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評価を指導に生かす道徳の学習指導

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評価を指導に生かす道徳の学習指導
評価を指導に生かす道徳の学習指導
1.道徳の時間における評価の特色
子どもの道徳性については,日常の様々な場面で指導に生かしている。道徳教育のかなめとして
の道徳の時間もその中の一つの場面となっている。
道徳の時間における評価の課題
・道徳性は子どもの内面的な問題であり,人格や生き方全体にかかわるため
道徳の時間での把握には限界がある。
・道徳の時間は体験や行為が表れる場ではないので全体を見取ることはできない。
・道徳の内容項目そのものが一生をかけてはぐくむような向上目標的な主旨がこめられて
いる。
・道徳性は子ども一人一人が自ら発展させる個性的な生き方の問題である。
・同一の観点や尺度に照らして道徳性を評価するとしたら,個性的な生き方
を促す逆向きの力となる。
*慎重な構えをもちつつ,指導を効果的なものにするために評価は考えなくてはいけない。
*学習指導要領解説道徳編では
・道徳教育における評価は,教師が児童の人間的な成長を見守り,よりよく生きようと
する努力を評価し,勇気づけるはたらきをもつものであるといえる。
・道徳の時間に関して,数値などによる評価は行わないものとする。
・子どもの道徳性の実態を捉えるように努め,評価と指導とを一体的に考えていく。
2.道徳の時間における評価の捉え違い
①指導方法や指導過程の評価を評価の中心としてしまう。
・役割演技は適切だったか。
・資料は子どもの心を揺さぶるものだったか。
②子どもの学習状況の変化を道徳的実践力の変化と捉え違える。
・よく書いていた。よく発言していた。 → 日常の行為につながるとは限らない。
③子どもの学習状況の変化を日常の行為の変容と捉え違える。
・記述と行為のズレはよくあること。継続した指導で道徳性を養っていく。
④若干の子どもの変化を学級全体の子どもの変化と捉える。
3.評価に対する基本的な構え
①子どものための評価から出発する。
・よりよく生きたい,成長を信じ願う姿勢で評価を進める。
②教師が共感的理解の姿勢をもって評価する。
・教師と子どもの信頼できる人間関係を前提とした評価を大切にする。
③学習状況の評価を生かした個別的な評価を重視する。
・よい点や可能性などを積極的に評価し,個別的・記述的に進める。
④子どもによる記述や自己評価を効果的に生かす。
・子どもの自己評価では自己を数値的に評価することも考えられる。
・教師はその結果の背景にあるものを読み取り,指導に生かす。
-1-
4.道徳の時間の特質を踏まえた評価の具体化
①評価の観点や窓口を考える(何を評価するのか)
・道徳性の諸様相を観点とする。
・内容項目とのかかわりで把握する。
<内容項目1-(2)の例>
諸様相か
ら見た
観点
道徳的心情・判断力・実践意欲と態度
各学年の内容項目
道徳的判断力
道徳的実践意欲と態度
◇望ましい考えやより
よい生き方などにど
のような感情をもっ
ているか
◇道徳的な判断を下す
問題場面で,子ども
がどのように思考し
判断するか
◇よりよく生きようとす
る意志や行動への構え
がどれだけ育っている
か
2-(2)
相手のことを
思いやり親切
にする
・相手を思いやること
の大切さを感じ取っ
て,親切にすること
にうれしさを感じる
・親切にすることに迷
い,葛藤する場面な
どで,より望ましい
行いを選び出す
・相手のために親切にし
ようとする気持ちがあ
り,その構えをもつ
ねらいと評価
の文末表現の
試案
<ねらいの表記例>
<ねらいの表記例>
<ねらいの表記例>
~な気持ちを育てる。
~の心情を育てる。
~の心情を高める。
~の心情を養う。
~の考えを深める。
~な考えを選び出す。
~の態度を育てる。
~する意欲を育てる。
~な行動をしようとす
る。
<評価の表記例>
<評価の表記例>
<評価の表記例>
~を感じている。
~な気持ちを
もっている。
~に気付いている。
~を考えを選び出して
~を考えている。
いる。
~をしようとしている。
~な考えを深めている。 ~に生かそうとしている
~についてよく考えて
いる。
内容項目
◆各内容項目
によってア
レンジする
道徳的心情
→
→
~している。という子どもの姿を見取る表記で評価していく。
