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澤井ゼミナール<本論編>
無料体験冊子
LEC東京リーガルマインド
労働基準法
第1章
第一節
無断複製・頒布を禁じます
目次 (澤井ゼミナール本論編 無料体験冊子版)
1
総則
労働条件に関する基本原則 ............................................ 2
1 労働条件の原則(法 1 条) .................................................2
2 労働条件の決定(法 2 条) .................................................3
第二節
平等原則 ............................................................ 4
1 均等待遇(法 3 条) .......................................................4
2 男女同一賃金の原則(法 4 条) .............................................5
第三節
労働者の人権擁護 .................................................... 6
1 強制労働の禁止(法 5 条) .................................................6
2 中間搾取の排除(法 6 条) .................................................6
3 公民権行使の保障(法 7 条) ...............................................8
第四節
1
2
3
4
5
6
7
適用事業の範囲 ..........................................................10
適用事業の単位 ..........................................................11
適用除外(法 116 条) ....................................................12
労働者(法 9 条) ........................................................13
使用者(法 10 条) .......................................................14
賃金(法 11 条) .........................................................16
平均賃金(法 12 条 1 項) .................................................18
第2章
第一節
1
2
3
4
5
適用事業・用語の定義 ............................................... 10
23
労働契約
労働契約の締結 ..................................................... 24
労働基準法違反の契約(法 13 条) .........................................24
契約期間等(法 14 条) ...................................................25
有期契約期間についての特例(法附則 137 条) ..............................28
労働条件の明示(法 15 条 1 項) ...........................................28
労働契約の解除・帰郷旅費(法 15 条 2 項・3 項) ............................30
第二節
不当な身柄拘束の禁止 ............................................... 32
1 賠償予定の禁止(法 16 条) ...............................................32
2 前借金相殺の禁止(法 17 条) .............................................33
3 強制貯金(法 18 条) .....................................................34
第三節
1
2
3
4
5
6
労働契約の終了 ..................................................... 38
解雇の定義 ..............................................................38
解雇制限(法 19 条) .....................................................39
解雇の予告(法 20 条) ...................................................42
解雇予告の適用除外(法 21 条) ...........................................45
退職時等の証明(法 22 条) ...............................................47
金品の返還(法 23 条) ...................................................49
講義レジュメ(労働基準法 第1回講義分)
労働基準法
目次
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
社労士試験出題一覧表
年度
出題形式
選択式
択一式
平成 17 年
平成 18 年
平成 19 年
平成 20 年
平成 21 年
(第 37 回)
(第 38 回)
(第 39 回)
(第 40 回)
(第 41 回)
企画業務型裁
量労働制
企画業務型裁
量労働制
労働条件の原
則・決定
有期労働契約
の締結、更新
使用者
労働者派遣法
と労働基準法
との関係
解雇
公民権行使の保障
休業手当
労働契約
労働基準法違
反の契約
賃金等
総則等
総則等
総則等
総則等
労働時間
賃金等
賃金等
就業規則等
労働契約
時間外・休日
労働
労働時間等
平均賃金
賃金等
就業規則等
年次有給休暇
労働時間等
解雇等
労働時間等
賃金等
年少者
割増賃金等
労働時間等
年次有給休暇
労働時間等
就業規則
年次有給休暇
年次有給休暇
妊産婦等
休憩及び休日
労働時間
解雇
妊産婦等
監督機関
寄宿舎
賃金
就業規則及び
労働契約
問1
問2
問3
割増賃金等
問4
問5
妊産婦等
問6
問7
賃金等
雑則
罰則等
労働基準法
社労士試験出題一覧表
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
労働基準法の学び方
労働基準法は、日本国憲法 27 条 2 項の「勤労条件の基準の法定」の規定に基
づき、昭和 22 年に制定された法律である。同法は、労働者が健康で文化的な生
活を営むことができるようにするため、賃金、労働時間その他の労働条件について最低
の基準を定めている。また、同法は、その大部分の規定について、違反した場合に刑罰
を科す取締法規としての側面と、同法に定める基準に達しない労働条件を定める労働契
約は同法に定める基準によるとする私法上の強行法規としての側面を持つ。これらの特
徴を踏まえた上で学習すると効果的である。
第1章(総則)では、労働基準法の基本原則及び用語の定義について学習す
る。基本原則については、趣旨を踏まえた上で、「何が禁止されているのか」に
着目する必要がある。第2章(労働契約)では、解雇に関する法規制が本試験での頻出
事項である。
第3章(賃金)では、労働契約の本旨たる賃金について学習する。賃金支払の5原則
が中心となる論点であり、判例、通達を通して理解を深める必要がある。第4章(労働
時間、休憩、休日)では、変形労働時間制、裁量労働制及び時間外労働の割増賃金等、
本試験において最も出題されている箇所であり、詳細な理解が必要とされる。第5章
(年次有給休暇)では、年次有給休暇の権利の発生、成立について正確に把握すること
が必要である。
第6章(年少者)、第7章(妊産婦等)では、年少者、妊産婦等に関する労働時間の
規定等の特例について丁寧に学習することが肝要である。
第8章以降では、第 10 章(就業規則)が中心となる項目である。
近年では、判例、通達等の出題が多い。判例については、結論を暗記するので
はなく、法の趣旨を掴んだ上での理解が肝要である。通達についても、各条文の
行政解釈を示すものであるから、条文の趣旨を踏まえた理解を中心として学習すること
が必要となる。
労働基準法
学び方
LEC東京リーガルマインド
序論
無断複製・頒布を禁じます
「労働法」の中における労働基準法
わが国の法制度において、「労働法」という名称の法律は存在しない。しかし、学問上は、法
律学(法解釈学)の中に「労働法」という領域が存在し、機能している。この「労働法」と呼ば
れる領域の中で中心的な役割を果たしているのが、これから学習する「労働基準法」である。
労働基準法は、日本国憲法の勤労条件法定主義(憲法 27 条 2 項)を具体化する法律として
1947(昭和 22)年に誕生した。労働者を使用しているすべての事業に適用される法律であり、個
別的労働関係(個々の労働者と事業主との間の雇用に関する法律関係)に関する最も基本的な法
律として位置付けることができる。
ただ、労働基準法で取り上げられているのは、賃金や労働時間など、労働基準監督署(労基
署)による監督指導になじむ事項に限られている。逆に、人事異動(配転・出向)のように労働
基準法には登場しないが実務上は重要な制度が少なくないので注意しなければならない。
2008(平成 20)年3月より、新たな法律として、「労働契約法」が施行された。この法律は、
労働契約の成立・展開・終了に関する基本的なルールを定めるものであり、労働基準法と並ぶ個
別的労働関係に関する基本法規である。
労働契約法は、純然たる民事法規であり、罰則や労基署による監督指導は想定されておらず、
この点で労働基準法とは異なっている。
当面の社労士試験対策の「労働法」という点では、労働基準法の学習が中心になるので、時間
をかけて、丁寧に学習していただきたい。
労働基準法
序論
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
労働基準法の条文構成
労働契約
労働契約の原則等 → 労働契約法
賃金
最低賃金 → 最低賃金法
年少者
妊産婦等
労働時間・休憩・休日・年次有給休暇
総則
安全衛生 → 労働安全衛生法
災害補償 → 労働者災害補償保険法
就業規則
労働契約との関係 → 労働契約法
寄宿舎
監督機関
罰則
①労働者の具体的な労働条件に関し規制を行う前提として、労働契約自体の法的規制が問題
となる。
②年少者や妊産婦等に関する諸規定は、労働条件等について、一般労働者の規制の特則を定
めている。
③労働者が勤務する職場におけるルールは、就業規則において具体化されるのが通例である。
④労働基準法上の諸規定を実効化するために、監督機関や罰則に関する諸規定が設けられて
いる。
労働基準法 条文構成
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
[重要度ランクの記載について]
『2011 完全合格メインテキスト』においては、本文中の各項目ごとに、その「重要
度」を5段階にランク付けして記載しています。ランク付けにあたっては、原則とし
て平成元年以降の社労士試験における出題頻度を基準としています(ただし、直近の
法改正等を考慮して若干の修正を加えている箇所もあります)。
また、この重要度ランクは、A~C までの3段階に、更に AA と AAA の2段階を
上乗せし、計5段階とする形式をとっており、重要項目を A として、なかでも特に重
要な項目は AA、そして最も重要な項目は AAA とすることで、本試験での頻出度につ
いて一目でわかるようにしています。
ぜひ、これを参考に、講義の予習や復習にメリハリを付けるなど、学習にお役立て
ください。
[法改正等による補正・訂正情報の提供について]
『2011 完全合格メインテキスト』は、作成時において 2011 年度の社労士試験に向
けて最新情報を基に構成されていますが、社労士の試験範囲では例年法改正が行われ
るため、本テキストの内容についても一部修正が必要となることがあります。このた
め、テキスト発刊後の改正情報や、改正その他によるテキストの補正情報を、定期的
に Web にて「社労士情報合格ナビ(仮称)」としてお知らせいたします。Web に掲載
された「社労士情報合格ナビ」の情報を活用し、最新の情報を補完して本試験に臨ん
でください。
なお、「社労士情報合格ナビ」の Web 掲載については、第1回(2010 年 10 月下
旬)、第2回(2010 年 12 月下旬)、第3回(2011 年2月下旬)、第4回(2011 年3
月下旬)、第5回(2010 年5月上旬)の年5回を予定しています。
労働基準法
テキスト記載について
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
第1章
総
則
第一節
労働条件に関する基本原則................................................. 2
第二節
平等原則 .............................................................................. 4
第三節
労働者の人権擁護................................................................ 6
第四節
適用事業・用語の定義 ...................................................... 10
本章を学ぶ前に
本章では、労働条件に関する基本原則や用語の定義(労働者・使用者・賃金など)に関す
る学習が中心となる。初学者の方にとっては少々とっつきにくい分野かもしれないが、通達
に示された具体例を押さえることによってイメージを掴んでいただきたい。なお、裁判員制
度の導入に関連して、「公民権行使の保障」がクローズアップされているため、要注意であ
る。
第1章
総
則/
1
LEC東京リーガルマインド
第一節
1
無断複製・頒布を禁じます
労働条件に関する基本原則
労働条件の原則
A
(法 1 条)
1) 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たす
べきものでなければならない。
2)
この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係
の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないこ
とはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
本条 1 項は、日本国憲法 25 条 1 項(健康で文化的な最低限度の生活の保障)と趣旨を同じく
するものであり、労働者が人間として価値ある生活を営むために必要な最低限の労働条件を保障
することを宣明したものである。これは、本法各条の解釈に当たり基本理念として常に考慮され
なければならないものである。また、本条 2 項においては、労働基準法の定める労働条件の基準
は最低のものであるとして、労使当事者がこの法律の基準を理由として労働条件を引き下げては
ならないことはもとより、むしろその向上を図るように努めることを義務づけている。
解説
(1)労働条件
「労働条件」とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、
安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切
の待遇をいう(雇入れ(採用)は労働条件に含まれない)。
(2)人たるに値する生活(昭 22.9.13 発基 17 号)
「人たるに値する生活」とは、「健康で文化的」な生活を内容とするも
のである。具体的には、一般の社会通念によって決まるものであり、人た
るに値する生活のなかには労働者本人のみでなく、その標準家族をも含め
て考えるべきものである。※ 1
※1
日本国憲法第 25 条 1 項
「すべて国民は、健
*「この基準を理由として」というのは、労働基準法に規定があることが、
その労働条件低下の決定的な理由となっている場合をいう。したがって、
社会経済情勢の変動等他に決定的な理由があれば、本条に抵触するもので
はない(昭 63.3.14 基発 150 号)。
・本条は訓示的規定のため、罰則の定めはない。
2
/第 1 章
総
則
康で文化的な最低限
度の生活を営む権利
を有する。」
LEC東京リーガルマインド
2
無断複製・頒布を禁じます
A
労働条件の決定
(法 2 条)
1) 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきもの
である。
2) 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠
実に各々その義務を履行しなければならない。
労働者と使用者との現実の力関係の不平等を解決するため、労働条件は、労使対等
の下に決定すべきことを明らかにし、労働条件が労使対等の下に決定された当然の結
果として、労使両当事者が労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に履行す
べきことを定めている。
解説
(1)労働協約
「労働協約」とは、労働組合と使用者又はその団体との間で労働条件等
に関して合意した協定であり、書面に作成し、両当事者が署名又は記名押
印することで、その効力を生ずることとなるものである。
(2)就業規則
「就業規則」とは、労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関す
る具体的事項について使用者が定めた規則である。
(3)労働契約
「労働契約」とは、個々の労働者が使用者から対価を得て、当該使用者
の下で自己の労働力の処分を委ねることを約する契約をいう。
※2
労働者及び使用者に
は、労働基準法第 2
条第 2 項で就業規則
を遵守すべき義務が
課されているが、こ
・本条は訓示的規定のため、罰則の定めはない。
の義務の違反につい
※2
ては、使用者に対し
てのみ罰則が設けら
れている。(平 7 択)
→× 法 2 条は訓示的
規定のため、罰則の
定めはない。
第一節
労働条件に関する基本原則/
3
LEC東京リーガルマインド
第二節
1
無断複製・頒布を禁じます
平等原則
均等待遇
A
(法 3 条)
