動を 3 回行いました。プログラムでは、初めて出会う人たちにも自分から積極的
に話しかけたり、いっしょに活動したりしながら、他者理解を深めることができました。活動
している環境は安全で安心な場所であることを自覚して、自分自身の壁を乗り越えることがで
きるよう支援を続けていきたいと考えています。
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