★各教科における評価の観点とは異なる性格をもつ。
・「道徳的実践意欲と態度」とは,教科等における「関心・意欲・態度」とは異なり,
日常生活での行為や行動での実践化への意欲や身構えを示す。
②評価の時期や場面を考える(どこで評価するのか)
ア)事前の実態把握
・子どもの道徳性の実態を日常生活などの中から捉え,主題の構想,資料の選定,指導の
手だて等に生かす。
・質問紙,調査等を生かして傾向を把握する。
イ)学習指導の中での評価
・学習状況等の把握を進めながら子どもの道徳性を捉える努力をし,個別指導や次の指導
に生かす。
ウ)授業終了時の評価
・子どもの学習を全体的に評価,考察し,事後の指導や学級経営に生かす。
エ)一定期間にわたる変化の評価
・道徳の時間の記録の積み重ね,自己評価の積み重ねから,長期的な中で子どもの自己を
見る目の変化等をとらえ,個別指導などに生かす。
③多様で的確な評価の方法をもつ(どのように評価するのか)
ア)日常の道徳性の実態把握について
・「観察」
→ 子どもの自然のままを観察し,記録する。
・「面接」
→ 直接に子どもと話し合い,感じ方や考え方を評価する。
・「質問紙」 → 質問に回答してもらい必要な情報を収集するもの。
・「記述物」 → 作文,日記,ノート,ワークシート,「心のノート」などの記述から。
行間に込められた思いを共感的に理解。共感的,受容的なコメントを
加えて返却することもポイントとなる。
・「その他」 → 事例研究法,各種のテストを用いる方法もある。
-2-
イ)道徳の時間について
・「発言」
→ 子どもの発言内容の変化を分析する。
・「記述」
→ ワークシートなどの記述を分析する。「心のノート」も活用できる。
・「質問紙」 → 授業の事前と事後に質問紙による自己評価方式のアンケートを行い変容
を確かめる。
・「観察」
→ 授業前後の生活の様子の観察と比較。
・授業後の日記や道徳ノートで,授業の反応や学習の発展を確かめる。
・研究授業などにおいては他の教師の評価なども生かす。
5.道徳の時間の指導に生かす評価の実際
(1)事前の実態把握としての評価
子どもの道徳性の実態が的確に把握できてこそ,道徳の時間の指導の方向が明確になる。学
習指導案では「主題設定の理由」などにその実態把握と授業での生かし方などを書く。そのた
めに次のような観点から子どもの実態を捉えるようにする。
①主題やねらいに関わってどんな体験があるか。
②同じ内容項目をねらいとする事前の授業での様子はどうか。
③子ども自身が自分の感じ方,考え方,行為の現状をどう見ているか。
④子どもの人間関係の中ではどんな様子が見られるか。
⑤主題やねらいに関わる家庭環境や配慮事項を把握する。
事前の質問紙を使って調査することもある
<例> あなたは「自由」についてどのように考えますか?
◎自由とは・・
◎そう考えるわけは・・・
*自由に対する捉え方の傾向を把握する。
*資料の扱い,導入の課題意識,体験の引き出しなど授業構想に生かす。
*多数の質問項目を用意するより短時間で記入できるものが現実的。
(2)学習過程や学習段階での評価
道徳の時間の学習指導の中で進める評価の試案について以下に示す。この試案は,平成17
年度,平成18年度山梨県教育課程研究員会(道徳部会)で検討したものである。
<指導と評価の一体化をねらった道徳学習指導案>
①本時のねらいを大切にする。
→ ~に共感し~を育てる。
~を通して~を養う。など何がねらいかを明記する。
②指導の各段階で,本時のねらいに迫るために,その学習状況として見取りやすい姿を
示している。
③中心発問の段階もねらいに迫る見とりの姿が見える表現とし,「 期待するすがたが見
られなかった場合の指導 」の項を設定している。
④本時の評価は,本時のねらいを受けて,具体的に何を,どのようにして評価するか明
記している。さらに,本時だけでは評価しにくい場合は「継続する事後指導」として
長期的な評価を行い,個別的,多面的,総合的な評価を行っていく。
-3-
第○学年
道徳学習指導案書式
指導者
3 -(2) 生命尊重
1
主題名
「生き物を大切にしよう」
2
資料名
「ヒキガエルとロバ」 (出典:文部省道徳教育推進指導資料)
3
○○
○○
主題設定の理由
(1)ねらいとする価値(略)
(2)ねらいに関わる児童の実態(略)
(3)資料について(略)
4
本時のねらい
ヒキガエルを助けたロバの姿に共感し,命あるものすべてを慈しみ,身近な動物に優しく接し
ようとする心情を育てる。