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時
間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
※1
※1
最大決 昭 48.12.12
三菱樹脂事件
本条は、日本国憲法 14 条 1 項(法の下の平等)を踏まえ、国籍、信条又は社会的身
分を理由とする労働者の差別待遇を禁止したものである。
労働基準法 3 条は労
働者の信条によって
賃金その他の労働条
件につき差別するこ
解説
とを禁じているが、
これは、雇入れ後に
(1)信条・社会的身分
「信条」とは、特定の宗教的又は政治的信念をいい、「社会的身分」と
は、生来の身分をいう。
(2)その他の労働条件
「その他の労働条件」には、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関
する条件も含まれる(雇入れ(採用)は労働条件に含まれない)。
(3)差別的取扱
労働者を有利に取扱っても不利に取扱っても差別的な取扱いである。何
をもって有利とし、又は不利とするかは、一般の社会通念による。
・本条における国籍、信条又は社会的身分は限定列挙であって、性別を
理由とする差別的取扱いは禁止していない。ただし、法4条及び男女
雇用機会均等法において差別禁止規定がある。
・本条は、「差別的取扱をしてはならない」のであって、就業規則等に
差別規定が設けられていても、現実に差別が行われていなければ、本
条違反とはならない。ただし、当該差別規定は、無効となる。
4
/第 1 章
総
則
おける労働条件につ
いての制限であっ
て、雇入れそのもの
を制約する規定では
ない。
LEC東京リーガルマインド
2
無断複製・頒布を禁じます
B
男女同一賃金の原則
(法 4 条)
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性
と差別的取扱いをしてはならない。
我が国における従来の国民経済の封建的構造のため、男性労働者に比べ一般的に低
い地位にあった女性労働者の社会的、経済的地位の向上を賃金についての差別待遇の
廃止という面から実現しようとするものである。
解説
※2
平 9.9.25 基発 648 号
(1)女性であることを理由として(平 9.9.25 基発 648 号)
職務、能率、技能、
「女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを
理由とすること、あるいは、社会通念として又は当該事業場において女性
年齢、勤続年数等が
同一である場合にお
いて、男性はすべて
労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主た
月給制、女性はすべ
る生計の維持者ではないこと等を理由とすることをいう。したがって、労
て日給制とし、男性
働者の職務、能率、技能等によって、賃金に個人的差異のあることは、本
条の差別的取扱いではない。
は労働日数の如何に
かかわらず月の賃金
が一定額であるのに
対し、女性は労働日
(2)賃金についての差別的取扱い
数の多寡によって賃
賃金についての差別的取扱いには、賃金の額そのものについて差別的取
金が男性の一定額と
扱いをすることはもとより、賃金体系、賃金形態等について差別的取扱い
異なる場合は、本条
違反となる。
をすることも含まれる。※ 2
(3)差別的取扱い(平 9.9.25 基発 648 号)
差別的取扱いには、女性であることを理由として、賃金について有利な
取扱いをする場合も含まれる。
※3
支給条件が就業規則
※3
であらかじめ明確に
された退職手当につ
いて、当該就業規則
において労働者が結
・採用、配置、昇進、教育訓練などの差別に由来する賃金の格差は本条違反では
ない。また、賃金以外の労働条件についての差別的取扱いについても本条違反
の問題は生じない。ただし、男女雇用機会均等法においては問題が生ずる。
婚のため退職する場
合に女性には男性に
比べ2倍の退職手当
を支給することが定
められているとき
は、その定めは労働
基準法第4条に反し
*就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱
無効であり、行政官
いをする趣旨の規定があっても、現実に男女差別待遇の事実がない場合には、その
庁は使用者にその変
規定は無効となるが、本条違反とはならない(平 9.9.25 基発 648 号)。
更を命ずることがで
きる。(平 12 択)
→○
第二節
平等原則/
5
LEC東京リーガルマインド
第三節
1
無断複製・頒布を禁じます
労働者の人権擁護
強制労働の禁止
B
(法 5 条)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段
によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
※1 ※2
※1
本条の適用について
は、労働を強制する
我が国にかつてみられた暴行、脅迫などによって労働を強制する封建的な悪習を排
除するために、憲法 18 条(奴隷的拘束及び苦役からの自由)を踏まえ、精神又は身体
の自由を不当に拘束する手段をもって労働者の意思に反する労働を強制することを禁
止したものである。
使用者と強制される
労働者との間に労働
関係があることが前
提となるが、必ずし
も形式的な労働契約
が成立していること
解説
を要求するものでは
ない。事実上労働関
(1)精神又は身体の自由を不当に拘束する手段(昭 63.3.14 基発 150 号)
係が存在すると認め
られれば足りる。
「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」には、長期労働契約(法
14 条)、労働契約不履行に関する賠償額予定契約(法 16 条)、前借金相
殺(法 17 条)、強制貯金(法 18 条)等が該当する。
※2
(2)不当(昭 63.3.14 基発 150 号)
昭 23.3.2 基発 381 号
「不当」とは、社会通念上是認し難い程度の手段の意であり、必ずしも
「労働者の意思に反
不法なもののみに限られない。たとえ合法的なものであっても不当なもの
して労働を強制す
る」とは、必ずしも
となることがある。
労働者が現実に「労
働」することを必要
としない。使用者が
労働者の意思を抑圧
罰則(法 117 条)
・法 5 条違反については、労働基準法で最も重い罰則(1年以上 10 年以
下の懲役又は 20 万円以上 300 万円以下の罰金)が科せられる。
2
中間搾取の排除
B
(法 6 条)
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入し
て利益を得てはならない。
6
/第 1 章
総
則
して労働することを
強要したものであれ
ば、本条違反に該当
する。
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
本条は、労働者の労働関係の開始・存続に関与したピンハネ等の不当な賃金搾取を
職業安定法とともに禁止することを目的とするものである。
解説
(1)何人も(昭 23.3.2 基発 381 号)
「何人も」とは、違反行為の主体は「他人の就業に介入して利益を得
る」第三者であって使用者に限定されるものではなく、また、個人、団体
又は公人たると私人たるとを問わないということである。
(2)法律に基いて許される場合
「法律に基いて許される場合」に該当するのは、職業安定法、船員職業
安定法及び建設労働者の雇用の改善等に関する法律の規定による場合であ
※3
る。※ 3
職業安定法 32 条の 3
(3)業として(昭 23.3.2 基発 381 号)
第1項
「業として」とは、営利を目的として同種の行為を反復継続することを
いう。1回の行為であっても、反復継続する意思があれば十分であり、主
業としてなされると副業としてなされるとを問わない。
有料職業紹介事業の
許可を受けた者が、
厚生労働省令で定め
る種類及び額の手数
料又はあらかじめ厚
(4)利益(昭 23.3.2 基発 381 号)
生労働大臣に届け出
「利益」とは、手数料、報償金、金銭以外の財物等いかなる名称たると
た手数料表に基づく
を問わず、有形無形なるとを問わない。また、使用者より利益を得る場合
手数料を受け取る場
合 など
のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合をも含む。
・労働者派遣については、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派
遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体としてその
労働者の労働関係となるものであるため、派遣元による労働者の派遣
は、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものでは
ない(平 11.3.31 基発 168 号)。
したがって、労働者派遣は、その派遣が合法であると違法であると
を問わず、中間搾取には当たらない。
第三節
労働者の人権擁護/
7
LEC東京リーガルマインド
3
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AA
公民権行使の保障
(法 7 条)
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行
使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合において
は、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがな
い限り、請求された時刻を変更することができる。
※1
※1
労働者が労働審判手
続の労働審判員とし
本条は、民主主義を基調とする憲法のもとにおいて、労働者の公的活動の保障のた
めに、公民としての権利の行使や公の職務の執行に必要な時間を労働時間中に認めな
ければならないことを定めたものである。
ての職務を行うこと
は、労働基準法第 7
条の「公の職務」に
は該当しないため、
使用者は、労働審判
解説
員に任命された労働
者が労働時間中にそ
の職務を行うために
(1)公民(昭 63.3.14 基発 150 号)
「公民」とは、国家又は公共団体の公務に参加する資格のある国民のこ
必要な時間を請求し
た場合、これを拒む
とをいい、「公民としての権利」とは、公民に認められる国家又は公共団
ことができる。(平
体の公務に参加する権利のことをいう。
21 択)
→× 労働審判手続の
労働審判員としての
職務を行うことは、
労働基準法第 7 条の
「公の職務」に該当
するため、使用者
は、当該者からの当
該請求を拒んではな
らない。
なお、「公民としての権利」、「公の職務」として認められるか否かは、
次表のとおりである。
公民としての権利
[認められるもの]
[認められないもの]
①選挙権、被選挙権
①他の立候補者のための選挙運動
②最高裁判所裁判官の国民審査
②個人としての訴権
等
③特別法の住民投票
④憲法改正の国民投票
⑤地方自治法による住民の直接請求
⑥選挙人名簿の登録の申出
⑦行政事件訴訟法による民衆訴訟
等
公の職務
[認められるもの]
[認められないもの]
①衆議院議員その他の議員の職務
①予備自衛官の防衛招集又は訓練召集
②労働委員会の委員の職務
②非常勤の消防団員の職務
③検察審査員の職務
④裁判員の職務
⑤法令に基づいて設置される審議会の
委員の職務
⑥民事訴訟法上の証人の職務
⑦労働委員会の証人の職務
⑧選挙立会人の職務
8
/第 1 章
総
則
等
等
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(2)拒むことの禁止
「拒む」ことを禁止していることから、使用者が拒んだだけで本条違反
が成立する。したがって、その拒否の結果、労働者が権利の行使又は公の
職務の執行をすることができなかったか、その拒否にかかわらずこれらを
したかは問われない。
(3)時刻の変更
労働者が必要な時間を請求した場合、使用者はこれを拒むことはできな
いが、権利の行使や公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を
変更することは許される。
*使用者が公民権の行使を労働時間外に行うべき旨を定めたことにより、労
働者が労働時間中に公民権の行使のための時間を請求したのを拒否すれ
ば、本条違反となる(昭 23.10.30 基発 1575 号)。
・権利の行使又は公の職務の執行に要する時間について、有給にするか
無給にするかは当事者間の取り決めによる(昭 22.11.27 基発 399
号)。
※2
※2
労働者が労働時間中
に、選挙権その他公
民としての権利を行
最高裁第二小法廷判決
昭 38.6.21
十和田観光電鉄事件
使するため就業しな
けん
・懲戒解雇なるものは、普通解雇と異なり、譴責、減給、降職、出勤停止等とともに、企
かった場合、使用者
業秩序の義務違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰であると解するのが
は当該就業しなかっ
相当である。(中略)労働基準法 7 条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民
た時間分の通常の賃
としての権利の行使及び公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職
金を支払わなければ
の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇
ならない。(平 10 択)
に附する旨の就業規則の条項は、労働基準法の趣旨に反し、無効のものと解すべきであ
→× 有給にするか無
給にするかは、当事
者間の取り決めによ
る。
る。したがって、所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する
おそれ
虞 のある場合においても、普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解
雇に附することは、許されないものといわなければならない。
第三節
労働者の人権擁護/
9
LEC東京リーガルマインド
第四節
1
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適用事業・用語の定義
B
適用事業の範囲
労働者を使用する事業又は事務所は、原則として労働基準法の適用を受ける。
ただし、労働基準法の一部の条項については、一定の業種について、一般
の適用とは異なった取扱いがされているため、法別表第 1 に業種の区分が列
挙されている。
【法別表第 1(法 33 条、法 40 条、法 41 条、法 56 条、法 61 条関係)】
号
工
業
的
業
種
農
林
水
産
業
非
工
業
的
業
種
略称
事業の具体例
物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装
飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解
体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発
生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む)
鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、
変更、破壊、解体又はその準備の事業
道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客
又は貨物の運送の事業
ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫におけ
る貨物の取扱いの事業
1号
製造業
2号
鉱業
3号
建設業
4号
運輸交通業
5号
貨物取扱業
6号
農林業
土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取
若しくは伐採の事業その他農林の事業
畜・水産業
動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業
その他の畜産、養蚕又は水産の事業
15 号まで各種の事業
物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
が、同法の適用はこ
金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
れらの事業に限られ
※1
労働基準法の別表第
1 には第 1 号から第
7号
8号
9号
10 号
11 号
12 号
13 号
14 号
15 号
商業
金融広告業
映画・演劇業
通信業
教育研究業
保健衛生業
接客娯楽業
清掃・と畜業
映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
郵便、信書便又は電気通信の事業
が掲げられている
るものではない。
(平 14 択)
→○
教育、研究又は調査の事業
病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
焼却、清掃又はと畜場の事業
※2
労働組合の専従職員
がその労働組合の労
働者に該当する場
・労働基準法は、原則として労働者を使用するすべての事業に適用され
るのであり、法別表第 1 に掲げる事業にのみ適用されるのではない。
※1 ※2
合、又は労働組合が
他に労働者を使用す
る場合は、労働組合
の事務所は、適用事
業に該当し、労働基
準法が適用される。
10
/第 1 章
総
則
LEC東京リーガルマインド
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*わが国で行われる事業であれば、事業主又は労働者が外国人であると否と
を問わず、法令又は条約に特別の定めがある場合を除き、労働基準法の適
用がある(平 11.3.31 基発 168 号)。
2
B
適用事業の単位
事業とは、必ずしも経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指
すものではなく、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続
的に行われる作業の一体をいうものである。したがって、一の事業であるか
否かは、主として場所的観念によって決定すべきものであり、同一の場所に
あるものは原則として分割することなく一個の事業とされ、場所的に分散し
ているものは原則として別個の事業とされる(平 11.3.31 基発 168 号)。
【一の事業の考え方】
企業
本社
支店
営業所
工場
適用単位の例外
①同一の場所にある事業の場合の例外
同一の場所にあっても、著しく労働の態様が異なっている部門がある場合
に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に
区分され、かつ、主たる部門と切り離して適用することによって労働基準法が
より適切に運用できる場合には、その部門は一の独立の事業とされる。
・新聞社の本社の印刷部門
・工場内の診療所、食堂等
②場所的に分散している事業の場合の例外
場所的に分散している事業であっても、規模が非常に小さく、組織的
関連や事務能力を勘案して一の事業という程度の独立性のないものにつ
いては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱われる。
・新聞社の支局の通信部等
第四節
適用事業・用語の定義/
11
LEC東京リーガルマインド
3
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A
適用除外
※1
船員法第1条第1項
(法 116 条)
に規定する船員につ
1) 第 1 条から第 11 条まで、次項、第 117 条から第 119 条まで及び第 121
条の規定を除き、この法律は、船員法第 1 条第 1 項に規定する船員につ
いては、適用しない。
いては労働基準法は
2)
則」、第2条「労働
この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人について
は、適用しない。
適用されず、したが
って、同法第1条
「 労 働 条 件 の 原
条件の決定」等の労
働憲章的部分も、当
然適用されない。
(平 16 択)
解説
(1)船員については、総則規定等を除き、労働基準法の適用が排除される(船
員法が適用される)。
※1
(2)次のものには、労働基準法が適用されない。
①同居の親族のみを使用する事業
②家事使用人
※2
→× 船員法1条1項
に規定する船員であ
っても、労働憲章的
部分(法1条~法 7
条)については適用
される。
※2
家 事 使 用 人 ( 平
11.3.31 基発 168 号)
家事使用人とは、家
同居の親族について(昭 54.4.2 基発 153 号)
*同居の親族は、原則として労働基準法の労働者には該当しないが、同居の
親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一
事一般に使用される
労働者をいい、本条
の家事使用人である
か否かは、従事する
般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の①~③のいずれの要件も満た
作業の種類、性質の
すものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労
如何等を勘案して具
働関係が成立しているとみられるため、労働者として取り扱う。
体的に当該労働者の
①事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
②労働時間等の管理、賃金の決定及び支払の方法等からみて、就労の実態
実態により判断すべ
きである。
が他の労働者と同様であること
③賃金が(他の労働者と同様の)就労の実態に応じて支払われていること
※3
一般職の国家公務員に
は労働基準法は適用さ
家事使用人について
*法人に雇われ、その役職員の家庭でその家族の指揮命令の下で家事一般に
従事している者は家事使用人である(平 11.3.31 基発 168 号)。
*個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令
の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない(平 11.3.31 基発 168
号)。
12
/第 1 章
総
則
れず、また、一般職の
地方公務員には労働基
準法の労働時間に係る
規定が適用されない。
(平 10 択)
→× 前段の国家公務
員については正しい
が、後段の地方公務
員については、労働
時間に係る規定のす
べてが適用されない
わけではなく、法定
労働時間等の規定は
適用される。
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※4
特別法による適用除外
・国及び公共団体についての適用につき、法 112 条において「この法律
及びこの法律に基づいて発する命令は、国、都道府県、市町村その他
これに準ずべきものについても適用あるものとする」と規定されてい
るが、具体的には、国家公務員及び地方公務員への労働基準法の適用
については、次のとおりとされている。
※3
平 20.1.23 基発 0123004 号
労働契約法において
「労働者」とは、使用
者に使用されて労働
し、賃金を支払われる
者をいう。「労働者」
に該当するか否かは、
①国家公務員
労務提供の形態や報酬
→ 一般職の職員には適用されない(国家公務員法附則 16 条)。
の労務対償性及びこれ
らに関連する諸要素を
②地方公務員
勘案して総合的に判断
→ 一般職の職員については一部適用が排除されている(地方公務
員法 58 条 3 項~5 項)。
し、使用従属関係が認
められるか否かにより
判断されるものであ
り、これが認められる
場合には、「労働者」
に該当するものであ
4
B
労働者
る。これは、労働基準
法9条の「労働者」の
判断と同様の考え方で
ある。
(法 9 条)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以
下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
※5
最二小決 平 17.6.3
研修医関西医科大学付
本条は、労働基準法における「労働者」を定め、労働保護法規である労働基準法の
保護の対象を明らかにするものである。
属病院事件
臨床研修は、医師の資質
の向上を図ることを目的
とするものであり、教育
解説
的な側面を有している
が、そのプログラムに従
労働者とは、基本的には、次の①及び②の両方を満たす者をいう。
い、臨床研修指導医の指
導の下に、研修医が医療
①事業に使用される者
行為等に従事することを
②労働の対償として賃金を支払われる者
予定している。そして、
研修医がこのようにして
医療行為等に従事する場
合には、これらの行為等
は病院の開設者のための
・労働基準法 9 条の「労働者」に該当するか否かは、雇用、請負、委任
等の契約の形式にかかわらず、実態として使用従属関係が認められる
か否かにより判断される。※ 4 ※ 5
労務の遂行という側面を
不可避的に有することと
なるのであり、病院の開
設者の指揮監督の下にこ
れを行ったと評価するこ
とができる限り、上記研
修医は労働基準法 9 条所
定の労働者に当たるもの
というべきである。
第四節
適用事業・用語の定義/
13
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*法人の重役等で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職
にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて本条の労働者である(昭
23.3.17 基発 461 号)。
*法人、団体、組合の代表者又は執行機関たる者の如く、事業主体との関係にお
いて使用従属の関係に立たない者は労働者ではない(昭 23.1.9 基発 14 号)。
※1
平 20.1.23 基発 0123004 号
労働契約法において
「使用者」とは、そ
・請負契約によらず、雇用契約により、使用従属関係が認められる大工は、本条の労働者
である(平 11.3.31 基発 168 号)。
・共同経営事業の出資者であっても、当該組合又は法人との間に使用従属関係があり、賃
金を受けて働いている場合には、法第 9 条の労働者である(昭 23.3.24 基発 498 号)。
・外国人の研修生は、出入国管理及び難民認定法において報酬を受ける活動が禁止されて
いることから、一般には労働基準法上の労働者ではない。ただし、技能実習生は、出入
国管理及び難民認定法における在留資格が「特定活動」であり、受け入れ事業場との雇
用関係の下に報酬を受けることとされているため、労働基準法上の労働者に該当する。
なお、労働基準法の適用に当たっては、在留資格が特定活動に変更されることだけでは
足りず、使用従属関係が生じ、実態として労働基準法上の労働者となった時点から適用
される(平 5.10.6 基発 592 号)。
・インターンシップにおける学生については、その実習が見学や体験的なものであり、使用者
から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合に
は、労働基準法上の労働者に該当しない。一方、直接生産活動に従事するなど当該作業によ
る利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められ
る場合には、当該学生は労働基準法上の労働者に該当する(平 9.9.18 基発 636 号)。
・都道府県労働委員会の委員は、都道府県知事が任免し知事が手当を支給し法令により公
の使用する労働者に
対して賃金を支払う
者をいう。これは、
労働者と相対する労
働契約の締結当事者
としての使用者であ
り、個人企業の場合
はその企業主個人
を、会社その他の法
人組織の場合はその
法人そのものをいう
ものであり、労働基
準法 10 条の「事業
主」に該当するもの
であって、労働基準
法の「使用者」より
狭い概念である。
務に従事する職員であるが、知事は、委員の職務の執行については指揮命令権がなく、
かつ、知事対委員及び委員会対委員の間には使用従属の関係がないため、労働基準法上
の労働者とは認められない(昭 25.8.28 基収 2414 号)。
※2
労働基準法の特例の
適用範囲①
5
使用者
A
労働基準法の適用に
関する特例は、次の
いずれにも該当する
労働者派遣について
(法 10 条)
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の
労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をい
※1
う。
適用される。
(a) 派 遣 元 が 労 働 基
準法の適用事業の事
業主であり、かつ、
派遣される労働者が
法 9 条に規定する労
本条は、労働基準法の履行確保のため、責任の主体を明らかにする必要があること
から、「使用者」の定義を定めたものである。
働者であること
(b) 派 遣 先 が 事 業 又
は事務所(労働基準
法の適用事業に限ら
ない)の事業主であ
ること
14
/第 1 章
総
則
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解説
(1)事業主
「事業主」とは、事業の経営の主体をいい、会社その他の法人の場合は
その法人そのもの、個人事業の場合は事業主個人をいう。
※3
(2)事業の経営担当者
労働基準法の特例の
「事業の経営担当者」とは、事業経営一般について権限と責任を負う者
(法人の代表者、取締役、理事又は支配人など)をいう。
適用範囲②
労働基準法の適用に
関する特例は、労働
(3)その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべ
者派遣という就業形
態に着目して定めら
れたものであり、業
ての者」とは、人事、給与、厚生などの労働条件の決定や労務管理の実施等に
として行われる労働
ついて一定の権限を有し、責任を負う者(人事部長、労務課長など)をいう。
者派遣だけではな
く、業として行われ
るものではない労働
者派遣についても適
・法 9 条にいう労働者であっても、その者が同時にある事項について権
限と責任をもっていれば、その事項については、その者が本条の使用
者となる場合がある。
用される。また、労
働者派遣法に基づき
行われる労働者派遣
ではなくとも、その
適用を受ける。
*使用者とは、労働基準法各条の義務についての履行の責任者をいい、その
認定は、部長、課長等の形式にとらわれることなく、実質的に一定の権限
※4
を与えられているか否かによる。単に上司の命令の伝達者にすぎない場合
労働者派遣事業の適
は使用者とされない(昭 22.9.13 発基 17 号)。
*社会保険労務士は、社会保険労務士法により労働基準法に基づく申請等に
ついて事務代理をすることができるが、事務代理の委任を受けた社会保険
けたい
正な運営の確保及び
派遣労働者の就業条
件の整備等に関する
労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保
法律第 44 条には、
険労務士は、法 10 条にいう使用者に該当するものであり、本法違反の責
労働基準法の適用に
任を問われることとなる(昭 62.3.26 基発 169 号)。
関する特例が定めら
れており、派遣先が
国又は地方公共団体
である場合において
労働者派遣の場合の使用者(平 11.3.31 基発 168 号)
も、当該国又は地方
・派遣労働者については、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元が労
働基準法の適用を受けるため、原則として派遣元の使用者が派遣労働
者についての使用者としての責任を負う。ただし、労働者派遣法 44 条
において労働基準法の適用に関する特例が定められており、労働者派
遣の実態から派遣元に責任を問い得ない事項、派遣労働者の保護の実
効を期する上から派遣先に責任を負わせることが適切な事項(労働時
間、休憩、休日等の規定)については派遣先の使用者が労働基準法に
おける使用者としての責任を負う。
※2 ※3 ※4
第四節
公共団体に派遣され
ている労働者に関し
ては、当該特例の適
用があり、したがっ
て当該国又は地方公
共団体に対して当該
特例による労働基準
法の適用がある。
(平 18 択)
→○
適用事業・用語の定義/
15
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出向の場合の使用者(平 11.3.31 基発 168 号)
①在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方との間
に労働契約関係が存在するため、出向元及び出向先に対して、それぞ
れ労働契約関係が存する限度で労働基準法の適用がある。在籍出向に
当たっては、出向先での労働条件や出向元における身分の取扱い等
は、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取り決めによって定めら
れるが、それによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者
又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法における使用者
としての責任を負う。
②移籍型出向の出向労働者については、出向元との労働契約関係は消滅し、
出向先との間にのみ労働契約関係が存在するため、出向労働者についての
労働基準法における使用者としての責任はすべて出向先の使用者が負う。
※1
昭 23.2.3 基発 164 号
チップは、旅館従業
員等が客から受け取
るものであり、賃金
ではない。ただし、
チップに類するもの
6
A
賃金
であっても、使用者
が奉仕料として一定
率を定め、客に請求
し、収納したもの
(法 11 条)
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わ
ず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。※ 1
を、一定期間ごとに
締め切って、その奉
仕料の収納のあった
当日に出勤した労働
者に全額を均等配分
労働基準法は、賃金について種々の保護規定を設けており、これらの規定が適用さ
れる範囲を明確にするために、「賃金」の定義を定めたものである。
16
/第 1 章
総
則
している場合には、
賃金である。
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解説
(1)労働の対償
「労働の対償」とは、使用者が労働者に支払うもののうち、労働者がい
わゆる使用従属関係の下で行う労働に対して、その対価として支払うもの
をいう。
(2)賃金とはならないもの
次の①~③の性質があるものは、賃金とならない。
①任意的、恩恵的なもの
退職手当(退職金)、結婚祝金、病気見舞金、死亡弔慰金、災害見舞金 等
任意的、恩恵的なものであっても賃金となるもの(昭 22.9.13 発基 17 号)
・任意的、恩恵的なものであっても、労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじ
め支給条件が明確にされたものは、これによって使用者にその支払義務が生じ、労働者
に権利として保障されるため、賃金となる。
※2
昭 63.3.14 基発 150 号
②福利厚生的なもの
住宅貸与、食事の供与、資金貸付、金銭給付
等
労働者が自己を被保
※2 ※3
険者として生命保険
会社等と任意に保険
契約を締結したとき
③企業設備、業務費的(実費弁償的)なもの
に企業が保険料の補
出張旅費、社用交際費、作業用品代、制服・作業衣 等
助を行う場合、その
生命保険料補助金
は、労働者の福利厚
生のために使用者が
・通勤手当は賃金となる。また、労働協約により通勤定期券を購入して
支給している場合についても、賃金となる。
*休業補償は、法で平均賃金の 100 分の 60 と規定されているが、これは法 1
条の規定により最低の基準と考えるべきで、事業場で休業補償として平均
賃金の 100 分の 60 を上回る制度を設けている場合は、その全額が休業補
償であって、賃金とはならない(昭 25.12.27 基収 3432 号)。
負担するものである
から、賃金とは認め
られない。
※3
住宅貸与について、
住宅貸与を受けない
者に対して一定額の
均衡手当が支給され
*労働者が法令により負担すべき所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、
ている場合には、住
雇用保険料等の本人負担分を含む)を事業主が労働者に代わって負担する
宅貸与の利益が明確
場合であって、これらの労働者が法律上生ずる義務を免れることとなると
に評価され、住居の
きは、その事業主が労働者に代わって負担する部分は賃金とされる(昭
利益を賃金に含ませ
63.3.14 基発 150 号)。
たものとみられるた
め、その評価額を限
度として住宅貸与の
利益は賃金であると
解される。
第四節
適用事業・用語の定義/
17
LEC東京リーガルマインド
7
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AAA
平均賃金
(法 12 条 1 項)
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇
月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除