5
展開
過程
学習活動と主な発問
学習の様子を見取る視点
指導上の工夫・留意点
導 1 身近な動植物を見せ,思いを語 ◇身の回りの動植物につい ○きれいな花,かわいい昆
入
る。
て各自の思いが率直に出
虫など,身近な動植物を
され,関心を高めている。 提示し,率直な気持ちを
語る。
2
資料「ヒキガエルとロバ」を読
み,話し合う。
展
開 ○小石を投げつけたアドルフの心の ◇興味本位でヒキガエルを ○興味本位で動植物を扱っ
中はどんなだったか。
扱うアドルフに共感して
た体験などを引き出す。
いる。
○手から石が滑り落ちたのはどうし ◇アドルフのヒキガエルに ○ヒキガエルを助けたロバ
てか。
対する思いの変化を多様
の行為から,ねらいとす
に表現している。
る価値に迫る多様は発言
を引き出す。
◎ロバの姿を見送りながら
アドルフはヒキガエルに
対して,どんな気持ちを
もつようになったか。
◇自分なりに生命尊重に
ついての考えをもち,
発言している。
◇生命尊重に対する自分
の考えを友達を比べて
いる。
○学習シートなどに自
分の考えを書いて多
様な考えの一助とす
る。
○ヒキガエルに対する
気持ちをもとに,他
の動植物に対しても
気持ちが広がるよう
に留意する。
☆期待するすがたが見られなかった場合の指導
・日頃の体験を思い起こすなかでアドルフの心の中で渦巻いていた様々な思いや感じ
たことを具体的に発言する。
3
自分の生活を振り返り,身近な ◇身近な動植物に対する, ○決意表明にならないよう
動植物に対しての接し方について
これまでの自分をじっく
に配慮し,教師が例示を
考える。
りと振り返っている。
して各自の思いが出やす
いようにする。
4
「心のノート」P50を判読す
る。
終
末
○余韻をもって終わるよう
に配慮する。
6
本時の評価(期待する姿)
・自分の身はつらくても,ヒキガエルの命を守ろうとしたロバの姿に心を打たれたアドルフの気
持ちを理解して,命あるものすべてを慈しみ,身近な動植物に優しく接しようとする気持ちを
感じている。 →(授業中の行動観察,発言の様子や内容など)
7
継続する事後指導
・「心のノート」P52,53の記入を折に触れて行う。
・飼育動物や栽培植物への接し方などの具体的な行動を通しての指導も考えられる。
-4-
<留意点>
①道徳の学習の中では,特に一人一人の考えの違いが浮き彫りになる。それぞれの
子どもの真剣な生き方の反映であることを大切にしたい。
②特に,ねらいや評価の視点を設けているが,子どもの考えを一方向に収束させる
ものでなく,多様な受け止めや考えが引き出されることを主眼としている点に留
意したい。
(3)授業終了時に行う評価
授業終了後には,これらの評価の積み重ねの上に立って,授業全体を通しての評価を進める。
例えば,以下のような授業に対する自己評価を得て,それらを生かす方法も考えられる。子ど
もの学習への満足感がそれだけ得られたかが分かり,貴重な評価資料が得られる。
さらに,これらの評価を積み重ねていくことにより,長期にわたる評価も可能になる。
<道徳の時間につての子どもの自己評価(例)>
●今日の道徳の時間の学習は・・・
◎-○-△
時間を気にしないで集中して取り組めましたか。
資料に出てくる人の立場に立って考えられましたか。
感じたことや考えたことを発表したいと思いましたか。
友だちの考えが自分の考えを深めるのに役立ちましたか。
本当の自由について自分の考えを友だちに説明できそうですか。
(★この項目は授業ごとに変わる。)
授業の中で
感じたこと
考えたこと
6.道徳の時間の評価を行う際の留意点
①指導に生かす評価の計画的な推進を行う必要がある。
②評価に力を注ぐあまり,考えられる弊害
・子どもを何とか変えようと力が入り,変化変容を追い求める。
・道徳の時間の指導が教え込み的になる。
・行為の変容を強く促す即効的な指導になる。
③道徳の時間は,子どもの心を揺さぶり,子どもが自分らしい芽を豊かに伸ばす時間
道徳の時間は,子どもが共によりよくなりたいという心の力を高めていく時間
道徳的価値を内面的に自覚し,道徳的実践力を身につけていく時間
・道徳の時間の特質や主旨を生かした評価でありたい。
・子どもの視点に立った指導の展開を構想することで評価の着眼点が見える。
・試案を参考によりよい評価について研究していくことが大切。
-5-
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