した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金
額を下ってはならない。
①賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制
その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をそ
の期間中に労働した日数で除した金額の 100 分の 60
②賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合にお
いては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金
額の合算額
労働者の生活を保障するために使用者に支払義務が生じる解雇予告手当や休業補償等
については、労働者の通常の生活賃金を反映させたものであることが必要である。本条
では、これらの基準となる「平均賃金」の計算方法を規定している。
※1
昭 39.6.12 36 基 収
2316 号
解雇予告手当を算
定する場合におけ
る平均賃金算定の
(1)平均賃金を算定の基礎とするもの
起算日は、労働者
平均賃金は、労働基準法において、次の①~⑤に係る金額の算定の基礎 に 解 雇 の 通 告 を し
た日であり、解雇
として用いられる。
の予告をした後に
①解雇予告手当(法 20 条)
おいて、当該労働
者の同意を得て解
②休業手当(法 26 条)
雇日を変更した場
③年次有給休暇の賃金(法 39 条 7 項)
合においても、当
④災害補償(法 76 条ほか)
初の解雇を予告し
た日である。
⑤減給の制裁の制限額(法 91 条)
解説
(2)平均賃金算定の起算日
平均賃金算定の起算日(算定事由発生日)は、それぞれ次表のとおりである。
算定対象事由
解雇予告手当
休業手当
年次有給休暇の賃金
災害補償
減給の制裁の制限額
起算日
労働者に解雇の通告をした日
※1
その休業日(休業が2日以上の期間にわたるとき
は、その最初の日)
その年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2
日以上の期間にわたるときは、その最初の日)
事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日
制裁の意思表示が相手方に到達した日
※2
※2
労働基準法第 91 条
に規定する減給の制
裁に関し、平均賃金
を算定すべき事由の
発生した日は、減給
の制裁の事由が発生
した日でなく、減給
の制裁の意思表示が
相手方に到達した日
である。(平 17 択)
→○
18
/第 1 章
総
則
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(3)平均賃金の算定方法(法 12 条 1 項)
平均賃金=
算定事由の発生した日以前
3箇月間に支払われた賃金の総額
算定事由の発生した日以前3箇月間の総日数
・「以前3箇月間」には、算定事由の発生した日の前日からさかのぼる
3箇月間であって、算定事由の発生した日は含まれない。
・「支払われた賃金」とは、現実に既に支払われている賃金だけではな
く、実際に支払われていないものであっても、算定事由発生日におい
て、既に債権として確定している賃金をも含む。
・賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する
(法 12 条 2 項)。
・雇入後3箇月に満たない者については、雇入後の期間とその期間中の
賃金の総額で算定する(法 12 条 6 項)。この場合であっても、賃金締
切日があり、かつ、直前の賃金締切日から起算してもなお、完全に一
賃金締切期間があるときは、直前の賃金締切日から起算する(昭
27.4.21 基収 1371 号)。
・賃金が遡及して増額された場合、例えば8月にその年の4月にさかのぼって賃金が改定
され、4、5、6、7月分の追加額が支払われた場合には、その追加額を支払う旨が、
算定事由の発生した日以前に確定していたときは、当該追加額は各月に支払われたもの
として平均賃金の算定の基礎に含め、算定事由の発生した日後に確定したものであると
きは、当該追加額は平均賃金の算定の基礎に含めない(昭 22.11.5 基発 233 号、昭
23.8.11 基収 2934 号)。
・労働者が二事業場で使用され、両事業場の使用者からそれぞれ賃金を支払われている場
合には、「賃金の総額」とは、両使用者から支払われた賃金の合算額ではなく、算定事
由の発生した事業場で支払われる賃金のみをいう(昭 28.10.2 基収 3048 号)。
・「賃金の総額」を「その期間の総日数」で除して得た金額に、銭位未満の端数が生じた
場合には、その端数を切り捨てる(昭 22.11.5 基発 232 号)。
・賃金ごとに賃金締切日が異なる場合、例えば団体業績給以外の賃金は毎月 15 日及び月
末の2回で、団体業績給のみは毎月月末1回のみの場合における直前の賃金締切日は、
それぞれの賃金ごとの賃金締切日である(昭 26.12.27 基収 5926 号)。
第四節
適用事業・用語の定義/
19
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賃金が日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制によって定めら
れた労働者の平均賃金については、労働者が実際に労働した日数が少ない
場合、原則の計算式を用いて算定すると極端に低額となることがある。そ
こで、次のような最低保障額が設けられている。
※1
平均賃金の計算にお
いては、業務災害又
は通勤災害により療
養のために休業した
期間、使用者の責め
①日給制、時間給制又は出来高払制等の場合
→ 原則の式と次の式とを比較して高い方の金額が平均賃金となる
に帰すべき事由によ
って休業した期間、
育児・介護休業法の
算定事由の発生した日以前3箇月間に支払われた
日給制、時間給制又は出来高払制等による賃金の総額
算定事由の発生した日以前3箇月間の労働した日数
平均賃金=
規定によって育児休
×
60
100
業又は介護休業をし
た期間及び試みの使
用期間については、
その日数及び期間中
の賃金を控除する。
②月給制又は週給制等と、日給制、時間給制又は出来高払制等との併用
(原則の算定方法と上記例外①との併用)の場合
→ 原則の式と次の式とを比較して高い方の金額が平均賃金となる
算定事由の発生した日以前3箇月間に
支払われた月給制、週給制による賃金の総額
その期間の総日数
平均賃金=
上記①
の金額
+
(平 13 択)
→× 通勤災害により
療養のために休業し
た期間の日数及びそ
の期間中の賃金は控
除しない。
※2
平均賃金の計算にお
いては、子の看護休
暇等を取得した期間
(4)平均賃金の算定基礎から除外される期間及び賃金
の日数及びその期間
①期間中の日数及び賃金の両方とも算定基礎から除外(法 12 条 3 項)
平均賃金の算定に係る3箇月間に次の(a)~(e)の期間がある場合は、
中の賃金は控除しな
い。
その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定の基礎となる日数及
び賃金の総額からそれぞれ控除される。
※3
※1 ※2
昭 25.8.28 基収 2397 号
(a)業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
平均賃金を算定する
(b)産前産後の女性が法 65 条の規定によって休業した期間
期間中に一部休業、
(c)使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
※3
すなわち、数時間労
働した後、使用者の
(d)育児介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
責めに帰すべき休業
(e)試みの使用期間
をした日があった場
※4
合、その日の労働に
対して支払われた賃
金が平均賃金の 100
・労働争議により正当に罷業若しくは怠業し又は正当な作業所閉鎖のため休業した期間及
分の 60 を超えると
びその期間の賃金は、平均賃金の算定期間及び賃金の総額から控除するものとして取り
否とにかかわらずそ
扱う(昭 29.3.31 28 基収 4240 号)。
の日は休業日とさ
・控除される期間のうち(a)~(d)の期間が3箇月以上にわたる場合又は雇入れの日に平均賃金を算
定すべき事由が発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる(則 4 条)。
20
/第 1 章
総
則
れ、その日及びその
日の賃金を全額控除
する。
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業務上の傷病により療養のために休業した期間がある場合
算定事由発生日
業務上の負傷により
療養のために休業
5/1
※4
8/1
則3条
5/20
試みの使用期間中に
7/31
平均賃金を算定すべ
20 日間
き事由が発生した場
合には、その期間中
の日数及びその期間
中の賃金を平均賃金
3箇月間(92 日)
の算定基礎に算入し
て計算する。
平均賃金=
3箇月間の賃金の総額-休業 20 日間の賃金
92 日-20 日
※5
使用者が、通勤手当
の代わりとして、6
か月ごとに通勤定期
乗車券を購入し、こ
*年次有給休暇の日数及びこれに対し支払われる賃金は、平均賃金の計算にお
れを労働者に支給し
ている場合、通勤手
いては、これを算入しなければならない(昭 22.11.5 基発 231 号)。
当は賃金ではある
が、6か月ごとに支
給される通勤定期乗
車券は、労働基準法
②賃金総額の算定基礎から除外(法 12 条 4 項)
第 12 条第 4 項に定
平均賃金の算定に係る賃金総額には、次の(a)~(c)は算入されない。
める「3箇月を超え
る期間ごとに支払わ
(a)臨時に支払われた賃金
れる賃金」に該当す
(b)3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
るので、平均賃金算
(c)通貨以外のもので支払われた賃金で法令又は労働協約の定めに基づ
定の基礎となる賃金
には算入されない。
かないもの
(平 17 択)
*通勤定期券が、労働協約に基づいて支給されている場合には、当該通勤定
期券の支給は、各月分の賃金の前払として平均賃金算定の基礎に算入しな
ければならない(昭 33.2.13 基発 90 号)。
※5
*あらかじめ年俸額が確定している年俸制(例えば、年俸額を定めて、各月に
は 16 分の1ずつ支払い、年2回の賞与の時期に 16 分の2ずつを支払うケー
ス)における平均賃金の算定については、賞与部分を含めた年俸額の 12 分
の1を1ヵ月の賃金として平均賃金を算定する(平 12.3.8 基収 78 号)。
第四節
→× 6か月ごとに支
給される通勤定期乗
車券は、各月分の賃
金の前払として平均
賃金算定の基礎に算
入しなければならな
いものである。本問
の通勤定期乗車券の
ように毎月算定可能
であるが、支払事務
の簡略化等のために
3か月を超える期間
ごとに支払われてい
るものは、平均賃金
算定の基礎から除外
すべき「3箇月を超
える期間ごとに支払
われるもの」には該
当しない。
適用事業・用語の定義/
21
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「個人請負の問題点」
近年、IT系の技術者に多いのですが、会社の従業員としてではなく、独立の事業主と
して働くという働き方をよく耳にします。法的には、労働(雇用)契約ではなく、民法上
の請負契約の形で、会社から業務の発注を受けて仕事をするというスタイルです。
本来、このような働き方(個人請負)は、高度の技能を有する人の労力を企業が有効活
用するために考えられたものです。請負契約は、「仕事の完成」を目的とする契約で(民
法632条)、仕事の遂行方法(場所、時間、遂行のプロセスなど)は、基本的に請負人
の裁量に委ねられています。
ところが、世の中の実態は、法律が想定するモデルとかけ離れていることが多いと思わ
れます。会社が、技能がそれほど高くない人との間で請負契約を結び、①「労働者」でな
いことを理由に社会保険に加入させない、②請負契約であるにも関わらず、仕事の進め方
について細かな指示をする、③仕事の場所や時間についても、従業員並みの拘束を与え
まか
る、といった事例が罷り通っているのが現状です。
この種の事案の多くは、企業が労働(雇用)契約上の規制を免れるための脱法行為と評
価されます。そして、その場合、形の上では請負で働いている人も、「労働者」としての
保護を受けることが可能になります。
請負契約
22
/第 1 章
総
則
3時~5時まで
これをやれ
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第2章
労働契約
第一節
労働契約の締結 ................................................................. 24
第二節
不当な身柄拘束の禁止 ...................................................... 32
第三節
労働契約の終了 ................................................................. 38
本章を学ぶ前に
労働契約に関しては、本章の規定のほか、労働契約法を学習しないと十分な理解は不可能で
ある。また、より根本的な理解という点では、民法の「雇用契約」をふまえる必要がある。
本章のうち、「第一節 労働契約の締結」と「第三節 労働契約の終了」の部分は、実務的
にも非常に重要であり、細部までしっかりと押さえておいていただきたい。とりわけ、解雇制
限と解雇予告については、通達レベルの知識が極めて重要である。
第2章
労働契約/
23
LEC東京リーガルマインド
第一節
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労働契約の締結
本節においては、まず、労働基準法(最低基準)と労働契約の効力関係
について学習し、次に、労働契約の締結時における規制について学習する。
なお、労働契約については、労働の一般常識で学習する「労働契約法」に
その成立、展開、終了に関する基本的なルールが定められており(例えば、
労働契約の内容の理解の促進について定めた労働契約法 4 条など)、労働
契約法を学習する際には本節との総合的な理解が望まれる。
1
労働基準法違反の契約
B
(法 13 条)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部
分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この
法律で定める基準による。
労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものである。そこで、本条では、労働
基準法の基準以上の労働条件を定める部分はそのまま有効とし、労働基準法で定める
基準に達しない労働条件を定める部分のみを無効として、無効とされた部分は自動的
に労働基準法に定める基準によることとし、労働者の保護を図っている。
解説
「その部分については無効とする」とは、労働契約中法定基準に達しない
部分のみを無効とし、残りの部分はこれを有効とする趣旨である。※ 1
※1
労働基準法で定める
基準に達しない労働
効力関係
24
条件を定める労働契
・就業規則は、法令又は労働協約に違反してはならず、法令又は労働協
約に抵触する就業規則については、行政官庁(所轄労働基準監督署
長)は変更を命ずることができる(労働基準法 92 条)。
約は、その部分につ
・就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その
部分については無効となり、無効となった部分は、就業規則で定める
基準による(就業規則よりも有利な労働条件を定める労働契約につい
ては、労働契約が優先する)(労働契約法 12 条)。
力という。また、無
・労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反
する労働契約の部分は無効となり、無効となった部分は、労働協約に
定める基準による(労働協約よりも有利な労働条件を定める労働契約
については、原則として労働協約が優先する)(労働組合法 16 条)。
れる。このような労
/第 2 章
労働契約
いては無効となる。
このような労働基準
法の効力を強行的効
効となった部分につ
いては、労働基準法
で定める基準によっ
て労働契約が修正さ
働基準法の効力を直
律的効力という。
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【労働契約と法令等との効力関係】
法令
≧
労働協約
優先
2
≧
優先
就業規則
≧
労働契約
優先
契約期間等
A
(法 14 条)
1)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な
期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契
約にあっては、5年)を超える期間について締結してはならない。
①専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」
という)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当
する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要と
する業務に就く者に限る)との間に締結される労働契約
②満 60 歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労
働契約を除く)
2)
厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契
約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを
未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通
知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができ
る。
3)
行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結す
る使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
本条は、長期の人身拘束を防止するため、契約期間の最長期間を原則として3年に
制限したものである。また、期間の定めのある労働契約は、期間満了時に契約更新を
めぐるトラブルが生ずることが多いため、本条 2 項、3 項により厚生労働大臣がトラ
ブル防止のため使用者が守るべきルール(基準)を定め、それに基づいて行政官庁が
使用者に助言・指導を行うことができるようにしている。
解説
(1)有期労働契約
労働契約は、3年を超える期間について締結してはならない。
第一節
労働契約の締結/
25
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※1
次の①~③の労働契約は、3年を超える期間について締結することがで
①の一定の事業の完
きる。
了に必要な期間を定
①一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約(有期的事業の場合)
→その事業の終期までの期間を定める労働契約を締結することができる。※ 1
める労働契約につい
ては、契約期間の上
限の定めはない。
4年で完了する土木工事において、技師を4年間の契約で雇い入れる場合等、その
事業の終期までの期間を定める契約
②法 70 条の認定職業訓練を受ける労働者との間に締結される労働契約
→その職業訓練の期間の範囲内で労働契約を締結することができる。
(b)60 歳以上の労働者との間に締結される労働契約
③ (a) の 労 働 契 約
は、高度の専門的知
識等を必要とする業
③次の(a)又は(b)に該当する労働契約 → 上限は5年となる
(a)高度の専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約
※2
務に就く場合に限
※2 ※3
り、その契約期間の
上限を5年とする労
※4
働契約を締結するこ
とができるのであっ
【契約期間のまとめ】
て、当該高度の専門
期間の定めのない契約
的知識等を必要とす
る業務に就いていな
労働
契約
原則 → 上限3年
期間の定め
のある契約
例外(その1)
有
効
い場合は、その契約
期間の上限は3年と
なる。
①有期事業・②職業訓練
※3
例外(その2)
③(a)・(b) → 上限5年
「高度の専門的知識
等 」 の 基 準 ( 平
20.11.28 厚労告 532 号)
高度の専門的知識等と
期間の定めのない労働契約
は、博士の学位を有
・期間の定めのない労働契約については、労働者はいつでも解約する自
由があるため、本条では制限を加えていない。通常の(いわゆる正社
員の)労働契約は、期間の定めのない労働契約に当たる。
する者、医師、弁護
・定年制は、労働契約の終期を定めたものであって、定年に達するまで
の間においては期間の定めのない契約であり、労働者はいつでも労働
契約を解約する自由があるため、本条の禁止する長期契約に当たらな
い。
務に就こうとする者
・期間の定めのある契約で3年(上記③に該当するものについては5
年)を超えるものは、法 13 条(労働基準法違反の契約)の規定によ
り、3年(上記③に該当するものについては5年)の契約期間を定め
たものとなる。
士、税理士、社会保
険労務士等や、シス
テムエンジニアの業
で あ っ て 年 収 が
1,075 万円以上の者
等が有する専門的知
識等とされている。
※4
③ (b) の 労 働 契 約
は、契約締結時に満
60 歳以上である労働
者との間に締結され
るものでなければな
らない。
26
/第 2 章
労働契約
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*法 14 条の規定に違反した契約期間を定めた場合であっても、労働基準法
の立法趣旨に鑑み、当該規定の罰則(30 万円以下の罰金)は、使用者に対
してのみ適用がある(昭 23.4.5 基発 535 号)。
(2)有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成 20.1.23 厚労告 12 号)※5
※5
有期労働契約の雇止
①契約締結時の明示事項等
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」とい
めに関する基準は、
有期労働契約の契約
う)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における
期間の満了に伴う雇
当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。この場合におい
止めが有効となるか
て、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者
は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基
準を明示しなければならない。
否かという法的効力
に影響を及ぼすもの
ではない。
※6
※6
②雇止めの予告
使用者は、有期労働
使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの
契約の締結後に、明
日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あ
示した当該契約に係
らかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)を更新し
る更新の有無又は当
該契約を更新する場
ないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了す
合若しくはしない場
る日の 30 日前までに、その予告をしなければならない。
合の判断の基準に係
る事項に関して変更
③雇止めの理由の明示
する場合には、当該
(a)有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起
契約を締結した労働
算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじ
者に対して、速やか
め当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)を更新しない
にその内容を明示し
なければならない。
こととする理由について労働者が証明書を請求したときは、使用者は、
遅滞なくこれを交付しなければならない。
※7
(b)有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算し
て1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該
契約を更新しない旨明示されているものを除く)が更新されなかった場合
労働契約法 17 条 2 項
使用者は、期間の定
めのある労働契約に
ついて、その労働契
において、当該契約を更新しなかった理由について労働者が証明書を請求
約により労働者を使
したときは、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
用する目的に照らし
て、必要以上に短い
④契約期間についての配慮
期間を定めることに
使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの
より、その労働契約
日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る)を更
を反復して更新する
新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に
ことのないよう配慮
しなければならない。
応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。※ 7
第一節
労働契約の締結/
27
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3
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有期契約期間についての特例
C
※1
(法附則 137 条)
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるも
のを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者(第 14
条第 1 項各号に規定する労働者を除く)は、労働基準法の一部を改正する
法律附則第 3 条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第 628 条の規
定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後に
おいては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することがで
※1 ※2 ※3
きる。
法 14 条 1 項各号に
規定する労働者
「法 14 条 1 項各号
に規定する労働者」
とは、次の①又は②
に掲げる労働者(=
労働契約期間の上限
が5年とされる者)
をいう。
①高度の専門的知識
4
AAA
労働条件の明示
等を有する労働者
②60 歳以上の労働者
(法 15 条 1 項)
※2
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その
他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労
働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生
労働省令で定める方法により明示しなければならない。
やむを得ない事由によ
る雇用の解除(民法
628 条)
当事者が雇用の期間
を定めた場合であっ
ても、やむを得ない
事由があるときは、
本条 1 項は、労働者の雇入れに当たって、使用者が労働条件を明示しないことによ
る労働者と使用者との間のトラブルを未然に防止するため、労働契約の締結の際に、
一定の労働条件について必ず明示すべきことを使用者に義務付けたものである。
各当事者は、直ちに
契約の解除をするこ
とができる。この場
合において、その事
由が当事者の一方の
解説
過失によって生じた
ものであるときは、
(1)明示すべき時期
労働条件を明示すべき時期は、労働契約の締結の際である。
(2)明示事項(則 5 条 1 項)
相手方に対して損害
賠償の責任を負う。
※3
明示すべき労働条件には、必ず明示しなければならない絶対的明示事項
期間の定めのある労
と、定めがある場合には必ず明示しなければならない相対的明示事項とが
働契約の解除(労働
ある。
契約法 17 条 1 項)
※4
使用者は、期間の定
(3)明示方法(則 5 条 2 項・3 項)
めのある労働契約に
絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)は、書面の交付により明示
しなければならない。
※5 ※6 ※7
ついて、やむを得な
い事由がある場合で
なければ、その契約
期間が満了するまで
の間において、労働
者を解雇することが
できない。
28
/第 2 章
労働契約
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※4
【絶対的明示事項と相対的明示事項】
絶対的
明示事項
相対的
明示事項
「労働契約の期間」、
①労働契約の期間に関する事項
②就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
③始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休
憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に
就業させる場合における就業時転換に関する事項
④賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の
決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時
期並びに昇給に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
⑥退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の
決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期
に関する事項
⑦臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等及び
最低賃金額に関する事項
⑧労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
⑨安全及び衛生に関する事項
⑩職業訓練に関する事項
⑪災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑫表彰及び制裁に関する事項
⑬休職に関する事項
「就業の場所及び従事
すべき業務」及び「所
定労働時間を超える労
働の有無」は、労 働
条件の絶対的明示事
項とされているが、
就業規則の絶対的必
要記載事項とはされ
ていない。
※5
平 11.1.29 基発 45 号
「労働契約の期間」
については、期間の
定めのある労働契約
の場合はその期間、
期間の定めのない労
働契約の場合はその
旨を記載する必要が
ある。
※6
平 11.1.29 基発 45 号
「就業の場所及び従事す
べき業務」については、
雇入れ直後の就業の場所
及び従事すべき業務を明
・前記(1)の「労働契約の締結の際」には、労働契約の契約期間の満了
後、契約を更新する場合を含むものとされている。
・労働者の募集時点においては、労働条件の明示は必要ない(ただし、
職業安定法上の明示義務がある)。
・法 15 条は、労働条件が明確でないことによる労働者と使用者との紛争
を防止することをその趣旨としており、労働契約の締結に際し、使用
者が労働条件を明示しない場合であっても、労働契約自体は有効に成
立する。ただし、使用者は法 15 条違反の罰則(30 万円以下の罰金)
に処せられる。
・労働者が日々雇い入れられる者や期間を定めて使用される者であって
も、労働条件のうち絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)につ
いては、書面の交付により明示しなければならない。
・絶対的明示事項のうち昇給に関する事項、及び相対的明示事項の労働
条件については、口頭で明示してもよい。
示すれば足りる。なお、
将来の就業場所や従事さ
せる業務を併せ網羅的に
明示することは差し支え
ない。
※7
労働契約法 4 条
①使用者は、労働者
に提示する労働条件
及び労働契約の内容
について、労働者の
理解を深めるように
するものとする。
②労働者及び使用者
は、労働契約の内容
(期間の定めのある労
働契約に関する事項を
含む)について、でき
る限り書面により確認
するものとする。
第一節
労働契約の締結/
29
LEC東京リーガルマインド
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*書面で明示すべき労働条件については、当該労働者に適用する部分を明確
にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えな
い(平 11.1.29 基発 45 号)。
*派遣元の使用者は、労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により
自己が労働基準法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて、法
15 条の労働条件の明示をする義務を負う(昭 61.6.6 基発 333 号)。
*「賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び
支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期」については、就業規則等の規
定と併せ、賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであれ
ばよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則
等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないが、この
場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいう
までもない(平 11.3.31 基発 168 号)。
※1
*「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」については、退職の事由及び
帰郷(昭 23.7.20 基
手続、解雇の事由等を明示しなければならない。なお、明示すべき事項の
収 2483 号)
内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当
「帰郷」とは、通
該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足り
常、就業する直前に
る(平 11.1.29 基発 45 号)。
労働者の居住してい
た場所まで帰ること
をいうが、必ずしも
これのみに限定され
ることなく、父母そ
の他親族の保護を受
5
労働契約の解除・帰郷旅費
B
ける場合にはその者
の住所に帰る場合も
含む。
(法 15 条 2 項・3 項)
2) 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合において
は、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3)
前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日か
ら 14 日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担し
※1 ※2
なければならない。
※2
必要な旅費(昭 22.9.13
発基 17 号、昭 23.7.20
基収 2483 号)
「必要な旅費」と
は、帰郷するまでに
通常必要とする一切
の費用をいい、交通
費はもちろん、食
解説
費、宿泊費をも含
む。また、労働者本
労働契約の即時解除が認められる「明示された労働条件が事実と相違する
人とともに、労働者
場合」とは、明示された労働条件のすべてを指すものではなく、明示された
により生計を維持さ
労働条件のうち本条 1 項によって明示すべきこととされている労働条件(絶
対的明示事項及び相対的明示事項)が事実と相違する場合に限られる。※ 3
また、本条の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
30
/第 2 章
労働契約
れている同居の親族
(内縁の妻を含む)
も転居した場合に
は、その者の旅費も
含む。
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※3
*「明示された労働条件」とは、当該労働者自身に関する労働条件に限られ
昭 23.11.27 基収 3514 号
る。したがって、労働契約の締結に当たって自己以外の者の労働条件につ
社宅等であって単な
いて附帯条項が明示されていた場合に、使用者がその条項に反して契約を
る福利厚生施設とさ
履行しない場合であっても、当該労働者は法 15 条による契約の解除をす
ることはできない(昭 23.11.27 基収 3514 号)。
れ る も の は 、 法 15
条 1 項による明示す
べき労働条件の範囲
には含まれないか
ら、使用者が契約締
結に当たって社宅等
の供与を明示してお
きながら、就職後こ
れを供与しなかった
としても、本条によ
る解除権を行使し得
ない。ただし、社宅
を利用する利益が法
11 条にいう賃金であ
る場合は、本条によ
る解除権を行使し得
る。
第一節
労働契約の締結/
31
LEC東京リーガルマインド
第二節
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不当な身柄拘束の禁止
本節においては、労働契約に付随する契約で、強制労働につながりかね
ない労働者の不当な身柄拘束を防止するための3つの規定(①賠償予定の
禁止、②前借金相殺の禁止、③強制貯金の禁止)について学習する。
1
賠償予定の禁止
A
※1
(法 16 条)
日給月給制におい
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を
予定する契約をしてはならない。※ 1 ※ 2
て、欠勤1日につき
1日分の賃金を支払
わない旨の定めは、
欠勤分の賃金請求権
本条は、労働契約の期間の途中で労働者が転職するなどの労働者の労働契約の不履
行に対して一定額の損害賠償額を支払うことを定めることは、労働者がその金額を支
払わされることをおそれて退職したくても退職できずに労働関係の継続を強いられる
危険があるため、これを防止するために規定されたものである。
が発生しないことか
ら生ずる当然の結果
であるから、本条違
反とはならない。
解説
※2
懲戒としての減給の
(1)違約金
「違約金」とは、債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うべきもの
反に対する制裁とい
としてあらかじめ定められた金銭である。労働契約における違約金の性質
う減給の制裁の性
もこれと同様であり、労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場
格、本法が本条のほ
合に、損害発生の有無にかかわらず、使用者は約定の違約金を取り立てる
ことができる旨を定めたものである。※ 3
(2)損害賠償額の予定
「損害賠償額の予定」とは、債務不履行又は不法行為の場合に賠償すべ
き損害額を実害のいかんにかかわらず、一定の金額として定めておくこと
である。
(3)契約をしてはならない
本条は、「契約してはならない」と規定しており、その禁止の対象を労
働契約に限定していないことから、親権者又は身元保証人が違約金等を負
担する契約や、労働者の負担する違約金等を保証する契約等も禁止されて
いる。
32
制裁は、企業秩序違
/第 2 章
労働契約
かに法 91 条におい
て減給の制裁につい
て規制を加えている
ことなどから、その
範囲で行うものであ
れば、本条に抵触し
ない。
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※3
*本条は、金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害に
最ニ小決昭 52.8.9
ついて賠償を請求することは、本条が禁止するところではないから差し支
三晃社事件
えない(昭 22.9.13 発基 17 号)。
労働者が就業規則に
反して同業他社に就
職した場合におい
て、その支給すべき
退職金につき、支給
・本条違反は、違約金又はあらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収し
たときではなく、使用者が労働契約の不履行について違約金を定め、
又は損害賠償額を予定する契約をしたときに成立する。
額を一般の自己都合
による退職の場合の
半額と定めること
も、退職金が功労報
償的な性格を併せ有
することにかんがみ
れば、合理性のない
2
B
前借金相殺の禁止
措置であるとするこ
とはできない。この
場合の退職金の定め
は、制限違反の就職
(法 17 条)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を
相殺してはならない。
※4
をしたことにより勤
務中の功労に対する
評価が減殺されて、
退職金の権利そのも
のが一般の自己都合
本条は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的
拘束の発生を防止するものである。
による退職の場合の
半額の限度において
しか発生しないこと
解説
とする趣旨であり、
労働基準法 16 条の
規定にはなんら違反
(1)前借金
するものではない。
「前借金」とは、労働契約の締結の際又はその後に、労働することを条件として
使用者から借り入れ、将来の賃金により弁済することを約する金銭をいう。
※4
法 24 条の賃金一部
(2)相殺してはならない
控除協定が締結され
本条は「相殺してはならない」のであって、前借金の貸し付けを禁じた
ている場合であって
ものではなく、単に賃金と前借金を相殺することを禁止している。ただし、も、法
17 条の禁止
する相殺をすること
前借金制度によって労働を強制することは法 5 条に違反する。
はできない。また、
(3)労働者の意思による相殺
相殺の同意又は合意
本条における相殺禁止は、相殺のうち、使用者の側で行う場合のみを禁
止している。労働者が「自己の意思」によって前借金等と賃金を相殺する
(相殺契約)によっ
て相殺をすることも
本条違反となる。
ことは禁止されていない。
第二節
不当な身柄拘束の禁止/
33
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*労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融又は賃金の前払のような
単なる弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないと認められるもの
は、労働することを条件とする債権ではない(昭 33.2.13 基発 90 号)。
・労働者からの相殺の意思表示がなされたような形式がとられている場
合であっても、実質的にみて使用者の強制によるものと認められると
きは、本条違反が成立する。
・法 17 条の規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあること
等を防止するため、労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することを禁止
するものであるから、使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出
に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金
より分割控除する場合においても、貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に
判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定
は適用されない(昭 63.3.14 基発 150 号)。
・住宅建設資金の貸付けに対する返済金のように融資額及び返済額ともに相当高額に上り、そ
の返済期間が相当長期間にわたるものであっても、貸付けの原因が真に労働者の便宜のため
のものであり、また、労働者の申出に基づくものであること、貸付期間は必要を満たし得る
範囲であり、貸付金額も1ヵ月の賃金又は退職金等の充当によって生活を脅威し得ない程度
に返済し得るものであること、返済前であっても退職の自由が制約されていないこと等、当
該貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、本条に抵触しない。
3
強制貯金
A
(法 18 条 1 項・2 項)
1)
使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理
する契約をしてはならない。
2)
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合
においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある
ときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは
労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁
に届け出なければならない。
※1
昭 23.6.16 基収 1935 号
任意貯金は、労働基
準法においては禁止
していないため、労
使協定の締結及び届
出をすることなく任
意貯金を実施して
も、労働基準法上の
罰則はない。ただ
し、当該任意貯金
は、無効とされる。
34
/第 2 章
労働契約
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賃金の一部を強制的に貯金させ、使用者が貯蓄金を管理することは労働者の足止め
策として労働者の自由を不当に拘束したり、賃金を事業資金に流用されて返還が困難
になる等労働者に不利益を及ぼすおそれがある。そこで、本条では、強制貯金を全面
的に禁止し、任意貯金を行う場合の要件、規制を設けている。
※2
社内預金の場合の労
使協定で定める事項
(則 5 条の 2)
貯蓄金の管理が社内
解説
預金の場合には、労
使協定において次の
事項を定めなければ
(1)強制貯金の禁止(法 18 条 1 項)
①「労働契約に附随して」とは、労働契約の締結又は存続の条件とすることをいう。
②「貯蓄の契約をさせ」とは、労働者に使用者以外の第三者と貯蓄の契約
をさせることであり、使用者の指定する銀行、郵便局等と貯蓄の契約を
ならない。
①預金者の範囲
②預金者1人当たり
の預金額の限度
③預金の利率及び利
させる場合はすべて含まれる。
子の計算方法
③「貯蓄金を管理する」には、使用者自身が直接労働者の預金を受け入れて
自ら管理するいわゆる「社内預金」の場合のほか、使用者が受け入れた労
働者の預金を労働者個人ごとの名義で銀行その他の金融機関に預入し、そ
④預金の受入れ及び
払い戻しの手続
⑤預金の保全の方法
の通帳、印鑑を保管するいわゆる「通帳保管」の場合が含まれる。
※3
本条の労使協定は、
民事上の効力を有す
*退職積立金と称していても、労働者に帰属した金銭の納付を義務付けるもの
であるときは、法 18 条 1 項違反に該当する(昭 25.9.28 基収 2048 号)。
るものではないた
め、任意貯金を制度
として実際に実施す
るに当たっては、就
(2)任意貯金(任意の貯蓄金管理)
業規則等の根拠が必
要となる。
※1
貯蓄金を管理する場合であっても、労働契約に附随することなく、労働
者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることは差し
※4
支えないとされている。この場合の「貯蓄金を管理する」とは、上記(1)
派遣労働者の預金の
③のとおり、いわゆる「社内預金」と「通帳保管」の2つに大別できる。
受け入れ(昭 61.6.6
基発 333 号)
これらを任意の貯蓄金管理として適法に行うためには、次に掲げる要件、法
18 条は派遣元の
使用者に適用される
規制に従う必要がある。
ため、派遣元の使用
①要件(法 18 条 2 項)
者は、同条に定める
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合
要件の下に、派遣中
においては、労使協定(貯蓄金管理協定)を締結し、行政官庁(所轄労
の労働者の預金を受
働基準監督署長)に届け出なければならない。
※2 ※3 ※4
②貯蓄金管理規程の作成・周知義務(法 18 条 3 項)
け入れることができ
る。一方、派遣先の
使用者は、派遣中の
使用者は、貯蓄金の管理に関する規程(貯蓄金管理規程)を定め、労働者
に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。
労働者と労働契約関
係にないため、法 18
条に基づき派遣中の
労働者の預金を受け
入れることはできな
い。
第二節
不当な身柄拘束の禁止/
35
LEC東京リーガルマインド
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③利子(法 18 条 4 項)
使用者は、貯蓄金の管理が社内預金であるときは、利子をつけなけれ
ばならない。
なお、利率の最低限度は、年5厘である(預金令 4 条、平 13.2.7 厚
労 30 号)
※1
④報告(則 57 条 3 項)
※1
法定利率は最低利率
であって、これを下
労使協定に基づき社内預金を行う使用者は、毎年、3月 31 日以前1
回る利率を定めた
年間における預金の管理の状況を、4月 30 日までに、所轄労働基準監
り、又は全く利率を
督署長に報告しなければならない。
定めなかった場合に
は、法定利率を定め
たものとみなされ
る。
労使協定
・使用者と、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働
組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半
数を代表する者との書面による協定を「労使協定」という。
・労使協定は、その適用の対象となる労働者の過半数の意思を問うもの
ではなく、その事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意
思を問うものである。したがって、その労働者側の締結当事者である
「労働者の過半数を代表する者」は、労使協定の適用を受けることの
ない者(労使協定の有効期間中に出勤し得ない者、36 協定による時間
外労働の適用が除外される監督又は管理の地位にある者等)を含めた
労働者の過半数を代表する者でなければならない(平 11.3.31 基発
168 号)。
・労使協定の労働者側の締結当事者である「労働者の過半数を代表する
者」は、次のいずれの要件も満たす者でなければならない(則 6 条の
2 第 1 項、平 11.1.29 基発 45 号)。
①法 41 条 2 号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
②労使協定の締結当事者を選出することを明らかにして実施される投
票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者
の意向によって選出された者ではないこと
・使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者に
なろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理
由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない(不利益
な取扱いをした場合であっても、罰則の適用はない)。
36
/第 2 章
労働契約
LEC東京リーガルマインド
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(3)貯蓄金の返還(法 18 条 5 項~7 項)
使用者は、労働者が貯蓄金の返還を請求したときは、遅滞なく、これを
返還しなければならない。また、労働者の返還請求に対し使用者が応じな
い場合であって、当該貯蓄金の管理を使用者に継続して行わせることが労
働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁(所轄労働基準
監督署長)は、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべ
きことを文書で命じることができる。
【貯蓄金返還の流れ】
①労働者が貯蓄金の返還を請求
②使用者は、遅滞なく返還
②使用者が返還をせず、
貯蓄金管理の継続が労働者の利益
を著しく害すると認められるとき
③行政官庁(所轄労働基準監督署
長)は、必要な限度の範囲内で貯
蓄金管理の中止命令
④使用者は、遅滞なく返還
【任意貯金(社内預金・通帳保管)のまとめ】※ 2
※2
社内預金
平 12.12.14 基発 743 号
通帳保管
通帳保管の場合に
労使協定の締結
必要(届出も必要)
貯蓄金管理規程
必要(届出は不要・周知は必要)
は、社内預金の場合
の労使協定で定める
事項(則 5 条の 2)、
最低利率(年5厘)の義務
あり
なし
利 子 ( 法 18 条 4
管理状況の報告の義務
あり
なし
3 項)及び貯蓄金の保
貯蓄金の保全措置の義務
あり
なし
中止命令
項)、報告(則 57 条
全措置(賃金の支払
の確保等に関する法
律 3 条)の規定は適
用されない。
可能
第二節
不当な身柄拘束の禁止/
37
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第三節
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労働契約の終了
本節においては、労働契約の終了時における規制について学習する。
第一節(労働契約の締結)とあわせて、労働の一般常識で学習する「労
働契約法」と関連づけた総合的な理解が望まれる。
1
解雇の定義
※1
「解雇」とは、労働契約を将来に向かって解約する使用者側の一方的意思表示の
結果による労働契約の解約である。したがって、労働契約の終了事由のうちでも、労
昭 61.6.6 基発 333 号
派遣元と派遣労働者
との間において締結
使間の合意による解約、労働契約に期間の定めがある場合の期間満了、労働者側から
される労働契約と、
するいわゆる任意退職、定年による労働契約の終了等は、解雇ではない。※ 1
派遣元と派遣先との
間において締結され
る労働者派遣契約と
は別個のものである
ため、派遣先による
*一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働
労働者派遣契約の解
契約は、他に特段の事情がない限り、契約期間の満了とともに終了し、解
除について、本法の
雇の問題は生じない。したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養の
解雇に関する規定が
ため休業する期間中の者の労働契約もその期間満了とともに終了する(昭
63.3.14 基発 150 号)。
適用されることはな
い。派遣労働者に対
する解雇に関する規
*形式的には契約期間の定めがあっても、この契約を反復更新し、相当長期
定は、派遣元の使用
間にわたって労働契約が継続しており、実質的には期間の定めがない労働
者が派遣労働者を解
契約と認められる場合は、契約期間の満了によって労働契約を終了させる
雇しようとする場合
に適用される。
場合であっても、解雇と同様に取り扱われ、法 20 条の解雇の予告を必要と
する(昭 27.2.2 基収 503 号)。※ 2
※2
労働契約法 17 条 2 項
使用者は、期間の定
・就業規則に定めた定年制が、労働者の定年に達した翌日をもってその労働契約は自動的に終
了する旨を定めたことが明らかであり、かつ、従来この規定に基づいて定年に達した場合に
当然労働関係が消滅する慣行となっていて、それを従業員に徹底させる措置をとっている場
合は、解雇の問題は生ぜず、法 19 条の解雇制限の問題も生じない(昭 26.8.9 基収 3388 号)。
・定年制であっても、会社の都合によりそのまま勤務延長し、あるいは再雇用し、引き続
き使用する取扱いをしている場合には、定年によって労働契約が自動的に終了するもの
とは解されないから、解雇に関する規定が適用される(昭 22.7.29 基収 2649 号)。
めのある労働契約に
ついて、その労働契
約により労働者を使
用する目的に照らし
て、必要以上に短い
期間を定めることに
より、その労働契約
を反復して更新する
ことのないよう配慮
・解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認め
られない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労働
※3
契約法 16 条)。
38
/第 2 章
労働契約
しなければならな
い。
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※3
最近、景気悪化により
【「解雇」の場合の保護規定】
原則
解雇制限
①業務上負傷し又は疾病にかか
り、療養のために休業する期
間+30 日間
②産前産後の女性が休業する期
間+30 日間
解雇予告
① 少 な く と も 30 日 前 に 予 告
(口頭でもよい)
②30 日分以上の平均賃金を支払う
③予告と手当の併用(予告+手
当=30 日)
企業を取りまく環境は
例外(解除・除外)
療養開始後3年経過し平均
賃金の 1,200 日分の打切補
償を支払う場合
天災事変その他やむを得な
い事由(経営難等は不該
当)のために事業の継続が
不可能となった場合
天災事変その他やむを得な
い事由(経営難等は不該
当)のために事業の継続が
不可能となった場合
労働者の責めに帰すべき事
由に基づいて解雇する場合
認定
厳しいものとなってい
ますが、会社の経営が
悪化したからといって
不要
むやみに「整理解雇」
(経営不振等による必
要性から従業員数を削
必要
減することを目的とし
て行われる解雇)する
ことが認められている
訳ではなく、「整理解
必要
雇」については、過去
の判例から、一般的に
は、以下の4つの要素
必要
のいずれが欠けても
「解雇権の濫用」に当
たる(=解雇は無効と
なる)とされていま
す。
①整理解雇の必要性
2
解雇制限
A
(経営危機状態にある
企業の維持・存続のた
めにはやむを得ず人員
整理が必要と認められ
(法 19 条)
1) 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休
業する期間及びその後 30 日間並びに産前産後の女性が第 65 条の規定に
よって休業する期間及その後 30 日間は、解雇してはならない。ただし、
使用者が、第 81 条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変そ
の他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合におい
ては、この限りでない。
2) 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を
受けなければならない。
る場合であること)
②整理解雇の回避努力
(解雇に先立ち、希望
退職者募集や出向・配
置転換等余剰人員吸収
のための相当な努力を
してもなお余剰人員の
削減が避けられない場
合であること)
③人選の合理性(解雇
対象者の選定が客観
的・合理的な基準に基
づくものであること)
労働者が労働能力を喪失し、又は十分回復していない期間中に解雇されると、労働
者は新しい就職先を求めることが困難であり、著しく生活を脅かされることとなるた
め、このような期間中の解雇を禁止したものである。
④労働者側との協議
(解雇に至った経緯や
時期、方法等について
の労働者側への十分な
説明・意見聴取等が取
られたこと)
第三節
労働契約の終了/
39
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解説
(1)解雇制限期間
使用者は、次の①又は②の期間は、労働者を解雇してはならない。
※1
①労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及
びその後 30 日間
※1
水戸地裁龍ヶ崎支部判
決 昭 55.1.18 東洋特
※2
殊土木事件
業務上の傷病による休業期間
30 日間
労働基準法 19 条の定
めは、その定めの期
間(解雇制限期間)
中における解雇の予
告を禁ずる趣旨でな
く、同期間中の解雇
解雇禁止
そのものを禁ずる趣
旨である。
(※したがって、解
②産前産後の女性が法 65 条の規定によって休業する期間及びその後 30 日間
産前(6週間・多胎妊娠は 14 週間)
産後(8週間)の休業期間
雇の予告を解雇制限
期間中にすることは
30 日間
差し支えないとされ
る。)
※2
昭 25.4.21 基収 1133 号
解雇禁止
業務上の骨折等が外
科的には治ゆと診断
され、障害補償が行
われた後(障害補償
傷病による休業期間
・「その後 30 日間」は、療養のため休業する必要が認められなくなり出
勤した日又は出勤し得る状態に回復した日から起算する。
は業務上の傷病が治
ゆしたとき、身体に
障害が存する場合に
おいて、その障害の
・休業期間に引き続く「30 日間」については、休業期間の長短にかかわ
らないから、傷病による休業期間が1日であっても、その後 30 日間は
解雇が制限される。※ 3
程度に応じて支給さ
・業務外の私傷病又は通勤災害による休業期間については解雇が制限さ
れない。
のための休業期間で
れるものである)、
外科後処置のため療
養する期間は、療養
ないから、障害補償
支給事由確定の日か
ら 30 日以後は、解
産前産後の休業期間
・「その後 30 日間」は、産後8週間経過した日(産後6週間経過後、労
働者の請求により就労させている場合についてはその就労を開始した
日)から起算する。
・出産予定日より6週間(多胎妊娠の場合にあっては 14 週間)前以内であっ
ても、労働者が休業せずに就労している場合には、解雇が制限されない。
・育児休業又は介護休業をする期間及びその後 30 日間については、解雇
は制限されない。
40
/第 2 章
労働契約
雇することができ
る。
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※3
*業務上の傷病により治療中であっても、休業せずに出勤している場合に
使用者が労働者を解
は、解雇の制限の規定は適用されない。したがって、業務上の傷病により
雇しようとする日の
療養していた労働者が、完全に治ゆしたのではないが、労働し得る状態に
30 日前に解雇の予告
なったため出勤し、元の職場で平常通りに労働していた場合において、使
をしたところ、当該
労働者が、予告をし
用者が就業後 30 日を経過してこの労働者に解雇予告手当を支給して即時
た 日 か ら 10 日 目
解雇した場合、本条に違反しない(昭 24.4.12 基収 1134 号)。
に、業務上の負傷を
し療養のため3日間
休業したが、当該業
務上の負傷による休
(2)解雇制限の解除
業期間は当該解雇の
解雇制限期間中であっても、次の①又は②の場合、使用者は労働者を解
雇することができる。
っているところか
ら、当該解雇の効力
①療養開始後3年を経過し、使用者が平均賃金の 1,200 日分の打切補償
は、当初の予告どお
りの日に発生する。
を支払う場合
(平 15 択)
→行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定は不要
②天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となっ
た場合
予告期間の中に納ま
※4
→行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定が必要
→× 設問の休業は、
法 19 条(解雇制限)
の適用がある。した
がって、解雇の効力
は、休業後初めて出
勤した日から起算し
て 30 日間を経過した
日に発生する。
解雇制限除外認定の効力
・解雇制限除外認定は、認定事由に該当する事実が存在するか否かを確
認する処分であって、解雇の効力発生要件ではない。したがって、認
定事由に該当する事実が存すれば、認定を受けない解雇であっても有
効である(ただし、本条違反の罰則の適用がある)。一方、認定事由
に該当する事実がなければ、認定を受けて為した解雇であってもその
解雇が有効となるわけではない(昭 63.3.14 基発 150 号)。
※4
事業の継続の不可能
( 昭 63.3.14 基 発
150 号)
「事業の継続が不可
能になる」とは、事
業の全部又は大部分
の継続が不可能にな
やむを得ない事由(昭 63.3.14 基発 150 号)
・「やむを得ない事由」とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事
由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以ってしても通
常如何ともなし難いような状況にある場合をいう。やむを得ない事由に該当するか否か
は次表のとおりである。
該当する場合
①事業場が火災により焼失した場合(事業主の
故意又は重大な過失に基づく場合を除く)
②震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等によ
り事業の継続が不可能となった場合
った場合をいうので
あって、例えば当該
事業場の中心となる
重要な建物、設備、
機械等が焼失を免れ
該当しない場合
①事業主が経済法令違反のため強制収容され、又
は購入した諸機械、資材等を没収された場合
②税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
そ ご
③事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危
険負担に属すべき事由に起因して資材不足、
金融難に陥った場合
④従来の取引事業場が休業状態となり、発注品が
なく、そのために事業が金融難に陥った場合
第三節
多少の労働者を解雇
することにより、従
来通り操業し得る場
合等は含まれない。
労働契約の終了/
41
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3
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AAA
解雇の予告
(法 20 条)
1)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも 30 日
前にその予告をしなければならない。30 日前に予告をしない使用者は、30
日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむ
を得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰
すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2)
前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合において
は、その日数を短縮することができる。
3) 前条第 2 項の規定は、第 1 項但書の場合にこれを準用する。
※1
昭 24.6.18 基発 1926 号
30 日前に予告はした
が、その期限到来
後、解雇期日を延期
することを本人に伝
本条は、労働者が新たな就職先を求める際の時間的・経済的余裕につき、原則とし
て2週間前の解約の申入れを定めた民法の任意規定を修正して、強行規定をもって保
護を与えたものである。しかも、罰則を付することにより実効性が強化されている。
達し、そのまま使用
する場合には、通常
同一条件でさらに労
働契約がなされたも
のと解されるから、
解説
そのまま使用した後
に解雇する場合、改
めて法 20 条の解雇
(1)解雇の予告
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、次のいずれかの
の予告の手続を経な
ければならない。
方法によって、解雇の予告をしなければならない。
① 少なくとも 30 日前の予告
※1
※2
② 30 日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払
※2
昭 23.10.18 基収 3102 号
労働契約が労働基準
③ ①と②の併用
法に違反して無効で
ある場合であって
も、事実上の労働関
解雇の予告の方法
・「解雇の予告」は、直接労働者個人に対して使用者の解雇の意思表示が明
確に伝わる方法でなされていればよく、口頭で行っても有効とされる。
係が成立していると
認められる限り、本
条は適用される。し
たがって、法 56 条
の最低年齢の規定に
違反する無効な労働
【労働者を解雇しようとする場合】
契約の下に就労して
いる児童について
少なくとも
30 日前の予告
or
30 日分以上の
平均賃金の支払
42
/第 2 章
労働契約
併用も可
14 日前の予告
+ 16 日 分 以 上 の
平均賃金
は、解雇の予告によ
る違法状態の継続を
認めない建前から、
使用者は、当該児童
に対し解雇予告手当
を支払い当該児童を
即時に解雇しなけれ
ばならない。
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*使用者が行った解雇の予告は、一般的には取り消すことができないが、労
働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り
消すことができる(昭 33.2.13 基発 90 号)。
なお、解雇の予告の取消しに対して、労働者の同意がない場合は、自
己退職の問題は生じない(昭 33.2.13 基発 90 号)。
(予告期間が満了すれば解雇となる。)
*法定の予告期間を設けず、また法定の予告に代わる平均賃金を支払わない
で行った即時解雇の通知は即時解雇としては無効であるが、使用者に解雇
する意思があり、かつ、その解雇が必ずしも即時解雇であることを要件と
していないと認められる場合には、その即時解雇の通知は、法定の最短期
間 で あ る 30 日 経 過 後 に 解 雇 す る 旨 の 予 告 と し て 効 力 を 有 す る ( 昭
24.5.13 基収 1483 号)。
*使用者が行った即時解雇の通知が解雇の予告として有効と認められ、か
つ、その解雇の意思表示があったために予告期間中に当該労働者が休業し
た場合には、使用者は解雇が有効に成立するまでの期間、休業手当を支払
わなければならない(昭 24.7.27 基収 1701 号)。
※3
※3
*30 日前に解雇の予告をした場合であって、当該解雇予告期間満了の直前
昭 24.12.27 基収 1224 号
にその労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業を要する
解雇の予告と同時に
以上は、1日の軽度の負傷又は疾病であっても法 19 条(解雇制限)の適
労働者に休業を命
用があるが、負傷し又は疾病にかかり休業したことによって、前の予告の
じ、予告期間中に法
26 条に規定する休業
効力の発生は停止されるだけであるから、治ゆした日に改めて解雇の予告
手当(平均賃金の
をする必要はない(昭 26.6.25 基収 2609 号)。
100 分の 60 以上の手
(休業期間が長期にわたり、解雇の予告として効力を失うものと認めら
当)を支給し、予告
れる場合を除く。)
期間満了とともに解
雇しようとした場合
については、30 日前
に予告がなされてい
(2)予告期間
①予告期間の計算については、解雇の予告がなされた日は算入されず、そ
る限り、その労働契
約は予告期間の満了
の翌日から計算され、期間の末日の終了をもって期間の満了となる。
によって終了する
②30 日間は労働日でなく暦日で計算されるため、その間に休日又は休業
(休業手当又は賃金
日があっても延長されない。したがって、例えば5月 31 日に解雇
(その日の終了をもって解雇の効力発生)するためには、遅くとも5
の支払の有無と解雇
の効力発生とは、別
の問題である)。
月1日には解雇の予告をしなければならない。
解雇予告日
5/1
解雇
5/2
5/31
※この日の終了
をもって解雇
の効力発生
30 日間
第三節
労働契約の終了/
43
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(3)解雇予告手当
※1
①1日について平均賃金を支払った場合においては、解雇の予告の日数を短縮
することができる(法 20 条 2 項)。したがって、30 日分の平均賃金を解雇予
告手当として支払うことにより、労働者を即時に解雇することができる。
②即時解雇の場合における解雇予告手当の支払時期については、解雇の申
渡しと同時であるべきである(昭 23.3.17 基発 464 号)。
「天災事変その他やむ
を得ない事由のために
事業の継続が不可能と
なった場合」について
の認定事由及び認定基
準は、解雇制限の解除
の場合と同様である。
③解雇の予告と解雇予告手当を併用する場合における解雇予告手当の支払
時期については、予告と同時に支払う必要はなく、予告の際予告日数と
※2
予告手当で支払う日数が明示されている限り、現実の支払は解雇の日ま
昭 31.3.1 基発 111 号
でに行われれば足りる。
「労働者の責に帰すべき
事由」として認定すべき
事例として、次のような
解雇予告手当の性質
ものが示されている。
・解雇予告手当は即時解雇をするための要件として労働基準法が定めた
特殊な手当としての性格を有するものであり、賃金ではない。
・解雇予告手当の性質は、その限度で解雇の予告の義務を免除するに止
まるものであって、使用者と労働者との間に債権債務の関係が発生す
ることはない。したがって、一般には解雇予告手当については時効の
問題は生じない(昭 24.1.8 基収 54 号、昭 27.5.17 基収 1906 号)。
①原則として極めて軽微
なものを除き、事業場内
における盗取、横領、傷
害等刑法犯に該当する行
為のあった場合
びんらん
②賭博、風紀紊乱 等に
より職場規律を乱し、
他の労働者に悪影響を
及ぼす場合
③雇入れの際の採用条
(4)解雇予告の除外
件の要素となるような
次の①又は②の場合には、解雇予告の規定は適用されず、使用者は解雇
予告及び予告手当の支払なくして労働者を解雇することができる。
①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となっ
た場合
④他の事業場へ転職し
た場合
⑤原則として2週間以
上正当な理由なく無断
※1
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
経歴を詐称した場合
※2 ※3
→①、②とも行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定が必要である
欠勤し、出勤の督促に
応じない場合
⑥出勤不良又は出欠常
ならず、数回にわたっ
解雇予告除外認定の効力
・解雇予告除外認定は、認定事由に該当する事実が存在するか否かを確認す
る処分であって、解雇の効力発生要件ではない。したがって、認定事由に
該当する事実が存すれば、認定を受けない解雇であっても有効である(た
だし、本条違反の罰則の適用がある)(昭 63.3.14 基発 150 号)。
・解雇予告除外認定は、原則として解雇の意思表示を為す前に受けるべ
きものであるが、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を
受けた場合には、(認定事由に該当する事実があるときは)その解雇
の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生する(昭
63.3.14 基発 150 号)。
44
/第 2 章
労働契約
て注意を受けても改め
ない場合
※3
昭 31.3.1 基発 111 号
「労働者の責に帰すべ
き事由」は、就業規則
等に規定されている懲
戒解雇事由に拘束され
ることはない。
(つまり、認定事由は、
企業内における懲戒解雇
事由とは必ずしも一致す
るものではない。)
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※4
季節的業務
*法 19 条の解雇制限期間中の労働者については、たとえ労働者の責に帰す
「季節的業務」と
べき事由と判定されるものがあっても、その解雇制限期間中に解雇しては
は、春夏秋冬の四
ならない(昭 24.11.11 基収 3806 号)。
季、あるいは結氷
期、梅雨期等の自然
現象に伴う業務に限
られ、夏季の海水浴
4
場の業務、農業にお
AA
解雇予告の適用除外
ける収穫期の手伝
い、冬の除雪作業、
漁業における魚の種
(法 21 条)
類別の漁獲期の業務
等がその例である。
前条の規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
但し、第 1 号に該当する者が1箇月を超えて引き続き使用されるに至った
場合、第 2 号若しくは第 3 号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き
使用されるに至った場合又は第 4 号に該当する者が 14 日を超えて引き続き
使用されるに至った場合においては、この限りでない。
①日日雇い入れられる者
②2箇月以内の期間を定めて使用される者
※4
③季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
④試の使用期間中の者
※5
昭 24.2.5 基収 408 号
日日雇い入れられる者
については、労働契約
が日日更新されると否
とにかかわらず、専ら
同一事業場の業務に従
事していたか否かによ
って判断すべきもので
あり、専ら同一事業場
の業務に従事していれ
ば、休日以外に当該事
臨時的性質の労働者に対しては、解雇予告制度を適用し、解雇予告をすることは困
難又は不適当であり、労働者としても臨時的な就労と考えているであろうことから、
あえて解雇予告をする必要がないとされている。
業場の業務に従事しな
い日が多少あっても、
1箇月間継続して労働
したという事実を中断
するものではない。
解説
※6
季節的業務に4箇月以内
解雇予告の適用除外者
解雇予告が必要になる場合
の期間を定めて使用され
る者であっても、雇入れ
① 日日雇い入れられる者
②
2箇月以内の期間を定めて
使用される者
季節的業務に4箇月以内の
③
期間を定めて使用される者
④ 試の使用期間中の者
1箇月を超えて引き続き使用されるに
至った場合
※5
の日から2箇月間の試用
期間を設けている場合
は、雇入れから 14 日を
所定の期間を超えて引き続き使用され
るに至った場合
※6
経過した日以降に解雇す
るに当たって、解雇の予
告又は解雇予告手当の支
払をしなければならな
14 日を超えて引き続き使用されるに
至った場合
第三節
い。(平 8 択)
→× 季節的業務に4箇月
以内の期間を定めて使用
される者を、当初の契約
期間内に解雇する場合に
は、雇入れから 14 日を経
過していても、解雇予告
は不要である。
労働契約の終了/
45
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所定の期間
・「所定の期間」とは、契約当初に定められた契約期間をさす。例え
ば、1箇月が当初の契約期間であれば、1箇月が所定の期間であり、
1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合、解雇予告が必要と
なる。
2箇月以内の期間を定めて使用される者が「所定の期間」を超えて引き続き使用さ
れるに至った場合
2 箇月
延長
雇入れ
所定の期間
(契約期間)
解雇予告不要
解雇予告必要
*日日雇い入れられる者として雇い入れた労働者を、幾日か経過した後に2
箇月の期間を定めた労働者として雇用し、その2箇月の期間が満了する前
に解雇する場合には、当該2箇月の契約が反復継続して行われたものでな
ければ、解雇の予告又は解雇予告手当の支払を行う必要はない(昭
27.4.22 基収 1239 号)。
*試の使用期間については、就業規則等でこれを自由に、例えば3ヵ月ある
いは6ヵ月と定めることも差し支えないが、そのような長期の試の使用期
間の定めがあっても、14 日を超えて引き続き使用されるに至った場合に
は、解雇予告制度が適用される(昭 24.5.14 基収 1498 号)。
46
/第 2 章
労働契約
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5
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A
退職時等の証明
(法 22 条)
1)
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業に
おける地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあって
は、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用
者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
※1
2) 労働者が、第 20 条第 1 項の解雇の予告がされた日から退職の日までの
間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合において
は、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇
の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場
合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要
しない。
平 11.3.31 基発 169 号
3)
前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならな
い。
請求権の時効(平
4) 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目
的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関
する通信をし、又は第 1 項及び第 2 項の証明書に秘密の記号を記入して
はならない。
退職時の証明の請求
本条は、解雇等退職をめぐる紛争を防止し、労働者が就職活動を行う際の有力な資
料となる退職時等の証明書の交付義務を定めるとともに、労働者の就職を妨害するた
めのいわゆるブラックリストを禁止したものである。
退 職 の 事 由 ( 平
退職時の証明を求め
る回数に制限はな
い。
※2
11.3.31 基発 169 号)
権の時効は、法 115
条により、退職時か
ら2年と解される。
※3
11.1.29 基発 45 号)
「退職の事由」と
は、自己都合退職、
勧奨退職、解雇、定
年退職等労働者が身
解説
分を失った事由のこ
とである。
(1)退職時の証明書の交付(法 22 条 1 項)
労働者が退職に当たって証明書を請求した場合、使用者は、遅滞なく次
の事項を記載した証明書を交付しなければならない。※ 1
※4
※2
解雇の理由(平 15.10.22
基発 1022001 号)
①使用期間
解雇の理由について
②業務の種類
のうち、
労働者が請求
した事項
③その事業における地位
④賃金
要があり、就業規則
の一定の条項に該当
することを理由とし
て解雇した場合に
⑤退職の事由
(解雇の場合は、その理由を含む)
は、具体的に示す必
は、就業規則の当該
※3 ※4
条項の内容及び当該
条項に該当するに至
った事実関係を証明
書に記入しなければ
ならない。
第三節
労働契約の終了/
47
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・「退職の場合」とは、労働者の自己退職(任意退職)に限らず、使用
者から解雇された場合や契約期間の満了により自動的に契約が終了す
る場合も含まれ、退職原因の如何を問わない。
・証明書には、労働者の請求した事項のみを記入すべきであって、労働
者の請求しない事項は、たとえ前記①~⑤に該当する事項であって
も、記入することはできない。
※1
※1
労働者が退職した
際、労働基準法第 22
条第1項に基づき証
明書を使用者に請求
した場合、使用者は
*解雇された労働者が解雇された事実のみについて使用者に証明書を請求し
た場合、使用者は法 22 条第 3 項の規定により、解雇の理由について証明
書に記入してはならず、解雇の事実のみを証明書に記入すべきである(平
15.12.26 基発 1226002 号)。
遅滞なくこれを交付
する必要があるが、
その証明書には請求
の有無にかかわら
ず、退職の事由を記
載しなければならな
い。(平 11 択)
(2)解雇理由の証明書の交付(法 22 条 2 項)
労働者が、解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該
解雇の理由について証明書を請求した場合、使用者は、遅滞なくこれを交
→× 証明書には、労
働者の請求しない事
項を記載してはなら
ない。
付しなければならない。※ 2
※2
退職時の証明書及び解雇理由の証明書の請求時期
・退職時の証明書の交付を請求することができる時期は、「退職の日以
後」とされている。一方、退職の事由が解雇の場合に限り、労働者は、
解雇理由の証明書を退職日前であっても請求することができる。なお、
請求することができる事項は、「解雇の理由」に限られている。
平 15.10.22 基発 1022001 号
本条項は、解雇の予
告の期間中に解雇を
予告された労働者か
ら請求があった場合
に、使用者は遅滞な
く、当該解雇の理由
を記載した証明書を
交付しなければなら
(3)禁止事項(法 22 条 4 項)
使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的
として、次のことをしてはならない。※ 3
ないものであるか
ら、解雇の予告の義
務がない即時解雇の
場合には、適用され
・国籍
・信条
①労働者の ・社会的身分
・労働組合運動
ない。
に関する通信
②退職時等の証明書への秘密の記号の記入
48
/第 2 章
労働契約
※4
→この場合、即時解雇
の通知後に労働者が
解雇の理由について
の証明書を請求した
場合には、使用者
は、法 22 条 1 項(退
職時の証明書の交
付)の規定に基づい
て解雇の理由につい
ての証明書の交付義
務を負う。
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6
金品の返還
無断複製・頒布を禁じます
B
※3
あらかじめ第三者と謀
(法 23 条)
1)
り(平 15.12.26 基発
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場
合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称
の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
1226002 号)
「あらかじめ第三者
と謀り」とは、事前
に第三者と申し合わ
2) 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議
のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。
せてという意味であ
って、事前の申し合
わせに基づかない具
体的照会に対して回
本条は、労働者の退職時における不当な足止めを防止し、労働者等の生活を守るために、
賃金の支払及び金品の返還を迅速に行うことを使用者に義務付けたものである。
答することは、本条
の禁止するところで
はない。したがっ
て、いわゆるブラッ
クリストの回覧の如
解説
きあらかじめ計画的
に行う場合は、「あ
(1)権利者(昭 22.9.13 発基 17 号)
らかじめ第三者と謀
権利者とは、一般には、労働者が退職した場合にはその労働者本人であり、労働者が
り」に該当する。
死亡した場合にはその労働者の遺産相続人であって、一般債権者は含まれない。
(2)7日以内
※4
「7日以内に」とは、退職(死亡)した日からではなく、請求があった
平 15.12.26 基発 1226002 号
「国籍、信条、社会
日から7日以内である。
的身分若しくは労働
組合運動」は、制限
列挙であって例示で
請求のあった賃金の支払の時期
はないから、これ以
・権利者から請求があった場合には、賃金については、あらかじめ定めら
れた賃金支払日が請求の日から7日を経過した日であっても、請求の日
から7日以内に支払わなければならない(賃金支払日が請求の日から7
日の範囲内にあるときは、賃金支払日に支払わなければならない)。
外の事項、例えば保
険募集人たる法定適
格条件の有無のリス
トを作成回覧するこ
とにより通信をした
場合であっても、本
条違反とはならな
い。
*退職手当については、あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払
(タクシー運転手の
交通違反回数、ある
うことで足りる(昭 63.3.14 基発 150 号)。
いは不正営業の有無
等について通信を
し、当該労働者の就
業を妨害することが
あっても、本条には
抵触しない。)
第三節
労働契約の終了/
49
LEC東京リーガルマインド
無断複製・頒布を禁じます
「解雇予告の現実」
既に学習したように、解雇予告は口頭でも有効とされています。しかし、実務の世界で
は、「書面による予告」が常識です。仮に、解雇予告に関して労使間でトラブルがあった
場合、労働者側が「予告を受けていない」と主張すれば、予告に関する書面が重要な証拠
となります。その結果、書面がないと会社側が負ける可能性が高まります。社会保険労務
士が企業経営者に助言する場合は、法的なリスクを念頭に置かなければならず、「書面で
解雇予告を行う」よう指導するのが、業界のコンセンサスとなっています。
もう一つ、法の建前と実務との違いを感じる点があります。それは、労働者の責に帰す
べき事由で解雇する場合の解雇予告除外認定です。この手続は、労働者保護が重視される
解雇のプロセスを緩和するためのものです。そのため、実際上は相当ハードルが高く、行
政官庁の除外認定を得るためには、かなり手間がかかるのが実情です。
そのような事情を反映して、実務では、除外認定が下りると思われる事案であっても、
あえて除外認定の手続を取らず、解雇予告手当を支払った上で即時解雇するという形を取
ることが非常に多くなっています(選択肢としては、30日以上の予告期間を置くことも
可能ですが、実際上は労使間の信頼関係が崩れていることが多く、使用者側は解雇予告手
当の支払を選択することが多いといえます。)。
辞めてもらう!
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/第 2 章
労働契約
澤井ゼミナール 本論編講義使用
講義レジュメ(労働基準法第1回)
LEC東京リーガルマインド
SR
複製・頒布を禁じます
澤井ゼミ
2011 年 社労士
NOTE
労基法
澤井クラス
公民権行使の保障
十和田観光電鉄事件
公
就
職
任
許されない
労働者
立候補
懲戒解雇
就業規則
1回目
使用者
適用関係
船員…総則等のみ適用
同居の親族…適用除外
家事使用人…適用除外
国家公務員一般職…適用除外
地方公務員…一部適用除外(労働時間等の一部を除き適用)
労基法上の労働者と使用者
代
表
使用者
取締役
取
締
役
監督・管理者
実態で判断
一般従業員・バイト・パート・契約社員
以下の者の使用者…
派遣労働者…原則は賃金等派遣元。例外、労働時間、休憩、休日等は派遣先。
在籍型出向…三者間の取決めによる。
移籍型出向…出向先
1
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複製・頒布を禁じます
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準のまとめ
締結時…更新の有無、判断基準の明示
3 回以上更新又は 1 年超勤務者…30 日前に雇止予告、雇止理由書の交付
1 回以上更新かつ 1 年超勤務者…希望に応じて契約期間をできる限り長くする努力
任意の貯金
労使協定の締結→届出、貯蓄金管理規定→周知
労使協定
労働者全体の人数には…監督管理者・長期欠勤者も含まれる
過半数労働者の代表には…監督管理者はなることができない
過半数労働者の代表
使用者
労使協定=免罰的効力
労働基準法上の罰則を科さない
民事上の義務は発生しない
2
本テキスト(レジュメ)に係る法令の基準日及び発行日について
法令の基準日
発行日
このテキストは平成22年4月19日作成時において、平成22年4月9日
施行の法令を基準としています
平成22年4月20日
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